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特許6998750ネジ回し装置、及び、ネジを搬送して締め付ける方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-23
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】ネジ回し装置、及び、ネジを搬送して締め付ける方法
(51)【国際特許分類】
   B25B 23/10 20060101AFI20220111BHJP
   B25J 9/06 20060101ALI20220111BHJP
   B23P 19/06 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
B25B23/10 E
B25J9/06 B
B23P19/06 C
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2017239117
(22)【出願日】2017-12-13
(65)【公開番号】P2019104092
(43)【公開日】2019-06-27
【審査請求日】2020-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】本間 敏行
(72)【発明者】
【氏名】掃部 雅幸
(72)【発明者】
【氏名】高山 裕規
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-109868(JP,U)
【文献】特開平09-131668(JP,A)
【文献】特開平03-277431(JP,A)
【文献】特開平03-035907(JP,A)
【文献】特開2002-299891(JP,A)
【文献】国際公開第2009/022420(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 23/10
B25J 9/06
B25J 11/00
B23P 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルクを生成可能な動力源と、負圧供給口と、を備える本体と、
前記本体に取り付けられるネジ回しツールと、
を備えるネジ回し装置であって、
前記ネジ回しツールは、
ネジのネジ頭部に形成された凹部に対応した形状の先端部を有するとともに、前記トルクによって回転する軸体と、
前記ネジ頭部の頂面に接触することで、閉鎖された空間を形成可能な接触部材と、
を備え、
前記軸体の先端部には、空気を吸引する吸引口が開口され、
前記吸引口は、前記接触部材によって形成された空間の空気を吸引可能に構成され、
前記軸体の内部には、前記吸引口から吸引された空気を前記負圧供給口に向かって通過させる流路が形成され
前記接触部材は、前記軸体に貫通され、前記軸体の外周面に気密を保って固定されており、
前記軸体において、前記接触部材よりも前記先端部側及び前記先端部から遠い側は外部に露出しており、
前記ネジ頭部によって前記軸体が相対的に押し込まれた場合に、前記軸体を押し戻す付勢力を作用させる付勢部材を備え、
前記軸体が相対的に押し込まれた場合に、前記接触部材も前記軸体と一体的に押し込まれることを特徴とするネジ回し装置
【請求項2】
請求項に記載のネジ回し装置であって、
前記軸体の外周面には、空気を吸引する第2吸引口が開口され、
前記第2吸引口から吸引された空気は、前記軸体の内部を通過して前記負圧供給口に向かって流れることを特徴とするネジ回し装置
【請求項3】
請求項1又は2に記載のネジ回し装置であって、
前記負圧供給口に対する負圧の供給の有無を切換可能であることを特徴とするネジ回し装置。
【請求項4】
請求項に記載のネジ回し装置であって、
前記負圧供給口に対して圧縮空気を供給可能であることを特徴とするネジ回し装置。
【請求項5】
請求項からまでの何れか一項に記載のネジ回し装置であって、
負圧源から前記吸引口までの経路における圧力の検出結果、又は、当該経路における空気流の検出結果に基づいて、前記ネジ回しツールの前記先端部に前記ネジが保持されているか否かを判断する制御部を備えることを特徴とするネジ回し装置。
【請求項6】
請求項からまでの何れか一項に記載のネジ回し装置であって、
前記本体がロボット本体であることを特徴とするネジ回し装置。
【請求項7】
請求項に記載のネジ回し装置であって、
前記ロボット本体はアーム状に構成され、
前記ネジ回しツールは前記ロボット本体の先端部に取り付けられていることを特徴とするネジ回し装置。
【請求項8】
請求項からまでの何れか一項に記載のネジ回し装置であって、
前記本体が、人間が持って使う工具の工具本体であることを特徴とするネジ回し装置。
【請求項9】
請求項に記載のネジ回し装置を用いてネジを搬送して締め付ける方法であって、
前記吸引口に吸引流を発生させながら、かつ、前記軸体を回転させながら、当該軸体の先端部を前記ネジのネジ頭部に近づけることで、前記ネジ頭部に形成された前記凹部に前記先端部が嵌まった状態でネジを保持し、
前記ネジを、締付け作業を行う位置まで搬送し、
搬送先の位置で前記軸体を回転させることにより、前記先端部に保持されている前記ネジをねじ込むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてネジ回し装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば工場の製造ラインにおいて、ネジを、締付け作業を行う所望の位置まで搬送し、搬送先の位置でネジの締付けを行う工程が多く見られる。
【0003】
このような工程を1台のロボットを用いて行う場合、一般的には、ロボットの手先にグリッパを取り付けて当該グリッパによりネジを所定の位置まで搬送した後、グリッパに代えてネジ回しをロボットの手先に取り付けて、当該ネジ回しによってネジを締め付けることが考えられる。しかしながら、その場合、ロボットの手先のツールを交換する必要があり、ネジを所望の場所に搬送してねじ込む作業を連続的に行えないという問題があった。
