(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-22
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】遠心クラッチ
(51)【国際特許分類】
F16D 43/18 20060101AFI20220111BHJP
【FI】
F16D43/18
(21)【出願番号】P 2018091930
(22)【出願日】2018-05-11
【審査請求日】2021-05-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000128175
【氏名又は名称】株式会社エフ・シー・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100136674
【氏名又は名称】居藤 洋之
(72)【発明者】
【氏名】青野 薫
(72)【発明者】
【氏名】横道 友太
(72)【発明者】
【氏名】木根 悠太
(72)【発明者】
【氏名】片岡 真
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-009675(JP,A)
【文献】特開2017-072211(JP,A)
【文献】特開平10-331874(JP,A)
【文献】実開昭59-094624(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 43/14-43/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの駆動力を受けてドリブンプーリとともに一体的に回転駆動するドライブプレートと、
前記ドライブプレートの外側にこのドライブプレートと同心で設けられた円筒面を有するクラッチアウターと、
前記ドライブプレートの周方向に沿って延びて形成されて前記クラッチアウターの円筒面に面するクラッチシューを有して前記周方向における一方の端部側が前記ドライブプレート上に揺動支持ピンおよびピン摺動孔を介して回動可能に取り付けられるとともに他方の端部側が前記クラッチアウターの円筒面側に向かって変位するクラッチウエイトと、
前記ドライブプレートに同ドライブプレートの回転駆動軸方向に延びる面を有したプレート側カム体と、
前記クラッチウエイトに設けられて前記クラッチウエイトの前記他方の端部側の変位の際に前記プレート側カム体上を摺動して乗り上げるウエイト側カム体とを備え、
前記揺動支持ピンは、
前記ドライブプレートおよび前記クラッチウエイトのうちの一方に設けられて前記ドライブプレートおよび前記クラッチウエイトのうちの他方側に延びて形成されており、
前記ピン摺動孔は、
前記ドライブプレートおよび前記クラッチウエイトのうちの他方に設けられるとともに前記クラッチウエイトの前記一方の端部側の前記ドライブプレートの回転駆動方向の後方側への変位を許容する長孔状に形成されて前記揺動支持ピンが摺動変位自在に嵌合しており、
前記プレート側カム体および前記ウエイト側カム体は、
少なくとも一方の摺動面が曲面を有して構成されているとともに、同摺動面は前記プレート側カム体と前記ウエイト側カム体とが互いに接触する摺動部分と前記ドライブプレートの回転駆動中心とを通る直線に対する法線と前記摺動部分における前記曲面の接線との角度であるカム角度を想定したとき、前記クラッチシューの摩耗が進む前後において前記クラッチシューが前記クラッチアウターの円筒面に接触したときの前記カム角度が同じまたは前記摩耗が進んだときの前記カム角度の方が大きくなる曲面に形成されていることを特徴とする遠心クラッチ。
【請求項2】
請求項1に記載した遠心クラッチにおいて、
前記プレート側カム体および前記ウエイト側カム体は、
前記少なくとも一方の摺動面が前記クラッチシューの摩耗が進む前後において前記クラッチシューが前記クラッチアウターの円筒面に接触したときの前記カム角度が同じになる曲面に形成されていることを特徴とする遠心クラッチ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載した遠心クラッチにおいて、
前記プレート側カム体は、
前記摺動面が凸状の曲面を有して構成されており、
前記ウエイト側カム体は、
前記摺動面が凸状の曲面に対して摺動する凹状または凸状の曲面を有して構成されていることを特徴とする遠心クラッチ。
【請求項4】
請求項3に記載した遠心クラッチにおいて、
前記プレート側カム体は、
前記ドライブプレートに対して回転自在に支持されたローラで構成されており、
前記ウエイト側カム体は、
前記摺動面が前記ローラに対して摺動する曲面を有して構成されていることを特徴とする遠心クラッチ。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のうちのいずれか1つに記載した遠心クラッチにおいて、さらに、
前記揺動支持ピンと前記ピン摺動孔との間に設けられて両者を摺動させる支点側摺動部材を備えていることを特徴とする遠心クラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
エンジンが所定の回転数に達するまでの間は回転駆動力の従動側への伝達を遮断するとともに、エンジンが所定の回転数に達したときに回転駆動力を従動側に伝達する遠心クラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、二輪自動車や刈払機などにおいては、エンジンが所定の回転数に達したときに回転駆動力を従動側に伝達する遠心クラッチが用いられている。例えば、下記特許文献1には、エンジンからの回転駆動力によって回転駆動するドライブプレートとこのドライブプレートに回動自在に支持されてドライブプレートの回転駆動によって径方向外側に開いてクラッチアウターに押し付けられるクラッチウエイトを備えた遠心クラッチが開示されている。この場合、遠心クラッチは、ドライブプレートとクラッチウエイトとの間に一対のカムを構成する突起体および従動部をそれぞれ備えており、この一対のカムによってクラッチウエイトを迅速かつ強力にクラッチアウターに押し付けることができるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載された遠心クラッチにおいては、クラッチウエイトに設けられてクラッチアウターに押し付けられるクラッチシューの摩耗が進むに伴ってカム角度が小さくなりクラッチウエイトがクラッチアウターを押すアシスト推力が増加して運転操作のフィーリングが変化するとともにクラッチシューなどの摩擦部材の摩耗が早まるという問題があった。
【0005】
ここで、カム角度とは、突起体と従動部とが互いに接触する摺動部分とドライブプレートの回転駆動中心とを通る直線に対する法線と前記摺動部分における摺動方向線との角度である。この場合、前記摺動部分が面接触である場合には摺動方向における摺動部分の長さの中央位置である。また、摺動方向線は、突起体および従動部のうちの少なくとも一方が曲面である場合には、摺動部分における前記曲面の接線である。本願発明者らは、このカム角度が大きいほどアシスト推力が小さくなるとともに、カム角度が小さくなるほどアシスト推力が大きくなることを知見した。
【0006】
そして、本願発明者らは、突起体がローラで構成されるとともに従動部が直線状に延びる平面で構成された上記特許文献1に記載された遠心クラッチにおいては、クラッチシューの摩耗が進むに伴ってカム角度が小さくなりクラッチウエイトがクラッチアウターを押すアシスト推力が増加することを知見した。
