(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-22
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】腫瘍抗原NY-ESO-1のMHC IおよびMHC II拘束性エピトープに対する、癌の併用T細胞受容体遺伝子療法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20220128BHJP
C07K 14/725 20060101ALI20220128BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220128BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20220128BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220128BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220128BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220128BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20220128BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20220128BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20220128BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20220128BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C07K14/725
C12N5/10
A61P31/12
A61P43/00 105
A61K48/00
A61P37/04
A61K31/7088
A61P43/00 121
A61K35/12
A61K35/17 A
A61K38/17
(21)【出願番号】P 2017548167
(86)(22)【出願日】2016-03-11
(86)【国際出願番号】 EP2016055242
(87)【国際公開番号】W WO2016146505
(87)【国際公開日】2016-09-22
【審査請求日】2019-02-26
(32)【優先日】2015-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504439274
【氏名又は名称】マックス-デルブリュック-ツェントルム フューア モレキュラーレ メディツィン イン デア ヘルムホルツ-ゲマインシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・ブランケンシュタイン
(72)【発明者】
【氏名】ルツィア・ポンツェッテ
(72)【発明者】
【氏名】シャオジュン・チェン
【審査官】原 大樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/177247(WO,A1)
【文献】特表2013-541332(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C07K
A61K
A01K
CAPlus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
DDBJ/GenBank/EMBL/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトMHCと複合体を形成しているNY-ESO-1由来のエピトープに特異的に結合することができるT細胞受容体(TCR)コンストラクトの少なくとも1つのTCRα鎖コンストラクトおよびTCRβ鎖コンストラクトをコードする核酸であって、
前記TCRα鎖コンストラクトが、配列番号23のアミノ酸46-51のアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)CDR1、配列番号23のアミノ酸69-74のアミノ酸配列を有するCDR2および配列番号23のアミノ酸109-123のアミノ酸配列を有するCDR3を含み、および前記TCRβ鎖コンストラクトが、配列番号59のアミノ酸46-50のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号59のアミノ酸68-73のアミノ酸配列を有するCDR2および配列番号59のアミノ酸111-125のアミノ酸配列を有するCDR3を含む、
核酸。
【請求項2】
前記TCRコンストラクトが、HLA-DR4と複合体を形成している配列番号21のアミノ酸配列からなるエピトープに特異的に結合することができ、
前記TCRα鎖コンストラクトが、配列番号23のアミノ酸46-51のアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)CDR1、配列番号23のアミノ酸69-74のアミノ酸配列を有するCDR2および配列番号23のアミノ酸109-123のアミノ酸配列を有するCDR3を含み、および前記TCRβ鎖コンストラクトが、配列番号59のアミノ酸46-50のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号59のアミノ酸68-73のアミノ酸配列を有するCDR2および配列番号59のアミノ酸111-125のアミノ酸配列を有するCDR3を含む、
請求項1に記載の核酸。
【請求項3】
前記TCRα鎖コンストラクトが、配列番号23のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む可変領域を含み、および、前記TCRβ鎖コンストラクトが、配列番号59のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む可変領域を含む、請求項1または2のいずれか一項に記載の核酸。
【請求項4】
前記TCRα鎖コンストラクトが、配列番号23の配列を含む可変領域を含み、および、前記TCRβ鎖コンストラクトが、配列番号59の配列を含む可変領域を含む、請求項3に記載の核酸。
【請求項5】
a)前記TCRコンストラクトが、配列番号95の核酸配列によりコードされており;
b)前記TCRα鎖コンストラクトおよび前記TCRβ鎖コンストラクトをコードする核酸が、宿主細胞における発現に適する発現ベクターである、
請求項1から4のいずれか一項に記載の核酸。
【請求項6】
前記宿主細胞が、ヒトT細胞である、請求項
5に記載の核酸。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の核酸によりコードされるタンパク質。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか一項に記載の核酸または請求項7に記載のタンパク質を含む、宿主細胞。
【請求項9】
宿主細胞がCD4
+T細胞である、請求項8に記載の宿主細胞。
【請求項10】
該宿主細胞がヒト細胞である、請求項8または9に記載の宿主細胞。
【請求項11】
a)ヒトMHCと複合体を形成しているNY-ESO-1由来のエピトープに特異的に結合することができるTCRコンストラクトをコードする、請求項1から6のいずれか一項に記載の核酸、または
b)ヒトMHCと複合体を形成しているNY-ESO-1由来のエピトープに特異的に結合することができるTCRコンストラクトを含む、請求項7に記載のタンパク質、または
c)ヒトMHCと複合体を形成しているNY-ESO-1由来のエピトープに特異的に結合することができるTCRコンストラクトを発現する、請求項8から10のいずれか一項に記載の宿主細胞
を含む、医薬組成物。
【請求項12】
