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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-22
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20220111BHJP
【FI】
B41J2/14 101
B41J2/14
B41J2/14 605
B41J2/14 611
B41J2/14 607
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018026365
(22)【出願日】2018-02-16
(65)【公開番号】P2019142034
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】新荻 正隆
【審査官】牧島 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-262977(JP,A)
【文献】特開2006-102976(JP,A)
【文献】特開2003-118112(JP,A)
【文献】特開2003-118101(JP,A)
【文献】登録実用新案第3123820(JP,U)
【文献】特開2009-083169(JP,A)
【文献】特開平05-038809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向し合う第1面及び第2面を有する吐出体と、
前記吐出体に形成され、内部に液体が収容されると共に収容された液体を吐出する吐出口が前記第1面に開口した液体吐出路と、
前記第2面側に配設され、駆動電圧の印加によって前記液体吐出路に向けて音波を放射する音波発生素子と、を備え、
前記吐出体には、前記液体吐出路内と前記吐出体の外部とを連通すると共に、外部から前記液体吐出路内に液体を導入する液体導入路が形成され、
さらに前記吐出体には、前記液体吐出路内と前記吐出体の外部とを連通すると共に、前記液体吐出路内から外部に液体を排出する液体排出路が形成されている、液体吐出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体吐出装置において、
前記音波発生素子から放射された音波を前記液体吐出路内に集束させる音響レンズを備える、液体吐出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の液体吐出装置において、
前記液体吐出路は、前記吐出口から前記音響レンズに向かうにしたがって、該液体吐出路の内径が漸次拡径するように形成されている、液体吐出装置。
【請求項4】
互いに対向し合う第1面及び第2面を有する吐出体と、
前記吐出体に形成され、内部に液体が収容されると共に収容された液体を吐出する吐出口が前記第1面に開口した液体吐出路と、
前記第2面側に配設され、駆動電圧の印加によって前記液体吐出路に向けて音波を放射する音波発生素子と、を備え、
前記音波発生素子は、
支持基板と、
前記支持基板に組み合わされると共に、駆動電圧の印加によって振動することで音波を発生させて、前記液体吐出路に向けて音波を放射する振動部と、を備えている、液体吐出装置。
【請求項5】
請求項に記載の液体吐出装置において、
前記振動部は、
前記支持基板に形成された第1電極と、
前記第1電極に対して所定の隙間をあけて配置されると共に、前記第1電極との間に印加された駆動電圧に応じて、静電気力によって前記第1電極側に変位する第2電極と、
前記支持基板に変位可能に支持されると共に、前記第2電極と一体に形成され、前記第2電極に伴って変位する振動片と、を備え、
前記音波発生素子は、前記第1電極と前記第2電極との間に駆動電圧を印加すると共に、該駆動電圧を時間的に変動させる電圧印加部を備えている、液体吐出装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の液体吐出装置において、
前記吐出体は、前記支持基板の平面視で、少なくとも一方向に一定のピッチで配列されるように複数設けられ、
前記振動部は、前記吐出体に対応して複数設けられると共に、音波を各別に発生させる、液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、超音波等の音波の圧力を利用して、液滴を吐出させる(飛翔させる)技術が知られている。例えば下記特許文献1には、液面に集束する超音波ビームの圧力を利用して、インク滴を吐出させる超音波印字ヘッドが開示されている。
【0003】
