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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-23
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】水位変動対応係留システム
(51)【国際特許分類】
   B63B 22/02 20060101AFI20220111BHJP
   B63B 21/20 20060101ALI20220111BHJP
   B63B 22/18 20060101ALI20220111BHJP
   B63B 21/50 20060101ALI20220111BHJP
   B63B 21/00 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
B63B22/02 A
B63B21/20 B
B63B22/18
B63B21/50 A
B63B21/00 C
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020202439
(22)【出願日】2020-12-07
(62)【分割の表示】P 2016078153の分割
【原出願日】2016-04-08
(65)【公開番号】P2021035837
(43)【公開日】2021-03-04
【審査請求日】2020-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】井上 俊司
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-306862(JP,A)
【文献】実開昭56-158394(JP,U)
【文献】実開平06-032295(JP,U)
【文献】独国特許出願公開第102010023330(DE,A1)
【文献】米国特許第03775787(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 22/02
B63B 21/20
B63B 22/18
B63B 21/50
B63B 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動フロートを有した並進動揺型の波力発電装置に用いる水面に浮かんだスパー式の浮体と、スパー式の前記浮体に所定の喫水を付与する水中に設けられた荷重手段と 、前記荷重手段の荷重を梃子を利用してスパー式の前記浮体に作用させる梃子手段と、前記梃子手段を前記水中に係留する係留手段とを備え、水位の変動に対応して前記所定の喫水を維持することを特徴とする水位変動対応係留システム。
【請求項2】
前記荷重手段は、水よりも比重が小さい水中浮体であることを特徴とする請求項1に記載の水位変動対応係留システム。
【請求項3】
前記梃子手段の一端部が前記浮体に係止され、前記梃子手段の他端部が前記水中浮体に係止され、前記梃子手段の中間部に前記係留手段が係止されていることを特徴とする請求項2に記載の水位変動対応係留システム。
【請求項4】
前記梃子手段の前記係留手段を係止する前記中間部は、前記梃子手段の支点部であることを特徴とする請求項3に記載の水位変動対応係留システム。
【請求項5】
前記荷重手段は、水よりも比重が大きい重錘であることを特徴とする請求項1に記載の水位変動対応係留システム。
【請求項6】
前記梃子手段の一端部に前記係留手段が係止され、前記梃子手段の中間部が前記浮体に係止され、前記梃子手段の他端部に前記重錘が係止されていることを特徴とする請求項5に記載の水位変動対応係留システム。
【請求項7】
前記梃子手段の前記係留手段を係止する前記一端部は、前記梃子手段の支点部であることを特徴とする請求項6に記載の水位変動対応係留システム。
【請求項8】
前記梃子手段の比重が、水の比重よりも小さいことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の水位変動対応係留システム。
【請求項9】
前記梃子手段に、波浪による前記浮体の動揺を低減する減揺手段を有したことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の水位変動対応係留システム。
【請求項10】
前記減揺手段が、前記梃子手段が動く際の周囲の水からの抵抗力を利用していることを特徴とする請求項9に記載の水位変動対応係留システム。
【請求項11】
前記減揺手段として、前記梃子手段を側面よりも上面及び下面が広い平板構造に形成して減揺機能を持たせたことを特徴とする請求項10に記載の水位変動対応係留システム。
