(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-23
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】2-(2-ジアゾニウム-6-置換フェニル)エタノール塩を環化させることによる4-置換2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフラン誘導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 307/78 20060101AFI20220111BHJP
C07C 245/20 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
C07D307/78 CSP
C07C245/20
(21)【出願番号】P 2019506643
(86)(22)【出願日】2017-08-07
(86)【国際出願番号】 EP2017069933
(87)【国際公開番号】W WO2018029141
(87)【国際公開日】2018-02-15
【審査請求日】2020-08-04
(32)【優先日】2016-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507203353
【氏名又は名称】バイエル・クロップサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203035
【氏名又は名称】五味渕 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【氏名又は名称】今藤 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ガレンカンプ,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】フォード,マルク・ジェイムズ
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0329566(US,A1)
【文献】特表2005-508966(JP,A)
【文献】G. M. BENNETT AND MOSTAFA MAHMOUD HAFEZ,52. A synthesis of dihydroindole, dihydrothionaphthen, and dihydrobenzofuran,JOURNAL OF THE CHEMICAL SOCIETY,1941年,287 - 288
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 307/78
C07C 245/20
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
〔式中、R
1は、Cl(Ia)、Br(Ib)又はメチル(Ic)である〕
で表される置換2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフラン誘導体を調製する方法であって、
式(II)
【化2】
〔式中、R
1は、Cl、Br又はメチルである〕
で表されるアニリンを、有機亜硝酸
エステル及び有機酸又は無機酸の存在下、有機溶媒の中で反応させて、式(III)
【化3】
〔式中、
R
1は、Cl、Br又はメチルであり;
X
-は、該有機酸又は無機酸の対イオンである〕
で表されるジアゾニウム塩を生成させ、それを加熱することによってさらに反応させて、式(I)で表される化合物を生成させることを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
R
1がClであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
X
-がCl
-、HSO
4
-、Cl
3COO
-又はF
3CCOO
-であることを特徴とする、請求項1及び2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
有機溶媒として、ニトリル類、炭化水素類及び/又はハロゲン化炭化水素類を使用することを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
使用する
有機溶媒が、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、1-クロロブタン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、1,2-ジクロロベンゼン及び/又はアセトニトリルであることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