【0004】
そこで、ロボットの手先に取り付けたグリッパのみで、ネジの搬送及び締付け作業の両方を行うことが考えられる。しかしながら、その場合、締付けの際のネジの保持力(グリップ力)を十分に確保することができずネジが空転してしまうという問題があった。
【0005】
そこで、特許文献1に記載のようなネジ回しツール(螺子部材締付け装置)を用いて、ネジを所望の場所まで搬送してねじ込む作業を行うことが考えられる。特許文献1に記載の螺子部材締付け装置は、ドライバのビット先端にネジを保持するための磁石を備えており、ビット先端にネジを保持して締付け作業を行える、としている。しかしながら、特許文献1の構成では、ネジの材質が非磁性体(例えば、樹脂、アルミニウム)の場合には対応できず、汎用性が低かった。
【0006】
或いは、特許文献2又は3に記載のようなネジ回しツール(ドライバー用ネジ保持具等)を用いて、ネジを保持して搬送することが考えられる。これらの特許文献に記載のドライバ用ネジ保持具は、ドライバの先端の保持部に弾性体を備えており、この弾性体を変形させてネジの頭を掴む、としている。しかしながら、特許文献2又は3の構成では、ネジの保持/保持解除を切り換えるために機械的な動作が必要になるため、いったん保持すると保持の解除のために人手の介入が必要となり、搬送と締付け作業とを連続して高速で行うことはできなかった。
【0007】
或いは、特許文献4のようなネジ吸着保持ツール(動力式ドライバーのネジ吸着保持装置)を用いて、ネジを吸着することにより保持して搬送することが考えられる。特許文献4に記載のネジ吸着保持装置は、ネジの頭部全体を覆う吸引保持筒を備えており、当該吸引保持筒内を負圧にすることによって、ネジの頭部を吸着して保持できる、としている。しかしながら、特許文献4に開示される構成では、ネジの頭部の全体(全周)を包み込むように吸引保持筒を配置する必要があるので、吸着保持ツールが大型化してしまう、という問題があった。また、それ故に、例えばネジが狭い間隔で並んでいるパレット上からネジを取り出すときや、他のワークピース等が近くに存在し混み合っている場所にネジをねじ込むとき等のような、狭い環境での作業に対応できなかった。また、ツールとワークが干渉してワークを傷つけるおそれがあった。更に言えば、特許文献4に開示される構成では、吸引保持筒内を負圧にしてネジの頭部を吸着するときに、ネジ頭の回転位相は考慮されていないので、その後の工程でドライバービットの位相とネジ頭の位相とを合わせる作業を行う必要があり、ネジを所望の場所に搬送してねじ込む作業を連続的に高速で行えるようにするためには、改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2004-142071号公報
【文献】特開2003-159663号公報
【文献】特開2014-233810号公報
【文献】特開平10-156741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、ネジを所望の場所に搬送してねじ込む作業を連続的に高速で行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0011】
本発明の観点によれば、以下の構成のネジ回し装置が提供される。即ち、このネジ回し装置は、本体と、ネジ回しツールと、を備える。前記本体は、トルクを生成可能な動力源と、負圧供給口と、を備える。前記ネジ回しツールは、前記本体に取り付けられる。前記ネジ回しツールは、軸体と、接触部材と、を備える。前記軸体は、ネジのネジ頭部に形成された凹部に対応した形状の先端部を有するとともに、前記トルクによって回転する。前記接触部材は、前記ネジ頭部の頂面に接触することで、閉鎖された空間を形成可能である。前記軸体の先端部には、空気を吸引する吸引口が開口される。前記吸引口は、前記接触部材によって形成された空間の空気を吸引可能に構成される。前記軸体の内部には、前記吸引口から吸引された空気を前記負圧供給口に向かって通過させる流路が形成される。前記接触部材は、前記軸体に貫通され、前記軸体の外周面に気密を保って固定されている。前記軸体において、前記接触部材よりも前記先端部側及び前記先端部から遠い側は外部に露出している。前記ネジ頭部によって前記軸体が相対的に押し込まれた場合に、前記軸体を押し戻す付勢力を作用させる付勢部材を備える。前記軸体が相対的に押し込まれた場合に、前記接触部材も前記軸体と一体的に押し込まれる。
【0012】
これにより、吸引口から負圧供給口に向かう吸引流を軸体の先端部に発生させることで、ネジ頭部の凹部に軸体の先端部を差し込んだ状態で、ネジ回しツールによってネジを保持することができる。これにより、ネジを保持して所望の場所に搬送してねじ込む一連の作業をツールの交換なしで行うことができ、作業の高速化を実現することができる。また、吸引口が軸体の先端部に形成されるとともに、当該吸引口で吸引された空気が軸体の内部を通過して負圧供給口に流れるので、コンパクトな構成を実現でき、狭い場所でもネジ回しを容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ネジを所望の場所に搬送してねじ込む作業を連続的に高速で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係るネジ回しツールが取り付けられるロボットの全体的な構成を示す模式図。
図2】ネジ回しツール及びそれとロボット本体との接続部分の拡大部分断面図であり、ネジを保持するためにネジ回しツールの先端部をネジ頭部に近づけたときの様子を示す図。
図3】ネジ回しツールの先端部にネジを保持しているときの様子を示す図。
図4】ネジ回しツールに備えられる吸着パッドの変形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るネジ回しツール10が取り付けられるロボット1の全体的な構成を示す模式図である。図2は、ネジ回しツール10及びそれとロボット本体2との接続部分の拡大部分断面図であり、ネジ7を保持するためにネジ回しツール10の先端部11tをネジ頭部の凹部7aに近づけたときの様子を示す図である。
