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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-22
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】3次元細胞培養のための成長培地
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/00 20060101AFI20220203BHJP
【FI】
C12N5/00
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2017557950
(86)(22)【出願日】2016-05-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-06-14
(86)【国際出願番号】 US2016031385
(87)【国際公開番号】W WO2016182969
(87)【国際公開日】2016-11-17
【審査請求日】2019-03-18
(31)【優先権主張番号】62/159,137
(32)【優先日】2015-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/304,084
(32)【優先日】2016-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507371168
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ フロリダ リサーチ ファンデーション インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】ソーヤー、 ウォーレス グレゴリー
(72)【発明者】
【氏名】アンジェリーニ、 トーマス エター
(72)【発明者】
【氏名】ギビツァーニ、 スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】バッタチャヤ、 タポモイ
(72)【発明者】
【氏名】パーマー、 グリン
【審査官】中野 あい
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/049204(WO,A1)
【文献】特開2014-207886(JP,A)
【文献】国際公開第2012/155110(WO,A1)
【文献】特表2013-541956(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のヒドロゲル粒子と;
液体細胞培養培地
とを含み、前記ヒドロゲル粒子は、カルボマーポリマーを含んで液体細胞培養培地で膨潤して充填された顆粒状ゲルを形成する、3次元細胞成長培地であって、
前記3次元細胞成長培地は100パスカル未満の降伏応力を有するHerschel-Bulkley材料であり、
前記3次元細胞成長培地は、その降伏応力を超える剪断応力の適用により第1の固体相から第2の液体相に相変化するような降伏応力を有する、
3次元細胞成長培地。
【請求項2】
降伏応力が10Paのオーダーである、請求項1に記載の3次元細胞成長培地。
【請求項3】
ヒドロゲル粒子の濃度が0.05重量%から1.0重量%の間である、請求項1または2に記載の3次元細胞成長培地。
【請求項4】
ヒドロゲル粒子が、液体細胞培養培地で膨潤したときに、0.1μmから100μmの範囲内のサイズを有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の3次元細胞成長培地。
【請求項5】
ヒドロゲル粒子が、液体細胞培養培地で膨潤したときに、1μmから10μmの範囲内のサイズを有する、請求項4に記載の3次元細胞成長培地。
【請求項6】
3次元細胞成長培地の領域に配置された複数の細胞と組み合わされた、請求項1~5のいずれか一項に記載の3次元細胞成長培地。
【請求項7】
複数の細胞が、スフェロイド、胚様体、腫瘍、または嚢胞の少なくとも1つとして配置されている、請求項6に記載の3次元細胞成長培地。
【請求項8】
顆粒状ゲル粒子中に、かつ顆粒状ゲル全体に拡散した分子をさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の3次元細胞成長培地。
【請求項9】
前記分子が低分子またはタンパク質を含む、請求項8に記載の3次元細胞成長培地。
【請求項10】
前記分子が低分子であり;かつ
前記低分子が栄養素または溶解した気体を含む、請求項9に記載の3次元細胞成長培地。
【請求項11】
カルボマーポリマーを含むヒドロゲル粒子を液体細胞培養培地と混合して顆粒状ゲルを形成させるステップと;
混入した気泡を顆粒状ゲルから除去するステップ
とを含む、3次元細胞成長培地を製作する方法であって、
前記3次元細胞成長培地は100パスカル未満の降伏応力を有するHerschel-Bulkley材料であり、
前記3次元細胞成長培地は、その降伏応力を超える剪断応力の適用により第1の固体相から第2の液体相に相変化するような降伏応力を有する、
方法。
【請求項12】
顆粒状ゲルのpHを調節することをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
pHを調節することが、塩基および酸の少なくともいずれか1つを添加することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
pHを調節することが、pHが7.2から7.6の範囲内になるような量の酸を添加することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ヒドロゲル粒子の濃度を調節することにより、3次元細胞成長培地の降伏応力を調節することをさらに含む、請求項11~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
液体細胞培養培地で膨潤した複数のヒドロゲル粒子を含む顆粒状ゲルを用いて、一定のパターンに細胞を配置することを含む、細胞を3次元細胞成長培地に配置する方法であって、前記ヒドロゲル粒子はカルボマーポリマーを含み、
前記3次元細胞成長培地は100パスカル未満の降伏応力を有するHerschel-Bulkley材料であり、
前記3次元細胞成長培地は、その降伏応力を超える剪断応力の適用により第1の固体相から第2の液体相に相変化するような降伏応力を有する、
方法。
【請求項17】
細胞を配置することが、細胞を、3次元細胞成長培地内に所定の幾何学的構造で配置することを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記所定の幾何学的構造が、スフェロイド、胚様体、腫瘍、または嚢胞の少なくとも1つである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
ヒドロゲル粒子が10Pa+/-25%の降伏応力を有する、請求項16~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記パターンが、顆粒状ゲルによって包囲された少なくとも1つの領域を含むことにより、前記領域において成長する細胞が、顆粒状ゲルの降伏応力未満の圧力を受けるようにする、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、米国特許法第119条(e)に基づいて、2015年5月8日出願の「3次元細胞培養のための成長培地」と題する米国特許仮出願第62/159137号、および2016年3月4日出願の「充填された顆粒状ヒドロゲルから作製された3次元細胞培養のための成長培地」と題する米国特許仮出願第62/304084号(これらの各々は、その全体で参照により本明細書に組み込まれる)の利益を主張する。
【0002】
(政府の支援)
本願に記載される研究は、アメリカ国立科学財団により、交付番号DMR-1352043で支援された。米国政府は本発明に対して一定の権利を有する。
【0003】
開示された実施形態は、3次元細胞培養のための成長培地に関する。
【背景技術】
【0004】
従来の細胞培養技法は、2次元の(2D)基材、例えば、ミクロウェルプレートまたはペトリ皿などの上に成長する細胞を含む。そのような2D細胞培養は、しばしば、細胞成長を促進するために、基材上に配置された成長培地を含む。しかしながら、従来の細胞培養の2D環境は、in vivoで細胞が経験する3次元(3D)環境のためには、しばしば不満足な代用である。例えば、細胞の挙動は、しばしば、細胞周囲の微小環境に高度に依存する。2D細胞培養では、細胞周囲の微小環境は、細胞が3Dの微小環境で経験するものと異なることもある。
