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特許6998711独自の微細構造を有する過共晶アルミニウム-シリコン鋳造用合金
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-23
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】独自の微細構造を有する過共晶アルミニウム-シリコン鋳造用合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/02 20060101AFI20220203BHJP
   C22F 1/043 20060101ALN20220203BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20220203BHJP
   B22D 17/00 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
C22C21/02
C22F1/043
C22F1/00 602
C22F1/00 601
C22F1/00 604
C22F1/00 611
C22F1/00 630A
C22F1/00 630D
C22F1/00 630K
C22F1/00 650A
C22F1/00 651B
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 681
C22F1/00 640A
C22F1/00 686Z
B22D17/00 C
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2017175129
(22)【出願日】2017-09-12
(65)【公開番号】P2018044243
(43)【公開日】2018-03-22
【審査請求日】2019-09-19
(31)【優先権主張番号】15/263,859
(32)【優先日】2016-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】593124705
【氏名又は名称】ブルンスビック コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】BRUNSWICK CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】レイモンド ジェイ.ドナヒュー
(72)【発明者】
【氏名】ケヴィン アール.アンダーソン
(72)【発明者】
【氏名】テランス エム.クリアリイ
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー ケー.モンロー
【審査官】松本 陶子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-207024(JP,A)
【文献】特開平06-200397(JP,A)
【文献】特開2011-045909(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/02
C22F 1/043
C22F 1/00
B22D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過共晶高圧ダイカストアルミニウム-シリコン合金であって、
16質量%乃至23質量%のシリコン;
0.01質量%乃至1.5質量%の鉄;
0.01質量%乃至0.6質量%のマンガン;
0.01質量%乃至1.3質量%のマグネシウム;
0.05質量%乃至0.20質量%のストロンチウム、及び残部のアルミニウムからなり、
前記過共晶高圧ダイカストアルミニウム-シリコン合金は、
体積分率10%以上の初晶シリコンを有する微細構造と、少なくとも2%の伸長性を有する、
過共晶高圧ダイカストアルミニウム-シリコン合金。
【請求項2】
前記過共晶高圧ダイカストアルミニウム-シリコン合金は、体積分率10%乃至20%の初晶シリコン、体積分率45%乃至90%の修飾されたアルミニウム-シリコン共晶、そして残部の微細構造初晶アルミニウムを有する、
請求項1に記載の過共晶高圧ダイカストアルミニウム-シリコン合金。
【請求項3】
前記初晶シリコンは、共晶アルミニウムに取り囲まれている、
請求項2に記載の過共晶高圧ダイカストアルミニウム-シリコン合金。
【請求項4】
前記修飾されたアルミニウム-シリコン共晶は、繊維状共晶シリコンを含む、請求項2に記載の過共晶高圧ダイカストアルミニウム-シリコン合金。
【請求項5】
前記微細構造初晶アルミニウムは、15μm未満の樹枝状(デンドライト)平均アーム間隔を有する樹枝状晶である、請求項2に記載の過共晶高圧ダイカストアルミニウム-シリコン合金。
【請求項6】
前記過共晶高圧ダイカストアルミニウム-シリコン合金は、0.01質量%乃至0.7質量%の鉄を含む、請求項1に記載の過共晶高圧ダイカストアルミニウム-シリコン合金。
【請求項7】
前記過共晶高圧ダイカストアルミニウム-シリコン合金は、0.01質量%乃至0.2質量%の鉄を含む、請求項1に記載の過共晶高圧ダイカストアルミニウム-シリコン合金。
【請求項8】
前記過共晶高圧ダイカストアルミニウム-シリコン合金は、0.01質量%乃至0.5質量%のマンガンを含む、請求項1に記載の過共晶高圧ダイカストアルミニウム-シリコン合金。
【請求項9】
前記過共晶高圧ダイカストアルミニウム-シリコン合金は、0.05質量%乃至0.1質量%のストロンチウムを含む、請求項1に記載の過共晶高圧ダイカストアルミニウム-シリコン合金。
【請求項10】
前記過共晶高圧ダイカストアルミニウム-シリコン合金は、250MPa超の最大抗張力を有する、請求項1に記載の過共晶高圧ダイカストアルミニウム-シリコン合金。
【請求項11】
前記過共晶高圧ダイカストアルミニウム-シリコン合金は、200MPa超の降伏強度を有する、請求項1に記載の過共晶高圧ダイカストアルミニウム-シリコン合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2013年3月14日に出願された米国特許出願13/828,765の一部継続出願である、2015年7月6日に出願された米国特許出願14/791,646の一部継続出願であり、参照することによって全体が本出願に組み込まれるものである。
【0002】
連邦支援研究または開発分野に関する声明
非適用。
【0003】
コンパクトディスクによる提出材料の参照による援用
非適用。
【背景技術】
【0004】
アルミニウム-シリコン合金の共晶構造の機械的特性を明らかにするための長期研究がなされてきた(米国特許第1,387,900号明細書及び米国特許第1,410,461号明細書参照)。この共晶構造の80年を超える研究の後、僅か濃度100ppmのナトリウムまたはストロンチウムの共晶融液への添加が、共晶シリコン相のサイズ及び形態を変化させ、合金の延性の大幅な増加をもたらすことが、当業者に明らかになった。
【0005】
それでも、過共晶アルミニウム-シリコン合金は、砂型鋳造法において広範に使用されてはおらず、これは、砂型鋳造の冷却速度における初晶シリコン粒のサイズが、金型を使用する鋳造処理の冷却速度におけるものよりも大きく、この合金の機械加工が難しいためである。その結果、許容可能な機械加工性を獲得するために、鋳物の微細構造の制御が要求される。過共晶合金において、許容可能な機械加工性を獲得するには、典型的には、合金融液へリンを添加して初晶シリコン粒のサイズを微細化することにより達成される。しかしながら、リンは、アルミニウムと反応してリン化アルミニウムを形成するよりも、一般的な融液添加物であるストロンチウムやナトリウムとリン化物を形成しやすい。これが問題となるのは、過共晶アルミニウム-シリコン合金の共晶構造において、リン化アルミニウムが初晶シリコン形成の核であるためである。したがって、リン含有過共晶アルミニウム-シリコン合金の共晶構造は、ほとんど常に未修飾である。
【0006】
リン微細化処理、溶体化処理、焼き入れ処理、及び時効処理された過共晶アルミニウム-シリコン構造は、機械加工性の基準となるが、この基準は、一般に、適正に機械加工するためにダイアモンド工具による工作を必要とする。対照的に、ストロンチウムまたはナトリムの添加によって共晶シリコン構造が修飾された共晶アルミニウム-シリコン合金及び過共晶アルミニウム-シリコン合金は、延性が増大し、機械加工が容易となる。しかしながら、過共晶合金構造中の修飾された共晶を未修飾の構造と比較すると、ストロンチウムまたはナトリウムによって修飾された共晶構造は、熱処理状態において、未修飾の構造とほぼ同等の機械加工性を示す。このような同等の機械加工性は、共晶が修飾であるかまたは未修飾であるかにかかわらず、共晶中に共晶シリコン相が連続相として生じることによるものと考えられる。さらに、延性の小さいT6またはT7の熱処理状態が、鋳込みのままの状態と比較して、常に機械加工が容易であるため、卑金属特性が機械加工性に与える影響は非常に大きい。したがって、過共晶アルミニウム-シリコン合金の機械加工性を改善する、予想し得る処理はない。
【0007】
過共晶アルミニウム合金B391(AA B391)は、耐摩耗性のために18~20質量%のシリコンと、強度を増大させる時効応答のために0.4~0.7質量%のマグネ
シウムとを含み、良好な砂型鋳造特性のために最大0.2質量%の鉄及び銅を含む、米国アルミニウム協会(Aluminum Association)によって砂型鋳造用として登録された唯一の過共晶アルミニウム-シリコン合金である。銅の組成を最大で0.2質量%とすることで、(任意の所定のケイ素含有量に関して)、凝固範囲、すなわち液相線と固相線との間の温度差が最小になる。これと比較して、AA 390は、銅の組成が4.5質量%であることを除いて、AA B391と同一の元素の範囲を有している。このように、AA B391の凝固範囲が狭くなるのは、主として、銅の組成が著しく低いことで、AA 390と比較して固相線融点が100°F(37.8℃)程度上昇するからである。
【0008】
AA B391の凝固範囲が狭いことは、溶融合金よりも密度が低い初晶シリコンが、合金中での析出に際して浮き、偏析する可能性が低くなるため、重要である。AA B391の鉄及びマンガンの含有量は低いことが望ましく、特に、低速で凝固する砂型鋳造用過共晶アルミニウム-シリコン合金に関して好ましい。鉄相に生じる針状形態が機械的特性を劣化させるため、AA B391の機械的特性は、低速冷却の間に鉄相が大きく成長すると大幅に劣化する。
【0009】
ニッケルは、歴史的には、第一次世界大戦中に開発されたY合金(4質量%の銅、2質量%のニッケル、1.5質量%のマグネシウム、及び残部のアルミニウム)における必須の元素であった。今日、ニッケルは、米国アルミニウム協会によって登録された3種の合金中のみに、2%と3%の間の濃度で存在する。したがって、AA 242、AA 336、及びAA 393のような幾つかのアルミニウム-銅合金中に、微量成分としてニッケルを使用することは知られており、この元素は、高温における高強度を付与する。AA242は、3.7~4.5質量%の銅、1.2~1.7質量%のマグネシウム、1.8~2.3質量%のニッケル、及び残部のアルミニウムからなる組成を有する。AA 336は、11~13質量%のシリコン、最大1.2質量%の鉄、0.5~1.5質量%の銅、0.7~1.3質量%のマグネシウム、2.0~3.0質量%のニッケル、及び残部のアルミニウムからなる組成を有する。同様に、AA 393は、21~23質量%のシリコン、最大1.3質量%の鉄、0.7~1.1質量%の銅、0.7~1.3質量%のマグネシウム、2.0~2.5質量%のニッケル、及び残部のアルミニウムからなる過共晶組成を有する。
