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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-23
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】医薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/39 20060101AFI20220203BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20220203BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20220203BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20220203BHJP
   C07K 16/30 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
A61K39/39 ZNA
A61K39/00 Z
A61P35/00
A61P43/00 121
A61P37/04
A61K31/7088
A61K38/17
C07K16/30
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018544679
(86)(22)【出願日】2017-04-14
(86)【国際出願番号】 JP2017015227
(87)【国際公開番号】W WO2018070069
(87)【国際公開日】2018-04-19
【審査請求日】2020-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2016200227
(32)【優先日】2016-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】517102237
【氏名又は名称】サイトリミック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】宮川 知也
(72)【発明者】
【氏名】土肥 俊
(72)【発明者】
【氏名】玉田 耕治
【審査官】横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/168379(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/056596(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/143816(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/163489(WO,A1)
【文献】Cancer Sci., 2016 April, vol.107 No.4, p.398-406
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Poly I:C又はその塩と、
LAG-3タンパク質とIgGの融合タンパク質と、
配列番号7で示されるアミノ酸配列を有するHSP70由来ペプチド及び配列番号16で示されるアミノ酸配列を有するGPC3由来ペプチドと、
を含む、がん細胞に対する特異的な免疫応答の誘導に用いられる医薬。
【請求項2】
Poly I:C又はその塩と、
LAG-3タンパク質とIgGの融合タンパク質と、を併用投与するための、請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
前記Poly I:Cが、Poly ICLCである、請求項1又は2に記載の医薬。
【請求項4】
がんワクチン療法に用いられる、請求項1からのいずれか1項に記載の医薬。
【請求項5】
抗がん剤である、請求項1からいずれか1項に記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Toll様受容体アゴニストと、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体と、を含む医薬等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、がん細胞に特異的に発現するがん抗原を標的とするがん免疫療法が開発されている。中でも「がんワクチン療法」は、がん抗原を直接患者に投与することにより、患者の体内でがん抗原に対する特異的な免疫応答を誘導して、がんを退縮させる方法である。患者に投与するがん抗原としては、がん抗原タンパク質自体、がん抗原由来ペプチド、それらをコードする核酸、がん抗原を提示させた樹状細胞、及びがん細胞自体等が用いられている。
【0003】
がん抗原による免疫応答の誘導を増強するために、がん抗原と一緒にアジュバントを投与することも行われている。アジュバントとしては、各種の免疫担当細胞を刺激するサイトカインやToll様受容体(TLR)アゴニスト等が利用されている。
【0004】
アジュバントに用いられるToll様受容体アゴニスト(TLRアゴニスト)としては、TLR1~TLR10のいずれのアゴニストを用いることもできる(例えば非特許文献1及び2)。例えば、TLR3は、ウイルス由来の二本鎖RNAを認識し、強い抗ウイルス作用を示すI型インターフェロンの産生を促す自然免疫系分子の一つである。TLR3アゴニストとして知られる、二本鎖RNAアナログのPoly I:C(ポリイノシンポリシチジン酸、Polyinosinic:polycytidylic acidとも呼ばれる。)もワクチン用アジュバントとして用いられることが知られている(例えば特許文献1)。また、TLR9は、細菌やウイルス由来の非メチル化CpG DNAを認識して機能する自然免疫系分子の一つである。TLR9のリガンドであるCpG ODN(合成核酸CpGオリゴデオキシヌクレオチド)にもワクチン用アジュバント効果があることが知られている。
【0005】
また、LAG-3もワクチン用アジュバントとして用いられることが知られている(例えば特許文献2)。LAG-3は、リンパ球活性化遺伝子(lymphocyte activation gene 3)の翻訳産物であり、CD223とも呼ばれる。LAG-3は、MHCクラスII分子と結合し、活性化T細胞の増殖やT細胞の恒常性維持において負の制御を行い、制御性T細胞(Treg)の機能において重要な役割を担うことや、形質細胞用樹状細胞の恒常性の制御にも関与することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2011-506309号公報
【文献】特表2001-510806号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】OncoImmunology 1:5, 699-716; August 2012
【文献】OncoImmunology 2:8, e25238; August 2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、アジュバントの新規な組合せを含む医薬を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、種々のアジュバントを単独で又は組み合わせて用いて種々検討した結果、例えば、がん免疫を誘導するのに有用な医薬としての新規組合せを見出した。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕
Toll様受容体アゴニストと、
LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体と、
を含む、医薬。
〔2〕
Toll様受容体アゴニストと、
LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体と、を併用投与するための、〔1〕に記載の医薬。
〔3〕
前記Toll様受容体アゴニストが、Toll様受容体3アゴニスト又はToll様受容体9アゴニストである、〔1〕又は〔2〕に記載の医薬。
〔4〕
前記Toll様受容体アゴニストが、Poly I:C又はその塩である、〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の医薬。
〔5〕
前記Poly I:Cが、Poly ICLCである、〔4〕に記載の医薬。
〔6〕
前記LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体が、LAG-3タンパク質とIgGの融合タンパク質である、〔1〕から〔5〕のいずれかに記載の医薬。
〔6’〕
少なくとも1種のがん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する物質をさらに含む、〔1〕から〔6〕のいずれかに記載の医薬。
〔6’’〕
Toll様受容体アゴニストと、
LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体と、
少なくとも1種のがん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する物質と、を併用投与するための、〔6’〕に記載の医薬。
〔7〕
少なくとも1種のがん抗原由来ペプチドをさらに含む、〔1〕から〔6〕のいずれかに記載の医薬。
〔8〕
前記少なくとも1種のがん抗原由来ペプチドが、HSP70由来ペプチド又はGPC3由来ペプチドである、〔7〕に記載の医薬。
〔9〕
HSP70由来ペプチド及びGPC3由来ペプチドからなる群から選択される少なくとも1種のがん抗原由来ペプチドと、
Poly ICLCと、
LAG-3タンパク質又はLAG-3タンパク質とIgGの融合タンパク質と、を含む、〔7〕又は〔8〕に記載の医薬。
〔10〕
配列番号7で示されるアミノ酸配列を有するHSP70由来ペプチド又は配列番号16で示されるアミノ酸配列を有するGPC3由来ペプチドを含む、〔9〕に記載の医薬。
〔11〕
2種以上のがん抗原由来ペプチドを含む、〔7〕から〔10〕のいずれかに記載の医薬。
〔12〕
HSP70由来ペプチドと、HSP70由来ペプチド以外のがん抗原由来ペプチドと、を含む、〔11〕に記載の医薬。
〔13〕
GPC3由来ペプチドと、GPC3由来ペプチド以外のがん抗原由来ペプチドと、を含む、〔11〕に記載の医薬。
〔14〕
HSP70由来ペプチドと、GPC3由来ペプチドと、を含む、〔11〕に記載の医薬。
〔15〕
配列番号7で示されるアミノ酸配列を有するHSP70由来ペプチドと、配列番号16で示されるアミノ酸配列を有するGPC3由来ペプチドと、を含む、〔14〕に記載の医薬。
〔16〕
HSP70由来ペプチドと、HSP70由来ペプチド以外のがん抗原由来ペプチドと、
Poly ICLCと、
LAG-3タンパク質又はLAG-3タンパク質とIgGの融合タンパク質と、を含む、〔12〕に記載の医薬。
〔17〕
GPC3由来ペプチドと、GPC3由来ペプチド以外のがん抗原由来ペプチドと、
Poly ICLCと、
LAG-3タンパク質又はLAG-3タンパク質とIgGの融合タンパク質と、を含む、〔13〕に記載の医薬。
〔18〕