【請求項12】
前記減揺手段として、前記梃子手段の一部または全部を網構造に形成して減揺機能を持たせたことを特徴とする請求項10又は請求項11に記載の水位変動対応係留システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水面に浮かべた浮体に関し、波浪などによる短周期の水位変動に伴う浮体動揺は抑制し、潮位等の長周期の水位変動に対しては浮体の喫水を一定に保つ水位変動対応係留システムに関する。
【背景技術】
【0002】
図4(a)は従来の波力発電装置の概略図である。実線は高水位Aの状態を示し、破線は高水位Aよりも下がった低水位Bの状態を示している。図4(a)に示すように、並進動揺型の波力発電装置においては、係留索110に係留されたスパー浮体(心棒)120と可動フロート130との相対動揺によって発電するが、発電機のストロークには限界があるため、潮位変動が大きな海域では、潮位変化分でストロークを使ってしまい、有効な波力発電が出来ない。
また、図4(b)は従来の緊張係留された浮体の概略図である。浮体220が浮桟橋である場合には、水底Cに固定された係留索210で緊張係留されていることによって、波浪による動揺は抑えられるが、乾舷は潮位に応じて変化するので、特に小型船にあっては、浮桟橋から小型船への乗降高さが変化し、乗降に困難が生じる可能性が有る。
したがって、水位が変動しても浮体の喫水を一定に保ち、また、波浪などによる短周期の水位変動に伴う浮体動揺を抑制する係留システムが望まれている。
【0003】
ここで、特許文献1には、油圧シリンダー内のシリンダー軸を上方へ押す油圧を一定に保ち、アンカーに下端を連結したチェンの上端にシリンダー軸を取り付けることによって、潮位差に関係なく浮体の喫水を一定に保つことが開示されている。
また、特許文献2には、地盤に固定された支持体に回転体を取り付け、回転体に係留部材を通し、係留部材の上端部に水面浮体を係留し、係留部材の下端部に移動重錘または引っ張り浮体を取り付け、水面浮体と引っ張り浮体または移動重錘の均衡状態を保つことによって、水面浮体の喫水線を一定に保つことが開示されている。
また、特許文献3には、支持水槽内にピストン本体を浮かべ、ピストン本体の両側に連接された浮きタンクに浮体を浮かべ、浮きタンクと支持水槽との間で液体の移動を可能とすることによって、潮位が変動しても海面に設置された浮橋等の水位を一定に保つことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実願昭47-090943号(実開昭49-047589号)のマイクロフィルム
【文献】特開昭58-199282号公報
【文献】特開2004-231169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、浮体に油圧シリンダーと油圧ユニットを組み込む必要があり、動力が必要で装置が大掛かりになってしまう。
また、特許文献2では、回転体や滑車を用いるものであるため、回転体や滑車が貝などの海生生物の付着等によって固着してしまうと正常に動作しなくなるおそれがある。また、装置を地盤(海底)に設置する必要があるため、設置作業が容易ではない。
また、特許文献3では、支持水槽、ピストン本体、浮きタンク、及び浮体等を配置する必要があり、装置が大掛かりになってしまう。また、支持水槽を水底上または支持杭上に設ける必要があるため、設置工事が容易ではない。
【0006】
そこで本発明は、水面に浮かべた浮体に関し、潮位等の長周期の水位変動に対して浮体の喫水を一定に保ち、また、波浪などによる短周期の水位変動に伴う浮体動揺を抑制する水位変動対応係留システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載に対応した水位変動対応係留システムにおいては、可動フロートを有した並進動揺型の波力発電装置に用いる水面に浮かんだスパー式の浮体と、スパー式の浮体に所定の喫水を付与する水中に設けられた荷重手段と 、荷重手段の荷重を梃子を利用してスパー式の浮体に作用させる梃子手段と、梃子手段を水中に係留する係留手段とを備え、水位の変動に対応して所定の喫水を維持することを特徴とする。
請求項1に記載の本発明によれば、動力や複雑な機構を用いずに、水位が変動しても波力発電装置に用いるスパー式の浮体の喫水を一定に保つことができる。また、梃子手段を用いるため倍力化が可能で荷重手段が小型で済み、例えば支点部に海生生物の付着等による固着が発生しても、所定の喫水を付与する機能に悪影響を及ぼさない。
【0008】
請求項2記載の本発明は、荷重手段は、水よりも比重が小さい水中浮体であることを特徴とする。
