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特許6998942心機能を定量化し、心臓の回復を促進する心血管補助システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-23
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】心機能を定量化し、心臓の回復を促進する心血管補助システム
(51)【国際特許分類】
   A61M 60/531 20210101AFI20220111BHJP
   A61M 60/178 20210101ALI20220111BHJP
   A61B 5/0215 20060101ALI20220111BHJP
   A61B 5/029 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
A61M60/531
A61M60/178
A61B5/0215
A61B5/029
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019515324
(86)(22)【出願日】2017-09-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-14
(86)【国際出願番号】 US2017052259
(87)【国際公開番号】W WO2018053504
(87)【国際公開日】2018-03-22
【審査請求日】2020-09-18
(31)【優先権主張番号】62/396,628
(32)【優先日】2016-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510121444
【氏名又は名称】アビオメド インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】596060697
【氏名又は名称】マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】エデルマン エラザー
(72)【発明者】
【氏名】チャン ブライアン
(72)【発明者】
【氏名】ジョセフィ ノーム
(72)【発明者】
【氏名】バブサー ソニア サナト
【審査官】松江 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特表2000-512191(JP,A)
【文献】特表2003-508161(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0283027(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 60/00-60/898
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カテーテル(106, 206, 306)と、
モータ(108, 208, 308)と、
前記モータ(108, 208, 308)に動作可能に連結されたロータ(310)と、
前記モータ(108, 208, 308)を作動させると前記ロータ(310)が駆動されて血液がポンプハウジングを通って送り出されるように、前記ロータ(310)を少なくとも部分的に取り囲む前記ポンプハウジングと、
経時的に血行動態パラメータを検出するように構成されたセンサ(112, 212a, 212b, 212c, 312)と、
前記モータ(108, 208, 308)と関連付けられたモータパラメータを経時的に検出し、
経時的に前記センサ(112, 212a, 212b, 212c, 312)からの前記検出された血行動態パラメータの入力を受け取り、
前記検出された血行動態パラメータと前記検出されたモータパラメータとの間の関係を決定し、
多項式最良当てはめアルゴリズムを使用して、前記血行動態パラメータと前記モータパラメータとの間の前記関係を特徴付け、
前記決定された関係をメモリに格納する
ように構成されたコントローラ(322)と
を含む、心臓ポンプシステム。
【請求項2】
前記モータパラメータが、前記モータ(108, 208, 308)に供給される電流、前記モータ(108, 208, 308)に供給される電力、またはモータ速度である、請求項1記載の心臓ポンプシステム。
【請求項3】
前記コントローラ(322)が、前記検出された血行動態パラメータと前記モータパラメータとの間の前記特徴付けられた関係から変曲点、局所勾配変化、または曲率変化を抽出することによって少なくとも1つの心血管メトリックを決定するようにさらに構成されている、請求項1または2記載の心臓ポンプシステム。
【請求項4】
前記少なくとも1つの心血管メトリックが、収縮性、一回拍出量、駆出率、心腔圧、一回仕事量、心拍出量、心臓パワー出力(cardiac power output)、左心室圧、前負荷状態、後負荷状態、心拍数、心臓の回復、流量負荷状態、変動容積負荷状態、心周期容積負荷状態、または心周期流動状態のうちの少なくとも1つである、請求項3記載の心臓ポンプシステム。
【請求項5】
前記血行動態パラメータが大動脈圧であり、前記モータパラメータが電流であり、前記関係を特徴付けることが、前記測定された電流と前記測定された電流および前記大動脈圧から算出された圧力ヘッドとを表すデータの少なくとも一部分に方程式を当てはめることを含む、請求項1~4のいずれか一項記載の心臓ポンプシステム。
【請求項6】
前記コントローラ(322)が、
前記測定された電流および圧力ヘッドを表す前記データの少なくとも一部分に当てはめられた前記方程式から、LVEDP点(1315)を決定し、
ルックアップテーブルにアクセスして、前記圧力ヘッドデータにおける前記LVEDP点(1315)から実際のLVEDP値を決定する
ようにさらに構成されている、請求項5記載の心臓ポンプシステム。
【請求項7】
LVEDP点(1315)を決定することが、前記電流および前記圧力ヘッドの少なくとも一部分に当てはめられた前記方程式において勾配の変化、曲率の変化、または変曲点を特定することを含む、請求項6記載の心臓ポンプシステム。
【請求項8】
前記コントローラ(322)が、前記検出された血行動態パラメータと前記モータパラメータとの間の前記関係から心周期位相を決定するようにさらに構成されている、請求項1~7のいずれか一項記載の心臓ポンプシステム。
【請求項9】
前記コントローラ(322)が、
前記検出された血行動態パラメータと前記モータパラメータとの間の前記関係に基づいてヒステリシス曲線を記述し、
前記心周期位相に対応する前記ヒステリシス曲線上のサンプル時間を選択する
ようにさらに構成されている、請求項8記載の心臓ポンプシステム。
【請求項10】
前記心周期位相を決定することが、
前記サンプル時間が圧力ヘッド増加に対応する前記ヒステリシス曲線のセグメントに対応するときに、前記心周期位相が拡張期弛緩にあることを検出すること、または
前記サンプル時間が、拡張期弛緩の後に続く、勾配もしくは曲率の急激な変化または変曲点の特定によって識別される点までの圧力ヘッド減少に対応する前記ヒステリシス曲線のセグメントに対応するときに、前記心周期位相が拡張期充満にあることを検出すること、または
前記サンプル時間が前記変曲点から最小圧力ヘッドまでの圧力ヘッド減少を有する前記ヒステリシス曲線のセグメントに対応するときに、前記心周期位相が収縮期にあることを検出すること
をさらに含む、請求項9記載の心臓ポンプシステム。
【請求項11】
前記モータパラメータおよび血行動態パラメータが、心周期の一部分にわたって検出される、請求項1~10のいずれか一項記載の心臓ポンプシステム。
【請求項12】
前記モータパラメータおよび血行動態パラメータが、1つまたは複数の心周期にわたって検出される、請求項1~11のいずれか一項記載の心臓ポンプシステム。
【請求項13】
前記モータ(108, 208, 308)が、前記ロータ(310)の作動中に前記ロータ(310)の実質的に一定の速度を維持するように構成されている、請求項1~12のいずれか一項記載の心臓ポンプシステム。
【請求項14】
前記コントローラ(322)が、前記少なくとも1つの心血管メトリックを、以前に決定された少なくとも1つの心血管メトリックと共にメモリに格納するようにさらに構成されている、請求項3または4記載の心臓ポンプシステム。
【請求項15】
記カテーテルの遠位端付近に位置決めされた一体型モータ(108, 208, 308)を含む、請求項1~14のいずれか一項記載の心臓ポンプシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、全内容が参照により本明細書に組み入れられる、2016年9月19日に出願された米国仮特許出願第62/396,628号の優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
背景
心血管(CV)疾患は、世界中で罹患率、死亡率、および医療への負担の主な原因であり、米国内だけで約700万件の心不全およびさらに多くの心筋梗塞の症例がある。急性および慢性のCV状態は、生活の質および平均余命を低下させる。CV疾患に対しては、医薬品から機械的装置、最終的には移植にまで及ぶ様々な治療法が開発されてきた。補助人工心臓などの一時的心臓支援装置は、血行力学的支援を提供し、心臓の回復を促進する。
【0003】
大動脈内バルーンポンプ(intra-aortic balloon pump(IABP))から体外式膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation(ECMO))装置、外科的に植え込まれた左心室補助人工心臓(left ventricular assist device(LVAD))まで、様々な度合いの支援および侵襲性を有する多種類の一時的心臓補助装置がある。これらの装置は一般に、心室外に存在するかまたは心室を迂回し、心機能と並行して働くことも心機能を直接支援することもない。これらの装置はまた、特定の患者に必要とされる心臓支援のレベルを導くことができる定量化可能なメトリックを臨床医に提供するものでもない。補助人工心臓の中には、IMPELLA(登録商標)系列の装置(Abiomed, Inc., Danvers MA)のような、経皮的に心臓に挿入され、心拍出量を補うために自己心臓と並行して動作することができるものもある。
【0004】
各患者が必要とする支援の量(例えば、ポンピング装置によって送り出される血液の容積流量)および/または支援の持続期間は様々であり得る。ロータ速度を維持するのに必要とされるモータ電流の変動を利用してポンプまたはポンプ機能の配置を理解することができることが示唆されているが、これらの提案は、心機能を測定するためにモータ電流データを有効に処理するまでには至っていない。例えば、米国特許第6,176,822号(特許文献1)には、ポンプの適切な位置決めを助けるためにモータ電流を測定することが記載されており、米国特許第7,022,100号(特許文献2)は、ロータを駆動するために使用されるモータのトルクとモータ電流との間の関係に基づいて血圧を算出することに言及している。しかしながら、モータ電流だけでは、患者の心機能全般に対する限られた洞察しか得られず、大動脈圧のような既存の尺度は、患者の心機能全般と相関しない。したがって、装置がどの程度の支援を提供すべきかまたは心臓補助装置の使用をいつ終了するかを臨床医が決定するのを助けるために、心機能メトリックをより直接的かつ定量的に推定する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第6,176,822号
【文献】米国特許第7,022,100号
【発明の概要】
【0006】
概要
本明細書に記載されるシステム、装置、および方法は、臓器内に存在する支援装置がその臓器の機能を評価することを可能にする。特に、これらのシステム、装置、および方法は、経皮的補助人工心臓などの心臓補助装置が、装置性能の測定と1つまたは複数の血行動態パラメータの測定とに基づいて心臓の機能を評価するのに使用されることを可能にする。心臓補助装置を使用して心臓の機能を評価することにより、補助装置によって提供される支援の度合い/レベル(例えば、ポンピング装置によってポンピングされる血液の流量)を特定の患者の必要に合わせて調整することが可能になる。例えば、装置性能(または装置の絶対性能)の変化を検出することができ、検出された性能を使用して、患者の心臓が悪化または改善しているかどうかおよび悪化または改善の度合いを判断することができる。検出された性能に基づいて、支援の度合いが調整される。例えば、患者の心機能が悪化しているときには支援の度合いを上げることができ、または患者の心機能が回復し、正常な心機能のベースラインに戻っているときには支援の度合いを下げることができる。これにより、臨床医は心機能の変化に応答して心臓の回復を促すことができ、これにより患者を治療から徐々に引き離すことが可能になる。さらに、心機能をより深く理解するための心機能の評価は、心臓補助装置の使用をいつ終了するのが適切であるかを示すことができる。本明細書に提示されるいくつかの態様は、大動脈弁を横切って植え込まれかつ部分的に左心室に存在する心血管補助装置を対象としているが、これらの概念は心臓、心血管系、または身体の他の領域の装置に適用することができる。
【0007】
さらに、本明細書の心臓補助装置は、装置が患者の体内にある間、心機能を連続してまたはほぼ連続して監視および評価することができる。これは、特定の時間間隔でのみ心機能を推定する方法よりも有利であり得る。例えば、連続監視は心臓の悪化をリアルタイムで検出することを可能にし、その検出は先行技術の方法よりも迅速である。心臓装置は、低侵襲的処置を用いて臓器の損傷を破壊することなく挿入することができる。加えて、心臓補助装置がすでに患者の体内にある場合、追加のカテーテルを患者の体内に導入する必要なしに心機能を測定することができる。
【0008】
本明細書に提示されるシステム、装置、および方法は、血管内圧の測定値およびポンプパラメータ(「パラメータ」は、心血管系および/または心臓ポンプの信号および/または動作状態を表すことができる)から自己心機能を示す心機能パラメータを決定する。心機能は、本明細書に提示される装置および技術を使用していくつかの異なるやり方で定量化することができ、これには、左室拡張末期圧(left ventricular end diastolic pressure(LVEDP))、収縮性、一回拍出量、駆出率、心腔圧、一回仕事量、心拍出量、心臓パワー出力(cardiac power output)、前負荷状態、後負荷状態、心拍数、心臓の回復、流量負荷状態、変動容積負荷状態、および/または心周期流動状態のうちの1つまたは複数が含まれる。いくつかの用途では、そのような心臓パラメータは、圧力測定値と電流測定値の所与の対に対応する心周期の位相の検出を可能にする、圧力測定値(例えば、大動脈圧と左心室圧との間の差圧、または大動脈圧、または脈管構造内で測定されたもしくは脈管構造内に挿入された装置内で測定された他の圧力)とモータ電流測定値との間のヒステリシスに部分的に基づいて決定される。これらの測定値から、ユーザは、心機能に関する重要な情報を、場合によっては、吸引事象の発生を含む心臓補助装置性能に関する情報を判断することができる。
【0009】
一局面では、心臓ポンプシステムは、カテーテルと、モータと、モータに動作可能に連結されたロータと、モータを作動させるとロータが駆動されて血液がポンプハウジングを通って送り出されるように、ロータを少なくとも部分的に取り囲むポンプハウジングとを含む。心臓ポンプシステムはまた、経時的に血行動態パラメータを検出するセンサと、コントローラとを含む。コントローラは、経時的にモータパラメータを検出し、経時的にセンサからの検出された血行動態パラメータの入力を受け取り、経時的に測定された血行動態パラメータと経時的に測定されたモータパラメータとの間の関係などの、検出された血行動態パラメータとモータパラメータとの間の関係を決定する。例えば、コントローラは、検出されたモータパラメータおよび血行動態パラメータをメモリに格納し、それらが時間的に整合するように、モータパラメータと血行動態パラメータのデータを関連付けることができる。コントローラは、多項式最良当てはめアルゴリズムを使用して、検出された血行動態パラメータとモータパラメータとの間の関係を特徴付け、特徴付けられた関係をメモリに格納する。例えば、コントローラは、データの全部または一部(例えば、圧力測定値などの血行動態パラメータデータの一部、およびモータ電流測定値などのモータパラメータデータの一部)を、楕円当てはめ、多項式、オイラー方程式などの適切な方程式に当てはめることによって、関係を特徴付けることができる。