HSP70由来ペプチドと、GPC3由来ペプチドと、
Poly ICLCと、
LAG-3タンパク質又はLAG-3タンパク質とIgGの融合タンパク質と、を含む、〔14〕に記載の医薬。
〔19〕
配列番号7で示されるアミノ酸配列を有するHSP70由来ペプチドと、配列番号16で示されるアミノ酸配列を有するGPC3由来ペプチドと、を含む、〔18〕に記載の医薬。
〔20〕
がんワクチン療法に用いられる、〔1〕から〔19〕のいずれかに記載の医薬。
〔21〕
抗がん剤である、〔1〕から〔20〕のいずれかに記載の医薬。
〔22〕
Toll様受容体アゴニストと、
LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体と、
を含むがん細胞に対する特異的な免疫応答の誘導に用いられる、あるいは、がんワクチン療法に用いられるアジュバント。
〔23〕
Toll様受容体アゴニストと、
LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体と、
を含むがん細胞に対する特異的な免疫応答の誘導に用いられる、あるいは、がんワクチン療法に用いられる組合せ。
〔24〕
Toll様受容体アゴニストと、
LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体を、それを必要とする患者に投与する、患者の疾患を治療又は予防する方法。
〔25〕
Toll様受容体アゴニストと、
LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体を、それを必要とする患者に投与する、がん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アジュバントの新規な組合せを含む医薬を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、がん抗原由来ペプチドを用いたがんワクチンにおける各種アジュバントの効果を比較した試験のプロトコールの概略を示す。
図2図2は、図1の試験において、コントロールとしてPBSを用いた1群の腫瘍サイズの変化を示す。
図3図3は、図1の試験において、アジュバントとしてIFAを用いた2群の腫瘍サイズの変化を示す。
図4図4は、図1の試験において、アジュバントとしてPTを用いた3群の腫瘍サイズの変化を示す。
図5図5は、図1の試験において、アジュバントとしてPoly I:Cを用いた4群の腫瘍サイズの変化を示す。
図6図6は、図1の試験において、アジュバントとしてPoly I:CとCpGの組合せを用いた5群の腫瘍サイズの変化を示す。
図7図7は、図1の試験において、アジュバントとしてLAG-3Igを用いた6群の腫瘍サイズの変化を示す。
図8図8は、図1の試験において、アジュバントとしてLAG-3IgとPoly I:Cの組合せを用いた7群の腫瘍サイズの変化を示す。
図9A図9Aは、図1と同様の試験における腫瘍組織のヘマトキシリン・エオジン染色像を示す。
図9B図9Bは、図1と同様の試験における腫瘍組織の細胞核及び免疫細胞の蛍光染色像を示す。
図10図10は、図1と同様の試験でがんワクチン(アジュバントとしてLAG-3IgとPoly I:Cを用いた場合)により腫瘍サイズの増大を抑制できたマウスに、後日再度腫瘍細胞を接種して腫瘍サイズの増大を測定した結果を示す。
図11A図11Aは、図1と同様の試験でがんワクチンを接種したマウスからリンパ節を採取し、リンパ節から分離した免疫細胞と、あらかじめ放射線を照射して不活化した腫瘍細胞とを共培養した後、免疫細胞の増殖能を測定した結果を示す。
図11B図11Bは、図11Aと同じ共培養後、細胞上清中のサイトカイン等の量を測定した結果を示す。
図12A図12Aは、図1と同様の試験でがんワクチンを接種したマウスからリンパ節を採取し、リンパ節から分離したCD8陽性免疫細胞における細胞表面マーカー分子PD-1、BTLA、TIGIT、及びLAG-3の発現を測定した結果を示す。
図12B図12Bは、図1と同様の試験でがんワクチンを接種したマウスからリンパ節を採取し、リンパ節から分離したCD4陽性免疫細胞における細胞表面マーカー分子PD-1、BTLA、TIGIT、及びLAG-3の発現を測定した結果を示す。
図13図13Aは、免疫細胞増殖能の測定結果を示す。図13Bは、IFN-γ産生量の測定結果を示す。
図14図14は、コントロールとしてPBSを用いた1群の腫瘍サイズの変化を示す。
図15図15は、アジュバントとしてPoly I:Cを用いた2群の腫瘍サイズの変化を示す。
図16図16は、アジュバントとしてLAG-3IgとPoly I:Cの組合せを用いた3群の腫瘍サイズの変化を示す。
図17図17は、P1Aペプチドを用いず、LAG-3IgとPoly I:Cの組合せのみを用いた4群の腫瘍サイズの変化を示す。
図18図18は、アジュバントとしてRIBOXXOLを用いた5群の腫瘍サイズの変化を示す。
図19図19は、アジュバントとしてLAG-3IgとRIBOXXOLの組合せを用いた6群の腫瘍サイズの変化を示す。
図20図20は、アジュバントとしてLAG-3IgとMPLの組合せを用いた7群の腫瘍サイズの変化を示す。
図21図21は、アジュバントとしてLAG-3IgとImiquimodの組合せを用いた8群の腫瘍サイズの変化を示す。
図22図22は、アジュバントとしてLAG-3IgとCpGの組合せを用いた9群の腫瘍サイズの変化を示す。
図23図23は、アジュバントとしてIFAを用いた1群の腫瘍サイズの変化を示す。
図24図24は、アジュバントとしてPoly I:Cを用いた2群の腫瘍サイズの変化を示す。
図25図25は、アジュバントとしてLAG-3Igを用いた3群の腫瘍サイズの変化を示す。
図26図26は、アジュバントとしてLAG-3IgとPoly I:Cの組合せを用いた4群の腫瘍サイズの変化を示す。
図27A図27Aは、食道がん患者に対し、HSP70由来ペプチド、GPC3由来ペプチド、Poly ICLC (製品名「Hiltonol」)及びLAG-3Ig(IMP321)の組合せを10回投与した後、患者血液から分離培養した免疫細胞からのIFN-γ産生量を示す。
図27B図27Bは、肝臓がん患者に対し、HSP70由来ペプチド、GPC3由来ペプチド、Poly ICLC (製品名「Hiltonol」)及びLAG-3Ig(IMP321)の組合せを10回投与した後、患者血液から分離培養した免疫細胞からのIFN-γ産生量を示す。
図28A図28Aは、肝臓がん患者に対し、HSP70由来ペプチド、GPC3由来ペプチド、Poly ICLC (製品名「Hiltonol」)及びLAG-3Ig(IMP321)の組合せを4回投与した後、患者血液から分離培養した免疫細胞からのIFN-γ産生量を示す。
図28B図28Bは、直腸がん患者に対し、HSP70由来ペプチド、GPC3由来ペプチド、Poly ICLC (製品名「Hiltonol」)及びLAG-3Ig(IMP321)の組合せを8回投与した後、患者血液から分離培養した免疫細胞からのIFN-γ産生量を示す。
図28C図28Cは、食道がん患者に対し、HSP70由来ペプチド、GPC3由来ペプチド、Poly ICLC (製品名「Hiltonol」)及びLAG-3Ig(IMP321)の組合せを8回投与した後、患者血液から分離培養した免疫細胞からのIFN-γ産生量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を、発明を実施するための形態により具体的に説明するが、本発明は、以下の発明を実施するための形態に限定されるものではなく、種々変形して実施することができる。
【0013】
本発明に係る医薬は、Toll様受容体アゴニスト(TLRアゴニスト)と、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体と、を含む。
【0014】
本明細書において「Toll様受容体アゴニスト(TLRアゴニスト)」とは、いずれかのToll様受容体(TLR)に結合すると、TLRに天然のリガンドが結合したときと同じように刺激を与える分子を意味する。TLRアゴニストとしては、非特許文献1及び2、Trends in Immunology, Vol.30, No.1, 23-32、Immunity 33, October 29, 2010, 492-503、World Journal of Vaccines, 2011, 1, 33-78並びにOncoImmunology 1:6, 894-907; September 2012に記載されるようなTLRのアゴニストが知られており、これら公知のTLRのアゴニストを本発明におけるTLRアゴニストとして用いることができる。
TLRアゴニストとして、TLR1アゴニスト~TLR10アゴニストが挙げられるが、例えば、TLR3アゴニスト、TLR4アゴニスト、TLR7アゴニスト、TLR8アゴニスト、TLR9アゴニスト又はTLR10アゴニストとすることができる。中でも、TLRアゴニストは、TLR3アゴニスト又はTLR9アゴニストであってもよい。
【0015】
本明細書において「TLR1アゴニスト」とは、TLR1に結合すると、TLR1に天然のリガンドが結合したときと同じように刺激を与える分子を意味する。TLR1は、lipoprotein等を認識し、自然免疫系を活性化する。
TLR1アゴニストとしては、例えば、lipoprotein、Triacylated lipopeptides、及びZymosan等が挙げられる。
【0016】
本明細書において「TLR2アゴニスト」とは、TLR2に結合すると、TLR2に天然のリガンドが結合したときと同じように刺激を与える分子を意味する。TLR2は、Acylated lipopeptides等を認識し、自然免疫系を活性化する。
TLR2アゴニストとしては、例えば、SMP-105, Acylated lipopeptides、Amphotericin B、Atypical LPS、Byglican、Forins、Glyco(phospho)lipids、Lipoteichoic acid、Peptidoglycan、Phenol soluble modulin、及びZymosan等が挙げられる。
【0017】
本明細書において「TLR3アゴニスト」とは、TLR3に結合すると、TLR3に天然のリガンドが結合したときと同じように刺激を与える分子を意味する。TLR3は、ウイルス由来の二本鎖RNAを認識し、自然免疫系を活性化する。TLR3アゴニストとしては、二本鎖RNAに構造が似た合成二本鎖ポリヌクレオチドのPoly I:Cが知られているがこれに限定されない。
本発明に用いる場合、Poly I:Cはその塩であってもよく、例えばナトリウム塩とすることができる。また、Poly I:Cとしては、Poly ICLCを用いることもできる。TLR3アゴニストとしては、RIBOXXOLを用いることもできる。
TLR3アゴニストとしては、例えば、Poly I:C、Poly ICLC (製品名「Hiltonol」)、RIBOXXOL、Ampligen、IPH-3102、cM362-139、及びcM362-140等が挙げられる。
TLR3アゴニストとしては、好ましくはPoly I:Cが用いられるが、Poly I:Cの中でも、Poly-LysineとCarboxymethylcelluloseで安定化させたPoly ICLC (製品名「Hiltonol」)が用いられる。
