(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-22
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】音声信号補正方法
(51)【国際特許分類】
H04R 3/00 20060101AFI20220111BHJP
【FI】
H04R3/00 310
(21)【出願番号】P 2018532514
(86)(22)【出願日】2016-09-02
(86)【国際出願番号】 EP2016070708
(87)【国際公開番号】W WO2017042098
(87)【国際公開日】2017-03-16
【審査請求日】2019-08-23
(32)【優先日】2015-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CH
(73)【特許権者】
【識別番号】518082600
【氏名又は名称】ヤユマ・オーディオ・スポルカ・ゼット・オグラニゾナ・オドポウィドジアルノシア
【氏名又は名称原語表記】YAYUMA AUDIO SP. Z.O.O.
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】プロクサ,ヤロスラブ
(72)【発明者】
【氏名】ポナ,イェルジー
(72)【発明者】
【氏名】スクルジプチャク,マーチン
【審査官】堀 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-354599(JP,A)
【文献】特開2000-287293(JP,A)
【文献】特開2010-021982(JP,A)
【文献】特開2011-182177(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 3/00- 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜を有する電気音響
音声再生変換器(u)を有する音響システムのための、膜を有する電気音響音声記録変換器(r)
による音声信号(AS)の修正方法であって、
前記音声信号(AS)に、積分部分および微分部分を加えることで得られる以下の式に従って、
前記音声信号(AS)が修正されて、修正された音声信号(CAS)
が生成
され、
【数1】
前記方法は、
係数Bおよび係数C
を、前記修正された音声信号(CAS)に従う前記電気音響音声再生変換器(u)の膜速度の振幅-周波数伝達特性(trans.u)が、前記音声信号(AS)に従う前記電気音響音声記録変換器(r)の膜速度の振幅-周波数伝達特性(trans.r)と同様または同一である形状を有するように、適合することを備え、
係数Bは-10~0であり、
係数Cは0~0.04である
(ただし係数Bと係数Cとが同時に0になる場合を除く)ことを特徴とする
、方法。
【請求項2】
係数Bは-5~-1であ
ることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
係数Bは-3.2であ
ることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
係数Cは0.005~0.020であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
係数Cは0.01であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
さらに、前記係数Bの前記係数Cに対する比は、-50~-1000であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
さらに、前記係数Bの前記係数Cに対する比は、-250~-350であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
音響信号(Sout)は、
前記修正された音声信号(CAS)によって前記電気音響音声再生変換器(u)を励起することにより形成されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記修正された音声信号(CAS)は、前記電気音響音声再生変換器(u)が励起される前に増幅されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記音声信号(AS)は、記憶媒体に格納された音声情報の再生によって提供されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記修正された音声信号(CAS)は、記憶媒体に記憶されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気音響変換器を用いて音声信号に基づいて再生される音響信号の音響忠実度を改善するための、当該音声信号の補正に関する。本発明は、特に、電磁気および磁電気ダイナミック電気音響変換器によって、音響信号を音声信号の形式で記録し、音声信号から音響信号を再生することに関する。
