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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-23
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】接続構造体
(51)【国際特許分類】
   H01R 4/68 20060101AFI20220111BHJP
   H01B 12/06 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
H01R4/68
H01B12/06
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2017066709
(22)【出願日】2017-03-30
(65)【公開番号】P2018170173
(43)【公開日】2018-11-01
【審査請求日】2020-01-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、高温超電導実用化促進技術開発/高磁場マグネットシステムの開発/高温超電導高安定磁場マグネットシステム開発に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(72)【発明者】
【氏名】中井 昭暢
(72)【発明者】
【氏名】山野 聡士
(72)【発明者】
【氏名】坂本 久樹
【審査官】藤島 孝太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-235699(JP,A)
【文献】特開2007-012582(JP,A)
【文献】実開昭58-005309(JP,U)
【文献】特開2007-179827(JP,A)
【文献】特開昭61-226684(JP,A)
【文献】特開2007-115537(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0357089(US,A1)
【文献】特開2015-213006(JP,A)
【文献】国際公開第2008/118127(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 4/68
43/00
H01B 12/06
H01F 36/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テープ状の基材と、該基材上に形成された中間層と、該中間層の上に形成された超電導導体層とを有する2つの超電導線材である第1及び第2の超電導線材と、
前記超電導導体層の表面を互いに対向させた位置関係で前記第1及び第2の超電導線材同士を接続し、前記第1及び第2の超電導線材とともに超電導接続部を形成する接続用超電導導体層と
前記第1及び第2の超電導線材のそれぞれの前記基材側に前記超電導接続部を挟む位置関係で配置された前記第1及び第2の超電導線材よりも幅広である2枚の保護材と、
2枚の前記保護材を互いに接合する金属部と、
を備え
前記金属部が融着する材質であり、且つ2枚の前記保護材が前記金属部の融着により接合されていることを特徴とする接続構造体。
【請求項2】
前記第1及び第2の超電導線材が、それぞれ前記超電導接続部を除く前記超電導導体層の全面にわたって被覆する金属保護層をさらに有する、請求項1に記載の接続構造体。
【請求項3】
前記金属部が、超電導接続部を囲う少なくとも四ヶ所に設けられている、請求項1又は2に記載の接続構造体。
【請求項4】
前記金属部が、Ag、Au及びCuのうち少なくとも1種を含む金属又合金である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の接続構造体。
【請求項5】
前記基材の弾性係数と前記保護材の弾性係数との差が、80GPa以下の範囲内である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の接続構造体。
【請求項6】
前記保護材の弾性係数が、150GPa~250GPaである、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の接続構造体。
【請求項7】
前記保護材の融点が、1000℃以上である、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の接続構造体。
【請求項8】
前記保護材の厚さが、30μm~300μmである、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の接続構造体。
【請求項9】
