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特許6998214真空アシストコーティングプロセスを行うためのコーティングチャンバ、熱シールド、およびコーティングプロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-22
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】真空アシストコーティングプロセスを行うためのコーティングチャンバ、熱シールド、およびコーティングプロセス
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/54 20060101AFI20220111BHJP
   C23C 16/44 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
C23C14/54 B
C23C16/44 B
【請求項の数】 29
(21)【出願番号】P 2017555840
(86)(22)【出願日】2016-01-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-02-08
(86)【国際出願番号】 EP2016050840
(87)【国際公開番号】W WO2016116383
(87)【国際公開日】2016-07-28
【審査請求日】2018-12-17
(31)【優先権主張番号】62/104,918
(32)【優先日】2015-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/117,571
(32)【優先日】2015-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517251823
【氏名又は名称】エリコン サーフェス ソリューションズ エージー、プフェッフィコン
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フェッター、イェルク
(72)【発明者】
【氏名】クラスニッツァー、ジークフリート
(72)【発明者】
【氏名】エッセルバッハ、マルクス
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-000994(JP,A)
【文献】実開昭60-117855(JP,U)
【文献】特表2011-518255(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0147742(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
C23C 16/00-16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空アシストコーティングプロセスを行うためのコーティングチャンバであって、
前記コーティングチャンバの温度制御可能チャンバ壁(2)上に配置された一連の熱シールド(3、31、32、33)を有し、前記一連の熱シールド(3、31、32、33)は、前記熱シールド(3、31、32、33)と前記温度制御可能チャンバ壁(2)との間の事前決定可能な熱放射量の交換を調整するために配置されている、コーティングチャンバにおいて、
前記一連の熱シールド(3、31、32、33)が、前記チャンバ壁(2)の内部側(2)に直接隣接して配置された少なくとも1つの交換可能放射シールド(31)を有し、前記チャンバ壁(2)の方向を向いた前記放射シールド(31)の第1放射面(311)が第1事前決定可能熱交換係数(εD1)を有し、前記チャンバ壁(2)から離れる方向を向いた前記放射シールド(31)の第2放射面(312)が第2事前決定可能熱交換係数(εD2)を有し、前記第1事前決定可能熱交換係数(εD1)が前記第2事前決定可能熱交換係数(εD2)よりも大きく、また前記交換可能放射シールド(31)が、前記チャンバ壁(2)のところでシールドホルダ(4)の保持デバイス(41)に交換可能に固定可能とされるための組付領域を有することを特徴とする、コーティングチャンバ。
【請求項2】
前記コーティングチャンバが、PVDまたはCVDまたはアークコーティングチャンバ、あるいはハイブリッドコーティングチャンバである、請求項1に記載のコーティングチャンバ。
【請求項3】
前記一連の熱シールド(3、31、32、33)が、少なくとも1つの保護シールド(32)を有し、前記チャンバ壁(2)の方向を向いた前記保護シールドの第1保護表面(321)および前記チャンバ壁(2)から離れる方向を向いた前記保護シールド(32)の第2保護表面(322)の各々が、少なくとも規格DIN EN10088の2Dの処理状態の光沢反射面を有している、請求項1または2に記載のコーティングチャンバ。
【請求項4】
前記第1保護表面(321)および前記第2保護表面(322)の各々が、少なくとも規格DIN EN10088の2Rの処理状態の光沢反射面を有している、請求項3に記載のコーティングチャンバ。
【請求項5】
前記放射シールド(31)の前記第1事前決定可能熱交換係数(εD1)および/または前記第2事前決定可能熱交換係数(εD2)を調整するための前記第1放射面(311)および/または前記第2放射面(312)が粗く形成されている、請求項1に記載のコーティングチャンバ。
【請求項6】
前記第1放射面(311)または前記第2放射面(312)が、Ra=1μm±0.2μm~10μm±2μmおよびRz=10μm±2μm~100μm±20μmの粗さを有している、請求項5に記載のコーティングチャンバ。
【請求項7】
前記第1放射面(311)が、εSch=1.0である黒色放射体の黒色熱交換係数(εSch)と比較して、高い第1熱交換係数(εD1)を有する黒色表面または表面コーティング(30)を有し、前記第1熱交換係数(εD1)は0.1~1.0の範囲内である、請求項1に記載のコーティングチャンバ。
【請求項8】
前記第1熱交換係数(εD1)は0.85の近傍範囲内である、請求項7に記載のコーティングチャンバ。
【請求項9】
前記第1放射面(311)または前記第2放射面(312)が表面コーティング(30)を有し、前記表面コーティング(30)が、PVDにより堆積されたAL Ti NまたはAlCrNコーティングを有し、またはDLCコーティングを有し、また前記コーティングは、100nmから数1000nmのコーティング厚さを有している、請求項1に記載のコーティングチャンバ。
【請求項10】
前記表面コーティング(30)の前記PVDにより堆積されたAL Ti NまたはAlCrNコーティングが、Al66Ti33NまたはAl66Cr33Nコーティングである、請求項に記載のコーティングチャンバ。
【請求項11】
前記表面コーティング(30)は、300nmと800nmの間のコーティング厚さを有している、請求項9に記載のコーティングチャンバ。
【請求項12】
前記表面コーティング(30)は、少なくとも500nmのコーティング厚さを有している、請求項11に記載のコーティングチャンバ。
【請求項13】
前記熱シールド(3、31、32、33)が、前記第1放射面(311)上のみに被覆されたただひとつの放射シールド(31)を有している、請求項9から12までのいずれか一項に記載のコーティングチャンバ。
【請求項14】
前記ただひとつの放射シールド(31)は、部品の最大温度が250℃までの範囲である低温コーティングに適用するために設けられる、請求項13に記載のコーティングチャンバ。
【請求項15】
1つの追加輻射シールド(33)が、前記チャンバ壁(2)に直接隣接する前記放射シールド(31)と、前記保護シールド(32)との間に設けられる、請求項3に記載のコーティングチャンバ。
【請求項16】
3つまでの追加輻射シールド(33)が、前記放射シールド(31)と前記保護シールド(32)との間に設けられる、請求項15に記載のコーティングチャンバ。
