(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-22
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】地被状況判別装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01C 15/00 20060101AFI20220128BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20220128BHJP
G01S 17/89 20200101ALN20220128BHJP
【FI】
G01C15/00 104Z
G06T7/00 640
G01S17/89
(21)【出願番号】P 2020004102
(22)【出願日】2020-01-15
【審査請求日】2020-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000135771
【氏名又は名称】株式会社パスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】花田 大輝
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 崇
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 優太
(72)【発明者】
【氏名】山本 達也
【審査官】仲野 一秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-175387(JP,A)
【文献】特開2005-172634(JP,A)
【文献】特開2008-111725(JP,A)
【文献】特開2006-003332(JP,A)
【文献】第3章 緑被現況・緑化状況調査(1),緑と生物の現況調査報告書(平成30年度),墨田区,2019年08月01日,p.17-33,https://www.city.sumida.lg.jp/kurashi/kankyou_hozen/midori/keikaku_tyousa/genkyoutyousa/h30_gchousa.files/2019houkokusho_3_1.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 15/00
G06T 7/00
G01S 17/89
G06T 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上空から照射したレーザパルスにより対象領域の地球表面を検出した第1計測データと、上空から前記対象領域の地盤面を検出した第2計測データとを取得する取得部と、
前記対象領域における地球表面の検出点数に対する地盤面の検出点数の割合を算出する算出部と、
前記対象領域に含まれる複数の単位領域で各々算出された前記割合の累積度数分布を生成し、前記累積度数分布の形状の類型化されたパターン形状との類似性により前記対象領域における地被状況
を判別
する判別部と、
を備えることを特徴とする地被状況判別装置。
【請求項2】
前記取得部は、前記第1計測データ及び前記第2計測データの組を、複数の異なる時期についてそれぞれ取得し、
前記算出部は、前記時期ごとに前記割合を各々算出し、
前記判別部は、前記割合に基づいて前記地被状況の変化を判別する
ことを特徴とする請求項
1記載の地被状況判別装置。
【請求項3】
前記判別部は、複数の単位領域で各々算出された前記割合に基づく所定の基準で複数の
エリアへの区分けを行い、前記エリアごとの前記地被状況を判別することを特徴とする請求項1
又は2記載の地被状況判別装置。
【請求項4】
コンピュータを、
上空から照射したレーザパルスにより対象領域の地球表面を検出した第1計測データと、上空から前記対象領域の地盤面を検出した第2計測データとを取得する取得手段、
前記対象領域における地球表面の検出点数に対する地盤面の検出点数の割合を算出する算出手段、
前記対象領域に含まれる複数の単位領域で各々算出された前記割合の累積度数分布を生成し、前記累積度数分布の形状の類型化されたパターン形状との類似性により前記対象領域における地被状況
を判別
する判別手段、