前記保護材が、Ni基合金、ステンレス鋼、または炭素鋼である、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の接続構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接続構造体、特に超電導線材の接続構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、臨界温度(Tc)が液体窒素温度(約77K)よりも高い酸化物超電導体として、例えば、YBCO系(イットリウム系)、BSCCO系(ビスマス系)等の高温超電導体が注目されている。このような高温超電導体を用いて作製された超電導線材として、長尺でフレキシブルな金属等の金属基板上に酸化物超電導膜を堆積したり、または、単結晶基板上に酸化物超電導膜を堆積したりすることにより形成された超電導導体層を有する超電導線材が知られている。
【0003】
超電導線材は、例えば、MRI(magnetic resonance imaging)、NMR(nuclear magnetic resonance)等のコイルの巻き線としての適用が検討されており、長尺な超電導線材の要求が高まっている。しかしながら、一本の連続した超電導線材の長さには製造上の限界があるため、所望とするコイルの巻き線を得るには超電導線材同士を接続する必要がある。
【0004】
特許文献1には、超電導線材同士が接続された接続構造体として、両面が補強材により被覆されてなる2本の超電導線材の端部同士を重ね合わせて半田により接続されている超電導線材の接続構造体が開示されている。しかしながら、特許文献1の接続構造体は、超電導線材同士の接続に半田が使用されているため、半田の介在により超電導線材の接続部の電気抵抗をゼロにすることが困難であった。
【0005】
超電導線材同士を接続する他の方法として、特許文献2には、一方の超電導線材の接続端部において露出した超電導導体層と、他方の超電導線材の接続端部において露出した超電導導体層とを向かい合わせの状態で配置し、その間にMOD法(Metal Organic Deposition法/有機金属堆積法)により形成した超電導接合層を形成する方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の接続構造は、一方の超電導線材の超電導導体層と他方の超電導線材の超電導導体層との間に介在するMOD法より形成された超電導接合層が超電導線材同士を連結しており、超電導接合層そのものは強度が低い。そのため、超電導線材に不所望な外力が加わると、超電導線材同士が超電導接合層から分離してしまうおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-165435号公報
【文献】特開2013-235699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明の目的は、接続強度が高い超電導線材の接続構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明に係る接続構造体は、テープ状の基材と、該基材上に形成された中間層と、該中間層の上に形成された超電導導体層とを有する2つの超電導線材である第1及び第2の超電導線材と、前記超電導導体層の表面を互いに対向させた位置関係で前記第1及び第2の超電導線材同士を接続し、前記第1及び第2の超電導線材とともに超電導接続部を形成する接続用超電導導体層と、前記第1及び第2の超電導線材のそれぞれの前記基材側に前記超電導接続部を挟む位置関係で配置された前記第1及び第2の超電導線材よりも幅広である2枚の保護材と、2枚の前記保護材を互いに接合する金属部とを備えることを特徴とする。
【0010】
また、上記接続構造体は、前記第1及び第2の超電導線材が、それぞれ前記超電導接続部を除く前記超電導導体層の全面にわたって被覆する金属保護層をさらに有すること、前記金属部が、超電導接続部を囲う少なくとも四ヶ所に設けられていること、前記金属部が、Ag、Au及びCuのうち少なくとも1種を含む金属又合金であること、前記基材の弾性係数と前記保護材の弾性係数との差が、80GPa以下の範囲内であること、前記保護材の弾性係数が、150GPa~250GPaであること、前記保護材の融点が、1000℃以上であること、前記保護材の厚さが、30μm~300μmであること、および、前記保護材が、Ni基合金、ステンレス鋼、または炭素鋼であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、接続強度が高い超電導線材の接続構造体を提供でき、その製造において歩留まりを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明に係る接続構造体を構成する超電導線材の概略断面図である。