【0007】
本発明は上記問題に対処するためなされたもので、その目的は、クラッチシューが摩耗してもアシスト推力を一定に維持またはアシスト推力を低下させることができる遠心クラッチを提供することにある。
【発明の概要】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の特徴は、エンジンの駆動力を受けてドリブンプーリとともに一体的に回転駆動するドライブプレートと、ドライブプレートの外側にこのドライブプレートと同心で設けられた円筒面を有するクラッチアウターと、ドライブプレートの周方向に沿って延びて形成されてクラッチアウターの円筒面に面するクラッチシューを有して前記周方向における一方の端部側がドライブプレート上に揺動支持ピンおよびピン摺動孔を介して回動可能に取り付けられるとともに他方の端部側がクラッチアウターの円筒面側に向かって変位するクラッチウエイトと、ドライブプレートに同ドライブプレートの回転駆動軸方向に延びる面を有したプレート側カム体と、クラッチウエイトに設けられてクラッチウエイトの前記他方の端部側の変位の際にプレート側カム体上を摺動して乗り上げるウエイト側カム体とを備え、揺動支持ピンは、ドライブプレートおよびクラッチウエイトのうちの一方に設けられてドライブプレートおよびクラッチウエイトのうちの他方側に延びて形成されており、ピン摺動孔は、ドライブプレートおよびクラッチウエイトのうちの他方に設けられるとともにクラッチウエイトの前記一方の端部側のドライブプレートの回転駆動方向の後方側への変位を許容する長孔状に形成されて揺動支持ピンが摺動変位自在に嵌合しており、プレート側カム体およびウエイト側カム体は、少なくとも一方の摺動面が曲面を有して構成されているとともに、同摺動面はプレート側カム体とウエイト側カム体とが互いに接触する摺動部分とドライブプレートの回転駆動中心とを通る直線に対する法線と摺動部分における曲面の接線との角度であるカム角度を想定したとき、クラッチシューの摩耗が進む前後においてクラッチシューがクラッチアウターの円筒面に接触したときのカム角度が同じまたは前記摩耗が進んだときのカム角度の方が大きくなる曲面に形成されていることにある。
【0009】
このように構成した本発明の特徴によれば、遠心クラッチは、ドライブプレートに設けられたプレート側カム体およびクラッチウエイトに設けられたウエイト側カム体における各摺動面のうちの少なくとも一方が曲面で構成されるとともに、この摺動面がクラッチシューの摩耗が進む前後においてクラッチシューがクラッチアウターの円筒面に接触したときのカム角度が同じになる曲面または同カム角度が大きくなる曲面に形成されている。これにより、本発明に係る遠心クラッチにおいては、クラッチシューが摩耗してもアシスト推力を一定に維持して運転操作のフィーリングを一定にすることができるとともに、アシスト推力が上昇することを抑制してプレート側カム体とウエイト側カム体との面圧およびクラッチシューとクラッチアウターとの面圧の上昇を抑えて摩擦部分の摩耗および損傷を抑制することができる。
【0010】
なお、上各記発明における長孔とは、一方向における長さがこの一方向に直交する幅方向に対して長く全体として細長く延びた貫通孔または止り穴である。
【0011】
また、本発明の他の特徴は、前記遠心クラッチにおいて、プレート側カム体およびウエイト側カム体は、前記少なくとも一方の摺動面がクラッチシューの摩耗が進む前後においてクラッチシューがクラッチアウターの円筒面に接触したときのカム角度が同じになる曲面に形成されていることにある。
【0012】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、遠心クラッチは、プレート側カム体および前記ウエイト側カム体における前記少なくとも一方の摺動面がクラッチシューの摩耗が進む前後においてクラッチシューがクラッチアウターの円筒面に接触したときのカム角度が同じになる曲面に形成されているため、クラッチシューが摩耗してもアシスト推力を一定に維持して運転操作のフィーリングを一定にすることができるとともにプレート側カム体、ウエイト側カム体、クラッチシューおよびクラッチアウターなどの摩擦部材の摩耗が早まることを抑制することができる。
【0013】
また、本発明の他の特徴は、前記遠心クラッチにおいて、プレート側カム体は、摺動面が凸状の曲面を有して構成されており、ウエイト側カム体は、摺動面が凸状の曲面に対して摺動する凹状または凸状の曲面を有して構成されていることにある。
【0014】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、遠心クラッチは、プレート側カム体における摺動面が凸状の曲面を有して構成されているとともに、ウエイト側カム体における摺動面が凸状の曲面に対して摺動する凹状または凸状の曲面を有して構成されて両摺動面が共に曲面で構成されているため、プレート側カム体およびウエイト側カム体のうちの一方を直線状に延びる平面状に形成した場合に比べて、プレート側カム体およびウエイト側カム体を物理的に小さく構成でき遠心クラッチをコンパクト化することができる。
【0015】
また、本発明の他の特徴は、前記遠心クラッチにおいて、プレート側カム体は、ドライブプレートに対して回転自在に支持されたローラで構成されており、ウエイト側カム体は、摺動面がローラに対して摺動する曲面を有して構成されていることにある。
【0016】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、遠心クラッチは、プレート側カム体がドライブプレートに対して回転自在に支持されたローラで構成されているとともに、ウエイト側カム体における摺動面が前記ローラに対して摺動する曲面を有して構成されているため、プレート側カム体およびウエイト側カム体を物理的に小さく単純な構成にすることができる。
【0017】
また、本発明の他の特徴は、前記遠心クラッチにおいて、さらに、揺動支持ピンとピン摺動孔との間に設けられて両者を摺動させる支点側摺動部材を備えていることにある。
【0018】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、遠心クラッチは、揺動支持ピンとピン摺動孔とが支点側摺動部材を介して摺動するため、揺動支持ピンおよびピン摺動孔と支点側摺動部材との間の摺動性が向上してクラッチアウターに対してクラッチウエイトをより円滑に回動変位させることができるとともに揺動支持ピンおよびピン摺動孔の摩耗を防止することができる。この場合、遠心クラッチは、揺動支持ピンおよびピン摺動孔をそれぞれ金属材料で構成するとともに支点側摺動部材を樹脂材料で構成することで、揺動支持ピンおよびピン摺動孔と支点側摺動部材との間の摺動性をより向上させることができる。
【0019】
支点側摺動部材を構成する樹脂材料としては、耐熱性および耐摩耗性を有する熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を用いることができ、エンジニアリングプラスチックまたはスーパーエンジニアリングプラスチックが好適である。具体的には、熱可塑性樹脂としては、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリアミドイミド樹脂(PAI)、フッ素樹脂(PTFE)またはポリイミド樹脂(PI)を用いることができ、熱硬化性樹脂としては、ジアリルフタレート樹脂(PDAP)、エポキシ樹脂(EP)またはシリコン樹脂(SI)を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係る遠心クラッチを備えた動力伝達機構の構成を概略的に示す平面断面図である。