使用する有機亜硝酸
エステルが、亜硝酸C
1-C
6-アルキルであることを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
有機溶媒、有機亜硝酸
エステル及び酸の下記組み合わせ:
(a)
有機溶媒としての1種類以上のニトリル類、有機亜硝酸
エステルとしての1種類以上の亜硝酸C
1-C
6-アルキル、及び、酸としての硫酸又は塩酸;
(b)
有機溶媒としての炭化水素類及び/又はハロゲン化炭化水素類、有機亜硝酸
エステルとしての1種類以上の亜硝酸C
1-C
6-アルキル、及び、酸としてのトリフルオロ酢酸又はトリクロロ酢酸;
のうちの1種類を前記反応に使用することを特徴とする、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
有機溶媒、有機亜硝酸
エステル及び酸の下記組み合わせ:
(a) 亜硝酸n-ブチル、亜硝酸tert-ブチル及び/又は亜硝酸イソペンチルと組み合わせた、硫酸又は塩酸と組み合わせた、アセトニトリル、プロピオニトリル及び/又はブチロニトリル;
(b) 亜硝酸n-ブチル、亜硝酸tert-ブチル及び/又は亜硝酸イソペンチルと組み合わせた、トリフルオロ酢酸又はトリクロロ酢酸と組み合わせた、1,2-ジクロロエタン、ジクロロメタン、1-クロロブタン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン及び/又は1,2-ジクロロベンゼン;
のうちの1種類を前記反応に使用することを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
式(IIIa):
【化4】
〔式中、X
-は、Cl
-、HSO
4
-、Cl
3COO
-又はF
3CCOO
-である〕
で表される化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、置換された2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフラン誘導体を調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
置換された2,3-ジヒドロベンゾフラン誘導体は、置換されたスチレン誘導体の調製における有用な中間体であり、その置換されたスチレン誘導体は、農薬活性成分の調製における有用な中間体である(例えば、WO2012/025557を参照されたい)。
【0003】
4-クロロ-2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフランを調製するための可能な方法は、該文献に記載されている。該調製は、トルエン中100℃で、触媒量のCuClの存在下(Tetrahedron Lett. 2000, 41, 4011)、1.2当量のNaHを用いて、2-(2,6-ジクロロフェニル)エタノールを分子内環化させることによって実施する。この方法の不利点は、原料としての2-(2,6-ジクロロフェニル)エタノールを工業規模で入手することができず、コストがかかる多段階の反応順序によって調製しなければならないということ、NaHは工業規模における塩基としては適切ではないということ、及び、Cu-重金属廃棄物が生成されるということである。
【0004】
4-メチル-2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフランを調製する方法は、WO2009/062285から知られている。該調製は、2-ブロモ-1-(2-ヒドロキシ-6-メチルフェニル)エタノンを環化させて4-メチルベンゾフラン-3-オンを生成させ、次いで、還元して4-メチル-2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフランを生成させることによって実施する。不利点は、この方法のための出発物質も、複雑な多段階反応順序によって調製しなければならないこと、及び、2段階を通した収率が42%しかないということである。
【0005】
2,3-ジヒドロベンゾフラン類を調製することに関する代替的な一般的な可能性は、2-(2-アミノフェニル)エタノール誘導体のジアゾニウム塩化合物を環化させることからなる。例えば、2-(2-アミノフェニル)エタノールを0℃で水溶液状態のNaNO2及びH2SO4で処理し、次いで、その反応混合物を50℃まで加熱することで、2,3-ジヒドロベンゾフランが50%の収率で得られる(J. Chem. Soc. 1941, 287)。該反応は、「Acta Chem. Scand. B 1980, B34, 73」に、同じ反応条件下で、35%の2,3-ジヒドロベンゾフラン及び50%の二次成分としての2-(2-ヒドロキシエチル)フェノールの収率と共に記載されている。