【請求項17】
前記放射シールド(31)および前記保護シールド(32)および前記輻射シールド(33)の各々が、1つの同じ前記シールドホルダ(4)によって、前記組付領域において前記チャンバ壁(2)のところで前記シールドホルダ(4)の前記保持デバイス(41)に固定されている、請求項15に記載のコーティングチャンバ。
【請求項18】
前記放射シールド(31)および前記保護シールド(32)および前記追加輻射シールド(33)は、前記シールドホルダ(4)の各保持デバイス(41)に交換可能に適用されることができるように、少なくとも前記組付領域では同じような形状に設計されており、それにより、前記チャンバ壁(2)と前記熱シールド(3、31、32、33)との間で異なる熱交換特性が自在に調整可能であること、および前記放射シールド(31)および前記保護シールド(32)および前記輻射シールド(33)が、前記チャンバ壁(2)と電気的に絶縁した状態で連結されること、を特徴とする請求項15に記載のコーティングチャンバ。
【請求項19】
前記コーティングチャンバが二重壁設計チャンバ壁(2)を有し、それにより温度調節流体(5)が、温度調節のために前記二重壁チャンバ壁(2)の内部を循環可能である、請求項1に記載のコーティングチャンバ。
【請求項20】
前記チャンバ壁(2)の内部側(21)が、Ra=1μm±0.2μm~10μm±2μmおよびRz=10μm±2μm~100μm±20μmの範囲の粗さを有すること、および前記内部側(21)が、εSch=1.0である黒色ラジエータの黒色熱交換係数と比較して、0.1~1.0の範囲の高いチャンバ交換係数(ε)のコーティングを有することを特徴とする、請求項1に記載のコーティングチャンバ。
【請求項21】
前記内部側(21)が、0.2と0.8の間の前記チャンバ交換係数(ε)のコーティングを有する、請求項20に記載のコーティングチャンバ。
【請求項22】
前記内部側(21)が、0.3と0.6の間の前記チャンバ交換係数(ε)のコーティングを有する、請求項21に記載のコーティングチャンバ。
【請求項23】
前記内部側(21)が、0.4の近傍範囲の前記チャンバ交換係数(ε)のコーティングを有する、請求項22に記載のコーティングチャンバ。
【請求項24】
前記チャンバ壁(2)の前記内部側(21)がチャンバコーティングを有し、前記チャンバコーティング(20)が、PVDにより堆積されたAL Ti NまたはAlCrNコーティングを有し、またはDLCコーティングを有し、また前記チャンバコーティング(20)が、100nmから数1000nmのコーティング厚さを有している、請求項1に記載のコーティングチャンバ。
【請求項25】
前記チャンバコーティング(20)が、300nmから800nmの間のコーティング厚さを有している、請求項24に記載のコーティングチャンバ。
【請求項26】
前記チャンバコーティング(20)が、少なくとも500nmのコーティング厚さを有している、請求項25に記載のコーティングチャンバ。
【請求項27】
求項1から26までのいずれか一項に記載のコーティングチャンバ(1)を用いたコーティングプロセスであって、
前記コーティングプロセスが、PVDプロセス、またはマグネトロンスパッタリングまたはHIPIMSを含むPVDプロセス、またはプラズマアシストCVDプロセス、または陰極もしくは陽極真空アーク蒸着プロセス、またはこれらのプロセスの組み合わせ、または他の真空アシストコーティングプロセスである、コーティングプロセス。
【請求項28】
前記コーティングプロセスが低温コーティングであり、前記コーティングチャンバ(2)が、10℃~30℃の範囲の温度から、温度制御流体(5)によって温度制御されること、または、前記コーティングプロセスが高温プロセスであり、前記コーティングチャンバ(2)が、40℃~60℃の範囲の温度の温度制御流体によって温度制御されることを特徴とする、請求項27に記載のコーティングプロセス。
【請求項29】
前記温度制御流体が、水または油であることを特徴とする、請求項28に記載のコーティングプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独立請求項1、13および14の前提部分に記載の真空アシストコーティングプロセスを行うためのコーティングチャンバ、コーティングチャンバ用熱シールド、およびコーティング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
それぞれの工具や、技術デバイスおよび非技術デバイスのためのハウジングといった多種多様の部品の表面、または他の部品の表面に、特にプラズマアシストPVD法およびCVD法によって機能性コーティングを施すため、または仕上げるための真空アシストコーティングシステムであって、しばしば窒化物、炭化物、ホウ化物、酸化物およびそれらの混合物を含む硬質コーティング、DLCを施すため、または他のコーティングを施すための真空アシストコーティングシステムは、工業的コーティングにおいて部品の温度調整に関してできる限り柔軟に実現できるプロセスを有し低コストで高い生産性を達成できるように構成されねばならない。境界条件はとりわけ、コーティングシステムのコーティングチャンバの十分に低い始動圧力を実現するために必要なポンピング時間と、コーティングに不可避的に伴う付着物を除去するためのコーティングチャンバ内の迅速且つ確実な清掃とに関する真空技術上の要件であり、しかしまた、部品の所与の、いかなる場合も絶対に超えてはならない最大温度での十分に高いコーティング速度の保証と、それより下回ってはならない最低温度の設定とは、コーティングプロセス中、常時信頼性高く実現されなければならない。
【0003】
コーティングチャンバは、冷却を最適化すべく、従来技術においては二重壁となるように構成されることが多いが、特に限られた領域、例えばコーティング源のためのフランジ形状の冷却要素では、単一壁でも構成される。当業者に知られている、ポンピング時間の短縮を実現するための方法は、チャンバ壁を平滑にして、開放チャンバで周囲空気との接触する不可避ガスロードの堆積速度を最小化することである。容易なクリーニングは、チャンバ壁に交換可能なホイルを常時貼付しておくこと、および/またはチャンバ壁に交換可能な金属シートを装着しておくことによって実現される。
【0004】
しかし、従来技術において公知となっているこれらの構成は、特に部品の最小温度または最大温度を維持しつつ、十分に高いコーティング速度で幅広い温度範囲のための柔軟な適用に関するコーティングチャンバの設計が、設計的に極めて限定されるという点で、不都合である。さらに、上述した交換可能な箔は、それぞれ定期的に取換または交換を行わねばならず、追加費用が発生する。
【0005】
コーティングプロセスは通常、プロセス条件によって、意図的にせよ意図しないにせよ部品への熱伝導を惹起してしまうプロセス工程も含み、結果として、例えば基板の温度上昇をもたらす可能性がある。
【0006】
このようなプロセス工程の顕著な例としては、次のものがある。
【0007】
基板をポンピングおよび加熱する間、最小開始温度または十分に低い残留ガス圧に達するまで、例えば輻射ヒータまたは電子ヒータによる加熱によって意図する熱入力が生成される。
【0008】
部品の表面をイオンクリーニングする間に、プラズマ処理の副作用として、本質的に意図しない熱入力が、例えば基板でのイオンクリーニングのための加速されたイオンおよびプラズマ源によって、また例えば熱放射や電子プロセスによって、起こりえる。
【0009】
また、基板表面の実際のコーティングにおいて、意図しない熱入力は、通常、基板およびプラズマ源(例えば、熱放射、電子プロセスによる)におけるプラズマプロセス(コーティング材料)の副作用として生じる。
【0010】