【0018】
本明細書において「TLR4アゴニスト」とは、TLR4に結合すると、TLR4に天然のリガンドが結合したときと同じように刺激を与える分子を意味する。TLR4は、細菌由来のリポ多糖(LPS)を認識し、自然免疫系を活性化する。TLR4アゴニストとしては、MPLが知られているがこれに限定されない。本発明に用いる場合、MPLはその塩であってもよく、例えばナトリウム塩とすることができる。
TLR4アゴニストとしては、例えば、MPL、MPLA、OM-174 (CRX-527)、Picibanil (OK-432)、及びONO-4007等が挙げられる。
【0019】
本明細書において「TLR5アゴニスト」とは、TLR5に結合すると、TLR5に天然のリガンドが結合したときと同じように刺激を与える分子を意味する。TLR5は、細菌由来のフラジェリン(Flagellin)を認識し、自然免疫系を活性化する。TLR5アゴニストとしては、各種細菌由来のフラジェリン又はフラジェリンの組換え蛋白質が知られているがこれに限定されない。
TLR5アゴニストとしては、例えば、CBLB502等が挙げられる。
【0020】
本明細書において「TLR6アゴニスト」とは、TLR6に結合すると、TLR6に天然のリガンドが結合したときと同じように刺激を与える分子を意味する。TLR6は、lipoprotein等を認識し、自然免疫系を活性化する。
TLR6アゴニストとしては、例えば、Diacylated lipopeptides、Lipoproteins、Lipoteichoic acid、及びZymosan等が挙げられる。
【0021】
本明細書において「TLR7アゴニスト」とは、TLR7に結合すると、TLR7に天然のリガンドが結合したときと同じように刺激を与える分子を意味する。
また、本明細書において「TLR8アゴニスト」とは、TLR8に結合すると、TLR8に天然のリガンドが結合したときと同じように刺激を与える分子をいう。
TLR7及びTLR8は、ウイルス由来の一本鎖RNAを認識し、自然免疫系を活性化する。TLR7/8アゴニストとしては、Imiquimodが知られているがこれに限定されない。本発明に用いる場合、Imiquimodはその塩であってもよく、例えばナトリウム塩とすることができる。
TLR7/8アゴニストとしては、例えば、Imiquimod (S-26308, R-837)、Resimiquimod (R-848)、3M-052、852A、VTX-1463、VTX-2337、AZD8848 (DSP-3025)、ANA773、及びTMX-101等が挙げられる。
【0022】
本明細書において「TLR9アゴニスト」とは、TLR9に結合すると、TLR9に天然のリガンドが結合したときと同じように刺激を与える分子を意味する。TLR9は、細菌やウイルス由来のCpG DNAを認識し、自然免疫系を活性化する。TLR9アゴニストとしては、CpG ODNが知られているがこれに限定されない。本発明に用いる場合、CpG ODN (CpG oligodeoxynucleotide)はその塩であってもよく、例えばナトリウム塩とすることができる。
TLR9アゴニストとしては、例えば、CpG、CpG-28、CpG-685 (GNKG168)、CpG-1826、CpG-7909 (PF-3512676, Agatolimod, promune(登録商標))、ODN1585、IMO-2125、IMO-2055 (EMD1201081)、ISS1018、MGN-1703、MGN-1706、AVE0675、QAX-935、SAR-21609、SD-101、及びDIMS0150等のCpG ODNが挙げられる。
【0023】
本明細書において「TLR10アゴニスト」とは、TLR10に結合すると、TLR10に天然のリガンドが結合したときと同じように刺激を与える分子を意味する。TLR10は、acylated lipopeptide等を認識し、自然免疫系を活性化する。
TLR10アゴニストとしては、例えば、acylated lipopeptide等が挙げられる。
【0024】
本明細書において「LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体」とは、LAG-3タンパク質、その機能的な変異体、又はその機能的な誘導体を意味する。本発明に用いられるLAG-3タンパク質は、どの動物に由来するものであってもよいが、例えば、本発明に係る医薬を投与する対象と同じ動物に由来するタンパク質とすることができる。したがって、本発明に係る医薬がヒトに投与されるものであれば、ヒトLAG-3を用いることができる。LAG-3タンパク質は、ヒトの場合、NCBI Accession No. P18627.5に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質である。
【0025】
LAG-3タンパク質の機能的な変異体とは、(i) LAG-3のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が付加、置換、又は欠失したアミノ酸配列からなるLAG-3の変異体であって、本発明の効果を発揮するのに必要なLAG-3タンパク質の機能を有するもの、(ii) LAG-3のアミノ酸配列と、少なくとも80%以上、あるいは85%以上、90%以上、95%以上、98%以上、99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるLAG-3の変異体であって、本発明の効果を発揮するのに必要なLAG-3の機能を有するもの、(iii) LAG-3タンパク質、上記(i)の変異体、又は上記(ii)の変異体の部分ポリペプチドであって、本発明の効果を発揮するのに必要なLAG-3タンパク質の機能を有するものが挙げられる。
本明細書において「1又は数個」とは、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、又は10個を意味する。
【0026】
本明細書において「アミノ酸」は、その最も広い意味で用いられ、天然アミノ酸に加え、人工のアミノ酸変異体、誘導体を含む。本明細書においてアミノ酸は、天然タンパク質性L-アミノ酸;D-アミノ酸;アミノ酸変異体及び誘導体等の化学修飾されたアミノ酸;ノルロイシン、β-アラニン、オルニチン等の天然非タンパク性アミノ酸;及びアミノ酸の特徴である当業界で公知の特性を有する化学的に合成された化合物等が挙げられる。非天然アミノ酸の例として、α-メチルアミノ酸(α-メチルアラニン等)、D-アミノ酸、ヒスチジン様アミノ酸(β-ヒドロキシ-ヒスチジン、ホモヒスチジン、α-フルオロメチル-ヒスチジン及びα-メチル-ヒスチジン等)、側鎖に余分のメチレンを有するアミノ酸(「ホモ」アミノ酸)及び側鎖中のカルボン酸官能基アミノ酸がスルホン酸基で置換されるアミノ酸(システイン酸等)等が挙げられる。
【0027】
LAG-3タンパク質の機能的な誘導体としては、LAG-3タンパク質の全部又は一部と他のタンパク質又はポリペプチドとの融合タンパク質、LAG-3タンパク質に糖鎖や脂質が付加されたタンパク質等が挙げられる。LAG-3タンパク質の機能的な誘導体の一例として、LAG-3とIgGとの融合タンパク質(LAG-3Ig)がある。LAG-3タンパク質の機能的な誘導体としては、Journal of Translational Medicine 2014, 12:97に記載される誘導体が例示される。
LAG-3タンパク質の機能的な誘導体としては、具体的には、LAG-3とIgGとの融合タンパク質であるIMP321 (LAG-3Ig)を好適に用いることができる。
【0028】
本発明に係る医薬は、TLRアゴニストと、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体と、を含むが、TLRアゴニストとしては、TLR3アゴニスト又はTLR9アゴニストを好適に用いることができ、TLR3アゴニストをより好適に用いることができる。本発明に係る医薬において、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体としては、ヒトLAG-3やLAG-3Igを好適に用いることができる。
TLRアゴニストと、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体の組合せとしては、TLR3アゴニスト又はTLR9アゴニストと、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体の組合せ、あるいは、TLRアゴニストと、LAG-3タンパク質又はLAG-3タンパク質の誘導体の組合せであることが好ましく、TLR3アゴニスト又はTLR9アゴニストと、LAG-3タンパク質又はLAG-3タンパク質の誘導体の組合せであることがより好ましく、TLR3アゴニストと、LAG-3タンパク質又はLAG-3タンパク質の誘導体の組合せであることがさらに好ましく、TLR3アゴニストと、LAG-3タンパク質の誘導体の組合せであることがよりさらに好ましい。
TLRアゴニストと、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体の組合せにおいて、TLR3アゴニストとして、Poly I:C又はその塩を用いることができ、Poly I:Cとして、Poly ICLCを用いてもよい。TLR3アゴニストとしては、Poly I:C、Poly ICLC (製品名「Hiltonol」)、RIBOXXOL、Ampligen、IPH-3102、cM362-139、及びcM362-140等を用いてもよい。TLR3アゴニストとしては、好ましくはPoly ICLC (製品名「Hiltonol」)を用いることができる。
TLRアゴニストと、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体の組合せにおいて、TLR9アゴニストとして、CpG ODN又はその塩を用いてもよく、CpG ODNのナトリウム塩を用いてもよい。また、TLR9アゴニストとしては、CpG、CpG-28、CpG-685 (GNKG168)、CpG-1826、CpG-7909 (PF-3512676, Agatolimod, promune(登録商標))、ODN1585、IMO-2125、IMO-2055 (EMD1201081)、ISS1018、MGN-1703、MGN-1706、AVE0675、QAX-935、SAR-21609、SD-101、及びDIMS0150等を用いてもよい。
TLRアゴニストと、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体の組合せにおいて、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体としては、上述したLAG-3タンパク質、その機能的な変異体、又はその機能的な誘導体を用いることができるが、LAG-3タンパク質の機能的な誘導体を用いてもよく、ヒトLAG-3やLAG-3とIgGとの融合タンパク質(LAG-3Ig)を用いてもよい。
