(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-23
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】重量物固定治具及びそれを用いた重量物固定方法
(51)【国際特許分類】
E04G 21/16 20060101AFI20220128BHJP
C21B 7/00 20060101ALI20220128BHJP
C21B 7/06 20060101ALI20220128BHJP
C21B 7/10 20060101ALI20220128BHJP
F27D 1/00 20060101ALI20220128BHJP
B66F 3/36 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
E04G21/16
C21B7/00 304
C21B7/06 302
C21B7/10 305
F27D1/00 Z
B66F3/36
(21)【出願番号】P 2018025995
(22)【出願日】2018-02-16
【審査請求日】2021-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000178011
【氏名又は名称】山九株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【氏名又は名称】清井 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100127155
【氏名又は名称】来田 義弘
(72)【発明者】
【氏名】浜田 実
【審査官】山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-254113(JP,A)
【文献】特開2016-194130(JP,A)
【文献】特開平8-135198(JP,A)
【文献】特開平11-60200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/16
C21B 7/00
C21B 7/06
C21B 7/10
F27D 1/00
B66F 3/36
B66F 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁体の一方の面から隙間を有して吊り下げられる重量物を、該重量物に一端側が接続され前記壁体に設けられた貫通孔を通して他端側が前記壁体の他方の面側に突出するロッドを引っ張ることによって、前記壁体の一方の面に引き寄せる重量物固定治具において、
前記ロッドに摺動可能に外挿される筒状部と、使用時に該筒状部の下方で前記ロッドと直交して水平に配置される回動軸を介して前記筒状部と回動自在に連結されジャッキが装着されるジャッキ装着部とを有し、
前記ジャッキ装着部は、前記筒状部よりも前記ロッドの他端側で該ロッドの外周下部に当接するロッド押さえ部を備え、
前記ジャッキのラム先端を前記壁体の他方の面に当接させて前記ジャッキを駆動し、前記ラムを前記ジャッキのシリンダから突出させることにより、前記筒状部を回動させ該筒状部の内周上部を前記ロッドの外周上部に押し付けると共に、前記ロッド押さえ部で前記ロッドの外周下部を押圧しながら、該ロッドを引っ張って前記重量物を前記壁体の一方の面に引き寄せることを特徴とする重量物固定治具。
【請求項2】
請求項1記載の重量物固定治具において、前記筒状部の内周上部には、前記ジャッキの駆動時に、前記ロッドの外周上部に食い込む突起状の食い込み部が設けられていることを特徴とする重量物固定治具。
【請求項3】
