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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-22
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】通気幅木
(51)【国際特許分類】
   E04F 19/04 20060101AFI20220111BHJP
【FI】
E04F19/04 101E
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018023072
(22)【出願日】2018-02-13
(65)【公開番号】P2019138069
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2020-12-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000010065
【氏名又は名称】フクビ化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000174884
【氏名又は名称】三井ホーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】石田 尚也
(72)【発明者】
【氏名】小倉 久司
(72)【発明者】
【氏名】杉本 統彦
(72)【発明者】
【氏名】笠場 広之
(72)【発明者】
【氏名】泉 潤一
(72)【発明者】
【氏名】平柳 是臣
【審査官】松本 隆彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-264560(JP,A)
【文献】実開平03-041044(JP,U)
【文献】特開2004-143851(JP,A)
【文献】特開2003-049533(JP,A)
【文献】特開平07-158249(JP,A)
【文献】特開2011-111854(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 17/00-19/10
E04F 15/00-15/22
E04B 1/62- 1/99
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
室内空間の底面を構成する床材の周縁と当該床材を取り囲む縦壁材との間に形成された通気用隙間を覆うように前記縦壁材の室内側の面に取り付けられる通気幅木であって、
前記床材よりも上方の位置において前記縦壁材に固定される上側ベース壁部と、
前記上側ベース壁部から下方に延び、前記縦壁材との間に前記通気用隙間と連通する第1隙間を画成する下側ベース壁部と、
前記下側ベース壁部よりも室内側において上下方向に延び、当該下側ベース壁部との間に前記室内空間と連通する第2隙間を画成する表壁部と、
前記表壁部の下端から前記下側ベース壁部に向けて延びる折曲壁部とを備え、
前記下側ベース壁部には、前記第1隙間と第2隙間とを連通させる通気孔が形成されている、ことを特徴とする通気幅木。
【請求項2】
請求項1に記載の通気幅木において、
前記折曲壁部は、前記下側ベース壁部に近づくほど高さが低くなるように傾斜している、ことを特徴とする通気幅木。
【請求項3】
請求項1または2に記載の通気幅木において、
前記通気孔は、水平方向に並ぶ複数の単位孔を有する、ことを特徴とする通気幅木。
【請求項4】
請求項3に記載の通気幅木において、
前記複数の単位孔は、それぞれ鉛直方向に対し傾斜しつつ上下方向に延びるように形成されている、ことを特徴とする通気幅木。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の通気幅木において、
水平方向の基準長さあたりの前記通気孔の面積を有効通気孔面積、前記表壁部と前記下側ベース壁部との面間距離に前記基準長さを掛けた値を第2隙間面積、前記折曲壁部の先端と前記下側ベース壁部との距離に前記基準長さを掛けた値を通気出口面積としたとき、通気出口面積、有効通気孔面積、第2隙間面積の順に面積が大きくなる、ことを特徴とする通気幅木。
【請求項6】
請求項5に記載の通気幅木において、
前記下側ベース壁部と前記縦壁材との面間距離に前記基準長さを掛けた値を第1隙間面積としたとき、当該第1隙間面積は前記通気出口面積よりも大きくかつ前記有効通気孔面積よりも小さい、ことを特徴とする通気幅木。