【0016】
図1に示すロボット1は、本実施形態に係るネジ回しツール10がツールとして取り付けられることで、ネジ回し装置として機能する。ロボット1は、例えば輸送機械や電気機器等の工業製品を製造する工場の製造ラインにおいて、未完成のワークWを上流側から下流側に向かって搬送する搬送装置の側に移動可能に設置される。本実施形態のロボット1は、パレット6上等の所定の場所から取ってきたネジ7をワークW上の所望の場所に搬送してねじ込む作業を行う。
【0017】
ロボット1は、ロボット本体(本体)2と、ロボットコントローラ(制御部)4と、マスタ側カプラ8と、を主として備える。
【0018】
ロボット本体2は、複数の関節21,21,・・・及びアーム29,29を有する多関節アーム状に構成される。各関節21にはアクチュエータが備えられる。これらのアクチュエータが、ロボットコントローラ4からの指令信号に応じて適宜に駆動されることにより、各アーム29が所望の速度で所望の角度だけ回動するようになっている。
【0019】
ロボットコントローラ4は、コンピュータとして構成されており、CPU、ROM、RAM等を備える。また、前記ROMには、ロボット本体2を制御データに基づいて動作させるための適宜の動作プログラムが記憶(格納)されている。このソフトウェアとハードウェアとの協働により、ロボットコントローラ4を、ロボット本体2の各アーム29や当該ロボット本体2の先端部に取り付けられるエンドエフェクタとしてのネジ回しツール10を適宜に動作させ、予め定められた作業をロボット本体2に行わせるための指令信号を送る指令部として機能させることが可能となっている。
【0020】
ロボット本体2の先端部(手首)には、トルクを生成可能な電動モータ(動力源)22が搭載される。電動モータ22の出力軸は、ロボット本体2の手首から先端側(エンドエフェクタ側)に突出している。この電動モータ22には、電源5からの電力がケーブルを介して供給される。このケーブルは、ロボット本体2の多関節アームに沿って配線される。このような構成により、電動モータ22に電力が供給されて、エンドエフェクタに伝達されるトルク(回転力)が生成されるようになっている。電動モータ22は、ロボットコントローラ4からの指令信号に応じて適宜に駆動される。
【0021】
電動モータ22の出力軸には、マスタ側カプラ8が、この出力軸と一体的に回転するように取り付けられる。言い換えれば、マスタ側カプラ8は、電動モータ22の出力軸に対して相対回転不能に取り付けられる。マスタ側カプラ8には、エンドエフェクタの先端部に発生させた吸引流をロボット本体2側へと流すための流路の一部をなす流路8aが形成される(図2を参照)。この流路8aの吸引流が流れる方向の下流側の端部には、負圧供給口8bが形成される。負圧供給口8bには、エンドエフェクタの先端部からの吸引流をロボット本体2側へと流すための流路の一部をなすエアチューブ23の一端部が接続される。エアチューブ23は、前記のケーブルと同様に、ロボット本体2の多関節アームに沿って配索される。エアチューブ23の他端部は、ロボット本体2に搭載される負圧発生器24に接続される(図1を参照)。
【0022】
本実施形態の負圧発生器24は、真空エジェクタにより構成される。工場内の圧縮空気源(コンプレッサ)31からロボット1(ロボット本体2)に分配された圧縮空気が、負圧発生器24に供給されることにより、当該負圧発生器24内で負圧が発生される。これによりエンドエフェクタの先端部に吸引流を発生させ、これを負圧発生器24の方へと流すことが可能である。言い換えれば、負圧発生器24で負圧を発生させることにより、エンドエフェクタの先端部から空気を取り込んで負圧供給口8bを経由させて負圧発生器24の方へと流すことが可能である。更に別の言い方をすれば、負圧発生器24で発生させた負圧を、負圧供給口8bを介してエンドエフェクタの先端部に供給することが可能である。
【0023】
マスタ側カプラ8には、このマスタ側カプラ8と対をなすツール側カプラ9が相対回転不能に接続される。ツール側カプラ9には、エンドエフェクタの先端部に発生させた吸引流をロボット本体2側へと流すための流路の一部をなす流路9aが形成される(図2を参照)。ツール側カプラ9をマスタ側カプラ8に対して取り付けることにより、前記の流路8aと流路9aとが接続される。
【0024】
ツール側カプラ9の、マスタ側カプラ8に接続される側とは反対側の端面には、ネジ回しツール10をツール側カプラ9に対して固定するための固定部材19が取り付けられる。固定部材19は、例えばボルト等の締結具を用いてツール側カプラ9の端面に固定される。本実施形態の固定部材19は、短い多角柱状(本実施形態では、正8角柱状)に構成され、その中心軸が電動モータ22の出力軸の軸線上に配置されるように取り付けられる。
【0025】
固定部材19の内部には、エンドエフェクタ(本実施形態では、ネジ回しツール10)の先端部に発生させた吸引流をロボット本体2側(負圧発生器24側)へと流すための流路の一部をなす流路19aが形成される。この流路19aと、前記の流路9aとは、エアチューブ18を介して接続される。流路19aの一端部(ツール側の端部)は、固定部材19の端面の中心部に開口している。
【0026】
ロボット本体2の手先には、ネジ回しツール10がエンドエフェクタとして取り付けられる。具体的には、ネジ回しツール10は、固定部材19に固定されることにより、ツール側カプラ9及びマスタ側カプラ8を介して、ロボット本体2の多関節アームの先端部に取り付けられる。
【0027】
以下では、ネジ回しツール10の詳細な構成について説明する。ネジ回しツール10は、軸体11と、吸着パッド(接触部材)12と、を主として備える。
【0028】
軸体11は、細長い軸状の部材である。軸体11は、固定部材19の、ツール側カプラ9に接続される側とは反対側の端面の中心部に固定される。軸体11は、電動モータ22の出力軸とその軸線を一致させた状態で設けられる。軸体11は、電動モータ22の出力軸から付与されたトルクによって、マスタ側カプラ8、ツール側カプラ9、及び固定部材19と一体となって回転する。