請求項1又は2記載の重量物固定治具において、前記ロッド押さえ部の表面には滑り止めが設けられていることを特徴とする重量物固定治具。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の重量物固定治具において、前記筒状部の外周下部と、前記ロッド押さえ部が形成される前記ジャッキ装着部の上片部との隙間に挿抜自在に差し込まれる楔部材を有し、該楔部材は前記筒状部又は前記ジャッキ装着部と連結部材で連結されていることを特徴とする重量物固定治具。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の重量物固定治具を用いた重量物固定方法において、前記重量物を前記壁体の一方の面から隙間を有して吊り下げ、一端側が前記重量物に接続された前記ロッドの他端側を前記壁体の前記貫通孔から前記壁体の他方の面側に突出させ、前記重量物固定治具の前記筒状部を前記ロッドに外挿し、前記ジャッキ装着部に装着された前記ジャッキの前記ラム先端を前記壁体の他方の面に当接させて前記ジャッキを駆動し、前記ラムを前記ジャッキのシリンダから突出させることにより、前記筒状部を回動させ該筒状部の内周上部を前記ロッドの外周上部に押し付けると共に、前記ロッド押さえ部で前記ロッドの外周下部を押圧しながら該ロッドを引っ張り、前記重量物を前記壁体の一方の面に引き寄せて固定することを特徴とする重量物固定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊り下げられた重量物を壁体の所定の位置に引き寄せて固定するための重量物固定治具及び重量物固定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、重量物を壁面の所定位置に設置する場合、重量物をホイストやクレーン等で吊り下げ、チェーンブロックやウインチ等を用いて角度を調整しながら水平方向に移動させ、重量物の設置面と壁体の表面を面合させて固定作業を行っている。
例えば、特許文献1には、高炉におけるマンテルのような大型建造物の鋼製壁に対し、ステーブクーラ等の壁部材(重量物)を取付けるための鋼製壁への壁部材取付け方法が開示されている。この特許文献1は、鋼製壁の一方の面から隙間を有して吊り下げられた壁部材に、鋼製壁の貫通孔を挿通したワイヤロープの一端を接続し、ワイヤロープを鋼製壁の他方の面に取付けられたフレーム付きの牽引装置を用いて引くことによって、壁部材を鋼製壁に引き寄せた後、壁部材を鋼製壁に取付ける方法において、フレームに取付けられ、切替えハンドルの操作によって磁着と非磁着の状態を切り換えるマグネットホルダを介して、牽引装置の鋼製壁への固定を行うものである。
しかし、この方法では、ワイヤロープの他端を牽引装置に固定するのに手間がかかるという問題があった。また、人手で回転ハンドルを回転させてワイヤロープを巻取るには力が必要であり、ワイヤロープの巻取り量や巻戻し量を微調整することが困難であるという問題があった。さらに、鋼線製のワイヤロープは、折れ曲がり難く、取り扱いづらいだけでなく、滑り易く、巻取りの確実性に欠けるという問題もあった。
【0003】
これらの問題を解決するものとして、本出願人が先に出願した特許文献2には、壁体に固定支持され、壁体の一方の面から隙間を有して吊り下げられる重量物を、重量物に接続され壁体に設けられた貫通孔を通して壁体の他方の面側から引き出されるチェーンを巻取ることによって、壁体の一方の面に引き寄せるチェーン巻取り装置と、それを用いた重量物設置方法が記載されている。このチェーン巻取り装置は、外部駆動手段によって回転駆動可能な駆動軸を備え、駆動軸の回転を減速して出力軸から出力する逆転防止機能付き減速機と、逆転防止機能付き減速機の出力軸に環装されたスプロケットと、スプロケットを内側に備え壁体の他方の面に当接し、出力軸を壁体に平行に保つ当接面を備え、少なくとも上部に開口部が形成された筐体とを有しており、チェーンの着脱作業性に優れ、エア駆動式や電動式のインパクトレンチ等の汎用の外部駆動手段を利用して簡単にチェーンの巻取り、巻戻しを行うことができ、作業者の作業負担を軽減できるものである。また、チェーンの巻取り量や巻戻し量を微調整することが可能で、作業効率も向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-254113号公報