【請求項7】
請求項5に記載の通気幅木において、
前記下側ベース壁部と前記縦壁材との面間距離に前記基準長さを掛けた値を第1隙間面積としたとき、当該第1隙間面積は前記有効通気孔面積よりも大きくかつ前記第2隙間面積よりも小さい、ことを特徴とする通気幅木。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の通気幅木において、
前記上側ベース壁部および前記下側ベース壁部を含むベース部と、
前記表壁部および前記折曲壁部を含むカバー部と、
前記ベース部と前記カバー部とを互いに連結する屈曲自在なヒンジ部と、
前記ベース部および前記カバー部の各内面同士を着脱自在に結合する嵌合部とを備えた、ことを特徴とする通気幅木。
【請求項9】
請求項8に記載の通気幅木において、
前記カバー部の表面に貼着された化粧シートをさらに備え、
前記ヒンジ部は、前記ベース部および前記カバー部よりも軟質な軟質樹脂により両者と一体に形成され、
前記化粧シートは、前記カバー部の表面における少なくとも前記ヒンジ部の近傍を覆わないように形成されている、ことを特徴とする通気幅木。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室内空間の底面を構成する床材の周縁と当該床材を取り囲む縦壁材との間に形成された通気用隙間を覆うように前記縦壁材の室内側の面に取り付けられる通気幅木に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特にマンション等の高層住宅では、いわゆる二重床構造が採用されることが多い。二重床構造では、床スラブ等の床基盤とその上方の床材との間に空間(以下、床下空間という)が形成され、この床下空間によって上層階と下層階との間の遮音が図られる。しかしながら、床材に重量物が落下する等により重量床衝撃音が生じた場合には、この重量床衝撃音による振動が共振により床基盤に伝達されるいわゆる太鼓現象が生じる結果、下層階に比較的大きな騒音が発生するという問題があった。
【0003】
上記の太鼓現象を軽減するには、重量床衝撃音の発生時に床下空間内の空気を上層階に逃がすことが有効である。そこで、下記特許文献1では、床材(床板)の周縁とこれを取り囲む縦壁材(壁面)との間に隙間を形成するとともに、当該隙間と連通する通気部を有した通気幅木を縦壁材の下部(床材の直上部)に取り付けることが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-281118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に開示された通気幅木を使用した場合には、重量床衝撃音の発生時に、床材と縦壁材との隙間、および通気幅木の通気部を通じて、床下空間内の空気を上層階の室内に逃がすことができる。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1では、単に床下空間から上層階の室内へと通じる空気の経路を確保しただけであり、太鼓現象の軽減効果が十分に得られるものとはなっていなかった。このため、下層階への騒音伝達を十分に抑制することができず、当該抑制効果を高めるためのさらなる改善が求められていた。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、重量床衝撃音の発生に伴い下層階に伝達される騒音をより効果的に抑制することが可能な通気幅木を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するためのものとして、本発明は、室内空間の底面を構成する床材の周縁と当該床材を取り囲む縦壁材との間に形成された通気用隙間を覆うように前記縦壁材の室内側の面に取り付けられる通気幅木であって、前記床材よりも上方の位置において前記縦壁材に固定される上側ベース壁部と、前記上側ベース壁部から下方に延び、前記縦壁材との間に前記通気用隙間と連通する第1隙間を画成する下側ベース壁部と、前記下側ベース壁部よりも室内側において上下方向に延び、当該下側ベース壁部との間に前記室内空間と連通する第2隙間を画成する表壁部と、前記表壁部の下端から前記下側ベース壁部に向けて延びる折曲壁部とを備え、前記下側ベース壁部には、前記第1隙間と第2隙間とを連通させる通気孔が形成されている、ことを特徴とするものである(請求項1)。