【0029】
軸体11の先端部を当該軸体11の軸線方向で見たときの形状は、ネジ回しツール10によって搬送・締付けが行われる対象のネジ7の頭部(ネジ頭部)に形成された凹部7aに対応した形状となっている。具体的には、本実施形態では、当該凹部7aが正6角形の穴として形成されており、軸体11の先端部は正6角柱状の形状に形成される。このように、軸体11の先端部は、搬送・締付け対象のネジ7のネジ頭部と合致した形状を有しているので、ネジ7と回転位相が互いに一致していれば、当該ネジ頭部に形成された凹部7aに嵌まることができる。
【0030】
後に詳述するように、ネジ回しツール10の軸体11の先端部11tは、ネジ7の搬送・締付けを行うときに、当該ネジ7のネジ頭部の凹部7aに、互いの回転位相を合わせた状態で差し込まれる。
【0031】
本実施形態では、軸体11の先端部11tには、外部から空気を吸引するための第1吸引口(吸引口)11a及び第2吸引口11bが形成される。詳細には、本実施形態の第1吸引口11aは、軸体11の先端部11tの端面(先端面)に円形状に形成(開口)される。本実施形態の第2吸引口11bは、軸体11の先端部11tの外周面に円形状に形成(開口)される(図2を参照)。第2吸引口11bは、後述する吸着パッド12の空洞(内部空間)に開放されている。
【0032】
また、軸体11の内部には、第1吸引口11a及び第2吸引口11bから吸引された空気を、負圧供給口8bに向かって、ひいては負圧発生器24に向かって通過させるための流路11cが形成される。本実施形態の流路11cは、軸体11の軸線に平行に延びるように、直線状に形成される。第1吸引口11aは、流路11cを経由して、流路19aの前記の一端部に接続される。第2吸引口11bは、分岐路11dと流路11cとを経由して、流路19aの前記の一端部に接続される。この分岐路11dは、当該第2吸引口11bと、流路11cの中途部と、を接続する直線状の流路である。
【0033】
吸着パッド12は、弾性変形可能なゴム等の材料からなり、その先端側の半部がテーパ状に広がる形状(末広がりの形状)を有する。吸着パッド12は、軸体11の先端部11tの近傍に、当該軸体11に貫通された状態で設けられる。吸着パッド12の上端部は、軸体11との間に隙間が生じないように、当該軸体11の外周面に気密を保って固定されている。吸着パッド12の内部は、空洞となっている。吸着パッド12の先端部側の縁部12a(上記のテーパの底に相当する縁部)から、軸体11の先端面(第1吸引口11aが開口されている端面)までの、軸線方向の距離L1は、ネジ7のネジ頭部に形成された凹部7a(6角穴)の深さL2に概ね一致するか、それより短くなるように配置されている(L1≦L2)。
【0034】
また、本実施形態では、構成の小型化を実現するため、吸着パッド12の上記のテーパの底(縁部12a)の外径D1は、搬送・締付け対象のネジ7の(ネジ頭部の)頂面の外径D2と同じか、それよりも小さくなるように設定されている(D1≦D2)。ただし、吸着パッド12の外径D1をネジ頭部の頂面の外径D2より大きく構成してもよい(D1>D2)。
【0035】
本実施形態のネジ回しツール10では、負圧発生器24の駆動及び停止を切り換えることにより、及び、吸引口11a,11bから負圧発生器24までの吸引流の流路のうち負圧発生器24の近傍に設けられるバルブ25の開閉を切り換えることにより、負圧供給口8bに対する負圧の供給の有無を切換可能になっている。負圧供給口8bに対する負圧の供給の有無を切り換えることにより、必要なときだけ、第1吸引口11a及び第2吸引口11bに吸引流を発生させることができる。なお、負圧発生器24は、ロボットコントローラ4からの指令信号に応じて適宜に駆動又は停止されるようになっている。また、バルブ25の開閉も、ロボットコントローラ4からの指令信号に応じて適宜に制御されるようになっている。具体的には、本実施形態では、負圧発生器24が駆動され、かつ、バルブ25が開かれている間に限り、吸引口11a,11bに吸引流が生じるようになっている。
【0036】
また、本実施形態のロボット本体2では、負圧発生器24が停止されており、かつ、バルブ25が閉じられている間は、圧縮空気源31からの圧縮空気を負圧供給口8bに供給することもできるようになっている。負圧供給口8bに対する圧縮空気の供給の有無を切り換えることにより、必要なときだけ、第1吸引口11a及び第2吸引口11bから外部へ向かって圧縮空気を吹き出すことができる。圧縮空気源31から負圧供給口8bへの圧縮空気の供給の有無も、ロボットコントローラ4からの指令信号に応じてバルブ32(図1を参照)が適宜に開閉されることにより制御されるようになっている。具体的には、本実施形態では、バルブ32が開かれている間に限り、吸引口11a,11bに圧縮空気を供給できるようになっている。
【0037】
なお、図示はしていないが、本実施形態のロボット本体2の先端部(手首)には、ネジ回しツール10の軸体11をその先端部側へと付勢する付勢部材を備える。
【0038】
また、本実施形態では、吸引口11a,11b、流路11c、流路19a、流路9a、流路8a、負圧供給口8b、エアチューブ23、及び負圧発生器24の順に吸引流が流れるようにひと続きの流路が形成されるが、この吸引流の流路の中途部には、当該流路内の吸引流を検出する流量計26が設けられている(図1を参照)。流量計26の検出結果は、ロボットコントローラ4に入力される。ロボットコントローラ4は、流量計26の検出結果に基づいて、ネジ回しツール10の先端部にネジ7が保持されているか否かを判断し、その後のロボット1の動作を適宜制御する。
【0039】
更に、本実施形態では、吸引口11a,11bから負圧発生器24までの吸引流の流路の中途部に、当該流路内の圧力を検出する圧力センサ27が設けられている。圧力センサ27の検出結果は、ロボットコントローラ4に入力される。ロボットコントローラ4は、圧力センサ27の検出結果に基づいて、ネジ回しツール10の先端部にネジ7が保持されているか否かを判断し、その後のロボット1の動作を適宜制御する。