図2図2は、本発明に係る第1実施形態である接続構造体の概略断面図である。
図3図3は、図2に示される接続構造体の上面図である。
図4図4(A)~(D)は、接続構造体の製造方法を説明するための図である。
図5図5は、本発明に係る第2実施形態である接続構造体の概略断面図である。
図6図6は、本発明に係る第3実施形態である接続構造体の概略断面図である。
図7図7は、本発明に係る第4実施形態である接続構造体の斜視図である。
図8図8(a)は、本発明に係る第5実施形態である接続構造体の上面図であり、図8(b)は、図8(a)の接続構造体を構成する金属部を抜き出して示した斜視図である。
図9図9は、本発明に係る第6実施形態に係る接続構造体の概略斜視図である。
図10図10は、本発明に係る第7実施形態に係る接続構造体の概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の接続構造体について図面を参照しながら説明する。なお、以下において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
(第1実施形態)
<超電導線材>
図1は、本発明に係る接続構造体を構成する超電導線材の概略断面図である。図1に示す超電導線材10は、超電導成膜用の基材1の厚み方向の一方の表面1a上に、中間層2及び超電導導体層3がこの順に形成されたものであって、基材1、中間層2及び超電導導体層3の積層構造体として構成されている。
【0015】
基材1は、テープ状の低磁性の金属基板やセラミックス基板で構成されている。金属基板の材料としては、例えば、強度及び耐熱性に優れた、Co、Cu、Cr、Ni、Ti、Mo、Nb、Ta、W、Mn、Fe、Ag等の金属又はこれらの合金が挙げられる。特に、耐食性及び耐熱性が優れているという観点から、ハステロイ(登録商標)、インコネル(登録商標)等のNi基合金、またはステンレス鋼等のFe基合金を用いることが好ましく、Ni-Fe-Mo系合金であるハステロイ(登録商標)を用いることがより好ましい。基材1の厚さは、特に限定はしないが、30~100μmであることが好ましく、30~50μmであることがより好ましい。
【0016】
中間層2は、基材1上に形成され、例えば超電導導体層3が高い2軸配向性を実現するために形成された下地層である。このような中間層2は、例えば、熱膨張率や格子定数等の物理的な特性値が、基材1と、超電導導体層3を構成する超電導体との中間的な値を示す材料で構成されている。また、中間層2は、単層構造であってもよく、多層構造であってもよい。中間層2は、多層構造として形成する場合、その層数や種類については限定されないが、例えば、非晶質のGdZr7-δ(δは酸素不定比量)やAl或いはY等を含むベッド層と、結晶質のMgO等を含みIBAD(Ion Beam Assisted Deposition)法により成形された強制配向層と、LaMnO3+δ(δは酸素不定比量)を含むLMO層と、を順に積層して構成することができる。また、LMO層の上にCeO2等を含むキャップ層がさらに設けられていてもよい。上記各層の厚さは、特に限定はされないが、一例を挙げておくと、ベッド層のY層が7nm、Al層が80nm、強制配向層のMgO層が40nm、そして、LMO層が30nmである。
【0017】
超電導導体層3は、中間層2の上に形成されている。超電導導体層3は、超電導体の転移温度が液体窒素の沸点(-196℃:77K)よりも高い高温超電導体から形成されていることが好ましく、特に銅酸化物超電導体を含んでいることがより好ましい。銅酸化物超電導体としては、例えば、REBaCu7-δ(RE系超電導体)等の高温超電導体が好ましい。なお、RE系超電導体中のREは、Y,Nd,Sm,Eu,Gd,Dy,Ho,Er,Tm,YbやLu等の単一の希土類元素又は複数の希土類元素である。また、δは、酸素不定比量であって、例えば0以上1以下であり、超電導転移温度が高いという観点から0に近いほど好ましい。なお、酸素不定比量は、オートクレーブ等の装置を用いて高圧酸素アニール等を行えば、δは0未満、すなわち、負の値をとることもある。超電導導体層3の厚さは0.1~10μmであることが好ましく、0.5~5μmであることがより好ましい。
【0018】
