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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-23
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】位置検知システム及び位置検知方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 3/16 20060101AFI20220111BHJP
【FI】
G01M3/16 J
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019040668
(22)【出願日】2019-03-06
(65)【公開番号】P2019191153
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-01-08
(31)【優先権主張番号】P 2018079504
(32)【優先日】2018-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108742
【氏名又は名称】タツタ電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】勝矢 利明
(72)【発明者】
【氏名】石橋 崇行
(72)【発明者】
【氏名】市原 謙
(72)【発明者】
【氏名】中村 俊昭
(72)【発明者】
【氏名】北村 浩一
【審査官】岩永 寛道
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-009494(JP,A)
【文献】特開2018-013407(JP,A)
【文献】特開平01-097830(JP,A)
【文献】特開昭58-026239(JP,A)
【文献】特開2011-040685(JP,A)
【文献】米国特許第04797621(US,A)
【文献】特開2017-167063(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0116118(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 3/00- 3/40
G01N 27/00-27/10
G01N 27/14-27/24
G01N 27/26-27/49
G05F 1/12- 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体の浸透によってインピーダンスが変化する検知ケーブルと、
前記検知ケーブルの一端に入射されるパルス信号を生成するパルス生成器と、
前記パルス生成器が前記パルス信号を生成してから、前記検知ケーブルの前記一端の電圧値が閾値を下回るまでの検知時間に基づいて、前記液体の浸透位置を検知する検知部とを備える位置検知システムであって、
前記閾値は可変であり、
前記検知ケーブルの全長に応じて前記閾値を調整するための調整部をさらに備え
前記調整部は、前記検知ケーブルの全長が長くなるほど前記閾値を低下させる、位置検知システム。
【請求項2】
前記検知ケーブルは、少なくとも1本の単位ケーブルを含み、
前記検知ケーブルの全長は、前記少なくとも1本の単位ケーブルの本数によって変更され、
前記調整部は、前記検知ケーブルに含まれる前記少なくとも1本の単位ケーブルの本数の入力を受け付け、受け付けた本数に基づいて前記閾値を調整する、請求項1に記載の位置検知システム。
【請求項3】
前記検知部は、前記検知ケーブル上の2点間の距離と当該距離を前記パルス信号が往復するのに要する時間との相関関係を示す関数に前記検知時間を代入することにより得られる距離から補正量だけ短い距離を、前記検知ケーブルの前記一端から前記浸透位置までの距離として算出し、
前記補正量は、前記検知時間が長くなるほど大きい、請求項1または2に記載の位置検知システム。
【請求項4】
前記パルス生成器は、一定時間間隔で複数回前記パルス信号を生成し、
前記閾値は、複数回生成された前記パルス信号ごとに異なる、請求項1または2に記載の位置検知システム。
【請求項5】
前記調整部は、前記液体の種類に応じて前記閾値をさらに調整する、請求項1からのいずれか1項に記載の位置検知システム。
【請求項6】
前記パルス生成器と前記検知ケーブルの前記一端との間に配置された、抵抗器とコンデンサとの並列回路をさらに備える、請求項1からのいずれか1項に記載の位置検知システム。
【請求項7】
前記検知ケーブルのうち前記一端から所定長さの端部を除く部分が前記液体の漏洩の検知対象範囲に敷設される、請求項1からのいずれか1項に記載の位置検知システム。
【請求項8】
前記検知ケーブルにおける前記一端側に設けられた遅延回路をさらに備える、請求項1からのいずれか1項に記載の位置検知システム。
【請求項9】
液体の浸透によってインピーダンスが変化する検知ケーブルを用いて、前記液体の浸透位置を検知する位置検知方法であって、
前記検知ケーブルの一端にパルス信号を入射するステップと、
前記パルス信号を入射してから、前記検知ケーブルの前記一端の電圧値が閾値を下回るまでの検知時間に基づいて、前記液体の浸透位置を検知するステップとを備え、
前記閾値は可変であり、
前記検知ケーブルの全長に応じて前記閾値を調整するステップをさらに備え
