(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-23
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】環状ポリペプチド、それらを得る方法、及びその治療的使用
(51)【国際特許分類】
C07K 7/64 20060101AFI20220111BHJP
A61K 38/12 20060101ALI20220111BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220111BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20220111BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20220111BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20220111BHJP
C07K 1/02 20060101ALI20220111BHJP
C07K 1/04 20060101ALI20220111BHJP
C07K 14/00 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
C07K7/64 ZNA
A61K38/12
A61P25/00
A61P25/02
A61P25/02 101
A61P25/16
A61P25/28
C07K1/02
C07K1/04
C07K14/00
(21)【出願番号】P 2018535256
(86)(22)【出願日】2016-09-23
(86)【国際出願番号】 FR2016052422
(87)【国際公開番号】W WO2017051135
(87)【国際公開日】2017-03-30
【審査請求日】2019-08-23
(32)【優先日】2015-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】518100421
【氏名又は名称】アクソルティス・ファーマ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ドミニク・ブリドン
(72)【発明者】
【氏名】ステファーヌ・ゴブロン
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-510034(JP,A)
【文献】国際公開第2014/115229(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/103203(WO,A1)
【文献】特開2014-101274(JP,A)
【文献】Cell Tissue Res, 1998, Vol.293, p.407-418
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 7/64
A61K 38/12
A61P 25/00
A61P 25/02
A61P 25/16
A61P 25/28
C07K 1/02
C07K 1/04
C07K 14/00
CAplus/REGISTRY(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のアミノ酸配列:
X7-W-S-X1-W-X2-X3-C-S-X4-C-G-X8 (配列番号68)
(式中、
X1、X2、及びX3は、互いに独立に、S又はGを表し、
X4は、R-S、又はV-S、又はV-T、又はR-Tを表し、
2個のシステインは、ジスルフィド架橋を形成しており、
X7は、水素原子又は0~4個のアミノ酸を有するアミノ酸の鎖を表し、
X8は、水素原子又は0~5個のアミノ酸を有するアミノ酸の鎖を表す)
のみからなる、ポリペプチド。
【請求項2】
以下のアミノ酸配列:
X5-W-S-X1-W-X2-X3-C-S-X4-C-G-X6 (配列番号69)
(式中、
X1、X2、及びX3は、互いに独立に、S又はGを表し、
X4は、R-S、又はV-S、又はV-T、又はR-Tを表し、
2個のシステインは、ジスルフィド架橋を形成し、
X5は、水素原子、又はP、若しくはA-P、若しくはL-A-P、若しくはV-L-A-Pを表し、
X6は、水素原子、又はL、若しくはL-G、若しくはL-G-L、若しくはL-G-L-I、若しくはL-G-L-I-Fを表す)
のみからなる、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
以下のアミノ酸配列:
W-S-X1-W-X2-X3-C-S-X4-C-G (配列番号59)
(式中、
X1、X2、及びX3は、互いに独立に、S又はGを表し、
X4は、R-S、又はV-S、又はV-T、又はR-Tを表し、
2個のシステインは、ジスルフィド架橋を形成している)
のみからなる、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項4】
以下のアミノ酸配列:
W-S-X1-W-X2-X3-C-S-X4-C-G (配列番号1)
(式中、
X1、X2、及びX3は、互いに独立に、S又はGを表し、
X4は、R-S、又はV-S、又はV-Tを表し、
両方のシステインは、ジスルフィド架橋を形成している)
のみからなる、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項5】
以下のアミノ酸配列:
W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G (配列番号2)
(式中、2個のシステインは、ジスルフィド架橋を形成している)
のみからなる、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項6】
ポリペプチドが、配列番号4~63のポリペプチドから選択される1つのみからなる、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項7】
80%以上の純度を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項8】
還元型の又は二量体若しくはオリゴマーの形態のポリペプチド、及びチオール基がスルホキシド又はスルホンの形態である前記ポリペプチドの誘導体を含まない、請求項1~7のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項9】
X7-W-S-X1-W-X2-X3-C-S-X4-C-G-X8 (配列番号68)
(式中、
X1、X2、及びX3は、互いに独立に、S又はGを表し、
X4は、R-S、又はV-S、又はV-T、又はR-Tを表し、
2個のシステインは、ジスルフィド架橋を形成しており、
X7は、水素原子又は0~4個のアミノ酸を有するアミノ酸の鎖を表し、
X8は、水素原子又は0~5個のアミノ酸を有するアミノ酸の鎖を表す)
のアミノ酸配列のポリペプチドを得るための方法であって、
X7-W-S-X1-W-X2-X3-C-S-X4-C-G-X8の配列(式中、X7、X1、X2、X3、X4、及びX8は、配列番号68のものと同じである)のポリペプチドにおいて、アルブミンの存在下でジスルフィド架橋を形成する工程を含み、当該ポリペプチドは溶液中に存在する、方法。
【請求項10】
X5-W-S-X1-W-X2-X3-C-S-X4-C-G-X6 (配列番号69)
(式中、
X1、X2、及びX3は、互いに独立に、S又はGを表し、
X4は、R-S、又はV-S、又はV-T、又はR-Tを表し、
2個のシステインは、ジスルフィド架橋を形成し、
X5は、水素原子、又はP、若しくはA-P、若しくはL-A-P、若しくはV-L-A-Pを表し、
X6は、水素原子、又はL、若しくはL-G、若しくはL-G-L、若しくはL-G-L-I、若しくはL-G-L-I-Fを表す)
のアミノ酸配列のポリペプチドを得るための方法であって、
X5-W-S-X1-W-X2-X3-C-S-X4-C-G-X6の配列(式中、X5、X1、X2、X3、X4、及びX6は、配列番号69のものと同じである)のポリペプチドにおいて、アルブミンの存在下でジスルフィド架橋を形成する工程を含み、当該ポリペプチドは溶液中に存在する、方法。
【請求項11】
配列番号59:
W-S-X1-W-X2-X3-C-S-X4-C-G (配列番号59)
(式中、
X1、X2、及びX3は、互いに独立に、S又はGを表し、
X4は、R-S、又はV-S、又はV-T、又はR-Tを表し、
2個のシステインは、ジスルフィド架橋を形成している)
のアミノ酸配列のポリペプチドを得るための方法であって、配列番号70:
W-S-X1-W-X2-X3-C-S-X4-C-G (配列番号70)