【0010】
さらに、40年以上前に、特に高温での適用に関して、一方向に凝固するAl-NiAl共晶が、繊維強化材料として、多大な関心の対象となった。L.F.Mondolfoの著書「Alminum Alloys:Structure and Properties」(Butterworth Publications Ltd、1976年)の第339頁におけるB.K.Agrawal,Met A 6,152605への参照から分かるように、この共晶では、方向性凝固によって、NiAl繊維が、凝固速度に応じた繊維間の間隔を伴い、成長方向に揃えられた状態で、析出する場合がある。上記の参照では、一方向に凝固するAl-NiAl共晶に、バリウム、セリウム、及びセシウムを添加することによって、凝固パターンがコロニー状から樹枝状に変化することが示されている。また、高温からの焼入れ後の時効では、Al-Ni二元合金に実用的な硬度が生じないことも知られている。
【0011】
しかしながら、アルミニウム-シリコン-マグネシウム鋳造用合金、アルミニウム-シリコン-銅鋳造用合金、アルミニウム-シリコン-銅-マグネシウム合金、またはアルミニウム-銅鋳造用合金に対して、6%に迫る濃度のニッケルを添加することは、研究されていない。これは、2質量%以下のニッケル添加が、一部の鋳物において高温脆性を低減する効果、及び、熱膨張係数を低減する効果を有することが知られているからである。
【0012】
また、米国特許第6,168,675号明細書には、2.5~4.5質量%のニッケルを有する過共晶アルミニウム-シリコン合金が記載されているが、この合金は、最大1.2質量%という非常に高いマンガン含有量、及び、最大1.2質量%の非常に高い鉄含有量を有する。この合金は、車両のディスクブレーキ部品を製造するためのダイカスト法または永久鋳型鋳造法を意図したものである。この合金は、マンガン及び鉄の含有量が高いため、非常に高い重金属含有量を有し、そして重金属が脱落することを防ぐために高い保持温度が必要となる。さらに、高いマンガン含有量は、針状の鉄-アルミニウムβ相を鉄-アルミニウムα相に変態させ、環境温度及び高温度の双方において、降伏強度、引張強度、及び伸長性を増大させるために必要である。高いレベルのマンガン及び鉄により合金に付与される特性にも関わらず、米国特許第6,168,675号明細書の合金は、砂型鋳造、ロストフォーム鋳造、インベストメント鋳造のような低速冷却加工に対して適さない。それは、高いレベルのマンガンを備えている場合でも、大きな針状の鉄相粒子が形成され、これによって凝固の間のフィーディング(給湯)が妨害され、その結果、気孔率が増大し、延性レベルが低下するからである。
【0013】
砂型鋳造法は、複雑な金属製品を鋳造するために益々使用されるようになっている。砂型鋳造法には、ロストフォーム鋳造、加圧ロストフォーム鋳造、生砂型鋳造、結合砂型鋳造、精密砂型鋳造、及びインベストメント鋳造が含まれる。おそらく、最も有益かつ経済的な種類の鋳造法は、加圧ロストフォーム鋳造である。このような方法は、「Method And Apparatus For Lost Foam Casting Of
Metal Articles Using External Pressure」と称する米国特許第6,763,876号明細書に記載されており、その内容は本明細書の一部として援用される。上記の全ての議論は、ニッケル含有の又はニッケル非含有のダイカス合金が、初晶シリコン粒サイズが小さく且つ共晶が修飾されている場合、機械加工可能にすることはできないことを意味するものでなく、これまでに実証されていない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一実施態様は、改善された機械加工特性を有する、ニッケル含有の過共晶アルミニウム-シリコン合金を対象とし、本質的に18乃至20質量%のシリコン、0.3乃至1.2質量%のマグネシウム、3.0乃至6.0質量%のニッケル、最大0.6質量%の鉄、最大0.4質量%の銅、最大0.8質量%のマンガン、最大0.5質量%の亜鉛、及び残部のアルミニウムを含む。本発明の合金のニッケル含量は、4.5質量%乃至6質量%を構成するように変更され得、実質的に鉄及びマンガンを含まないものであり得る。本発明の合金は、特に、銅含有の過共晶アルミニウム-シリコン合金と比較して、さらなる利点を有する。前記利点としては、10気圧(1013kPa)の静水ガス圧下で、Al-NiAl共晶構造による収縮孔の給湯(フィード)の改善、並びに、塩水を含有するウェットガスケット接合に適した、微細構造の成分のミクロンレベルでの、ガルバーニ対適合性(Al-Niガルバーニ対を超える)の改善が挙げられる。
【0015】
本発明は、凝固に際して、Al-NiAl共晶反応を経由し、(ダイカストプロセスの高速冷却とは対象的に)低速冷却で共晶Si相、共晶Al-NiAl相、及び共晶Al相からなる三元共晶の生成を伴い、共晶NiAl相に関して、伸長された針状形態とは異なり、「漢字状(Chinese script)」の圧縮ブロック状形態に類似する、過共晶合金組成を開示する。この微細構造形態は、初晶シリコン粒の輪郭を形成するとともに初晶シリコン粒を仕切りつつ初晶シリコンを取り囲む共晶内に埋め込まれ、一方、通常は機械加工が難しい過共晶アルミニウム-シリコン合金に優れた機械加工特性を付与する共晶を通じた半連続破壊経路を提供する。さらに、本発明の合金は、実質的に鉄及びマンガンを含まないことが重要であり、鉄相及びマンガン相が微細構造内にあると、そ
れらが樹枝状組織内の通路を詰まらせフィード(給湯)を妨げ、10気圧(1013kPa)の静水圧が印加されている場合でも機械加工特性が減少するためである。
【0016】
従って、NiAl3の漢字状の圧縮ブロック状形態は、本発明の合金の微細構造全体にわたって存在し、機械加工特性を向上させ、高温特性の改善を促進する。この発見は、極めて驚くべきことである。一般に、例えば鋼鉄中の硫化物のような、機械加工特性を向上させる微細構造の特徴は、機械的特性を低下させるからである。
【0017】
本発明の過共晶アルミニウム-シリコン合金はまた、エンジンブロック、エンジンヘッド及びピストンといったエンジン部品、特に、塩水中で使用され、それ故、室温並びに高温度の双方において、(低気孔率による)高い耐腐食性と高い機械特性を要求される、エンジン部品のための、ロストフォーム鋳造プロセスで使用されることが見込まれている。
【0018】
従って、本発明の過共晶アルミニウム-シリコン砂型鋳造用合金は、本質的に、18-20質量%のシリコン、0.3-1.2質量%のマグネシウム、3.0-6.0質量%のニッケル、最大0.8質量%の鉄、最大0.4質量%の銅、最大0.6質量%のマンガン、最大0.5質量%の亜鉛、並びに残部のアルミニウムからなる。あるいは、銅含量は、最大0.2質量%の銅、鉄含量は最大0.6質量%の鉄、亜鉛含量は最大0.1質量%の亜鉛とし得る。あるいは、本発明のアルミニウム-シリコン砂型鋳造用合金は、本質的に、18-20質量%のシリコン、0.3-0.7質量%のマグネシウム、3.0-6.0質量%のニッケル、最大0.2質量%の鉄、最大0.2質量%の銅、最大0.3質量%のマンガン、最大0.1質量%の亜鉛、並びに残部のアルミニウムからなり得、加圧ロストフォーム鋳造法を使用して砂型鋳造されるものであってもよい。さらに、本発明の過共晶アルミニウム-シリコン合金は、本質的に、18-20質量%のシリコン、0.3-1.2質量%のマグネシウム、4.5-6.0質量%のニッケル、最大0.8質量%の鉄、最大0.4質量%の銅、最大0.6質量%のマンガン、最大0.5質量%の亜鉛、並びに残部のアルミニウムからなり得る。
【0019】
本発明に係る過共晶アルミニウム砂型鋳造用合金が鋳造される場合、次に列挙した砂型鋳造法のうちの1つが選択される。それらは、ロストフォーム鋳造、加圧ロストフォーム鋳造、生砂型鋳造、結合砂型鋳造、精密砂型鋳造、またはインベストメント砂型鋳造である。
【0020】
一実施態様において、本発明に係る過共晶アルミニウム-シリコン砂型鋳造用合金は、共晶Si、共晶NiAl、及び共晶Alからなる三元共晶中に、初晶シリコン粒が埋め込まれ、T6熱処理された微細構造を有しており、非溶体化MgSi相及び漢字状の圧縮ブロック状形態のCuNiAlは実質的に含まれていない。この実施態様の合金において、共晶NiAl相の量は5質量%乃至15質量%であり、さらに5質量%乃至14.3質量%である。さらに、共晶CuNiAl相は、1質量%未満で存在する。
【0021】
上述したように、本発明の過共晶アルミニウム-シリコン砂型鋳造用合金のニッケル組成は、4.5-6.0質量%に狭められ得る。この組成が使用されると、合金は、Al-Si及びAl-NiAlの共晶中に初晶シリコン粒が埋め込まれ、T6熱処理された微細構造を有し、そして微細構造は、一般に、非溶体化MgSi相及び漢字状のCuNiAlを実質的に含まず、共晶NiAl相の量は10質量%より多い。
【0022】
過共晶アルミニウム-シリコン砂型鋳造用合金の組成比に対して、さらなる調整をすることもできる。特に、鉄含量は、最大で0.2質量%に低減され得;銅含量は最大で0.2質量%に低減され得;マンガン含量は最大で0.3質量%に低減され得;そしてマグネシウム含量は0.7-1.2質量%に変更され得る。さらに、最大2質量%のニッケルが
、最大2質量%のコバルトに置換され得る。また、合金には、結晶粒またはシリコンの微細化元素が添加され得る。好ましくは、結晶粒またはシリコンの微細化元素は、チタンまたはリンの何れかである。
【0023】
本発明の過共晶アルミニウム-シリコン砂型鋳造用合金が、加圧ロストフォーム鋳造法を使用して鋳造される場合、該合金は、好ましくは、本質的に、18-20質量%のシリコン、0.3-7質量%のマグネシウム、3.0-6.0質量%のニッケル、最大0.2質量%の鉄、最大0.2質量%の銅、最大0.3質量%のマンガン、最大0.1質量%の亜鉛、並びに残部のアルミニウムからなる。合金は、微細化のために、さらに、0.005質量%-0.1質量%の範囲でリン化合物を含み得る。好ましくは、その内容が本明細書の一部として援用される米国特許第6,763,876号明細書の手順に従って、溶融鋳金に圧力が印加される。最も好ましくは、圧力は、溶融液体金属源を高分子発泡体パターンに連結する、高分子発泡体ゲートシステムの融除(アブレーション)の後、但し、溶融金属が高分子発泡体パターンを完全に融除する前に、印加される。圧力は、5.5~15気圧(557.3~1520kPa)の範囲で、12秒毎に1気圧(101.3kPa)の速度よりも高速で印加される。高分子発泡体パターンは、本発明の改善されたガルバーニ対適合性を生かす、ほぼ任意の構成を有することができ、最も好ましくは、このパターンは、塩水環境で動作するエンジンで使用される、内燃機関のエンジンヘッド、ピストン、またはエンジンブロックである。本発明に係る過共晶アルミニウム-シリコン砂型鋳造用合金で鋳造された内燃機関のエンジンブロックは、0.5%未満の気孔率を示す。
【0024】
ロストフォーム鋳造の結果として生じる構造は、アルミニウム-シリコン共晶の混合物中に埋め込まれた初晶シリコン粒を含み、ここで共晶シリコン相は未修飾であり、アルミニウム-NiAl共晶が存在し、さらに、NiAl相は漢字状の圧縮ブロック状形態を有しており、合金に対して改善された機械加工性を付与する。特に、NiAlの質量割合が初晶シリコン相の質量割合を超えた場合、この合金は、機械加工における低エネルギー破壊経路を提供し、機械加工性が改善される。この合金の機械加工性は、ニッケル組成が3質量%からニッケル6質量%まで増大すると、共晶中のNiAlの質量割合が7%から14%まで対応して増大するため、線形に向上する。本発明に係る過共晶アルミニウム-シリコン砂型鋳造用合金は、米国特許第6,763,876号明細書の鋳造法を用いて鋳造され、該合金は、砂型鋳造における冷却の典型的な速度で冷却される。このような合金の微細構造は、その合金がダイカストを使用して鋳造された場合よりもコアリング(coring)が少なく、かつ、有利なことに、気孔率は通常1%未満である。
