(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-22
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】重症感染症を診断するためのデルタ様リガンド1
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20220203BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20220203BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20220203BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20220203BHJP
C12Q 1/6837 20180101ALI20220203BHJP
C12Q 1/6813 20180101ALI20220203BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
G01N33/68
C12N15/12 ZNA
C12Q1/6869 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6837 Z
C12Q1/6813 Z
C12Q1/02
(21)【出願番号】P 2020536865
(86)(22)【出願日】2018-10-25
(86)【国際出願番号】 EP2018079273
(87)【国際公開番号】W WO2019081636
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2020-04-24
(32)【優先日】2017-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520146628
【氏名又は名称】ウニヴェルジテート ハイデルベルク
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITAET HEIDELBERG
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】ヒルデブラント,ダクマー
(72)【発明者】
【氏名】ヘーグ,クラウス
(72)【発明者】
【氏名】ウーレ,フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】ウェイガンド,マルクス
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-115131(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0233915(US,A1)
【文献】特表2009-523709(JP,A)
【文献】PENG, T. et al.,Detection of Delta-like 1 ligand for the diagnosis of tuberculous meningitis: An effective and rapid diagnostic method,Journal of International Medical Research,2014年03月20日,Vol.42, No.3,pp.728-736
【文献】PING, S. et al.,The value of measurement of serum soluble DLL1 for diagnosis of tuberculous meningitis,Chinese Journal of Modern Drug Application,2011年06月,Vol.5, No.12,pp.9-10
【文献】YASUDA, K. et al.,Clinical significance of vascular endothelial growth factor and Delta-like ligand 4 in small pulmonary adenocarcinoma,Kawasaki Medical Journal,2014年,Vol.40, No.1,pp.23-31
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/68
C12Q 1/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
医中誌WEB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
敗血症のインビトロ診断のためのバイオマーカーとしてのデルタ様リガンド1タンパク
質の使用。
【請求項2】
前記デルタ様リガンド1タンパク質が配列番号1のポリヌクレオチドによってコードされる、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記デルタ様リガンド1タンパク質が配列番号2
又は3のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するタンパク質である、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
前記デルタ様リガンド1タンパク質が前記デルタ様リガンド1タンパク質の切断産物である、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記切断産物が、配列番号4、配列番号5、配列番号6および/または配列番号7のアミノ酸配列を有するタンパク質である、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
デルタ様リガンド1タンパク
質の健康な対照又は対照患者と比較して上昇した発現レベルが敗血症の診断を示している、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記発現レベルが生物学的試料において決定される、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記生物学的試料が全血、バフィーコート、血漿、血清、末梢血単核細胞(PBMCS)、好中球、単球、T細胞、尿、髄液、リンパ液、皮膚の外分泌物、涙および/または唾液からなる群から選択される、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記発現レベルが手術後の患者から採取された生物学的試料において決定される、請求項6に記載の使用。