前記調整するステップは、前記検知ケーブルの全長が長くなるほど前記閾値を低下させるステップを含む、位置検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、液体が漏洩した位置を検知する位置検知システム及び位置検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体が漏洩した位置を検知するために、液体の浸透により特性インピーダンスが変化するケーブルを用いて、TDR(Time Domain Reflectometry)法により液体の浸透位置を検知するシステムが知られている(特開昭58-33145号公報(特許文献1)、特開昭59-125003号公報(特許文献2))。当該システムでは、ケーブルの一端(パルス入射端)にパルス信号を入射してから、液体の漏洩地点の反射波によってパルス入射端の電圧が降下するまでの時間に基づいて、パルス入射端から漏洩地点までの距離が計測される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭58-33145号公報
【文献】特開昭59-125003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
反射波によるパルス入射端の電圧降下を検知するために、通常、パルス入射端の電圧値が閾値と比較される。上記従来のシステムは、ケーブルの全長が予め定められていることを前提としており、当該ケーブルに応じた固定値が閾値として予め設定される。そのため、対象場所(例えば工場など)に上記従来のシステムのケーブルを一旦設置した後に当該対象場所の拡張または縮小に伴ってケーブルの全長を変更したい場合、使用者は、システム全体を入れ替える必要がある。
【0005】
本開示は、上記の問題点に着目してなされたもので、ケーブルの全長を変更する場合であってもシステム全体を入れ替える必要のない位置検知システム及び位置検知方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る位置検知システムは、液体の浸透によってインピーダンスが変化する検知ケーブルと、検知ケーブルの一端に入射されるパルス信号を生成するパルス生成器と、パルス生成器がパルス信号を生成してから、検知ケーブルの一端の電圧値が閾値を下回るまでの検知時間に基づいて、液体の浸透位置を検知する検知部とを備える。閾値は可変である。位置検知システムは、検知ケーブルの全長に応じて閾値を調整するための調整部をさらに備える。
【0007】
本開示の別の局面に係る位置検知方法は、液体の浸透によってインピーダンスが変化する検知ケーブルを用いて、液体の浸透位置を検知する。位置検知方法は、検知ケーブルの一端にパルス信号を入射するステップと、パルス信号を入射してから、検知ケーブルの一端の電圧値が閾値を下回るまでの検知時間に基づいて、液体の浸透位置を検知するステップとを備える。閾値は可変である。位置検知方法は、検知ケーブルの全長に応じて閾値を調整するステップをさらに備える。
【0008】
上記の位置検知システム及び位置検知方法によれば、検知ケーブルの全長が変更されたとしても、検知部の構成をそのまま利用することができる。そのため、検知ケーブルの全長を変更した場合であっても、システム全体を入れ替える必要がなくなる。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、ケーブルの全長を変更する場合であってもシステム全体を入れ替える必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態に係る位置検知システムの概略的な構成を示す図である。
図2図1に示す位置検知システムが備える単位ケーブルの一例を示す断面図である。
図3】パルス信号の入力端である端子の電圧の時間変化の一例を模式的に示す図である。
図4】パルス信号の入力端である端子から酸の浸透位置までの距離による電圧波形の変化を模式的に示す図である。
図5】パルス信号ごとの閾値の変化を示す図である。
図6】塩酸が検知ケーブルに浸透したときの電圧波形と、硫酸が検知ケーブルに浸透したときの電圧波形との一例を模式的に示す図である。
図7】液体の粘度と液体の検知ケーブルへの浸透量との関係を示す図である。
図8】検証実験1における比誘電率と粘度と検知可能領域との関係を示す図である。
図9】検証実験2における比誘電率と粘度と検知可能領域との関係を示す図である。
図10】検証実験3における比誘電率と粘度と検知可能領域との関係を示す図である。
図11】パルス生成器とパルス信号の入射端との間の接続構成と、当該入射端の電圧の時間変化とを示す図である。
図12図1に示す検知システムが備える単位ケーブルの別の例を示す断面図である。
図13図1に示す検知システムが備える単位ケーブルのさらに別の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰返さない。また、以下で説明する実施の形態または変形例は、適宜選択的に組み合わされてもよい。以下では、酸(例えば塩酸、硫酸など)が漏洩した位置を検知する位置検知システムについて説明する。ただし、位置検知システムは、酸以外の液体が漏洩した位置を検知するシステムであってもよい。
【0012】
(位置検知システムの構成)
図1は、実施の形態に係る位置検知システムの概略的な構成を示す図である。図2は、図1に示す位置検知システムが備える単位ケーブルの一例を示す断面図である。図1に示されるように、位置検知システム100は、検知ケーブル1と、パルス生成器2と、検知部3と、調整部4と、表示装置5とを備える。
【0013】
検知ケーブル1は、少なくとも1本の単位ケーブル10を含む。検知ケーブル1が複数本の単位ケーブル10を含む場合、複数本の単位ケーブル10は、直列に接続される。
【0014】
