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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-23
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20220128BHJP
【FI】
G01N27/416 371G
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018043914
(22)【出願日】2018-03-12
(65)【公開番号】P2019158494
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】岡本 拓
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-038806(JP,A)
【文献】特開2013-221931(JP,A)
【文献】国際公開第2007/115855(WO,A1)
【文献】特開2017-090404(JP,A)
【文献】特開平05-256816(JP,A)
【文献】特開2017-116371(JP,A)
【文献】特開2003-185625(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/406 - 27/41
G01N 27/416
G01N 27/417
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定ガス中に含まれる、炭化水素、一酸化炭素、アンモニアのいずれかである検知対象ガス成分を検知して当該検知対象ガス成分の濃度を特定する混成電位型のガスセンサであって、
酸素イオン伝導性の固体電解質からなるセンサ素子と、
前記センサ素子の表面に設けられた、Pt-Au合金を含むサーメット電極である第1の検知電極と、
前記センサ素子の表面に設けられた、Ptを含むサーメット電極である第2の検知電極と、
前記センサ素子の内部に、大気と接触可能に設けられた基準電極と、
それぞれが前記第1の検知電極を覆う多孔質層である1または複数の保護層からなる第1保護層群と、
それぞれが前記第2の検知電極を覆う多孔質層である1または複数の保護層からなる第2保護層群と、
前記ガスセンサが前記被測定ガス中に配置された状態において、前記第1の検知電極と前記基準電極の間に前記検知対象ガス成分の濃度および酸素の濃度に応じて生じる電位差である第1のセンサ出力と、前記第2の検知電極と前記基準電極の間に酸素の濃度に応じて生じる電位差である第2のセンサ出力とを取得し、前記第1および第2のセンサ出力に基づいて、前記被測定ガス中の前記検知対象ガス成分の濃度を特定する濃度特定手段と、
を備え、
前記第1および第2の検知電極における応答時間がそれぞれ10sec以下であり、
前記第1の検知電極の応答時間と第2の検知電極の応答時間との差が2sec以下であ
前記第1保護層群に含まれる保護層のうち、気孔率が最小である保護層の前記気孔率が30%以上40%以下であり、厚みが15μm以上200μm以下であり、
前記第1保護層群全体の厚みが200μm以下であり、
前記第2保護層群に含まれる保護層のうち、気孔率が最小である保護層の前記気孔率が10%以上40%以下であり、厚みが15μm以上200μm以下であり、
前記第2保護層群全体の厚みが200μm以下である、
ことを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】
請求項に記載のガスセンサであって、
前記第2保護層群に含まれる保護層のうち、気孔率が最小である保護層の前記気孔率が10%以上20%以下であり、厚みが15μm以上30μm以下である、
ことを特徴とするガスセンサ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のガスセンサであって、
前記センサ素子が、一方端部側から少なくとも前記第1および第2の検知電極の存在する範囲の外周に先端保護層を備え、
前記先端保護層が、前記第1保護層群および前記第2保護層群のそれぞれにおいて最外層を構成する、
ことを特徴とするガスセンサ。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のガスセンサであって、
前記濃度特定手段は、
前記検知対象ガス成分の濃度および酸素濃度と前記第1のセンサ出力との間に成り立つ関数関係である第1の感度特性と、酸素濃度と前記第2のセンサ出力との間に成り立つ関数関係である第2の感度特性とをあらかじめ記憶してなり、
取得した前記第2のセンサ出力の値から前記第2の感度特性に基づいて前記被測定ガス中の酸素濃度を特定し、
特定された酸素濃度と、取得した前記第1のセンサ出力の値とから前記第1の感度特性に基づいて前記被測定ガス中の前記検知対象ガス成分の濃度を特定する、
ことを特徴とするガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混成電位型のガスセンサに関し、特にその応答性に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化水素や一酸化炭素、アンモニアなどを検知対象とする混成電位型のガスセンサがすでに公知である(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-033510号公報
【文献】特開2017-116371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
混成電位型ガスセンサは、被測定ガスと接触可能に設けられ、該被測定ガス中に存在する検知対象ガスの濃度に応じて電位が変動する検知電極と、略一定の電位を有するように設けられた基準電極との間に生じる電位差(センサ出力)が、被測定ガスにおける検知対象ガスの濃度と相関を有することを利用して、検知対象ガス成分の濃度を求めるものである。
【0005】
上述した炭化水素や一酸化炭素、アンモニアなどを検知対象とする場合において、被測定ガス中に、それら検知対象ガスに加え酸素が存在する場合、センサ出力は、酸素の干渉を受ける。すなわち、センサ出力値は被測定ガス中に存在する酸素の濃度に応じて変動するため、検知対象ガスの濃度を正確に求めるには、センサ出力あるいは検知対象ガスの濃度を、酸素濃度に基づいて補正する必要がある。
