(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-23
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】生分解性放射線検出器による放射線計測システム
(51)【国際特許分類】
G01T 1/169 20060101AFI20220111BHJP
G01T 1/16 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
G01T1/169 A
G01T1/16 A
(21)【出願番号】P 2021067109
(22)【出願日】2021-04-12
【審査請求日】2021-04-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521154947
【氏名又は名称】長川 歩
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】春日 貴章
(72)【発明者】
【氏名】長川 歩
(72)【発明者】
【氏名】高井 直輝
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-113594(JP,A)
【文献】特開2014-113148(JP,A)
【文献】特開2015-175803(JP,A)
【文献】特開2018-027719(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/169
G01T 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線通信機能を有し、空中から投下可能である、3個以上の生分解性放射線検出器と、
GPSを有し、搭載した生分解性放射線検出器を所望の位置に投下する、無人飛行の投下用飛行体と、
GPSを有し、生分解性放射線検出器から放射線量データを受信する、無人飛行のデータ収集用飛行体と、
データ収集用飛行体から取得した放射線量データおよびGPSデータに基づき計測範囲における放射線量分布マップを作成するマップ作成手段と、
を備え
、
前記投下用飛行体は、3個以上の生分解性放射線検出器を収容する着脱自在の収容ケースを備え、当該ケースから生分解性放射線検出器を所望の位置で落下させることができ、
前記データ収集用飛行体は、生分解性放射線検出器から放射線量データを受信する着脱自在のアンテナを備えており、
前記投下用飛行体および前記データ収集用飛行体を、同一のドローンにより構成したことを特徴とする放射線計測システム。
【請求項2】
さらに、前記投下用飛行体および前記データ収集用飛行体に無線通信を介して航路データを送信する手段と、前記データ収集用飛行体から計測データを受信するデータ受信手段と、を備える設定用端末と、
前記投下用飛行体および前記データ収集用飛行体に給電する給電手段と、交換用の前記収容ケースと、を備えるベースキャンプと、を備えることを特徴とする請求項1の放射線計測システム。
【請求項3】
前記マップ作成手段は、前記計測範囲を入力された前記生分解性放射線検出器の個数に基づき3個以上の区画に区分し、各区画に投下された複数個の前記生分解性放射線検出器から回収集した複数の放射線量データに基づき各区画における平均放射線量または最大放射線量を算出し、当該平均放射線量または最大放射線量の多寡に応じて各区分を着色した前記計測範囲の放射線量分布マップを前記設定用端末に表示させることを特徴とする請求項2の放射線計測システム。
【請求項4】
無線通信機能を有し、空中から投下可能である、3個以上の生分解性放射線検出器と、
GPSを有し、搭載した生分解性放射線検出器を所望の位置に投下する、無人飛行の投下用飛行体と、
GPSを有し、生分解性放射線検出器から放射線量データを受信する、無人飛行のデータ収集用飛行体と、
データ収集用飛行体から取得した放射線量データおよびGPSデータに基づき計測範囲における放射線量分布マップを作成するマップ作成手段と、
を備えるシステムであって、
前記生分解性放射線検出器は、生分解性透明シートからなる円錐形の本体部と、生分解性回路素子によって構成されていることを特徴と
する放射線計測システム。
【請求項5】
