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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-23
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】塗料用硬化抑制剤
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20220111BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20220111BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/63
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017182963
(22)【出願日】2017-09-22
(65)【公開番号】P2019059797
(43)【公開日】2019-04-18
【審査請求日】2020-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 雅矢
(72)【発明者】
【氏名】木下 雅史
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104946125(CN,A)
【文献】特開平06-065351(JP,A)
【文献】特開平06-100835(JP,A)
【文献】特開昭56-065052(JP,A)
【文献】特開昭51-050942(JP,A)
【文献】特開平06-192644(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 201/00
C09D 7/63
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルエチルケトンオキシムを含み、更にエチレングリコールモノフェニルエーテルを含むことを特徴とする塗料用硬化抑制剤
【請求項2】
前記エチレングリコールモノフェニルエーテルの含有率が、10質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の塗料用硬化抑制剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料用硬化抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車など様々な業界において、意匠性、低温焼付性上の利点から、イソシアネートを硬化剤とする2液硬化型ウレタン塗料が用いられる場合がある。環境への配慮から、塗装排液中の残存塗料を廃塗料として回収する取組みが成されている。
【0003】
また、イソシアネートを用いる2液硬化型ウレタン塗料の洗浄用シンナー組成物として、オキシムを含有するものが開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-265195公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、塗装排液中の残存塗料を廃塗料として回収しようとすると、硬化速度が速いために回収前に硬化してしまうという問題点があり、長期間、廃塗料の硬化を抑制する塗料用添加剤が求められている。また、塗装排液中の残存塗料である廃塗料の回収は必ずしも塗料排液を溜めてバッチ式で処理するものではないので、攪拌が十分にできる環境が整っていない場合があり、硬化抑制が十分になされないという問題がある。よって、例えば前述したオキシムを含有する洗浄用シンナー組成物を、廃塗料の硬化抑制目的で塗装排液に添加した場合、硬化抑制が十分になされないという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、イソシアネートを用いる2液硬化型ウレタン塗料に対し、攪拌が不十分な場合にも優れた硬化抑制効果を有する塗料用硬化抑制剤を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、メチルエチルケトンオキシムを含み、更にエチレングリコールモノフェニルエーテルを含む塗料用添加剤を塗装排液に添加すると、イソシアネートを用いる2液硬化型ウレタン塗料との攪拌が十分ではない場合にも優れた硬化抑制効果を有する事を見出し、本発明を開発するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)メチルエチルケトンオキシムを含み、更にエチレングリコールモノフェニルエーテルを含むことを特徴とする塗料用硬化抑制剤
