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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-23
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】ターボチャージャ
(51)【国際特許分類】
   F02B 39/00 20060101AFI20220111BHJP
   F02B 37/00 20060101ALI20220111BHJP
   F02B 39/14 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
F02B39/00 C
F02B37/00 301H
F02B39/14 F
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017197321
(22)【出願日】2017-10-11
(65)【公開番号】P2019070359
(43)【公開日】2019-05-09
【審査請求日】2020-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591104000
【氏名又は名称】株式会社エッチ・ケー・エス
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】関根 謙克
(72)【発明者】
【氏名】延命 里紗
(72)【発明者】
【氏名】藤崎 久貴
(72)【発明者】
【氏名】今北 直志
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-020518(JP,A)
【文献】国際公開第2017/109943(WO,A1)
【文献】特開2012-219788(JP,A)
【文献】特開2009-228647(JP,A)
【文献】実開昭55-073525(JP,U)
【文献】特開2002-168130(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 37/00 - 39/00
F01D 25/18 , 25/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトの両端にそれぞれコンプレッサホイールとタービンホイールとを備えたロータが、ハウジングにベアリングを介して回転自在に支持されたターボチャージャにおいて、
上記ハウジングは、
上記ベアリングの軸方向の両端に対応した軸方向位置において、上記シャフトの周囲を囲むようにそれぞれ設けられた第1のオイル回収ギャラリおよび第2のオイル回収ギャラリと、
上記第1のオイル回収ギャラリおよび第2のオイル回収ギャラリの間の軸方向位置において上記ベアリングにオイルを供給するオイル供給通路と、
上記第2のオイル回収ギャラリから半径方向へ延び、かつ先端がオイル排出口として開口するオイル排出通路と、
上記第1のオイル回収ギャラリから軸方向に延びて上記オイル排出通路に合流するオイル連通路と、
を備えており、
上記オイル排出通路の軸方向外側の壁面は、上記第2のオイル回収ギャラリから上記オイル排出口へ向かって、軸方向と直交する平面に対して軸方向外側へ傾いた傾斜面をなしているとともに、
上記第2のオイル回収ギャラリと上記オイル排出通路とが一体となっており、上記壁面と上記第2のオイル回収ギャラリの軸方向外側の壁面とが1つの平面として連続した傾斜面をなしており、
上記第2のオイル回収ギャラリは、軸方向に投影して見たときに、上記オイル排出通路の延長方向と反対側の部位が弧状の輪郭を有しており、
この弧状の輪郭の頂点が、オイルシールリングを備えた上記シャフトの大径部が嵌合する円形の貫通孔の周面上に位置している、
ことを特徴とするターボチャージャ。
【請求項2】
上記オイル排出通路は、軸方向に投影して見たときに、上記第2のオイル回収ギャラリの上記の弧状の輪郭の両端から一定幅で直線状に延びている、ことを特徴とする請求項に記載のターボチャージャ。
【請求項3】
上記オイル排出通路は、軸方向に沿った短辺と軸接線方向に沿った長辺とを有する略長方形の断面形状を有し、上記オイル排出口は、上記長辺に沿った寸法が上記短辺に沿った寸法の少なくとも2倍である、請求項1または2に記載のターボチャージャ。
【請求項4】
上記第2のオイル回収ギャラリが上記第1のオイル回収ギャラリに対し相対的に下方となる傾斜姿勢ないし垂直姿勢でもって内燃機関に取り付けられている、ことを特徴とする請求項1~のいずれかに記載のターボチャージャ。
【請求項5】