【0005】
3D細胞培養のために、ハンギングドロッププレート(hanging drop plate)、磁性浮揚、または生体材料足場の使用を含む数通りの技法が開発されてきた。しかしながら、これらの技法は、通常、費用がかかり、および/または時間を消費して、成長および/または試験され得る組織が、特別の構造または幾何学的形状に限定されることもある。
【発明の概要】
【0006】
幾つかの実施形態において、3次元細胞成長培地は、複数のヒドロゲル粒子および液体細胞培養培地を含む。ヒドロゲル粒子は、液体細胞培養培地で膨潤して顆粒状ゲルを形成する。
【0007】
幾つかの実施形態において、3次元細胞成長培地を調製する方法は、ヒドロゲル粒子を液体の細胞成長培地と混合して顆粒状ゲルを形成させることを含む。混入した気泡は顆粒状ゲルから除去される。
【0008】
幾つかの実施形態において、3次元細胞成長培地の物理的性質は、細胞の空間的位置が構造的支持を必要とせずに維持され得るように、3D流体体積中における個々の細胞を所定のように置くことを可能にするように調整することができる。したがって、実施形態は、細胞培養および培養された細胞を使用するアッセイに関することもある。
【0009】
本開示はこの関係に限定されないので、前述の構想、および下記に論ずる追加の構想も、任意の適当な組合せで手配され得ることが理解されるべきである。さらに、本開示の他の利点および新規な特徴は、添付図と合わせて考慮されれば、限定するものではない種々の実施形態の以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
添付図面は、スケールに合わせて描かれることは意図されていない。図面では、種々の図に例示されている各同一のまたは殆ど同一の成分が、同様な数字により表されていることがある。明瞭にする目的で付言すると、全ての成分が全ての図面で明示されているとは限らない。
【0011】
図1図1は、細胞を3D細胞成長培地中に配置するための装置の1実施形態の模式的描写である。
【0012】
図2図2(a)は3D細胞成長培地中の複雑な通路に沿って材料を入れるインジェクターの1実施形態例示する図であり、図2(b)はヒドロゲル粒子間を通して移動するインジェクターの尖端を例示する図であり、および図2(c)は軟質顆粒状ゲルの応力-歪み応答を例示する図である。
【0013】
図3図3は、細胞を3D細胞成長培地に配置する方法の1実施形態のフローチャートである。
【0014】
図4A-4D】図4A~4Dは、複数の細胞を含む3D細胞成長培地の実施形態の模式的描写である。
【0015】
図5図5は、3D細胞成長培地を調製する方法の1実施形態のフローチャートである。
【0016】
図6a-6f】図6a~6fは、3D培養培地として使用される液体様固体(LLS)の典型的実施形態を例示するスケッチである。図6aでは、低濃度のミクロゲルが充填されて液体様固体を形成し、内訳1、2、3は分割が減少する培養培地の部分を示す。
【0017】
図6bは、3D培養培地が、細胞集成体が創り出されること(a)または分離された細胞が有意の制限なく分散することを可能にすることを例示する図である。ミクロゲルの大きいメッシュサイズは、図6Cに例示したように、この培地を、栄養素、廃棄物、および分子試薬、例えば、薬剤、色素など、およびタンパク質に対して高度に透過性にする。図6dに示したように、非常に低いレベルの弾性応力が経時的な細胞集成体の膨張に抵抗して、1、2および3の時に細胞集成体の変化を示す。この膨張は、図6e、fにより例示されるように、細胞増殖または細胞移動、すなわち、単一の細胞が、液体様固体で同様にうまく働くことができるプロセスによって推進され得る。
【0018】
図7a-b】図7aおよび7bは、典型的液体様固体培地のレオロジーのキャラクタリゼーションを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者らは、3D細胞成長培地が、本明細書に記載された材料および方法を使用して供給され得ることを理解し且つ認識した。本発明者らは、本明細書に記載された材料を使用して3D成長培地を創出することが、典型的な2D細胞培養技法と比較して複雑なin vivoの成長環境をより正確に模倣する細胞成長環境を可能にすることができることを理解し且つ認識した。例えば、本明細書に記載された3D培養で細胞を培養することは、細胞-細胞の相互作用および細胞の分化を含む生物学的プロセスの誘発を容易にすることができる。それにも拘わらず、これらの技法は、急速なおよび/または高い処理能力の試験を可能にし得る細胞群の容易な配置および/または回収を可能にすることができる。そのような試験は、新しい薬剤の開発の一部としての前臨床動物試験の必要性を減少または排除することもできる。例えば、癌細胞を癌性腫瘍における動的環境を模倣する構造で成長させることを可能にすることもできる。薬剤をそのような腫瘍に適用することもできて、その結果、そのような薬剤の効力の指示を、従来のin vitroの試験技法を使用するよりも信頼性のある様式で得ることができる。
【0020】
それに加えて、本発明者らは、本明細書に記載された3D細胞成長培地は、スフェロイド、胚様体、腫瘍、嚢胞、および微小組織を含むが、これらに限定されない成長する多様な細胞の構造を可能にすること、および細胞を搭載する操作された組織構築物の構造を保存することに使用され得ることを理解し且つ認識した。
【0021】
本発明者らは、液体様固体(LLS)が、3次元培養中における生きている細胞を維持するための支持材料の設計のために活用できる輸送、弾性、および降伏の性質の組合せを提供する性質を有することをさらに理解し且つ認識した。これらの材料は、主に自由に拡散してそれらの体積の99%超を占めることができる溶媒で主として構成され得るが、それらは、それらの固体状態でも有限のモジュラスおよび極端に低い降伏応力を有する。降伏すると、これらの材料は剪断されて典型的な流体のようにふるまう。充填された顆粒状ミクロゲルは、繊細な材料の精密な3次元製作のための堅牢な培地として最近採用された液体様固体のクラスである。栄養素、低分子、およびタンパク質の制限されない拡散は、細胞の代謝の必要性を支持して、コンビナトリアルスクリーニング法の開発への容易な経路を提供することができる。かき乱されないLLS材料は、細胞および細胞集成体に対する支持および安定性を提供して、精密な多細胞構造の開発および維持を容易にすることができる。
【0022】
調整可能な降伏応力は、個々の細胞および細胞集成体の移動、成長、および膨張を許容しながら、機械的応力の長期の高まりを防止する乗り越え可能な物理的障壁を提供することができる。この培養培地の穏やかな降伏および急速な固化挙動は、細胞および細胞集成体の培地内における奥行きのある制限のない配置および回収を可能にする。流動化された状態と固体状態の間を優美に且つ繰り返し移動する材料の能力は、目標とされたアッセイのための空間における特定の位置から選択された細胞群を捕集することを容易にする。細胞および細胞集成体を3Dで精密におよび制御できるように位置させて維持することは、新しい高処理量のスクリーニング方法および個人別の治療計画が、既存のインフラストラクチュアで且つ高価なまたは煩雑な計装なしで開発されることを可能にする。
【0023】
幾つかの実施形態において、3D細胞成長培地は、液体細胞成長培地中に分散されたヒドロゲル粒子を含むことができる。本発明者らは、任意の適当な液体細胞成長培地を使用することができること;特定の液体細胞成長培地を、3D細胞成長培地内に入れるべき細胞のタイプに応じて選択することができることを理解し且つ認識した。適当な細胞成長培地は、ヒトの細胞成長培地、マウスの細胞成長培地、ウシの細胞成長培地または任意の他の適当な細胞成長培地であってもよい。特定の実施形態に応じて、ヒドロゲル粒子と液体細胞成長培地とを任意の適当な組合せで組み合わせてもよい。例えば、幾つかの実施形態において、3D細胞成長培地は、約0.5重量%から1重量%のヒドロゲル粒子を含む。
【0024】
幾つかの実施形態によれば、ヒドロゲル粒子は、生体適合性ポリマーから作製することもできる。
【0025】