本発明に係る医薬としては、好適には、TLRアゴニストと、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体に加え、さらに、がん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する物質を含む。がん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する物質をさらに含む医薬である場合にも、上述したTLRアゴニストと、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体の組合せとすることができる。
本発明に係る医薬として、好適には、TLR3アゴニスト又はTLR9アゴニストと、LAG-3タンパク質又はLAG-3タンパク質の誘導体と、がん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する物質と、を含む。より好適には、本発明に係る医薬は、TLR3アゴニストと、LAG-3タンパク質又はLAG-3タンパク質の誘導体と、がん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する物質と、を含む。さらに好適には、本発明に係る医薬は、TLR3アゴニストと、LAG-3タンパク質の誘導体と、がん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する物質と、を含む。
本発明に係る医薬として、がん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する物質をさらに含む場合、がん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する物質としては、がん抗原タンパク質、がん抗原由来ペプチド、それらをコードする核酸、がん抗原提示細胞、及び腫瘍細胞が用いられてもよく、がん抗原由来ペプチドが好適に用いられる。
【0029】
本発明に係る医薬ががん免疫治療に用いられるメカニズムとしては、好適には、皮下投与又は皮内投与することにより、(1)最寄の樹状細胞での抗原提示、(2)最寄リンパ節でのT細胞プライミングの活性化、(3)誘導された抗原ペプチド特異的CTLが腫瘍部位で腫瘍を認識し傷害が起こると考えられる。
本発明に係る医薬においてTLRアゴニストとして、TLR3アゴニストを用いた場合を例に説明すると、TLR3アゴニストと同時に投与されたがん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する物質が抗原提示され、T細胞プライミングが促進される。
本発明に係る医薬においてLAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体として、LAG-3Igを用いた場合を例に説明すると、がん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する物質に対する抗原提示を促進すると共に、腫瘍局所においては、MHC Class II分子を発現している腫瘍又はマクロファージ等による活性CTLに対する抑制シグナルをブロックすることで、CTLの疲弊を抑制することが期待される。
TLR3アゴニスト及びLAG-3Igの働きにより、同時に投与されるがん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する物質に非依存に腫瘍傷害を亢進すると考えられる。
【0030】
本明細書において、「がん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する物質」は、生体内でがん細胞を破壊したり、がん細胞のアポトーシスを誘導したりする免疫応答を誘導できる物質であれば特に限定されず、例えば、がん抗原タンパク質、がん抗原由来ペプチド、それらをコードする核酸、がん抗原提示細胞、腫瘍細胞そのものが挙げられる。
【0031】
本明細書において「がん抗原タンパク質」は、免疫系が異物として認識し攻撃するがん細胞に特異的に発現するタンパク質である。すべてのがん種のがん細胞に発現しているものであっても、特定のがん種のがん細胞に発現するものであってもよい。がん抗原タンパク質としては、免疫原性が強く、正常細胞にはまったく発現しないものが好ましい。がん抗原タンパク質としては、特に限定されるものではないが、Clin Cancer Res 2009;15(17) 5323に記載されるものが挙げられる。具体的には、WT1、LMP2、HPVE6、HPVE7、EGFRv III、HER-2/neu、MAGE-A3、p53nonmutant、HSP70、GPC3、MUC1、Casp8、CDAM1、cMyb、EVC1、EVC2、Helios、Fas、NY-ESO-1、PSMA、GD2、CEA、MelanA/MART1、 Ras mutant、gp100、p53 mutant、Proteinase3(PR1)、bcr-abl、Tyrosinase、Survivin、PSA、hTERT、Sarcoma translocation breakpoints、EphA2、PAP、ML-IAP、AFP、EpCAM、ERG、NA17、PAX3、ALK、Androgen receptor、Cyclin B1、Polysialic acid、MYCN、PhoC、TRP-2、GD3、Fucosyl GM1、Mesothelin、PSCA、MAGE A1、sLe、CYP1B1、PLAC1、GM3、BORIS、Tn、GloboH、ETV6-AML、NY-BR-1、RGS5、SART3、STn、Carbonic anhydrase IX、PAX5、OY-TES1、Sperm protein 17、LCK、HMWMAA、AKAP-4、SSX2、XAGE1、B7H3、Legumain、Tie2、Page4、VEGFR2、MAD-CT-1、FAP、PDGFR、MAD-CT-2、及びFos-related antigen 1等が挙げられるがこれらに限定されない。
がん抗原タンパク質としては、特に限定されるものではないが、好適には、HSP70、GPC3、MUC1、及びgp100等が挙げられる。
【0032】
本明細書において「がん抗原由来ペプチド」は、がん抗原タンパク質の一部のアミノ酸配列を有するペプチド、又は当該アミノ酸配列において1又は2個のアミノ酸の付加、置換又は欠失を含む配列を有するペプチド、又は当該アミノ酸配列と90%以上、95%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有するペプチドであって、がん細胞を攻撃する免疫を誘導するものをいう。がん抗原由来ペプチドは、8以上、11以下のアミノ酸残基からなるものとしてもよい。かかるペプチドが患者の皮下に投与されると、樹状細胞やマクロファージ等の抗原提示細胞に取り込まれ、細胞表面にHLA分子とともに提示される。提示されたペプチドに反応性を示す細胞傷害性T細胞(CTL)前駆細胞がクローン増殖し、増殖・分化した成熟CTLがリンパ流を経由してがん組織に移動する。成熟CTLは、投与されたペプチドと同じ配列を有するペプチド発現しているがん細胞を攻撃し、アポトーシスを誘導する。
【0033】
がん抗原由来ペプチドとしてのHSP70由来ペプチドとしては、特に限定されるものではないが、例えば、国際公開第2016/056596号に記載のペプチドが挙げられ、具体的には、配列番号1~15のいずれかで表されるアミノ酸配列における連続した8以上のアミノ酸残基を含み、且つ11以下のアミノ酸残基から成るペプチドが挙げられる。
本発明において、HSP70由来ペプチドが用いられる場合には、特に限定されるものではないが、配列番号1~15のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するHSP70由来ペプチドを好適に用いることができ、配列番号7で表されるアミノ酸配列を有するHSP70由来ペプチドがより好適に用いられる。
がん抗原由来ペプチドとしてのGPC3由来ペプチドとしては、特に限定されるものではないが、例えば、国際公開第2016/143816号に記載のペプチドが挙げられ、具体的には、配列番号16~26のいずれかで表されるアミノ酸配列における連続した8以上のアミノ酸残基を含み、且つ11以下のアミノ酸残基から成るペプチドが挙げられる。
本発明において、GPC3由来ペプチドが用いられる場合には、特に限定されるものではないが、配列番号16~26のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するGPC3由来ペプチドを好適に用いることができ、配列番号16で表されるアミノ酸配列を有するGPC3由来ペプチドがより好適に用いられる。
がん抗原由来ペプチドとしてのMUC1由来ペプチドとしては、特に限定されるものではないが、例えば、国際公開第2016/143814号に記載のペプチドが挙げられ、具体的には、配列番号27~39のいずれかで表されるアミノ酸配列における連続した8以上のアミノ酸残基を含み、且つ11以下のアミノ酸残基から成るペプチドが挙げられる。
これら抗原由来ペプチドは、例示として開示されるものであって、本発明に係る医薬に用いられる「がん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する物質」が、これら抗原由来ペプチドに限定されるものではない。
【0034】
本明細書において「核酸」は、がん抗原タンパク質又はがん抗原由来ペプチドをコードする核酸である限り特に限定されず、RNA、DNA、PNA、LNA、又はこれらのうちの2以上のキメラを含む。これらの核酸は、公知の方法にしたがってベクター等に挿入して患者に投与することができ、生体内でがん抗原タンパク質又はがん抗原由来ペプチドを発現する。
【0035】
本明細書において「がん抗原提示細胞」は、HLA分子にがん抗原由来ペプチドが結合して、その表面に提示されている抗原提示細胞を意味する。抗原提示細胞としては、樹状細胞やマクロファージを用いることができる。樹状細胞は特にCTL誘導能が高い。抗原を提示した樹状細胞は、例えば、患者自身の末梢血から単核球を分離して未成熟樹状細胞に分化させた後、培地にがん抗原タンパク質又はがん抗原由来ペプチドを添加して、さらに成熟樹状細胞に分化させることによって得ることができる。
【0036】
現に開発中のがんワクチンとして、腫瘍細胞抽出物で感作させた樹状細胞、がん抗原とGM-CSF融合タンパク質で感作した樹状細胞、HPV由来L1タンパク質の非感染性ウイルス様粒子とアジュバントの組合せ等を用いるものがあるが、これらも「がん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する物質」に含まれる。
【0037】
本発明に係る医薬は、「がん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する物質」を、少なくとも1種含むことができるが、2種以上含んでいてもよい。例えば、本発明に係る医薬は、「がん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する物質」として、1種のがん抗原タンパク質に由来するがん抗原由来ペプチドを含んでもよく、2種以上のがん抗原タンパク質に由来するがん抗原由来ペプチドを含んでもよい。
本発明に係る医薬は、好ましくは、少なくとも1種のがん抗原由来ペプチドを含む。