少なくとも1本の単位ケーブル10は、予め定められた長さL1(例えば50m)を有する。検知ケーブル1を構成する単位ケーブル10の本数をNとするとき、検知ケーブル1の全長L0は、N×L1となる。位置検知システム100の使用者は、酸の漏洩を検知したい対象場所の広さに応じて単位ケーブル10の本数を適宜調整することにより、検知ケーブル1の全長L0を変更することができる。そのため、一旦検知ケーブル1を設置した後に対象場所の拡張または縮小を行なう場合であっても、使用者は、容易に検知ケーブル1の全長L0を変更することができる。
【0015】
図2に示されるように、単位ケーブル10は、2本の検知用心線11,12と、編組体20とを含む。検知用心線11,12は撚り合され、その外周に、酸に溶けないポリエチレンの糸と酸に溶けやすいポリエステルの糸とによって構成された編組体20が設けられる。
【0016】
検知用心線11,12は、例えば軟銅線により構成された導体11a,12aと、導体11a,12aの外周を被覆する可溶性絶縁被膜11b,12bとをそれぞれ有する。可溶性絶縁被膜11b,12bは、酸に溶けやすい耐水性高分子(例えばポリエステル系熱可塑性エラストマー)によって構成される。
【0017】
このような構成の単位ケーブル10において、検知用心線11の点c1(図1参照)及び検知用心線12の点c2の周囲に酸が浸透したとする。このとき、点c1付近の可溶性絶縁被膜11bと点c2付近の可溶性絶縁被膜12bとが酸に溶解し、検知用心線11と検知用心線12とが導通する。点c1と点c2との間のインピーダンスZsは、可溶性絶縁被膜11b,12bの酸への溶解量が増大するにつれて低下する。
【0018】
図1に示されるように、隣り合う2つの単位ケーブル10の検知用心線11同士は、コネクタ端子13によって接続される。隣り合う2つの単位ケーブル10の検知用心線12同士は、コネクタ端子14によって接続される。
【0019】
検知ケーブル1の一端に位置する単位ケーブル10の検知用心線11のコネクタ端子15は、パルス生成器2及び検知部3に接続される。検知ケーブル1の一端に位置する単位ケーブル10の検知用心線12のコネクタ端子16は、グランドに接続される。
【0020】
検知ケーブル1の他端に位置する単位ケーブル10の検知用心線11のコネクタ端子17と検知用心線12のコネクタ端子18との間には、検知ケーブル1の断線を検知する目的で終端抵抗器19が接続され、オープン状態か否かを検知する。
【0021】
パルス生成器2は、検知ケーブル1のコネクタ端子15に入射されるパルス信号(電圧パルス信号)を生成する。パルス生成器2は、パルス信号の生成を開始するときに、生成開始を示す信号(生成開始信号)を検知部3に出力する。検知ケーブル1の終端のコネクタ端子17,18間が終端抵抗器19によってインピーダンスの不整合があっても、検知ケーブル1において酸の浸透がない場合にはパルス信号に対する反射波は終端の条長でしか検知できない。しかしながら、検知ケーブル1において酸の浸透があると、酸の浸透位置において、検知用心線11と検知用心線12との間のインピーダンスZsが低下し、特性インピーダンスが変化する。その結果、酸の浸透位置において、反射波が生じる。反射波の位相は、パルス信号と逆位相である。そのため、酸の浸透位置からの反射波がコネクタ端子15に到達するタイミングで、コネクタ端子15に入射されているパルス信号と反射波とが重畳し、コネクタ端子15の電圧が降下する。
【0022】
検知部3は、検知ケーブル1のコネクタ端子15の電圧に基づいて、酸の浸透位置を検知する。検知部3は、比較器31と演算部32とを含む。
【0023】
比較器31は、検知ケーブル1のコネクタ端子15の電圧値と閾値とを比較し、比較結果を演算部32に出力する。例えば、比較器31は、コネクタ端子15の電圧値が閾値よりも大きい場合にハイレベルの信号を出力し、コネクタ端子15の電圧値が閾値よりも小さい場合にローレベルの信号を出力する。閾値は、酸の浸透位置からの反射波がない場合のコネクタ端子15の電圧値よりも低く、酸の浸透位置からの反射波により降下したコネクタ端子15の電圧値よりも高い値となるように、調整部4によって設定される。調整部4による閾値の設定方法については後述する。
【0024】
演算部32は、パルス生成器2がパルス信号の生成を開始してから、比較器31の出力信号がハイレベルからローレベルに変化したタイミングまでの検知時間Taに基づいて、コネクタ端子15から酸の浸透位置までの距離L2を算出する。演算部32は、パルス生成器2から生成開始信号を受けた時刻を、パルス生成器2がパルス信号の生成を開始した時刻とする。例えば、検知用心線11の点c1及び検知用心線12の点c2の周囲に酸が浸透した場合、コネクタ端子15から点c1までの距離L2を演算する。演算部32は、演算結果を表示装置5に表示する。表示装置5は、たとえば液晶ディスプレイである。これにより、使用者は、検知ケーブル1における酸の浸透位置を認識できる。
【0025】
比較器31から出力される信号がハイレベルからローレベルに変化したタイミングは、酸の浸透位置からの反射波がコネクタ端子15に到達するタイミングに相当する。そのため、検知時間Taは、パルス信号がコネクタ端子15から酸の浸透位置まで伝播する時間と、当該パルス信号の反射波が酸の浸透位置からコネクタ端子15まで伝播する時間との合計である。すなわち、検知時間Taは、パルス信号がコネクタ端子15から酸の浸透位置までの距離L2を往復する時間である。検知ケーブル1におけるパルス信号及び反射波の伝達速度をVとすると、検知ケーブル1上の2点間の距離Lと当該2点間をパルス信号が往復するのに要する時間Tとの相関関係を示す関数は、
L=(V/2)×T・・・式(1)
で示される。真空中の光速をc、検知ケーブル1の比誘電率をεとすると、Vは、V=c/ε1/2の式に従って予め求められる。演算部32は、検知時間Taを上記の式(1)のTに代入することにより、コネクタ端子15から酸の浸透位置までの距離L2(=(V/2)×Ta)を算出できる。