上記コンプレッサホイール側に上記第1のオイル回収ギャラリが位置し、上記タービンホイール側に上記第2のオイル回収ギャラリが位置する、ことを特徴とする請求項1~のいずれかに記載のターボチャージャ。
【請求項6】
上記第2のオイル回収ギャラリは、軸方向に投影して見たときに、上記オイル排出通路の延長方向と反対側の部位が上記シャフトの中心に近付いた非対称形状をなしており、
上記ハウジングは、上記オイル排出通路と周方向で反対側となる部位に冷却水ギャラリをさらに備え、
上記第2のオイル回収ギャラリと上記冷却水ギャラリとは少なくとも一部が同一の軸方向位置に位置している、ことを特徴とする請求項に記載のターボチャージャ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車用内燃機関等の内燃機関において排気エネルギを利用して過給を行うターボチャージャの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
ターボチャージャは、内燃機関のシリンダヘッドから排気マニホルドを介してタービン部に供給される排気のエネルギによってロータが回転する構成であるため、シリンダヘッドに比較的近い位置に配設する必要があり、例えば、シリンダブロックおよびシリンダヘッドからなる内燃機関本体部の排気側の側面付近に配置されることが多い(例えば特許文献1)。
【0003】
特許文献2および特許文献3は、従来のターボチャージャのロータ軸受構造およびその潤滑構造を開示している。これらの文献に示されているように、ターボチャージャのロータは、コンプレッサホイールとタービンホイールとの間でベアリングを介してハウジングに回転自在に支持されており、ハウジングの中央部付近からオイルを供給することによってベアリングの潤滑がなされている。そして、ベアリングに供給されたオイルは、軸方向の両側へ流れ、ベアリングの両端から流出する。そのため、ハウジングには、このオイルを回収するために、ベアリングの両端を囲むように一対のオイル回収用の空間つまりオイル回収ギャラリが設けられており、さらに、一対のオイル回収ギャラリの間に、オイル排出口が設けられている。つまり、ベアリングの両端からそれぞれ流出したオイルは、各々のオイル回収ギャラリから自重で下方へ流れ、ハウジングの中央部付近で合流した上で、単一のオイル排出口から下方へと排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-148280号公報
【文献】特開2017-115671号公報
【文献】特開2014-066233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ターボチャージャは、内燃機関の比較的近くに配置する必要があるとともに、吸排気系の配管が付随し、しかも他の部品への熱的な影響が大きいことから、車両のエンジンルーム内等において、設置スペースの確保が大きな問題となる。
【0006】
これに関し、従来のターボチャージャは、特許文献2,3に記載のように一対のオイル回収ギャラリの間にオイル排出口を備えていることから、ロータの回転中心軸線がほぼ水平となるような姿勢に取付姿勢が限定されてしまう。仮に、ロータの回転中心軸線が水平に対し大きく傾いた傾斜姿勢で使用したとすると、いずれか一方のオイル回収ギャラリの一部がオイル排出口よりも下方に位置することとなる結果、オイルの円滑な排出が困難となる。
【0007】
従って、従来のターボチャージャは、内燃機関に対する取付姿勢ないし取付位置の設計の自由度が低い、という問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係るターボチャージャは、シャフトの両端にそれぞれコンプレッサホイールとタービンホイールとを備えたロータが、ハウジングにベアリングを介して回転自在に支持されている。
【0009】
上記ハウジングは、
上記ベアリングの軸方向の両端に対応した軸方向位置において、上記シャフトの周囲を囲むようにそれぞれ設けられた第1のオイル回収ギャラリおよび第2のオイル回収ギャラリと、
上記第1のオイル回収ギャラリおよび第2のオイル回収ギャラリの間の軸方向位置において上記ベアリングにオイルを供給するオイル供給通路と、
上記第2のオイル回収ギャラリから半径方向へ延び、かつ先端がオイル排出口として開口するオイル排出通路と、
上記第1のオイル回収ギャラリから軸方向に延びて上記オイル排出通路に合流するオイル連通路と、
を備えている。
【0010】
そして、上記オイル排出通路の軸方向外側の壁面は、上記第2のオイル回収ギャラリから上記オイル排出口へ向かって、軸方向と直交する平面に対して軸方向外側へ傾いた傾斜面をなしているとともに、
上記第2のオイル回収ギャラリと上記オイル排出通路とが一体となっており、上記壁面と上記第2のオイル回収ギャラリの軸方向外側の壁面とが1つの平面として連続した傾斜面をなしており、