として機能させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地被状況判別装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
航空機などによる上空からのレーザなどを用いた計測データから地表面の状況を監視して、土砂災害の発生を検出する技術がある。特許文献1では、レーザパルスの反射強度に基づいて地表の含水率を推定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、実際の地被状況を容易かつ客観的に取得することができないという課題があった。
【0005】
本開示の目的は、地被状況を容易かつ客観的に取得することのできる地被状況判別装置及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示は、
上空から照射したレーザパルスにより対象領域の地球表面を検出した第1計測データと、上空から前記対象領域の地盤面を検出した第2計測データとを取得する取得部と、
前記対象領域における地球表面の検出点数に対する地盤面の検出点数の割合を算出する算出部と、
前記対象領域に含まれる複数の単位領域で各々算出された前記割合の累積度数分布を生成し、前記累積度数分布の形状の類型化されたパターン形状との類似性により前記対象領域における地被状況を判別する判別部と、
を備えることを特徴とする地被状況判別装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明に従うと、地被状況を容易かつ客観的に取得することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】処理装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図2】レーザパルスの反射状況について説明する図である。
【
図3】植生回復判別処理の制御手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態の地被状況判別装置である処理装置1の機能構成を示すブロック図である。
【0010】
処理装置1は、通常のコンピュータ(PC)であってよい。処理装置1は、制御部11(取得部、算出部、判別部)と、記憶部12と、入出力インターフェイス13(I/F)と、操作受付部14と、表示部15などを備える。
【0011】
制御部11は、各種演算処理を行うプロセッサであり、例えば、CPU(Central Processing Unit)などを備える。CPUは、記憶部12からプログラムなどを読み込んで実行することで各種制御処理を行う。
【0012】
記憶部12は、各種データを記憶するメモリである。メモリには、RAMと不揮発性メモリとが含まれる。RAMは、CPUに作業用のメモリ空間を提供し、一時データを記憶する。不揮発性メモリは、プログラム、設定データ及び地被状況の判別結果のデータなどを記憶保持する。不揮発性メモリにはフラッシュメモリが含まれ、あるいは、これに代えて又は加えてHDD(Hard Disk Drive)などが含まれてもよい。また、初期制御プログラムなどは、ROM(Read Only Memory)に格納されていてもよい。
【0013】
プログラムには、後述の植生回復検出処理に係るプログラム121が含まれる。設定データには、回復状況を判別するのに用いられる回復状況基準データ122、及び後述の単位エリアの設定条件に係る単位エリア設定データ123が含まれていてもよい。
【0014】
入出力インターフェイス13は、処理装置1によりアクセスされる外部の各種データを記憶する外部データ記憶部20を有する各種機器と接続するための構成、ここでは、接続端子131及び通信部132などを備える。接続端子131には、例えば、USB(Universal Serial Bus)など各種規格に応じたものが含まれてよい。接続端子131には、大型のHDDといった補助記憶装置、並びにCDROM、DVD及びBlu-ray(登録商標)などの可搬型記憶媒体(光学ディスク)を読み取る光学読取装置22などの周辺機器が接続される。また、可搬型記憶媒体に磁気テープが含まれ、この磁気テープを読み取る読取装置が周辺機器に含まれてもよい。通信部132は、例えば、LAN(Local Area Network)などの通信規格に基づいて、ネットワーク回線を介した外部機器との間の通信を制御する。外部機器には、他のPC及び専用のデータベース装置21などが含まれていてもよい。