ヒドロゲル粒子は、液体成長培地で膨潤して顆粒状ゲル材料を形成することができる。特定の実施形態に依存して、膨潤したヒドロゲル粒子は、ミクロンまたはサブミクロン規模で特徴的なサイズを有することもできる。例えば、幾つかの実施形態において、膨潤したヒドロゲル粒子は、約0.1μmと100μmの間のサイズを有することができる。さらに、3D細胞成長培地は、機械的性質の任意の適当な組合せを有することもできて、幾つかの実施形態では、機械的性質を、ヒドロゲル粒子および液体細胞成長培地の相対濃度により調整することができる。例えば、ヒドロゲル粒子のより高い濃度は、より高い弾性モジュラスおよび/またはより高い降伏応力を有する3D成長培地を生じることができる。
【0026】
本発明者らは、そのような調整可能性は、3D細胞成長培地に入れられた細胞群の周囲の環境を制御するために有利であり得ることを理解し且つ認識した。例えば、3D細胞成長培地は、in vivoで見出されるのと同様であるように調整された機械的性質を有することができて、その結果、細胞3D成長培地は、細胞の天然環境に匹敵し得る。しかしながら、本開示はそのように限定されていないので、3D細胞成長培地の機械的性質は、in vivoで見出されるのと同様でなくてもよく、または任意の適当な値に調整されてもよいことが理解されるべきである。
【0027】
幾つかの実施形態によれば、3D細胞成長培地は、顆粒状ゲル材料が、適用された応力に基づいて一時的相変化を経るような材料から作製することもできる(例えば揺変性のまたは「降伏応力」材料)。そのような材料は、固体であってもまたはそれらの降伏応力未満のレベルで適用された応力下でそれらの形状を保持する何か他の相であってもよい。降伏応力を超えて適用された応力で、これらの材料は、流体になることも、またはそれらがそれらの形状を変化させることができる何か他のより順応性のある相になることもできる。適用された応力が除去されたときに、降伏応力材料は再び固体になることができる。応力は、そのような材料に任意の適当なやり方で適用されてもよい。例えば、エネルギーを、そのような材料に、相変化を起こすように加えることもできる。エネルギーは、機械的、電気的、放射線の、または光子の、その他を含む任意の適当な形態であってもよい。
【0028】
本発明者らは、上で記載したように降伏応力材料から作製された3D細胞成長培地を提供することは、3D成長培地内の任意の所望の位置における群の細胞の容易な配置および/または回収を可能にすることができることを理解し且つ認識した。例えば、細胞の配置は、細胞が注入されたときにまたは他の方法で所望の位置に置かれるときに、降伏応力材料が流動して別の所へ移されるように、降伏応力材料の領域における所望の位置で固体に液体相への変化を起こさせることにより達成することができる。注入後、降伏応力材料は、置かれた細胞の周囲で固化することができて、それ故細胞を所望の位置で捕捉する。
【0029】
しかしながら、任意の適当な技法が、細胞または他の生物学的材料を、3D成長培地内に置くことに使用され得ることが認識されるべきである。例えば、注射器、ピペットまたは他の適当な器具を使用して、細胞を、3D成長培地中の1箇所または2箇所以上の位置に注入することもできる。幾つかの実施形態においては、注入された細胞を、遠心分離などによりペレットとして成形することもできる。しかしながら、本明細書に記載される3D成長培地は、液体中に懸濁された細胞の注入を可能にして、それは試験を実施するときに遠心分離ステップを避けることができることが認識されるべきである。
【0030】
どのようにして細胞が培地に入れられるかに関わらず、降伏応力材料の降伏応力は、3D成長培地内における細胞の位置が経時的に実質的に一定にとどまることができるように、細胞によってかけられる重力および/または拡散力に基づく降伏を防止するために十分大きいことも可能である。細胞は位置に固定されるので、それらは、アッセイするかまたは試験するために、後刻、降伏応力材料における相変化を起こさせて細胞を取り出すことにより、同じ位置から回収することができる。下記にさらに詳細に説明するように、細胞群の配置および/または回収は、用手でもまたは自動的にも行うことができる。
【0031】
本明細書に記載される降伏応力材料は、任意の適当な機械的性質を有することができる。例えば、幾つかの実施形態において、降伏応力材料は、該材料が降伏応力未満のレベルで適用された応力下でその形状を保持する固体相または他の相にあるときに、約1Paと1000Paの間の弾性モジュラスを有することができる。幾つかの実施形態において、降伏応力材料を流体様の相に変換させるために必要な降伏応力は、約1Paと1000Paの間であってもよい。幾つかの実施形態において、降伏応力は、10Paのオーダー、例えば10Pa+/-25%などであってもよい。流体様相に変換されたときに、降伏応力材料は、約1Pa・sと10,000Pa・sの間の粘度を有することもできる。しかしながら、降伏応力材料の弾性モジュラス、降伏応力、および/または粘度についての他の値も、本開示はそのように限定されないので、可能であることが理解されるべきである。
【0032】
幾つかの実施形態において、降伏応力は、上に記載されたようにin vivoで細胞群により経験される圧縮応力と釣り合うように調整することができる。いかなる特定の理論によっても拘束されることは望まず、明確に定義された応力値で降伏する降伏応力材料は、細胞群の不確定のおよび/または無制限の成長または膨張を可能にすることができる。特に、細胞群は成長するにつれて、それは周囲の降伏応力材料に静水学的圧力をかけることができる。この静水学的応力は、降伏応力材料の降伏を起こさせるために十分であり、それにより細胞群の膨張を可能にすることができる。そのような実施形態では、細胞群の成長中の降伏応力材料の屈伸性は、成長中に細胞群に対する一定の圧力を維持する降伏応力材料を生じることができる。それに加えて、降伏応力材料は適用された応力が降伏応力を超えたときに降伏することになるので、降伏応力材料から作製された3D成長培地は、降伏応力を超える応力を細胞群に適用することができないこともある。本発明者らは、細胞群に適用される応力におけるそのような上界は、細胞が異常に圧迫され、損傷されるかまたは別なふうに大きい圧縮応力の適用に基づいて変化させられることのないことを確実にするのに役立ち得ることを理解し且つ認識した。
【0033】
幾つかの実施形態によれば、降伏応力材料から作製された3D成長培地は、降伏して、3D成長培地内に配置された細胞群からの流体または他の細胞外材料などの排出物を収容することができる。いかなる特定の理論によっても拘束されることは望まず、細胞群からの流体または他の材料の排出は、細胞外の場所における圧力の上昇を生じ得る。圧力が3D成長培地の降伏応力を超えるならば、3D成長培地は降伏して排出物を収容することができて、細胞群は流体または他の材料を制限なく排出することができる。細胞の排出を収容する3D成長培地のそのような能力は、3D成長培地がin vivo環境にさらに密に調和することを可能にし得る。それに加えて、本発明者らは、降伏応力材料から作製された3D成長培地は、下記にさらに詳細に説明するように、アッセイ、試験、または任意の他の適当な目的のために、細胞の排出物の容易な除去を可能にすることができることを理解し且つ認識した。
【0034】
細胞群は、降伏応力材料から作製された3D成長培地に任意の適当な方法によって入れられてもよい。例えば、幾つかの実施形態において、細胞は、3D成長培地内の特定の位置に、注入されるかまたは別なふうに注射器、ピペット、または他の適当な配置デバイスまたは注入デバイスを用いて入れることができる。幾つかの実施形態では、自動化された細胞分注器のアレイを、多数の細胞試料を3D成長培地のコンテナ中に注入するために使用することができる。3D成長培地を通る配置デバイスの尖端の動きは、十分量のエネルギーを尖端の周りの領域に与えて降伏を生じさせることができて、その結果、配置器具を3D成長培地内の任意の位置に容易に移動させることができる。幾つかの場合に、細胞群を3D成長培地内に置くために配置器具によって適用される圧力も、降伏を生じさせるのに十分であることができて、その結果、3D成長培地は流動して細胞群を収容する。配置器具の動きは、用手で(例えば「手によって」)実施されてもよく、または機械または任意の他の適当な機構により実施されてもよい。
【0035】
幾つかの実施形態では、多数の独立の細胞群を、3D細胞成長培地の単一の体積内に入れることもできる。例えば、3D細胞成長培地の体積は、少なくとも2群、少なくとも5群、少なくとも10群、少なくとも20群、少なくとも50群、少なくとも100群、少なくとも1000群、または任意の他の適当な数の独立の細胞群を収容するために十分大きいことが可能である。あるいは、3D細胞成長培地の体積は、1つの細胞群を有することができるだけであってもよい。さらに、細胞群は、任意の適当な数の細胞を含むことができること、および細胞は1種または複数の異なったタイプであってもよいことが理解されるべきである。