また、超電導線材10は、後述する超電導接続部Cを除く超電導導体層3の全面にわたって被覆する金属保護層4をさらに有することが好ましい。加えて、超電導線材10は、基材1の、中間層2が形成された表面1aとは逆側の表面1b上にも金属保護層4をさらに有していてもよい。金属保護層4は、Ag、Au及びCuのうちの少なくとも1種を含む金属又は合金層であることが好ましく、Agの金属層であることがより好ましい。金属保護層4は、後述する金属部9と同じ材質であっても異なる材質であってもよい。金属保護層4の厚さは、30~300μmであることが好ましく、30~100μmであることがより好ましい。金属保護層4を超電導導体層3の表面上に形成した場合は、超電導導体層3の表面を露出させずに有効に保護することができる。また、金属保護層4を基材1の表面1b側に設けた場合は、後述する接続構造体20において、保護材7と超電導線材10とを、基材1の表面1b側に設けた金属保護層4を介して接合することができる。これにより、超電導接続部Cの補強効果をより強固にすることができる。なお、金属保護層4の長さ方向寸法に関しては、特に限定はなく、金属保護層4を、保護材7よりも長く形成しても、あるいは短く形成してもよく、また、保護材7と同じ長さに形成してもよい。
【0019】
<接続構造体>
図2は、本発明に係る第1実施形態である接続構造体の概略断面図であり、図3は、図2に示される接続構造体の上面図である。図示の接続構造体20は、2つの超電導線材である、第1の超電導線材10a(以下、単に「超電導線材10a」という。)及び第2の超電導線材10b(以下、単に「超電導線材10b」という。)と、接続用超電導導体層8と、2枚の保護材7、7と、金属部9とを備えている。
【0020】
超電導線材10a、10bは、図2ではそれぞれの端部同士が、超電導導体層3、3の表面を互いに対向させた位置関係で接続用超電導導体層8を介して接続され、接続用超電導導体層8は、超電導線材10a、10bとともに超電導接続部C(図2の破線で囲まれた部分)を形成する。また、超電導線材10a、10bよりも幅広である2枚の保護材7、7は、超電導線材10a、10bのそれぞれの基材1、1側に、超電導接続部Cを挟む位置関係で配置されている。さらに、2枚の保護材7、7は、超電導線材10a、10bのそれぞれを幅方向に横切った両側の位置で、好ましくは超電導接続部Cを囲む少なくとも四ヶ所の位置(図3では保護材7の4隅の位置)に形成した金属部9により互いに接合されている。
【0021】
このような接続構造体20は、2枚の保護材7、7で超電導線材10a、10bを挟み込むサンドイッチ構造を有し、保護材7、7同士が金属部9で互いに接合されているため、超電導接続部Cが2枚の保護材7、7で補強される結果、超電導線材10a、10bの接続状態を強固に保持することができる。
【0022】
なお、2枚の保護材7、7は、超電導線材10a、10bを挟み込む方向に、厚さが変わらない程度の互いに引き合う力が作用した状態で金属部9により固定されている。したがって、接続構造体20では、超電導線材10a、10b同士が高い接続強度で接続されている。その結果、超電導接続部Cにおいて超電導線材10a、10b同士の分離の発生を有効に抑制でき、接続構造体20の製造歩留まりを向上させることができる。また、超電導接続部Cは、2枚の保護材7、7で覆われているため、有効に保護することができるとともに、接続構造体20に不所望な外力などの外的負荷が加わったとしても、超電導接続部Cが破壊するのを有効に抑制することができる。さらに、金属部9を超電導接続部Cから離れた位置に設けているため、金属部9同士の接合(融着)の影響により接続用超電導導体層8が焼失するリスクを低減することができる。
【0023】
さらに、2枚の保護材7、7の間に隙間Gが形成されるため、接続構造体20を製造する際、酸素の供給流路を確保することができ、その結果、接続用超電導導体層8の結晶化を促進することができる。
【0024】
(接続用超電導導体層)
接続用超電導導体層8は、超電導導体層3と同じ超電導体の組成から構成されていることが好ましく、特に、RE系超電導体の形成に必要な原料が含まれる組成物(溶液)を用いて形成することができる。このような溶液として、例えば、RE(Y(イットリウム)、Gd(ガドリニウム)、Sm(サマリウム)及びHo(ホルミウム)等の希土類元素)と、Baと、Cuとが、約1:2:3の割合で含まれているアセチルアセトナート系、ナフテナート系のMOD溶液等を使用することができる。MOD溶液を超電導線材10a、10b上に塗布し、所定の条件下で焼成することにより、結晶性の接続用超電導導体層8を得ることができる。
【0025】
(保護材)
次に保護材7について詳細に説明する。保護材7は、超電導接続部Cを形成する超電導線材10a、10bと共に加圧焼成することが可能な材質であることが好ましく、およそ800℃の焼成温度に耐え得る材質であることが好ましい。したがって、保護材7の融点は、1000℃以上であることが好ましく、1200℃以上であることがより好ましい。また、2枚の保護材7、7の間に、超電導接続部Cに力が加わる程度の互いに引き合う力が印加されていることが好ましい。それ故、保護材7は、このような強度及び耐熱性を備える超電導線材10a、10bの基材1と同じ材料で構成することが好ましいが、基材1とは異なる材料で構成されていてもよい。このような保護材7としては、例えば、Ni基合金、ステンレス鋼、または炭素鋼等の金属材料が挙げられる。