【0009】
本発明によれば、例えば床材に重量物が落下する等により重量床衝撃音が生じたときに、床材の下側の空間(床下空間)内の空気が、通気用隙間→第1隙間→通気孔→第2隙間、という順に流れた後、折曲壁部により狭小化された第2隙間の出口部(折曲壁部の先端と下側ベース壁部との隙間)を通って室内空間に排出される。このように、方向転換を繰り返しながら狭小な出口部を通って室内空間に空気が排出されることにより、空気の振動である音のエネルギー(音響エネルギー)の多くを摩擦熱等の熱エネルギーに変換することができ、音響エネルギーを効果的に低減することができる。これにより、重量床衝撃音に伴い床下空間で生じるいわゆる太鼓現象を効果的に抑制することができ、下層階に伝達される騒音のレベルを十分に低減することができる。
【0010】
好ましくは、前記折曲壁部は、前記下側ベース壁部に近づくほど高さが低くなるように傾斜している(請求項2)。
【0011】
この構成によれば、折曲壁部と下側ベース壁部との間にノズル状(先窄まり状)の隙間が形成されるので、当該ノズル状の隙間を通じて円滑に空気を排出することができる。
【0012】
好ましくは、前記通気孔は、水平方向に並ぶ複数の単位孔を有する(請求項3)。
【0013】
この構成によれば、各単位孔を空気が通過する際に、空気流を複数の流れに分岐させてその後集合させることができる。これにより、空気流が乱されてエネルギーの消費量が増大するので、音響エネルギーをより低減することができ、下層階への重量床衝撃音の伝達を十分に抑制することができる。
【0014】
前記構成において、より好ましくは、前記複数の単位孔は、それぞれ鉛直方向に対し傾斜しつつ上下方向に延びるように形成される(請求項4)。
【0015】
この構成によれば、所要面積の通気孔(複数の単位孔)を下側ベース壁部における比較的小さい高さ範囲に支障なく形成することができる。
【0016】
好ましくは、水平方向の基準長さあたりの前記通気孔の面積を有効通気孔面積、前記表壁部と前記下側ベース壁部との面間距離に前記基準長さを掛けた値を第2隙間面積、前記折曲壁部の先端と前記下側ベース壁部との距離に前記基準長さを掛けた値を通気出口面積としたとき、通気出口面積、有効通気孔面積、第2隙間面積の順に面積が大きくなる(請求項5)。
【0017】
この構成によれば、通気用隙間から導入された空気が通気孔および第2隙間を通って室内空間へと排出される過程で、空気の流通面積は、一旦拡大した後に最小値へと急減することになる。これにより、空気の流速および圧力が複数回変化させられるとともに、面積が最小化された第2隙間の出口部において空気流に十分な抵抗(摩擦熱)が付与されるので、音響エネルギーを効率よく熱エネルギーに変換することができ、下層階に伝達される騒音のレベルを十分に低減することができる。
【0018】
さらに、前記下側ベース壁部と前記縦壁材との面間距離に前記基準長さを掛けた値を第1隙間面積としたとき、当該第1隙間面積は、前記通気出口面積よりも大きくかつ前記有効通気孔面積よりも小さいことが好ましい(請求項6)。
【0019】
この構成によれば、通気用隙間から導入された空気が第1隙間→通気孔→第2隙間の順に通過する過程で、空気の流通面積は段階的に拡大することになる。このことと、第2隙間の出口部の面積を最小化したこととの相乗効果により、音響エネルギーを効率よく熱エネルギーに変換することができ、騒音抑制効果を高めることができる。
【0020】
第1隙間面積は、前記有効通気孔面積よりも大きくかつ前記第2隙間面積よりも小さくてもよい(請求項7)。
【0021】
この構成によれば、通気用隙間から導入された空気が第1隙間→通気孔→第2隙間の順に通過する過程で、空気の流通面積は縮小した後で再び拡大することになる。このことと、第2隙間の出口部の面積を最小化したこととの相乗効果により、やはり音響エネルギーを効率よく熱エネルギーに変換することができる。
【0022】
好ましくは、前記通気幅木は、前記上側ベース壁部および前記下側ベース壁部を含むベース部と、前記表壁部および前記折曲壁部を含むカバー部と、前記ベース部と前記カバー部とを互いに連結する屈曲自在なヒンジ部と、前記ベース部および前記カバー部の各内面同士を着脱自在に結合する嵌合部とを備える(請求項8)。
【0023】
この構成によれば、嵌合部による嵌合を解除した状態(カバー部を開放した状態)で、ベース部の下側ベース壁部に通気孔を加工する作業を支障なく行うことができる。