上記第2のオイル回収ギャラリは、軸方向に投影して見たときに、上記オイル排出通路の延長方向と反対側の部位が弧状の輪郭を有しており、
この弧状の輪郭の頂点が、オイルシールリングを備えた上記シャフトの大径部が嵌合する円形の貫通孔の周面上に位置している。
【0011】
このような構成では、例えばロータの回転中心軸線が水平な取付姿勢では、第1のオイル回収ギャラリおよび第2のオイル回収ギャラリに流れ出たオイルが、それぞれ自重によりオイル排出口へ向かって流れ、オイル連通路ならびにオイル排出通路を介して互いに合流した上でオイル排出口から流れ落ちる。
【0012】
また例えば第2のオイル回収ギャラリが下方となるようにロータの回転中心軸線が垂直となった取付姿勢では、上方に位置する第1のオイル回収ギャラリに流れ出たオイルが、オイル連通路を介して下方のオイル排出通路へと流れ、下方の第2のオイル回収ギャラリからオイル排出通路へと流れ出たオイルと合流する。そして、このような取付姿勢において、オイル排出通路の軸方向外側の壁面は、水平面に対し先端のオイル排出口側が相対的に下がった傾斜面となるので、この壁面の傾斜に沿ってオイルが確実に排出される。
【0013】
つまり、ロータの回転中心軸線が水平となる取付姿勢から垂直となる取付姿勢までの任意の傾斜状態において、ベアリング潤滑後のオイルの排出を確保することができ、任意の取付姿勢での使用が可能となる。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、ターボチャージャを任意の傾斜状態で内燃機関に取り付けて使用することが可能となり、内燃機関に対する取付姿勢ないし取付位置の設計の自由度が高くなる。従って、内燃機関周囲でのターボチャージャの取付スペースの確保が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】この発明の一実施例のターボチャージャの縦断面図。
図2】センタハウジングおよびロータの縦断面図。
図3】センタハウジングの縦断面図。
図4図3のA-A線に沿った横断面図。
図5図3のB1-B1線に沿った横断面図。
図6図3のB2-B2線に沿った横断面図。
図7図3のB3-B3線に沿った横断面図。
図8】センタハウジングの一部を図4のC-C線に沿って切り取って示した断面斜視図。
図9】センタハウジングの一部を図3のB1-B1線に沿って切り取って示した断面斜視図。
図10】オイル排出通路の断面図。
図11】回転中心軸線を水平とした取付姿勢の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0017】
図1は、この発明の一実施例として自動車用内燃機関の過給に用いられるターボチャージャ1を示した縦断面図である。このターボチャージャ1は、ハウジング2として、中央のセンタハウジング3と、センタハウジング3の一端に結合されたコンプレッサハウジング4と、センタハウジング3の他端に結合されたタービンハウジング5と、を備えている。ハウジング2の内部には、自由に回転可能なロータ6が収容されている。ロータ6は、シャフト7の一端にコンプレッサホイール8を備え、かつシャフト7の他端にタービンホイール9を備えている。コンプレッサハウジング4とコンプレッサホイール8とによって吸気を圧縮する遠心式コンプレッサつまりコンプレッサ部が構成され、タービンハウジング5とタービンホイール9とによってロータ6を回転駆動するラジアルタービンつまりタービン部が構成されている。
【0018】
図1は、この実施例のターボチャージャ1の内燃機関への取付姿勢ないし車両搭載姿勢の一例として、ロータ6の回転中心軸線Lが垂直となった姿勢でもってターボチャージャ1を図示している。以下の実施例の説明では、理解を容易にするために、「上」「下」の語を図1の姿勢を基準として用いることとする。また以下の説明で「軸方向」とは、特に別の記載がない限りは、ロータ6の回転中心軸の軸方向を意味し、「径方向」、「半径方向」、「周方向」等も同様にロータ6の回転中心軸を基準とする。図1の姿勢においては、タービン部が相対的に下方となり、コンプレッサ部が相対的に上方となる。例えば、内燃機関の排気ポートからタービン部に至るまでの排気経路を短くすべくターボチャージャ1が内燃機関の排気側の側面付近に配置されたとすると、コンプレッサ部が相対的に上方に位置する結果、内燃機関の吸気側からコンプレッサ部へと引き回される吸気系の配管レイアウトとして、内燃機関上方の空間を有効利用することが可能となる。なお、後述するように、本実施例のターボチャージャ1の取付姿勢ないし車両搭載姿勢は、図1のような垂直状態に限定されるものではない。
【0019】