【0036】
特定の実施形態に応じて、細胞群を、任意の適当な形状、幾何学的配列、および/またはパターンに従って3D細胞成長培地内に入れることができる。例えば、独立の細胞群は、スフェロイドとして置くこともできて、スフェロイドは3D格子、または任意の他の適当な3Dパターンに配列されてもよい。独立のスフェロイドが、全ておよそ同じ数の細胞を含み、およそ同じサイズであってもよく、またはそうではなくて異なったスフェロイドが異なった数の細胞を含み、異なったサイズであってもよい。幾つかの実施形態において、細胞は、胚様体または器官様体、管、円筒、円錐曲線回転面、階層的に分岐した脈管網、高いアスペクト比の物体、薄い閉じたシェル、または組織、脈管または他の生物学的構造の幾何学的構造に対応し得る他の複雑な形状などの形状で配列されてもよい。
【0037】
幾つかの実施形態によれば、降伏応力材料から作製された3D細胞成長培地は、所望のパターンを3次元で形成するために、細胞の3Dプリントを可能にすることができる。例えば、コンピューターで制御されたインジェクターの尖端は、3D細胞成長培地内の空間的通路をなぞって、その通路に沿った位置に細胞を注入して所望の3Dパターンまたは形状を形成することができる。3D細胞成長培地を通るインジェクター尖端の動きは、十分な機械的エネルギーを与えてインジェクター尖端の周りの領域で降伏を起こさせて、インジェクター尖端が3D細胞成長培地を通して容易に移動することを可能にし、細胞の注入にも適応させることができる。注入後、3D細胞成長培地は、固体様相に逆変換され、プリントされた細胞を支持して、プリントされた幾何学的構造を維持することができる。しかしながら、3Dプリント技法は、本明細書に記載される3D成長培地を使用するために必要とされるものではないことは理解されるべきである。
【0038】
本発明者らは、降伏応力材料から作製された3D細胞成長培地は、細胞を置くために使用されたステップの反転により、細胞成長培地内からの細胞群の容易な回収を可能にし得ることも理解し且つ認識した。例えば、細胞は、注射器またはピペットなどの取り出しデバイスの尖端を細胞群が配置されている位置に単に移動させて、細胞成長培地から細胞を引くために吸引を適用することにより取り出すことができる。上に記載されたように、3D細胞成長培地を通る取り出しデバイスの尖端の動きは、十分なエネルギーを材料に与えて降伏を起こさせ、3D細胞成長培地からの細胞の取り出しの便宜をはかることができる。そのような手法は、例えば、多数の細胞試料が3D成長培地に置かれる試験プロセスの一部として使用することもできる。これらの置かれた細胞は同じ条件下で培養されてもよいが、試料の異なったものを異なった薬剤または他の治療条件に曝すこともできる。1つまたは複数の試料を、異なったときに採取して、治療条件の細胞に対する影響を試験することもできる。
【0039】
本発明者らは、細胞が流体または他の材料を細胞外の場所に排出する幾つかの実施形態で、細胞を取り出さないままで、細胞成長培地から同様な方法を用いて排出物を除去することもできることを理解し且つ認識した。例えば、3D細胞成長培地は、細胞を支持して、細胞の排出物を除去するときに、細胞を実質的に静止したままに保つこともできる。幾つかの実施形態では、降伏した3D細胞成長培地は流れて、取り出された細胞および/または細胞の排出物により以前占拠されていた空間を満たすこともできる。
【0040】
幾つかの実施形態において、3D細胞成長培地は、細胞を搭載する操作された組織構築物の構造を支持および/または保存するために使用することもできる。例えば、足場または複数の細胞が配置された他の適当な構造を含む組織構築物が3D細胞培養培地中に入れられてもよい。3D細胞培養培地は、組織構築物の複雑な構造を保存するための支持を提供することができる一方で、in vivoで見出される環境を模倣することができる細胞成長のための3D環境も提供する。
【0041】
幾つかの実施形態によれば、3D細胞成長培地は、ヒドロゲル粒子を液体細胞成長培地中に分散させることにより調製することができる。ヒドロゲル粒子は、遠心混合機、振盪機、または任意の他の適当な混合デバイスを使用して、液体細胞成長培地と混合することができる。混合中に、ヒドロゲル粒子は、液体細胞成長培地で膨潤して、適用された剪断応力が降伏応力未満である場合には、上に記載されたように、実質的に固体である材料を形成することができる。混合後、混入した空気または混合プロセス中に導入された気泡は、遠心分離、攪拌、または3D細胞成長培地から泡を除去するために他の適当な任意の方法によって除去することができる。
【0042】
幾つかの実施形態において、3D細胞成長培地の調製は、ヒドロゲル粒子と液体細胞成長培地の混合物のpHを所望の値に調節するために緩衝することも含むことができる。例えば、一部のヒドロゲル粒子は、細胞成長培地が過度に酸性である(所望の値未満のpHを有する)原因となり得る、主に負電荷を有するポリマーから作製されることもある。細胞成長培地のpHは、強塩基を添加して酸を中和して、所望の値に達するようにpHを上げることにより、調節することができる。あるいは、混合物は、所望の値より高いpHを有していてもよく;そのような混合物のpHは、強酸を添加することにより低下させることができる。幾つかの実施形態によれば、所望のpH値は、約7.0から7.4、または、幾つかの実施形態において7.2から7.6の範囲以内であってもよく、またはそれは、in vivo条件に対応していてもいなくてもよい任意の他の適当なpH値であってもよい。pH値は、例えば約7.4であってもよい。幾つかの実施形態において、溶解されたCOのレベルが所望の値、例えば約5%などに調節されたら、pHは調節され得る
【0043】
限定するものではない1例において、3D細胞成長培地は、約0.2質量%から約0.7質量%のカルボポール粒子(Lubrizol)を含む。カルボポール粒子は、任意の適当な液体の細胞成長培地と混合されて膨潤し、上に記載されたように、約99.3質量%から約99.8質量%細胞成長培地を含む3D細胞成長培地を形成する。膨潤後、粒子は、約1μmから約10μmの特徴的なサイズを有する。混合物のpHは、NaOHなどの強塩基を添加することにより、約7.4の値に調節される。生じる3D細胞成長培地は、モジュラスが約100~300Pa、および降伏応力が約20Paの固体である。この降伏応力を超える応力がこの3D細胞成長培地に適用されると、細胞成長培地は粘度が約1Pasから約1000Pasの液体様相に変換される。上に記載されたように、特定の機械的性質は、カルボポールの濃度を変化させることにより調節または調整することができる。例えば、より高い濃度のカルボポールを有する3D細胞成長培地は、より堅くおよび/またはより大きい降伏応力を有することができる。
【0044】
別の例では、液体様固体培地を、0.9%(w/v)カルボポールETD2020ポリマー(Lubrizol Co.)を添加して調製し、細胞成長培地に滅菌条件下で分散した。培地のpHは、37℃および5%CO2のインキュベーション条件下でpH7.4に達するまでNaOHを添加することにより調節して、完全に調合された材料を高速遠心混合機で均質化する。カルボポールETD2020は、このpHで膨潤して、上記材料を細胞培養用途のために適当にする。ゲル培地を37℃および5%CO2でインキュベートした。その後、3Dプリント技法を使用して、細胞をこの培地に入れた。
【0045】
図7aおよび7bは、多数の典型的LLS培地のレオロジーの特性を例示する。液体様固体を、本明細書に記載されたように3通りの異なったカルボポール濃度で調製した。(a)液体様固体成長培地の降伏応力は、3Dプリントされた細胞集成体の品質および3D細胞培養の支持を制御することができる。降伏応力は、歪み速度の掃引を実施することにより測定され、そこで応力が多くの一定の歪み速度で測定される。降伏応力は、これらのデータを、古典的なHerschel-Bulkleyモデル
【数1】
に適合させることにより決定することができる。(b)降伏していないLLS培地の弾性および粘稠モジュラスを決定するために、周波数掃引を1%歪みで実施する。弾性および粘稠モジュラスは、広い範囲の周波数にわたって平坦で分離されたままであり、減衰しながらKelvin-Voigt線状固体のように挙動する。まとめると、これらのレオロジーの性質は、固体相と液体相の間の平滑な遷移が顆粒状ミクロゲルで起こり、細胞プリント、培養、およびアッセイするための3D支持マトリックスとしてのそれらの使用を容易にすることを示す。