このようにして、上で言及された3つのプロセス工程すべてにおいて、熱は、意図的にせよ意図しないにせよ、基板に印加される。実際には、基板は、通常、コーティングチャンバ内の回転する基板ホルダ上に配置され、この基板ホルダは、例えば、十分に均質なコーティング結果を実現するために、動作中に1、2または3回転するようになっている。プロセス圧力が低い結果として、熱出力は、基板および低温側表面の間の熱放射によってのみ本質的に可能であり、これらの表面の代表的なものは、通常、プロセス工程中においては、もっぱらチャンバ壁である。
【0011】
実用上の理由から、当業者は通常、確立されたコーティングプロセスにおける2つの温度範囲を区別するが、これらは、確認と明瞭化のため、以下で言及する。
【0012】
(1.低温コーティング(NTB): Tsu≦250℃)
NTBと略記される低温コーティングの場合、通常、部品の最高温度Tmaxが、実際上、150℃~250℃の範囲内である。しかしながら、基板材料としてとして亜鉛メッキプラスチックが採用された場合には、温度は、更に低いことが要請される。これは例外的なケースであるので、ここでは詳細な説明を行わず、これに関連する文献を参照されたい。
【0013】
Tsuと略記される基板開始温度は、コーティングの対象物たる部品の材質または維持するコーティング特性によって決定される部品の最大許容温度Tmaxを超えることはないし、超えたとしても短時間だけであり、それにより、信頼性あるコーティングをもたらし、または、基板の損傷を回避する。生産性(加熱、イオン洗浄、コーティング)の理由から、処理時間が可能な限り短くなるように、すなわち、基板の許容熱負荷量近傍または許容コーティング温度の近傍で、プロセスが実行される。
【0014】
コーティングの品質に関する様々なプロセスまたは材料特性もしくは仕様の夫々が、Tmaxの決め手となり得る。通常、最大許容温度Tmaxを超える状態が相当長く継続すると、例えば基板材料に、ボールベアリング鋼での残留オーステナイト変態のような負の影響を及ぼし、その結果、寸法変化、延いては、硬化(鋼の浸炭化)が惹起される可能性がある。
【0015】
しかし、例えば実現されるべきコーティング特性が、限界温度Tmaxの決め手となり得る。周知のように、あるコーティング特性、例えばDCLコーティング、特にタイプta-Cの硬質水素を含まない炭素被覆は、最高温度を超えると悪く変化する。より多くのspC-C結合状態は、例えばspC-C結合状態と比較して実現することができる。
【0016】
(2.高温コーティング(HTB): Tmin≦400℃)
HTBと略記される高温コーティングの場合、通常、部品の最低温度Tminは、400℃~600℃の範囲内である。基板開始温度Tsuは、維持されるべきコーティング基板システム特性のために、部品の最小要求温度よりも下回らず、下回ったとしてもわずかな時間の間だけである。例えば鋼(例えば二次硬化鋼、HSS)においては、通常、部品の最低温度Tminは、400℃であって、高くても500℃までが想定されている。超硬合金の場合、最高700℃までの温度が実現される。
【0017】
現実面では、NTBとHTBとの間の温度範囲で実施されなければならないコーティング作業も存在することは自明である。この例としては、ろう付けされた部品の場合がある。このNTBとHTBとの間の温度範囲は、HTBの特別な場合としてのみ理解されるため、ここでは、この中間範囲を議論する必要はない。
【0018】
従来技術から知られているコーティングチャンバは、実際には、所定の温度範囲、例えばNTB、HTBまたは両者の間においてのみ満足のいくコーティング結果で動作させることができるように設計されている。そうでない場合、コーティングチャンバの改造は極めて複雑な構造となり、全体としては不経済である。特定の温度範囲に限定されたこれら公知のコーティングシステムは、特定の基板材料またはコーティングタイプにしか適用できず、上述のした説明により実現されたコーティングのコーティング組成または特性は、1つの基板またはコーティングタイプから他のタイプに切り替えが必要な場合は、異なる基板およびコーティングタイプのために同一の製造設備内に複数の異なるチャンバを設けなければならないという事実、またはコーティングチャンバの少なくとも複雑な改造を受け入れなければならないという事実につながる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
従って、本発明の目的は、異なる基板およびコーティングまたはコーティングシステムをそれぞれ異なる温度条件下で同一のコーティングチャンバ内で製造するための改良されたコーティングチャンバであって、部品の温度に関して、必要最小限のプロセス時間で、コーティングシステムの可能な限り柔軟性の最大化を実現できるようにしてなる、コーティングチャンバを提供することである。特に、本発明の目的は、非常に単純な手段のみで、コーティングチャンバを所望の温度範囲に柔軟に適合させることが可能ならしめることである。更に、従来技術と比べて相当拡大された使用可能温度範囲を有するコーティングチャンバの特定の実施形態が提供されるべきであり、それにより、同一のコーティングチャンバで多くの異なる基板が距離されることができ、または多種のタイプのコーティングが、他のコーティング対象に変更する際に複雑な変更を伴わず実施可能である。本発明の更なる目的は、要求される特性を実現するためにコーティングチャンバのための技術的な設備を提供することであり、この技術的な設備は特に、既存のシステムの改造が可能となるように設計されることができる。さらに、本発明の目的は、本発明によるコーティングチャンバ内で実現するための新規なコーティングプロセスを提供することである。
【0020】
コーティングチャンバ内の熱放散を制御することを可能にする解決策を提供することも本発明の目的であり、それにより、熱供給の増加によってコーティング温度が制御不能に上昇せず、しかし、意図する作動点で維持されることができる。
【課題を解決するための手段】
【0021】
これらの課題を解決するための本発明の目的は、独立請求項1、13および14の構成によって特徴付けられる。
【0022】
それぞれの従属請求項は、本発明の特に好適な実施形態に関する。
【0023】
従って、本発明は、真空アシストコーティングプロセスを行うためのコーティングチャンバ、特にPVD法もしくはCVD法またはアーク放電コーティングチャンバ、またはハイブリッドコーティングチャンバに関する。コーティングチャンバは、コーティングチャンバの温度制御可能チャンバ壁上に配置された熱シールドを有し、これは、熱シールドと温度制御可能チャンバ壁との間で所与の量の熱放射の交換を調整するよう意図されている。本発明によれば、熱シールドは、少なくとも1つの交換可能な放射シールドを有し、これはチャンバ壁の内側に直接隣接し、またチャンバ壁に向けられた、放射シールドの第1放射面が、第1事前決定可能熱交換係数を有し、チャンバ壁にから離反する方向の放射シールドの第2放射面が、第2事前設定可能熱交換係数を有し、第1事前決定可能熱交換係数は第2事前決定可能熱交換係数よりも大きい。
【0024】
ここで指摘されるべきことは、この出願において「熱交換係数(heat exchange coefficient)」と称される物理量は、当業者にとっては「放射度(emission degree)」ないしは「放射率(emission rate)」として知られているものであって、当業者にとっては公知の方法に従って測定される。
【0025】
熱シールドは、更に、チャンバ壁を向いた第1保護面、およびチャンバ壁から離反方向指向の第2保護面を有する保護シールドをさらに有することができ、第1保護面および/または第2保護面の各々は、光沢反射面を有し、規格DIN EN10088の少なくとも2Dレベル、好ましくは規格DIN EN10088の少なくとも2Rレベルに従った処理ステータスを有する。
【0026】
本発明の個々の実施形態を詳細に説明する前に、本発明の本質をなす基本的構成を以下、説明する。
