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特許6998310腎障害診断用造影剤としての超微細ナノ粒子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-22
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】腎障害診断用造影剤としての超微細ナノ粒子
(51)【国際特許分類】
   A61K 49/12 20060101AFI20220203BHJP
   A61K 51/06 20060101ALI20220203BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20220203BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20220203BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20220203BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20220203BHJP
   G21H 5/02 20060101ALI20220203BHJP
   B82B 1/00 20060101ALI20220203BHJP
   B82Y 5/00 20110101ALI20220203BHJP
【FI】
A61K49/12
A61K51/06 200
A61K9/14
A61K47/34
A61K47/18
A61K47/02
G21H5/02 C
B82B1/00 ZNM
B82Y5/00
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2018536846
(86)(22)【出願日】2017-01-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-03-28
(86)【国際出願番号】 EP2017050682
(87)【国際公開番号】W WO2017121858
(87)【国際公開日】2017-07-20
【審査請求日】2019-11-19
(31)【優先権主張番号】16305038.8
(32)【優先日】2016-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500248467
【氏名又は名称】アンスティテュ ナシオナル ドゥ ラ サントゥ エ ドゥ ラ ルシェルシェ メディカル(イーエヌエスエーエールエム)
(73)【特許権者】
【識別番号】508019311
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ クロード ベルナール リヨン 1
(73)【特許権者】
【識別番号】500283125
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ パリ デカルト
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS DESCARTES
【住所又は居所原語表記】12,rue de l’Ecole de Medecine,F-75006 Paris FRANCE
(73)【特許権者】
【識別番号】305023584
【氏名又は名称】サントル・ナシオナル・ド・ラ・ルシェルシュ・シアンティフィック
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
【住所又は居所原語表記】3 rue Michel Ange, 75794 PARIS CEDEX 16, France
(73)【特許権者】
【識別番号】516213895
【氏名又は名称】エコール ナシオナル スュペリュール ドゥ シミー ドゥ パリ
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミニエ, ナタリ
(72)【発明者】
【氏名】ドアン, ビク-トゥイ
(72)【発明者】
【氏名】ルムニチェアヌ, グレゴリー
(72)【発明者】
【氏名】ティユマン, オリビエ
(72)【発明者】
【氏名】サンセ ガリオ, リュシー
(72)【発明者】
【氏名】リュクス, フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】セガン, ジョアンヌ
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/124131(WO,A2)
【文献】特開2009-161753(JP,A)
【文献】特表2015-518478(JP,A)
【文献】Magn. Reson. Med. (2014) vol.71, issue 6, p.2186-2196
【文献】Cancer Nanotechnol. (2014) vol.5, issue 1, 4
【文献】Br. J. Radiol. (2014) vol.87, issue 1041, 20140134
【文献】J. Nucl. Med. (2015) vol.56, suppl.3, Abstract no.273
【文献】Mol. Imaging Biol. (2012) vol.14, no.2, suppl.1, p.S2027(SS 39)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 49/00
A61K 51/06
A61K 9/14
A61K 47/34
A61K 47/18
A61K 47/02
A61K 49/18
G21H 5/02
B82B 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトまたは動物の腎障害を生体内で診断する方法における造影剤として使用されるナノ粒子であって、
(i)ポリオルガノシロキサン(POS)マトリックスと、
(ii)-Si-C-共有結合により上記POSマトリックスにグラフトされた1種以上のキレート剤と、
(iii)上記キレート剤のうちの1種以上によりキレートされた1種以上の金属イオンと
を含み、
平均流体力学直径が10nm未満である、ナノ粒子。
【請求項2】
上記ナノ粒子は、TMRI造影用の少なくとも1種の金属イオンを含む、請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項3】
上記ナノ粒子は、粒子あたりの緩和度(r)が50~5000mM-1.s-1の範囲であり、かつ/または上記金属イオンの重量比が少なくとも5%の範囲である、請求項1または2に記載のナノ粒子。
【請求項4】
上記金属イオンの重量比が5~50%の範囲である、請求項3に記載のナノ粒子。
【請求項5】
上記金属イオンは放射性金属イオンである、請求項1~4のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項6】
上記金属イオンは放射性金属イオンの陽イオンMn+(nは2~4の範囲の整数)である、請求項1~5のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項7】
上記放射性金属イオンの陽イオンはランタニドである、請求項6に記載のナノ粒子。
【請求項8】
上記放射性金属イオンの陽イオンはDy、Lu、Gd、Ho、Eu、Tb、Nd、Er、Yb、またはこれらの混合物から選択されるランタニドである、請求項6または7に記載のナノ粒子。
【請求項9】
上記キレート剤は、ランタニド錯化剤である、請求項7または8に記載のナノ粒子。
【請求項10】
ランタニド錯化剤がジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)、1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4,7-三酢酸(NOTA)、またはこれらの誘導体から選択される、請求項9に記載のナノ粒子。
【請求項11】
上記金属イオンはGd3+であり、上記キレート剤は1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)である、請求項1~10のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項12】
上記POSマトリックスまたは上記キレート剤にグラフトされた機能化剤をさらに含む、請求項1~11のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項13】