【背景技術】
【0002】
大企業や小規模の一人企業による研究室で行われる研究開発活動の成果では、音響記録および再生のシステムは依然として開発中である。多くの熟練した技術者は、より忠実に最初に原音響信号(例えば、人間の声および古典的楽器の音のような自然の音源に由来する音響音など)を音声信号に変換し、その音声信号から原音響信号を正確に反映する(特に、原音響信号の自然な性質、例えば人間の声または古典的な楽器などの特性なども反映する)であろう音響信号を再生することができる音声システムのますます改善された解決法を開発するために継続的な研究を行っている。
【0003】
音響圧(音)を電気信号(例えば、マイクロフォンおよびエレクトリックギターピックアップなどで生成される)に変換し、電気信号を音響信号(例えば、ラウドスピーカ、ヘッドフォン、ハイドロフォンなどで生成される)に変換するために、電気音響変換器が使用される。
【0004】
現在使用されている電気音響変換器の大部分の動作は、電気導体(実質的にコイルの形式である)とその導体を取り囲む磁場との間の相互作用に基づいている。
【0005】
ある構造に関しては、そのような電気音響変換器は、電磁変換器と磁電ダイナミック変換器に分割されてもよい。
【0006】
電気音響変換器の振幅-周波数特性は、例えば、機械的構造、膜を製造するために使用される材料、変換器全体の構成の幾何学的形状、追加的に導入される共鳴または減衰などのような多数のパラメータに依存する。これらのパラメータは全て、電気音響変換器の製造業者によって意図的に利用され、再生される音響信号の音に大きな影響を与える。
【0007】
音声システムの最も弱い(すなわち、最も大きな歪みを導入する)要素は、ラウドスピーカ(ヘッドフォン)であると一般的にみなされている。したがって、音声システムの主な開発方向の1つは、電気音響変換器(ラウドスピーカ)の負であるが不可避の特徴、例えば非線形性、内部共鳴、それら自体の周波数、時間的なパラメータの変動などを補償する、記録された音響信号の形状のそのような修正を開発する試みに関連する。
【0008】
そのような解決法の1つは、特許出願US2014064502に開示されたアルゴリズムである。
【0009】
ラウドスピーカを駆動する増幅器への送信前の音声信号形状の修正は、デジタル領域において、ソース記録内容の変更によって、またはアナログ領域において、アナログフィルタによる音声信号形状の変更によって、実現することができる。
【0010】
本発明は、デジタル領域とアナログ領域との両方で実現可能な電気音響変換器(例えばラウドスピーカ)を駆動する増幅器に送信する前に、ソースの原音声信号を修正するアルゴリズムに関する。
【0011】
すべての磁電変換器および電磁変換器は、構造上の解決策および材料にかかわらず、同じ基本的な物理的原理に基づいて動作する。
【0012】
変換器膜の運動、すなわち音響圧(ラウドスピーカおよびヘッドホンなど)への電気信号(変換器コイルを流れる電流)の変換器は、音響信号を表す態様で変動可能な電流強度Iの電流(したがって、電流が音声信号を構成する)が導体ワイヤの全長Lのコイルを通って流されるような態様で動作し、コイルは変換器膜と固定的に結合され、磁気誘導Bの強い磁場に位置する。電流Iの流れは、コイルに作用し(したがって、膜にも作用し)、式:F=I×L×Bによって規定される値を有する力Fを誘導する。ある極端な状態では、電流Iが一定の値を有する場合、力Fも一定であり、したがって変換器膜の変位xも結果的に一定である。
【0013】
電気音響変換器が、発電機Gから、
図1において提示される音声システム1aにおいて、一定の振幅Aの電流I(t)=Asin(2πft)、および1Hz~30kHzの範囲からの可変周波数fで、通電される場合、膜変位xの振幅は、式x(t,f)=a(f)sin(2πft+φ(f))によって規定され、係数a(f)iφ(f)は周波数fの変化に伴って変化する。
【0014】
図2は、市販の電気音響変換器の例BEYERDYNAMIC DT880の振幅-周波数特性x(t,f)(実線)を示す。