増殖性疾患またはウイルス性疾患の診断、予防および/または処置における使用のための請求項11に記載の医薬組成物であって、ここで、増殖性細胞または腫瘍がNY-ESO-1を発現している、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
増殖性疾患またはウイルス性疾患が、良性または悪性腫瘍疾患である、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
免疫療法において使用するための、請求項12または13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
養子T細胞療法またはTCR遺伝子治療において使用するための、請求項14に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫療法の分野、特に癌の養子T細胞療法またはT細胞受容体(TCR)遺伝子療法に関する。本発明は、ヒトMHCと複合体を形成しているNY-ESO-1 (CTAG-1とも記載される) 由来のエピトープに特異的に結合することができるTCRコンストラクトの少なくとも1つのT細胞受容体α鎖コンストラクトおよび/またはTCRβ鎖コンストラクトをコードする核酸を提供し、ここで、該TCRα鎖コンストラクトおよび/またはTCRβ鎖コンストラクトは、配列番号1~20から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有する相補性決定領域3(CDR3)を含む。本発明は、MHC I分子上に提示されるNY-ESO-1由来のエピトープに対して制限されるTCRコンストラクト、およびMHC II分子上に提示されるNY-ESO-1由来のエピトープに対して制限されるTCRコンストラクトを提供し、従って、組換えCD4+T細胞および組換えCD8+T細胞の両方による併用養子T細胞療法が可能となる。本発明はまた、対応するタンパク質および宿主細胞、ならびに、特に増殖性疾患またはウイルス性疾患の診断、予防および/または処置における、かかるコンストラクトの医薬用途も提供し、ここで、好ましくは、MHC IおよびMHC II分子に対して拘束される(restricted)両TCRコンストラクトは、キットで提供される。本発明はまた、ヒトTCR遺伝子座およびヒト HLA-DR4導入マウスであるABabDR4マウスにも関する。
【背景技術】
【0002】
癌と診断された患者に利用可能な診断および処置の選択肢における顕著な技術的進歩にもかかわらず、その予後は依然として不良であることが多く、多くの患者は治癒することができない。免疫療法は、正常組織に損傷を与えずに悪性腫瘍細胞を根絶する可能性を有する、種々の腫瘍と診断された患者に対する、強力かつ標的化された処置の可能性を有している。理論上は、免疫系のT細胞は、腫瘍細胞に特異的なタンパク質パターンを認識し、種々のエフェクター機序を介してそれらの破壊に介在することができる。しかしながら、実際には、患者のT細胞は、腫瘍抗原に対して寛容であることが多い。養子T細胞療法とは、患者自身のT細胞の腫瘍排除能を増幅させ、そしてこれらのT細胞を患者に戻して、それらが健康な組織に損傷を与えずに効果的に残存腫瘍を排除するような状態にする試みである。この方法は、腫瘍免疫学の分野では新しいものではないが、養子T細胞療法の臨床使用における多くの欠点が、未だに、癌処置におけるこの方法の十分な活用を損なっている。
【0003】
TCRは、シグナル伝達に介在するCD3複合体のインバリアント(invariant)タンパク質に関連する免疫グロブリンスーパーファミリーのヘテロ二量体細胞表面タンパク質である。TCRは、構造的に類似しているが、全く異なる解剖学的位置および恐らく機能を有する、αβおよびγδ形態で存在する。天然のヘテロ二量体αβTCRのα鎖およびβ鎖は、それぞれ2つの細胞外ドメイン、膜近位定常ドメイン、および膜遠位可変ドメインを含む、膜貫通タンパク質である。定常ドメインおよび可変ドメインのそれぞれは、、鎖内ジスルフィド結合を含む。可変ドメインは、抗体の相補性決定領域(CDR)に類似した高度多型性のループを含む。
【0004】
各TCR鎖の可変領域は、可変(V)セグメントおよび結合(J)セグメントを含み、β鎖の場合には多様性(D)セグメントもまた含む。各可変領域は、フレームワーク配列中に埋め込まれた3つのCDR(相補性決定領域)を含み、そのうち1つは、CDR3と呼ばれる超可変領域である。フレームワーク配列、CDR1配列およびCDR2配列、ならびに部分的に規定されるCDR3配列により区別される数種のα鎖可変(Vα)領域および数種のβ鎖可変(Vβ)領域が存在する。独特なTRAVまたはTRBV番号は、IMGT命名法によってVαまたはVβを規定する。T細胞受容体特異性は、主にCDR3領域によって決定される。
【0005】
TCR遺伝子療法の使用は、現在の多くの問題を克服する。これにより、患者自身のT細胞に所望の特異性を与え、短期間に十分な数のT細胞を産生し、それらの枯渇を回避することが可能になる。TCRは、セントラルメモリーT細胞または幹細胞の特徴を有するT細胞に形質導入され得て、それは、遺伝子導入により良好な持続性および機能を確実にし得る。TCRにより改変されたT細胞は、化学療法または放射線照射によってリンパ球減少症を引き起こした癌患者に注射されて、効率のよい移植を可能にするが、免疫抑制を阻止することができる。
【0006】
遺伝子療法の克服すべき最大のハードルは、正常組織に有害な毒性を引き起こさずに癌を破壊するために標的化され得る抗原の同定である (Restifo et al, 2012, Nature Reviews 12, 269-281)。癌-精巣抗原は、一般的に、精巣および胎児卵巣中の生殖細胞によって発現されるが、多くのタイプの腫瘍によっても発現される。癌-精巣抗原は、多くの腫瘍タイプの間でそれらの共通の発現および正常組織におけるそれらの発現の欠如のために、最も魅力的な標的である。この抗原群に対して特異的T細胞を惹起することは、癌療法において良好な機会を提供する。
【0007】
NY-ESOタンパク質は、他で全く発現されないわけではないが、主として生殖細胞系で発現される癌-精巣抗原のサブファミリーを構成する。しかしながら、それらは、種々のヒトの癌、例えば、黒色腫、肺癌、滑膜肉腫、および頭頸部癌、食道癌および膀胱癌においても発現され、それらは悪性腫瘍と関連があり、腫瘍の悪性化をもたらし得る。正常な周辺の健康な組織では発現せず、腫瘍におけるNY-ESO-1抗原のこの特異的発現は、この抗原ファミリーを標的化養子T細胞移植にとって非常に興味深いものにする。遺伝子操作されたTCRを有する自己T細胞を用いたNY-ESO-1を標的とした最近の報告は、転移性黒色腫患者の47%および転移性滑膜肉腫患者の80%において客観的臨床応答の証拠を示し、該患者らは全て、複数の標準療法による前治療歴を有した。正常組織に対する毒性は観察されなかった(Robbins et al., 2011, J. Clin. Oncol. 29, 917-924)。
【0008】
これまで、ヒト患者または形質転換マウスに由来するNY-ESO-1のMHC I拘束性エピトープに特異的なTCRが同定されている (Robbins et al., 2011, J. Clin. Oncol. 29, 917-924;Linnemann et al., 2013, Nature Med. 19, 1534-1541);そして、ヒト患者に由来するNY-ESO-1のMHC II(HLA-DP4)拘束性エピトープに特異的なTCRが開示されている(Zhao et al., 2006, J Immunother. 29(4):398-406)。
【0009】
しかしながら、治療の有効性の向上が望まれている。最先端技術の欠点は、遺伝子療法に対するTCRの不十分な親和性、または宿主におけるT細胞の不十分な有効性に関係し得る。例えば、Schietingerらの(2010, J. Exp. Med. 207, 2469-2477)およびBosらの(2010, Cancer Res. 70(21), 8368-8377)は、マウスモデルにおいて、CD8+細胞単独では腫瘍を根絶するには不十分であることが多いが、CD4+およびCD8+T細胞の協力が必要とされ得ることを記載している。