【0006】
例えば、自動車のエンジンなどの内燃機関からの排気経路において混成電位型ガスセンサにより炭化水素や一酸化炭素、あるいは、アンモニアを検知する場合には、酸素濃度は、当該混成電位型ガスセンサとは別個に設けられる酸素センサ、A/Fセンサ、NOxセンサなどからの出力値に基づいて特定することが可能である。
【0007】
しかしながら、これらのセンサは必ずしも混成電位型ガスセンサの近傍に設けられるわけではないため、検知対象ガスについての測定精度を高めるには、ガスの時間遅れを考慮する必要がある。ただし、内燃機関からの排ガスの流速は一定ではなく刻一刻と変化するので、酸素濃度に基づく補正を良好に行うことが必ずしも容易ではない。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、酸素の干渉下においても検知対象ガスを精度よく測定することができるガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、被測定ガス中に含まれる、炭化水素、一酸化炭素、アンモニアのいずれかである検知対象ガス成分を検知して当該検知対象ガス成分の濃度を特定する混成電位型のガスセンサであって、酸素イオン伝導性の固体電解質からなるセンサ素子と、前記センサ素子の表面に設けられた、Pt-Au合金を含むサーメット電極である第1の検知電極と、前記センサ素子の表面に設けられた、Ptを含むサーメット電極である第2の検知電極と、前記センサ素子の内部に、大気と接触可能に設けられた基準電極と、それぞれが前記第1の検知電極を覆う多孔質層である1または複数の保護層からなる第1保護層群と、それぞれが前記第2の検知電極を覆う多孔質層である1または複数の保護層からなる第2保護層群と、前記ガスセンサが前記被測定ガス中に配置された状態において、前記第1の検知電極と前記基準電極の間に前記検知対象ガス成分の濃度および酸素の濃度に応じて生じる電位差である第1のセンサ出力と、前記第2の検知電極と前記基準電極の間に酸素の濃度に応じて生じる電位差である第2のセンサ出力とを取得し、前記第1および第2のセンサ出力に基づいて、前記被測定ガス中の前記検知対象ガス成分の濃度を特定する濃度特定手段と、を備え、前記第1および第2の検知電極における応答時間がそれぞれ10sec以下であり、前記第1の検知電極の応答時間と第2の検知電極の応答時間との差が2sec以下であ前記第1保護層群に含まれる保護層のうち、気孔率が最小である保護層の前記気孔率が30%以上40%以下であり、厚みが15μm以上200μm以下であり、前記第1保護層群全体の厚みが200μm以下であり、前記第2保護層群に含まれる保護層のうち、気孔率が最小である保護層の前記気孔率が10%以上40%以下であり、厚みが15μm以上200μm以下であり、前記第2保護層群全体の厚みが200μm以下である、ことを特徴とする。
【0011】
本発明の第の態様は、第の態様に係るガスセンサであって、前記第2保護層群に含まれる保護層のうち、気孔率が最小である保護層の前記気孔率が10%以上20%以下であり、厚みが15μm以上30μm以下である、ことを特徴とする。
【0012】
本発明の第の態様は、第または第の態様に係るガスセンサであって、前記センサ素子が、一方端部側から少なくとも前記第1および第2の検知電極の存在する範囲の外周に先端保護層を備え、前記先端保護層が、前記第1保護層群および前記第2保護層群のそれぞれにおいて最外層を構成する、ことを特徴とする。
【0013】
本発明の第の態様は、第1ないし第の態様のいずれかに係るガスセンサであって、前記濃度特定手段は、前記検知対象ガス成分の濃度および酸素濃度と前記第1のセンサ出力との間に成り立つ関数関係である第1の感度特性と、酸素濃度と前記第2のセンサ出力との間に成り立つ関数関係である第2の感度特性とをあらかじめ記憶してなり、取得した前記第2のセンサ出力の値から前記第2の感度特性に基づいて前記被測定ガス中の酸素濃度を特定し、特定された酸素濃度と、取得した前記第1のセンサ出力の値とから前記第1の感度特性に基づいて前記被測定ガス中の前記検知対象ガス成分の濃度を特定する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第1ないし第の態様によれば、酸素の干渉性を排除した検知対象ガス成分濃度の特定が、応答性を確保しつつ好適な精度で行える。


【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ガスセンサ100の構成の一例を概略的に示す断面模式図である。
図2】センサ素子101の表面Saにおける第1検知電極10Aと第2検知電極10Bの配置位置および両電極のサイズを説明するための平面図である。
図3】センサ素子101を作製する際の処理の流れを示す図である。
図4】検知対象ガス成分がアンモニア(NH)ガスである場合のガスセンサ100の感度特性を模式的に示す図である。
図5】応答測定プロファイルを示す図である。
図6】センサ素子101の先端部E1側の所定範囲に先端保護層80が設けられる構成を示す図である。
図7】第1保護層40の気孔率と厚みが相異なる9種類のガスセンサ100について、応答測定プロファイルを例示する図である。
図8】第2保護層50の気孔率と厚みが相異なる9種類のガスセンサ100について、応答測定プロファイルを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<ガスセンサの概要>
図1は、本実施の形態に係るガスセンサ100の構成の一例を概略的に示す断面模式図である。図1(a)は、ガスセンサ100の主たる構成要素であるセンサ素子101の長手方向(以下、素子長手方向)に沿った垂直断面図である。また、図1(b)は、図1(a)のA-A’位置における素子長手方向に垂直な断面を含む図である。
【0017】
ガスセンサ100は、いわゆる混成電位型のガスセンサである。ガスセンサ100は、概略的にいえば、ジルコニア(ZrO)等の酸素イオン伝導性固体電解質たるセラミックスを主たる構成材料とするセンサ素子101の表面に設けた第1検知電極10Aと、該センサ素子101の内部に設けた基準電極20との間に、混成電位の原理に基づいてそれぞれの電極近傍における検知対象たるガス成分(検知対象ガス成分)の濃度の相違に起因して電位差(起電力)が生じることを利用して、検知対象ガス成分の濃度を求めるものである。以降、第1検知電極10Aと、基準電極20と、両電極の間の固体電解質とを、第1混成電位セルと称する。