【0015】
外部データ記憶部20に記憶されるデータには、境界データ201、植生データ202及びレーザ計測データ203などが含まれていてもよい。
【0016】
レーザ計測データ203は、上空、主に航空機から照射されたレーザパルスの地球表面からの反射波を検出した計測データである。レーザパルスの照射点ごとに地盤面から直接、又は植物の幹、枝若しくは葉などからの反射波の検出に基づいて、反射位置の高度データが水平位置と対応付けられて保持されている。レーザ計測データ203には、オリジナルデータ2031(第1計測データ)と、グラウンドデータ2032(第2計測データ)が含まれる。
【0017】
オリジナルデータ2031は、反射対象の種別によらず、地球表面からの正常な反射波データである。オリジナルデータ2031には、地形をなす点に加えて草木(草本の葉や花、及び木の幹や枝葉)などにより地形上の高度よりも上方で反射されたものを含む地球表面全体を検出した計測データであり、この計測データには、検出された地球表面の位置情報が格納されている。グラウンドデータ2032は、反射波のうち、地盤面、すなわち地形をなす点で反射されたもののみを含む地盤面の検出データであり、この検出データには、地形をなす位置情報が格納されている。ここで、位置情報は、緯度経度で表されている値やある地点からの相対的な距離の値、及び標高の値である。通常では、グラウンドデータ2032は、オリジナルデータ2031から地盤面による反射であると特定されたデータを抽出したものであるが、グラウンドデータ2032の取得時におけるオリジナルデータ2031のデータ密度(レーザパルスの照射密度とほぼ等しい)が既知であれば、別個に取得されてもよく、オリジナルデータ2031のデータ密度が異なる場合には、当該データ密度の比で重み付けされてもよい。また、オリジナルデータ2031及びグラウンドデータ2032は、近接する複数回の計測データが統合されたものであってもよい。ここでいう近接とは、植物の成長、生育速度に比して十分に間隔が短いことをいい、例えば、数時間から1か月程度である。
【0018】
境界データ201は、流域界又は字界など、計測結果を地理的に分離するための境界を示すデータである。植生データ202は、植生の種別ごとの分布を示すデータである。ここでは、土砂流出などにより植生が一度破壊された範囲を検出するが、植生データ202は、最新の回復状況に応じた植生分布には必ずしも一致していなくてもよい。
【0019】
次に、本実施形態の処理装置1による植生の回復状況の判別動作について説明する。
山間部などの樹林帯では、土砂崩れ、土石流、山林火災といった種々の災害によって植生が破壊される場合がある。これらの破壊された部分は、自然に、又は山腹工若しくは航空実播などの各種回復処理が行われて、徐々に植生が回復していくことが期待されるが、場所ごとに回復状況が異なったり、環境条件に応じて回復が進まなかったり、地盤の崩壊が進んで更に悪化したりする。処理装置1では、この回復状況を上記レーザ計測データ203を用いて判別する。
【0020】
植生の回復には、数年~数十年といった時間がかかる場合が多く、その間に計測装置及び計測環境が変化しやすい。したがって、同一の条件で得られた複数回の計測データを取得するのが難しくなりやすい。そのため、回復状況の判別に利用されるレーザ計測データ203は、一般的なフォーマットのものであり、かつ比較のしやすいものがよい。ここでは、測量計測などの基本となる上述のオリジナルデータ2031とグラウンドデータ2032が利用される。
【0021】
図2は、レーザパルスの反射状況について説明する図である。
建物などの人工物がほぼない山間部などでは、オリジナルデータ2031からグラウンドデータ2032を除いたものは、ほぼ草本又は樹木から反射されたものである。
図2(a)に示すように、裸地では、照射されたレーザパルスは、全て地盤面G1に到達して反射されて返ってくるので(実線矢印L1)、オリジナルデータ2031はグラウンドデータ2032と同一となる。すなわち、単位面積当たりのオリジナルデータ2031のデータ点数は、グラウンドデータ2032のデータ点数と同じになる。