【0026】
また、保護材7は、接続構造体20を構成する各部間の強度バランスの観点から、基材1の弾性係数と保護材7の弾性係数との差が、80GPa以下の範囲であることが好ましい。前記弾性係数の差が80GPaよりも大きいと、接続部に均一に応力がかからず、良好な接続ができないからである。
【0027】
保護材7の弾性係数は、基材との弾性係数との差を考慮して決定すればよく、特に限定されないが、例えば150GPa~250GPaであることが好ましく、160GPa~230GPaであることがより好ましい。
【0028】
保護材7の厚さは、30μm~300μmであることが好ましく、30μm~100μmであることがより好ましい。保護材7の厚さが30μm未満では、後述する本焼成工程における加圧により保護材7自体が破壊するおそれがあり、また、保護材7による超電導接続部Cの十分な補強効果も得られず、結果として超電導接続部Cを外的負荷から十分に保護できないおそれもある。一方、保護材7の厚さが300μmを超えると、接続部に応力が加わらず接続が十分でなく、その結果、臨界電流値Icが著しく低下してしまうおそれがある。よって、保護材7の厚さを30μm~300μmの範囲内にすることにより、超電導接続部Cを補強しつつ、超電導導体層3に流れる限界の電流値である臨界電流値Icの低下を抑制することができる。なお、臨界電流値Icは、例えば超電導接続部Cの接続抵抗を四端子法により測定することにより求めることができる。
【0029】
保護材7の幅は、超電導線材10a、10bの幅に応じて変動する。保護材7の幅は、超電導線材10a、10bよりも幅広であればよく、特に限定されるものではないが、超電導線材10a、10bの幅よりも2~10mm広いことが好ましく、2~5mm広いことがより好ましい。
【0030】
(金属部)
金属部9は、2枚の保護材7、7の対向する内面にそれぞれ設けられ、2枚の保護材7、7同士を互いに接合する。金属部9は、例えば、超電導接続部Cが位置しない、2枚の保護材7、7の内面に形成することが好ましい。また、金属部9は、接続用超電導導体層8を介して超電導線材10a、10bを加圧焼成して超電導接続部Cを形成する際に、保護材7は800℃程度の焼成温度に耐え得る材質であることが好ましく、一方、金属部9は、融着する材質であることが好ましい。このため、金属部9は、保護材7とは異なる材質であることが好ましい。金属部9は、2枚の保護材7、7のそれぞれの内面に設けた金属部9、9同士が接合可能な金属であればよく、特に限定されるものではないが、例えば、Ag、Au及びCuのうち少なくとも1種を含む金属又は合金であることが好ましく、Agがより好ましい。金属部9の厚さは、10nm~10μmであることが好ましく、10nm~2μmであることがより好ましい。金属部9の形成は、特に限定されるものではないが、例えば、スパッタ、真空蒸着、ペースト塗布等、金属部9の形成を可能とする公知のいずれの方法を用いてもよい。
【0031】
(接続構造体の製造方法)
次に、本発明に係る接続構造体の製造方法について、図4(A)~図4(D)を参照しながら説明する。図4(A)は、超電導線材10a、10bに接続用超電導導体層8を形成するための原料を塗布する工程を示す概略断面図である。図4(B)は、原料が塗布された超電導線材10a、10bの仮焼成工程を示す概略断面図である。図4(C)は、超電導線材10a、10bと2枚の保護材7とで接続構造体を形成する直前の工程を示す概略断面斜視図である。図4(D)は、図4(A)~(C)の工程を経て製造された接続構造体20の概略断面図である。まず、超電導線材10a、10bに金属保護層4が被覆されている場合は、接続端部側の金属保護層4を超電導線材10a、10bの全幅にわたって矩形に除去する。金属保護層4の矩形の除去は、機械的研磨、化学的研磨(例えば、エッチング処理)又はこれらの組み合わせにより行う(除去工程)。なお、この金属保護層4の矩形の除去は、超電導導体層3が完全に露出する深さまで行う。なお、露出した超電導導体層3の表面粗さは十分小さいことが好ましく、例えば、その表面粗さ(中心線平均粗さRa)は、50nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。なお、表面粗さとは、JIS B 0601:2001において規定する表面粗さパラメータの「高さ方向の振幅平均パラメータ」における算術平均粗さRaである。
【0032】