【0027】
実際には、本発明に係るコーティングチャンバは、熱除去のために冷水または温水のいずれかで、特定の情況では油または他の温度制御用流体によって、動作可能な二重壁のチャンバであることが好ましい。特別で例外的な状況においては、本発明に係るコーティングチャンバは、例えばコーティングチャンバの外側表面または追加の放熱要素に亘る熱出力が十分であるといったプロセスの事情によりほとんど熱を外部に放出してはならない場合は、水や油のような温度制御流体で温度制御することなしに実施可能である。
【0028】
チャンバ壁には、チャンバ内に位置するようにシールドホルダが設けられており、これは、個々の金属シートの形態の複数のシールド要素を単層またはシート束として受け入れることができ、これらは寸法的に同一であり、しかし熱的に異なり、したがって熱シールドを生成することが好ましい。
【0029】
少なくとも1つの放射シールドが、低温コーティング(NTB)のために、チャンバの内壁に熱シールドとして設置されるのが実用上好ましく、または高温コーティング(HTB)の場合、少なくとも1つの保護シールドを更に有するモジュラースタックシートとして設置されるのが実用上好ましい。放射シールドおよび保護シールドの基本的な動作原理は、以下のように纏めることができる。
【0030】
放射シールドは、内側チャンバ壁に、金属シートの態様で設置するのが好ましく、特に、洗浄工程のために、着脱容易である。したがって、放射シールドは二重の機能を果たすものであって、一方では寄生コーティングに対するチャンバ壁の保護手段として機能し、他方では、熱放射によって、チャンバ壁への放射による十分に強い熱出力を可能とする。
【0031】
特に、チャンバ壁は、放射シールドとチャンバ壁との間で熱放射により十分な熱交換が可能なような状態とされることもできる。最適な熱交換のために、放射特性、特にチャンバ壁および放射シールドの熱交換係数が特に調整されることが好ましい。
【0032】
しかし、保護シールドもまた、二重の機能を持っている。実際には、保護シールドは往々にして金属シートとして作製されて、チャンバ壁に、にあるいはチャンバ壁の正面にそれぞれ設けられ、また洗浄のために着脱容易である。したがって、保護シールドはまた、チャンバ壁を寄生コーティングから保護する一方で、他方では、放射シールドとは対照的に、チャンバ壁の方向への、またはシート束の別の金属シートの方向への放熱による熱消失を最小限に抑えることができ、これは、熱放射によってチャンバ壁の方向またはその前に配置される。
【0033】
チャンバ壁は、チャンバの方向に位置する熱シールドのシート束の第1の金属シートと、チャンバ壁との間で、熱放射によりできる限り少ない熱交換が生じるような状態とされることができる。しかしながら、これは多かれ少なかれ、放射シールドが使用される低温コーティングNTBの要件とは相いれない。したがってチャンバ壁はこのような場合、チャンバ壁への放熱により最小限の熱発散が生じるような状態とされることが好ましい。
【0034】
以下に、放射シールドのコーティングの顕著な重要性を例証するいくつかの計算例を示す。この技術分野において知られているように、熱交換係数εSch=1を持つ黒体放射体によって、最大可能放射交換が与えられる。これは、チャンバ壁および放射シールドの双方の熱交換係数が1である場合、放射シールドとチャンバ壁との間でなされる放射交換の熱交換量が最大可能量となることを意味する。以下に示す値は、理想的な黒体放射体の状態と比較した測定で得られた分数(fraction)である。計算例は、低温コーティングNTBの場合に必要とされる放射表面の熱交換係数は、高い値が必要であることを明白に示している。
【0035】
以下が、前提条件となっている。
【0036】
A)低堆積速度のための表面の最良真空技術状態。チャンバ壁(熱交換係数=ε)および直接隣接する放射金属シート(熱交換係数=εBlech)はステンレス鋼で作られており、本質的に鏡面光沢に研磨されている。熱交換係数の求め方:
ε=εBlech:0.1+/-0.05、従って有効総交換係数
εges=0.053
【0037】
B)工業製造において頻繁に使用される。チャンバ壁の無光沢スクラッチ表面およびステンレス鋼で作製された直接隣接する放射金属シートは、広く平滑であり:
ε=εBlech:0.2+/-0.1、従って有効総交換係数は、
εges=0.111
【0038】
C)粗い表面を提供するためのブラスト処理
チャンバ壁および直接隣接する放射金属シートは、ステンレス鋼で作製されており、粗くブラストされている。
ε=εBlech:0.4+/-、従って有効総交換係数は、
εges=0.25
【0039】
D)ステンレス鋼で作製されており且つ粗くブラスト処理されたチャンバ壁、直接隣接する、ステンレス鋼で作製されており且つ粗くブラスト処理された放射金属シート、および非常に高い交換係数=εBlechを有するコーティング:
ε=0.4+/-0.1
εBlech=0.85+/-0.15、従って有効総交換係数は、
εges=0.374
【0040】
E)ステンレス鋼で作製されており且つ粗くブラスト処理されたチャンバ壁、および高い熱交換係数=εを持つコーティング、ステンレス鋼で作製されており且つ粗くブラスト処理された、直接隣接する放射金属シート、および高い熱交換係数=εBlechを持つコーティング:
ε=0.85+/-0.1
εBlech=0.85+/-0.15、従って有効総交換係数は、
εges=0.74
【0041】
F)理想的な黒体放射体
ε=εBlech:1、従って有効総交換係数は、
εges=1
【0042】
もちろん、チャンバ温度、またはチャンバ壁の温度も、放射シールドの熱出力に影響を及ぼす。何故ならば、熱交換は、周知のように、温度の4乗に従うからである。そのため、低温コーティングNTBについては、例えば二重壁コーティングチャンバの冷却水温度を20℃以下のようにするなどして、壁の温度をできる限り低く設定する必要がある。この影響を実証するために、例えばNTBについて実験で測定された、150℃の放射シールドの温度が選択される。チャンバ壁が冷水で冷却されない場合、動作中、50℃またはもっと高い温度が頻繁に生じる。温度が20℃の場合におけるチャンバ壁への熱流は、温度が50℃のチャンバ壁に対する熱流よりも1.16倍高い。そうする間に、チャンバを冷却することにより、部品の温度を下げるさらなる効果が実現可能である。電子はしばしば接地されたチャンバ壁に流れ、従って冷却が不十分なチャンバ内の温度を上昇させる。何故ならば、チャンバライニングは、電気的に密集して、プラズマとプラズマ源との間の放射シールドによってライニングされていないからである。たとえこれらがチャンバ電位にあっても、別の部分の電子が直接放射シールドの加熱に寄与することができる。
【0043】
したがって、チャンバ壁および放射シールドの両方を、総熱入力の二つの異なる部分によって加熱することができ、ここにおいて、一方の部分は、コーティングされるべき温度調整された部品による熱放射によって与えられ、他の部分は、プラズマまたはプラズマ源からの電子流により決定される。これは、総計数100Aから数1000Aの電流で作動する様々な蒸発器を使用されることが多い、陰極真空アーク蒸発のプロセスにおいて特に顕著に見られる。蒸発器の周りにアークおよびアノード配列を案内するための最適化された磁場を使用しても、電子は接地された放射シールドに流れる。この電子効果は、蒸発器の周囲にアノードが積極的に設けられず、チャンバ壁が唯一のアノードである場合に特に顕著である。加熱防止のための良き解決策は、絶縁要素を用いてチャンバ壁から放射シールドを電気的に分離して、電子が放射シールドではなく冷却されたチャンバ壁に流れるようにすることである。
【0044】
既に議論したように、本発明の重要な知見は、放射シールド、保護シールドおよびチャンバ壁の各々における表面特性が極めて重要であることである。本発明によれば、この結果、上記した一以上の要素の各々について、コンディショニングまたはコーティングが適切なものとなる。