【0025】
本発明に係る過共晶アルミニウム-シリコン合金を、他の種類の鋳造法で使用することも考えられる。この場合、ニッケル組成を4.5~6.0質量%とし、対応して鉄組成を最大0.8質量%とする必要がある。このような合金は、上述した砂型鋳造法だけでなく、ダイカスト法、永久鋳型鋳造法、または砂中子を備えた半永久鋳型鋳造のいずれかで使用され得る。このような合金は、共晶Si、共晶NiAl、及び共晶Alからなる三元共晶中に埋め込まれ、T6熱処理された、初晶シリコン粒の微細構造を有し、共晶Alは、一般に、非溶体化MgSi相、並びに、漢字状の圧縮ブロック状形態にあるCuNiAlを含まない。共晶NiAl相の量は、5質量%乃至15質量%であり、NiAl相は、漢字状の圧縮ブロック状形態を有する。
【0026】
他の実施態様において、上記合金に0.03-0.2質量%のストロンチウムが添加され得る。そのような一実施形態では、この合金は、18-20質量%のシリコン;3-6質量%のニッケル;及び0.03-0.20質量%のストロンチウムを含み、不純物が存在し得ることが認識されるほかは、積極的な鉄、銅またはマンガンは添加されないというように、該合金は実質的に鉄、銅及びマンガンを含まない。別の実施態様において、該合金は、本質的に18-20質量%のシリコン、3-6質量%のニッケル、0.3-1.2
質量%のマグネシウム、0.03-0.20質量%(あるいは0.03乃至0.18質量%)のストロンチウム、及び残部のアルミニウムからなり、該合金は実質的に鉄、銅及びマンガンを含まない。合金は、ダイ溶着を防ぎ、20ミクロン未満サイズの初晶シリコン粒を有する微細構造を有し、2%を超える伸長性を有する。
【0027】
ストロンチウムの添加を有する他の実施態様は、最大0.4質量%の鉄、0.01乃至1.0質量%の鉄又は0.01乃至1.2質量%の鉄を可能にする。さらに、ストロンチウムを含むこれらの実施態様は、0.1質量%-2.0質量%のニッケルが0.1質量%-2.0質量%のコバルトで置換され得る。さらに他の実施態様は、合金が14-20質量%のシリコン;0.03-0.20質量%のストロンチウム;0.1-1.2質量%の鉄を含み得;下記の例示的なレベルで不純物が存在し得ることが認識されるほかは、積極的な銅の添加はなされないというように、該合金は実質的に銅(例えば0.20質量%未満)及びマンガン(例えば0.30質量%未満)を含まない。0.40-0.70質量%のマグネシウムが、本合金のこの実施態様に添加され得る。該合金は、実質的に銅及びマンガンを含まず、ダイ溶着を防ぎ、20ミクロン未満サイズの初晶シリコン粒を有する微細構造を有し、2%を超える伸長性を有する。さらに、ニッケル組成はゼロ、又は3-6質量%であり得る。本明細書で説明するように、銅を実質的に含まないために、ニッケル含有又は非含有である、この合金の実施態様は、初晶シリコンのより均一な分布及びより効果的な耐摩耗性に寄与することとなる、高い固相線温度と狭い凝固範囲を有する。
【0028】
さらに他の実施態様において、16質量%乃至23質量%のシリコン、0.01質量%乃至1.5質量%の鉄、0.01質量%乃至0.6質量%のマンガン、0.01質量%乃至1.3質量%のマグネシウム、0.05質量%乃至0.20質量%のストロンチウム、及び残部のアルミニウムを含む、高圧ダイカス過共晶アルミニウム-シリコン合金が開示される。この合金はまた、0.01質量%乃至4.5質量%のニッケルを含有し得、但しニッケル組成はまた除外され得る。鉄の組成は0.01質量%乃至0.7質量%に、あるいは0.01質量%乃至0.2質量%に変更され得る。マンガンの組成は、0.01質量%乃至0.5質量%に変更され得る。ストロンチウムの組成は0.05質量%乃至0.1質量%に変更され得る。この実施態様は、高圧ダイカスト冷却速度で冷却されるとき、
重要な構造上の、及び微細構造上の利点を示す。特に、構造上の利点としては、少なくとも2%の伸長性、250MPaを超える平均最大抗張力、及び、200MPaを超える降伏強度が挙げられる。この高圧ダイカスアルミニウム-シリコン合金の微細構造は、10%を超える、一実施態様においては10%乃至20%の、初晶シリコンの体積分率、45%乃至90%の修飾されたアルミニウム-シリコン共晶の体積分率を有し、そして残部の初晶アルミニウムの微細構造を有する。微細構造の利点としては、分離共晶アルミニウムによって取り囲まれている初晶シリコンの体積分率、繊維状共晶シリコン相を含む、修飾された共晶によって取り囲まれている初晶シリコンの体積分率、及び、15μm未満の樹枝状平均アーム間隔を有する樹枝状の初晶アルミニウムが挙げられる。アルミニウム樹枝状晶を取り囲む修飾された共晶を含む、初晶アルミニウムの体積分率は、初晶シリコンの体積分率よりも大きい。また、初晶アルミニウムの樹枝状アーム間隔は、平均シリコン粒子サイズよりも大きい。
【0029】
ストロンチウムを添加した全ての実施態様がダイカス合金であり、高圧ダイカスト法(HPDC)などの任意のダイカスト法を用いて、ダイ溶着を防ぎながら、ダイカストされ得る。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1はAl-Si二元相図(状態図)を示す図である。
図2図2は、Al-Si-NiAl三元系の三相平衡の三角図である。
図3図3は、十分にアニール(焼き入れ処理)(100時間、1000°F(537.8℃))されたニッケル非含有のAl-Si合金に関する応力/ひずみ曲線を示す図である。
図4図4は、引張試験片向けに、永久モールドで鋳造された、リンで微細化され、ストロンチウム非含有の“鋳込みのまま”の過共晶アルミニウム-シリコン合金の微細構造を示す図である。
図5図5は、引張試験片向けに、永久モールドで鋳造された、リンで微細化され、ニッケルを含有するがストロンチウム非含有の“鋳込みのまま”の過共晶アルミニウム-シリコン合金の微細構造を示す図である。
図6図6は、引張試験片向けに、永久モールドで鋳造された、図4のリンで微細化され、ストロンチウム非含有の“鋳込みのまま”の過共晶アルミニウム-シリコン合金を、十分にアニール(焼き入れ処理)(100時間、1000°F(537.8℃))した、微細構造を示す図である。
図7図7は、引張試験片向けに、永久モールドで鋳造された、図5のリンで微細化され、ニッケルを含有するがストロンチウム非含有の“鋳込みのまま”の過共晶アルミニウム-シリコン合金を、十分にアニール(焼き入れ処理)(100時間、1000°F(537.8℃))した、微細構造を示す図である。
図8図8は、0.05%のストロンチウムを含む本発明の合金の微細構造を示す図であり、高度に微細化された初晶シリコン微細構造が示されている;初晶シリコン体積分率は約20%、あるいは、従来の過共晶Al-Si合金のほぼ2倍であり、初晶シリコンは分離共晶アルミニウム相によって取り囲まれている;修飾共晶は初晶アルミニウム樹枝状晶を取り囲んでいる;初晶アルミニウムの体積分率は初晶シリコンの体積分率よりも大きい。
図9図9は、わずか0.016%のSrが添加された、100gの溶融AA 391合金の永久モールドへの重量注ぎにより製造された、ボタン型のスペクトロメーター試料(直径6.5cm、厚さ7mm)の微細構造を示す図である;初晶シリコン粒サイズは100ミクロンである。
図10図10は、0.030%のSrが添加された、100gの溶融AA 391合金の永久モールドへの重量注ぎにより製造された、ボタン型のスペクトロメーター試料(直径6.5cm、厚さ7mm)の微細構造を示す図であり、図8の微細構造とは異なる。
図11図11は、Al-Si-Fe系に関する三元相図(状態図)を示す図であり、C°の液相面を示す。
図12図12は、0.04質量%のストロンチウムが添加された、100gの本発明の溶融合金の、重量注ぎにより製造された、ボタン型のスペクトロメーター試料(直径6.5cm、厚さ7mm)の微細構造を示す図である。
図13図13は、0.06質量%のストロンチウムが添加された、100gの本発明の溶融合金の、重量注ぎにより製造された、ボタン型のスペクトロメーター試料(直径6.5cm、厚さ7mm)の微細構造を示す図である。
図14図14は、0.09質量%のストロンチウムが添加された、100gの本発明の溶融合金の、重量注ぎにより製造された、ボタン型のスペクトロメーター試料(直径6.5cm、厚さ7mm)の微細構造を示す図である。
図15図15は、0.18質量%のストロンチウムが添加された、100gの本発明の溶融合金の、重量注ぎにより製造された、ボタン型のスペクトロメーター試料(直径6.5cm、厚さ7mm)の微細構造を示す図である。
図16図16は、0.05質量%のストロンチウムと4質量%のニッケルが添加された、100gの本発明の溶融合金の、重量注ぎにより製造された、ボタン型のスペクトロメーター試料(直径6.5cm、厚さ7mm)の微細構造を示す図である。
図17図17は、図8の微細構造を示す合金に関する凝固シーケンスを示す、アルミニウム-シリコン相図(状態図)を示す図である。
図18図18は、以下の組成:20.4質量%のSi、0.65質量%のMg、0.26質量%のFe、0.07質量%のCu、0.04質量%のMn、0.022質量%のSr、及び残部のアルミニウムを有する、キャリアスプール(carrier spool)鋳造が課された、高圧ダイカストの微細構造を示す図である。
図19図19は、Al-Ni二元相図(状態図)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の過共晶アルミニウム-シリコン砂型鋳造用合金は、好ましくは、以下の組成を質量百分率にて有する:18-20%のシリコン、0.3-1.2%のマグネシウム、3.0-6.0%のニッケル、最大0.8%の鉄、最大0.4%の銅、最大0.6%のマンガン、最大0.5%の亜鉛、平衡アルミニウム。あるいは、銅含量は最大0.2質量%、鉄含量は最大0.6質量%、そして亜鉛含量は最大0.1質量%とし得る。
【0032】
本発明の過共晶アルミニウム-シリコン砂型鋳造用合金は、4.5-6.0質量%のより狭いニッケル含量;最大0.2質量%のより狭い鉄含量、最大0.2質量%のより狭い銅含量;最大0.3質量%のより狭いマンガン含量、及び、0.75-1.2質量%のより狭いマグネシウム含量を有し得る。さらに、最大2.0質量%のニッケルは最大2.0質量%のコバルトと置き換えられ、チタンやリンといった結晶粒微細化元素が添加され得る。
【0033】
本発明の合金は、ロストフォーム鋳造、加圧ロストフォーム鋳造、生砂型鋳造、結合砂型鋳造、精密砂型鋳造、またはインベストメント鋳造のような、既知の砂型鋳造手段を用いて、砂型鋳造され得る。過共晶アルミニウム-シリコン合金が、加圧ロストフォーム鋳造プロセスを用いて鋳造される場合、この合金は、質量百分率で、以下の組成を有し得る:18-20%のシリコン、0.3-0.7%のマグネシウム、3.0-6.0%のニッケル、最大0.2%の鉄、最大0.2%の銅、最大0.3%のマンガン、最大0.1%の亜鉛、及び残部のアルミニウム。有益な加圧ロストフォーム鋳造法は、米国特許第6,763,876号明細書に記載される。微細化剤としてリンを添加する場合、リンは、0.005質量%-0.1質量%の範囲で組成物に添加する必要がある。
【0034】