【発明の概要】
【0010】
上記の欠点を考慮して、本発明者らは、NY-ESO-1のような腫瘍抗原に特異的に結合することができる新規のTCRコンストラクト、特に、それぞれヒトMHC IIまたはヒトMHC Iと複合体を形成するそのような抗原のエピトープを認識するTCRコンストラクトを提供するという課題を解決する。この問題は、特許請求の範囲の記載に記載された発明によって解決される。
【0011】
本発明者らは、驚くことに、マウス由来のNY-ESO-1のような腫瘍抗原由来のエピトープを標的とするTCRコンストラクトが、それらの親和性および/または機能的特徴、例えば、それぞれのペプチド/MHC複合体による刺激に応答するIFN-γ産生に関して、ヒト患者由来のTCRコンストラクトよりも優れていることを見出した。
【0012】
特に、本発明は、ヒトMHCと複合体を形成しているNY-ESO-1 (CTAG-1とも言う)由来のエピトープに特異的に結合することができるTCRコンストラクトの少なくとも1つのT細胞受容体(TCR)α鎖コンストラクトおよび/またはTCRβ鎖コンストラクトをコードする核酸を提供し、ここで、該TCRα鎖コンストラクトおよび/またはTCRβ鎖コンストラクトは、配列番号1~20から選択されるアミノ酸配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または、好ましくは100%の配列同一性を有する相補性決定領域3(CDR3)を含む。
【0013】
本明細書の文脈上、単数形(「a」)は、他に明確にこれと異なる記載がなされない限り、“1またはそれ以上”を意味すると理解される。従って、例えば、本発明のTCRコンストラクトがαおよびβ鎖コンストラクトの両方を含む場合、本発明の全体に亘って好ましくは、それは、1つまたは2つの核酸のいずれかによってコードされ得る。αおよびβ鎖コンストラクトは一体となって、ヒトMHCと複合体を形成するNY-ESO-1由来のエピトープに特異的に結合することができる。中間生成物として、αおよびβ鎖コンストラクトもまた、それら自体が本発明の主題でもある。
【0014】
配列番号1~20は、本発明で同定されたTCRのCDR3領域に対応し、本明細書の表1および2に示されている。配列番号1~9は、HLA-DRA/HLA-DRB1*0401(HLA-DR4)-エピトープ、すなわち、MHC II拘束性NY-ESO-1116-135エピトープ(LPVPGVLLKEFTVSGNILTI、配列番号21)を認識することができる本発明のTCRα鎖コンストラクトのCDR3領域に対応し、配列番号10~18は、HLA-DR4拘束性NY-ESO-1116-135エピトープを認識することができる本発明のTCRβ鎖コンストラクトのCDR3領域に対応する。これらは、NY-ESO-1のHLA-DR4拘束性エピトープに特異的な初めて単離されたTCRである。それらは、ヒトTCR遺伝子座およびヒトHLA-DR4のトランスジェニックマウス由来であった。
【0015】
従って、好ましい態様において、本発明のTCRコンストラクトは、HLA-DR4と複合体を形成しているNY-ESO-1116-135 エピトープ (配列番号21)からなるエピトープに特異的に結合することができ、ここで、TCRα鎖コンストラクトは、配列番号1~9から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性、好ましくは100%の配列同一性を有するCDR3を含む。TCRβ鎖コンストラクトは、配列番号10~18から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性、好ましくは100%の配列同一性を有する相補性決定領域3(CDR3)を含む。もちろん、TCRαおよびβ鎖コンストラクトは、特に、表1に教示されるように、MHC分子上のエピトープの認識を可能にする方法で、本発明のTCRコンストラクトにおいて対を形成する。TCRαおよび/またはβ鎖コンストラクトは、表3に示されるCDR1、CDR2およびCDR3領域を含み得る。好ましくは、TCRαおよび/またはβ鎖コンストラクトは、表1に示される通り、CDR3領域および可変領域を含む。
【0016】
TCRα鎖コンストラクトは、要すれば、配列番号31~39から選択されるコドン最適化された配列を有する核酸によってコードされる、配列番号22~30から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも90%または100%の配列同一性を有する配列を含む可変領域を含み得る。TCRα鎖コンストラクトは、好ましくは、配列番号40~48のいずれかのアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも90%または100%の配列同一性を有する配列を含み、要すれば、配列番号49~57のいずれかの配列を有するコドン最適化核酸によりコードされる。
【0017】
【0018】
TCRβ鎖コンストラクトは、配列番号58~66から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも90%または100%の配列同一性を有する配列を含む可変領域を含んでいてよく、それは、要すれば、配列番号67~75から選択される配列を有するコドン最適化核酸によりコードされていてよい。TCRβ鎖コンストラクトは、好ましくは、配列番号76~84のいずれかのアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも90%または100%の配列同一性を有する配列を含み、要すれば、配列番号85~93のいずれかの配列を有するコドン最適化核酸によりコードされていてよい。
【0019】
それらの可変領域内またはそれらの完全長に亘って、ある配列同一性によって定義されるコンストラクトは、好ましくは、例えば表1に示される通り、定義されたCDR3領域と100%の相同性を有するそれぞれのCDR3領域を含む。
【0020】
本発明はまた、一本鎖核酸コンストラクトを提供し、ここで、例えばTCRαおよびβ鎖コンストラクトは、P2Aエレメントによって隔てられている。そのような一本鎖核酸コンストラクトにおいて、完全なTCRコンストラクトは、配列番号94~102のいずれかの核酸によってコードされ得る。
【0021】
本発明はまた、完全に再配列されていないヒトTCRαおよびβ遺伝子座をコードする核酸を含み、該遺伝子座に由来する再配列されたTCRをそのCD4+T細胞上に発現し、さらにマウスI-Eの非抗原結合ドメインに融合したヒトHLA-DR4を発現するマウスであって、ここで、該マウスが、マウスTCRおよびマウスMHCクラスII分子を欠損している、マウスに関する。従って、ABabDR4マウスは、HLA-DR4拘束性を有するCD4+T細胞と共に多様なヒトTCRレパートリーを発現する。HLA-DR4と複合体を形成しているNY-ESO-1エピトープを認識する上記の本発明のTCRコンストラクトは、全てかかるマウス由来であり、ABabDR4マウスと命名され、これも本発明の目的である。本発明はまた、HLA-DR4、特に、本発明のTCRコンストラクト上に提示されるエピトープに特異的なTCRを調製するための、これらのマウスの使用にも関する。
【0022】
ヒトとは対照的に、ABabDIIマウスまたはABabDR4マウスは、NY-ESO-1などのヒト腫瘍関連抗原 (TAA)に対して寛容ではない。従って、ヒトTAAでワクチン接種したとき、ABabDIIマウスは、高親和性(avidity)抗原特異的T細胞の増殖を含むそれらの外来抗原に対する効率的な適応した免疫応答を生じる。好適なヒトTAAで免疫した後、ABabDIIマウスの高親和性TCRをコードする遺伝子情報を抽出することができる。これらのTCRは、その後、レトロウイルス形質導入を介して腫瘍患者由来のT細胞において再発現され得る。それらの再標的化されたT細胞は、腫瘍と闘っている患者に移植され得る (WO2014118236の
図1参照)。
【0023】