【0040】
なお、本実施形態においてマスタ側カプラ8及びツール側カプラ9は互いに着脱可能に構成されており、図示はしていないが、マスタ側カプラ8には、上述のネジ回しツール10を(固定部材19を介して)固定したツール側カプラ9に代えて、他のツールを固定したツール側カプラを装着することもできるようになっている。ロボット本体2は、所望のツール側カプラ(選択された1のツール側カプラ)をマスタ側カプラ8に対して結合したり取り外したりする動作を、ロボットコントローラ4からの指令信号に応じて自動で行えるようになっている。なお、上記の「他のツール」には、グリッパ、溶接ツール、バリ取りツール等の、公知の様々なツールが含まれる。また、上述したネジ7とはサイズ・種類が異なるネジをネジ回しするためのツール(異なるネジ用のネジ回しツール)も、上記の「他のツール」に含まれる。
【0041】
以下では、ロボット1によりネジ7をパレット6上から取り出して搬送して、ワークWのネジ孔Hに締め付けるときの当該ロボット1の一連の動作について、図1から図3までを参照して詳細に説明する。図3は、ネジ回しツール10の先端部11tにネジ7を保持しているときの様子を示す図である。
【0042】
初めに、ロボット1は、負圧供給口8bに負圧を供給することによりネジ回しツール10の軸体11の吸引口11a,11bに吸引流を発生させながら、かつ、電動モータ22からのトルクを付与することにより軸体11を断続的又は連続的に(望ましくは低速で)回転させながら、軸体11の先端部11tを搬送・締付け対象のネジ7のネジ頭部に近づける(図2を参照)。これにより、ネジ7の頭部に形成された凹部7a(本実施形態では、6角穴)の回転位相と、軸体11の先端部11tの回転位相と、を合わせた状態で、凹部7aに先端部11tを差し込むことができる。
【0043】
なお、軸体11の先端部11tを凹部7aに差し込み始めるときに互いに回転位相が一致しない場合は、ネジ7の頭部の頂面に先端部11tが当たり、ロボット1が軸体11をネジ7に押し付けるときに発生する反力で軸体11が相対的に押し戻されることになる。しかしながら、この軸体11の押戻しは、ロボット1が備える上述の付勢部材によって吸収することができる。この結果、ロボット1やネジ回しツール10の破損が防止される。軸体11は回転しているので、やがて先端部11tと凹部7aとの回転位相が一致し、当該凹部7aに先端部11tが差し込まれることになる。
【0044】
軸体11の先端部11tの端面と、ネジ7の凹部7aの底面と、を接触させた状態にしたとき、これらの接触位置よりも距離L2(L1)だけネジ頭部側の位置で、ネジ7の頭部の頂面と、吸着パッド12の縁部12aと、が接触する。
【0045】
この状態で、負圧供給口8bに負圧を供給し続けてネジ回しツール10の軸体11の吸引口11aに吸引流を発生させ続けることにより、ネジ7の頭部の凹部7aの底面が、吸引力により軸体11の先端部11tの端面にはりついた状態となり、軸体11の先端部11tの端面に、ネジ7の頭部の凹部7aの底面が、殆ど隙間のない状態で保持(捕捉)される。これと同時に、流路11cの中途部から分岐する分岐路11dにも吸引流が流れ、吸着パッド12の空洞内の空気が第2吸引口11bから分岐路11d内に吸い込まれる。これにより、吸着パッド12とネジ7の頂面とによって形成された閉鎖空間の空気が吸引されて当該空間が負圧になり、吸着パッド12が大気圧により弾性変形して押しつぶされた状態となって、ネジ7の頂面と吸着パッド12とが互いに強く押し付けられる。こうして、ネジ7がネジ回しツール10の先端部11tに安定的に保持される。
【0046】
このようにネジ7を保持した状態で、ロボット本体2の多関節アームが動作されることにより、ネジ7がワークWのネジ孔Hのすぐ上方の位置(締付け作業を行う位置のすぐ上方)まで搬送される。なお、ネジ7を搬送している間は、ネジ7がネジ回しツール10の先端部から脱落しないように、吸引口11a,11bに吸引流を発生させている状態が維持される。ただし、閉鎖空間の負圧が実質的に維持されてネジ7が脱落しないのであれば、搬送中に吸引流を発生させなくても良い。
【0047】
ネジ7を搬送する途中、又は搬送前後の適宜のタイミングで、流量計26の検出結果が確認される。具体的には、流量計26が設けられる流路内の吸引流の流量が閾値以下であるか否かがロボットコントローラ4により判断される。その結果、流路内の吸引流の流量が閾値以下である場合、ロボット1の手先が正常にネジ7を保持している(保持に成功した)と考えられるので、ロボットコントローラ4は、電動モータ22の駆動を停止するとともに、次の締付け作業に移行するための制御を行う。一方、吸引流の流量が閾値を上回る場合、ロボット1の手先が何らかの事情でネジ7を保持していない(保持に失敗した)と考えられるので、ロボットコントローラ4は、次の締付け作業には移行せずに、例えばパレット6上の別のネジ7を取り出すための制御を行う。なお、ロボットコントローラ4は、流量が閾値以下であるか否かを判断する代わりに、圧力センサ27で検出する圧力が閾値以下であるか否かを判断してもよい。
【0048】
ロボット1の手先がネジ7を正常に保持していることが確認された場合、ロボット1の手先に保持されたままの状態で、ネジ7が下方に(ネジ孔Hの底面に向かって)降ろされる。そして、ネジ7の先端部11tがネジ孔Hの上端近傍に至ったところで、電動モータ22が再び駆動される。これにより軸体11が回転されて、先端部11tに保持されているネジ7がネジ孔Hにねじ込まれる。言い換えれば、ロボットコントローラ4からの指令信号に応じて、軸体11を回転させるネジ回しの動作がされて、当該軸体11の先端部に捕捉されているネジ7がネジ孔Hにねじ込まれる。これにより、例えばワークWを構成する部品同士が締付け固定される。
【0049】