前記機能化剤が、(i)蛍光剤、(ii)ポリエチレングリコール(PEG)、および(iii)上記ナノ粒子を標的化するための標的化分子から選択される、請求項12に記載のナノ粒子。
【請求項14】
上記腎障害は腎線維症および/または腎不全である、請求項1~13のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載のナノ粒子を含む、
ヒトまたは動物の腎障害の生体内での診断における造影用組成物。
【請求項16】
ヒトまたは動物の腎障害を診断するための組成物を製造するための請求項1~14に記載のナノ粒子の使用。
【請求項17】
請求項1~14のいずれか1項に記載のナノ粒子が投与されたヒトまたは動物の腎障害を生体内で判定する方法であって、
(i)腎臓で上記ナノ粒子を視覚化するために適当な造影法により画像を取得する工程と、
(ii)エンハンスメントを測定する工程と、
(iii)工程(ii)で得たエンハンスメントを基準エンハンスメントと比較し、エンハンスメントピークが基準エンハンスメントピークに対して5%超低下している場合に腎障害を有すると判定する工程とを含む方法。
【請求項18】
工程(i)における腎臓が腎皮質である、
請求項17に記載の方法。
【請求項19】
請求項1~14のいずれか1項に記載のナノ粒子が投与されたヒトまたは動物の腎障害の治療の治療有効性を監視する方法であって、
(i)腎臓で上記ナノ粒子を視覚化するために適当な造影法により画像を取得する工程と、
(ii)エンハンスメントを測定する工程と、
(iii)上記治療対象の治療中に工程(i)および(ii)を必要な回数繰り返す工程と、
(iv)上記治療中の上記エンハンスメントの変化を基準エンハンスメントと比較し、エンハンスメントピークが基準エンハンスメントピークに対して5%超増加している場合に腎障害治療の治療が有効であると判定する工程とを含む方法。
【請求項20】
工程(i)における腎臓が腎皮質である、
請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腎障害を診断するための薬剤としての超微細ナノ粒子の新規な使用に関する。
【背景技術】
【0002】
腎臓は血液を浄化する機能を持つ器官である。したがって、腎臓はヒトの場合、1日に170リットルもの血液を濾過できる。血液を濾過することで、腎臓は尿を生成する。尿は、水、無機塩(ナトリウム、カリウム、カルシウムなど)、および毒性排出物(例えば尿素およびクレアチニン)からなる混合物である。
【0003】
血液の濾過および尿の生成に加えて、腎臓は他の重要な生理的機能も担っている。例えば、体内での水分および塩濃度の調節、赤血球の形成に必須であるエリスロポエチンの産生、血中カルシウム濃度の維持に関与するビタミンD活性型の産生、体液組成の調節、あるいは血圧の調節に関与するレニンの産生などが挙げられる。
【0004】
病理的腎臓異常には様々な種類のものがあり、腎障害へと至る場合がある。腎障害は、一般に、腎機能の低下、特に尿細管機能の低下および/または糸球体濾過量の低下に繋がる。最も深刻な場合には腎不全にまで及ぶこともある。
【0005】
腎不全は腎機能障害に相当し、腎臓はもはや血液を正常に濾過することができなくなる。障害が一過性で可逆的であればこの疾患は急性であると言い、その破壊が不可逆的で回復の可能性がない場合は慢性であると言う。腎不全が重度である場合、透析または移植によって腎機能を置換することができる。透析によって、通常は身体の外側にある誘導回路を介して血液を濾過できる。
【0006】
急性腎不全は、通常、出血時の急激かつ一過性の血圧の低下、一般的な感染(敗血症)、薬物中毒などといった攻撃の後や、あるいは腎臓結石または前立腺腺腫による尿路の閉塞の際に起こる。腎臓は、治療後、自然に正常な機能に戻るまでに数日を要する。この期間に透析を行うことが推奨される場合がある。これにより、患者は腎臓の自己修復過程の間生存することができる。
【0007】
定義上、慢性腎不全は退縮しない。慢性腎不全は、徐々にかつ不可逆的に様々な腎臓構造を破壊する病態(糖尿病、高血圧症など)によって誘導され得る。この疾患には最終段階までに5段階あり、最終段階では濾過能力は腎臓全体の正常値の15%未満となる。この段階では、腎機能を置換する方法である透析および/または移植を検討する必要がある。
【0008】
腎不全に冒された個体は、腎臓が正常な能力の10~20%で動いていても、一見健康なままである場合がある。これは、腎不全の主な症状は進行した段階でしか現れないためであり、このことが該疾患の診断を困難にしている。しかしながら、腎不全に関連する合併症を回避し、かつ/または腎不全の進行を防止するために、早い段階で行動することが重要である。
【0009】
1999~2000年に米国で行われた調査(National Health and Nutrition Examination Survey IV)によれば、一般集団の9.4%(3分の2が男性)が腎不全を示していると思われるが、そのうち、5.6%が軽微または中程度の段階、3.7%が重篤な段階、0.13%が最終段階である(非特許文献1)。この疾患は、45歳前には希であるが、その有病率は年齢に従って、特に65歳以降に増加する。この疾患の有病率は、腎不全の二大原因である集団の老化と糖尿病の増加や、移植を受けた患者および透析を受けている患者の生存率の向上によって今後さらに増加するはずである。
【0010】
腎不全は腎線維症の結果である場合がある。腎線維症は、腎実質に細胞外基質が過度に蓄積することにより起こる。腎線維症は、線維化促進細胞、抗線維化細胞、およびタンパク質の複雑なバランスが不安定になることにより生じる。現在のところ、線維症の発症を制御する詳細な機構について解明が不完全であり、今のところ、疾患にかかってしまうと、正常に機能する腎実質に戻すことができる有効な線維症の治療法がない。したがって、腎線維症は、遅かれ早かれ慢性の最終段階の腎不全へと至る。
【0011】
故に、できるだけ早く患者を治療して疾患の進行、特に慢性腎不全への進行を防止するために、効率的に腎障害を診断できることが必要である。
【0012】
一般に、腎障害は尿および/または血液検査により診断される。考慮されるマーカーは、様々な性質のものが考えられる。例えば、Haute Autorite de Sante(HAS)[仏国保健局]は、糸球体濾過率(GFR)を見積り、酵素法によりクレアチニンのアッセイを行うことで、クレアチン血症に基づいて腎機能を評価することを推奨している。
【0013】
しかしながら、クレアチニンのアッセイは十分ではない。というのは、クレアチン血症と糸球体濾過量(腎濾過量)との間に線形関係がないからである。さらに、血液検査および/または尿検査によって、腎障害、特に腎不全の正確な診断が必ずしも得られるわけではない。これは、これらの検査が医師に方向性を示すことが可能な要素にすぎず、他の病態を明らかにする場合があるからである。腎障害を確認するためには、他の検査を行ったり、さらには腎臓専門医、泌尿器科医、または心臓専門医などの専門医の意見を求めたりすることが必要である場合が多い。したがって、複数の検査と様々な専門医の診察を行う必要があるため、診断に時間と費用がかかる場合がある。
【0014】
また、患者のタイプによっては、例えば1型および2型糖尿病患者では微量アルブミン尿を調べるなど、他の検査を行うことが推奨される場合がある。
【0015】
また、腎障害を診断するために、放射線、超音波、トモデンシトメトリー(TDM)、または磁気共鳴映像法(MRI)などの造影法を用いることができる。これらの方法は、一般に腎障害の原因を特定するのに用いられる。
【0016】
したがって、いずれの種類の腎障害についても正確で信頼性のある診断をできることが非常に求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0017】
【文献】Coresh J,Byrd-Holt D,Astor BC,et al.,Chronic kidney disease awareness,prevalence,and trends among U.S.adults,1999 to 2000.,J Am Soc Nephrol 2005;16:180-8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明者らは、平均流体力学直径が10nm未満、有利には5nm未満、例えば1~5nmの範囲である超微細ナノ粒子を腎臓の造影に特に有利な造影剤として用いることができることを示した。これらのナノ粒子によって、特にMRI造影により、腎機能について信頼性のある正確な情報を得ることができる。したがって、これら超微細ナノ粒子は、腎線維症および/または腎不全などの腎障害を造影により診断する方法に用いるのに特に有利である。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、腎障害、特に腎線維症および/または腎不全を高い信頼性で検出することができ、治療手技と組み合わせてもよい新規な造影法、特にMRIによる造影法に関する。