(2)前記エチレングリコールモノフェニルエーテルの含有率が、10質量%以上であることを特徴とする上記(1)に記載の塗料用硬化抑制剤
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、イソシアネートを用いる2液硬化型ウレタン塗料を含む塗装排液との攪拌が十分でない場合にも優れた硬化抑制効果を有する塗料用硬化抑制剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る塗料用硬化抑制剤について詳細に説明する。
【0011】
本発明に係る塗料用硬化抑制剤は、メチルエチルケトンオキシムを含み、更にエチレングリコールモノフェニルエーテルを含むものである。
【0012】
エチレングリコールモノフェニルエーテル(フェニルセルソルブ)は、本発明では、メチルエチルケトンオキシムと共存させることにより、塗料排液との混合が十分でなくても、メチルエチルケトンオキシムの塗料排液に含まれる廃塗料へのブロック作用を効率的に発揮させるという作用を有する。
【0013】
エチレングリコールモノフェニルエーテルと共に用いて塗料排液と混合しなくても廃塗料へのブロック作用をより効率的に発現するのはメチルエチルケトンオキシムである。
【0014】
本発明の塗料用硬化抑制剤は、メチルエチルケトンオキシム及びエチレングリコールモノフェニルエーテルに加え、溶媒を更に配合させたものであっても良い。
【0015】
かかる溶媒としては、特に限定されないが、ヘキサン、ペンタン等のアルカン系;ベンゼン、トルエン等の芳香族系;エタノール、1-ブタノール、エチルセロソルブ等のアルコール系;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系;酢酸エチル、酢酸ブトキシエチル等のエステル系;ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等のアミド系;ジメチルスルホキシド等のスルホン系溶媒;ヘキサメチルリン酸トリアミド等のリン酸アミド;トリエタノールアミン、トリエチルアミン等のアミン系溶媒等を挙げることができる。これらのうち、1種の溶媒を用いてもよいし、2種以上の溶媒を混合して用いてもよい。
【0016】
また、本発明の塗料用硬化抑制剤は、この他に、界面活性剤、消泡剤等の添加成分を、本発明の趣旨を損なわない範囲で添加し得る。
【0017】
本発明の塗料用硬化抑制剤は、2液硬化型ウレタン塗料の残存塗料が廃塗料として含まれる塗装排液に添加して用いられ、添加後、十分な攪拌を行わなくても、廃塗料の硬化抑制効果を有効に発揮できるものである。
【0018】
本発明の塗料用硬化抑制剤は、塗料排液に含まれると予想される塗料のイソシアネート基のモル量に対して、メチルエチルケトンオキシムのモル量が、60%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは100%以上となるように添加するのが望ましい。すなわち、予想されるイソシアネート基の含有量を100モル%とした場合、塗料用硬化抑制剤は、メチルエチルケトンオキシムのモル量として、60モル%以上、好ましくは80モル%以上、好ましくは、100モル%以上添加するのが好ましい。
【0019】
一方、エチレングリコールモノフェニルエーテルは、10質量%である事が好ましく、20質量%以上であること事がより好ましい。
【0020】
塗料用硬化抑制剤中のメチルエチルケトンオキシムの含有量は、できるだけ高いのが好ましいことは明らかであり、エチレングリコールモノフェニルエーテルとの比、他の成分の含有量を考慮して設定すればよい。
【0021】
このような塗料用硬化抑制剤は、含有されるメチルエチルケトンオキシムのモル量を考慮し、塗料排液に含まれると予想される塗料のイソシアネート基のモル量に対して、上述したモル量となるように塗装排液に添加すればよい。
【0022】
これにより、塗料排液と塗料用硬化抑制剤との混合が不十分であっても、塗料排液中の廃塗料の硬化が抑制され、塗料排液からの廃塗料の回収の効率を向上させることができる。
【0023】
なお、廃塗料の硬化は、廃塗料がゲル化しさらには固化する一連の現象をいい、抑制とは、硬化が発現するまでの時間、又は完了するまでの時間が延長されることである。すなわち、廃塗料のゲル化が始まると廃塗料の回収作業が阻害され、完全に固化してしまうと、回収が不可能になるが、本発明の塗料用硬化抑制剤の添加により、廃塗料の硬化が抑制され、結果として、廃塗料の回収効率が向上することになる。
【0024】
[塗料用硬化抑制剤の調製方法]
