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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-22
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】地盤改良における改良体測定方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/12 20060101AFI20220111BHJP
【FI】
E02D3/12 102
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018089503
(22)【出願日】2018-05-07
(65)【公開番号】P2019196594
(43)【公開日】2019-11-14
【審査請求日】2020-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000185972
【氏名又は名称】小野田ケミコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100166235
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100179936
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 明日香
(74)【代理人】
【識別番号】100195006
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 勇蔵
(72)【発明者】
【氏名】木村 文彦
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-045999(JP,A)
【文献】特開2011-106105(JP,A)
【文献】特開平06-158638(JP,A)
【文献】特開2012-172329(JP,A)
【文献】特開昭59-106624(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0308306(US,A1)
【文献】特開昭50-082812(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に挿入したロッドを回転させながら引き上げるとともに、前記ロッドに設けられたノズルから固化材スラリーを噴射させることにより、前記地盤の原土と前記固化材スラリーとを混合して改良体を造成する地盤改良における改良体測定方法であって、
距離測長波を発信する発信器および該距離測長波を受信する受信器を有する計測センサを前記ロッドに設けておき、
前記固化材スラリーの原料となる固化材に、該固化材よりも密度が高い密度増大物質または該固化材よりも密度が低い密度減少物質を混合して固化材スラリーを生成し、前記生成した固化材スラリーを前記ノズルから噴射させて前記改良体を造成し、
前記改良体の造成中に、前記ロッドの径方向外側に向かって前記発信器から前記距離測長波を発信し、前記密度増大物質または前記密度減少物質を混合した前記固化材スラリーの噴射によって密度変化された第1の音響インピーダンスを有する改良領域と、該改良領域よりも外側の第2の音響インピーダンスを有する非改良領域との境界位置で反射した該距離測長波を前記受信器で受信することにより、前記改良体の径を測定する
地盤改良における改良体測定方法。
【請求項2】
前記固化材に前記密度増大物質または前記密度減少物質を混合する場合に、前記改良領域の前記第1の音響インピーダンスと、前記非改良領域の前記第2の音響インピーダンスとの差が10%以上20%以下となるように前記密度増大物質または前記密度減少物質を混合する、請求項1に記載の地盤改良における改良体測定方法。
【請求項3】
前記密度増大物質は鉄粉である
請求項1または2に記載の地盤改良における改良体測定方法。
【請求項4】
前記密度減少物質は気泡または発泡ビーズである
請求項1または2に記載の地盤改良における改良体測定方法。
【請求項5】
前記改良体の造成中に、前記改良体の径と前記ロッドの回転角度とを対応付けたデータを用いて前記改良体の断面形状を求め、該断面形状を表示装置に表示する