図2は、コンプレッサハウジング4およびタービンハウジング5を取り除いてセンタハウジング3およびロータ6を示した縦断面図であり、さらに図3は、センタハウジング3を単体で示した縦断面図である。
【0020】
ロータ6は、シャフト7とタービンホイール9とが予め一体に形成されており、別部材として形成されたコンプレッサホイール8がシャフト7の先端部分に取り付けられている。例えば、コンプレッサホイール8の中心の貫通孔に挿通されたシャフト7の先端に螺条を加工し、図示せぬナットを締め付けることによってコンプレッサホイール8がシャフト7に取り付けられている。
【0021】
シャフト7は、シールリング13,14をそれぞれ取り付けるための一対の大径部すなわちコンプレッサ側シールリング支持部11およびタービン側シールリング支持部12を備えている。タービン側シールリング支持部12は、タービンホイール9に隣接しており、該タービンホイール9ならびにシャフト7と一体に形成されている。タービン側シールリング支持部12の外周円筒面には、タービンホイール9に近い位置に周方向に沿ってシールリング溝15が形成されており、ここにシールリング14が装着されている。コンプレッサ側シールリング支持部11は、コンプレッサホイール8に隣接しており、その外周円筒面には、コンプレッサホイール8に近い位置に周方向に沿ってシールリング溝16が形成されているとともに、コンプレッサホイール8から相対的に離れた位置に周方向に沿ってフリンガ溝17が形成されている。シールリング溝16にはシールリング13が装着されている。フリンガ溝17は、オイルを遠心力でもって半径方向へ飛ばすフリンガとして機能する。
【0022】
ロータ6の上記の一対のシールリング支持部11,12の間には、円筒状をなすベアリング20が配置されている。ロータ6のシャフト7は、このベアリング20に挿通されており、このベアリング20によって回転自在に支持されている。より詳しくは、ベアリング20と重複しているシャフト7の長さ範囲の中で、一対のシールリング支持部11,12に近い両端部分7a,7aがベアリング20の内周面に摺接(厳密には油膜形成用の微小隙間が介在する)しており、残りの中央部分は、シャフト7の径が僅かに小径となっていて、ベアリング20の内周面との間でオイル流路となる空間21を構成している。また、ベアリング20の軸方向中央部には、直径方向に沿って円形の径方向孔22が貫通形成されている。
【0023】
なお、詳細には図示していないが、シャフト7へのベアリング20の取付(つまり挿入配置)を可能とするために、コンプレッサ側シールリング支持部11はシャフト7とは別体の円筒状の部品として形成されており、位置決め用の段部(図示せず)を有するシャフト7に挿通した上でコンプレッサホイール8を取り付けることでシャフト7に固定されている。
【0024】
センタハウジング3は、金属材料の鋳造品からなり、全体として略円筒状をなしているとともに、コンプレッサハウジング4を取り付けるための円板状ないし円環状のコンプレッサ取付フランジ23を一端に有し、かつ他端に、タービンハウジング5を取り付けるための円板状ないし円環状のタービン取付フランジ24を有している。上記のように構成されたロータ6に対し、センタハウジング3には、ロータ6のシャフト7が貫通する断面円形の貫通孔25が該センタハウジング3の全長に亘って形成されている。この貫通孔25は、径が僅かに異なる複数の部分からなり、ロータ6の一対のシールリング支持部11,12にそれぞれ対応するコンプレッサ側シールリング嵌合孔26およびタービン側シールリング嵌合孔27と、これらのシールリング嵌合孔26,27に比較して僅かに径が小さなベアリング嵌合孔28と、を備えている。コンプレッサ側シールリング嵌合孔26には、コンプレッサ側シールリング支持部11の軸方向の一部詳しくはシールリング13を含むコンプレッサホイール8に隣接する一部分が極微小な隙間を介して嵌合しており、かつシールリング13がこの微小隙間をシールするようにコンプレッサ側シールリング嵌合孔26の内周面に摺接している。タービン側シールリング嵌合孔27には、タービン側シールリング支持部12が該タービン側シールリング支持部12の全長に亘って嵌合している。タービン側シールリング嵌合孔27内周面とタービン側シールリング支持部12の外周面との間には、やはり極微小な隙間が存在し、シールリング14がこの微小隙間をシールするようにタービン側シールリング嵌合孔27の内周面に摺接している。
【0025】