超音波印字ヘッドは、例えば一列に配列されたインク噴射素子を備えている。インク噴射素子は、インクが満たされたインク槽、及びインク槽の底面に設けられた集束型超音波発振子を備えている。集束型超音波発振子は、駆動電圧の印加により液面に向けて超音波ビームを放射すると共に、液面に超音波ビームを集束させている。これにより、インクの液面における超音波集束点(焦点)において、液面振幅を増大させることができ、液面からインク滴として霧状化したインクを吐出することが可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-255364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の超音波印字ヘッドでは、インク槽の底面に集束型超音波発振子を設ける必要があるので、インク槽自体を大きく設計する必要があり、小型化を図ることが難しいものであった。また、インクの液面に液面振幅を生じさせる必要があるので、大きな音圧の超音波ビームを放射することが求められる。そのため、駆動電圧を高くする必要があり、消費電力が高くなり易かった。
さらに、超音波ビームがインクの液面に適切に集束するように音圧を制御することが難しく、インク滴を安定に吐出することが難しい場合があった。特に、インク槽自体が大きく、インク槽内に多量のインクが溜められているので、集束した超音波ビームのエネルギーがインク内に分散し易い。この点においてもインク滴を安定に吐出し難かった。
【0006】
本発明は、このような事情に考慮してなされたもので、その目的は、液滴を安定且つ効率良く吐出することができると共に、小型化及び低消費電力化を図ることができる液体吐出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係る液体吐出装置は、互いに対向し合う第1面及び第2面を有する吐出体と、前記吐出体に形成され、内部に液体が収容されると共に収容された液体を吐出する吐出口が前記第1面に開口した液体吐出路と、前記第2面側に配設され、駆動電圧の印加によって前記液体吐出路に向けて音波を放射する音波発生素子と、を備え、前記吐出体には、前記液体吐出路内と前記吐出体の外部とを連通すると共に、外部から前記液体吐出路内に液体を導入する液体導入路が形成され、さらに前記吐出体には、前記液体吐出路内と前記吐出体の外部とを連通すると共に、前記液体吐出路内から外部に液体を排出する液体排出路が形成されている
【0008】
本発明に係る液体吐出装置によれば、駆動電圧を印加することで、音波発生素子から超音波等の音波を液体吐出路に向けて放射することができる。これにより、音波によるエネルギーを利用して、液体吐出路内に収容されている液体を、その液面から局所的に押し上げることができると共に、液滴として飛ばすことができる。その結果、吐出口から外部に向けて液滴を吐出することができる。
特に、音波発生素子を吐出体の第2面側に配置して吐出体とは別体にしているので、例えば従来のように液体吐出路内に音波発生素子を配置する必要がない。そのため、音波発生素子を考慮することなく、液体吐出路を設計できるので、液体吐出路を例えばマイクロ流路等の微小流路とすることが可能である。これにより、吐出体を小型化することができると共に、装置全体の小型化を図ることができる。また、液体吐出路を微小流路にできるので、多量の液体を溜めておく必要がない。そのため、高いエネルギーを効率良く発生させ易く、液滴を安定且つ効率良く吐出させることできる。従って、エネルギー効率の高い液体吐出装置とすることができると共に、駆動電圧を小さくすることができるので低消費電力化を図ることができる。
さらに、液体導入路を通じて外部から液体吐出路内に液体を適宜導入することができるので、液体を途切れさせることなく、連続的に液滴を吐出させることができる。また、液体吐出路内に収容されている液体の量を一定に維持することができるので、例えば液面付近に音波のエネルギーを集中させ易く、液滴を効率良く吐出させ易い。さらに、液体の種類等を適宜変更することも可能であるので、多種多様な液滴を吐出することができ、使い易く利便性に優れている。
さらに、液体排出路を通じて液体吐出路内の液体を排出することができるので、例えば必要に応じて、液体導入路、液体吐出路及び液体排出路を通じて液体を循環させることが可能となり、新しい液体から液滴を吐出することができる。さらに、別の種類の液体への入れ替え等をスムーズに行うことも可能である。
【0009】
(2)前記音波発生素子から放射された音波を前記液体吐出路内に集束させる音響レンズを備えても良い。
【0010】