少なくとも1種のがん抗原由来ペプチドとは、特に限定されるものではなく、1種のがん抗原由来ペプチドを用いてもよく、2種以上のがん抗原由来ペプチドを用いてもよい。
がん抗原タンパク質に由来するがん抗原由来ペプチドにおけるがん抗原タンパク質としては、「がん抗原タンパク質」について列記するがん抗原タンパク質から選択されるタンパク質を挙げることができる。
2種以上のがん抗原由来ペプチドとして、異なるがん抗原タンパク質に由来する、2種以上のがん抗原由来ペプチドを用いてもよく、2種以上の、同じがん抗原タンパク質に由来する異なるがん抗原由来ペプチドを用いてもよい。
2種以上の異なるがん抗原タンパク質としては、「がん抗原タンパク質」について列記するがん抗原タンパク質から選択される2種以上の異なるタンパク質を挙げることができる。
具体的には、がん抗原由来ペプチドとして、HSP70、GPC3、MUC1、又はgp100由来ペプチドを用いることが好ましく、HSP70由来ペプチド又はGPC3由来ペプチドを用いることがより好ましい。
本発明に係る医薬が、1種のがん抗原由来ペプチドを含む場合、HSP70由来ペプチド又はGPC3由来ペプチドを用いることが好ましい。
本発明に係る医薬が、2種以上のがん抗原由来ペプチドを含む場合、2種以上のうちの1種として、HSP70、GPC3、MUC1、又はgp100由来ペプチドを用いることが好ましい。
2種のがん抗原由来ペプチドとしては、HSP70由来ペプチドと、HSP70由来ペプチド以外のがん抗原由来ペプチドとの組合せ、GPC3由来ペプチドと、GPC3由来ペプチド以外のがん抗原由来ペプチドとの組合せ、HSP70由来ペプチドと、GPC3由来ペプチドとの組合せ、が好適に用いられる。
HSP70由来ペプチド以外のがん抗原由来ペプチド及びGPC3由来ペプチド以外のがん抗原由来ペプチドとしては、「がん抗原タンパク質」について列記するがん抗原タンパク質から選択されるタンパク質として、それぞれ、HSP70及びGPC3を除いた抗原タンパク質に由来するがん抗原由来ペプチドが挙げられる。
本発明においては、がん抗原由来ペプチドを2種用いる場合、HSP70由来ペプチド及びGPC3由来ペプチドの2種の組合せとすることが好ましい。
1種のがん抗原由来ペプチドを用いる場合、HSP70、GPC3、MUC1、又はgp100由来ペプチドを用いることが好ましく、HSP70由来ペプチド又はGPC3由来ペプチドを用いることが好より好ましい。
また、2種以上の「がん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する物質」は、がん抗原タンパク質、がん抗原由来ペプチド、それらをコードする核酸、がん抗原提示細胞、及び腫瘍細胞から選ばれる2種以上としてもよく、2種のがん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する物質を含む場合を例示して説明すると、1種のがん抗原由来ペプチドと、もう1種のがん抗原由来ペプチドを含んでもよいが、1種のがん抗原由来ペプチドと、がん抗原タンパク質、がん抗原タンパク質又はがん抗原由来ペプチドをコードする核酸、がん抗原提示細胞、及び腫瘍細胞から選ばれる1種を含んでもよい。
【0038】
本発明に係る医薬は、がんワクチン療法に使用することができる。この場合、TLRアゴニストとLAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体は、アジュバントとして機能し、「がん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する物質」による免疫応答の誘導を増強する。後述する実施例に示されるとおり、TLRアゴニストとLAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体を組み合わせて用いると、それぞれ単独で用いた場合には効果を得られないような低用量でも、極めて高い抗腫瘍効果を得ることができる。
本明細書において「アジュバント」は、免疫応答を誘導する物質と一緒に投与されることにより、当該免疫応答の誘導を増強させる分子群を意味する。
【0039】
がんワクチン療法は、がんの予防又は治療のために用いることができる。本明細書において、がんの予防又は治療とは、腫瘍サイズの低下、増大の遅延又は停止、がんの転移の阻害(遅延又は停止)、がん細胞の増殖の阻害(遅延又は停止)、がんの再発の阻害(遅延又は停止)、及びがんと関連する一つ又は複数の症状の緩和、の少なくとも1つを生じさせることを意味する。
【0040】
本明細書において用語「がん」は、その最も広い意味で用いられ、星状細胞腫、乏突起膠腫、髄膜腫、神経繊維腫、神経膠芽腫、上衣腫、神経鞘腫、神経繊維肉腫、神経芽細胞腫、下垂体部腫瘍(例えば、下垂体腺腫)、髄芽細胞腫、黒色腫、脳腫瘍、前立腺癌、頭頚部癌、食道癌、腎癌、腎細胞癌、膵臓癌、乳癌、肺癌、結腸癌、大腸癌、胃癌、皮膚癌、卵巣癌、膀胱癌、繊維肉腫、扁平上皮癌、神経外胚葉、甲状腺腫瘍、リンパ腫、白血病、多発性骨髄腫、肝細胞癌、中皮腫、及び類表皮癌等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0041】
本発明は、TLRアゴニストと、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体と、を含むがんワクチン療法のためのアジュバントも包含する。TLRアゴニストは、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体と併用投与するためのアジュバントであり、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体はTLRアゴニストと併用投与するためのアジュバントであり得る。かかるアジュバントは、様々な「がん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する物質」と一緒に患者に投与してもよい。ここでいう、「一緒」の意味としては、同時に投与されることを意味するものではなく、患者の体内又は体外において、TLRアゴニストと、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体とが、がんワクチン療法におけるアジュバントとしての機能を発揮し得るように、TLRアゴニストと、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体とを患者に投与することを意味する。
本発明においては、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体と併用投与するための、TLRアゴニストを含む医薬であってもよく、TLRアゴニストと併用投与するための、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体を含む医薬であってもよい。
また、本発明においては、がん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する物質と、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体と併用投与するための、TLRアゴニストを含む医薬であってもよく、かかるTLRアゴニストを含む医薬は、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体とアジュバントとして、がん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する物質、好ましくは、がん抗原由来ペプチドに対し、免疫応答の誘導を増強し得る。本発明においては、がん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する物質と、TLRアゴニストと併用投与するための、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体を含む医薬であってもよく、かかるLAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体を含む医薬は、TLRアゴニストとアジュバントとして、がん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する物質、好ましくは、がん抗原由来ペプチドに対し、免疫応答の誘導を増強し得る。
【0042】
本発明に係るTLRアゴニストと、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体とを含む医薬を、TLRアゴニストと、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体とを医薬の有効成分として用いることもできる。本発明に係るTLRアゴニストと、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体とを有効成分として含む医薬は、後述する実施例に示すように、高い抗腫瘍効果を示す抗がん剤として使用することもできるものである。本明細書において「抗がん剤」は、がんの予防又は治療に用いることができる剤を意味する。抗がん剤である医薬は、TLRアゴニストと、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体とを有効成分として含んでいてもよく、がん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する物質をさらに含んでいてもよい。
また、本発明において、抗がん剤である医薬は、有効成分として、がん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する物質、好ましくは、がん抗原由来ペプチドを含み、アジュバントとして、TLRアゴニストと、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体とを含んでいてもよい。
【0043】
本発明に係る医薬の各成分は、水溶性溶剤に溶かして、製薬上許容される塩の形態で製剤にして、患者に投与することができる。このような製薬上許容される塩の形態としては、生理的に受け入れられる水溶性の塩、例えばナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、及びカルシウム塩等の形で生理的なpHにて緩衝させた形態が挙げられる。また、水溶性溶剤の他に、非水溶性溶剤を用いることもでき、このような非水溶性溶剤としては、例えば、エタノール及びプロピレングリコール等のアルコールが挙げられる。
【0044】
本発明に係る医薬は、医薬組成物として用いることができ、医薬組成物のいずれの態様においても経口又は非経口投与することができ、その剤型は特に限定されない。医薬組成物の剤型としては、例えば、液剤(例えば注射剤)、分散剤、懸濁剤、錠剤、丸剤、粉末剤、坐剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、点鼻剤、点耳剤とすることができる。
本発明に係る医薬ががんワクチンとして用いられる場合も経口投与又は非経口投与することができる。非経口投与としては、例えば、腹腔内投与、皮下投与、皮内投与、筋肉内投与、静脈内投与、又は鼻腔内投与を用いることができる。