【0020】
第一の態様によれば、本発明は、ヒトまたは動物の腎障害を生体内で診断する方法における造影剤として使用されるナノ粒子に関する。上記ナノ粒子は、
(i)ポリオルガノシロキサン(POS)マトリックスと、
(ii)-Si-C-共有結合により上記POSマトリックスにグラフトされた1種以上のキレート剤、好ましくは6~20種のキレート剤と、
(iii)上記キレート剤のうちの1種以上によりキレートされた1種以上の金属イオンとを含む。
【0021】
第二の態様によれば、本発明は、ヒトまたは動物の腎障害の生体内での診断における造影剤としての上述したナノ粒子の使用に関する。
【0022】
第三の態様によれば、本発明は、上述したナノ粒子が投与されたヒトまたは動物の腎障害を生体内で診断する方法に関する。
【0023】
第四の態様によれば、本発明は、本発明に係る超微細ナノ粒子が、好ましくは静脈内投与で、投与されたヒトまたは動物の腎障害の治療の治療有効性を監視する方法に関する。上記方法は、
(i)腎臓で上記ナノ粒子を視覚化するために適当な造影法で画像を取得する工程と、
(ii)エンハンスメントを測定する工程と、
(iii)上記治療対象の治療中に工程(i)および(ii)を必要な回数繰り返す工程と、
(iv)上記治療中の上記エンハンスメントの変化を比較して上記治療の治療有効性を推定する工程とを含む。
【0024】
第五の態様によれば、本発明は、ヒトまたは動物の腎障害の治療の治療有効性を監視する方法に関する。上記方法は、
(i)上記治療の開始時に本発明に係る超微細ナノ粒子を造影剤として上記患者に投与する工程と、
(ii)腎臓で上記ナノ粒子を視覚化するために適当な造影法により画像を取得する工程と、
(iii)エンハンスメントを測定する工程と、
(iv)上記治療対象の治療中に工程(i)および(iii)を必要な回数繰り返す工程と、
(v)上記治療中の上記エンハンスメントの変化を比較して上記治療の治療有効性を推定する工程とを含む。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、腎障害、特に腎線維症の診断において造影剤(特にTMRIでの造影剤)として用いることができる特定の超微細ナノ粒子の投与による驚くべき利点を本発明者らが明らかにした結果、得られたものである。したがって、得られた用途はすべて、以下に記載されるこれらナノ粒子の化学的および構造的な特性に関する。
【0026】
実際、本発明は、ヒトまたは動物の腎障害を生体内で診断する方法における造影剤として使用されるナノ粒子に関する。上記粒子は、
(i)ポリオルガノシロキサン(POS)マトリックスと、
(ii)-Si-C-共有結合により上記POSマトリックスにグラフトされた1種以上のキレート剤、好ましくは6~20種のキレート剤と、
(iii)上記キレート剤のうちの1種以上によりキレートされた1種以上の金属イオンとを含む。
【0027】
本発明の目的のため、「診断する」および「造影により診断する」という用語は、区別なく用いられる。
【0028】
本発明の目的のため、「造影剤」という用語は、人工的にコントラストを増強させて特定の解剖学的構造(例えば、特定の組織または器官)を視覚化できるようにするために医用画像診断に用いられる任意の物質または組成物を意味するものである。
【0029】
特定の一実施形態では、本発明に係る超微細ナノ粒子は、磁気共鳴映像法(MRI)、特に動的MRI(すなわち動的コントラスト増強シーケンス(DCE))の用途での造影剤として用いられる。本実施形態では、ナノ粒子は、特に腎臓の造影に好適なTMRI造影用の少なくとも1種の金属イオンを含む。MRIによって、本発明を実施するのに特に有利な時空間的精度を得ることができる。
【0030】
本発明の目的のため、「金属イオン」という用語は、造影剤にコントラスト増強特性、すなわち信号増強特性を付与できる任意の金属イオンを意味するものである。金属イオンの選択は、用いる造影法に応じて決定される。
【0031】
特定の一実施形態では、金属イオンは、放射性金属イオンの陽イオンMn+(nは2~4の範囲の整数、例えば2、3、または4)などの放射性金属のイオンである。特に、放射性金属イオンの陽イオンは、ランタニド、好ましくは、Dy(ジスプロシウム)、Lu(ルテチウム)、Gd(ガドリニウム)、Ho(ホルミウム)、Eu(ユーロピウム)、Tb(テルビウム)、Nd(ネオジム)、Er(エルビウム)、Yb(イッテルビウム)、またはこれらの混合物から選択されるランタニドであり、Gdがより好ましい。特定の一実施形態では、放射性金属は鉄(Fe)またはマンガン(Mn)である。
【0032】
金属イオンとして少なくとも1種のランタニド陽イオンであって、少なくとも50%のGd、Dy、Ho、またはこれらの混合物、好ましくはGd、例えば、少なくとも50%のGd、例えば100%のGd(すなわち、金属イオンとしてGd3+のみ)を含むものを選択することが好ましい。特に、Gd3+によって、造影モード、特にMRI造影モードで最適な信号を得ることができる。
【0033】
本発明に係るナノ粒子は、任意の種類の造影、特に以下の造影法の1つにおいて用いることができる。
(i)MRI、好ましくはTMRI、
(ii)PET(ポジトロン断層法)シンチグラフィーまたはSPET(単一光子放射断層撮影法)シンチグラフィー、
(iii)可視領域または近赤外領域の蛍光法、
(iv)X線トモデンシトメトリー。
【0034】
シンチグラフィー造影の場合、ナノ粒子は、シンチグラフィーに使用できる放射性同位体を含む。この放射性同位体は、In、Te、Ga、Cu、Zr、Y、またはLuの放射性同位体、例えば111In、99mTc、68Ga、64Cu、89Zr、90Y、177Luからなる群から選択されることが好ましい。そして、上記放射性同位体は、POSマトリックスにグラフトされたキレート剤によりキレートされる。
【0035】
可視領域の蛍光法の場合、EuまたはTbから選択されるランタニドを用いてもよい。そして、上記ランタニドは、POSマトリックスにグラフトされたキレート剤によりキレートされる。
【0036】
近赤外領域の蛍光法の場合、例えば、適当なフルオロフォア、例えば有機フルオロフォア(シアニン、Alexa、Bodipy、またはインドシアニングリーン(ICG)など)を用いてもよい。上記フルオロフォアは、有利には適当なグラフト法を用いて共有グラフト結合により、ナノ粒子にグラフトされるのが有利である。
【0037】
X線トモデンシトメトリーの場合、MRIと同じ金属イオンを用いてもよい。例えば、Gdなどのランタニドを用いてもよい。
【0038】
特定の一実施形態では、本発明に従って用いることができるナノ粒子は、TMRI造影用の少なくとも1種の金属イオンおよび場合によっては以下の造影法のうちの1つに好適な少なくとも1種の他の金属イオンを含むことを特徴とする。
(i)PET(ポジトロン断層法)シンチグラフィーまたはSPET(単一光子放射断層撮影法)シンチグラフィー、
(ii)可視領域または近赤外領域の蛍光法、
(iii)X線トモデンシトメトリー。
【0039】
本発明によれば、1種以上の金属イオンは、ナノ粒子にグラフトされたキレート剤のうちの1種以上によりキレートされる。
【0040】
本発明の目的のため、「キレート剤」という用語は、キレートとして作用する化学物質、すなわち長期にわたり陽イオンを固定する特性を有する化学物質を意味するものである。
【0041】
本発明のナノ粒子は、-Si-C共有結合によりPOSマトリックスにグラフトされた1種以上のキレート剤、好ましくは6~20種、有利には8~10種のキレート剤を含む。
【0042】
本発明によれば、これらキレート剤の一部またはすべては、金属イオン、好ましくはMn+陽イオン(例えばガドリニウム)を錯化するためのものである。遭遇する生体媒質との相容性を良好にするために、これらキレート剤の別の一部を内因性陽イオンの錯化に用いてもよい。好ましい一実施形態では、すべてのキレート剤は、金属イオン、好ましくはMn+陽イオン(例えばGd3+)とともにキレートされる。
【0043】
キレート剤が以下の物質から選択されることが有利である。
・ポリアミノポリカルボン酸およびこれらの誘導体からなる群、より好ましくは、DOTA(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸)、DTPA(ジエチレントリアミン五酢酸)、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、EGTA(エチレンビス-(オキシエチレンニトリロ)四酢酸)、BAPTA(1,2-ビス-o-アミノフェノキシエタン-N,N,N’,N’-四酢酸)、NOTA(1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4,7-三酢酸)、およびこれらの混合物を含む下位群の物質;