WO2004/052851には、上記反応条件下で2-(2-アミノ-5-クロロフェニル)プロパン-1,3-ジオールを反応させて、(5-クロロ-2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフラン-3-イル)メタノールを生成させることが記載されているが、収率は報告されていない。この方法の不利点は、これらの反応条件下での2-(2-アミノ-6-クロロフェニル)エタノールの反応によって、4-クロロ-2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフランに加えて、二次成分として3-クロロ-2-(2-ヒドロキシエチル)フェノールも形成されるということである。それによって、4-クロロ-2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフランの収率は低下し、そして、付加的な精製段階が必要である。「J. Am. Chem. Soc. 2013, 135, 7086」には、2’-アミノ-3’-ブロモビフェニル-2-オールをTFA/水(20:1)の混合物の中で0℃で1.2当量のNaNO2と反応させ、次に、その反応混合物を70℃まで加熱し、それによって、4-ブロモジベンゾ[b,d]フランが75%の収率で単離され得るということが記載されている。類似した反応条件が、例えば、2-クロロ-7-メチル-4-ニトロジベンゾ[b,d]フランを生成させるための2’-アミノ-5-クロロ-4’-メチルビフェニル-2-オールの環化(及び、同時に、ニトロ化)に関して、「RSC Adv. 2015, 5, 44728」に記載されている。この方法の不利点は、これらの反応条件下における2-(2-アミノ-6-クロロフェニル)エタノールの反応において、4-クロロ-2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフランに加えて、3-クロロ-2-(2-ヒドロキシエチル)フェニルトリフルオロアセテートが二次成分として形成されるということである。それによって、4-クロロ-2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフランの収率は低下し、そして、付加的な精製段階が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際特許出願公開第2012/025557号
【文献】国際特許出願公開第2009/062285号
【文献】国際特許出願公開第2004/052851号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Tetrahedron Lett. 2000, 41, 4011
【文献】J. Chem. Soc. 1941, 287
【文献】Acta Chem. Scand. B 1980, B34, 73
【文献】J. Am. Chem. Soc. 2013, 135, 7086
【文献】RSC Adv. 2015, 5, 44728
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
置換された2,3-ジヒドロベンゾフラン誘導体は新規農薬活性成分を合成するための構成単位として重要であることから、取り組んだ課題は、工業規模で安価に使用することが可能で、上記で記載した不利点を回避する調製方法を見いだすことである。特定の2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフラン誘導体を高収率且つ高純度で得て、その結果、目標化合物を好ましくは潜在的に複雑なさらなる精製に付す必要がないことも望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
【0010】
〔式中、R
1は、Cl(Ia)、Br(Ib)又はメチル(Ic)である〕
で表される置換2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフラン誘導体を調製する方法によって達成され、ここで、該調製方法は、式(II)
【化2】
【0011】
〔式中、R
1は、Cl、Br又はメチルである〕
で表されるアニリンを、有機亜硝酸
エステル及び有機酸又は無機酸の存在下、有機溶媒の中で反応させて、式(III)
【化3】
【0012】
〔式中、
R1は、Cl、Br又はメチルであり;
X-は、該有機酸又は無機酸の対イオンである〕
で表されるジアゾニウム塩を生成させ、それを、加熱することによってさらに反応させて、式(I)で表される化合物を生成させることを特徴とする。
【0013】
好ましいのは、式(I)、式(II)及び式(III)のラジカルの定義が以下のとおりである、本発明による調製方法である:
R1は、Clであり;