【0045】
本発明に係る医薬の製剤化は公知の方法に従って行うことができる。本発明の医薬の製剤化には、薬学的に許容できる担体や添加物(賦形剤、結合剤、分散剤、崩壊剤、滑沢剤、溶解剤、溶解補助剤、着色剤、矯味矯臭剤、安定化剤、乳化剤、懸濁剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、及び抗酸化剤等)を用いてもよい。担体及び添加物の例としては、水、食塩水、リン酸緩衝液、デキストロース、グリセロール、エタノール等薬学的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ぺクチン、グルタミン酸、アスパラギン酸、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、グルコース、トウモロコシデンプン、微結晶セルロース、界面活性剤、ナトリウム重亜硫酸、ナトリウム重硫酸、ナトリウムチオ硫酸塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、チメロサール、酢酸フェニル水銀、硝酸フェニル水銀、メチルパラベン、フェニルエチルアルコール、アンモニア、ジチオスレイトール、ベータメルカプトエタノール、炭酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、白糖、粉糖、ショ糖、果糖、ブドウ糖、乳糖、還元麦芽糖水アメ、粉末還元麦芽糖水アメ、ブドウ糖果糖液糖、果糖ブドウ糖液糖、ハチミツ、エリスリトール、アスパルテーム、サッカリン、サッカリンナトリウム、及びゼラチン等が挙げられる。
【0046】
本発明に係る医薬がペプチドを含む場合、ペプチド等の経粘膜吸収されにくい難吸収性薬物の吸収を改善する吸収促進剤として、ポリオキシエチレンラウリルエーテル類、ラウリル硫酸ナトリウム、サポニン等の界面活性剤;グリココール酸、デオキシコール酸、タウロコール酸等の胆汁酸塩;EDTA、サリチル酸類等のキレート剤;カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、オレイン酸、リノール酸、混合ミセル等の脂肪酸類;エナミン誘導体、N-アシルコラーゲンペプチド、N-アシルアミノ酸、シクロデキストリン類、キトサン類、一酸化窒素供与体等を用いることができる。
本発明に係る医薬がペプチドを含む場合、ポリ乳酸・グリコール酸(PLGA)マイクロカプセルや多孔性ヒドロキシアパタイト微粒子等に封入又は吸着させて徐放性を付与してもよく、パルス放出型イオントフォレシス貼付剤システムを利用して経皮吸収させてもよい。
【0047】
本発明に係る医薬は、一の製剤として、TLRアゴニストと、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体と、を含んでいてもよく、それぞれ別の製剤として、すなわち、TLRアゴニストを含む製剤と、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体を含む製剤との組合せであってもよい。
また、本発明に係る医薬が、一の製剤として、がん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する物質、TLRアゴニストと、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体と、を含んでいてもよく、それぞれ別の製剤として、すなわち、がん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する物質を含む製剤と、TLRアゴニストを含む製剤と、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体を含む製剤との組合せであってもよい。がん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する物質と、TLRアゴニストと、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体とを、2種の成分を含む製剤と、残り1種の成分を含む製剤の組合せとしてもよく、3種の成分の組合せとなるのであれば、任意の2種の成分を含む製剤と、任意の2種の成分を含む製剤の組合せとしてもよい。
また、本発明に係る医薬は、キットであってもよい。キットである場合、キットは、TLRアゴニストと、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体と、を含いんでいてもよく、がん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する物質と、TLRアゴニストと、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体と、を含んでいてもよい。
【0048】
本発明に係る医薬をがんワクチンとして用いる場合、追加のアジュバントを含んでいてもよい。追加のアジュバントの非限定的な例として、水酸化アルミニウム、水酸化ナトリウム、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、ミョウバン、及びカルボキシビニルポリマー等の沈降性アジュバント、並びにフロイント完全アジュバント、フロイント不完全アジュバント、流動パラフィン、ラノリン、モンタナイドISA763AV、及びモンタナイドISA51等の油性アジュバントが挙げられる。
【0049】
本発明に係る医薬は、いずれの態様においても、他の抗がん剤と併用してもよく、放射線療法や外科的治療と組合せてもよい。他の抗がん剤としては、アドリアマイシン、ダウノマイシン、マイトマイシン、シスプラチン、ビンクリスチン、エピルビシン、メトトレキセート、5-フルオロウラシル、アクラシノマイシン、ナイトロジェン・マスタード、サイクロフォスファミド、ブレオマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、タモキシフェン、及びデキサメタゾン等の低分子化合物や、免疫担当細胞を活性化するサイトカイン(例えば、ヒトインターロイキン2、ヒト顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、ヒトマクロファージコロニー刺激因子、及びヒトインターロイキン12)等のタンパク質が挙げられる。
【0050】
本発明は、本発明に係る医薬を治療有効量投与してがんを治療する方法も包含する。治療有効量は、患者の症状、年齢、性別、体重、感受性差、投与方法、投与間隔、製剤の種類等に応じて、当業者が適宜決定することができる。
本発明においては、TLRアゴニストと、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体と、それを必要とする患者に投与することにより、患者の疾患を治療又は予防することができる。また、本発明においては、TLRアゴニストと、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体と、それを必要とする患者に投与する、がん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する方法をも提供する。
患者の疾患を治療又は予防する場合、あるいは、がん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する方法において、がん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する物質、好ましくは、がん抗原由来ペプチドをさらに投与してもよい。
がん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導することにより、がん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する物質、好ましくは、がん抗原由来ペプチドの薬効をより強力に発揮させることができる。
【0051】
本発明に係る医薬は、併用投与されることが好ましい。
本発明に係る医薬が併用投与されるとは、TLRアゴニストと、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体とが、患者に投与されていればよく、それぞれ任意の組合せで、同時に、また、別時に投与してもよい。また、本発明に係る医薬ががん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する物質を含む場合には、がん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する物質と、TLRアゴニストと、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体とを、それぞれ任意の組合せで、同時に、また、別時に投与してもよい。
同時に投与する場合には、一の製剤として同時に投与してもよく、投与時にTLRアゴニストと、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体とを混合して投与製剤として調整して同時に投与してもよい。
別時に投与する場合には、TLRアゴニストを投与した後に、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体を投与してもよく、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体を投与した後に、TLRアゴニストを投与してもよい。
【0052】
また、本発明に係る医薬ががん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する物質を含む場合には、同時に投与する場合には、一の製剤として同時に投与してもよく、投与時にがん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する物質と、TLRアゴニストと、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体とを混合して投与製剤として調整して同時に投与してもよい。
別時に投与する場合には、がん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する物質を投与した後に、TLRアゴニストと、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体とを、それぞれ同時に又は別時に投与してもよく、TLRアゴニストと、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体とを、それぞれ同時に又は別時に投与した後に、がん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する物質を投与してもよく、また、TLRアゴニストと、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体の一方を投与した後に、がん細胞に対する特異的な免疫応答を誘導する物質を投与し、TLRアゴニストと、LAG-3タンパク質、その変異体、又はその誘導体の他方を投与してもよい。別時に投与する場合には、各成分の特性に応じて、各成分の投与間隔に基づき、すなわち、それぞれの投与レジメンに基づいて投与してもよい。