【0015】
低音響周波数の範囲では、特性x(t,f)はL1(破線)で示された線に平行であり、すなわち膜変位xは変換器コイルを流れる電流Iの形状を反映する。線L1は、全周波数範囲における一定の振幅の特性を表す。
【0016】
線L2(点線)は、全周波数範囲において一定の振幅の力によって推進される質量の運動エネルギーの一定性の条件を得るために必要な振幅変動性の経過を表す。膜の速度vは、値v2に比例する膜運動エネルギーとならんで、周波数増加と共に増加する。電流Iにより膜に供給されるエネルギーは全周波数範囲において一定であるので、膜運動エネルギーも一定のままでなければならず、従って振動の振幅は減少しなければならない。高い音響周波数の範囲においては、特性x(t,f)は線L2に対して平行である。
【0017】
図3は、実質的に理想的な媒体内に配置された2つの同一の電気音響変換器sおよびrを備えた音声システム1bを示しており、両方の変換器sおよびrの膜が実質的に理想的に同様に振動することを保証している。変換器r膜の振動は、この変換器rのコイルにおいて電磁力emf=v(t,f)×B×Lを誘導する。
【0018】
図4は、電気信号emf(t,f)の振幅-周波数特性(実線)を示す。図示されているように、変換器sとrは同一であり、それらの膜は同一に振動するが、変換器rによって生成される電気信号emfの振幅-周波数特性は、膜の運動x(t,f)(実線)を鏡映しない形状を有する。この不一致は、電磁力emfは、膜の運動の速度vに対しては比例するが、コイルの変位xには(したがって、膜の変位にも)比例しないことから生じる。
【0019】
図5は、第2の変換器rから電気信号emfが供給される増幅器AMPから供給を受ける第3の電気音響変換器uを追加的に含む
図3の音声システム1bである音声システム1cを示す。第3の電気音響変換器uは、
図3からの変換器s、rと全く同じである。変換器uに変換器rからの信号を供給すると、基本的な物理的原理に従って、
図6に示される、再生される信号の特性のその後の変形が生じる結果となる。
【0020】
図6は、音響再生のために用いられる先行技術(
図5に概略的に示されている)から公知のすべての音声システムにおいて、(例えば、スピーカまたはヘッドフォンなどの)音響再生変換器uの膜運動速度の振幅-周波数伝達特性trans.u->v(t,f)(一点鎖線)は、音響記録トランスデューサr(マイクロフォンなどの音響信号から音声信号を生成する変換器)の膜運動速度の振幅-周波数伝達特性trans.r->v(t,f)とは実質的に異なる、という事実を示す。
【0021】
その結果、音響再生変換器uの膜運動(時間の関数における膜位置)の振幅-周波数伝達特性trans.u->x(t,f)(点線)はソースの原音響信号を生成する変換器sの膜運動の伝達特性trans.s->x(t,f)(実線)とは実質的に異なる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の目的は、上述した所見に基づいて、変換器rによって変換器uに供給される音声信号を補正(修正)する方法であって、電流I(t)によって通電される電気音響変換器のコイルは、この電流I(t)の形状をコイルの位置x(t,f)に変換し、一方、同じコイル自体が、(たとえば膜および音響圧を用いて得られる)機械的励起の影響下で変位するときには、電磁力emfをこのコイルの速度v(t,f)に変換する、という事実を考慮している。
【0023】
このような補正または修正は、音響記録変換器rと音響再生変換器uとの間で(有利には増幅器AMPの前で)実現されるべきであり、
図7に示される音声システム1dにおいて記号による機能ブロックMODとして示される。
【0024】
このような補正または修正では、音響再生変換器u(膜)の運動伝達特性trans.u->x(t,f)(点線)は、音源を構成する変換器sのコイル(膜)の運動伝達特性trans.s->x(t,f)(実線)の形状とおそらく同様(理想的には同一)である形状を有するべきであり、理想的な場合には、
図8に示すような特性補正を実現することができるべきである。
【0025】
図8に見られるように、さらに、音響再生変換器u(ラウドスピーカ、ヘッドホン)のコイル(膜)速度の伝達特性trans.u->v(t,f)(一点鎖線)は、音響圧変換器r(マイクロフォン)のコイル(膜)の伝達特性trans.r->v(t,f)(破線)の形状とおそらく同様(理想的には同一)である形状を有するべきである。
【0026】
本発明者らは、驚くべきことに、上記され、