前記生分解性回路素子は、電源供給する太陽光発電装置と、電圧を増幅する昇圧回路と、放射線の検出に応じて放電パルスを発生させるガス式放射線検出機構と、放電パルスを引き伸ばすプリアンプと、放電パルスの回数を計測する計数回路と、一定周期で計測した放電パルスデータを無線発信する無線発信回路と、を備えている特徴とする請求項4の放射線計測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線量分布マップ作成方法に関し、例えば、投下用ドローンを用いて多数の生分解性放射線検出器を上空から投下し、各落下地点の放射線量を一定時間計測し、生分解性放射線検出器に内蔵された無線発信回路を用いて放射線量データを無線発信し、一定時間経過後に同じ航路を飛行するデータ収集用ドローンに搭載した無線通信用アンテナを用いて放射線量データを収集し、放射線量データとGPSにより取得した位置情報を用いて放射線量分布マップを作成する、放射線漏えい時などの非常時に広範囲の放射線量分布を短時間かつ低コストで計測する放射線計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
2011年3月に発生した福島第一原子力発電所の事故により、大気中に多くの放射性物質が放出された。放出された放射性物質は風雨によって広範囲に拡散し、生物や建物などが汚染した。このような原子力事故が発生した場合、被ばくによる様々な健康影響が懸念されるため、広範囲の放射線量分布を計測し、放射線量分布マップを作成する必要がある。しかし、広範囲の放射線量計測のために線量計を搭載した車や航空機による地道なモニタリングが行われるが、それらによる計測は非常に時間がかかる。加えて、既存の放射線検出器は金属製部品などによって構成されるために使い捨てが難しく、一度の計測に大量に投入することは現実的ではない。
【0003】
また、一度計測に使用した放射線検出器は放射性物質が付着している可能性があるため、長期的な維持管理や計測に使用された放射線検出器の処理作業のために多大なコストが必要である。このように、既存の放射線検出器を用いた広範囲の放射線量の計測方法には多くの問題点が存在し、改善の余地がある。
【0004】
これに対し、本発明では、セルロースナノファイバーによる各種技術を用いている。セルロースナノファイバーで回路素子および配線基板を作成する技術は既に開発されている。セルロースナノファイバー製の回路素子および配線基板はセルロースや鉱物でできているため、数か月で土壌に分解されていく低環境負荷のセンサデバイスを開発することが可能である。また、大阪大学ではセルロースナノファイバーで作成した土に還る無線発信デバイスの開発に成功している(非特許文献1)。生分解性放射線検出器は数か月で土壌に分解されるため、計測後に回収する必要がない。
【0005】
従来の放射線量分布マップを作成する手段として、無線標識用の電波を送信する複数のビーコンと、時刻毎の放射線量の積算値を記録する放射線検出器と、ビーコンの電波を受信して識別IDと電波強度と時刻を記録する受信機を用いて、所定エリア内における放射線量分布マップを作成する放射線量管理システム(特許文献1)が存在している。
【0006】
また従来の技術として、自走式機械と、放射線の空間分布を求める機能と位置変化を基に平面的な放射線量の分布をマップとして表示する機能を備えたシンチレーションファイバを用いて、無人で放射線量分布マップを作成する自走式線量計測装置(特許文献2)が存在している。
【0007】
さらに従来の技術として、ドローンに搭載された放射線検出器とドローンの3次元位置情報を用いて、放射線量分布の3次元マップを作成し、3次元の地形データまたは航空写真と重ね合わせる放射線分布の3次元表示方法及び装置(特許文献3)が存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2017-067676号公報
【文献】特開2014-020900号公報
【文献】特開2020-046231号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】大阪大学 産業科学研究所 研究紹介2020
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1のシステムでは、複数のビーコンをあらかじめ広範囲に等間隔で配置する必要があり、ビーコンが配置された所定のエリア内でしか計測を行うことができない。加えて、作業員が携帯する放射線検出器によって計測を行うため、計測中はその場にとどまる必要があり、放射線漏えい時などの非常時では作業員の被ばくリスクが発生するなどの問題点が存在した。