あるいは、本発明の過共晶アルミニウム-シリコン合金は、質量百分率で、以下の組成を有し得る:18-20%のシリコン、0.3-1.2%のマグネシウム、4.5-6.0%のニッケル、最大0.8%の鉄、最大0.4%の銅、最大0.6%のマンガン、最大0.5%の亜鉛、及び残部のアルミニウム。この合金は、上述した従来の砂型鋳造法だけでなく、ダイカスト法、永久モールド(鋳型)鋳造法、及び、中子砂を備えた半永久モールド(鋳型)鋳造法にての使用に適する。この代わりの合金は、0.3-0.7質量%のマグネシウム;最大0.6質量%の鉄、最大0.2質量%のマンガン、最大0.2質量%の銅;最大0.1質量%の亜鉛を含むように変更され得る。さらに、最大0.2質量%のニッケルを、最大0.2質量%のコバルトで置き換えてもよい。さらに組成は、0.75-1.2質量%のマグネシウム、または、最大0.2質量%の鉄を含むように変更され得る。
【0035】
別の代替案として、本発明の過共晶アルミニウム-シリコン合金は、質量百分率で以下の組成を有し得る:18-20%のシリコン、0.3-1.2%のマグネシウム、3-6%のニッケル、0.03-0.20%のストロンチウム、及び残部のアルミニウムを含み、前記合金は、鉄、銅及びマンガンを実質的に含まない。 言い換えると、鋳物素材中の不純物として存在し得るほかは、積極的な鉄、銅またはマンガンの添加はなされない。米国特許第7,666,353号明細書(参照により本書に組み込まれる)にて議論されたように、0.03-0.20%のストロンチウムの添加は、高圧ダイカスト法(HPDC)などの任意のダイカスト法において、ダイカストダイへのダイ溶着を防ぐ。ここで、驚くべきことに、18-20%のシリコン、3-6質量%のニッケル、及び0.3-1.2質量%のマグネシウムを含み、実質的に鉄、銅及びマンガンを含まない過共晶合金への、0.03-0.20質量%のストロンチウムの添加が、ダイ溶着を防ぐことが見出された。そのようなダイカス合金はまた、ダイカストに延性を与え、結果として、鋳造物が、他の如何なる過共晶アルミニウム-シリコン合金よりも、高い伸長性を示す。ストロンチウムが添加されたこの過共晶合金は、ニッケル添加とは異なる利点を示し、増強された機械加工性をもたらす。
【0036】
他の実施態様において、過共晶ダイカス合金は、0.05-0.10質量%のストロンチウムを含み得る。該合金はまた、4.5-6.0質量%のニッケル組成を有する。ま
た、0.1-2.0質量%のニッケル組成は、0.1-2.0質量%のコバルトで置き換えられ得る。
【0037】
さらに他の実施態様において、過共晶ダイカス合金は、18-22質量%のシリコン、0.03-0.20質量%のストロンチウム、3-6質量%のニッケル、最大0.4質量%の鉄、そして残部のアルミニウムを含む。他の実施態様において、鉄の組成は、0.01-0.40質量%である。他の実施態様において、ニッケル組成は、4.5-6.0質量%であり得る。重ねて、0.1-2.0質量%のニッケルは、0.1-2.0質量%のコバルトで置き換えられ得る。そのような合金は、不純物を除いて、銅及びマンガンを実質的に含まない。
【0038】
さらなる実施態様において、合金は、14-20質量%のシリコン;0.03-0.20質量%のストロンチウム;0.1-1.0質量%の鉄;及び残部のアルミニウム含み、該合金は、下記の例示的レベルで不純物が存在し得ることが認識されるほかは、明確な銅の添加はされないというように、銅(例えば0.20質量%未満)及びマンガン(例えば0.30質量%未満)を実質的に含まない。0.40-0.70質量%のマグネシウムが、この実施態様の合金に添加され得る。さらに、ニッケル組成は、ゼロ、または、3-6質量%ニッケルであり得る。
【0039】
予期せぬことに、0.03-0.20質量%のストロンチウムを含む上記の参照合金は、非常に微細な初晶シリコン粒を有する過共晶アルミニウム-シリコン微細構造をもたらすことが見出された。本発明以前は、リンは、小さな初晶シリコン粒サイズのための核として必要であったが、リンとストロンチウムは互いに反応し合うことから、ストロンチウムはこうした共晶シリコンの修飾に使用できなかったため、過共晶アルミニウム-シリコン合金の微細構造は、脆い傾向があった。さらに、0.03%未満の範囲でのストロンチウムの添加は、初晶シリコン粒サイズを増加させるとされ、そして機械加工の間、全ての初晶シリコン粒がクラックし、非常に弱い鋳造物をもたらすと、一般に理解されていた。本出願は、驚くべきことに、ストロンチウムを0.03質量%-0.20質量%の範囲で過共晶アルミニウム-シリコン合金に添加した場合、ほとんどすべての初晶シリコン合金が、30ミクロン未満サイズの、不規則で、小さな初晶シリコン粒に崩壊したことを、発見した。0.03-0.20質量%のストロンチウムの添加により、初晶シリコンと共晶シリコンの双方が、それぞれ、そして意外なことに、小さな初晶シリコン粒サイズに微細化され、共晶シリコンが針状形態から繊維状形態に修飾されたため、得られた鋳造物は、鋳込みのままの状態にて、2%超の伸長性を示した。これらの劇的な変化に加え、予期せぬことに、15ミクロン未満の樹枝状二次アーム間隔(DAS)を有する、非平衡の初晶アルミニウム樹枝状晶が、かなりの体積分率にて、微細構造中に現れた。共晶Si及び共晶Alが倍率100Xの顕微鏡下で分割不可能であるほどに、共晶構造は十分に修飾された。3-6質量%のニッケルの添加により、さらに、上記参照合金の機械加工性は増強される。
【0040】
図4-7に戻り、これらに、標準引張試験片用ヒンジ付きモールド内で形製造された、2インチのゲージ長を有する0.5インチ直径の引張試験片からの微細構造を示す。溶融
金属のモールドへの重量注ぎの間、ヒンジ付きモールドは閉じられ、引張試験片が凝固した後、ヒンジ付きモールドを開けることにより引張試験片鋳造物の取り出しを成し遂げた。この標準引張試験片の永久モールド(鋳型)の冷却速度は、20℃/秒と推定され、図9-10及び図12-16に示す、100グラムのボタン型のスペクトロメーター試料とほぼ同じである。
【0041】
図4-7は、引張試験片向けに、永久モールド(鋳型)で鋳造された、リンで微細化され、ストロンチウム非含有の“鋳込みのまま”の過共晶アルミニウム-シリコン合金の微細構造である。図4及び図6は、以下の特定の組成を有する合金を示す:20%のSi;1.1%のFe;0.55%のMg;鉄、銅及びマンガンを実質的に含まない(0%のFe、0.08%のCu、0.25%のMnと測定された)。図4図6の顕微鏡写真の違いは、図4は“鋳込みのまま”の合金を示し、図6は1000°F(537.8℃)で100時間、十分にアニール(焼き入れ処理)した後の合金を示す。図5及び図7は、4%のニッケルを添加したほかは、図4及び図6と同じ合金の微細構造を示す。同様に、図5及び図7の顕微鏡写真の違いは、図5は“鋳込みのまま”の合金を示し、一方、図7は1000°F(537.8℃)で100時間、十分にアニール(焼き入れ処理)した後の合金を示す。図4から図7の共通点は、初晶シリコンの形状形態が規則正しく(すなわち、シリコンの多角形が4から6の辺を有する)、合金はリン処理をされて初晶シリコン粒サイズを微細化するため、平均初晶シリコン粒サイズが約30ミクロンであり、そして、2種の鋳込みのままの微細構造においては、共晶内の共晶シリコン形態が針状であるか未修飾であった。さらに、十分にアニール(焼き入れ処理)した後の試料における初晶シリコンのへり(境界)は、1000°F(537.8℃)で100時間によって、“鋳込みのまま”試料の初晶シリコンと比べて丸みを帯び、この熱処理が形状形態において球状である共晶シリコンを生じさせた。上記のリン処理された微細構造は、本発明のストロンチウム処理された微細構造に対する基準となる。
【0042】
図4の非ニッケル合金は、30.0ksi(または207MPa)のUTS、27.0ksi(または186MPa)の降伏強度、及び0.5%の伸長性を示した。図5のニッケル含有合金は、32.2ksi(または222MPa)のUTS、28.7ksi(または198MPa)の降伏強度、及び0.5%の伸長性を示した。400°F(または205℃)にて、ニッケル非含有の合金の降伏強度は27ksi(または186MPa)から22ksi(または155MPa)に降下したが、ニッケル含有合金は降下せず28.0ksi(または193MPa)にとどまった。熱的に生産するための、十分にアニール(焼き入れ処理)した条件(1000°F(537.8℃)、100時間)において、ニッケル非含有の合金に関して、最適な伸長性が図6に示され、17.5ksi(または121MPa)のUTS、12.0ksi(または83MPa)の降伏強度、及び1.7%の伸長性の結果となった。1000°F(537.8℃)で100時間、十分にアニール(焼き入れ処理)した場合、図7のニッケル含有合金は、18.0ksi(または124MPa)のUTS、12.3ksi(または85MPa)の降伏強度、1.7%の伸長性を示した。その結果、十分にアニール(焼き入れ処理)した試料は、ストロンチウムを含有する本発明のダイカス合金に伸長性の基準を提示する。
【0043】
高圧ダイカスト法に関して、望ましい初晶シリコンサイズは20ミクロンである。この望ましい微細構造は、初晶シリコンがリン微細化されることを必要とする。すなわち、リン化アルミニウムにおける多量の核形成部位の生成と、ダイカストの高速冷却速度(すなわち、80C/秒)を必要とする。リン化ストロンチウムまたはリン化ナトリウム化合物は、熱力学的に、リン化アルミニウムよりも安定であり、ストロンチウムまたはナトリウムがリン化合物よりも多くの濃度で溶融物に存在している場合、初晶シリコンの結晶粒粗大化が起こるといった問題が生じる。さらに、50ミクロン大の粒子サイズの初晶シリコン粒は、一般に、機械加工の間、大規模にクラックする。高圧ダイカスト法において、よ
って、25-35ミクロンの粒子サイズが目標である。
【0044】
図4において、初晶シリコン粒サイズは20乃至60ミクロンであり、平均約30ミクロンである。共晶シリコンの形態は、針状(または非修飾であり、よって繊維状や修飾されていない)である。300ppmのリンは、生成された多くのリン化アルミニウム(AIP)の各々においてシリコンの単一核形成を引き起こし、それは、規則的な形をした形態の初晶シリコン粒をもたらす。永久モールド(鋳型)ダイへのコーティングは、高圧ダイカスト法と比較して、鋳造物の冷却が遅く、初晶シリコン粒の平均サイズは約30ミクロンであり、0.5%の伸長性の結果をもたらす。
【0045】
図4の合金にニッケルを4質量%添加することにより、図5の微細構造が得られる。初晶シリコン粒は、ブロック状の規則的な形態を有し、初晶シリコン粒のサイズは20乃至60ミクロンであり、平均約30ミクロンである。共晶シリコンの形態は、針状であり(非修飾あるいは繊維状)、三元共晶NiAl相(右手側下部に主として位置する)は、初晶NiAl相ではない。リンは、生成されたAIP粒上と規則的な形状の粒上にシリコンの単一核形成を生じさせる。繰り返すが、永久モールド(鋳型)ダイへのコーティングは、高圧ダイカスト法と比べ、鋳造物の冷却は遅く、その結果、初晶シリコン粒の平均サイズは約30ミクロンであり、0.5%の伸長性となる。
【0046】
図6及び図7に戻り、図7のニッケル含有合金は、図6のニッケル非含有の合金における共晶シリコン粒より、顕著に小さな共晶シリコン粒を有する。しかし、より重要なことは、図7のニッケル含有合金に関して、共晶NiAl粒は、共晶シリコン粒よりも小さく、図6のニッケル非含有合金における共晶シリコン粒よりも遥かに小さい。100時間で1000°F(537.8℃)の温度は、共晶シリコン相と共晶NiAl相の双方を破壊するのに十分に高く、共晶NiAl相の成長は生じさせずに、共晶シリコン相の成長を生じさせることが明確であることから、これは非常に意味のある微細構造である。結果として、ニッケル含有合金は、高い温度特性を有する。
【0047】