【
図2】
図1に示す2-2線から見た遠心クラッチの側面図である。
【
図3】
図1および
図2にそれぞれ示す遠心クラッチにおけるドライブプレートの外観構成を概略的に示す斜視図である。
【
図4】
図1および
図2にそれぞれ示す遠心クラッチにおけるドライブプレート、支点側摺動部材、プレート側カム体およびクラッチウエイトの組付け状態を示すための部分分解斜視図である。
【
図5】
図1および
図2にそれぞれ示す遠心クラッチにおけるクラッチウエイトの外観構成の概略をドライブプレート側からの視野で示す斜視図である。
【
図6】
図2に示す遠心クラッチについてクラッチシューがクラッチアウターに接触しない遮断状態で示す部分拡大図である。
【
図7】
図6に示す遠心クラッチにおけるクラッチシューに摩耗がないまたは少ない初期状態でクラッチアウターに押し付けられた連結状態を示した部分拡大図である。
【
図8】
図7に示す遠心クラッチにおけるクラッチウエイトがドライブプレートの径方向内側に傾倒する直前の状態を示した部分拡大図である。
【
図9】
図6に示す遠心クラッチにおけるクラッチシューの厚さが使用限界に近い終期状態まで摩耗した状態でクラッチアウターに接触した連結状態を示した部分拡大図である。
【
図10】本発明の変形例に係る遠心クラッチにおけるクラッチシューの厚さが使用限界に近い終期状態まで摩耗した状態でクラッチアウターに接触した連結状態を示した部分拡大図である。
【
図11】本発明の他の変形例に係る遠心クラッチにおけるドライブプレートの外観構成を概略的に示す斜視図である。
【
図12】
図11示すドライブプレートを備えた遠心クラッチにおけるクラッチシューに摩耗がないまたは少ない初期状態でクラッチアウターに接触した連結状態を示した部分拡大図である。
【
図13】
図11示すドライブプレートを備えた遠心クラッチにおけるラッチシューの厚さが使用限界に近い終期状態まで摩耗した状態でクラッチアウターに接触した連結状態を示した部分拡大図である。
【
図14】本発明の他の変形例に係る遠心クラッチにおけるクラッチウエイトの外観構成の概略をドライブプレート側からの視野で示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る遠心クラッチの一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る遠心クラッチ200を備えた動力伝達機構100の構成を概略的に示す平面断面図である。また、
図2は、
図1に示す2-2線から見た遠心クラッチ200の側面図である。この遠心クラッチ200を備えた動力伝達機構100は、主としてスクータなどの自動二輪車両において、エンジンと駆動輪である後輪との間に設けられてエンジンの回転数に対する減速比を自動的に変更しながら回転駆動力を後輪に伝達または遮断する機械装置である。
【0022】
(遠心クラッチ200の構成)
この動力伝達機構100は、主として、変速機101および遠心クラッチ200をそれぞれ備えている。変速機101は、図示しないエンジンからの回転駆動力を無段階で減速して遠心クラッチ200に伝達する機械装置であり、主として、ドライブプーリ110、Vベルト120およびドリブンプーリ130をそれぞれ備えて構成されている。これらのうち、ドライブプーリ110は、エンジンから延びるクランク軸111上に設けられてエンジンの回転駆動力によって直接回転駆動する機械装置であり、主として、固定ドライブプレート112および可動ドライブプレート113をそれぞれ備えて構成されている。
【0023】
固定ドライブプレート112は、可動ドライブプレート113とともにVベルト120を挟んで保持した状態で回転駆動する部品であり、金属材料を円錐筒状に形成して構成されている。この固定ドライブプレート112は、凸側の面が可動ドライブプレート113側(エンジン側)に向いた状態でクランク軸111上に固定的に取り付けられている。すなわち、固定ドライブプレート112は、常にクランク軸111と一体的に回転駆動する。また、固定ドライブプレート112における凹側の面上には、複数の放熱フィン112aがクランク軸111の軸線を中心として放射状に設けられている。
【0024】
可動ドライブプレート113は、固定ドライブプレート112とともにVベルト120を挟んで保持した状態で回転駆動する部品であり、金属材料を円錐筒状に形成して構成されている。この可動ドライブプレート113は、凸側の面が固定ドライブプレート112に対向する向きでクランク軸111に取り付けられている。この場合、可動ドライブプレート113は、クランク軸111に対して固定的に嵌合するスリーブ軸受114上に含浸ブッシュを介して取り付けられており、スリーブ軸受114に対して軸方向および周方向にそれぞれ摺動自在に取り付けられている。
【0025】
一方、可動ドライブプレート113の凹側の面には、複数のローラウエイト115がランププレート116によって押圧された状態で設けられている。ローラウエイト115は、可動ドライブプレート113の回転数の増加に応じて径方向外側に変位することによってランププレート116と協働して可動ドライブプレート113を固定ドライブプレート112側に押圧するための部品であり、金属材料を筒状に形成して構成されている。また、ランププレート116は、ローラウエイト115を可動ドライブプレート113側に押圧する部品であり、金属板を可動ドライブプレート113側に屈曲させて構成されている。
【0026】
Vベルト120は、ドライブプーリ110の回転駆動力をドリブンプーリ130に伝達するための部品であり、芯線をゴム材などの弾性材料で覆った無端のリング状に形成されている。このVベルト120は、固定ドライブプレート112と可動ドライブプレート113との間およびドリブンプーリ130における固定ドリブンプレート131と可動ドリブンプレート134との間に配置されてドライブプーリ110とドリブンプーリ130との間に架設されている。
【0027】
ドリブンプーリ130は、ドライブプーリ110およびVベルト120をそれぞれ介して伝達されるエンジンからの回転駆動力によって回転駆動する機械装置であり、主として、固定ドリブンプレート131および可動ドリブンプレート134をそれぞれ備えて構成されている。
【0028】
固定ドリブンプレート131は、可動ドリブンプレート134とともにVベルト120を挟んで保持した状態で回転駆動する部品であり、金属材料を円錐筒状に形成して構成されている。この固定ドリブンプレート131は、凸側の面が可動ドリブンプレート134側に向いた状態でドリブンスリーブ132上に固定的に取り付けられている。
【0029】
ドリブンスリーブ132は、固定ドリブンプレート131と一体的に回転駆動する金属製の筒状部品であり、ドライブシャフト133に対してベアリングを介して相対回転自在に取り付けられている。ドライブシャフト133は、この動力伝達機構100が搭載される自動二輪車両の後輪を図示しないトランスミッションを介して駆動するための金属製の回転軸体である。この場合、自動二輪車両の後輪は、ドライブシャフト133における一方(図示右側)の端部に取り付けられている。
【0030】
可動ドリブンプレート134は、固定ドリブンプレート131とともにVベルト120を挟んで保持した状態で回転駆動する部品であり、金属材料を円錐筒状に形成して構成されている。この可動ドリブンプレート134は、凸側の面が固定ドリブンプレート131に対向する向きでドリブンスリーブ132に対して軸方向に摺動自在な状態で嵌合している。
