(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-23
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】グラフェン強化無機マトリックス複合物のケミカルフリー製造
(51)【国際特許分類】
C01B 32/184 20170101AFI20220203BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20220203BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20220203BHJP
C01B 32/194 20170101ALI20220203BHJP
【FI】
C01B32/184
C08L101/00
C08K3/04
C01B32/194
(21)【出願番号】P 2018541115
(86)(22)【出願日】2017-01-19
(86)【国際出願番号】 US2017014100
(87)【国際公開番号】W WO2017139078
(87)【国際公開日】2017-08-17
【審査請求日】2019-11-21
(32)【優先日】2016-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518190776
【氏名又は名称】ナノテク インストゥルメンツ,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Nanotek Instruments,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ツァーム,アルナ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ボア ゼット.
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-526264(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104711443(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103773980(CN,A)
【文献】特開2004-053301(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102351174(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102225759(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103773086(CN,A)
【文献】特表2012-518595(JP,A)
【文献】特開昭64-072940(JP,A)
【文献】国際公開第2015/073674(WO,A1)
【文献】HE Ting et al.,MATERIALS TRANSACTIONS,2009年,Vol.50,No.4,P.749-751
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
C08L 101/00
C08K 3/04
B82Y 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛材料からグラフェン強化無機マトリックス複合物を直接製造する方法
であって、当該方法が:
a)エネルギー衝突装置の衝突チャンバー中で黒鉛材料の複数の粒子と、固体無機材料の複数の粒子とを混合して、混合物を形成するステップであって、前記黒鉛材料が、インターカレーション、酸化、および剥離が行われておらず、あらかじめ製造された単離グラフェンシートを含ま
ず、前記衝突チャンバー中に衝突ボールが存在しないステップと;
b)
前記エネルギー衝突装置を運転
して、前記黒鉛材料からグラフェンシートを前記固体無機材料粒子の表面に移動させるステップであって、それによって前記衝突チャンバーの内部でグラフェン被覆無機粒子を形成するステップと;
c)
前記グラフェン被覆無機粒子を溶融させてグラフェンシートが中に分散した溶融混合物を形成し、前記溶融混合物から所望の形状を形成するか、前記グラフェン被覆無機粒子を焼結させて所望の形状にするステップであって、それによって前記グラフェン被覆無機粒子から前記グラフェン強化無機マトリックス複合物を形成するステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
黒鉛材料からグラフェン強化無機マトリックス複合物を直接製造する方法であって、当該方法が:
a)エネルギー衝突装置の衝突チャンバー中で黒鉛材料の複数の粒子と、固体無機材料の複数の粒子とを混合して、混合物を形成するステップであって、前記黒鉛材料が、インターカレーション、酸化、および剥離が行われておらず、あらかじめ製造された単離グラフェンシートを含まないステップと;
b)前記エネルギー衝突装置を運転して、前記黒鉛材料からグラフェンシートを前記固体無機材料粒子の表面に移動させ、それによって前記衝突チャンバーの内部でグラフェン被覆無機粒子を形成するステップと;
c)前記グラフェン被覆無機粒子を溶融させてグラフェンシートが中に分散した溶融混合物を形成し、前記溶融混合物から所望の形状を形成するか、前記グラフェン被覆無機粒子を焼結させて所望の形状にするステップであって、それによって前記グラフェン被覆無機粒子から前記グラフェン強化無機マトリックス複合物を形成するステップと
を含み、
前記エネルギー衝突装置の前記衝突チャンバーに
複数の衝突ボールまたは媒体が加えられ
、前記衝突チャンバーが不活性ガスを含む
ことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において
、ステップ
c)の前に、前記衝突ボールまたは媒体を前記グラフェン被覆無機粒子から分離するために磁石が使用されることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、前記衝突チャンバーが内部に保護流体をさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法において、前記固体無機材料が、鉄、銅、アルミニウム、鉛、スズ、亜鉛、インジウム、イリジウム、バナジウム、マンガン、ニッケル、ジルコニア、テクネチウム、銀、ケイ素、カドミウム、金、白金、ニオブ、モリブデン、クロム、マンガン、コバルト、アルミナ、ジルコニア、二酸化チタン、窒化ホウ素、ソーダ石灰ガラス、鉛含有ガラス、アルミノケイ酸塩含有ガラス、亜テルル酸塩含有ガラス、アンチモン含有ガラス、ヒ酸塩含有ガラス、チタン酸塩含有ガラス、タンタライト含有ガラス、ホウケイ酸塩系ガラス、シリカ、高シリカ含有量ガラス、非晶質二酸化ケイ素、石英、溶融石英、アルミナ、ベリリア、セリア、炭化物、ホウ化物、窒化物、ケイ化物、
炭化ケイ素、ダイヤモンド、それらの合金、またはそれらの組合せから選択されることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法において、前記固体無機材料が、チタン酸ジルコニウムバリウム、チタン酸ストロンチウム(ST)、チタン酸カルシウム(CT)、チタン酸マグネシウム(MT)、チタン酸マグネシウムカルシウム(CMT)、チタン酸亜鉛(ZT)、チタン酸ランタン(TLT)、およびチタン酸ネオジム(TNT)、ジルコニウム酸バリウム(BZ)、ジルコニウム酸カルシウム(CZ)、ニオブ酸鉛マグネシウム(PMN)、ニオブ酸亜鉛鉛(PZN)、ニオブ酸リチウム(LN)、スズ酸バリウム(BS)、スズ酸カルシウム(CS)、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、ケイ酸マグネシウム、タンタル酸バリウム、二酸化チタン、酸化ニオブ、ジルコニア、シリカ、サファイア、酸化ベリリウム、およびチタン酸ジルコニウムスズ、インジウムスズ酸化物(ITO)、ランタンドープチタン酸ストロンチウム(SLT)、イットリウムドープチタン酸ストロンチウム(SYT)、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、ガドリニウムドープセリア(GDC)、
没食子酸ランタンストロンチウムマグネサイト(LSGM)、βアルミナ、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸バリウム(BT)、チタン酸ストロンチウム(ST)、石英、フェライト、炭酸ストロンチウム、ランタンストロンチウムマンガナイト、およびそれらの組合せから選択されることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法において、前記固体無機材料粒子が、10nm~10mmの直径または厚さを有する粉末、フレーク、ビーズ、ペレット、球、ワイヤ、繊維、フィラメント、ディスク、リボン、またはロッドを含むことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法において、前記直径または厚さが1μm~100μmであることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法において、前記固体無
機材料が、溶融温度よりも高温で溶融可能なミクロンまたはナノメートルスケールの粒子を含
むことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法において、前記黒鉛材料が、天然黒鉛、合成黒鉛、高配向熱分解黒鉛、黒鉛繊維、黒鉛ナノファイバー、フッ化黒鉛、化学修飾黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、部分結晶性黒鉛、またはそれらの組合せから選択されることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法において、前記エネルギー衝突装置が、振動ボールミル、遊星ボールミル、高エネルギーミル、バスケットミル、アジテーターボールミル、極低温ボールミル、マイクロボールミル、タンブラーボールミル、連続ボールミル、撹拌ボールミル、加圧ボールミル、プラズマ支援ボールミル、フリーザーミル、振動ふるい、ビーズミル、ナノビーズミル、超音波ホモジナイザーミル、遠心分離遊星ミキサー、真空ボールミル、または共鳴音響ミキサーであることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法において
、ステップ
c)が
、前記形状を前記グラフェン強化無機マトリックス複合物に
おいて固化させるステッ
プを含むことを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1に記載の方法において
、ステップ
c)が
、前記混合物を押出成形してロッド形態もしくはシート形態にするステップ、前記混合物を紡糸して繊維形態にするステップ、前記混合物を噴霧して粉末形態にするステップ、または前記混合物をキャスティングしてインゴット形態にするステッ
プを含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法において
、ステップ
c)が、前記グラフェン被覆無機粒子
を、焼結デバイス
として選択的レーザー焼結装置
を用いて焼結させるステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項1に記載の方法において、前記グラフェンシートが、純粋なグラフェン、5重量%未満の酸素含有量を有する酸化グラフェン、フッ化グラフェン、5重量%未満のフッ素を有するフッ化グラフェン、95重量%以上の炭素含有量を有するグラフェン、または化学修飾グラフェンを含むことを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項1に記載の方法において、前記グラフェンシートが単層グラフェンシートを含有することを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項1に記載の方法において、前記グラフェンシートが、少なくとも80%単層グラフェン、または10
