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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-22
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】骨再生材料
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/12 20060101AFI20220111BHJP
   A61L 27/56 20060101ALI20220111BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
A61L27/12
A61L27/56
A61L27/36 110
A61L27/36 311
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019538324
(86)(22)【出願日】2018-01-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-02-20
(86)【国際出願番号】 EP2018050877
(87)【国際公開番号】W WO2018130686
(87)【国際公開日】2018-07-19
【審査請求日】2020-08-19
(31)【優先権主張番号】BE2017/5025
(32)【優先日】2017-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】BE
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2017/050779
(32)【優先日】2017-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516092784
【氏名又は名称】ウィッシュボーン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100196298
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 高雄
(72)【発明者】
【氏名】エミリー ドリー
(72)【発明者】
【氏名】エリック ロンペン
(72)【発明者】
【氏名】フランス ランバート
(72)【発明者】
【氏名】ジェフロワ レクロークス
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-527125(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0114755(US,A1)
【文献】米国特許第04861733(US,A)
【文献】特表2015-502327(JP,A)
【文献】特開2003-000696(JP,A)
【文献】特開2005-034630(JP,A)
【文献】特表2016-533205(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-33/18
A61K 6/00- 6/90
A61C 5/20- 5/35
A61C 5/70- 5/88
A61C 8/00-13/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
50μm以上の直径の細孔、好ましくは50~100μmの直径の細孔、を有するマクロポーラスである動物由来のヒドロキシアパタイトの第一固相を含む骨再生材料であって、
ヒドロキシアパタイトの前記第一固相がリン酸カルシウムの第二合成固相により補強され
合成固相である前記第二の相が、0.2~2、好ましくは0.3~1.8、好ましくは0.5~1.65、のCa/Pモル比を有し、ヒドロキシアパタイトの前記第一固相よりも大きいKs溶解度積を有し、
前記骨再生材料は、動物由来のヒドロキシアパタイトの前記第一の固相と、リン酸カルシウムの前記第二の合成固相との間の重量比が99/1~1/99である、
ことを特徴とする骨再生材料。
【請求項2】
天然由来のヒドロキシアパタイトの第一固相が4m/gより大きい比表面積を有する、請求項1に記載の骨再生材料。
【請求項3】