図8に示される特性の所望の補正は、電気音響変換器を用いて記録された音声信号(AS)を、補正された音声信号(CAS)に、以下の式Iに従って補正することにより達成され得ることを見出した:
【0027】
【0028】
式中、
係数Bは-10~0、好ましくは-5~-1、特に好ましくは約-3.2であり、
係数Cは0~0.04、好ましくは0.005~0.020であり、特に好ましくは約0.01である。
【0029】
上記に関し、本発明によれば、電気音響変換器、特に電磁または磁電ダイナミック電気音響変換器を使用して形成された音声信号ASの補正方法であって、以下の式Iに従って、音声信号ASに基づいて、電気音響変換器による高忠実度の音響再生に使用可能な、補正された音声信号CASを生成することを備える。
【0030】
【0031】
式中、
係数Bは-10~0、好ましくは-5~-1、特に好ましくは約-3.2であり、
係数Cは0~0.04、好ましくは0.005~0.020であり、特に好ましくは約0.01である。
【0032】
さらに、係数Bの係数Cに対する比は、好ましくは-50~-1000、より好ましくは-250~-350である。
【0033】
本発明によれば、電気音響変換器を使用して形成された音声信号ASに基づいて、電気音響変換器を用いて音響信号Soutを再生する方法も提供され、この方法は、
a)以下の式Iに従って、音声信号ASに基づいて、補正された音声信号CASを生成するステップを備え、
【0034】
【0035】
式中、
係数Bは-10~0、好ましくは-5~-1、特に好ましくは約-3.2であり、
係数Cは0~0.04、好ましくは0.005~0.020であり、特に好ましくは約0.01であり、前記方法はさらに、
b)補正された音声信号CASに対応する電気制御信号(ECS)を、好ましくは補正された音声信号CASの増幅によって生成するステップと、
c)電気制御信号ECSで電気音響変換器に通電するステップとを備える。
【0036】
さらに、係数Bの係数Cに対する比は、好ましくは-50~-1000、より好ましくは-250~-350である。
【0037】
この音響信号再生方法の好ましい実現において、電気制御信号ECSは、補正された音声信号CASの時間経過形状に対応する電流時間経過形状の電流制御信号ECSiである。
【0038】
さらに、この発明によって提供されるのは、電気音響変換器によって音響信号を音声信号に変換する方法であって、以下の式Iに従って、電気音響変換器によって受信された所与の音響信号Sinに応答して電気音響変換器によって生成される音声信号ASに基づいて、電気音響変換器による高忠実度音響再生に使用可能な補正された音声信号CASを生成することを備え、
【0039】
【0040】
式中、
係数Bは-10~0、好ましくは-5~-1、特に好ましくは約-3.2であり、
係数Cは0~0.04、好ましくは0.005~0.020であり、特に好ましくは約0.01である。
【0041】
この方法では、係数Bの係数Cに対する比は、好ましくは-50~-1000、より好ましくは-250~-350である。
【0042】
最後に、本発明によれば、電気音響変換器を使用して音声信号の形式で音響信号Sinを記録する方法が提供され、この方法は、
a)以下の式Iに従って、電気音響変換器によって受信された所与の音響信号Sinに応答して電気音響変換器によって生成される音声信号ASに基づいて、電気音響変換器による高忠実度音響再生に使用可能な補正された音声信号CASを生成するステップを備え、
【0043】
【0044】
式中、
係数Bは-10~0、好ましくは-5~-1、特に好ましくは約-3.2であり、
係数Cは0~0.04、好ましくは0.005~0.020であり、特に好ましくは約0.01であり、前記方法はさらに、
b)補正された音声信号(CAS)を記憶媒体に格納するステップを備える。
【0045】
さらに、係数Bの係数Cに対する比は、好ましくは-50~-1000、より好ましくは-250~-350である。
【0046】
本発明による音声信号は、あるパラメータの時間経過が音響信号の時間経過の表現(音響圧)を構成する信号であって、この所与の音響信号(音響圧)を受信している間、すなわち音響圧信号によって変換器膜(およびしたがって変換器コイル)に影響を及ぼす間に電気音響変換器によって生成される出力信号(例えば、一般に変換器出力電圧)に基づいて得られた、任意の信号として理解されるべきである。
【0047】
典型的な場合、音声信号は、電気音響変換器によって受信される音響信号に応答して生成される電気音響変換器の出力電圧の時間経過に対応する信号でなければならない。
【0048】