【0026】
演算部32は、例えば、CPU(Central Processing Unit)と、処理プログラム等を記憶するROM(Read Only Memory)及びデータを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)とによって構成される。演算部32は、ROMに記憶されたプログラムに従った処理を実行する。
【0027】
(調整部)
調整部4は、例えば、CPU(Central Processing Unit)と、処理プログラム等を記憶するROM(Read Only Memory)と、データを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)と、タッチパネル、キーボード等の入力装置とによって構成される。
【0028】
本実施の形態の位置検知システム100の比較器31で用いられる閾値は可変である。調整部4は、以下のようにして閾値を調整する。
【0029】
図3は、パルス信号の入力端であるコネクタ端子15の電圧の時間変化の一例を模式的に示す図である。図3に示す例では、時刻t0においてパルス信号の生成が開始され、時刻t1において酸の浸透位置からの反射波による電圧降下が見られる。電圧波形A1は、検知ケーブル1の全長がL0_1であるときの波形である。電圧波形A2は、検知ケーブル1の全長がL0_2(>L0_1)であるときの波形である。電圧波形A3は、検知ケーブル1の全長がL0_3(>L0_2)であるときの波形である。図3に示されるように、検知ケーブル1の全長が長くなるにつれ、検知ケーブル1の特性インピーダンスが大きくなり、コネクタ端子15の電圧レベルが低くなる。
【0030】
反射波による電圧降下を確認するためには、当該電圧降下前の電圧レベルと電圧降下後の電圧レベルとの間の中間の電圧値を閾値として設定することが好ましい。コネクタ端子15の電圧レベルが検知ケーブル1の全長に応じて変化するため、調整部4は、検知ケーブル1の全長に応じて閾値を調整する。
【0031】
具体的には、調整部4は、検知ケーブル1の全長がL0_1である場合、電圧波形A1における電圧降下前の電圧レベルと電圧降下後の電圧レベルとの間の閾値Th1を設定する。同様にして、調整部4は、検知ケーブル1の全長がL0_2である場合(電圧波形A2の場合)、閾値Th2(<Th1)1を設定し、検知ケーブル1の全長がL0_3である場合(電圧波形A3の場合)、閾値Th3(<Th2)を設定する。すなわち、調整部4は、検知ケーブル1の全長L0が長くなるほど閾値を低下させる。
【0032】
調整部4は、検知ケーブル1の全長と閾値との対応関係を示すテーブルを予め記憶しておき、検知ケーブル1の全長L0の入力を受け付け、受け付けた全長L0に対応する閾値をテーブルから読み出すことにより、閾値を設定する。テーブルは、検知ケーブル1の全長とコネクタ端子15の電圧レベルとの相関関係に基づいて予め作成される。当該相関関係は、予め実験的または理論的に求められる。
【0033】
上述したように、検知ケーブル1の全長L0は、単位ケーブル10の本数Nと単位ケーブル10の長さL1との積で決定される。単位ケーブル10の長さL1は、例えば50mに予め定められている。そのため、調整部4は、単位ケーブル10の本数と閾値との対応関係を示すテーブルを予め記憶しておき、検知ケーブル1を構成する単位ケーブル10の本数Nの入力を受け付け、受け付けた本数Nに対応する閾値をテーブルから読み出してもよい。
【0034】
(利点)
以上のように、位置検知システム100は、検知ケーブル1の全長に応じて閾値を調整する調整部4を備える。これにより、検知ケーブル1の全長が変更されたとしても、検知部3の構成をそのまま利用することができる。そのため、検知ケーブル1の全長を変更した場合であっても、位置検知システム100全体を入れ替える必要がなくなる。
【0035】
図3に示す例において、閾値がTh2に固定されている場合、検知ケーブル1の全長がL0_2からL0_1またはL0_3に変更されると、検知部3は、反射波による電圧降下を検知することができない。しかしながら、検知ケーブル1の全長に応じて閾値が調整されるため、検知部3は、酸の浸透位置からの反射波による電圧降下の有無を適切に判断できる。
【0036】
さらに、検知ケーブル1は、直列に接続される単位ケーブル10によって構成される。そのため、使用者は、単位ケーブル10の接続本数を変更するだけで、容易に検知ケーブル1の全長を変更できる。このとき、調整部4は、検知ケーブル1に含まれる単位ケーブル10の本数の入力を受け付け、受け付けた本数に応じて閾値を調整することができる。これにより、使用者は、単位ケーブル10の本数Nを入力するだけで、適切な閾値を設定することができる。
【0037】
(検証実験)
位置検知システム100による液体の漏洩の検知性能を検証する実験を行なった。
【0038】
上述したように、検知ケーブル1に酸が浸透した場合、可溶性絶縁被膜11b,12bが酸に溶解して検知用心線11と検知用心線12とが導通し、浸透位置において検知用心線11と検知用心線12との間のインピーダンスZsが大きく低下する。
【0039】
しかしながら、検知用心線11と検知用心線12との間のインピーダンスZsは、検知用心線11及び検知用心線12の周囲の誘電率にも影響される。そのため、酸以外の液体が検知ケーブル1に浸透することにより、当該浸透位置の誘電率が変化し、インピーダンスZsが低下し得る。液体の浸透位置においてインピーダンスZsが低下すれば、当該浸透位置において反射波が生じる。そのため、酸以外の液体の検知ケーブル1への浸透位置も検知できる可能性がある。そこで、酸以外の液体の浸透位置の検知性能を検証する実験も合わせて行なった。
【0040】
(検証実験1)