請求項1~4のいずれか一項に記載の地盤改良における改良体測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固化材スラリーの噴射によって地盤を改良する地盤改良方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軟弱地盤等を高強度に改良するための地盤改良工法として、高圧噴射攪拌工法が知られている。高圧噴射攪拌工法は、地盤に挿入したロッドのノズルから固化材スラリーを高圧で噴射することにより、地盤中に改良体を造成する工法である。
【0003】
高圧噴射攪拌工法においては、地盤改良の対象となる土層のせん断強さやN値等のいわゆる硬さによってその改良径が左右される。このため、地盤改良工事を行う場合は、地盤改良の対象となる土壌の土質などを考慮して固化材スラリーの噴射圧力、噴射流量等の噴射仕様を設定することにより、地盤改良に必要とされる改良径を確保している。しかし、高圧噴射攪拌工法によって造成される改良体の改良径は種々の要因、たとえば対象土のせん断強さや対象土層の不均一性等によってばらつく。このため、改良径を客観的に保証するには、実際に造成される改良径を把握する必要がある。しかし、改良体は地中に造成されるため、掘削によって改良体を露出させない限り、地上において改良体を目視で確認したり、改良径を直接測定することはできない。
【0004】
そこで、改良体の造成中に、改良体の径を把握する技術が幾つか提案されている。たとえば、特許文献1には、地盤と改良体との境界面における音波の反射を利用して改良体の形状を測定する技術が記載されている。また、特許文献2には、注入管の周囲の地盤に建込み管を挿入し、注入管のノズルから高圧噴射される固化材が建込み管に当たる音または振動を検知することで、改良体の径を把握する技術が記載されている。また、特許文献3には、注入管の挿入位置から設計改良半径だけ離れた位置に到達管を挿入し、地盤に挿入した注入管を引き上げる際に、固化材スラリーの噴射によって到達管に生じる加速度を検知することで、改良体の径を把握する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-172329号公報
【文献】特開2012-62626号公報
【文献】特開2017-2464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、地盤と改良体との境界面で音波が十分に反射せず、改良体の径を正確に把握できないおそれがあった。また、特許文献2に記載の技術では、改良体の径を把握するために、建込み管の挿入とその後の引き抜きが必要となり、特許文献3に記載の技術でも、到達管の挿入とその後の引き抜きが必要になる。このため、特許文献2,3に記載の技術では、施工効率の低下が避けられないという課題があった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、その目的は、建込み管や到達管を挿入しなくても、造成中の改良体の径をより正確に把握することができる地盤改良方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、地盤に挿入したロッドを回転させながら引き上げるとともに、前記ロッドに設けられたノズルから固化材スラリーを噴射させることにより、前記地盤の原土と前記固化材スラリーとを混合して改良体を造成する地盤改良における改良体測定方法であって、距離測長波を発信する発信器および該距離測長波を受信する受信器を有する計測センサを前記ロッドに設けておき、前記固化材スラリーの原料となる固化材に、該固化材よりも密度が高い密度増大物質または該固化材よりも密度が低い密度減少物質を混合して固化材スラリーを生成し、前記生成した固化材スラリーを前記ノズルから噴射させて前記改良体を造成し、前記改良体の造成中に、前記ロッドの径方向外側に向かって前記発信器から前記距離測長波を発信し、前記密度増大物質または前記密度減少物質を混合した前記固化材スラリーの噴射によって密度変化された第1の音響インピーダンスを有する改良領域と、該改良領域よりも外側の第2の音響インピーダンスを有する非改良領域との境界位置で反射した該距離測長波を前記受信器で受信することにより、前記改良体の径を測定する。
【0009】
本発明の地盤改良方法において、前記密度増大物質は鉄粉であってもよく、前記密度減少物質は気泡または発泡ビーズであってもよい。
【0010】