(式中、X1、X2、X3、及びX4は、配列番号59のものと同じである)
の配列のポリペプチドにおいて、アルブミンの存在下でジスルフィド架橋を形成する工程を含み、配列番号70の配列のポリペプチドは溶液中に存在する、方法。
【請求項12】
配列番号2:
W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G (配列番号2)
(式中、2個のシステインは、ジスルフィド架橋を形成している)
のアミノ酸配列のポリペプチドを得るための方法であって、配列番号58:
W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G (配列番号58)
の配列のポリペプチドにおいて、アルブミンの存在下でジスルフィド架橋を形成する工程を含む、方法。
【請求項13】
初期のポリペプチドが、水溶液中に存在する、請求項9~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
アルブミン及び初期のポリペプチドが、1:1~1:100の比で存在することを特徴とする、請求項9~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
アルブミン及び初期のポリペプチドが、1:1~1:10の比で存在することを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
アルブミンの存在下でジスルフィド架橋を形成する工程が、環境大気中で行われることを特徴とする、請求項9~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
初期のポリペプチドをアルブミンの存在下でジスルフィド架橋を形成する工程を含み
、ジスルフィド架橋を形成する工程をペプチド合成で用いられた樹脂上で行い、続いて、ジスルフィド架橋したポリペプチドが、ジスルフィド結合形成工程の後、ポリペプチドを樹脂から分離することにより得られることを特徴とする、請求項9~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
請求項1~8のいずれか一項に記載のポリペプチドを有効成分として含み、1種以上の医薬的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物。
【請求項19】
中枢神経系の再生が求められる神経変性病理又は神経外傷の治療における使用のための、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
アルツハイマー病、多発性硬化症、パーキンソン病、病変、頭部神経外傷、又は視神経、嗅神経、聴覚神経、若しくは任意の脳神経若しくは末梢神経の病変を含む、偶発性、神経外傷性、又は変性性の型の病理の治療における使用のための、請求項18または19に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状ポリペプチド、これらを含む医薬組成物、及びこれらの医薬としての使用、特に神経変性疾患の治療及び中央神経系及び末梢神経系の細胞の再生におけるこれらの使用、並びにこれらの環状ポリペプチドを得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明のポリペプチドは、トロンボスポンジン(thrombospondin)タイプ1リピート、又はTSRと呼ばれるSCO-spondinの保存されたコンセンサスドメインの1つに由来するアミノ酸配列を有する。
【0003】
トロンボスポンジンの構造から導き出される種々の合成ペプチドが、種々の細胞型に興味深い作用を有することは周知であり、特に、これは、哺乳動物において腫瘍を阻害し、血栓溶解及び血管新生に影響し、補体調節因子である可能性があり、細胞接着の促進を保証する可能性すらある[Sipes JM et al., J Cell Biol, 121, 469-77,1993; Rusnati M et al. Pharmaceuticals 3, 1241-1278, 2010; Lopez-Dee Z et al., Mediators of Inflammation, Volume 2011, Article ID 296069, 10 pages, 2011]。
【0004】
SCO-spondinの一般的な特徴は、Meiniel et al., Microsc Res Tech. 2, 484-95, 2001による論文、及びGobron et al. Glia 32, 177-91, 2000による論文に特に説明されている。
【0005】
SCO-spondin TSRモチーフの1つの最も代表的なアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列ポリペプチド:
W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G, [配列番号58]
の適用により、ラット神経芽腫由来のB104細胞に、神経成長及び細胞凝集を誘導する細胞分化がもたらされる [F. El-Bitar et al., Cell Tissue Res., Vol. 304, p. 361-369. 2001]。このポリペプチドは、2個のシステイン間にジスルフィド架橋を有さない。
【0006】
このポリペプチドは、配列番号70の式、特に配列番号57の式の、還元型のポリペプチドと共に、国際特許出願WO 1999/03890 (US 6,995,140に対応)及びWO2009/027350の明細書及び特許請求の範囲に記載されており、またこれらの特許の明細書及び当業者に公知の方法に基づいて調製することができる。
【0007】
しかしながら、W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G [配列番号58]のポリペプチドの安定性は、水性溶液中で経時的に減少する。したがって、このポリペプチドは、処置中に用時調製する必要があり、そのためその投与が面倒なものになる可能性があり、したがって直接注入による、又は例えば、患者への医薬の漸進的送達のためのポンプを用いた処置を行う可能性が制限される。一般的に、この低い安定性により、このポリペプチドに基づく治療コンセプトの開発に関して、一定の不利益が生じる。
【0008】
特許出願WO 2008/090285は、W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G [配列番号58]のポリペプチドのペプチド模倣アナログを開示している。しかしながら、このアプローチには、不都合な点が2つある:これらのポリペプチドは、免疫原性現象を引き起こす可能性が高い非天然アミノ酸を含有し、非天然アミノ酸は天然アミノ酸よりもはるかに高価であり、製造コストが著しく増加し、そのため商業的関心が減退する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】WO 1999/03890
【文献】WO 2009/027350
【文献】WO 2008/090285
【非特許文献】
【0010】
【文献】Sipes JM et al., J Cell Biol, 121, 469-77,1993
【文献】Rusnati M et al. Pharmaceuticals 3, 1241-1278, 2010
【文献】Lopez-Dee Z et al., Mediators of Inflammation, Volume 2011, Article ID 296069, 10 pages, 2011
【文献】Meiniel et al., Microsc Res Tech. 2, 484-95, 2001
【文献】Gobron et al. Glia 32, 177-91, 2000
【文献】F. El-Bitar et al., Cell Tissue Res., Vol. 304, p. 361-369, 2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的の1つは、安定であり、かつ髄腔内投与に特に適合する溶液に可溶であって、同時に配列番号70の式のポリペプチド、及び特に、配列番号57の式のポリペプチド、特にW-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G [配列番号58]の配列のポリペプチドの特性が維持されているか、特性が向上している、ペプチド化合物を提供することである。
【0012】