リン酸カルシウムの前記第二合成固相が、第一リン酸カルシウム(MCP)、第二リン酸カルシウム(DCP)、リン酸オクタカルシウム(OCP)、カルシウム欠乏アパタイト(CDA)、非晶質リン酸カルシウム(ACP)、第三リン酸カルシウム(TCP)、リン酸四カルシウム(TTCP)、及びそれらの混合物からなる群から選ばれる、請求項1又は2に記載の骨再生材料。
【請求項4】
記第一固相が、動物由来の骨材料から得られるヒドロキシアパタイトである、請求項1~3のいずれか一項に記載の骨再生材料。
【請求項5】
前記第一相のマクロポーラスである、動物由来の前記ヒドロキシアパタイトが、少なくとも部分的に焼結されたマクロポーラスである動物由来のヒドロキシアパタイトである、請求項1~4のいずれか一項に記載の骨再生材料。
【請求項6】
抗生物質、抗ウィルス薬、抗炎症薬、ステロイドなどのホルモン、BMP(骨形成タンパク質)などの成長因子、抗拒絶剤、幹細胞、及びそれらの混合物からなる群から選ばれる少なくとも1つの治療薬をさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の骨再生材料。
【請求項7】
哺乳動物、好ましくはヒト、における骨形成、骨再生又は骨矯正のためのインプラントとしての使用を目的としている、請求項1~6のいずれか一項に記載の骨再生材料。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載の骨再生材料を含む、医療装置。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一項に記載の骨再生材料を含む、骨再生組成物。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか一項に記載の骨再生材料を補強する方法であって、前記方法が、
骨再生材料を供給する工程、並びに
カルシウム中及びリン中で前記骨再生材料を補強する工程、
を含み、
カルシウム及びリン前記補強工程が、少なくとも1回の第一の浸漬と、少なくとも1回の第二の浸漬とが、任意の順序で連続して行われ、
前記少なくとも1回の第一の浸漬がカルシウムを含む第一の溶液内で行われ、
前記少なくとも1回の第二の浸漬がリンを含む第二の溶液内で行われる、方法。
【請求項11】
前記第一の浸漬が、Ca(NO・4HO、CaCl・2HO、Ca(OH)、CaSO・2HO、又はCaCOの第一の溶液内で行われる、請求項10に記載の骨再生材料を補強する方法。
【請求項12】
前記第二の浸漬が、NaPO、NaHPO、NaHPO・HO、KPO、KHPO、KHPO、KHPO、(NHPO、(NHHPO、又はNHPOの第二の溶液内で行われる、請求項10又は11に記載の骨再生材料を補強する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、50μm以上の直径の細孔、好ましくは50~100μmの直径の細孔を有するマクロポーラスである天然由来のヒドロキシアパタイトの第1固相を含む骨再生材料に関する。
【背景技術】
【0002】
骨再生材料としては、国際公開第2015/049336号パンフレットに記載のものが知られており、矯正手術又は美容整形手術などの様々な分野において、骨損傷の治療の一部として使用されている。
【0003】
ヒドロキシアパタイトは、式Ca(PO(OH)のリン酸塩のファミリーの鉱物種である。より具体的には、ヒドロキシアパタイトは、1つの同じ六角形構造を有する同形化合物であるアパタイト結晶学的ファミリーに属する。ヒドロキシアパタイトは結晶性リン酸カルシウムが最も多く、骨、歯のエナメル質、象牙質の第一のミネラル成分であるため、この化合物はさまざまな医療分野で長年にわたり生体材料として広く使用されている。さらに、ヒドロキシアパタイト(特に天然由来のヒドロキシアパタイト)は、良好な生体適合性を有し、細胞又はタンパク質の特異的吸着特性を有する。
【0004】
このように、天然由来のヒドロキシアパタイトは、ヒトの天然骨材料のものと同一の結晶構造及び形態、及び骨伝導性を有することが認識され、その結果、ヒドロキシアパタイトは、骨の再構成又は矯正手術の一部として完全に適している。この意味で、ヒドロキシアパタイトを含む多数の材料が、欠陥又は損傷を有する骨部位上の骨再構成を刺激するための歯科インプラントとして現在使用されている。特に、その有機物質(タンパク質、プリオン、ペプチド及び脂質)が除去された骨サンプルから得られる天然ヒドロキシアパタイトを使用することは、特にその人工類似体と比較して、骨再生に特異的なマトリックスを得ることを可能にする。骨再生材料は、インプラントが生物によって正しく受け入れ/統合され、生体適合性であり、骨伝導によって配置される生物学的媒体と相互作用することができるように、微量の有機物質が予め精製されていることが好ましい。