【0010】
いくつかの実施態様では、モータパラメータは、モータに供給される電流、モータに供給される電力、またはモータ速度である。いくつかの実施態様では、コントローラは、検出された血行動態パラメータとモータパラメータとの間の特徴付けられた関係から変曲点、局所勾配変化、または曲率変化を抽出することによって、少なくとも1つの心血管メトリックを決定する。いくつかの実施態様では、少なくとも1つの心血管メトリックは、収縮性、一回拍出量、駆出率、心腔圧、一回仕事量、心拍出量、心臓パワー出力、左心室圧、前負荷状態、後負荷状態、心拍数、心臓の回復、流量負荷状態、変動容積負荷状態、心周期容積負荷状態、または心周期流動状態のうちの少なくとも1つである。いくつかの実施態様では、少なくとも1つの心血管メトリックは、左室拡張末期圧(LVEDP)である。
【0011】
いくつかの実施態様では、血行動態パラメータは大動脈圧であり、モータパラメータは電流であり、関係を特徴付けることは、測定された電流と測定された電流および大動脈圧から算出された圧力ヘッドとを表すデータの少なくとも一部分に方程式を当てはめることを含む。いくつかの実施態様では、コントローラは、電流および圧力ヘッドデータの少なくとも一部分に当てはめた方程式からLVEDP点を決定し、ルックアップテーブルにアクセスして圧力ヘッドデータにおけるLVEDP点から実際のLVEDP値を決定する。いくつかの実施態様では、LVEDP点を決定することは、電流および圧力ヘッドデータの少なくとも一部分に当てはめられた方程式において変曲点、局所勾配変化、または曲率変化を特定することを含む。
【0012】
いくつかの実施態様では、コントローラは、検出された血行動態パラメータとモータパラメータとの間の関係から心周期位相を決定する。いくつかの実施態様では、コントローラは、検出された血行動態パラメータとモータパラメータとの間の関係に基づいてヒステリシス曲線を記述し、心周期位相に対応するヒステリシス曲線上のサンプル時間を選択する。
【0013】
いくつかの実施態様では、心周期位相を決定することは、サンプル時間が圧力ヘッド増加に対応するヒステリシス曲線のセグメントに対応するときに、心周期位相が拡張期弛緩にあることを検出すること、サンプル時間が、拡張期弛緩の後に続く、勾配もしくは曲率の急激な変化または変曲点の特定によって識別される点までの圧力ヘッド減少に対応するヒステリシス曲線のセグメントに対応するときに、心周期位相が拡張期充満にあることを検出すること、またはサンプル時間が変曲点から最小圧力ヘッドまでの圧力ヘッド減少を有するヒステリシス曲線のセグメントに対応するときに、心周期位相が収縮期にあることを検出することを含む。
【0014】
いくつかの実施態様では、モータパラメータおよび血行動態パラメータは、心周期の一部分にわたって検出される。他の実施態様では、モータパラメータおよび血行動態パラメータは、1つまたは複数の心周期にわたって検出される。いくつかの実施態様では、モータは、ロータの作動中にロータの実質的に一定の速度を維持する。いくつかの実施態様では、コントローラは、少なくとも1つの心血管メトリックを、以前に決定された少なくとも1つの心血管メトリックと共にメモリに格納する。いくつかの実施態様では、心臓ポンプシステムはまた、心臓ポンプに近接したカテーテルの遠位端付近に位置決めされた一体型モータも含む。
【0015】
別の局面では、心臓ポンプシステムは、カテーテルと、モータと、モータに動作可能に連結されたロータと、モータを作動させるとロータが駆動されて血液がポンプハウジングを通って送り出されるように、ロータを少なくとも部分的に取り囲むポンプハウジングとを含む。心臓ポンプシステムはまた、経時的に大動脈圧を検出する圧力センサと、コントローラとを含む。コントローラは、経時的にモータパラメータを検出し、センサから経時的に大動脈圧を受け取り、モータパラメータと大動脈圧との間の関係をメモリに格納し、LVEDPを示す変曲点が見出され得る期間を決定し、決定された期間に基づいて大動脈圧における変曲点を特定する。
【0016】
いくつかの実施態様では、LVEDPを示す変曲点が見出され得る期間を決定することは、受け取ったモータパラメータが変化する期間を特定することを含む。いくつかの実施態様では、コントローラはまた、大動脈圧における変曲点に基づいて、メモリに格納された動的曲線ルックアップテーブルからLVEDPを決定する。いくつかの実施態様では、コントローラはECG信号を受け取り、LVEDPを示す変曲点が見出され得る期間を決定することは、ECG信号が拡張期の最終周期を示す期間を特定することを含む。
【0017】
いくつかの実施態様では、モータパラメータは、モータ電流、モータ電流の変化、モータ電流の変動性、およびモータ電流と圧力の正味の積分面積のうちの1つである。いくつかの実施態様では、コントローラはまた、モータパラメータと大動脈圧との間の関係から心周期位相も決定し、心周期位相は、ECGデータ、血行動態パラメータ、モータパラメータおよびモータ速度、ならびに/または大動脈圧の勾配のうちの1つまたは複数を使用して決定される。いくつかの実施態様では、モータは、ロータの作動中にロータの実質的に一定の速度を維持するように構成される。いくつかの実施態様では、心臓ポンプは、患者の脈管構造内に挿入するためにサイズ決めされかつ構成された一体型モータをさらに含む。
【0018】
別の局面では、心臓ポンプシステムは、心臓ポンプと電子コントローラとを含む。心臓ポンプは、モータと、モータに動作可能に連結されたロータと、血行動態パラメータのセンサとを含む。コントローラは、モータパラメータ、例えば、モータに供給される電流、モータに供給される電力、またはモータ速度を測定し、センサを使用して経時的に血行動態パラメータを測定するように構成される。コントローラは、最良当てはめアルゴリズムまたは他の適切な処理アルゴリズムに従って決定される、経時的なモータパラメータを表す入力と血行動態パラメータを表す入力とに基づくヒステリシス曲線を決定および記述し、左心室圧を決定するために、測定された患者心臓パラメータ、例えば大動脈圧に基づいて、当てはめられたヒステリシス曲線をスケーリングするように構成される。
【0019】
いくつかの実施態様では、コントローラは、スケーリングされたヒステリシス曲線から変曲点値を抽出することによって少なくとも1つの心血管メトリックを決定するように構成される。いくつかの適応形態において、少なくとも1つの心血管メトリックは、左室拡張末期圧である。いくつかの実施態様では、ヒステリシス曲線を決定または特徴付けることは、ヒステリシス曲線を当てはめるための多項式を選択することと、曲線を計算するためにコントローラを使用してモータパラメータおよび(例えば、センサ測定値からの)血行動態パラメータを表すデータを処理することとを含む。例えば、モータパラメータおよび測定された血行動態パラメータを示すデータは、メモリまたはサーバのデータベース内のテーブルのデータの配列としてコントローラに格納されてもよく、コントローラは、そのようなデータを取得してヒステリシス曲線を計算するために、そのようなデータテーブルにアクセスし得る。格納されたデータは、後でコントローラによってまたはユーザによってアクセスされることができる。
【0020】
いくつかの実施態様では、血行動態パラメータは圧力ヘッドである。いくつかの実施態様では、少なくとも1つの心血管メトリックは、収縮性、一回拍出量、駆出率、心腔圧、一回仕事量、心拍出量、心臓パワー出力、左室拡張末期圧、前負荷状態、後負荷状態、心拍数、心臓の回復、流量負荷状態、変動容積負荷状態、心周期容積負荷状態、および/または心周期流動状態のうちの少なくとも1つである。いくつかの実施態様では、モータは、モータパラメータの測定中にロータの一定の速度を維持する。
【0021】
いくつかの実施態様では、コントローラは、ヒステリシス曲線から心位相を決定するようにさらに構成される。いくつかの実施態様では、心位相は、ECGデータ、圧力センサで測定された圧力、モータパラメータおよびモータ速度、大動脈圧勾配、ならびに呼吸変動のうちの1つまたは複数を使用して決定される。いくつかの実施態様では、心位相を決定することは、サンプル時間におけるモータパラメータと圧力ヘッドの測定に基づいて、弛緩、収縮、駆出、および充満のうちの1つに対応する、サンプル時間が対応するヒステリシス曲線のセグメントを選択することを含む。いくつかの実施態様では、心位相を決定することは、サンプル時間が高圧を有するヒステリシス曲線のセグメントに対応するときに心位相が拡張期であることを検出することと、サンプル時間が低圧を有するヒステリシス曲線のセグメントに対応するときに心位相が収縮期であることを検出することとをさらに含む。
【0022】
別の局面では、心臓ポンプシステムは、モータと、モータに動作可能に連結されたロータと、圧力センサと、コントローラとを含む。コントローラは、モータパラメータを測定し、圧力センサを使用して経時的に圧力ヘッドを測定し、最良当てはめアルゴリズムに従って経時的なモータパラメータと圧力ヘッドとの間のヒステリシスに基づくヒステリシス曲線を記述し、左心室圧を決定するために、測定された大動脈圧に基づいて、当てはめられたヒステリシス曲線をスケーリングし、スケーリングされたヒステリシス曲線から変曲点を抽出することによって少なくとも1つの心血管メトリックを決定し、少なくとも1つの心血管メトリックをコントローラの表示画面に表示するように構成される。
【0023】
いくつかの実施態様では、少なくとも1つの心血管メトリックは、左室拡張末期圧である。いくつかの実施態様では、ヒステリシス曲線を記述することは、ヒステリシス曲線を当てはめるための多項式を選択することを含む。いくつかの実施態様では、少なくとも1つの心血管メトリックは、収縮性、一回拍出量、駆出率、心腔圧、一回仕事量、心拍出量、心臓パワー出力、左室拡張末期圧、前負荷状態、後負荷状態、心拍数、心臓の回復、流量負荷状態、変動容積負荷状態、心周期容積負荷状態、および/または心周期流動状態のうちの少なくとも1つである。いくつかの実施態様では、モータパラメータは、モータ電流、モータ電流の変化、モータ電流の変動性、またはモータ電流と圧力の正味の積分面積である。いくつかの実施態様では、モータは、モータパラメータの測定中に一定のロータ速度を維持する。
【0024】
いくつかの実施態様では、コントローラは、ヒステリシス曲線から心位相を決定するようにさらに構成される。いくつかの実施態様では、心位相は、ECGデータ、圧力センサで測定された圧力、モータパラメータおよびモータ速度、大動脈圧勾配、ならびに呼吸変動のうちの1つまたは複数を使用して決定される。いくつかの実施態様では、心位相を決定することは、ヒステリシス曲線にアクセスすること、モータパラメータおよび圧力ヘッドの測定とサンプル時間とに基づいて、サンプル時間が対応する曲線のセグメントを選択すること、ならびにセグメントに基づいて、弛緩、収縮、駆出、または充満のうちの対応する心位相を決定することを含む。
【0025】
いくつかの実施態様では、モータは、約21フレンチ未満の直径を有する。いくつかの実施態様では、少なくとも1つの心臓メトリックは、収縮性、一回拍出量、駆出率、心腔圧、一回仕事量、心拍出量、心臓パワー出力、左室拡張末期圧、前負荷状態、後負荷状態、心拍数、心臓の回復、流量負荷状態、変動容積負荷状態、心周期容積負荷状態、および/または心周期流動状態のうちの少なくとも1つである。いくつかの実施態様では、コントローラは、少なくとも1つの心臓メトリックが患者の心臓状態の変化を示すときに心臓ポンプによって提供される支援のレベルを自動的に調整するように構成され、患者の心臓状態は、収縮性の変化、容積負荷の変化、前負荷の変化、後負荷の変化、心拍数の変化、および脈圧の変化のうちの少なくとも1つによって定義される。いくつかの実施態様では、コントローラは、自己心機能を増強および改善するために心臓ポンプによって提供される支援のレベルまたは方法を自動化するように構成され、支援のレベルまたは方法を自動化することは、心臓ポンプによって送り出される血流量を変更すること、自動血流脈動の周波数および/または振幅を変更すること、ならびにロータの回転速度を変更することのうちの少なくとも1つを含む。いくつかの実施態様では、モータは、モータパラメータの測定中に一定のモータ速度を維持する。
【0026】
いくつかの実施態様では、心位相を決定することは、ヒステリシスループを形成する、モータパラメータの関数としての圧力のプロットにアクセスすることと、サンプル時間におけるモータパラメータおよび圧力の測定を使用して、各セグメントが心位相に対応する、サンプル時間が対応するヒステリシスループのセグメントを特定することとを含む。いくつかの実施態様では、心位相はECGデータを使用して決定される。いくつかの実施態様では、心位相は、圧力センサで測定された圧力を使用して決定される。いくつかの実施態様では、心位相を決定することは、サンプル時間が高圧を有するヒステリシスループのセグメントに対応する場合に心位相が拡張期であることを検出することと、サンプル時間が低圧を有するヒステリシスループのセグメントに対応する場合に心位相が収縮期であることを検出することとをさらに含む。
【0027】
いくつかの実施態様では、コントローラは、モータパラメータがプロットの第1の座標であり、圧力がプロットの第2の座標である、圧力およびモータパラメータの測定値のプロットを生成するように、またはモータパラメータと圧力システムとの関係を監視するように構成される。いくつかの実施態様では、血液ポンプは経皮的である。いくつかの実施態様では、モータは植え込み型である。いくつかの実施態様では、心臓ポンプシステムは、ロータが大動脈内に配置されたときに圧力センサが大動脈内に位置決めされるように構成される。いくつかの実施態様では、心臓ポンプシステムは血管内心臓ポンプシステムである。
【0028】
別の局面では、心臓ポンプシステムは、心臓ポンプとコントローラとを含む。心臓ポンプは、モータと、モータに動作可能に連結されたロータと、血行動態パラメータのセンサ、例えば圧力センサとを含む。コントローラは、モータパラメータを測定し、センサによって血行動態パラメータを測定し、心位相を決定し、心機能を示す少なくとも1つの心臓メトリックを決定し、少なくとも1つの心臓メトリックをコントローラの表示画面に表示するように構成される。例えば、コントローラは、モータに供給される電流またはモータに供給される電力のモータパラメータを測定し、圧力センサにおいて圧力を測定し、心機能を示す少なくとも1つの心臓メトリックを決定し、少なくとも1つの心臓メトリックをコントローラの表示画面に表示するように構成され得る。心機能を示す心臓メトリックは、所定の圧力・モータ曲線を使用して決定されてよく、少なくとも1つの心臓メトリックの決定は、モータパラメータと圧力との間のヒステリシスに基づくものであってよい。
【0029】
いくつかの実施態様において、測定される圧力は、大動脈圧、または大動脈圧と左心室圧との間の圧力差のうちの1つである。いくつかの実施態様では、少なくとも1つの心臓メトリックは、収縮性、一回拍出量、駆出率、心腔圧、一回仕事量、心拍出量、心臓パワー出力、左室拡張末期圧、前負荷状態、後負荷状態、心拍数、心臓の回復、流量負荷状態、変動容積負荷状態、心周期容積負荷状態、および/または心周期流動状態のうちの少なくとも1つである。いくつかの実施態様では、コントローラは、少なくとも1つの心臓メトリックが患者の心臓状態の変化を示すときに心臓ポンプによって提供される支援のレベルを自動的に調整するように構成され、患者の心臓状態は、収縮性の変化、容積負荷の変化、前負荷の変化、後負荷の変化、心拍数の変化、および脈圧の変化のうちの少なくとも1つによって定義される。いくつかの実施態様では、コントローラは、自己心機能を増強および改善するために心臓ポンプによって提供される支援のレベルまたは方法を自動化するように構成され、支援のレベルまたは方法を自動化することは、心臓ポンプによって送り出される血流量を変更すること、自動血流脈動の周波数および/または振幅を変更すること、ならびにロータの回転速度を変更することのうちの少なくとも1つを含む。いくつかの実施態様では、モータは、モータパラメータの測定中に一定のモータ速度を維持する。