本発明の地盤改良方法において、距離測長波を発信する発信器および該距離測長波を受信する受信器を有する計測センサを前記ロッドに設けておき、前記改良体の造成中に、前記ロッドの径方向外側に向かって前記発信器から前記距離測長波を発信し、前記密度増大物質または前記密度減少物質を混合した前記固化材スラリーの噴射によって改良される改良領域と該改良領域よりも外側の非改良領域との境界位置で反射した前記距離測長波を前記受信器で受信することにより、前記改良体の径を測定してもよい。
【0011】
本発明の地盤改良方法において、前記改良体の造成中に、前記改良体の径と前記ロッドの回転角度とを対応付けたデータを用いて前記改良体の断面形状を求め、該断面形状を表示装置に表示してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、建込み管や到達管を挿入しなくても、造成中の改良体の径をより正確に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る地盤改良方法に用いられる高圧噴射攪拌装置の構成例を示す側面概略図である。
図2】(A),(B)は、それぞれロッドを90°異なる方向から見た概略側面図である。
図3】本発明の実施形態に係る地盤改良方法に用いられる高圧噴射攪拌装置の制御系の構成例を示すブロック図である。
図4】固化材スラリーの生成方法を説明する模式図である。
図5】改良体の断面形状の表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る地盤改良方法に用いられる高圧噴射攪拌装置の構成例を示す側面概略図である。
高圧噴射攪拌装置1は、地盤2上に設置される施工機3と、施工機3によって地盤2に挿入されるロッド4と、備えている。ロッド4は、施工機3によって垂直に支持されている。ロッド4は、単管構造、二重管構造、三重管等の多重管構造のうちのいずれであってもよい。ロッド4の内部には、図示しないスラリー流路が形成されている。また、ロッド4の下端部近傍には、スラリー流路に連通するようにノズル5が形成されている。
【0015】
一方、ロッド4の上端部には、スイベル6を介してホース7が接続されている。ホース7は図示しないプラントへと接続されている。プラントは、地盤改良に用いる固化材スラリーを生成するとともに、生成した固化材スラリーを所定の圧力で送り出すものである。プラントから送り出された固化材スラリーは、ホース7とスイベル6を通してロッド4に供給され、ロッド4内のスラリー流路を流れた後、ノズル5から噴射される。
【0016】
上記構成からなる高圧噴射攪拌装置1を用いて地盤改良を行う場合は、地盤2上に設定された位置Pから施工機3によってロッド4を所定の深さまで挿入する。このとき、施工機3は、ロッド4を回転させながら下降させる。所定の深さは、地盤2の原土の性状等に応じてあらかじめ設定される。
【0017】
次に、ロッド4のノズル5から固化材スラリーSを高圧で噴射させる。このとき、施工機3は、ロッド4を回転させながら引き上げる。これにより、地中に略円柱状の改良体8が造成される。改良体8は、ロッド4のノズル5から噴射した固化材スラリーSが、地盤の原土と攪拌混合して形成されるものである。
【0018】
その際、改良体8の径(以下、「改良径」ともいう。)rは、ロッド4のノズル5から噴射された固化材スラリーSがロッド4の中心軸Jから径方向外側にどれだけ離れた位置まで到達するかを示す距離、すなわち固化材スラリーの到達距離によって決まる。具体的には、固化材スラリーSの到達距離が長ければ、その分だけ改良体8の径rが大きくなり、固化材スラリーSの到達距離が短ければ、その分だけ改良体8の径rが小さくなる。なお、改良体8の径rは、ロッド4の中心軸Jの位置を基点とした改良体8の半径で表される。
【0019】
ここで、固化材スラリーSの到達距離は、固化材スラリーSの噴射圧力だけでなく、たとえば、地盤改良対象領域の原土の性状、粒度構成、含水比など種々の要因によって変わる。また、同じ地盤でも原土の性状等は場所によって変わる。このため、固化材スラリーSの噴射によって造成される改良体8の径rは、改良体8の高さ方向Hや円周方向Cでバラツキをもつ可能性がある。したがって、改良体8の造成中に、改良体8の径rを正確に把握することは、改良後の地盤強度を客観的に保証するうえできわめて重要になる。
【0020】