【0046】
以下の考察から認識されるように、降伏応力材料(すなわち、Herschel-Bulkley降伏応力を有する材料)は、望ましくは細胞を支持するために使用することができて、例えば、実施形態で3Dプリンターに置かれ得る。特定の降伏応力材料についての以下の考察から認識されるように、本発明者らは、1パスカルから1000パスカルの範囲内、および有利には1から100パスカルまたは10から100パスカルの範囲内の降伏応力を有する降伏応力材料が、3Dプリント中の支持材料として使用するために望ましいことを理解し且つ認識した。例えば、1ないし100パスカルの間の降伏応力を有するカルボマーポリマー(カルボポール(登録商標)など)が3Dプリントで使用される実施形態は、下に記載される。幾つかの実施形態は、Herschel-Bulkleyの降伏応力における下方の物理的限界によってのみ定義される最小降伏応力で100パスカル未満の任意の降伏応力を有する降伏応力材料で機能することができる。
【0047】
別に、本発明者らは、1から100パスカルまたは10から100パスカルのこれらの同じ範囲内の降伏応力を有する降伏応力材料の望ましさを、下記に論ずるように、理解し且つ認識した。本発明者らは、降伏応力材料で3Dプリント中に、降伏応力材料の浴内のプリントノズルの運動が、望まれない(および望ましくない)「裂け目」を材料中に創り出すことがあることを理解し且つ認識した。降伏応力材料の浴中におけるプリントは、望ましくない裂け目が自発的に形成されることなく、降伏応力が100パスカル未満の材料(下記に記載するカルボポール(登録商標)材料のような)などの低い降伏応力を有する降伏応力材料を使用することにより避けることができる。ヒドロゲルである降伏応力材料に対して、降伏応力の上限は、ρ・g・h(ここで、ρは降伏応力材料の密度であり、gは重力に基づく加速度であり、およびhは表面下のプリントの深さである)により決定されるヒドロゲルの静水学的圧力である。
【0048】
生きている細胞が、ヒドロゲル(カルボポール(登録商標)など)を含有するペトリ皿および/またはウェルプレートに3Dプリントされる幾つかの実施形態で、細胞は、例えば、1cmまでの深さでプリントされ得る。そのような実施形態では、降伏応力における上限(静水学的圧力から決定される)は、約100パスカルである。降伏応力が100または1000パスカルまでの望ましいヒドロゲル材料(カルボポール(登録商標)材料を含む)は下記に詳細に論ずる。
【0049】
当業者は、降伏応力を有する材料は、揺変性時間および揺変性指数などの一定の揺変性の性質を有することを認識するであろう。
【0050】
本明細書において使用する揺変性時間とは、剪断の供給源の除去後のプラトーにかかる剪断応力の続く時間のことである。本発明者らは、揺変性時間が異なった方法で測定され得ることを認識している。別なふうに指示されない限り、本明細書において使用する揺変性時間は、材料に、数秒の間、材料の降伏応力の10倍に等しい応力を適用して、続いて応力を降伏応力の0.1倍に落とすことにより決定される。応力の低下の後で剪断速度がプラトーになるための時間の長さが揺変性時間である。
【0051】
本明細書において使用する、揺変性指数(降伏応力材料についての)は、2s-1の歪み速度における粘度の20s-1の歪み速度における粘度に対する比として定義される。
【0052】
望ましい降伏応力を有する降伏応力材料は、望ましい揺変性指数または揺変性時間などの望ましい揺変性の性質を有することができる。例えば、望ましい降伏応力材料(100パスカル未満の降伏応力を有するヒドロゲル材料を含む。カルボポール(登録商標)材料などのその幾つかは、下記に詳細に説明する)は、2.5秒未満、1.5秒未満、1秒未満、または0.5秒未満、および0.25秒超または0.1秒超の揺変性時間を有することができる。典型的カルボポール(登録商標)溶液は、100パスカル未満(および幾つかの実施形態においては25パスカル未満)の降伏応力、ならびに短い揺変性時間を示し得る。100パスカル未満の降伏応力を有するカルボポール(登録商標)溶液の揺変性時間は、2.5秒未満、1.5秒未満、1秒未満、または0.5秒未満、および0.25秒超または0.1秒超であってもよい。
【0053】
幾つかの実施形態において、100パスカル未満の降伏応力を有するヒドロゲル降伏応力材料(カルボポール(登録商標)溶液のような下記に詳細に説明するものを含む)に対して、揺変性指数は7未満、6.5未満、または5未満、および4超、または2超、または1超である。
【0054】
本明細書に記載されるカルボポール(登録商標)溶液などのヒドロゲルのような望ましい降伏応力材料は、したがって、2.5未満、1.5秒未満、1秒未満、または0.5秒未満、および0.25秒超または0.1秒超の揺変性時間、および/または7未満、6.5未満、または5未満、および4超、または2超、または1超の揺変性指数を有することができる。
【0055】
降伏応力材料の降伏応力挙動の故に、降伏応力材料中に置かれた材料(本明細書に記載される3Dプリント技法によるような)は、降伏応力材料中でその場に固定されてとどまることができて、降伏応力材料または置かれた材料が硬化処理されるかまたは相変化を逆行させるために別なふうに処理される(例えば、プリント後に架橋するために加熱することにより)必要がない。むしろ、降伏応力材料は、降伏応力材料内における細胞クラスターのプリントを含む、降伏応力材料の内側に材料を置くことに限界のない作業時間を許容する。
【0056】
前述のことから認識されるように、幾つかの実施形態によれば、培養されるべき細胞をカプセル化する3D構築物として役立ち得る降伏応力材料は、1種または複数種のヒドロゲルを含むこともできる。幾つかのそのようなヒドロゲルは、生体適合性ポリマーであってもよい。ヒドロゲルは、溶液(例えば、細胞成長培地を含む溶液)中に種々の濃度で分散されていてもよい。濃度の1例は、2重量%未満である。別の濃度の例は、約0.5重量%から1重量%のヒドロゲル粒子であり、および別の例は約0.2質量%から約0.7質量%である。当業者は、他の濃度も使用され得ることを認識するであろう。当業者は、ここで論ずるように、溶液中に配置されたときに、本明細書の別の所で論ずるようにヒドロゲル粒子は、溶媒で膨潤して顆粒状ゲル材料を形成することができることをさらに認識するであろう。そのような顆粒状ゲルは、ミクロンまたはサブミクロン規模で特徴的なサイズを有する膨潤したヒドロゲル粒子を含むことができる。例えば、幾つかの実施形態において、膨潤したヒドロゲル粒子は、上で論じたように5μmを含む約0.1μmと100μmの間のサイズを有することができる。
【0057】
それを用いて幾つかの実施形態が機能し得るヒドロゲルの例は、カルボポール(登録商標)などのカルボマーポリマーである。カルボマーポリマーは、多価電解質であり得て、変形し得るミクロゲル粒子を含むことができる。
【0058】
カルボマーポリマーは、粒子状の、30億~40億ダルトンまでの分子量を有するアクリル酸の高分子量の架橋ポリマーである。カルボマーポリマーは、アクリル酸と他の水性モノマーとのコポリマーおよびポリエチレングリコールなどのポリマーも含むことができる。
【0059】
アクリル酸は、ポリアクリル酸を形成するために使用される一般的な主たるモノマーであるが、該用語はそれらに限定されずに、カルボキシル側鎖基またはジカルボン酸の酸無水物を有する一般的に全てα,β不飽和モノマーおよび米国特許第5,349,030号に記載された加工助剤を含む。他の有用なカルボキシル含有ポリマーは、不飽和カルボン酸およびアルキル基が10から30個の炭素原子を含有する、少なくとも1種のアルキルアクリル系またはメタクリル系エステルのポリマーに向けられた米国特許第3,940,351号、および無水マレイン酸とビニルエーテルとのコポリマーに向けられた米国特許第5,034,486号;第5,034,487号;および第5,034,488号に記載されている。そのようなコポリマーの他のタイプは、米国特許第4,062,817号に記載されており、その中で米国特許第3,940,351号に記載されたポリマーは、それに加えて別のアルキルアクリル系またはメタクリル系エステルを含有し、該アルキル基は1から8個の炭素原子を含有する。カルボキシルポリマーおよびコポリマー、例えば、アクリル酸およびメタクリル酸のそれらなども、米国特許第2,340,110号;第2,340,111号;および第2,533,635号に開示されたように、ジビニルベンゼン、不飽和ジエステル等のような多官能性材料で架橋されていてもよい。これらの米国特許の全ての開示は、ポリアクリル酸中で使用されたときに本明細書で別なふうに開示されたように降伏応力材料を形成するカルボキシルポリマーおよびコポリマーのそれらの考察について参照により本明細書に組み込まれる。特定のタイプの架橋されたポリアクリル酸としては、米国薬局方23NR18におけるカルボマーホモポリマー、カルボマーコポリマーおよびカルボマー共重合体規格、ならびにPCPC International Cosmetic Ingredient Dictionary & Handbook、第12版(2008)に記載されたカルボマーおよびC10-30アクリル酸アルキルのクロスポリマー、アクリレートクロスポリマーが含まれる。