ヒトTCRトランスジェニックマウスを使用することにより、マウスゲノムによってコードされていないヒトペプチド配列はいずれも免疫化に適しており、最適な親和性を有するTCRが得られ得る。最適な親和性とは、T細胞がヒトの自己MHC分子に対して拘束され、ペプチド抗原を外来物と認識すること、例えば非耐性(nontolerant)レパートリーを示すことを意味する。ペプチド/MHC多量体を用いることにより、トランスジェニックマウスの特異的T細胞を選別することができ、例えば単細胞PCRによりヒトTCRを単離することができ、該TCRは、内因性TCRとの誤対合を回避しながら、効率よく発現するために最適化され、患者のT細胞のウイルスベクターによる形質導入に使用される (Uckert et al., 2009, Cancer Immunol Immunother 58, 809-22;Kammertoens et al., 2009, Eur J Immunol 39, 2345-53)。
【0024】
上記の本発明のTCRコンストラクトは、ヒトTCR遺伝子座およびヒトMHC、特に、HLA-DR4のトランスジェニックマウス、すなわち、ABabDR4マウスに由来する。“~に由来する”とは、TCRコンストラクト (またはそれぞれのα/β鎖コンストラクト)の少なくともCDR3配列(複数可)、好ましくは可変領域が、以下の実施例におけるマウスTCRにより提供される配列に対して同一であるか、またはそれらに対して上記の配列同一性レベルを有することを意味する。核酸が、マウスTCRをコードする核酸から、例えばPCRにより物理的に誘導されることが可能であるが、それが必須ではない。他に詳細に記載されるように、変更が可能である。
【0025】
ABabDIIマウスにおけるCD8+T細胞は、ヒトMHC クラスI分子、HLA-A*0201(HLA-A2)によって提示される抗原を認識するヒトT細胞受容体(TCR)を担持する (Li et al., 2010, Nature Medicine 16, 1029-34)。HLA-A2に対して拘束され、ABabDIIマウスに由来するNY-ESO-1 エピトープを認識するTCRは、既報である(Linnemann et al., Nature Medicine 19, 1534-1541)。本発明は、HLA-A2に対して拘束されるNY-ESO-1エピトープ (配列番号103) を認識するTCRであって、ヒト患者に由来するそれぞれのTCR、TCR 1G4よりも機能的に優れていることが示されているABabDIIマウスに由来するTCRを提供する。
【0026】
【0027】
従って、本発明はまた、MHC I、特に、HLA-A2と結合しているNY-ESO-1エピトープを認識することができるTCRコンストラクトを提供する。配列番号19は、HLA-A2-、すなわちMHC I-拘束性NY-ESO-1157-165 エピトープ (SLLMWITQC、配列番号103)を認識することができる本発明のTCR α鎖コンストラクトのCDR3領域に対応し、配列番号20は、HLA-A2拘束性NY-ESO-1157-165 エピトープを認識することができる本発明のTCRβ鎖コンストラクトのCDR3領域に対応する。驚くべきことに、本発明により提供されるこのTCRは、以下に示す通り、以前にヒトから単離された他のTCRよりも高い親和性を有することが発見された。
【0028】
本発明のTCRコンストラクトは、HLA-A2と複合体を形成している配列番号103のアミノ酸配列からなるエピトープに特異的に結合することができ、ここで、TCRα鎖コンストラクトは、配列番号19のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性、好ましくは、100%の配列同一性を有する相補性決定領域3(CDR3)を含み、および/またはTCRβ鎖コンストラクトは、配列番号20のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性、好ましくは、100%の配列同一性を有する相補性決定領域3(CDR3)を含む。
【0029】
該TCRα鎖コンストラクトは、配列番号105のコドン最適化核酸によりコードされていてよい配列番号104のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも90%または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む可変領域を含み得る。該TCRα鎖コンストラクトは、配列番号107のコドン最適化核酸によりコードされていてよい配列番号106のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも90%または100%の配列同一性を有する配列を含み得る。
【0030】
該TCRβ鎖コンストラクトは、配列番号108のコドン最適化核酸によりコードされていてよい配列番号106のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも90%または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む可変領域を含み得る。該TCRβ鎖コンストラクトは、配列番号110のコドン最適化核酸によりコードされていてよい配列番号109のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも90%または100%の配列同一性を有する配列を含み得る。
【0031】
該TCRコンストラクトは、表3に示されるCDR1、CDR2およびCDR3領域を含み得る。TCRコンストラクトはまた、表2に示されるCDR3領域および可変領域を含み得る。
【0032】
【0033】
本発明はまた、例えばTCRαおよびβ鎖コンストラクトがP2Aエレメントによって隔てられている、一本鎖核酸コンストラクトを提供する。
図4は、例示的コンストラクトを提供する。そのようなTCRコンストラクトは、配列番号111の核酸によってコードされていてよい。
【0034】
上記で提供される全ての核酸配列は、ヒト細胞における発現のためにコドン最適化されている。
【0035】
本発明のTCRコンストラクトのTCRα鎖コンストラクトおよび/またはTCRβ鎖コンストラクトは、好ましくは、ベクターである。好適なベクターには、プラスミドおよびウイルスなどの、増殖(propagation and expansion)のため、または発現のため、あるいは両方のために設計されたものが含まれる。ベクターは、ヒトT細胞またはヒトT細胞前駆体、好ましくは、CD8+T細胞、CD4+T細胞、セントラルメモリーT細胞、エフェクターメモリーT細胞、幹細胞様T細胞などのヒトT細胞を含む群から選択される宿主細胞における発現に適する発現ベクターであり得る。ベクターはウイルスベクター、例えばレトロウイルスベクター、特にガンマ-レトロウイルスまたはレンチウイルスベクターであってよい。好適な発現ベクターの例としては、
図4に示すレトロウイルスベクターMP71が含まれる。組換え発現ベクターは、転写および翻訳の開始および終止コドンなどの調節配列を含み、それらは、該ベクターが導入されるべき、かつ本発明の核酸の発現が行われるべき、宿主細胞タイプ(例えば、細菌、真菌、植物または動物)に特異的である。さらに、本発明のベクターは、形質転換またはトランスフェクトされた宿主の選択を可能にする、1以上のマーカー遺伝子を含み得る。組換え発現ベクターは、本発明のコンストラクトをコードするヌクレオチド配列、または本発明のコンストラクトをコードするヌクレオチド配列に相補的であるか、もしくはそれにハイブリダイズするヌクレオチド配列に作動可能に連結された、天然の、または好ましくは、異種のプロモーターを含み得る。プロモーターの選択には、例えば、強力な、弱い、誘導性の、組織特異的な、および発生特異的なプロモーターが含まれる。プロモーターは、非ウイルスプロモーターまたはウイルスプロモーターであり得る。好ましくは、それは異種プロモーター、すなわち、ヒトT細胞においてTCRに天然には結合していないプロモーター、例えば長い末端反復プロモーターなどであり、それは、ヒトT細胞における発現に適している。本発明の組換え発現ベクターは、一過性発現、安定した発現、またはその両方のために設計され得る。また、組換え発現ベクターは、構成的発現または誘導発現のために作製することができる。