ベアリング嵌合孔28は、ベアリング20のほぼ全長に亘る軸方向長さを有し、ここにベアリング20が極微小な隙間を介して嵌合している。このベアリング嵌合孔28の軸方向中央部の内周面には、図3に示すように、周方向に延びた油溝29が凹設されている。この油溝29は、周方向の一定角度範囲に設けられており、全周には連続していない。この油溝29の形成位置に対応して、センタハウジング3の軸方向中央部には、該センタハウジング3の外周面に開口したオイル入口30が設けられており、油溝29から半径方向に延びたオイル供給通路31を介して油溝29とオイル入口30とが連通している。内燃機関への取付状態においては、上記オイル入口30に図示せぬコネクタを介してオイル配管が接続されており、潤滑用のオイルが供給される。
【0026】
また、上記ベアリング嵌合孔28の上記オイル供給通路31と180°反対側となる位置には、半径方向に沿ってピン取付孔32が開口形成されている。このピン取付孔32は、ベアリング20の径方向孔22に合致する位置にあり、図2に示すように、センタハウジング3へのロータ6等の組付が完了した後に、径方向孔22に係合する位置決めピン33が圧入されるようになっている。これによってベアリング20がベアリング嵌合孔28内に保持される。そして、このようにベアリング20が位置決めされた状態では、径方向孔22の他方が油溝29ならびにオイル供給通路31に対向して位置し、オイル流路の一部となる。つまり、前述したシャフト7の小径部分とベアリング20の内周面との間における円筒状の空間21が径方向孔22を介して油溝29に連通している。
【0027】
従って、オイル供給通路31から導入されたオイルは、ベアリング20の外周面とベアリング嵌合孔28の内周面との間の微小隙間、および、ベアリング20の内周面とシャフト7(一対の摺接部7a)との間の微小隙間、の双方に供給される。これにより、ベアリング20は一種のフルフロート軸受の形でもって高速回転するロータ6を支持する。
【0028】
ベアリング20の外周面側および内周面側の双方に供給されたオイルは、軸方向中央の油溝29および円筒状の空間21から上下方向につまり軸方向の両側へ流れ、ベアリング20の軸方向両端に達することとなる。ベアリング20の両端面は、それぞれロータ6のシールリング支持部11,12の端面に極微小な隙間を介して接している。換言すれば、ベアリング20の端面は、シールリング支持部11,12の端面によって覆われている。なお、詳細には図示しないが、ベアリング20の各々の端面には、油膜確保のために、半径方向に沿った細い油溝が複数形成されている。従って、ベアリング20を潤滑した後のオイルは、ベアリング20両端とシールリング支持部11,12との境界から排出される。
【0029】
次に、このようにベアリング20の両端とシールリング支持部11,12との境界から排出されるオイルの回収・排出構造について、図4図9をも参照してさらに説明する。
【0030】
図2図3に示すように、センタハウジング3の上部つまりコンプレッサ部寄り部分には、ロータ6のシャフト7の一部であるコンプレッサ側シールリング支持部11の周囲を囲むように、空洞部つまり「第1のオイル回収ギャラリ」に相当するコンプレッサ側オイル回収ギャラリ41が形成されている。このコンプレッサ側オイル回収ギャラリ41は、図4に示すように、軸方向に投影して見たときに、ロータ6と同心円をなす円盤状ないし円環状に形成されており、その径は、コンプレッサホイール8やタービンホイール9の径とほぼ等しいものとなっている。換言すれば、ロータ6の回転中心軸を中心として、コンプレッサ側オイル回収ギャラリ41の外周側の内周面41aまでの距離は全周に亘って基本的に均等である。なお、本発明においては、コンプレッサ側オイル回収ギャラリ41は必ずしも実施例のようにロータ6と同心円状のものには限定されず、多少異形であってもよい。
【0031】
そして、このコンプレッサ側オイル回収ギャラリ41は、中心部において、コンプレッサ側シールリング支持部11の軸方向寸法よりも僅かに小さい軸方向寸法を有し、コンプレッサ側シールリング支持部11のフリンガ溝17部分およびコンプレッサ側シールリング支持部11端面とベアリング20端面との境界面が、コンプレッサ側オイル回収ギャラリ41の中に露出している(図2参照)。換言すれば、軸方向位置として、コンプレッサ側オイル回収ギャラリ41は、上記境界面に対応している。
【0032】
従って、ベアリング20の潤滑後にコンプレッサ側へ流れ出たオイルは、主にフリンガ溝17によって遠心力により外周側へ吹き飛ばされ、コンプレッサ側オイル回収ギャラリ41の主に外周部において回収される。オイルがロータ6の中心寄りに多く存在するとシールリング13を通過してコンプレッサホイール8側へ漏れやすくなるので、コンプレッサ側オイル回収ギャラリ41は、センタハウジング3の外形寸法の中でできるだけ径が大きく、かつ容積も大きなものとして形成されている。
【0033】