【0024】
前記構成において、より好ましくは、前記通気幅木は、前記カバー部の表面に貼着された化粧シートをさらに備え、前記ヒンジ部は、前記ベース部および前記カバー部よりも軟質な軟質樹脂により両者と一体に形成され、前記化粧シートは、前記カバー部の表面における少なくとも前記ヒンジ部の近傍を覆わないように形成される(請求項9)。
【0025】
この構成によれば、例えば化粧シートを加熱によりカバー部に貼着する際に、その加熱の影響によりヒンジ部が高温になるのを抑制することができる。これにより、軟質樹脂製のヒンジ部が熱により変形または変性したり、ヒンジ部の可撓性(柔軟性)が低下したりするのを防止することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、本発明の通気幅木によれば、重量床衝撃音の発生に伴い下層階に伝達される騒音を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施形態にかかる通気幅木を建物の室内に取り付けた状態を示す斜視図である。
図2図1に対応する断面図である。
図3】通気幅木を単体で示す断面図である。
図4】通気幅木に設けられる通気孔の形状を説明するための背面図である。
図5図2の下側の一部を拡大して示す拡大断面図である。
図6】重量床衝撃音の発生時に床下空間から室内空間へと抜ける空気の流れを説明するための説明図である。
図7】通気幅木に通気孔を加工する様子を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1および図2は、本発明の一実施形態にかかる通気幅木1を建物の室内に取り付けた状態を示す斜視図および断面図である。本図に示すように、通気幅木1は、室内空間Rの底面近傍の隅部に取り付けられるものであり、一定の上下幅をもって水平方向に延びるように形成されている。
【0029】
室内空間Rは、複数階建ての建物の上層階のものであり、当該室内空間Rの下方には下層階の室内空間(図示省略)が形成されている。建物の各階には、床スラブ(スラブコンクリート)等からなる床基盤31と、床基盤31から立設された支持脚32と、支持脚32により支持された床材30と、床材30の周囲を取り囲む縦壁材40とが備えられている。当実施形態の建物はいわゆる二重床構造とされており、床基盤31と床材30との間には所定高さの床下空間Pが形成されている。
【0030】
床材30は、室内空間Rの底面を構成する板状部材であり、縦壁材40の内側において水平方向に延びるように形成されている。縦壁材40は、室内空間Rの側面を構成する板状部材であり、床材30の周囲において上下方向(鉛直方向)に延びるように形成されている。また、床材30の周縁と縦壁材40との間には、微小な通気用隙間Xが形成されている。通気用隙間Xは、床下空間P内の空気を室内空間Rに逃がすためのものである。
【0031】
通気幅木1は、縦壁材40のうち室内空間Rに露出している部分(床材30よりも上方の部分)の最下部に取り付けられており、通気用隙間Xを上から覆っている。当実施形態の通気幅木1は、合成樹脂製の中空部材により構成されている。
【0032】
図3は、通気幅木1の単体の断面図である。この図3および先の図1および図2に示すように、通気幅木1は、ビス9により縦壁材40に固定されるベース部2と、ベース部2を室内側から覆う断面略かぎ状のカバー部3と、ベース部2とカバー部3とを連結する屈曲自在なヒンジ部4と、ベース部2およびカバー部3の各内面同士を着脱自在に結合する嵌合部5と、カバー部3の表面に貼着された化粧シート6(図3)とを備えている。
【0033】
ベース部2およびカバー部3は、硬質樹脂により構成されている。ヒンジ部4は、ベース部2およびカバー部3よりも軟質な軟質樹脂製であり、例えば二色成形等によってベース部2およびカバー部3と一体に形成されている。
【0034】
ベース部2は、縦壁材40の室内側の面に当接する上側ベース壁部11と、縦壁材40からやや室内側に離れた位置において上側ベース壁部11から下方に延びる下側ベース壁部12と、下側ベース壁部12の下端から室内側に向けて延びる下壁部13とを有している。
【0035】
上側ベース壁部11は、カバー部3(後述する表壁部14)と上側ベース壁部11との双方を貫通するビス9を介して、縦壁材40の室内側の面に密着しつつ固定される。上側ベース壁部11には、室内側に向けて突出する複数の(当実施形態では2つの)リブ19が一体に形成されている。各リブ19は、ビス9の取付位置(後述する凹入部14a)の上下の近傍に設けられており、ビス9の取付け時にベース部2とカバー部3との距離を一定に保つ(カバー部3の変形を抑制する)役割を果たす。