【0018】
より具体的には、ガスセンサ100は、ディーゼルエンジンやガソリンエンジンなどの内燃機関の排気管内に存在する排ガスを被測定ガスとし、該被測定ガス中の所定ガス成分(検知対象ガス成分)の濃度を、好適に求めるためのものである。検知対象ガス成分としては、C、C、n-C8などの炭化水素ガス、一酸化炭素(CO)、アンモニア(NH)などが例示される。
【0019】
ただし、被測定ガス中にガスセンサ100が検知可能なガス種が複数種類存在する場合、第1検知電極10Aと基準電極20の間に生じる電位差はそれら複数種類のガス種の全てが寄与した値となるので、求められる濃度値も、それら複数種類のガス種の濃度の総和となる。特に、ガスセンサ100が使用される多くの局面において、被測定ガスたる排ガスは、上述した検知対象成分と同様、ガスセンサ100において検知可能な、酸素を含んでいる。それゆえ、酸素以外のガス種を検知対象成分として想定している場合であっても、酸素の存在下では、第1混成電位セルにおいて第1検知電極10Aと基準電極20の間に生じる電位差は、被測定ガスの酸素濃度にも依存した値となってしまう。このように、被測定ガス中における酸素の存在により、第1混成電位セルにおいて電極間に生じる電位差さらには当該電位差に基づいて特定される検知対象ガス成分の濃度が影響を受けることを、O干渉性があるなどと称する。検知対象ガス成分の測定精度を確保するには、係るO干渉性を排除する必要がある。
【0020】
センサ素子101においては、係る目的を果たすために、第1検知電極10Aと同様、センサ素子101の表面に、第2検知電極10Bが備わっている。そして、検知対象ガス成分の濃度の特定に際し、第2検知電極10Bと基準電極20との間に被測定ガス中の酸素濃度に応じて生じる電位差を用いた補正を、行うようになっている。以降、第2検知電極10Bと、基準電極20と、両電極の間の固体電解質とを、第2混成電位セルと称する。
【0021】
さらに、センサ素子101は、上述した第1検知電極10A、第2検知電極10Bおよび基準電極20に加えて、基準電極20が配置される基準ガス導入空間30と、第1検知電極10Aを被覆する第1保護層40と、第2検知電極10Bを被覆する第2保護層50とを、主に備える。
【0022】
<各構成要素の詳細>
センサ素子101は、それぞれが酸素イオン伝導性固体電解質からなる第1固体電解質層1と、第2固体電解質層2と、第3固体電解質層3と、第4固体電解質層4と、第5固体電解質層5と、第6固体電解質層6との6つの層を、図面視で下側からこの順に積層した構造を有するものであり、かつ、主としてそれらの層間あるいは素子外周面に、電極その他の構成要素を設けてなるものとする。なお、それら6つの層を形成する固体電質は緻密な気密のものである。係るセンサ素子101は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに所定の加工および回路パターンの印刷などを行った後にそれらを積層し、さらに、焼成して一体化させることによって製造される。
【0023】
ただし、ガスセンサ100がセンサ素子101をこのような6つの層の積層体として備えることは必須の態様ではない。センサ素子101は、より多数あるいは少数の層の積層体として構成されていてもよいし、あるいは積層構造を有していなくともよい。
【0024】
以下の説明においては、便宜上、図面視で第6固体電解質層6の上側に位置する面をセンサ素子101の表面Saと称し、第1固体電解質層1の下側に位置する面をセンサ素子101の裏面Sbと称する。また、ガスセンサ100を使用して被測定ガス中の検知対象ガス成分の濃度を求める際には、センサ素子101の一方端部である先端部E1から少なくとも第1検知電極10Aおよび第2検知電極10Bを含む所定の範囲が、被測定ガス雰囲気中に配置され、他方端部である基端部E2を含むその他の部分は、被測定ガス雰囲気と接触しないように配置されるものとする。
【0025】
第1検知電極10Aは、検知対象ガス成分を検知するための電極である。第1検知電極10Aは、Auを所定の比率で含むPt、つまりはPt-Au合金と、ジルコニアとの多孔質サーメット電極として形成されてなる。第1検知電極10Aは、その構成材料たるPt-Au合金の組成を好適に定めることによって、所定の濃度範囲について、検知対象ガス成分に対する触媒活性が不能化されてなる。つまりは、第1検知電極10Aでの検知対象ガス成分の分解反応を抑制させられてなる。これにより、ガスセンサ100においては、第1検知電極10Aの電位が、当該検知対象ガス成分に対して選択的に、その濃度に応じて変動する(相関を有する)ようになっている。換言すれば、第1検知電極10Aは、検知対象ガス成分に対しては、それぞれ所定の濃度範囲において電位の濃度依存性が高い一方で、他の被測定ガスの成分に対しては電位の濃度依存性が小さいという特性を有するように、設けられてなる。
【0026】
より詳細には、第1検知電極10Aは、これを構成するPt-Au合金粒子の表面におけるAu存在比を好適に定めることで、電位の検知対象ガス成分および酸素の濃度に対する依存性が顕著であるように、設けられてなる。
【0027】
Au存在比は、例えばアンモニアガスが検知対象ガス成分である場合には0.4以上の値に定められるのが好適であり、炭化水素ガスが検知対象ガス成分である場合には0.3以上の値に定められるのが好適である。
【0028】
なお、本明細書において、Au存在比とは、第1検知電極10Aを構成する貴金属粒子(Pt-Au合金粒子)の表面のうち、Ptが露出している部分に対する、Auが被覆している部分の面積比率を意味している。これは例えば、貴金属粒子の表面に対しAES(オージェ電子分光法)分析を行うことで得られるオージェスペクトルにおけるAuとPtとについての検出値を用い、
Au存在比=Au検出値/Pt検出値・・・(1)
なる式にて算出することが可能である。あるいは、XPS(X線光電子分光法)により得られるAuとPtとについての検出ピークのピーク強度から、相対感度係数法を用いて算出する態様であってもよい。Ptが露出している部分の面積と、Auによって被覆されてなる部分の面積が等しいときに、Au存在比は1となる。
【0029】
第1検知電極10Aは、気孔率が10%以上40%以下であり、厚みが5μm以上35μm以下であるように形成されればよい。なお、本実施の形態において言及する種々の電極や層の気孔率は、対象となる電極や層の断面SEM像(2次電子像)の二値化画像から、公知の手法を用いて特定が可能である。