また、センタハウジング3には、円盤状ないし円環状をなすコンプレッサ側オイル回収ギャラリ41の周方向の一部から軸方向下方へ(つまりタービン部側へ)延びたオイル連通路43が形成されている。詳しくは、オイル入口30と180°反対側となる周方向位置にオイル連通路43が設けられている。
【0034】
前述したベアリング嵌合孔28におけるピン取付孔32は、一端部がオイル連通路43の半径方向内側の壁面に開口している。そして、このピン取付孔32と整列して、オイル連通路43の半径方向外側部分を構成するセンタハウジング3の外周壁部44に作業孔45が開口形成されている。前述した位置決めピン33は、この作業孔45を通して圧入される。最終的に、作業孔45はプラグ46(図1参照)の圧入によって塞がれている。
【0035】
一方、ターボチャージャ1の垂直取付姿勢において下側となるタービン側シールリング支持部12に対しては、オイル回収用の空洞部として「第2のオイル回収ギャラリ」に相当するタービン側オイル回収ギャラリ48がタービン側シールリング支持部12の周囲を囲むように形成されている。より詳しくは、潤滑後のオイルが流れ出るベアリング20の端面とタービン側シールリング支持部12との境界面がタービン側オイル回収ギャラリ48に望んでいる。換言すれば、軸方向位置として、タービン側オイル回収ギャラリ48は上記境界面に対応している。
【0036】
このタービン側オイル回収ギャラリ48は、図5および図6に示すように、半円形ないし三日月形に近似した形状を有している。すなわち、軸方向に投影して見たときに、タービン側オイル回収ギャラリ48は弧状に湾曲した輪郭48aを有しており、この弧状の輪郭48aの頂点(中央の点)48bがタービン側シールリング嵌合孔27の円に外接している。換言すれば、弧状の輪郭48aの頂点48bは、タービン側シールリング嵌合孔27の円周上に位置する。また、弧状の輪郭48aの両端の点48c,48cは、これら2つの点48c,48cを結ぶ仮想の直線がタービン側シールリング嵌合孔27に外接するように、その位置が定められている。
【0037】
上記のタービン側オイル回収ギャラリ48には、該タービン側オイル回収ギャラリ48から半径方向へ延びたオイル排出通路50が接続されている。このオイル排出通路50は、センタハウジング3のタービン取付フランジ24に沿って半径方向外側へ直線的に延びた矩形の筒状部51の中に形成されている。オイル排出通路50の先端は、筒状部51の先端において略長方形をなすオイル排出口52として開口している(図8参照)。なお、車載状態においては、図示しないオイル回収用の配管がオイル排出口52に接続されている。
【0038】
オイル排出通路50は、図10に断面形状を示すように、軸方向外側つまりタービン取付フランジ24に隣接したものとなる第1壁面54と、この第1壁面54に対向する第2壁面55と、これら第1壁面54および第2壁面55に対し直交する第3壁面56ならびに第4壁面57と、のそれぞれ実質的に平面をなす4つの壁面から構成されている。図示するように、第1壁面54および第2壁面55が長方形の長辺に相当し、第3壁面56および第4壁面57が長方形の短辺に相当する。従って、図8に示すように、オイル排出通路50は、ロータ6の接線方向に拡がった扁平な断面形状をなしている。このオイル排出通路50の扁平な断面形状における縦横比は断面位置によって異なるものとなるが、先端のオイル排出口52において、軸接線方向の長辺に沿った寸法が軸方向の短辺に沿った寸法の少なくとも2倍であることが望ましい。これによりオイル排出通路50は、いずれの断面位置においても、長辺に沿った寸法が短辺に沿った寸法の少なくとも2倍となる。
【0039】
タービン側オイル回収ギャラリ48とオイル排出通路50とは、実質的に1つの空間として一体に連続して形成されている。図5に示すように、第3壁面56と第4壁面57とは互いに平行に延びており、前述したタービン側オイル回収ギャラリ48の弧状の輪郭48aの両端の点48c,48cに接続されている。換言すれば、弧状の輪郭48aの両端の点48c,48cから第3壁面56および第4壁面57が平行に延びている。
【0040】
また、第1壁面54は、タービン側オイル回収ギャラリ48の軸方向外側の壁面つまりタービン取付フランジ24に隣接した側のギャラリ第1壁面61に、明確な境界を有さずに1つの平面として連続している。ここで、第1壁面54およびギャラリ第1壁面61は、軸方向と直交する平面(図1の垂直取付姿勢では水平面)に対して斜めとなるように傾斜している。詳しくは、図1のような垂直取付姿勢において外周側つまりオイル排出口52側が低位となるように傾斜している。この水平面に対する傾斜角は、オイルが自重により流れ得るように例えば3°以上であることが望ましく、一例では、坂道等を考慮して例えば15°~20°の傾斜角を有している。