・ポルフィリン、塩素、1,10-フェナントロリン、ビピリジン、テルピリジン、シクラム、トリアザシクロノナン、これらの誘導体、およびこれらの混合物を含む群の物質;ならびに
・これらの混合物。
【0044】
金属イオンがランタニドである場合、キレート剤は、ランタニド錯化特性を有するもの、特に錯化定数log(KCi)が15より大きい、好ましくは20より大きいものから選択されることが有利である。ランタニド錯化キレート剤の好ましい例としては、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)、若しくは1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4,7-三酢酸(NOTA)単位、またはこれらの誘導体を含むものが挙げられる。
【0045】
好ましい一実施形態では、金属イオンはGd3+であり、キレート剤は1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)である。この組み合わせはTMRIにおいて特に有利である。
【0046】
粒子あたりの緩和度(r)が50~5000mM-1.s-1の範囲であり、かつ/または金属イオンの重量比が少なくとも5%、例えば5~50%の範囲であるようなナノ粒子を選択することが有利である。ナノ粒子は、粒子あたりの緩和度rが50~5000mM-1.s-1の範囲であり、かつ/またはGd3+の重量比が少なくとも5%、例えば5~50%、有利には10~15%の範囲であることが好ましい。Gd3+の重量比は、ナノ粒子の重量に対するGd3+の重量に相当する。
【0047】
POSマトリックスは、直径が0.5~8nm、有利には1~5nmの範囲であってもよく、ナノ粒子の総体積の25%~75%であってもよい。これにより、特にキレート剤のグラフトが可能になる。
【0048】
特定の一実施形態では、ナノ粒子は、POSマトリックスまたはキレート剤にグラフトされた1種以上の機能化剤をさらに含む。
【0049】
上記機能化剤は以下から選択することができる。
・ナノ粒子を標的とする1種以上の標的化分子。該標的化分子によって、ナノ粒子を特定の組織および/または特定の細胞に対して標的化することができる。例えば、腎皮質、腎髄質内層、または腎髄質外層の組織などの腎臓組織を標的としてもよい。このように、投与量を大きく増やすことなく、目的の領域にナノ粒子が集中される。
・1種以上の蛍光剤。
・1種以上の親水性ポリマー、好ましくはポリエチレングリコール(PEG)。PEG系親水性化合物によって、体内でのナノ粒子の生体内分布を調節することができる。親水性ポリマーによって、ナノ粒子のステルス性および/または中性を高めることができる。この種の被覆によって、特にナノ粒子に関連する任意の腎臓毒性現象を低減することができる。
・これら薬剤の組み合わせ。
【0050】
機能化剤は、POSマトリックスまたはキレート剤にグラフトされる。ナノ粒子および機能化剤に存在する反応基を用いて従来のカップリングを行ってもよく、場合によってはその前に活性化工程を行ってもよい。カップリング反応は当業者には知られており、ナノ粒子の構造および機能化剤の官能基の構造に応じて選択される。例えば、“Fluorescent and Luminescent Probes for Biological Activity”,Second Edition,W.T.Mason,published by Academie Press,1999の“Bioconjugate Techniques”,G.T Hermanson,Academie Pres,1996を参照されたい。上記機能化剤はナノ粒子キレート剤にグラフトされることが好ましい。
【0051】
本発明の一変形例によれば、ナノ粒子は、その表面をポリオール、糖、デキストラン、およびこれらの混合物の群から選択される親水性化合物で機能化することができる。グリコール、有利にはPEGが特に好ましい。一代替例によれば、上記親水性化合物は、モル質量が2000g/mol未満、好ましくは800g/mol未満のものから選択してもよい。
【0052】
機能化剤は、想定される用途に応じて選択される。
【0053】
本発明に係るナノ粒子の主な利点の1つは、造影システム(例えばMRI、SPETシンチグラフィー、PETシンチグラフィー、蛍光造影、X線造影)の造影剤として用いることができることである。
【0054】
本発明に係るナノ粒子は、周波数が20MHzの場合、Mn+イオンあたりの緩和度(r)がMn+イオン換算で5mM-1.s-1超、好ましくは10mM-1.s-1超であることが好ましい。例えば、ナノ粒子あたりの緩和度(r)が50~5000mM-1.s-1の範囲である。例えば、上記ナノ粒子は、60MHzでのMn+イオンあたりの緩和度(r)が、20MHzでのMn+イオンあたりの緩和度(r)と同じかまたはそれより大きい。本明細書中の該緩和度(r)は、Mn+イオン(例えばGd3+)による緩和度である。rは、式:1/T=[1/T+r[Mn+]から導かれる。
【0055】
T1は、秒で表される縦緩和時間に相当する。これは、隣接する核(すなわち水スピン)との双極子スピンネットワークの相互作用によって、核磁気共鳴(NMR)励起時の面で傾いた磁化が平衡状態に戻るまでの時間である。定義上、Tは、初期の縦磁化の63%の回復に相当する時間間隔(ミリ秒または秒単位)である。Tは、様々な組織に含まれる水素核の特性に依存する。Tは組織に応じて変化する。
【0056】
[1/Tは、造影剤なしでの水の縦緩和時間に相当する。これは、造影剤の非存在下での縦緩和時間の逆数(秒-1(s-1)で表される)に相当する。
【0057】
は、s-1で表される緩和の度合いに相当する。この値は、プロトンのスピンが前の状態、すなわちRFパルスによる励起後の状態に戻ることに相当する。
【0058】
[Mn+]は、mM-1で表される金属イオン濃度に相当する。
【0059】
[Mn+]は、mM-1.s-1またはM-1.s-1で表される金属イオンの縦緩和度に相当する。この値は、金属イオン濃度で標準化されたT型MRI造影剤の効率を反映している。また、緩和度rは、式で緩和時間T2を考慮して規定される。
【0060】
参考までに、r/r比を算出することもできるが、MRIでのT型薬剤の品質を確保するためにr/r比は1に近くなければならない。
【0061】
一変形例では、ナノ粒子は、ランタニド種のTMRI金属イオン(好ましくはGd3+)の重量比が5%以上、例えば5~50%の範囲である。金属イオンの重量比は、ナノ粒子の重量に対する金属イオンの重量に相当する。
【0062】
これらの超微細ナノ粒子、その合成プロセス、およびその使用に関するさらなる詳細は、特許出願WO2011/135101(参照により組み込まれる)およびMignotらの出版物(A Top-Down Synthesis Route to Ultrasmall Multifunctionnal Gd-Based Silica Nanoparticles for Theranostics Applications,Chem.Eur.J.,2013,19,6122-6136)(同様に参照により組み込まれる)に示されている。
【0063】
本発明によれば、本発明に係るナノ粒子は、平均流体力学直径が10nm未満、有利には5nm未満、例えば1~5nmの範囲である。この非常に小さな直径によって、腎臓でのナノ粒子の分布が優れたものとなり、したがって信頼性のある腎障害の検出が可能となる。
【0064】
ナノ粒子の粒径分布は、例えば、市販の粒径測定装置(PCS(光子相関分光法)を用いたMalvern Zeta sizer Nano-S粒径測定装置など)を用いて測定される。この分布は、平均流体力学直径によって特徴付けられる。
【0065】
本発明の目的のため、「平均流体力学直径」という用語は、粒子の直径の調和平均を意味するものである。また、このパラメータを測定する方法は、ISO規格13321:1996に記載されている。
【0066】
本発明はまた、ヒトまたは動物の腎障害(例えば腎線維症および/または腎不全)の生体内での診断における造影剤としての本発明に係るナノ粒子の使用に関する。また、腎障害は、腎機能の低下、特に尿細管機能の低下および/または糸球体濾過量の低下であってもよい。腎障害は腎線維症へと進行する場合がある。最も重篤な症例、特に腎線維症の最も重篤な症例では、腎障害は腎不全、特に慢性腎不全へと進行する。