【文献】特願2017-10996号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、壁体の一方の面から隙間を有して吊り下げられた重量物を壁体の他方の面側から最終固定位置まで引き寄せるには強い力が必要であるにも関わらず、特許文献2のチェーン巻取り装置では十分な力が得られず、チェーン巻取り装置に破損が発生するという問題があった。そこで、チェーン巻取り装置により重量物をある程度まで引き寄せた後、ジャッキを使用して最終固定位置まで引き寄せるという方法が考えられる。ところが、ジャッキを使用するには、ハンドリングのために重量物に取付けられているロッドを壁体の貫通孔から他方の面側に突出させ、そのロッドに対して、ジャッキの反力を受ける反力受けを溶接しなければならず、作業に手間がかかる。また、ジャッキのストロークが足りず、重量物を一度で最終固定位置まで引き寄せることができない場合は、一旦、ロッドから反力受けを取り外し、ジャッキとの距離を詰めて再度、反力受けを溶接するか、壁体の他方の面とジャッキとの間、若しくはジャッキと反力受けとの間にスペーサを噛ませる必要があり、作業性に欠ける。特に、スペーサは固定手段がないため、落下事故が発生するおそれもある。さらに、ジャッキそのものや反力受けそのものが落下する危険性もある。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、ハンドリングのために重量物に取付けられているロッドを利用して、簡単かつ確実に強い力で重量物を壁体の所定の位置に引き寄せて固定することが可能であり、溶接作業が不要で作業時間を短縮することができ、作業中に部品が落下する可能性が低く、施工性、安全性に優れた重量物固定治具及びそれを用いた重量物固定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う第1の発明に係る重量物固定治具は、壁体の一方の面から隙間を有して吊り下げられる重量物を、該重量物に一端側が接続され前記壁体に設けられた貫通孔を通して他端側が前記壁体の他方の面側に突出するロッドを引っ張ることによって、前記壁体の一方の面に引き寄せる重量物固定治具において、
前記ロッドに摺動可能に外挿される筒状部と、使用時に該筒状部の下方で前記ロッドと直交して水平に配置される回動軸を介して前記筒状部と回動自在に連結されジャッキが装着されるジャッキ装着部とを有し、
前記ジャッキ装着部は、前記筒状部よりも前記ロッドの他端側(先側)で該ロッドの外周下部に当接するロッド押さえ部を備え、
前記ジャッキのラム(ピストン)先端を前記壁体の他方の面に当接させて前記ジャッキを駆動し、前記ラムを前記ジャッキのシリンダから突出させることにより、前記筒状部を回動させ該筒状部の内周上部を前記ロッドの外周上部に押し付けると共に、前記ロッド押さえ部で前記ロッドの外周下部を押圧しながら、該ロッドを引っ張って前記重量物を前記壁体の一方の面に引き寄せる。
【0007】
第1の発明に係る重量物固定治具において、前記筒状部の内周上部には、前記ジャッキの駆動時に、前記ロッドの外周上部に食い込む突起状の食い込み部が設けられていることが好ましい。
【0008】
第1の発明に係る重量物固定治具において、前記ロッド押さえ部の表面には滑り止めが設けられていることが好ましい。
【0009】
第1の発明に係る重量物固定治具において、前記筒状部の外周下部と、前記ロッド押さえ部が形成される前記ジャッキ装着部の上片部との隙間に挿抜自在に差し込まれる楔部材(コッター)を有し、該楔部材は前記筒状部又は前記ジャッキ装着部と連結部材で連結されていることが好ましい。
【0010】
前記目的に沿う第2の発明に係る重量物固定方法は、第1の発明に係る重量物固定治具を用いた重量物固定方法において、前記重量物を前記壁体の一方の面から隙間を有して吊り下げ、一端側が前記重量物に接続された前記ロッドの他端側を前記壁体の前記貫通孔から前記壁体の他方の面側に突出させ、前記重量物固定治具の前記筒状部を前記ロッドに外挿し、前記ジャッキ装着部に装着された前記ジャッキの前記ラム先端を前記壁体の他方の面に当接させて前記ジャッキを駆動し、前記ラムを前記ジャッキのシリンダから突出させることにより、前記筒状部を回動させ該筒状部の内周上部を前記ロッドの外周上部に押し付けると共に、前記ロッド押さえ部で前記ロッドの外周下部を押圧しながら、該ロッドを引っ張って前記重量物を前記壁体の一方の面に引き寄せて固定する。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明に係る重量物固定治具によれば、重量物に一端側が接続され壁体に設けられた貫通孔を通して他端側が壁体の他方の面側に突出するロッドに摺動可能に外挿される筒状部と、使用時に筒状部の下方でロッドと直交して水平に配置される回動軸を介して筒状部と回動自在に連結されジャッキが装着されるジャッキ装着部とを有することにより、重量物固定治具は筒状部によってロッドに保持されるので、別途、固定作業が不要で、着脱作業性に優れ、作業中に落下する可能性が極めて低く、安全性に優れる。