実際、国際特許出願WO 1999/03890に記述されるW-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G [配列番号58]のアミノ酸配列のポリペプチドのより可溶性な形態を開発することは、一部の望まれる臨床的適応症にとって特に重要である。
【0013】
実際、髄腔内注射(IT)に関して、この化合物を投与するために用いられる溶液の選択肢は、非常に限られている。実際面では、用いられるのは3つの溶液しかなく、生理液、人工脳脊髄液、及び5%グルコース溶液である。当業者に公知の他の溶液は、他の投与手段、例えば脳室内(心室内)、硬膜外、脊髄内、実質(柔組織)内、静脈内、腔内、硝子体内、経蝶形骨洞(transphenoidal)、又は局所経路が用いられる場合に使用することができる。さらに、医薬組成物は、任意の形態、特に液体、特に溶液、懸濁液、若しくはエマルジョンの形態の注射可能な製剤の形態、注入製剤、又は固体で製造されてよく、任意のタイプの担体、特にゲル、生体高分子、若しくは生体材料(バイオマテリアル)、又は任意の医療機器、例えば、例えば制御放出若しくはベクトル化(vectorization)システムを可能にする、インプラント又は埋込可能式ポンプを含んでもよい。
【0014】
水性溶液は、投与経路に適合する様々な溶媒を用いて調製してもよく、理想的には等張溶媒、例えば0.9%塩化ナトリウム又は5%グルコースであるが、溶媒は、水、生理食塩水、リン酸緩衝液、クエン酸若しくは酢酸、又は任意の他のものであってもよい。また、場合により、製剤は、任意の賦形剤、アジュバント、又は添加剤、例えばプロピレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール、又は任意の界面活性剤、湿潤化剤、増粘剤、キレート剤、等張化剤、抗酸化剤、若しくは安定化剤を、組合せでもそうでなくても、含有してもよい。
【0015】
溶液の形態の製剤は、ボーラス注入によって投与されてもよく、又は点滴により投与されてもよい。
【0016】
アミノ酸配列:W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G, [配列番号58]のポリペプチドの場合、生理的液体中の溶解度は低い、すなわち、1~2 mg/mlのオーダーであり、したがって、10 mg/mlのオーダーという最大の所望の臨床用量を得ることはさらに難しい。溶解度はIT注入にとりわけ重要であるが、これは、注入液量の制限、すなわち末梢注入に関するものよりもはるかに大きな制限があること、及び、例えば、用いることができる溶媒及び溶液に制限があることが理由である。5%グルコース溶液の使用により、アミノ酸配列: W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G [配列番号58]のポリペプチドの溶解度が、およそ10 mg/mlになることにより、向上し、ここで、この溶液は、IT注入に適合する等張溶液のままである。
【0017】
しかしながら、ポリペプチドと接触した状態でグルコースが存在すると、アルデヒド型のグルコースと、ポリペプチドの第一級アミンとの、反応スキーム:
【0018】
【0019】
による反応の結果、グルコースのアルデヒド態シッフ塩基を形成することが知られている。
【0020】
理論的には、これらのシッフ塩基は、医薬組成物の調整及び実行を困難にする可能性がある。しかしながら、本ポリペプチドの場合、これらの塩基は、インビボで可逆である。
【0021】
したがって、アミノ酸配列:W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G [配列番号58]のポリペプチドの、5%グルコース以外の溶媒中、好ましくは生理液又は人工脳脊髄液中でのより可溶な形態を開発することが非常に重要である。
【0022】
本発明の別の形態は、神経の再生が必要な神経変性疾患又は神経外傷の治療に有効なペプチド化合物、及びこれらを含む医薬組成物を提供することである。
【0023】
本発明の別の形態は、これらのペプチド化合物を得るための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、以下のアミノ酸配列:
W-S-X1-W-X2-X3-C-S-X4-C-G (配列番号59)
(式中、
X1、X2、及びX3は、互いに独立に、S又はGを表し、
X4は、R-S、又はV-S、又はV-T、又はR-Tを表し、
2個のシステインは、ジスルフィド架橋を形成する)
を含むポリペプチドを提供する。
【0025】
本発明は、特に、以下のアミノ酸配列:
W-S-X1-W-X2-X3-C-S-X4-C-G (配列番号59)
(式中:
X1、X2、及びX3は、互いに独立に、S又はGを表し、
X4は、R-S、又はV-S、又はV-T、又はR-Tを表し、
2個のシステインは、ジスルフィド架橋を形成する)
を含むポリペプチドであって、還元型の又は二量体若しくはオリゴマーの形態のポリペプチド、及びチオール基がスルホキシド又はスルホンの形態である前記ポリペプチドの誘導体を実質的に含まない、ポリペプチドに関する。
【0026】
上記配列番号59の配列において、X4は、R-S又はV-S又はV-T又はR-Tを表す。また、本発明の別の好ましい実施形態において、X4は、R-S又はV-S又はV-Tを表してもよい。
【0027】
したがって、本発明の対象は、以下のアミノ酸配列:
W-S-X1-W-X2-X3-C-S-X4-C-G (配列番号1)
(式中、
X1、X2、及びX3は、上に示した意味を有し、
X4は、R-S、又はV-S、又はV-Tを表し、
2個のシステインがジスルフィド架橋を形成する)
を含む、上述のポリペプチドでもある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、配列番号58の配列のポリペプチド(A、倍率x 25、B、倍率× 100)及び配列番号2の配列のポリペプチド(C、倍率x 25)の、0.9% NaCl中、29.4 mg/mlの濃度の溶液の液滴の光学顕微鏡観察を示す。
【
図2】
図2は、ヒトアルブミンの存在下での配列番号2の配列のポリペプチド中の、配列番号58の配列のポリペプチドの環化反応の、反応開始時(T0分)及び環化反応の60分後(T60分)に作成された、重ね合わせたクロマトグラムを示す。
【
図3】
図3は、配列番号2の配列の環状ポリペプチドの、B104細胞に対する48時間後の効果の光学位相差顕微鏡観察(倍率× 400)を示す。細胞を、2日間、無血清培地中、かつ1 mg/mlの配列番号2の配列の環状ポリペプチドの非存在下(A)又は存在下(B)で培養する。
【
図4】
図4は、配列番号2の配列の環状ポリペプチドの、B104細胞に対する72時間後の効果の位相差光学顕微鏡観察(倍率x 400)を示す。細胞を、3日間、無血清培地中、かつ500 μg/mlの配列番号2の配列の環状ポリペプチドの非存在下(A)又は存在下(B)で培養する。
【
図5】
図5は、配列番号2の配列の環状ポリペプチドの、細胞数に対する効果の定量を示す。B104細胞の平均数を、培養の1、2、又は3日後に分析する。値は、平均±SEM (n=3)である。細胞を、無血清培地(対照)中、又は、配列番号2の配列の環状ポリペプチドを1 mg/ml若しくは500 μg/mlの濃度で含有する無血清培地で培養する。用語SEMは、平均の標準誤差を意味する。
【
図6】
図6は、配列番号2の配列の環状ポリペプチドの、神経突起の数に対する効果の定量を示す。B104細胞あたりの発芽の平均数を、培養の1、2、又は3日後に分析する。値は、平均±SEM、(n=3)である。細胞を、無血清培地(対照)中、又は、配列番号2の配列の環状ポリペプチドを1 mg/ml若しくは500 μg/mlの濃度で含有する無血清培地で培養する。
【
図7】
図7は、配列番号2の配列の環状ポリペプチドの、神経突起の長さに対する効果の定量を示す。B104細胞あたりの平均神経突起長を、培養の1、2、又は3日後に分析する。値は、平均±SEM、(n=3)である。細胞を、無血清培地(対照)中、又は、配列番号2の配列の環状ポリペプチドを1 mg/ml若しくは500 μg/mlの濃度で含有する無血清培地で培養する。
【
図8】
図8は、Basso, Beattie, Bresnahan (BBB)スケール(Basso DM et al. Neurotrauma, 12, 1-21, 1995, Basso DM et al. Exp Neurol, 139, 244-256, 1996)を用いて試験した、運動能力の評価の結果を示す。値は、平均±SEMである。BBBスコアは0 (後肢の動きなし)から、21 (調和のとれた正常な歩行及び平行な肢の配置)までの範囲である。
【
図9】
図9は、BBBスコアが14以上のラットのパーセンテージを示す。
【