【0030】
いくつかの実施態様では、心位相を決定することは、ヒステリシスループを形成する、モータパラメータの関数としての圧力のプロットにアクセスすることと、サンプル時間におけるモータパラメータおよび圧力の測定を使用して、各セグメントが心位相に対応する、サンプル時間が対応するヒステリシスループのセグメントを決定することとを含む。いくつかの実施態様では、心位相はECGデータを使用して決定される。いくつかの実施態様では、心位相は、圧力センサで測定された圧力を使用して決定される。いくつかの実施態様では、心位相を決定することは、サンプル時間が高圧を有するヒステリシスループのセグメントに対応する場合に心位相が拡張期であることを検出することと、サンプル時間が低圧を有するヒステリシスループのセグメントに対応する場合に心位相が収縮期であることを検出することとをさらに含む。
【0031】
いくつかの実施態様では、コントローラは、モータパラメータがプロットの第1の座標であり、圧力がプロットの第2の座標である、圧力およびモータパラメータの測定値のプロットを生成するように、またはモータパラメータと圧力システムとの関係を監視するように構成される。いくつかの実施態様では、血液ポンプは経皮的である。いくつかの実施態様では、モータは植え込み型である。いくつかの実施態様では、心臓ポンプシステムは、ロータが大動脈内に配置されたときに圧力センサが大動脈内に位置決めされるように構成される。いくつかの実施態様では、モータパラメータは、モータ電流、モータ電流の変化、モータ電流の変動性、ならびにモータ電流および圧力の正味の積分面積のうちの1つである。いくつかの実施態様では、心臓ポンプシステムは血管内心臓ポンプシステムである。
【0032】
別の局面では、心臓ポンプシステムは、心臓ポンプとコントローラとを含む。心臓ポンプは、モータと、モータに動作可能に連結されたロータと、圧力センサとを含む。コントローラは、モータに供給される電流またはモータに供給される電力であるモータパラメータを測定し、圧力センサにおいて圧力を測定し、心位相を決定し、心機能を示す少なくとも1つの心臓メトリックを決定し、少なくとも1つの心臓メトリックに基づいて心臓ポンプを動作させるための変更の少なくとも1つの推奨事項を決定し、少なくとも1つの推奨事項をコントローラの表示画面に表示するように構成される。心機能を示す心臓メトリックは、所定の圧力・モータ曲線を使用して決定され、少なくとも1つの心臓メトリックの決定は、モータパラメータと圧力との間のヒステリシスに基づく。
【0033】
いくつかの実施態様では、少なくとも1つの推奨事項は、ロータの回転速度を変更すること、モータに供給される電力を変更すること、および/または患者から心臓ポンプを取り外すことを含む。いくつかの実施態様では、少なくとも1つの心臓メトリックは、収縮性、一回拍出量、駆出率、心腔拡張、心腔肥大、心腔圧、一回仕事量、心拍出量、心臓パワー出力、左室拡張末期圧、前負荷状態、後負荷状態、心拍数、および心臓の回復のうちの少なくとも1つである。いくつかの実施態様では、コントローラは、少なくとも1つの心臓メトリックが患者の心臓状態の変化を示すときに心臓ポンプによって提供される支援のレベルを自動的に調整するように構成され、患者の心臓状態は、収縮性の変化、容積負荷の変化、前負荷の変化、後負荷の変化、心拍数の変化、および脈圧の変化のうちの少なくとも1つによって定義される。いくつかの実施態様では、コントローラは、自己心機能を増強および改善するために心臓ポンプによって提供される支援のレベルまたは方法を自動化するように構成され、支援のレベルまたは方法を自動化することは、心臓ポンプによって送り出される血流量を変更すること、自動血流脈動の周波数および/または振幅を変更すること、ならびにロータの回転速度を変更することのうちの少なくとも1つを含む。いくつかの実施態様では、モータは、モータパラメータの測定中に一定のモータ速度を維持する。
【0034】
いくつかの実施態様では、心位相を決定することは、ヒステリシスループを形成する、モータパラメータの関数としての圧力のプロットにアクセスすることと、サンプル時間におけるモータパラメータおよび圧力の測定を使用して、各セグメントが心位相に対応する、サンプル時間が対応するヒステリシスループのセグメントを特定することとを含む。いくつかの実施態様では、心位相はECGデータを使用して決定される。いくつかの実施態様では、心位相は、圧力センサで測定された圧力を使用して決定される。いくつかの実施態様では、心位相を決定することは、サンプル時間が高圧を有するヒステリシスループのセグメントに対応する場合に心位相が拡張期であることを検出することと、サンプル時間が低圧を有するヒステリシスループのセグメントに対応する場合に心位相が収縮期であることを検出することとをさらに含む。
【0035】
いくつかの実施態様では、コントローラは、モータパラメータがプロットの第1の座標であり、圧力がプロットの第2の座標である、圧力およびモータパラメータの測定値のプロットを生成するように、またはモータパラメータと圧力システムとの関係を監視するように構成される。いくつかの実施態様では、血液ポンプは経皮的である。いくつかの実施態様では、モータは植え込み型である。いくつかの実施態様では、心臓ポンプシステムは、ロータが大動脈内に配置されたときに圧力センサが大動脈内に位置決めされるように構成される。いくつかの実施態様では、モータパラメータは、モータ電流、モータ電流の変化、モータ電流の変動性、ならびにモータ電流および圧力の正味の積分面積のうちの1つである。いくつかの実施態様では、心臓ポンプシステムは血管内心臓ポンプシステムである。
【0036】
別の局面では、心臓ポンプシステムは、心臓ポンプとコントローラとを含む。心臓ポンプは、ロータと、ロータに連結されたモータと、血液入口と、圧力センサとを含む。コントローラは、モータおよび圧力センサと通信する。コントローラは、サンプル時間にモータパラメータを測定し、サンプル時間に圧力センサにおいて圧力を測定し、サンプル時間におけるモータパラメータおよび圧力の測定に基づいて血液入口が閉塞されているかどうか判断するように構成され、血液入口の閉塞は、モータパラメータと圧力センサにおける圧力の測定におけるヒステリシスを使用して判断される。いくつかの実施態様では、コントローラは、血液入口が閉塞されていると判断したことに応答して警告パラメータを表示するように構成される。
[本発明1001]
カテーテルと、
モータと、
前記モータに動作可能に連結されたロータと、
前記モータを作動させると前記ロータが駆動されて血液がポンプハウジングを通って送り出されるように、前記ロータを少なくとも部分的に取り囲む前記ポンプハウジングと、
経時的に血行動態パラメータを検出するように構成されたセンサと、
前記モータと関連付けられたモータパラメータを経時的に検出し、
経時的に前記センサからの前記検出された血行動態パラメータの入力を受け取り、
前記検出された血行動態パラメータと前記検出されたモータパラメータとの間の関係を決定し、
多項式最良当てはめアルゴリズムを使用して、前記血行動態パラメータと前記モータパラメータとの間の前記関係を特徴付け、
前記決定された関係をメモリに格納する
ように構成されたコントローラと
を含む、心臓ポンプシステム。
[本発明1002]
前記モータパラメータが、前記モータに供給される電流、前記モータに供給される電力、またはモータ速度である、本発明1001の心臓ポンプシステム。
[本発明1003]
前記コントローラが、前記検出された血行動態パラメータと前記モータパラメータとの間の前記特徴付けられた関係から変曲点、局所勾配変化、または曲率変化を抽出することによって少なくとも1つの心血管メトリックを決定するようにさらに構成されている、本発明1001または1002の心臓ポンプシステム。
[本発明1004]
前記少なくとも1つの心血管メトリックが、収縮性、一回拍出量、駆出率、心腔圧、一回仕事量、心拍出量、心臓パワー出力(cardiac power output)、左心室圧、前負荷状態、後負荷状態、心拍数、心臓の回復、流量負荷状態、変動容積負荷状態、心周期容積負荷状態、または心周期流動状態のうちの少なくとも1つである、本発明1001~1003のいずれかの心臓ポンプシステム。
[本発明1005]
前記少なくとも1つの心血管メトリックが左室拡張末期圧(LVEDP)である、本発明1004の心臓ポンプシステム。
[本発明1006]
前記血行動態パラメータが大動脈圧であり、前記モータパラメータが電流であり、前記関係を特徴付けることが、前記測定された電流と前記測定された電流および前記大動脈圧から算出された圧力ヘッドとを表すデータの少なくとも一部分に方程式を当てはめることを含む、本発明1001~1005のいずれかの心臓ポンプシステム。
[本発明1007]
前記コントローラが、
前記測定された電流および圧力ヘッドを表す前記データの少なくとも一部分に当てはめられた前記方程式から、LVEDP点を決定し、
ルックアップテーブルにアクセスして、前記圧力ヘッドデータにおける前記LVEDP点から実際のLVEDP値を決定する
ようにさらに構成されている、本発明1001~1006のいずれかの心臓ポンプシステム。
[本発明1008]
LVEDP点を決定することが、前記電流および前記圧力ヘッドの少なくとも一部分に当てはめられた前記方程式において勾配の変化、曲率の変化、または変曲点を特定することを含む、本発明1001~1007のいずれかの心臓ポンプシステム。
[本発明1009]
前記コントローラが、前記検出された血行動態パラメータと前記モータパラメータとの間の前記関係から心周期位相を決定するようにさらに構成されている、本発明1001~1008のいずれかの心臓ポンプシステム。
[本発明1010]
前記コントローラが、
前記検出された血行動態パラメータと前記モータパラメータとの間の前記関係に基づいてヒステリシス曲線を記述し、
前記心周期位相に対応する前記ヒステリシス曲線上のサンプル時間を選択する
ようにさらに構成されている、本発明1001~1009のいずれかの心臓ポンプシステム。
[本発明1011]
前記心周期位相を決定することが、
前記サンプル時間が圧力ヘッド増加に対応する前記ヒステリシス曲線のセグメントに対応するときに、前記心周期位相が拡張期弛緩にあることを検出すること、または
前記サンプル時間が、拡張期弛緩の後に続く、勾配もしくは曲率の急激な変化または変曲点の特定によって識別される点までの圧力ヘッド減少に対応する前記ヒステリシス曲線のセグメントに対応するときに、前記心周期位相が拡張期充満にあることを検出すること、または
前記サンプル時間が前記変曲点から最小圧力ヘッドまでの圧力ヘッド減少を有する前記ヒステリシス曲線のセグメントに対応するときに、前記心周期位相が収縮期にあることを検出すること
をさらに含む、本発明1001~1010のいずれかの心臓ポンプシステム。
[本発明1012]
前記モータパラメータおよび血行動態パラメータが、心周期の一部分にわたって検出される、本発明1001~1011のいずれかの心臓ポンプシステム。
[本発明1013]
前記モータパラメータおよび血行動態パラメータが、1つまたは複数の心周期にわたって検出される、本発明1001~1012のいずれかの心臓ポンプシステム。
[本発明1014]
前記モータが、前記ロータの作動中に前記ロータの実質的に一定の速度を維持するように構成されている、本発明1001~1013のいずれかの心臓ポンプシステム。
[本発明1015]
前記コントローラが、前記少なくとも1つの心血管メトリックを、以前に決定された少なくとも1つの心血管メトリックと共にメモリに格納するようにさらに構成されている、本発明1001~1015のいずれかの心臓ポンプシステム。
[本発明1016]
前記心臓ポンプに近接した前記カテーテルの遠位端付近に位置決めされた一体型モータを含む、本発明1001~1016のいずれかの心臓ポンプシステム。
[本発明1017]
カテーテルと、
モータと、
前記モータに動作可能に連結されたロータと、
前記モータを作動させると前記ロータが駆動されて血液がポンプハウジングを通って送り出されるように、前記ロータを少なくとも部分的に取り囲む前記ポンプハウジングと、
経時的に大動脈圧を検出するように構成された圧力センサと、
経時的にモータパラメータを検出し、
前記センサから経時的に前記大動脈圧を受け取り、
前記モータパラメータと前記大動脈圧との間の関係をメモリに格納し、
LVEDPを示す変曲点が見出され得る期間を決定し、
前記決定された期間に基づいて前記大動脈圧における前記変曲点を特定する
ように構成されたコントローラと
を含む、心臓ポンプシステム。
[本発明1018]
LVEDPを示す前記変曲点が見出され得る期間を決定することが、前記受け取ったモータパラメータが変化する期間を特定することを含む、本発明1017の心臓ポンプシステム。
[本発明1019]
前記コントローラが、前記大動脈圧における前記変曲点に基づいて、前記メモリ内の動的曲線ルックアップテーブルからLVEDPを決定するようにさらに構成されている、本発明1017または1018の心臓ポンプシステム。
[本発明1020]
前記コントローラがECG信号を受け取るようにさらに構成され、LVEDPを示す変曲点が見出され得る期間を決定することが、前記ECG信号が拡張期の最終周期を示す期間を特定することを含む、本発明1017~1019のいずれかの心臓ポンプシステム。
[本発明1021]
前記コントローラが、格納された差圧から、少なくとも1つの心臓メトリックを決定するようにさらに構成され、前記心臓メトリックが、収縮性、一回拍出量、駆出率、心腔圧、一回仕事量、心拍出量、心臓パワー出力、左心室圧、前負荷状態、後負荷状態、心拍数、心臓の回復、流量負荷状態、変動容積負荷状態、心周期容積負荷状態、または心周期流動状態のうちの少なくとも1つである、本発明1017~1020のいずれかの心臓ポンプシステム。
[本発明1022]
前記モータパラメータが、モータ電流、モータ電流の変化、モータ電流の変動性、およびモータ電流と圧力の正味の積分面積のうちの1つである、本発明1017~1021のいずれかの心臓ポンプシステム。
[本発明1023]
前記コントローラが、前記モータパラメータと前記大動脈圧との間の前記関係から心周期位相を決定するようにさらに構成され、前記心周期位相が、ECGデータ、血行動態パラメータ、前記モータパラメータおよびモータ速度、ならびに/または前記大動脈圧の勾配のうちの1つまたは複数を使用して決定される、本発明1017~1022のいずれかの心臓ポンプシステム。
[本発明1024]
前記モータが、前記ロータの作動中に実質的に一定のロータ速度を維持するように構成されている、本発明1017~1023のいずれかの心臓ポンプシステム。
[本発明1025]
前記心臓ポンプが、患者の脈管構造内に挿入するためにサイズ決めされかつ構成された一体型モータをさらに含む、本発明1017~1024のいずれかの心臓ポンプシステム。
【図面の簡単な説明】
【0037】
上記およびその他の目的および利点は、以下の詳細な説明を添付の図面と併せて考察すれば明らかになるであろう。図面において、同様の参照符号は全体を通して同様の部分を指す。
【0038】
図1】心臓内に位置する先行技術のカテーテルベースの血管内心臓ポンプシステムを示す。
図2】心臓内に位置する先行技術のLVAD心臓ポンプシステムを示す。
図3】ある特定の実施態様による、心血管パラメータを推定するように構成された例示的な心臓ポンプシステムを示す。
図4】ある特定の実施態様による、心機能を示す心臓パラメータを決定するためのプロセスを示す。
図5】ある特定の実施態様による、心機能のメトリックを算出するためのプロセスを示す。
図6】ある特定の実施態様による、様々なゲーティングプロセスを使用して、測定されたモータパラメータ信号およびセンサ信号からLVEDPを決定するプロセスを示す。
図7】ゲーティングアルゴリズムを適用してLVEDPを決定するプロセスを示す。
図8】経時的な大動脈圧、左心室圧、およびモータ電流のプロットを示す。
図9】ECGデータに基づくゲーティングアルゴリズムを適用してLVEDPを決定するプロセスを示す。