本発明による提案された原音声信号の補正は比較的簡単であり、驚くべきことに、音声信号を記録するために使用される変換器の特定のモデルとは無関係に、あらゆるタイプの電気音響変換器に対して効率的に動作する。予期しないことに、本発明は、電磁変換器、磁電ダイナミック変換器、圧電変換器および容量性変換器を使用して再生される音響信号および記録される音声信号の忠実度を劇的に増加させる。したがって、本発明による解決策は極めて普遍的である。
【0049】
電磁および磁電ダイナミック変換器は、それらの動作が基づく物理的原理を考慮すると、本発明による音声信号補正の肯定的な影響は、出力電気音響変換器の制御のために電流制御信号が使用される場合に特に意義がある。適切な電流制御信号は、本発明に従って補正された音声信号によって制御される、例えば、アナログ電流源、音声電流増幅器、または電流出力信号を得るために補正された電圧源などの、電流源を使用して生成することができる。
【0050】
さらに、使用される所与の変換器の品質がより良好である(とりわけ、振幅-周波数伝達特性の、比較的小さな非線形性によって示される)ほど、より良好な補正結果が本発明によって提供される。
【0051】
本発明による音声信号の補正は、所与の音声信号の記録中そのような補正が行われなかった場合にその所与の音声信号からの音響信号再生中に、または好ましくは所与の音声信号記録もしくは格納中に用いられてもよく、それにより、この補正は1回だけ実行され、この補正の結果は、本発明による解決策をどのようにも実現されていない、この補正された音声信号を用いるすべての音響再生装置についても、利用可能である。
【0052】
本発明に従って補正された音声信号は、電気音響変換器を用いてローカルに直接的に再生されることができ、(例えば、オペラ歌手の音声は、本発明に従って補正される音声信号に変換され、本発明の解決策によって補正されたバージョンで、オペラ音響システムラウドスピーカーを用いてローカルの歌手の音声再生に使用することができ;先行技術で公知の音声システムによって提供される音声再生の品質は、そのようなリアルタイムのオペラ歌手の音声再生に対して可能ではない)、または通信リンク(例えば、ワイヤレス無線通信リンク)を用いて、音響再生のための適切なラウドスピーカを備えた多数の遠隔地に位置する受信機に送信することによって遠隔で再生することができる。
【0053】
熟練した技術者にとって、本発明の補正方法に供される所与の原音声信号の生成中に、入力電気音響変換器(マイクロフォン)の通常の振幅-周波数特性の強い修正が(例えば原音声信号の特定の周波数成分の減衰および/または増幅を含む等化のような音響補正によって)導入される場合、場合によっては、本発明の式Iの係数BおよびCも、修正されなければならないかもしれないことは明らかである。
【0054】
図面の説明
本発明の例示的な実施形態は、添付の図面に関連して以下に提示される。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【
図9】本発明による音声信号補正の例示的な方法を実現する例示的な補正ブロックを概略的に示す。
【
図10】本発明による方法の実現のために使用され得る音声システムを概略的に示す。
【
図11】本発明による方法の実現のために使用され得る音声システムを概略的に示す。
【
図12】本発明による方法の実現のために使用され得る音声システムを概略的に示す。
【
図13】電気音響変換器によって音響信号を音声信号に変換する方法の実現のための例示的な音声システムを概略的に示す。
【
図14】本発明による音響信号記録方法を、電気音響変換器を用いて音声信号の形式で実現するための例示的な音声システムを概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0056】
本発明に従って提案されるすべての解決策は、
図9に示される音声信号補正の普遍的な方法に基づいている。本発明によるこの補正方法の要点は、補正ブロック2によってあらわされ、補正ブロック2は、補正ブロック2の入力に接続された積分ブロック3および微分ブロック4と、2つの乗算ブロック5,6と、加算ブロック7とを備える。
【0057】