【0036】
下側ベース壁部12は、通気幅木1が縦壁材40に取り付けられた状態(図1図2)において、縦壁材40の室内側の面から離間するように配置される。これにより、下側ベース壁部12と縦壁材40との間には、上述した通気用隙間Xと連通する第1隙間S1が形成される。
【0037】
下壁部13は、室内側に至るほど高さが低くなるように傾斜している。ただし、下壁部13の傾斜はかなり緩やかであり、その傾斜角度(水平面との交差角度)は十分に小さい値に設定されている。通気幅木1が縦壁材40に取り付けられた状態(図1図2)において、下壁部13は、その先端部(室内側の端部)が床材30の上面にほぼ当接するように配置される。
【0038】
カバー部3は、ベース部2(上側ベース壁部11および下側ベース壁部12)よりも室内側において上下方向に延びる表壁部14と、表壁部14の上端から縦壁材40に向けて延びる上壁部16と、上壁部16の端部(縦壁材40に近い側の端部)から下方に延びる延長壁部17と、表壁部14の下端から下側ベース壁部12に向けて延びる折曲壁部15とを有している。
【0039】
表壁部14は、その下側の一部が下側ベース壁部12と対向するように配置され、この対向部分と下側ベース壁部12との間には、室内空間Rと連通する第2隙間S2が形成されている。
【0040】
表壁部14における上側ベース壁部11と対向する部分には、上側ベース壁部11に接近する方向に凹入する凹入部14aが形成されている。この凹入部14aには、上述したビス9の頭部が収容される。
【0041】
折曲壁部15は、表壁部14の下端から離れるほど(下側ベース壁部12に接近するほど)高さが低くなるように傾斜している。この折曲壁部15は、上述したベース部2の下壁部13とは反対向きに傾斜しており、かつその傾斜角度(水平面との交差角度)は下壁部13のそれよりも大きくなるように設定されている。折曲壁部15の先端(下側ベース壁部12に近い側の端部)は、下壁部13よりも高く、かつ、下側ベース壁部12よりも室内側に離れた位置に配置されている。
【0042】
延長壁部17は、上側ベース壁部11よりも上方において、当該上側ベース壁部11と同一の平面に沿って上下方向に延びるように形成されている。延長壁部17と上側ベース壁部11とは、ヒンジ部4を介して互いに連結されている。
【0043】
図4は、下側ベース壁部12を図3の右側から見た背面図である。この図4および先の図1図3に示すように、下側ベース壁部12には、上述した第1隙間S1と第2隙間S2とを連通させる通気孔20が形成されている。通気孔20は、図4に示すように、水平方向に一定ピッチで並ぶ複数の単位孔20aを有している。各単位孔20aは、鉛直方向に対し傾斜しつつ上下方向に延びる長孔とされている。なお、単位孔20aが傾斜しているため、図2および図3の断面上には本来、単位孔20aの一部しか現れないはずであるが、図2および図3では便宜上、単位孔20aの全範囲(上端から下端まで)を断面上に表している。このことは、後述する図5および図6でも同様である。
【0044】
嵌合部5は、上側ベース壁部11の室内側の面から突出する上下一対の被嵌合壁22と、表壁部14から上側ベース壁部11に向けて突出し、一対の被嵌合壁22の間に嵌挿される嵌合突起23とを有している。図3に示すように、嵌合突起23は、上下に張り出すように断面略台形状に形成された先端部23aを有している。各被嵌合壁22の内面には、嵌合突起23の先端部23aと係合する爪部22aがそれぞれ形成されている。
【0045】
化粧シート6(図3)は、例えば縦壁材40と同様の意匠面を有するように成形されたシートであり、接着剤を介してカバー部3の表面に固定されている。具体的に、化粧シート6は、カバー部3の表面におけるヒンジ部4の近傍を除いた範囲に限定して貼着されている。すなわち、化粧シート6は、表壁部14、折曲壁部15、および上壁部16の各表面を全面的に覆うとともに、延長壁部17の上側の一部を限定的に覆うように貼着されている。一方、ヒンジ部4に隣接する延長壁部17の下側の一部には化粧シート6は貼着されていない。
【0046】