【0041】
上記ギャラリ第1壁面61に対向して該ギャラリ第1壁面61とともにタービン側オイル回収ギャラリ48を構成するギャラリ第2壁面62は、軸方向と直交する平面(図1の垂直取付姿勢では水平面)に沿った平面をなしている。また、オイル排出通路50の第2壁面55は、ギャラリ第2壁面62よりも僅かにコンプレッサ部側に片寄っており、両者は、傾斜面63(図8参照)を介して接続されている。第2壁面55は、軸方向と直交する平面(換言すれば水平面)にほぼ沿っており、より詳しくは、オイル排出口52が低位となるように極僅かだけ傾斜している。なお、軸方向位置として、タービン側オイル回収ギャラリ48はオイル排出通路50先端のオイル排出口52に対応しており、詳しくは、オイル排出口52の軸方向寸法の範囲内にタービン側オイル回収ギャラリ48が位置している。
【0042】
従って、オイル排出通路50は、全体として楔状の通路形状をなしている。また、タービン側オイル回収ギャラリ48は、ギャラリ第1壁面61とギャラリ第2壁面62と弧状の輪郭48aとによって、先端が弧状に丸まった狭小な楔状の空間として構成されている。特に、オイル排出通路50の延長方向と反対側の部位が弧状の輪郭48aとなっている。
【0043】
ここで、上記オイル排出通路50は、センタハウジング3の周方向の位置として、オイル入口30に対し180°反対側となる位置に設けられている。そして、前述したコンプレッサ側オイル回収ギャラリ41から下方へ延びたオイル連通路43の先端(つまり下端)が上記オイル排出通路50に合流している。詳しくは、タービン側オイル回収ギャラリ48のギャラリ第2壁面62の外周側端部、つまり上記の傾斜面63に隣接した位置において、上記オイル連通路43の先端が開口している。
【0044】
さらに、センタハウジング3は、タービン取付フランジ24に隣接して、タービン部を冷却するための冷却水が通流する冷却水ギャラリ65を備えている。この冷却水ギャラリ65は、軸方向に投影して見たときに、貫通孔25を囲むように全周に亘って環状に連続して形成されており、図5に示すように、オイル排出通路50とは反対側となる2箇所において、一方が冷却水入口となり他方が冷却水出口となる一対の冷却水コネクタ通路66がそれぞれ連通している。
【0045】
冷却水ギャラリ65は、周方向の各部における断面形状が一定ではなく、図2図3に示すように、オイル排出通路50と反対側となる部位では、タービン側シールリング支持部12の軸方向寸法に比較的近い軸方向寸法を有する矩形断面形状をなし、オイル排出通路50側では、タービン側オイル回収ギャラリ48との干渉を避けて該タービン側オイル回収ギャラリ48とタービン取付フランジ24との間の略三角形の断面領域内で略三角形断面形状をなしている。また、軸方向位置として、冷却水ギャラリ65の一部はタービン側オイル回収ギャラリ48と同じ軸方向位置にある。
【0046】
前述したようにタービン側オイル回収ギャラリ48の輪郭48aの頂点48bは、タービン側シールリング嵌合孔27の円周上に位置しており、換言すれば、タービン側オイル回収ギャラリ48は、軸方向に投影して見たときに、オイル排出通路50側に拡がっているものの反対側ではシャフト7に近い位置にある。従って、オイル排出通路50と反対側では、タービン側オイル回収ギャラリ48に占有されていない領域を利用して、冷却水ギャラリ65がシャフト7に近い位置に形成されている。また、オイル排出通路50が位置する領域では、タービン側オイル回収ギャラリ48と軸方向にずれた形に冷却水ギャラリ65が形成されており、これにより、全体として、タービンホイール9とほぼ等しい径の環状に連続した冷却水ギャラリ65が確保されている。従って、熱負荷の高いセンタハウジング3のタービン部寄り部分を効率よく冷却することができる。
【0047】
上記のように構成されたターボチャージャ1においては、図1のような垂直な取付姿勢において、コンプレッサ側オイル回収ギャラリ41に流れ出たオイルは、自重により連通路43を介してオイル排出通路50へと流れ、オイル排出通路50を通してオイル排出口52へと流れる。オイル排出通路50においては、重力方向の下側となる第1壁面54を主に伝わってオイルが流れることとなるが、この第1壁面54が水平面に対し傾斜した傾斜面であることから、ターボチャージャ1が垂直姿勢であっても確実にオイルが排出される。
【0048】
一方、ベアリング20のタービン部側の端面とタービン側シールリング支持部12の端面との境界から遠心力によって半径方向外側へ吹き飛ばされたオイルは、タービン側オイル回収ギャラリ48によって捕捉・回収されるとともに、速やかにオイル排出通路50へと案内される。図5から明らかなように、ロータ6の回転中心から外周側へ向かったオイルは、タービン側オイル回収ギャラリ48の弧状の輪郭48aに衝突してオイル排出通路50へと向かう。また、タービン側オイル回収ギャラリ48は、オイル排出通路50に近付くに従って軸方向寸法が拡大する楔状をなしているので、この点からもオイル排出通路50へのオイルの移動が促進される。