【0030】
一方、第2検知電極10Bは、酸素を検知するための電極である。第2検知電極10Bは、Ptとジルコニアとの多孔質サーメット電極として形成されてなる。第2検知電極10BはAuを含んでいないので、検知対象ガス成分に対しては触媒活性を有してなる。それゆえ、第2検知電極10Bは、電位の酸素濃度に対する依存性が顕著であるように、設けられてなる。
【0031】
第2検知電極10Bは、気孔率が10%以上40%以下であり、厚みが5μm以上35μm以下であるように形成されればよい。
【0032】
図2は、センサ素子101の表面Saにおける第1検知電極10Aと第2検知電極10Bの配置位置および両電極のサイズを説明するための平面図である。ただし、図2においては、第1保護層40および第2保護層50を省略している。また、素子長手方向のサイズをL0とし、これに直交する素子幅方向のサイズをw0としている。
【0033】
第1検知電極10Aと第2検知電極10Bは、ともに平面視矩形状をなしており、センサ素子101の表面Saにおいて、素子長手方向の一方端部たる先端部E1から所定の距離d1離隔し、かつ、素子幅方向において所定の間隔d2で隣り合うように、設けられてなる。好ましくは、素子長手方向における第1検知電極10Aのサイズt1と第2検知電極10Bのサイズt2とは等しく、かつ、素子幅方向における第1検知電極10Aのサイズw1と第2検知電極10Bのサイズw2とは等しい。L0=45mm~70mm、w0=4mm~6mmである場合、t1=t2=1.5mm~2.5mmであり、w1=w2=1mmであり、d1=3mm~5mmであり、d2=0.3mm~0.5mmであるのが好適である。w1、t1、w2、t2の値が過度に大きい場合、検出感度は確保されるものの、それぞれの検知電極内で応答性にばらつきが生じる可能性が生じるため好ましくない。また、d2の過度に大きい場合、両検知電極が離れすぎるために被測定ガスの空間的な濃度ばらつきの影響を受ける可能性が高くなり、結果として、第2混成電位セルにおける電位差に基づく補正が、好適に行えなくなる可能性があるため、好ましくない。
【0034】
なお、ガスセンサ100が使用される際には、センサ素子101のうち、先端部E1から少なくとも、第1検知電極10Aを被覆する第1保護層40および第2検知電極10Bを被覆する第2保護層50が設けられている部分までが、被測定ガスに対して露出する(直接に接する)態様にて配置される。
【0035】
基準電極20は、センサ素子101の内部に設けられた、被測定ガスの濃度を求める際に基準となる平面視略矩形状の電極である。基準電極20は、Ptとジルコニアとの多孔質サーメット電極として形成されてなる。
【0036】
基準電極20は、気孔率が10%以上30%以下であり、厚みが5μm以上15μm以下であるように形成されればよい。また、基準電極20の平面サイズは、図1に例示するように第1検知電極10Aおよび第2検知電極10Bに比して小さくてもよいし、第1検知電極10Aおよび第2検知電極10Bと同程度でもよい。
【0037】
基準電極20は、センサ素子101の内部に設けられた基準ガス導入空間30に露出させて配置されてなる。
【0038】
基準ガス導入空間30は、センサ素子101の基端部E2から所定の範囲に設けられた内部空間である。基準ガス導入空間30には、検知対象ガス成分濃度を求める際の基準ガスとしての大気(酸素)が外部より導入される。これにより、ガスセンサ100が使用される際には、基準電極20の周囲が絶えず大気(酸素)で満たされるようになっている。それゆえ、ガスセンサ100の使用時、基準電極20は、常に一定の電位を有してなる。
【0039】
なお、基準ガス導入空間30は周囲の固体電解質によって被測定ガスと接触しないようになっているので、第1検知電極10Aおよび第検知電極10Bが被測定ガスに曝されている状態であっても、基準電極20が被測定ガスと接触することはない。
【0040】
図1に例示する場合であれば、センサ素子101の基端部E2の側において第5固体電解質層5の一部が外部と連通する空間とされる態様にて基準ガス導入空間30が設けられてなる。
【0041】
第1保護層40および第2保護層50はそれぞれ、センサ素子101の表面Saにおいて少なくとも第1検知電極10Aおよび第2検知電極10Bを被覆する態様にて設けられた、アルミナからなる多孔質層である。第1保護層40および第2保護層50は、ガスセンサ100の使用時に被測定ガスに連続的に曝されることによる第1検知電極10Aおよび第2検知電極10Bの劣化を抑制する電極保護層として設けられてなる。
【0042】
加えて、第1保護層40および第2保護層50は、第1混成電位セルと第2混成電位セルのそれぞれにおける応答時間と、両セル間の応答時間差とが、充分に小さくなるように設けられる。この点については後で詳述する。
【0043】
また、図1(b)に示すように、ガスセンサ100においては、第1検知電極10Aと基準電極20との間の電位差を測定可能な第1電位差計60Aと、第2検知電極10Bと基準電極20との間の電位差を測定可能な第2電位差計60Bとが備わっている。なお、図1(b)においては第1検知電極10Aおよび基準電極20と第1電位差計60Aとの間の配線と、第2検知電極10Bおよび基準電極20と第2電位差計60Bとの間の配線とを、簡略化して示しているが、実際のセンサ素子101においては、基端部E2側の表面Saもしくは裏面Sbに図示しない接続端子がそれぞれの電極に対応させて設けられてなるとともに、それぞれの電極と対応する接続端子とを結ぶ図示しない配線パターンが表面Saおよび素子内部に形成されてなる。図2においては、その一部であるリード線L1、L2が例示されている。そして、第1検知電極10Aおよび基準電極20と第1電位差計60Aの間、および、第2検知電極10Bおよび基準電極20と第2電位差計60Bの間は、配線パターンおよび接続端子を通じて電気的に接続されてなる。
【0044】
以降、第1電位差計60Aで測定される第1検知電極10Aと基準電極20との間の電位差を第1センサ出力もしくはEMF1と、第2電位差計60Bで測定される第2検知電極10Bと基準電極20との間の電位差を第2センサ出力もしくはEMF2とも称する。
【0045】