【0036】
本発明はまた、タンパク質、すなわち、αもしくはβ鎖コンストラクト、または好ましくは、αおよびβ鎖コンストラクトの両方を含むTCR受容体コンストラクトを提供し、それは、HLA-DR4と結合されたエピトープNY-ESO-1116-135、またはHLA-A2と結合されたエピトープNY-ESO-1157-165に特異的に結合することができる。タンパク質は、好ましくは、本発明の核酸によってコードされる。
【0037】
本明細書で用いる用語、所定の抗原に“特異的に結合する”またはそれを“認識する”またはそれに“特異的な”とは、TCRコンストラクトが、該エピトープ、好ましくはNY-ESO-1に、より好ましくは高親和性で、特異的に結合し、かつ免疫学的に認識することができることを意味する。例えば、TCRは、TCRを発現するT細胞が、低濃度のそれぞれのエピトープ、例えば、HLA-A2 拘束性NY-ESO-1157-165 エピトープまたはHLA-DR4-拘束性NY-ESO-1116-135 エピトープなどのNY-ESO-1 エピトープ(例えば、約10-11mol/l、10-10 mol/l、10-9 mol/l、10-8 mol/l、10-7 mol/l、10-6 mol/l、10-5 mol/l) でパルスされた標的T細胞との共培養の際に、少なくとも約200pg/mlまたはそれ以上(例えば、250pg/mlまたはそれ以上、300pg/mlまたはそれ以上、400pg/mlまたはそれ以上、500pg/mlまたはそれ以上、600pg/mlまたはそれ以上、700pg/mlまたはそれ以上、1,000pg/mlまたはそれ以上、2,000pg/mlまたはそれ以上、2,500pg/mlまたはそれ以上、5,000pg/mlまたはそれ以上)のインターフェロンγ(IFN-γ)を分泌するが、エピトープなし、または対照ペプチドエピトープの場合は分泌しないとき、NY-ESO-1に“特異的に結合することができる”とみなされ得る。あるいは、または加えて、TCRは、TCRを発現するT細胞が、低濃度の適当なペプチドでパルスされた標的T細胞との共培養の際に、IFN-γの非形質導入バックグラウンドレベルよりの少なくとも2倍多いIFN-γを分泌するとき、NY-ESO-1エピトープに対して“抗原特異性”を有すると見なされ得る。上記のようなかかる“特異性”は、例えば、ELISAで分析可能である。
【0038】
親和性は、当業者によく知られた方法、例えばBiaCoreにより分析することができる。100μM以上、より好ましくは10μM以上のTCR親和性またはT細胞結合活性は高親和性であると考えられる。
【0039】
本発明によって提供される定義されたCDR3配列および可変領域配列に基づき、TCR配列の親和性成熟を行うことが可能である (Chervin et al. J Immunol Methods. 2008;339(2):175-84);Robbins et al. J Immunol. 2008;180:6116-31)。CDR3配列中のアミノ酸置換を誘導する非同義(non-synonymous)のヌクレオチド置換は、標的抗原に対するTCRの増強された親和性をもたらし得る。さらに、可変TRAおよびTRB領域の他の部分におけるTCR配列の変化は、ペプチド-MHC複合体に対するTCRの親和性を変化させ得る。これは、ペプチド-MHCに対するTCRの全体的な親和性を増加させるが、非特異的認識および増加した交差反応性のリスクを有する(Linette ら、Blood. 2013;122(6):863-72)。提供される特定の配列から変化するTCRは、提供される標的抗原に対して排他的な特異性を保持すること、すなわち、それらは、交差反応性ではなく、最も重要なことには、ヒト自己ペプチドに対して交差反応性を有さないことが好ましい。TCRの潜在的交差反応性は、正確なMHCアレルを有する細胞に負荷された既知の自己ペプチドに対して試験することができる(Morgan et al., 2013, J. Immunother. 36, 133-151)。従って、本発明のTCRコンストラクトを発現するT細胞の養子移入は、健康な組織に対しては全くまたは重大な悪影響を及ぼさないことが好ましい。
【0040】
本発明のTCRαおよび/またはβ鎖コンストラクトは、その天然対応物に対応する全ての特性またはドメインを含み得るが、これは必須ではない。好ましくは、TCRαおよび/またはβ鎖コンストラクトは、少なくとも1つの可変領域、または可変領域および定常領域、例えば、ヒト可変領域または定常TCR領域に対して少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%または少なくとも95%の配列同一性を有する可変領域および/または定常領域を含む。養子TCR療法の場合、TCRコンストラクトは、可変領域、定常領域および膜貫通領域を含む、完全長TCRα鎖およびβ鎖を含むことが好ましい。TCRコンストラクトは、好ましくは、本質的または排他的に、免疫原性を最小にするために、ヒト起源のものである。しかしながら、内在性のTCR鎖との対合を阻止するために、本発明のコンストラクトは、好ましくは、ヒト配列と比べて、1以上、例えば、1~5個、1~10個または1~20個のアミノ酸置換、挿入または欠失を含み、例えば、追加のシステインを提供して付加的なジスルフィド結合の形成を可能にしている (Sommermeyer et al., 2010, J. Immunol. 184, 6223-31)。このために、TCRαおよびβ鎖コンストラクトの定常領域はまた、マウス定常領域であってもよい。
【0041】
コンストラクトはまた、キメラ抗原受容体、またはその一部であってもよく、ここで、例えばヒトTCR可変領域は、異なる免疫グロブリン定常ドメイン、例えばIgG定常ドメイン、またはNY-ESO-1などの抗原に特異的に結合することができる抗体ドメインに結合することができる。
【0042】
一本鎖コンストラクト (scTCR)が包含され、ならびにヘテロ二量体TCRコンストラクトも包含される。scTCRは、第一のTCR鎖コンストラクト (例えば、α鎖)の可変領域および全長(完全長)の第二のTCR鎖(例えば、β鎖)を含んでいてよく、またはその逆であってもよい。さらに、scTCRは、要すれば、2以上のポリペプチドを一緒に連結する1以上のリンカーを含み得る。リンカーは、例えば、本明細書に記載の通り、2つの一本鎖を共に結合するペプチドであり得る。サイトカイン、例えば、IL-2、IL-7またはIL-15などのヒトサイトカインに融合された本発明のscTCRもまた、提供される。
【0043】
本発明のTCRコンストラクトはまた、少なくとも2個のscTCR分子を含む多量体複合体の形態で提供され得て、ここで、該scTCR分子は、それぞれ少なくとも1つのビオチン部分に融合され、該scTCRは、ビオチン-ストレプトアビジン相互作用により結合されて、該多量体複合体の形成を可能にする。また、3以上、例えば、4つの本発明のscTCRを含む、高次の多量体複合体も提供される。
【0044】
本発明のTCRコンストラクトは、例えば、放射性同位元素、フルオロフォア (例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フィコエリトリン(PE))、酵素 (例えば、アルカリホスファターゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ)、および粒子(例えば、金粒子または磁性粒子)などの、検出可能な標識(ラベル)を含むように修飾され得る。
【0045】