【0011】
また、特許文献2の自走式線量計測装置では、計測しながら走行する機構であるため低速度でなければ正しい計測結果が得られず、広範囲の計測を行う際には非常に時間がかかる。加えて、地面を走行するため装置に放射性物質が付着しやすく、回収後の処理作業が必要になるなどの問題点が存在した。
【0012】
さらに、特許文献3の表示方法および装置では、地表の一点に対して様々な角度から測定を行うため空中でドローンを長時間ホバリングさせる必要があり、広範囲の計測を行う際には非常に時間がかかるなどの問題点が存在した。
【0013】
本発明は、無人での放射線計測を実現することで作業員の被ばくリスクを低減し、同時多点計測によって計測時間を大幅に短縮し、計測後の放射線検出器を簡便に処理することで、低コストかつ短時間で放射線量分布マップを作成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者は、投下用ドローンを用いて生分解性放射線検出器を空中から広範囲に投下し、同時多点計測を行うことで、広範囲の放射線量分布の計測を無人かつ短時間で行うことが可能であると考えた。放射線計測時においては、放射線検出器に放射線量データを一定時間蓄積する必要がある。そこで、あらかじめ多数の生分解性放射線検出器を上空から投下して各落下地点の放射線量データを一定時間蓄積させておき、一定時間経過後に投下用ドローンと同じ航路を飛行するデータ収集用ドローンを用いて、無線通信によって放射線量データのみを収集することで、計測時間を大幅に短縮することが可能となり、また、作業員の被ばくリスクを低減することが可能であると考えた。
また、セルロースナノファイバー製回路素子および配線基板によって構成される生分解性放射線検出器を用いることで、従来の放射線検出器では不可能であった安価な素材による生産に加え使い捨てが可能であると考えた。生分解性放射線検出器は数か月で土壌に分解されるため、計測後に回収する必要がない。
さらに、無線通信により収集した放射線量データとGPSにより取得した位置情報をもとに放射線量分布マップを作成可能となると考えた。
【0015】
本発明は、以下の技術手段から構成される。
[1]無線通信機能を有し、空中から投下可能である、3個以上の生分解性放射線検出器と、
GPSを有し、搭載した生分解性放射線検出器を所望の位置に投下する、無人飛行の投下用飛行体と、
GPSを有し、生分解性放射線検出器から放射線量データを受信する、無人飛行のデータ収集用飛行体と、
データ収集用飛行体から取得した放射線量データおよびGPSデータに基づき計測範囲における放射線量分布マップを作成するマップ作成手段と、
を備えることを特徴とする放射線計測システム。
[2]前記投下用飛行体は、3個以上の生分解性放射線検出器を収容する着脱自在の収容ケースを備え、当該ケースから生分解性放射線検出器を所望の位置で落下させることができることを特徴とする[1]の放射線計測システム。
[3]前記データ収集用飛行体は、生分解性放射線検出器から放射線量データを受信する着脱自在のアンテナを備えており、
前記投下用飛行体および前記データ収集用飛行体を、同一のドローンにより構成したことを特徴とする[2]の放射線計測システム。
[4]前記生分解性放射線検出器は、生分解性透明シートからなる円錐形の本体部と、生分解性回路素子によって構成されていることを特徴とする[1]ないし[3]のいずれかの放射線計測システム。
[5]前記生分解性回路素子は、電源供給する太陽光発電装置と、電圧を増幅する昇圧回路と、放射線の検出に応じて放電パルスを発生させるガス式放射線検出機構と、放電パルスを引き伸ばすプリアンプと、放電パルスの回数を計測する計数回路と、一定周期で計測した放電パルスデータを無線発信する無線発信回路と、を備えている特徴とする[4]の放射線計測システム。
[6]さらに、前記投下用飛行体および前記データ収集用飛行体に無線通信を介して航路データを送信する手段と、前記データ収集用飛行体から計測データを受信するデータ受信手段と、を備える設定用端末と、
前記投下用飛行体および前記データ収集用飛行体に給電する給電手段と、交換用の前記収容ケースと、を備えるベースキャンプと、を備えることを特徴とする[1]ないし[5]のいずれかの放射線計測システム。