第1センサ出力および第2センサ出力はともに、ガスセンサ100の動作を制御するコントローラ150に出力される。コントローラ150に与えられた第1センサ出力および第2センサ出力はさらに、内燃機関全体を制御するECU(電子制御装置)160に与えられ、ECU(電子制御装置)160がこれらの出力に基づく演算処理を行うことによって、センサ素子101近傍の検知対象ガス成分の濃度が求められる。
【0046】
さらに、センサ素子101は、固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、センサ素子101を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ部70を備えている。ヒータ部70は、ヒータ72と、ヒータ絶縁層74、圧力放散孔75とを備えている。
【0047】
ヒータ72は、センサ素子101の内部に設けられた電気抵抗体である。ヒータ72は、センサ素子101の裏面Sb(図1においては第1固体電解質層1の下面)に接する態様にて形成されてなる図示しないヒータ電極と接続されており、該ヒータ電極を通して給電されることにより発熱し、センサ素子101を形成する固体電解質の加熱と保温を行う。
【0048】
図1に例示する場合であれば、ヒータ72は第2固体電解質層2と第3固体電解質層3とに上下から挟まれた態様にて、かつ、基端部E2から先端部E1近傍の第1検知電極10Aおよび第2検知電極10Bの下方の位置に渡って埋設されてなる。これにより、センサ素子101全体を固体電解質が活性化する温度に調整することが可能となっている。
【0049】
ヒータ絶縁層74は、ヒータ72の上下面に、アルミナ等の絶縁体によって形成されてなる絶縁層である。ヒータ絶縁層74は、第2固体電解質層2とヒータ72との間の電気的絶縁性、および、第3固体電解質層3とヒータ72との間の電気的絶縁性を得る目的で形成されている。
【0050】
圧力放散孔75は、第3固体電解質層3を貫通し、基準ガス導入空間30に連通するように設けられてなる部位であり、ヒータ絶縁層74内の温度上昇に伴う内圧上昇を緩和する目的で形成されてなる。
【0051】
<センサ素子の製造プロセス>
次に、図1に例示するような層構造を有する場合を例として、センサ素子101を製造するプロセスについて説明する。概略的にいえば、図1に例示するセンサ素子101は、ジルコニアなどの酸素イオン伝導性固体電解質をセラミックス成分として含むグリーンシートからなる積層体を形成し、該積層体を切断・焼成することによって作製される。酸素イオン伝導性固体電解質としては、例えば、イットリウム部分安定化ジルコニア(YSZ)などが例示される。
【0052】
図3は、センサ素子101を作製する際の処理の流れを示す図である。センサ素子101を作製する場合、まず、パターンが形成されていないグリーンシートであるブランクシート(図示せず)を用意する(ステップS1)。具体的には、センサ素子101の作製時には第1ないし第6固体電解質層1~6に対応する6枚のブランクシートが用意される。ブランクシートには、印刷時や積層時の位置決めに用いる複数のシート穴が設けられている。係るシート穴は、パンチング装置による打ち抜き処理などで、あらかじめ形成されている。なお、対応する層が基準ガス導入空間30を構成することとなるグリーンシートの場合、該基準ガス導入空間30に対応する貫通部も、同様の打ち抜き処理などによってあらかじめ設けられる。また、センサ素子101の各層に対応するそれぞれのブランクシートの厚みは、全て同じである必要はない。
【0053】
各層に対応したブランクシートが用意できると、それぞれのブランクシートに対して種々のパターンを形成するパターン印刷・乾燥処理を行う(ステップS2)。具体的には、第1検知電極10A、第2検知電極10B、基準電極20などの電極パターンや、第1保護層40および第2保護層50などのパターンや、ヒータ72やヒータ絶縁層74などのパターンや、図示を省略している内部配線のパターンなどが、形成される。
【0054】
各々のパターンの印刷は、それぞれの形成対象に要求される特性に応じて用意したパターン形成用ペーストを、公知のスクリーン印刷技術を利用してブランクシートに塗布することにより行う。印刷後の乾燥処理についても、公知の乾燥手段を利用可能である。
【0055】
なお、第1検知電極10Aの形成に用いる導電性ペーストとしては、上述したAu存在比が好適に実現されるように調製されたものを使用する。例えば、Auの出発原料としてAuイオン含有液体を用い、該Auイオン含有液体を、Pt粉末と、ジルコニア粉末と、バインダーとを混合することによって作製された導電性ペーストを用いるのが好適である。あるいは、Ptの粉末にAuをコーティングしたコーティング粉末をPt-Au合金の出発原料として、導電性ペーストを作製するようにしてもよい。いずれも、公知の技術により実現可能である。
【0056】
パターン印刷が終わると、各層に対応するグリーンシート同士を積層・接着するための接着用ペーストの印刷・乾燥処理を行う(ステップS3)。接着用ペーストの印刷には、公知のスクリーン印刷技術を利用可能であり、印刷後の乾燥処理についても、公知の乾燥手段を利用可能である。
【0057】
続いて、接着剤が塗布されたグリーンシートを所定の順序に積み重ねて、所定の温度・圧力条件を与えることで圧着させ、一の積層体とする圧着処理を行う(ステップS4)。具体的には、図示しない所定の積層治具に積層対象となるグリーンシートをシート穴により位置決めしつつ積み重ねて保持し、公知の油圧プレス機などの積層機によって積層治具ごと加熱・加圧することによって行う。加熱・加圧を行う圧力・温度・時間については、用いる積層機にも依存するものであるが、良好な積層が実現できるよう、適宜の条件が定められればよい。
【0058】
上述のようにして積層体が得られると、続いて、係る積層体の複数個所を切断してセンサ素子101の個々の単位(素子体と称する)に切り出す(ステップS5)。切り出された素子体を、所定の条件下で焼成することにより、上述のようなセンサ素子101が生成される(ステップS6)。すなわち、センサ素子101は、固体電解質層と電極との一体焼成によって生成されるものである。その際の焼成温度は、1200℃以上1500℃以下(例えば1400℃)が好適である。なお、係る態様にて一体焼成がなされることで、センサ素子101においては、各電極が十分な密着強度を有するものとなっている。
【0059】
このようにして得られたセンサ素子101は、所定のハウジングに収容され、ガスセンサ100の本体(図示せず)に組み込まれる。
【0060】
<検知対象ガス成分濃度の特定>