【0045】
構造上、本発明に係る放射シールドは、放射技術関して2つの異なる設計側面を持つ放射二重機能金属シートであり、ここで、一方の側面はチャンバ壁を向き、他方の側面はコーティングされるべき部品に対面している。
【0046】
本発明の特定の実施形態においては、チャンバ壁に対面する側は、ブラスト処理を行うことで、作業される面の状態をできる限り粗面(艶消し)化されている。而して、ブラスト処理を行うには、当業者に周知のように、ブラスト処理剤(コランダム、SiCなど)、適切なブラスト圧力、適切なブラスト角度およびブラスト処理時間が必要である。粗さの算術中間値(中間粗さ)についての、平均値たるRa値は、約1μm±0.2μm以上で、最高10μm±0.2μmまでの値を有するべきである。また、中間粗さについての、最大値たるRzの値は、約10μm±0.2μm以上で、最高100μm±20μmとなる。次いで、チャンバに面する側を、できるだけ密着性のある黒色のスクラッチ耐性を付与すべく、可能な限り適切な黒色のコーティングがなされる。コーティングは、Al66Ti33Nが好ましいとされるAlxTiyNのみならず、同じ構造を持つのが好ましいとされるAlCrNのようなPVDコーティングや、他のPVDコーティングであってもよい。コーティングは、光学的に密となるように被覆される。原則、500nmのコーティング厚さは、500nmで十分である。しかし、コーティング厚さは、例えば、数μmの範囲を限度として、厚ければ厚い程よい。これらの他に、例えば、a-C、a-C:H、a-C:H:X、a-C:HMeのようなDLCコーティングを、適宜採用することができる。
【0047】
コーティングされるべき部品に対面する側は、チャンバ壁に対面する側と同様に、ブラスト処理によって粗面化される。しかし、処理時間に伴う熱交換係数のイプシロン値は、コーティング処理および部品に適用されるコーティングに応じて、寄生コーティングに伴い被覆状態が不可避的に異なってくることから、変化するのが普通である。チャンバ壁への熱出力のために、DLCコーティングプロセスにおける場合と同様に、黒色コーティングが形成されるのが理想ではあるが、他の場合には、陰極真空アークコーティング法によるTinコーティングにおいてみられるような、CrNコーティングのような金属グレーレイヤや金色コーティングを採用できる。しかしながら、本発明の本質的な知見は、表面を粗くすることで、寄生堆積物とは無関係に、低温チャンバ壁の、コーティングされるべき部品間での熱交換を確実に最良ならしめるようにしたことである。放射シールドは、各サイクルの後または寄生コーティングが厚くなった場合に、他のブラスト処理によって処理される。そのため、チャンバ壁に対面するコーティングされた面は、この再調整プロセスの間に損傷されないように、可能な限り耐磨耗性を持つことが要請される。特に、陰極真空アーク蒸発によって堆積されたAlTin被覆は、この機能を優れた方法で発揮する。
【0048】
チャンバ壁の適切なコンディショニングまたはコーティングの各々は、以下のように実施することができる。チャンバ壁は、ブラスト処理を行うことで、作業される面の状態をできる限り粗面(艶消し)化されている。而して、ブラスト処理を行うには、当業者に周知のように、ブラスト処理剤(コランダム、SiCなど)および適切なブラスト圧力が必要である。粗さの平均値たるRa値は、約1μm±0.2μm以上で、最高10μm±0.2μmまでの値を有するべきである。また、粗さの最大値たるRzの値は、約10μm±0.2μm以上で、最高100μm±20μmとなる。
【0049】
加えて、上記に代替的して、黒色コーティングを用いてチャンバ壁のコーティングを行うことができる。これらは導電性でなければならない。既に説明した放射二重機能金属シートの形態で構成された放射シールドについては、ここでは黒色PVDコーティングおよび導電性DLCコーティングが可能である。
【0050】
以下において、保護シールドの特性に対するいくつかの重要なコメントを提供する。実際には、このタイプのシールドは、熱流量を最小限ならしめるために、事実上可能な限り、理想的には鏡面光沢を有した薄い金属シートであることが望ましい。コーティングされるべき部位に対面する側は、規格DIN EN10088の少なくとも2Dレベル、好ましくは規格DIN EN10088の少なくとも2Rレベルに従った表面処理がなされた光沢のある反射表面を有しており、この結果、金属シートを取り扱う際に不可避的に惹起される傷や組付け部品が設けられる領域が、粗さの測定の対象から除外される。被覆すべき部分に面する側は、すなわち、新しい状態でも滑らかであるが、コーティングプロセスおよびコーティングがなされるべき部位によっては、コーティングプロセス中、表面の粗さおよび熱交換係数Epsilonが、色々、変化する。設定された粗さはそのようなものであるが、チャンバ壁への熱伝達は最小限に抑えられる。
【0051】
以下においては、本発明に係る高温コーティングプロセスHTBを実施するための、本発明に係るコーティングチャンバの好適な実施形態を簡単に説明する。NTBの場合には可能な能な限り高温に保たれるべきチャンバ壁への熱伝達を減少させるために、そして、上述のようにチャンバ壁の方向に被覆されて粗面に形成されたチャンバ壁と協働する放射シールドを使用してHTBを修正するために、幾何学的に同一乃至酷似の保護シールドが、少なくとも一枚、追加で設置される。そして、放射シールドは放射防護シールドのように動作する。放射シールドと保護シールドとの間に、さらなる保護金属シートを設けることが好ましい。チャンバ壁が二重壁の場合、チャンバへの熱放射を最小限にするために、冷水の代わりに約50℃の温水でチャンバ壁を好適に冷却することができる。
【0052】
特定の好ましい実施形態に関して、厚さ1mmのステンレス鋼(DIN1.43013)で作られた3枚の延伸された金属シートが、金属シートシステムを構成して、熱シールドに使用される。不可避的なスクラッチのない領域の粗さは、Ra=0.8μm±0.16μm、Rz=6μm±1.2μmの範囲であった。この表面の熱交換係数は、0.15+/-0.5と決定された。放射遮蔽に用いられた金属シートのブラスト処理は、コランダムを用いたドライブラスト法で行った。したがって、粗度設定は、Ra=7μm±1.4μm、Rz=60μm±12μmであった。次に、この放射シールドを、PVDプロセス(陰極真空アーク蒸発)により、黒色のAlTiNと共に、厚さ1μmの組成Al66Ti34の陰極を用いて被覆した。使用した二重壁構造のコーティングチャンバは、チャンバ内のカソード真空アーク蒸発に依拠するPVDプロセスのためにブラスト処理された。粗さの中央値は、Ra=5μm±1μm、Rz=48μm±9.6μmであった。熱シールドは、放射シールド、その上に配置された保護金属シートおよびその上に再度配置された保護シールドから構成された金属シートシステムの形態でHTBのために設置された。HTBに必要な500℃という温度は、温度が20℃の冷却水を使用する場合にも得られた。
【0053】
保護シールドと保護金属シートの両方が、約200℃でNTBのために除去された。片面被覆放射シールドのみがチャンバ壁に残された。冷却水温度を20℃に維持した。そういうわけで、連続したコーティングプロセスを、中断することなく、要求された温度の下で行うことができた。
【0054】
実際の特に好ましい実施形態に関して、第1の放射面または第2の放射面の各々は、特にRa=1μm±0.2μm~10μm±2μm、またはRz=10μm±2μm~100μm±20μmの粗さが得られるように、粗くされており、この数字は、企図された熱交換率を実現するうえでの最適な粗さパラメータであることが実証された。
【0055】