本発明はまた、本発明の核酸またはタンパク質を含む宿主細胞を提供する。宿主細胞は、真核細胞、例えば、植物、動物、菌類もしくは藻類であってもよく、または原核細胞、例えば、細菌もしくは原生動物であってもよい。宿主細胞は、培養細胞または初代細胞であってもよく、すなわち、生物、例えばヒトから直接単離されてもよい。宿主細胞は、付着T細胞または懸濁細胞、すなわち、懸濁液中で増殖する細胞であってもよい。組換えTCR、ポリペプチド、またはタンパク質を産生する目的で、宿主細胞は、好ましくは、哺乳動物細胞である。最も好ましくは、宿主細胞はヒト細胞である。宿主細胞は、いずれの細胞タイプであってよく、いずれの組織タイプ由来であってよく、およびいずれの発生段階であってよいが、宿主細胞は、好ましくは、末梢血白血球(PBL)または末梢血単核細胞(PBMC)である。より好ましくは、宿主細胞は、T細胞またはT細胞前駆体、特に、ヒトT細胞である。T細胞は、培養T細胞、例えば初代T細胞などのT細胞、または培養T細胞株、例えばJurkat、SupTlなど由来のT細胞、または哺乳動物から得られるT細胞であり得て、好ましくは、ヒト患者由来のT細胞またはT細胞前駆体である。T細胞は、血液、骨髄、リンパ節、胸腺、または他の組織もしくは体液などの多数の供給源から得ることができる。T細胞はまた、濃縮されても精製されていてもよい。好ましくは、T細胞はヒトT細胞である。より好ましくは、T細胞は、ヒト、例えばヒト患者から単離されたT細胞である。T細胞は、任意のタイプのT細胞であってよく、かつ任意の発生段階であってよく、CD4+および/またはCD8+、CD4+ヘルパーT細胞、例えば、Th1およびTh2細胞、CD8+T細胞 (例えば、細胞傷害性T細胞)、腫瘍浸潤細胞 (TIL)、エフェクター細胞、セントラルエフェクター細胞、メモリーT細胞、ナイーブT細胞など、好ましくはセントラルメモリーT細胞が含まれるが、これらに限定されない。
【0046】
好ましくは、宿主細胞は、ヒトCD4-陽性T細胞であるか、ここで、本発明のTCRコンストラクトは、MHC IIエピトープに限定され、またはヒトCD8-陽性T細胞であり、ここで、本発明のTCRコンストラクトは、MHC Iエピトープに限定される。
【0047】
本発明はまた、
a)ヒトMHCと複合体を形成しているNY-ESO-1由来のエピトープに特異的に結合することができる、本発明のTCRコンストラクトをコードする、ヒトT細胞における発現に適する核酸、好ましくは発現ベクター、または
b)ヒトMHCと複合体を形成しているNY-ESO-1由来のエピトープに特異的に結合することができる、本発明のTCRコンストラクトを含むタンパク質、または
c)ヒトMHCと複合体を形成しているNY-ESO-1由来のエピトープに特異的に結合することができるTCRコンストラクトを発現する、本発明の宿主細胞、例えば、ヒトT細胞
を含む、医薬組成物を提供する。
【0048】
好ましい態様において、医薬組成物に用いられる本発明のTCRコンストラクトは、本明細書に記載されるように、HLA-DR4に限定されるエピトープを認識することができるTCRコンストラクトである。
【0049】
あるいは、TCRコンストラクトは、本明細書に記載されるように、HLA-A02に限定されるエピトープを認識することができる本発明のTCRコンストラクトである。
【0050】
本発明はまた、好ましくは、医薬における使用のための、特に、ヒト患者の処置のための、第一の構成部分として、
a)ヒトMHC IIと複合体を形成している所定の抗原由来のエピトープに特異的に結合することができるTCRコンストラクトをコードする核酸、好ましくは発現ベクター、または
b)ヒトMHC IIと複合体を形成している所定の抗原由来のエピトープに特異的に結合することができるTCRコンストラクトを含むタンパク質、または
c)ヒトMHC IIと複合体を形成している所定の抗原由来のエピトープに特異的に結合することができるTCRコンストラクトを発現する宿主細胞、
および
i)ヒトMHC Iと複合体を形成している該所定の抗原由来のエピトープに特異的に結合することができるTCRコンストラクトをコードする核酸、好ましくは発現ベクター、または
ii)ヒトMHC Iと複合体を形成している該所定の抗原由来のエピトープに特異的に結合することができるTCRコンストラクトを含むタンパク質、または
iii)ヒトMHC Iと複合体を形成している該所定の抗原由来のエピトープに特異的に結合することができるTCRコンストラクトを発現する宿主細胞
を含む、キットを提供する。
【0051】
該所定の抗原は、好ましくは、NY-ESO-1などの癌-精巣-抗原を含む群から選択される腫瘍関連抗原または腫瘍特異的抗原である。特に、エピトープは、それぞれ配列番号21(HLA-DR4-制限)および103(HLA-A02-制限)のエピトープである。あるいは、抗原は、体細胞突然変異抗原、ウイルス抗原、腫瘍駆動抗原、腫瘍関連抗原、分化抗原、例えば癌-精巣抗原であり得る。好ましくは、TCRコンストラクトは、上記のようなヒトTCR、本質的にヒトTCRであるか、またはヒトTCRに由来する、例えば、以下に記載のヒト化マウスに由来するものである。
【0052】
これまでは、養子T細胞のヒトへの移入は、専らCD8+またはCD4+T細胞のいずれかの投与に焦点を当てていた。しかしながら、本発明者らは、所定の腫瘍関連抗原であるNY-ESO-1に特異的なTCRコンストラクト(それは、2つの細胞型の結合を可能にする)を用いてCD8+およびCD4+T細胞の両方の移入を含むヒトにおける養子T細胞療法を実施する手段を提供している。あるいは、該TCRコンストラクトをコードする核酸またはそれぞれのタンパク質もまた、患者の内在性T細胞に対して必要な特異性を移送するために用いることができる。CD4+細胞は、例えば、IFN-γおよびIL-2などのサイトカインの分泌により、CD8+細胞の腫瘍への動員および細胞溶解機能を促進し得る。これにより、腫瘍細胞のより効率的な排除、および緩解、または、好ましくは、腫瘍の排除が可能となる。好ましくは、再発はない。
【0053】
特に、本発明は、
a)ヒトHLA-DR4と複合体を形成しているNY-ESO-1由来のエピトープに特異的に結合することができ、かつ、好ましくは、配列番号1~18のいずれかのアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を有するCDR3領域を含む、本発明のTCRコンストラクトをコードする核酸、好ましくは、ヒトT細胞における発現に適する発現ベクター、
b)ヒトHLA-DR4と複合体を形成しているNY-ESO-1由来のエピトープに特異的に結合することができ、かつ、好ましくは、配列番号1~18のいずれかのアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を有するCDR3領域を含む、本発明のTCRコンストラクトを含むタンパク質、または
c)ヒトHLA-DR4と複合体を形成しているNY-ESO-1由来のエピトープに特異的に結合することができ、かつ、好ましくは、配列番号1~18のいずれかのアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を有するCDR3領域を含む、本発明のTCRコンストラクトを発現する宿主細胞、例えば、ヒトT細胞
を含む、医薬組成物を含む、上記のキットを提供する。
【0054】
該キットは、好ましくは、第二の構成部分として、
i)ヒトMHC Iと複合体を形成している該所定の抗原由来のエピトープに特異的に結合することができるTCRコンストラクトであって、例えば、好ましくは、配列番号19または20のアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を有するCDR3領域を含む本発明のTCRコンストラクト、をコードする核酸、好ましくは発現ベクター、または
ii)ヒトMHC Iと複合体を形成している該所定の抗原由来のエピトープに特異的に結合することができるTCRコンストラクトであって、例えば、好ましくは、配列番号19または20のアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を有するCDR3領域を含む本発明のTCRコンストラクト、を含むタンパク質、または