また、ジャッキがジャッキ装着部によって重量物固定治具に保持されるので、作業中にジャッキが落下する危険性が少なく、取り扱い性に優れる。さらに、ジャッキ装着部が、筒状部よりもロッドの他端側でロッドの外周下部に当接するロッド押さえ部を備え、ジャッキのラム先端を壁体の他方の面に当接させてジャッキを駆動し、ラムをジャッキのシリンダから突出させることにより、筒状部を回動させ筒状部の内周上部をロッドの外周上部に押し付けると共に、ロッド押さえ部でロッドの外周下部を押圧しながら、ロッドを引っ張って重量物を壁体の一方の面に引き寄せるので、別途、溶接等によりロッドにジャッキ受けを取付ける必要がなく、筒状部とロッド押さえ部でロッドを強固に保持して重量物を強い力で確実に所定の位置(最終固定位置)まで引き寄せることができ、省力性、動作の確実性に優れる。また、ジャッキのストロークが足りず、一度の駆動で重量物を所定の位置まで引き寄せることができない場合でも、一旦、ジャッキを縮め(ラムを元に戻し)、筒状部とロッド押さえ部によるロッドの保持を解除して、筒状部をロッドに沿って移動させるだけで簡単にジャッキと共に重量物固定治具の取付け位置を変更して直ちに作業を行うことができ、作業時間を短縮することができる。さらに、スペーサによりジャッキの位置調整を行う必要がなく、作業中にスペーサが落下する危険性もないので、施工性、安全性に優れる。
【0012】
筒状部の内周上部に、ジャッキの駆動時に、ロッドの外周上部に食い込む突起状の食い込み部が設けられている場合、滑りを防止して筒状部で強固にロッドを保持し、ジャッキでロッドを確実に引っ張ることができ、動作の確実性に優れる。
【0013】
ロッド押さえ部の表面に滑り止めが設けられている場合、ジャッキを駆動してロッドを引っ張る際に、ロッド押さえ部の滑りを防止して、安定的にロッドの引っ張り動作を行うことができる。
【0014】
筒状部の外周下部と、ロッド押さえ部が形成されるジャッキ装着部の上片部との隙間に挿抜自在に差し込まれる楔部材を有する場合、筒状部とジャッキ装着部との間のがたつきを抑え、筒状部とロッド押さえ部でロッドの上下を確実に保持することができ、ロッドの引っ張り動作の確実性、安定性を向上させることができる。また、楔部材が筒状部又はジャッキ装着部と連結部材で連結されている場合、楔部材を使用しない時や楔部材が隙間から抜け落ちた時でも、楔部材を繋ぎ止めて落下を防止し、紛失を防ぐことができる。
【0015】
第2の発明に係る重量物固定方法によれば、壁体の一方の面から隙間を有して吊り下げられ、ロッドが接続された重量物に対し、壁体の他方の面側からジャッキを利用して簡単かつ確実に強い力でロッドを引っ張ることにより、重量物を壁体の一方の面(最終固定位置)に引き寄せて固定することができ、溶接作業が不要で作業時間を短縮して作業者の作業負担を軽減できる。また、作業に使用する重量物固定治具の着脱や位置調整が容易で、作業中に部品が落下する可能性も低く、作業効率を向上させることができ、施工性、安全性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る重量物固定治具の取付け状態を示す部分断面側面図である。
【
図2】同重量物固定治具の取付け状態を示す正面図である。
【
図3】(A)は
図1のA部拡大図であり、(B)は
図1のB部拡大図である。
【
図4】同重量物固定治具の使用状態を示す部分断面側面図である。
【
図5】(A)、(B)、(C)は、同重量物固定治具を用いた重量物固定方法の準備段階の説明図である。
【
図6】(A)、(B)は、同重量物固定治具を用いた重量物固定方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1~
図6に示すように、本発明の一実施の形態に係る重量物固定治具10は、高炉11における鉄皮(壁体の一例)12の内壁面(一方の面)13から隙間を有して吊り下げられる重量物の一例であるステーブクーラ14を、ステーブクーラ14に一端側が接続され鉄皮12に設けられた貫通孔15を通して鉄皮12の外壁面(他方の面)16側から他端側が突出するロッド17を引っ張ることによって、鉄皮12の内壁面13に引き寄せて固定するものである。