【請求項10】
前記発現レベルが腹部手術後の患者から採取された生物学的試料において決定される、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記インビトロ診断の結果が抗生物質療法の
治療方針のガイダンスとして役立つ請求項1~10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
敗血症のインビトロ診断のための方法であって、生物学的試料におけるデルタ様リガンド1タンパク
質の発現レベルを決定することを含み、デルタ様リガンド1タンパク
質の健康な対照又は対照患者と比較して上昇した発現レベルが敗血症を示している、敗血症のインビトロ診断のための方法。
【請求項13】
前記デルタ様リガンド1タンパク質が配列番号1のポリヌクレオチドまたは配列番号1と少なくとも
90%同一であるポリヌクレオチドによってコードされる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記デルタ様リガンド1タンパク質が配列番号2または3と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有する、および/または配列番号4、配列番号5、配列番号6および/または配列番号7のアミノ酸配列を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記生物学的試料が全血、バフィーコート、血漿、血清、末梢血単核細胞(PBMCS)、好中球、単球、T細胞、尿、髄液、リンパ液、皮膚の外分泌物、涙および/または唾液からなる群から選択される、請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記発現レベルが手術後の患者から採取された生物学的試料において決定される、請求項12~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記発現レベルが腹部手術後の患者から採取された生物学的試料において決定される、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の技術分野】
【0001】
本発明は、重症感染症の診断におけるバイオマーカーとしてのデルタ様リガンド1の使用、および生物学的試料におけるデルタ様リガンド1レベルを制御することによる敗血症などの重症感染症の迅速なインビトロ診断のための方法に関する。
【発明の背景】
【0002】
バイオマーカーは、特定の生理学的状態を反映する生物の測定可能な特徴である。医学では、バイオマーカーは、特定の病状の存在または重症度の指標として使用され得る、または所与の介入の有効性をモニターする生物学的組織から単離された化合物であることが多い。
【0003】
バイオマーカーは、疾患の診断およびことによると予後において、ならびに疾患の進行または治療に対する応答をモニターするのに特に有用である。理想的なバイオマーカーは、簡単に取得かつ測定されるべきであり、疾患に対する高い感度および特異性の両方を示すという点で信頼できるものであるべきである。
【0004】
重症感染症、特に敗血症は、信頼性の高いバイオマーカーが存在しない、特に回避的な医学的状態である。敗血症を含む重症感染症は、感染症に対する免疫応答の調節不全によって誘起される、生命を脅かす臓器不全によって特定される、かつ/または生命を脅かす臓器不全をもたらし得る。敗血症では、微生物病原体によって引き起こされる宿主応答は、炎症の悪化およびその後の免疫抑制を特徴とする病理学的症候群においてピークに達する。
【0005】
救命医療および抗菌療法における着実な改善にもかかわらず、そのような感染症は、世界中のすべての年齢群にわたって集中治療室における主な死因のままである。転帰を改善し、同時に不必要な抗生物質治療を回避するためには、重症感染症を診断するための迅速かつ信頼できる試験が不可欠である。
【0006】
敗血症は重症であり、したがって生命を脅かす感染症である。今まで、血液培養は、敗血症の診断における基準診断法のままであるが、血液培養には時間がかかり、敗血症の徴候および症状を有する多くの患者は、陰性の血液培養を有する。したがって、重症感染症を診断するための、特に敗血症を診断するための補足的なアプローチが緊急に必要である。
【0007】
C.Pierrakos and J.-L.Vincent(2010)Critical Care、14:R15には、敗血症を特定するまたは排除するのに有用であることが当技術分野で知られているバイオマーカーが記載されている。これらは、サイトカイン/ケモカイン、細胞、受容体、凝固、血管内皮損傷、血管拡張、臓器不全、および急性期タンパク質に向けられたさまざまなバイオマーカーを含む。ノッチリガンド、特にデルタ様リガンド1は、言及されていない。
【0008】
Van Engelen et al.(2018)“Biomarkers in Sepsis”,Critical Care Clinics,34(1):129-152には、敗血症を診断するためのさまざまなバイオマーカーが記載されており、特に、新規なバイオマーカーの発見のための有望なツールであるとしてシステムバイオロジーのオミクス(すなわち、ゲノミクス、エピジェネティクス、トランスクリプトミクス、プロテオミクス、およびメタボロミクス)分野に対する示唆が記載されている。
【0009】
国際公開第2016/145426(A1)号パンフレットには、バイオマーカーとしてCEACAM1、ZDHHC19、C9orf95、GNA15、BATF、C3AR1、KIAA1370、TGFBI、MTCH1、RPGRIP1、およびHLA-DPB1の発現レベルを使用して敗血症を診断するための方法が記載されている。
【0010】
米国特許出願公開第2005/059093(A1)号明細書には、候補モジュレーターの存在下および非存在下で免疫系の細胞におけるノッチシグナリングをモニターし、候補モジュレーターがノッチシグナリングを調節するかどうかを決定するステップを含む、ノッチシグナリングのモジュレーターを検出するための方法が記載されている。