X-は、Cl-、HSO4
-、Cl3COO-、F3CCOO-である。
【0014】
本発明のさらなる態様は、式(IIIa):
【化4】
【0015】
〔式中、Xは、Cl-、HSO4
-、Cl3COO-、F3CCOO-である〕
で表される化合物の塩である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明による反応は、スキーム1に示されている。
【0017】
【0018】
一般式(I)で表される所望の2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフラン誘導体は、本発明の調製方法〔式(II)で表されるアニリンを、有機亜硝酸エステル及び有機酸又は無機酸の存在下、有機溶媒の中で反応させて、式(III)で表されるジアゾニウム塩化合物を生成させ、それを、次に、加熱することによってさらに反応させて、式(I)で表される化合物を生成させる〕で、良好な収率及び高い純度で得られる。
【0019】
驚くべきことに、有機溶媒の中で有機亜硝酸エステル(好ましくは、亜硝酸アルキル)を使用することによってより高い収率及びより高い純度が達成され、そして、二次成分の形成が抑制される。
【0020】
本発明による調製方法に関する有用な溶媒には、概して、当該反応条件下において不活性である任意の非プロトン性有機溶媒又は溶媒混合物が包含され、そして、そのような非プロトン性有機溶媒又は溶媒混合物としては、以下のものを挙げることができる:ニトリル類、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル及びブチロニトリル;炭化水素類及びハロゲン化炭化水素類、例えば、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、トルエン、オルト-キシレン、メタ-キシレン、パラ-キシレン、メシチレン、クロロベンゼン、オルト-ジクロロベンゼン、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、1-クロロブタン、アニソール又はニトロベンゼン。好ましくは、該溶媒は、炭化水素類及びハロゲン化炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、トルエン、オルト-キシレン、メタ-キシレン、パラ-キシレン、メシチレン、クロロベンゼン、オルト-ジクロロベンゼン、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、1-クロロブタン、アニソール、ニトロベンゼン又はこれら溶媒の混合物)又はニトリル類(アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル)の群から選択される。特に好ましくは、1,2-ジクロロエタン、1-クロロブタン、ジクロロメタン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、1,2-ジクロロベンゼン及び/又はアセトニトリルを使用する。
【0021】
適切な無機酸は、塩酸及び硫酸である。
【0022】
適切な有機酸は、トリフルオロ酢酸(TFA)及びトリクロロ酢酸(TCA)である。
【0023】
適切な有機亜硝酸エステルは、亜硝酸アルキルである。好ましくは、亜硝酸C1-C6-アルキル(例えば、亜硝酸イソプロピル、亜硝酸n-ブチル、亜硝酸イソブチル、亜硝酸tert-ブチル、亜硝酸ペンチル又は亜硝酸イソペンチル)を使用する。特に好ましくは、亜硝酸イソプロピル、亜硝酸n-ブチル、亜硝酸イソブチル、亜硝酸tert-ブチル、亜硝酸ペンチル及び亜硝酸イソペンチルから選択される有機亜硝酸エステルを使用する。極めて特に好ましくは、亜硝酸n-ブチル、亜硝酸tert-ブチル及び/又は亜硝酸イソペンチルを使用する。
【0024】
特に好ましいのは、上記で記載した溶媒、有機亜硝酸エステル及び酸の群からなる以下の組み合わせである:
(a) 溶媒としての1種類以上のニトリル類、有機亜硝酸エステルとしての1種類以上の亜硝酸C1-C6-アルキル、及び、酸としての硫酸又は塩酸;
(b) 溶媒としての炭化水素類及び/又はハロゲン化炭化水素類、亜硝酸エステルとしての1種類以上の亜硝酸C1-C6-アルキル、及び、酸としてのトリフルオロ酢酸又はトリクロロ酢酸。
【0025】
極めて特に好ましいのは、上記で記載した溶媒、有機亜硝酸エステル及び酸の群からなる以下の組み合わせである:
(a) 亜硝酸エステルとしての亜硝酸n-ブチル、亜硝酸tert-ブチル及び/又は亜硝酸イソペンチルと組み合わせた、酸としてのトリフルオロ酢酸又はトリクロロ酢酸と組み合わせた、溶媒よしての1,2-ジクロロエタン、1-クロロブタン、ジクロロメタン、クロロベンゼン、トルエン、キシレン及び/又は1,2-ジクロロベンゼン;