そして、図4(A)に示すように、超電導線材10a、10bの金属保護層4の除去部分に、MOD法(Metal Organic Deposition法/有機金属堆積法)によりMOD液30をスピンコート又は塗布により充填する(塗布工程)。このMOD液としては、超電導導体層3と同じ組成物系で構成された金属を含む組成物(溶液)であることが好ましい。
【0033】
ここで、超電導導体層3と同じ組成物系とは、例えば、超電導導体層3を構成する高温超電導体としてRE系超電導体を使用した場合、接続用超電導導体層8を形成するための組成物(溶液)も同様に、RE系超電導体の形成に必要となる組成物(溶液)で構成されていることを意味する。すなわち、組成物(溶液)中にRE系超電導体の形成に必要な原料が含まれており、超電導導体層3と、接続用超電導導体層8とは、共に同じRE系超電導体の超電導体の組成から構成されている。組成物(溶液)に含まれる溶媒は、所望とする超電導体系を溶解でき、また、本焼成工程後に良好な結晶性の接続用超電導導体層8を得ることができれば、特に限定されるものではないが、例えば、RE(Y(イットリウム)、Gd(ガドリニウム)、Sm(サマリウム)及びHo(ホルミウム)等の希土類元素)と、Baと、Cuとが、約1:2:3の割合で含まれているアセチルアセトナート系やナフテナート系のMOD溶液等を使用することができる。
【0034】
次いで、図4(B)に示すように、塗布されたMOD液に含まれる有機成分を除去するための仮焼成工程が行われる。仮焼成工程については、超電導線材10a、10bの接続端部をN+Oガスの雰囲気内で、400℃~500℃の温度範囲、より好ましくは500℃で熱処理する。これにより、超電導線材10a、10bの超電導導体層3のそれぞれの接続端部側の矩形の除去部分には、接続用超電導導体層8に相当する堆積層40が形成される。
【0035】
その後、図4(C)に示すように、超電導線材10aを裏返して、超電導線材10a、10bの堆積層40、40を互いに対向させると共に、互いの堆積層40、40を位置合わせして密接させた積層構造体を形成する。さらに、予め金属部9を所望の位置に接合した保護材7を2枚用意し、この2枚の保護材7、7で積層構造体を挟み込む。次いで、超電導線材10a、10bの堆積層40を含む接続端部を、保護材7を介して厚さ方向に加圧しながら加熱してMOD法における本焼成工程が行われる。本焼成工程については、超電導線材10a、10bの接続端部をAr+Oガスの雰囲気内で、760℃~800℃の温度範囲で熱処理することが好ましい。これにより超電導線材10aの堆積層40と超電導線材10bの堆積層40とが密着しながらエピタキシャル成長(結晶化)し、一体的な接続用超電導導体層8が形成される。また、保護材7、7の対向する位置にそれぞれ設けられた金属部9、9が一体化すると共に、2枚の保護材7、7を、超電導線材10a、10bを挟み込む方向に互いに引き合う力がかかった状態で固定する。
【0036】
また、本焼成工程の後には、接続用超電導導体層8に対して酸素をドープする酸素アニール工程が行われる。この酸素アニール処理は、超電導線材10a、10bの接続端部を酸素雰囲気内に収容し、所定温度で加熱する。具体的な例示としては、酸素アニールの対象部位を、350℃~500℃の温度範囲の酸素の雰囲気下に置き、この条件下で酸素ドープを行う。なお、接続用超電導導体層8は、超電導線材10a、10bの幅方向の全域にわたって形成されているので、超電導線材10a、10bの幅方向両側の側面においては接続用超電導導体層8の端面が露出した状態となっており、この露出した端面から効果的に酸素ドープを行うことができる。こうして、図4(D)に示されるような接続構造体20が製造される。
【0037】
以上本発明の製造方法で得られる接続構造体は、高い接続強度を有しており、接続構造体20の歩留まりを向上させることができる。
【0038】
(第2実施形態)
図5は、本発明に係る第2実施形態に係る接続構造体の概略断面図である。図5に示す接続構造体20Aは、2本の超電導線材10a、10bが重ね合わされて同じ方向に延在する接続構造をなしている。このような2本の超電導線材10a、10bが同じ方向に延在する接続構造においても、高い接続強度で超電導線材10a、10b同士が接続される。その結果、超電導接続部Cにおいて超電導線材10a、10b同士の分離の発生を抑制でき、接続構造体20Aの製造歩留まりを向上させることができる。また、超電導接続部Cを外部から有効に保護することもできる。
【0039】
(第3実施形態)