【0005】
例として、ヒドロキシアパタイトは、罹患組織若しくは損傷組織を置換又は再生するための代替材料として使用することができる。それらはまた、骨結合を促進するためのチタン製補綴物上のコーティングとしても頻繁に使用され、また、インプラントと骨との間の微小運動による摩擦を防止することもできる。ヒドロキシアパタイトを、自性の骨移植片を置換するためにセメントとして使用することもできる。さらに、ヒドロキシアパタイトが相互連結したミクロ孔を有する構造を有するため、薬物投与ベクターとしてのヒドロキシアパタイト用途の開発が増えている。
【0006】
上記のように、ヒドロキシアパタイトは骨のミネラル相のそれに非常に近い化学組成を有し、そしてその生物学的特性ならびにその生体適合性はそれを優れた骨置換生成物にする。骨定着は、骨再生材料の多孔質特性及びそれらのマクロ孔間の相互連結(数及び寸法)に依存することが特定されている。これらの相互連結は、孔の間の細胞の通過及び血液循環を可能にする種類の「トンネル」を構成し、それにより骨形成を促進する。
【0007】
ヒドロキシアパタイトは、その高い生体適合性レベル及び生体内でのゆっくりとした吸収により、様々な用途のために様々な形態で、及び多数の組織で投与することができる。特に、ヒドロキシアパタイトベースの可鍛性セメントは、調製され、そしてそれらが処置されて硬化する領域に投与される。これらのセメントは、その良好な骨結合性及びその生体吸収性のために、代用骨として使用され、経時的に新生骨に移行することを可能にする。
【0008】
カルボキシメチルセルロースなどのポリマーを含むことができる、溶液及びヒドロキシアパタイト系ゲルもある。従って、生物活性セラミック-ポリマー複合インプラントが、これらの製品は、歯科手術における歯周の欠陥を補うため、又は整形外科手術における補充を実施するためなど、様々な分野で使用することができる、といわれている。
【0009】
特定のヒドロキシアパタイトベースの製品は、整形外科、充填剤に使用されるブロック、粉末若しくは顆粒の形態で、又は歯科インプラントの補完物としても存在する。
【0010】
ヒドロキシアパタイトベースの製品の中で、多くのものが、使用する準備が整っておらず、事前に調製を必要とする。特に、処置され、その場で硬化が行われる領域上又はその中で、沈着の前に、粉末と溶液との事前の混合を必要とするヒドロキシアパタイト系セメントの場合がそうである。他のヒドロキシアパタイトベースの製品もまた、処置される領域の上又は中で、移植の前に、成形される必要がある。
【0011】
残念なことに、マクロポーラスである天然由来のヒドロキシアパタイトの固相を含むそのような骨再生材料が、歯内骨内インプラントとして特定の特性を有し、その生態適合性及び骨伝導能のおかげで適切な骨再生を可能にするとしても、実際には、この種の骨再生材料は必ずしも最適ではなく、骨再生プロセスの時間枠は常に比較的長い(1mm/月)ことが観察されている。さらに、骨再生量はしばしば不十分であり、これは全体的な骨化ではなく、部分的な線維症の形成をもたらす。
【0012】
骨再生過程を促進する目的で、文献米国特許出願公開第2002/0114755号明細書は、ヒドロキシアパタイト及び50~90質量%のリン酸三カルシウムを含む材料を開示し、この先行文献の材料は、高くされた温度において、Mg++イオンが添加されたリン酸水溶液中で、硬質藻類組織(hard algal tissues)を変換することによって得られる。
【0013】
この先行文献による骨再生材料、すなわち天然由来のヒドロキシアパタイト及び50~90質量%のリン酸三カルシウムを含むものは、加速された骨再生をもたらす、相互連結した多孔質構造、生体内での改善される且つ制御可能な吸収を有する。
【0014】
残念ながら、米国特許出願公開第2002/0114755号明細書による骨再生材料が、移植部位の直接媒体中の遊離イオンの形態のカルシウム及びリンの分布を増大させることによって骨再生プロセスを加速することを可能にしたとしても、材料の種類は最適ではない。
【0015】