ロボット1は、ネジ7の締付け作業の途中の適宜のタイミングで、負圧供給口8bへの負圧の供給を停止して、それまで吸引口11a,11bに発生させていた吸引流を停止させる。これにより、ネジ7がロボット1の手先に保持(捕捉)されている状態を解除することができ、ロボット1に次の作業を行わせることができる。このとき、バルブ25を開いて圧縮空気を吸引口11a,11bに供給することにより、当該吸引口11a,11bから圧縮空気を噴出して、先端部11tをネジ7の頭部の凹部7aから確実に離脱させるようにすることもできる。
【0050】
このように、本実施形態のネジ回しツール10を取り付けたロボット1では、途中でその手先に取り付けているツールを交換することなく、ネジ7の搬送と締付け作業とを連続的に行うことができる。よって、作業の効率化・高速化を図ることができる。
【0051】
また、軸体11の先端部11tの吸引口11a,11bに発生させる吸引流を適宜の大きさ(流速)に設定することにより、搬送中に軸体11の先端部11tに保持しているネジ7を落としてしまうことを確実に防止することができる。
【0052】
また、上述したように、従来のようにグリッパでネジ7を締め付ける構成とした場合にはグリップ力不足でネジ7が空転してしまうという問題がある。この点、本実施形態では、軸体11の先端部11tをネジ7の頭部の凹部7aに差し込んで保持する構成をとっているので、このような問題は生じない。
【0053】
また、本実施形態のネジ回しツール10では、磁力を用いてネジ7を捕捉するのではなく、吸引流を用いてネジ7を捕捉(吸着)するので、ネジ7が非磁性体の材料からなる場合にも対応することができる。よって、汎用性が高く、様々な場合に用いることができる。
【0054】
また、本実施形態のネジ回しツール10を備えるロボット1では、吸引口11a,11bに吸引流を発生させている状態と、吸引流を停止した状態と、(必要な場合には、更に、吸引口11a,11bから圧縮空気を噴出させている状態と、)を切り換えることにより、いったんネジ回しツール10の先端部11tに保持したネジ7を人手で取り外さなくても、ネジ7が不要となったときに自動で保持状態を解除することができる。
【0055】
また、本実施形態のネジ回しツール10では、ネジ7の頭部の全体(全周)を取り囲むように吸着パッド12等を配置しなくてもよいため、狭隘な環境でもネジ回しを行うことができる。即ち、ネジ回しツール10の先端部11tをネジ7の頂面側の小さなエリアにアクセスすれば、当該ネジ7を保持可能であるので、ネジ7,7,・・・が狭い間隔で並んでいるパレット6上からネジ7を取り出すとき等のように、狭い場所でも作業を行うことができる。また、所定の場所から取り出してきて所望の場所まで搬送したネジ7をワークWのネジ孔Hにねじ込む場合においても、ネジ回しツール10がネジ孔Hの周囲の外部環境(例えば、組付母体や他の組付済みのワークピース)に干渉しにくく、外部環境を傷付けてしまうことを防止することができる。
【0056】
また、ネジ7を取り出すときにネジ頭部の凹部(6角穴)7aがどのような回転位相であっても、軸体11の先端部11tの位相と合わせた状態で当該先端部11tを凹部7aに嵌め込み、ネジ7を捕捉できるので、後の工程でネジ回しの位相とネジ頭の位相とを合わせる作業が不要となる。よって、ネジ7の搬送・締付け作業を連続的に高速で行うことが可能となる。
【0057】
また、本実施形態のネジ回しツール10は、部品点数が少なく簡素な構成であるため、低コストで製造できる上に、壊れにくいという利点を有する。
【0058】
以上に説明したように、本実施形態のネジ回しツール10は、トルクを生成可能な電動モータ(動力源)22と、負圧供給口8bと、を備えるロボット本体(本体)2に取り付けられる。このネジ回しツール10は、ネジ7のネジ頭部に形成された凹部(本実施形態では、6角穴)7aに対応した形状の先端部11tを有するとともに、前記トルクによって回転する軸体11を備える。軸体11の先端部11tには、空気を吸引する第1吸引口(吸引口)11aが開口される。軸体11の内部には、第1吸引口11aから吸引された空気を負圧供給口8bに向かって通過させる流路11cが形成される。
【0059】
これにより、第1吸引口11aから負圧供給口8bに向かう吸引流(図2及び図3の直線状の矢印を参照)を軸体11の先端部に発生させることで、ネジ7のネジ頭部の凹部(6角穴)7aに軸体11の先端部11tを差し込んだ状態で、ネジ回しツール10によってネジ7を保持することができる。これにより、ネジ7を保持して所望の場所に搬送してねじ込む一連の作業をツールの交換なしで行うことができ、作業の高速化を実現することができる。また、第1吸引口11aが軸体11の先端部11tに形成されるとともに、当該第1吸引口11aで吸引された空気が軸体11の内部を通過して負圧供給口8bに流れるので、コンパクトな構成を実現でき、狭い場所でもネジ回しを容易に行うことができる。
【0060】
また、本実施形態のネジ回しツール10においては、ネジ7のネジ頭部の頂面に接触することで、閉鎖された空間を形成可能な吸着パッド(接触部材)12を備える。
【0061】
これにより、ネジ頭部の周囲に大きなスペースを確保せずに、ネジ7を保持することができる。
【0062】
また、本実施形態のネジ回しツール10において、第2吸引口11bは、吸着パッド12によって形成された空間の空気を吸引可能に構成されている。
【0063】
これにより、負圧による吸引力を高めることで、ネジ7を確実に保持することができる。
【0064】
また、本実施形態のネジ回しツール10においては、軸体11の外周面には、空気を吸引する第2吸引口11bが開口され、当該第2吸引口11bから吸引された空気は、軸体11の内部(本実施形態では、分岐路11d及び流路11c)を通過して負圧供給口8bに向かって流れる。
【0065】
これにより、複数箇所(本実施形態では、吸引口11a,11b)での吸引により、安定的にネジ7を保持することができる。
【0066】
また、本実施形態のロボット1は、上記のネジ回しツール10と、ロボット本体2と、を備える。
【0067】
これにより、ネジ7の保持、搬送及びネジ回しをツール交換なしの一連の作業として行うことが可能になる。