この適用を通して、機械特性が報告される。図3は、引張試験が実施される際に、もたらされた典型的なチャートを示す。より具体的には、図3は、十分にアニール(焼き入れ処理)された(1000°F(537.8℃)、100時間)ニッケル非含有合金の応力-ひずみ曲線である。単位ksiの応力が縦軸に特定され、ひずみ%が横軸に特定される。赤線の傾きは弾性係数を表し、0.20%のずれた青線の傾きが、応力-ひずみ曲線と交差するところが降伏強度である。引張試験片が切れた所が最大抗張力(またはUTS)である。
【0048】
これらの結果において、機械特性を改善するが、より多くの初晶NiAl相を破壊するには十分でない、1000°F(537.8℃)で100時間の処理が、共晶NiAl3相を破壊するのに十分すぎるほどであるという結果は、さらに重要である。従って、ストロンチウムとともにニッケルを含有し、微細構造中に三元共晶NiAl相を含むが、初晶NiAl相は含まない、本発明の合金は、多くの異なる種類の鋳造物に使用されるための顕著な潜在可能性を秘めている。
【0049】
さらなる予期せぬ結果が、ストロンチウムを0.03乃至0.2質量%にて合金に添加した際に起こった。図8は、下記特定の組成を有する、鋳造エンジンブロックから抜き出した引張試験片の“鋳込みのまま”の微細構造を示す:19.2質量%のSi;0.05質量%のSr;0.7質量%のFe;0.46質量%のMg、残余のアルミニウム。該合金は、実質的に銅及びマンガンを含まず(0.09%のCu、0.24%のMnが測定された)、わずかに偶発的な量のニッケルが0.05質量%にて見出された。この鋳造物からの3つの引張試験片は、38.1ksi(263MPa)の平均UTS、30.0ks
i(207MPa)の降伏強度、及び2.1%の伸長性であることを示し、これは典型的な過共晶Al-Si合金の伸長性0.5%の4倍であり、十分にアニール(焼き入れ処理)された従来の過共晶Al-Si合金の伸長性よりも大きい。
【0050】
図8において、初晶シリコンの形態は、予想外に“規則的”でなく、より小さくより不規則であり、初晶シリコンが微細かつ小さいサイズであり、10ミクロン未満の平均サイズ、あるいは、高圧ダイカスト法にて従来のリン微細化初晶シリコンにおいて期待される最良以上の結果よりも小さいために、優れた機械加工性の機会を示す。さらに、高い耐摩耗性のための大部分の初晶シリコンが存在する。さらに、共晶は、予期せぬことに、非常に大きな過冷却の間におそらく修飾され、顕著により高い初晶アルミニウム樹枝状晶の体積分率を伴う初晶アルミニウム樹枝状晶に関する10ミクロン以下の樹枝状(デンドライト)二次アーム間隔(SDAS)と、分解された初晶シリコン粒のクラスター間の共晶に分割できない繊維状に修飾された初晶シリコンとを生じさせる。
【0051】
典型的に、過共晶Al-Si合金の初晶シリコン相は、これら合金に存在する不純物によって直ちには核形成されない。結果として、永久モールド鋳造において、核形成のためにダイカストにおいて頻繁に、リンは過共晶Al-Si合金溶融物に添加される。上述したように、リン(約100乃至500ppmの量)は液状アルミニウムと反応して、シリコンと非常によく似た結晶構造を有し、効果的な不均質核形成剤として作用する、AIPを形成する。しかしながら、リン化ストロンチウム並びにリン化ナトリウムは、リン化アルミニウムよりもより安定な化合物であり、そのため、ストロンチウムまたはナトリウムが溶融物に添加される際に、初晶シリコンの粗大化が予期される。
【0052】
図9中の微細構造は、この推論(すなわち、ストロンチウムの添加が初晶シリコンサイズを増加させる)の科学的論理が受け入れられることを示す。0.016%のストロンチウムの添加により、初晶シリコンサイズは3倍の大きさとなった。図9は、0.03質量%ストロンチウムのもと、過共晶合金が規則的なブロック状の初晶シリコン粒の90ミクロンサイズのサイズ形態を有していることを示す。図9に示すように、A356のように過共晶合金を修飾するのに必要とされる典型的なストロンチウム量は、初晶シリコンを粗大化させ、しかし、初晶シリコンは自身のブロック状の規則的な形状形態を維持する。図4-7に示す、共晶シリコンの科学的修飾が存在しない、0%ストロンチウムの、リンで微細化された、30ミクロンサイズで生じた初晶シリコンと比較して、0.016%のストロンチウムは、共晶シリコン相の修飾に効果的であり、初晶シリコン形態は、自身のブロック状の規則的な形状形態を維持し、ただし大きな対価が支払われ、この初晶シリコンサイズは、3倍大きく90ミクロンであり、伸長性は0.5%以下となる。実際、0.001%から0.03%直下のストロンチウムの添加は、図9に示すように、初晶シリコン粒のサイズを増加させる。従って、当業者であれば、ストロンチウムの添加を増加させることにより、初晶シリコンサイズの増加が続くと予期するであろう。しかし、驚くべきことに、図8、10及び12に示されたことは、ストロンチウムが0.03質量%以上添加されると、あたかも爆発したかのように、初晶シリコンは砕け崩壊し、不規則な形状の形態を有する、より小さな初晶シリコン粒サイズとなり、且つ共晶シリコンは修飾される。
【0053】
図8に示すように、0.05乃至0.2質量%のストロンチウムの添加により、顕微鏡写真は、15ミクロン未満の微細化された初晶シリコン粒サイズを有する微細構造を提示する。これは、初晶シリコンのリンの微細化を伴う従来のダイカスト法で製造された最も良好なシリコン粒サイズのほぼ半分である。0.016%のストロンチウムを有する図9の微細構造とは異なり、図8の微細構造は、個々の出発初晶シリコン粒が、15ミクロン未満の4または5つのより小さいピースに砕けたことを示す。さらに、本発明の合金は、本質的に繊維状である共晶シリコン形態を有する、修飾された共晶を示す。微細化された初晶シリコンと、修飾された共晶シリコンの組み合わせは、これまで鋳造物の製造におい
て提示されておらず、2%の伸長性を超えた、すなわち、ストロンチウム非含有の従来の共晶Al-Si合金の4倍の伸長性であり、生産部品において伸長性の要因となる。
【0054】
さらに、18-20%シリコンを含む典型的な過共晶391合金において、共晶として凝固する平衡質量分率は、およそ91%である。これは、初晶シリコンとして凝固するおよそ9%よりも、相当に大きい。本発明に関して、共晶内で、ストロンチウムによる共晶シリコンの修飾は、合金質量の9%を示すリンによる初晶シリコンの微細化に比べて、合金質量の91%を示す微細成分の相当な部分に影響を与える。共晶内の共晶シリコンの修飾を推進する、この10対1比率は、少なくとも引っ張り特性については関与し、初晶シリコン相の予期される相当量の粗大化を補う以上のものとなる。UTS(25%)、降伏強度(10%)、伸長性(400%)及び品質係数(250%)における顕著な増加は、本発明に従い共晶シリコンが修飾される際に、本発明者らにより見出された。しかし、ダイカスト方法が使用されない場合、そして三元共晶NiAl相を有する4%ニッケル合金が使用されない場合、粗い初晶シリコンに関する機械加工性がより問題になることは、当業者であれば認識するであろう。
【0055】
図10及び12-16はまた、セル境界がサブミクロンサイズのAlSrで装飾されているように見えるため、明らかに共晶セルを示す。最も小さい共晶セルサイズは約65ミクロンであり、最大のものは約200ミクロンであり、平均は約100ミクロンである。絶えず変化する共晶の修飾の理論において、2002年7月、オーストラリア、ブリスベン、クィーンズランド大学のS.D.マクドナルドの博士論文によれば、現在認められている理論は、共晶シリコンの修飾は、亜共晶Al-Si合金のセルサイズが10倍に増加するのに伴って起こる。しかし、このセルサイズは、セル境界がCuAl相、または、AlFeSi相のベータ板状晶の何れかで装飾されている、亜共晶Al-Si-Cu[-Fe]合金でのみみられる。よって、セルサイズの証拠は2002年まで一切観測されておらず、Al-Si合金において共晶セル粒を見るための極めて特別な技術の進歩後のみであるため、亜共晶Al-Si合金の修飾に関して認められている理論は、2002年までのあらゆる技術的説明において、共晶セルサイズについて一切言及していない。図11に示されるAl-Si-Fe系に関する三元相図に示されるように、鉄が1%以上、シリコンが13%であれば、亜共晶Al-Si-Fe合金中のAlFeSi相のベータ(β)相板状晶を説明することができるが、しかしより高濃度シリコンの過共晶合金で形成することは不可能である。三元相図は、デルタ(δ)鉄相は、14%以上のSi濃度でAl-Si中に析出する可能性があることを示唆するが、これはこれまで報告されていない。図11の相図は、1%のFe及び14%のSiにおいて、鉄が1%未満の場合、β鉄Al5FeSi及びδ鉄相は形成されないことを示している。これは、排出プロセスによって、共晶セルを装飾する相がAlSrであることを示唆する。
【0056】
図10及び12-16の共晶セルを見るための特別な技術は使用されないため、永久モールド鋳造試験片中に可視される共晶セルが言及される。微細構造はただ研磨された試料であり、エンチャント(enchant)を必要としない。図10及び12-16中の、共晶セル境界を非常に明確に装飾する小さな種は、おそらく殆どがAlSr相粒子である。さらにこれらの図において、共晶セルがはっきりと見られ、29℃/秒で冷却された0.03%以上のストロンチウムを有するサンプルであり、小さく壊れた不規則な形状のシリコン粒及び修飾された共晶構造と関連している。しかし、図8と比較すると、2つの重要な初見はあきらかである。第一に、図10には、過冷却の、非平衡の初晶アルミニウム相は存在しない。第二に、ボタン状のスペクトロメーター試料の冷却速度の2倍以上である、60℃以上/秒で冷却された、図8に示す高圧ダイカストブロックの微細構造においてはっきりとみられた非常に小さな初晶シリコン相(図10及び12-16)は存在しない。図8の高圧ダイカスト微細構造のより精密な試験において、図9または10及び12-16の永久モールド微細構造に比べて、他の前述した図には存在する、AlSr相
とみられるものは図8において存在せず、高圧ダイカストの冷却速度が、推測されるAlSr相の析出を抑制するために必要となることが示唆される。より遅い冷却速度の砂型鋳造にて、0.03%以上のSrを含むボタン状のスペクトロメーター試料の微細構造は、図10及び12-16にみられた初晶シリコン粒の大きな樹枝状形態を有し、一方で図8には小さな不規則の形状の初晶シリコン粒を有し、さらに、前述の微細構造は、冷却速度に依存することが示唆され、ダイカストの冷却速度が好ましい微細構造を生じる。
【0057】
特異性について、図8-10及び12-16に示される、過共晶アルミニウム-シリコン合金の特定の組成を以下の表1に示す。組成は、金属材料(ストックメタル)由来の不純物というよりはむしろ、合金に対して積極的に添加したものである。さらに、全ての合金は、残部組成としてアルミニウムを含む。
【0058】
【表1】
【0059】
本発明に従い製造された合金の結果は、大多数が15ミクロン未満の粒子サイズを有する初晶シリコン粒を有する複雑な微細構造である。さらに、共晶構造は、15ミクロン未満の樹枝状(デンドライト)二次アーム間隔を有する微細構造中で、初晶アルミニウム相にて修飾される。さらに、初晶シリコンの体積分率は約20%(通常の過共晶Al-Si合金に見られるものの2倍)であり、これら初晶シリコン粒は分離共晶アルミニウムによって取り囲まれている。修飾された共晶は、初晶アルミニウム樹枝状晶を取り囲む。初晶
アルミニウムを取り囲む修飾された共晶を含む、初晶アルミニウム樹枝状晶の体積分率は、初晶シリコンを取り囲む分離共晶アルミニウムを含む初晶シリコンの体積分率よりも大きく、アルミニウムの樹枝状二次アーム間隔は、初晶シリコン粒サイズよりも大きい。本発明の合金はまた、図8の“鋳込みのまま”の試料に関して、2.1%の伸長性を有し、これは“鋳込みのまま”の従来の過共晶Al-Si合金における典型的な伸長性:0.5%の4倍である。この伸長性は、十分にアニール(焼き入れ処理)された従来の過共晶Al-Si合金で得られる伸長性よりも高い。例えば400°F(204.4℃)といったより高温において、ニッケル含有合金は、より高い機械的特性を有する。