実際、そのような骨再生材料を得るための方法は、ヒドロキシアパタイトをリン酸三カルシウムに変換する工程からなる。従って、これは第一の天然相から第二の天然相への変換であり、ヒドロキシアパタイトはリン酸三カルシウムで置き換えられている。
【0016】
従って、文献米国特許出願公開第2002/0114755号明細書による骨再生材料の移植中に、ヒドロキシアパタイトよりも溶解性の高いリン酸三カルシウムは、素早く可溶化され、移植部位の媒体中にカルシウム及びリンイオンを放出する。上述のように、このような骨再生材料のリン酸三カルシウムは、50~90質量%を占め、出発材料に含まれるヒドロキシアパタイトの一部、すなわち硬質藻類組織の変換によって得られる。その結果、この先行文献による骨再生材料では、50~90%の質量(リン酸三カルシウムに相当する)が移植後速やかに可溶化され、広い空隙を有する天然のヒドロキシアパタイト材料が導かれ、従って天然由来であるが良好な骨再生を可能にする最適なトポグラフィー特性(多孔度、比表面積など)をもはや有していないヒドロキシアパタイト材料を導く。
【0017】
従って、米国特許出願公開第2002/0114755号明細書による骨再生材料は、一度移植されると、天然ヒドロキシアパタイトの適切な微孔性構造を長期間にわたって維持することを可能にせず、従って、そのような材料は、一度移植されると、もはや表面のトポグラフィーも適切な微孔性も有していないので、骨細胞の増殖や分化の期間において移植部位上で最適な骨再生工程が保障されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】米国特許出願公開第2002/0114755号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、最適な再生された骨量を得るために、骨再生能力を刺激しながら、骨再生時間を最小にすることを可能にする骨再生材料を提供することにより、従来技術の欠点を克服することを目的とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の骨再生材料は、骨再生時間を最小にすることを可能にする化学的性質(遊離イオンの形態での最適化されたカルシウム及びリンの塩出)を有するだけでなく、最適な再生された骨量を得るために、良好な骨定着を可能にする、最適な物理的性質(保存されたトポグラフィー及び多孔度)を有する。
【課題を解決するための手段】
【0021】
この問題を解決するために、50μm以上の直径の細孔、好ましくは50~100μmの直径の細孔、を有するマクロポーラスである天然由来のヒドロキシアパタイトの第一固相を含む骨再生材料が提供され、本発明の本骨再生材料は、上記第一相を補強することを目的としたリン酸カルシウムの第二合成固相をさらに含み、上記第二の相が0.2~2、好ましくは0.3~1.8、好ましくは0.5~1.65、のCa/Pモル比を有し、上記骨再生材料は、天然由来のヒドロキシアパタイトの上記第一の固相と、リン酸カルシウムの上記第二の合成固相との間の重量比が99/1~1/99である。
【0022】
有利には、本発明によれば、天然由来のヒドロキシアパタイトの上記第一の固相とリン酸カルシウムの上記第二の合成固相との間の重量比は、95/5、90/10、85/15、80/20、75/25、70/30、65/35、60/40、55/45、50/50、45/55、40/60、35/65、30/70、25/75、20/80、15/85、10/90又は5/95である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の範囲において、本発明のそのような骨再生材料は、以下を有することが強調される。
-50μm以上の直径の細孔、好ましくは50~100μmの直径の細孔を有する天然由来のヒドロキシアパタイトの第一の固相、
-上記第一相を補強することを目的としたリン酸カルシウムの第二の合成固相、
-リン酸カルシウムの第二の合成固相のCa/Pモル比が0.2から2の間、好ましくは0.3から1.8の間、好ましくは0.5から1.65の間、及び
-天然由来のヒドロキシアパタイトの上記第一の固相とリン酸カルシウムの上記第二の合成固相との間の重量比が99/1~1/99である。
上記骨再生材料は、骨再生部位の媒体中のカルシウム(例えば、細胞外遊離Ca2+イオンの形態)及びリン(例えば、細胞外遊離PO 3-イオンの形態)の適切な塩出を確実にすることを可能にする。これらは、骨細胞の増殖及び分化ならびに石灰化を有意に促進することによって、周囲の生物学的組織の再生の促進剤の役割を果たすことができると考えられる。