[7]前記マップ作成手段は、前記計測範囲を入力された前記生分解性放射線検出器の個数に基づき3個以上の区画に区分し、各区画に投下された複数個の前記生分解性放射線検出器から回収集した複数の放射線量データに基づき各区画における平均放射線量または最大放射線量を算出し、当該平均放射線量または最大放射線量の多寡に応じて各区分を着色した前記計測範囲の放射線量分布マップを前記設定用端末に表示させることを特徴とする[6]の放射線計測システム。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、広範囲の放射線量分布の計測を無人で、かつ短時間で行うことが可能である。計測に使用した生分解性放射線検出器は数か月で土壌に分解されるため、計測後に回収する必要がない。また、無線通信により収集した放射線量データとGPSにより取得した位置情報をもとに放射線量分布マップを作成可能であるので、広範囲の放射線量分布マップの作成にかかる時間を大幅に削減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態の放射線計測システム構成図
【
図2】(a)投下用ドローンによる生分解性放射線検出器の投下イメージ図、(b)収集用ドローンによる放射線量データの収集イメージ図
【
図4】(a)投下用ドローンの構成図、(b)データ収集用ドローンの構成図
【
図10】本発明の実施形態の手順を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態および実施例に記載した内容に限定されるものではない。
【0019】
図1に示すように、本発明の実施形態の放射線計測システムは、投下用ドローン1と、データ収集用ドローン2と、生分解性放射線検出器3と、ベースキャンプ17と、管理サーバ30と、設定用端末40とを備えて構成される。
ベースキャンプ17は、生分解性放射線検出器3および電源供給用バッテリー8を保管し、生分解性放射線検出器3または投下用ドローン1およびデータ収集用ドローン2のバッテリーが不足した際に、補充または交換を行う機能を持つ。ベースキャンプ17の数は計測の規模に応じて増減することができ、保管する生分解性放射線検出器3および電源供給用バッテリー8の数も任意の数とすることができる。ベースキャンプ17は計測前に設置し、計測終了後に撤去可能としてもよい。
管理サーバ30は、CPUからなる演算部31と、管理プログラム32およびマップ作成手段33を格納する記憶部34と、LANなどのネットワーク網による通信を可能とする通信部35と、を備えた汎用PCサーバにより構成されている。管理サーバ30は、1台で構成してもよいし、複数台により構成してもよい。
演算部31により実行される管理プログラム32は、主としてドローンの航路管理機能、ドローンの使用状況管理機能を備えている。
設定用端末40は、液晶タッチパネルおよび無線通信モジュールを備えたタブレット端末であり、ドローンの航路設定を行うための専用アプリケーションがインストールされている。なお、設定用端末40を、スマートフォンやノートPCにより構成してもよい。
管理サーバ30および設定用端末40はベースキャンプ17内に設置してもよいし、ベースキャンプ17から離れた場所に設置してもよい。
【0020】
本発明の実施形態では、
図2(a)に示すように、飛行する投下用ドローン1から生分解性放射線検出器3を投下し、
図2(b)に示すように、一定時間経過後に同じ航路を飛行するデータ収集用ドローン2が無線通信によって生分解性放射線検出器3から放射線量データを収集する。放射線検出器3から収集するデータの測定周期は、任意の間隔とすることができる。
前記投下用ドローン1は、
図4(a)に示すように、ドローン本体4に取り付けられたプロペラ5と、GPS6と、制御用小型コンピュータ7と、電源供給用バッテリー8と、ドローン本体4に複数のワイヤー9を介して取り付けられた生分解性放射線検出器収容ケース10と、を備えている。GPS6および制御用小型コンピュータ7を搭載した投下用ドローン1は、電源供給用バッテリー8によって稼働し、その航路はGPS6によって取得した位置データをもとに制御用小型コンピュータ7によって制御される。制御用小型コンピュータ7は図示しない通信部を有しており、投下用ドローン1の航路データを記憶し、無線通信により設定用端末40に送信する。
【0021】