加算ブロック7は、補正ブロック2の入力および乗算ブロック5,6の出力にそれぞれ接続される2つの入力を有する。積分ブロック3は、その出力に、補正ブロック2の入力に供給される入力音声信号ASの積分を構成する信号を生成する。微分ブロック4は、その出力において、補正ブロック2の入力に供給される入力音声信号ASの導関数を構成する信号を生成する。乗算ブロック5の一方の入力は積分ブロック3の出力に接続され、乗算ブロック6の一方の入力は微分ブロック4の出力に接続される。乗算ブロック5,6の残りの第2の入力は、それぞれブロック2,3からの出力信号の乗算のための乗数BおよびCを与える係数ブロック8,9にそれぞれ接続されている。係数Bは-10~0、好ましくは-5~-1、特に好ましくは約-3.2である。係数Cは0~0.04、好ましくは0.005~0.020であり、特に好ましくは約0.01である。さらに、係数Bの係数Cに対する比は、好ましくは-50~-1000、より好ましくは-250~-350である。
【0058】
本発明の音声信号補正方法では、任意の音声信号源(例えば、CDプレーヤやラジオチューナなど)に由来する原音声信号ASに対して、ブロック2およびブロック3で積分演算と微分演算が行なわれる。これらの演算の実現方法は絶対的に任意であり、任意の適切なハードウェアおよび/またはソフトウェア手段を使用して実行することができる。続いて、原音声信号ASの積分を表す信号に係数Bが乗算され、原音声信号ASの導関数を表す信号に係数Cが乗算される。最後に、原音声信号ASとその積分および微分に上記規定の係数Bおよび係数Cを乗算したものと加算の結果、補正ブロック2は、その出力において、以下の式Iに従って原音声信号ASに基づいて最終的に補正された音声信号CASを生成する:
【0059】
【0060】
式中、
係数Bは-10~0、好ましくは-5~-1、特に好ましくは約-3.2であり、
係数Cは0~0.04、好ましくは0.005~0.020であり、特に好ましくは約0.01である。
さらに、係数Bの係数Cに対する比は、好ましくは-50~-1000、より好ましくは-250~-350である。
【0061】
図10~
図12は、音声信号に基づいて電気音響変換器を用いて音響再生する方法の実現に使用することができる例示的な音声信号のブロック図を示している。
【0062】
図10のシステム10aは、アナログ音声信号ASaを再生するために使用され、
図9の補正ブロック2が実装され、その出力に増幅器AMPが接続されたアナログ信号プロセッサASPを含む。増幅器AMPは、出力ダイナミック電気音響変換器を含むラウドスピーカuに電圧を印加する。プロセッサASPの補正ブロック2は、入力アナログ音声信号ASaを、式Iに従って同様にアナログ形式を有する補正された音声信号CASaに変換する。
【0063】
【0064】
式中、係数Bは-10~0、好ましくは-5~-1、特に好ましくは約-3.2であり、係数Cは0~0.04、好ましくは0.005~0.020であり、特に好ましくは約0.01である。さらに、係数Bの係数Cに対する比は、好ましくは-50~-1000、より好ましくは-250~-350である。続いて、アナログ補正音声信号CASaは、増幅器AMPにおいて増幅され、その出力に、補正された音声信号CASaの時間経過形状に対応する電圧時間経過形状を有する電圧制御信号ECSuを生成する。その後、制御信号ECSuは、忠実度の高い出力音響信号Soutを放射することによって、原音声信号ASの形式で記録された音響信号を再生する変換器uに供給される。
【0065】
図11のシステム10bは、デジタル音声信号ASdに基づいた音響再生に使用され、
図9の補正ブロック2が実装されたデジタル信号プロセッサDSPと、デジタル-アナログ変換器D/Aと、出力ダイナミックラウドスピーカuに電圧を印加する増幅器AMPとを含む。プロセッサDSPの補正ブロック2は、入力デジタル音声信号ASdを式Iに従って、同様にデジタル形式を有する補正された音声信号CASdに変換する。
【0066】
【0067】
式中、係数Bは-10~0、好ましくは-5~-1、特に好ましくは約-3.2であり、係数Cは0~0.04、好ましくは0.005~0.020であり、特に好ましくは約0.01である。さらに、係数Bの係数Cに対する比は、好ましくは-50~-1000、より好ましくは-250~-350である。デジタル信号ASdの積分演算および微分演算は、特にデジタル離散信号用に設計された適切な積分および微分アルゴリズムを用いて明らかに実現される。したがって、式Iにおける積分∫および微分d/dtの一般的な普遍的な数学記号は、その実現の特定のアルゴリズムにかかわらず、積分および微分演算の象徴的な表示としてのみ理解されるべきである。デジタル音声信号の積分がこの信号のすべての連続した前のサンプルの加算によって実現される特定の場合には、記号∫は記号Σで置き換えられるべきである。補正された音声信号CASdは、その後、変換器D/Aにおいて、アナログ補正音声信号CASaに変換され、それはさらに増幅器AMPにおいて増幅される。信号CASaに基づいて、電流源を含む増幅器AMPは、ラウドスピーカu用の出力電気制御信号ECSiを生成する。出力制御信号ECSiは、アナログ補正音声信号CASaの時間経過形状に対応する電流時間経過形状の電流信号の形式を有する。電流特性の制御信号ECSiの使用は、ラウドスピーカuによって再生される音響信号Soutの忠実度をさらに増加させる。