個以下のグラフェン面を有する少なくとも80%の数層グラフェンを含有することを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項1に記載の方法において、前記衝突チャンバーが、炭素繊維、セラミック繊維、ガラス繊維、カーボンナノチューブ、炭素ナノファイバー、金属ナノワイヤ、金属粒子、セラミック粒子、ガラス粉末、炭素粒子、黒鉛粒子、有機粒子、またはそれらの組合せから選択される改質用フィラーをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項1に記載の方法において、前記エネルギー衝突装置を操作する手順が、連続エネルギー衝突デバイスを用いて連続的な方法で行われることを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項1に記載の方法において、前記衝突チャンバーが官能化剤をさらに含み
、ステップ
b)が、前記グラフェンシートを前記官能化剤で化学官能化する役割を果たすことを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項20に記載の方法において、前記官能化剤が、アルキルもしくはアリールシラン、アルキルもしくはアラルキル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミン基、スルホネート基(-SO
3H)、アルデヒド基、キノイダル、フルオロカーボン、またはそれらの組合せから選択される化学官能基を含むことを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項20に記載の方法において、前記官能化剤が、ヒドロキシル、ペルオキシド、エーテル、ケト、およびアルデヒドからなる群から選択される酸素化基を含むことを特徴とする方法。
【請求項23】
請求項20に記載の方法において、前記官能化剤が、SO
3H、COOH、NH
2、OH、R’CHOH、CHO、CN、COCl、ハライド、COSH、SH、COOR’、SR’、SiR’
3、Si(-OR’-)
yR’
3-y、Si(-O-SiR’
2-)OR’、R”、Li、AlR’
2、Hg-X、TlZ
2、およびMg-X(式中、yは3以下の整数であり、R’は、水素、アルキル、アリール、シクロアルキル、またはアラルキル、シクロアリール、またはポリ(アルキルエーテル)であり、R”は、フルオロアルキル、フルオロアリール、フルオロシクロアルキル、フルオロアラルキル、またはシクロアリールであり、Xはハライドであり、Zは、カルボキシレートまたはトリフルオロアセテートである)、およびそれらの組合せからなる群から選択される官能基を含むことを特徴とする方法。
【請求項24】
請求項20に記載の方法において、前記官能化剤が、アミドアミン、ポリアミド、脂肪族アミン、変性脂肪族アミン、脂環式アミン、芳香族アミン、無水物、ケチミン、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、ポリエチレンポリアミン、ポリアミンエポキシ付加体、フェノール系硬化剤、非臭素化硬化剤、非アミン硬化剤、およびそれらの組合せからなる群から選択される官能基を含むことを特徴とする方法。
【請求項25】
請求項20に記載の方法において、前記官能化剤が、OY、NHY、O=C-OY、P=C-NR’Y、O=C-SY、O=C-Y、-CR’1-OY、N’Y、またはC’Yから選択される官能基を含み、Yが、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、酵素、抗体、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、抗原、もしくは酵素基質、酵素阻害剤、もしくは酵素基質の遷移状態アナログの官能基である、またはR’-OH、R’-NR’
2、R’SH、R’CHO、R’CN、R’X、R’N
+(R’)
3X
-、R’SiR’
3、R’Si(-OR’-)
yR’
3-y、R’Si(-O-SiR’
2-)OR’、R’-R”、R’-N-CO、(C
2H
4O-)
wH、(-C
3H
6O-)
wH、(-C
2H
4O)
w-R’、(C
3H
6O)
w-R’、R’から選択され、wは1を超え200未満の整数であることを特徴とする方法。
【請求項26】
請求項20に記載の方法において、前記エネルギー衝突装置を運転する前記ステップが、連続エネルギー衝突装置を用いて連続方法で行われることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に援用される2016年2月9日に出願された米国特許出願第14/998729号明細書の優先権を主張する。
【0002】
本発明は、グラフェン材料の製造方法に関し、特に、環境に優しく費用対効果の高い、グラフェン強化無機マトリックス複合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
単層グラフェンシートは、2次元の六角形格子を占める炭素原子から構成される。多層グラフェンは、2つ以上のグラフェン面から構成されるプレートレットである。個別の単層グラフェンシートおよび多層グラフェンプレートレットは、本明細書では一括してナノグラフェンプレートレット(NGP)またはグラフェン材料と記載される。NGPとしては、純粋なグラフェン(実質的に99%炭素原子)、わずかに酸化されたグラフェン(<5重量%の酸素)、酸化グラフェン(≧5重量%の酸素)、わずかにフッ素化されたグラフェン(<5重量%のフッ素)、フッ化グラフェン(≧5重量%のフッ素)、他のハロゲン化グラフェン、水素化グラフェン、および化学官能化グラフェンが挙げられる。
【0004】
NGPは、一連の独特の物理的、化学的、および機械的性質を有することが分かっている。たとえば、グラフェンは、あらゆる既存の材料の中で最も高い固有強度および最も高い熱伝導率を示すことが分かった。グラフェンの実際の電子デバイス用途(たとえば、トランジスタ中の主要要素としてのSiの代替)は、今後5~10年の間に実現するとは考えられていないが、複合材料中、およびエネルギー貯蔵装置の電極材料中のナノフィラーとしてのその用途は目前に迫っている。加工可能グラフェンシートを大量に利用できることが、グラフェンの複合物用途、エネルギー用途、および別の用途の開発に成功するために重要である。
【0005】
本発明者らの研究グループは、グラフェンを最初に発見した[B.Z.Jang and W.C.Huang,“Nano-scaled Graphene Plates”、2002年10月21日に提出された米国特許出願第10/274,473号明細書;現在は米国特許第7,071,258号明細書(07/04/2006)]。NGPおよびNGPナノ複合物の製造方法は本発明者らによって最近レビューされている[Bor Z.Jang and A Zhamu,“Processing of Nano Graphene Platelets (NGPs) and NGP Nanocomposites:A Review,”J.Materials Sci.43(2008)5092-5101]。本発明者らの研究によって、以下に概略を示すナノグラフェンプレートレットの確立された製造方法には従わないという点で新規である、単離ナノグラフェンプレートレットのケミカルフリー製造方法が得られた。さらに、この方法は、費用対効果が高く、大幅に少ない環境影響で新規グラフェン材料が得られるという点で有用性が高い。NGPを製造するために4つの主要な従来技術の方法が採用されてきた。これらの利点および欠点を以下に簡潔にまとめている。
【0006】
単離されたグラフェンシートの製造
方法1:酸化黒鉛(GO)プレートレットの化学的形成および還元
第1の方法(
図1)は、黒鉛インターカレーション化合物(GIC)、または実際には酸化黒鉛(GO)を得るために、インターカラントおよび酸化剤(たとえば、それぞれ濃硫酸および硝酸)を用いた天然黒鉛粉末の処理を伴う[William S.Hummers,Jr.,et al.,Preparation of Graphitic Oxide,Journal of the American Chemical Society,1958,p.1339]。インターカレーションまたは酸化の前、黒鉛は約0.335nmのグラフェン面間隔を有する(L
d=1/2 d
002=0.335nm)。インターカレーションおよび酸化処理を行うと、グラフェン間隔は、典型的には0.6nmを超える値まで増加する。これは、この化学的経路中に黒鉛材料に生じる第1の膨張段階である。得られたGICまたはGOは、次に、熱衝撃曝露、または溶液系の超音波支援グラフェン層剥離方法のいずれかを用いることでさらに膨張する(多くの場合で剥離と呼ばれる)。
【0007】
熱衝撃曝露方法では、典型的には依然として互いに相互接続する黒鉛フレークから構成される「黒鉛ワーム」の形態である剥離またはさらに膨張した黒鉛を形成するために、GICまたはGOを高温(典型的には800~1,050℃)に短時間(典型的には15~60秒)曝露して、GICまたはGOを剥離または膨張させる。この熱衝撃手順によって、一部分離した黒鉛フレークまたはグラフェンシートを製造することができるが、通常は、黒鉛フレークの大部分は相互接続されたままである。典型的には、次に、剥離した黒鉛または黒鉛ワームに対して、エアミル粉砕、機械的剪断、または水中の超音波処理を用いたフレーク分離処理が行われる。したがって、方法1は、基本的に、第1の膨張(酸化またはインターカレーション)と、さらなる膨張(または「剥離」)と、分離との3つの異なる手順を伴う。
【0008】
溶液系分離方法では、膨張または剥離したGO粉末を水中または水性アルコール溶液中に分散させ、これに対して超音波処理を行う。これらの方法において、超音波処理は、黒鉛のインターカレーションおよび酸化の後(すなわち第1の膨張の後)、ならびに典型的には得られたGICまたはGOの熱衝撃曝露の後(第2の膨張の後)に使用することに留意することが重要である。あるいは、面間空間内に存在するイオン間の反発力がグラフェン間ファンデルワールス力に打ち勝って、結果としてグラフェン層が分離するように、水中に分散させたGO粉末のイオン交換または長時間の精製手順が行われる。
【0009】
この従来の化学的製造方法に関連したいくつかの大きな問題が存在する:
(1)この方法は、硫酸、硝酸、および過マンガン酸カリウムもしくは塩素酸ナトリウムなどのいくつかの望ましくない化学物質を多量に使用する必要がある。
(2)化学処理方法は、典型的には5時間から5日間の長いインターカレーションおよび酸化の時間を必要とする。
(3)強酸によって、「黒鉛中に入り込むこと」によるこの長いインターカレーションまたは酸化プロセス中に、多量の黒鉛が消費される(黒鉛が二酸化炭素に変換され、これがプロセス中に失われる)。強酸および酸化剤中に浸漬した黒鉛材料の20~50重量%が失われることは珍しくない。
(4)熱剥離は、高温(典型的には800~1,200℃)を必要とし、したがって、非常にエネルギーを消費するプロセスである。
(5)熱で誘発される剥離方法および溶液で誘発される剥離方法の両方は、非常に時間のかかる洗浄および精製のステップを必要とする。たとえば、洗浄して1グラムのGICを回収するために典型的には2.5kgの水が使用され、適切な処理が必要となる多量の廃水が生じる。
(6)熱で誘発される剥離方法および溶液で誘発される剥離方法の両方では、得られる生成物は、酸素含有量を減少させるためのさらなる化学的還元処理を行う必要があるGOプレートレットである。典型的には、還元後でさえも、GOプレートレットの導電率は、純粋なグラフェンの導電よりもはるかに低いままである。さらに、この還元手順は、ヒドラジンなどの毒性化学物質の利用を伴うことが多い。
(7)さらに、排液後にフレーク上に保持されるインターカレーション溶液の量は、黒鉛フレーク100重量部当たり20~150部(pph)の溶液の範囲、より典型的には約50~120pphの範囲となりうる。高温剥離中、フレークによって保持される残存インターカレート(intercalate)種は分解して硫黄化合物および窒素化合物の種々の化学種(たとえば、NOxおよびSOx)を生成し、これらは望ましくない。流出液は、環境に対して悪影響が生じないようにするために費用のかかる改善手順が必要となる。
【0010】
上記概略の制限を克服するために本発明が作られた。
【0011】
方法2:純粋なナノグラフェンプレートレットの直接形成