この場合には、音響レンズを利用して音波発生素子から放射された音波を液体吐出路内に集束させることができるので、液体吐出路内に音波が集束した焦点領域を形成することができる。従って、焦点領域においてより高いエネルギーを発生させることができ、液体吐出路内に収容されている液体を、さらに安定且つ効率良く液滴として外部に向けて吐出させることができる。さらに、音響レンズを利用するので、減衰を抑制しながら音波を集束することができ、焦点領域に高いエネルギーを安定に発生させ易い。従って、この点においても液滴を安定に吐出させることができるうえ、音波制御を行い易い。しかも、音響レンズによって減衰を抑制しながら音波を集束させ、焦点領域に高いエネルギーを効率良く発生させることができるので、駆動電圧をさらに小さくすることができ、さらなる低消費電力化を図り易い。
【0011】
(3)前記液体吐出路は、前記吐出口から前記音響レンズに向かうにしたがって、該液体吐出路の内径が漸次拡径するように形成されても良い。
【0012】
この場合には、音響レンズによって集束した音波を、音響レンズを通過した初期段階から液体吐出路内に進入させ易くなるので、例えば吐出体内を透過させずに、液体内を進行するように音波を集束させることができる。これにより、音波の減衰をさらに抑制することができ、焦点領域に高いエネルギーをさらに安定に発生させ易い。従って、液滴をより安定して吐出することができると共に、低消費電力化をより一層図ることができる。
【0017】
本発明に係る液体吐出装置は、互いに対向し合う第1面及び第2面を有する吐出体と、前記吐出体に形成され、内部に液体が収容されると共に収容された液体を吐出する吐出口が前記第1面に開口した液体吐出路と、前記第2面側に配設され、駆動電圧の印加によって前記液体吐出路に向けて音波を放射する音波発生素子と、を備え、前記音波発生素子は、支持基板と、前記支持基板に組み合わされると共に、駆動電圧の印加によって振動することで音波を発生させて、前記液体吐出路に向けて音波を放射する振動部と、を備えている
【0018】
この場合には、半導体基板等の支持基板に振動部が組み合わされることで音波発生素子が構成されているので、音波発生素子自体を小型化、薄型化し易く、装置全体のさらなる薄型化に貢献することができる。
【0019】
)前記振動部は、前記支持基板に形成された第1電極と、前記第1電極に対して所定の隙間をあけて配置されると共に、前記第1電極との間に印加された駆動電圧に応じて、静電気力によって前記第1電極側に変位する第2電極と、前記支持基板に変位可能に支持されると共に、前記第2電極と一体に形成され、前記第2電極に伴って変位する振動片と、を備え、前記音波発生素子は、前記第1電極と前記第2電極との間に駆動電圧を印加すると共に、該駆動電圧を時間的に変動させる電圧印加部を備えても良い。
【0020】
この場合には、電圧印加部によって第1電極と第2電極との間に駆動電圧を印加すると、静電気力によって電極間に引力が作用して、第1電極側に第2電極が変位する。そのため、電圧印加部が駆動電圧を時間的に変動させることで、第2電極の変位も時間的に変動する。これにより、第2電極と一体に形成された振動片を振動させることができ、音波を発生させることができる。特に、駆動電圧を変動させることで、例えば所望の音圧となるような音波を発生させることができるので、音波のエネルギーを任意に調整し易い。従って、吐出する液滴の状態をコントロールすることが可能である。
【0021】
)前記吐出体は、前記支持基板の平面視で、少なくとも一方向に一定のピッチで配列されるように複数設けられ、前記振動部は、前記吐出体に対応して複数設けられると共に、音波を各別に発生させても良い。
【0022】
この場合には、一定のピッチで配列された複数の吐出体のそれぞれから液滴を吐出させることができるので、例えば超音波インクヘッド等として好適に利用することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る液体吐出装置によれば、液滴を安定且つ効率良く吐出することができると共に、小型化及び低消費電力化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に係る液体吐出装置の第1実施形態を示す縦断面図である。
図2図1に示す吐出体の縦断面図である。
図3図1に示す状態から、第2電極層及び振動片を変位させた状態を示す液体吐出装置の縦断面図である。
図4図3に示す状態から、焦点領域に集束した超音波のエネルギーを利用して液体を局所的に押し上げている状態を示す図である。
図5図4に示す状態から、局所的に押し上げた液体を液滴として飛ばした状態を示す図である。
図6図5に示す状態から、吐出口を通じて液滴を外部に吐出させた状態を示す図である。