図10】測定されたおよびアルゴリズムによって算出された経時的なLVEDPのプロットを示す。
図11】ゲーティング法を使用して決定されたLVEDPの正確さを例示する、患者データから算出されたLVEDPのプロットを示す。
図12】ブタ動物モデルからのデータに基づく、モータ電流の関数としての圧力ヘッドのプロットを示す。
図13】スプライン曲線がヒステリシスループの領域に当てはめられた、ブタ動物モデルからのモータ電流の関数としての圧力ヘッドのプロットを示す。
図14】ブタ動物モデルから収集されたデータをセグメント化するためにヒステリシスゲートが適用された後の、ヒステリシスパラメータの関数としての圧力ヘッドのプロットを示す。
図15】モータヒステリシスパラメータの関数としての圧力ヘッドのプロットを示す。
図16】ブタ動物モデルにおけるβ遮断薬の投与前および投与後の、モータ電流の関数としての圧力ヘッドのプロットを示す。
図17】モータ電流の関数としての圧力ヘッドのプロットの平滑化曲線を示す。
図18A】心筋梗塞の移行前および移行中のモータ電流の関数としての圧力ヘッドのプロットを示す。
図18B】心筋梗塞の前および心筋梗塞の間に経時的に測定された、サンプルの関数としての心臓パワー指数およびモータ電流のプロットを示す。
図19】一定の負荷の下で収縮性を変化させた模擬ループデータの一連のプロットを示す。
図20A】経時的に測定値を表示する、心臓ポンプコントローラのための例示的なユーザインターフェースを示す。
図20B】ある特定の実施態様による、心臓ポンプコントローラのための例示的なユーザインターフェースを示す。
図21】ある特定の実施態様による、血管内心臓ポンプにおける吸引を検出し、吸引の原因を決定するためのプロセスを示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
詳細な説明
本明細書に記載されるシステム、方法、および装置の全体的な理解を提供するために、ある特定の例示的な態様について説明する。本明細書に記載される態様および特徴は、経皮的心臓ポンプシステムに関連して使用するために特に説明されているが、以下で概説されるすべての構成要素および他の特徴は、任意の適切な方法で互いに組み合わされてもよく、外科的切開を使用して植え込まれた心臓補助装置などを含む、他の種類の心臓治療および心臓補助装置にも適合および応用されてもよいことが理解されよう。
【0040】
本明細書に記載されるシステム、装置、および方法は、臓器内に全部または一部が存在する支援装置がその臓器の機能を評価することを可能にする。特に、これらのシステム、装置、および方法は、経皮的補助人工心臓などの心臓補助装置が、心臓の機能を評価するのに使用されることを可能にする。例えば、心臓の状態は、患者の心臓内に位置決めされた補助人工心臓の電気機械コントローラの値を追跡することによって測定または監視することができる。装置は心臓の心腔内圧力の変化に応答してモータ電流を変化させることによって一定のロータ速度を維持するので、モータパラメータおよび圧力、例えば、モータ電流および大動脈圧の連続した測定により、心機能、例えば左心室圧の連続したリアルタイムの厳密な判断が提供される。心臓補助装置を使用して心臓の機能を評価することにより、医療従事者に心機能の変化を警告することができ、補助装置によって提供される支援の度合い/レベル(すなわち、装置によってポンピングされる血液の流量)を特定の患者の必要に合わせて調整することが可能になる。例えば、患者の心機能が悪化しているときには支援の度合いを上げることができ、または患者の心機能が回復し、正常な心機能のベースラインに戻っているときには支援の度合いを下げることができる。これにより、装置は心機能の変化に動的に応答して心臓の回復を促すことが可能になり、患者を治療から徐々に引き離すことが可能になる。さらに、心機能の評価は、心臓補助装置の使用をいつ終了するのが適切であるかを示すことができる。本明細書に提示されるいくつかの態様は、大動脈弁を横切って植え込まれかつ部分的に左心室に存在する心臓補助装置を対象としているが、これらの概念は心臓、心血管系、または身体の他の領域の装置に適用することができる。
【0041】
さらに、本明細書の心臓補助装置は、装置が患者の体内にある間、心機能を連続してまたはほぼ連続して監視および評価することができる。これは、特定の時間間隔でのみ心機能を推定できる方法よりも有利であり得る。例えば、連続監視は心臓の悪化をより迅速に検出することを可能にし得る。加えて、心臓補助装置がすでに患者の体内にある場合、追加のカテーテルを患者の体内に導入する必要なしに心機能を測定することができる。
【0042】
本明細書に提示される心臓補助装置による心機能の評価は、少なくとも部分的に、心臓補助装置の低侵襲性によって可能となる。心臓からの血液を短絡するいくつかの侵襲的心臓補助装置とは異なり、本明細書に提示される心臓補助装置は心臓内に存在し、自己心室機能と並行して働く。これにより、本明細書に提示される心臓補助装置は、いくつかのより侵襲的な装置とは異なり、自己心室機能を検出するのに十分な感度を有することが可能になる。よって、これらのシステム、装置、および方法は、心臓補助装置を支援装置としてだけでなく診断用および予後判定用のツールとしても使用することを可能にする。心臓補助装置は、心臓と液圧式で連結することによって心機能に関する情報を抽出する能動カテーテルとして本質的に機能することができる。いくつかの実施態様では、心臓補助装置は、補助装置に供給される電力が測定されている間、一定のレベル(例えば、ロータの一定の回転速度)で動作する。ある特定の実施態様では、心臓補助装置のロータの速度は、自己心機能をさらに精査するために(例えば、デルタ関数、階段関数、またはランプ関数として)変化させることができる。
【0043】
自己心機能を示す心機能パラメータは、血管内圧および/または心室圧の測定値ならびにポンプパラメータ/信号(「パラメータ」は、心臓ポンプの信号および/または動作状態を表すことができる)から決定することができる。例えば、心臓パラメータは大動脈圧およびポンプモータ電流から決定することができる。この決定は、心臓と心臓ポンプシステムの組み合わせのモデルを使用して行うことができる。心機能決定の一方法では、モデルは所定の曲線にアクセスすることを含む。このモデルは、ルックアップテーブルまたは所定の/正規化されたポンプ性能曲線または較正曲線または他の任意の適切なモデルであってよい。ルックアップテーブルは、回転速度を維持するのに必要とされる電力および圧力ヘッドがポンプ流量の関数として決定されることを示す1組の曲線、ならびに圧力ヘッドおよび心臓の流動特性も同様に決定されることに関連する1組の曲線を含み得る。例えば、ルックアップテーブルは、特定の大動脈圧およびモータ電流が特定の左室拡張末期圧(LVEDP)に対応することを示し得る。心機能決定の別の方法では、ポンプの性能は、ポンプのモータ電流消費の関数として圧力ヘッドを示すことによって表され、この電流消費はポンプの電力または負荷の代用として機能する。心周期中のモータ電流消費と圧力ヘッドとの間の関係は、ヒステリシス曲線またはループを記述する。LVPおよびLVEDPを含む心臓の状態および機能は、モータ電流消費と圧力ヘッドとの間の関係から抽出することができる。LVEDP以外に、またはLVEDPに加えて、本明細書に提示される心臓補助装置を使用して、心機能をいくつかの異なる方法で定量化することができる。例えば、心機能は、収縮性、一回拍出量、駆出率、心腔圧、一回拍出量、心拍出量、心臓パワー出力、LVEDP、前負荷状態、後負荷状態、心拍数、および/または心臓の回復として表すことができる。
【0044】
これらの心臓パラメータを正確に決定するために、圧力測定値(例えば、大動脈圧と左心室圧との間の差、または大動脈圧のみ)とモータ電流測定値との間のヒステリシスが考慮に入れられ得る。このヒステリシスは、所与の圧力測定値と電流測定値の対に対応する心周期の位相を検出することによって説明することができる。これは、拡張期充満を心周期のその他の位相と区別する少なくとも2つの方法を使用して行うことができる。どちらの方法も、拡張期充満の開始と終了を示す重要な点を特定する。第1の方法は、大動脈圧波形を使用し、拡張期充満の開始を示すために、重拍切痕などの曲線内の重要な特徴を特定する。この方法はまた、大動脈充満の開始を使用して拡張期心室充満の終了を示すこともできる。第2の方法は、圧力記録とタイミングを合わせたECGデータを使用して拡張期充満を画定する2つの重要な特徴を特定する。これらの特徴は、QRS群の開始とT波の終了であることが好ましい。信号にノイズがある場合は、QRS群(R波)のピークとT波のピークを検出する方がより信頼性が高くなり得る。さらに、いくつかの実施態様では、圧力測定値とモータパラメータ測定値との間のヒステリシス自体を、心周期の位相を決定するために使用することができる。
【0045】
本明細書に提示されるシステム、装置、および方法はまた、心拍数の変動も説明する。説明されない場合、心拍数の変化が波形の分解能に、したがって心臓パラメータ推定の正確さに影響を及ぼす可能性がある。例えば、所与のサンプリング周波数における心拍数がより高いと、1心周期当たりのサンプル数がより少なくなる。1心周期当たりのサンプル数は、重拍切痕などのヒステリシスを説明するために使用される重要な特徴、ならびにLVEDPなどの圧力波形における重要な点を捕捉するために重要である。サンプリング数が少なすぎると、関心領域内のサンプル数が減少するため、これらの特徴が見逃される可能性がある。しかしながら、心拍数に対する感度は、いくつかの実施態様では、周期ごとではなく固定された期間にわたる波形解析の実施をしないことによって低減または排除することができる。例えば、いくつかの実施態様では、計算は10~30秒にわたって行われ、アーチファクトの影響を低減させるために平均される。そのような平均化は、LVEDPなどのいくつかのメトリックについては、少なくとも短期間(例えば、約1分)内には、拍動間変動性があまり高くないので、可能である。複数のサイクルを使用することにより、関心領域内のサンプル数を心拍数とは無関係にすることができる。さらに、複数の測定を複合することにより、心周期の位相の分解能を改善することができる。さらに、サンプリング周期を長くすることによって不十分なサンプリングの影響をさらに打ち消すことができる。
【0046】
本明細書に提示されるシステム、装置、および方法はまた、ポンプ入口が完全にまたは部分的に閉塞されているときに発生する吸引事象を検出する。従来の吸引検出システムは、小さい吸引事象を検出するための感度が不十分である。対照的に、本明細書に提示されるシステム、装置、および方法は、わずかな吸引、および心周期においていつ吸引が発生しているかを検出することができる。これらの判断は、モータ電流・大動脈圧曲線のヒステリシスに基づくものであってよい。この改善された方法は、より早く吸引を検出し、ユーザに、吸引の継続または悪化をどのように防止するまたは減少させるかに関する情報を提供することができる。さらに、いくつかの実施態様では、システム、方法、および装置は、吸引事象につながり得る好ましくない心周期流動状態を検出することによって吸引事象を予測することができる。
【0047】
図1に、心臓102内に位置する例示的な先行技術の心臓補助装置を示す。心臓102は、左心室103、大動脈104、および大動脈弁105を含む。血管内心臓ポンプシステムは、カテーテル106と、モータ108と、ポンプ出口110と、カニューレ111と、ポンプ入口114と、圧力センサ112とを含む。モータ108は、その近位端でカテーテル106に、その遠位端でカニューレ111に連結されている。モータ108はまた、ロータ(図では見えていない)を駆動し、ロータはポンプ入口114からカニューレ111を通ってポンプ出口110へ血液を送り出す。カニューレ111は、ポンプ入口114が左心室103内に位置し、ポンプ出口110が大動脈104内に位置するように、大動脈弁105を横切って位置決めされている。この構成により、血管内心臓ポンプシステム100は、心拍出量を支援するために、左心室103から大動脈104内へ血液を送り出すことができる。
【0048】
血管内心臓ポンプシステム100は、心臓102の自己心拍出量と並行して、左心室から大動脈に血液を送り出す。健康な心臓を通る血流は平均して約5リットル/分であり、血管内心臓ポンプシステム100を通る血流は同様のまたは異なる流量であり得る。例えば、血管内心臓ポンプシステム100を通る流量は、0.5リットル/分、1リットル/分、1.5リットル/分、2リットル/分、2.5リットル/分、3リットル/分、3.5リットル/分、4リットル/分、4.5リットル/分、5リットル/分、5リットル/分超または他の適切な流量であり得る。
【0049】
血管内心臓ポンプシステム100のモータ108は、様々な方法で変えることができる。例えば、モータ108は電気モータとすることができる。ロータ108は、左心室103から大動脈104へ血液を送り出すために一定の回転速度で動作することができる。心臓102の心周期の異なる段階においてモータ108にかかる負荷は異なるので、一定のロータ速度を維持するようにモータ108を動作させるには、一般に、様々な電流量をモータ108に供給することが必要である。例えば、(収縮期中などに)大動脈104内への血液の質量流量が増加すると、モータ108を作動させるのに必要な電流が増加する。したがってモータ電流のこの変化を使用して、以下の図に関連してさらに論じるように心機能の特徴付けに役立てることができる。電気モータの電流が測定されてもよく、あるいは磁場電流が測定されてもよい。モータ電流を使用した質量流量の検出は、モータ108の位置が左心室103から大動脈104への血流の自然な方向と整合していることによって容易になり得る。モータ電流を使用した質量流量の検出はまた、モータ108のサイズが小さいことおよび/またはトルクが低いことによっても容易になり得る。図1のモータ108の直径は約4mmであるが、ロータ・モータ質量が拍動血液の慣性の影響を受けるのに十分なほど小さければ、任意の適切なモータ直径が使用されてよい。ロータ・モータ質量は、モータパラメータに対して識別可能で特徴的な効果を生み出すように拍動性の血液質量流量によって影響され得る。いくつかの実施態様では、モータ108の直径は4mm未満である。
【0050】
ある特定の実施態様では、モータ108に供給される電力、モータ108の速度、または電磁場などの、電流以外の1つまたは複数のモータパラメータが測定される。いくつかの実施態様では、図1のモータ108は一定の速度で動作する。いくつかの実施態様では、モータ108は患者の外部にあってもよく、可撓性駆動軸、駆動ケーブル、または流体継手などの細長い機械的伝達要素によってロータを駆動し得る。
【0051】
血管内心臓ポンプシステム100の圧力センサ112は、(別個の診断用カテーテルとは対照的に)一体型構成要素とすることができ、システム100の様々な位置で、例えばモータ108の近位端に隣接して、圧力を検出するように構成することができる。ある特定の実施態様において、血管内心臓ポンプシステム100の圧力センサ112は、カニューレ111上に、カテーテル106上に、患者の体外のシステム100の一部分上に、または他の任意の適切な位置に配置することができる。圧力センサ112は、血管内心臓ポンプシステム100が心臓102内で適切に位置決めされたときに大動脈104内の血圧を検出することができ、あるいは右心支援装置では、下大静脈(inferior vena cava(IVC))または肺動脈内の圧力を検出することができる。血圧情報は、血管内心臓ポンプシステム100を心臓102内に適切に配置するために使用することができる。例えば、圧力センサ112は、左心室103から大動脈104へ血液を輸送するのではなく左心室103内で血液を循環させるだけになるであろう、ポンプ出口が大動脈弁105を通って左心室103内へ入っているかどうかを検出するために使用することができる。図1の圧力センサは、患者の脈管構造内、例えば大動脈内のある点における絶対圧を検出する。他の態様では、圧力センサは肺動脈または静脈系内の絶対圧を検出する。他の態様では、圧力センサはシステム内の圧力ヘッドまたはデルタ圧力を検出し、これは大動脈圧から左心室圧を引いたものに等しくなり得る。
【0052】