【0060】
本発明の合金は、共晶Al-SiまたはAl-Si-NiAl中に初晶シリコン粒が埋め込まれ、T6熱処理された微細構造を有し得、非溶体化MgSi相、及び圧縮されたブロック状形態型の、漢字状のCuNiAlを一般に含んでいない。本発明の過共晶アルミニウム-シリコン合金はエンジンブロック、エンジンヘッド、及びピストンなどのエンジン部品、特に、これらの部品が塩水中で使用され、高い耐食性が必要な場合に、これらの部品を鋳造するためのダイカスト法で使用されることが見込まれている。本発明に係る合金は、環境温度及び高温の双方において、(低い気孔率による)高い機械的特性を備えるものである。
【0061】
高い耐食性並びに低い気孔率を得るために、銅含量の低い合金組成が求められる。
銅は、二元Al-Si共晶温度で5.65%に達するほど、アルミニウム中に大量に溶解し、結果として、銅は、周期表の他の一般的な元素のどれよりも、アルミニウムの耐食性を大きく破壊する。銅含有アルミニウム-シリコン合金は、初晶アルミニウム相の析出後、凝固の間、遅れて、低温で銅含有相が析出する。この低温での遅れた析出事象が、初晶アルミニウム-シリコン樹枝状晶により生成された、樹枝状組織内のフィード(給湯)通路を、詰まらせる。結果として、米国特許第6,763,876号明細書のロストフォーム鋳造法で鋳造された銅含有アルミニウム-シリコン合金は、典型的に、銅を含まないアルミニウム-シリコン合金にて生じ得るレベルの10倍の気孔率を含む。
【0062】
本発明は、アルミニウム-シリコン共晶微細構造へのNiAl相の導入に基く、システム工学的な設計変更を説明する。この設計変更は、アルミニウム-シリコン共晶中に、機械加工性を向上させる仕切りをもたらし、アルミニウム-ニッケルまたはアルミニウム-シリコンよりも、塩水環境中のガルバーニ対の高い適合性を有する金属間化合物成分が、共晶中にもたらされる。
【0063】
高い鉄含有量を備えた合金(例えば、AA 336及びAA 393)では、凝固の間に長い針状の相を形成する鉄相が、樹枝状組織内通路を詰まらせ、樹枝状組織内通路の詰まりが生じる場合があり、合金に高い微細気孔率を生じさせる。これとは対象に、NiAl共晶相の「漢字状」の圧縮されたブロック状相形態は塊状(ブロック状)であり、ダイカスト冷却速度下で、三元反応(液体>Si+Al+NiAl)において形成されたときに、アルミニウム-シリコン共晶と圧縮され混合されるものである。重要なことは、特にNi組成が6%を超えている場合、粗いNiAl初晶相は、三元共晶温度に達する前に、析出を開始する。よって、機械特性、そして特に延性が重要であるとき、6%を超えるニッケル含量をさけるべきである。三元共晶におけるNiAlネットワークは、そのミクロンレベルの開放構造のために、固体の銅相または固体の鉄相を含まない、液体成分が非常に浸透しやすく、それにより、この形態は、樹枝状組織内の溶融アルミニウムのフィード(給湯)を妨げない。この結果、ニッケルを含有し、但し鉄と銅の双方が低水準である、過共晶アルミニウム-シリコン合金は、強化圧力にて高圧ダイカストされたときに、より低い気孔率を有する。
【0064】
「鋳込みのままの」試料の溶体化熱処理の間、ニッケル及び銅を含有する過共晶アルミ
ニウム-シリコン合金と、ニッケルを含有するが銅を含有しない過共晶アルミニウム-シリコン合金との間に明確な相違がある。溶体化熱処理は、MgSi及び大部分のCuNiAl相を可溶化するが、図6及び図7にみられるように、シリコン及びNiAlの粒子に単に丸みを生じさせるのみである。この現象は、シリコン及びNiAlが基本的にアルミニウムに対して不溶であり、一方、マグネシウム及び銅はアルミニウムに対して大きく可溶であることから生じる。したがって、この結果は、シリコン及びNiAlが、高温においてマグネシウム、銅、及びマンガンよりも高い強度及び安定性を与えることを示唆する。また、この結果は、ニッケルを含有するが銅を含有しないアルミニウム-シリコン合金は、非平衡相が形成されないため、凝固事象を通じて低速で冷却された後の室温において比較的安定であることも示唆する。一方、高速冷却された試料は、非平衡相(図8に示すように、過共晶アルミニウム-シリコン合金中の初晶アルミニウム樹枝状晶)が存在する可能性のために、室温で独特な利点を有する微細構造を有することが予期され、ニッケルが非平衡層の成分である場合、相は高温で安定安定性であり得る。
【0065】
さらに、共晶成分中に、(アルミニウムに対して不溶の)純元素ではなく、NiAl化合物としてニッケルが添加された場合、組織中に未結合のニッケル(すなわち、自由ニッケル)が存在しないことが分かった。これは、自由ニッケルはガルバーニ腐食現象を悪化させ、一方、NiAlは、上述したように耐食性を向上させる有利な効果を有するため、重要である。
【0066】
人工の金属マトリクス複合材料において、より多くの強化相を人工的に添加することによって、強化相の体積分率が増大することが知られている。共晶では、強化相(すなわち、「繊維相」)及びマトリクス相の体積分率は、自然法則、共晶の組成、及び共晶温度における平衡状態での相構成によって決定される。
【0067】
AA B391合金は、577℃で長い停留等温線を有するAl-Si二元共晶と関連する。長い停留等温線は、ロストフォーム鋳造法で鋳造されたときに、液体スチレンを逃がすことを可能にし、液体スチレン欠陥が、ロストフォーム鋳造物中に存在する可能性が低いという効果を有する。本発明において、特にニッケル存在下で、平衡条件の下、唯一の停留温度が存在する必要があり、すなわち、5%ニッケル合金に関して、Al-Si共晶温度より20℃低い557℃にAl-S-NiAlの三元共晶温度がある。しかし、高圧ダイカストの非平衡冷却条件下で、Al-Si共晶の577℃の停留温度及び、Al-Ni共晶の640℃の停留温度もまた、作用し始め得る。よって、図8の微細構造である。本発明において、非平衡停留温度は、収縮孔へのフィード(給湯)を増加させることが予期される。ニッケル及び銅を含有するアルミニウム-シリコン合金は、上記に加えて、圧縮されたブロック形態の漢字状のCuNiAl相を含み得、これは機械加工性を促進するが、融点の低い銅相を含み、凝固過程において該銅相が遅れて析出し、フィード(給湯)通路を詰まらせ、低気孔率を達成することを阻害する。よって、本発明の合金は、銅は低量で、好ましくは実質的に非含有としなければならない。
【0068】
銅を含有する過共晶アルミニウム-シリコン合金よりもおよそ100°F(約37.8℃)で高い固相線融点を有する、銅を含有しない過共晶アルミニウム-シリコン合金では、この収縮孔(引け巣)にフィード(給湯)する樹枝状組織内通路を詰まらせる低融点相は析出しない。したがって、砂型鋳造の冷却速度の下で凝固するとき、Al-NiAl共晶中の粗い漢字状形態のNiAl相は、共晶シリコン相に対するNiAlのサイズ及び形態によって、収縮孔へのフィード(給湯)を向上させる。
【0069】
本発明は、シリコン含有量の増大とともに、Al-AlNi-Si相図(状態図)の二変数の(すなわち、二自由度の)温度平面内に延びる、Al-NiAl二元共晶を使用して、6%のニッケルに対して14%のNiAlの組成比を備えた「漢字」状のブロ
ック状形態のNiAl相の生成源を提供する。
【0070】
このように、NiAlは、好ましくは共晶中に導入され、初晶シリコンの体積分率を実質的に変更しない。さらに、NiAlの添加は、本質的に純シリコンからAl-Si共晶の平衡状態への長いタイライン(tie line)が比較的一定に維持されるため、高い摩耗特性を与える。しかし、NiAlの添加は、共晶成分の体積分率を増大させ、それに応じて、最低温度で凝結しなければならないAl-Si共晶が減少する。これは、通常の二元共晶と比較して、全ての凝固が1つの温度で生じる必要がないため、本発明において有利である。これによって、温度範囲にわたる一連の系統的な凝固事象が発生する期間が延長される。そして、収縮に(例えば、高圧ダイカストの強化圧力とともに)“フィード(給湯)する”機能が改善される。これは、欠陥が減少するので、鋳造物の品質に有益である。従って、本発明に係る合金は、NiAl化合物の添加によって、Al-Si共晶よりも、高温で発生するAl-NiAl二元共晶の平衡状態またはAl-Si-NiAl三元共晶の平衡状態のいずれかを生成し、共晶の温度を効果的に上昇させ、溶融物の粘性を10~15%増大させる。
【0071】
熱力学的に、アルミニウムの融解熱は、グラム当たり92.7カロリー(387.9J)と相当に高く、一方、NiAlの融解熱は、グラム当たり68.4カロリー(286.2J)である。しかし、シリコンの融解熱は、グラム当たり430カロリー(1799J)とはるかに高いものであり、アルミニウムの融解熱の5倍に近く、NiAlの融解熱の6倍を超えている。したがって、ニッケルを含有しない過共晶アルミニウム-シリコン合金が凝固する際、初晶シリコンの析出時にグラム当たり430カロリー(1799J)を放出するため、アルミニウムの温度勾配は減少する傾向がある。アルミニウムの温度勾配の減少によって、溶融物への熱入力が減少し、収縮孔にフィード(給湯)することがより困難になる。よって、ニッケル含有Al-Si合金は、ニッケル非含有のAl-Si合金よりも気孔率を良好にさせるはずである。
【0072】
これに対して、本発明に係る過共晶アルミニウム-シリコン合金が凝固し、溶液からNiAlが析出する際には、グラム当たり68.4カロリー(286.2J)の熱が放出されるだけである。これによって、溶液からNiAlが析出するときの凝固の初期段階の間、より大きな温度勾配が期待され、その結果、ニッケルを含有しない合金と比較して、収縮孔のフィード(給湯)効率が向上する。このように、NiAl化合物の添加は、合金の凝固の最終段階の間にAl-Si共晶を経なければならない共晶液体の量を低減し、さらに、収縮孔のフィード(給湯)効率を向上させるといった、好適な状態を提供する。
【0073】
本発明の一実施形態において、ニッケルの上限は6%に設定される。ニッケルの値を高くすると、NiAl相が、単にAl-NiAl共晶から発生する相としてだけなく、一次(初)相として、含まれる。これは、ニッケル含有量が増大するにしたがって急上昇する液相線温度と、純アルミニウムの融点よりも高い温度を伴い、これらの全ては、優れた鋳造用合金に必要とされる特性に対抗するように作用する。6%のニッケルでは、NiAl二元共晶反応は、14.3%のNiAlである共晶を生成する。これは、取得可能な共晶NiAlの最大量であり、この量は、自然法則により決定される。3%のニッケルでは、14.3%の半分のみのNiAlが取得される。2%のニッケルでは、3分の1のみのNiAlが取得される。したがって、ニッケル濃度が低くなるにつれて利点が減少することから、実用上の理由で、3質量%のニッケルが下限として選択された。さらに、初晶シリコンの体積分率を超えるNiAl相の体積分率を有することは、機械加工性及び高い温度強度の両方で有利である。これは、ニッケル含有量が4.5質量%よりも高い場合に生じやすい。
【0074】
上述したように、本発明に係るニッケル含有合金は、主として高圧ダイカスト法用であることが意図されており、鉄含有量が低くかつマグネシウム含有量が低く、そしてストロンチウムによって耐ダイ溶着性が付与される。このような鋳造法に関して、鉄含有量は0.2%を超えるものであってもよく、特に、0.3質量%%を超えるものであってもよく、また、2質量%まで、好ましくは1質量%%までのコバルトを、同等量のニッケルと置き換えるものであってもよい。このような置き換えの利点は、コバルトがアルミニウムβ相の針状の形態を変更することである。
【0075】