本発明の実施形態においては、改良体8の造成中に改良径rを把握するための計測センサをロッド4に設けてある。図2(A),(B)は、それぞれロッドを90°異なる方向から見た概略側面図である。図2(A),(B)において、計測センサ10は、距離測長波を用いて改良体8の径rを計測するセンサである。距離測長波は、距離の測定に適用可能な一定周波数の振動波である。本実施形態では、距離測長波の好ましい例として超音波を適用する。
【0021】
計測センサ10は、ノズル5の近傍に位置してロッド4の外周面に取り付けられている。計測センサ10は、ロッド4の回転方向に対して、ノズル5が先行し、計測センサ10が後続するように、ノズル5とは90°異なる向きに配置されている。また、計測センサ10は、超音波を発信する発信器11および該超音波を受信する受信器12を有する。発信器11は、ロッド4の径方向外側に向かって超音波を発信する。受信器12は、発信器11から発信され、かつ、図1に示す改良領域E1と非改良領域E2との境界位置9で反射した超音波を受信する。改良領域E1は、固化材スラリーSの噴射によって改良される土壌領域であり、非改良領域E2は、改良領域E1よりも外側の領域、すなわち固化材スラリーSが到達しない土壌領域である。
【0022】
図3は、本発明の実施形態に係る地盤改良方法に用いられる高圧噴射攪拌装置の制御系の構成例を示すブロック図である。
管理端末21は、高圧噴射攪拌装置1を用いた地盤改良工法の施工管理用の端末である。管理端末21は、たとえば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read-Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)のハードウェア資源を備えるコンピュータ装置によって構成される。管理端末21には、前述した計測センサ10のほか、回転角度検出器22と挿入量検出器23と表示装置24が、それぞれ電気的に接続されている。
【0023】
回転角度検出器22は、ロッド4の回転角度θ(図1参照)を検出するものである。ロッド4の回転角度θは、ロッド4が所定の方向を向いている状態を0°として、ロッド4が1回転する間に0°~360°の値をとる。挿入量検出器23は、ロッド4の挿入量D(図1参照)を検出するものである。ロッド4の挿入量Dは、地表からロッド4の下端部までの距離で表され、あらかじめ設定された所定の深さまでロッド4を挿入したときに最大値をとる。
【0024】
表示装置24は、管理端末21から出力される画像データを可視情報として表示するものである。表示装置24は、たとえば、液晶ディスプレイによって構成される。
【0025】
次に、計測センサ10を用いた改良径の測定方法について説明する。
まず、ロッド4の引き上げが開始され、かつ、固化材スラリーSの噴射が開始されると、管理端末21は、計測センサ10を起動して改良径の測定を開始する。これにより、計測センサ10の発信器11は、連続的に、または、一定の時間刻みで、超音波を発信する。本実施形態においては、一例として、発信器11が一定の時間刻みで超音波の発信を繰り返すものとする。
【0026】
発信器11が発信した超音波は、まず、改良領域E1と非改良領域E2との境界位置9に向かって進む。その後、超音波は、改良領域E1と非改良領域E2との境界位置9で一部が反射し、これが反射波となって戻ってくる。受信器12は、境界位置9からの反射波を受信する。このとき、受信器12は、受信した反射波の強度に応じた電圧レベルまたは電流レベルの電気信号を発生する。受信器12が発生する電気信号は、計測センサ10が出力するセンサ信号となる。このセンサ信号は管理端末21に取り込まれる。
【0027】
管理端末21は、発信器11が超音波を1回発信するたびに、発信器11が超音波を発信してから受信器12が境界位置9からの反射波を受信するまでの時間(以下、「往復時間」ともいう。)を計測する。さらに管理端末21は、往復時間の計測結果を基に、改良体8の径rを演算によって求める。ここで、往復時間は、計測センサ10の位置から境界位置9までの距離に応じて変わる。このため、往復時間は、計測センサ10の位置から境界位置9までの距離に換算することができる。また、ロッド4の径方向において、ロッド4の中心軸Jの位置から計測センサ10の位置までの距離は、既知の距離情報として管理端末21の記憶装置(ROM、HDD等)に記憶することができる。これにより、管理端末21は、往復時間からの換算によって求めた、計測センサ10の位置から境界位置9までの距離に、記憶装置から読み出した既知の距離情報を加算することにより、改良体8の径rを求めることができる。