図7】本発明に係る液体吐出装置の第2実施形態を示す外観斜視図である。
図8図7に示す液体吐出装置の一部を拡大した縦断面図である。
図9】本発明に係る液体吐出装置の変形例を示す図であって、吐出口から音響レンズに向かうにしたがって内径が漸次拡大した液体吐出路が形成された吐出体の縦断面図である。
図10】本発明に係る液体吐出装置の別の変形例を示す図であって、吐出口から音響レンズに向かうにしたがって内径が漸次拡大した液体吐出路が形成された吐出体の縦断面図である。
図11】本発明に係る液体吐出装置のさらに別の変形例を示す縦断面図である。
図12】本発明に係る液体吐出装置のさらに別の変形例を示す図であって、音響レンズが一体に形成された吐出体の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1実施形態)
以下、本発明に係る液体吐出装置の第1実施形態について図面を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態の液体吐出装置1は、厚さ方向に互いに対向し合う第1面2a及び第2面2bを有する吐出体2と、吐出体2に形成され、内部に液体Wが収容されると共に収容された液体Wを吐出する吐出口4が第1面2aに開口した液体吐出路3と、第2面2b側に配設され、駆動電圧の印加によって液体吐出路3に向けて超音波(音波)を放射する音波発生素子5と、音波発生素子5から放射された音波を液体吐出路3内に集束する音響レンズ6と、を備えている。
なお、液体Wとしては例えば水、薬液、洗浄液、溶液、インク液等が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0026】
図1及び図2に示すように、吐出体2は、例えば所定の厚さを有する直方体状或いは正方形状等のブロック状に形成されている。ただし、吐出体2の形状はこの場合に限定されるものではない。
本実施形態では、吐出体2の厚さ方向に沿った第1面2a側を上方といい、その反対の第2面2b側を下方という。従って、吐出体2は、音波発生素子5の上方に配置された状態で音波発生素子5に対して組み合わされている。
【0027】
吐出体2の第2面2b側には、上方に向けて凹んだ収容凹部10が形成されている。収容凹部10は、第2面2bにおける中央部分に形成され、平面視円形状に形成されている。液体吐出路3は、吐出体2の略中央部分を上下に貫通するように形成されている。そのため、液体吐出路3は、第1面2a側に開口すると共に収容凹部10内を通じて第2面2b側に開口している。なお、液体吐出路3のうち、第1面2a側に開口している開口部が吐出口4として機能する。
ただし、液体吐出路3は、少なくとも第1面2a側に開口していれば良く、収容凹部10内に連通していなくても構わない。
【0028】
さらに吐出体2には、液体吐出路3内と吐出体2の外部とを連通すると共に、外部から液体吐出路3内に液体Wを導入する液体導入路11が形成されている。液体導入路11は、例えば第1面2aの面内方向に沿って延びるように形成され、一端側が液体吐出路3のうち上下方向の中間部分に一体に接続され、他端側が吐出体2の側面側に開口している。なお、液体導入路11のうち、吐出体2の側面側に開口している開口部は、導入口12として機能する。
【0029】
上述した収容凹部10、液体吐出路3及び液体導入路11が形成された吐出体2は、例えば合成樹脂、ガラス、金属、セラミック等で形成されるが、特定の材質に限定されるものではない。また、収容凹部10、液体吐出路3及び液体導入路11は、例えばレーザ加工等により形成されている。
本実施形態の液体吐出路3及び液体導入路11は、例えばその内径が数十μmとされた微小流路、すなわちマイクロ流路とされている。このようなマイクロ流路として液体吐出路3及び液体導入路11を形成する場合には、例えばパルス幅をフェムト秒レベル(1/10-15秒)まで極短パルス化したレーザを利用したフェムト秒レーザ加工を行うことで形成することが可能である。フェムト秒レーザ加工によれば、任意の3次元加工が可能であるので、ブロック状に吐出体2を形成した後、液体吐出路3及び液体導入路11をマイクロ流路として容易且つ確実に形成することができる。
【0030】
図1に示すように、導入口12には、液体Wを導入する導入部13が接続されている。導入部13は、例えば図示しない液槽内の液体Wを、液体導入路11を通じて液体吐出路3内に導入する。この際、導入部13は例えば液体吐出路3内から液体Wが減った分の量、すなわち液滴として外部に吐出した吐出量を補充するように液体Wを導入することが可能とされている。これにより、液体導入路11内には、常に一定の量の液体Wを収容することが可能とされている。具体的には、液体吐出路3内には、液体導入路11の内面のうち上側内面と同等の高さ位置に液面が位置するように液体Wが収容されている。