以下の条件に従って、検証実験1を行なった。
・検知ケーブル1の全長:100m。
・検知ケーブル1への液体の浸透方法:2.5ml/分の速度で液体を滴下した。
・滴下位置:3m,50m,100m。
・液体の種類:水道水、純水、塩水、硫酸98%、塩酸35%、エタノール水溶液(濃度10~99%)、水酸化ナトリウム水溶液(濃度3~25%)。
・評価方法:検知ケーブル1の対象位置に液体を浸透させてから5分以内に、検知部3によって当該対象位置±4mの範囲内の浸透位置が検知された場合に検知成功とする。同じ対象位置について3回実験を行ない、3回とも検知成功した場合に検知可能と評価した。このようにして、複数の対象位置の各々について検知可否を評価した。
【0041】
検証実験1の結果を以下の表1に記す。表1において、対象位置は、検知ケーブル1のコネクタ端子15(パルス信号の入射端)からの距離(条長)で示される。
【0042】
【表1】
【0043】
(検証実験2)
検知ケーブル1への液体の浸透方法を除いて、検証実験1と同じ条件で検証実験2を行なった。検知ケーブル1への液体の浸透方法は、検知ケーブル1のうち対象位置を中心とする15cm長の範囲を液体中に浸漬する方法とした。また、浸漬位置は、3m,50m,100mとした。検証実験2の結果を以下の表2に記す。
【0044】
【表2】
【0045】
(検証実験3)
検知ケーブル1の長さを150mとし、対象位置を中心とする30cm長の範囲を液体に浸漬する点を除いて、検証実験2と同じ条件で検証実験3を行なった。また、浸漬位置は、3m,50m,100m,150mとした。検証実験3の結果を以下の表3に記す。
【0046】
【表3】
【0047】
(考察)
表1~3に示されるように、酸(硫酸及び塩酸)を検知ケーブル1に浸透させた場合、その浸透位置を精度良く検知できることが確認された。また、酸以外の液体であっても、検知ケーブル1への浸透位置を精度良く検知できることが確認された。これは、酸以外の液体であっても、浸透位置の誘電率が変化することにより、インピーダンスZsが変化するためである。
【0048】
エタノール水溶液は、濃度に応じて比誘電率が変化する。エタノールよりも水の比誘電率が高いため、濃度が高くなるほど、エタノール水溶液の比誘電率が低下する。表1~3に示されるように、対象位置に液体を滴下する検証実験1に比べて液体中に対象位置を浸漬させる検証実験2,3では、コネクタ端子15から51~100mの範囲で検知可能となる濃度の上限が高くなる。これは、対象位置を液体に浸漬することにより、検知ケーブル1への液体の浸透量が大きくなり、比誘電率の低い液体であっても浸透位置からの反射波による電圧降下量が大きくなるためである。
【0049】
また、表1~3に示されるように、コネクタ端子15からの条長が長くなるほど、検知可能となるエタノール水溶液の濃度の上限が低くなる。これは、後述するように、反射波によるコネクタ端子15の電圧の降下波形は、コネクタ端子15と当該浸透位置との距離が長くなるほどなまるためである。反射波によるコネクタ端子15の電圧の降下波形がなまると、検知精度が低くなる。したがって、比誘電率の相対的に高い液体の浸透によって電圧降下量が大きくなる場合に限り、浸透位置を精度良く検知できる。
【0050】
水酸化ナトリウム水溶液の粘度は、濃度が高くなるほど高くなる。液体を滴下したときの検知ケーブル1への浸透量は、液体の粘度に依存する。
【0051】
図7は、液体の粘度と液体の検知ケーブルへの浸透量との関係を示す図である。図7(a)には、粘度が相対的に低い場合の液体の浸透量が示され、図7(b)には、粘度が相対的に高い場合の液体の浸透量が示される。図示されるように、粘度が高い場合、滴下箇所から検知ケーブル1の長さ方向へ浸透しにくくなる。そのため、液体中に対象位置を浸漬させる検証実験2,3に比べて対象位置に液体を滴下する検証実験1では、検知可能となる水酸化ナトリウム水溶液の濃度の上限が低くなる。
【0052】
図8は、検証実験1における比誘電率と粘度と検知可能領域との関係を示す図である。図9は、検証実験2における比誘電率と粘度と検知可能領域との関係を示す図である。図10は、検証実験3における比誘電率と粘度と検知可能領域との関係を示す図である。図8~10に示される関係は、検知可能と評価されたときの対象位置と液体の比誘電率と液体の粘度とをグラフ上にプロットすることにより得られる。
【0053】
図8図10に示されるように、検知対象となる液体の粘度は、4.0mPa・s以下であることが好ましく、2.0mPa・s以下であることがさらに好ましい。なお、液体の粘度が低いほど浸透しやすくなるため、液体の粘度の下限を設定する必要はない。
【0054】
また、検知対象となる液体の比誘電率は、40以上であることが好ましく、80以上であることがさらに好ましい。なお、液体の比誘電率が高いほどインピーダンスの変化量が大きくなり、浸透位置が検知しやすくなるため、液体の比誘電率の上限を設定する必要はない。
【0055】
(変形例1)
酸の浸透位置からの反射波は、コネクタ端子15と当該浸透位置との距離が長くなるほど減衰しやすい。そのため、反射波によるコネクタ端子15の電圧の降下波形は、コネクタ端子15と当該浸透位置との距離が長くなるほどなまる。言い換えると、電圧の降下波形の傾きが緩やかになる。
【0056】
図4は、パルス信号の入力端である端子から酸の浸透位置までの距離による電圧波形の変化を模式的に示す図である。図4(a)には、コネクタ端子15から酸の浸透位置までの距離が短いときの電圧波形が示される。図4(b)には、コネクタ端子15から酸の浸透位置までの距離が長いときの電圧波形が示される。図4(c)には、コネクタ端子15から酸の浸透位置までの距離が図4(b)のときよりもさらに長いときの電圧波形が示される。図4において、時刻t0は、パルス信号の生成を開始するタイミングである。