【0028】
ただし、計測センサ10のセンサ信号には、境界位置9からの反射波を受信したときの信号成分だけでなく、境界位置9以外からの反射波を受信したときの信号成分がノイズとして含まれる。このため、管理端末21で改良体8の径rを求めるには、たとえば、あらかじめ管理端末21の記憶装置に所定の閾値を記憶しておき、計測センサ10のセンサ信号のレベルが閾値を超えたときに、受信器12が境界位置9からの反射波を受信したと判断する必要がある。その際、改良領域E1と非改良領域E2との境界位置9における超音波の反射率が低いと、境界位置9からの反射波を受信器12が受信したときの信号レベルが閾値を超えず、改良径を測定できないおそれがある。また、それを避けるために閾値を低く設定すると、本来はノイズとして除去されるべき信号成分が閾値を超えてしまい、改良径を正しく測定できないおそれがある。
【0029】
そこで、本発明の実施形態においては、改良領域E1と非改良領域E2との境界位置9における超音波の反射率を上げるために、固化材スラリーSの原料となる固化材に、固化材よりも密度が高い密度増大物質を混合して固化材スラリーSを生成することとした。固化材としては、たとえば、セメント系固化材を用いることができる。密度増大物質としては、好ましくは、鉄粉を用いることができる。プラントにおいては、図4に示すように、固化材31が水30と混合されて固化材スラリーSとなる。その際、固化材31に密度増大物質32を混合して固化材スラリーSを生成すれば、改良体8の造成に用いられる固化材スラリーSの密度、ひいては固化材スラリーSと原土とを混合した混合物の密度を増大させることができる。
【0030】
ここで、改良領域E1と非改良領域E2との境界位置9における超音波の反射率と、固化材スラリーSの密度との関係について説明する。
まず、ある境界面に超音波が入射した場合、その入射波の一部は境界面で反射し、それ以外は境界面を透過する。このとき、境界面での反射率は、境界面における音響インピーダンスの差が大きいほど高くなる。したがって、改良領域E1の音響インピーダンスと非改良領域E2の音響インピーダンスの差が大きくなれば、それらの境界位置9での反射率が高くなる。
【0031】
一方、音響インピーダンスは、媒質の密度と媒質の超音波伝搬速度との積で表される。このため、プラントにおいて固化材31に密度増大物質32を混合して固化材スラリーSを生成し、この固化材スラリーSをノズル5からの噴射によって原土と混合すれば、密度増大物質32を混合しない場合に比べて改良領域E1の音響インピーダンスが大きくなる。これにより、改良領域E1の音響インピーダンスと非改良領域E2の音響インピーダンスの差を大きくすることができる。その結果、改良領域E1と非改良領域E2との境界位置9における超音波の反射率を高めることが可能となる。
【0032】
このように改良領域E1と非改良領域E2との境界位置9における超音波の反射率を高めることにより、境界位置9からの反射波を受信器12が受信したときの信号レベルが相対的に高くなる。このため、受信器12が境界位置9以外からの反射波を受信したときの信号成分であるノイズを、前述した閾値との比較によって確実に除去することができる。したがって、固化材スラリーSの原料となる固化材31に密度増大物質32を混合しない場合に比べて、改良体8の径rをより正確に把握することができる。また、改良体8の径rを把握するにあたって、建込み管や到達管を地盤に挿入する必要がないため、地盤改良の施工効率を向上させることができる。なお、固化材スラリーSの原料となる固化材31に密度増大物質32を混合する場合は、改良領域E1の音響インピーダンスと非改良領域E2の音響インピーダンスの差が10%以上20%以下となるように、密度増大物質32を混合することが好ましい。
【0033】
また、本実施形態において、高圧噴射攪拌装置1は、計測センサ10と管理端末21に加えて、回転角度検出器22、挿入量検出器23および表示装置24を備えている。このため、次のような処理機能を高圧噴射攪拌装置1に持たせることができる。
【0034】
