(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-23
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】ダイナミックダンパ
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20220111BHJP
【FI】
F16F15/02 C
(21)【出願番号】P 2018104464
(22)【出願日】2018-05-31
【審査請求日】2021-02-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】特許業務法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】後藤 孝之
(72)【発明者】
【氏名】永井 廣明
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】実開平03-075339(JP,U)
【文献】特開2008-082368(JP,A)
【文献】特開2010-281460(JP,A)
【文献】特開2010-215121(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/00- 15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制振対象部材に取り付けられる取付部材に対してマス本体が離隔配置されていると共に、該マス本体の両側に固定される一対のマス装着部材が、該取付部材に対してそれぞれ連結ゴム弾性体によって弾性連結されているダイナミックダンパにおいて、
前記マス装着部材が前記マス本体の側面に沿って広がる縦壁部を備えていると共に、該マス装着部材は、該縦壁部から延び出して該マス本体の上面に沿って広がる上壁部と、該縦壁部から延び出して該マス本体の下面に沿って広がる下壁部とを備えて、それら上壁部と下壁部の少なくとも一方が該マス本体に固定されており、更に該マス装着部材は該上壁部と該下壁部の少なくとも一方と該縦壁部とに跨る底壁部を備えていると共に、該マス本体が該底壁部に当接状態で重ね合わされていることを特徴とするダイナミックダンパ。
【請求項2】
前記底壁部が前記上壁部および前記下壁部の両方と前記縦壁部との間に跨って設けられている請求項1に記載のダイナミックダンパ。
【請求項3】
前記取付部材が一対の前記マス装着部材の前記縦壁部の各一方と対向する一対の側板部を備えていると共に、前記連結ゴム弾性体がそれら縦壁部と側板部との対向面に固着されている請求項1又は2に記載のダイナミックダンパ。
【請求項4】
前記取付部材が前記マス本体の下方に配されて前記制振対象部材への取付手段が設けられた底板部を備えていると共に、前記マス装着部材の前記上壁部が該マス本体に固定されている請求項1~3の何れか一項に記載のダイナミックダンパ。
【請求項5】
各前記マス装着部材の前記上壁部と前記下壁部の何れか一方にボルト孔が貫通形成されていると共に、前記マス本体にねじ孔が形成されており、該マス本体と該上壁部又は該下壁部とが、該ボルト孔に挿通されて該ねじ孔に螺着される連結ボルトによって一箇所で固定されている請求項1~4の何れか一項に記載のダイナミックダンパ。
【請求項6】
前記取付部材が前記マス本体の下方に配される底板部を備えていると共に、各前記マス装着部材の前記下壁部の下面には、前記連結ゴム弾性体と一体形成されたストッパゴムが固着されており、各該マス装着部材の該下壁部と該取付部材の該底板部とが該ストッパゴムを介して当接することで、該マス本体の該取付部材に対する相対的な変位量を制限するストッパが構成されている請求項1~5の何れか一項に記載のダイナミックダンパ。
【請求項7】
前記マス本体の両側面と各前記マス装着部材の前記縦壁部との間に隙間が形成されている請求項1~6の何れか一項に記載のダイナミックダンパ。
【請求項8】
前記上壁部と前記下壁部と前記底壁部は、前記縦壁部からの各延出寸法が互いに同じとされている請求項1~7の何れか一項に記載のダイナミックダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振対象部材に取り付けられて、制振対象部材の振動を低減するダイナミックダンパに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、マス本体を制振対象部材に対して連結ゴム弾性体で弾性連結することで、マス本体と連結ゴム弾性体を含んで構成された副振動系の共振による制振作用によって、制振対象部材の振動を低減するダイナミックダンパが知られている。ダイナミックダンパは、一般的に、制振対象部材に取り付けられる取付部材と、副振動系のマスを構成するマス本体とが、副振動系のばねを構成する連結ゴム弾性体によって、相互に弾性連結された構造を有している。