【0057】
図4(a)に示されるように、コネクタ端子15から酸の浸透位置までの距離が短い場合、時刻t0から電圧が降下し始めるまでの降下開始時間Tb_1と、時刻t0から電圧値が閾値Thを下回る時刻t1_1までの検知時間Ta_1との時間差ΔT1は、非常に短い。降下開始時間Tb_1は、パルス信号がコネクタ端子15から酸の浸透位置までの距離を往復する真の時間に相当する。そのため、検知時間Ta_1を上記の式(1)のTに代入することにより得られる距離L2をコネクタ端子15から酸の浸透位置までの距離と見なしても、計測誤差は小さい。
【0058】
図4(b)に示されるように、コネクタ端子15から酸の浸透位置までの距離が長くなると、時刻t0から電圧が降下し始めるまでの降下開始時間Tb_2と、時刻t0から電圧値が閾値Thを下回る時刻t1_2までの検知時間Ta_2との時間差ΔT2は長くなる。図4(c)に示されるように、コネクタ端子15から酸の浸透位置までの距離がさらに長くなると、時刻t0から電圧が降下し始めるまでの降下開始時間Tb_3と、時刻t0から電圧値が閾値Thを下回る時刻t1_3までの検知時間Ta_3との時間差ΔT3はさらに長くなる。そのため、検知時間Ta_2,Ta_3を上記の式(1)のTに代入することにより得られる距離L2をコネクタ端子15から酸の浸透位置までの距離と見なすと、計測誤差が大きくなる。すなわち、演算結果により得られた距離L2は、コネクタ端子15から酸の浸透位置までの真の距離よりも長くなる。
【0059】
このような計測誤差を小さくするために、検知部3の演算部32は、検知時間Taを上記の式(1)のTに代入することにより得られた距離L2を補正量だけ短くなるように補正した補正距離L2’を、コネクタ端子15から酸の浸透位置までの距離として算出してもよい。
【0060】
図4(b)に示す例では、降下開始時間Tb_2と検知時間Ta_2との差ΔT2を上記の式(1)のTに代入することにより得られる距離が補正量として予め定められることが好ましい。同様に、図4(c)に示す例では、降下開始時間Tb_3と検知時間Ta_3との差ΔT3を上記の式(1)のTに代入することにより得られる距離が補正量として予め定められることが好ましい。そのため、パルス信号を生成してから電圧が降下し始めるまでの降下開始時間とパルス信号を生成してから電圧値が閾値Thを下回るまでの検知時間との時間差と、当該検知時間との相対関係が予め実験等により確認される。補正量は、当該時間差を上記の式(1)のTに代入することにより得られる。これにより、検知時間と補正量との対応関係を示す情報が予め作成される。図4に示されるように、降下開始時間と検知時間との時間差は、検知時間が長いほど長くなる。そのため、補正量は、検知時間が長くなるほど大きくなる。
【0061】
例えば、演算部32は、検知時間と補正量との対応関係を示すテーブルを予め記憶しておき、時刻t0から電圧値が閾値Thを下回るまでの検知時間Taに対応する補正量を当該テーブルから読み出す。演算部32は、時刻t0から電圧値が閾値Thを下回るまでの検知時間Taを上記の式(1)のTに代入することにより得られた距離L2(=(V/2)×Ta)から補正量だけ減算した補正距離L2’を、コネクタ端子15から酸の浸透位置までの距離として算出する。
【0062】
もしくは、演算部32は、実験等によって確認された、降下開始時間と検知時間との時間差と、当該検知時間との相関関係を示すテーブルを予め記憶しておいてもよい。この場合、演算部32は、時刻t0から電圧値が閾値Thを下回るまでの検知時間Taに対応する時間差ΔTを当該テーブルから読み出す。演算部32は、検知時間Taから読み出した時間差を減算した時間Ta’(=Ta-ΔT)を上記の式(1)のTに代入することにより補正距離L2’を算出してもよい。この場合も、演算部32は、検知時間Taを上記の式(1)のTに代入することにより得られた距離L2(=(V/2)×Ta)から補正量(=(V/2)×ΔT)だけ短い補正距離L2’を、コネクタ端子15から酸の浸透位置までの距離として算出している。
【0063】
変形例1によれば、検知部3によって算出される、コネクタ端子15から酸の浸透位置までの距離の計測誤差を小さくできる。
【0064】
(変形例2)
本変形例では、別の方法を用いて、反射波によるコネクタ端子15の電圧の降下波形のなまりに起因する計測誤差を小さくする。本変形例では、検知ケーブル1が複数の区間に区分けされ、パルス生成器2は、当該区間の個数回だけパルス信号を一定時間間隔で生成する。当該一定時間は、パルス信号が検知ケーブル1の全長の2倍の距離を伝播するのに要する時間よりも長い時間である。
【0065】
検知部3で用いられる閾値は、パルス信号ごと(つまり、区間ごと)に異なる。閾値は、対応する区間において酸の浸透が生じたときの電圧降下を検知できるとともに、電圧が降下し始めるタイミングと電圧が閾値を下回るタイミングとの時間差が所定範囲内になるように、予め実験等によって定められる。すなわち、本変形例では、調整部4は、検知ケーブル1の全長に応じて閾値を調整するとともに、パルス信号ごとに閾値をさらに微調整する。
【0066】
図5は、パルス信号ごとの閾値の変化を示す図である。図5(a)には、コネクタ端子15からの距離が短い区間に対応する閾値と、当該区間において酸の浸透が生じたときのコネクタ端子15の電圧波形とが示される。図5(b)には、コネクタ端子15からの距離が長い区間に対応する閾値と、当該区間において酸の浸透が生じたときのコネクタ端子15の電圧波形とが示される。図5(c)には、コネクタ端子15からの距離が図5(b)のときよりもさらに長い区間に対応する閾値と、当該区間において酸の浸透が生じたときのコネクタ端子15の電圧波形とが示される。