iii) ヒトMHC Iと複合体を形成している該所定の抗原由来のエピトープに特異的に結合することができるTCRコンストラクトであって、例えば、好ましくは、配列番号19または20のアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を有するCDR3領域を含む本発明のTCRコンストラクト、を発現する宿主細胞
を含む、医薬組成物を含む。
【0055】
本発明のキットの構成部分(複数)は、同時投与または任意の順での投与のために製剤され得る。該構成部分はまた、反復投与用であってもよい。Tran ら(Science, 2014 May 9;344(6184):641-5) は、可能な投与レジメンを記載している。
【0056】
本発明に有用な薬学的に許容される担体または希釈剤の例には、SPGAなどの安定化剤、炭水化物 (例えば、ソルビトール、マンニトール、デンプン、スクロース、グルコース、デキストラン)、アルブミンもしくはカゼインなどのタンパク質、ウシ血清もしくはスキムミルクなどのタンパク質含有薬剤、および緩衝液 (例えば、リン酸緩衝生理食塩水などのリン酸緩衝液)が含まれる。
【0057】
本発明の医薬組成物または本発明のキットは、疾患、例えば増殖性疾患、感染性疾患またはウイルス性疾患の診断、予防および/または処置における使用を目的とし得る。疾患は、好ましくは、腫瘍疾患、例えば良性または悪性腫瘍疾患である。好ましい態様において、増殖細胞または腫瘍は、NY-ESO-1を発現し、TCRコンストラクトは、NY-ESO-1由来の少なくとも1つのエピトープを認識することができる。好ましくは、疾患は処置される。疾患に罹患するリスクの低下、好ましくは、処置対象のリスクが比較集団において正常レベル以下に低下すること、好ましくは、リスクが、少なくとも10%、少なくとも25%、少なくとも50%または少なくとも75%、または100%低下することもまた、疾患の予防と考えられる。
【0058】
本発明はまた、本発明の核酸、タンパク質または宿主細胞を投与することを含む、上記に特記された疾患、特に腫瘍または腫瘍疾患に罹患している対象の処置法を提供する。好ましくは、対象は、かかる処置を必要とする対象、すなわち患者である。好ましい態様において、対象は、腫瘍または腫瘍疾患に罹患している哺乳動物対象、好ましくはヒト患者である。活性薬剤は、有効量で投与される。
【0059】
本明細書の文脈中用語“腫瘍”または“腫瘍疾患”としては、黒色腫、肝細胞癌、肝内および肝外の胆管細胞癌、扁平上皮癌、頭部、頸部、肺もしくは食道の腺癌ならびに未分化癌腫、結腸直腸癌、軟骨肉腫、骨肉腫、メドルロプラズマ、神経芽腫、頭頸部の非扁平上皮癌、卵巣腫瘍、リンパ腫、急性および慢性リンパ性白血病、急性および慢性骨髄性白血病、膀胱癌腫、前立腺癌腫、膵臓腺癌、乳癌および胃癌から選択される疾患が記載される。NY-ESO-1を発現する腫瘍は、好ましくは、黒色腫、肺癌、滑膜肉腫ならびに頭頸部癌、食道癌および膀胱癌から選択される。
【0060】
本発明の1つの好ましい医薬用途は、免疫療法、好ましくは養子T細胞療法に関する。本発明の製品および方法は、特に、養子T細胞療法との関係において有用である。本発明の化合物の投与は、例えば、患者への投与、例えば、該患者への本発明のT細胞の注入を含み得る。好ましくは、そのようなT細胞は、本発明の核酸を用いてインビトロで形質導入された患者の自己T細胞である。
【0061】
あるいは、患者はまた、T細胞のインビボ形質導入のために、本発明の核酸、特に発現ベクターを投与され得る。
【0062】
本発明のタンパク質TCRコンストラクトはまた、例えば、対象がNY-ESO-1を発現するかどうか、特に、配列番号21のエピトープを発現するかどうかを調べるための診断目的に使用することもできる。この目的のために、かかるコンストラクトは、好ましくは、検出を容易にするために標識される。好ましくは、HLA-DR4上に該エピトープを提示する患者は、本発明の養子T細胞療法によって処置される。
【0063】
本発明はまた、ヒトMHCと複合体を形成しているNY-ESO-1由来のエピトープに特異的に結合することができるTCRコンストラクトをコードする発現ベクターを好適な宿主細胞、好ましくは患者から単離されたヒトT細胞に導入することを含む、本発明の宿主細胞の製造方法に関する。
【0064】
本発明は、添付の図面および配列表を参照して、以下の実施例においてさらに説明されるが、それらに限定されることはない。本発明の目的に関して、本明細書中に引用される全ての文献は、その内容全体が引用により本明細書中に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【
図1】
図1.ABabDIIマウス由来のNY-ESO157-特異的TCR-ESOと、患者由来のTCR 1G4との機能比較。(a)ヒトドナー由来のPBMCを、ABabDII由来のTCR-ESOまたはヒト由来のTCR 1G4で形質導入し、NY-ESO157-HLA-A2特異的多量体で染色した。CD3陽性細胞でゲート(gated on CD3+cells)。(b)T2細胞に、NY-ESO157天然ペプチドの増加量をパルスし、TCR形質導入T細胞と共培養した。(c)異なる腫瘍細胞株 (SK.Mel37: HLA-A2+/NY-ESO+、SK.Mel29.MiG: HLA-A2+/NY-ESO-、SK.Mel29.MiG.NY-ESO: HLA-A2+/NY-ESO+、Mel324: HLA-A2+/NY-ESO-、Mel295: HLA-A2+/NY-ESO+)との共培養後のTCR形質導入T細胞によるIFNγ産生。bおよびcのグラフは、アッセイ内2回測定の平均 ± 標準偏差を示す。
【
図2】
図2.ABabDR4マウスは、マウスI-Eの非抗原結合ドメインに融合した、TCRαβ遺伝子座全体およびヒトMHC クラスII分子 HLA-DR4のトランスジェニックである。ABabDR4マウスは、マウスTCRおよびマウスMHCクラスII分子を欠損している。従って、ABabDR4は、HLA-DR4拘束性を有するCD4 T細胞と共に多様なヒトTCRレパートリーを発現する。
【
図3】
図3.NY-ESO-1 DNAで免疫化したABabDR4マウス由来の末梢血白血球を、抗CD3/CD28ダイナビーズ、無関係なペプチド、またはNY-ESO
116-135を用いて、一晩、再刺激して、IFNγについて細胞内染色した。プロットした細胞は、リンパ球およびCD3陽性細胞でゲート。
【
図4】
図4.レトロウイルスTCR-ベクター MP71の概略構造(Linnemann et al., 2013, Nature Medicine 19, 1534-1541)。
【
図5】
図5.TCR欠損およびCD4発現Jurkat細胞を、NY-ESO-1反応性TCRで形質導入し、NY-ESO-1
116-135/DR4-テトラマー (NY-ESO-1 Tet)または対照としてのCLIP/DR4-テトラマー (CLIP Tet) で染色した。
【
図6】
図6.ヒトPBMC由来のTCR形質導入または非形質導入 (対照) CD4+T細胞を、HLA-DR4および/またはNY-ESO-1を天然に発現する異なる黒色腫細胞株と共培養し、IFNγについて細胞内染色した。表示されたパーセンテージは、形質導入されたCD4+T細胞 (TCR形質導入サンプル)または全CD4+T細胞 (非形質導入サンプル)を意味する。2回測定の平均値+標準偏差を示す。全ての黒色腫細胞株を、フローサイトメトリーにより、HLA-DR発現について分析した。
【
図7】
図7.ABabDR4マウス由来であるが、ヒト由来ではないNY-ESO-1
116-135-反応性TCRは、HLA-DR4/NY-ESO-1を発現する黒色腫株を認識する。ABabDR4マウス (3600、5712、3598_2) または健常ヒトドナー(NY1、NY2、NY3)由来のNY-ESO-1
116-135-反応性TCRで形質導入されたCD4 T細胞を、HLA-DR4および/またはNY-ESO-1を発現するIFNγで予め処理した黒色腫株と共培養した。NY-ESO-1