【0018】
以下、重量物固定治具10の詳細について説明する。
図1、
図2、
図4に示すように、重量物固定治具10は、ロッド17に摺動可能に外挿される筒状部18と、筒状部18に連結されジャッキ(油圧ジャッキ)20が装着されるジャッキ装着部21とを有している。
筒状部18の下方には、筒状部18の長手方向(軸心方向)と平行に間隔を空けて対となる突出片22が設けられている。本実施の形態では、筒状部18を圧力配管用炭素鋼鋼管(例えばSTPG370)で形成し、一般構造用圧延鋼材(例えばSS400)で形成した突出片22を溶接固定したが、これらの材質は限定されるものではなく、互いに溶接可能な材質で十分な強度を有するものであればよい。
ジャッキ装着部21には、突出片22と平行な対となる回動支持片23が設けられ、2つの回動支持片23は2つの突出片22の間に配置されている。そして、使用時に筒状部18の下方でロッド17と直交し、各突出片22及び各回動支持片23を貫通して水平に配置される回動軸24を介して、筒状部18とジャッキ装着部21が回動自在に連結されている。なお、筒状部18とジャッキ装着部21は回動軸24を介して回動自在に連結されていればよく、突出片及び回動支持片の形状、数、配置等は適宜、選択することができる。例えば、2つの突出片の間に1つの回動支持片を配置する構造や、1つの突出片を2つの回動支持片の間に配置する構造とすることもできる。
【0019】
また、ジャッキ装着部21は、2つの回動支持片23と直交して設けられ、ジャッキ20のシリンダ25の基部が当接する垂直板状の反力受け部26と、反力受け部26の下部に連結して設けられ、シリンダ25を下方から支持するシリンダ支持部27を備えている。本実施の形態では、等辺山形鋼(アングル)を用いてシリンダ支持部27を形成したが、シリンダ支持部27はシリンダ25を支持することができればよく、その構造や形状は適宜、選択することができる。例えば、溝形鋼(チャンネル)、半分に切断した鋼管(丸パイプ)、または板材を溶接、折曲、湾曲したもの等を用いてシリンダ支持部を形成してもよい。
さらに、ジャッキ装着部21は、2つの回動支持片23の上端に跨がって形成された上片部28を有し、上片部28には、筒状部18よりもロッド17の先側(他端側)でロッド17の外周下部に当接するロッド押さえ部29が設けられている。本実施の形態では、回動支持片23、反力受け部26、シリンダ支持部27(等辺山形鋼)、上片部28の材質は一般構造用圧延鋼材(例えばSS400)とし、それぞれ溶接固定したが、これらの材質は限定されるものではなく、互いに溶接可能な材質で十分な強度を有するものであればよい。
【0020】
重量物固定治具10を使用する際には、
図1に示すように、ジャッキ20のラム30先端を外壁面16に当接させた状態からジャッキ20を駆動し、
図4に示すように、ラム30をジャッキ20のシリンダ25から突出させることにより、筒状部18を回動させ筒状部18の内周上部をロッド17の外周上部に押し付けると共に、ロッド押さえ部29でロッド17の外周下部を押圧しながら、ロッド17を引っ張ってステーブクーラ14を内壁面13に引き寄せることができる。
なお、設置対象となる重量物の重量に応じて、使用するジャッキの能力を選択することができ、そのシリンダの形状や寸法に対応させて、ジャッキ装着部21の各部の形状や寸法も適宜、変更することができる。
【0021】
次に、筒状部18及びロッド押さえ部29の詳細について説明する。
図1、
図2、
図4に示すように、筒状部18の内径はロッド17の外径よりも大きめに形成されており、筒状部18の内周上部には、ジャッキ20の駆動時に、
図4に示すように、ロッド17の外周上部に食い込む突起状の食い込み部31が形成されている。この食い込み部31の表面には、
図3(A)に示すように、断面三角形の溝32と、断面台形の凸条33からなる凹凸34が設けられている。なお、食い込み部31は溶接により筒状部18に固定されており、材質としては、炭素鋼(例えばS45C)が好適に用いられるが、これに限定されるものではない。
また、ロッド押さえ部29の表面にも、