本発明に係る合金中には、時効硬化応答のためにマグネシウムが存在する。過共晶アルミニウム-シリコン合金の平衡状態の下で、MgSiは、マグネシウム含有量が約0.75%に到達するまで、鋳込みのままの状態における共晶の粗成分として、2000倍未満の拡大率では、可視化されて現れない。また、マグネシウム量が0.75%よりも低く維持されると、アルミニウム、シリコン、及びMgSiが三元共晶を形成し、この共晶は、4.97%のマグネシウム、及び12.95%のシリコンを含み、555℃で凝結する。
【0076】
提案された合金中には、硬い初晶シリコン粒によって与えられる耐摩耗性のためにシリコンが存在する。16質量%の低いシリコン含有量を有する標準のAA 390合金と比較して、提案された合金は、最小18質量%のシリコン含有量を有する。従って、このシリコンレベルでは、耐摩耗性のための50%より多い初晶シリコンを含む。20質量%よりも高いシリコンレベルは、16質量%のシリコンを含有する合金よりも、100%より多い初晶シリコンを含むものの、液相線が約700℃を超えるため、推奨されない。
【0077】
NiAl化合物の電解電位は、純アルミニウムが-0.85ボルトなのに対して、-0.73ボルトである。アルミニウム-ニッケル合金の電位は、純アルミニウムからNiAlへ徐々に減少する。大きな正の標準電極電位を備えた金属(例えば、Au、Ag、Cu)は、水に溶解する傾向をほとんど示さず、貴金属として知られる。しかし、負の標準電極電位を備える卑金属(例えば、マグネシウム及びナトリウム)は、水に溶解するまたは腐食する傾向を有する。したがって、アルミニウムとNiAlとのガルバーニ対では、その系においてより安定性が低い(less noble)アルミニウム金属が電解質中に溶解する弱い傾向を示す。ニッケルはNiAlよりも顕著に安定(noble)であるため、純ニッケルと対となったアルミニウムのガルバーニ腐食は、はるかに悪化することが予想される。したがって、ニッケルが完全にNiAl化合物中に結合されている(tied up)ことから、合金へのニッケルの添加によって、塩水使用に対する合金の適用性は低減しない。実際、塩水中のAl-NiAl対の電位差は、塩水中のAl-Si対の電位差よりも小さい。
【0078】
ピストンは、最高の高温特性を要するエンジン部品である。ピストンを構成するための材料を選択する上で、熱膨張係数が低いことが最も重要である。ニッケルは、他のどんな元素よりも、アルミニウムの熱膨張係数を大きく低下させ、6%のニッケルの添加により、アルミニウムの熱膨張係数は約10%低下する。ピストンの構成にとって、エンジンの燃焼熱を散逸させるため、高い熱伝導性もまた非常に重要な特性である。しかし、固溶体としてアルミニウムに溶解する元素は、格子構造に影響を及ぼし、アルミニウムの熱伝導性を低減させる。したがって、ピストン用アルミニウム合金の熱処理として、例えばT6熱処理に対してT5熱処理のような、固溶体からの相の析出を生じさせる熱処理工程が適切である。
【0079】
ニッケルは固体状態のアルミニウムに不溶であることが知られている。ニッケルとアルミニウムの最大の溶解度は約0.04%であるため、ニッケルは、アルミニウムの熱伝導性に測定可能な影響を及ぼさない。ニッケルは、Al-Ni二元図のアルミニウム側端部
で、アルミニウムと共晶を形成する。Al-Ni共晶が、冷却の際、640℃で、基本的に「純」固体アルミニウムとNiAlの機械的混合物に分解するために、約6質量%のニッケルの液体合金が必要である。このように凝固した合金は、約2879kg/mの密度を有する。この密度は、凝固に際してNiAlが膨張するため、6%のニッケルの添加による代数的計算から予測される3072kg/mの密度よりも小さい。
【0080】
ここで、図1に示すAl-Ni相図、そして図19に示すAl-Ni二元系相図を参照すると、Al-Si-NiAl三元系の平衡相図がなくとも、557℃において、約5%のNi及び11~12%のSiで三元共晶変態(液体>Al+NiAl+Si)が生じることが、当業者には理解されるものである。固体状態において、Al、NiAl、及びSiの三相が、大部分の合金中に存在する。NiAlへのシリコンの溶解度は約0.4~0.5%程度であり;アルミニウムへのニッケルの溶解度は二元共晶温度において僅か0.04%であり、シリコンの溶解度は、ニッケルの添加によって低減する。この知見は、図1のAl-Ni相図と図19のAl-Ni二元系相図とを組み合わせると、Al-Si-NiAl三元系の三相平衡があることを示すものである。したがって、図2に示すように、二元系のような単一の温度ではなく、温度範囲上で平衡状態が生じることを示す、三角図を構成することができる。ギブスの相律によれば、三元系における三相平衡は二変数である。ギブスの相律は、化学系または合金において共存可能な相(P)の最大数と自由度の数(F)との和が、系の成分数(C)と2との和に等しいというものである。したがって、Al-Si-NiAlの平衡状態では、共存可能な相の最大数は3であり、系に3成分が存在するため、ギブスの相律に従って、F=(C+2)-Pから、二自由度が存在することになる。したがって、圧力が選択された後に、平衡状態を決定するために選択する必要があるのは、温度または1つの濃度パラメータだけである。
【0081】
相図上に三相平衡を表すためには、与えられた温度における3つの共役な相(すなわち、Al相、Si相、及びNiAl相)の決定された組成を指定する、構造単位を使用する必要がある。構造単位は、図2の「タイ三角形」に示されており、RはAl相を表し、SはNiAlを表し、LはSi相を表す。R-S-Lの三角形は、元の相Pが分解された三相を連結する。20%のSi、6%のNi、及び約73%のAlの実験条件のPを使用し、また、図2に示された、NiAlの百分率及びシリコンの百分率を計算する公式を使用して、NiAlの百分率は11%であり、シリコンの百分率は8%であることが分かった。これらの計算は、10個の試料に対する定量金属組織学的な測定結果と合理的な一致をしている(すなわち、NiAlについてプラスまたはマイナス1%、シリコンについてプラスまたはマイナス0.5%)。
【0082】
約14%の量のNiAl相が、「漢字状」の圧縮されたブロック状の相の半連続塊として、初晶シリコン粒と初晶アルミニウム樹枝状晶の間の共晶組織中に、高圧ダイカス合金から析出することが観察された。一方、初晶シリコンの体積分率は、同じ砂型鋳造物の組織において、約8%である。この特有の組織は、機械加工性の改善のために特に重要であり、さらには、高温クリープ強度及び他の高温特性に対して適切な強化を提供するものであり、本発明に係る合金は、ピストン構成のための優れた選択肢となる。
【0083】
本発明の別の実施態様において、過共晶アルミニウム-シリコン高圧ダイカス合金は、16質量%乃至23質量%のシリコン、0.01質量%乃至1.5質量%の鉄、0.01質量%乃至0.6質量%のマンガン、0.01質量%乃至1.3質量%のマグネシウム、0.05質量%乃至0.20質量%のストロンチウム、及び残部のアルミニウムを有するものとして、本書に開示される。この合金は0.01質量%乃至4.5質量%のニッケルを含み得るが、ニッケル組成はまた排除され得る。鉄組成は0.01質量%乃至0.7質量%、または0.01質量%乃至0.2質量%に変更され得る。マンガン組成は0.01質量%乃至0.5質量%に変更され得る。ストロンチウム組成は0.05質量%乃至0.1質量%に変更され得る。この実施態様は、高圧ダイカスト冷却速度で冷却されると、顕著な構造的そして微細構造的な利点を示す。
【0084】
この実施態様の合金は、実質的に銅を含まず、そのため、AA390やAA392などの銅含有過共晶Al-Si合金と比べて、より高い固相線温度と、より狭い凝固範囲を有する。これは、初晶シリコンのより均一な分布と、改善された耐摩耗性に寄与する。この実施態様の合金におけるより高い固相線温度は、銅含有合金よりも高い、約85°F(約29.4℃)である。この実施態様の合金は、2%を超える伸長性を示す。これに対し、比較的大きな初晶シリコン粒サイズと未修飾の共晶であるために、AA390とAA392は、0.5%の伸長性を示す。AA390とAA392は、ライナーレス(linerless)のオールアルミニウムエンジンブロックの製造に使用される。また、これらの合金はまた、脆い合金では十分に提要できない、損傷許容性に関して一定のレベルが要求される、ピストン及び他の構造的部品の製造に用いられる。よって、高い固相線融解温度と、高い延性を有する、過共晶Al-Si合金が必要である。初晶アルミニウム樹枝状晶からなる微細構造を有し、ストロンチウム修飾共晶構造と、微細な初晶シリコン相の双方によって取り囲まれる、現在議論される実施態様の合金は、この要求を満たす。
【0085】
通常は、過共晶Al-Si-Mg合金は90%以上の共晶と10%以下の初晶シリコンから構成され、この実施態様の合金は、これまでに示されていない方法で、共晶の体積分率を、より高いシリコン組成である、(アルミニウムに取り囲まれている)多くの初晶のシリコンと、より低いシリコン組成である、修飾された共晶によって取り囲まれている初晶アルミニウムへの分割を引き起こす。小さいサイズの初晶シリコンの体積分率の増加は、耐摩耗性を増加し、共晶体積分率において、(修飾された共晶に取り囲まれている)初晶アルミニウムへの有意な減少は、延性を増加させる。
【0086】
図8を参照すると、この実施態様の合金から製造された高圧ダイカストエンジンブロック由来の微細構造の顕微鏡写真が示されている。上述したように、この合金に関する特定の成分は、19.2質量%のSi;0.05質量%のSr;0.7質量%のFe;及び0.46質量%のMgと残部のアルミニウムである。驚くべきことに、高圧ダイカストされたとき、0.05%から0.10%のストロンチウムを含有する過共晶アルミニウム-シリコン合金が、10ミクロン(μm)未満の微細化された初晶シリコン粒サイズを有する微細構造を示すことが見出された。典型的に、高圧ダイカスト法において、望ましい初晶シリコンサイズは20μmである。従って、本実施態様の合金において示された小さなシリコン粒サイズは、リン微細化の初晶シリコンを用いるダイカストで生じる最良のサイズのほぼ半分である。
【0087】
この実施態様の合金はまた、本質的に繊維状である共晶シリコン形態を有する修飾された共晶を示す。さらに、非常に大きな過冷却が、10ミクロン以下の樹枝状アーム間隔を有する樹枝状晶の初晶アルミニウムを生成する。この過冷却はまた、分離共晶反応により、初晶シリコンの周り及び間にαアルミニウムハローを生成する。その結果、この実施態様の合金は、分離共晶アルミニウムより取り囲まれた初晶シリコンの体積分率よりも大きい、修飾された共晶によって取り囲まれている初晶アルミニウム樹枝状晶の体積分率を有する。10ミクロン以下の樹枝状アーム間隔を有する初晶アルミニウム樹枝状晶、並びに、樹枝状アーム間隔の間、並びにアルミニウム樹枝状の周り全体にある、繊維状に修飾された共晶シリコンは予想外である。これらユニークな特徴は、これまでの鋳造物の製造において示されず、2%の伸長性を超える、すなわち、従来のストロンチウムを含有しない過共晶Al-Si合金の伸長性の4倍となる、生産部品の伸長性の原因となる。特に、標準試験は、合金が、平均最大抗張力(UTS)が263MPa(または38.1ksi)、降伏強度207MPa(または30.0ksi)、そして伸長性2.1%を有することを明らかにした。伸長性は、典型的な過共晶Al-Si合金の0.5%の4倍であり、十
分にアニール(焼き入れ処理)された従来の過共晶Al-Si合金よりも高いものであった。
【0088】