【0003】
ところで、マス本体の質量は制振対象部材の質量などに応じて設定されるが、マス本体の質量が大きい場合には、連結ゴム弾性体の加硫成形時にマス本体を直接加硫接着しようとすると、マス本体の熱容量が大きいことに起因する接着不良が生じる他、連結ゴム弾性体の成形用金型のキャビティ容積が大きいことによって製造効率が低下したり、接着のためのマス本体の表面処理が難しくなったりするなどのおそれがある。
【0004】
そこで、特許第2662108号公報(特許文献1)に開示されたダイナミックダンパーは、ブラケット(取付部材)とホルダプレート(マス装着部材)とが弾性体(連結ゴム弾性体)によって弾性連結されていると共に、ホルダプレートが質量部材(マス本体)に後固定されている。ホルダプレートは、コの字状に曲折形成されており、向かい合わせに配された一対のホルダプレートが角柱状の質量部材の両側に固定されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1の構造では、コの字状のホルダプレートを向かい合わせに配することで形成される空間に、質量部材が差し入れられて固定されることから、質量部材のホルダプレートに対する位置を、質量部材の差入方向で精度よく設定することが難しかった。その結果、例えば、質量部材の重心位置が弾性体の弾性主軸の延長線上から外れることで、質量部材がこじりやねじりなどの意図しない方向の変位を生じて、目的とする制振作用が発揮されなくなるおそれもあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、マス本体の連結ゴム弾性体に対する位置を簡単に精度よく設定することができて、目的とする制振性能を安定して得ることができる、新規な構造のダイナミックダンパを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0009】
すなわち、本発明の第一の態様は、制振対象部材に取り付けられる取付部材に対してマス本体が離隔配置されていると共に、該マス本体の両側に固定される一対のマス装着部材が、該取付部材に対してそれぞれ連結ゴム弾性体によって弾性連結されているダイナミックダンパにおいて、前記マス装着部材が前記マス本体の側面に沿って広がる縦壁部を備えていると共に、該マス装着部材は、該縦壁部から延び出して該マス本体の上面に沿って広がる上壁部と、該縦壁部から延び出して該マス本体の下面に沿って広がる下壁部とを備えて、それら上壁部と下壁部の少なくとも一方が該マス本体に固定されており、更に該マス装着部材は該上壁部と該下壁部の少なくとも一方と該縦壁部とに跨る底壁部を備えていると共に、該マス本体が該底壁部に当接状態で重ね合わされていることを、特徴とする。
【0010】
このような第一の態様に従う構造とされたダイナミックダンパによれば、マス本体を一対のマス装着部材に取り付ける際に、マス本体をマス装着部材の底壁部に当接させることで、マス本体とマス装着部材を簡単に位置決めして固定することができる。それ故、マス本体を含んで構成されるダイナミックダンパのマスの重心位置を適切に設定することができて、振動入力時にマスの変位の安定化が図られることで、目的とする制振効果を効率的に得ることができる。
【0011】
また、底壁部が上壁部と下壁部の少なくとも一方と縦壁部とに跨るように設けられることで、マス装着部材の変形剛性を大きく得て、例えば、マス装着部材に対して、マスの変位量を制限するためのストッパ荷重などの大きな荷重が作用する場合にも、マス装着部材の変形を防ぐことができる。
【0012】
本発明の第二の態様は、第一の態様に記載されたダイナミックダンパにおいて、前記底壁部が前記上壁部および前記下壁部の両方と前記縦壁部との間に跨って設けられているものである。
【0013】
第二の態様によれば、底壁部が上壁部と下壁部の両方と縦壁部との間に跨っていることで、底壁部の変形剛性が大きく得られると共に、上壁部および下壁部の縦壁部に対する角度変化のようなマス装着部材の変形も防止され易くなる。その結果、マス装着部材の変形剛性が大きくなることで、マス装着部材の耐荷重性の向上が図られて、例えば、ストッパを構成する部材のような大荷重が作用する部材として、マス装着部材を利用することも可能となる。
【0014】
本発明の第三の態様は、第一又は第二の態様に記載されたダイナミックダンパにおいて、前記取付部材が一対の前記マス装着部材の前記縦壁部の各一方と対向する一対の側板部を備えていると共に、前記連結ゴム弾性体がそれら縦壁部と側板部との対向面に固着されているものである。