請求項2に記載の本発明によれば、水中浮体の荷重(浮力)を、梃子手段を利用して浮体に作用させることで、浮体の喫水を一定に保つことができる。また、水中浮体を梃子手段の上方に設置することが可能なため、水深の浅い海域への設置が容易にできる。
【0009】
請求項3記載の本発明は、梃子手段の一端部が浮体に係止され、梃子手段の他端部が水中浮体に係止され、梃子手段の中間部に係留手段が係止されていることを特徴とする。
請求項3に記載の本発明によれば、梃子手段の他端部に係止された水中浮体の荷重(浮力)を、梃子手段の一端部に係止された浮体に作用させることで、浮体の喫水を一定に保つことができる。
【0010】
請求項4記載の本発明は、梃子手段の係留手段を係止する中間部は、梃子手段の支点部であることを特徴とする。
請求項4に記載の本発明によれば、梃子手段の中間部を支点として、梃子手段の他端部に係止された水中浮体の荷重(浮力)を、梃子手段の一端部に係止された浮体に作用させることができる。
【0011】
請求項5記載の本発明は、荷重手段は、水よりも比重が大きい重錘であることを特徴とする。
請求項5に記載の本発明によれば、重錘の重量を、梃子手段を利用して浮体に作用させることで、浮体の喫水を一定に保つことができる。また、重錘を梃子手段から垂下して設置することが可能であり海面漂流物等の影響を受けない。
【0012】
請求項6記載の本発明は、梃子手段の一端部に係留手段が係止され、梃子手段の中間部が浮体に係止され、梃子手段の他端部に重錘が係止されていることを特徴とする。
請求項6に記載の本発明によれば、梃子手段の他端部に係止された重錘の重量を、梃子手段の中間部に係止された浮体に作用させることで、浮体の喫水を一定に保つことができる。
【0013】
請求項7記載の本発明は、梃子手段の係留手段を係止する一端部は、梃子手段の支点部であることを特徴とする。
請求項7に記載の本発明によれば、梃子手段の一端部を支点として、梃子手段の他端部に係止された重錘の重量を、梃子手段の中間部に係止された浮体に作用させることができる。
【0014】
請求項8記載の本発明は、梃子手段の比重が、水の比重よりも小さいことを特徴とする。
請求項8に記載の本発明によれば、梃子手段に荷重手段の機能を持たせることができる。また、梃子手段が軽量となり取扱いが容易となる。
【0015】
請求項9記載の本発明は、梃子手段に、波浪による浮体の動揺を低減する減揺手段を有したことを特徴とする。
請求項9に記載の本発明によれば、波浪などによる浮体の短周期の水位変動に伴う動揺を抑制できる。また、梃子手段に減揺手段を有しているため倍力化が可能であり、減揺手段が小型で済む。
【0016】
請求項10記載の本発明は、減揺手段が、梃子手段が動く際の周囲の水からの抵抗力を利用していることを特徴とする。
請求項10に記載の本発明によれば、水の抵抗力を利用して、波浪などによる浮体の短周期の水位変動に伴う動揺を抑制できる。
【0017】
請求項11記載の本発明は、減揺手段として、梃子手段を側面よりも上面及び下面が広い平板構造に形成して減揺機能を持たせたことを特徴とする。
請求項11に記載の本発明によれば、梃子手段に減揺機能を持たせることによって、波浪などによる浮体の短周期の水位変動に伴う動揺を抑制できる。
【0018】
請求項12に記載の本発明は、減揺手段として、梃子手段の一部または全部を網構造に形成して減揺機能を持たせたことを特徴とする。
請求項12に記載の本発明によれば、波浪などによる浮体の短周期の水位変動に伴う動揺を更に抑制できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の水位変動対応係留システムによれば、動力や複雑な機構を用いずに、水位が変動しても波力発電装置に用いるスパー式の浮体の喫水を一定に保つことができる。また、梃子手段を用いるため倍力化が可能で荷重手段が小型で済み、例えば支点部に海生生物の付着等による固着が発生しても、所定の喫水を付与する機能に悪影響を及ぼさない。
【0020】
また、荷重手段は、水よりも比重が小さい水中浮体である場合には、水中浮体の荷重(浮力)を、梃子手段を利用して浮体に作用させることで、浮体の喫水を一定に保つことができる。また、水中浮体を梃子手段の上方に設置することが可能なため、水深の浅い海域への設置が容易にできる。
【0021】
また、梃子手段の一端部が浮体に係止され、梃子手段の他端部が水中浮体に係止され、梃子手段の中間部に係留手段が係止されている場合には、梃子手段の他端部に係止された水中浮体の荷重(浮力)を、梃子手段の一端部に係止された浮体に作用させることで、浮体の喫水を一定に保つことができる。
【0022】