血管内心臓ポンプシステム100の配置を助けることに加えて、心臓102の心位相を検出するために、圧力センサ112によって得られたデータに1つまたは複数のアルゴリズムを適用することもできる。例えば、圧力センサ112によって得られたデータを解析して、拡張期充満の開始を示す重拍切痕を検出することができる。重拍切痕は、半月弁の閉鎖直後の動脈拍動または圧力曲線(pressure contour)における小さな下方への振れである。この特徴は、収縮期の終了または駆出期間のマーカとして使用することができる。測定された圧力ヘッドは多くの場合、測定されたモータ電流よりも多くのノイズ特徴を含むので、モータ電流を使用して、重拍切痕が特定される可能性の高い期間をゲーティングすることができ、次いで測定された圧力ヘッドの対応する期間を特定および解析することができる。他の特徴、例えば、モータ速度の変化、ECGデータにおけるRピークの存在、経時的なパラメータの曲率もしくは局所勾配の変化なども、LVEDPを示すものとして検出され得る。
【0053】
血管内心臓ポンプシステム100は、心臓102内への経皮的挿入などの様々な方法で挿入することができる。例えば、血管内心臓ポンプシステムは、大腿動脈(図示せず)を通し、腋窩動脈(図示せず)を通し、大動脈104を通し、大動脈弁105を横切って左心室103内に挿入することができる。ある特定の実施態様では、血管内心臓ポンプシステム100は心臓102に外科的に挿入される。いくつかの実施態様では、血管内心臓ポンプシステム100、または右心に適合された同様のシステムが右心に挿入される。例えば、血管内心臓ポンプシステム100と同様の右心ポンプを下大静脈を通して挿入し、右心房および右心室を迂回して肺動脈内に延在させることができる。ある特定の実施態様では、血管内心臓ポンプシステム100は、心臓102の外側の血管系内(例えば、大動脈104内)で動作するように位置決めされ得る。血管系内に低侵襲的に存在することによって、血管内心臓ポンプシステム100は、自己心機能の特徴付けを可能にするのに十分な感度を有する。加えて、LVADなどの後述する外科的に植え込まれた装置も、血管内心臓ポンプ100の感度よりも低いが、自己心機能の変化に対する感受性を有するはずである。
【0054】
図2に、心臓202外に位置する例示的な先行技術の心臓補助装置201を示す。心臓202は、左心室203および大動脈204を含む。心臓補助装置201は、モータ208と、流入導管207と、流出導管209と、第1のセンサ212aと、第2のセンサ212bと、第3のセンサ212cと、カテーテル206とを含む。流入導管207は、第1の端部213においてモータ208の第1の側に連結されており、第2の端部215において左心室203の尖部に連結されている。流出導管209は、第1の端部217においてモータ208の第2の側に連結されており、第2の端部219において上行大動脈204に連結されている。モータ208はまた、ロータ(図では見えていない)を駆動し、ロータは左心室203の尖部から流入導管207を通って流出導管209へ血液を送り出し、大動脈204へ血液を放出するように回転する。心臓補助装置201は、心拍出量を支援するために、左心室203から上行大動脈204に血液を送り出すように構成されている。
【0055】
心臓補助装置201は、左心室203から大動脈弁(図では見えていない)を迂回し、心臓202内ではなく、心臓202の周りで、流入導管207および流出導管209を通して血液を輸送して大動脈204へ血液を送り出す。心臓補助装置201を通る血流は、図1の先行技術の血管内心臓ポンプシステム100の流量と同様かまたはそれより多くの流量を送り出すことができる。心臓補助装置201は、流出導管209の第2の端部219および流入導管207の第2の端部215が上行大動脈204と左心室203とにおいてそれぞれ心臓202に外科的に移植されるように患者に外科的に植え込むことができる。モータ208は、カテーテル206を通して駆動ライン(図示せず)によって患者の体外に位置するコンソール(図示せず)に接続することができる。ロータ(図示せず)は、一定または実質的に一定の速度で動作することができる。モータ208に供給される電力は、ポンプ流量またはポンプ性能の他の特性を決定するためにコンソールで監視され得る。
【0056】
第1のセンサ212a、第2のセンサ212b、および第3のセンサ212cは、図1の圧力センサ112と同様であってよい。センサ212a~cは、大動脈204内の血圧もしくは左心室203内の血圧を決定するために使用される圧力センサとすることができ、または流入導管207および流出導管209を通る血圧および血流を決定するために配置されてもよい。大動脈204または左心室203内の血圧は、ユーザに表示することができ、かつ/または心臓補助装置201の動作パラメータを決定するために使用することができる。流入導管207および流出導管209内の血流または血圧もまた、ユーザに表示し、心臓補助装置201を監視するために使用することができる。第1のセンサ212aはまた、心臓補助装置201を通るポンプ流を決定するために使用することができるポンプモータ208の電力のセンサとすることもできる。
【0057】
図3に、ある特定の実施態様による、心機能を示す心臓パラメータを推定するように構成された例示的な心臓ポンプシステム300を示す。心臓ポンプシステム300は、図1の血管内心臓ポンプシステム100または図2の心臓補助システム201と同様または同一であってよい。心臓ポンプシステム300は、心臓内で、部分的に心臓内で、心臓外で、部分的に心臓外で、部分的に血管系外で、または患者の血管系内の他の任意の適切な位置で動作し得る。心臓ポンプシステム300は、心臓ポンプ302と制御システム304とを含む。制御システム304の全部または一部が、心臓ポンプ302とは別個の/心臓ポンプ302から離れたコントローラユニット内にあってもよい。いくつかの実施態様では、制御システム304は心臓ポンプ302の内部にある。制御システム304および心臓ポンプ302は縮尺通りに示されていない。
【0058】
心臓ポンプ302は、カテーテル306と、モータ308と、ロータ310と、圧力センサ312とを含むことができる。モータ308は、カテーテル306の遠位領域に連結することができ、一方、前述したように、患者の体外に位置することもでき、駆動軸、駆動ケーブル、または流体接続を介してモータ308と連通することができる。モータ308はまた、モータ308の動作によってロータ310が回転して血液を送り出すように、ロータ310に連結されている。圧力センサ312は、心臓ポンプ302が患者の血管系に挿入されたときに圧力センサ312が血圧を検出できるように、カテーテルに沿って、患者の心血管系に挿入される任意の数の位置に位置決めすることができる。心臓ポンプ302が図1の血管内心臓ポンプシステム100のような血管内心臓ポンプ302である実施態様では、心臓ポンプ302を左心室に送達することができ、圧力センサ312は、血管内心臓ポンプ302が左心室に適切に位置決めされたときに大動脈圧を感知することができる。いくつかの実施態様では、圧力センサ312は、関心対象の心腔から弁によって隔てられた心腔または血管内に位置決めされる。例えば、圧力センサ312は、ロータ310が大動脈内に位置決めされたときに大動脈内に位置決めされてもよく、または圧力センサ312は、ポンプの出口が肺動脈内にある一方で、ロータ310と共に下大静脈もしくは上大静脈内に位置決めされてもよい。いくつかの実施態様では、心臓システムは、ポンプの入口が左心室に配置されたときにロータ310が大動脈内に位置決めされるように構成される。
【0059】
制御システム304は、コントローラ322と、電流センサ314と、心臓パラメータ推定器316とを含むことができる。コントローラ322は、電気接続326によって、例えば1つまたは複数の電線を介して、モータ308に電流を供給する。電気接続326を介してモータ308に供給された電流は、電流センサ314によって測定される。機械式ポンプのモータ308が受ける負荷は圧力ヘッド、すなわち大動脈圧と左心室圧との間の差である。心臓ポンプ302は、所与の圧力ヘッドでの定常状態動作中に公称負荷を受け、この公称負荷からの変動は、外部負荷条件の変化、例えば左心室収縮の動態の結果である。動的負荷条件が変化すると、一定のまたは実質的に一定の速度でロータ310を動作させるのに必要なモータ電流が変化する。モータは、ロータ310を設定速度に維持するのに必要な速度で動作し得る。その結果、ロータ速度を維持するためにモータによって消費されるモータ電流を監視し、根底にある心臓の状態を理解するために使用することができることになる。心臓の状態は、心臓の状態および機能の変化を判断するために目視で評価され得る定量的なポンプ性能のヒステリシスループを生成するために、モータ電流に関連して圧力センサ312を使用して心周期中の圧力ヘッドを同時に監視することによって、より一層厳密に定量化し、理解することができる。心臓パラメータ推定器316は、圧力センサ312からの圧力信号と共に電流センサ314からの電流信号も受け取る。心臓パラメータ推定器316は、これらの電流信号および圧力信号を使用して心臓の機能を特徴付ける。心臓パラメータ推定器316は、格納されたルックアップテーブルにアクセスして、圧力信号および電流信号に基づいて心臓の機能を特徴付けるための追加情報を得ることができる。例えば、心臓パラメータ推定器316は、圧力センサ312から大動脈圧を受け取り、ルックアップテーブルを使用し、大動脈圧を使用してデルタ圧を決定することができる。
【0060】
コントローラ322は、電流センサ314からの電流信号および圧力センサ312からの圧力信号をメモリまたはサーバ(図示せず)内のデータベースに格納することができる。データベースおよびメモリは、コントローラ322の外部に置くこともでき、またはコントローラ322内に含めることもできる。コントローラ322は信号を、特定の関連付けられたアドレスを有するデータベース内の配列として格納することができ、また信号と共に時間を記録することもできる。コントローラ322はまた、以前に格納された心臓パラメータと比較するために、LVEDPなどの決定された心臓パラメータをメモリに格納することもできる。コントローラ322は、メモリ内のデータベースのアドレスにアクセスすることによってヒステリシス曲線にアクセスする。アドレスに基づき、コントローラ322は、経時的に測定されたモータパラメータに対応する複数のデータ点が格納されている第1のアレイを選択する。コントローラ322はまた、経時的に測定された圧力または他の生理学的パラメータに対応する複数のデータ点が格納されている第2のアレイも選択する。コントローラ322は、測定が行われた各時点における、モータパラメータに対応する第1のデータ点を、生理学的パラメータに対応する第2のデータ点と関連付ける。次いでコントローラ322は、整合させたデータ点をヒステリシス曲線として画面または他のディスプレイ上でユーザに表示することができる。あるいは、コントローラ322は、心臓パラメータを算出するために整合させたデータ点を反復することもできる。
【0061】
心臓パラメータ推定器316は、2つの異なる方法に従って心機能を特徴付け、心臓パラメータを決定することができる。第1の方法では、心臓パラメータ推定器316は、所定の圧力・電流曲線を利用して心機能および心臓パラメータに関する情報を抽出する。この方法を使用して、心臓パラメータ推定器316は、ポンプロータ310の回転速度を維持するために必要とされる電力と、ポンプ両端の圧力勾配として定義される圧力ヘッドとを、電力および圧力ヘッドをポンプ流量の関数として示す所定の性能曲線、ならびに圧力ヘッドおよびモータ電流に関連した所定のシステム曲線(所定の圧力・電流曲線)と比較する。性能曲線およびシステム曲線を使用して、心臓パラメータ推定器316は、心臓パラメータおよび心機能に関する情報を抽出するためにポンプ挙動を特徴付ける。
【0062】
第2の方法では、心臓パラメータ推定器316は、最良当てはめアルゴリズムを使用して心機能に関する心臓パラメータを決定する。心臓パラメータ推定器316は、モータ電流消費の関数としての圧力ヘッドによるポンプ性能の修正された表現にアクセスする。モータ電流消費は、ポンプの電力または負荷の代用として機能する。所与のロータRPMにおけるポンプの負荷は、式τ=H・dで記述される流体モータトルクによって決定され、式中、トルクτは、圧力ヘッドH、および一回転当たりの容積変位dによって決定される。トルクは、次式によってポンプの所要電力に直接関係する。
式中、所要電力(P電力)は、電圧(V)と電流(I)の積であり、ポンプトルク(τ)、回転速度(ω)、および電気効率と機械効率の組み合わせ(η)に関係している。モータの速度と効率は比較的一定であり公知であるので、流体モータトルクをポンプの電力から決定することができる。電力とモータ電流との間の関係はポンプの設計によって異なり得るが、モータ電流はほとんどのポンプで動作上測定される値である。モータ電流は通常トルクに、したがってポンプの負荷に直接関係している。
【0063】
圧力ヘッドは機械式ポンプが受ける負荷であり、圧力ヘッドは大動脈圧と左心室圧との間の差であり、これは心収縮によって生じる外部血流が加わることにより心周期全体を通して変化する。心臓の拍動環境におけるポンプ動作は、定常状態の心室充満と心室駆出とを繰り返す。ロータの特定のRPMを発生させるのに必要とされるモータ電流は圧力ヘッドと心臓状態の両方に依存し、これにより、モータが能動的心収縮の後に続く弛緩中の心室充満を受ける際のヒステリシスループが得られる。得られるモータ電流ヒステリシスは、外部流量と圧力の変化の影響を組み込んでいるため、機械式ポンプの性能曲線の完全な表現である。
【0064】
従来、LVEDPを測定する方法は間接的であり不連続的であった。LVEDPを測定する一般的な方法の1つが、Swan-Ganzカテーテルを使用することによるものであり、この方法では、このカテーテルを通して膨張したバルーンを肺動脈に押し込み、肺血管系と左心房を流体柱として使用して拡張期の間の左心室における圧力を得ることによりLVEDPが推測される。この測定は間接的であり、しばしば、重大な測定誤差、ノイズ、および信頼性の欠如を含む。さらに、肺動脈内のバルーンは膨張したままにすることができないので、測定値は不連続である。LVEDPを測定するために従来使用されてきた代替方法は、心臓の左心室に挿入される圧力変換器カテーテルを使用することである。これは数回の心臓周期を通して脈動圧力波形全体を捕捉するが、カテーテルを患者の体内に、またはベッドサイドに長期間留置することができない。LVEDPを非侵襲的に予測する他の方法は、Doppler心エコー図または超音波を使用して開発されてきた。残念ながら、それらの方法も同じ問題を生じやすく、長期間にわたって継続的な圧力推定を提供することはできない。
【0065】
LVEDPは、特定のロータ速度についてのモータ電流消費および圧力ヘッドから決定することができる。拡張末期におけるわずかなモータ速度変動に対応するモータ電流変動が線形であると仮定すると、これらの変動は、次式に従って線形スケーリングによって補正することができる。
式中、速度補正されたモータ電流(ic)は、測定されたモータ電流(im)と、所望の固定モータ速度(ω0)と実際のモータ速度(ω)との比の積に等しい。モータ速度変動は最小限(±0.5%)であるので、これは安全な仮定である。モータ電流と圧力ヘッドとの間の関係は、例えば方程式をデータに当てはめることによって特徴付けることができる。速度補正されたモータ電流(ic)を測定された圧力ヘッドに対してプロットすることができ、次いでこの関係を、例えばR2最適化を使用して、モータ電流の関数としての圧力ヘッドを有する四次多項式を生成することによって、高次多項式に当てはめることができる。あるいは、ヒステリシスループを推定するために、測定された圧力ヘッドとモータ電流のプロットに任意の最良当てはめアルゴリズムを適用することもできる。例えば、パラメータのプロットを楕円形または傾いたもしくは切端の楕円形に当てはめてヒステリシスループの形状を推定することができる。次いで、最良当てはめアルゴリズムによって決定された方程式を使用して心機能に関する情報を抽出することができ、例えば、ヒステリシス曲線の変曲点からLVPを抽出することができ、充満、弛緩、および駆出の各位相を特定することができる。他のパラメータは、ヒステリシスループ上の点、ヒステリシスループのサイズもしくは形状、ヒステリシスループのサイズおよび形状の変化、局所勾配変化、曲率変化、またはヒステリシスループ内の面積から決定することができる。さらに、次いで当てはめの係数を使用して、所与のモータRPM設定における所与の補正済みモータ電流についてのLVEDPを予測することができる。これらのパラメータは、医療従事者が患者の現在の心機能をよりよく理解し、適切な心臓支援を提供することを可能にする。