図5は、図2の下側の一部を拡大して示す拡大断面図である。本図に示すように、下側ベース壁部12と縦壁材40との面間距離(つまり第1隙間S1の幅)を第1面間距離L1とし、表壁部14と下側ベース壁部12との面間距離(つまり第2隙間S2の幅)をL2とし、折曲壁部15の先端と下側ベース壁部12との距離を出口幅L3とする。また、図4に示す水平方向の距離Lx(例えば1m)を基準長さとし、この基準長さLxあたりの通気孔20の面積(つまり基準長さLx中に含まれる所定数の単位孔20aの合計面積)を有効通気孔面積Ahとする。さらに、第1面間距離L1に基準長さLxを掛けた値(つまり第1隙間S1の横断面積)を第1隙間面積As1とし、第2面間距離L2に基準長さLxを掛けた値(つまり第2隙間S2の横断面積)を第2隙間面積As2とし、出口幅L3に基準長さLxを掛けた値(つまり折曲壁部15の先端と下側ベース壁部12との隙間の横断面積)を通気出口面積As3とする。
【0047】
図5から理解されるように、当実施形態では、出口幅L3よりも第1面間距離L1の方が大きく、かつ第1面間距離L1よりも第2面間距離L2の方が大きくなっている。また、このことに準じて、通気出口面積As3よりも第1隙間面積As1の方が大きく、かつ第1隙間面積As1よりも第2隙間面積As2の方が大きくなっている。すなわち、当実施形態では、L3<L1<L2の関係、およびAs3<As1<As2の関係が成立する。
【0048】
一方、有効通気孔面積Ahは、第1隙間面積As1と第2隙間面積As2との中間の値、つまり第1隙間面積As1よりも大きくかつ第2隙間面積As2よりも小さい値をとるように設定されている。これにより、当実施形態では、As3<As1<Ah<As2の関係が成立する。
【0049】
以上説明したように、当実施形態における通気幅木1は、縦壁材40に取り付けられた状態において、縦壁材40との間に通気用隙間Xと連通する第1隙間S1を画成する下側ベース壁部12と、下側ベース壁部12との間に室内空間Rと連通する第2隙間S2を画成する表壁部14と、表壁部14の下端から下側ベース壁部12に向けて延びる折曲壁部15とを備えており、下側ベース壁部12には、第1隙間S1と第2隙間S2とを連通させる通気孔20が形成されている。このような構成によれば、例えば床材30に重量物が落下する等により重量床衝撃音が生じたときに、下層階へ伝達される騒音のレベルを効果的に低減できるという利点がある。
【0050】
すなわち、上記実施形態によれば、重量床衝撃音の発生時に、図6に示すように、床下空間P内の空気が、通気用隙間X→第1隙間S1→通気孔20→第2隙間S2、という順に流れた後、折曲壁部15により狭小化された第2隙間S2の出口部(折曲壁部15の先端と下側ベース壁部12との隙間)を通って室内空間Rに排出される(破線の矢印参照)。このように、方向転換を繰り返しながら狭小な出口部を通って室内空間Rに空気が排出されることにより、空気の振動である音のエネルギー(音響エネルギー)の多くを摩擦熱等の熱エネルギーに変換することができ、音響エネルギーを効果的に低減することができる。これにより、重量床衝撃音に伴い床下空間Pで生じるいわゆる太鼓現象を効果的に抑制することができ、下層階に伝達される騒音のレベルを十分に低減することができる。
【0051】
また、上記実施形態では、下側ベース壁部12に近づくほど高さが低くなるように折曲壁部15が傾斜しているので、折曲壁部15と下側ベース壁部12との間にノズル状(先窄まり状)の隙間が形成され、当該ノズル状の隙間を通じて円滑に空気を排出することができる。
【0052】
また、上記実施形態では、第1隙間S1と第2隙間S2とを連通する上記通気孔20として、水平方向に一定ピッチで並ぶ複数の単位孔20aが形成されるので、各単位孔20aを空気が通過する際に、空気流を複数の流れに分岐させてその後集合させることができる。これにより、空気流が乱されてエネルギーの消費量が増大するので、音響エネルギーをより低減することができ、下層階への重量床衝撃音の伝達を十分に抑制することができる。
【0053】
また、上記実施形態では、複数の単位孔20aがそれぞれ鉛直方向に対し傾斜しつつ上下方向に延びるように形成されるので、例えば各単位孔20aを上下方向に真っ直ぐ延びるように形成した場合と異なり、所要面積の通気孔20(複数の単位孔20a)を下側ベース壁部12における比較的小さい高さ範囲に支障なく形成することができる。
【0054】