前記生分解性放射線検出器収容ケース10は、
図3(a)に示すように、収容部11、蓋12およびモータ13で構成される。
図3(b)に示すように、モータ13は前記制御用小型コンピュータ7および電源供給用バッテリー8によって制御されており、任意のタイミングでモータ13に通電することで蓋12が開き、収容部11内の生分解性放射線検出器3が任意の地点で落下する。
なお、落下させる生分解性放射線検出器3の数は、計測範囲に応じて決定する。
【0022】
前記データ収集用ドローン2は、
図4(b)に示すように、ドローン本体4に取り付けられたプロペラ5と、GPS6と、制御用小型コンピュータ7と、電源供給用バッテリー8と、ドローン本体4に複数のワイヤー9を介して取り付けられた無線通信用アンテナ14と、を備えている。無線通信用アンテナ14は、生分解性放射線検出器3から放射線量データを収集するためのものであり、先端部が下方を向くようにドローン本体4の底面側に取り付けられている。なお、投下用ドローン1を、装具を取り換えデータ収集用ドローンとして利用してもよい。
GPS6、制御用小型コンピュータ7および無線通信用アンテナ14を搭載したデータ収集用ドローン2は、電源供給用バッテリー8によって稼働する。データ収集用ドローン2の航路は、前記投下用ドローン1の航路データをもとに制御用小型コンピュータ7によって制御される。制御用小型コンピュータ7は図示しない通信部を有しており、無線通信により設定用端末40から投下用ドローン1の航路データを取得可能である。
【0023】
投下用ドローン1およびデータ収集用ドローン2の航路決定方法を、
図5を参照しながら説明する。例えば、計測範囲15の投下を効率的に行う場合、各ドローンは
図5に示すような航路16a~dを飛行しながら放射線検出器3の投下およびデータ収集を行う。設定した航路をもとに、ベースキャンプ17A~Eを設置する。ベースキャンプ17は、データ収集用ドローン2から計測データを受信するデータ受信手段と、生分解性放射線検出器3および電源供給用バッテリー8を保管する収納棚と、を備えている。ベースキャンプ17は、計測範囲外の放射線量が少ない地点に設置し、各ベースキャンプ17A~Eは生分解性放射線検出器3および電源供給用バッテリー8の補充機能を担わせる。ベースキャンプ17の数および間隔は、計測範囲15および計測に使用するドローンの航行可能距離に応じて任意で設定可能である。
図5に示す航路例の場合、投下用ドローン1はまず、ベースキャンプ17Aで航路16aの投下に必要なバッテリーおよび生分解性放射線検出器3を補充し、航路16a上に投下しながら移動する。次いで、同様にしてベースキャンプ17Bで航路16bの投下に必要な個数の放射線検出器3の補充を受け、航路16b上で投下しながら移動する。以降同様の手順で生分解性放射線検出器3の投下を行う。投下用ドローン1が出発してから一定時間経過後に、データ収集用ドローン2は投下用ドローン1と同様の航路を移動しながら、計測範囲15全体の放射線量データを収集する。データ収集用ドローン2は、必要に応じてベースキャンプ17A~Eで電源供給用バッテリー8を補充する。
【0024】
生分解性放射線検出器3は、
図6に示すように、本体部18と、太陽発電装置19と、昇圧回路20と、ガス式放射線検出機構21と、プリアンプ22と、計数回路23と、無線発信回路24と、を備えている。
生分解性放射線検出器3が備える各要素は、セルロースナノファイバーまたは生分解性プラスチックのように、無色透明で土に分解される素材を用いる。前述の非特許文献1に基づき、本体部18と、太陽発電装置19と、昇圧回路20と、ガス式放射線検出機構21と、プリアンプ22と、計数回路23と、無線発信回路24と、をセルロースナノファイバー製の回路素子および配線基板によって作成することで、計測後に回収する必要がない生分解性放射線検出器が実現できる。セルロースナノファイバー製の回路素子および配線基盤は、40日間で95%が土に分解される(非特許文献1)。
本体部18は、内部に前記の各要素を有し、無色透明の素材を用いることで、生分解性放射線検出器3の内部で太陽光発電から無線発信までの一連の動作を実現できる。
図6に示すように、本発明の実施形態においては地面に対して垂直に落下する円錐形を例示しているが、落下時の姿勢をコントロールしやすく、落下衝撃が小さく壊れにくいものであれば、いかなる形状であってもよい。ただし、生分解性放射線検出器3はガス式放射線検出機構21を備えるため、種々のガス(安定ガス)を密閉できる空間を内部に有する形状とする。