本発明に係る塗料用硬化抑制剤の製造方法は、特に限定されない。例えば、メチルエチルケトンオキシムとエチレングリコールモノフェニルエーテルとを、任意に含まれる溶媒、その他の添加成分と混合し、混合ミキサー等の攪拌機を用いて十分に混合することによって調製することが出来る。
【0025】
なお、本発明の塗料用硬化抑制剤は、少なくともメチルエチルケトンオキシム及びエチレングリコールモノフェニルエーテルの2成分であるため、各成分を予め混合せずに、塗装排液にそれぞれ添加しても、廃塗料の硬化抑制効果が同様に発揮されることが容易に予想されるので、このように各成分をそれぞれ添加した場合にも本発明の塗料用硬化抑制剤の使用となる。
【0026】
[廃塗料の硬化抑制方法]
廃塗料の硬化抑制方法は、上述した本発明の塗料用硬化抑制剤を、上述した所定量を塗装排液に添加し、塗装排液中の廃塗料の硬化を抑制し、廃塗料の回収効率を向上するものである。
【0027】
廃塗料の硬化抑制方法は、少なくともメチルエチルケトンオキシム及びエチレングリコールモノフェニルエーテルの2成分を用い、これらの成分の共働作業により廃塗料の硬化抑制を行うものであるため、各成分を予め混合せずに、塗装排液にそれぞれ添加してもよく、この場合にも、廃塗料の硬化抑制効果が同様に発揮されることが容易に予想される。各成分、例えば、メチルエチルケトンオキシム及びエチレングリコールモノフェニルエーテルの2成分を用いる場合、それぞれを何れかから順番に添加してもよいし、それぞれを同時に添加してもよく、各成分が塗料排液にある程度混合されればよい。これにより、十分な混合が成されなくても、メチルエチルケトンオキシムのイソシアネート基のブロック作用によりエチレングリコールモノフェニルエーテルの作用が促進され、廃塗料の硬化が抑制される。
【実施例
【0028】
以下、実施例および比較例により本発明を更に詳しく説明する。本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
【0029】
[塗料用硬化抑制剤の調製]
沸点190~210℃の芳香族炭化水素系溶媒(比重0.88,引火点64℃)にメチルエチルケトンオキシムを25質量%、更に第3成分を、表2の実施例1~5、比較例1~2に示す濃度となるように配合する事で塗料用硬化抑制剤を調製した。
【0030】
[性能評価]
各塗料用硬化抑制剤の硬化抑制性能を以下のように評価した。その結果を表2に示す。
【0031】
(試験1)
直径40mmのガラススクリュー瓶に入れた、イソシアネート硬化型クリヤー塗料(商品名「EVERGLOSS」、BASFコーティングス ジャパン(株)製、塗料中NCO含有率;4.0質量%)に対し、塗料の25質量%に当たる塗料用硬化抑制剤を添加し、攪拌せずに25℃にて大気開放下1ヶ月間静置した後、目視観察を行い、以下に示す評価基準に従い、硬化抑制性能を確認した。
【0032】
ここで、「固化」は、塗料が完全に固化し、粘性がない状態であり、「固化せず」は、流動性が認められる状態である。
【0033】
【表1】
【0034】
(試験2)
イソシアネート硬化型クリヤー塗料(商品名「EVERGLOSS」、BASFコーティングス ジャパン(株)製、塗料中NCO含有率;4.0質量%)120gをガラススクリュー瓶に投入した後、塗料用硬化抑制剤30g(塗料の25質量%に相当)を添加し、十分攪拌した後に、25℃にて大気開放下1ヶ月間静置した後、目視観察を行い、上記に示す評価基準に従い、硬化抑制性能を確認した。
【0035】
【表2】
【0036】
表2に示す結果より、実施例1~5の塗料用硬化抑制剤は、塗料への添加後、無攪拌状態で長期間静置した試験1において、優れた硬化抑制性能が発現する事が確認された。
【0037】
また、第3成分を添加しない比較例1は、攪拌した後長期間静置した試験2では硬化抑制性能が発現しているが、無攪拌状態での試験1では硬化抑制効果が全く認められておらず、これより、実施例1~5の第3成分としてのエチレングリコールモノフェニルエーテルの効果が明らかとなった。
【0038】
さらに、第3成分としてのエチレングリコールモノブチルエーテルを用いた比較例2でも、攪拌した後長期間静置した試験2では硬化抑制性能が発現しているが、無攪拌状態での試験1では硬化抑制効果が全く認められていないことから、第3成分としてエチレングリコールモノフェニルエーテルは効果があるが、エチレングリコールモノブチルエーテルでは効果がないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の塗料用硬化抑制剤は、廃塗料の処理だけではなく、2液硬化型ウレタンを用いる分野の廃ウレタンの処理用として使用できる。