【0011】
国際公開第2017/004159(A1)号パンフレットには、可溶性生体分子に結合し、その生物活性を阻害して、標的または病原体が他の分子または細胞と相互作用するのを阻害する組成物が記載されている。デルタ様リガンド1(DLL1)を含むノッチリガンドは、アテローム性動脈硬化症、石灰化大動脈弁狭窄、心不全、脳卒中およびがんを治療または予防するのに特に有用であるとして言及されている。病原体によって引き起こされる感染症に関連した敗血症を治療または予防するために、国際公開第2017/004159(A1)号パンフレットは、TNFα、インターロイキン1、インターロイキン6、インターロイキン8、インターロイキン12、インターフェロンガンマ、マクロファージ遊走阻止因子、GM-CSFおよび/または血液凝固因子選択的に結合することを提案している。
【0012】
米国特許出願公開第2006/140943(A1)号明細書には、移植片対宿主病(GVHD)ならびに臓器、組織および/または細胞移植(例えば、骨髄移植)などの移植によって引き起こされる、またはそれに関連する疾患および状態の治療のための医薬の調製のためのノッチシグナリングのモジュレーターの使用であって、モジュレーターが免疫系の細胞の反応性を低下させるために使用される使用が記載されている。
【0013】
国際公開第2012/092539(A2)号パンフレットには、DLL4に対する抗体、および細胞増殖性障害または血管新生に関連する病態などのDLL4関連疾患を治療するための方法が記載されている。国際公開第2012/092539(A2)号パンフレットには、血管新生の調節不全が腫瘍性および非腫瘍性障害につながり得ることが記載されており、敗血症をそのような非腫瘍性障害の多くの1つとして挙げている。
【0014】
米国特許第9,731,024(B2)号明細書および米国特許出願公開第2017/0240590(A1)号明細書には、水溶性ポリマーを治療用タンパク質の酸化炭水化物部分にコンジュゲートさせる材料および方法が記載されている。治療用タンパク質として列挙されている多くのタンパク質の1つは、デルタ様タンパク質1である。
【0015】
現在、敗血症などの重症感染症を診断するために、いくつかのバイオマーカーが使用されている。急性期タンパク質であるプロカルシトニン(PCT)およびC反応性タンパク質(CRP)は、白血球数とともに最も広く使用されている。
【0016】
それにもかかわらず、PCTおよびCRPの有効性は、敗血症に対する特異性および感度の欠如により限定される。特に、敗血症を炎症の他の非感染性原因と区別することは、依然として困難である。したがって、より信頼性の高い新しい敗血症バイオマーカーが必要である。
【発明の概要】
【0017】
本発明の根底にある問題は、高レベルの信頼性で重症感染症を診断するために使用され得るバイオマーカーを提供することである。
【0018】
この問題は、重症感染症のインビトロ(エクスビボ)診断のためのバイオマーカーとしてのデルタ様リガンド1タンパク質(DLL1)またはデルタ様リガンド1タンパク質をコードするヌクレオチド配列の使用によって解決される。したがって、患者の生物学的試料におけるデルタ様リガンド1タンパク質またはデルタ様リガンド1タンパク質をコードするヌクレオチド配列の上昇したレベルは、重症感染症の存在を示している。
【0019】
さらに、本発明は、重症感染症のインビトロ診断のための方法であって、生物学的試料におけるデルタ様リガンド1タンパク質またはデルタ様リガンド1タンパク質をコードするヌクレオチド配列を決定することを含み、デルタ様リガンド1タンパク質またはデルタ様リガンド1タンパク質をコードするヌクレオチド配列の発現の上昇したレベルが感染症を示している、重症感染症のインビトロ診断のための方法に関する。
【0020】
驚くべきことに、デルタ様リガンド1は、重症感染症、特に敗血症の高レベルの信頼性を有するバイオマーカーとして機能することが見出された。本発明のこの診断バイオマーカーに関連する利点は、感染症の早期診断、タイムリーな治療、および改善された疾患転帰である。また、デルタ様リガンド1よりも低い感度および選択性を示す他のバイオマーカーを試験することに関連する不要なコストを削減するだろう。
【発明の詳細な説明】
【0021】
デルタ様タンパク質は、ショウジョウバエにおいて最初に記載されたノッチデルタリガンドのホモログとしてノッチシグナリングにおける役割で知られる1回膜貫通タンパク質である。DLL-1の同義語は、デルタ様リガンド1、デルタ様タンパク質、H-Delta,1、ショウジョウバエデルタホモログ1、デルタ様古典的ノッチリガンド1、DL1、ノッチリガンドデルタ様1である。哺乳動物では、デルタ様リガンド1(DLL1をコードするDLL1)、デルタ様リガンド3(DLL3をコードするDLL3)、およびデルタ様リガンド4(DLL4をコードするDLL4)をコードする3つのデルタ様遺伝子があり、すべてのリガンドは、DSL(Delta、Serrate、Lag2)ドメインとして知られている保存されたシステインに富んだ領域、いくつかの上皮成長因子(EGF)様反復、および膜貫通ドメインを含む。デルタ様リガンド1タンパク質のアミノ酸配列およびデルタ様リガンド1タンパク質をコードするヌクレオチド配列は、既知である。例えば、DLL1のアミノ酸配列は、American Journal of Pathology,Vol.154,No.3,March 1999,785-794またはNational Center for Biotechnology Information(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/NP_005609.3)のデータベースに記載されている。ヒトオルソログの染色体位置は、6q27である。
【0022】
本発明において使用されるデルタ様リガンド1タンパク質は、配列番号1のヌクレオチド配列または配列番号1と少なくとも80%、好ましくは85%または90%同一であるヌクレオチド配列によってコードされるタンパク質とすることができる。
【0023】
さらに、デルタ様リガンド1タンパク質は、配列番号2または配列番号3のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性、特に95%の同一性を有するタンパク質とすることができる。
【0024】