【0022】
図2(b)に示すように、裸地に草本H1や低木S1が生えると、レーザパルスのうち一部は、地盤面G1に到達せずにこれら草本H1又は低木S1で反射されるようになる(点線矢印L2)。すなわち、単位面積当たりのオリジナルデータ2031のデータ点数に比して、グラウンドデータ2032のデータ点数が減少する。
【0023】
図2(c)に示すように、樹木T1が繁茂すると、レーザパルスは地盤面G1に到達しにくくなり、ほとんどが樹木T1の幹、枝又は葉で反射されるようになる(点線矢印L2)。すなわち、単位面積(単位領域)当たりのオリジナルデータ2031のデータ点数に比して、グラウンドデータ2032のデータ点数が非常に少なくなる。
【0024】
このように、単位面積当たりのオリジナルデータ2031の点数に対するグラウンドデータ2032の点数の割合、すなわち、地盤面の検出の割合を到達率として、算出結果の到達率の高低に基づいて、植生による地盤面の被覆の度合、すなわち地被状況が判別され得る。到達率が高ければ裸地に近く、植生の回復が進んで地盤面の被覆部分が増えるにつれて到達率が低下する。
【0025】
単位面積は、例えば、1辺が通常の樹木間距離以上の矩形状に定められてもよい。すなわち、単位面積は、少なくとも樹木一本分の範囲が含まれるように、樹木間距離の2乗以上とされてもよい。また、単位面積は、到達率の算出に必要な精度に応じた所定数の計測点、例えば10点以上のオリジナルデータが含まれるように定められてもよい。単位エリアの大きさは、正方形、三角形又は六角形などで画一的に設定されてもよいし、領域などに応じて不均一なサイズであってもよい。サイズが不均一な場合には、後述の集約時に、各単位面積の結果に対して面積に応じた重み付けがなされてもよい。設定に係る情報は、単位エリア設定データ123として予め保持されていてよい。単位エリア設定データ123は、ユーザなどによって変更可能であってもよい。
【0026】
植生の回復に係る判別を行う対象範囲(対象領域)は、複数の単位面積の単位エリアの集合として表される。対象範囲内の各単位エリアにおける地盤面への到達率の値がさらに集約されて、当該対象範囲の植生回復の度合が判別される。例えば、上述の境界データ201で定められている流域界、字界や、植生データ202で得られる植生分布などに基づいて対象範囲を設定し、当該対象範囲に含まれる各単位エリアで得られた到達率を取得する。また、対象範囲は、レーザ計測データ203の取得と同時又は近接したタイミングで撮影された画像データなどに基づいて手作業で定められてもよい。あるいは、土砂災害の発生エリア、例えば、土石流の流下堆積範囲の情報が保持されている場合には、当該発生エリアが対象範囲として設定されてもよい。
【0027】
図3は、植生回復判別処理の制御部11による制御手順を示す図である。
まず、制御部11は、レーザ計測結果からオリジナルデータ及びグラウンドデータを取得する(ステップS1;取得部としての動作、取得手段)。制御部11は、単位エリア設定データ123に基づいて、オリジナルデータ2031及びグラウンドデータ2032を単位エリアごとに分割設定する(ステップS2)。そして、制御部11は、単位エリアに含まれるオリジナルデータ2031の点数及びグラウンドデータ2032の点数により、地盤面への到達率を算出する(ステップS3;算出部としての動作、算出手段)。
【0028】
制御部11は、境界データ201などを参照して、複数の単位エリアを含む対象範囲を設定する(ステップS4)。なお、制御部11は、境界データ201の参照結果と併用して、又は境界データ201を参照せずに、各単位エリアの到達率が類似する連続したエリア(到達率に基づく所定の基準で区分けされるエリア)を設定して、又は到達率の傾向が変化する位置を対象範囲の境界として、対象範囲を複数のエリアに区分けしてもよい。
【0029】
制御部11は、対象範囲に含まれる複数の単位エリアで各々算出された到達率を集計して、到達率の累積度数分布を算出、生成する(ステップS5)。制御部11は、累積度数分布曲線により、植生回復状況(地被状況)の判別を行う(ステップS6;判別部としての動作、判別手段)。制御部11は、判別の結果をデータとして通信部132から出力又は表示部15により表示させてよい。