また、梃子手段の係留手段を係止する中間部は、梃子手段の支点部である場合には、梃子手段の中間部を支点として、梃子手段の他端部に係止された水中浮体の荷重(浮力)を、梃子手段の一端部に係止された浮体に作用させることができる。
【0023】
また、荷重手段は、水よりも比重が大きい重錘である場合には、重錘の重量を、梃子手段を利用して浮体に作用させることで、浮体の喫水を一定に保つことができる。また、重錘を梃子手段から垂下して設置することが可能であり海面漂流物等の影響を受けない。
【0024】
また、梃子手段の一端部に係留手段が係止され、梃子手段の中間部が浮体に係止され、梃子手段の他端部に重錘が係止されている場合には、梃子手段の他端部に係止された重錘の重量を、梃子手段の中間部に係止された浮体に作用させることで、浮体の喫水を一定に保つことができる。
【0025】
また、梃子手段の係留手段を係止する一端部は、梃子手段の支点部である場合には、梃子手段の一端部を支点として、梃子手段の他端部に係止された重錘の重量を、梃子手段の中間部に係止された浮体に作用させることができる。
【0026】
また、梃子手段の比重が、水の比重よりも小さい場合には、梃子手段に荷重手段の機能を持たせることができる。また、梃子手段が軽量となり取扱いが容易となる。
【0027】
また、梃子手段に、波浪による浮体の動揺を低減する減揺手段を有した場合には、波浪などによる浮体の短周期の水位変動に伴う動揺を抑制できる。また、梃子手段に減揺手段を有しているため倍力化が可能であり、減揺手段が小型で済む。
【0028】
また、減揺手段が、梃子手段が動く際の周囲の水からの抵抗力を利用している場合には、水の抵抗力を利用して、波浪などによる浮体の短周期の水位変動に伴う動揺を抑制できる。
【0029】
また、減揺手段として、梃子手段を側面よりも上面及び下面が広い平板構造に形成して減揺機能を持たせた場合には、梃子手段に減揺機能を持たせることによって、波浪などによる浮体の短周期の水位変動に伴う動揺を抑制できる。
【0030】
また、減揺手段として、梃子手段の一部または全部を網構造に形成して減揺機能を持たせた場合には、波浪などによる浮体の短周期の水位変動に伴う動揺を更に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の一実施形態による水位変動対応係留システムの設置状態の概略図
図2】本発明の他の実施形態による水位変動対応係留システムの設置状態の概略図
図3】本発明の更に他の実施形態による水位変動対応係留システムの設置状態の概略図)
図4】(a)従来の波力発電装置、(b)従来の緊張係留された浮体の概略図
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に、本発明の実施形態による水位変動対応係留システムについて説明する。
【0033】
図1は本発明の一実施形態による水位変動対応係留システムの設置状態の概略図である。
水位変動対応係留システムは、水面に浮かんだ浮体10と、水中に設けられ、浮体10に所定の喫水を付与する荷重手段20と、荷重手段20の荷重を梃子を利用して浮体10に作用させる梃子手段30と、梃子手段30を水中に係留する係留手段40とを備える。
なお、図1において、実線は高水位Aの状態を示し、破線は高水位Aよりも下がった低水位Bの状態を示している。
【0034】
本実施形態では、荷重手段20として、水よりも比重が小さい水中浮体20Aを用いている。また、梃子手段30は、中間浮力(中性浮力)の水没浮力体としている。
浮体10と梃子手段30とは、第一接続索51で接続されている。第一接続索51の一端は浮体10に係止され、他端は梃子手段30の一端部30Aに係止されている。
水中浮体20Aと梃子手段30とは、第二接続索52で接続されている。第二接続索52の一端は水中浮体20Aに係止され、他端は梃子手段30の他端部30Bに係止されている。
梃子手段30の中間部30Cには、水底Cに一端が固定された係留手段40の他端が係止されている。係留手段40の他端が係止された中間部30Cは、梃子手段30の支点部となる。
【0035】
梃子手段30は、一端部30Aにおいて浮体10の浮力による上向きの力を受け、他端部30Bにおいて水中浮体20Aの荷重(浮力)による上向きの力を受ける。梃子手段30は、係留手段40の他端が係止された部分又はその近傍を支点として傾斜可能に構成されており、浮体10と水中浮体20Aとが均衡(バランス)する位置で静止する。図1においては、高水位Aのとき、浮体10水中浮体20Aとは、梃子手段30が水平となる位置で均衡している。