本発明の目的のために本明細書で使用されるデルタリガンド1タンパク質という用語は、DLL1の自然発生の切断産物も含む。本発明による自然発生の切断産物は、細胞外、膜貫通、および細胞内切断産物を含む。好ましい実施形態では、自然発生の切断産物は、細胞外切断産物である。したがって、デルタリガンド1タンパク質という用語は、本質的に配列番号2によるタンパク質のN末端またはC末端断片からなり、重症感染症、特に敗血症で上昇するポリペプチドも含む。したがって、DLL1タンパク質という用語は、翻訳後修飾、天然のタンパク質分解性およびプロセシングされたDLL1タンパク質を含む。DLL1タンパク質という用語は、可溶性、不溶性DLL1タンパク質および配列番号2または3(UniProtKB-O00548(DLL1_HUMAN))のDLL1タンパク質の自然発生のアイソフォームも含む。DLL1のそのような適切な天然の切断産物は、例えば、アミノ酸配列番号4、配列番号5、配列番号6および/または配列番号7によって表される。配列番号4は、可溶性DLL1タンパク質を表す。配列番号5は、DLL1タンパク質の細胞内ドメインに連結されたDLL1タンパク質の膜貫通ドメインを表す。配列番号6は、DLL1タンパク質の細胞内ドメインを表す。配列番号7は、DLL1タンパク質の膜貫通ドメインを表す。
【0025】
DLL1タンパク質という用語にさらに含まれるのは、例えば、リン酸化、メチル化、アセチル化、およびグリコシル化により修飾されたタンパク質である。
【0026】
本発明では、DLL1タンパク質のレベルおよび/またはDLL1ヌクレオチド配列のレベルが決定される。本明細書で使用されるヌクレオチド配列という用語は、DNA、cDNA、RNA、またはmRNAを指し得る。DLL1タンパク質またはDLL1のタンパク質アイソフォームをコードするヌクレオチド配列は、RNAレベルのスプライスバリアントでもあり得る。そのようなスプライスバリアントは、例えば、配列のN末端を有さない、またはC末端を有さないヌクレオチド配列である。
【0027】
本発明の一実施形態によれば、感染症を診断するためのバイオマーカーとして、または感染症をインビトロで診断するための方法においてDLL1ヌクレオチド配列を使用する場合、DLL1の上昇した発現レベルは、重症感染症を示している。発現レベルの決定におけるDLL1の例示的なヌクレオチド配列は、配列番号1である。
【0028】
配列番号1とラベルされたヌクレオチド配列DLL1への言及は、ホモサピエンスにおけるDNA配列を指す。しかしながら、本発明がホモサピエンスに限定されず、むしろすべての哺乳動物に及ぶことは明らかであろう。
【0029】
本明細書で使用される「上昇した」という用語は、対照と比較して増加したレベルを意味する。対照は、任意の感染していない生物学的試料または系とすることができる。典型的に、対照は、感染した生物学的試料または系と同じ種のものである。敗血症もしくは別の重症感染症の手術前および/または発症前の患者は、例えば、対照として役立ち得る。医学および医学生物学の分野の当業者は、発現レベルを比較できる適切な対照を容易に特定できよう。典型的に、DLL1の上昇した量は、DLL1の濃度とすることができ、これは、対照の標準偏差値を有意に超えている。好ましい実施形態によれば、DLL1の上昇した量は濃度であり、これは、対照試料における平均の標準偏差値の2倍、または特に3倍である。対照試料における平均の標準偏差値の3倍は、特に良い結果をもたらす。
【0030】
代わりに、DLL1の上昇した量の決定または重症感染症の診断に関して、カットオフ値を定義し、患者の試料が本発明に従って試験される場合に、敗血症の診断のためにそのようなカットオフ値を考慮することも有益である。カットオフ値により、重症感染症を有するまたは重症感染症を有さない患者群を区別することができる。重症感染症が敗血症である場合に関する妥当なカットオフ値は、mlあたり約36331pgのDLL1タンパク質である。重症感染症が敗血症である場合に関する特に有益な診断カットオフ値は、mlあたり約29,538pgのDLL1タンパク質である。
【0031】
DLL1の発現レベルは、任意の生物学的試料において測定され得る。本明細書で使用される「生物学的試料」という用語は、生物の全体または生物の任意の部分を含む。典型的に、生物学的試料は、エクスビボ分析のために生物から除去される。生物学的試料は、単一細胞および/または細胞培養物および/または組織培養物を含み得る。生物学的試料は、上皮組織、筋肉組織、結合組織および神経組織などの組織も含むが、これらに限定されない。生物学的試料は、例えば、全血、バフィーコート(buffy coat)、血漿、血清、末梢血単核細胞(PBMCS)、好中球、単球、T細胞、尿、髄液、リンパ液、皮膚の外分泌物、涙および/または唾液を含み得る。
【0032】
本発明の一実施形態では、DLL1の発現レベルは、単一細胞または細胞培養物から測定される。細胞または細胞培養物は、特に、免疫系の細胞を含み得る。典型的に、細胞または細胞培養物は、免疫細胞を含む。好ましくは、細胞は、白血球である。より好ましくは、細胞は、単球である。好ましくは、細胞培養物は、白血球を含む。より好ましくは、細胞培養物は、単球を含む。
【0033】
別の実施形態では、DLL1の発現レベルは、組織から測定される。好ましくは、DLL1の発現レベルは、血液試料から測定される。本明細書で使用される「血液」という用語は、全血、血漿、および血清を含む。好ましくは、DLL1の発現レベルは、血漿試料から測定される。
【0034】
好ましい実施形態では、DLL1の発現のレベルは、患者から採取された血漿試料から測定されかつ決定される。本明細書で使用される「患者」という用語は、重症感染症または敗血症のリスクがあるヒトおよび非ヒト哺乳動物の両方を含む。しばしば、患者は、手術を受けたヒトまたは動物である。
【0035】
タンパク質発現を測定する任意の適切な手段が使用され得る。典型的に、タンパク質発現は、イムノアッセイを使用して測定されかつ決定される。好ましくは、タンパク質発現は、特定のタンパク質またはポリペプチド配列に向けられた酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)を使用して測定されかつ決定される。タンパク質発現レベルは、ウエスタンブロットアッセイなどの免疫ブロットアッセイ、質量分析、エリスポットまたはフローサイトメトリー、および免疫組織化学的検査を使用しても測定し、かつ決定することができる。