図10】
図10は、BBBスコアが8以上14未満のラットのパーセンテージを示す。
【
図11】
図11は、つま先の間隔の反射活動の評価の結果を示す。考慮されるスコアは、: 0 = 反射活動無し、1 = 正常よりかなり弱い、2 = 正常よりわずかに弱い、3 = 正常、である。
【
図12】
図12は、後肢の置き方の評価の結果を示す。考慮されるスコアは: 0 = 反射活動無し、1 = 正常よりかなり弱い、2 = 正常よりわずかに弱い、3 = 正常、である。
【
図13】
図13は、後肢の置き方のスコアが3 (正常)であるラットのパーセンテージを示す。
【
図14】
図14は、ラットが膀胱制御を回復した日の平均を示す。値は、平均±SEMである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の目的に関して、用語「アミノ酸」は、天然アミノ酸及び非天然アミノ酸の両方を意味する。
【0030】
「天然アミノ酸」が意味するのは、天然のタンパク質に見出されるL体のアミノ酸であり、例えば、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン;グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、及びバリンである。
【0031】
「非天然アミノ酸」が意味するのは、前述のアミノ酸のD体、及びアルギニン、リジン、フェニルアラニン、及びセリン等の特定のアミノ酸のホモ体、又はロイシン若しくはバリンのノル体である。
【0032】
また、この定義には、アルファアミノ酪酸、アグマチン、アルファ-アミノイソ酪酸、サルコシン、スタチン、オルニチン、デアミノチロシン(deaminotyrosine)等の、他のアミノ酸も含まれる。
【0033】
ペプチド配列を説明するために用いられる命名法は、3文字表記を使用し、アミノ末端が左側に示され、カルボキシ末端が右側に示される、国際命名法である。
【0034】
ダッシュ記号「-」は、配列のアミノ酸同士を連結する、一般的なペプチド結合を表す。
【0035】
本発明の目的に関して、用語「ポリペプチド」は、その長さに関係なく、ペプチド結合により互いに連結されたアミノ酸の任意のポリマーを意味することが意図される。したがって、本発明の目的に関して、用語ポリペプチドは、ペプチド及びタンパク質も含む。
【0036】
本発明は、以下のアミノ酸配列:
W-S-X1-W-X2-X3-C-S-X4-C-G (配列番号59)
(式中、
X1、X2、及びX3は、互いに独立に、S又はGを表し、
X4は、R-S、又はV-S、又はV-T、又はR-Tを表し、
2個のシステインは、ジスルフィド架橋を形成する)
を含むポリペプチドに関する。
【0037】
したがって、配列番号59の生成物は、構造:
【0038】
【化2】
を有し、これは、3文字表記を用いる国際命名法により、式:
【0039】
【0040】
【0041】
によって、表してもよい。
【0042】
この実施形態において、本発明は、以下のアミノ酸配列:
【0043】
【0044】
を含むポリペプチドに関し、これらの配列中に表される2個のシステインは、その間にジスルフィド架橋を形成する。
【0045】
有利な実施形態において、本発明は、以下のアミノ酸配列:
W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G (配列番号2)
(式中、2個のシステインは、ジスルフィド架橋を形成する)
を含む、上に定義したポリペプチドに関する。
【0046】
したがって、配列番号2の産物は、構造;
【0047】
【0048】
を有し、これは、3文字表記を用いる国際命名法により、式:
【0049】
【0050】
【0051】
によって、表してもよい。
【0052】
驚くべきことに、発明者らは、W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G [配列番号2]のアミノ酸配列ポリペプチド中に存在する2個のシステイン間にスルフィド架橋を形成することにより、神経成長の増加及びシナプス連絡の増加を誘導するポリペプチドの有効性を保存することができるだけでなく、投与、特に髄腔内投与に適合する溶液中でより良い安定性及びより良い溶解度を有するポリペプチドを得ることができることを見出した。
【0053】
このペプチド配列が由来するSCO-spondinタンパク質において、上述のW-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G [配列番号2]の配列中に存在する2個のシステインは、互いにジスルフィド架橋を形成しておらず、タンパク質中に存在する他のシステインとのジスルフィド架橋に関与しているという点で、この発明はより一層驚くべきものである。
【0054】
特定の実施形態によれば、本発明は、以下のアミノ酸配列:
X7-W-S-X1-W-X2-X3-C-S-X4-C-G-X8 (配列番号68)
(式中:
X1、X2、及びX3は、互いに独立に、S又はGを表し、
X4は、R-S、又はV-S、又はV-T、又はR-Tを表し、
2個のシステインは、ジスルフィド架橋を形成し、
X7は、水素原子又は0~4個のアミノ酸を有するアミノ酸の鎖を表し、
X8は、水素原子又は0~5個のアミノ酸を有するアミノ酸の鎖を表す)
からなる、上に定義したポリペプチドに関する。
【0055】
別の具体的な実施形態によれば、本発明は、以下のアミノ酸配列:
X5-W-S-X1-W-X2-X3-C-S-X4-C-G-X6 (配列番号69)
(式中、
X1、X2、及びX3は、互いに独立に、S又はGを表し、
X4は、R-S、又はV-S、又はV-T、又はR-Tを表し、
2個のシステインは、ジスルフィド架橋を形成し、
X5は、水素原子、又はP、若しくはA-P、若しくはL-A-P、若しくはV-L-A-Pを表し、
X6は、水素原子、又はL、若しくはL-G、若しくはL-G-L、若しくはL-G-L-I、若しくはL-G-L-I-Fを表す)
からなる、上に定義したポリペプチドに関する。
【0056】
上述の配列番号68及び配列番号69の配列において、X4は、R-S、又はV-S、又はV-T、又はR-Tを表す。
【0057】
本発明の別の好ましい実施形態において、X4は、R-S、又はV-S、又はV-Tを表してもよい。対応する配列は、配列番号8及び配列番号3の配列である。
【0058】
この実施形態において、本発明は、特に、ポリペプチド配列:
W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G (配列番号2)
及び、以下のアミノ酸配列:
【0059】
【0060】
のポリペプチドであって、その配列において、両方のシステインがジスルフィド架橋を形成する、ポリペプチドに関する。
【0061】
またさらに有利な実施形態によれば、本発明は、以下のアミノ酸配列:
W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G (配列番号2)
(式中、2個のシステインは、ジスルフィド架橋を形成している)
からなる、上に定義したポリペプチドに関する。
【0062】
有利な実施形態において、本発明は、以下のアミノ酸配列:
W-S-X1-W-X2-X3-C-S-X4-C-G (配列番号59)
(式中、
X1、X2、及びX3は、互いに独立に、S又はGを表し、
X4は、R-S、又はV-S、又はV-T、又はR-Tを表し、
2個のシステインは、ジスルフィド架橋を形成している)
からなる、上に定義したポリペプチドであって、還元型の又は二量体若しくはオリゴマーの形態のポリペプチド、及びチオール基がスルホキシド又はスルホンの形態である前記ポリペプチドの誘導体を実質的に含まない、ポリペプチドに関する。
【0063】
用語「実質的に含まない」とは、上に示した好ましい実施形態に係るポリペプチドが、本願発明者らが同定した不純物を非常に少量含むことを意味する。これらの不純物は、2個のシステインの2個のチオール基が遊離形態である還元構造、二量体(又は多量体)、及びチオール基がスルホキシド又はスルホンの形態である酸化型を含む。この実際的に純粋な形態の取得は、以下に記述する方法を実行することにより好ましくは行われる。これらの条件下で、得られる生成物の純度は、最低80%のオーダーで得られる。この純度は、85、90、又は95%にさえも達し得る。
【0064】
したがって、別の有利な実施形態によれば、本発明は、以下のアミノ酸配列:
W-S-X1-W-X2-X3-C-S-X4-C-G (配列番号59)
(式中、
X1、X2、及びX3は、互いに独立に、S又はGを表し、
X4は、R-S、又はV-S、又はV-T、又はR-Tを表し、
2個のシステインは、ジスルフィド架橋を形成している)