【0015】
第三の態様によれば、連結ゴム弾性体が加硫成形後の冷却によって縦壁部と側板部の対向方向で収縮しても、一対のマス装着部材が相互に独立していることで、連結ゴム弾性体に引張応力が作用するのを防ぐことができて、連結ゴム弾性体の耐久性の向上が図られる。しかも、例えば、連結ゴム弾性体の加硫成形後に、縦壁部と側板部を対向方向で相互に接近させるように取付部材やマス装着部材を加工して、連結ゴム弾性体の引張応力を低減する必要もないことから、製造工程数の削減も図られる。
【0016】
本発明の第四の態様は、第一~第三の何れか1つの態様に記載されたダイナミックダンパにおいて、前記取付部材が前記マス本体の下方に配されて前記制振対象部材への取付手段が設けられた底板部を備えていると共に、前記マス装着部材の前記上壁部が該マス本体に固定されているものである。
【0017】
第四の態様によれば、マス装着部材の上壁部がマス本体に固定されることによって、マス本体の下方が取付部材の底板部で覆われている場合にも、マス本体とマス装着部材の固定作業を簡単に行うことができる。
【0018】
本発明の第五の態様は、第一~第四の何れか1つの態様に記載されたダイナミックダンパにおいて、各前記マス装着部材の前記上壁部と前記下壁部の何れか一方にボルト孔が貫通形成されていると共に、前記マス本体にねじ孔が形成されており、該マス本体と該上壁部又は該下壁部とが、該ボルト孔に挿通されて該ねじ孔に螺着される連結ボルトによって一箇所で固定されているものである。
【0019】
第五の態様によれば、マス本体とマス装着部材の上壁部又は下壁部が、連結ボルトによって一箇所で固定されていることから、マス本体とマス装着部材の固定作業が容易になる。しかも、マス本体がマス装着部材の底壁部に当接していることにより、連結ボルトを締め付ける際のトルク反力によるマス本体とマス装着部材の相対的な回転が防止されて、例えば、連結ゴム弾性体に意図しない初期応力が作用するのを防ぐことができる。
【0020】
本発明の第六の態様は、第一~第五の何れか1つの態様に記載されたダイナミックダンパにおいて、前記取付部材が前記マス本体の下方に配される底板部を備えていると共に、各前記マス装着部材の前記下壁部の下面には、前記連結ゴム弾性体と一体形成されたストッパゴムが固着されており、各該マス装着部材の該下壁部と該取付部材の該底板部とが該ストッパゴムを介して当接することで、該マス本体の該取付部材に対する相対的な変位量を制限するストッパが構成されているものである。
【0021】
第六の態様によれば、マス本体の取付部材に対する下方への相対変位量を制限するストッパが設けられることで、連結ゴム弾性体の変形量が制限されて、連結ゴム弾性体の耐久性の向上が図られる。さらに、ストッパがマス装着部材の下壁部を利用して構成されることにより、部品点数を少なくすることができる。なお、ストッパを構成する下壁部と縦壁部とに跨るように底壁部が設けられていれば、下壁部の縦壁部に対する角度変化などが防止され易くなって、ストッパ荷重に対する十分な耐荷重性を得易くなる。
【0022】
本発明の第七の態様は、第一~第六の何れか1つの態様に記載されたダイナミックダンパにおいて、前記マス本体の両側面と各前記マス装着部材の前記縦壁部との間に隙間が形成されているものである。
【0023】
第七の態様によれば、例えば、マス本体やマス装着部材の製造上の寸法誤差に関わらず、マス本体を一対のマス装着部材の縦壁部間に差し入れることができる。
【0024】
本発明の第八の態様は、第一~第七の何れか1つの態様に記載されたダイナミックダンパにおいて、前記上壁部と前記下壁部と前記底壁部は、前記縦壁部からの各延出寸法が互いに同じとされているものである。
【0025】
第八の態様によれば、マス装着部材の製造が容易になる。しかも、上壁部と下壁部の少なくとも一方と底壁部は、補強効果を全長に亘って得ることになって、変形剛性をより大きくすることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、マス本体に取り付けられる一対のマス装着部材が、それぞれ縦壁部と上壁部と下壁部とを備えていると共に、上壁部と下壁部の少なくとも一方と縦壁部とに跨る底壁部を備えている。これにより、マス本体を一対のマス装着部材に取り付ける際に、マス本体をマス装着部材の底壁部に当接させることで、マス本体とマス装着部材を簡単に位置決めして固定することができる。また、底壁部を設けることによる補強効果によって、マス装着部材の変形剛性を大きく得ることができて、例えば、マスの変位量を制限するためのストッパ荷重などの大きな荷重が、マス装着部材に作用する場合にも、マス装着部材の変形を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施形態としてのダイナミックダンパを示す正面図。