【0067】
本発明はまた、ヒトまたは動物の腎障害(例えば腎線維症、例えば腎不全)を診断するための組成物を製造するための本発明に係るナノ粒子の使用に関する。腎線維症は、腎尿細管および/または糸球体の関与に関連したものであってもよい。
【0068】
上記組成物は、静脈内投与または気道を介しての投与、好ましくは静脈内投与に好適な医薬的に許容される組成物であることが好ましい。
【0069】
したがって、本発明はまた、本発明に係るナノ粒子を含む組成物に関する。上記組成物は、本発明に係るナノ粒子と、1種以上の医薬的に許容される賦形剤とを含む。
【0070】
本発明はまた、上述したナノ粒子が投与されたヒトまたは動物の腎障害を生体内で診断する方法に関する。特定の一実施形態では、上記方法は、
(i)腎臓で本発明に係るナノ粒子を視覚化するために適当な造影法により画像を取得する工程と、
(ii)エンハンスメントを測定する工程と、
(iii)工程(ii)で測定されたエンハンスメントを基準エンハンスメントと比較する工程とを含む。
【0071】
特定の一実施形態では、上記診断方法は、上記ナノ粒子が既に投与された患者に対して行われる。すなわち、上記診断方法は上記ナノ粒子を投与する工程を含まない。
【0072】
工程(ii)で測定されたエンハンスメントを基準エンハンスメントと比較することによって、腎障害の診断、例えば腎線維症の診断、例えば腎不全の診断が可能になる。
【0073】
特定の一実施形態では、上記方法は、MRIにより画像を取得する工程(すなわち工程(i))を含み、さらに定量的TマッピングによりMRI造影剤の濃度を測定する工程(iv)も含む。定量的マッピングは、当業者によって決定される特定の撮像シーケンスに相当する。この撮像シーケンスは、造影剤に好適なT強調、信号の変化の動的分解能および造影の空間分解能品質と適合する記録の迅速さ、ならびに動きに対する堅牢性により特徴付けられる。定量マッピングは、他の好適な造影法に置き換えてもよい。
【0074】
本発明の目的のため、「エンハンスメント」または「造影信号のエンハンスメント」という用語は、目的の組織における造影剤の到達と関連する造影信号(例えばMRI信号)の変化を意味するものである。本発明によれば、エンハンスメントは、腎臓、有利には腎皮質、腎髄質内層、および/または腎髄質外層におけるナノ粒子の到達に関連する造影信号の変化、すなわち、ナノ粒子の注入前の信号レベルとナノ粒子の注入後の信号レベルとの差に相当する。エンハンスメントは当業者によく知られたパラメータである。一般に、MRI装置などの一般に用いられる造影装置によって、調べる組織または器官のエンハンスメントを測定することができる画像処理ツールが得られる。
【0075】
従来用いられている造影物質(例えば、MRIではDOTAREM)を用いて腎臓で得られたエンハンスメントでは、健康な腎臓と腎障害を患っている腎臓とを区別できない。本発明者らは、腎臓、有利には腎皮質、腎髄質内層、および/または腎髄質外層での本発明に係るナノ粒子によるエンハンスメントによって、健康な腎臓と腎機能障害を患っている腎臓とを区別できることを示した。したがって、本発明に係るナノ粒子によって腎障害を診断することができる。
【0076】
エンハンスメントは、以下の比を計算して算出される。
r(t)=[S(t)-S0]/S0
【0077】
r(t)は、時間tのエンハンスメントの度合いに相当する。S0は、目的の組織または器官に造影剤が到達する前の信号レベルに相当し、前コントラスト信号レベルとも言う。S(t)は、造影剤が目的の組織中に存在する時の信号レベルに相当する時間tの信号レベルに相当する。
【0078】
本発明によれば、エンハンスメントは、(i)エンハンスメントピークを測定し、かつ/または(ii)エンハンスメント曲線を取得することで測定される。
【0079】
「エンハンスメントピーク」とは、造影剤の注入後、すなわち造影信号が最大である時に得られる最大エンハンスメントに相当する。一般に、注入後にエンハンスメントピークが得られるまでの時間は、同一種のすべての個体で共通している。例えば、ヒトでは、注入後にエンハンスメントピークが得られるまでの時間は、約10分、例えば5~15分の範囲、例えば8~12分の範囲である。ある種について注入後にエンハンスメントピークが得られるまでの時間は、特に目的の観察領域(例えば、腎皮質、腎尿細管、腎髄質内層、および/または腎髄質外層)に応じて、当業者により容易に決定することができる。
【0080】
「エンハンスメント曲線」は、経時的なエンハンスメントの変化に相当する。例えば、図4図5、および図6は、マウスの腎皮質で得られたエンハンスメント曲線に相当する。エンハンスメント曲線によって、目的の組織における造影剤の到達および排出を経時的に視覚化することができる。
【0081】
特定の一実施形態では、上記エンハンスメントを基準エンハンスメントと比較して腎障害の診断を行う。例えば、基準エンハンスメントは、一般に同一種のすべての個体で類似している健康な腎臓のエンハンスメントに相当する。
【0082】
特定の一実施形態によれば、本発明に従ってエンハンスメントピークを測定することによって、腎臓が健康であるか、あるいは腎障害を患っているかを決定することができる。したがって、エンハンスメントピークが基準エンハンスメントピークに対して5%超、例えば6、7、8、9、または10%超、例えば15、20、25、30、35、40、45、または50%超低下している場合は、腎障害を反映している。
【0083】
他の実施形態によれば、エンハンスメント曲線によって、本発明の目的のために利用することができる情報、例えば造影剤の(i)拡散時間および(ii)排出時間を得ることもできる。したがって、エンハンスメント曲線によって腎障害を診断することもできる。特に、エンハンスメント曲線は、健康な個体で経時的にエンハンスメントの変化を測定することなどで容易に決定できる基準エンハンスメント曲線と比較される。
【0084】
本発明の特定の一応用例は、ヒトまたは動物の治療、例えば腎障害の治療、特に腎線維症の治療、特に腎不全の治療の治療有効性を監視することに関する。したがって、本発明は、本発明に係るナノ粒子が投与されたヒトまたは動物の腎障害の治療、特に腎線維症の治療、特に腎不全の治療の治療有効性を監視する方法に関する。上記方法は、
(i)腎臓で本発明に係るナノ粒子を視覚化するために適当な造影法により画像を取得する工程と、
(ii)エンハンスメントを測定する工程と、
(iii)上記治療対象の治療中に工程(i)および(ii)を必要な回数繰り返す工程と、
(iv)上記治療中の上記エンハンスメントの変化を比較して上記治療の治療有効性を推定する工程とを含む。
【0085】
本発明はまた、ヒトまたは動物の腎障害の治療の治療有効性を監視する方法に関する。上記方法は、
(i)本発明に係るナノ粒子を造影剤として上記患者に投与する工程と、
(ii)腎臓で上記ナノ粒子を視覚化するために適当な造影法により画像を取得する工程と、
(iii)エンハンスメントを測定する工程と、
(iv)上記治療対象の治療中に工程(i)および(iii)を必要な回数繰り返す工程と、
(v)上記治療中の上記エンハンスメントの変化を比較して上記治療の治療有効性を推定する工程とを含む。
【0086】
したがって、患者の治療前、治療中、および治療後の腎障害の経時的変化を監視することができる。
【0087】
特定の一実施形態では、エンハンスメントは治療前、治療中、および/または治療後に測定される。これにより、腎障害の治療中のエンハンスメントの変化を比較することができる。好ましい一実施形態によれば、エンハンスメントの変化は、治療前に測定したエンハンスメント(この場合、基準エンハンスメントと見なされる)に対して比較される。したがって、エンハンスメントを監視することによって、ヒトまたは動物の腎障害の治療の治療有効性を監視することができる。
【0088】
特定の一実施形態によれば、治療前、治療中、および/または治療後にエンハンスメントピークを測定することによって、腎障害治療の治療有効性を決定することができる。したがって、エンハンスメントピークが基準エンハンスメントピークに対して5%超、例えば6、7、8、9、または10%超、例えば15、20、25、30、35、40、45、または50%超増加している場合は、腎障害治療の治療有効性を反映している。
【0089】
エンハンスメント曲線によって、本発明の目的のために利用することができる情報、例えば造影剤の(i)拡散時間および(ii)排出時間を得ることもできる。したがって、エンハンスメント曲線によって、腎障害治療の治療有効性を推定することもできる。特に、エンハンスメント曲線は、基準エンハンスメント曲線、例えば治療前に測定したエンハンスメント曲線と比較される。
【0090】