【0068】
また、本実施形態のロボット1においては、負圧供給口8bに対する負圧の供給の有無を切換可能である。
【0069】
これにより、ネジ7の保持が不要となった場合には、負圧の供給を停止することにより、軸体11の先端部11tでの吸引が解除されて、ネジ回しツール10の先端部11tを自動的にネジ回しツール10から離すことができる。
【0070】
また、本実施形態のロボット1においては、負圧供給口に対して圧縮空気を供給可能である。
【0071】
これにより、吸引口11a,11bから圧縮空気を噴出することにより、ネジ7の保持を強制的に解除することができる。
【0072】
また、本実施形態のロボット1においては、負圧発生器(負圧源)24から吸引口11a,11bまでの経路(本実施形態では、エアチューブ23内の流路)における圧力の検出結果、及び、当該経路における空気流の検出結果に基づいて、ネジ回しツール10の先端部11tにネジ7が保持されているか否かを判断するロボットコントローラ(制御部)4を備える。
【0073】
これにより、簡素な構成で、ネジ回しツール10の先端部11tにネジ7が保持されているか否かを判断することができる。
【0074】
また、本実施形態のロボット1においては、ネジ7の頭部の頂面によって軸体11が相対的に押し込まれた場合に、当該軸体11を押し戻す付勢力を作用させる付勢部材(不図示)を備える。
【0075】
これにより、軸体11を凹部7aに差し込み始めるときに回転位相が一致せず、軸体11がネジ7の頭部の頂面に接触した場合でも、ロボット1等の破損を防止することができる。
【0076】
また、本実施形態のロボット1において、電動モータ22と、負圧供給口8bと、を備える本体が、ロボット本体2として構成されている。
【0077】
これにより、ロボット1において、ネジ7の保持、搬送及びネジ回しを効率良く行うことができる。
【0078】
また、本実施形態のロボット1においては、ロボット本体2はアーム状に構成される。ネジ回しツール10はロボット本体2の先端部(手先)に取り付けられている。
【0079】
これにより、アーム式ロボット1の先端部(手先)にネジ回しツール10を取り付けて使用することにより、狭い場所での作業を容易に行うことができる。
【0080】
また、本実施形態では、ネジ回しツール10を用いてネジ7を搬送して締め付ける方法を開示した。この方法では、吸引口11a,11bに吸引流を発生させながら、かつ、軸体11を回転させながら、当該軸体11の先端部11tをネジ7のネジ頭部に近づけることで、このネジ頭部に形成された凹部(6角穴)7aに先端部11tが嵌まった状態でネジ7を保持する。そして、このネジ7を、締付け作業を行う位置まで搬送する。そして、搬送先の位置で軸体11を回転させることにより、先端部11tに保持されているネジ7をねじ込む。
【0081】
これにより、所定の場所(本実施形態では、パレット6)からネジ7を取り出し、別の場所(本実施形態では、ネジ孔Hのすぐ上方の位置)に搬送してねじ込む一連の作業を、ツールの交換なしで行うことができる。この結果、ネジ締め作業の高速化を実現することができる。また、ネジ7を取り出すときにネジ頭部の凹部7aがどのような回転位相であっても、軸体11の回転と吸引とを同時に行いながら当該軸体11の先端部11tを凹部7aに近づけることで、軸体11の先端部11tが凹部7aに嵌まった状態で当該ネジ7を確実に保持することができる。これにより、作業の失敗を減らすことができる。
【0082】
次に、上記実施形態の変形例を説明する。図4は、主としてネジ回しツール10に備えられる吸着パッドの変形例を示す図である。なお、本変形例の説明においては、前述の実施形態と同一又は類似の部材には図面に同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。
【0083】
上記の実施形態では、吸着パッド12は、その先端側の半部がテーパ状に広がる形状を有し、軸体11の先端部11tよりもロボット本体2側に少し離れた位置に設けられるものとしたが、吸着パッド12の形状・配置位置はこれに限るものではない。
【0084】
吸着パッド12の変形例に係る吸着パッド12Aを、図4(a)に示している。この吸着パッド12Aは、その全体が、先端部11tに近づくにつれて広がるテーパ状の形状を有している。この吸着パッド12Aによっても、吸引口11aに吸引流を発生させることにより当該吸着パッド12Aの内部空間を負圧にして、大気圧との差圧でネジ回しツール10の先端部にネジ7を捕捉することができる。
【0085】
吸着パッド12の他の変形例に係る吸着パッド12Bを、図4(b)に示している。この吸着パッド12Bは軸体11の先端部11tの端面に、吸引口11aを取り囲むように設けられる。これにより、ネジ回しツール10の先端部とネジ7の凹部7aの底面との間から空気が漏れにくい状態にして、良好にネジ7を吸着することができる。この構成は、図4(b)に示すように、ネジ頭部を有しない止めネジ等(軸方向の全長に雄ネジが切ってあるネジ)にも有効である。
【0086】
吸着パッド12の更に他の変形例に係る吸着パッド12Cを、図4(c)に示している。この吸着パッド12Cは、軸体11に貫通された状態で先端部11tの近傍に設けられる。この吸着パッド12Cにおいても、吸着パッド12Cと、ネジ7の頂面と、を近接させて吸引口11aから空気を吸引したときに、吸着パッド12Cと、ネジ7の頂面と、の間の小さな隙間の空間が負圧となって密着し、良好にネジ7が吸着される。
【0087】
なお、図示はしていないが、上述した変形例の他に、吸着パッド(接触部材)を、ネジ7の凹部7aの内壁に接触可能な構成とし、この吸着パッドを凹部7aの内壁に接触させることで閉鎖された空間を形成するものとしてもよい。
【0088】
以上に本発明の好適な実施の形態及び変形例を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0089】