【
図5】
図1に示すダイナミックダンパの分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0029】
図1~3には、本発明の一実施形態としてのダイナミックダンパ10が示されている。ダイナミックダンパ10は、取付部材12とマス本体14が互いに離隔して配されており、それら取付部材12とマス本体14が連結ゴム弾性体16によって相互に弾性連結された構造を有している。以下の説明において、原則として、上下方向とは
図1中の上下方向を、前後方向とは
図1中の紙面直交方向を、それぞれ言う。
【0030】
より詳細には、取付部材12は、金属などで形成された高剛性の部材であって、全体として上向きに開口して前後方向に延びる凹溝状とされており、略矩形板状の底板部18と、底板部18の左右両端部(
図1中の左右両端部)から上方に向けて突出する一対の側板部20,20とを、備えている。
【0031】
底板部18は、
図4に示すように、上下に貫通するボルト嵌合孔22,22が、左右方向に所定の距離を隔てた位置に形成されており、それらボルト嵌合孔22,22に対して、取付手段としての取付用ボルト24,24が、上側から圧入固定されている。
【0032】
一対の側板部20,20は、底板部18に対して略直交して広がっており、互いに略平行とされて、左右方向に所定距離を隔てて対向配置されている。なお、本実施形態の取付部材12は、例えば、金属素板をプレス加工してなるプレス金具とされており、底板部18と一対の側板部20,20が一体形成されている。
【0033】
さらに、本実施形態の取付部材12は、底板部18の前後両側に、斜め下向きに傾斜して前後外側に突出する補強板部26,26が一体形成されていると共に、底板部18と各側板部20の接続隅部において、前後方向の2箇所で内側へ凹んだ形状の凹状補強部28,28が設けられている。これらによって、底板部18の曲げ変形に対する剛性が大きくされていると共に、底板部18と側板部20の角度変化に対する剛性が大きくされており、取付部材12の変形剛性が大きくされている。
【0034】
一方、マス本体14は、比重の大きい金属などで形成されており、面取りされた略直方体形状の中実ブロックとされている。また、マス本体14は、前後方向の中央部分において上面14aに開口する2つのねじ孔30,30が、左右方向で相互に離れて形成されており、各ねじ孔30の内周面にはねじ山が形成されている。
【0035】
このマス本体14の左右両側部分には、一対のマス装着部材32,32が取り付けられている。マス装着部材32は、金属などで形成されており、
図1,4に示すように、マス本体14の側面14bに沿って広がる縦壁部34と、縦壁部34の上端部からマス本体14側へ延び出す上壁部36と、縦壁部34の下端部からマス本体14側へ延び出す下壁部38とを、一体で備えている。なお、一対のマス装着部材32,32は、左右方向と直交する平面に関して面対称形状とされている。
【0036】
縦壁部34は、左右方向に対して略直交して広がる矩形平板状とされており、マス本体14の側面14bに対して左右外側に離れて略平行に対向配置されている。
【0037】
上壁部36は、縦壁部34と略同じ前後寸法を有する略矩形平板状とされて、上下方向に対して略直交して、マス本体14の上面14aに沿って広がっている。さらに、上壁部36には、前後中央部分において上下に貫通するボルト孔40が形成されている。
【0038】
下壁部38は、縦壁部34および上壁部36と略同じ前後寸法を有する略矩形平板状とされて、上下方向に対して略直交して、マス本体14の下面14cに沿って広がっている。なお、下壁部38は、上壁部36と略対応する形状とされているが、上壁部36のようなボルト孔40は形成されていない。
【0039】
さらに、マス装着部材32の後端部には、マス本体14の後面14dに沿って広がる底壁部42が設けられている。底壁部42は、
図2,3に示すように、略矩形平板状とされて、前後方向と略直交して広がっており、縦壁部34と上壁部36および下壁部38とに跨って設けられている。換言すれば、底壁部42は、溝形に配された縦壁部34、上壁部36、下壁部38に対して、略直交して広がっており、それら縦壁部34、上壁部36、下壁部38で構成された溝形の後端側の開口を塞ぐように設けられている。要するに、底壁部42は、左右外側の端部が縦壁部34につながっていると共に、上端部が上壁部36につながっており、更に下端部が下壁部38につながって、それら縦壁部34、上壁部36、下壁部38と連続的に一体形成されている。
【0040】