【0031】
音響レンズ6は、収容凹部10の形状に対応して平面視円形状に形成されていると共に、その上面(レンズ面)6aが下方に凹んだ凹面レンズとされている。音響レンズ6は、収容凹部10内に例えば下方から圧入等によって嵌め込まれることで、収容凹部10内に密に嵌合されている。これにより、音響レンズ6は、液体吐出路3の下方側をシールした状態した状態で吐出体2に一体に組み合わされている。
【0032】
なお、音響レンズ6は、例えば単結晶シリコン、シリコンゴム或いはガラス等で形成されるが、特定の材質に限定されるものではない。さらに音響レンズ6のレンズ面である上面6aは、球面レンズであっても構わないし、非球面レンズであっても構わない。
【0033】
図2に示すように、音響レンズ6は、音波発生素子5から放射された超音波(図2において矢印で示している)を屈折させることで、液体吐出路3内に集束させる。具体的には、液体吐出路3内に収容されている液体Wの液面付近に集束するように超音波を集束させる。これにより、液体Wの液面付近に、超音波が集束した焦点領域Pを形成すすることが可能とされている。
【0034】
図1及び図3に示すように、音波発生素子5は、支持基板20と、支持基板20に組み合わされると共に、駆動電圧の印加によって振動することで超音波を発生させて、音響レンズ6を通じて超音波を放射する振動部21と、を備えている。
振動部21は、支持基板20に形成された第1電極層(第1電極)22と、第1電極層22に対して所定の隙間をあけて配置されると共に、第1電極層22との間に印加された駆動電圧に応じて、静電気力(クーロン力)によって第1電極層22側に変位する第2電極層(第2電極)23と、支持基板20に変位可能に支持されると共に、第2電極層23に一体に形成され、第2電極層23に伴って変位する振動片24と、を備えている。
【0035】
以下、音波発生素子5について詳細に説明する。
音波発生素子5は、シリコン基板等の半導体基板とされたベース基板30と、ベース基板30の上面に第1電極層22を介して重なった絶縁性基板31と、絶縁性基板31の上面に形成された絶縁膜32と、を備えた、いわゆる半導体デバイスとされている。
【0036】
ベース基板30は、一定の厚みを有すると共に、平面視で吐出体2よりも大きい外形サイズの基板とされている。第1電極層22は、ベース基板30の上面にその全面に亘って形成されている。
絶縁性基板31は、例えばベース基板30と同等の厚みとされていると共に、その外形サイズもベース基板30と同等とされている。絶縁性基板31の内部には、例えばその内側が真空状態に維持された空隙室33が形成されている。空隙室33は、例えば平面視円形状に形成され、吐出体2の下方に位置するように形成されている。図示の例では、空隙室33は、その直径が音響レンズ6よりも大きく、且つ吐出体2よりも小さくなるように形成されている。
ただし、空隙室33の形状は、平面視円形状に限定されるものではなく、例えば平面視矩形状或いは多角形状であっても構わない。
【0037】
絶縁性基板31のうち空隙室33の周囲を囲む部分は、枠部31aとされている。そして、絶縁性基板31のうち空隙室33よりも上方に位置する部分は、空隙室33の形状に対応して平面視円形状に形成され、上下方向に変位可能に枠部31aに支持された上記振動片24として機能する。
振動片24は、その外周縁部24aが全周に亘って枠部31aに一体に接続されることで、上下方向に変位可能に支持されている。従って振動片24は、その中央部分24bが上下方向に大きく変位することが可能とされている。
なお、絶縁性基板31における枠部31a及びベース基板30は、振動片24を変位可能に支持する上記支持基板20として機能する。
【0038】
上記第2電極層23は、振動片24における中央部分24bの上面に形成されている。第2電極層23は、例えば平面視円形状に形成され、その直径は音響レンズ6と略同径とされている。ただし、第2電極層23の形状及びサイズは、この場合に限定されるものではなく、適宜変更して構わない。
【0039】
上記絶縁膜32は、第2電極層23を被覆するように絶縁性基板31の上面に全面に亘って形成されている。絶縁膜32のうち振動片24における外周縁部24aの上方に位置する部分には、外周縁部24aに対応して平面視円形状の環状凹部35が上方に開口するように形成されている。