2002年に、本発明者らの研究チームは、ポリマーまたはピッチ前駆体から得られた部分的に炭化または黒鉛化されたポリマー炭素から単層および多層のグラフェンシートを単離することに成功した[B.Z.Jang and W.C.Huang,“Nano-scaled Graphene Plates”、2002年10月21日に提出された米国特許出願第10/274,473号明細書;現在は米国特許第7,071,258号明細書(07/04/2006)]。Mackら[“Chemical manufacture of nanostructured materials” 米国特許第6,872,330号明細書(2005年3月29日)]は、黒鉛にカリウム溶融物をインターカレートさせるステップと、結果としてKがインターカレートされた黒鉛をアルコールと接触させて、NGPを含む剥離黒鉛を乱暴に生成するステップとを含む方法を開発した。カリウムおよびナトリウムなどの純アルカリ金属は水分に対して非常に敏感であり、爆発の危険が生じるので、この方法は、真空中または非常に乾燥したグローブボックス環境中で注意深く行う必要がある。この方法は、NGPの大量生産には適していない。上記概略の制限を克服するために本発明が作られた。
【0012】
方法3:無機結晶表面上でのナノグラフェンシートのエピタキシャル成長および化学蒸着
基板上の超薄グラフェンシートの小規模製造は、熱分解に基づくエピタキシャル成長およびレーザー脱離イオン化技術によって行うことができる[Walt A.DeHeer,Claire Berger,Phillip N.First,“Patterned thin film graphite devices and method for making same” 米国特許第7,327,000B2号明細書(2003年6月12日)]。わずか1層または数層の原子層を有する黒鉛のエピタキシャル膜は、それらの特有の特性およびデバイス基板としての大きな可能性のため、技術的および化学的に重要である。しかし、これらの方法は、複合材料およびエネルギー貯蔵用途の単離されたグラフェンシートの大量生産には適していない。上記概略の制限を克服するために本発明が作られた。
【0013】
方法4:ボトムアップ方法(小分子からのグラフェンの合成)
Yangら[“Two-dimensional Graphene Nano-ribbons,”J.Am.Chem.Soc.130(2008)4216-17]は、1,4-ジヨード-2,3,5,6-テトラフェニル-ベンゼンと4-ブロモフェニルボロン酸との鈴木-宮浦カップリングから開始する方法を用いて最長12nmの長さのナノグラフェンシートを合成した。結果として得られるヘキサフェニルベンゼン誘導体をさらに誘導体化させ環を縮合させて小さいグラフェンシートを得た。これは、これまでは非常に小さいグラフェンシートが生成されている遅いプロセスである。上記概略の制限を克服するために本発明が作られた。
【0014】
したがって、望ましくない化学物質の量の減少(またはこれらの化学物質全ての除去)、短縮された処理時間、より少ないエネルギー消費、より低いグラフェン酸化度、望ましくない化学種の排液中(たとえば、硫酸)または空気中(たとえば、SO2およびNO2)への流出の減少または排除が要求されるグラフェン製造方法が緊急に必要とされている。この方法によって、より純粋(より少ない酸化および損傷)で、より高い導電性で、より大きい/より幅広のグラフェンシートが製造可能となるべきである。これらのグラフェンシートは、強化用無機複合物マトリックス材料中で特に有用である。
【0015】
グラフェン強化無機ナノ複合物の用途および重要性
グラフェン強化無機マトリックス複合物(以降、グラフェン無機ナノ複合物、または単にグラフェンナノ複合物とも記載される)の潜在的な用途は、導電率、熱伝導率、機械的性質の向上、結晶粒界のピン止め、および遮断性の5つの主要な領域の性質の向上を利用している。具体的な用途の例としては、ヒートシンク、強化セラミック、歯科材料、人工骨、エレクトロニクスのハウジング、EMIシールド、過酷な環境で使用される金属体、エネルギー貯蔵用途の活性材料、光起電力エネルギー生産のための活性材料、熱電気材料、触媒材料、光触媒、および導電性セラミックが挙げられる。導電性グラフェン無機ナノ複合物は、航空機機体のパネル、自動車、列車、窓、およびソーラーモジュールの除氷の可能性も高める。
【0016】
本明細書では、NGPまたはグラフェンシートは、純粋なグラフェン、酸化グラフェン(GO)、還元酸化グラフェン(RGO)、フッ化グラフェン、および化学官能化グラフェンを意味することができる。
【0017】
グラフェン/無機ナノ複合物を製造するために4つの主要な従来技術の方法が採用されてきた。それらの概要を
図2中に示しており、以下に簡潔にまとめている。
【0018】
方法1:グラフェンまたは膨張黒鉛を無機粒子とともにボールミル粉砕してナノ複合物の製造をすること
この従来技術の方法では、前述(単離されたグラフェンシートの製造)のようにグラフェンがあらかじめ形成される、または膨張黒鉛がインターカレーションおよび剥離プロセスによって製造される。簡潔に言えば、最初に黒鉛材料に酸がインターカレートされて、黒鉛インターカレーション化合物(GIC)が形成される。このGICを洗浄し、乾燥させ、次に、膨張の第2のステップを行う。このステップでは、熱、マイクロ波エネルギー、またはプラズマを使用して、インターカラントを急速に膨張させることで、GICを膨張させる。これは、50~300倍の体積膨張を含む顕著な発熱プロセスであり、インターカラントが逃れるときに酸煙の放出を伴う。このプロセスによって得られるプレートレットは一部のエッジで依然として結合が起こって、元のGICプレートレット幅と同様の厚さを有する長い粒子が形成される。これらは、その外観のために「黒鉛ワーム」と呼ばれることがある。
【0019】
Chenら[Chen,Effect of the content of ball-milled expanded graphite on the bending and tribological properties of copper-graphite composites,Materials and Design 05/2013;47:667-671]は、膨張黒鉛を銅粉末に加え、次にボールミル粉砕によって膨張黒鉛の結合を分離し、それらの上を金属粉末で被覆し、次に最終焼結ステップを行うことを教示している。Jiangら[Jiang et al,Preparation and electrical properties of graphene nanosheet/Al
2O
3 composites,Carbon 48(2010)1743-1749]は、グラフェンおよびアルミナをボールミル中に投入して、2~3桁の大きさで導電率が増加したグラフェン/アルミナナノ複合物を形成することを教示している。このプロセスは
図3中に示されている[Pan,Conductive enhancement of copper/graphene composites based on high-quality graphene,RSC Advance,2015,5,80428-80433]。
【0020】
同様の方法において、Malik[A-S Malik,Sintered Boron Nitride Cutting Tool、米国特許出願公開第2013/0139446号明細書]は、窒化ホウ素粒子およびナノグラフェンプレートレットのスラリーの混合およびサイズ減少のために、イソプロパノールを用いてアトライターミルを使用した。混合後、スラリーをオーブン乾燥させ、40メッシュのふるいにかけて、凝集体を破壊し、粉末プレスによってコンパクトを形成した。この材料を、65kbarおよび1500℃で焼結して、緻密化ナノ複合物を形成した。焼結したコンパクトを次に研削して、切削工具を形成した。
【0021】
グラフェン複合物を形成するためのボールミルプロセスの投入材料としてのグラフェンまたは剥離させ膨張させた黒鉛(熱的に剥離されたGICから作製)の使用はいくつかの大きな欠点を有する:
1.黒鉛前駆体材料のサイズ減少が必要。インターカレーションプロセスを首尾良く行うために、出発物質のサイズを約200ミクロン未満にする必要がある。典型的な工業的方法の1つでは、材料を75ミクロン以下のプレートレット直径まで減少させる。サイズ減少は、エネルギー集約型プロセスであり、高濃度の可燃性粉末のため爆発の危険がある。
2.化学的集約型プロセスによるグラフェン構造の損傷。酸インターカレーションプロセスによって、秩序だった黒鉛構造に原子レベルの損傷が生じる。この損傷は、GICによって処理された黒鉛材料のラマン分光法によって容易に検出できる。これらの材料は、インターカレーションが行われていない「純粋な」黒鉛材料よりも低い導電率および熱伝導率を有する。
3.化学残留物。剥離後、グラフェンまたは膨張黒鉛は2~3重量%の硫黄を有することがある。この残留物の除去には、かなりの量の水または溶媒を使用する必要があり、これらは除去する必要がある。この除去プロセスによって凝集体が形成されることがあり、グラフェンの均一な分散体を形成できる可能性が低下する。
4.このプロセスの投入材料としてのグラフェンは比較的費用がかかる。
5.ボールミル中に液体担体を使用すると、乾燥ステップが必要となる。オーブン乾燥プロセスによって、グラフェン粒子のナノスケールの凝集が生じうる。この材料は、40メッシュスクリーンによって解凝集できず、さらに、被覆粒子がメッシュを詰まらせるため適切なメッシュサイズ(625メッシュ以上)の使用は不可能である。
6.工業規模での溶媒担体の使用には、溶媒回収装置が必要であり、これによってエネルギーの使用量および製造コストが増加する。
【0022】
方法2:金属のグラフェンシート中への浸透
Kimら[米国特許第8,263,843号明細書、Graphene Nanoplatelet Metal Matrix]は、犠牲材料上に多孔質グラフェンフィルムを形成するステップと、その材料を熱または化学物によって除去するステップと、電解めっき、無電解めっき、蒸着、またはスパッタリングによって、その多孔質材料に金属を浸透させるステップとの方法を教示している。この方法を層ごとに繰り返して、所望の形状の固体材料を形成することができる。この方法はいくつかの欠点を有する:
1.めっきによる金属マトリックスの形成は、費用がかかり、化学集約型で、時間集約型なプロセスである。
2.金属メッシュまたは犠牲材料の上への多孔質グラフェンフィルムの形成では、隣接するプレートレットの間に機械的に強い結合は形成されない。マトリックス浸透プロセス中に、この多孔質フィルムは置換されて、あらゆる意図的な平面状プレートレットの配向が減少する可能性がある。置換のため、この方法では、グラフェンシートの連続で相互接続した網目構造が形成されない。
3.浸透プロセス中に、めっき溶液の空気ポケットまたはポケットが形成される可能性がある。この方法は、これらを除去するための明確に定められた方法を有さない。
4.この方法は、めっき、蒸着、またはスパッタリングが可能なマトリックス材料に限定される。ガラスおよびセラミック材料では、大きな課題が生じる。
【0023】
方法3:分子レベル混合方法
Jeonら[Jeon et al,Enhanced Mechanical Properties of Graphene/Copper Nanocomposites Using a Molecular-Level mixing process.Advanced Materials 2013,25,6724-6729]は、酸化グラフェンを酢酸銅で官能化し、次にNaOHを加えて銅イオンをCuOに還元して、銅/グラフェンナノ粉末を形成する方法を教示している。これらは、水素雰囲気下400℃で3時間還元した後、50MPA、600℃におけるスパークプラズマ焼結によって、試験試料が形成された。同様の分子レベル混合方法が、Hongら[米国特許出願公開第2014/0197353号明細書、Graphene/ceramic nanocomposite powder and a production method thereof]によって教示されている。一例では、酸化グラフェンを硝酸アルミニウム水和物と混合し、次に溶媒を除去する。その材料を不活性雰囲気中350℃において5時間焼成すると、グラフェン/アルミナナノ複合物粉末が形成される。この粉末のスパークプラズマ焼結によって完成品が形成された。
【0024】
この方法は、工業的製造においていくつかの課題および制限を有する:
1.このナノ複合物の形成方法は間接的である。黒鉛は、化学集約型プロセスで酸化され、金属有機化合物と反応させ、次に、元の純炭素に変換される。金属は、金属有機に変換され、反応され、次に、元の純金属に変換される。これは、スケールアップに非常にコストがかかる化学集約型でエネルギー集約型のプロセスである。
2.多くの金属有機化合物は、純金属、ガラス、またはセラミック材料と比較して、大きな健康、安全性、および環境のリスクを有する。
3.改良されたHummerの方法を使用すると、広く公開されているラマン分光データによって示されているように、黒鉛の結晶構造が損傷される。この損傷は、導電率、熱伝導率、および障壁特性に悪影響を与えることがよく知られている。
4.金属酸化物を還元マトリックス材料に変換するために必要な焼成温度は、炭素が酸化グラフェンまたはグラフェンプレートレットからマトリックス材料中に拡散するのに十分な高さである。これによって、所望の電気的、熱的、および機械的性質に悪影響が生じうる。
5.化学量論の制御によって大きな課題が生じる。グラフェン/銅複合物の製造は実現可能であるが、グラフェン/チタン酸バリウム複合物は製造できない可能性がある。
【0025】
方法4:金属粒子上へのCVDグラフェン
Strupinski[米国特許第9067796B2号明細書、Method of manufacturing microscopic graphene-containing grains and material obtainable thereby]は、グラフェンを金属粒子上に成長させるためのCVD方法を教示している。一例では、600~1040℃においてグラフェンを銅結晶粒上に成長させる。この方法はいくつかの大きな欠点を有する:
1.複合物マトリックス材料は、CVDによるグラフェンの成長に成功するテンプレートとなる材料:Cu、Ni、Ru、Ir、Co、Pt、Pd、およびWに限定される。この方法は、ガラスまたはセラミックの粒子を使用することはできない。
2.グラフェンの(非晶質炭素に対する)上首尾の製造は、一部のCVD方法のテンプレート粒子の結晶方位に依存する。たとえば、グラフェンは銅上に(111)の結晶方位で生成され、これに対し非晶質炭素は(100)または(110)の結晶方位を有する。(100)および(110)の方位で、非晶質炭素の生成に打ち勝つためには、追加の入力ガスおよびより高いプロセス温度が必要となる[Tsuji et al,On the Nucleation of Graphene by Chemical Vapor Deposition,New Journal of Chemistry 01/2012;36(1):73-77.DOI:10.1039/C1NJ20695H]。
3.この方法は、エネルギー集約型で、ガスを多量に使用し、費用のかかるプラズマ発生装置を必要とする。
4.高いプロセス温度のため、プロセスに加えられる炭素の一部は、金属粒子のバルク中に拡散し;これによって多くの無機材料、特にアルミニウムに対して有害な影響が生じ、脆いAl炭化物の介在物が形成される。これらの介在物は、さらなる処理に悪影響を与える。炭素ドーピングは、所望の電気的、熱的、および機械的性質に悪影響を与えることがある。
5.プロパンは、黒鉛よりも高価な炭素源である。
【0026】
本発明は、上記概略の従来技術方法の制限を克服するために作られた。
【発明の概要】
【0027】
本発明は、非常に単純で、迅速で、規模の変更が可能であり、環境に優しく、費用対効果の高い、グラフェン強化無機マトリックス複合物の製造方法を提供する。この方法は、前述の要求に適合する。この方法は、黒鉛材料または炭素質材料(グラフェン源材料)から単層または数層グラフェンシートを直接製造するステップと、直ちにこれらのグラフェンシートを無機粒子(本明細書では固体担体材料粒子と記載される)の表面上に移動させて、グラフェン被覆固体無機粒子またはグラフェン埋め込み固体無機粒子を形成するステップとを含む(黒鉛材料または炭素質材料は、インターカレーション、酸化、および剥離が行われておらず、あらかじめ製造された単離グラフェンシートを含まない)。グラフェン被覆無機粒子は、次に、たとえば、焼結、溶融、熱間静水圧プレス、または粉末冶金もしくはセラミック加工の技術分野で一般に知られている別の方法によって所望の形状の複合材料に圧密化される。
【0028】
本発明の一実施形態は、黒鉛材料からグラフェン強化無機マトリックス複合物を直接製造する方法において:a)エネルギー衝突装置の衝突チャンバー中で黒鉛材料の複数の粒子と、固体無機材料の複数の粒子とを混合して、混合物を形成するステップにおいて、黒鉛材料が、インターカレーション、酸化、および剥離が行われておらず、あらかじめ製造された単離グラフェンシートを含まないステップと;b)黒鉛材料からグラフェンシートを固体無機材料粒子の表面に移動させて、グラフェン被覆無機粒子と、場合により上記黒鉛材料の残留物(完全に使用されない場合)とを衝突チャンバーの内部で生成するのに十分な時間の間、ある頻度およびある強度でエネルギー衝突装置を運転するステップと;c)グラフェン被覆無機粒子を黒鉛材料残留物(存在する場合)から分離するステップと;d)グラフェン被覆無機粒子からグラフェン強化無機マトリックス複合物を形成するステップとを含む方法である。
【0029】
グラフェン被覆固体無機粒子またはグラフェン埋め込み固体無機粒子の材料は、別個の製品として販売することができる。これらのグラフェン被覆粒子またはグラフェン埋め込み粒子では、グラフェンの比率は、典型的には、グラフェンおよび無機物を合わせた全重量を基準として0.01重量%~80重量%である。この製品から、フィラーが無機マトリックス中に分散され、その混合物がペレットの形態にされる無機複合物マスターバッチを形成することもできる。このマスターバッチは、あらゆる実用的な比率で無機材料と混合して、ブレンドを形成し、次にたとえば焼結、ホットプレス、またはキャスティングを行うことができる。従来方法を用いて25%を超えるグラフェンを無機マトリックス中に分散させることは困難であったことに留意されたい。
【0030】
無機粒子は、金属、セラミック、ガラス、またはそれらの組合せから選択することができる。含めることができる元素の一部の例は、鉄、銅、アルミニウム、鉛、スズ、亜鉛、インジウム、イリジウム、バナジウム、マンガン、ニッケル、ジルコニア、テクネチウム、タングステン、銀、ベリリウム、カドミウム、金、白金、パラジウム、ニオブ、モリブデン、クロム、マンガン、コバルト、アルミニウム、ジルコニア、チタンおよびホウ素である。
【0031】
好ましい一実施形態では、この方法は、黒鉛材料と、無機固体担体材料の粒子と、任意選択で衝突ボールとの混合物の、ボールミルまたは同様のエネルギー衝突装置による機械的撹拌を、グラフェン層(六角形に配列した炭素原子の面)を供給源の黒鉛材料から剥離するのに十分な時間の長さで行うステップと、これらの剥離したグラフェン層を固体無機担体材料粒子の表面上にコーティングするステップとを含む。衝突ボールが存在すると、グラフェンシートを供給源の黒鉛粒子から剥離して、衝突ボールの表面上に一時的に堆積することができる。続いて、これらのグラフェンシートで被覆された衝突ボールが、固体担体粒子上に衝突すると、グラフェンシートは担体粒子の表面に移動して、グラフェンで被覆された無機粒子が形成される。ある実施形態では、グラフェンシートは、担体粒子中に埋め込まれる場合がある。続いて、グラフェン被覆無機粒子から、グラフェン強化無機マトリックス複合物が形成される。
【0032】
ある実施形態では、固体無機担体が十分に硬質および剛性ではない場合、複数の衝突ボールまたは媒体がエネルギー衝突装置の衝突チャンバーに加えられる。好ましい一実施形態では、グラフェン被覆無機粒子からグラフェン強化無機マトリックス複合物を形成するステップの前に、グラフェン被覆無機粒子から衝突ボールまたは媒体を分離するために磁石が使用される。
【0033】
好ましくは、出発物質(グラフェン源材料としての黒鉛または炭質材料)は、あらかじめインターカレーションおよび化学酸化が行われていない。この出発物質は、黒鉛インターカレーション化合物(GIC)および酸化黒鉛(GO)ではない。好ましくは、供給源の黒鉛材料は、天然黒鉛、合成黒鉛、高配向熱分解黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、黒鉛繊維、黒鉛ナノファイバー、酸化黒鉛、フッ化黒鉛、化学修飾黒鉛、剥離黒鉛、鉱脈黒鉛、半結晶性黒鉛、不規則炭素またはそれらの組合せから選択される。
【0034】
ある実施形態では、エネルギー衝突装置の衝突チャンバーは、保護流体、たとえば不活性ガス、非反応性液体、水などをさらに含む。
【0035】
この方法は、低コストであり、非常に拡張性が高い。2時間未満のプロセス時間(多くの場合は20分未満)で、グラフェンシートは黒鉛粒子から剥離されて、無機粒子に表面上に再堆積される。この結果得られるグラフェン被覆無機粒子は、グラフェン強化無機複合物部品を直接製造するために、ホットプレスまたは焼結することができる。20分~2時間の時間で、グラフェン-無機ナノ複合物成分を供給源の黒鉛材料から直接製造することができた。ほとんどの周知の方法を使用することによる黒鉛からのグラフェンシートの製造は、インターカレーションおよび酸化だけで4~120時間を要し、繰り返される洗浄および乾燥、さらに引き続く熱剥離の時間が加算されるという見解を考慮すると、この方法は驚くほど迅速で単純である。さらに、無機マトリックス中のグラフェンシートの分散は、非常に困難な作業としても知られている。本発明は、グラフェンの製造と、グラフェン-無機混合(グラフェンの分散)と、複合物の加工とを1つの作業で行う。
【0036】
本発明の好ましい一実施形態は、黒鉛材料および担体材料をボールミルなどのエネルギー衝突装置中で直接混合するステップと、混合物に対して十分長い処理時間をかけることで、供給源の黒鉛材料からグラフェン層を剥離し、これらのグラフェン層を直ちに担体材料表面に移動させるステップとの方法である。これらのグラフェンシートは典型的には単層または数層グラフェンシート(典型的には<5層であり;ほとんどは単層グラフェン)である。このステップの後、グラフェン被覆無機粒子は、広範囲の粉末冶金もしくはセラミック加工技術を用いて複合物の形状に成形される。
【0037】
たとえば、この複合物を形成するステップは、不活性雰囲気または還元性雰囲気中で無機粒子の焼結またはマイクロ波焼結を行って、無機溶融物とその中に分散したグラフェンシートとの混合物を形成するステップ、または無機溶融物-グラフェン混合物から所望の形状を形成するステップ、およびホットプレスもしくは熱間静水圧プレスを用いて緻密化するステップを含むことができる。ある実施形態では、この方法は、無機粒子を溶融させて、グラフェンシートが中に分散した無機溶融混合物を形成するステップと、続いて、混合物を押出成形してロッド形態もしくはシート形態にするステップ、混合物を固化させて繊維形態にするステップ、急速固化によって混合物を噴霧して粉末形態にするステップ、または混合物をキャスティングしてインゴット形態にするステップとを含む。別の好ましい一実施形態は、スパークプラズマ焼結によって所望の形状を形成するステップである。
【0038】
一実施形態では、複合物を形成するステップは、グラフェン被覆無機粒子をグラフェン強化無機マトリックス複合物の所望の形状に焼結させるステップを含む。
【0039】
グラフェン製造ステップ自体(黒鉛粒子からグラフェンシートを直接剥離し、グラフェンシートを無機粒子表面に直ちにまたは同時に移動させるステップ)は、従来の研究者および製造者が工業的な量でグラフェンを形成するためにより複雑で時間がかかり費用のかかる方法に集中していたことを考慮すると、非常に驚くべきことであることに留意されたい。言い換えると、大量のグラフェンプレートレットを製造するために化学的インターカレーションおよび酸化が必要であると考えられてきた。本発明はこの予想に多くの方法で挑んでいる:
1.化学的インターカレーションおよび酸化(グラフェン間の空間の膨張、グラフェン面のさらなる膨張または剥離、ならびに剥離したグラフェンシートの完全な分離が必要)とは異なり、本発明の方法は、原材料の黒鉛材料からグラフェンシートを直接除去し、これらのグラフェンシートを担体材料粒子の表面に移動させる。望ましくない化学物質(たとえば硫酸および硝酸)は使用されない。
2.酸化およびインターカレーションとは異なり、純粋なグラフェンシートを担体材料上に移動させることができる。シートの酸化による損傷がないことで、より高い導電率および熱伝導率を有するグラフェン含有製品を製造することができる。