【0031】
一方、可動ドリブンプレート134の凹側の面には、遠心クラッチ200におけるドライブプレート210との間にトルクスプリング135が設けられている。トルクスプリング135は、可動ドリブンプレート134を固定ドリブンプレート131側に弾性的に押圧するコイルスプリングである。すなわち、この変速機101は、固定ドライブプレート112と可動ドライブプレート113との間隔で規定されるVベルト120を挟む直径と、固定ドリブンプレート131と可動ドリブンプレート134との間隔で規定されるVベルト120を挟む直径との大小関係によってエンジンの回転数を無段階で変速する。そして、ドリブンスリーブ132およびドライブシャフト133における各先端部側には遠心クラッチ200が設けられている。
【0032】
遠心クラッチ200は、変速機101を介して伝達されたエンジンの回転駆動力をドライブシャフト133に伝達または遮断する機械装置であり、主として、ドライブプレート210、3つのクラッチウエイト230およびクラッチアウター240をそれぞれ備えて構成されている。
【0033】
ドライブプレート210は、ドリブンスリーブ132と一体的に回転駆動する部品であり、金属材料を段付きの円板状に形成して構成されている。より具体的には、ドライブプレート210は、
図3および
図4にそれぞれ示すように、平板状の底部211の中央部にドリブンスリーブ132が貫通する貫通孔211aが形成されているとともに、この底部211の周囲に起立した筒部212の先端部にフランジ状に張り出した鍔部213が形成されて構成されている。鍔部213には、周方向に沿ってそれぞれ3つずつの揺動支持ピン214、カム体支持ピン217およびダンパー受けピン220がそれぞれ等間隔で設けられている。
【0034】
揺動支持ピン214は、後述するクラッチウエイト230における一方の端部側を回動可能に支持して他方の端部側を揺動させるための部品であり、金属製の段付きの棒体で構成されている。この場合、揺動支持ピン214は、取付ボルト214aによって鍔部213に固定的に取り付けられている。この揺動支持ピン214は、外周部に支点側摺動部材215を介してクラッチウエイト230のピン摺動孔231内を貫通した状態で、先端部に取り付けられるEリング214bおよびこのEリング214bとクラッチウエイト230との間にサイドプレート216をそれぞれ介してクラッチウエイト230を挟んだ状態で支持している。
【0035】
支点側摺動部材215は、揺動支持ピン214とピン摺動孔231との間に配置されて両者の摺動性を向上させるための部品であり、樹脂材料を円筒状に形成して構成されている。この支点側摺動部材215は、揺動支持ピン214およびピン摺動孔231に対してそれぞれ回転摺動可能な内径および外径、すなわち、揺動支持ピン214およびピン摺動孔231に対してそれぞれ隙間ばめとなる寸法公差に形成されている。
【0036】
また、支点側摺動部材215を構成する樹脂材料としては、耐熱性および耐摩耗性を有する熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を用いることができ、エンジニアリングプラスチックまたはスーパーエンジニアリングプラスチックが好適である。具体的には、熱可塑性樹脂としては、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリアミドイミド樹脂(PAI)、フッ素樹脂(PTFE)またはポリイミド樹脂(PI)を用いることができ、熱硬化性樹脂としては、ジアリルフタレート樹脂(PDAP)、エポキシ樹脂(EP)またはシリコン樹脂(SI)を用いることができる。サイドプレート216は、3つのクラッチウエイト230が各揺動支持ピン214から抜けることを防止するための部品であり、金属材料をリング状に形成して構成されている。
【0037】
カム体支持ピン217は、プレート側カム体218を回転自在な状態で支持するための部品であり、金属製の段付きの棒体で構成されている。このカム体支持ピン217は、クラッチウエイト230におけるピン摺動孔231よりもクラッチウエイト230の先端部側の部分に対向する鍔部213上に取付ボルト217aによって固定的に取り付けられる。
【0038】
プレート側カム体218は、クラッチウエイト230をクラッチアウター240側に押圧するための部品であり、樹脂材料を円筒状に形成して構成されている。この場合、プレート側カム体218は、カム体支持ピン217に対して回転摺動可能な内径、すなわち、カム体支持ピン217に対して所謂隙間ばめとなる寸法公差で形成されている。また、プレート側カム体218を構成する樹脂材料は、前記支点側摺動部材215を構成する樹脂材料と同様である。
【0039】
ダンパー受けピン220は、ダンパー221を支持するための部品であり、金属製の棒体で構成されている。ダンパー221は、クラッチウエイト230における前記他方の端部側をクラッチアウター240に対して接近または離隔させる揺動運動を案内するとともに離隔時における緩衝材となる部品であり、ゴム材を円筒状に形成して構成されている。このダンパー221は、ダンパー受けピン220の外周面上に固定的に嵌合している。
【0040】
3つのクラッチウエイト230は、
図4および
図5にそれぞれ示すように、それぞれドライブプレート210の回転数に応じてクラッチアウター240に対してクラッチシュー233を介して接触または離隔することによってエンジンからの回転駆動力をドライブシャフト133に伝達または遮断するための部品であり、金属材料(例えば、亜鉛材)をドライブプレート210の周方向に沿って延びる湾曲した形状に形成して構成されている。
【0041】
これらのクラッチウエイト230は、それぞれ一方の端部側がピン摺動孔231を介して揺動支持ピン214および支点側摺動部材215によって回動自在に支持された状態で、他方の端部側が互いに隣接するクラッチウエイト230に連結スプリング232によって連結されてドライブプレート210の内側方向に向かって引っ張られている。すなわち、クラッチウエイト230は、クラッチシュー233が設けられた前記他方の端部側がクラッチアウター240に対して揺動自在な状態でドライブプレート210上に揺動支持ピン214、支点側摺動部材215およびピン摺動孔231をそれぞれ介して支持されている。
【0042】
なお、
図2においては、クラッチウエイト230の構成を分かり易くするため、3つのクラッチウエイト230のうちの1つのクラッチウエイト230における2か所をそれぞれ異なる厚さ方向の面で破断して示している。また、
図2においては、遠心クラッチ200におけるドライブプレート210、クラッチアウター240の回転駆動方向をそれぞれ破線矢印で示している。
【0043】
ピン摺動孔231は、前記ドライブプレート210における揺動支持ピン214に支点側摺動部材215を介して回動自在かつ摺動自在に嵌合する部分であり、クラッチウエイト230の厚さ方向に貫通する貫通孔によって構成されている。このピン摺動孔231は、クラッチシュー233がクラッチアウター240に接触した際にクラッチウエイト230における前記一方の端部側がドライブプレート210の回転駆動方向の後方側に変位するように長孔状に形成されている。
【0044】