【0067】
図5(a)に示されるように、コネクタ端子15からの距離が短い区間において酸の浸透が生じた場合、当該区間からの反射波によって、コネクタ端子15の電圧は急峻に降下する。そのため、比較的小さい閾値Th_1を設定しても、電圧が降下し始めるタイミングと電圧が閾値を下回るタイミングとの時間差ΔTを所定範囲内にすることができる。これにより、検知時間Ta_1を上記の式(1)のTに代入することにより得られる距離L2をコネクタ端子15から酸の浸透位置までの距離と見なしても、計測誤差は小さい。検知時間Ta_1は、時刻t0から電圧値が閾値Th_1を下回る時刻t1_1まで時間である。さらに、反射波がコネクタ端子15に到達していないときの電圧レベルと閾値Th_1との差が大きいため、電圧波形に含まれるノイズによる誤検知を抑制できる。
【0068】
図5(b)に示されるように、コネクタ端子15からの距離が長い区間において酸の浸透が生じた場合、当該区間からの反射波によってコネクタ端子15の電圧は、緩やかに降下する。そのため、閾値Th_1よりも大きい閾値Th_2を設定することにより、電圧が降下し始めるタイミングと電圧が閾値を下回るタイミングとの時間差ΔTを所定範囲内にすることができる。これにより、検知時間Ta_2を上記の式(1)のTに代入することにより得られる距離L2をコネクタ端子15から酸の浸透位置までの距離と見なしても、計測誤差は小さい。検知時間Ta_2は、時刻t0から電圧値が閾値Th_2を下回る時刻t1_2まで時間である。
【0069】
図5(c)に示されるように、コネクタ端子15からの距離がさらに長い区間において酸の浸透が生じた場合、当該対象区間からの反射波によってコネクタ端子15の電圧は、さらに緩やかに降下する。そのため、閾値Th_2よりも大きい閾値Th_3を設定することにより、電圧が降下し始めるタイミングと電圧が閾値を下回るタイミングとの時間差ΔTを所定範囲内にすることができる。これにより、検知時間Ta_3を上記の式(1)のTに代入することにより得られる距離L2をコネクタ端子15から酸の浸透位置までの距離と見なしても、計測誤差は小さい。検知時間Ta_3は、時刻t0から電圧値が閾値Th_3を下回る時刻t1_3まで時間である。
【0070】
調整部4は、検知ケーブル1の全長と区間と閾値との対応関係を示すテーブルを予め記憶しておき、検知ケーブル1の全長及び区間に応じた閾値をテーブルから読み出せばよい。テーブルは、検知ケーブル1の全長及び区間と、当該区間で酸の浸透が生じたときのコネクタ端子15の電圧波形との相関関係に基づいて予め作成される。当該相関関係は、予め実験等により確認される。
【0071】
ただし、図5(b)(c)に示されるように、比較的大きい閾値が設定されると、電圧波形に含まれるノイズによる誤検知の頻度が高まる。そのため、検知部3は、ある区間に対応する閾値を用いて算出した距離L2が当該区間に含まれる場合に当該距離L2を有効とし、算出した距離L2が当該区間に含まれない場合に当該距離L2を無効とする。検知部3は、有効と判断した距離L2を、コネクタ端子15から酸の浸透位置までの距離として決定する。
【0072】
または、検知部3は、n番目(nは1以上の整数)のパルス信号に対して、コネクタ端子15からの距離がn番目に短い区間に対して調整された閾値を用いる。1番目のパルス信号に対して算出した距離L2だけコネクタ端子15から離れた位置が属する区間をk番目の区間とするとき、検知部3は、k番目のパルス信号に対して算出した距離L2を、コネクタ端子15から酸の浸透位置までの距離として決定する。もしくは、検知部3は、1~k番目のパルス信号に対して算出した距離L2の収束値を、コネクタ端子15から酸の浸透位置までの距離として決定してもよい。
【0073】
(変形例3)
図6は、濃度35%の塩酸が検知ケーブルに浸透したときの電圧波形と、濃度98%の硫酸が検知ケーブルに浸透したときの電圧波形との一例を模式的に示す図である。濃度35%の塩酸が検知ケーブル1に浸透した場合、可溶性絶縁被膜11b,12b(図2参照)の溶解の進行が遅く、検知用心線11と検知用心線12との間の電気抵抗の低下量が小さい。そのため、図6のA線に示されるように、酸の浸透位置からの反射波による電圧の降下量も小さい。これに対し、濃度98%の硫酸が検知ケーブル1に浸透した場合、可溶性絶縁被膜11b,12b(図2参照)の溶解の進行が速く、検知用心線11と検知用心線12との間の電気抵抗の低下量が大きい。そのため、図6のB線に示されるように、酸の浸透位置からの反射波による電圧の降下量も大きい。
【0074】
このように、酸の種類に応じて、反射波によるコネクタ端子15の電圧の降下量が異なる。したがって、調整部4は、検知ケーブル1の全長に応じて閾値を調整するとともに、さらに、検知対象となる酸の種類の入力を受け付け、受け付けた種類に基づいて、閾値をさらに調整してもよい。例えば、図6に示されるように、調整部4は、濃度35%の塩酸が入力された場合には閾値Thaを設定し、濃度98%の硫酸が入力された場合には閾値Thbを設定する。
【0075】
調整部4は、検知ケーブル1の全長と酸の種類と閾値との対応関係を示すテーブルを予め記憶しておき、検知ケーブル1の全長及び酸の種類に応じた閾値をテーブルから読み出せばよい。テーブルは、検知ケーブル1の全長及び酸の種類とコネクタ端子15の電圧波形との相関関係に基づいて予め作成される。当該相関関係は、予め実験等により確認される。
【0076】
(変形例4)