水面に浮かんだ浮体10の浮力は喫水によって変動する。これに対して水中に配置された水中浮体20Aの浮力は一定である。したがって、潮位等の長周期の水位変動によって水面が高水位Aから低水位Bまで徐々に低下するときは、水中浮体20Aの浮力が一定であるのに対して浮体10の浮力は徐々に減少しようとするので、梃子手段30は、水中浮体20Aが係止されている他端部30B側が徐々に上昇して傾斜する。浮体10は、他端部30Bが一端部30Aよりも高位となるように梃子手段30が傾斜するにつれて下方に引き下げられるが、第一接続索51にかかる張力は一定のため喫水は常に一定に保たれる。また、潮位等の長周期の水位変動によって水面が低水位Bから高水位Aまで徐々に上昇するときは、水中浮体20Aの浮力が一定であるのに対して浮体10の浮力は徐々に増加しようとするので、傾斜していた梃子手段30が徐々に水平に戻されるが、第一接続索51にかかる張力は一定のため喫水は常に一定に保たれる。
このように、所定の喫水を浮体10に付与する水中浮体20Aの荷重を、梃子手段30の梃子を利用して浮体10に作用させることによって、動力や複雑な機構を用いることなく、水位の変動に対応して所定の喫水を維持することができる。したがって、浮体10を例えば浮桟橋とした場合には、水位が変動しても浮桟橋(浮体10)の喫水を一定に保つことができるため、小型船であっても、利用者が安全かつ容易に乗降できる。また、梃子手段30を用いるため倍力化が可能で荷重手段20が小型で済み、例えば支点部に海生生物の付着等による固着が発生しても、荷重手段20が浮体10に所定の喫水を付与する機能に悪影響を及ぼさない。さらに、水中浮体20Aを梃子手段30の上方に設置することができるため、水深の浅い海域であっても設置が容易である。
【0036】
梃子手段30は、側面30Xよりも上面30Y及び下面30Zが広い平板構造に形成されている。平板構造に形成された梃子手段30は、動く際に周囲の水から抵抗を受けやすく、波浪等により発生する浮体10の短周期の水位変動に伴う動揺に対しては、水の抵抗力を利用した減揺効果によって、従来の緊張係留と同様に、浮体10の動揺を抑制できる。このように、梃子手段30に減揺機能を持たせることで、潮位変動等により水位が変動しても浮体10の喫水を一定に保つことができるとともに、波浪などによる浮体10の短周期の水位変動に伴う動揺を抑制できる。
なお、例えば、梃子手段30のうち水中浮体20Aが係止された他端部30B側のみを平板構造とするなど、梃子手段30の一部を平板構造としてもよい。
また、梃子手段30の一部または全部を網構造に形成してもよい。この場合は、梃子手段30の表面積が増加するため、梃子手段30が動く際の周囲の水からの抵抗力が増し、更に減揺機能を持たせることができる。
また、梃子手段30に、フィンや張り出し部等の減揺手段を付加してもよい。減揺手段は、梃子手段30の全体にわたって設ける必要は無く、例えば、他端部30B側のみに設けてもよい。梃子手段30による倍力化により、他端部30B側のみに設けても減揺手段
として十分に機能可能であり、減揺手段が小型で済む。梃子手段30に減揺手段を設けることによって、更に波浪による浮体10の動揺を低減させることができる。
【0037】
このように、本実施形態による水位変動対応係留システムによれば、波浪などによる浮体10の短周期の水位変動に伴う動揺を抑制しつつ、潮位等により水位が変動しても浮体10の喫水を一定に保つことができる。
なお、梃子手段30は中間浮力を有するものとして説明したが、梃子手段30の比重を水の比重より小さくしてもよい。この場合には、荷重手段20の機能の一部を梃子手段30に持たせることができる。また、梃子手段30が軽量となり、運搬や設置時の取り扱いが容易となる。梃子手段30の比重を水の比重より小さくするには、例えば中空の金属製の構造を用いたり、木材に耐久性を持たせるための表面処理を施した材料を用いること等により実現できる。
【0038】
次に、本発明の他の実施形態による水位変動対応係留システムについて説明する。なお、上記した実施形態と同一機能部材には同一符号を付して説明を省略する。
図2は、本実施形態による水位変動対応係留システムの設置状態の概略図である。
【0039】
本実施形態においては、荷重手段20を、水よりも比重が大きい重錘20Bとしている。
浮体10と梃子手段30とは、第一接続索51で接続されている。第一接続索51の一端は浮体10に係止され、他端は梃子手段30の中間部30Cのうち梃子手段30の中間位置よりも一端部30A寄りに係止されている。
重錘20Bと梃子手段30とは、第二接続索52で接続されている。第二接続索52の一端は重錘20Bに係止され、他端は梃子手段30の他端部30Bに係止されている。