【0024】
さらに、驚くべきことに、本発明の骨再生材料、すなわちヒドロキシアパタイトの固相がリン酸カルシウムの第二相により補強されたヒドロキシアパタイトの天然相を有する、は、良好な骨定着を可能にすることによって骨再生を最適化することができる最適なトポグラフィー特性(多孔度、比表面積、等)を有することが観察され、これは骨再生材料の移植後でさえも観察される。
【0025】
良好な骨定着は、骨生成材料の多孔性の特性、及びそのマクロポーラス間の相互接続(数、寸法)に依存し、「トンネル」のタイプを構成するこれらの相互接続は、孔間の細胞の通過や血液循環を可能にし、骨再生を促進する。従って、天然ヒドロキシアパタイトのトポグラフィー特性の保持は、適切な骨再生を得るために最重要であり、これは、米国特許出願公開第2002/0114755号明細書の再生材料はそのようでなく、ヒドロキシアパタイトの天然層の一部(50~90質量%)がリン酸三カルシウムの天然層に変換されている。
【0026】
従って、本発明の骨再生材料は、最適な化学的及び物理的特性(最適化された、遊離イオンの形態でのカルシウム及びリンの塩出/トポグラフィー、多孔度)の両方を有する。これは、国際公開第2015/049336号パンフレット及び米国特許出願公開第2002/0114755号明細書の骨再生材料等の骨再生材料に関して、大幅に短縮された時間での、骨再生及び骨形成を保証する。
【0027】
特に、本発明の範囲において、天然由来のヒドロキシアパタイトの上記第一の固相とリン酸カルシウムの上記第二の合成固相との間の、定義された質量割合が、99/1~1/99の間、好ましくは95/5、90/10、85/15、80/20、75/25、70/30、65/35、60/40、55/45、50/50、45/55、40/60、35/65、30/70、25/75、20/80、15/85、10/90又は5/95であるとき、骨再生時間が有意に減少することが強調される。これは、ヒドロキシアパタイトのみが遊離イオンの形態でカルシウム及びリンを捕捉し、骨再生部位からその周囲の媒体を枯渇する傾向がある一方で、このような質量割合を有すると、遊離イオンの形態でのカルシウム及び/又はリンの少なくとも一つの塩出が、カルシウム及び/又はリンが、自然に存在する濃度に対して、濃度が有意に増加することができる量で、骨再生周囲の媒体中に位置することによる。
【0028】
従来知られている二相骨再生材料、特に、合成ヒドロキシアパタイト及び合成リン酸三カルシウムの複合体のみからなる材料に留意しなければならない。これらは、最初に示されたように、骨再生材料に関して、100%合成材料であるので、比較的長い骨再生期間を必要とする。それどころか、そのような全体的に合成の二相骨再生材料は、それらが適切な表面のトポグラフィーも適切な微多孔性も有していないので、本発明の材料では、移植部位において、骨細胞の増殖及び分化の点で、最適な骨再生を保証することを可能にしない。
【0029】
本発明によれば、好ましくは、リン酸カルシウムの上記第二の合成固相は、天然由来のヒドロキシアパタイトの上記第一の相よりも、大きいKs溶解性を有する。これは、カルシウム及びリンが、構造的特性(孔径、比表面積等)及び天然由来のヒドロキシアパタイトの固相の組成を保持しながら、遊離イオンの形態で、移植部位の直接媒体中に分布しなければならないので、特に有利である。第二の層の溶解性が大きいので、特に、遊離イオンの形態でのカルシウム及びリンリリース(例えば、Ca2+、PO 3-)の起源となるのは主にこの層であり、明らかに溶解が少なく、そして、一方、注入媒体の当初においてこれらのイオンを固定する傾向にある、天然由来のヒドロキシアパタイトではない。
【0030】
本発明によれば、有利には、天然由来のヒドロキシアパタイトの上記第一の固相は4m/gより大きい比表面積を有する。
【0031】
本発明によれば、好ましくは、リン酸カルシウムの上記第二の合成固相は、第一リン酸カルシウム(MCP)、第二リン酸カルシウム(DCP)、リン酸オクタカルシウム(OCP)、カルシウム欠損アパタイト(CDA)、アモルファスリン酸カルシウム(ACP)、リン酸三カルシウム(TCP)、リン酸四カルシウム(TTCP)、及びこれらの混合物からなる群から選ばれる。
【0032】