【0066】
心機能を示す他の心臓パラメータもまた、測定値とルックアップテーブルとの比較に基づいて、または心周期中の測定されたモータパラメータおよび圧力から形成されたヒステリシスループの形状および値から、心臓パラメータ推定器318によって決定され得る。例えば、収縮性の変化は、心臓の収縮中の圧力の勾配の変動(dP/dt)に関連したものであり得る。心拍出量は、ポンプを通過する血液の流量に基づいて決定される。一回拍出量は、SV=CO/HRを式とする左心室機能の指数であり、式中、SVは一回拍出量であり、COは心拍出量であり、HRは心拍数である。一回仕事量は、ある血液量を駆出するために心室によって行われる仕事であり、式SW=SV*MAPに従って一回拍出量から算出することができ、式中、SWは一回仕事量であり、SVは一回拍出量であり、MAPは平均動脈圧である。心臓の仕事は、一回仕事量と心拍数の積によって算出される。心臓パワー出力は、式CPO=mAoP*CO/451を使用して算出されたワット単位の心機能の尺度であり、式中、CPOは心臓パワー出力であり、mAoPは平均大動脈圧であり、COは心拍出量であり、451は、mmHG×L/分をワットに変換するために使用される定数である。駆出率は、一回拍出量を心室内血液量で割ることによって算出することができる。心腔圧、前負荷状態、後負荷状態、心臓の回復、流量負荷状態、変動容積負荷状態、および/または心周期流動状態などの他のパラメータは、これらの値から算出することができ、またはヒステリシスループを調べることによって決定することができる。
【0067】
左心室内の能動カテーテル式心臓ポンプは、装置が使用されることになる最も重要な時間中の直接の連続したLVEDP測定の手段を提供する。この診断用測定値は、追加的な介入なしに、装置からのパラメータを活用して得ることができる。加えて、この装置は、心周期内の単一の時点よりも多くの時点を組み込んだ診断用メトリックを得ることもできる。LVEDPは、有用ではあるが、心周期全体の単一の時点だけに留まる。心周期全体からの情報を含むより総合的なメトリックは、心臓の状態に関するより多くの情報を与え、心臓の実際の状態をより多く表現することができる。
【0068】
所定の圧力・電流曲線は、模擬循環ループ、動物データ、または臨床データを使用して測定することができる。例えば、様々な収縮、前負荷、および後負荷の条件を有する擬似循環ループ(MCL)を使用してポンプ性能の限界が定義されてもよく、動物モデルを使用して生物学的変動性および病理学が描写されてもよい。特徴付けにMCLを使用し、検証に動物モデルを使用することは、心臓ポンプ302の性能を心機能に関連付けるための有効な手段である。ベースラインモータ電流はポンプ間で異なり得るが、各ポンプからの電流測定値を、正規化電流波形を生成するように正規化することができる。いくつかの実施態様では、心臓ポンプは、おおよその流量について計算を正規化するためにそれらの電流レスポンスに基づいて30mAの範囲で別々にビン分割される。
【0069】
心位相情報は、圧力・電流曲線におけるヒステリシスの影響を考慮することによって心臓パラメータ推定器316の正確さを著しく改善し得る。以下でさらに論じるように、圧力・電流曲線は、心周期の位相に起因するヒステリシスを示し得る。したがって、圧力および電流のデータ点を正確に比較するには、心臓の位相を考慮に入れなければならない。そうしないと、収縮期中に収集された圧力および電流のデータが、例えば拡張期中に収集された類似しない基準圧力および電流のデータと比較されるおそれがあり、これにより心臓パラメータの推定が歪曲される可能性がある。
【0070】
心臓パラメータ推定器316による心臓パラメータの推定は、心臓ポンプ302が心臓に植え込まれている間に連続してまたはほぼ連続して行うことができる。これは、特定の時間に心機能のサンプリングを可能にするだけの従来のカテーテルベースの方法よりも有利となり得る。例えば、連続監視は心臓の悪化をより迅速に検出することを可能にし得る。加えて、心臓補助装置がすでに患者の体内にある場合、追加のカテーテルを患者の体内に導入する必要なしに心機能を測定することができる。
【0071】
心臓パラメータが心臓パラメータ推定器316によって推定された後、心臓パラメータはコントローラ322に出力される。コントローラ322は、次に、モータ308を駆動するための制御信号を供給する。いくつかの実施態様では、コントローラ322は、固定設定値でモータ308を動作させる。この設定値は、固定回転速度または流量であり得る。例えば、コントローラは、前負荷および/または後負荷とは無関係に、モータ308によってロータ310の一定の回転速度を保持するために変動する電圧を供給し得る。コントローラ322はまた、ユーザがロータ310の回転速度、およびいくつかの実施態様ではモータ308の回転速度を変えることも可能にし得る。例えば、ユーザは、(例えば、新たな所望の流量または回転速度を設定することにより)新たな設定値を選択してもよく、または時変入力信号(例えば、デルタ関数、階段関数、ランプ関数、または正弦曲線)を選択してもよい。いくつかの実施態様では、固定設定値は、モータ308に供給される電力量であり得る。ある特定の実施態様では、心臓パラメータ推定器316によって推定された心臓パラメータは医師に表示され、医師がコントローラ322でモータの設定値を手動で調整する。
【0072】
コントローラ322は、心臓パラメータ推定器316によって推定された心臓パラメータに基づいて、コントローラ322に送られた設定値を調整することができる。例えば、心機能が悪化しているときには支援の度合い/レベル(すなわち、ロータの速度、よって装置によって送り出される血液の容積流量)を上げることができ、または心機能が回復しているときには支援の度合いを下げることができる。これにより、装置は心機能の変化に動的に応答して心臓の回復を促し、患者を治療から徐々に引き離すことが可能になる。
【0073】
図4に、心機能を示す心臓パラメータを決定するためのプロセス400を示す。プロセス400は、図1の血管内心臓ポンプシステム100、図2の心臓補助装置201、図3の心臓ポンプシステム300、または他の任意の適切な心臓ポンプを使用して行うことができる。工程402で、心臓ポンプのモータが動作する。モータは、ロータの一定または実質的に一定の回転速度を維持するのに必要な回転速度で動作し得る。工程404で、モータに供給された電流が測定され、モータ速度が測定される。電流は、電流センサ(例えば、電流センサ314)を使用してまたは他の任意の適切な手段によって測定され得る。工程406で、大動脈圧が測定される。大動脈圧は、心臓ポンプに連結された圧力センサによって、別個のカテーテルによって、非侵襲的圧力センサによって、または他の任意の適切なセンサによって測定され得る。圧力センサは、光学式圧力センサ、電気式圧力センサ、MEMSセンサ、または他の任意の適切な圧力センサであってよい。いくつかの実施態様では、大動脈圧を測定することに加えて、またはその代わりに、心室圧が測定される。
【0074】
いくつかの実施態様では、モータに供給された電流および大動脈圧を測定した後に追加の工程が行われ得る。例えば、いくつかの実施態様では、大動脈圧は、経時的な差圧を見出すために、ルックアップテーブルから決定された係数でスケーリングされ得る。いくつかの実施態様では、測定された電流および圧力データは、よりノイズの少ない信号を提供するために平滑化される。
【0075】
工程408で、心臓の位相に対応する、モータに供給された測定された電流と測定された大動脈圧とによって形成されたヒステリシスループのセグメントが決定される。セグメント化および位相推定は、圧力信号および電流信号のフィルタとして機能することができる。というのも、これにより、圧力信号および電流信号を、心周期の対応する段階の間に生じた圧力信号および電流信号と比較することが可能になるからである。セグメント化および位相推定は、工程406で受け取った圧力情報に基づくものであってもよく、心位相を示す圧力情報内の基準点を位置特定することを含んでいてもよい。いくつかの実施態様では、拡張期充満の開始を示すために圧力信号内の重拍切痕が検出される。重拍切痕は、半月弁の閉鎖直後の動脈拍動または圧力曲線における小さな下方への振れである。この重拍切痕は、収縮期の終了、したがって拡張期のおおよその開始のマーカとして使用することができる。
【0076】
いくつかの実施態様では、セグメント化または位相推定は、ECGデータに完全にまたは部分的に基づく。そのようなECGデータは圧力記録とタイミングを合わせられ得る。心位相を推定するために使用されるECG内の特徴は、QRS群の開始およびT波の終了であってよい。ECG信号にノイズがある場合は、QRS群(R波など)のピークとT波のピークを検出する方がより信頼性が高くなり得る。QRS波形のRピークはまた、Rピークが拡張期の最終周期に対応するので、様々なパラメータのタイミング、例えばLVEDPが見出されるであろう期間を特定するためにも使用され得る。圧力信号またはECG信号のどちらかを使用する位相推定方法では、実際の充満がこれらの特定された目印の少し前または後に発生するので、充満位相をより正確に特定するために、検出された特徴からのオフセットが使用され得る。圧力信号に基づく方法とECGに基づく方法の両方を組み合わせることにより、心位相のより確実な特定が可能になる。2つの方法の間の重み付けは、公知の充満時間パラメータ、公知の左心室圧、および高い信号対雑音比を有するデータセットを使用して最適化することができる。
【0077】
ECGデータに加えて、セグメント化および心位相推定はまた、モータパラメータもしくはモータ速度、大動脈圧勾配、呼吸変動、または他の任意の適切な生理学的もしくは装置パラメータに完全にまたは部分的に基づくこともできる。いくつかの実施態様では、セグメント化および心位相推定は、これらのパラメータのうちの任意の1つまたは任意の数のこれらのパラメータの組み合わせに基づいて決定される。
【0078】
工程410で、ヒステリシスループが数学的に記述され、LVEDPが数学的記述に基づいて決定される。ヒステリシスループは、データに方程式を当てはめることによって、例えば、楕円を記述するオイラー方程式に基づく多項式関数によってループを記述することによって特徴付けることができ、楕円当てはめを使用してLVEDPを算出することができる。ヒステリシスループの数学的当てはめはさらに、経時的なループのまたはループのセグメントのサイズ、形状、および面積の比較を可能にすると共に、心臓パラメータの変化を測定するためのループのセグメントの局所勾配または曲率の変化の解析も可能にする。
【0079】
いくつかの実施態様では、モータパラメータ、圧力、および心位相に基づいて心機能を示す心臓パラメータを決定するためにルックアップテーブルが参照される。いくつかの実施態様では、テーブルは所定の圧力・電流曲線を具体化し得る。
【0080】
工程412で、心臓パラメータが算出される。心臓パラメータを決定することは、数学的当てはめに基づいてヒステリシスループ上の点を決定すること、ヒステリシスループのセクションの面積を積分すること、または測定された電流および圧力を、ルックアップテーブルを使用して心臓パラメータにマップすることを含むことができる。ヒステリシスループのセクションは、図13に関連してさらに説明するように、オイラー方程式楕円当てはめとバイラテラル直線とに基づいてセグメント化することができ、そのため楕円は少なくとも1つの真っすぐな辺を各々有する複数のセグメントからなる。各セグメントは、Riemann和によって積分される前に、並進および回転させることができる。
【0081】
ヒステリシスループから抽出された心位相情報は、二値(例えば、拡張期もしくは収縮期)であってもよく、またはより細分化されてもよい(例えば、収縮期、拡張期弛緩、および拡張期充満)。心位相は、心駆出、拡張期充満、および拡張期弛緩のうちの1つであり得る。決定される心臓パラメータは、収縮性、一回拍出量、駆出率、心腔圧、一回仕事量、心拍出量、心臓パワー出力、左室拡張末期圧(LVEDP)、前負荷状態、後負荷状態、心拍数、心臓の回復、流量負荷状態、変動容積負荷状態、心周期容積負荷状態、および/または心周期流動状態とすることができる。左室拡張末期圧(LVEDP)は、心臓の健康状態を評価するために医師によってよく使用される単一点測定値である。LVEDPは、心不全の多くの症例で著しく上昇し、心室過負荷を示す。これは主に、拡張末期圧容積比(end diastolic pressure volume ratio(EDPVR))の変化によるFrank-Starling関係のシフトに起因するものである。患者が心不全に近づくにつれて、Frank-Starling曲線は下方にシフトし、その結果、所与の圧力(前負荷重)がより低い一回拍出量をもたらすことになる。このシフトのために、患者の所与の心拍出量において、他のすべての条件が比較的一定のままである場合、LVEDPは心臓の状態を示すことができる。LVEDPのこれらの変化を測定することは、心不全または回復のどちらかに向かう患者の進行を監視するために有益となり得るものであり、よって臨床医がそれに応じて必要な治療を調整することが可能になる。
【0082】
あるいは、参照テーブルが使用される場合、ルックアップテーブルはその入力として圧力、モータ電流、および心位相を受け入れ得る。所定の圧力・電流曲線は、模擬循環ループ、動物データ、または臨床データを使用して測定することができる。例えば、様々な収縮、前負荷、および後負荷の条件を有する擬似循環ループ(MCL)を使用してポンプ性能の限界が定義されてもよく、動物モデルを使用して生物学的変動性および病理学が描写されてもよい。特徴付けにMCLを使用し、検証に動物モデルを使用することは、心臓ポンプの性能を心機能に関連付けるための有効な手段である。ベースラインモータ電流はポンプ間で異なり得るが、正規化された電流波形を生成するように各ポンプを正規化することができる。
【0083】
工程408からの心位相情報は、圧力・電流曲線におけるヒステリシスの影響を考慮することによって心臓パラメータ推定の正確さを著しく改善し得る。圧力・電流曲線は、心周期の位相に起因するヒステリシスを示す。したがって、圧力および電流のデータ点を正確に比較するには、心臓の位相を考慮に入れなければならない。そうしないと、収縮期中に収集された圧力および電流のデータが、例えば拡張期中に収集された類似しない基準圧力および電流のデータと比較されるおそれがあり、これにより心臓パラメータの推定が歪曲される可能性がある。
【0084】
工程414で、心臓パラメータが出力される。心臓パラメータの出力および/または決定は、心臓ポンプが心臓に植え込まれている間に連続してまたはほぼ連続して行うことができる。これは、心周期中の特定の時間または異なる時点に心機能のサンプリングを可能にするだけの従来のカテーテルベースの方法よりも有利となり得る。例えば、心臓パラメータの連続監視は心臓の悪化を迅速に検出することを可能にし得る。心臓パラメータの連続監視は、例えば、心臓の状態が変化するにつれて差異を示し得る心臓の位相と関連付けられた連続したヒステリシスパラメータを出力することによって、経時的な心臓の状態の変化を示すことができる。加えて、心臓補助装置がすでに患者の体内にある場合、追加のカテーテルを患者の体内に導入する必要なしに心機能を測定することができる。心臓パラメータは、図20Aおよび図20Bに関連して後述するユーザインターフェースなど、任意の適切なユーザインターフェースまたはレポートを使用して出力され得る。
【0085】