図3(B)に示すように、断面三角形の溝35と、断面台形の凸条36からなる凹凸を有する滑り止め37が設けられており、ジャッキ20の駆動時に、
図4に示すように、ロッド17の外周下部に食い込むようになっている。なお、ロッド押さえ部29は溶接により上片部28に固定されており、材質としては、炭素鋼(例えばS45C)が好適に用いられるが、これに限定されるものではない。また、ロッド押さえ部29全体を炭素鋼(例えばS45C)で形成する代わりに、基部(上片部28側)を一般構造用圧延鋼材(例えばSS400)で形成し、その表面に炭素鋼(例えばS45C)で形成した滑り止め37を溶接することもできる。この場合、上片部28とロッド押さえ部29の基部は溶接で固定してもよいし、一体で形成してもよい。
【0022】
以上の構成によれば、ジャッキ20の駆動時に、筒状部18(食い込み部31)とロッド押さえ部29(滑り止め37)で、ロッド17を上下から挟むようにして強固に保持することができ、ロッド17が滑ることがなく、大きな力で確実にロッド17を引っ張って、ステーブクーラ14を内壁面13に引き寄せ、所定の位置に保持することができる。
なお、食い込み部31(凹凸34)における溝32と凸条33の形状や配置、及び滑り止め37における溝35と凸条36の形状や配置等は、適宜、選択することができる。また、滑り止めとして、ロッド押さえ部29の表面に直接、溝35と凸条36で凹凸を形成する代わりに、ゴム板等の滑り止め部材を貼り付けてもよく、必要に応じて、滑り止め部材の表面に凹凸を設けることもできる。
【0023】
次に、
図1、
図4に示すように、筒状部18の外周下部と、ジャッキ装着部21の上片部28との隙間に挿抜自在に差し込まれる楔部材39を有することにより、筒状部18とジャッキ装着部21との間のがたつきを抑えることができる。その結果、筒状部18とロッド押さえ部29でロッド17の上下を確実に保持することができ、ロッド17の引っ張り動作の確実性、安定性を向上させることができる。特に、
図1、
図4に示すように、楔部材39の勾配に合わせて、上片部28の上面に傾斜面40を形成した場合、面接触によってがたつきを確実に防止することができ、楔部材39が抜け難く、取り扱い性に優れる。なお、楔部材39は、紐、ワイヤー、チェーン等の連結部材41でジャッキ装着部21と連結しておくことにより、楔部材39を使用しない時や楔部材39が隙間から抜け落ちた時でも、楔部材39を繋ぎ止めて落下を防止し、紛失を防ぐことができる。このとき、ジャッキ装着部21と連結部材41との連結位置は、適宜、選択することができる。また、連結部材41は、筒状部18の外周の所定位置に連結してもよい。
【0024】
以上のように構成された重量物固定治具10を用いた重量物固定方法の作業手順を説明する。
ここでは、準備段階として、
図5(A)~(C)に示すように、高炉11において、鉄皮12の内壁面13から隙間を有して吊り下げられたステーブクーラ14を鉄皮12の外壁面16に取付けられたチェーン巻取り装置42によってある程度まで引き寄せた後、
図6(A)、(B)に示すように、重量物固定治具10を用いて、設置面43が所定の位置(最終固定位置)に達するまで、さらにステーブクーラ14を鉄皮12の内壁面13側に引き寄せて固定する場合について説明する。
まず、
図5(A)において、ステーブクーラ14の上端側には吊環44が取り付けられており、図示しない大型クレーンやホイスト等の吊ワイヤーロープ45に連結され、高炉11の上方から吊り下げられる。
鉄皮12には複数の貫通孔15が縦横に形成されており、例えば、ステーブクーラ14の設置面43(鉄皮12の内壁面13側の表面)の四隅に、貫通孔15の位置に対応させてロッド17及びチェーン接続用ロッド46が連結されている。ロッド17及びチェーン接続用ロッド46の先端には、チェーン47の一端側が接続され、チェーン47の他端側には、環体48が取り付けられている。作業者は先端にフックを備えた棒状部材(図示せず)を鉄皮12の外壁面16側から各貫通孔15に挿通し、フックを環体48に引っ掛けて引っ張ることにより、ステーブクーラ14から垂れ下がっている状態の各チェーン47の他端側を対応する貫通孔15を通して外壁面16側に引き出すことができる。
【0025】
次に、チェーン巻取り装置42の設置を行う。
まず、