【0053】
本明細書において引用されるすべての特許文献及び非特許文献の開示は、全体として本明細書に参照により組み込まれる。
【実施例
【0054】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。当業者は、本発明の意義を逸脱することなく様々な態様に本発明を変更することができ、かかる変更も本発明の範囲に含まれる。
【0055】
1.がんワクチン
図1に示すプロトコールにしたがって、がん抗原由来ペプチドを用いたがんワクチンにおける各種アジュバントの効果を比較した。
【0056】
材料
がんモデルマウスとして、DBA/2マウスにP815細胞(DBA/2マウス由来のマウス肥満細胞腫)を移植して用いた。
がん抗原由来ペプチドとして、P815腫瘍の腫瘍抗原であるP1Aタンパク質の部分配列からなり、MHCのH-2Ld拘束性に提示されることが知られているペプチド(以下「P1Aペプチド」という。)を用いた。P1Aペプチドのアミノ酸配列はLPYLGWLVF(配列番号40)である。
P1A CTLとして、P1Aペプチドを認識するT細胞受容体を発現するT細胞を用いた。実験では、本発明者が所有するP1A-CTLトランスジェニックマウスから脾臓を採取し、TCR Vα8.3(遺伝子導入したTCRのマーカー)にて陽性率を確認し、それに基づいてP1A-CTLの細胞数を決定し、投与した。
アジュバントとしては以下の物質を用いた。
百日咳菌全菌体(PT)(BioFarma, Bandung, Indonesia)
Poly I:C(TLR3アゴニスト)(Invivogen, SanDiego, USA)
CpG(TLR9アゴニスト)(Invivogen, SanDiego, USA)
IFA(不完全フロイントアジュバント)(Seppic, Paris, France)
LAG-3Ig(Adipogen, SanDiego, USA)
【0057】
方法
DBA/2マウスに1匹当たり5×105細胞のP815腫瘍細胞を皮下接種し、この日をDay 0とした。Day 8に1匹当たり2.5×105細胞のP1A CTLを静脈注射した。Day 9及びDay 16に、1マウス当たり50μgのP1AペプチドとアジュバントをPBS中に混和したものを皮下注射した。
マウスを5匹ずつ9群に分け、それぞれに以下のアジュバントを用いた。
1群:PBS(コントロール)
2群:IFA(50μL/mouse)
3群:PT(1×108/mouse)
4群:Poly I:C(50μg/mouse)
5群:Poly I:C(50μg/mouse)+ CpG(10μg/mouse)
6群:LAG-3Ig(1μg/mouse)
7群:LAG-3Ig(1μg/mouse)+ Poly I:C(50μg/mouse)
【0058】
結果
Day 7以降のすべてのマウスについての腫瘍サイズ(mm3)の変化を図2~8に示す。
1~6群では、いずれも徐々に腫瘍サイズが増大し、多くのマウスが途中で死亡した。Day 70まで腫瘍サイズが増大することなく生存したマウスは、2、3及び6群では0匹、1及び4群では1匹、5群では3匹であったところ、7群では、5匹すべてのマウスにおいて腫瘍サイズの増大が見られず、Day 115まで生存した。
【0059】
2.がん組織への免疫細胞の浸潤
DBA/2マウスに1匹当たり5×105細胞のP815腫瘍細胞を皮下接種してがんモデルマウスとし、この日をDay 0とした。Day 8に1匹当たり2.5×105細胞のP1A CTLを静脈注射した。Day 9及びDay 14に、1マウス当たり50μgのP1AペプチドとアジュバントをPBS中に混和したものを皮下注射した。各マウスに以下のアジュバントを用いた。
1群:IFA(50μL/mouse)
2群:Poly I:C(50μg/mouse)
3群:LAG-3Ig(1μg/mouse)
4群:LAG-3Ig(1μg/mouse)+ Poly I:C(50μg/mouse)
その後Day21に腫瘍組織を採取し、腫瘍組織切片のプレパラートを作製した後、ヘマトキシリン・エオジン染色により組織像を観察するとともに、細胞核及び免疫細胞(CD4細胞及びCD8細胞)の蛍光染色を行った。
蛍光組織染色は、以下の試薬を用いた。
細胞核:ProLongR Gold Antifade Reagent with DAPI (Invitrogen)
CD4細胞1次抗体:Rat Anti-Mouse CD4 Purified IgG2b. Clone: GK1.5 (eBioscience)
CD4細胞2次抗体:Mouse monoclonal (2B 10A8) Anti-Rat IgG2b heavy chain (Alexa FluorR 647), (abcam)
CD8細胞1次抗体:Rat Anti-Mouse CD8α Purified IgG2a. Clone: 53-6.7 (eBioscience)
CD8細胞2次抗体:Mouse monoclonal (2A 8F4) Anti-Rat IgG2a heavy chain (Alexa FluorR 488) (abcam)
【0060】
ヘマトキシリン・エオジン染色像を図9Aに、細胞核及び免疫細胞の蛍光染色像を図9Bに示す。アジュバントとしてLAG-3Igとpoly I:Cを組み合わせた場合に、腫瘍組織へのCD4細胞及びCD8細胞の顕著な浸潤が観察された。
【0061】
3.腫瘍を拒絶したマウスでの同一腫瘍に対する拒絶能の維持
DBA/2マウスに1匹当たり5×105細胞のP815腫瘍細胞を皮下接種してがんモデルマウスとし、この日をDay 0とした。Day 8に1匹当たり2.5×105細胞のP1A CTLを静脈注射した。Day 9及びDay 14に、1マウス当たり50μgのP1AペプチドとアジュバントをPBS中に混和したものを皮下注射した。アジュバントとしては、LAG-3Ig (1μg/mouse) + Poly I:C (50μg/mouse)を用いた。
続いて、P815腫瘍細胞を接種しても腫瘍サイズの増大が見られず、腫瘍を拒絶したと判断されたDBA/2マウス、及び何の処置もしていないナイーブなDBA/2マウスを用いて、再度、1匹当たり1x106細胞のP815腫瘍細胞、又は1匹当たり1x106細胞のL1210腫瘍細胞を皮下接種した。腫瘍を拒絶したと判断されたDBA/2マウスについては、最初のP815細胞接種から115日後(Day115)に、再度腫瘍細胞を接種した。
図10左にL1210細胞接種後のマウスの平均腫瘍サイズ(mm3)の変化を示し、図10右にP815細胞接種後のマウスの平均腫瘍サイズ(mm3)の変化を示す。いずれも○が腫瘍を拒絶したと判断されたDBA/2マウス、●がナイーブなDBA/2マウスである。
ナイーブなDBA/2マウスでは、P815細胞及びL1210細胞のいずれを接種しても腫瘍サイズの増大が見られた。一方、P815細胞による腫瘍増大を拒絶したと判断されたマウスでは、別の腫瘍細胞であるL1210細胞接種に伴う腫瘍サイズの増大が見られたものの、P815細胞接種に伴う腫瘍サイズの増大は観察されず、マウス側に同一腫瘍に対する拒絶能が維持されていることが確認された。
【0062】
4.免疫細胞の増殖能及び細胞上清中のサイトカイン等の測定
DBA/2マウスに1匹当たり5×105細胞のP815腫瘍細胞を皮下接種しがんモデルマウスとし、この日をDay 0とした。Day 8に1匹当たり2.5×105細胞のP1A CTLを静脈注射した。Day 9及びDay 14に、1マウス当たり50μgのP1AペプチドとアジュバントをPBS中に混和したものを皮下注射した。各マウスに以下のアジュバントを用いた。
1群:IFA(50μL/mouse)
2群:Poly I:C(50μg/mouse)
3群:LAG-3Ig(1μg/mouse)
4群:LAG-3Ig(1μg/mouse)+ Poly I:C(50μg/mouse)
その後Day21に、腋窩又は鼠径部のリンパ節のうち腫瘍部位に近いリンパ節を採取し、分離した免疫細胞1.5x105個と、100Gy放射線照射したP815細胞4x104個を、3日間共培養した。
免疫細胞増殖能は、3H-thymidine;37KBq/wellを培養上清中に添加し、4時間後に細胞取り込まれた3H-thymidineの放射活性を測定することにより測定した。
細胞上清中のサイトカイン量は、Bio-Plex Pro mouse cytokine 23-Plex Immunoassay kit (BIO-RAD)を用いて測定した。
免疫細胞増殖能の測定結果を図11Aに、サイトカイン等の測定結果を図11Bに示す。
アジュバントとしてLAG-3Igとpoly I:Cを組み合わせた場合に、免疫細胞増殖能の増大が観察された。また、サイトカイン等のうち、アジュバントとしてLAG-3Igとpoly I:Cを組み合わせた場合に、IFN-γ、GM-CSF、IL-4、IL-5、IL-17Aの産生が増加していることが分かった。
【0063】
5.免疫細胞の細胞表面マーカー分子の測定
DBA/2マウスに1匹当たり5×105細胞のP815腫瘍細胞を皮下接種してがんモデルマウスとし、この日をDay 0とした。Day 8に1匹当たり2.5×105細胞のP1A CTLを静脈注射した。Day 9及びDay 14に、1マウス当たり50μgのP1AペプチドとアジュバントをPBS中に混和したものを皮下注射した。各マウスに以下のアジュバントを用いた。
1群:IFA(50μL/mouse)
2群:Poly I:C(50μg/mouse)
3群:LAG-3Ig(1μg/mouse)
4群:LAG-3Ig(1μg/mouse)+ Poly I:C(50μg/mouse)
その後Day21に、腋窩又は鼠径部のリンパ節のうち腫瘍部位に近いリンパ節を採取し、CD8及びVα8.3発現陽性の細胞群(キラーT細胞)、又はCD4及びVα8.3発現陽性の細胞群(ヘルパーT細胞)を回収した。
細胞(CD4細胞及びCD8細胞)の細胞表面マーカー分子であるPD-1、BTLA、TIGIT、及びLAG-3の発現量を測定した。細胞表面マーカー分子に対する抗体として、以下のものを用いた。
PD-1:Anti-Mouse CD279 (PD-1) PE. Clone: J43 (eBioscience)
BTLA:Anti-Mouse CD272 (BTLA) PE. Clone: 8F4 (eBioscience)
TIGIT:PE anti-mouse TIGIT (Vstm3) Antibody. Clone: 1G9 (BioLegend)
LAG-3:Anti-Mouse CD223 (Lag-3) PE. Clone: eBioC9B7W (C9B7W) (eBioscience)
CD8細胞の結果を図12Aに示し、CD4細胞の結果を図12Bに示す。
アジュバントとしてLAG-3IgとPoly I:Cを組み合わせた場合に、CD4陽性細胞及びCD8陽性細胞のともに、PD-1、TIGIT、LAG-3については顕著な発現量の減少が見られたが、BTLAの発現量の減少は少なかった。
【0064】
6.B16-F10メラノーマ接種モデルマウスを用いたサイトカイン等の測定