本実施形態では、上壁部36と下壁部38と底壁部42が、縦壁部34から互いに略同じ延出寸法で左右内側に向けて延び出していると共に、縦壁部34と上壁部36と下壁部38が、底壁部42から互いに略同じ寸法だけ前方へ向けて延び出している。要するに、上壁部36と下壁部38と底壁部42の左右寸法が略同じ(
図1中のl
1 )とされていると共に、縦壁部34と上壁部36と下壁部38の前後寸法が略同じ(
図3中のl
2 )とされている。
【0041】
また、上壁部36および下壁部38と縦壁部34との接続部分が湾曲形状とされて、それら上壁部36および下壁部38と縦壁部34とが滑らかに連続していると共に、縦壁部34、上壁部36、下壁部38と底壁部42との接続部分が湾曲形状とされて、それら縦壁部34、上壁部36、下壁部38と底壁部42とが滑らかに連続している。なお、このような一体的に連続する縦壁部34、上壁部36、下壁部38、底壁部42を備えたマス装着部材32は、例えば、金属素板をプレス加工したプレス金具として得ることができる。
【0042】
そして、マス装着部材32は、マス本体14に固定されている。即ち、
図5に示すように、マス本体14がマス装着部材32における上壁部36と下壁部38の間に前後方向で差し入れられて、
図4に示すように、上壁部36のボルト孔40に挿通された連結ボルト44が、マス本体14のねじ孔30に螺着されることで、マス装着部材32の上壁部36がマス本体14に固定されている。なお、互いに左右対称形状とされた一対のマス装着部材32,32が、マス本体14の左右各一方側に取り付けられていると共に、それら一対のマス装着部材32,32は、マス本体14に固定された状態において、左右方向で相互に離れている。
【0043】
本実施形態では、マス本体14と各マス装着部材32の上壁部36とが、各1つの連結ボルト44を締め付けることで、それぞれ一箇所において固定されている。それ故、ボルトの締付け作業の回数が少なく、マス本体14とマス装着部材32の固定作業が容易とされている。尤も、マス本体14とマス装着部材32は、複数の連結ボルト44によって、複数箇所で固定されるようにしてもよい。
【0044】
かかるマス本体14とマス装着部材32の固定状態において、マス本体14の上面14aが、マス装着部材32の上壁部36に対して、当接状態で重ね合わされている。一方、マス本体14の下面14cは、マス装着部材32の下壁部38に対して、上方に離れた状態で対向して配されており、マス本体14の下面14cと下壁部38の間に隙間46が形成されている。この隙間46によって、上壁部36と下壁部38の上下方向の対向面間距離やマス本体14の上下寸法に誤差が生じても、マス本体14を上壁部36と下壁部38の間へ問題なく差し入れることができる。なお、マス本体14と下壁部38の間に隙間46が形成されていても、マス本体14の上面14aと上壁部36が当接状態で重ね合わされることにより、マス本体14とマス装着部材32は、ボルト固定時に上下方向で相対的に位置決めされる。
【0045】
さらに、マス本体14が上壁部36と下壁部38の間へ前側から差し入れられる際に、マス本体14は、後面14dがマス装着部材32の底壁部42に当接状態で重ね合わされるまで差し入れられる。これにより、マス本体14とマス装着部材32の前後方向での相対的な位置が、マス本体14と底壁部42の当接によって、簡単に且つ精度よく設定される。
【0046】
しかも、マス本体14がマス装着部材32の底壁部42に当接状態で重ね合わされていることにより、連結ボルト44を締め付ける際のトルク反力によるマス本体14とマス装着部材32の相対回転が防止される。
【0047】
更にまた、本実施形態では、マス本体14の左右寸法が、一対のマス装着部材32,32の縦壁部34,34の左右方向の対向間距離よりも小さくされており、マス本体14の左右側面14b,14bと、縦壁部34,34の左右内面との間には、隙間48,48が形成されている。この隙間48,48によって、縦壁部34,34の左右方向の対向面間距離や、マス本体14の左右寸法に誤差が生じても、マス本体14を縦壁部34,34の間へ問題なく差し入れることができる。なお、例えば、図示しない治具(スペーサ)を各隙間48に差し入れた状態で、マス本体14とマス装着部材32,32を連結することにより、マス本体14とマス装着部材32,32を左右方向でより正確に位置決めすることもできる。
【0048】