図5(A)に示すように、各貫通孔15を貫通するロッド17及びチェーン接続用ロッド46の長さに対応したチェーン巻取り装置取付け具49、50を溶接によって外壁面16に固定した後、
図5(B)に示すように、チェーン巻取り装置取付け具49、50の先端にチェーン巻取り装置42を装着する。このチェーン巻取り装置42は、各貫通孔15から外壁面16側に引き出したチェーン47の他端側をスプロケットに巻き付けるようにして掛け渡し、エア駆動式や電動式のインパクトレンチ等の駆動手段で駆動することにより、チェーン47の巻取り及び巻戻しを行うものである。各チェーン巻取り装置42において、チェーン47の巻取り及び巻戻しの量を調整し、
図5(C)に示すように、ステーブクーラ14の設置面43が鉄皮12の内壁面13と略平行になるように角度調整しながら、ある程度(例えば、設置面43と内壁面13との間隔が30~100mm)まで引き寄せる。なお、チェーン巻取り装置42はチェーン47の巻取り及び巻戻しを行うことができればよく、その構造は特に限定されるものではない。
【0026】
その後、
図5(C)の状態から、上側のチェーン巻取り装置42とチェーン巻取り装置取付け具49を取り除き、先に
図1で説明したように、ロッド17に重量物固定治具10の筒状部18を外挿し、ジャッキ20のラム30先端を外壁面16に当接させて重量物固定治具10を装着し、
図6(A)の状態となる。その後、先に
図4で説明したように、ジャッキ20を駆動してロッド17を引っ張り、ステーブクーラ14をさらに内壁面13側(最終固定位置)に引き寄せる。
そして、
図6(B)に示すように、下側のチェーン巻取り装置42とチェーン巻取り装置取付け具50を取り除き、さらにチェーン接続用ロッド46を取り外して固定用ボルトを締結する。その後、重量物固定治具10を取り除き、さらにロッド17を取り外して固定用ボルトを締結してステーブクーラ14の設置(固定)を完了する。なお、必要に応じて、鉄皮12の要所に設けられた他の固定孔(図示せず)から固定用ボルトを挿通し、予めステーブクーラ14の設置面43に埋設されたナット(図示せず)に締結することができる。
【0027】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記した形態に限定されるものでなく、要旨を逸脱しない条件の変更等は全て本発明の適用範囲である。
例えば、上記実施の形態では、重量物の一例であるステーブクーラ14の設置面43の四隅に対し、上方の2箇所にロッド17を連結し、下方の2箇所にチェーン接続用ロッド46を連結したが、設置対象となる重量物の種類、大きさ、重量等に応じて、ロッド17及びチェーン接続用ロッド46の数や連結位置は適宜、選択することができる。例えば、重量物の設置面の四隅全てにロッド17を連結し、チェーン巻取り装置42で重量物を所定の位置まで引き寄せた後、全てのロッド17に重量物固定治具10を装着して重量物を最終固定位置まで引き寄せてもよい。この場合、チェーン巻取り装置42を取り除いて重量物固定治具10を装着する順番や、重量物固定治具10とロッド17を取り除いて固定用ボルトを締結する順番は、適宜、選択することができる。特に、重量物の寸法(設置面)が大きい場合や重量が重い場合は、設置面に連結するロッド17及びチェーン接続用ロッド46の数を増やすことにより、重量物固定治具10の負担を軽減して、確実に重量物の設置作業を行うことができる。なお、ロッド17及びチェーン接続用ロッド46は中実でも中空(パイプ)でもよい。
【符号の説明】
【0028】
10:重量物固定治具、11:高炉、12:鉄皮(壁体)、13:内壁面(一方の面)、14:ステーブクーラ(重量物)、15:貫通孔、16:外壁面(他方の面)、17:ロッド、18:筒状部、20:ジャッキ(油圧ジャッキ)、21:ジャッキ装着部、22:突出片、23:回動支持片、24:回動軸、25:シリンダ、26:反力受け部、27:シリンダ支持部、28:上片部、29:ロッド押さえ部、30:ラム、31:食い込み部、32:溝、33:凸条、34:凹凸、35:溝、36:凸条、37:滑り止め、39:楔部材、40:傾斜面、41:連結部材、42:チェーン巻取り装置、43:設置面、44:吊環、45:吊ワイヤーロープ、46:チェーン接続用ロッド、47:チェーン、48:環体、49、50:チェーン巻取り装置取付け具