3.一般的な製造方法とは逆に、多量の水または溶媒を必要とする洗浄プロセスは不要である。
4.ボトムアップ製造方法またはCVD製造方法とは異なり、本発明の方法を用いて大きなプレートレットを製造することができる。
5.CVDおよび溶液系金属有機製造方法とは異なり、酸化グラフェンからグラフェンへの還元および金属化合物から純金属への還元に高温は不要である。これによって、マトリックス材料中への炭素の望ましくない拡散の可能性が大きく低下する。
6.CVDおよび溶液系金属有機製造方法とは異なり、この方法は、ほぼあらゆる固体無機マトリックス材料に適用できる。このマトリックス材料には、CVD方法で必要となるような適合性の「テンプレート」および触媒は不要である。
7.溶液系金属有機製造方法とは異なり、大部分のグラフェンシートは粒子の外側上に存在する。これによって、グラフェンシートおよびマトリックス材料の連続相互侵入3次元網目構造を形成することができる。
8.層浸透方法とは異なり、本発明は、連続エネルギー衝突デバイス中での工業規模の製造に適用できる。
9.従来技術の方法とは異なり、投入黒鉛材料のサイズを減少させることなく、グラフェン被覆担体粒子を形成することができる。投入材料のサイズに関する唯一の制限は、エネルギー衝突デバイスの衝突チャンバーのサイズである。
【0040】
担体材料は、無機粉末、フレーク、ペレット、フィラメント、繊維の形態、またはその他の形態であってよい。
【0041】
エネルギー衝突装置は、ボールミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、高エネルギーミル、バスケットミル、アジテーターボールミル、連続ボールミル、撹拌ボールミル、加圧ボールミル、プラズマアシストボールミル、真空ボールミル、フリーザー(SPEX)ミル、振動ふるい、超音波ホモジナイザーミル、共鳴音響ミキサー、またはシェーカーテーブルから選択することができる。
【0042】
本発明による方法によって、単層グラフェンシートを製造し分散させることができる。多くの例では、製造されるグラフェン材料は少なくとも80%の単層グラフェンシートを含む。製造されるグラフェンは、純粋なグラフェン、5重量%未満の酸素含有量を有する酸化グラフェン、5重量%未満のフッ素を有するフッ化グラフェン、95重量%以上の炭素含有量を有するグラフェン、または官能化グラフェンを含むことができる。
【0043】
ある実施形態では、衝突チャンバーは、炭素繊維、セラミック繊維、ガラス繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、金属ナノワイヤ、金属粒子、セラミック粒子、ガラス粉末、炭素粒子、黒鉛粒子、有機粒子、またはそれらの組合せから選択される改質用フィラーをさらに含む。改質用フィラーは、得られる複合物の化学的、機械的、および物理的(電気的、熱的、光学的、および/または磁気的)性質を改善することができる。たとえば、改質用フィラーは強磁性または常磁性であってもよい。
【0044】
本発明による方法の別の驚くべき非常に有利な特徴は、グラフェンシートの製造および化学官能化を同じ衝突チャンバー中で同時に行うことができるという見解である。衝突によって誘発され担体粒子が受ける運動エネルギーは、担体粒子表面上を被覆するグラフェンシートのエッジおよび表面を化学的に活性化させるのに十分なエネルギーおよび強度を有し;たとえば高活性部位またはフリーラジカルが形成される)。所望の化学官能基(たとえば-NH2、Br-など)を含む選択された化学種(官能化剤)を衝突チャンバー中に分散させれば、所望の官能基をグラフェンのエッジおよび/または表面に付与することができる。反応性部位または活性ラジカルが形成されるとすぐにその場で化学官能化反応が起こりうる。グラフェンシートと無機マトリックスとの間の界面結合の向上、表面ぬれ性の調整、またはドーパントの無機マトリックスへの添加の目的で、異なる無機マトリックス材料中には異なる官能基が望ましい。
【0045】
したがって、ある実施形態では、エネルギー衝突装置を運転するステップ(b)は、同じ衝突装置中で、製造されたグラフェンシートを官能化剤で化学官能化する機能を果たす。グラフェンの官能化は、無機マトリックス(たとえば金属溶融物)がグラフェンシートを適切にぬらすために好都合な化学的条件の形成、および/またはある種の改善された性質のためのグラフェンシートと無機マトリックス材料との間の望ましい相間の形成を意図している。
【0046】
ある実施形態では、官能化剤は、アルキルもしくはアリールシラン、アルキルもしくはアラルキル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミン基、スルホネート基(-SO3H)、アルデヒド基、キノイダル、フルオロカーボン、またはそれらの組合せから選択される化学官能基を含む。
【0047】
あるいは、官能化剤は、2-アジドエタノール、3-アジドプロパン-1-アミン、4-(2-アジドエトキシ)-4-オキソブタン酸、2-アジドエチル-2-ブロモ-2-メチルプロパノエート、クロロカーボネート、アジドカーボネート、ジクロロカルベン、カルベン、アライン、ニトレン、(R-)-オキシカルボニルニトレン(式中、R=
の基のいずれか1つである)、およびそれらの組合せからなる群から選択されるアジド化合物を含む。
【0048】
ある実施形態では、官能化剤は、ヒドロキシル、ペルオキシド、エーテル、ケト、およびアルデヒドからなる群から選択される酸素化基を含む。ある実施形態では、官能化剤は、SO3H、COOH、NH2、OH、R’CHOH、CHO、CN、COCl、ハライド、COSH、SH、COOR’、SR’、SiR’3、Si(-OR’-)yR’3-y、Si(-O-SiR’2-)OR’、R”、Li、AlR’2、Hg-X、TlZ2、およびMg-X(式中、yは3以下の整数であり、R’は、水素、アルキル、アリール、シクロアルキル、またはアラルキル、シクロアリール、またはポリ(アルキルエーテル)であり、R”は、フルオロアルキル、フルオロアリール、フルオロシクロアルキル、フルオロアラルキル、またはシクロアリールであり、Xはハライドであり、Zは、カルボキシレートまたはトリフルオロアセテートである)、およびそれらの組合せからなる群から選択される官能基を含む。
【0049】
官能化剤は、アミドアミン、ポリアミド、脂肪族アミン、変性脂肪族アミン、脂環式アミン、芳香族アミン、無水物、ケチミン、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、ヘキサメチレンテトラミン、ポリエチレンポリアミン、ポリアミンエポキシ付加体、フェノール系硬化剤、非臭素化硬化剤、非アミン硬化剤、およびそれらの組合せからなる群から選択される官能基を含むことができる。これらの官能化剤は、今後の有機系コーティング材料との無機複合物の適合性を改善することができる。
【0050】
ある実施形態では、官能化剤は、OY、NHY、O=C-OY、P=C-NR’Y、O=C-SY、O=C-Y、-CR’1-OY、N’Y、またはC’Yから選択される官能基を含み、Yは、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、酵素、抗体、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、抗原、もしくは酵素基質、酵素阻害剤、もしくは酵素基質の遷移状態アナログの適切な官能基である、またはR’-OH、R’-NR’2、R’SH、R’CHO、R’CN、R’X、R’N+(R’)3X-、R’SiR’3、R’Si(-OR’-)yR’3-y、R’Si(-O-SiR’2-)OR’、R’-R”、R’-N-CO、(C2H4O-)wH、(-C3H6O-)wH、(-C2H4O)w-R’、(C3H6O)w-R’、R’から選択され、wは1を超え200未満の整数である。
【0051】
エネルギー衝突装置の操作手順は、連続エネルギー衝突装置を用いて連続方法で行うことができる。このプロセスは自動化することができる。
【0052】
本発明は、グラフェン被覆粒子またはグラフェン埋め込み粒子から複合物部品の形成を行わない、または形成前の、本発明の方法によって製造されたグラフェン被覆無機粒子またはグラフェン埋め込み無機粒子の材料も提供する。この材料において、グラフェンの比率は、グラフェンおよび無機物を合わせた全重量を基準として0.01重量%~80重量%(より典型的には0.1%~70%、さらにより典型的には1%~60%)である。グラフェン被覆無機粒子またはグラフェン埋め込み無機粒子の材料は、プレス機、焼結炉、または選択的レーザー焼結装置に供給して、グラフェン強化無機複合物部品を作製することができる。
【0053】
本発明は、グラフェン被覆粒子またはグラフェン埋め込み粒子から複合物部品の形成を行わない、または形成前の、本発明の方法によって製造されたグラフェン被覆無機粒子またはグラフェン埋め込み無機粒子の材料も提供する。この粒子の材料は、室温または室温よりも高温またはバルクの無機材料の溶融温度未満でプレスして固体複合物材料を得ることができる。この材料は、超音波溶接、選択的レーザー焼結、マイクロ波加熱などによって圧密化することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【
図1】
図1は、時間のかかる化学的酸化/インターカレーション、洗浄、および高温剥離手順を伴う、高酸化グラフェンシート(NGP)の最も一般に使用される従来技術の製造方法を示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、グラフェン強化セラミックマトリックス複合物の製造および緻密化のための従来技術の方法を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、あらかじめ製造したグラフェンシートから無機/グラフェン複合物を製造するための従来技術のボールミルプロセスの図である。[出典:Pan,et al.,Conductive enhancement of copper/graphene composites based on high-quality graphene,RSC Advance,2015,5,80428-80433]
【
図4】
図4は、エネルギー衝突装置によるグラフェン強化無機マトリックス複合物の本発明による製造方法を示す図である。
【
図5】
図5は、連続ボールミルによるグラフェン強化無機マトリックス複合物の本発明による製造方法を示す図である。
【
図6A】
図6Aは、従来のHummerの経路によって製造されたグラフェンシートの透過型電子顕微鏡写真である(はるかに小さいグラフェンシートであるが、同等な厚さである)。
【
図6B】
図6Bは、本発明による衝突エネルギー方法によって製造されたグラフェンシートの透過型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
炭素材料は、実質的に非晶質の構造(ガラス状炭素)、高度に組織化された結晶(黒鉛)、または種々の比率およびサイズの黒鉛微結晶および欠陥が非晶質マトリックス中に分散することを特徴とするあらゆる種類の中間構造を想定することができる。典型的には、黒鉛微結晶は、底面に対して垂直の方向であるc軸方向でファンデルワールス力によって互いに結合する多数のグラフェンシートまたは底面から構成される。これらの黒鉛微結晶は、典型的にはミクロンサイズまたはナノメートルサイズである。これらの黒鉛微結晶は、黒鉛フレーク、炭素/黒鉛繊維セグメント、炭素/黒鉛ウィスカー、または炭素/黒鉛ナノファイバーであってよい黒鉛粒子中の結晶の欠陥または非晶質相の中に分散している、またはそれらと連結している。
【0056】
本発明の好ましい特定の一実施形態は、ナノグラフェンプレートレット(NGP)材料およびその無機マトリックス複合物の製造方法である。NGPは、グラフェン面(炭素原子の六角形格子)の1つのシート、または互いに積層し結合したグラフェン面の複数のシート(典型的には、平均で、多層プレートレット1つ当たり5つ未満のシート)から実質的に構成される。グラフェンシートまたは底面とも呼ばれる各グラフェン面は、炭素原子の2次元六角形構造を含む。各プレートレットは、黒鉛面に平行な長さおよび幅、ならびに黒鉛面と直交する厚さを有する。定義により、NGPの厚さは100ナノメートル(nm)以下であり、単一シートのNGPは0.34nmの薄さである。しかし、本発明の方法により製造されたNGPは、大部分が単層グラフェンであり、一部が数層グラフェンシート(<5層)である。NGPの長さおよび幅は、典型的には200nm~20μmの間であるが、供給源の黒鉛材料粒子のサイズによってより大きいまたはより小さい場合もある。