この場合、ピン摺動孔231を構成する長孔は、一方向における長さがこの一方向に直交する幅方向に対して長く全体として細長く延びて形成されている。より具体的には、ピン摺動孔231は、ドライブプレート210の径方向となる幅方向が支点側摺動部材215の外径に対して若干大きな隙間ばめの大きさの内径に形成される。一方、ピン摺動孔231の長手方向は、クラッチウエイト230のウエイト側カム体235のプレート側カム体218への押し付けが強まって乗り上がりがより促進される側にクラッチウエイト230の変位を許容する方向に延びる円弧状または直線状に形成される。
【0045】
本実施形態においては、ピン摺動孔231は、ドライブプレート210の回転駆動方向の前方側に円弧状に延びて形成されている。この場合、ピン摺動孔231の長手方向を構成する2つの円弧は、本実施形態においては、ドライブプレート210と同心であるが、必ずしも同心でなくてもよい。
【0046】
クラッチシュー233は、クラッチアウター240の内周面に対する摩擦力を増大させるための部品であり、摩擦材を円弧状に延びる板状に形成して構成されている。このクラッチシュー233は、各クラッチウエイト230におけるピン摺動孔231とは反対側の先端部側の外周面に設けられている。
【0047】
また、各クラッチウエイト230の各内周面におけるドライブプレート210のプレート側カム体218に対向する部分には、プレート側カム体218を覆うように凹状に窪んだ形状でプレート側カム体逃げ部234がそれぞれ形成されている。プレート側カム体逃げ部234は、プレート側カム体218に乗り上げるウエイト側カム体235が形成される部分であり、クラッチウエイト230の内周面に開口して奥側に延びる溝状に形成されるとともに同奥側部分がプレート側カム体218に接触しないように円弧状に切り欠かれて形成されている。
【0048】
ウエイト側カム体235は、プレート側カム体218と協働してクラッチウエイト230をクラッチアウター240側に変位させるための部分であり、ドライブプレート210の回転駆動方向の後方側に面する滑らかな曲面で構成されている。より具体的には、ウエイト側カム体235は、プレート側カム体218に押し付けられる摺動面がドライブプレート210の回転駆動方向の後方かつ外側に向かって湾曲して延び円弧状に形成されている。
【0049】
この場合、ウエイト側カム体235を構成するこの摺動面は、クラッチシュー233の摩耗が進む前後においてクラッチシュー233がクラッチアウター240の円筒面241に接触したときのカム角度αが同じになる曲率の曲面に形成されている。ここで、カム角度αは、プレート側カム体218とウエイト側カム体235とが互いに接触して摺動し合う部分である接触点Pとドライブプレート210の回転駆動中心Oとを通る直線L1に対する法線L2と前記摺動部分におけるウエイト側カム体235を構成する曲面の接線L3との角度である。
【0050】
したがって、ウエイト側カム体235を構成する摺動面は、クラッチシュー233が新品で摩耗がないまたは少ない初期状態とクラッチシュー233の摩耗が進んで使用限界に近づいた終期状態との間でカム角度αが同じになる曲率の曲面に形成されている。ここで、カム角度αが同じとは、厳密に同一角度になることのみを意味するものではなく、所定の許容範囲を含むものである。本発明者らの実験によれば、クラッチシュー233の摩耗が初期状態の場合のカム角度αに対してクラッチシュー233の摩耗が終期状態の場合のカム角度αが±5°の範囲を同一の角度と見做すことができる。
【0051】
このウエイト側カム体235を構成する曲面は、種々の方法で規定することができる。例えば、ウエイト側カム体235を構成する曲面は、クラッチシュー233の摩耗が初期状態でクラッチアウター240の円筒面241に接触している場合のカム角度αを基準として、クラッチシュー233の摩耗が終期状態でクラッチアウター240の円筒面241に接触している場合に前記カム角度αを維持可能な曲率の曲面が形成される。また、例えば、ウエイト側カム体235を構成する曲面は、クラッチシュー233の摩耗が終期状態でクラッチアウター240の円筒面241に接触している場合のカム角度αを基準として、クラッチシュー233の摩耗が初期状態でクラッチアウター240の円筒面241に接触している場合に前記カム角度αとなるような曲率の曲面が形成される。
【0052】
本実施形態においては、このウエイト側カム体235は、カム角度αが40°で維持されるように半径が24mmの単一の円弧で形成されている。しかし、ウエイト側カム体235を規定するカム角度αおよび曲面形状は、遠心クラッチ200の仕様に応じて決定されるものであり、本実施形態に限定されるものでないことは当然である。
【0053】
クラッチアウター240は、ドライブシャフト133と一体的に回転駆動する部品であり、金属材料をドライブプレート210からクラッチウエイト230の外周面を覆うカップ状に形成して構成されている。すなわち、クラッチアウター240は、ドライブプレート210の外周側に変位したクラッチウエイト230のクラッチシュー233に摩擦接触する円筒面241を有して構成されている。
【0054】
(遠心クラッチ200の作動)
次に、上記のように構成した遠心クラッチ200の作動について
図6~
図9を用いて説明する。なお、この
図6~
図9においては、Eリング214b、サイドプレート216および連結スプリング232を省略している。また、
図7~
図9においては、遠心クラッチ200におけるドライブプレート210、クラッチアウター240の回転駆動方向をそれぞれ破線矢印で示している。また、
図7~
図10においては、プレート側カム体218の回転方向をそれぞれ破線矢印で示している。また、
図6~
図8は、クラッチシュー233の摩耗がないまたは少ない初期状態での遠心クラッチ200の作動状態を示している。
【0055】
この遠心クラッチ200は、自動二輪車車両(例えば、スクータ)におけるエンジンと駆動輪となる後輪との間に配置された動力伝達機構100の一部を構成して機能する。まず、遠心クラッチ200は、エンジンがアイドリング状態においては、
図6に示すように、エンジンとドライブシャフト133との間の駆動力の伝達を遮断する。具体的には、遠心クラッチ200は、変速機101を介して伝達されるエンジンの回転駆動力によってドライブプレート210が回転駆動してクラッチウエイト230が回転駆動する。
【0056】
しかし、この場合、遠心クラッチ200は、クラッチウエイト230に作用する遠心力が連結スプリング232の弾性力(引張力)よりも小さいため、クラッチシュー233がクラッチアウター240の円筒面241に接触せずエンジンの回転駆動力がドライブシャフト133に伝達されることはない。また、この場合、ウエイト側カム体235は、連結スプリング232の弾性力(引張力)によってプレート側カム体218のローラ面に押し付けられて接触した状態を維持している。
【0057】
そして、クラッチウエイト230は、連結されている2つの連結スプリング232のうちの揺動支持ピン214に対してより遠い位置から引っ張る連結スプリング232(ウエイト側カム体235に隣接した位置に引っ掛けられている連結スプリング232)の引張力によって引っ張られる。この場合、クラッチウエイト230は、ピン摺動孔231が長孔状に形成されているため、ウエイト側カム体235に隣接した位置に引っ掛けられている連結スプリング232側に変位する。これにより、揺動支持ピン214は、ピン摺動孔231におけるドライブプレート210の回転駆動方向の後方側端部に位置することになる(
図6参照)。
【0058】