【0030】
また、制御部11は、上記設定された対象範囲内で又は対象範囲にかかわらず、到達率の分布データに基づいて、裸地分布の特定を行ってもよい(ステップS7)。裸地は、例えば、上述のように到達率が100%に近い所定の基準率以上の部分が所定面積以上連続している範囲があるか否かにより特定されてもよい。そして、制御部11は、植生回復判別処理を終了する。
【0031】
なお、対象範囲の決定に単位エリアの到達率データが考慮されない場合には、制御部11は、先に対象範囲を設定したのち、当該対象範囲が全て含まれる範囲で単位エリアに分割設定を行ってもよい。
【0032】
ステップS6の処理で算出する累積度数分布曲線は、到達率が基準値以下の単位エリアの数又は割合の累積値を所定間隔、例えば、数パーセントごとに求めてつないだ曲線(実際には折線)である。
【0033】
図4は、累積度数分布曲線の例を示す図である。
図4に示されている累積度数は、到達率を所定間隔に分け、当該所定間隔ごとの各到達率の範囲における単位エリアの数の割合を累積したものである。
曲線Aに示すように、到達率が低い範囲(0%に近い範囲)での累積度数が低く、到達率が100%近傍で累積度数が大きく上昇して100%に到達する場合には、対象範囲の多くの単位エリアで到達率が100%に近く、すなわち、裸地が多く計測されていることになる。よって、この対象範囲は、植生の回復が進んでいないと判別される。
【0034】
曲線B、Cに示すように、植生の回復が進んでいくと、累積度数分布曲線は、徐々に到達率が低い側でも上昇してゆき、上に凸に変化する。樹木が十分に茂ると、曲線Dのように、多くの単位エリアで到達率が低い部分に偏る。すなわち、照射されたレーザパルスは、ほとんど地盤面に到達せずに植生によって反射される。
【0035】
例えば、対象範囲内でむらなく回復が進んでいる場合には、全体として累積度数は、0%から100%の間の途中で急激に上昇する部分が生じ得る。対象範囲内でまばらに回復が進んでいる場合には、到達率が0%から100%に変化するにつれて、累積度数も漸増していく。特に、対象範囲内の一部にまとまった裸地部分が残っている場合などには、100%付近で累積度数が急激に上昇する部分が生じる。
【0036】
累積度数分布曲線は、同一又はほぼ重複した対象範囲について、複数の異なる時期に取得されたレーザ計測データ203に基づいて各々算出された到達率により、それぞれ生成されてもよい。得られた結果を重ねて表示させてもよい。これにより、異なる時期における裸地の植生による被覆状態が比較され、変化が判別される。複数の異なるタイミングとしては、同一季節にそろえられるとよい。季節としては、特に限定するものではないが、積雪の影響などを受けにくく、かつ、適度に葉などが茂る春又は秋に、適切な結果を得やすい。積雪がなく、育つ植物も多年草や常緑樹である場合などには、冬に計測が行われてもよい。
【0037】
裸地に対して緑化処理などが行われた場合、例えば、当初では年に1~2回、その後、数年に一回程度の頻度で同一範囲における地盤面への到達率の分布が取得されることで、植生の回復度合が知得されやすい。
【0038】
これらの累積度数分布曲線の形状に応じたパラメータとして、例えば、当該曲線の上側又は下側の面積を算出することで、表面の植生により被覆された(されていない)度合が定量的に評価される。面積の絶対値は、植生の種別などに応じて上下し得るが、回復の度合の指標として取り扱うことができる。また、レーザパルスによる計測では、日射状況、観測機器や観測位置(航空機の飛行高度)による影響を受けづらいので、同一の領域で同一季節に得られた到達率は、相対的に精度よく比較が可能であり、特に、時系列で植生状況の変化を適切に評価することができる。
【0039】
回復は、到達率について線形に減少するわけではなく、また、変化の様子は、植生の種別に応じても異なり得る。したがって、各植生の種別に応じて指標となる到達率のデータを予め取得又は学習して回復状況基準データ122として保持することで、回復度合の判別の指標に用いてもよい。
【0040】
また、上記のように、累積度数分布の形状に基づいて、より詳細な植生回復状況の判別を行ってもよい。例えば、累積度数分布曲線の形状を類型化して、当該類型化された複数パターンの形状と得られた形状との類似度合などを算出し、類似度合の分布などに基づいて回復状況を評価してもよい。