本発明によれば、有利には、天然由来のヒドロキシアパタイトの上記第一相は、天然由来の骨材料、特に動物由来の骨材料、から得られるヒドロキシアパタイトである。例えば、天然由来のヒドロキシアパタイトは、哺乳動物(ウシ、ウマ、ブタ、若しくは羊)、サンゴ、又はイカ由来の骨材料から得られるヒドロキシアパタイトであり得る。
【0033】
本発明によれば、有利には、上記第一の相がマクロポーラスである天然由来の上記ヒドロキシアパタイトは、少なくとも部分的に焼結された、マクロポーラスである天然由来のヒドロキシアパタイトである。制御された焼結(粉末を溶解させずに加熱する)は、適切な微多孔性と適切な表面トポグラフィーを保持しながら、機械的耐性の特性が増強された、天然由来のヒドロキシアパタイトを得ることを、有利に可能にする。これは、移植を促進し、移植後の長期安定性を改良できる。
【0034】
有利には、本発明の骨再生材料は、さらに、抗体、抗ウィルス剤、抗炎症剤、ステロイド等のホルモン、BMP(骨形成因子)等の増殖因子、抗拒絶剤、幹細胞、及びこれらの混合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の治療剤をさらに含む。
【0035】
好適には、本発明の骨再生材料は、哺乳動物、好ましくはヒトにおける、骨形成、骨再生、又は骨矯正のための、インプラント又は人工補装具としての使用を意図している。
【0036】
本発明の骨再生材料の他の態様は、添付の特許請求の範囲に示されている。
【0037】
本発明は、また、本発明の骨再生材料を含む医療装置を目的としている。
【0038】
本発明の医療装置の他の態様は、添付の特許請求の範囲に示されている。
【0039】
本発明は、また、本発明の骨再生材料を含む骨再生組成物を目的としている。
【0040】
本発明の医療組成物の他の態様は、添付の特許請求の範囲に示されている。
【0041】
本発明は、また、本発明の骨再生材料を補強する方法に基づく。上記方法は、
骨再生材料を供給する工程、
カルシウム及びリン中で、上記骨再生材料を補強する工程、を含み、
上記方法は、上記カルシウム及びリン補強工程が、
少なくとも1回の第一の浸漬と、少なくとも1回の第二の浸漬とが、任意の順序で連続して行われ、
上記少なくとも1回の第一の浸漬がカルシウムを含む第一の溶液内で行われ、
上記少なくとも1回の第二の浸漬がリンを含む第二の溶液内で行われる。
【0042】
本発明の方法において、好ましくは、上記第一の浸漬は、Ca(NO・4HO、CaCl・2HO、Ca(OH)、CaSO.2HO、又はCaCOの第一の溶液内で行われる。
【0043】
本発明の方法において、有利には、上記第二の浸漬は、NaPO、NaHPO、NaHPO・HO、KPO、KHPO、KHPO、KHPO、(NHPO、(NHHPO、又はNHPOの第二の溶液内で行われる。
【0044】
本発明の方法の他の態様は、添付の特許請求の範囲に示されている。
【0045】
本発明の他の特徴、詳細、及び効果は、被限定的な様式で、そして添付の図面を参照することによって、以下に記載の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1図1a、1b、1cは、それぞれ、HBSS培地中で浸漬され、補強していない、天然ウシ由来のヒドロキシアパタイトの固相の、経時的なカルシウム(Ca)濃度の展開、HBSS培地中で浸漬され、補強していない、天然ウシ由来のヒドロキシアパタイトの固相の、経時的なリン(P)濃度の展開、及びHBSS培地中で浸漬され、補強していない、天然ウシ由来のヒドロキシアパタイトの固相の経時的な重量増加の展開、を示す。
図2図2a、2b、2cは、それぞれ、HBSS培地で浸漬され、リン酸カルシウムの合成固相(比90/10)によって補強された天然ウシ由来のヒドロキシアパタイトの固相を含む材料の経時的なカルシウム(Ca)の濃度の展開、HBSS培地で浸漬され、リン酸カルシウムの合成固相(比90/10)によって補強された天然ウシ由来のヒドロキシアパタイトの固相を含む材料の経時的なリン(P)の濃度の展開、及びHBSS培地で浸漬され、リン酸カルシウムの合成固相(比90/10)によって補強された天然ウシ由来のヒドロキシアパタイトの固相を含む材料の経時的な重量増加の展開、を示す。