次に、上述のような構成を有するガスセンサ100を用いて被測定ガスにおける検知対象ガス成分の濃度を求める場合について説明する。なお、被測定ガス中には、検知対象ガス成分の他に酸素が含まれているものとする。また、精度向上の観点からは、第1検知電極10Aと第2検知電極10Bにおける応答時間(およびその差)についても考慮する必要があるが、ここでは、説明の簡単のため、応答時間についての議論は無視する。
【0061】
検知対象ガス成分の濃度の特定に際し、ガスセンサ100は、上述したように、センサ素子101のうち先端部E1から少なくとも第1検知電極10Aおよび第2検知電極10Bを含む所定の範囲のみを、被測定ガスが存在する空間に位置する一方で、基端部E2の側は当該空間とは隔絶されるように、配置される。そして、基準ガス導入空間30に対し大気(酸素)は供給される。また、センサ素子101は、ヒータ72により450℃~700℃の適宜の温度(例えば650℃)に加熱される。ガスセンサ100の使用時における、ヒータ72によるセンサ素子101の加熱温度を駆動温度とも称する。
【0062】
係る状態においては、被測定ガスに曝されてなる第1検知電極10Aおよび第2検知電極10Bと大気中に配置されてなる基準電極20との間に電位差が生じる。ただし、上述のように、大気(酸素濃度一定)雰囲気下に配置されてなる基準電極20の電位は一定に保たれている一方で、第1検知電極10Aの電位は、被測定ガス中の検知対象ガス成分に対して濃度依存性を有するものとなっている。また、第2検知電極10Bの電位は、検知対象ガス成分に対しては濃度依存性を有さないが、酸素に対しては濃度依存性を有するものとなっている。それゆえ、検知対象ガス成分濃度と第1センサ出力(EMF1)の間には、一定の関数関係(これを感度特性と称する)が成り立つ。また、検知対象ガス成分濃度と第2センサ出力(EMF2)との間には依存性はないものの、第2センサ出力は被測定ガス中の酸素濃度に応じた値となる。
【0063】
なお、以降の説明においては、例えば第1センサ出力に関する感度特性を、第1の感度特性などと称することがある。
【0064】
実際に検知対象ガス成分濃度を求めるにあたっては、あらかじめ、それぞれの検知対象ガス成分濃度が既知である相異なる複数の混合ガスを被測定ガスに用いてそれぞれについて第1センサ出力および第2センサ出力を測定することで、第1および第2の感度特性をそれぞれ実験的に特定し、ECU160に記憶させておく。
【0065】
図4は、検知対象ガス成分がアンモニア(NH)ガスである場合のガスセンサ100の感度特性を模式的に示す図である。図4(a)が第1の感度特性を例示しており、図4(b)が第2の感度特性を例示している。なお、横軸のアンモニア(NH)ガス濃度は対数目盛にて示している。
【0066】
図4(a)に示すように、第1の感度特性は検知対象ガス成分(アンモニア(NH)ガス)の濃度および酸素濃度に応じたものとなるが、酸素(O)濃度一定という条件のもとでは、検知対象ガス成分の濃度の対数値に対して線型的である。一方、図4(b)に示すように、第2の感度特性は酸素(O)濃度のみに応じたものとなり、検知対象ガス成分の濃度には依存しない。なお、図4では酸素(O)濃度が1%、10%、および20%の場合の感度特性のみを例示しているが、一のガスセンサ100につき、さらに多くの酸素濃度について感度特性が特定されてよい。
【0067】
そして、ガスセンサ100を実使用する際には、検知対象ガス成分の濃度に応じて時々刻々変化する第1センサ出力(EMF1)および第2センサ出力(EMF2)が、コントローラ150によって絶えず第1混成電位セルおよび第2混成電位セルから取得され、ECU160に与えられる。ECU160においてはまず、取得された第2センサ出力の値から被測定ガス中の酸素濃度が特定される。そして、この酸素濃度に相当する第1の感度特性を用いて、第1センサ出力の値から被測定ガス中の検知対象ガス成分濃度が特定される。なお、第2センサ出力の値に相当する酸素濃度を与える第2の感度特性がECU160に記憶されていない場合は、既存の第2の感度特性からの補間によって、被測定ガス中の酸素濃度を特定する。また、特定された酸素濃度に対応する第1の感度特性がECU160に記憶されていない場合も、既存の第1の感度特性からの補間によって、被測定ガス中の酸素濃度を特定する。
【0068】
このような処理を、第1センサ出力および第2センサ出力がコントローラ150さらにはECU160によって取得される都度、行うことで、ガスセンサ100においては、被測定ガス中に検知対象ガス成分に加え酸素が存在する場合であっても、酸素濃度に応じた第1の感度特性に基づき、検知対象ガス成分の濃度を特定することができる。係る場合において、コントローラ150およびECU160は、検知対象ガス成分の濃度を特定する濃度特定手段として機能していることになる。
【0069】
このように、本実施の形態においては、酸素濃度に応じて適用する感度特性を違えることで、検知対象ガス成分の濃度の酸素濃度に基づく補正を行うようになっている。係る補正を行うことで、本実施の形態に係るガスセンサ100においては、O干渉性を排除した検知対象ガス成分濃度の特定が、行えるようになっている。
【0070】
<応答時間差の調整>
上述した態様での検知対象ガス成分濃度の特定は、O干渉性を排除するという点において有効である。ただし、係る態様は、同一のタイミングで第1検知電極10Aと第2検知電極10Bとに生じる起電力(センサ出力)が検知対象ガス成分濃度の特定に用いられることを前提とするものの、厳密には、同一のタイミングで両電極に到達した被測定ガスについての第1センサ出力と第2センサ出力とでは、後者の方が早くコントローラ150から出力されることが、わかっている。換言すれば、同一のタイミングでコントローラ150に取得される第1センサ出力および第2センサ出力とは、異なるタイミングで第1検知電極10Aと第検知電極10Bに到達した被測定ガスについての値となっている。これは、金属成分としてPt-Au合金を含む第1検知電極10Aの電極反応速度の方が、Ptのみを含む第検知電極10Bの電極反応速度よりも遅いためである。
【0071】
それゆえ、第1検知電極10Aを含む第1混成電位セルから得られる第1センサ出力よりも第2検知電極10Bを含む第2混成電位セルから得られる第2センサ出力の方が、被測定ガスの成分の変化により迅速に応答して変化する。このことを、第1検知電極10A(あるいは第1検知電極10Aを含む第1混成電位セル)よりも第2検知電極10B(あるいは第2検知電極10Bを含む第2混成電位セル)の方が応答時間が短い、あるいは、応答性が(相対的に)よい、などと称する。