【0060】
カルボマーポリマーの分散液は、酸性でpHは約3である。6~10のpHに中和されると、粒子は劇的に膨潤する。膨潤したカルボマーへの塩の添加は、粒子サイズを減少させてそれらのレオロジー的性質に強く影響することができる。膨潤したカルボマーは、水およびエタノールのような溶媒と屈折率が殆ど一致して、それは光学的に透明になる。元の合成粉末化されたカルボマーは、カルボポール(登録商標)として商標を登録されており、1958年にBF Goodrich(現在Lubrizolとして知られている)により市販されたが、カルボマーは多くの異なった製品で市販されている。
【0061】
ヒドロゲルは、直径約5μmの架橋ポリマーから作製された充填されたミクロゲル、すなわち顕微鏡サイズのゲル粒子を含むことができる。カルボポール(登録商標)の降伏応力は、含水率により制御される。カルボポール(登録商標)の降伏応力は、おおまかに1~1000Paの間で変化させることができる。したがって、両方の材料で、応力を細胞が通常生じさせるレベルの範囲で調整することができる。上で論じたように、材料は1~1000Paの範囲内に降伏応力を有することができるが、幾つかの実施形態では、1~100Paまたは10~100Paの範囲内に降伏応力を有する降伏応力材料を使用することが有利なこともある。それに加えて、幾つかのそのような材料は、2.5秒未満、1.5秒未満、1秒未満、または0.5秒未満、および0.25秒超または0.1秒超の揺変性時間、および/または7未満、6.5未満、または5未満、および4超、または2超、または1超の揺変性指数を有することもできる。
【0062】
幾つかの実施形態において、シリコーンエラストマー分散液も、それで幾つかの実施形態が機能し得る降伏応力材料として役立つこともできる。
【0063】
幾つかの実施形態では、化合物が顆粒状ゲル成長培地に導入されてもよい。これらの化合物は、顆粒状ゲル全体にわたって拡散することができるかまたは顆粒状ゲルを構成する粒子中に拡散することができる分子であってもよい。幾つかの実施形態において、これらの分子は、低分子および/またはタンパク質であってもよい。低分子は栄養素または溶解した気体であってもよい。
【0064】
ここで、図に注意を向けると、3D細胞成長培地およびそれらの調製方法および/または使用の限定にならない特定の実施形態がより詳細に記載されている。
【0065】
図1は、細胞群を3D細胞成長培地120に入れるための装置100の1実施形態の模式的表示を描く図である。装置100は、コンテナ110、焦点を合わせたエネルギーの供給源130、およびインジェクター150を含むことができる。コンテナ110は、3D細胞成長培地120を保持することができる。焦点を合わせたエネルギー供給源130は、焦点を合わせたエネルギーを領域140に適用することにより、3D細胞成長培地120の領域140で相変化を起こさせることができる。インジェクター150は、3D細胞成長培地120を複数の細胞を含むことができる材料160で置き換えることができる。
【0066】
幾つかの実施形態によれば、コンテナ110は、槽、鉢、箱、または3D細胞成長培地120のための任意の他の適当なコンテナであってもよい。上に記載されたように、3D細胞成長培地120は、揺変性材料または降伏応力材料、または一時的相変化のために適当な任意の材料を含むことができる。幾つかの例で、揺変性材料または降伏応力材料は、軟質顆粒状ゲルを含むことができる。軟質顆粒状ゲルは、液体細胞培養培地で膨潤するポリマーのヒドロゲル粒子から作製することができる。特定の実施形態に応じて、ヒドロゲル粒子は、膨潤したときに、直径が0.5μmと50μmの間、約1μmと10μmの間、または約5μmであってもよい。
【0067】
例えば、図2は(a)材料160が3D細胞成長培地120中に注入されるときに、空間で複雑なパターンを掃引するミクロスケールの尖端155を有する毛細管を含むインジェクター150を例示する。任意のアスペクト比のパターンを生じさせることができて、その理由は、構造自体が固化する必要がないかまたはそれ自体でいかなる支持も発生する必要もないからである。それに加えて、図2は、(b)3D細胞成長培地120を含む、完全に充填されたヒドロゲル粒子を横断する尖端155を例示する。尖端155の動きは、粒子を流動化させ、次に急速に固化させることができて、その通った跡に引かれた円筒を残す。図2は、(c)軟質顆粒状ゲル培地を、低い剪断歪みで弾性的に変形し、中程度の歪みで軟化し、および高い歪みで流動化し得る降伏応力材料の適例として例示する。
【0068】
幾つかの実施形態によれば、焦点を合わせたエネルギーは、最初の材料120に対するインジェクター150の移動に基づく運動エネルギーなどの機械的エネルギーを含むことができる。この例では、焦点を合わせたエネルギー供給源130は、インジェクター150を含むことができる。幾つかの実施形態によれば、インジェクター150は、細い中空尖端を含むことができて、それは、材料160を注入しながら、注意深く3D細胞成長培地120内の空間的通路をなぞることができる。尖端の動きは、3D細胞成長培地120を、注入箇所で(すなわち、領域140において)、局所的に降伏させて流動化させることができる。機械的エネルギーの別の例は、超音波圧力波を含むことができる。あるいはまたはそれに加えて、焦点を合わせたエネルギーは、高周波放射線などの放射線エネルギーを含むことができて、それを領域140に向けることができる。インジェクターの動きは、用手で(例えば「手」によって)実施されてもよく、または自動化されてもよい(例えば、コンピューターまたは機械で制御される)ことが認識されるべきである。それに加えてまたはあるいは、焦点を合わせたエネルギー供給源130は、3D細胞成長培地120の領域140で相変化を起こさせて、上で論じたように、細胞およびまたは細胞の排出物を含む材料160の除去を可能にすることができる。
【0069】
図3で例示したように、本明細書に記載された3D細胞成長培地は、3次元的にプリントするかまたは別なふうに3D細胞成長培地内に所望のパターンで細胞を位置させるための方法で使用することができることが、前述のことから認識されるべきである。方法300は、焦点を合わせたエネルギー供給源を使用して、焦点を合わせたエネルギーを領域に適用することにより、3D細胞成長培地の領域で、相変化を起こさせることができる行為310で開始される。3D細胞成長培地は、エネルギーの導入であまり流体的でない状態からより流体の状態に変化し得る材料であることもできる。行為320において、3D細胞成長培地を、細胞を含有する材料で置き換えることにより、細胞を3D細胞成長培地に入れることができる。
【0070】
図4Aは、コンテナ410の中に配置された3D細胞成長培地420を含む3D細胞培養400の1実施形態の断面図を描く図である。1個または複数の細胞を含む複数のスフェロイド430が3D細胞成長培地420中に配置されている。描かれた実施形態では、スフェロイド430はおよそ同じサイズであり、均等に間隔を置いて分かれている。幾つかの実施形態において、スフェロイドは、全てが同じサイズでなくてもよく、および/または間隔は同じでなくてもよい。例えば、図4Bは、小さいスフェロイド460、中間のサイズのスフェロイド470、および大きいスフェロイド480を含む3D細胞培養450の別の実施形態を描いている。上のことに照らして、細胞の細胞スフェロイドは、任意の適当なサイズの組合せおよび/または間隔を有していてもよいことが理解されるべきである。スフェロイドが描かれているが、開示はそのように限定されていないので、細胞群はスフェロイドでなくてもよく、胚様体、器官様体であってもよく、または任意の他の適当な形状を有していてもよいことが理解されるべきである。
【0071】