一方、遠心クラッチ200は、自動二輪車両における運転者のアクセル操作によるエンジンの回転数の増加に応じてエンジンの回転駆動力をドライブシャフト133に伝達する。具体的には、遠心クラッチ200は、エンジンの回転数が増加するに従ってクラッチウエイト230に作用する遠心力が連結スプリング232の弾性力(引張力)よりも大きくなってクラッチウエイト230が揺動支持ピン214を中心として径方向外側に向かって回動変位する。
【0059】
すなわち、遠心クラッチ200は、エンジンの回転数が増加するに従ってクラッチウエイト230が連結スプリング232の弾性力(引張力)に抗しながらクラッチアウター240の円筒面241側に回動変位する結果、クラッチシュー233が円筒面241に接触する。この場合、クラッチウエイト230は、揺動支持ピン214とピン摺動孔231とが樹脂製の支点側摺動部材215を介して摺動するため、円滑に回動変位することができる。
【0060】
このクラッチシュー233が円筒面241に接触した場合、クラッチウエイト230は、クラッチシュー233を介して回転駆動方向とは反対方向の反力を受ける。この場合、ピン摺動孔231は、ドライブプレート210の周方向に沿う長孔状に形成されているとともに、揺動支持ピン214がピン摺動孔231におけるドライブプレート210の回転駆動方向の後方側端部に位置している。すなわち、クラッチウエイト230は、
図7に示すように、ドライブプレート210の回転駆動方向の後方への変位が許容された状態にあるため、クラッチシュー233を介して受ける反力によってドライブプレート210の回転駆動方向とは反対方向に相対変位する。この場合においても、クラッチウエイト230は、揺動支持ピン214とピン摺動孔231とが樹脂製の支点側摺動部材215を介して摺動するため、円滑に変位することができる。
【0061】
これにより、クラッチウエイト230に形成されたウエイト側カム体235は、プレート側カム体218に強く押し付けられる。この場合、プレート側カム体218は、カム体支持ピン217に対して回転自在に支持されているため、ウエイト側カム体235による押し付けによって図示反時計回りに回転する。これにより、クラッチウエイト230は、ウエイト側カム体235がプレート側カム体218を回転変位させながらプレート側カム体218上に乗り上がるに従って径方向外側のクラッチアウター240側に押されてクラッチシュー233が同円筒面241に押し付けられる。この場合、プレート側カム体218は、樹脂材料で構成されているため、両部品が金属材料で構成されている場合に比べて円滑に回転変位することができる。
【0062】
この結果、遠心クラッチ200は、クラッチシュー233がクラッチアウター240の円筒面241に接触した後、極めて短時間(換言すれば、瞬間的)にクラッチシュー233が円筒面241に押し付けられてエンジンの回転駆動力を完全にドライブシャフト133に伝達する連結状態となる。すなわち、クラッチウエイト230は、プレート側カム体218とクラッチアウター240との間に楔状に入り込んだ状態となる。そして、この場合、クラッチウエイト230は、クラッチシュー233の摩耗がないまたは少ない初期状態におけるカム角度αでプレート側カム体218とクラッチアウター240との間に楔状に入り込む。
【0063】
また、この場合、ピン摺動孔231は、クラッチウエイト230は、プレート側カム体218とクラッチアウター240との間に楔状に入り込んだ状態において、揺動支持ピン214が接触しない長さに形成されている。すなわち、ピン摺動孔231は、クラッチウエイト230がプレート側カム体218とクラッチアウター240との間に楔状に入り込んだ状態においても支点側摺動部材215との間に隙間Sが確保されているため、クラッチウエイト230のプレート側カム体218とクラッチアウター240との間への入り込みを阻害することはない。
【0064】
この連結状態において遠心クラッチ200は、クラッチシュー233がクラッチアウター240の円筒面241に押し付けられた状態を維持するため、ドライブプレート210とクラッチアウター240とは一体的に回転駆動する。これにより、自動二輪車両は、エンジンの回転駆動力によって後輪が回転駆動して走行することができる。
【0065】
一方、エンジンの回転数が減少していく場合においては、遠心クラッチ200は、エンジンの回転駆動力のドライブシャフト133への伝達を遮断する。具体的には、遠心クラッチ200は、エンジンの回転数が減少するに従ってクラッチウエイト230に作用する遠心力が連結スプリング232の弾性力(引張力)よりも小さくなってクラッチウエイト230が揺動支持ピン214を中心として径方向内側に向かって回動変位する。
【0066】
この場合、ピン摺動孔231は、
図8に示すように、ドライブプレート210の周方向に沿う長孔状に形成されているとともに、揺動支持ピン214がピン摺動孔231におけるドライブプレート210の回転駆動方向の後方側の端部より若干前方側に位置している。すなわち、クラッチウエイト230は、ドライブプレート210の回転駆動方向の前方への変位が許容された状態にあるため、連結スプリング232の弾性力(引張力)によってドライブプレート210の回転駆動方向の前方に向かってドライブプレートに対して相対的に回転変位する。この場合、クラッチウエイト230は、ウエイト側カム体235がプレート側カム体218を図示時計回りに回転変位させながら変位する。
【0067】
これにより、クラッチウエイト230は、元の位置(前記アイドリング時の位置)に復帰する(
図6参照)。すなわち、遠心クラッチ200は、クラッチシュー233がクラッチアウター240に接触せず回転駆動力を伝達しない遮断状態となる。また、クラッチウエイト230は、連結されている2つの連結スプリング232のうちの揺動支持ピン214に対してより遠い位置から引っ張る連結スプリング232(ウエイト側カム体235に隣接した位置に引っ掛けられている連結スプリング232)側に変位する。
【0068】
これにより、揺動支持ピン214は、ピン摺動孔231におけるドライブプレート210の回転駆動方向の後方側端部に位置することになる(
図6参照)。このようなエンジンの回転数が減少していく場合においても、クラッチウエイト230は、樹脂材の支点側摺動部材215およびプレート側カム体218によって円滑に回動変位することができる。
【0069】
次に、クラッチシュー233の摩耗が進んで厚さが薄くなり使用限界に近い終期状態となった場合について説明する。このクラッチシュー233の終期状態においても、遠心クラッチ200は、前記と同様の過程を経て連結状態となる。すなわち、遠心クラッチ200は、
図9に示すように、プレート側カム体218がカム体支持ピン217に対してクラッチシュー233の摩耗量に相当する分だけ回転することでクラッチシュー233のクラッチアウター240の円筒面241への押し付け力が維持される。
【0070】
この場合、ピン摺動孔231は、クラッチシュー233の摩耗量に相当する分だけクラッチウエイト230がプレート側カム体218とクラッチアウター240との間に楔状に入り込んだ場合であっても支点側摺動部材215が接触しない隙間Sを確保した長さに形成されている。したがって、ピン摺動孔231は、クラッチシュー233の摩耗量に相当する分だけクラッチウエイト230がプレート側カム体218とクラッチアウター240との間に楔状に入り込んだ場合であっても、クラッチウエイト230のプレート側カム体218とクラッチアウター240との間への入り込みを阻害することはない。
【0071】