【0025】
ガス式放射線検出機構21は、高電圧下のガスに放射線が通過すると電離作用によって放電パルスが発生し、放電パルスの回数によって放射線量を計測する公知のガス式放射線検出器により構成することができる。すなわち、生分解性放射線検出器に用いるガス式放射線検出機構21に高電圧を印加する必要がある。太陽発電装置19によって得られる電圧では不十分であるため、昇圧回路20によって高電圧を得る。
落下中および落下後に太陽発電装置19が発電を行い、昇圧回路20によって高電圧へ変換する。得られた高電圧をもとにガス式放射線検出機構21で一定時間計測する。ガス式放射線検出器校21によって発生した放電パルスをプリアンプ22によって引き伸ばし、計数回路23においてその回数をカウントする。一定時間後に、放電パルスの回数に応じた放射線量データを無線発信回路24が無線発信し、この間にデータ収集用ドローン2が上空を航行すると、放射線量データが収集される。
無線発信回路24にはセルロースナノファイバー製のアンテナが搭載されており、10メートル以上の無線通信が可能である。セルロースナノファイバー製のアンテナは、任意の線路長を選択可能である。ただし、無線通信可能距離はデータ収集用ドローン2に搭載する無線通信用アンテナ14の性能によって変化するため、データ収集用ドローン2は無線通信可能距離に応じた高度を航行する必要がある。
また、計数回路23は一意の識別IDを有しており、識別IDによって各生分解性放射線検出器3を識別可能とすることで、放射線量データの取り違いを防ぐことができる。
【0026】
図7に、生分解性放射線検出器3に用いるプリアンプ22の回路例を示す。プリアンプ22は、ガス式放射線検出機構21によって発生したわずかな放電パルスをFETで増幅する。さらに、プリアンプ22の各トランジスタが、計数回路23がカウント可能になる大きさまで増幅する。そして、増幅した放電パルスをフィードバックコンデンサCfおよびフィードバック抵抗Rfによって引き伸ばす。その他の各抵抗および各コンデンサの素子値によってプリアンプ22の回路全体のバランスをとるためのものである。ガス式放射線検出機構21によって発生する放電パルスは、検出した放射線の種類によって振幅が異なる。プリアンプ22を構成する各種回路の素子値を変更し、任意の振幅を持つ放電パルスを選択し引き伸ばすことを可能とすることで、任意の放射線を検出することができる。
太陽発電装置19、昇圧回路20、ガス式放射線検出機構21、計数回路23、無線発信回路24の構成は、市販製品が複数存在するので、用途により適宜選択し、セルロースナノファイバーなどの生分解性部品にて代替し作成する。
【0027】
放射線量分布マップの作成方法を、
図8および
図9を参照しながら説明する。計測範囲15における放射線量分布マップ25の作成は、計測範囲15を同等の大きさの区画に区分し、各区画に生分解性放射線検出器3を投下し、放射線量データを測定することにより行う。
計測範囲15内の区画の数は3つ以上であり、投下される生分解性放射線検出器3の個数と同数個またはその約数個である。例えば、
図8に示すように計測範囲15を複数のメッシュ状の区画26A~Pに区分し、各区画に16個の生分解性放射線検出器3をそれぞれ投下する。データ収集用ドローン2によって収集された放射線量データと、GPS6によって取得した放射線量データの受信位置情報をもとに、各区画における平均放射線量または最大値を計算する。例えば、データ収集用ドローン2がある区画内を飛行した際に5個の放射線量データを収集した場合、5個のデータの平均放射線量または5個のデータのうちの最大値を計算する。
図9に、各区画における平均放射線量の例を示す。
図8および
図9に示す例では、各区画における平均放射線量を
図8に示すように線量の多寡に応じた区分1~4に分類し、放射線量分布マップを作成し、設定用端末40に表示させる。各区画における平均放射線量の違いは、分類した区分1~4をもとに、例えば、色の濃淡によって表現する。濃い箇所ほど放射線量が高く、薄い箇所ほど放射線量が低い。このように表現することで、直感的に線量分布を把握可能である。
本実施形態では、放射線量分布マップを作成するマップ作成手段を備えるプログラムを、管理サーバ30に搭載したが、これとは異なり、外部に設置した別のコンピュータにマップ作成手段を備えるプログラムを設けてもよい。