上記の実施形態では、ネジ7の頭部の凹部7aの底面をネジ回しツール10(軸体11)の先端部11tに吸着させるための第1吸引口11aと、吸着パッド12の内部の閉鎖空間を負圧にするための第2吸引口11bと、が個別に形成されるものとしたが、これに限るものではない。上記の構成に代えて、例えば、軸体11の外周面には吸引口(第2吸引口11bに相当するもの)が形成されていないものとして、第1吸引口11aから空気を吸引することにより、ネジ7の凹部7aの底面を軸体11の先端部11tに吸着させるとともに、吸着パッド12の内部の閉鎖空間を負圧にするものとしてもよい。言い換えれば、第1吸引口11aが第2吸引口11bを兼ねるものとして、第2吸引口11bを省略してもよい。或いは、第2吸引口11bが第1吸引口11aを兼ねるものとして、第1吸引口11aを省略してもよい。
【0090】
もっとも、吸着パッド12を備えること、及び、軸体11の先端部に形成される吸引口が複数であることは、本発明に必須の事項ではないので、吸着パッド12を省略し、それに伴い当該吸着パッド12の内部の閉鎖空間を負圧にするための構成(第2吸引口11bに相当するもの)も省略することとしてもよい。
【0091】
上記の実施形態では、第1吸引口11aから吸引された空気を負圧供給口8bに向かって通過させるために軸体11に形成される流路11cは、軸体11の軸線と平行となっている。しかしながら、当該流路11cは、軸線と平行な部分を有していなくても良い。例えば、軸体11の軸線に対して流路11cを斜めに向けて配置することが考えられる。
【0092】
上記の実施形態では、ロボット1に流量計26及び圧力センサ27の両方が設けられているが、このうち何れかを省略してもよい。
【0093】
上記の実施形態では、電動モータ22は、ロボット1の軸に備えられるモータとは別に設けられている。しかしながら、電動モータ22に代えて、ロボット1の関節21に備えられるモータによってネジ回しツール10にトルクを付与しても良い。
【0094】
上記の実施形態では、ネジ回しツール10に付与するトルクを生成可能な動力源は電動モータ22であるものとしたが、必ずしもこれに限るものではなく、例えばこれに代えて、空気圧により駆動されるモータとしてもよい。
【0095】
上記の実施形態では、負圧供給口8bに負圧を供給する負圧源は、圧縮空気の流れを負圧に変換する真空エジェクタにより構成されるものとしたが、これに限るものではない。例えばこれに代えて、負圧源をブロア装置等により構成してもよい。
【0096】
上記の実施形態では、ネジ7のネジ頭部に形成される凹部7aは6角穴であるものとしたが、その形状は6角柱形状でなくてもよく、公知のあらゆるネジ頭の形状を採用し得る。具体的には、例えば搬送・締付け対象のネジ7の凹部を四角柱形状の窪みとしてもよい。更に言えば、ネジ7の凹部は必ずしも窪み状とは限らず、これに代えて溝状にしてもよい。具体的には、例えばネジ7の凹部をプラス形状の溝、又はマイナス形状の溝とすることも可能である。その場合、溝の先端に第1吸引口11aに相当する開口を形成するための十分なスペースが確保できないことが考え得る。しかしながら、このような場合でも、例えば、吸着パッド12に相当する構成を設けるとともに、当該吸着パッド12の内部の閉鎖空間を負圧にするための構成(第2吸引口11bに相当するもの)を先端部(溝)の近傍の外周面に設けることとすれば、上記実施形態と同様にネジ7の搬送・締付けを行うことが可能となる。
【0097】
上記の実施形態では、ネジ頭部を有するネジ7を搬送・締付け対象のネジとして開示したが、これに限るものではなく、図4(b)に示すようなネジ頭部を有しない止めネジ等(軸方向の全長に雄ネジが切ってあるネジ)も、搬送・締付け対象のネジとすることができる。本発明のネジ回しツール10では、ネジの頂部の周囲に大きなスペースを確保しなくても当該ネジを保持できるので、止めネジのようなネジにおいても、その全長がネジ孔に埋め込まれるまで(最後まで)ネジを締め付けることが可能である。
【0098】
上記の実施形態では、ネジ回しツール10はロボット本体2の手先に取り付けられるものとしたが、必ずしもこれに限らず、例えばこれに代えて、人間が持って使う電動工具の本体(工具本体)に着脱可能なツールとして取り付けられるものとしてもよい。この場合、工具本体にネジ回しツール10を取り付けることで、電動工具がネジ回し装置として機能することになる。
【0099】
上記の実施形態では、ネジ回しツール10を取り付けたロボット1により、ネジ7を搬送して搬送先で締め付ける方法を開示したが、上記のロボット1は、これに代えて又は加えて、ワークWに取り付けられたネジを締付け方向とは反対方向に回転させて当該ワークWから取り外し、この取り外したネジ7を所定の場所(例えば、回収ボックス)に搬送する作業を行うことが可能であるものとしてもよい。
【0100】
上記の実施形態では、ネジ回しツール10を上方から近づけて、縦方向に配置されているネジ7のネジ頭部を先端部11tで捕捉するものとしたが、これに限るものではなく、例えばこれに代えて、ネジ回しツール10を側方向から近づけて、横向きに配置されているネジのネジ頭部を先端部11tで捕捉するものとしてもよい。同様に、ネジ回しツール10を用いてネジ7を締め付けるときのネジ7の移動方向は下方に限るものではなく、例えば水平方向等としてもよい。
【0101】
上記の実施形態では、ロボット本体2として、1本の多関節アームを備える構成のものを開示したが、ネジ回しツール10が取り付けられるロボット本体は、多関節アームを1本のみ有するものに限るものではなく、例えば2本の多関節アームを対で備えるものとしてもよい。また、関節の数は単数であってもよい。例えば、アームが水平方向にしか回動しないロボット本体であっても、ネジ回しツール10を取り付けてネジ7の搬送・締付け作業に用いることができる。
【符号の説明】
【0102】
1 ロボット
2 ロボット本体(本体)
7 ネジ
7a 凹部
8b 負圧供給口
10 ネジ回しツール
11 軸体
11a 第1吸引口(吸引口)
11c 流路
11t 先端部
22 電動モータ(動力源)
図1
図2
図3
図4