また、上記実施形態では、水平方向の基準長さLxあたりの通気孔20の面積である有効通気孔面積Ahと、第1隙間S1の横断面積である第1隙間面積As1と、第2隙間S2の横断面積である第2隙間面積As2と、折曲壁部15の先端と下側ベース壁部12との隙間の横断面積である通気出口面積As3とが、As3<As1<Ah<As2の関係を満たすように設定されているので、音響エネルギーを効率よく低減して騒音抑制効果を高めることができる。
【0055】
すなわち、As3<As1<Ah<As2の関係が成立する上記実施形態によれば、通気用隙間Xから導入された空気が第1隙間S1→通気孔20→第2隙間S2の順に通過しつつ室内空間Rに排出される過程で、空気の流通面積は、段階的に大きくなった後に最小値へと急減することになる。例えば、第1隙間S1から通気孔20へと空気が移動するときにその流通面積がAs1からAhへと拡大し、通気孔20から第2隙間S2へと空気が移動するときにその流通面積がAhからAs2へと拡大する。さらにその後、第2隙間S2からその出口部(折曲壁部15の先端と下側ベース壁部12との隙間)を通じて空気が排出されるときには、流通面積がAs2から最小のAs3へと急減する。これにより、空気の流速および圧力が多段階に変化させられるとともに、面積が最小化された第2隙間S2の出口部において空気流に十分な抵抗(摩擦熱)が付与されるので、音響エネルギーを効率よく熱エネルギーに変換することができ、下層階に伝達される騒音のレベルを十分に低減することができる。
【0056】
また、上記実施形態では、上側ベース壁部11、下側ベース壁部12、および下壁部13を含むベース部2と、表壁部14、折曲壁部15、上壁部16、および延長壁部17を含むカバー部3とが、屈曲自在なヒンジ部4を介して連結されており、かつ、表壁部14と上側ベース壁部11との間の嵌合部5を介してベース部2とカバー部3とが着脱自在に結合されているので、下側ベース壁部12に通気孔20を加工する作業を支障なく行うことができる。
【0057】
例えば、図7に示すように、嵌合部5による嵌合を解除した状態(カバー部3を開放した状態)で、ベース部2を治具25により保持するとともに、この保持されたベース部2に対し孔開け用の加工刃26を接近させることにより、ベース部2の下側ベース壁部12に通気孔20(複数の単位孔20a)を容易に形成することができる。
【0058】
また、上記実施形態では、ヒンジ部4が軟質樹脂によりベース部2およびカバー部3と一体に形成されるとともに、このヒンジ部4に隣接する範囲(延長壁部17の下側の一部)を除くカバー部3の表面に化粧シート6が貼着されているので、例えば化粧シート6を加熱によりカバー部3に貼着する際に、その加熱の影響によりヒンジ部4が高温になるのを抑制することができる。これにより、軟質樹脂製のヒンジ部4が熱により変形または変性したり、ヒンジ部4の可撓性(柔軟性)が低下したりするのを防止することができる。
【0059】
なお、上記実施形態では、通気出口面積As3、第1隙間面積As1、有効通気孔面積Ah、第2隙間面積As2の順に面積が大きくなる(As3<As1<Ah<As2の関係が成立する)ように通気幅木1を形成したが、例えば第1隙間面積As1と有効通気孔面積Ahとの大小関係を逆転させ、As3<Ah<As1<As2の関係が成立するようにしてもよい。この構成によれば、通気用隙間Xからの空気が第1隙間S1→通気孔20→第2隙間S2の順に通過しつつ室内空間Rに排出される過程で、空気の流通面積は拡大と縮小を繰り返すことになる。このようにした場合でも、音響エネルギーを効率よく熱エネルギーに変換することができ、下層階に伝達される騒音のレベルを十分に低減することができる。
【0060】
また、上記実施形態では、ヒンジ部4を中心に角度変更可能なベース部2とカバー部3とを嵌合部5を介して着脱自在に結合したが、ベース部2とカバー部3とを着脱不能に(一体に)形成してもよい。さらにこの場合、通気幅木1における第1・第2隙間S1,S2よりも上方の部分を中空ではなく中実に形成してもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 通気幅木
2 ベース部
3 カバー部
4 ヒンジ部
5 嵌合部
6 化粧シート
11 上側ベース壁部
12 下側ベース壁部
14 表壁部
15 折曲壁部
20 通気孔
20a 単位孔
30 床材
40 縦壁材
P 床下空間
R 室内空間
S1 第1隙間
S2 第2隙間
X 通気用隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7