【0072】
仮に、このような応答時間あるいは応答性の差異が存在する状況で、同一のタイミングでコントローラ150に得られる第1センサ出力と第2センサ出力とに基づき上述の態様にて検知対象ガス成分の濃度を特定しようとすると、第2センサ出力に基づく酸素濃度の特定が、第1センサ出力が得られたときの被測定ガスと異なる被測定ガスに基づいて行われてしまい、その結果、最終的に得られる検知対象ガス成分濃度の信頼性が損なわれてしまうことが懸念される。
【0073】
ここで、本実施の形態における検知電極の応答時間の定義について説明する。図5は、係る説明のための応答測定プロファイルを示す図である。
【0074】
本実施の形態においては、モデルガス中にガスセンサ100を配置した状態で、モデルガスの酸素濃度を、20%から1%に瞬時に変化させたときの各検知電極におけるセンサ出力(起電力)の変化を測定した結果に基づいて、各検知電極の応答時間を定めるものとする。モデルガスとしては、酸素のほかに、HOを5%含み、残余がNであるものを用いる。モデルガスの温度は120℃とし、流量は200L/minとし、センサ素子101の駆動温度は650℃とする。以降、これらの応答時間を得るための条件を、応答時間測定条件と称する。
【0075】
具体的にいえば、図5に示すように、モデルガスの酸素濃度が20%から1%に瞬時に変化させられると、これに応答して起電力値も変化する。係る場合に得られる、図5に示すような起電力値の時間変化プロファイルを、応答測定プロファイルと称する。応答測定プロファイルにおいて、モデルガスの酸素濃度を変化させるタイミングを時刻t=0とし、モデルガスの酸素濃度を1%に変化させる前の起電力値(第1センサ出力または第2センサ出力)をV、t=0において酸素濃度を1%に変化させた後、起電力が安定したときの起電力値をV100、起電力値がVからV100まで変化する途中で、両者の差分値の10%変化したとき起電力値をV10、同様に90%変化したとき起電力値をV90とする。そのうえで、起電力値がV10になったときの時刻をt=t10とし、起電力値がV90になったときの時刻をt=t90とし、両者の差分値であるtr=t90-t10なる値を、検知電極についての応答時間と定義する。応答時間が小さいほど、応答性がよいということになる。
【0076】
本実施の形態においては、上述のような、第1検知電極10Aと第2検知電極10Bとが組成の差異に起因して本来的に有する応答性の差異に鑑み、第1保護層40および第2保護層50の構成を工夫することで、第1混成電位セルと第2混成電位セルのそれぞれにおける応答時間と、両者における応答時間の差とをともに、測定精度に照らして充分に小さな値に収まるようにしている。
【0077】
具体的には、応答時間が第1検知電極10Aと第2検知電極10Bの双方において10sec以下となり、かつ、両者の応答時間の差(の絶対値)が2sec以下となるように、第1検知電極10Aを覆う第1保護層40と第2検知電極10Bを覆う第2保護層50とが設けられる。係る場合に、O干渉性を排除した検知対象ガス成分濃度の特定が、好適な精度で行える。
【0078】
これは例えば、第1保護層40の気孔率を30%以上40%以下とし、厚みを15μm以上200μm以下とし、第2保護層50の気孔率を10%以上40%以下とし、厚みを15μm以上200μm以下とすることで、実現される。ここで、第1保護層40の要件は、第1検知電極10Aの被毒防止など、応答時間差の調整以外の要素も考慮して定められるのが好ましい。また、第1保護層40および第2保護層50の気孔率の上限は、上述のようにこれらの層を印刷法にて形成するという点も鑑みたものである。
【0079】
好ましくは、第1検知電極10Aと第2検知電極10Bの応答時間の差は1sec以下となるように、第1保護層40と第2保護層50とが設けられる。係る場合、ガスセンサ100は極めて優れた応答性を有しているとされる。これは例えば、第1保護層40の気孔率を30%以上40%以下とし、厚みを15μm以上200μm以下とし、第2保護層50の気孔率を10%以上20%以下とし、厚みを15μm以上30μm以下とすることで、実現される。
【0080】
なお、第1保護層40と第2保護層50の構成によっては、第1検知電極10Aの方が第2検知電極10Bよりも応答時間が短くなることもあり得るが、応答時間差が2sec以下である限りは、そのような場合も許容される。
【0081】
<複数の保護層が積層されている場合>
ガスセンサ100に第1検知電極10Aと第2検知電極10Bを覆う保護層を設ける態様は、図1に示すものには限られない。図6は、センサ素子101の先端部E1側の所定範囲に、第1検知電極10Aおよび第2検知電極10Bのみならずセンサ素子101外周全体を覆う態様にて先端保護層80が設けられる構成を示す図である。図6(a)は、センサ素子101の素子長手方向に沿った垂直断面図であり、図6(b)は、図6(a)のB-B’位置における素子長手方向に垂直な断面図である。
【0082】
先端保護層80は、アルミナからなる多孔質層であり、30%以上の気孔率にて、50μm~300μm程度の厚みに形成される。先端保護層80は、上述したグリーンシートプロセスにて得られるセンサ素子101(焼成体)に対し、プラズマ溶射、スプレーコーティング、ゲルキャスト、ディッピングなどの公知の手法により形成される。いずれの手法も、先端保護層80の厚みを容易に制御することができる。
【0083】
応答時間が第1検知電極10Aと第2検知電極10Bの双方において10sec以下であり、かつ、両者の応答時間の差(の絶対値)が2sec以下であり、第1検知電極10Aと先端保護層80の厚みの総和と、第2検知電極10Bと先端保護層80の厚みの総和とがいずれも200μm以下である限りは、このような先端保護層80を設ける態様についても、採用が可能である。
【0084】
あるいはさらに、第1保護層40および第2保護層50そのものを多層構造とする態様についても、採用が可能である。
【0085】
これらのことを敷衍すると、本実施の形態に係るガスセンサ100において、センサ素子101に備わる第1検知電極10Aおよび第2検知電極10Bのそれぞれの上に、1または複数の保護層を設け、両電極の応答時間の差を2sec以下とする場合は、上述した第1保護層40および第2保護層50に関する要件を踏まえ、第1検知電極10Aの上に備わる保護層(以下、1層のみの場合も含め、第1保護層群と称する)と、第2検知電極10Bの上に備わる保護層群(以下、1層のみの場合も含め、第保護層群と称する)とがそれぞれ、次のような要件をみたすようにすればよいことになる。