いくつかの実施態様では、モータに供給される電力が心臓パラメータに基づいて調整される。モータに供給される電力は、コントローラ(例えば、コントローラ322)によって自動的に、または手動で(例えば、医療従事者によって)調整することができる。患者の心機能が悪化しているときには支援の度合いを上げることができ、または患者の心機能が回復しているときには支援の度合いを下げることができ、よって患者を徐々に治療から引き離すことができる。これにより、装置が心機能の変化に動的に応答して心臓の回復を促すことが可能になる。それはまた、例えば心臓ポンピング装置からポンピング機能を引き継ぐことができる場合には、ポンプ支援を断続的に調節し、心臓がどのように反応するかを診断するために使用することもできる。
【0086】
図5に、心機能のメトリックを算出し、心血管補助装置によって提供される支援のレベルを調整するためのプロセスを示す。工程502で、ポンプコントローラが動作する。工程504で、ヒステリシスパラメータおよびモータ速度が測定される。ヒステリシスパラメータは、心臓ポンプのモータのパラメータ(例えば、モータ電流またはモータ電力)であり得る。工程506で、血行動態パラメータが測定される。例えば、いくつかの実施態様では、大動脈圧が測定される。工程508で、ΔPすなわち差圧を決定するために、ヒステリシスパラメータの関数としての血行動態パラメータのルックアップテーブルが調査または参照される。例示的なルックアップテーブル2011は、ヒステリシスパラメータの格納された値の列「Hys. para」、および心室と大動脈との間の圧力差の列「ΔP」を有することを示している。いくつかの実施態様では、テーブルは所定の圧力・電流曲線に基づくものであり得る。心臓パラメータは、測定された電流および圧力を心臓パラメータにマップすることによって決定することができる。
【0087】
所定の圧力・電流曲線は、模擬循環ループ、動物データ、または臨床データを使用して測定することができる。例えば、様々な収縮、前負荷、および後負荷の条件を有する擬似循環ループ(MCL)を使用してポンプ性能の限界が定義されてもよく、動物モデルを使用して生物学的変動性および病理学が描写されてもよい。特徴付けにMCLを使用し、検証に動物モデルを使用することは、心臓ポンプの性能を心機能に関連付けるための有効な手段である。ベースラインモータ電流はポンプ間で異なり得るが、正規化された電流波形を生成するように各ポンプを正規化することができる。いくつかの実施態様では、心臓ポンプは、おおよその流量について計算を正規化するためにそれらの電流レスポンスに基づいて30mAの範囲で別々にビン分割される。
【0088】
工程510で、心周期位相が決定される。心周期位相のこの決定は、セグメント化スプライン曲線を使用して行われ得る。図13に関連して論じるように、セグメント化スプラインは全ヒステリシスループの領域を描写する。ヒステリシスループは、公知の数の曲線当てはめスプラインにセグメント化することができる。ヒステリシスループの曲線に当てはめられた各スプラインは心周期位相を示す。例えば、3つのスプラインを用いて当てはめられたヒステリシスループでは、第1のスプラインは拡張期弛緩位相を示し、第2のスプラインは拡張期充満を示し、第3のスプラインは収縮期を示し得る。この場合の第2と第3のスプラインの合流点がLVEDPである。位相推定は、圧力信号および電流信号のフィルタとして機能することができる。というのも、これにより、圧力信号および電流信号を、心周期の対応する段階の間に生じた圧力信号および電流信号と比較することが可能になるからである。位相推定は、工程2006で受け取った圧力情報に基づくものであってよく、心位相を示す圧力情報内の基準点を位置特定することを含み得る。いくつかの実施態様では、拡張期充満の開始を示すために圧力信号内の重拍切痕が検出される。重拍切痕は、半月弁の閉鎖直後の動脈拍動または圧力曲線における小さな下方への振れである。この重拍切痕は、収縮期の終了、したがって拡張期のおおよその開始のマーカとして使用することができる。
【0089】
工程510からの心位相情報は、圧力・電流曲線におけるヒステリシスの影響を考慮することによって心臓パラメータ推定の正確さを著しく改善し得る。圧力・電流曲線は、心周期の位相に起因するヒステリシスを示すので、圧力および電流のデータ点を正確に比較するには、心臓の位相を考慮に入れなければならない。そうしないと、収縮期中に収集された圧力および電流のデータが、例えば拡張期中に収集された類似しない基準圧力および電流のデータと比較されるおそれがあり、これにより心臓パラメータの推定が歪曲される可能性がある。
【0090】
工程512で、心腔圧力が出力される。いくつかの実施態様では、測定される心腔圧力は左心室の圧力である。ある特定の実施態様では、測定される心腔圧力は右心室の圧力である。工程514で、収縮性の係数が出力される。収縮性スコアは心機能の指標を提供する。より具体的には、収縮性スコアは、収縮期の間の心臓の収縮の固有の強度および勢いを表す。心臓の収縮性が大きければ、心臓の一回拍出量はより大きくなる。例えば、心臓の一回拍出量が約65mLのときには中程度の収縮性が生じ得る。心臓の一回拍出量が100mLを超えると、高い収縮性が生じ得る。心臓の一回拍出量が30mL未満であるときには低い収縮性が生じ得る。収縮性スコアは、数値で、かつ/または図式的に表現され得る。収縮性スコアは無次元であり得る。工程516で、容積負荷の係数が出力される。工程518で、追加の状態メトリックが出力される。
【0091】
工程520で、工程512で決定された心腔圧力を使用して、左室拡張末期圧(LVEDP)が決定される。この算出は、拡張期の終了に対応する、工程512からの左心室圧を決定することによって行われ得る。LVEDPは、急性心筋梗塞のほとんどすべての症例で、特に心不全の患者で著しく上昇する傾向がある。これは主に、拡張末期圧容積比(EDPVR)の変化によるFrank-Starling関係のシフトに起因するものである。患者が心不全に近づくにつれて、Frank-Starling曲線は下方にシフトし、その結果、所与の圧力はより低い一回拍出量をもたらすことになる。このために、患者に対する所与の心拍出量において、他のすべての条件が比較的一定のままである場合、LVEDPは心臓の状態を示すことができる。LVEDPのこれらの変化を測定することは、心不全または回復のどちらかに向かう患者の進行を監視するために有益となり得るものであり、よって臨床医がそれに応じて必要な治療を調整することが可能になる。
【0092】
工程522で、補助装置によって提供される支援のレベルが評価される。いくつかの実施態様では、この評価は自動的に行われる。ある特定の実施態様では、この評価は、少なくとも部分的に医療従事者によって行われる。いくつかの実施態様では、臨床医が支援のレベルを調整して患者の転帰を最適化することを可能にするために、血行動態パラメータおよび支援のレベルに関する追加情報が提供される。いくつかの実施態様では、心血管補助装置によって提供される支援のレベルは、モータに供給される電力を変更すること、モータ速度を変更すること、および/または流量を変更すること、または心血管補助装置による支援のレベルの変更をもたらす他の任意の適切な変更によって増減される。工程526で、患者の心臓評価が出力される。この患者の心臓評価は、図20Aのユーザインターフェース2000または図20Bの2001などのユーザインターフェース上に示され得る。いくつかの実施態様では、評価は医療従事者に送られ得るレポートである。いくつかの実施態様では、患者の心臓に提供されるべき支援のレベルについての推奨事項が出力される。いくつかの実施態様では、評価は医療従事者に送られ得るレポートである。支援のレベルの推奨事項は、血行力学的支援を提供するために最適化され得る。支援のレベルの推奨事項は、内部アルゴリズムまたはテーブルに基づくものであってよい。支援のレベルの推奨事項は、推奨される支援のレベルを得るための指示を含んでいてよく、ポンプによって提供される送出流量を変更すること、急速な速度変更に基づいて自動脈動のレベル(振幅および/もしくは周波数)を変更すること、ならびに/または流量を増強するために短いバーストもしくは長いバーストにおけるポンプ速度(モータの回転速度もしくはロータの回転速度)のレベルを変更することを含む。いくつかの実施態様では、図5のプロセス500が心臓補助装置のための閉ループ制御を提供するように、プロセス500が自動的に繰り返され得る。患者の必要の程度に合わせて治療を増減することによって、心臓の回復を促すことができる。工程526での評価が、心臓が十分に回復していることを示す場合、治療が終了され得るか、または医療従事者が治療の終了を検討するように促され得る。
【0093】
図6に、測定されたモータパラメータ信号およびセンサ信号からLVEDPを決定するプロセス600を示す。LVEDPは、いくつかの手順のうちの1つに従って算出することができる。工程602で、モータパラメータがある期間にわたって受け取られる。本明細書に記載されるように、モータパラメータの測定値には、モータ電流、電力、モータの速度、またはトルクが含まれ得る。工程604で、センサからの入力信号がある期間にわたって受け取られる。センサからの信号は、大動脈圧などの任意の血行動態パラメータであり得る。工程606で、内部ゲーティング法を使用するかどうかに関して判断がなされる。
【0094】
判断がいいえである場合、プロセス600はパス607をたどって工程608に進み、そこで、受け取ったECG入力609を使用して、入力された血行動態パラメータおよびモータパラメータがゲーティングされる。工程609からのECG入力が解析され、拡張期の最終周期を示す変曲点の存在、すなわち、QRS波形内のRピークが、LVEDPがその期間内で見出されることを示す、ECGデータの期間が特定される。次いで、LVEDPに対応する点を見出すために、対応する期間に測定された血行動態パラメータが解析される。工程610で、ルックアップテーブルを使用して、特定された点からLVEDPが算出され、血行動態パラメータとモータパラメータとの間の関係が、血行動態パラメータおよびモータパラメータに当てはめられる多項式関数を決定することによって特徴付けられる。
【0095】
工程606の判断が、内部ゲーティングが使用されるというものである場合、プロセス600は、データからの所望の情報に基づいて、パス611をたどって工程612または工程620のどちらかに進む。LVEDPの決定にはどちらの経路が使用されてもよいが、工程620から始まる経路からは追加の心臓パラメータを決定することもできる。
【0096】
工程612で、モータパラメータに変化があるモータパラメータの期間が特定される。この期間はゲーティングウィンドウと見なされ、モータパラメータの変化は、LVEDPと関連付けられる心位相の変化を示す。いくつかの実施態様では、モータパラメータの変化は、負荷の変化によるモータ速度の低下、負荷の変化によるモータ電流の増加、または心臓の変化の結果としてのモータパラメータの他の任意の特徴的な変化であり得る。工程614で、特定された期間すなわちゲーティングウィンドウを使用して、LVEDPが見出される血行動態パラメータの対応する期間が特定される。工程616で、特定された期間内の血行動態パラメータデータを解析し、血行動態パラメータの変化を特定することによって、血行動態パラメータにおいてLVEDP計算入力が特定される。工程618で、ルックアップテーブルおよび多項式関数を使用してLVEDPが算出される。
【0097】
工程620で、モータパラメータおよびセンサ入力、ならびに欠けているデータ点を近似することを可能にする多項式アルゴリズムから、ヒステリシスループが形成される。モータパラメータおよびセンサ入力から収集されたデータはヒステリシスループにおける心臓の位相を記述する。例えば、モータパラメータがモータ電流であり、センサ入力が大動脈圧である場合、多項式アルゴリズムは、測定されたモータ電流および大動脈圧から圧力ヘッドを決定することを可能にし、そのため測定されたモータ電流および算出された圧力ヘッドからヒステリシスループを作成することができる。工程622で、ヒステリシスループへの楕円の幾何学的当てはめが、例えば、ヒステリシスループを楕円に当てはめるためにオイラー方程式を使用して、生成される。工程624で、ヒステリシスループを形成するデータが、LVEDP値で観察される変曲点を示す大きな点逸脱を決定するために楕円当てはめに関して解析される。工程626で、LVEDP点が、ルックアップテーブルおよび多項式関数を使用して、決定された変曲点から算出される。例えば、変曲点は、モータ電流および圧力ヘッドから形成されたヒステリシスループの解析によって決定されてもよく、LVEDPは、変曲点における圧力ヘッドデータから算出することができる。次いでLVEDPをユーザに出力することができ、患者の心機能の理解を助けるために追加の心臓メトリックが決定され得る。
【0098】
LVEDP、心周期位相、および他のパラメータを決定するために、上述したゲーティングアルゴリズムが血行動態パラメータデータおよびポンプまたはモータパラメータに適用される。LVEDPの算出への上記の経路の各々において、ゲーティングが内部であるか外部であるかにかかわらず、ゲーティング技術を使用して特定された血行動態パラメータデータ点を、ルックアップテーブルと併用して、動的LVEDP曲線を調べることができ、他の心臓メトリックの決定において使用され得るLVEDP値が出力され得る。図7に、ゲーティングアルゴリズムを適用してLVEDPを決定するためのプロセスを示す。図示のプロセスは、図6に関連して説明した、ゲーティングウィンドウの決定およびLVEDPを決定するためのゲーティングアルゴリズムの適用をより詳細に示している。ゲーティングは、心位相および/または左心室圧(LVEDPなど)を決定または分離するために使用される。ゲーティングは、装置パラメータおよび生理学的パラメータを調べて極小値または極大値を位置特定することによって完了することができる。
【0099】
コントローラは、心周期と関連付けられるヒステリシスパラメータを測定し、装置パラメータまたはモータパラメータを測定する。ヒステリシスパラメータは、本明細書で論じられている任意の心臓ヒステリシスパラメータであってよく、装置パラメータは、時間および脈拍と共に変化する任意の装置パラメータであってよい。工程702で、コントローラは入力されたヒステリシスパラメータおよび装置パラメータを使用してゲーティングウィンドウを生成する。ゲーティングアルゴリズムは、データをゲーティングすることによって関連する極小値であるデータ点を特定する、平均値および標準偏差の方法を含む。装置パラメータおよび生理学的パラメータの極小値が独立して決定され、対応する極小値データ点がアルゴリズムによって返される。
【0100】
工程704で、LVEDPを特定するためにゲーティングアルゴリズムが適用される。コントローラは、装置パラメータおよび生理学的パラメータの極小値データ点を、ヒステリシス装置パラメータ(例えば、モータ電流)と生理学的パラメータ(例えば、大動脈圧)との間の関係を記述する関数に入力する。この関数は、LVEDPと関連付けられるデータの点を決定するために使用される。
【0101】
工程706で、算出されたLVEDP点が、LVEDPを決定するために動的曲線ルックアップテーブルで使用され、工程708でLVEDPがシステムから出力される。動的曲線ルックアップテーブルは、LVEDP値を見出すために、ある特定の心周期における大動脈圧測定値を差圧に変換し得る。図7ではLVEDPをゲーティングアルゴリズムの出力として示しているが、ゲーティングアルゴリズムは、本明細書に記載されている任意のメトリック計算と共に使用され得る。
【0102】
図8に、経時的な大動脈圧、左心室圧、およびモータ電流のプロット800を示す。図8のプロットからのデータは、圧力および電流から心臓パラメータ(例えば、左心室圧)を推定するための圧力・電流曲線を生成するのに使用することができる。プロット800は、時間単位のx軸802と、mmHgの圧力またはmAのモータ電流のどちらかの単位のy軸804とを有する。プロット800はまた、大動脈圧信号806、左心室圧信号808、およびモータ電流信号810も含む。大動脈圧信号806は、図3の圧力センサ312、図1の圧力センサ112、または他の任意の適切な圧力センサによって測定することができる。大動脈圧信号は、拡張期充満の開始をマークするために使用することができる重拍切痕812を含む。モータ電流信号810は、図3の電流センサ314または他の任意の適切な電流センサから生成することができる。左心室圧信号808は、左心室に配置された専用のカテーテル、ポンプの入口側に取り付けられた圧力センサ、または圧力・電流に基づく推定を使用して生成することができる。プロット800内の信号806、808、および810は、動物モデルまたはヒト患者において収集されたデータから生成することができる。プロット800内の信号806、808、および810は、ポンプモータが33,000rpmで動作している間にブタの心臓で収集されたデータから生成した。