【0041】
これらの累積度数分布曲線の形状に基づく判別結果の出力内容としては、例えば、上記曲線の下側(又は上側)の面積の時系列変化などの定量評価値を示してもよいし、これら評価値の変化状況や上記類似度合の分布などに応じた複数種類の出力文章のパターンを予め記憶部12に記憶しておき、対応する文章を示してもよい。出力先は、上述のように、通信部132を介した外部機器であってもよいし、表示部15であってもよい。また、出力内容には、上記累積度数分布曲線のグラフ画像や、グラフ出力用のデータ、例えば、CSV(Comma Separated Value)フォーマット又は各種表計算ソフトウェアに準拠したフォーマットのデータなどが含まれていてもよい。また、回復状況基準データ122を有する場合には、複数回の比較ではなく、災害からの経過時間と指標との対応関係に基づく評価文や複数段階の評価(例えば、評価A~Eなど)を定めてもよい。また、直接的な植生の回復状況についての評価だけでなく、災害の再発の危険性(崩れた地盤の安定度合)などの評価や、現在の回復状況に基づいて将来的な回復予測の出力などがなされてもよい。例えば、過去の回復状況の時系列変化に係るデータに基づいて、基準となる回復状況に到達するまでの推定残り所要年数などが出力されてもよい。
【0042】
以上のように、本実施形態の地被状況判別装置としての処理装置1は、制御部11を備え、制御部11は、上空から対象範囲の地球表面を検出したオリジナルデータ2031と、上空から対象領域の地盤面を検出したグラウンドデータ2032とを取得する取得部と、対象範囲における地球表面の検出に対する地盤面の検出の割合を到達率として算出する算出部と、算出の結果に基づいて、対象範囲における地被状況の判別を行う判別部と、として動作する。
このように、データ点数の割合で植生による被覆率を統計的に算出するので、可視光撮影データから目視で抽出、特定するなどの処理や、含水率から間接的に推定するなどの処理に比して、容易な処理で精度よく実際の地被状況の判別を行うことができる。また、一般的なデータであるオリジナルデータ2031とグラウンドデータ2032を用いるので、処理者は、計測の実施者や実施目的が異なるデータを流用して効率よく地被状況の判別を行うことができる。また、この処理では、エラーデータなどの除外に係る処理などを除くと取得結果に反射強度(計測環境など)や計測高度の影響が表れないので、異なる時期、異なる観測機器、異なる高度での計測データを広く利用して効率よく地被状況の判別を行うことができる。これにより、より容易に対象範囲に対する作業の必要性などを、当該作業の判断責任者や担当者が適切に判断することが可能になる。
【0043】
また、制御部11は、判別部として、対象範囲に含まれる複数の単位領域で各々算出された到達率の累積度数分布を生成し、累積度数分布の形状に基づいて地被状況を判別する。累積度数分布曲線の面積は、概ね植生による被覆率に対応するので、容易に回復状況の判別を行いやすい。また、曲線の形状に応じて種々の判別も行うことができるので、容易に生成可能な線グラフ(柱状グラフなどであってもよい)により多くの地被状況に係る多くの情報を迅速に得ることができる。
【0044】
また、制御部11は、取得部として、オリジナルデータ2031及びグラウンドデータ2032の組を、複数の異なる時期についてそれぞれ取得し、算出部として、時期ごとに到達率を各々算出し、判別部として、到達率に基づいて地被状況の変化を判別する。
このように、異なる時期のデータ取得及び結果の比較を容易に行うことができるので、長期間にわたる地被状況、特に植生の変化状況における計測の負担を必要以上に高めない。また、異なるデータ間での相対的な調整などがほぼ必要ないので、処理も容易である。
【0045】
また、制御部11は、複数の単位領域で各々算出された到達率に基づく所定の基準で、例えば、所定の範囲で値が類似する複数のエリアへの区分けを行い、エリアごとの地被状況を判別する。このように、予め定められる地形上行政上の区切りだけでなく、実際の地被状況に基づいてエリアの区分けを行ってもよい。特に、単位領域を単位としてエリアの後付け設定及び再処理も容易に行われるので、実際の地被状況に応じて精度よくエリアごとの状況判別を行うことが容易である。
【0046】