好ましい一実施形態では、本発明に係るナノ粒子は、腎皮質、腎髄質内層、および/または腎髄質外層で視覚化される。実際、本発明者らは、腎皮質で本発明に係るナノ粒子を視覚化することによって、エンハンスメントを最適に測定することができ、よって、腎障害の正確な診断または腎障害治療の治療有効性の正確な監視を行うことができることを示した。
【0091】
本発明はまた、ヒトまたは動物の腎障害を治療する方法に関し、上記方法は、
(i)本発明に係るナノ粒子をヒトまたは動物に5μmol/kg~50μmol/kgの範囲の投与量で静脈内投与する工程と、
(ii)好ましくは上記投与工程から0~24時間後に、腎臓で上記ナノ粒子を視覚化するために適当な造影法により画像を取得する工程と、
(iii)エンハンスメントを測定する工程と、
(iv)工程(iii)の測定により腎障害を診断できる場合に、上記ヒトまたは動物に適当な治療を導入する工程とを含む。
【0092】
特定の一実施形態では、適当な治療は、腎障害を治療することができる十分な量の薬剤の投与に相当する。
【0093】
特に、適当な治療は、以下の治療またはこれらの組み合わせから選択することができる。
・腎障害を誘導する病態の標準的な治療法、例えば、糖尿病、高血圧症、または自己免疫疾患の治療法;
・レニン-アンジオテンシン系(RAS)阻害剤、例えば、アンジオテンシンII受容体アンタゴニスト降圧剤またはアンジオテンシンII産生に関与する変換酵素の阻害剤;
・線維化促進サイトカインの阻害剤、例えば、TGF-β、CTGF、PDGFの阻害剤(ピルフェニドン(Roche-InterMuneにより開発)、FG-3019(FibroGen/BMSにより開発)、フレソリムマブ(Sanofiにより開発)、THR-184(Thrasos therapeuticsにより開発)など);
・様々な作用モードを有する他の分子、例えば、NOX阻害剤KGT1377831(Genkyotexにより開発)、CCR2阻害剤CCX-140(Chemocentryxにより開発)、ALK5阻害剤SB525334(GSKにより開発)、抗α5β6インテグリンSTX-100/Biogen Idec、またはLPA1阻害剤BMS-986020(BMSにより開発);
・透析または腎臓移植。
【0094】
特定の一実施形態では、適当な造影法により画像を取得する工程(ii)は、0~40分までは3分毎、その後24時間まで4時間毎に行われる。
【0095】
本発明の特定の一実施形態では、エンハンスメントを測定する工程は、片方の腎臓または両方の腎臓に対して行われる。特に、両方の腎臓のそれぞれに対してエンハンスメントを測定してもよい。
【0096】
金属イオンがガドリニウム(Gd3+)である場合、本発明に係るナノ粒子は、Gd換算で0.1mM/kg未満の投与量で静脈内投与される。特定の一実施形態では、ナノ粒子は、Gd換算で0.001~0.1mM/kg、有利には0.01~0.05mM/kg、有利には0.01~0.02mM/kg、有利には0.017mM/kgの投与量で投与される。
【0097】
本発明に係るナノ粒子は、有利には静脈内投与または気道を介して、全身投与されてもよい。特許出願WO2013/153197には、気道を介して超微細ナノ粒子を投与することが記載されており、該ナノ粒子は、血流中で拡散した後、腎臓によって排出することができる。
【0098】
本発明に従って腎障害治療の治療有効性を監視する方法の特定の一実施形態では、エンハンスメントの測定によって、動脈入力関数(AIF)を規定することができる。この特定の実施形態では、AIF(例えば、腎臓入力で特定のAIF)を用いれば、治療中の腎臓のAIFの変化を比較することで治療の治療有効性を推定することができる。
【0099】
AIF(すなわち動脈入力関数)は、造影剤の注入時に動脈MRI信号のエンハンスメントを記録することからなる。この場合、具体的には、秒オーダーの高撮像時間分解能で、調べる器官(この場合は腎臓)に供給する動脈に対して測定される。
【図面の簡単な説明】
【0100】
図1】本発明に係るナノ粒子の図である。このナノ粒子は、ポリオルガノシロキサンマトリックスを含み、このマトリックスには6種のDOTAGA型キレート剤がグラフトされており、これらの6種のキレート剤はGd3+ガドリニウムイオンをキレートしている。
図2】インジウム111に結合させた実施例1に従って得たナノ粒子を静脈内注射してから15分後のc57Bl/6J雄性マウスのSPECT/CT縦断面画像である。Kは腎臓に相当し、Bは膀胱に相当する。これらの画像は、ナノ粒子が腎臓によって排出され、肝臓に蓄積しないことを示す。
図3】Cy5.5型のフルオロフォアに結合させた実施例1に従って得たナノ粒子の静脈内投与前(左)および投与後(右)の雌性スイスヌードマウスの反射蛍光造影である。Kは腎臓に相当する。これらの画像は、ナノ粒子が腎臓によって排出され、肝臓に蓄積しないことを示す。
図4】健康なマウスおよびUUOマウスに(i)実施例1に従って得たナノ粒子または(ii)DOTAREMナノ粒子を静脈内投与した後、MRIにより得られたエンハンスメントを比較したものである。これらの結果から、DOTAREMナノ粒子は健康な腎臓と障害のある腎臓を区別することができないが、実施例1に従って得たナノ粒子では著しい違いが得られることが示された。
図5】DOTAREMナノ粒子(10mM)の静脈内投与後のMRIによる腎皮質のエンハンスメント測定の経時変化である。得られた曲線は、エンハンスメントプロファイルがUUO腎臓(障害のある腎臓)と基準腎臓(健康な腎臓)とで類似していることを示している。これらの結果から、DOTAREMナノ粒子は健康な腎臓と障害のある腎臓を区別することができないことが示された。
図6】実施例1に従って得たナノ粒子(5mM)の静脈内投与後のMRIによる腎皮質のエンハンスメント測定の経時変化である。得られた曲線は、エンハンスメントプロファイルがUUO腎臓(障害のある腎臓)と基準腎臓(健康な腎臓)とで著しく異なることを示している。これらの結果から、実施例1に従って得たナノ粒子は健康な腎臓と障害のある腎臓を区別することができることが示された。
図7】LIBS(レーザー誘起ブレークダウン分光法)により腎臓で実施例1に従って得たナノ粒子(AGuIXナノ粒子)を視覚化して得た画像である。LIBSによって、緑色で表されたAGuIXナノ粒子に由来するガドリニウム原子と、組織に均一に分布しているナトリウム原子(赤色)とを視覚化することができる。これらの結果は、欠陥のある腎臓がナノ粒子を保持していないか、あるいはほとんど保持していないことを示しており、これは、生体内でのMRIにより得られた結果に合致している。
図8】尿細管細胞においてCy5.5発色団でグラフトされた本発明(すなわち、赤色で示されたCy5.5発色団でグラフトされたAGuIXナノ粒子)を視覚化することができる共焦点光子顕微鏡により得られた組織画像である。ナノ粒子は、排出される前の一時的な間、腎尿細管に蓄積される。
図9】本発明に係るナノ粒子の注入前および注入後のマウスの腎臓(1個のUUO腎臓および1個の正常腎臓)の動的MRIにより得られた画像である。これらの結果は、欠陥のある腎臓が本発明に係るナノ粒子を保持していないか、あるいはほとんど保持していないことを示している。したがって、画像から、基準腎臓の腎皮質のエンハンスメントはUUO腎臓の腎皮質に比べてはるかに大きいことが示された。
図10図10Aは、DOTAREMナノ粒子(10mM)の静脈内投与後の高時間分解能DCE MRIおよびマン・ホイットニー改良型3TP生物統計法でのデータ処理による腎皮質のエンハンスメント測定の経時変化である。得られた曲線は、エンハンスメントプロファイルがUUO腎臓(障害のある腎臓)と基準腎臓(健康な腎臓)とで類似していることを示している。これらの結果から、DOTAREMナノ粒子は健康な腎臓と障害のある腎臓を区別することができないことが示された。図10Bは、実施例1に従って得たナノ粒子(5mM)の静脈内投与後の高時間分解能DCE MRIおよびマン・ホイットニー改良型3TP生物統計法でのデータ処理による腎皮質のエンハンスメント測定の経時変化である。得られた曲線は、エンハンスメントプロファイルがUUO腎臓(障害のある腎臓)と基準腎臓(健康な腎臓)とで著しく異なることを示している。これらの結果から、実施例1に従って得たナノ粒子は健康な腎臓と障害のある腎臓を区別することができることが示された。
図11】障害のある(UUO)腎臓によるAGUIX-シアニン5薬剤のコントラストの取り込みを光学造影により時間の関数として監視し、反対側の障害のない腎臓と比較したものである。
図12】Dotaremで得られた動脈入力関数AIFのプロファイルである。
図13】AGUIXで得られた動脈入力関数AIFのプロファイルである。
【実施例
【0101】