図4Aおよび図4Bは、ここでは球として示される多数の細胞クラスターの同じ容器中における発生を例示する。図4Cおよび4Dは、多数の同一の球または種々のサイズの球の数多くの個別の容器中における発生を例示する。例示された容器は、整理箱410でまたは高い処理能力試験を容易にする他の適当な担体(carrier)で形成され得る。しかしながら、1個または複数の任意の適当な容器を使用することができることは認識されるべきである。
【0072】
使用される容器のタイプに関わらず、細胞が置かれたら、細胞を含有する培地は、その化学的性質を変化させて、順送りで内部に含有された3D培養の成長環境を改変することができる多様な環境でインキュベートされもよい。例えば、培地中の細胞は、低い酸素または低酸素の環境中でインキュベートされてもよい。
【0073】
1種または複数種の化合物が、細胞と一緒におよび/または隣接して置かれてもよいことが認識されるべきである。例えば、可溶で非細胞の成分は、細胞と一緒に置くことができた。これらは、構造タンパク質(例えばコラーゲン、ラミニン)、シグナル伝達分子(成長因子、サイトカイン、ケモカイン、ペプチド)、化学的化合物(薬理学的活性物質)、核酸(例えばDNA、RNA)、その他(ナノ粒子、ウイルス、遺伝子移動のためのベクター)を含むことができる。
【0074】
3D細胞成長培地を調製するための方法500を図5に例示する。該方法は、ヒドロゲル粒子が液体細胞培養培地と混合される行為510で開始される。混合は、遠心混合機、振盪機などの機械的混合機、またはヒドロゲル粒子を液体細胞培養培地中に分散させるために役立つ任意の他の適当な混合デバイスを用いて実施することができる。混合中に、ヒドロゲル粒子は、上で論じたように、液体細胞培養培地で膨潤して顆粒状ゲルを形成することができる。幾つかの場合に、混合行為510は、空気の泡またはゲルに混入し得る他の気泡の導入を生じることもある。そのような混入した気泡は、行為520で遠心分離、穏やかな攪拌、または任意の他の適当な技法により除去される。混合物のpHは、ステップ530で調節することができる。混合物のpHが所望の値に達するまで、pHを上げるために塩基を添加することができ、またはあるいはpHを下げるために酸を添加することができる。幾つかの実施形態において、調節後の最終pH値は約7.4である。
【0075】
図6a~6eは、細胞成長のシナリオの例を例示する。3Dで細胞を培養および研究するための障壁は、全て研究のための単一の理想的マトリックスがないことである。細胞は、コラーゲンおよびマトリゲルのような天然バイオポリマーネットワークならびに、接着および細胞移動を容易にする酵素的分解のための組み込まれたモチーフで操作された材料中で生育する。残念ながら、これらのマトリックスは、細胞の精密な配置および組み立てのために、または流体交換中の一連の移動、収穫、および直接アッセイを使用する連続細胞培養のためにはデザインされていない(図6a、b)。液体細胞成長培地で膨潤した充填されたミクロゲル粒子から作製されたLLSは、これらの課題のために殆ど理想的に適している。この材料は、>99%(w/w)の液体成長培地から調製することができて、コンテナ中に注ぎ込むことができ、材料はそこに自発的に流れて固化する。これらの軟質顆粒状ゲルは、約100nmのメッシュサイズを有して、このサイズは、殆ど妨げられない栄養素、廃棄物、および低分子の拡散を可能にするが(図6c)、対流を抑制して、それにより全て分子の輸送が拡散によることを確実にする。低いポリマー濃度および相対的に大きいメッシュサイズは、このLLS調合物に約10Paの降伏応力を与えて、そのことが順送りで細胞および細胞集成体が経験する歪み応力に上限を設ける(図6d)。そのような低い降伏応力が、細胞移動および分割中の圧力の高まりを制限して(図6e、f)、それが3Dにおける長い持続時間の細胞生存能力にとって最も重要な貢献要因であり得る。
【0076】
LLS中に包埋された組織細胞の動きは興味をそそる。細胞が動くにつれて、顆粒状ゲルは、移動の方向に転置されて、自発的に流れて細胞の後ろの空間を満たす。これは、その中で3D移動が酵素的分解による永続性トンネルの創出を通して可能にされるポリマーネットワーク中における移動挙動とはっきりした対照である。3D細胞移動の本発明者らの初期の研究は、細胞を標準的プラスチックの組織培養表面に広げて、細胞を収穫し、次に細胞分散液を用手で混合してLLS 3D培養培地中に入れることにより実施した。これらの軟質顆粒状ミクロゲルは、本発明者らが8種の異なった細胞タイプに対して非細胞傷害性であることを見出した軽く架橋された型ポリアクリル酸コポリマーから作製される。本発明者らは、MDCKおよびMCF10A上皮細胞、MS1およびHAEC内皮細胞、HuH-7肝細胞、CTLL-2キラーT細胞、および間葉系の幹細胞のLLS培養において24時間後に約90%の絶対生存能力を見出した。本発明者らは、原発性骨肉腫細胞で同じ生存能力を見出している。細胞外基質前駆体と混合されたHuH-7肝細胞とMS1内皮細胞の3Dプリントされた共培養は、2週間カルセリン染色を示して、用手で培養皿の間で移されたときに、物理的完全性を示した。本発明者らは、MCF10A細胞のクラスターも新鮮LLS成長培地のコンテナ中に逐次移した。
【0077】
本発明者らは、インテグリン結合ドメインを有する天然または合成細胞外基質の添加なしで、分散された細胞における固定を必要とすると一般的に考えられている広範囲の複雑な挙動を観察した。例えば、MCF10A細胞は、組織の無生命の連続体を通して航行するかのように、3D空間を曲がりくねって探る長い糸状偽足を伸ばして、他の細胞の受容体を探し求める。これらの糸状偽足は、しばしば、中央の細胞本体よりも大きく、長さが30μmを超える。移動中に、細胞は、周期的に方向をもった突出部を伸ばして、次にそれらの体を同じ方向で前に進ませ、引きずる突出部を残し、それを最終的に前方に引っ込ませることを本発明者らは観察している。10Paの降伏応力を有するLLSで、このサイクルを送り返すことにより進行する移動は、約300nmの間隔で細胞表面にわたって分布する1pNのオーダーで突出力の発生を必要とし、それはアクチンの重合力および細胞骨格メッシュのサイズの範囲内に十分入る。
【0078】
組織およびネットワーク内の細胞は、機械的にそれらの周囲に応力を加えて、LLS培養培地は均一な連続体を提供することができて、それを通して細胞と細胞の相互作用は3D弾性により媒介される。本発明者らは、経時的な細胞の3D追跡により平均的な細胞-細胞相互作用の程度を特徴づけて、それらの長さにおける変動の二乗平均平方根を測定している。本発明者らは、細胞密度の関数としてこの細胞活性の単調でない傾向を見出している。細胞同士が最も遠く離れている最低の細胞密度で、活性は低く、1μmのオーダー、例えば0.05ないし51μmの間などでRMS長さの変動を有する。該変動は、細胞が最密充填に近く、クラスターを形成し始める最高の密度でやはり小さい。細胞活性は、中心から中心が細胞直径の約3倍の平均細胞間隔の中間的細胞密度で最高であり、大きく増幅され、長さは平均で約100%変動する。この細胞-細胞刺激の根底にある詳細な機構は、化学的または機械的であり得る。排出されるケモカインの濃度は、細胞運動により生じた場を歪ませるので、3Dで急速に減衰するであろう。本発明者らは、蛍光性微小球をLLSに包埋して、包埋された蛍光性細胞周囲の塊を撮像することにより細胞-細胞相互作用の1つの興味ある可能性のある機構を観察した。本発明者らは、細胞をLLSから細胞直径の約1倍だけ離す(ED図5)細胞本体周囲の厚い排除ゾーンを観察している。このゾーンは、多くの細胞タイプが大量に産生する細胞周囲のマトリックスで満たされているようである。可能性のある多様な細胞-細胞相互作用の定量的研究は、液体様固体に基づく顆粒状ゲルの極端に均一な輸送および機械的性質、およびそのような研究で使用される本発明者に記載された技法により容易になる。
【0079】