(b) 亜硝酸エステルとしての亜硝酸n-ブチル、亜硝酸tert-ブチル及び/又は亜硝酸イソペンチルと組み合わせた、酸としての硫酸又は塩酸と組み合わせた、溶媒としてのアセトニトリル、プロピオニトリル及び/又はブチロニトリル。
【0026】
本発明による方法における温度は、広い範囲内で変えることができる。典型的には、式(III)で表されるジアゾニウム塩化合物は、0℃~20℃の温度で、好ましくは、0℃~10℃の温度で、形成させる。特に好ましくは、該反応は、0℃~5℃の範囲内の温度で実施する。式(I)で表される化合物を生成させるための式(III)で表される化合物のさらなる反応に関しては、典型的には、20℃~80℃の温度を使用し、好ましくは、60~80℃の温度を使用する。
【0027】
本発明による方法は、典型的には、標準圧で実施する。該反応は、減圧下又は高圧(陽圧)下で実施することも可能である。
【0028】
式(II)で表される化合物と上記で記載した群の酸のモル比は、広い範囲内で変えることができる。典型的には、1:1~1:3のモル比を使用し、好ましくは、1:2~1:3のモル比を使用する。特に好ましいのは、1:2のモル比である。
【0029】
式(II)で表される化合物と上記で記載した群の亜硝酸エステルのモル比は、広い範囲内で変えることができる。典型的には、1:1~1:2のモル比を使用し、好ましくは、1:1~1:1.5のモル比を使用する。特に好ましいのは、1:1.1のモル比である。
【0030】
式(II)で表されるアニリンは、該文献から知られており、そして、一部は、工業的な量で入手することができる(例えば、以下のものを参照されたい:Tetrahedron Lett. 2000, 41, 6319; Tetrahedron Lett. 1993, 34, 1057; J. Org. Chem. 1990, 55, 580)。
【0031】
式(III)で表されるジアゾニウム塩化合物を形成させるための反応の反応時間は、短く、そして、0.5~2時間の範囲内である。それより長い反応時間も可能であるが、経済的な価値がない。式(I)で表される化合物を生成させるための式(III)で表される化合物のさらなる反応の反応時間は、短く、そして、0.5~2時間の範囲内である。それより長い反応時間も可能であるが、経済的な価値がない。
【実施例】
【0032】
実施例
以下の実施例によって、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
4-クロロ-2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフラン(Ia)
2-(2-アミノ-6-クロロフェニル)エタノール(IIa)(17.2g、100.2mmol)を1,2-ジクロロエタン(55mL)に溶解させた溶液に、0~5℃で、トリフルオロ酢酸(15.4mL、200.4mmol)を添加した。亜硝酸n-ブチル(95%、13.6mL、110.2mmol)を0~5℃の温度で1時間かけて計量添加し、そして、添加が完了した後、その混合物を該温度で1時間撹拌した。生じたジアゾニウム塩は、単離せず、直接、さらに反応させた。該ジアゾニウムトリフルオロ酢酸塩(IIIa,X=F3CCOO-)に関する分析データは、以下のとおりである:1H-NMR(DMSO-d6,400MHz)δ(ppm)=8.71(dd,J=8.3,1.2Hz,1H),8.41(dd,J=8.3,1.1Hz,1H),7.90(t,J=8.3Hz,1H),3.75(t,J=5.6Hz,2H),3.33(t,J=5.6Hz,2H); 1H-NMR(CDCl3,400MHz)δ(ppm)=8.70(dd,J=8.3,1.0Hz,1H),8.08(dd,J=8.3,1.1Hz,1H),7.63(t,J=8.3Hz,1H),3.93(t,J=5.3Hz,2H),3.37(t,J=5.3Hz,2H)。該ジアゾニウムトリクロロ酢酸塩(IIIa,X=Cl3CCOO-)に関する分析データは、以下のとおりである:1H-NMR(DMSO-d6,400MHz)δ(ppm)=7.83(dd,J=8.0,1.1Hz,1H),7.62(dd,J=8.0,1.1Hz,1H),7.48(t,J=8.0Hz,1H),3.57(t,J=7.1Hz,2H),3.39(t,J=7.1Hz,2H)。該ジアゾニウム塩化物塩(IIIa,X=Cl-)に関する分析データは、以下のとおりである:1H-NMR(DMSO-d6,400MHz)δ(ppm)=8.81(dd,J=8.4,1.1Hz,1H),8.41(dd,J=8.2,1.0Hz,1H),7.91(t,J=8.3Hz,1H),3.73(t,J=5.6Hz,2H),3.33(t,J=5.6Hz,2H)。該ジアゾニウム硫酸水素塩(IIIa,X=HSO4