【0057】
固体無機材料は、鉄、銅、アルミニウム、鉛、スズ、亜鉛、インジウム、イリジウム、バナジウム、マンガン、ニッケル、ジルコニア、テクネチウム、銀、ケイ素、カドミウム、金、白金、ニオブ、モリブデン、クロム、マンガン、コバルト、アルミナ、ジルコニア、二酸化チタン、窒化ホウ素、ソーダ石灰ガラス、鉛含有ガラス、アルミノケイ酸塩含有ガラス、亜テルル酸塩含有ガラス、アンチモン含有ガラス、ヒ酸塩含有ガラス、チタン酸塩含有ガラス、タンタライト含有ガラス、ホウケイ酸塩系ガラス、シリカ、高シリカ含有量ガラス、非晶質二酸化ケイ素、石英、溶融石英、アルミナ、ベリリア、セリア、炭化物、ホウ化物、窒化物、ケイ化物、カーボランダム、ダイヤモンド、それらの合金、またはそれらの組合せから選択することができる。
【0058】
固体無機材料は、チタン酸ジルコニウムバリウム、チタン酸ストロンチウム(ST)、チタン酸カルシウム(CT)、チタン酸マグネシウム(MT)、チタン酸マグネシウムカルシウム(CMT)、チタン酸亜鉛(ZT)、チタン酸ランタン(TLT)、およびチタン酸ネオジム(TNT)、ジルコニウム酸バリウム(BZ)、ジルコニウム酸カルシウム(CZ)、ニオブ酸鉛マグネシウム(PMN)、ニオブ酸亜鉛鉛(PZN)、ニオブ酸リチウム(LN)、スズ酸バリウム(BS)、スズ酸カルシウム(CS)、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、ケイ酸マグネシウム、タンタル酸バリウム、二酸化チタン、酸化ニオブ、ジルコニア、シリカ、サファイア、酸化ベリリウム、およびチタン酸ジルコニウムスズ、インジウムスズ酸化物(ITO)、ランタンドープチタン酸ストロンチウム(SLT)、イットリウムドープチタン酸ストロンチウム(SYT) イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、ガドリニウムドープセリア(GDC)、ランタンストロンチウム没食子酸塩マグネサイト(LSGM)、βアルミナ、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸バリウム(BT)、チタン酸ストロンチウム(ST)、石英、フェライト、炭酸ストロンチウム、ランタンストロンチウムマンガナイト、およびそれらの組合せから選択することもできる。
【0059】
本発明は、複合物のマトリックスとなることが意図される所望の無機粒子に迅速に移動する、グラフェンシートの従来の製造方法に関連する実質的にすべての欠点が回避される非常に単純で、迅速で、規模の変更が可能であり、環境に優しく、費用対効果の高い方法を提供する。
図4に概略的に示されるように、この方法の好ましい一実施形態は、供給源の黒鉛材料粒子および固体無機担体材料の粒子(および、希望される場合に、任意選択の衝突ボール)を衝突チャンバー中に入れるステップを含む。投入後、得られた混合物は、直ちに衝突エネルギーに曝露され、これはたとえば、担体粒子(および任意選択の衝突ボール)の黒鉛粒子への衝突を可能とするためにチャンバーを回転させることによって行われる。これらの繰り返される衝突事象(高頻度および高強度で生じる)の作用によって、黒鉛材料粒子の表面からグラフェンシートが剥離し、これらのグラフェンシートが無機担体粒子の表面(衝突ボールが存在しない場合)まで直接移動して、グラフェン被覆無機粒子が形成される。グラフェンプレートレットの一部は、無機粒子中に埋め込まれる場合もある。これは「直接移動」プロセスである。
【0060】
あるいは、衝突ボール(たとえばステンレス鋼またはジルコニアのビーズ)を含む衝突チャンバー中では、グラフェンシートは、衝突ボールによっても剥離され、最初に衝突ボールの表面に一時的に移動する。グラフェンで被覆された衝突ボールが無機担体材料粒子に衝突すると、グラフェンシートは無機担体材料粒子の表面に移動して、グラフェン被覆無機粒子が形成される。これは「間接移動」プロセスである。
【0061】
2時間未満(多くの場合1時間未満)で、供給源の黒鉛粒子を構成するグラフェンシートのほとんどが剥離して、主として単層グラフェンおよび数層グラフェン(ほとんどが5層または5グラフェン面未満)が形成される。直接または間接移動プロセス(担体材料粒子上へのグラフェンシートの被覆)の後、衝突ボール(存在する場合)または残留黒鉛粒子(存在する場合)は、多岐にわたる方法を用いてグラフェン被覆無機粒子から分離される。グラフェン被覆無機粒子の衝突ボールおよび残留黒鉛粒子(存在する場合)からの分離または分級は、それらの重量または密度、粒度、磁気的性質の差に基づいて容易に行うことができる。結果として得られるグラフェン被覆無機粒子は、すでに「複合物」またはすでに2成分材料であり;すなわちこれらは、すでに「混合されている」。この2成分材料は、次に熱処理または機械的処理によって、複合材料の形状にされる。
【0062】
言い換えると、グラフェンシートの製造、およびグラフェンシートと無機マトリックス材料との混合は、実質的に1つの作業で同時に行われる。これは、最初にグラフェンシートを製造し、続いてグラフェンシートを無機マトリックス材料と混合する従来方法と全く対照的である。従来の乾式混合では、典型的には2つまたは複数の成分の均一な混合または分散が行われない。
【0063】
この従来方法では、
図1中に示されるように、グラフェンシートまたはプレートレットのみを製造するための従来技術の化学的方法は、典型的には、濃硫酸、硝酸、および過マンガン酸カリウムまたは過塩素酸ナトリウムなどの酸化剤の混合物中に黒鉛粉末を浸漬し、化学的インターカレーション/酸化反応を終了させるために典型的には5~120時間を要する反応性材料を形成することを含む。反応が終了すると、得られたスラリーは、水によるすすぎおよび洗浄のステップが繰り返され、次に水を除去するための乾燥処理が行われる。得られた乾燥粉末は、黒鉛インターカレーション化合物(GIC)または酸化黒鉛(GO)と呼ばれるものであり、次に熱衝撃処理が行われる。これは、典型的には800~1100℃(より典型的には950~1050℃)の温度にあらかじめ設定された炉の中にGICを入れることによって行うことができる。この結果得られる生成物は、典型的には高酸化グラフェン(すなわち高酸素含有量の酸化グラフェン)であり、還元酸化グラフェン(RGO)を得るためにはこれを化学的または熱的に還元する必要がある。RGOは、高欠陥集団を含むことが分かっており、したがって純粋なグラフェンほど導電性ではない。本発明者らは、純粋なグラフェンペーパー(本明細書に記載のように作製される、純粋なグラフェンシートの真空支援濾過によって作製した)は1,500~4,500S/cmの範囲内の導電率値を示すことを確認している。対照的に、同じ製紙手順によって作製されたRGOペーパーは、典型的には100~1,000S/cmの範囲内の導電率値を示す。
【0064】
グラフェン強化無機マトリックス複合物の従来の製造方法では、背景技術の項で前述したいくつかの方法:(1)ボールミル混合;(2)グラフェンフィルム中への金属の浸透;または(3)分子混合の1つにより、グラフェンシートをあらかじめ無機マトリックスと混合して、複合物を形成した。あるいはCVD方法を使用して無機粒子にコーティングすることができる。これらの方法を
図2中にまとめている。
【0065】
ボールミル混合の最も一般的な実施では、あらかじめ製造したグラフェンシートまたはプレートレットが無機粉末に加えられる。ボールミルによってエネルギーが短時間加えられて、グラフェンプレートレットまたはシートが無機粉末中に分散する。これは液体(溶媒)溶液中で行われることが多い。このグラフェン/無機混合プロセスの欠点は、明らかであり、グラフェンは費用のかかる投入材料であり、溶媒の回収が必要であり、最も顕著なことには、プロセスへのグラフェン投入材料は、前の処理中の酸化によって損傷している。これによって、熱伝導率および導電率などの最終的性質があまり望ましくなくなる。
【0066】
別の一般的に使用される従来技術の方法は、グラフェンフィルム中への金属の浸透である。多孔質グラフェンフィルムが金属メッシュまたは不安定なメッシュの上に形成される。続いて、金属が、グラフェンシート上にコーティングされ、めっき、スパッタリング、または蒸着によってグラフェンフィルム中に浸透する。
【0067】
金属浸透プロセスの工業的スケールアップに関していくつかの大きな課題がある。最初に、これは連続プロセスではない。複合物は、一度に1層形成され、平面のサイズおよび厚さの両方で制限がある。次に、グラフェンフィルムプロセスでは、接触する、または隣接するグラフェンシートの間で共有結合が形成されない。グラフェンフィルムをぬらすステップ(めっきのため)または真空に引くステップ(スパッタリングのため)によって、脆弱なグラフェンフィルムは不安定になる。粒子の充填の問題によって、電解質の空隙またはさらにはポケットが形成されうる。この複雑で費用のかかるプロセスでは、所望の相互侵入マトリックスの3次元網目構造および強化は得られず、むしろアルミニウムで包まれたグラフェンを含有するアルミニウムマトリックスが得られる。
【0068】
分子レベル混合の一般に使用される従来技術の方法では、酸化グラフェンおよび金属有機化合物が混合され、金属有機化合物は酸化グラフェンに化学的に結合する。この材料は続いて乾燥および処理が行われる。
【0069】
この方法は、費用のかかる投入材料のため工業的使用の機会は非常に限定され、利用可能な有機金属前駆体の制限のためマトリックス材料の選択肢が比較的限定される。プロセスへの酸化グラフェン投入材料は、前の処理中の酸化によって損傷しており、これによって熱伝導率および導電率などの所望の性質が低下する。さらに、酸化グラフェンのグラフェンへの還元および金属有機化合物の純金属への還元に必要な熱処理によって、マトリックス材料中への炭素の拡散が生じうる。マトリックス中への炭素の拡散は、特にアルミニウム合金の場合には、望ましくない場合がある。
【0070】
別の従来技術の方法の1つは、金属ナノ粒子上へのCVDのコーティングである。これは、全ての従来技術の方法の中で最も制限があり、グラフェン成長用の適切なテンプレートとなるある種の金属に対してのみ可能となる。「ボトムアップ」グラフェン製造方法として、これは費用のかかる資本設備および費用のかかる投入材料が必要となる。
【0071】
グラフェン強化無機マトリックス複合物を製造するためのこれらすべての従来技術の方法では、複合物粒子が形成され、次に、得られた混合物から、焼結、プレス、溶融、またはその他の方法によって複合形状が形成される。
【0072】
対照的に、本発明による衝突方法は、1つの作業でのグラフェン製造と、官能化(希望する場合)と、グラフェン-無機混合との組合せを伴う。この迅速で環境に優しい方法では、顕著な化学物質の使用が回避されるだけでなく、従来技術の方法によって製造されるような熱還元酸化グラフェンとは対照的に、より高品質の強化材料である純粋なグラフェンが製造される。純粋なグラフェンによって、より高い導電率および熱伝導率を有する複合物の形成が可能となる。
【0073】
機構は依然として完全には理解されていないが、本発明のこの画期的な方法では、グラフェン面の膨張、インターカラントの侵入、剥離、およびグラフェンシートの分離の必要な機能が実質的に排除され、その代わりに完全に機械的な剥離プロセスが使用されると思われる。この方法全体は、4時間未満(典型的には10分~2時間)で行うことができ、化学物質を加えずに行うことができる。このことは、最先端の科学者および技術者または当技術分野の熟練者にとってさえも、非常に驚異的で衝撃的で驚くべきことである。
【0074】