からなる、上に定義したポリペプチドであって、80%、好ましくは85%、より好ましくは90%より高い純度、さらにより好ましくは95%以上の純度を有する、ポリペプチドに関する。
【0065】
より具体的な実施形態によれば、本発明は、以下のアミノ酸配列:
W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G (配列番号2)
(式中、2個のシステインは、ジスルフィド架橋を形成している)
からなる、上に定義したポリペプチドであって、還元型の又は二量体若しくはオリゴマーの形態のポリペプチド、及びチオール基がスルホキシド又はスルホンの形態である前記ポリペプチドの誘導体を実質的に含まない、ポリペプチドに関する。
【0066】
従来技術の精製方法、例えばクロマトグラフィーによるものを用いて、所望のジスルフィド架橋含有生成物を精製してもよい。
【0067】
例えば、アルブミンの非存在下で、当業者に公知の方法により行われる配列番号2の配列に対応する化合物の合成により、約60の生成物の混合物が生成し、その中に所望の生成物が、HPLCにより決定される44.51%の純度で存在する。0.1% TFA/水/アセトニトリル勾配を用いる複数の連続的なHPLC、その後の同一の画分の混合(プーリング)により、最終純度99%で、配列番号2の配列に対応する化合物を単離することができる。
【0068】
したがって、さらにより特定に実施形態によれば、本発明は、アミノ酸配列:
W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G (配列番号2)
(式中、2個のシステインは、ジスルフィド架橋を形成している)
からなる、上に定義したポリペプチドであって、80%、好ましくは85%、より好ましくは90%より高い純度、さらにより好ましくは95%以上の純度を有する、ポリペプチドに関する。
【0069】
別の形態によれば、本発明は、配列番号59:
W-S-X1-W-X2-X3-C-S-X4-C-G (配列番号59)
(式中、
X1、X2、及びX3は、互いに独立に、S又はGを表し、
X4は、R-S、又はV-S、又はV-T、又はR-Tを表し、
2個のシステインは、ジスルフィド架橋を形成している)
のアミノ酸配列のポリペプチドを得るための方法であって、配列番号70:
W-S-X1-W-X2-X3-C-S-X4-C-G (配列番号70)
(式中、
X1、X2、及びX3は、互いに独立に、S又はGを表し、
X4は、R-S、又はV-S、又はV-T、又はR-Tを表す)
の配列のポリペプチドにおいて、アルブミンの存在下でジスルフィド架橋を形成する工程を含み、配列番号70の配列のポリペプチドは溶液中、好ましくは水性溶液中に存在する、方法に関する。
【0070】
配列番号70のポリペプチド配列は、ジスルフィド架橋を有さない。
【0071】
本発明のこの実施形態において、アミノ酸配列の2個のシステイン間のジスルフィド架橋の形成は、システインの酸化により達成される。
【0072】
上記の配列番号70の配列において、X4は、R-S、又はV-S、又はV-T、又はR-Tを表す。
【0073】
また、本発明の別の好ましい実施形態において、配列番号57(式中、X4は、R-S、又はV-S、又はV-T表す)の配列を有する生成物から、上述の方法を実行することもできる。
【0074】
別の形態によれば、本発明は、配列番号2:
W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G (配列番号2)
(式中、2個のシステインは、ジスルフィド架橋を形成する)
のアミノ酸配列のポリペプチドを得るための方法であって、配列番号58:
W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G (配列番号58)
の配列のポリペプチドにおいて、アルブミンの存在下でジスルフィド架橋を形成する工程を含む、方法に関する。
【0075】
本願の発明者らは、ジスルフィド架橋を形成する進歩的かつ予想外の方法を発見した。この方法は、ペプチドの工業的生産にとって常に好ましい結果である、不純物の形成を低減する又は避ける、また反応速度を加速させるという目的で、アルブミンを酸化触媒として使用することで構成される。
【0076】
反応においてアルブミンが存在することにより、特に、出発産物の酸化を加速させることができる。酸化反応において、制御されていない酸化から望ましくない生成物が生成するのを避けるために、反応を穏やかに加速させることが望ましい場合が多い。実施例部において与えられる結果は、アルブミンの存在下での反応により、(より特定すると配列番号2の配列のポリペプチドの)形成される生成物をより良く制御することができ、したがってより良い純度を得ることができることを示している。
【0077】
より特定すると、本発明は、上に定義した配列番号1の配列のポリペプチド又は配列番号2の配列のポリペプチドを得るための方法であって、アルブミンと、配列番号70の配列のポリペプチド又は配列番号58の配列のポリペプチドとが、1:1~1:100、好ましくは1:1~1:10、より好ましくは1:1のアルブミン:ポリペプチド比で存在することを特徴とする、方法に関する。
【0078】
別の特定の実施形態によれば、本発明は、上で定義した配列番号59の配列のポリペプチド又は配列番号2の配列のポリペプチドを得るための方法であって、配列番号70の配列のポリペプチド又は配列番号58の配列のポリペプチドにおいて、アルブミンの存在下でジスルフィド架橋を形成する工程が、環境大気(ambient air)中で行われることを特徴とする、方法に関する。
【0079】
別の特定の実施形態によれば、本発明は、上で定義した配列番号1の配列のポリペプチドを得るための方法であって、配列番号57の配列のポリペプチドにおいて、アルブミンの存在下でジスルフィド架橋を形成する工程が、環境大気中で行われることを特徴とする、にも関する。
【0080】
有利な実施形態において、本発明は、上で定義した配列番号59の配列のポリペプチド又は配列番号2の配列のポリペプチドを得るための方法であって、配列番号70の配列のポリペプチド又は配列番号58の配列のポリペプチドにおいて、アルブミンの存在下でジスルフィド架橋を形成する工程が、配列番号70の配列のポリペプチド又は配列番号58の配列のポリペプチドを、これらのポリペプチドのペプチド合成に用いられた樹脂から切り離さずに行われること、続いて、配列番号59の配列のポリペプチド及び配列番号2の配列のポリペプチドが、ジスルフィド架橋を形成する工程の後、ポリペプチドを樹脂から分離することにより得られることを特徴とする、方法に関する。
【0081】
また、同一の条件下で、配列番号1の配列のポリペプチドを、配列番号57の配列のポリペプチドから得ることもできる。
【0082】
配列番号58の配列のポリペプチドを調製するための方法は、N-α-Fmocによって保護されたアミノ酸を、ポリペプチドの構築のためのシントンとして用いる固相ペプチド合成に基づく。
【0083】
C-末端部位のグリシル残基が、Fmoc-Gly-MPPA-OHリンカーの一部として、MBHA樹脂とカップリングする。他のアミノ酸残基は、Fmoc基脱保護及びアミノ酸のカップリングの一連のサイクルにおいて組み込まれ、樹脂に保護されたポリペプチドを生成する。ポリペプチドの固相アセンブリの後、樹脂のポリペプチドの切断反応及び前記ポリペプチドの脱保護が、トリフルオロ酢酸(TFA)/水の混合物を用いる工程において同時に行われ、粗(クルードの)ポリペプチドを生成し、これをMTBE/ヘキサン混合物を用いて沈殿し、その後濾過及び乾燥する。
【0084】
精製前に、配列番号58の配列の粗ポリペプチドは、アセトニトリル/水/酢酸 (AcOH)の混合物中に溶解される。精製は、まずトリフルオロ酢酸(TFA)溶離液、次にアセテート溶離液を用いる、予備的な逆相クロマトグラフィーにより行われる。溶液中の得られた(酢酸塩としての)精製ポリペプチドを水で希釈し濃縮する。5%アセトニトリルの添加後、得られた溶液を濾過及び凍結乾燥して、医薬形態の配列番号58の配列のポリペプチドを得る。
【0085】
この方法には複数の利点がある。樹脂に直接行う操作は、より良く制御でき、そのためよりクリーンである。生成する不純物がより少なく、(配列番号70、又は配列番号58、又は配列番号57のポリペプチドの複雑な精製を含む)複数の中間工程が回避される。濃度、溶媒、及びインキュベーション時間に関して最適化された実験条件は、当業者により決定されてもよい。
【0086】
また、本発明は、前述の方法により得られる、配列番号59の配列のポリペプチドにも関する。
【0087】
また、本発明は、前述の方法により得られる、配列番号1の配列のポリペプチドにも関する。