実施例1:DOTAGA型ナノ粒子の調製
ナノ粒子の合成
周囲温度で3Lのジエチレングリコール(DEG)に167.3gの[GdCl,6HO]を溶解させて溶液を調製した。次いで、この混合物を140℃で3時間撹拌した。次いで、44.5mLの10M水酸化ナトリウムを加えて、この混合物を180℃で撹拌しながら5時間加熱して溶液Aを得た。溶液A中に得られた酸化ガドリニウムコアは、流体力学直径が1.7±0.5nmであった。
【0102】
ゾル-ゲル法により(すなわち、オルガノシラン前駆体を加えて得られた塩基性条件下での縮合加水分解反応により)、ポリシロキサン層を得た。まず、1.6LのDEG、51.4mLのテトラエトキシシラン(TEOS)、および80.6mLのアミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)を含む第一の溶液を40℃の温度で溶液Aにゆっくりと(すなわち96時間かけて)添加した。第一の溶液を添加して1時間後、190mLのDEG、43.1mLの水、および6.9mLのトリエチルアミン(TEA)を含む第二の溶液を40℃で96時間撹拌しながら添加した。反応終了時に、この混合物を40℃で72時間、次いで周囲温度で12時間撹拌しながら放置して溶液Bを得た。溶液Bのポリシロキサンで覆われた酸化ガドリニウムコアは、流体力学直径が2.6±1.0nmであった。
【0103】
次いで、163.7gの無水DOTAGAを溶液Bに添加した。得られた溶液を周囲温度で72時間撹拌しながら放置して溶液Cを得た。この溶液Cは、DOTAGA基がグラフトされたポリシロキサンで覆われた酸化ガドリニウムコアを含むナノ粒子を含んでいた。
【0104】
精製
溶液Cに17.5Lのアセトンを添加してナノ粒子を沈殿させ、真空濾過により回収した。次いで、ナノ粒子を水に再分散させ、pH2で1時間置いた。残留アセトンを蒸発により除去した。次いで、5kDa膜での接線濾過によりナノ粒子を精製してから、水酸化ナトリウムを添加してpHを7.4とした。水に通して水中で精製することで、酸化ガドリニウムコアが溶解した。この酸化ガドリニウムコアの溶解は、ナノ粒子のポリシロキサンマトリックスにグラフトされたキレート基の存在により促進されるが、これは、該キレート基が酸化ガドリニウムコアの溶解により放出されたガドリニウムを錯化するためである。コアが溶解すると、ポリシロキサンシェルは断片化して、ガドリニウムをキレートしたDOTAGAがグラフトされたポリシロキサンマトリックスからなる超微細ナノ粒子が得られた。次いで、このようにして得た溶液を1.2μmのフィルタ、次いで0.2μmのフィルタを用いて2回濾過して最も大きい不純物を除去した。このようにして得たナノ粒子は、流体力学直径が2.2±1.0nmであり、60MHz、37℃での縦緩和度が11.5mmol-1.L.s-1であった。合成の終了時に約50グラムのナノ粒子が得られた。
【0105】
実施例2:腎臓によるナノ粒子の排出
LIBS(レーザー誘起ブレークダウン分光法)による元素イメージングプロトコル
実施例1に従って得たナノ粒子を麻酔をかけたマウスに静脈内投与した(8mg/マウス)。次いで、腎臓を取り出すために、これらのマウスを15分および1時間30分で屠殺した。
【0106】
腎臓を灌流し、0.1Mカコジル酸ナトリウム溶液(pH7.4)で調製した2%グルタルアルデヒド緩衝液中、4℃で一晩固定した。
【0107】
次いで、腎臓を0.2Mカコジル酸ナトリウム溶液(pH7.4)で洗浄した。
【0108】
固定後、エタノール濃度を30%から100%まで上げて調製した各種エタノール浴(30%、50%、70%、80%、95%、100%、100%、100%)を用いて腎臓を脱水した。それぞれの浴は30分間継続した。
【0109】
次いで、腎臓をプロピレンオキシド/100%エタノール(1:1)溶液に30分間浸漬し、次いで2つのプロピレンオキシド浴(それぞれ30分間)に浸漬した。
【0110】
含浸時には、プロピレンオキシドとEPON樹脂との比を(2:1)、(1:1)、(1:2)、(0:1)、(0:1)とした各種槽に腎臓を4時間から一晩浸漬した。
【0111】
次いで、硬化剤を含む新しく調製したEPON混合物に腎臓を浸漬し、56℃で72時間置いて試験した。
【0112】
次いで、腎臓の表面を切り出し磨くことで、LIBS分析用に試料を調製できる。
【0113】
結果を図7および図8に示す。
【0114】
結論:欠陥のある腎臓はナノ粒子をほんのわずか保持するのみであるのに対して、機能している腎臓はナノ粒子を保持していた。
【0115】
実施例3:MRIによる腎臓のエンハンスメントの測定:本発明に係るナノ粒子(AGuIXナノ粒子)と従来のナノ粒子(DOTAREM)の比較
マウス専用の1H高周波線状コイルを備えた7T300MHz分光撮像装置(Bruker、独国カールスルーエ)により画像を取得した。
【0116】
組織でのナノ粒子の捕捉および放出について動的MRI試験を生体内で行うことにより、腎臓でのエンハンスメントの変化を測定することができた。
【0117】
動物に対するすべての操作は、パリデカルト大学において整備された研究機関動物実験プロトコルガイドライン(諮問CEEA34.JS.142.1)に準拠して行われ、研究機関動物研究委員会およびマウス麻酔導入に関する会社の倫理プロトコルで承認された。溶液の緩和度を予め7Tで測定して最終注入濃度を調製した。
【0118】
8週齢の雌性BalbC/JRJマウス(n=6)の1つの腎臓のみをUUO処理した。すなわち、それぞれのマウスは、1つの障害のある腎臓(UUO腎臓)と1つの健康な腎臓(基準腎臓)を有している。マウスをイソフルレン(1.5%の空気/O=0.5/0.25L/分)の吸入により麻酔をかけて、専用の拘束クレードルに置いた。非磁性呼吸センサーシステム(SAM社、米国)を用いてMRI検査中ずっと生理学的呼吸パラメータを測定し、クレードルの芯まで温めて体温を維持した。
【0119】
2種類の溶液を調製した。
・本発明による溶液:0.9%生理食塩水に溶解した100μLの造影剤。AgulX造影剤(すなわち実施例1に従って得たナノ粒子)の濃度が5mM。
・従来技術による溶液:0.9%生理食塩水に溶解した100μLの造影剤。DOTAREM造影剤の濃度が10mM。
【0120】
マウスをスキャナに置いて、上記溶液をカテーテル(非磁性使用のために特別に開発されたもの。公知のデッドボリュームで較正)を用いてマウスの尾静脈から静脈内投与した。
【0121】
再現性試験のため、5mMのAGuIXナノ粒子の溶液100μLを6匹のマウス(健康な腎臓は基準腎臓またはrefであり、障害のある腎臓はUUO腎臓である)に投与した。
【0122】
Paravision5.1ソフトウェアを用いて独自の撮像プロトコルを開発した。
【0123】
MRI強調を確保するために、TRを100ms、TEを4msとし、傾斜角を80°として後処理において独立した動きアーチファクトを除去する特定のシーケンスを用いて、動的コントラスト増強(DCE)シーケンスを記録した。有効視野(FOV)は3cm×3cm、最終マトリックスは256×256点である。面内空間分解能が117μm×117μmとなる厚み1mmの断面を4つ選択した。1画像あたり1回の撮像の合計時間は約3分14秒であった。最後に、前のシーケンスの繰り返しに基づくシーケンスの拡張バージョンを動的監視に用いて、40分から4時間のサイクル時間で同じ時間分解能を得た。
【0124】
撮像後、皮質領域、髄質領域などの目的の腎臓領域を画定して画像処理を行った。皮質領域で得られた強度をエクセルファイルにレポートし、エンハンスメント(S-S)/Sを撮像した時間の関数(分)としてグラフにレポートした。結果を図4図6および図10に示す。
【0125】
これらの図において、「SHAM」という用語は、同じ遺伝的背景を持つ非UUOマウス群に相当する。「contra UUO」という用語は、基準(健康な腎臓)としたUUOマウスの病的ではない反対側の腎臓に相当する。正確を期するため、反対側の腎臓が過度の補償を受けていないことを確認するために、非UUO誘導対照マウス群を試験して(SHAMマウス)、SHAMマウスの腎臓で得られた結果がUUOの反対側の腎臓で得られた結果と同じであることを確認した。
【0126】
結論:本発明に係るナノ粒子によって、健康な腎臓と閉塞した腎臓の腎機能を有意に区別することができる。DOTAREMは、健康な腎臓と閉塞した腎臓の腎機能を有意に区別することができない。
【0127】
実施例4:腎臓病態を特徴付けるための高時間分解能灌流MRI法:本発明に係るナノ粒子(AGuIXナノ粒子)と従来のナノ粒子(DOTAREM)との比較