本発明の研究の別の驚くべき結果の1つは、粒度の減少および前処理を行うことなく、多種多様な炭素質材料および黒鉛材料を直接処理できることを確認したことである。この材料は、天然黒鉛、合成黒鉛、高配向熱分解黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、黒鉛繊維、黒鉛ナノファイバー、酸化黒鉛、フッ化黒鉛、化学修飾黒鉛、剥離黒鉛、またはそれらの組合せから選択することができる。対照的に、従来技術の酸化グラフェンの化学的製造および還元に使用される黒鉛材料は75μm以下の平均粒度までサイズを減少させる必要がある。この方法は、サイズ減少装置(たとえばハンマーミルまたはスクリーニングミル)、エネルギー入力、およびダスト軽減が必要である。対照的に、エネルギー衝突装置の方法は、ほとんどあらゆるサイズの黒鉛材料を使用することができる。数mmまたはcm以上のサイズの出発物質が首尾良く形処理されて、グラフェン被覆無機粒子またはグラフェン埋め込み無機粒子が形成されている。唯一のサイズの制限はエネルギー衝突装置のチャンバー容量であるが、このチャンバーは非常に大きい(工業規模の)場合がある。
【0075】
本発明による方法によって、無機マトリックス中に十分に分散した単層グラフェンシートの製造が可能である。多くの例では、製造されるグラフェン材料は、少なくとも80%の単層グラフェンシートを含む。製造されるグラフェンは、純粋なグラフェン、5重量%未満の酸素含有量の酸化グラフェン、フッ化グラフェン、5重量%未満のフッ素を有する酸化グラフェン、95重量%以上の炭素含有量のグラフェン、または官能化グラフェンを含むことができる。
【0076】
本発明による方法は、GICの製造を伴わず、したがって、高い剥離温度(たとえば800~1,100℃)におけるGICの剥離は不要である。これは環境保護の観点から別の大きな利点となる。従来技術の方法は、グラフェン間の空間中に意図的に使用された硫酸および硝酸を含む乾燥GICの作製が必要であり、したがって、高度に規制される環境危険要因である揮発性ガス(たとえばNOxおよびSOx)を生成するH2SO4およびHNO3の分解を必然的に伴う。本発明による方法は、H2SO4およびHNO3を分解させる必要性が全くなく、したがって、環境に優しい。本発明の組み合わされた黒鉛の膨張/剥離/分離プロセス中に望ましくないガスが環境中に放出されない。
【0077】
本発明の好ましい一実施形態は、
図4に示されるような衝突ボールまたは媒体の衝突チャンバーへの混入である。衝突媒体は、金属、ガラス、セラミック、または有機材料のボールを含むことができる。衝突媒体のサイズは、1mm~20mmの範囲内であってよいし、より大きいまたはより小さい場合もある。衝突媒体の形状は、球形、針状、円筒形、円錐、角錐、直線状、または他の形状であってよい。複数の形状およびサイズの組合せを選択することができる。サイズ分布は、単一モードガウス分布、2モード、または3モードであってよい。
【0078】
この方法の別の好ましい一実施形態は、グラフェン/無機ナノ複合物を形成するための、グラフェン被覆粒子またはグラフェン埋め込み粒子の溶融配合である。溶融させた無機-グラフェン(無機マトリックス中に分散したグラフェンシート)を押出成形して、ナノ複合無機ペレット、シート、ロッド、または繊維を形成することができる。溶融させた無機物を所望の形状に直接成形し、固化させて、グラフェン強化無機マトリックスナノ複合物にすることもできる。
【0079】
本発明の別の一実施形態は、コーティングされた無機粒子を溶融させ、紡糸により繊維形態にする、噴霧により粉末形態にする、急速固化により加工する、またはキャスティングによりインゴットにすることである。
【0080】
この方法の別の好ましい一実施形態は、最小限の剪断を加えて、または混合して、コーティングされたペレットをヒートプレスして所望の形状に直接成形し、次にこれを固化させてグラフェン無機複合物にすることである。
【0081】
この方法の別の好ましい一実施形態は、コーティングされたペレットを焼結してそれらを所望の形状に直接成形することである。この焼結は、空隙の形成を減少させるために、圧力を加えて、または真空中で行うことができる。選択的レーザー焼結装置においてほぼ最終的な形状の物品を形成するために、コーティングされた無機粒子のレーザー焼結を使用することができる。
【0082】
従来技術と比較した場合の本発明の顕著な利点の1つは、担体材料の選択の自由度である。室温において、エネルギー衝突デバイスの処理温度において固体である実質的にあらゆる無機材料をグラフェン/無機ナノ複合物を製造するための固体担体材料として使用することができる。この方法は、ペレット、粉末、連続フィラメント、および金型/工具の形状による種々の形状などの種々の形状要因のグラフェン/無機複合物の形成に使用することができる。
【0083】
従来技術と比較した場合の本発明の別の顕著な利点の1つは、プロセスに投入される炭素材料の選択の自由度であり、サイズの減少が不要なことである。投入炭素材料は、フレーク形態の黒鉛、採鉱されたままの黒鉛(サイズ減少は行われない)、黒鉛アノードもしくは紙からの産業廃棄物、またはニードルコークスなどの産業副生成物であってよい。この自由度によって、工業規模で製造のための大幅なコスト削減が可能となる。
【0084】
望ましい一実施形態では、本発明による方法は、自動化された方法および/または連続方法で行われる。たとえば、
図5に示されるように、黒鉛粒子1および固体担体粒子2(および任意選択の衝突ボール)の混合物が、コンベヤベルト3によって送給され、連続ボールミル4中に供給される。ボールミル粉砕によってグラフェン被覆固体担体粒子が形成された後、生成混合物(ある程度の残留黒鉛粒子および任意選択の衝突ボールも場合により含む)はボールミル装置4からスクリーニング装置(たとえば回転ドラム5)中に放出されて、グラフェン被覆固体担体粒子が、残留黒鉛粒子(存在する場合)および衝突ボール(存在する場合)から分離される。この分離作業は、衝突ボールが強磁性(たとえばFe、Co、Ni、またはMnを主成分とする金属のボール)の場合は、磁気分離器6を役立てることができる。グラフェン被覆担体粒子は、粉末分級機、サイクロン、および/または静電分離器に送給することができる。粒子は、溶融7、プレス加工8、または粉砕/ペレット化装置9によってさらに処理することができる。これらの手順は完全に自動化することができる。本発明の方法は、生産材料の特性決定および分級、ならびに処理が不十分な材料の連続エネルギー衝突装置中への再循環を含むことができる。本発明の方法は、材料の性質および処理量を最適化するために、連続エネルギー衝突装置中への投入材料の重量監視を含むことができる。
【0085】
この方法の別の好ましい一実施形態は、コーティングされた無機ペレットを溶融させ、それらを表面内に噴霧して、グラフェン/無機ナノ複合物コーティングを形成することである。
【0086】
担体固体表面に移動したグラフェンシートは、黒鉛結晶のエッジ面に対応する大きな表面比率を有する。エッジ面における炭素原子は反応性であり、炭素の原子価を満たすためにある程度のヘテロ原子または基を含む必要がある。固体担体粒子に移動させることで形成されるグラフェンナノプレートレットのエッジまたは表面にもともと存在する多くの種類の官能基(たとえばヒドロキシルおよびカルボン酸)が存在する。衝突によって誘発されて担体粒子が受ける運動エネルギーは、担体粒子表面上を被覆するグラフェンシートのエッジ、さらには表面を化学的に活性化させる(たとえば高活性部位またはフリーラジカルを形成する)のに十分なエネルギーおよび強度を有する。所望の化学官能基(たとえば-NH2、Br-など)を含む特定の化学種を衝突チャンバー中に混入すると、これらの官能基をグラフェンのエッジおよび/または表面に付与することができる。言い換えると、グラフェンシートの製造および化学官能化は、衝突チャンバー中に適切な化合物を混入することによって同時に行うことができる。要約すると、他の方法に対する本発明の大きな利点の1つは、製造と表面化学の改質とを同時に行うことが簡単なことである。
【0087】
この方法によって得られるグラフェンプレートレットは、衝突チャンバー中に種々の化学種を混入することで官能化することができる。後述の化学種の各グループの中で、本発明者らは、官能化の研究のために2または3の化学種を選択した。
【0088】
化学物質の好ましいグループの1つでは、結果として得られる官能化NGPは、式:[NGP]-Rmで大まかに表すことができ、式中、mは異なる官能基の種類の数(典型的には1~5の間)であり、Rは、SO3H、COOH、NH2、OH、R’CHOH、CHO、CN、COCl、ハライド、COSH、SH、COOR’、SR’、SiR’3、Si(-OR’-)yR’3-y、Si(-O-SiR’2-)OR’、R”、Li、AlR’2、Hg-X、TlZ2およびMg-Xから選択され;yは3以下の整数であり、R’は、水素、アルキル、アリール、シクロアルキル、またはアラルキル、シクロアリール、またはポリ(アルキルエーテル)であり、R”は、フルオロアルキル、フルオロアリール、フルオロシクロアルキル、フルオロアラルキル、またはシクロアリールであり、Xはハライドであり、Zはカルボキシレートまたはトリフルオロアセテートである。
【0089】
グラフェン被覆無機粒子は、機械的性質、導電率、および熱伝導率を改善するエポキシ樹脂中の強化フィラーとして使用することができる。エポキシ樹脂との適合性のため、官能基-NH2が特に興味深い。たとえば、エポキシ樹脂の一般的に使用される硬化剤の1つは、3つの-NH2基を有するジエチレントリアミン(DETA)である。DETAが衝突チャンバー中に含まれる場合、その3つの-NH2基の中の1つがグラフェンシートのエッジまたは表面に結合することができ、残りの2つの未反応-NH2基はエポキシ樹脂との反応に利用することができる。このような配置によって、無機粒子を包み込むグラフェンシートとエポキシマトリックスとの間に良好な界面結合が形成される。
【0090】
他の有用な化学官能基または反応性分子は、アミドアミン、ポリアミド、脂肪族アミン、変性脂肪族アミン、脂環式アミン、芳香族アミン、無水物、ケチミン、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、ポリエチレンポリアミン、ポリアミンエポキシ付加体、フェノール系硬化剤、非臭素化硬化剤、非アミン硬化剤、およびそれらの組合せからなる群から選択することができる。これらの官能基は、多官能性であり、少なくとも2つの末端から少なくとも2つの化学種と反応可能である。最も重要なことには、これらは、その末端の1つを用いて、グラフェンのエッジまたは表面に結合可能であり、エポキシ硬化段階中に、1つまたは2つの他の末端でエポキシドまたはエポキシ樹脂材料と反応可能である。
【0091】
上記の[NGP]-Rmはさらに官能化することができる。これは、-Rm基グラフェンシートに結合させた後に衝突チャンバーの蓋を開け、次に新しい官能化剤を衝突チャンバーに加え、衝突操作を再開することによって行うことができる。この結果得られるグラフェンシートまたはプレートレットは、式:[NGP]-Am(式中、Aは、OY、NHY、O=C-OY、P=C-NR’Y、O=C-SY、O=C-Y、-CR’1-OY、N’Y、またはC’Yから選択され、Yは、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、酵素、抗体、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、抗原、もしくは酵素基質、酵素阻害剤、もしくは酵素基質の遷移状態アナログの適切な官能基である、またはR’-OH、R’-NR’2、R’SH、R’CHO、R’CN、R’X、R’N+(R’)3X-、R’SiR’3、R’Si(-OR’-)yR’3-y、R’Si(-O-SiR’2-)OR’、R’-R”、R’-N-CO、(C2H4O-)wH、(-C3H6O-)wH、(-C2H4O)w-R’、(C3H6O)w-R’、R’から選択され、wは1を超え200未満の整数である)の組成を含む。
【0092】
NGPは、式:[NGP]-[R’-A]m(式中、m、R’、およびAは前述の定義の通りである)で表される組成物が生成されるように官能化することもできる。本発明の組成物は、ある種の環状化合物が上に吸着するNGPも含む。これらは、式:[NGP]-[X-Ra]m(式中、aは0または10未満の数であり、Xは、多環式芳香族、複素多環式芳香族、または金属複素多環式芳香族部分であり、Rは前述の定義の通りである)の物質の組成物を含む。好ましい環状化合物は平面状である。吸着のためのより好ましい環状化合物はポルフィリンおよびフタロシアニンである。吸着した環状化合物は官能化することができる。このような組成物は、式、[NGP]-[X-Aa]m(式中、m、a、X、およびAは前述の定義の通りである)の化合物を含む。
【0093】