【0036】
ヌクレオチド発現を測定する任意の適切な手段を使用して、DLL1の発現レベルを測定することができる。例えば、発現は、マイクロアレイ分析、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、ノーザンブロット、サザンブロット、または遺伝子発現の連続分析(SAGE)を行うことによって測定され得る。
【0037】
重症感染症は、特に回避的な医学的状態であり、感染症に対する免疫応答の調節不全によって誘起される生命を脅かす臓器不全につながり得る。重症感染症の例は、敗血症、肺炎、髄膜炎である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】ウエスタンブロットを示す図である。健康なドナーの血液からCD14
+単球を分離し、インビトロで1×10
6細菌/mL(大腸菌、緑膿菌、肺炎桿菌、大便連鎖球菌)に感染させるか、100ng/mLのリポ多糖(LPS)で刺激した。2時間後、細菌をゲンタマイシンで殺した。対照細胞(-)は、未処理のままにした。翌日、細胞溶解物を作製した。ウエスタンブロット分析に関して、等量のタンパク質溶解物をブロットし、DLL1またはアクチン(ローディング対照)に対する抗体でプローブした。
【
図2】LPS(n=16)またはNaCl(n=15、対照群)を注射(腹腔内)した12週齢マウスからのELISA結果を示す図である。注射の24時間後に血液試料を採取し、マウスDLL-1 ELISAにより血漿濃度の定量を実施した(p≦0.0001、マン・ウィットニーU検定)。
【
図3】敗血症症状の最初の特定直後(t0)、24時間後(t24)、48時間後(t48)、168時間後(t168)に採取した敗血症患者の血漿試料(n=50)からの(A)DLL-1または(B)DLL-4の発現レベルのELISA分析、ならびに健康なドナー(健康、n=20)および腹部手術後の対照患者(手術後48時間(「OP t2」、n=20)からの血漿試料からのELISA結果を示す図である。
***p≦0.0001、マン・ウィットニーU検定。
【
図4】(A)t0時の敗血症患者対対照患者の白血球、(B)t0時の敗血症患者対対照患者のCRPレベル、C)t0時の敗血症患者対対照患者のDLL-1レベル、D)t0時の敗血症患者対健康な志願者のDLL-1レベル、E)t0時の敗血症患者対対照患者のDLL-4レベル、F)t0時の敗血症患者対健康な志願者のDLL-4レベルのROC分析を示す図である。AUC=曲線下面積。
【
図5】3つの独立した臨床研究(コホート1(A)、コホート2(B)、コホート3(C)、さらなる研究詳細に関しては、実施例4を参照されたい)からの敗血症患者(「敗血症」、コホート1:n=30、コホート2:n=50、コホート3:n=100)、大規模な内臓手術後の対照患者(「手術後」、コホート1:n=30、コホート2:n=20)、健康な対象(「健康」、コホート1:n=30、コホート2:n=20)からの血漿試料からのDLL-1タンパク質レベルのELISA分析を示す図である。
***p≦0.0001、マンホイットニーU検定。
【
図6】(A)研究包含後(臨床症状の発症後24時間以内で最新)すぐに(「初期」)、24時間(「24h」)、および48時間(「48h」)で採取された重度の外傷後の患者コホート(n=38)からの血漿試料からのDLL-1タンパク質レベルのELISA分析を示す図である。同じものを(B)体外循環下で心臓手術を受けた患者コホート(n=25)に関して示す。タンパク質レベルを手術前(「手術前」)、体外循環の4時間後(「ECC後4h」)、および体外循環の24時間後(「ECC後24h」)に関して示す。これらの患者コホートは、どの時点でも感染の徴候を示さなかった。
【
図7】血漿試料からのDLL-1タンパク質レベルのROC分析を示す図である(敗血症患者:n=327、対照:n=377)。AUC=曲線下面積。
【
図8】健康なドナーの血液から単離され、100ng/ml LPSで刺激された、または10
8大腸菌/10
6単球に感染させられたCD14
+単球を示す図である。2時間後、細菌をゲンタマイシンで殺した。対照細胞(-)は、未処理のままにした。翌日、細胞溶解物を作製した。ウエスタンブロット分析に関して、等量のタンパク質溶解物をブロットし、DLL1またはアクチン(ローディング対照)に対する抗体でプローブした。
【0039】
以下の例は、特にある実施形態および図を参照して本発明をさらに説明するのに役立つが、これらは、本開示を限定することを意図するものではない。
【0040】
実施例
実施例1-デルタ様リガンド1は、インビトロで細菌感染症を検出する
この例は、ノッチリガンドDLL1が敗血症患者において上方制御され、したがって、潜在的なバイオマーカーとして使用され得るかどうかを確認することを目的とした。敗血症関連細菌を有するインビトロ感染症モデルを使用する。実験装備において、我々は、健康なドナーからの血液由来の単球に異なるグラム陰性細菌(大腸菌、緑膿菌、肺炎桿菌)およびグラム陽性細菌(大便連鎖球菌)を2時間感染させ、その後、抗生物質で細菌を殺した。さらに、細胞を、血流中を循環するときに敗血症性ショックを引き起こし得るグラム陰性細胞壁の成分であるTLR4アゴニストリポ多糖(LPS)で刺激した。感染細胞およびLPS刺激細胞を終夜インキュベートした後、DLL1の検出のためのウエスタンブロット分析のために溶解物を作製した。実験詳細を以下に説明する。
【0041】
細胞単離および培養-末梢血由来単核細胞を、密度勾配遠心分離(Biocoll分離溶液、1.077g/ml、Biochrom AG、Berlin、Germany)を用いて、健康なドナーからの新鮮血またはバフィーコートから分離した。細胞をPBSで3回洗浄し、CD14+磁気標識細胞をautoMACSセパレーター(autoMACS、プログラム:possel、Miltenyi Biotec、Bergisch Gladbach、Germany)を介して陽性に選択し、5%CO2の存在下で加湿雰囲気で37°Cで100IU/mLのペニシリン、10%の熱不活性化ウシ胎仔血清(FCS、Promocell、Heidelberg、Germany)を含有する100μg/mLのストレプトマイシンで補充した。
【0042】