まず、施工機3がロッド4を回転させながら引き上げる場合、管理端末21には、回転角度検出器22によるロッド4の回転角度θの検出結果と、挿入量検出器23によるロッド4の挿入量Dの検出結果が、それぞれ取り込まれる。このとき、管理端末21は、発信器11が超音波を1回発信するたびに、前述のように計測センサ10を用いて測定した改良体8の径rと、ロッド4の回転角度θおよびロッド4の挿入量Dとを対応付けたデータを、記憶装置に記憶する。これにより、施工機3がロッド4を回転させながら引き上げるときに、発信器11が超音波を発信する周期に同期して、改良体8の径とロッド4の回転角度θおよび挿入量Dとを対応付けたデータが連続的に得られる。そして、固化材スラリーSの噴射開始から噴射終了までの間、そのように対応付けたデータが記憶装置に蓄積される。
【0035】
そこで、管理端末21は、改良体8の造成中に、上述のように連続的に得られるデータのうち、改良体8の径rとロッド4の回転角度θとを対応付けたデータを用いて、改良体8の断面形状を求める。改良体8の断面形状は、改良体8の径rとロッド4の回転角度θの各値を用いて、図5に示すように、ロッド4の中心軸の位置を原点Aとした極座標(r,θ)で表すことができる。また、管理端末21は、改良体8の造成中に、先に求めた改良体8の断面形状(r,θ)を可視情報として表示装置24に表示する。これにより、施工管理者は、表示装置24に表示される改良体8の断面形状(r,θ)をリアルタイムに確認しながら施工管理を行うことができる。
【0036】
また、管理端末21は、表示装置24に表示する改良体8の断面形状をロッド4の回転周期に応じて更新する。具体的には、今回の一つ前の回転周期においてロッド4の回転角度θがたとえば30°のときに測定した改良体8の径rを、今回の回転周期においてロッド4の回転角度θが30°のときに測定した改良体8の径rに置き換えて、改良体8の断面形状を表示する。これにより、表示装置24には、ロッド4の回転周期に応じて最新の改良体8の断面形状を表示することができる。
【0037】
また、管理端末21は、地盤改良で必要とされる改良体8の基準径をraとすると、図5に示すように、改良体8の基準径raで描かれる円形状(ra,θ)を改良体8の断面形状(r,θ)と共に表示装置24に表示する。これにより、管理施工者は、表示装置24に表示される改良体8の断面形状(r,θ)と円形状(ra,θ)を比較することにより、改良体8の径rが基準径ra以上に確保されているかどうかを容易に判断することができる。
【0038】
また、管理端末21は、改良体8の断面形状(r,θ)を表示装置24に表示する場合に、基準径raに比べて改良体8の径rが小さい径不足部の断面形状を表す線とそれ以外の部分の断面形状を表す線を、それぞれ異なる色(たとえば、赤と緑)、線種または太さで表示する。これにより、施工管理者は、表示装置24に表示される改良体8の断面形状(r,θ)を表す線の違いによって、改良体8の径rが不足する部分を即座に見つけ出すことができる。
【0039】
また、管理端末21は、改良体8の造成中に、基準径raに比べて改良体8の径rが小さい径不足部が発生した場合に、それまでに記憶装置に記憶されるデータ、すなわち改良体8の径rとロッド4の回転角度θおよびロッド4の挿入量Dとを対応付けたデータを用いて径不足部の位置を特定する。これにより、改良体8の造成中に、基準径raに比べて改良体8の径rが小さい径不足部が発生した場合、管理端末21が特定した径不足部の位置に応じてロッド4を所定量だけ下降させてノズル5から固化材スラリーSを噴射させることにより、改良体8の径rの不足を解消することができる。
【0040】
なお、上記実施形態においては、固化材スラリーSの原料となる固化材に、固化材よりも密度が高い密度増大物質を混合して固化材スラリーSを生成し、これをノズル5から噴射させて改良体を造成するとしたが、本発明はこれに限らない。たとえば、固化材スラリーSの原料となる固化材に、固化材よりも密度が低い密度減少物質を混合して固化材スラリーSを生成し、これをノズル5から噴射させて改良体を造成してもよい。密度減少物質としては、たとえば、気泡または発泡ビーズを挙げることができる。
【符号の説明】
【0041】
2 地盤、4 ロッド、5 ノズル、8 改良体、9 境界位置、10 計測センサ、11 発信器、12 受信器、24 表示装置、31 固化材、32 密度増大物質、E1 改良領域、E2 非改良領域、S 固化材スラリー、r 改良体の径、θ ロッドの回転角度。
図1
図2
図3
図4
図5