図8を参照すると、微細構造は、(1)(分離共晶反応のために)アルミニウムマトリクスに埋め込まれた不規則な形状の小さく密集したシリコン粒と、(2)修飾された共晶に埋め込まれたより大きなアルミニウム樹枝状晶、からなることを示す。“初晶”シリコン粒の大部分は、粒子の間の非常に小さな空間にむしろ集中している。シリコン粒子間または周りのこの空間は、シリコン含量が非常に低いアルミニウム合金ハローに効果的である。アルミニウムハロを伴う多くのシリコン粒が所々に集中している範囲は、修飾された共晶中に埋め込まれた初晶アルミニウム樹枝状晶の範囲よりも狭い範囲である。鋸歯状外観を有し、互いに非常に近接する、10μm未満の小さな粒子サイズを有する、大部分の初晶シリコンにより、これらの粒子が、シリコン粒子の周囲のアルミニウムハロのために、互いに接触することが決してないことが明らかになった。よって、シリコンは、決して砕けないが、凝固の間に、高いシリコン領域からアルミニウムを効果的に拒絶する。純アルミニウムに取り囲まれた、これらのより小さな初晶シリコンサイズの粒子は、分離された共晶反応の結果、従来の過共晶Al-Si合金が有する伸長性の4倍の伸長性の原因となる。初晶アルミニウムに関連する優れた延性は、樹枝状アーム間隔と初晶アルミニウム樹枝状晶全体の周りに、共晶構造が修飾されるため、効果的である。
【0089】
典型的に、過共晶Al-Si合金の初晶シリコン相は、これら金属に存在する不純物により直ちには核生成されない。その結果、リンは、相変わらず、永久モールド鋳造において、そしてダイ鋳造において度々、過共晶Al-Si合金溶融物に添加される。約100乃至500ppm量のリンは、液体アルミニウムと反応して、リン化アルミニウム、AIP、を形成し、それは、シリコンのそれとよく似た結晶構造を有し、初晶シリコンに対して効果的な不均一核形成部位としての役割を果たす。しかしながら、リン化ストロンチウム及びリン化ナトリウムは、リン化アルミニウムよりも安定な化合物であり、それ故、ストロンチウムまたはナトリウムが溶融物に添加されると、初晶シリコンの粗大化が予期される。図9の微細構造は、科学的に認められた論理の0.016%のストロンチウム添加を示し、予期されたとおり3倍サイズの初晶シリコンサイズを有することを示す。図10の、0.03%のSrレベルへの、さらなるストロンチウムの添加は、図9に基づいて行うのが意味をなさず、さらに初晶シリコンサイズを増加させるはずであるが、その代わりに不規則な形状のより小さな初晶シリコンがもたらされた。よって、2%以上の伸長性は、0.05%のストロンチウム含量にて、ダイカスト冷却速度に関してのみ見出され、永久モールド鋳造冷却速度に関しては見出されなかった。図8の最適な微細構造は、凝固プロセスは平衡プロセスではないが、しかし、図17に図式的に示唆されるように、準平衡プロセスであるため、論理的に発生する。
【0090】
図17を参照すると、従来の過共晶アルミニウム-シリコン合金の初晶シリコン相は、リン化アルミニウムの助けを借りて、液相線温度より下のAで核生成し、温度が矢印に従い、修飾されていない共晶が形成するBに到達すると、成長を始める。同様に、ストロンチウムを含有する従来の過共晶アルミニウム-シリコン合金において、初晶アルミニウム相は、C-カーブに沿って形成し、Bに温度が届くまで下降しながら成長し、未修飾共晶が形成する。ストロンチウムの存在が、過共晶アルミニウム-シリコン合金中のリン化アルミニウム核を汚染するため、初晶シリコン粒は、大きなサイズに成長し、機械加工においてクラックする。リンや幾らかのストロンチウムなしに、過共晶アルミニウム-シリコン溶融物に適用される高圧ダイカストの高速冷却速度により、初晶シリコン相はAカーブの低下とともに最初に核形成し、規則的な形状の形態を有するが、非常に大きな粒子サイズを有するシリコン粒子にて、シリコン粒子はアルミニウム中で非常に低い融点の溶融物に取り囲まれる。続いて、初晶アルミニウム樹枝状晶は、樹枝状アーム間に形成された共晶とともに凝固時に形成する。溶融物中にリンや有意水準のストロンチウムなしでは、初
晶シリコン相は、Aカーブに沿っての最初の核形成が防止され、しかし、カーブCのように、溶融物の大きな過冷却が要求される。これらの順平衡条件下で、初晶アルミニウムは、カーブCに沿って析出し得、しかし、殆どすぐに、膨大な量のシリコンが、組成物不均衡を均衡させるために析出する。よって、核形成部位が大きな過冷却溶融物中に見いだされると、非常に大きな溶融物の過冷却と、非常に迅速な後続反応速度のために、規則的な形状の形態は予期されるようには形成しない。さらに、高圧ダイカストに比べ遅い冷却速度を用い、試料の調製に同じ化学物質を用いることは、図8に示されるような初晶アルミニウム相の微細構造に関して、何の証拠も得られなかった。種々の量のストロンチウム修飾剤をチル鋳造391合金に添加し、29C/秒で冷却した際の結果を、図9-10、12-16に示す。伝統的に高い濃度である0.05%Srは、初晶シリコン形態自体に変化を生じさせ、その結果、図10及び12-16に示すように、樹枝状形状となる。
【0091】
0.016%ストロンチウムは、通常、共晶構造内で共晶シリコンを修飾して、針状形態から繊維状形態とし、機械加工特性を向上させる(特に伸長性)ために、過共晶アルミニウム-シリコン合金に添加される。このストロンチウムの添加は、しかしながら、初晶シリコン粒サイズは、0%のストロンチウムのレベルから3倍増加し、これらシリコン粒の全てが加工割れを生じるため、ダイカスト過共晶Al-Si合金に関して効果的であるとは期待されていない。よって、過共晶アルミニウム-シリコン合金において、ストロンチウムの添加量の増加により、小さなシリコン粒子を得られることは期待されていない。図8の本発明の微細構造はダイカスト冷却速度で得られ、0.03%のストロンチウム又は0.20%に迫る高いシリコンレベルにての永久モールド冷却速度で得ることはできない。これら永久モールド微細構造において、初晶シリコンは非常に大きくそして樹枝状であり[すなわち、機械加工可能でない]、共晶は修飾され、但しセル境界は、より高速のダイカスト冷却速度では析出しない、小さなAlSr粒子で装飾されるためである。図8の本発明の微細構造は、0.05%のストロンチウムを含み、微細な初晶シリコンで装飾されている。図18を参照すると、高圧ダイカス合金に似ているが、0.022質量%のストロンチウムを含む微細構造が示されている。図18は、微細な初晶シリコン粒と初晶アルミニウム相を示すが、同時に、アルミニウム樹枝状アーム間隔よりも大きい、相当量の非常に大きな初晶シリコン粒をも示す。これら大きな初晶シリコン粒は不規則な形状を有し、リン化アルミニウム(AIP)又は核生成するための他の粒子が見つかり得る。これが、より多量のストロンチウムが必要とされ、ともに反応し、初晶シリコンのための従来の全ての核を“汚染”する理由である。このデータは、本発明の過共晶Al-Si合金における初晶シリコンのための従来の核を排除し、また、図8の微細構造を生成するための、最小限のストロンチウムレベル量が0.05%ストロンチウムであることを示唆する。
【0092】
本発明を、以下の実施例においてさらに詳細に説明する。当業者であれば、米国アルミニウム協会デモクラシーの現在の合金リスト390、391、392及び393が、0.05質量%乃至0.10質量%のSrの添加により、図8の本発明の微細構造に修飾され得ることは、認識できるであろう。従って本出願は、鋳込みのままの合金が2%を超えるアルゴリズム(algorithm)を示す、16-23質量%のシリコン、0.01乃至1.5質量%の鉄、0.20乃至5.0質量%の銅、0.01乃至0.30質量%のマンガン、0.40乃至1.3質量%のマグネシウム、0.05乃至0.10質量%のストロンチウム、及び残部のアルミニウムを含む、過共晶アルミニウム-シリコン合金を検討するものである。
【実施例
【0093】
実施例1
内燃機関(エンジン)のピストンを、下記の特定の成分を質量百分率で含む、本発明の合金を用いて鋳造した:19質量%のシリコン、0.6質量%のマンガン、4質量%のニ
ッケル及び残部アルミニウム。 前記ピストンを、従来の砂型鋳造法を用いて鋳造した。前記鋳造ピストンを、熱処理し、続いて機械加工した。
【0094】
ピストンの機械加工は、前記合金が過共晶アルミニウム-シリコン合金ではないと疑われるほど、良好に実施された。 機械加工の結果は、非常に驚くべきことであり、超硬工具やダイヤモンド工具の代わりに、高速度鋼がピストンの機械加工するのに十分であった。さらに、AA B391から鋳造したピストンを用いた試験と比べて、本発明の合金を用いたピストンは、AA B391から鋳造されたピストンよりも、より低い排出(エミッション)数値を示した。低い排出数値は、本発明の合金が有する高温強度、並びに、本発明の合金が有する低い熱膨張率に起因する。
【0095】
実施例2
2気筒エンジンブロックを、凝固の間に10気圧が印加される加圧ロストフォーム鋳造にて、鋳造した。2気筒エンジンブロックを本発明の合金、具体的には、19.1質量%のシリコン、0.65質量%のマンガン及び5.2質量%のニッケルを含む合金から鋳造した。 鋳造後、2気筒エンジンブロックの気孔率が測定され、0.11%であった。
【0096】
0.11%の気孔率は、同一条件、同一フォームブロックにて、10気圧下で凝固させた銅含有の過共晶アルミニウム-シリコン合金にて測定された、最良の気孔率(約0.35%)よりも有意に低い。本発明の合金製のブロックキャストより得られた試料の、700°F(371.1℃)で試験した引張強度は、10.5ksiであった。100個のエンジンブロックの機械加工の試行による機械加工の実績結果は、ピストンを用いた実施例1の結果のように驚くべきものであり、従って、高速度鋼による機械加工が可能であった。
【0097】
上記実施例は、アルミニウム合金B391で構成された部品の機械加工に対する、本発明の合金で構成された部品の機械加工をするために予測される工具寿命において、100%の改善を構成する。ピストン、エンジンブロック及びエンジンヘッドは、鋳造後に多くの加工を必要とするエンジン部品であり、本発明は特にそのために適している。
【0098】
実施例3
下記構成成分:19.2質量%のSi;0.05質量%のSr;0.7質量%のFe;及び0.46質量%のMg、及び残部のアルミニウム、にて高圧ダイカストされ、図8に示す微細構造を有するエンジンブロックから、3つの“鋳込みのまま”の引張試験片を抜き出した。標準試験により、合金が、263MPa(または38.1ksi)の平均最大抗張力(UTS)、207MPa(または30.0ksi)の降伏強度、そして2.1%の伸長性を備えることが明らかになった。前記伸長性は、典型的な過共晶Al-Si合金の伸長性:0.5%の4倍であり、十分にアニール(焼き入れ処理)された従来の過共晶Al-Si合金の伸長性より高い。
【0099】
本明細書に記載された本発明はいくつかの特徴を含み、本明細書に開示された様々な実施形態を、開示された特徴の一部のみを含む実施形態に変形され得ることは、当業者にとって明らかである。様々な他の組み合わせ、変形または代替もまた、当業者にとって明らかである。そのような様々な代替手段および他の実施形態は、本発明に関連する内容を詳細に指定するとともに、明瞭に主張する、添付の請求項の範囲内にあるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0100】
【文献】米国特許第1,387,900号明細書
【文献】米国特許第1,410,461号明細書
【文献】米国特許第6,168,675号明細書
【文献】米国特許第6,763,876号明細書
【文献】米国特許第7,666,353号明細書
【非特許文献】
【0101】
【文献】L.F.Mondolfo著、Alminum Alloys:Structure and Properties、Butterworth Publications Ltd、1976年
図1
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