細菌培養-大腸菌、緑膿菌、肺炎桿菌および大便連鎖球菌を、加湿雰囲気中、5%CO2、37℃で終夜別々に培養した。翌日、各培養物からの1つのクローンをトリプトンソイブイヨン培地に移し、37℃での一定の撹拌下での2時間後、細菌懸濁液を吸収測定により108/mL RPMIの濃度に調整した。
【0043】
インビトロ感染-1×106のソートされたCD14+単球を1mL RPMI/10%FCSにおける24ウェルプレート形式で蒔いた。細胞を1×106細菌/mLに感染させるか、またはtoll様受容体4(TLR4)アゴニストリポ多糖(100ng/ml LPS)で刺激した。2時間後、100ng/mLのゲンタマイシン(PAA Laboratories、Inc)を細菌培養物に添加して、細菌を殺した。
【0044】
感染細胞およびLPS刺激細胞を終夜インキュベートした後、細胞溶解物を作製し、対照としてアクチンを使用してウエスタンブロット分析を行った。
【0045】
ウエスタンブロットアッセイ-2×106細胞をプロテアーゼ阻害剤(cOmpleteTM、Roche、Mannheim、Germany)およびホスファターゼ阻害剤(PhosSTOPTM、Roche)を含有するRIPA溶解緩衝液に溶解した。次いで、細胞溶解物を10%SDS-PAGEによって分離し、ニトロセルロース膜(Whatman Protranニトロセルロース膜、neoLab、Heidelberg、Germany)に電気泳動で転写した。ブロッキング(TBS/0.05%Tween-20/5%BSA)および洗浄(TBS/0.05%Tween)ステップの後、DLL-1およびベータアクチン(Cell Signaling Technology)に対する抗体を用いた免疫ブロット。検出を化学発光により強化した(ECL、Perkin Elmer、Groningen、Netherlands)。
【0046】
図1は、デルタ様リガンド1タンパク質がすべてのLPS刺激および細菌感染単球において高度に検出可能であるが、対照細胞においては検出可能ではないことを示している。したがって、デルタ様リガンド1タンパク質は、グラム陽性病因およびグラム陰性病因の両方の細胞感染症を検出するのに適している。
【0047】
実施例2-デルタ様リガンド1は、マウス敗血症モデルにおいて上方制御される
活性化されたDLL1がインビトロ細菌感染単球において高度に豊富であることが分かったため、ノッチリガンドの挙動をマウスエンドトキシン敗血症モデルにおいて試験した。LPS(正確には、LPSの脂質部分)は、エンドトキシンとも称され、敗血症の動物モデルにおいて一般的に使用される。重篤な患者では、血清エンドトキシンの増加した濃度が敗血症の発症、疾患の重症度、および死亡率と関連している。エンドトキシンがヒト敗血症の病因における重要な役割を果たすという理論は、抗生物質療法が死んだ細菌からの大量のエンドトキシンの突然の放出、および状態の悪化につながり得るという観察によって支持されている。ここでは、12週齢の雄マウスを実験目的のために使用した。
【0048】
12週齢の雄マウスに、LPSの脂質部分(n=16)またはNaCl(n=15、対照として)を腹腔内注射した。24時間後、血液を採取した。無細胞上清を回収し、標準プロトコルに従って市販のELISAアッセイ(abcam)を使用して、マウスデルタ様リガンド1タンパク質のレベルに関して分析した。
【0049】
図2は、デルタ様リガンド1タンパク質がLPS感染マウスの血液において対照マウスの血液と比較して上昇していることを示している。DLL1は、マウス敗血症モデルにおいて上方制御されている。したがって、デルタ様リガンド1タンパク質は、敗血症のインビボ動物モデルの血液においてLPSに関連する感染症を検出するのに適している。
【0050】
実施例3-デルタ様リガンド1は、敗血症患者において上方制御される
50人の患者を研究に含め、全員が、腹部手術後に重度の敗血症の徴候を示した。敗血症をSurviving Sepsis Campaignの基準に従って定義した。最低18歳の非妊娠患者のみを含めた。さらなる除外基準は、自己免疫疾患を含めた。包含後、血液試料を敗血症の最初の徴候の同定後(「t0」)、24時間後(「t24」)、48時間後(「t48」)、および168時間後(「t168」)に敗血症患者から直接採取した。
【0051】
腹部手術を受けたが敗血症の徴候を示さなかった20人の対照患者(「OP t2」)については、手術の48時間後に採血した。20人の健康な志願者(「健康」)を非手術対照として採用し、採血を1回行った。
【0052】
血漿を、標準プロトコルに従って、市販のELISAアッセイ(DLL1-RayBio(登録商標)、DLL4-biocat)を使用して、ヒトデルタ様リガンド1タンパク質および加えてヒトデルタ様リガンド4タンパク質のレベルに関して分析した。タンパク質のレベルをマン・ウィットニーU検定を使用して統計的に分析した。
【0053】
図3Aは、デルタ様リガンド1タンパク質が、健康な対照および腹部手術を受けたが敗血症の徴候を示さなかった患者の両方と比較して、敗血症と診断された患者の血液において上昇していることを示している。
【0054】
図3Bは、デルタ様リガンド4タンパク質が、健康な対照および腹部手術を受けた非感染患者の両方と比較して、敗血症と診断された患者の血液において上昇していないか、または有意に上昇していないことを示している。
【0055】
したがって、デルタ様リガンド1タンパク質は、腹部手術後の患者の血液における敗血症の存在を検出するのに、および感染した患者を健康な対照および非感染患者の両方から区別するのに適しているが、密接に関連するデルタ様リガンド4タンパク質は、適していない。
【0056】
デルタ様リガンド1タンパク質およびデルタ様リガンド4タンパク質に関する収集されたデータを、受信者動作特性(ROC)曲線を使用して分析した。ROC曲線下面積(AUC)を計算し、データを白血球数およびCRPの確立された臨床的に関連するマーカーと比較した。詳細には、ROC曲線tO対Op t2の曲線下面積(AUC)は、白血球に関して0.511(カットオフ20.73/nl)(
図4A)、CRPに関して0.795(カットオフ175.1mg/ml)であった(
図4B)。DLL1敗血症tO対OP t2のAUCは、0.991(カットオフ36331pg/ml)および1.0(カットオフ25269pg/ml)敗血症tO対健康であった。したがって、DLL-1による感染の予測は、日常的に使用されるバイオマーカーCRPおよび白血球数よりもはるかに信頼性が高い。DLL4 ROC分析のAUCは、OP t2(