マス本体14に固定された一対のマス装着部材32,32は、取付部材12に対して、一対の連結ゴム弾性体16,16によって弾性連結されている。連結ゴム弾性体16は、上下方向と略直交して広がる板状とされており、左右方向の中間部分が略一定の矩形断面で左右方向に直線的に延びていると共に、左右方向の両端部が上下方向および前後方向で大きくされて、取付部材12の側板部20とマス装着部材32の縦壁部34との各一方の対向面に加硫接着されており、取付部材12およびマス装着部材32に対する接着面積が大きく確保されている。なお、一対の連結ゴム弾性体16,16は、相互に左右対称形状とされている。また、本実施形態では、一対の連結ゴム弾性体16,16が、取付部材12と一対のマス装着部材32,32とを備える一体加硫成形品49として形成されており、かかる一体加硫成形品49に対して、マス本体14が後装着されている(
図5参照)。
【0049】
本実施形態では、互いに独立した左右のマス装着部材32,32が、左右の連結ゴム弾性体16,16によって、取付部材12の側板部20,20の各一方に弾性連結されることから、連結ゴム弾性体16,16が加硫成形後の冷却によって収縮しても、左右のマス装着部材32,32の相対的な位置が左右方向で離れることによって、各連結ゴム弾性体16に作用する左右方向の引張応力が低減乃至は回避される。
【0050】
かかる取付部材12とマス装着部材32,32が連結ゴム弾性体16,16で弾性連結された状態において、マス本体14とマス装着部材32,32は、取付部材12の底板部18に対して、上方に所定の距離だけ離れた状態で配されている。換言すれば、マス本体14とマス装着部材32,32の下方には、底板部18が所定の距離を隔てて配されており、それらマス本体14とマス装着部材32,32の下方が、底板部18によって覆われている。
【0051】
さらに、マス装着部材32の下壁部38には、連結ゴム弾性体16と一体形成されたストッパゴム50が固着されている。ストッパゴム50は、連結ゴム弾性体16の内周端部から縦壁部34に沿って下側へ延び出したゴム層52とつながっており、下壁部38の下面38aを覆っている。さらに、ストッパゴム50には、突出高さの異なる2つの緩衝突起54,56が形成されている。緩衝突起54,56は、何れも突出先端に向けて横断面積が小さくなる先細形状とされていると共に、左右内側の緩衝突起54が、左右外側の緩衝突起56よりも突出寸法を大きくされて、より下方まで突出している。
【0052】
そして、マス装着部材32の下壁部38が、取付部材12の底板部18に対して上方に対向配置されることにより、それら下壁部38と底板部18の間にストッパゴム50が配されている。これにより、マス本体14が取付部材12に対して下方へ大きく変位する際に、マス装着部材32の下壁部38と取付部材12の底板部18がストッパゴム50を介して当接することで、マス本体14の取付部材12に対する上下方向の相対変位量を制限する、ストッパ58が構成される。なお、突出寸法の小さい左右外側の緩衝突起56は、取付用ボルト24の頭部に当接するようになっている一方、突出寸法の大きい左右内側の緩衝突起54は、取付用ボルト24の頭部を外れた位置で底板部18に当接するようになっている。
【0053】
かくの如き構造とされたダイナミックダンパ10は、
図1に二点鎖線で示す制振対象部材60に対して、取付用ボルト24,24によって取り付けられる。制振対象部材60は、特に限定されるものではないが、例えば、自動車などの車両において振動が問題となる部材であって、自動車のドアなどが例示される。なお、ダイナミックダンパ10の上下、前後、左右の各方向は、ダイナミックダンパ10の車両への装着状態において、車両の各方向とは対応していなくてもよく、例えば、ダイナミックダンパ10の上下方向が車両の前後方向または左右方向となる向きで、ダイナミックダンパ10が車両に装着される場合もある。
【0054】
そして、ダイナミックダンパ10が装着された制振対象部材60に対して、制振対象部材60の共振周波数域の振動(制振対象振動)が入力されると、ダイナミックダンパ10によって構成される副振動系の共振作用によって、制振対象部材60の振動が抑えられる。ダイナミックダンパ10において構成されるマス-ばね共振系(副振動系)の共振周波数は、制振対象振動の周波数に応じて設定される。さらに、本実施形態において、ダイナミックダンパ10のマスは、マス本体14だけでなく、マス本体14と、マス装着部材32,32と、連結ボルト44,44と、ゴム層52,52を含むストッパゴム50,50とによって構成されている。更にまた、ダイナミックダンパ10のマスの重心(
図3中の黒点)は、上下方向の投影において、連結ゴム弾性体16,16の左右方向の弾性主軸の延長線上(
図3中の一点鎖線上)に位置している。
【0055】