梃子手段30の一端部30Aには、水底Cに一端が固定された係留手段40の他端が接続されている。係留手段40の他端が係止された一端部30Aは、梃子手段30の支点部となる。支点部とは真の支点を含めた支点近傍を含む部位である。
【0040】
梃子手段30は、中間部30Cにおいて浮体10の浮力による上向きの力を受け、他端部30Bにおいて重錘20Bの重量による下向きの力を受ける。梃子手段30は、係留手段40の他端が係止された部分又はその近傍を支点として傾斜可能に構成されており、浮体10と重錘20Bとが均衡する位置で静止する。図2においては、高水位Aのとき、浮体10と重錘20Bとは、梃子手段30が水平となる位置で均衡している。
水面に浮かんだ浮体10の浮力は喫水によって変動する。これに対して水中に配置された重錘20Bの重量は一定である。したがって、潮位等の長周期の水位変動によって水面が高水位Aから低水位Bまで徐々に低下するときは、重錘20Bの重量が一定であるのに対して浮体10の浮力は徐々に減少しようとするので、梃子手段30は、重錘20Bが係止されている他端部30B側が徐々に下降して傾斜する。浮体10は、他端部30Bが一端部30Aよりも低位となるように梃子手段30が傾斜するにつれて下方に引き下げられるが、第一接続索51にかかる張力は一定のため喫水は常に一定に保たれる。また、潮位等の長周期の水位変動によって水面が低水位Bから高水位Aまで徐々に上昇するときは、重錘20Bの浮力が一定であるのに対して浮体10の浮力は徐々に増加しようとするので、傾斜していた梃子手段30が徐々に水平に戻されるが、第一接続索51にかかる張力は一定のため喫水は常に一定に保たれる。
このように、所定の喫水を浮体10に付与する重錘20Bの重量を、梃子手段30の梃子を利用して浮体10に作用させることによって、動力や複雑な機構を用いることなく、水位の変動に対応して所定の喫水を維持することができる。また、重錘20Bを梃子手段30から垂下して設置することができるため、海面漂流物等の影響を受けない。
なお、本実施形態においては、梃子手段30の比重を水の比重より大きくしてもよい。この場合には、荷重手段20の機能の一部を梃子手段30に持たせることになる。梃子手段30の比重を水の比重より大きくするには、一般の金属製の構造を用いたり、金属製の構造にコンクリート材を組み合わせること等により実現できる。梃子手段30による倍力効果により、梃子手段30の比重を水の比重より大きくし、特に他端部30B側を重く構成することによっても重錘20Bの代用が可能である。
【0041】
また、上記実施形態と同様に、梃子手段30に減揺機能を持たせるか、減揺手段を付加することで、波浪などによる浮体10の短周期の水位変動に伴う動揺を抑制できる。
【0042】
次に、本発明の更に他の実施形態による水位変動対応係留システムについて説明する。なお、上記した実施形態と同一機能部材には同一符号を付して説明を省略する。
図3は、本実施形態による水位変動対応係留システムの設置状態の概略図である。
【0043】
本実施形態においては、浮体10を並進動揺型の波力発電装置に用いるスパー浮体(心棒)10Aとし、荷重手段20を水中浮体20Aとしている。スパー浮体10Aの周囲には、円筒形の可動フロート70が配置されている。
スパー浮体10Aと梃子手段30とは、第一接続索51で接続されている。第一接続索51の一端はスパー浮体10Aに係止され、他端は梃子手段30の一端部30Aに係止されている。
水中浮体20Aと梃子手段30とは、第二接続索52で接続されている。第二接続索52の一端は水中浮体20Aに係止され、他端は梃子手段30の他端部30Bに係止されている。
梃子手段30の中間部30Cには、水底Cに一端が固定された係留手段40の他端が係止されている。係留手段40の他端が係止された中間部30Cは、梃子手段30の支点部となる。
また、上記実施形態と同様に、梃子手段30には減揺機能又は減揺手段が付加されている。
【0044】
本実施形態による水位変動対応係留システムは、上記実施形態と同様に、波浪などによるスパー浮体10Aの短周期の水位変動に伴う動揺を抑制しつつ、水位が変動してもスパー浮体10Aの喫水を一定に保つことができる。したがって、発電機のストロークはその全てを波浪による変動に振り向けることが可能となり、有効な波力発電を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の水位変動対応係留システムは、海洋等に設置される並進動揺型の波力発電装置の浮体に利用することができる。
【符号の説明】
【0046】
10 浮体
20 荷重手段
20A 水中浮体
20B 重錘
30 梃子手段
30A 一端部
30B 他端部
30C 中間部
30X 側面
30Y 上面
30Z 下面
40 係留手段
図1
図2
図3
図4