εSch=1.0の黒体放射体の黒色熱交換係数と比較して、第1の放射表面は黒色表面であるか、その代替物であるか、同時に第1の熱交換係数が0.1~1.0の範囲、特に0.5と0.95との間、特に好適には0.7と0.9との間であり、このことから、第1の熱交換係数は約0.85の近傍範囲で特に好適である。
【0056】
上述したように、第1の放射表面および/または第2の放射表面は、PVD、特にAlTiN、好ましくはAl66Ti33Nおよび/またはAlCrN、特にAl66Cr33Nコーティングされた前述の表面コーティングを含み、且つ/または適切なDLCコーティング、特にa-C、a-C:H、a-C.H:X、a-C:H:Meコーティングされた前述の表面コーティングを含み、コーティングは光学的に密被着コーティングであることが好ましく、且つ/または、コーティングは、その暑さが数nmから数百nm、特に300nmから800nm、特に500nmであるのが好適である。
【0057】
熱シールドは、第1の放射表面上にのみコーティングされた放射シールド一枚だけからも構成することができ、これにより、特に部品の最高温度が約250℃までの範囲に限定される低温コーティングプロセスにおいては、チャンバ内部の被コーティング部品からチャンバ壁へのあり余るほどの十分な量の熱伝達熱量を確保することができる。
【0058】
これとは対照的に、1つまたは複数の放射シールドを、更に、チャンバ壁に直接隣接すする放射シールドと保護シールドとの間に設けることができ、特に最高3枚まで追加した放射シールドを、当初の放射シールドと保護シールドとの間に、特に、部品が高温化でコーティングされる場合、例えば温度がHTB範囲であったりNTB範囲とHTB範囲との間にあったりする場合に、設けることができる。
【0059】
シールドホルダ上に安全に取り付けるために、放射シールドおよび/または保護シールドおよび/または追加放射シールドは、それぞれ、アセンブリエリアを備えており、これらのアセンブリエリアは、対応する放射金属シートが、 チャンバ壁のシールドホルダの保持デバイスに固定されるように、好ましくは全ての放射金属シートが同一のシールドホルダによって同時に固定されるように配置される。放射金属シートは、シールドホルダにネジ止めされて、例えばシールドホルダの溝にクランプされるか、シールドホルダに別の方法で、好ましくは取り外し可能に連結されることができる。
【0060】
このため、放射シールドおよび/または保護シールドおよび/または追加放射シールドは、シールドホルダの各保持機構に好都合に交換可能に使用できるように、少なくとも組み立て領域において、特に同一形状となるように設計されて、チャンバ壁と熱シールドとの間での熱交換特性の変更を柔軟に行えるようにすることができる。単に、必要に応じて、放射金属シートの配置を変更することによる。
【0061】
これにより、上述したように、放射シールドおよび/または保護シールドおよび/または追加放射シールドをチャンバ壁に対して電気的に絶縁することができ、電子またはイオンの大幅減少ないしは電子またはイオンによる影響の実質的回避により、コーティングチャンバ内の自由な電荷キャリアによる追加の加熱が可能になる。
【0062】
実際には、コーティングチャンバ自体は、通常、二重壁構造のチャンバ壁を有しているので、通常は単に予熱された温度制御水、予熱されていない温度制御水、油等の温度制御流体を、コーティングチャンバ内を循環させることができる。
【0063】
これにより、チャンバ壁の内側も粗くすることができ、その粗面度は、例えばRa=1μm±0.2μm~10μm±2μmの範囲および/またはRz=10μm±2μm~100μm±20μmの範囲にある。これにより、εSch=1.0の黒体放射体の黒熱交換係数と比較して、内側は黒色コーティングを有することができ、チャンバ交換係数は0.1~1.0、特に0.2~0.8、特に好ましくは0.3~0.6、特に約0.4の範囲内である。
【0064】
また、チャンバ壁の内側は、放射金属シートに類似したチャンバコーティングを有することができ、このチャンバコーティングは、特にPVD、特にAlTiN、好ましくはAl66Ti33Nおよび/またはAlCrN、特にAl66Cr33Nによって被覆されたコーティングおよび/または好適なDLCコーティング、特にa-C:H、a-C:H、a-C:H:Meコーティングであって、当該コーティングは、好ましくは光学的に密な被着コーティングであること、および/または100nm~数1000nm、特に300nm~800nm、特に好ましくは少なくとも500nmのコーティング厚さを有する。
【0065】
本発明の更なる目的は、本発明に係るコーティングチャンバのための熱シールドであり、この熱シールドは、特に後付け部品であり、それにより、既存のコーティングチャンバを、上述した本発明に係る熱シールドにより改装することができる。
【0066】
更に、本発明は、前記した発明に係る熱シールドおよびコーティングチャンバを用いるコーティングプロセスにも関し、このコーティングプロセスは、PDVプロセス、特にマグネトロンスパッタリングおよび/またはHIPIMSであるか、プラズマアシストCVDプロセスであるか、陰極もしくは陽極真空アーク蒸着プロセスであるか、これらの方式の組み合わせに係るプロセスであるか、他の真空アシストコーティングプロセスであって、使用されるコーティングプロセスまたは適用されるコーティングに応じて、最適に構成された熱シールドが選択、使用されて、最適なコーティング温度が設定される。
【0067】
特に、コーティングプロセスは、低温コーティングプロセスとすることができ、コーティングチャンバは、温度制御流体、特に10℃~30℃の水または油により温度制御される。または、本発明に係るコーティングプロセスは、高温コーティングプロセスか、NTBプロセスとHTBプロセスとの間の温度範囲で行われるコーティングプロセスであってもよく、それによってコーティングチャンバは、30℃~80℃の、好ましくは40℃~60℃の、特に水または油のような温度制御流体によって温度制御される。
【0068】
以下、本発明を、模式図を参照して、更に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0069】
図1】本発明に係るコーティングチャンバを概略的に示す図である。
図2】放射シールドを1つだけ有するコーティングチャンバを示す図である。
図3】放射シールド、保護シールド、および追加の放射シールドを備えた、HTB運転用のコーティングチャンバを示す図である。
図4】本発明に係る真空チャンバを構成する基本的要素の配置状況を模式的に示す図である。
図5】処理する基板の温度の経過であり、各基板は、従来技術に係る真空チャンバ内で(破線)、および本発明に係る真空チャンバ内で(実線)処理されたものである。
【発明を実施するための形態】
【0070】
図1は、本発明に係るコーティングチャンバの第1の簡単な実施形態例を模式的に示すものであり、このコーティングチャンバを用いることで、例えば高温コーティングプロセスを格別有利に行うことができる。
【0071】
図1によれば、真空アシストコーティングプロセスを実施するための本発明に係るコーティングチャンバ1が、コーティングチャンバの温度を制御可能なチャンバ壁2上に配置された熱シールド3、31、32、33を備えており、熱シールド3、31、32、33と温度制御可能なチャンバ壁2との間の熱交換量が、事前決定可能に調整されるようになっている。本発明によれば、熱シールド3、31、32、33は、チャンバ壁2の内側21に近接して配置される交換可能な放射シールド31を含んでおり、この放射シールド31の第1放射面311は、チャンバ壁2の方向に向けられており、第1事前決定可能熱交換係数εD1を有している。他方、放射シールド31の第2放射面312は、チャンバ壁2から遠ざかる方向に向けられており、第2事前決定可能熱交換係数εD2を有している。そして、第1の熱交換係数εD1は、第2の熱交換係数εD2よりも高く設定されている。発明内容を簡潔明瞭ならしめるため、図1に示される放射シールド32は、詳細には描写していない。放射シールド31の具体的な構造は、図2aおよび図3の各々に示した放射シールド31の具体的な構造と本質的には同一であるので、放射シールド31の具体的な構造については、図2aまたは図3を参照することができる。