上記の説明では、同一の長さL1を有する単位ケーブル10によって検知ケーブル1を構成するものとした。しかしながら、検知ケーブル1は、異なる長さを有する複数種類の単位ケーブルによって構成されてもよい。例えば、使用者は、長さ25mの第1単位ケーブル及び長さ50mの第2単位ケーブルを適宜組み合わせて検知ケーブル1を構成してもよい。これにより、検知ケーブル1の全長L0の選択の幅が広がる。この場合、調整部4は、第1単位ケーブルの本数N1と、第2単位ケーブルの本数N2との入力を受け付け、受け付けた本数N1,N2を用いて、L0=25×N1+50×N2の式に従って検知ケーブル1の全長L0を算出する。調整部4は、検知ケーブル1の全長と閾値との対応関係を示すテーブルを予め記憶しておき、算出した検知ケーブル1の全長L0に対応する閾値をテーブルから読み出すことにより、閾値を設定すればよい。
【0077】
(変形例5)
上記の説明では、漏洩の対象となる液体を酸としたが、水、塩水、アルカリなどの他の導電性液体であってもよい。例えば、検知用心線11,12(図2参照)は、可溶性絶縁被膜11b,12bの代わりに、水、アルカリなどの導電性液体を吸収可能な材質の被膜を含んでもよい。このような検知用心線11,12で構成された検知ケーブル1を用いることにより、導電性液体の浸透位置において、検知用心線11と検知用心線12とが導通し、電気抵抗が低下する。その結果、導電性液体の浸透位置からの反射波によりコネクタ端子15の電圧が降下する。この場合、雨水による誤検知を避けるため、検知ケーブル1は屋内に設置される。
【0078】
(変形例6)
図11は、パルス生成器とパルス信号の入射端との間の接続構成と、当該入射端の電圧の時間変化とを示す図である。
【0079】
図11(a)には、パルス生成器2とコネクタ端子15との間に抵抗器6のみが配置される接続構成が示される。当該接続構成の場合、コネクタ端子15の電圧波形は、パルス信号を入射した直後の期間(立ち上がり期間)においてなまる。すなわち、コネクタ端子15の電圧は、立ち上がり期間において、徐々に上昇してから一定値で安定する。
【0080】
図11(b)には、パルス生成器2とコネクタ端子15との間に抵抗器6とコンデンサ7との並列回路が配置される接続構成が示される。当該接続構成の場合、コネクタ端子15の電圧波形は、立ち上がり期間において急峻となる。すなわち、コネクタ端子15の電圧は、立ち上がり期間において、急激に上昇してから降下し、一定値で安定する。立ち上がり期間における電圧の上昇度は、コンデンサ7の容量によって調整される。
【0081】
液体の浸透が生じた場合、浸透位置に応じたタイミングでコネクタ端子15の電圧降下が生じる。電圧降下は、比較器31の出力がハイレベルからローレベルに変化したことにより検知される。図11(a)に示す電圧波形において、コネクタ端子15に近い位置で液体の浸透が生じた場合、当該浸透による電圧降下を検知できない可能性がある。立ち上がり期間の電圧波形がなまっているため、液体の浸透による電圧降下が見えづらくなるためである。そのため、図11(b)に示されるように、パルス生成器2とコネクタ端子15との間に抵抗器6とコンデンサ7との並列回路を配置することが好ましい。
【0082】
(変形例7)
図11に示されるように、パルス信号をコネクタ端子15に入力した直後の立ち上がり期間においてコネクタ端子15の電圧が不安定になりやすい。当該立ち上がり期間に酸の浸透位置からの反射波による電圧降下があったとしても、当該電圧降下を確認できない可能性がある。そこで、検知ケーブル1のうちコネクタ端子15側の所定長の端部を、液体の漏洩のない安全場所に配設するようにしてもよい。言い換えると、検知ケーブル1のうちコネクタ端子15から所定長さの端部を除く部分が液体の漏洩の検知対象範囲に敷設される。安全場所に配設される端部の長さは、立ち上がり期間でパルス信号が往復する長さ以上となるように定められる。これにより、液体の漏洩が想定される範囲の全域において、液体の浸透位置を精度良く検知することができる。
【0083】
もしくは、検知ケーブル1におけるコネクタ端子15側の端部に遅延回路が設けられてもよい。これにより、反射波がコネクタ端子15に到達するタイミングを遅くすることができる。その結果、パルス信号をコネクタ端子15に入力した直後の立ち上がり期間に反射波による電圧降下が生じることを回避できる。
【0084】
(変形例8)
図1に示す位置検知システムが備える単位ケーブルは、図2に示す構成に限定されない。図12は、図1に示す検知システムが備える単位ケーブルの別の例を示す断面図である。図13は、図1に示す検知システムが備える単位ケーブルのさらに別の例を示す断面図である。
【0085】
図12に示されるように、2本の検知用心線11,12の各検知用心線上にも編組体21が設けられてもよい。これにより、漏洩した液体が検知用心線11,12上の編組体21に浸透し毛細管現象で線状にも液体が含浸するため、より検知性能が良好になる。
【0086】
好ましくは、図13に示されるように、図12において編組体20の外側(最外層)に編組体22が設けられてもよい。編組体が二重に施されることで漏洩した液体がさらに浸透し易くなり、編組体21や編組体22に漏洩した液体がさらに留まりやすくなる。それにより、さらに検知性能が良好になるとともに2本の検知用心線11,12が傷付き難くなるなど、検知システム上の作業特性も向上する。
【0087】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0088】
1 検知ケーブル、2 パルス生成器、3 検知部、4 調整部、5 表示装置、6 抵抗器、7 コンデンサ、10 単位ケーブル、11,12 検知用心線、11a,12a 導体、11b,12b 可溶性絶縁被膜、13,14,15,16,17,18 コネクタ端子、19 終端抵抗器、20~22 編組体、31 比較器、32 演算部、100 位置検知システム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13