そして、この終期状態においても遠心クラッチ200は、ウエイト側カム体235がクラッチシュー233の摩耗が進む前後においてカム角度αを維持する曲面に形成されているため、カム角度αが変化することはない。すなわち、遠心クラッチ200は、クラッチシュー233の初期状態から終期状態に至る間においてカム角度αを一定してアシスト推力を一定に維持することができる。これにより、遠心クラッチ200は、自動二輪車両を運転する運転者に対してクラッチシュー233の摩耗が進む過程で運転操作のフィーリングに変化を感じさせることを防止することができる。
【0072】
上記作動説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、遠心クラッチ200は、ドライブプレート210に設けられたプレート側カム体218およびクラッチウエイト230に設けられたウエイト側カム体235における各摺動面のうちの両方が曲面で構成されるとともに、これらの摺動面がクラッチシュー233の摩耗が進む前後においてクラッチシュー233がクラッチアウター240の円筒面241に接触したときのカム角度αが同じになる曲面に形成されている。これにより、本発明に係る遠心クラッチ200においては、クラッチシュー233が摩耗してもアシスト推力を一定に維持して運転操作のフィーリングを一定にすることができるとともに、アシスト推力が上昇することを抑制してプレート側カム体218とウエイト側カム体235との面圧およびクラッチシュー233とクラッチアウター240との面圧の上昇を抑えて摩擦部分の摩耗および損傷を抑制することができる。
【0073】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。なお、下記各変形例において、上記実施形態と同様の構成部分については同じ符号を付して、その説明を省略する。また、各変形例を示す
図10ないし
図14のうちの
図10、
図12および
図13においては、Eリング214b、サイドプレート216および連結スプリング232を省略するとともに、遠心クラッチ200におけるドライブプレート210およびクラッチアウター240の回転駆動方向をそれぞれ破線矢印で示している。
【0074】
例えば、上記実施形態においては、遠心クラッチ200は、クラッチシュー233の摩耗が進む前後においてクラッチシュー233がクラッチアウター240の円筒面241に接触したときのカム角度αが同じになるようにウエイト側カム体235の摺動面を曲面状に形成した。しかし、遠心クラッチ200は、クラッチシュー233の摩耗が進む前後においてクラッチシュー233がクラッチアウター240の円筒面241に接触したときのカム角度αが大きくなるようにウエイト側カム体235の摺動面を曲面状に形成することもできる。
【0075】
具体的には、遠心クラッチ200は、
図10に示すように、ウエイト側カム体235の摺動面を構成する曲面を上記実施形態における曲面の曲率よりも大きな曲率の曲面に形成すればよい。これによれば、遠心クラッチ200は、クラッチシュー233の摩耗が進むに従ってアシスト推力を低下させてクラッチシュー233およびクラッチアウター240などの摩擦部材の摩耗が早まることおよびクラッチシュー233が摩耗によって失われたクラッチウエイト230がクラッチアウター240の円筒面241に接触して互いに損傷することを抑制することができる。
【0076】
また、上記実施形態においては、遠心クラッチ200は、ドライブプレート210に設けられたプレート側カム体218を回転自在なローラで構成するとともに、クラッチウエイト230に形成されたウエイト側カム体235を曲面で構成した。すなわち、遠心クラッチ200は、互いに摺動し合って一対のカムを構成するプレート側カム体218およびウエイト側カム体235をそれぞれ曲面で構成した。しかし、遠心クラッチ200は、互いに摺動し合って一対のカムを構成するプレート側カム体218およびウエイト側カム体235のうちの少なくとも一方を曲面で構成すればよい。
【0077】
したがって、遠心クラッチ200は、ウエイト側カム体235を従来技術と同様に直線的な平面形状に形成するとともに、プレート側カム体218を構成する曲面をクラッチシュー233の摩耗が進む前後においてクラッチシュー233がクラッチアウター240の円筒面241に接触したときのカム角度αが同じまたは大きくなる形状に形成することができる。また、遠心クラッチ200は、プレート側カム体218を直線的な平面形状に形成するとともに、ウエイト側カム体235を構成する曲面をクラッチシュー233の摩耗が進む前後においてクラッチシュー233がクラッチアウター240の円筒面241に接触したときのカム角度αが同じまたは大きくなる形状に形成することができる。
【0078】
また、上記実施形態においては、プレート側カム体218は、ドライブプレート210上で回転自在なローラで構成した。しかし、プレート側カム体218は、ドライブプレート210の外周部から外側に張り出して形成されてウエイト側カム体235を介してクラッチウエイト230を外側に押し出す形状であってドライブプレート210の回転駆動軸方向に延びる面、換言すれば、ドライブプレート210の板面に対して起立する面を有して構成されていればよい。
【0079】
つまり、プレート側カム体218およびウエイト側カム体235は、少なくとも一方がドライブプレート210の回転駆動方向の後方側に向かってドライブプレート210の外側に延びて形成されていればよい。この場合、プレート側カム体218およびウエイト側カム体235は、ドライブプレート210の回転駆動方向の後方側に向かうとともにドライブプレート210の外側に延びた部分がプレート側カム体218およびウエイト側カム体235の全体または部分的に形成されていればよい。
【0080】
したがって、遠心クラッチ200は、例えば、プレート側カム体218をドライブプレート210に対して回転摺動不能な固定状態で構成することができる。また、遠心クラッチ200は、例えば、
図11ないし
図13にそれぞれ示すように、ドライブプレート210の鍔部213上にカム体支持ピン217に代えて垂直方向に起立する棒状体で構成されるとともにこの棒状体の外表面の一部に曲面からなる摺動面を有したプレート側カム体219を設けて構成することができる。また、これらの場合、プレート側カム体218は、ウエイト側カム体235に対して凸状に張り出す曲面のほかに、凹状に凹む曲面で構成することもできる。
【0081】
また、プレート側カム体218は、樹脂材料以外の材料、例えば、金属材料(例えば、炭素鋼、鉄系焼結材またはアルミニウム材など)で構成することができる。この場合、プレート側カム体218は、カム体支持ピン217またはウエイト側カム体235と同じ材料で構成してもよいし、カム体支持ピン217またはウエイト側カム体235とは異なる材料で構成することができる。また、プレート側カム体218は、カム体支持ピン217および/またはウエイト側カム体235を構成する材料よりも摩耗し易い材料で構成することにより、カム体支持ピン217および/またはウエイト側カム体235の摩耗を抑えることができる。また、プレート側カム体218は、カム体支持ピン217および/またはウエイト側カム体235を構成する材料よりも摺動性が良い材料(例えば、アルミニウム材)で構成することにより、カム体支持ピン217とウエイト側カム体235との間の摺動性を向上させることができる。また、プレート側カム体218は、耐熱性および耐摩耗性を有する材料(例えば、金属材料またはセラミック材)で構成することもできる。