絶縁膜32のうち環状凹部35よりも外側に位置する部分は、絶縁性基板31における枠部31aの上方に位置し、且つ枠部31aに一体に形成された外膜部32aとして機能する。これに対して絶縁膜32のうち環状凹部35よりも内側に位置する部分は、振動片24の上方に位置して第2電極層23を覆うと共に、振動片24に一体に形成された内膜部32bとして機能する。従って、内膜部32bは、振動片24と共に上下方向に変位可能とされている。
【0040】
上述のように構成された音波発生素子5は、第1電極層22と、誘電体として機能する空隙室33及び絶縁性基板31を間に挟んで第1電極層22の上方に隙間をあけて配置された第2電極層23と、を有する、キャパシタ(コンデンサ)としての機能を果たす。
音波発生素子5は、第1電極層22と第2電極層23との間に駆動電圧を印加すると共に、駆動電圧を時間的に変動させる電圧印加部36をさらに備えている。
【0041】
電圧印加部36によって第1電極層22と第2電極層23との間に駆動電圧が印加されると、第1電極層22と第2電極層23との間には、プラスの電荷とマイナスの電荷とが引き合う静電気力(クーロン力)によって引力が作用する。これにより、図3に示すように、第2電極層23は第1電極層22側に向けて(すなわち下方に向けて)変位する。そのため、第2電極層23の変位に伴って振動片24が下方に変位する。なお、静電気力は、例えば誘電体の誘電率、両電極層22、23の面積、及び両電極層22、23間の間隔等に応じて決定される。
さらに、上記引力は駆動電圧に応じて変化する。従って、電圧印加部36によって駆動電圧を時間的に変動させることで、第2電極層23に伴って変位する振動片24の変位を時間的に変動させることが可能とされている。これにより、振動片24を上下方向に振動させて、超音波を発生させることが可能とされている。
【0042】
図1及び図3に示すように、吐出体2は、絶縁膜32における外膜部32aの上面に一体に固定されている。なお、振動片24の上面に形成された絶縁膜32における内膜部32bは、吐出体2及び音響レンズ6に対して下方から離間可能に接触している。これにより、吐出体2を静止させた状態のまま、振動片24を振動させて超音波を発生させることが可能とされ、発生した超音波を音響レンズ6側に放射することが可能とされている。
【0043】
(液体吐出装置の作用)
上述のように構成された液体吐出装置1によって、液体吐出路3内に収容されている液体Wから、液滴を吐出する場合について説明する。
【0044】
この場合には、電圧印加部36により第1電極層22と第2電極層23との間に駆動電圧を印加することで、音波発生素子5から超音波を液体吐出路3に向けて放射することができる。具体的には、図3に示すように、電圧印加部36によって第1電極層22と第2電極層23との間に駆動電圧を印加することで、静電気力によって両電極層22、23間に引力を作用させることができ、第1電極層22側に第2電極層23及び振動片24を変位させることができる。そのため、電圧印加部36が駆動電圧を時間的に変動させることで、第2電極層23及び振動片24の変位を時間的に変動させて、上下方向に振動させることができる。これにより、超音波を発生させることができ、音響レンズ6を通じて液体吐出路3に向けて放射することができる。
【0045】
すると音響レンズ6は、図2に示すように、放射された超音波を液体吐出路3内に集束させる。具体的には、液体吐出路3内に収容されている液体Wの液面付近に超音波を集束させる。これにより、液面付近に、超音波が集束した焦点領域Pを形成することができ、焦点領域Pにおいて高いエネルギーを発生させることができる。そのため、図4に示すように、このエネルギーを利用して液体Wを、その液面から局所的に上方に押し上げることができると共に、液滴として飛ばすことができる。その結果、図5及び図6に示すように、吐出口4から外部に向けて液滴を吐出することができる。
【0046】
特に、図1に示すように、音波発生素子5を吐出体2の第2面2b側に配置して吐出体2とは別体にしているので、例えば従来のように液体吐出路3内に音波発生素子5を配置する必要がない。そのため、音波発生素子5を考慮することなく液体吐出路3を設計できるので、液体吐出路3を微小なマイクロ流路とすることができる。これにより、吐出体2を小型化することができると共に装置全体の小型化を図ることができる。
【0047】
また、液体吐出路3及び液体導入路11をマイクロ流路にできるので、液体吐出路3内に多量の液体Wを溜めておく必要がない。そのため、図2に示すように、焦点領域Pに高いエネルギーを効率良く発生させ易く、液滴を安定且つ効率良く吐出させることできる。従って、エネルギー効率の高い液体吐出装置1とすることができる。