【0028】
図10は、本実施形態の使用手順を示すフローチャートである。
使用者はまず、計測範囲15を設定する。計測範囲15の設定は、設定用端末40に導入した専用プログラムでGPS座標により任意の範囲(例えば、縦100m、横100mの範囲)を指定するのと共に生分解性放射線検出器3の投下位置を指定することにより行う。ここで、GPS座標により任意の範囲を指定し、生分解性放射線検出器3の個数を指定することにより、計測範囲15を複数個(好ましくは3個以上)の生分解性放射線検出器3を配置可能な数のメッシュ状区画に区分し、各区画における生分解性放射線検出器3のデフォルト投下位置を画面上に自動表示する機能を専用プログラムに持たせてもよい。
次いで、設定した計測範囲15における、効率的に生分解性放射線検出器3の投下および放射線量データの収集が可能な各ドローンの航路のGPS座標と、各ドローンの航路における生分解性放射線検出器3および電源供給用バッテリー8の補充地点を設定する。具体的には、計測範囲15の規模、各ドローンの航行可能距離および投下用ドローン1に搭載可能な生分解性放射線検出器3の個数をもとに補充地点を設定する。
次いで、撤去可能なベースキャンプ17を設置する。この時、前段階で設定した生分解性放射線検出器3または電源供給用バッテリー8の補充地点に最も近い、計測範囲15外の地点に設置する。計測規模に応じてベースキャンプ17の数は可変とする。
【0029】
次いで、前記航路に沿って投下用ドローン1を航行させながら生分解性放射線検出器3を投下する。
図5を用いて説明したような手順で、適宜補充を受けながら計測範囲15全体に生分解性放射線検出器3を所定の距離間隔で投下する。
投下用ドローン1が出発してから一定時間経過後に、データ収集用ドローン2を、投下用ドローン1と同様の航路に沿って航行させ、計測範囲15全体の放射線量データを無線通信によって収集する。
図5を用いて説明したような手順で、計測範囲15全体の放射線量データを収集する。
次いで、収集した放射線量データと、その受信位置情報をもとに、管理サーバ30の専用ソフトウェアで各区画における平均放射線量を計算し、放射線量分布マップ25を作成する。
以上に説明した本発明の実施形態では、飛行体としてドローンを例示したが飛行体の種類はドローンに限定されず、例えば無人のヘリコプターや飛行機などを使用することも可能である。
【0030】
また、放射線検出器の種類はガス式放射線検出器に限定されず、放射線の種類および用途によって、生分解性が実現可能な範囲で適宜変更可能である。
ベースキャンプに、投下用ドローンおよびデータ収集用ドローンに給電可能な給電手段を設けてもよい。
【符号の説明】
【0031】
1 投下用ドローン
2 データ収集用ドローン
3 生分解性放射線検出器
4 ドローン本体
5 プロペラ
6 GPS
7 制御用小型コンピュータ
8 電源供給用バッテリー
9 ワイヤー
10 生分解性放射線検出器収容ケース
11 収容部
12 蓋
13 モータ
14 無線通信用アンテナ
15 計測範囲
16a~d 航路例a~d
17A~E ベースキャンプ例A~E
18 本体部
19 太陽発電装置
20 昇圧回路
21 ガス式放射線検出機構
22 プリアンプ
23 計数回路
24 無線発信回路
25 放射線量分布マップの作成例
26A~P 区画例A~P
30 管理サーバ
31 演算部
32 管理プログラム
33 マップ作成手段
34 記憶部
35 通信部
40 設定用端末
【要約】 (修正有)
【課題】ドローンと生分解性放射線検出器を用い、非常時に迅速に放射線計測を開始でき、無人での放射線計測を実現することで作業員の被ばくリスクを低減し、同時多点計測によって計測時間を大幅に短縮し、計測後の放射線検出器を簡便に処理することで、低コストかつ短時間で放射線量分布マップを作成することを課題とする。
【解決手段】無線通信機能を有し、空中から投下可能である、3個以上の生分解性放射線検出器3と、GPSを有し、搭載した生分解性放射線検出器を所望の位置に投下する、無人飛行の投下用飛行体1と、GPSを有し、生分解性放射線検出器から放射線量データを受信する、無人飛行のデータ収集用飛行体2と、データ収集用飛行体2から取得した放射線量データおよびGPSデータに基づき放射線量分布マップを作成する手段と、を備えることを特徴とする放射線計測システム。
【選択図】
図1