本発明の官能化NGPは、スルホン化、脱酸素したプレートレット表面への求電子付加、またはメタル化によって調製することができる。黒鉛プレートレットは、官能化剤を接触させる前に処理することができる。このような処理としては、溶媒中へのプレートレットの分散を挙げることができる。ある場合では、次にプレートレットを濾過し、乾燥させた後に接触させることができる。官能基の特定の有用な種類の1つは、カルボン酸部分であり、これは、NGPが前述の酸インターカレーション経路から調製される場合に、NGP表面上にもともと存在する。カルボン酸官能化が必要な場合、NGPは、クロレート、硝酸、または過硫酸アンモニウム酸化を行うことができる。
【0094】
カルボン酸官能化黒鉛プレートレットは、別の種類の官能化NGPを調製するための出発点として機能できるので、特に有用である。たとえば、アルコールまたはアミドは、酸と容易に結合して安定なエステルまたはアミドを得ることができる。アルコールまたはアミンが二官能性または多官能性分子の一部である場合、O-またはNH-を介した結合によって別の官能基がペンダント基として残る。これらの反応は、当技術分野において周知のようなカルボン酸のアルコールまたはアミンによるエステル化またはアミノ化のために開発されたいずれかの方法を用いて行うことができる。これらの方法の例は、G.W.Anderson,et al.,J.Amer.Chem.Soc.96,1839(1965)に見ることができ、その全体が参照により本明細書に援用される。プレートレットを硝酸および硫酸で処理してニトロ化プレートレットを得て、次にそのニトロ化形態を亜ジチオン酸ナトリウムなどの還元剤で化学的に還元して、アミノ官能化プレートレットを得ることによって、アミノ基を黒鉛プレートレット上に直接導入することができる。
【0095】
無機マトリックス中にドーパントを導入する方法として、グラフェン被覆無機粒子の官能化を使用することができる。
【0096】
以下の実施例は、本発明の実施の最良の形態を提供する役割を果たすものであり、本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。
【実施例】
【0097】
実施例1:グラフェン強化銅マトリックス複合物
実験において、1kgの銅粉末、100グラムの50メッシュのフレーク黒鉛(平均粒度0.18mm;Asbury Carbons、Asbury NJ)、および110グラムの磁性ステンレス鋼ピン(Raytech Industries、Middletown CT)を高エネルギーボールミル容器中に入れた。このボールミルを300rpmで4時間運転した。容器の蓋を取り外し、磁気分離によりステンレス鋼ピンを除去した。無機担体材料の粒子は、ラマン分光法によってグラフェンであることが確認された暗色層で覆われていることが分かった。担体材料を50メッシュのふるいの上に置き、少量の未処理のフレーク黒鉛を除去した。
【0098】
この材料の10グラムの試料をプレス成形によって円板に圧縮し、次に、アルゴンが流れる適切な温度の炉内で焼結させた。さらに10グラムの試料を熱間静水圧プレス(HIP)によってプレスし緻密化した。
【0099】
上記材料の10グラムの試料を、85MPaおよび425℃においてアルゴン下でプレス成形によって円板に圧縮した。Stapla Condor超音波溶接機を用いて超音波エネルギーを20khzで4秒間加えて、緻密化された円板を形成した。
【0100】
実施例2:官能化グラフェン強化銅マトリックス無機複合物
窒素源として50グラムの尿素を含むことで、実施例1の方法を繰り返した。形成されたコーティングされた粉末は、実施例1と同じ方法を用いて円板に成形した。
【0101】
実施例3:グラフェン強化スズ複合物
実験において、2グラムの純度99.9%のスズ粉末および0.25グラムのHOPGを共鳴音響ミル(Lab Ram、Resodyn Inc、Butte MT)中にステンレス鋼ボールとともに入れ、5分間処理した。続いて、コーティングされたスズ粒子を室温で圧縮し、240℃で溶融させ、固化させて、グラフェン強化スズマトリックス複合物の円板を形成した。
【0102】
実施例4:グラフェン強化アルミニウムマトリックス複合物
実験において、500gのアルミニウム粉末および50グラムの高配向熱分解黒鉛(HOPC)を共鳴音響ミル(Lab Ram、Resodyn Inc、Butte MT)中に入れた。このミルを20分間運転した後、容器を取り外し、未処理のHOPGを50メッシュのふるいで除去した。アルミニウム粉末は、ラマン分光法によってグラフェンであることが確認された暗色層で覆われていることが分かった。
【0103】
この材料の10グラムの試料をプレス成形によって円板に圧縮し、次に、アルゴンが流れる適切な温度の炉内で焼結させた。さらに10グラムの試料を熱間静水圧プレス(HIP)によってプレスし緻密化した。
【0104】
上記材料の10グラムの試料を、45MPaおよび325℃においてアルゴン下でプレス成形によって円板に圧縮した。Stapla Condor超音波溶接機を用いて超音波エネルギーを20khzで4秒間加えて、緻密化された円板を形成した。
【0105】
実施例5:メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)からのグラフェン-ガラス複合物
一例では、500グラムのホウケイ酸ガラス粉末(担体材料)および10グラムのMCMB(China Steel Chemical Co.、Taiwan)をボールミル中に入れ、3時間処理した。別の実験で、未処理のMCMBをふるい分け、空気分級により除去し、溶媒溶液中に中電させた。コーティングされた粒子のグラフェン使用量は、1.4重量%と推定された。圧縮した試料は、従来の1200Wの家庭用電子レンジを用いてセラミック繊維の密閉容器(Fuzeworks、Diamond Tech Inc.、Tampa Florida)中で焼結させた。コーティングされたガラス粉末の少量の試料を誘導炉中に入れ、ガラス繊維の延伸に使用した。
【0106】
実施例6:選択的レーザー焼結によるグラフェン-ガラス複合物
前述の実施例5で作製した材料の200グラムのグラフェン被覆ガラス粉末から、選択的レーザー焼結装置によって、引張試験棒を作製した。熱応力を減少させるためにこれらの棒をアニールした。熱膨張係数(CTE)および引張強度を測定した。
【0107】
実施例7:官能化グラフェン無機マトリックス複合物
別の実験において、ボールミルプロセス中または二次的ボールミルステップ中のいずれかで、以下の官能基含有種をグラフェン銅複合物に導入した:アミノ酸、スルホン酸基(-SO3H)、2-アジドエタノール、ポリアミド(カプロラクタム)、およびアルデヒド基。これらのグラフェン被覆粉末を次に複合材料のフィラー材料として使用した。一般に、これらの官能基によって、結果として得られるグラフェンシートと、エポキシ、ポリエステル、ポリイミド、およびビニルエステルのマトリックス材料との間に大幅に改善された界面結合が形成され、より強いポリマーマトリックス複合物が形成されることが分かった。短梁(short beam)剪断試験と、走査型電子顕微鏡法(SEM)による破断面検査との組合せを用いることによって、界面結合強度を半定量的に測定した。非官能化グラフェンシートは、残留マトリックスがグラフェンシート表面に結合せずに破面から突出する傾向にある。対照的に、官能化グラフェンシートを含む複合物試料の破面は、裸のグラフェンシートが全く見られず;グラフェンシートであると思われるものは、樹脂マトリックス中に完全に埋め込まれていた。
【0108】
実施例8:フリーザーミルによるグラフェン-セラミック複合物
実験において、10グラムの二酸化チタン粉末および1グラムのグラフェンナノプレートレット(N006-pグラフェン、Angstron Materials、Dayton、Ohio)をフリーザーミル(Spex Mill、Spex Sample Prep、Metuchen NJ)中に入れ、10分間処理した。コーティングされた粒子の試料を圧縮し、続いてマイクロ波焼結を行った。第2の試料を炭酸バリウムと混合し、同じ方法で処理して、チタン酸バリウムを形成した。導電率を4点プローブによって測定した。
【0109】
比較例1:Hummerの方法によるグラフェンおよび無機複合物
酸化黒鉛は、Hummersの方法[米国特許第2,798,878号明細書、1957年7月9日]による硫酸、硝酸塩、および過マンガン酸塩を用いた黒鉛フレークの酸化によって調製される。反応終了後、得られた混合物を脱イオン水中に注ぎ、濾過した。大部分の硫酸イオンを除去するため、得られた酸化黒鉛をHClの5%溶液中で繰り返し洗浄した。次に、濾液のpHが中性となるまで、試料を脱イオン水で繰り返し洗浄した。得られたスラリーを噴霧乾燥し、真空オーブン中60℃で24時間保管した。結果として得られる層状酸化黒鉛の層間隔をDebey-ScherrerのX線技術によって測定すると約0.73nm(7.3A)であった。次にこの材料の試料を、剥離のために、650℃にあらかじめ設定した炉に4分間入れ、1200℃の不活性雰囲気の炉中で4時間加熱して、数層還元酸化グラフェン(RGO)から構成される低密度粉末を形成した。窒素吸着BETによって表面積を測定した。
【0110】
続いて、ボールミルによって20分の時間で、この粉末を1%~15%の使用量で銅フレーク、アルミニウム粉末、ホウケイ酸ガラス粉末、およびアルミナ粉末とそれぞれ乾式混合した。配合した材料をプレスして緻密化し、適切な温度において不活性雰囲気中で焼結を行った。
【0111】
試験結果のまとめ:
無機マトリックス複合物の構造および性質を測定するために、走査型電子顕微鏡法(SEM)、透過型電子顕微鏡法(TEM)、ラマン分光法、曲げ強度試験(曲げ強度および弾性率測定のための長梁(long beam)試験と、層間または界面結合の評価のための短梁剪断試験との両方)、比表面積(SSA)を求めるためのBET試験、導電率(4点プローブ)試験、および熱伝導率(レーザーフラッシュ)試験を行った。以下は、より顕著な結果の一部のまとめである:
1)一般に、衝突ボールを加えることは、黒鉛粒子からのグラフェンシートの剥離過程の促進に役立つ。しかし、この選択肢は、グラフェン被覆無機粒子の作製後にこれらの衝突ボールの分離が必要である。
2)衝突粒子(セラミック、ガラス、金属のボールなど)が使用されない場合、より硬質の無機粒子(たとえばアルミナ、サファイア、ジルコニア)は、より軟質の無機粒子(たとえば銅、スズ、アルミニウム)と比較すると、黒鉛粒子からグラフェンシートを剥離する能力が高い。
3)外部から加えられる衝突ボールがない場合、より軟質の無機粒子によって、0.01重量%~5重量%のグラフェン(ほとんどが単層グラフェンシート)を有するグラフェン被覆粒子または埋め込み粒子が得られる傾向にあり、より硬質の無機ボールによって、0.1重量%~30重量%のグラフェン(ほとんどが単層および数層グラフェンシート)を有するグラフェン被覆粒子が得られる傾向にある。
4)外部から加えられる衝突ボールを有する場合、すべての無機ボールは、0.01重量%~約80重量%のグラフェンシート(ほとんどが数層グラフェン、30重量%を超える場合は<10層)を支持することができる。
5)本発明による方法によって製造されたグラフェン強化無機マトリックス複合物(グラフェン/無機ナノ複合物)は、典型的には、これまでの従来技術の方法によって製造されたそれらの相当物と比較すると、はるかに高い曲げ強度を示す。破断面のSEM検査によって、本発明によるグラフェン/無機ナノ複合物中でグラフェンがはるかにより均一に分散していることが分かる。ナノフィラーの凝集は、複合材料中の亀裂発生源となりうる。
6)本発明による方法によって製造されたグラフェン/無機ナノ複合物は、はるかに低い浸透閾値も有する。浸透閾値は、他の場合には非伝導性である無機マトリックス中に電子伝導経路の網目構造を形成可能な伝導性フィラーの臨界体積分率または重量分率である。これは典型的には、導電率対フィラー分率曲線における1~5桁での大きさの急上昇を特徴とする。たとえば、本発明によるグラフェン/ジルコニアナノ複合物は、2.0%の低い浸透閾値を示すことができるが、従来技術の方法によって製造された同じ種類の複合物は、その浸透閾値を実現するために典型的には約4.5重量%のグラフェンシートを必要とする。
7)低温処理後、化学官能化グラフェンシートを含有するグラフェン/無機ナノ複合物は、非官能化グラフェンシートを含む複合物と比較すると、はるかに高い短梁剪断強度を示す。これは、グラフェン製造/官能化を組み合わせた本発明による方法の驚くべき有効性を示している。