さらに、音響レンズ6を具備しているので、減衰を抑制しながら超音波を集束することができ、焦点領域Pに高いエネルギーを安定に発生させ易い。従って、この点においても液滴を安定に吐出させることができるうえ、音波制御を行い易い。しかも、減衰を抑制しながら超音波を集束させて焦点領域Pに高いエネルギーを効率良く発生させることができるので、駆動電圧を小さくすることができる。そのため、低消費電力化を図ることができる。
【0048】
以上説明したように、本実施形態の液体吐出装置1によれば、液滴を安定且つ効率良く吐出することができると共に、小型化及び低消費電力化を図ることができる。
さらに、音波発生素子5は、シリコン基板等の半導体基板とされたベース基板30と、ベース基板30の上面に第1電極層22を介して重なった絶縁性基板31と、絶縁性基板31の上面に形成された絶縁膜32と、を備えた、いわゆる半導体デバイスとされているので、小型化及び薄型化し易い。従って、液体吐出装置1全体のさらなる小型化、薄型化に貢献することができる。
【0049】
さらに、電圧印加部36が駆動電圧を変動させることで、例えば所望の音圧となるような超音波を発生させることができるので、焦点領域Pに集束する超音波のエネルギーを任意に調整し易い。従って、吐出する液滴の状態をコントロールすることが可能である。
【0050】
さらに、液体導入路11を通じて導入部13から液体吐出路3内に液体Wを適宜導入することができるので、液体Wを途切れさせることなく、連続的に液滴を吐出させることができる。また、液体吐出路3内に収容されている液体Wの量を一定に維持することができるので、例えば液面付近に、超音波が集束する焦点領域Pを安定に形成することが可能である。従って、超音波が集束したエネルギーを利用して、液滴を効率良く吐出させ易い。
さらに、例えば液体Wの種類等を適宜変更することも可能であるので、多種多様な液滴を吐出することができ、使い易く利便性に優れている。
【0051】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る液体吐出装置の第2実施形態について図面を参照して説明する。
なお、第2実施形態においては、第1実施形態における構成要素と同一の部分については、同一の符号を付しその説明を省略する。
【0052】
図7及び図8に示すように、本実施形態の液体吐出装置40は、支持基板20が一方向に向けて延びるように長尺に形成されている。すなわち支持基板20は、支持基板20の面内方向における第1方向L1よりも、第1方向L1に直交する第2方向L2に長く延びるように形成されている。
【0053】
吐出体2及び音響レンズ6は、第2方向L2に沿って一定のピッチで配列されるように複数設けられている。そして、振動片24及び第2電極層23は、これら吐出体2及び音響レンズ6に対応して複数設けられている。なお、第1電極層22は共通電極層として、ベース基板30の上面に全面に亘って形成されている。
【0054】
電圧印加部36は、複数の第2電極層23のそれぞれに対して駆動電圧を印加することができるように電気的接続されている。そのため、音波発生素子5は、各振動部21から超音波を各別に発生させることができ、各吐出体2の液体吐出路3内に向けて超音波を各別に放射することが可能とされている。
さらに、本実施形態の導入部13は、液体導入路11を通じて各吐出体2の液体吐出路3内に液体Wとして、インク液を導入する。
【0055】
上述のように構成された本実施形態の液体吐出装置40によれば、電圧印加部36によって、共通電極層である第1電極層22と、各第2電極層23との間に駆動電圧をそれぞれ印加することで、一定のピッチで配列された複数の吐出体2の吐出口4から、液滴としてインク滴をそれぞれ吐出させることができる。
従って、超音波インクヘッドとして好適に利用することができる。特に、インク滴を安定且つ効率良く吐出することができると共に、小型化及び低消費電力化を図りやすい超音波インクヘッドとすることができる。
【0056】
特に、本実施形態の液体吐出装置40によれば、超音波が集束した高いエネルギーを利用できるので、例えば高粘性インク、ゲル状インク等の粘性の高いインク液を利用したとしても、安定且つ効率良くインク滴を吐出することができる。このように、粘性の高いインク液等、多種多様なインク液に対応することが可能であり、使い易く利便性に優れた超音波インクヘッドとして利用することができる。
【0057】
なお、本実施形態では、吐出体2及び音響レンズ6を第2方向L2に沿って一定のピッチで配列したが、この場合に限定されるものではない。例えば吐出体2及び音響レンズ6を第2方向L2に沿って一定のピッチで配列した配列群を、さらに第1方向L1に複数列、配置しても構わない。