図4E)と比較すると0,696(カットオフ1084pg/ml)であり、健康な対照(
図4F)と比較すると0,655(カットオフ639.3pg/ml)であった。
【0057】
実施例4-デルタ様リガンド1は、敗血症患者において上方制御される
さまざまな研究内で収集された血漿試料を、デルタ様リガンド1(DLL1)の濃度に関してELISAによって二次的に分析した。全体として、敗血症を有する成人患者180人(
図5における「敗血症」を参照されたい)を、スキーム:「[German Clinical Trials Register reference number]/[ethics vote reference number](responsible committee)」を使用して以下に概説する3つの独立したコホートから分析した。
-コホート1:[DRKS00012446]/[S-200/2017](Heidelberg、Germany)、n=30(
図5Aを参照されたい)
-コホート2:[DRKS00005463]/[S-097/2013](Heidelberg、Germany)、n=50(
図5Bを参照されたい)。
-コホート3:[DRKS00008090]/[S-247/2014](Heidelberg、Germany)、n=100(
図5Cを参照されたい)。
【0058】
試料を、3つのコホートすべて関して研究包含時(「初期」)に、ならびにコホート1および2に関して研究包含後24時間(「24h」)および48時間(「48h」)に採取した。すべての患者を、敗血症-2(臨床的に感染症が疑われるまたは明らかになった感染症と組み合わせた2≧SIRS基準、コホート1および2)または敗血症-3(2≧ポイントのSOFAスコアの変化および臨床的に感染症が疑われるまたは明らかになった感染症、コホート3)コンセンサス基準のいずれかに従って採用した。
【0059】
さらに、コホート1および2は、研究中のどの時点でも感染症の徴候を示さなかった広範な内臓手術後の患者(
図5における「手術後」を参照されたい、コホート1:n=30、コホート2:n=20)および健康な志願者(「健康」、コホート1:n=30、コホート2:n=20)を登録した。
【0060】
コホート2は、実施例3で記載したものと同じコホートに相当する。したがって、
図5Bにおけるデータ値は、
図3Aにおけるデータ値と同一である。
【0061】
さらなる対照は、重度の外傷後の38人の患者のコホート([DRKS00010991]/[164/14](Giessen、Germany)、
図6Aを参照されたい)および体外循環下で心臓手術に供された25人の患者のコホート([S-112/2018](Heidelberg、Germany)、
図6Bを参照されたい)を含んだ。
【0062】
GraphPad Prism(バージョン6.0、GraphPad Software Inc.)を用いてデータ分析を行った。視覚化には散布図を使用した。群比較のために、ノンパラメトリック・マン・ウィットニー・U検定を使用し、p値<0.05を有意であると想定した。****は、p値<0.0001を示す。
【0063】
DLL1の診断値の評価のために、敗血症を有する患者からのすべての試料(すべての時点、180人の患者からのn=327試料)を組み合わせ、ROC分析を使用して、対照群のすべての試料(すべての時点、n=377試料、113人の対照患者からの327の試料および50人の健康な志願者からの50の試料)と比較した。最適なカットオフをYoudenインデックス手順((感度+特異度)-100)によって計算した。
【0064】
上述の組み合わせたROC分析において使用したそれぞれ327(敗血症)試料および377(対照)試料の数は、観察期間にわたる患者の喪失の結果である(主に、敗血症を有する患者の死亡および手術または重度の外傷後の患者の退院による)。試料番号の詳細は、次のとおりである。
コホート1
敗血症:30/30/27(初期/24h/48h)
手術後:30/29/28(初期/24h/48h)
健康:30
コホート2
敗血症:50/46/44(初期/24h/48h)
手術後:20/20/20(初期/24h/48h)
健康:20
コホート3
敗血症:100(初期)
重度の外傷
38/36/31(初期/24h/48h)
心臓手術
25/25/25(手術前/ECC後6h/24h)
【0065】
採用後、初期には、コホート1、2、および3における敗血症を有する患者の平均血漿濃度は、それぞれ60,292pg/ml(95%CI:47,820-72,765、n=30)、106,126pg/ml(95%CI:90,102-122,149、n=50)および56,064pg/ml(95%CI:49,494-62,634、n=100)であった(
図5AからCを参照されたい)。コホート1および2におけるt=24hでの敗血症を有する患者の平均血漿濃度は、それぞれ、53,027pg/ml(95%CI:41,824-64,229、n=30)および104,944pg/ml(95%CI:89,786-120,101、n=46)であった。コホート1および2におけるt=48hでの敗血症を有する患者の平均血漿濃度は、それぞれ、49,485pg/ml(95%CI:39,766-59,205、n=27)および88,999pg/ml(95%CI:75,490-102,508、n=44)であった。レベルは、手術後の相当する時点で敗血症患者と対照(すなわち、対照患者および健康な対象)間で高度に有意に異なった。
【0066】
対照外傷患者(
図5Aおよび5Bにおける「手術後」および
図6Aにおけるすべてのデータを参照されたい)、および心臓手術前後の患者(
図6Bを参照されたい)のコホートのDLL1濃度は、測定したすべての時点で敗血症を有する患者と比較して著しく低かった。
【0067】
t=初期、t=24h、t=48hでのコホート1における対照外科患者(「手術後」)の平均血漿濃度は、それぞれ、14,193pg/ml(95%CI:12,385-16,001、n=30)、19,550pg/ml(95%CI:14,536-24,565、n=29)、および17,721pg/ml(95%CI:15,498-19,944、n=28)であった。
【0068】