【0072】
コーティングチャンバ1は、当技術分野では公知の態様で、動作中、例えば、コーティングチャンバ1内の回転部品ホルダ上に載置される被コーティング部品を予熱するためのヒータと、図示は省略するも、従来技術において種々の形態のものが提供されているコーティング用のプラズマ源7とを、当技術分野では公知の態様で備えている。尚、例えば、ヒータ、プラズマ源、被コーティング部品用の部品ホルダ等は、本発明の内容を理解する上で、格別に重要な意味を持つものではない。
【0073】
チャンバ壁に直接隣接する放射シールド31と、放射シールドと保護シールド32との間の保護シールド32との間には、複数の追加放射シールド33が設けられている。
【0074】
コーティングチャンバ1自体は、二重壁構造のチャンバ壁2を有しているので、温度制御用流体5(ここでは水)を二重壁チャンバ壁2の内部を循環させることで、温度制御作用を行わせることが可能となっている。
【0075】
チャンバ壁2の内側21は、単に粗くブラスト処理がなされ、且つ/またはチャンバコーティング20が施されている。チャンバコーティング20は、例えばAlTiNコーティングや、AlCrコーティングや、好ましいNDLCコーティングのような、PVDにより堆積され、またチャンバコーティング20は、光学的に密に堆積されたコーティングであり、100nmから数1000nmまでのコーティング厚さを有する。
【0076】
図2aは、NTB運転のための、放射シールド31をただ1つしか有しない特殊コーティングチャンバを示す。従って熱シールド3は、約250℃の最高温度までの範囲の低温コーティングプロセスで使用するために、第1の放射面311上にのみコーティングされた一枚の放射シールド31からなる。
【0077】
第1の事前決定可能熱交換係数εD1および第2の事前決定可能熱交換係数εD2を調整するために、第1の放射面311および第2の放射面312は粗く、夫々の粗さは、Ra=1μm±0.2μm~10μm±2μm、およびRz=10μm±2μm~100μm±20μmである。
【0078】
更に、第1の放射面311には、表面コーティング30が設けられており、その第1の事前決定可能熱交換係数εD1は0.7~0.9となっており、εSch=1.0である黒体放射体の黒熱交換係数εSchと比較して高い。
【0079】
表面コーティング30は、PVD、特にAlTiNやAlCrNのようなPVD、または特にaC、aC:H、X、aC:H:Meコーティングのような適切なDLCコーティング被膜されたものであって、これにより、このコーティングは、光学的に密な被膜コーティングとなっており、数100nm~数1000nm、例えば500nmのコーティング厚さを有する。
【0080】
放射シールド31は、組立領域において、チャンバ壁2のところにシールドホルダ4によってシールドホルダ4の保持デバイス41に固定され、これにより、放熱金属シートたる放射シールド31は、 溝として構成された保持デバイス41にクランプされるので、放射シールド31の交換を容易かつ迅速に行うことができる。
【0081】
最後に、図3においては、放射シールド(radiating shield)31と、保護シールド32と、輻射シールド(radiation shield)とを備えたコーティングチャンバ1の特別な実施形態が示される。この構成は、高温動作に特に適している。
【0082】
本発明の更なる実施形態においては、真空チャンバおよびコーティングシステムに特別な配置を施して熱放散を高めるようにしている。
【0083】
従来のコーティングシステムは、通常、予め決定可能なコーティング温度がコーティングチャンバ内または受熱側においてそれぞれ実現され、維持され得るように設計される。コーティングチャンバの内部表面は、しばしば、光沢のあるまたはブラストされたステンレス鋼またはアルミニウムで作られる。コーティングチャンバの内壁は、コーティングプロセスの実行中、望ましくないコーティングがなされる可能性があるので、通常は、シールドを使用することで、内壁上により厚いコーティングの堆積を回避している。とりわけ、このようなシールドは、いくつかのコーティングプロセスを連続してメンテナンスすることなく実行する必要がある場合に非常に有益ではあるが、その結果、いくつかのコーティングの被覆が重畳し、コーティング中およびコーティング後にフレーク化が起こる。このようなシールドはまた、しばしば光沢のあるステンレス鋼またはブラストされたステンレス鋼またはアルミニウムで作られている。この設計は、通常、対象物全体に、すなわち、外側表面、上面および底面に沿って、被覆される。
【0084】
コーティング源、加熱要素および冷却要素は、通常、コーティングチャンバ内に、個々的に分散配置されるが、当該配置にあたっては、チャンバの内面の一部分やチャンバの内部壁面の一部分は、これらのコーティング源、加熱要素および/または冷却要素に占有されない、自由な状態を維持されるようになっている。その結果、これら「何も設置されていない自由」表面は、熱除去要素として、すなわち冷却要素と同様の機能を発揮する。
【0085】
通常、例えば加熱およびコーティング源による熱供給と、コーティングチャンバの外表面を介しての熱の除去との間の関係は、コーティング温度に関してシステムの動作点を調整するとき、特に、上面と底面とが熱的に遮断されているときに重要な意味を持つ。上面と底面とが熱的に遮断されていると、仮に、例えばヒータの作動を温度制御なしで行った場合であっても、コーティングの高さ全体にわたって温度が均一に分布することになる。
【0086】
コーティングプロセスを開始する前には、決定された温度、すなわちコーティングが施されるべき基板表面の温度は、当該温度にまで達していなければならない。加熱要素は、熱供給のためにチャンバ壁面に配置されることが多く、少なくともコーティングプロセスが開始されるまでには、これらの過熱要素が設置された表面から基板に向けて放熱がなされねばならない。
【0087】
コーティングプロセス開始後およびコーティングプロセス実行中、コーティング源を操作することにより追加の熱が生成されるが、この熱は、多数のアーク蒸発源を高アーク電流で動作させるときに特に高くなる。
【0088】
コーティングシステム内の基板が特定のコーティングでコーティングされるが、コーティング速度を増加させることを意図する場合、これは例えば、コーティング源の数を増加させることにより実現される。しかしこの場合、その分コーティングチャンバへの熱供給の増加が予見されなければならず、その結果、この熱供給の増加分だけの熱の除去量の調整すなわち増加がなければ、コーティング温度があからさまに上昇することになる。この問題は、アーク蒸発源を使用するときに特に深刻な問題となる。
【0089】
本発明の更なる目的は、コーティング温度が熱供給量の増加により無制御に上昇することなく所望の動作点に維持できるように、コーティングチャンバ内の熱除去の制御を可能にする解決手段を提供することである。
【0090】
本発明の上記事項を更に深く理解するために、図4および図5を参照する。ここで、
図4は、本発明に係る真空チャンバを構成する基本的要素の配置状況を模式的に示す図であり、
図5は、処理する基板の温度の経過であり、各基板は、従来技術に係る真空チャンバ内で(破線)、および本発明に係る真空チャンバ内で(実線)それぞれ処理されている。
【0091】
本発明は基本的に、基板を処理するための真空チャンバであって、
少なくとも1つの基板100を処理することができる真空チャンバの処理領域への熱供給のための熱供給要素と、
内部チャンバ壁側と外部チャンバ壁側とを有するチャンバ壁200であって、該チャンバ壁200を通して熱が前記処理領域から除去可能であるチャンバ壁200と、