116-135 ペプチド (NY116)を陽性対照として加えた。一晩インキュベーション後、IFNγを上清中で測定した。アッセイ内2回測定の平均値+標準偏差を示す。全ての黒色腫株を、フローサイトメトリーにより、HLA-DR発現について分析した。
【
図8】
図8.NY-ESO-1反応性TCRで形質導入されたCD8およびCD4 T細胞は、腫瘍細胞死に協同的(cooperative)効果を示す。TCR-ESO-形質導入CD8 T細胞および/またはTCR3598_2-形質導入 CD4 T細胞を、NY-ESO-1
116-135およびNY-ESO-1
157-165 ペプチドを付加したCFSE標識した黒色腫系統FM-3(低CFSE蛍光)および負荷していないCFSE標識した黒色腫系統FM-3(高CFSE蛍光)と共に培養した。CFSE標識した標的および対照細胞を1:1の比で、各8x10
4細胞を培養した。TCR形質導入CD8およびCD4 T細胞数はそれぞれ、6x10
4であった。一晩インキュベーション後、FM-3の細胞数をフローサイトメトリーにより測定した。(A)TCR形質導入T細胞と共にインキュベート後のFM-3細胞の代表的なヒストグラムを示す。数値は、NY-ESO-1ペプチドを負荷した FM-3細胞の割合を示す(小矢印)。(B)棒グラフは、Aに示す通り、標的細胞を死滅させることによって測定したTCR形質導入CD4および/またはCD8 T細胞の細胞傷害性を示す。アッセイ内2回測定の平均値+標準偏差を示す。
【実施例】
【0066】
実施例
実施例1-ABabDIIマウスにおけるNY-ESO-1
157-165
に特異的なHLA-A02拘束性ヒトTCRの作製
ABabDIIマウスを、Liら(2010、Nature Medicine 16、1029-1034)に記載の方法により作製した。NY-ESO-1157-165に特異的なバルクCD8+集団を、Linnemannら(2013、Nature Medicine 19、1534-1541)に記載のプロトコールに従って、ワクチン接種したマウスから単離し、TCR遺伝子捕捉により分析した。
例えば表2に示され、配列番号18および19に記載のCDR3配列による特徴付けられるTCR-ESOを作製した。
完全長コンストラクトのために最適化された配列を、配列番号106/107および配列番号110/111に提供する。配列番号112は、以下に使用される一本鎖核酸コンストラクトに対応する。
【0067】
実施例2-HLA-A02拘束性ヒトTCRの機能分析
実施例1で作製されたABabDIIマウス由来のNY-ESO
157-165特異的TCR-ESOを、黒色腫患者由来のTCR 1G4と比較した (Chen, et al., 2005, J. Exp. Med. 201, 1243-55)。両方のTCRは、エピトープ157-165(配列番号103)を認識する。TCRは、ヒトドナーのPBMC由来のヒトT細胞で発現された(
図1a)。ABabDII由来のTCR-ESOで形質転換されたT細胞は、ヒト由来のTCR 1G4で形質転換されたT細胞よりもペプチド負荷T2細胞の認識により抗原感受性の増加を示し、かつより高い最大IFNγレベルを誘導した(
図1b)。加えて、TCR-ESO形質導入ヒトT細胞は、1G4形質導入T細胞よりもNY-ESO発現HLA-A2
+ 癌細胞との共培養後により多くのIFNγを産生した(
図1c)。
ABabDII マウスから得られたTCRは、驚くことに、ヒトドナーから単離されたTCRと比較して優れた機能的活性を示した。
【0068】
実施例3-ABabDR4マウスにおける、HLA-DR4拘束性のNY-ESO-1
116-135
に特異的なヒトTCRの作製
NY-ESO-1に対するHLA-DR4拘束性TCRを、ヒトTCR遺伝子座/HLA-DRA-IE/HLA-DRB1*0401-IEトランスジェニック(ABabDR4)マウスにおいて惹起した(
図2)。これらのマウスは、HLA-DRA-IE/HLA-DRB1*0401-IEトランスジェニックマウス (Ito et al., 1996, J Exp Med 183(6): 2635-2644)とヒトTCR遺伝子座トランスジェニックマウス (Li et al., 2010, Nat. Medicine 16(9):1029-1034)とを交雑して作製された。このモデルの利点は、ABabDR4マウスにおけるT細胞が、多様なヒトTCRレパートリーを発現するが、ヒトおよびマウス配列が互いに異なる領域においてヒト腫瘍抗原に対する免疫寛容機構の影響を受けないことである。本発明者らは、ABabDR4マウスをNY-ESO-1で免疫化すると、ヒトには見いだされない高親和性TCRが産生されることを見出した。HLA-DR4-IEが排他的なMHCクラスII拘束性分子であるため、ABabDR4マウスの免疫化は、HLA-DR4拘束性を有する免疫抗原を認識するCD4+T細胞を産生する。
【0069】
HLA-DR4と結合したNY-ESO-1
116-135 ペプチドに特異的なTCRを、NY-ESO-1
116-135ペプチドまたは完全長NY-ESO-1 DNAを用いてワクチン接種したABabDR4マウスから作製した。NY-ESO-1
116-135 に特異的なバルクCD4+集団を単離し、TCR鎖を5’RACE(5’ rapid amplification of cDNA;cDNA増幅法)により抽出した。
図3は、IFNγの産生によって証明されるように、抗CD3/CD28ダイナビーズ、無関係のペプチドまたはNY-ESO
116-135を用いて一晩再刺激されたABabDR4マウス由来の末梢血白血球の比活性を示す。
【0070】
例えば、表1に示すように、配列番号1および10、2および11、3および12、4および13、5および14、6および15、7および16、8および17ならびに9および18のCDR3配列により特徴づけられるTCRを作製した。従って、本発明は、NY-ESO-1に対するHLA-DR4拘束性ヒトTCRを初めて提供する。
【0071】
完全長コンストラクトの最適化配列は、配列番号40~48/49~57および配列番号76~84/85~93に提供される。配列番号94~102は、以下の実験において用いる一本鎖核酸コンストラクトに対応する。
【0072】
実施例4-HLA-DR4拘束性ヒトTCRの機能分析
単離したTCRが、関連ペプチド/MHC複合体への特異的結合を与えることを実証するために、TCR欠損およびCD4発現Jurkat細胞に実施例3で調製したNY-ESO-1反応性TCRを導入し、NY-ESO-1
116-135/DR4-テトラマー (NY-ESO-1 Tet)または対照としてCLIP/DR4-テトラマー (CLIP Tet)で染色した(
図5に、TCR3598、TCR3600およびTCR5412についてデータを示す)。特異性が確認された。
【0073】
単離されたTCRはまた、NY-ESO-1発現細胞に対する機能的活性を付与した。このことは、HLA-DR4および/またはNY-ESO-1を天然に発現する種々の黒色腫細胞株と共培養したヒトPBMC由来のTCR形質導入または非導入(対照) CD4+T細胞およびIFNγの細胞内染色により示される (
図6に、TCR3598、TCR3600およびTCR5412についてのデータを示す)。
【0074】
TCR5412導入により、IFNγ CD4+細胞のより高い割合がもたらされた。従って、配列番号3および12のCDR3配列を含むTCRコンストラクトは、本発明において、とりわけ好ましい。
【0075】
実施例5-NY-ESO-1エピトープに特異的なCD4
+
およびCD8
+
T細胞の組合せの養子T細胞移植
NY-ESO-1に特異的なMHC IおよびMHC II拘束性TCRの併用を、癌の養子T細胞療法のマウスモデルにおいて試験する。NY-ESO-1およびHLA-A2陽性腫瘍細胞株を、HLA-DR4-IExRag-/-マウスに移植し、MHC I拘束性TCRを形質導入したマウスCD8 T細胞またはMHC II拘束性TCRもしくは両方の混合物を形質導入したマウスCD4 T細胞のいずれかで処置する。レシピエントマウスを、腫瘍拒絶および再発について経時的に観察する。MHC IおよびMHC II拘束性TCRの両方を用いた処置の場合、再発しないと見込まれる。
【配列表】