【0049】
オイル排出通路50へと流れたオイルは、前述したように、オイル排出通路50の第1壁面54が水平面に対し傾斜していることから、確実にオイル排出口52へと流れる。タービン側オイル回収ギャラリ48およびコンプレッサ側オイル回収ギャラリ41の双方からのオイル流量が多い場合でも、オイル排出通路50は第1壁面54が幅広となった扁平形状をなすので、第1壁面54に沿ってオイルが円滑に流れる。
【0050】
コンプレッサ側オイル回収ギャラリ41が前述したように比較的大きな容積を有する構成であるのに対し、タービン側オイル回収ギャラリ48はオイルを捕捉してオイル排出通路50へと案内するに必要な最小限の大きさのものとなっている。例えばターボチャージャ1の停止時には、タービン側オイル回収ギャラリ48内にオイルが滞留することがなく、水平面に対し傾斜したギャラリ第1壁面61ならびにオイル排出通路50の第1壁面54を伝わって確実にオイルが排出される。そのため、停止中にタービン側シールリング支持部12のシールリング14を通してタービン部へと漏洩するオイルが最小限となる。
【0051】
換言すれば、コンプレッサ側オイル回収ギャラリ41においては、フリンガ溝17と径の大きなオイル回収ギャラリ41とを組み合わせることでコンプレッサ部側へのオイルの漏洩を抑制している。他方、垂直取付姿勢において下側となるタービン側オイル回収ギャラリ48においては、底面となるギャラリ第1壁面61がオイル排出通路50の第1壁面54に連続した傾斜面をなす小型のオイル回収ギャラリ48とすることでオイルの滞留時間を短くし、タービン部側へのオイルの漏洩を抑制している。
【0052】
次に、図11は、上記のように構成されたターボチャージャ1をその回転中心軸線Lが水平となった取付姿勢ないし車両搭載姿勢で示した説明図である。なお、軸方向に投影して見たときにはオイル排出通路50が下側となっている。このような水平姿勢においては、タービン側オイル回収ギャラリ48およびこれに連続したオイル排出通路50が概ね垂直方向に沿ったものとなるので、ベアリング20のタービン部側の端面から流れ出たオイルは、その自重によりタービン側オイル回収ギャラリ48およびオイル排出通路50を通してオイル排出口52へと速やかに流れ落ちる。また、ベアリング20のコンプレッサ部側の端面から流れ出たオイルは、コンプレッサ側オイル回収ギャラリ41内に回収された後、図11の姿勢で下側となるオイル連通路43に流入し、軸方向に流れてオイル排出通路50へと至る。すなわち、このような水平姿勢においても、ベアリング20の軸方向の双方へ向かって流れたオイルの回収ならびに排出が可能である。
【0053】
このように、上記実施例のターボチャージャ1は、図11のような水平姿勢から図1のような垂直姿勢の間のいかなる傾斜姿勢であってもベアリング20潤滑後のオイルの回収ならびに排出が可能であり、内燃機関への取付姿勢ないし車両搭載姿勢が従来のように水平姿勢に制限されることがない。従って、エンジンルーム内等におけるターボチャージャ1の取付スペースの確保が容易となる。
【0054】
以上、この発明の一実施例を詳細に説明したが、この発明は上記実施例に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。例えば、上記実施例では、ベアリング20が1個の滑り軸受から構成されているが、コンプレッサ部側とタービン部側とに分かれた一対のベアリングを備える構成にもこの発明は適用が可能であり、また、ベアリングとして転がり軸受を用いた構成にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0055】
1…ターボチャージャ
2…ハウジング
3…センタハウジング
6…ロータ
7…シャフト
8…コンプレッサホイール
9…タービンホイール
11…コンプレッサ側シールリング支持部
12…タービン側シールリング支持部
13,14…シールリング
20…ベアリング
25…貫通孔
26…コンプレッサ側シールリング嵌合孔
27…タービン側シールリング嵌合孔
28…ベアリング嵌合孔
31…オイル供給通路
41…コンプレッサ側オイル回収ギャラリ
43…オイル連通路
48…タービン側オイル回収ギャラリ
50…オイル排出通路
52…オイル排出口
54…第1壁面
65…冷却水ギャラリ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11