別の例によって、本発明者らは、LLS培養培地は、それを通して細胞-細胞相互作用が3D弾性により媒介される均一な連続体、および組織およびネットワーク内の細胞が経験する実質的に低下した機械的応力を提供することを観察している。本発明者らは、細胞の経時的3D追跡およびそれらの長さの二乗平均平方根変動の測定により、細胞-細胞相互作用の平均的程度を特徴づけている。本発明者らは、細胞密度の関数としてこの細胞活性における単調でない傾向を見出している。細胞同士が最も遠く離れている最低の細胞密度で、活性は低く、RMS長さの変動を1μmのオーダーで有する。該変動は、細胞が最密充填に近く、クラスターを形成し始める最高密度でもやはり小さい。細胞活性は、中心から中心が細胞直径の約3倍の平均細胞間隔の中間的細胞密度で最高であり、大きく増幅され、長さは平均で約100%変動する。この細胞-細胞刺激の根底にある詳細な機構は、化学的または機械的であり得る。排出されるケモカインの濃度は、細胞運動により生じた場を歪ませるので、3Dで急速に減衰するであろう。本発明者らは、蛍光性微小球をLLSに包埋して、包埋された蛍光性細胞周囲の塊を撮像することにより細胞-細胞相互作用の1つの興味ある可能性のある機構を観察した。本発明者らは、細胞をLLSから細胞直径の約1倍だけ離す細胞本体周囲の厚い排除ゾーンを観察している。このゾーンは、多くの細胞タイプが大量に産生する細胞周囲のマトリックスで満たされているようである。可能性のある多様な細胞-細胞相互作用の定量的研究は、液体様固体に基づく顆粒状ゲルの極端に均一な輸送および機械的性質、およびそのような研究で使用される本発明者に記載された技法により容易になる。
【0080】
別の例で、LLS成長培地の機械的性質は、細胞分裂が無視し得る物理的耐性で起こることを可能にすることが観察された。本発明者らは、一対の娘細胞が約15μm/時間で別れ行く単一の細胞の分裂を観察しており、それは2D培養中における細胞分離の速度と同程度である。本発明者らは、細胞分裂におけるこのステップ中に剪断されるLLS顆粒状ゲルについて歪み速度を、
【数2】
により与えられる分離速度νと細胞サイズRの比から推定しており、そのピークは約10-4-1である。本発明者らの降伏中のLLSのレオロジーの試験は、この歪み速度における培地中の応力は、降伏応力が4~9Paであることを示す。降伏応力のこの値は、典型的であり、成長培地の固体への分配を変化させるかまたは他の材料の性質を調整することにより達成され得る他の降伏応力を有する材料は、他の実施形態について他の範囲であってもよいことが認識されるべきである。例えば、降伏応力は、より低くて1~5Paの範囲などでもよく、またはより高くて7~15Paの範囲内などでもよい。それにも拘わらず、この例では、この値は適当であり、その理由は、細胞分裂を制御する細胞骨格の力は、4~9Paよりはるかにより高いレベルの応力を発生させることができて、LLSは3D中で育成する支持を提供するが、細胞分裂を物理的に妨げないことを示すからである。この例では、増殖は、スフェロイド内で大きい数で起こり、そこでMCF10A細胞は、平均分裂時間が48時間であり、ウェルプレートで見出される時間の約2倍である。インテグリンを通した付着または硬めのミクロ環境を必要とする細胞については、天然または合成ECMをLLS培地中に混合して、生存能力を改善することができる。
【0081】
別の例として、この方法で、本発明者らは、原発性骨肉腫細胞を500μmの平均直径および4.5%の標準偏差を有する40個のスフェロイド中に集合させた。低い降伏応力は、球が8日の過程で妨げられずに膨張することを可能にして、その間にスフェロイドは、体積が50%増加する。MCF10A細胞から作製されたスフェロイドは、この速度の約2倍で膨張するが、一方、キラーT細胞中に直接分散された3Dプリントされた骨肉腫スフェロイドは、体積の減少および22時間を通して細胞死を示す。同一の3Dミクロ組織の大きいアレイを創り出してモニターするこの能力は、別のレベルの処理能力および精密さを定量的生物学にもたらす。
【0082】
別の例で、本明細書に記載された技法は、通常逐次実施される多くの数の試験をしばしば必要とする組み合わせた多数の生物活性作用物質の共同効果のスクリーニングのために使用することができる。3D細胞集成体におけるコンビナトリアル試験を加速するために、多数の分子の種の時空的な濃度勾配を、LLSの内側の定量的制御で創出することができる。したがって、LLS内の分子の濃度プロファイルの定量的予測は、境界条件が知られれば可能である。本発明者らは、時間放出ポリマーフィルムをLLS内に包埋して、それらの内容物を一定の速度で放出する2つの垂直な境界を創出する。フィルムは、吸収されたら、生きている細胞内の代謝性作用により蛍光性になる色素を放出する。この取り込みをHUH7肝細胞スフェロイドの3Dプリントされたアレイの時間経過共焦点の蛍光撮像でモニターする。本発明者らは、各球の崩壊で、2つの色素種から、積分された蛍光がフリーパラメータなしの2本のユニバーサル空間-時間スケーリング曲線上に信号を出すことを見出している。
【0083】
本明細書に記載された3D細胞成長培地の実施形態は、いかなる特定のタイプの細胞にも限定されないことは理解されるべきである。例えば、3D細胞成長培地の種々の実施形態を、動物、細菌、植物、昆虫、または任意の他の適当なタイプの細胞で使用することができる。
【0084】
さらに、特定のLSS調剤は、例として提供されたことが認識されるべきである。しかしながら、LSSの輸送および材料の性質が、LLS中のポリマー濃度を変化させることにより調整され得ることは認識されるべきである。例えば、濃度は、例で示した量に対して5%、10%またはそれを超えて増大または減少してもよい。
【0085】
本開示は以下の実施形態を含む。
[1]
複数のヒドロゲル粒子と;
液体細胞培養培地
とを含み、
前記ヒドロゲル粒子は、液体細胞培養培地で膨潤して顆粒状ゲルを形成する、3次元細胞成長培地。
[2]
降伏応力を超える剪断応力の適用により、第1の固体相から第2の液体相に相変化するような降伏応力を有する、[1]に記載の3次元細胞成長培地。
[3]
降伏応力が10Paのオーダーである、[2]に記載の3次元細胞成長培地。
[4]
ヒドロゲル粒子の濃度が0.05重量%から約1.0重量%の間である、[1]に記載の3次元細胞成長培地。
[5]
ヒドロゲル粒子が、液体細胞培養培地で膨潤したときに、約0.1μmから約100μmの範囲内のサイズを有する、[1]に記載の3次元細胞成長培地。
[6]
ヒドロゲル粒子が、液体細胞培養培地で膨潤したときに、約1μmから約10μmの範囲内のサイズを有する、[5]に記載の3次元細胞成長培地。
[7]
3次元細胞成長培地の領域に配置された複数の細胞と組み合わされた、[1]に記載の3次元細胞成長培地。
[8]
複数の細胞が、スフェロイド、胚様体、腫瘍、または嚢胞の少なくとも1つとして配置されている、[5]に記載の3次元細胞成長培地。
[9]
顆粒状ゲル粒子中に、および顆粒状ゲル全体に拡散した分子をさらに含む、[1]に記載の3次元細胞成長培地。
[10]
前記分子が低分子またはタンパク質を含む、[9]に記載の3次元細胞成長培地。
[11]
前記分子が低分子であり;および
前記低分子が栄養素または溶解した気体を含む、[10]に記載の3次元細胞成長培地。
[12]
ヒドロゲル粒子を液体細胞培養培地と混合して顆粒状ゲルを形成させるステップと;
混入した気泡を顆粒状ゲルから除去するステップ
とを含む、3次元細胞成長培地を製作する方法。
[13]
顆粒状ゲルのpHを調節することをさらに含む、[12]に記載の方法。
[14]
pHを調節することが、塩基および酸の少なくともいずれか1つを添加することを含む、[13]に記載の方法。
[15]
pHを調節することが、pHが7.2から7.6の範囲内になるような量の酸を添加することを含む、[14]に記載の方法。
[16]
ヒドロゲル粒子の濃度を調節することにより、3次元細胞成長培地の降伏応力を調節することをさらに含む、[12]に記載の方法。
[17]
液体細胞培養培地で膨潤した複数のヒドロゲル粒子を含む顆粒状ゲルを用いて、一定のパターンに細胞を配置することを含む、細胞を3次元細胞成長培地に配置する方法。
[18]
細胞を配置することが、細胞を、3次元細胞成長培地内に所定の幾何学的構造で配置することを含む、[17]に記載の方法。
[19]
前記所定の幾何学的構造が、スフェロイド、胚様体、腫瘍、または嚢胞の少なくとも1つである、[18]に記載の方法。
[20]
ヒドロゲル粒子が生体適合性ポリマーを含む、[17]に記載の方法。
[21]
ヒドロゲル粒子が10Pa+/-25%の降伏応力を有する、[17]に記載の方法。
[22]
前記パターンが、顆粒状ゲルによって包囲された少なくとも1つの領域を含むことにより、前記領域において成長する細胞が、顆粒状ゲルの降伏応力未満の圧力を受けるようにする、[17]に記載の方法。
本教示は、種々の実施形態および例とともに説明したが、本教示がそのような実施形態または例に限定されることは意図されない。反対に、本教示は、当業者によって認識されるような種々の代案、改変、および等価事物を包含する。
【0086】
したがって、前述の記載および図面は例としてのものにすぎない。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5
図6
図7