【0068】
図12の音声システム9cは、アナログ信号プロセッサASPを使用して、デジタル音声信号ASdからの、本発明の方法による音響再生に使用される。この音声システム9cは、
図9の音声システム9aに、入力デジタル音声信号ASdをそのアナログ表現ASaに変換する入力デジタル-アナログ変換器D/Aを追加的に備えたものである。
【0069】
図13に示す音声システム10dは、入力音声信号Sinを音声信号に変換するために使用され、それに基づいて、この入力音声信号Sinを電気音響変換器uによって忠実に再現することが可能となる。音声システム10dは、音響信号Sinによって励起されたときにその電気的出力に原アナログ音声信号ASaを生成するマイクロフォンとして機能する入力ダイナミック電気音響変換器rを含む。次いで、この原アナログ音声信号ASaは、アナログ信号プロセッサASPの補正ブロック2において、本発明による補正の方法に供される。補正ブロック2は、
図9に示すブロック2であり、原アナログ音声信号ASaは、式Iに従って、補正されたアナログ音声信号CASaに変換され、
【0070】
【0071】
式中、係数Bは-10~0、好ましくは-5~-1、特に好ましくは約-3.2であり、係数Cは0~0.04、好ましくは0.005~0.020であり、特に好ましくは約0.01である。さらに、係数Bの係数Cに対する比は、好ましくは-50~-1000、より好ましくは-250~-350である。その後、このような補正された音声信号CASaは、例えば、送信ユニットTUによって、いくつかの受信ユニットRU(例えば、無線受信機)に送信される無線信号に変換され得る。出力変換器u(ラウドスピーカ)を備えた受信ユニットRUは、送信ユニットTUの側で既に一元的かつ包括的に実現された、音声信号補正をさらに必要としない、受信された無線信号に基づいて高忠実度で直接音を再生し得る。出力変換器uによって生成された出力音響信号Soutは、原入力音響信号Sinの非常に忠実な再生を構成する。
【0072】
代替の実施形態では、補正された音声信号CASaを、遠隔地に送信する代わりに、この信号を、明らかに、ローカル音声システムで直接再生してもよい。例えば、オペラ歌手の声を、補正された音声信号として記録し、それに基づいて、オペラ歌手の声を、ローカルのオペラ音声システムによって高忠実度で実時間で実際に再生してもよい。
【0073】
図14の音声システム10eは、入力音声信号Sinを音声信号に記録するために使用され、それに基づいて、この入力音声信号Sinを、出力電気音響変換器を備えた音声システムによって忠実に再現することが可能となる。入力電気音響変換器r(マイクロフォン)は、入力音声信号Sinを、アナログ電圧音声信号ASaを構成するその電気的表現に変換する。続いて、アナログ/デジタル変換されたA/Dにおいて、この原アナログ音声信号ASaは、そのデジタル表現ASdに変換され、それは、式Iに基づいて本発明による補正を受ける:
【0074】
【0075】
式中、係数Bは-10~0、好ましくは-5~-1、特に好ましくは約-3.2であり、係数Cは0~0.04、好ましくは0.005~0.020であり、特に好ましくは約0.01である。さらに、係数Bの係数Cに対する比は、好ましくは-50~-1000、より好ましくは-250~-350である。この動作は、デジタル信号プロセッサDSPに実装される
図9のブロック2を構成する補正ブロック2において実行される。プロセッサDSPの出力において、補正されたデジタル音声信号CASdが得られ、それに基づいて、電気音響変換器を用いて原音響信号Sinを高い忠実度で再生することが可能となる。最後に、出力補正音声信号CASdは、例えば光ディスクのような任意の記憶媒体に記憶される。
【0076】
本発明の別の実現例では、上述の信号プロセッサASPおよびDSPの代わりに、任意の他の任意の電気および/または電子システム(能動的および/または受動的手段)および/またはハードウェアおよび/またはソフトウェア手段を用いることが可能であり、本発明の基礎となる式Iにより、音声信号ASの、補正された音声信号CASへの補正の実現を可能にする。