また、本実施形態のプログラム121は、コンピュータ(処理装置1)を、上空から対象範囲の地球表面を検出したオリジナルデータ2031と、上空から対象範囲の地盤面を検出したグラウンドデータ2032とを取得する取得手段、対象範囲における地球表面の検出に対する地盤面の検出の割合を到達率として算出する算出手段、算出の結果に基づいて、対象範囲における地被状況の判別を行う判別手段、として機能させる。
このようなプログラム121を普通のコンピュータにインストールしてソフトウェア的に処理を行わせるだけで、特別なハードウェア構成を必要とせずに容易に地被状況の評価を精度よく行うことができる。
【0047】
なお、本発明は、上記実施の形態に限られるものではなく、様々な変更が可能である。
例えば、上記実施形態のように対象範囲を定めて累積度数分布曲線を生成するのに加えて又は代えて、各単位エリアの到達率自体の頻度分布を生成して、到達率ごとにそれぞれどの程度ずつ分布しているかを検出するのに用いられてもよい。この場合、定量的な評価値として、各種周知の統計指標、例えば、平均値、分散値(又は標準偏差。平均値に対して上側と下側とが分離されて算出されてもよい)、最頻値(モード)、極大値、中央値(メディアン)などが算出、特定されてもよい。
【0048】
また、上記実施の形態では、植生の回復状況の判別を例に挙げて説明したが、各種長期的な要因による立ち枯れ、裸地化や荒廃などの進行、すなわち植生の悪化状況も判別することができる。また、非周期的な変化だけではなく、季節変化などの周期的な変化の特定や、当該周期的な変化からの外れ具合の検出などにも用いられてもよい。
【0049】
また、各単位エリアの到達率の結果に基づいて対象範囲の区分けを行う場合、類似性の判定基準は適宜定められてよい。また、単に個々の到達率の類似性で区分けする場合に限られず、例えば、移動平均などで周辺の複数の単位領域でフィルタリングなどを行った結果の類似性を判定してもよい。また、例えば、適宜複数の到達率の空間分布をパターン化して、当該パターンに応じた区分けなどが行われてもよい。
【0050】
また、予め対象範囲が定まっており、対象範囲内でオリジナルデータの密度に大きなむらがない場合には、単位エリアで区分けせずに、対象範囲の全オリジナルデータ数と全グラウンドデータ数との比率が算出されてもよい。
【0051】
また、上記では、境界データ201として、流域界や字界などを例に挙げて説明したが、これら以外の分類を行う境界データであってもよい。また、対象範囲の境界設定はこれらに限られるものではない。更に、谷筋の北側斜面と南側斜面などで地形に応じた区分けなどがなされてもよい。
【0052】
また、上記実施の形態では、レーザパルスを用いて地球表面の各点で地盤面又は草木などによる上方の反射点を区別したデータにより判別処理を行ったが、これに限るものではない。計測データ数に基づいて地盤面である点又は面積の割合が計測(主にサンプル計測)可能であれば、他の波長の電磁波など、他のものが用いられてもよい。
また、航空機からの計測に限らず、各種飛翔体による観測データが用いられてよい。
【0053】
また、上記実施の形態では、プログラム121が不揮発性メモリ又はHDDなどの記憶部12に記憶されるものとして説明したが、これに限られない。プログラム121は、CDROM、DVD、又はBlu-rayなどの光学ディスクといった可搬型記憶媒体に記憶されてよい。また、本発明に係るプログラムのデータを通信回線を介して提供する媒体として、キャリアウェーブ(搬送波)も本発明に適用される。
その他、上記実施の形態で示した具体的な構成、処理動作の内容及び手順などは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。本発明の範囲は、特許請求の範囲に記載した発明の範囲とその均等の範囲を含む。
【符号の説明】
【0054】
1 処理装置
11 制御部
12 記憶部
121 プログラム
122 回復状況基準データ
123 単位エリア設定データ
13 入出力インターフェイス
131 接続端子
132 通信部
14 操作受付部
15 表示部
20 外部データ記憶部
201 境界データ
202 植生データ
203 レーザ計測データ
2031 オリジナルデータ
2032 グラウンドデータ
21 データベース装置
22 光学読取装置