腎機能のMRI造影で従来用いられるDCE(動的コントラスト増強)灌流MRI法は、文献において1s~10sの時間分解能でMRI画像動態を獲得することからなる。この方法は、特に最初の糸球体通過を探るために、組織に造影剤が到達した直後に対応する信号増強の動態プロファイルを提供する。この動的曲線は、薬物動態モデルを用いてデジタル処理され、微細血管構築(例えば、血流、血液体積分率、血管透過率、細胞外容量など)に関する情報を提供する。しかしながら、これらの結果は再現性を欠き、個別のモデル化が必要であり、現在のところコンセンサスは得られていない。現在、結局のところ、腎機能を評価するための理想的なコントラスト剤は存在しない。目的の生理学的現象とコントラスト剤の薬物動態特性との間により適切な一致が見られなければならない。本発明の場合、マウスの尿管閉塞UUOモデルに対する腎障害の診断を向上させるAGuIX薬剤を用いた高時間分解能DCE MRI法を開発することを提案している。
【0128】
文献の生化学的に特徴付けられたプロトコルに従って雌性BalbC/JRJマウスの右尿管をクランプしてUUOモデルを誘導した。動物に対するすべての操作は、実施例3に記載した研究機関動物実験プロトコルガイドラインに準拠して行った。
【0129】
8週齢の雌性BalbC/JRJマウス(n=6)の一方の腎臓のみをUUO処理した。すなわち、それぞれのマウスは、1つの障害のある腎臓(UUO腎臓)と1つの健康な腎臓(基準腎臓)を有している。shamマウス群によって、開発したMRI法で反対側の基準の妥当性を確認することができる。誘導後、n=6のマウス群とn=6のsham群の2群を3日間動的MRIにより試験した。
【0130】
DCE MRI撮像プロトコルは、以下の2種類の造影剤(基準DOTAREMおよびAGuIX)を注入することからなる。
・本発明による溶液:0.9%生理食塩水に溶解した100μLの造影剤。AGuIX造影剤の濃度が5mM。
・従来の溶液:0.9%生理食塩水に溶解した100μLの造影剤。DOTAREM造影剤の濃度が10mM。
【0131】
投与プロトコルは実施例3の通りである。
【0132】
MRI撮像プロトコル自体は、前コントラストを20sとし、10分間、2.5sの時間分解能のT1強調FLASH MRIシーケンスにより、連続画像を記録することからなる。図10は、UUO障害のある腎臓および基準である反対側の腎臓での2種類の薬剤のエンハンスメントプロファイルを示す。Gd MRI剤の濃度を確認するためのT1マッピングを記録した。
【0133】
3時点法(3TP)という方法に由来するデジタル処理法は、3つの主要な点(基本基準強度、エンハンスメントの最大強度の時点、最終クリアランス時間)を規定し、薬剤の捕捉および放出の傾きを計算することからなる。次に、6匹のマウスのそれぞれおよび各造影剤について算出された傾きパラメータにマン・ホイットニー生物統計研究を適用する。
【0134】
平均集団法(Averaged collective method)によりT1maxの値が得られる。
a)DCE MRI強度の全体平均の最大値に対応する時間Tを検索する。
b)この最大値をTmaxとして各エンハンスメントプロファイルに適用する。
c)指標付けした値の前後の6つのエンハンスメント値の平均を取る。
【0135】
結論:UUOモデルに対する高時間分解能MRI法による診断は、AguIX薬剤を用いると向上する。なぜなら、腎臓の健康な状態と病態との間に灌流に関連するDCE MRI信号への影響の差異が見られ、これがかなり大きいからであり、AguIXの場合、低下は350%または3.5倍であるが、DOTAREMの場合、低下は100%または2倍にすぎない。このAGuIXにより得られたより大きい差異のおかげで、AGuIX造影剤による腎臓病態の診断の向上が可能となる。
【0136】
実施例5:UUO処理したマウスに対する光学造影におけるAGuIX動態
8週齢の雌性BalbC/JRJマウス(n=6)を実施例3で記載したようにUUO処理した。
【0137】
調製した溶液:生理食塩水(0.9%の塩化ナトリウム)に溶解した100μLの造影剤。シアニン5.5(Cy5.5)フルオロフォアに結合させたAGuIX造影剤(AguIX-Cy5.5)の濃度が10mM。
【0138】
マウスにケタミンを注射して麻酔をかけた後、尾静脈にカテーテルを入れて、薬剤を注入した。腎臓の位置でFluobeamカメラを用いて動的監視を行った。用いた波長およびパラメータは、励起が680nm、発光が700nm超、露光時間が50ms、画像間隔が2秒であった。以下の計算式を用いて、すべての腎臓について同じサイズのROIでImageJによりデータを処理した。
エンハンスメント=(RawIntDen(t)-RawIntDen(t0)/RawIntDen(t0)
【0139】
図11は、最初の5分間で腎臓に造影剤が到達する動態を示す(状態ごとにn=6の腎臓)。
【0140】
結論:得られた結果から、シアニン5.5に結合させていないAGuIX薬剤を用いて事前に得られたMRI結果が確認された。また、これらの結果から、必要な造影機能性を有するAGUIX剤を用いて異なる2つの造影モードで同様の結果が得られることが示された。灌流において基準の定量方法として知られるMRIにおいて開発されたもののような動的撮像法で生体内での光学造影を行うことによっても、腎臓のUUO病態を診断することができる。
【0141】
実施例6:治療有効性のAgulX監視を用いた分子MRIによる腎臓の免疫異常病態に対する治療法の診断
MRIモデルおよび画像処理
5nMの造影剤を100μLボーラス投与で注入して、10分間、2.5sの高時間分解能DCE灌流方法(実施例4で記載した方法)を糸球体および腎尿細管障害の他のモデル、すなわち、文献で抗gbm抗体の注入により誘導したモデルに適用した。
【0142】
DCE MRI撮像プロトコルは、以下の2種類の薬剤(基準DOTAREMまたはAGuIX)を注入することからなる。
・本発明による溶液:0.9%生理食塩水に溶解した100μLの造影剤。AGuIX造影剤の濃度が5mM。
・従来技術による溶液:0.9%生理食塩水に溶解した100μLの造影剤。DOTAREM造影剤の濃度が10mM。
【0143】
MRI撮像プロトコル自体は、前コントラストを20sとし、約120秒、2.5sの時間分解能のT1強調FLASH MRIシーケンス(TR=TE=2.2ms、空間分解能:117×310μm)により、連続画像を記録することからなる。図12は、腎動脈に対して2種類の薬剤について記録された動的画像おいて測定されたエンハンスメントプロファイル(AIF)を示す。
【0144】
データ処理は、キャリアの病的腎臓と治療後の病的腎臓とのAIFデータの最大エンハンスメントの比を比較することに相当する。
【0145】
糸球体および腎尿細管障害モデルは、6~8週齢の雄性CBAマウスにProbetex抗体血清PTX-001Sを静脈内注射して得られる。この抗体血清は、糸球体基底膜を標的とし、糸球体の病変を誘導する。すなわち、糸球体嚢は三日月状になって萎縮し、嚢胞が現れ、炎症、タンパク尿の生化学マーカー(アルブミン/クレアチニン濃度の増加)、およびαSMAアッセイによる筋線維芽細胞の増加が見られる。
【0146】
1週間に2回抗炎症性ヘミコハク酸メチルプレドニゾロンを25mg/kgで腹腔内注射することで治療した。
【0147】
病態の誘導後、7日目および14日目に造影を行った。
【0148】
実施例4に記載した高時間分解能DCE灌流方法により病態モデルを特徴付け、診断した。
【0149】
また、器官における造影トレーサーの到達に相当する追加のパラメータ、すなわち動脈入力関数AIFを記録した。試験する器官の入力で測定すると、腎臓の入力でのAIF自体が機能性の指標となる。提案されたDCE高時間分解能で撮像した動的画像において腎動脈点での解剖学的MRI画像に対してプロファイルが記録される。
【0150】
AIFパラメータによって、特に治療の有効性の監視を評価することができる。
【0151】
結果図12および図13から、生体内でのMRI造影により診断された治療の有効性は、AGuIX薬剤を用いた場合にのみ、腎臓入力でのAIFパラメータを測定することによって観察されることが示された。具体的には、DOTAREMを用いた場合、対照マウス(キャリアマウス)プールと抗gbm抗体で処理されたマウス(MPマウス)とでAIFは同じであるが、AGuIX薬剤を用いた場合、異なっており、抗gbm抗体で処理されたマウス(MPマウス)においてはるかに大きい。
図1
図2
図3
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図5
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図10
図11
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図13