-)に関する分析データは、以下のとおりである:1H-NMR(DMSO-d6,400MHz)δ(ppm)=8.73(dd,J=8.3,1.1Hz,1H),8.40(dd,J=8.3,1.1Hz,1H),7.90(t,J=8.3Hz,1H),3.74(t,J=5.6Hz,2H),3.33(t,J=5.6Hz,2H)。
【0034】
上記溶液を70~80℃で1時間かけて1,2-ジクロロエタン(30mL)の中に計量添加し、そして、添加が完了した後、その混合物を該温度でさらに30分間撹拌した。その反応溶液を20℃まで冷却し、10%HCl溶液(20mL)で洗浄した。その有機相を硫酸マグネシウムで脱水し、濾過し、減圧下で濃縮した。次いで、その残渣を減圧下で分別蒸留した(b.p.89~91℃/10mbar、11.9g、理論値の77%)。1H-NMR(CDCl3,400MHz)δ(ppm)=7.04(tt,J=8.0,0.7Hz,1H),6.82(dd,J=8.0,0.7Hz,1H),6.67(d,J=8.1Hz,1H),4.60(t,J=8.7Hz,2H),3.25(t,J=8.7Hz,2H)。
【0035】
4-ブロモ-2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフラン(Ib)
b.p.106~108℃/10mbar; 1H-NMR(DMSO-d6,400MHz)δ(ppm)=7.05(t,J=7.7Hz,1H),7.01(dd,J=8.1,1.1Hz,1H),6.76(dd,J=7.6,1.1Hz,1H),4.58(t,J=8.7Hz,2H),3.17(t,J=8.7Hz,2H)。
【0036】
4-メチル-2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフラン(Ic)
b.p.89~91℃/10mbar; 1H-NMR(DMSO-d6,400MHz)δ(ppm)=6.96(t,J=7.7Hz,1H),6.63(d,J=7.6Hz,1H),6.55(d,J=8.0Hz,1H),4.50(t,J=8.7Hz,2H),3.08(t,J=8.7Hz,2H),2.19(s,3H)。
【0037】
比較実施例:
二次成分として3-クロロ-2-(2-ヒドロキシエチル)フェノールが得られる4-クロロ-2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフラン(Ia)の調製
【化6】
【0038】
2-(2-アミノ-6-クロロフェニル)エタノール(IIa)(10.0g、58.3mmol)を水(250mL)と濃硫酸(25.0mL)の混合物の中に入れ、0℃まで冷却した。亜硝酸ナトリウム(7.24g、104.9mmol)を水(50.0mL)に溶解させた溶液を0~5℃で1時間かけて計量添加し、そして、添加が完了した後、その混合物をさらに0℃で1時間撹拌した。HPLCは、ジアゾニウム塩への完全な変換を示した。生じたジアゾニウムは、単離せず、直接、さらに反応させた。
【0039】
上記溶液を80~90℃で1時間かけて水(50mL)の中に計量添加し、そして、添加が完了した後、その混合物を該温度でさらに30分間撹拌した。HPLCは、該ジアゾニウム塩が4-クロロ-2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフラン(Ia、 41面積%HPLC))及び3-クロロ-2-(2-ヒドロキシエチル)フェノール(IVa、 56面積%HPLC)に完全に変換したことを示す。その反応混合物を20℃まで冷却し、酢酸エチル(毎回100mL)で3回抽出した。その有機相を合して5%NaOH(毎回100mL)で3回洗浄した。残った有機相を飽和塩化ナトリウム溶液で洗浄し、MgSO4で脱水し、ロータリーエバポレーターで濃縮した。これによって、4-クロロ-2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフラン(Ia)が橙色-黄色がかった油状物として得られた(4.0g、純度:91面積%HPLC、収率:理論値の40%、分析データ:本発明の実施例を参照されたい)。その水性NaOH相を合し、20%HClを添加することによってpH1-2とし、次いで、EtOAc(毎回100mL)で3回抽出した。その有機相を合して飽和塩化ナトリウム溶液で洗浄し、MgSO4で脱水し、ロータリーエバポレーターで濃縮した。これによって、以下の分析データを有する3-クロロ-2-(2-ヒドロキシエチル)フェノール(IVa)が橙色-黄色がかった油状物として得られた(4.0g、純度:96面積%HPLC、収率:理論値の38%):1H-NMR(CDCl3,400MHz)δ(ppm)=7.07(t,J=8.1Hz,1H),6.97(d,J=8.1Hz,1H),6.85(d,J=8.1Hz,1H),4.01(t,J=8.5Hz,2H),3.12(t,J=8.5Hz,2H)。