本実施形態のダイナミックダンパ10は、マス本体14とマス装着部材32,32が、マス本体14と底壁部42,42との当接によって、簡単に且つ精度よく位置決めされている。これにより、マス本体14とマス装着部材32,32を含んで構成されるダイナミックダンパ10のマスの重心が、上下方向の投影において、連結ゴム弾性体16,16の左右方向の弾性主軸の延長線上に位置せしめられて、上下方向の振動入力に際して、マスのこじり変位などの意図しない振れが低減されることで、目的とする制振効果を安定して効率的に得ることができる。
【0056】
本実施形態において、制振対象部材60における主たる制振対象振動の入力方向は、
図1中の上下方向とされており、マス本体14とマス装着部材32,32は、マス本体14と底壁部42,42との当接によって、主たる制振対象振動の入力方向と直交する方向で相互に位置決めされている。即ち、連結ボルト44,44によるマス本体14とマス装着部材32,32のボルト固定よりも前に、マス本体14とマス装着部材32,32が、マス本体14と底壁部42,42の当接によって、前後方向で簡易に位置決めされることから、マス本体14とマス装着部材32,32の連結ボルト44,44による固定作業が容易になる。なお、本実施形態では、マス装着部材32,32のボルト孔40,40が、マス本体14のねじ孔30,30よりも大径とされており、マス本体14が底壁部42,42に当接することで、マス本体14がマス装着部材32,32に対して前後方向で位置決めされている。
【0057】
さらに、連結ボルト44,44によるマス本体14とマス装着部材32,32の締結に際して、連結ボルト44,44の締付トルクによるマス本体14とマス装着部材32,32の回転が、マス本体14と底壁部42,42との当接によって防止されている。これにより、マス本体14とマス装着部材32,32の相対回転によって連結ゴム弾性体16,16に及ぼされる応力が、低減乃至は回避されて、連結ゴム弾性体16,16の耐久性の向上が図られる。
【0058】
加えて、本実施形態では、マス本体14とマス装着部材32,32が、マス本体14と上壁部36,36の当接によって、上下方向で位置決めされる。それ故、マス本体14とマス装着部材32,32を、上下方向、前後方向、左右方向、ボルト軸回りの周方向の各方向において、簡単に且つ精度よく位置決めすることができて、目的とする制振効果を有効に得ることができると共に、連結ゴム弾性体16,16の耐久性を有利に得ることができる。
【0059】
また、制振対象部材60に装着されたダイナミックダンパ10に対して、上下方向の衝撃的な大荷重が入力されると、マス装着部材32の下壁部38と取付部材12の底板部18の当接で構成されるストッパ58によって、マス本体14の取付部材12に対する相対変位量が制限される。これにより、連結ゴム弾性体16,16の過大な変形が防止されて、連結ゴム弾性体16,16の耐久性の向上が図られる。本実施形態のストッパ58は、硬質の下壁部38と底板部18が、ストッパゴム50を介して緩衝的に当接することから、下壁部38と底板部18の打ち当たりによる打音が回避されている。特に、ストッパゴム50に先細形状の緩衝突起54,56が設けられていることによって、より優れた緩衝作用が発揮されるようになっており、打音が効果的に低減される。
【0060】
しかも、マス装着部材32が下壁部38と縦壁部34および上壁部36とに跨る底壁部42を備えていることで、下壁部38の耐荷重性能の向上が図られており、ストッパ荷重の作用による下壁部38の変形が防止されている。特に本実施形態のマス装着部材32では、上壁部36と下壁部38と底壁部42の縦壁部34からの左右延出寸法が、互いに略同じとされていることから、下壁部38を含むマス装着部材32の変形剛性が大きく確保されており、ストッパ荷重に対する耐荷重性の向上がより有利に実現される。
【0061】
加えて、本実施形態では、取付部材12の底板部18が、補強板部26および凹状補強部28によって補強されていると共に、制振対象部材60に当接状態で重ね合わされることによって補強されていることから、ストッパ荷重の作用による底板部18の変形も防止されている。
【0062】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、マス本体14の形状は、矩形ブロック状に限定されず、厚肉の円板形状や異形板形状などであってもよい。
【0063】
さらに、マス本体14とマス装着部材32の固定は、ボルト固定に限定されず、例えば、溶接や接着、機械的な係合など、各種の固定方法が採用され得る。
【0064】
また、マス本体14とマス装着部材32の縦壁部34との間の隙間48や、マス本体14とマス装着部材32の下壁部38との間の隙間46は、必須ではなく、例えば、マス本体14の側面14bと縦壁部34が接触していてもよいし、マス本体14の下面14cと下壁部38が接触していてもよい。
【0065】