【0088】
また、本発明は、前述の方法により得られる、配列番号2の配列のポリペプチドにも関する。
【0089】
別の態様において、本発明は、前述のポリペプチドを有効成分と、場合により1種以上の医薬的に許容される賦形剤とを含む、医薬組成物に関する。
【0090】
本発明に係るペプチド化合物は、医薬組成物中に用いてもよいし、医薬の製造において用いてもよい。これらの組成物又は医薬において、有効成分は、様々な形態、すなわち、溶液、一般的には水性溶液の形態、又は凍結乾燥形態、又はゲル若しくはヒドロゲルの形態、又はエマルジョンの形態、又は任意の他の医薬的に許容されかつ生理的に許容される形態の組成物に組み込まれてもよい。
【0091】
用いられる用量は、1 μg/kg~1,000 μg/kgの範囲であってよく、使用可能な投与経路は、脊髄内、髄腔内、脳室内、硬膜外、実質内、硝子体内、経蝶形骨洞、又は局所経路から選択されてもよい。
【0092】
また、当業者に公知の他の投与経路を用いてもよく、例えば皮下、静脈内、腔内、又は鼻腔内投与である。これらの投与経路の1以上が用いられる場合、用いられる用量は、1 μg/kg~50 mg/kgの範囲であってよい。
【0093】
これらの医薬又は組成物は、特に、神経変性疾患の治療、及び/又は外傷後の中枢神経系の細胞(脳、脊髄)若しくは中枢神経の再生を目的としたものである。神経系の細胞の再生におけるこれらの使用は、患者への直接投与によって、又は体外のいずれでも達成することができる。これらの医薬又は組成物は、特に、アルツハイマー病、多発性硬化症、パーキンソン病、若しくは任意の他の神経変性病理、又は偶発性若しくは外傷性の型の病理、例えば脊髄の病変、頭部外傷、若しくは脳卒中の治療において使用しても良い。また、これらの医薬又は組成物は、外傷性、偶発性、又は変性性のいずれかの起源の、聴覚神経、視神経、嗅神経、又は任意の脳神経若しくは末梢神経の病変の治療においても使用してもよい。
【0094】
別の形態によれば、本発明は、中枢神経系の再生が求められる神経変性病理又は外傷の治療における使用のための、上述したもの等のポリペプチドに関する。本発明に係るポリペプチドは、末梢神経系の病変の治療のために用いることができ、病変は外傷性であってもそうでなくてもよい。
【0095】
別の有利な実施形態によれば、本発明は、偶発性、外傷性、又は変性性の型の病理、特にアルツハイマー病、多発性硬化症、パーキンソン病、脳卒中、脊髄損傷、頭部外傷、又は視神経、嗅神経、聴覚神経、若しくは任意の脳神経若しくは末梢神経への損傷の治療におけるその使用のための、前述のポリペプチドに関する。
【実施例】
【0096】
実施例1:2個のシステインがジスルフィド架橋により連結している、配列W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-Gのポリペプチド(配列番号2)の合成方法
【0097】
1) ヒトアルブミンの存在下での、W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G (配列番号58)の配列のポリペプチドの酸化
この合成を行うために、発明者らは、W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G (配列番号58)の配列のポリペプチドに異なる量のアルブミンを加え、配列番号58の配列のポリペプチド:ヒトアルブミン(HSA)の比が、1:100、1:10、及び1:1のオーダーになるようにした。
【0098】
1:1比のHSAの存在下に置かれ、1~3時間、室温で、空気中で攪拌しながらインキュベートされた、W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G (配列番号58)の配列のポリペプチドから開始して、発明者らは、HPLCにより、2個のシステインがジスルフィド架橋により連結されたW-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-Gの配列のポリペプチド(配列番号2)に対応するピークの生成を観察した。沈殿によりアルブミンを除去した後、生成物を精製しHPLCにより分析した。異なる比率のアルブミン及び配列番号58に対応するポリペプチドの使用により、環化率及び環化の最終収率に影響を与えることができるが、一方でより少ない量のアルブミンの方が除去しやすいことがわかっている。
【0099】
2) 線形ポリペプチド(配列番号58の配列のポリペプチド)の分離及び事前の精製を回避しつつ配列番号2の配列に対応するポリペプチドを調製するための別法
W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G (配列番号58)の配列のポリペプチドは、樹脂上で、国際特許出願WO 1999/03890において説明された従来の方法と類似しているが、樹脂からの切断及び取り外しを行わない方法で、合成される。これにより、時間及び金額の面で高く、酸化して配列番号2の配列に対応する所望の生成物にするために溶液に戻す前の、ポリペプチドを単離する工程その後精製する工程である、2つの工程を回避することができる。アルブミンの存在下での酸化は、樹脂に連結したW-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G (配列番号58)の配列のポリペプチドを用いて直接行われる。精製は、上の実施例において説明したものと類似しているが、アルブミン分離工程は、ポリペプチドがまだ樹脂に付着している間に単純な洗浄によって行われるため、より簡便である。ひとたびアルブミンが除去されると、従来の方法により、ポリペプチドを樹脂から切り離すことができる。
【0100】
実施例2:アルブミンの、W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G (配列番号58)の配列のポリペプチドの環化、すなわち、2個のシステインがジスルフィド架橋により連結されたW-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-Gの配列のポリペプチド(配列番号2)への変換に対する効果
【0101】
発明者らは、ヒトアルブミン(HSA)の非存在下及び存在下でのW-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G (配列番号58)の配列のポリペプチドの挙動、及び結果として生じる、2個のシステインがジスルフィド架橋により連結されたポリペプチド配列W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G(配列番号2)の形成を調査した。
【0102】
方法は、以下のとおりである:
【0103】
W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G (配列番号58)の配列のポリペプチドを50 μg/mlで含有する溶液を、PBS、2.5 mg/mlのHSAの存在下又は非存在下の5%グルコース中に調製した。
【0104】
W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G (配列番号58)の配列のポリペプチド:HSAの比は、1:1のオーダー、したがって等モル濃度である。
【0105】
溶液を混合して、HSAピーク、W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G (配列番号58)の配列のポリペプチド、及び両方のシステインがジスルフィド架橋を形成しているW-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-Gの配列のポリペプチド(配列番号2)を分離することができる、Phenomenex Jupiter 300 Åカラム及び0.1%トリフルオロ酢酸を含むHPLC水及び0.1%トリフルオロ酢酸を含むアセトニトリルからなる溶出溶媒を使用する方法を用いて、逆相HPLCにより直接注入した。
【0106】
この操作を、T=0分及びT=60分で繰り返した。
【0107】
クロマトグラフィーのプロファイルにより、以下の観察をすることができた:
- 60分において、アルブミン(HSA)の非存在下、したがって空気酸化では、2個のシステインがジスルフィド架橋を形成しているW-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-Gの配列のポリペプチド(配列番号2)のピークは、配列番号58のポリペプチド配列の元のピークと比較して、9.1%増加した。