C57BL/6マウスに1匹当たり1×105個のB16-F10メラノーマ細胞を皮下接種してがんモデルマウスとし、この日をDay 0とした。Day 8に1マウス当たり50μgのgp100ペプチドとアジュバントをPBS中に混和したものを皮下注射した。各マウスに以下のアジュバントを用いた。gp100ペプチドのアミノ酸配列はKVPRNQDWL(配列番号41)である。
1群:IFA(50μL/mouse)
2群:Poly I:C(50μg/mouse)
3群:LAG-3Ig(1μg/mouse)
4群:LAG-3Ig(1μg/mouse)+ Poly I:C(50μg/mouse)
その後Day 14に、腋窩又は鼠径部のリンパ節のうち腫瘍部位に近いリンパ節(あるいはその両方のリンパ節)を採取し、分離した免疫細胞を1ウェルあたり3x105個にて、10、5、2.5、又は0μg/mLのgp100ペプチド存在下で培養した。
免疫細胞増殖能は、3H-thymidine;37KBq/wellを培養上清中に添加し、3日間の培養期間中の最後の10時間の間に細胞取り込まれた3H-thymidineの放射活性を測定することにより測定した。
10μg/mLのgp100ペプチド存在下で3日間培養した細胞上清中のIFN-γ産生量は、Bio-Plex Pro mouse cytokine 23-Plex Immunoassay kit (BIO-RAD)を用いて測定した。
免疫細胞増殖能の測定結果を図13Aに、IFN-γ産生量の測定結果を図13Bに示す。
図13Aにおいて、○が1群、■が2群、□が3群、●が4群の結果を示す。
B16-F10メラノーマ接種モデルマウス系を用いた場合でも、アジュバントとしてLAG-3IgとPoly I:Cを組み合わせた場合に、gp100腫瘍抗原特異的な免疫細胞増殖能の増大及びIFN-γ産生量の増加が観察された。
腫瘍モデル系及び免疫抗原となるペプチドの種類によらず、アジュバントとしてLAG-3IgとPoly I:Cを組み合わせた場合に、顕著な免疫系の活性効果を発揮することが確認された。
【0065】
7.免疫アジュバント組合せによる腫瘍増殖抑制効果
アジュバントとしては以下の物質を用いた。
Poly I:C(TLR3アゴニスト)(Invivogen, SanDiego, USA)
RIBOXXOL (TLR3アゴニスト) (Riboxx, Radebeul, Germany)
MPL (TLR4アゴニスト) (Invivogen, SanDiego, USA)
Imiquimod (TLR7/8アゴニスト) (Invivogen, SanDiego, USA)
CpG(TLR9アゴニスト)(Invivogen, SanDiego, USA)
LAG-3Ig(Adipogen, SanDiego, USA)
DBA/2マウスに1匹当たり5×105細胞のP815腫瘍細胞を皮下接種してがんモデルマウスとし、この日をDay 0とした。Day 7に1匹当たり2.5×105細胞のP1A CTLを静脈注射した。Day 8及びDay 15に、1マウス当たり50μgのP1AペプチドとアジュバントをPBS中に混和したものを皮下注射した。マウスを4匹又は5匹ずつ9群に分け、それぞれに以下のアジュバントを用いた。
1群:P1Aペプチドのみ(コントロール)
2群:Poly I:C(50μg/mouse)
3群:Poly I:C(50μg/mouse)+ LAG-3Ig(1μg/mouse)
4群:P1Aペプチドなし、Poly I:C(50μg/mouse)+ LAG-3Ig(1μg/mouse)のみ
5群:RIBOXXOL(100μg/mouse)
6群:RIBOXXOL(100μg/mouse)+ LAG-3Ig(1μg/mouse)
7群:MPL(10μg/mouse)+ LAG-3Ig(1μg/mouse)
8群:Imiquimod(50μg/mouse)+ LAG-3Ig(1μg/mouse)
9群:CpG(10μg/mouse)+ LAG-3Ig(1μg/mouse)
Day 7以降のすべてのマウスについての腫瘍サイズ(mm3)の変化を図14~22に示す。
1群ではDay40までに5匹中5匹全てが死亡したが、2群では5匹中4匹が、3群では5匹中5匹が、6群では5匹中3匹が、4~5群では5匹中2匹が、7~9群では5匹中1匹が生存し、さらに、3群では5匹中4匹、6群では5匹中3匹がDay66まで生存した。2群と3群、5群と6群とを比較することにより、アジュバントの併用効果が示された。
【0066】
8.B16-F10メラノーマ接種モデルマウスを用いた免疫アジュバント組合せによる腫瘍増殖抑制効果
C57BL/6マウスに1匹当たり1×105個のB16-F10メラノーマ細胞を皮下接種してがんモデルマウスとし、この日をDay0とした。Day5及びDay12の計2回、1マウス当たり50μgのgp100ペプチドとアジュバントをPBS中に混和したものを皮下注射した。各マウスに以下のアジュバントを用いた。
1群:IFA(50μL/mouse)
2群:Poly I:C(50μg/mouse)
3群:LAG-3Ig(1μg/mouse)
4群:LAG-3Ig(1μg/mouse)+ Poly I:C(50μg/mouse)
Day 5以降のすべてのマウスについての腫瘍サイズ(mm3)の変化を図23~26に示す。
各群5匹のマウスは、1群ではDay31、2群ではDay35、3群ではDay37で5匹全てが死亡した一方、4群ではDay57で死亡した。1群に比較して、2及び3群では有意な生存期間の延長効果は認められなかったが、4群では1、2及び3群の全てに対して、有意な生存期間の延長が確認された。
【0067】
9.ワクチン治療患者血液を用いたワクチン特異的免疫反応の測定
HLA-A*02:07/24:02型のHLA分子を持つ食道がん患者及びHLA-A*24:02/26:01型のHLA分子を持つ肝細胞がん患者に対し、2mg HSP70 peptide (YGAAVQAAI:配列番号7)、2mg GPC3 peptide (MVNELFDSL:配列番号16)、 1mg IMP321 (LAG-3Ig)、 1.4mg 「Hiltonol」 (Poly ICLCの製品名)の混合溶液(生理食塩水中に混和)を、四肢鼠径部近傍4カ所に分けて、最初の2ヶ月間は毎週、翌月は2週間に1回の合計10回皮下接種した後、50mLの末梢血を採取した。
末梢血からFicoll-Paque Plus density gradient solution (GE Healthcare Bio-sciences)を用いてPBMC(末梢血単核球)を分離し、24 well plateに1 wellあたり1x106cellのPBMCをAIM-V+FBS培地で培養した。
Day1、 Day4、 Day8及びDay12には100 units/mL of recombinant IL2 (rIL2; Novartis)を添加するとともに、Day0及びDay7には10μg/mLのHSP70 peptide、又はGPC3 peptide、又はネガティブコントロールとしてHIV peptide (RYLRDQQLL:配列番号42)、又はポジティブコントロールとしてEBV peptide (TYGPVFMCL:配列番号43)を添加し、PBMCの培養を継続した。Day14に、MACS beadsを用いたネガティブセレクションで、CD8+T細胞を分離回収した。
human IFN-γ ELISPOT PLUS kit(Mabtech)を用いて、ELISPOTアッセイを行った。あらかじめ抗IFN-γ抗体でコーティングした12 well plateを用いて、2x104cells /wellの腫瘍細胞をstimulatorとして、1x104cells /wellのCD8+ T responder細胞と共に37℃、48時間共培養した。
ビオチン化した抗IFN-γ抗体 (7-B6-1)を2次抗体として添加し2時間培養した後、HRP(Horse Raddish Peroxidase)試薬を添加し、さらにTMB(tetramethylbenzidine)試薬を用いて染色を行った。
染色されたスポット数は、the ImmunoSPOT S4(Cellular Technology Ltd)を用いて自動カウントした。
結果を図27A図27Bに示す。
HSP70ペプチド及びGPC3ペプチドを合計10回投与した後、ネガティブコントロールに対してIFN-γ産生に伴うスポット数が優位に増加しており、ワクチン特異的な免疫反応が起こっていることが確認できる。
【0068】
さらに、HLA-A*24:02/24:02型のHLA分子を持つ肝細胞がん患者、HLA-A*02:01/11:01型のHLA分子を持つ直腸がん患者及びHLA-A*02:06/26:01型のHLA分子を持つ食道がん患者に対し、ワクチン投与前、及び2mg HSP70 peptide (YGAAVQAAI:配列番号42)、 2mg GPC3 peptide (MVNELFDSL:配列番号43)、 1mg IMP321 (LAG-3Ig)、 1.4mg 「Hiltonol」 (Poly ICLCの製品名)の混合溶液(生理食塩水中に混和)を、四肢鼠径部近傍4カ所に分けて、1ヶ月間、2ヶ月間及び2ヶ月間毎週皮下接種した後(4回投与、8回投与及び8回投与)、50mLの末梢血を採取した。
採取した末梢血をそれぞれ、上記の食道がん患者及び肝細胞がん患者から採取した末梢血と同様に分離や培養によって処理し、同様の試薬により染色を行った。染色されたスポット数を、上記で自動カウントした方法と同様にカウントした。
結果を、図28A図28B及び図28Cに示す。
HSP70ペプチド及びGPC3ペプチドを4回または8回投与した後、ネガティブコントロールに対してIFN-γ産生に伴うスポット数が優位に増加しており、ワクチン特異的な免疫反応が起こっていることが確認できる。
【配列表フリーテキスト】
【0069】
配列番号1~15は、がん抗原由来ペプチドとしてのHSP70由来ペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号16~26は、がん抗原由来ペプチドとしてのGPC3由来ペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号27~39は、がん抗原由来ペプチドとしてのMUC1由来ペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号40は、P1Aペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号41は、gp100ペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号42は、HIVペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号43は、EBVペプチドのアミノ酸配列を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11A
図11B
図12(A)】
図12(B)】
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27A
図27B
図28A
図28B
図28C
【配列表】
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