【0082】
また、上記実施形態においては、プレート側カム体218およびウエイト側カム体235は、それぞれ1つずつの曲率の曲面で構成した。しかし、プレート側カム体218およびウエイト側カム体235は、それぞれ2つ以上の曲率の曲面で構成することもできる。これによれば、遠心クラッチ200は、クラッチシュー233の摩耗量に応じてアシスト推力を変化させることができる。
【0083】
また、上記実施形態においては、プレート側カム体218およびウエイト側カム体235は、ドライブプレート210およびクラッチウエイト230にそれぞれ1つずつ設けた。しかし、プレート側カム体218およびウエイト側カム体235は、ドライブプレート210およびクラッチウエイト230にそれぞれ2つ以上、すなわち2対以上設けることもできる。
【0084】
また、上記実施形態においては、ウエイト側カム体235は、プレート側カム体218に対して凹状に凹む曲面に形成して構成した。しかし、ウエイト側カム体235は、プレート側カム体218上を摺動して乗り上げる形状に形成されていればよい。したがって、ウエイト側カム体235は、例えば、
図12または
図13にそれぞれ示すように、プレート側カム体218に対して凸状に張り出す曲面に形成して構成することもできる。
【0085】
また、上記実施形態においては、プレート側カム体
218およびウエイト側カム体235は、互いに摺動し合う摺動面が摺動方向に沿って凸状に湾曲する曲面で構成した。これにより、プレート側カム体
218とウエイト側カム体235と互いに線接触で摺動することになる。しかし、プレート側カム体
218およびウエイト側カム体235は、少なくとも一方を摺動方向に直交する方向にも湾曲する曲面で構成することもできる。例えば、
図14には、プレート側カム体
218に対して摺動方向および摺動方向に直交する方向(図示においてクラッチウエイト230の厚さ方向)にそれぞれ凸状に湾曲する曲面で構成されている。これによれば、遠心クラッチ200は、プレート側カム体
218とウエイト側カム体235との摩擦抵抗を少なくすることができるため、駆動力の伝達状態および遮断状態の相互の移行を円滑にすることができる。
【0086】
また、上記実施形態においては、遠心クラッチ200は、揺動支持ピン214をドライブプレート210に設けるとともに、ピン摺動孔231をクラッチウエイト230に設けて構成した。しかし、揺動支持ピン214およびピン摺動孔231は、一方がドライブプレート210またはクラッチウエイト230に設けられるとともに、他方がクラッチウエイト230またはドライブプレート210に設けられていればよい。したがって、遠心クラッチ200は、揺動支持ピン214をクラッチウエイト230に設けるとともに、ピン摺動孔231をドライブプレート210に設けて構成することもできる。
【0087】
また、上記実施形態においては、ピン摺動孔231は、円弧状の貫通孔で構成した。しかし、ピン摺動孔231は、クラッチウエイト230のクラッチシュー233がクラッチアウター240の円筒面241から最も離隔した状態(
図6参照)においてクラッチウエイト230のドライブプレート210の回転駆動方向の後方側への変位を許容する長孔に形成されていればよく、必ずしも上記実施形態に限定されるものではない。
【0088】
したがって、ピン摺動孔231は、ドライブプレート210の径方向に直交する接線方向に延びる直線状に形成することもできる。また、ピン摺動孔231は、一方が開口するとともに他方が塞がれた所謂止り穴で構成することもできる。
【0089】
また、上記実施形態においては、支点側摺動部材215は、樹脂材料を円筒状に形成して揺動支持ピン214の外周部に回転摺動可能な状態で設けた。換言すれば、支点側摺動部材215は、揺動支持ピン214に対してローラとして機能するように構成した。しかし、支点側摺動部材215は、揺動支持ピン214とピン摺動孔231との間に設けられて両者を摺動変位させるように構成されていればよい。
【0090】
したがって、支点側摺動部材215は、樹脂材料以外の材料、例えば、金属材料で構成することができる。この場合、支点側摺動部材215は、揺動支持ピン214またはピン摺動孔231と同じ材料で構成してもよいし、揺動支持ピン214またはピン摺動孔231とは異なる材料で構成することができる。この場合、支点側摺動部材215は、揺動支持ピン214および/またはピン摺動孔231を構成する材料よりも摩耗し易い材料で構成することにより、揺動支持ピン214および/またはピン摺動孔231の摩耗を抑えることができる。また、支点側摺動部材215は、揺動支持ピン214および/またはピン摺動孔231を構成する材料よりも摺動性が良い材料(例えば、アルミニウム材)で構成することにより、揺動支持ピン214とピン摺動孔231との間の摺動性を向上させることができる。また、支点側摺動部材215は、耐熱性および耐摩耗性を有する材料(例えば、金属材料またはセラミック材)で構成することもできる。
【0091】
また、支点側摺動部材215は、揺動支持ピン214の外周部に回転摺動不能な固定状態で設けることができる。この場合、支点側摺動部材215は、揺動支持ピン214に嵌合する筒状に形成してもよいし、揺動支持ピン214に切欠き部分を形成しておき、この切欠き部分に嵌合する平面状または円弧状に延びる板状に形成することもできる。また、支点側摺動部材215は、揺動支持ピン214に形成した切欠き部分に樹脂材料をインサート成形して構成することもできる。さらに、揺動支持ピン214自体およびピン摺動孔231自体のうちの一方を樹脂材料で構成することもできる。なお、支点側摺動部材215は、揺動支持ピン214の外周部に回転摺動可能に構成することにより、揺動支持ピン214に組み付け易いとともに摺動抵抗を抑えることができる。
【0092】
また、支点側摺動部材215は、揺動支持ピン214に加えてまたは代えてピン摺動孔231に設けることもできる。また、遠心クラッチ200は、支点側摺動部材215を省略して揺動支持ピン214とピン摺動孔231とを直接嵌合させて摺動させるように構成することもきできる。
【符号の説明】
【0093】
P…プレート側カム体とウエイト側カム体との接触点、O…ドライブプレートの回転駆動中心、S…隙間、α…カム角、L1…プレート側カム体とウエイト側カム体との接点とドライブプレートの回転駆動中心とを共に通る直線、L2…L1の法線、L3…プレート側カム体とウエイト側カム体との接点における接線、
100…動力伝達機構、101…変速機、
110…ドライブプーリ、111…クランク軸、112…固定ドライブプレート、112a…放熱フィン、113…可動ドライブプレート、114…スリーブ軸受、115…ローラウエイト、116…ランププレート、
120…Vベルト、
130…ドリブンプーリ、131…固定ドリブンプレート、132…ドリブンスリーブ、133…ドライブシャフト、134…可動ドリブンプレート、135…トルクスプリング、
200…遠心クラッチ、
210…ドライブプレート、211…底部、211a…貫通孔、212…筒部、213…鍔部、214…揺動支持ピン、214a…取付ボルト、214b…Eリング、215…支点側摺動部材、216…サイドプレート、217…カム体支持ピン、217a…取付ボルト、218,219…プレート側カム体、
220…ダンパー受けピン、221…ダンパー、
230…クラッチウエイト、231…ピン摺動孔、232…連結スプリング、233…クラッチシュー、234…プレート側カム体逃げ部、235…ウエイト側カム体、
240…クラッチアウター、241…円筒面。