- 同一の条件だが、アルブミンの存在下では、T = 60分で、2個のシステインがジスルフィド架橋を形成しているW-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-Gの配列のポリペプチド(配列番号2)のピークは、配列番号58のポリペプチド配列の開始時のピークと比較して、38%増加した。
この結果は、両方のシステインがジスルフィド架橋を形成しているW-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-Gのポリペプチド配列(配列番号2)の形成をもたらす、配列番号58の配列のポリペプチドの環化における、アルブミンの加速効果を示している。
- アルブミンの非存在下で、60分において、配列番号58の配列のポリペプチドのピークの25%が、2個のシステインがスルフィド架橋を形成しているW-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-Gの配列のポリペプチド(配列番号2)に変換される。
- アルブミンの存在下、かつ同一の条件下、60分では、配列番号58の配列のポリペプチドの54%が、2個のシステインがジスルフィド架橋を形成しているW-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-Gの配列のポリペプチド(配列番号2)に変換される。
この結果は、アルブミンの存在下では、空気酸化と比較してより多い量の、配列番号2に対応する生成物が形成されることを示し、これは、アルブミンを支持するより高い特異性及び純度に相当する。
【0108】
考察:
この実施例に記述される2つの実験は、両方のシステインがジスルフィド架橋を形成しているW-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-Gの配列のポリペプチド(配列番号2)の、W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G (配列番号58)の配列のポリペプチドからの生成における、空気酸化と比較したアルブミンの重要な役割を実証する。反応は、実際、空気中のペプチド/アルブミン比に応じて、少なくとも2倍速く、好ましくは5倍速く、より好ましくは10倍速い。上に示した実施例において、アルブミン無しでの9.1%の形成に対して、アルブミン有りでの38%が観察され、したがって、反応は、ここでは約4倍速く、また、より良い特異性で行われ(アルブミン有りで54%と比較してアルブミン無しで25%)、これはより高い純度に対応する。実際、60分において、アルブミンの非存在下でのW-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G (配列番号58)の配列のポリペプチドの25%の変換は、75%の不純物が形成される可能性に相当し、アルブミンの存在下では、W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G (配列番号58)の配列のポリペプチドの54%の変換は、わずか46%の不純物の形成に相当する。
【0109】
実施例3:W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G (配列番号58)の配列のポリペプチドのアルブミンの対する比の、W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G (配列番号58)の配列のポリペプチドの、2個のシステインがジスルフィド架橋を形成しているW-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-Gの配列のポリペプチド(配列番号2)への環化の効率に対する効果
【0110】
実施例2は、どのようにして、等モル濃度の比(同一のモル比)のアルブミン及びポリペプチドによって、配列番号58の配列のポリペプチドから、より多い量の配列番号2の配列のポリペプチドを、優れた純度で得ることができたかを示した。以下の実施例は、異なる比のアルブミンとポリペプチドとが、ジスルフィド結合形成の速度、及び配列番号2の配列のポリペプチドの純度にどのように影響するかを記述する。
【0111】
3つの量のW-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G (配列番号58)の配列のポリペプチドを、およそ1時間、37℃で、一定の生理的量のアルブミンが存在する同体積のラット脳脊髄液中でインキュベートし、2個のシステインがジスルフィド架橋を形成しているW-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-Gの配列の環状ポリペプチド(配列番号2)の形成の速度をHPLCにより観察する。本試験は、ポリペプチド:アルブミン比の、Tmaxにより測定される線形の配列番号58の配列のポリペプチドの環化速度に対する影響の実証を図る。
【0112】
両方のシステインがジスルフィドを形成しているW-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-Gの配列の環状ポリペプチド(配列番号2)の最大量が形成さるときの時間に相当するTmaxを、表1に示す。
【0113】
加えた配列番号58の配列のポリペプチドの様々な用量に対応する比を、表1に示す。
【0114】
【0115】
結論:環化の加速におけるアルブミンの関与を実証する表1に示した比によって例示される、アルブミンの触媒作用が観察される。実際、ポリペプチドの存在下に置いたアルブミンの量のごくわずかな差(20:1及び200:1により代表される)により、環化を加速し、結果としてTmaxを120分から30分へ低減させることができる。
【0116】
結論として、W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G (配列番号58)の配列のポリペプチドの、アルブミンに対する比と、環化の速度には相関がある。実際、ポリペプチド:アルブミンの比が小さければ小さいほど、反応が速い。換言すれば、ポリペプチドのアルブミンに対する比が1:1に近づけば近づくほど、反応が速い。最後に、少量のアルブミンは、環化反応及びジスルフィド形成を加速するのに十分である(触媒作用)。
【0117】
あるいは、アルブミンの存在下での環化及びジスルフィドの生成は、空気の完全な非存在下で、又は非常に少量の空気、したがって酸素の存在下で達成されてもよく、それにより、制御されていない酸化反応由来の汚染生成物の形成を回避することができる可能性がある。
【0118】
実施例4:水性NaCl溶液中での、2個のシステインがジスルフィド架橋を形成しているW-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-Gの配列の環状ポリペプチド(配列番号2)の溶解度の試験
【0119】
ポリペプチド
W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G (配列番号58)
及びポリペプチド:
【0120】
【0121】
に関して、0.5 mgを量り取ったもの2つを、1.5 mlのマイクロチューブにした。
【0122】
29.4 mg/mlのペプチド溶液を生成するために、17マイクロリットルの予め調製した0.9% NaCl溶液を各チューブに加えた。その後、チューブを2、3秒間ボルテックスし、そのようにして得られた各ポリペプチド溶液の1滴を、光学顕微鏡下での観察のために、スライドガラス上に置いた。これらの条件下では、配列番号2の配列のポリペプチドのみが可溶性であるようであり、目に見える粒子又は塊が一切ない(
図1)。配列番号58の配列のポリペプチドには、多数の粒子がある。
【0123】
水性0.9% NaCl溶液中の配列番号58の配列のポリペプチドの溶解度の限度は、顕微鏡下で、目視試験により、約2 mg/mlと決定される。
【0124】
0.9% NaCl中の配列番号2の配列のポリペプチドの溶解度は、目視試験により、29 mg/mlより多いと推測される。
【0125】
したがって、0.9% NaCl溶液における配列番号2の配列のポリペプチドの溶解度の限度は、同じ溶液中の配列番号58のポリペプチド配列のそれよりも、少なくとも15倍高い。
【0126】
実施例5:酵素の存在下での、2個のシステインがジスルフィド架橋により結合されているW-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G (配列番号2)のポリペプチドの、W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C (配列番号58)と比較したより高い安定性