図6は、本発明に係る第3実施形態に係る接続構造体20Bの概略断面図である。図示の接続構造体20Bは、超電導線材10a、10bの端部同士を接続用超電導導体層8で接続して超電導接続部Cを形成するとともに、超電導線材10a、10bの基材(図示せず)側に2枚の保護材7、7が配置されていて、特に、コイルの中でも適用可能なように曲率を付けた構造をなしている。曲率の程度は、超電導線材10a、10b及び保護材7等の構成部材が有する曲げ強度に応じて変動するが、各種部材に影響を及ぼさない程度に適宜設計することができる。なお、図6に示す超電導線材10a、10bは、基材1、中間層2、超電導導体層3及び金属保護層4で構成されているが、これらの詳細な積層構造については図示を省略している。このような曲率を付けた構造とすることで、コイル中の超電導接続部Cにおいて超電導線材10a、10b同士の分離の発生を抑制でき、接続構造体20Bの製造歩留まりを向上させることができる。また、超電導接続部Cを外部から有効に保護することもできる。
【0040】
(第4実施形態)
図7は、本発明に係る第4実施形態に係る接続構造体20Cの斜視図である。図7に示すように、第4実施形態においては、保護材7aが、平面の板ではなく、幅方向Wの中心部分に長手方向に延びる超電導線材10a、10bの幅よりも広くなるように板を断面ハット状に折り曲げて、超電導線材10a、10bの端部を収容する段差凹部11を有する構成にした場合を示している。そして2枚の保護材7aを段差凹部11、11同士が向かい合わせになるように配置し、2つの段差凹部11、11同士で超電導接続部Cを上下から挟み込み、保護材7a、7aの、段差凹部11よりも幅方向外側の部分であって、超電導接続部Cを囲む4隅の部分を金属部9で接合する。このような構成においても超電導接続部Cにおいて超電導線材10a、10b同士の分離の発生を抑制でき、接続構造体20Cの製造歩留まりを向上させることができる。また、超電導接続部Cを外部から有効に保護することもできる。
【0041】
(第5実施形態)
図8(a)は、本発明に係る第5実施形態に係る接続構造体20Dの上面図である。図示の接続構造体20Dは、金属部9aが保護材7の長手方向Lの両端部に幅方向の全域にわたって形成されている場合を示している。図8中、領域R1(図8の破線で囲んだ領域)の部分が、金属部9aが形成されている領域を示している。ここで金属部9aは、図8(b)に示すように、基材1には接触しているが、超電導導体層3、または超電導導体層3を被覆する金属保護層4には接触しないように、断面がアーチ状の形状を有する。このような構成の接続構造体20Dを製造する際、酸素は矢印Aの方向から供給すれば、2枚の保護材7、7間に存在する隙間G(図示せず)を通じて接続構造体20Dの内部にも供給することができる。また、第5実施形態においては、金属部9aを基材1に接触させているため、より強固に固定できるという利点がある。
【0042】
(第6実施形態)
図9は、本発明に係る第6実施形態に係る接続構造体20Eの斜視図である。図示の接続構造体20Eは、金属部9bが2枚の保護材7、7間に、その幅方向Wの両端部に長手方向の全域にわたって形成されている場合を示している。図9中、領域R2(図9の破線で囲んだ領域)の部分が、金属部9bを形成した領域を示している。このような構成の接続構造体20Eを製造する際、金属部9bと超電導線材10a、10bの隙間Gから酸素を供給することができる。
【0043】
(第7実施形態)
図10は、本発明に係る第7実施形態に係る接続構造体20Fの斜視図である。金属部9cが保護材7bの幅方向Wの両端部に長手方向の全域にわたって形成されている場合を示している点は、第5実施形態と同様であるが、金属部9cに金属部9cの外面から内面にわたって酸素を導入する酸素導入孔hがさらに設けられている点が異なる。これにより、接続構造体を製造する際、金属部9cと超電導線材10a、10bの隙間Gのみならず、酸素導入孔hを介して酸素をさらに供給することができる。
【0044】
以上、上記実施形態に係る接続構造体について述べたが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づき、各種の変形および変更が可能である。
【0045】
本発明における接続構造体20には、金属の空気接触による酸化を防止するため、空間部分にエポキシ樹脂等の樹脂が充填されていてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 基材
2 中間層
3 超電導導体層
4 金属保護層
7、7a、7b 保護材
8 接続用超電導導体層
9、9a、9b、9c 金属部
10 超電導線材
10a 第1の超電導線材
10b 第2の超電導線材
11 段差凹部
20、20A、20B、20C、20D、20E、20F 接続構造体
30 MOD液
40 堆積層
C 超電導接続部
G 隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10