図3図3a、3b、3cは、それぞれ、HBSS培地で浸漬され、リン酸カルシウムの合成固相(比80/20)によって補強された天然ウシ由来のヒドロキシアパタイトの固相を含む材料の経時的なカルシウム(Ca)の濃度の展開、HBSS培地で浸漬され、リン酸カルシウムの合成固相(比80/20)によって補強された天然ウシ由来のヒドロキシアパタイトの固相を含む材料の経時的なリン(P)の濃度の展開、及びHBSS培地で浸漬され、リン酸カルシウムの合成固相(比80/20)によって補強された天然ウシ由来のヒドロキシアパタイトの固相を含む材料の経時的な重量増加の展開、を示す。
【実施例
【0047】
(実施例1)
骨再生材料の違いによる、遊離イオンの形態でのカルシウムとリンの塩出の経時的比較-溶解度試験
【0048】
経時的に塩出されたカルシウム及びリンの量(濃度)を決定するために、異なる骨再生材料の開始時における、比較試験を実施した(溶解度試験)。これはインビボ移植条件を再現する媒体においてである。
【0049】
方法論
これを行うために、インビボ移植条件(ヒト血漿)を刺激する媒体、すなわち、pH7を有し、以下の表1に組成が概説されるHBSS培地(Hank’s balanced salt medium)における、塩出されたカルシウム及びリンの割合並びに量(濃度)を測定した。
【0050】
【表1】
【0051】
以下の骨再生材料を試験した。
-材料1:50~100μmのサイズの細孔を有する、補強されていない、天然ウシ由来のヒドロキシアパタイトの固相0.5g。
-材料2:50~100μmのサイズの細孔を有する、天然ウシ由来のヒドロキシアパタイトの固相0.5g。ヒドロキシアパタイト/リン酸カルシウムの合成固相の重量割合が90/10であり、Ca/Pモル比が1.67未満であるリン酸カルシウムの固相によって補強された。
-材料3:50~100μmのサイズの細孔を有する、天然ウシ由来のヒドロキシアパタイトの固相0.5g。ヒドロキシアパタイト/リン酸カルシウムの合成固相の重量割合が80/20であり、Ca/Pモル比が1.67未満であるリン酸カルシウムの固相によって補強された。
【0052】
天然ウシ由来のヒドロキシアパタイトの固相は、国際公開第2015/049336号パンフレットに記載の方法によって得られた。そして、より具体的には、0.25~1mmの間のサイズを有するヒドロキシアパタイト粒子からなっている。
【0053】
天然由来のヒドロキシアパタイトの第一の固相、及びリン酸カルシウムの第二の合成固相を含む材料は、天然由来のヒドロキシアパタイトの第一の固相(ヒドロキシアパタイト粒子)の、Ca(NO・4HO(1M、pH=10)とNaHPO・HO(0.5M、pH=10)との別個の液容器内で、連続及び交互の5分間の浸漬によって得られる。第一の液容器は、天然由来のヒドロキシアパタイトカルシウム(Ca2+)粒子を補強することを可能とし、第二はリン(PO 3-)の液容器。
【0054】
ヒドロキシアパタイトの固相/リン酸カルシウムの合成固相の質量割合90/10を得るための4連続の浸漬(各液容器内の2浸漬)、又はヒドロキシアパタイトの固相/リン酸カルシウムの合成固相の質量割合80/20を得るための以下の6連続の浸漬(各液容器内の3浸漬)に続いて、カルシウム及びリンに富んだ天然由来のヒドロキシアパタイトは、過剰なカルシウム及びリンを除去するためにリンスされ、温度100℃で6時間乾燥された。
【0055】
合計36個の試料(0.5g)は、温度37℃で、10mLのHBSS培地内に浸漬して、同時に試験を行った。遊離イオンの形態のカルシウム及びリンの塩出測定は、各材料について2サンプルについて、8時間後、24時間後、48時間後、1週間後、2週間後、3週間後に、これらの試料がリンスされ、これらの期間後に温度100℃で乾燥されることで、行った。
【0056】
HBSS培地内の各試料の開始時におけるカルシウム及びリン量(濃度)塩出は、遠心によってHBSS培地内につるされた材料を可能な限り除去することに続いて、ICP-AES法(誘導結合プラズマ原子発光分析)に従って測定された。材料の重量は、上記の各期間について、HBSS培地内の浸漬前及び浸漬後に測定(重量測定)された。
【0057】
2.結果
得られた結果を、図1~3に示す。各材料(試料)について、カルシウム及びリンの開始時の濃度は、それぞれ、1.26mmol/L、0.78mmol/Lであり、これは最初のHBSS培地内のこれらのイオンの濃度に対応する。
【0058】