【0127】
酵素分解(消化)を、精製した状態の、線状形態(配列番号58)又は環状形態(配列番号2)のいずれかの、目的のポリペプチドと共にインキュベートした、ネプリライシンを用いて行った。時間のパラメーター(t=0及びt=30分)を、水に10倍に希釈した酵素を用いて調査した。酵素を含まず、並行して反応させたいわゆる「対照」サンプルを行って、調査した各パラメーターについて分析参照を確立した。
【0128】
両方の形態の経時的な安定性を維持するために、ポリペプチドを脱酸素水で希釈する。分解を、LC/MS/MSマススペクトロメトリー技術により分析した。
【0129】
結果(曲線下面積及び分解のパーセンテージ)を、表2に示す。分解のパーセンテージは、所与のポリペプチドに関して、同じポリペプチドについての対照の曲線下面積に対する、酵素の存在下の曲線下面積に相当する。
【0130】
【0131】
結論:t=0では、2つのポリペプチドは、ネプリライシンの存在下で安定であるようである。t=30分では、環状ペプチド(配列番号2)は、線形ポリペプチド(配列番号58)よりも安定である(8.5%に対して28%分解)。
【0132】
実施例6:配座の違いを示す配列番号2及び配列番号58のポリペプチドに相当する2つのピークの分離
【0133】
ヒトアルブミンの存在下での配列番号58のポリペプチドからの配列番号2の配列のポリペプチドの合成を行う。存在する化合物の2つのHPLC分析を、合成反応中に行う:第一のものをT=0分で、第二のものをT=60分で。得られたクロマトグラムを、重ね合わせて
図2に示す。
【0134】
化合物の分離に用いた分析条件は、以下のとおりである:
・カラム: XBridge(登録商標) C18, 2.1 x 100 mm, 3.5 μm
・移動相: A:アセトニトリル、0.1% TFA(トリフルオロ酢酸)含有
B: 0.1% TFA含有蒸留水
・溶出速度: 0.500 mL /分
【0135】
【0136】
図2は、配列番号2(環状)及び配列番号58(線状、非環状)のポリペプチドに対応するピークが、容易に分離できることを示す。
【0137】
実施例7:インビトロ薬理学
【0138】
B104株の神経芽腫細胞を、75 cm2のフラスコにおいて、37℃、5%のCO2で、2 mMグルタミン、50 U/mlのペニシリンG、50 μg/mlストレプトマイシン硫酸塩、及び10%ウシ胎児血清(FBS)を補ったダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で培養する。細胞を、ポリ-D-リジン基質をコーティングした48ウェルプレートに、10 μg/mlで播種し、最終細胞密度5000 細胞/ウェルを得る。接種の4時間後、培養培地を、200 μl/ウェルの割合で、配列番号2の配列の環状ポリペプチドを1000、500、375、又は150 μg/mlの濃度で含むか又は含まない、FBSを含まない培地に置き換える。培養培地は、実験の全継続時間中、これ以上変更しない。その後、血清が存在しないことにより、B104の分化の開始が誘導され、重要な神経伸長が、多かれ少なかれ出現する。
【0139】
培養に対する配列番号2の配列の環状ポリペプチドの効果を定量するため、細胞を、培養の1、2、及び3日後に、位相差顕微鏡下で、格子付き(1x1 cm、10x10の正方形に分割)のレンズ、x 400の倍率、を用いて、無作為に選択した領域において観察する。各ウェルを、各実験に関して3重で計数し、ウェルあたり3領域を調べる。分析したパラメーターは、細胞数、細胞あたりの神経突起の数(少なくとも細胞の直径と同じ大きさの細胞の伸長)、及び最も長い10個の神経突起の平均長である。
【0140】
・これらの条件下で、配列番号2の配列の環状ペプチドが、B104細胞の数に影響を及ぼすことが観察される:
標準的な条件下で、すなわち配列番号2の配列のポリペプチドの非存在下で、B104細胞の増殖は、48時間増加し、その後、血清が存在しないこと及び培養培地の欠乏により、細胞数は減少し始める。しかしながら、配列番号2の配列の環状ポリペプチドの存在下では、細胞数は、24時間の時点で、対照の条件と比べて5倍多く増加する。
B104細胞の増殖の例を、
図2、3、4、及び5に示す。
【0141】
・配列番号2の配列の環状ポリペプチドは、B104細胞の形態に影響を及ぼす:
B104細胞は、血清の存在下で培養される場合は線維芽細胞の形態を有するが、一方で、血清の非存在下で培養されると神経分化を行う。24時間時点で、無血清培養において、分化因子の存在・不存在に関わらず、B104細胞は、単極又は双極伸長、及び発芽(細胞本体の直径よりも小さい伸長)、及び神経突起 (細胞本体の直径と少なくとも同じ大きさの細胞伸長)、すなわち、これらの条件に典型的な形態を示す(Schubert D et al., Nature 249 (454), 224-227 1974)。
【0142】
配列番号2の配列の環状ポリペプチドは、その濃度に関わらず、発芽の数に対して効果を有さない。しかしながら、配列番号2の配列の環状ポリペプチドが存在することにより、細胞あたりの神経突起の数(
図6)及びその長さ(
図7)が増加する。
【0143】
培養の3日後、処理したB104は、有意な神経伸長を生じており、培養時間が増えるにつれて成長していた。この神経突起の長さに対する効果は、用量依存的であるようである。
【0144】
実施例8:インビボ薬理学-延髄病変のモデルでの評価
【0145】
挫傷モデルは、ヒトにおいて観察される脊髄損傷を模倣するものとして認識され、用いられている(Young W., Prog Brain Res., 137, 231-55, 2002)。
【0146】
このモデルは、機能的回復に対する有効成分の有効性を評価するために用いられる。実験を、およそ250 gの成体メスSprague-Dawleyラットに対して行った。外科的処置を、5%イソフルランでの全身麻酔下(70% N2O及び30% O2中、流速300 ml/min)で行う。
【0147】
胸椎T9及びT10での椎弓切除の後、電磁気装置を用いて脊髄損傷を得て(PinPointシステム、Hatteras Inc.、米国)、較正された挫傷(深さ2 mm、衝撃部材(インパクター)の直径、2 mm、1.5 m/sの速度で85 ms動かす)を得る(Bilgen M. Neurorehab et al., 19(3), 2005による)。
【0148】
外傷後15分以内に、7 μg/mlの濃度の3 μlの配列番号2の配列の環状ポリペプチド又はビヒクルを、Hamiltonシリンジ(10 pi、モデル1701)及び脊髄内への注入を可能にするマイクロ注入システム(Harvard Apparatus)を用いて注入する。注入後、針をその場で5分放置する。針が抜かれるとすぐに、細胞接着を注入部位に適用して硬膜を塞ぎ、体液が漏れないようにする。縫合後、ラットを、22℃±1℃の温度で、照明を制御し(12時間/日)、水及び食餌を自由に摂取できる標準的なケージに個別に収容する。2回目の接種を、2日後に行う。行動試験を、盲検法で個別に観察される各動物について行う。
【0149】
運動能力(locomotor performance)は、Basso, Beattie, Bresnahan (BBB)スケール(Bassa DM et al., J. Neurotrauma, 12, 1-21, 1995, Basso DM et al., Exp Neurol, 139, 244-256, 1996)を用いて試験する。
【0150】
各動物を、外傷の前、及びその後は週1回、評価する。同時に、各動物を、外傷の前、及びその後は週1回、体重測定する。
【0151】
運動の評価スケールにおいて:BBBスコア、すなわち統計データは、平均±SEMにより表される。
【0152】
BBBスコアは、0 (後肢の動きなし)から、21 (調和のとれた正常な歩行及び平行な肢の配置)までの範囲である。0~7のスコアは、3つの後肢(足首、膝、臀部)の単独の動きの復帰を示し、8~13は、後肢の配置の復帰及び前足との調和の復帰を示し、14~21は、つま先の間隔、肢及び尾の位置、並びに胴体の安定性の復帰を示す。
【0153】
BBBスコアの評価を、損傷前、その後は処置後1、7、14、21、及び28日目に、2人の独立した観察者により行う(
図8、9、10)。
【0154】
つま先の間隔(
図11)及び後肢の配置(
図12及び13)の反射活動を、処置後1、7、14、21、及び28日目に解析する。考慮されるスコアは: 0 = 反射活動無し、1 = 正常よりかなり弱い、2 = 正常よりわずかに弱い、3 = 正常、である。
【0155】
また、膀胱活動の復帰の日も、測定されたパラメーターである(
図14)。
【配列表】