また、マス装着部材32の底壁部42は、必ずしも上壁部36と下壁部38の両方と縦壁部34の間に跨って設けられている必要はなく、例えば、縦壁部34と上壁部36の間に跨って下壁部38から離れた上部だけの底壁部や、縦壁部34と下壁部38の間に跨って上壁部36から離れた下部だけの底壁部なども採用できる。尤も、底壁部は、マス本体14に固定される上壁部36と下壁部38の少なくとも一方と、縦壁部34とに跨って設けられることが望ましく、それによって、底壁部によるマス装着部材32の補強効果を有利に得ることができる。
【0066】
さらに、底壁部42の縦壁部34からの延出寸法は、必ずしも上壁部36や下壁部38と同じでなくてもよく、例えば、底壁部の縦壁部34からの延出寸法が、上壁部36の縦壁部34からの延出寸法よりも小さくされて、底壁部が縦壁部34と上壁部36の隅部に設けられていてもよい。
【0067】
更にまた、上壁部36の縦壁部34からの延出寸法と、下壁部38の縦壁部34からの延出寸法は、互いに異ならせることもできる。具体的には、例えば、上壁部36を下壁部38よりも左右方向で長くすることにより、マス本体14の上面14aへの当接面積を大きく確保したり、ストッパ58を構成する下壁部38を上壁部36よりも左右方向で長くして、ストッパ58の受圧面積を大きく確保することなども可能である。なお、上壁部36と下壁部38は、縦壁部34からの延出寸法が小さくされることで、例えば強度を大きく得ることができて、変形剛性の向上が図られ得る。
【0068】
更にまた、マス装着部材32は、縦壁部34、下壁部38、底壁部42においてマス本体14に固定されていてもよい。要するに、マス本体14とマス装着部材32の固定部位は、上壁部36だけに限定されず、上壁部36と下壁部38の少なくとも一方を含んでいればよい。
【0069】
さらに、縦壁部34は、必ずしも上壁部36、下壁部38、底壁部42と直交して広がるものに限定されず、マス装着部材32は、それら上壁部36、下壁部38、底壁部42の少なくとも一つが、縦壁部34に対して傾斜して広がる形状とされ得る。更にまた、底壁部42は、必ずしも縦壁部34、上壁部36、下壁部38と直交して広がるものに限定されず、それら縦壁部34、上壁部36、下壁部38の少なくとも一つが、底壁部42に対して傾斜して広がっていてもよい。なお、上壁部36と下壁部38は、互いに平行に広がっているものに限定されず、相対的に傾斜して広がっていてもよい。
【0070】
更にまた、マス装着部材32を構成する縦壁部34、上壁部36、下壁部38、底壁部42は、何れも、平板形状に限定されるものではなく、例えば、全体的に或いは部分的に厚さ方向に湾曲していてもよいし、部分的な凹凸などを備えていてもよい。
【0071】
また、連結ゴム弾性体16は、必ずしも上下方向に対して直交して広がる形状に限定されず、例えば、左右外側に向けて下傾する傾斜形状であってもよい。さらに、連結ゴム弾性体16は、左右方向で断面の形状や大きさが変化していてもよく、例えば左右外側に向けて断面積が次第に小さくなる形状も採用され得る。
【0072】
さらに、連結ゴム弾性体16は、左右に各一つだけが設けられている必要はなく、左右に各複数が設けられ得る。更にまた、連結ゴム弾性体16,16は、必ずしもマス装着部材32,32の縦壁部34,34に固着されていなくてもよく、例えば、マス装着部材32,32の下壁部38,38に固着された構造なども採用可能である。
【0073】
また、取付部材12の形状は、特に限定されず、例えば、側板部20が底板部18に対して直交せずに、底板部18から離れるに従って左右外側へ傾斜して延び出していてもよい。さらに、例えば、取付部材が側板部のない構造とされて、連結ゴム弾性体16が底板部18に固着されるようにもできる。更にまた、例えば、取付部材において取付手段を備える部分が、マス本体14よりも後側で前後方向と略直交して広がるように設けられていてもよく、その場合には、制振対象部材におけるダイナミックダンパの装着部分は、前後方向と略直交して広がる縦壁状とされ得る。
【0074】
また、ストッパゴム50は、取付部材12の底板部18の上面に固着されていてもよい。さらに、ストッパゴム50は、連結ゴム弾性体16とは別体で形成することも可能であり、連結ゴム弾性体16とストッパゴム50の形成材料を異ならせて、それら連結ゴム弾性体16とストッパゴム50の各要求特性をより高度に実現することもできる。
【符号の説明】
【0075】
10:ダイナミックダンパ、12:取付部材、14:マス本体、16:連結ゴム弾性体、18:底板部、20:側板部、24:取付用ボルト(取付手段)、30:ねじ孔、32:マス装着部材、34:縦壁部、36:上壁部、38:下壁部、40:ボルト孔、42:底壁部、44:連結ボルト、48:隙間、50:ストッパゴム、58:ストッパ、60:制振対象部材