t=初期、t=24h、t=48hでのコホート2における対照外科患者(「手術後」)の平均血漿濃度は、それぞれ、13,548pg/ml(95%CI:11,275-15,821、n=20)、16,187pg/ml(95%CI:13,409-18,964、n=20)、および19,287pg/ml(95%CI:13,618-24,955、n=20)であった。
【0069】
t=初期、t=24h、t=48hでの
図6Aにおける対照重度の外傷患者の平均血漿濃度は、それぞれ、19,119pg/ml(95%CI:16,892-21,345、n=38)、19,224pg/ml(95%CI:17,184-21,263、n=36)、および20,409pg/ml(95%CI:16,351-24,468、n=31)であった。
【0070】
t=初期、t=24h、t=48hでの
図6Bにおける対照心臓手術患者の平均血漿濃度は、それぞれ、13,846pg/ml(95%CI:10,633-17,059、n=25)、14,603pg/ml(95%CI:11,356-17,850、n=25)、および22,194pg/ml(95%CI:18,497-25,891、n=25)であった。
【0071】
健康な対照のDLL1濃度(
図5Aおよび5Bにおける「健康」を参照されたい)は、測定したすべての時点で敗血症を有する患者と比較して著しく低かった。健康な対照と対照患者間に有意差はなかった。コホート1および2において測定された健康な対照の平均血漿濃度は、それぞれ、11.928pg/ml(95%CI:10,645-13,211、n=30)、および16,737pg/ml(95%CI:14,542-18,932、n=20)であった。
【0072】
敗血症(n=327)または対照(n=377)に群分けされたすべての利用可能な試料の受信者動作者曲線(ROC)分析により、0.9555の曲線下面積(AUC)が得られた(95%CI:0.9401-0.9710、
図7を参照されたい)。29,538pg/mlの最適な診断カットオフが見出され、88.7%の感度、93.4%の特異性であった。
【0073】
実施例5-デルタ様リガンド1切断産物は、インビトロで細菌感染症を検出する
その受容体への結合時に、膜貫通タンパク質DLL1が切断される。細胞外ドメインは、周囲に放出される。膜貫通(TM)ドメインおよび細胞内(IC)ドメイン(TMIC-DLL1)は、細胞内で連結されたままである。さらなる切断イベントは、核に移動することになるIC-DLL1を放出し得る。TMIC-DLL1を使用して感染症を明らかにできるかどうかを調査するために、切断産物を、ウエスタンブロット分析によりインビトロで感染した初代単球において検出した。
【0074】
健康なドナーの血液から単離された初代単球を、グラム陰性大腸菌(E.coli)に感染させるか、またはTLR4シグナリングを活性化するグラムグラム陰性外膜の主成分であるLPSで刺激した。細菌を、感染後2時間でゲンタマイシンによって殺した。翌日、感染/LPS処理細胞を溶解し、分析した。
【0075】
初代ヒト単球の単離-PBMCを、密度勾配遠心分離(Biocoll分離溶液、1.077g/ml、Biochrom AG、Berlin、Germany)によって、健康なドナーからの新鮮血またはバフィーコートから単離した。CD14+細胞をビーズ(MiltenyiBiotec)で磁気標識し、autoMACSセパレーター(autoMACS、プログラム:possel、Miltenyi Biotec、Bergisch Gladbach、Germany)によって2回選択した。精製単球(1×106細胞/ml)を、37°C、5%CO2の存在下、加湿雰囲気で、100IU/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、および10%の熱不活化ウシ胎仔血清(Promocell、Heidelberg、Germany)を補充したRPMI 1640(Sigma-Aldrich、Taufkirchen、Germany)中で培養した。
【0076】
細菌培養物-大腸菌(ATCC25922)を加湿雰囲気で5%CO2、37°Cのコロンビア血液ヒツジ寒天上で終夜培養した。翌日、各培養物の1つのコロニーをTSB(トリプトンソイブイヨン)培地に移し、対数期の中間部まで200rpm/37°Cで絶えず振盪培養した。
【0077】
インビトロ感染-1×106のソートされたCD14+単球を、1ml RPMI/10%FCSに24ウェルプレート形式で蒔いた。細胞を108大腸菌/106単球に感染させた。2時間後、ゲンタマイシンを100ng/mlの最終濃度まで添加して、細菌を殺した。翌日、細胞を溶解し、分析した。
【0078】
ウエスタンブロットアッセイ-2×106細胞を回収し、PBSで洗浄した。全細胞溶解物については、単球を50μl RIPA緩衝液(50mM Tris-HCl、pH7.4、1%Igepal、0.25%デオキシコール酸ナトリウム、150mM NaCl、1mM EDTA、1mM PMSF、1mg/ml各アプロチニン、ロイペプチン、およびペプスタチン、1mM Na3VO4、ならびに1mM NaF)中で溶解した。試料をボルテックスし、氷上で30分間インキュベートした。次いで、溶解物を14,000×gで20分間の遠心分離により清澄化した。等量の溶解物をSDS-PAGEによる分離に使用した(12.5%)。ニトロセルロース膜上への半乾燥移行後(Whatman Protranニトロセルロース膜、neoLab、Heidelberg、Germany)、後者を、TBS/0.1%(v/v)Tween-20中の5%(w/v)BSAでRTで2時間ブロックした。探索を、抗体:抗DLL1、抗βアクチン(Cell Signaling Technology、Danvers、MA、USA)で行った。検出は、強化された化学発光に基づいた(ECL、Perkin Elmer、Groningen、Netherlands)。
【0079】
図8は、デルタ様リガンド1タンパク質のTMIC(細胞内ドメインに連結した膜貫通ドメイン)切断産物が、LPS刺激および大腸菌感染単球において高度に検出可能であるが、対照細胞においては検出可能ではないことを示している。したがって、膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインDLL1切断産物は、感染症、特にグラム陰性病因のものを検出するのに適している。
【配列表】