前記チャンバ壁200と前記処理領域との間に配置されたシールド壁300であって、前記処理領域に背いたシールド壁側が前記内部チャンバ壁側に対向して位置するように配置されたシールド壁300と
を少なくとも有する真空チャンバにおいて、
前記内側チャンバ壁側に対向して位置する前記シールド壁側は、少なくとも部分的に、好ましくは大部分に第1のコーティング310を施されており、前記第1のコーティング3が、放出係数ε≧0.65を有することを特徴とする、真空チャンバ
を開示する。
【0092】
本発明の好ましい実施形態によれば、チャンバ内壁側もまた、少なくとも部分的に、好ましくは大部分に亘って、放出係数ε≧0.65を有する第2のコーティング210で被覆される。
【0093】
本発明のさらに好ましい実施形態によれば、チャンバ壁200は、一体型冷却システム150を有する。
【0094】
第1のコーティング310の放出係数は、好ましくは0.80以上であり、より好ましくは0.90以上である。
【0095】
第2のコーティング210の放出係数もまた、好ましくは0.80以上であり、より好ましきは0.90以上である。
【0096】
総じて、本発明者らは、ε≧0.8の場合、特にε≧0.9の場合に、除去される熱量の増加が顕著に見られるという知見に達した。更に好ましいのは、εが1に近づくことである。
【0097】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、第1のコーティング310および/または第2のコーティング210は、少なくとも部分的にPVDプロセスおよび/またはPACVDプロセス(PVD:物理蒸着; PACVD:プラズマアシスト化学蒸着)により堆積(蒸着)される。
【0098】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、第1のコーティング310および/または第2のコーティング210は、アルミニウムおよび/またはチタンを有する。
【0099】
また、第1のコーティング310および/または第2のコーティング210は、窒素および/または酸素を有することが好ましい。
【0100】
本発明者らはまた、コーティングがチタンアルミニウムニトリドもしくはアルミニウムチタンナイトライドを有すること、またはコーティングがチタンアルミニウムナイトライドもしくはアルミニウムチタンナイトライドから形成されることが、本発明の文脈において、第1のコーティング310および/または第2のコーティング210として非常に適しているという知見に達した。
【0101】
また、酸化アルミニウムを有するまたは酸化アルミニウムからなるコーティングは、本発明の文脈において、第1のコーティング310および/または第2のコーティング210として好適である。
【0102】
本発明はまた、上述したような本発明に係る真空チャンバを備えるコーティングシステムを開示する。
【0103】
本発明によるコーティングシステムの好ましい実施形態によれば、コーティングチャンバは、PVDコーティングチャンバとして確立される。
【0104】
PVDコーティングチャンバ内でPVDコーティングプロセスを実行する間、内部チャンバ壁側のコーティングを低減または回避するためにシールド壁300が設けられることが好ましい。
【0105】
PVDコーティングチャンバの上面および底面の両方が、好適には断熱され、それにより、コーティング高さにわたって(それぞれ処理領域の高さ全体にわたって)より均質な温度分布が実現される。
【0106】
1つまたは複数のチャンバ壁200が、それぞれ、コーティング要素、プラズマ処理要素または加熱要素などの機能的要素を備えていないことが好ましい。
【0107】
必要に応じて、好ましくはこのような機能要素が配置されていないすべてのチャンバ壁200に、内側チャンバ壁側に第2のコーティング210を設けるとともに、本発明に係る第1のコーティング310を備えたシールド壁300を設けることができる。
【0108】
更に、これらのチャンバ壁200の全てに、一体化された冷却システム150を設けることにより、熱の除去を更に効果的に行うことができる。
【0109】
既に上述したように、図2は、同一の真空チャンバ内での基板の温度変化を示し、上述した本発明に係るシールド壁300およびチャンバ壁200には、本発明に係る第1のコーティング310および第2のコーティング210が夫々設けられており(実線)、および従来技術の例で使用される同一の真空チャンバにおいては、第1のコーティング310および第2のコーティング210は設けられていない(破線)。尚、いずれの例においても、コーティングチャンバへ供給される熱量は同一であった。
【0110】
上述した本発明に係る実施形態では、第1のコーティング310および第2のコーティング210として、PVD蒸着された、放熱係数εが約0.9の、チタンアルミニウム窒化物コーティングが使用されている。
【0111】
本発明の好ましい実施形態によれば、全ての内側シールドされたチャンバ壁の内側の少なくとも大部分は、対応する第2のコーティング210によりコーティングされ、チャンバ壁に対向するすべてのシールド壁の側の少なくとも大部分は、対応する第1のコーティング310によりコーティングされる。
【0112】
本発明によれば、コーティング210およびコーティング310の材料は真空環境下にて使用に耐え得るものでなければならない。また、これらの材料は、コーティング中の誤動作を避けるために、磁性体であってはならないこともまた重要な事項である。
【0113】
コーティング210および/または310は、好適には、以下の特性のうち少なくとも1つを備える。
- コーティング厚さが50μmを超えない。
- 緻密なコーティング構造であり、したがってコーティングを通してガス抜けがない。
- キャリア材料に対する良好な接着性を持ち、良好な熱伝達を確実にする。
- 高温において安定性を持ち、好ましくは少なくとも600℃までの高温でのコーティングプロセスを可能にする。
- 良好な耐摩耗性を有し、それによりコーティングが「苛酷な製造環境」においても急速に消失しない。
【0114】
コーティング210および/または310は、例えば、これらが同一のコーティングチャンバにおける対応するチャンバ壁側およびシールド壁側に被覆されるように、PVD法により被覆されることが好ましい。この場合、コーティングプロセスにおいては、チャンバ内壁に、当初、シールド壁なしにコーティング210を形成することができる。しかしながら、その後、コーティングチャンバ内の反対側にシールド壁を設けることで、後で内側チャンバ壁と対向することになる所望のシールド壁側に、コーティング310を形成することができる。本発明に係るコーティングチャンバを用いて当該コーティングシステムを数回動作させるには、コーティング210および310をたった一回施すだけで十分である。
【0115】
本発明に係るコーティングチャンバ内で基板をコーティングするためのPVDコーティングプロセスを実施するためにシールド壁が配置され、これにより、コーティングシステム内に望ましくないコーティングが施されるのを最小限に留めるか回避をして、延いては内側のチャンバ壁自体またはチャンバ壁の内側を保護するようになっている。このようにして、基本的には、コーティング310のないシールド壁側のみが、基板をコーティングしている間にコーティングされる。施されたコーティング310および施されたコーティング210は、各コーティングプロセスが終了した後であっても無傷のままである。
【0116】
言うまでもないが、本明細書に記載された実施形態は、単なる例示に過ぎないものであって、保護されるべき範囲は明示的に記載された実施形態に限定されるものではないものと理解されるべきものである。特に、実施形態を適宜組み合わせることも、保護されるべき本発明の範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5