【0058】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。各実施形態は、その他様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことが可能であることに加え、各実施形態を適宜組み合わせてもよい。さらに、これら実施形態には、例えば当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、均等の範囲のものなどが含まれる。
【0059】
例えば、上記各実施形態では、音響レンズ6を具備する構成としたが、音響レンズ6は必須なものではなく、具備しなくても構わない。この場合であっても、音波発生素子5から放射された超音波によるエネルギーを利用して、液体吐出路3内に収容されている液体Wを、その液面から局所的に押し上げることができると共に、液滴として吐出口4から外部に向けて吐出することが可能である。
特に、液体吐出路3内に少量の液体Wを収容する場合には、音響レンズ6を利用して超音波を集束させなくても、液滴の吐出を好適に行うことが可能である。
【0060】
例えば、上記各実施形態では、液体吐出路3を上下方向にストレート状に形成したが、この場合に限定されるものではない。例えば、液体吐出路3を、吐出口4から音響レンズ6に向かうにしたがって、その内径が漸次拡径するように、図9に示すように断面テーパ状に形成しても構わないし、図10に示すようになだらかに湾曲しながら広がる末広がり状に形成しても構わない。
【0061】
このように液体吐出路3を構成した場合には、音響レンズ6によって集束した音波を、音響レンズ6を通過した初期段階から液体吐出路3内に進入させ易いので、吐出体2内を透過させずに、液体W内を進行するように超音波を集束させることができる。これにより、超音波の減衰をさらに抑制することができ、焦点領域Pに高いエネルギーをさらに安定に発生させ易い。そのため、液滴をより安定して吐出することができると共に、低消費電力化をより一層図ることができる。
【0062】
なお、図9及び図10に示す吐出体2には、液体導入路11を形成していない。このように、液体導入路11は必須なものではなく、具備しなくても構わない。
【0063】
さらに上記各実施形態において、吐出体2に、液体吐出路3内と吐出体2の外部とを連通すると共に、液体吐出路3内から外部に液体Wを排出する液体排出路をさらに形成しても構わない。例えば図11に示すように、吐出体2に液体排出路41を形成すると共に、液体排出路41を通じて液体吐出路3内の液体Wを排出する排出部42を設けても構わない。なお、図11では、液体排出路41の図示を簡略化している。
【0064】
この場合には、液体排出路41を通じて液体吐出路3内の液体Wを排出することができるので、例えば必要に応じて、液体導入路11、液体吐出路3及び液体排出路41を通じて液体Wを循環させることが可能となり、新しい液体Wから液滴を吐出することができる。さらに、別の種類の液体Wへの入れ替え等をスムーズに行うことも可能である。
【0065】
さらに、上記各実施形態では、音響レンズ6を収容凹部10内に嵌め込むことで、吐出体2に一体に組み合わせた構成としたが、この場合に限定されるものではない。例えば吐出体2の第2面2b側に音響レンズ6を配置し、吐出体2と音響レンズ6とを上下方向に重ね合わせる構成としても構わない。
さらには、音響レンズ6を吐出体2と別体に構成するのではなく、例えば図12に示すように、吐出体2の第2面2b側に音響レンズ6を一体に形成しても構わない。この場合であっても、同様の作用効果を奏功することができる。
【0066】
さらに、上記実施形態では、静電気力を利用して第2電極層23及び振動片24を振動させる構成としたが、超音波を発生させることができれば良く、この場合に限定されるものではない。例えば、駆動電圧の印加によってピエゾ素子等の圧電素子を振動させることで、超音波を発生させる圧電方式を採用しても構わない。
さらに、音波の一例として超音波を例に挙げて説明したが、例えば可聴周波の音波を発生させることで、液滴を吐出させても構わない。
【符号の説明】
【0067】
W…液体
1、40…液体吐出装置
2…吐出体
2a…第1面
2b…第2面
3…液体吐出路
4…吐出口
5…音波発生素子
6…音響レンズ
11…液体導入路
20…支持基板
21…振動部
22…第1電極層(第1電極)
23…第2電極層(第2電極)
24…振動片
36…電圧印加部
41…液体排出路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
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図12