【0086】
第1保護層群:気孔率が最小の層について、その気孔率が30%以上40%以下であり、厚みが15μm以上200μm以下であり、第1保護層群全体の厚みが200μm以下;
第2保護層群:気孔率が最小の層について、その気孔率が10%以上40%以下であり、厚みが15μm以上200μm以下であり、第2保護層群全体の厚みが200μm以下。
【0087】
係る場合、ガスセンサ100において、O干渉性を排除した検知対象ガス成分濃度の特定が、応答性を確保しつつ好適な精度で行える。このことは、換言すれば、被測定ガスの導入(第1検知電極10Aおよび第2検知電極10Bへの到達)を最も律速する保護層が、上述した第1保護層40および第2保護層50と同様の気孔率および厚みを有し、かつ、第1保護層群全体の厚みおよび第2保護層群全体の厚みが第1保護層40および第2保護層50の厚みとして想定される最大値を超えない限りは、第1保護層40および第2保護層50のみが備わる場合と同様の応答性が得られることを意味する。
【0088】
先端保護層80が備わる場合は、該先端保護層80が、第1保護層群および第2保護層群における最外層を構成する。
【0089】
なお、第1保護層群および第2保護層群が同時に複数の層から形成される必要はなく、一方は1つの層からなり他方は複数の層からなる態様であってもよい。
【0090】
好ましくは、第2保護層群は次のような要件をみたすように設けられる。
【0091】
第2保護層群:気孔率が最小の層について、その気孔率が10%以上20%以下であり、厚みが15μm以上30μm以下。
【0092】
係る場合、ガスセンサ100において、O干渉性を排除した検知対象ガス成分濃度の特定が、応答性を確保しつつさらに優れた精度で行える。
【実施例
【0093】
第1保護層40の気孔率および厚みと、第2保護層50の気孔率および厚みとの組み合わせを種々に違えた全53種類のガスセンサ100(No.1~No.53)を作製した。
【0094】
具体的には、第1保護層40および第2保護層50の気孔率はともに、40%、30%、20%、10%の4水準に違えた。第1保護層40および第2保護層50の厚みはともに、15μm、30μm、200μmの3水準に違えた。ただし、第1保護層40の厚みが200μmであるガスセンサ100については、第2保護層50の厚みも200μmであるようにし、かつ、第1保護層40および第2保護層50の気孔率が同じとなるようにした。なお、本実施例においては、気孔率の特定に、加速電圧5kV、倍率5000倍の条件で撮像した断面SEM像(2次電子像)の二値化画像を用いた。
【0095】
第1検知電極10Aは、厚みが15μmで、気孔率が35%で、Au存在比が1.01となるように形成した。第2検知電極10Bは、厚みが15μmで、気孔率が35%となるように形成した。基準電極20は、厚みが15μmで、気孔率が35%となるように形成した。
【0096】
また、図2に示した各部のサイズについては、L0=63mm、w0=4mm、t1=t2=2mm、w1=w2=1mm、d1=4mm、d2=0.5mmとした。
【0097】
そして、得られたガスセンサ100について、上述の応答時間測定条件に従い第1検知電極10Aと第2検知電極10Bの応答時間を測定し、応答時間差を求めた。その結果に基づいて、それぞれのガスセンサ100の応答性の良否を判定した。
【0098】
図7は、第1保護層40の気孔率と厚みが相異なる9種類のガスセンサ100(No.1、No.7、No.13、No.19、No.25、No.31、およびNo.37~No.39に対応)について、応答測定プロファイルを例示する図である。また、図8は、第2保護層50の気孔率と厚みが相異なる9種類のガスセンサ100(No.1~No.6およびNo.37~No.39に対応)について、応答測定プロファイルを例示する図である。さらに、表1および表2には、全53種類のガスセンサ100についての、第1保護層40の気孔率および厚みと、第2保護層50の気孔率および厚みと、応答測定プロファイルから求めた第1検知電極10Aおよび第2検知電極10Bにおける応答時間と、両応答時間の差分値である応答時間差と、その値に基づくガスセンサ100の応答性の良否の判定結果とを、一覧にして示している(表1:No.1~No.30、表:No.31~No.53)。

【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
ガスセンサ100の応答性の良否の判定は、以下の基準により行った。
【0102】
「応答性が極めて優れている」(表1および表2において○(丸)印):
第1検知電極10Aおよび第2検知電極10Bの応答時間がいずれも10sec以下であり、かつ、応答時間差が1sec以下;
「応答性が優れている」(表1および表2において△(三角)印):
第1検知電極10Aおよび第2検知電極10Bの応答時間がいずれも10sec以下であり、かつ、応答時間差が1secを超えて2sec以下;
「応答性が劣っている」(表1および表2において×(バツ)印):
上記2通り以外の場合。
【0103】
表1および表2に示すように、第1保護層40の気孔率が30%以上40%以下なる範囲に含まれる40%であり、厚みが15μm以上200μm以下なる範囲に含まれ、第2保護層50の気孔率が10%以上40%以下なる範囲に含まれ、厚みが15μm以上200μm以下なる範囲に含まれるガスセンサ100において、応答時間差が2sec以下という優れた応答性が実現されることが、確認された。
【0104】
特に、第2保護層50の気孔率が10%以上20%以下なる範囲に含まれ、厚みが15μm以上30μm以下なる範囲に含まれる場合には、応答時間差が1sec以下という極めて優れた応答性が実現されることが、確認された。
【符号の説明】
【0105】
1~6 第1~第6固体電解質層
10A 第1検知電極
10B 第2検知電極
20 基準電極
30 基準ガス導入空間
40 第1保護層
50 第2保護層
60A、60B 電位差計
70 ヒータ部
80 先端保護層
100 ガスセンサ
101 センサ素子
L1、L2 リード線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8