これらの結果は、材料1-補強していない天然のウシ由来のヒドロキシアパタイトの固相-がHBSS培地に浸漬されたとき、遊離イオンの形態のカルシウム及びリンの濃度は、安定化する前に、減少することを示している(図1a、1b)。同時に、材料1の重量の増加が観察される(図1c)。例えば、3週間後、媒体中のリンの濃度は0.03mmol/L、試料の平均質量増加が5mgである一方で、媒体中のカルシウム濃度は0.06mmol/Lである。
【0059】
材料2-合成カルシウム層(割合90/10)により補強された天然ウシ由来のヒドロキシアパタイトの固相-は、カルシウム及びリンの濃度が、カルシウム濃度(0.6mmol/L)の素早い安定化を伴って減少し、一方、リン濃度は、浸漬3週間後の最終濃度1.34mmol/Lまで、次第に増加していく(図2a、2b)。この濃度は、HBSS培地の最初のリン濃度よりも高い。材料2の試料の質量は、減少して3.5mgの質量低下する前に、最初はわずかに増加する(図2c)。
【0060】
材料3-リン酸カルシウム(割合80/20)の合成固相により補強された天然ウシ由来のヒドロキシアパタイトの固相-に関し、試料の重量が低下する一方で、カルシウム及びリンの濃度は経時で増加する(図3a、3b)。最終的なカルシウム及びリンの濃度は、HBSS培地内に3週間浸漬した後、それぞれ3.69mmol/L、2.78mmol/Lであり、重量の低下は12.5mgです。これらの濃度は、HBSS培地内の最初に測定された濃度よりも高いです。
【0061】
3.結論
材料1-補強されていない天然ウシ由来のヒドロキシアパタイトの固相-で得られた結果は、HBSS媒体中に存在する遊離イオンの形態でカルシウム及びリンを固定し、その上の表面上にアパタイト層を形成するヒドロキシアパタイトの能力(capacity)を強調する。8時間の浸漬の後、カルシウムとリンの遊離イオンのほとんどが、試料の表面に吸収された。これらの結果は、試料が3週間の浸漬後により重いことを示す、重量測定記録に対応する。従って、これらの結果は、材料1(補強されていないヒドロキシアパタイト)が、カルシウム及びリンを遊離イオンの形態で固定すること、そしてHBSS媒体中でのヒドロキシアパタイトの溶解がわずかであること、を示している。
【0062】
これらの結果は、材料2-リン酸カルシウムの合成固相によって補強された、天然ウシ由来のヒドロキシアパタイトの固相(割合90/10)-において、カルシウム及びリンの濃度の両方が最初に減少するので、二つの原料が同時に起こることを示しており、これは、ヒドロキシアパタイトがこれらのイオンを固定しなければならない能力(capacity)と関連している。しかしながら、その後、培地中のリン濃度は増加し、最初のHBSS培地中のこの化合物の濃度を超えることさえあるが、カルシウム濃度は、材料1が同じ媒体に浸漬されたときに測定された値よりも大きいが、HBSS培地中で最初に測定されたものより低いままである。同時に、3週間後、重量測定の結果は、試料が減量したことを示している。材料2についてのこれらの結果の全ては、この材料がHBSS媒体に溶解していることを示している。材料1で得られた結果は、同じ条件下でのヒドロキシアパタイトの溶解が完全に最低限度であることを示しているので、材料2の結果は、補強している相(リン酸カルシウムの合成固相)にのみ起因し得る。
【0063】
材料3-リン酸カルシウムの合成固相により補強された天然ウシ由来のヒドロキシアパタイトの固相(比率80/20)-で得られた結果は、試料の重量が減少すると同時に経時的にカルシウムとリンの濃度が増加するので、反対に、カルシウム及びリン濃度の減少が起こらないことを証明している。これらの観察から、材料1で得られた結果は同じ条件下でのヒドロキシアパタイトの溶解が限定的であることを示しているので、カルシウム及びリン濃度のこれらの増加は、HBSS媒体中の材料3の第2相の溶解によるものであると結論付けることができる。さらに、材料3は、塩出された、遊離イオンの形態のカルシウム及びリンを固定せず、又はごくわずかしか固定しないことが観察され、このことは、後者が溶液中に残ることを保証している
【0064】
これらの結果の全てはまた、補強すること(リン酸カルシウムの合成固相)がヒドロキシアパタイトよりも溶解可能であり、周囲の培地(血漿を模したHBSS)内で、カルシウム及びリンを、遊離イオン(Ca2+及びPO 3-)の形態で塩出することができることを示している。
【0065】
本発明は、決して上述の実施形態に限定されず、添付の特許請求の範囲から逸脱することなく変更を加えることができることを十分に理解されたい。
図1
図2
図3