【0103】
プロット800に示すように、モータ電流信号810は心位相と共に変化する。ポンプにかかる負荷、よってモータ電流信号810は、心臓を通る血流量が増加するにつれて増加する。モータ電流信号810は、左心室圧信号808および大動脈圧信号806が増加するのと同時に増加する。これは大動脈弁の両端の圧力差が減少しているので直感に反するように思われるかもしれないが、このポンプ構成では、電流の増加の主な決定要因はより高い質量流量に起因するモータにかかる負荷の増加である。より高い質量流量は収縮期の間に発生し、これは収縮期の間の高いモータ電流をもたらす。このモータ電流の増加は、これまで表されたベルヌーイの関係では明らかではない。というのも、ベルヌーイの関係は多くの場合、定常オーム性システム(steady ohmic system)を記述するために正規化された質量または速度であるからである。典型的なポンピング環境とは異なり、心臓は、心臓ポンプ(例えば熱ポンプ302)が応答する変動質量流を介して位相性の動的な負荷を発生させる。これにより、ベルヌーイによって記述される圧力の変化からの影響を支配するモータ電流信号内の位相成分が生じる。結果として、モータ電流波形は心周期動態を表すことになり、心臓エナジェティックスを抽出するために使用することができる。モータドライバは心位相の変化の直後にモータ電流を調整する制御アルゴリズムを使用し得るが、心臓の収縮能力および一回拍出量の変動の指標としてモータ電流の変動をなお使用できるように、そのような制御アルゴリズムがモータ電流に及ぼす影響を予測することができる。
【0104】
モータ電流信号810を使用して、左心室圧信号808からLVEDPを抽出することができる。アルゴリズムを使用して、モータ電流信号810が解析されて、モータ電流信号810が変化する期間が決定される。例えば、モータ電流信号810は、第1の時点811と第2の時点813との間で急激に低下する。LVEDPを正確に抽出するために、対応する期間における左心室圧信号808を解析することができる。モータ電流信号810に基づいて左心室圧信号808をゲーティングすることによって、LVEDPを見出すために解析される必要があるデータ量が削減され、ノイズが減少する。モータパラメータの変化を利用するこのゲーティング技術は、様々なモータパラメータと共に使用することができる。例えば、負荷の増加を示すモータ電流の増加は、LVEDPが特定され得る期間を示すことができる。加えて、負荷の増加に応答したモータ速度の低下もまた、LVEDPが特定され得る期間を示すことができる。
【0105】
図9に、ECGベースのゲーティングアルゴリズムを適用してLVEDPを決定するためのプロセス900を示す。図示のプロセスは、図6に関連して説明した、ECGデータを使用したゲーティングウィンドウの決定およびLVEDPを決定するためのゲーティングアルゴリズムの適用をより詳細に示している。
【0106】
プロセス900は患者監視装置902から始まり、患者監視装置902は、工程904でECGデータを測定し記録する。患者監視システム902は、ポンプシステムの外部にあってもよく、またはポンプシステム内に統合されてもよい。測定されたECGデータはポンプコントローラ906に送られ、ここでECGデータは、LVEDPを特定するためのゲーティングウィンドウを決定するために使用されるECGデータとすることができる。工程908で、ポンプコントローラは、QRS波形のRピーク、すなわち、拡張期の最終周期が中に位置するECGデータのセグメントを特定することによって、ECGベースのゲーティングウィンドウを生成する。これは、データを周期性方程式に当てはめ、方程式から外れるデータ点を決定することによって、またはRピークに対応するデータ内の点を特定することによって達成され得る。ゲートウィンドウは、ECGデータにおいてRピークまたは拡張期の最終周期が見出される期間であるが、この期間は絶対時間で表される必要はない。
【0107】
工程910で、ポンプコントローラが大動脈圧を測定し、工程912で、ポンプコントローラがモータ電流を測定する。工程908で特定されたECGゲーティングウィンドウ、および測定された大動脈圧およびモータ電流は、工程914でポンプコントローラによって大動脈圧データからLVEDPを特定するために使用される。コントローラは、LVEDPが表される大動脈圧値を決定するために、ECGゲーティングウィンドウに対応する大動脈圧データのセグメント内の大動脈圧データ点を解析する。データをゲーティングすることによって、LVEDP点をより迅速に決定でき、解析する必要があるデータがより少なくて済み、必要な処理時間が短縮される。
【0108】
工程916で、ポンプコントローラは動的曲線ルックアップテーブルにアクセスして、決定された大動脈圧点を実際のLVEDPに変換する。実際のLVEDPは、医療従事者が使用するためにゲーティングアルゴリズムから出力することができる。例えば、医療従事者は、報告されたLVEDP値に基づいてポンプ速度を増減することによってポンプ速度を調整することができる。
【0109】
いくつかの実施態様では、心周期位相推定もまた、ECGデータに完全にまたは部分的に基づいて決定される。そのようなECGデータは圧力記録とタイミングを合わせられ得る。心位相を推定するために使用されるECG内の特徴は、QRS群の開始およびT波の終了であってよい。ECG信号にノイズがある場合は、QRS群(R波など)のピークとT波のピークを検出する方がより信頼性が高くなり得る。圧力信号またはECG信号のどちらかを使用する位相推定方法では、実際の充満がこれらの特定された目印の少し前または後に発生するので、充満位相をより正確に特定するために、検出された特徴からのオフセットが使用され得る。QRS波形のRピークはまた、Rピークが拡張期の最終周期に対応するので、LVEDPなどの特定の心臓パラメータを特定することができる期間を特定するためにも使用され得る。圧力信号に基づく方法とECGに基づく方法の両方を組み合わせることにより、より確実な特定が可能になる。2つの方法の間の重み付けは、公知の充満時間パラメータ、公知の左心室圧、および高い信号対雑音比を有するデータセットを使用して最適化することができる。いくつかの実施態様では、心臓ヒステリシスループからの位相推定は、心臓駆出、拡張期充満、および拡張期弛緩のうちの1つに対応する。
【0110】
図10に、測定された、ならびにMCLおよび動物モデルによって予測された、経時的なLVEDPのプロット1000を示す。プロット1000は、時間を秒単位で示すx軸1002と、LVEDPをmmHg単位で示すy軸とを有する。プロット1000は、第1の波形406と、第2の波形1008と、第3の波形1010とを含む。第1の波形1006は、左心室でカテーテルによって測定された経時的なLVEDPを表している。第2の波形1008は、模擬循環ループ(MCL)におけるポンプの性能を特徴付けるために開発されたアルゴリズムによって予測された経時的なLVEDPを表している。第3の波形1010は、ブタ動物モデルにおけるポンプの性能を特徴付けるために開発されたアルゴリズムによって予測された経時的なLVEDPを表している。挿入図1012は、左心室において測定されたLVEDPと各測定についてMCLおよび動物モデルによって予測されたLVEDPとの相関を示している。挿入図1012は、測定されたLVEDPをmmHg単位で示すx軸1014と、予測LVEDPをmmHg単位で示すy軸1016とを有する。挿入図1012はまた、測定・予測対を表す複数のデータ点1018も含む。プロット1012内のデータ点1018は、動物ベースのアルゴリズムによって予測されたLVEDPを含む対を表す塗りつぶされていない点(例えば1020)と、MCLベースのアルゴリズムによって予測されたLVEDPを含む対を表す星形の点(例えば1022)とを含む。相関線1024は、注意を引くために設けられており、1対1の相関、すなわち、予測されたLVEDPが測定されたLVEDPと等しいことを表している。
【0111】
ポンプの特徴付けを、MCLと、疾患をシミュレートするための介入を受けているブタ動物モデルとの両方において行った。動物モデルおよびMCLモデルにおいてIVC閉塞中にLVEDPの追跡に成功した。動物モデルのRMS誤差は0.90mmHGであった。MCLモデルのRMS誤差は0.35mmHGであった。これは、MCLを使用したポンプの特徴付けが、単方向分散対双方向分散の存在に起因して優位であり得ることを示唆している。よって、特徴付けにMCLを使用し、検証に動物モデルを使用することは、心臓ポンプの性能を心機能に関連付けるための有効な手段となり得る。MCLモデルおよび動物モデルからのデータは、予測アルゴリズムを開発するため、および所定の圧力・電流曲線を作成するために使用され得る。
【0112】
図11に、ゲーティング法を使用して決定されたLVEDPの正確さを例示する、患者データから算出されたLVEDPのプロットを示す。プロット1100は、心臓の拍動数を表すx軸1102と、モータパラメータおよび生理学的パラメータに基づく算出されたLVEDPを表すy軸1104とを含む。プロット1100は、心臓の各拍動における算出されたLVEDPの散布図1103、報告された肺毛細血管楔入圧(pulmonary capillary wedge pressure(PCWP))を示す線1102、および報告されたPCWP線1102に対する標準誤差線1101を含む。
【0113】
プロット1100は、患者において実際に記録されたPCWP 1102、ならびに患者データにアルゴリズムを遡及的に適用することによって算出されたLVEDP 1103を示している。プロット1100は、算出されたLVEDP 1103が報告されたPWCP線1102の標準誤差線1101内にあることを示している。PWCPは従来、肺カテーテルとバルーンを肺動脈の動脈枝に押し込むことによって測定される。算出されたLVEDP 1103は、患者の吸息時に取られたデータ点における報告されたPWCP 1102に最も近く、これは楔入圧が患者内で取られるのと同じ点である。図11に示す算出されたLVEDP 1103は、患者データに適用された場合に業界標準のPWCP 1102と同等またはそれ以上である。
【0114】
図12に、モータ電流の関数としての圧力ヘッドの散布図1200を示す。プロット1200は、圧力・電流曲線に対するヒステリシスの効果を示している。プロット1200は、電流をmA単位で示すx軸1202、および左心室と大動脈との間の圧力ヘッドをmmHg単位で示すy軸1204を有する。プロット1200はまた、ブタ動物モデルから収集された電流・圧力対を表す複数のデータ点1206も含む。プロット1200内のデータ点は、モータが30,000rpmで動作している間に生成された。データ点1206はおおよそヒステリシスループを形成している。散布図1200の形状は、左心室と大動脈との間の圧力ヘッドと、電流との間の関係が、心周期全体を通して変動することを示している。圧力・電流曲線におけるヒステリシスのために、心位相に基づいて測定値をゲーティングする方法は、サンプルデータ点が、同じ心位相(収縮期または拡張期)で生じた基準データ点と確実に比較されるようにすることによって、心臓パラメータの推定値の正確さを高めるのに役立ち得る。
【0115】
図13に、モータ電流の関数としての圧力ヘッドの散布図1300を示す。プロット1300は、電流をmA単位で示すx軸1302、および左心室と大動脈との間の圧力ヘッドをmmHg単位で示すy軸1304を有する。プロット1300はまた、電流・圧力対を表す複数のデータ点1306も含む。データ点1306は、ヒステリシスループを形成しており、心周期の位相の決定を示す、ヒステリシスループに当てはめられたセグメント化スプライン曲線を含む。ヒステリシスループは、3つの曲線当てはめスプライン1309、1311、および1313にセグメント化される。各スプラインは心周期位相を表す。第1のスプライン1309は、拡張期弛緩(等容性弛緩)の間に記録されたヒステリシスループのセクションを示している。第2のスプライン1311は、拡張期充満の間に記録されたヒステリシスループのセクションを示している。第3のスプライン1313は、収縮期(心室収縮)の間に記録されたヒステリシスループのセクションを示している。第2のスプライン1311と第3のスプライン1313とが合流する点がLVEDP 1315である。第2のスプライン1311と第3のスプライン1313との合流点で観察される特徴的な切痕は、LVEDP 1315点の特定を可能にする。矢印1307および1314は心周期が進行する方向を示している。
【0116】
ヒステリシスループ内でLVEDPが発生する時点で、特徴的な切痕を観察することができ、心周期内の点の視覚的認識、ならびに圧力ヘッドおよびモータ電流のヒステリシスループにおける変曲点としてのLVEDPのアルゴリズムによる特定が可能になる。LVEDP変曲点では、左心室が拡張期充満を受けている状態から活発に収縮している状態に進むにつれて、モータ電流が変化する。ヒステリシスループからのLVEDP変曲点の決定は、モータパラメータおよび圧力パラメータの収集のためのサンプリングレートに依存し、算出は、LVEDP変曲点を正確に決定するためにサンプリングレートを考慮に入れるかまたはデータを外挿しなければならない。位相推定は、圧力信号および電流信号のフィルタとして機能することができる。というのも、これにより、圧力信号および電流信号を、心周期の対応する段階の間に生じた圧力信号および電流信号と比較することが可能になるからである。
【0117】
LVEDP 1315点はまた、最良当てはめアルゴリズムを用いてプロット1300から算出することができる。LVEDP 1315点は、多項式と、ヒステリシスデータを楕円として記述する最良当てはめアルゴリズムとを使用して、ヒステリシスループから算出することができる。ヒステリシスループは、定常流体運動についてのオイラー方程式に基づく方程式を使用して推定することができる。式の係数は、次式から重回帰分析を使用して算出される。
【0118】
式中、係数はA、B、C、およびDであり、iはモータ電流であり、di/dtは時間的なモータ電流の導関数であり、ωは熱力学的仕事であり、d2i/d2tは時間的なモータ電流の二次導関数である。式中の最後の項は、非常に小さいので、任意選択である。最終的な計算式はヒステリシスループを記述し、経時的なループのサイズおよび形状の変化、すなわち、経時的な曲率または局所勾配の変化を追跡するために使用できると共に、LVEDPを含む心機能のメトリックを抽出するためにも使用することができる。
【0119】
この式によれば、幾何学的方法を使用してヒステリシスループに楕円1321が当てはめられ、記述された楕円に対するデータ点の関係に基づいてLVEDP 1315点を検出することができる。楕円1321上の各点と焦点との間の距離を使用して、次式に従って楕円当てはめから外れ値データ点を決定することができる。
【0120】
式中、r値は楕円1321上の点から各焦点までの距離であり、αは楕円1321の短軸の長さである。楕円1321の外側にあるデータ点の値はその位置について評価され、データを反復することによってデータ点の最もクラスタ化した位置が決定される。クラスタは様々な方法で定義することができ、例えばクラスタは、互いに2mAかつ1.5mmHgの範囲内にある少なくとも3つの点として定義することができる。
【0121】
ヒステリシスループの両端を形成するデータ点1306のクラスタをアルゴリズムで決定することによって、ヒステリシスループを記述する楕円1321を通る二等分線1317を引くことができる。心臓はこれら2つの位相で最大の時間を費やし、それらの間を一過的に移動するだけなので、測定されるデータ点1306の大部分はこれら2つの位置にある。ピーク弛緩に対応する第1のクラスタ1318およびピーク駆出に対応する第2のクラスタ1319が検出され、2つのクラスタ1318と1319の平均値の間に線1317が引かれる。線1317は、楕円1321およびヒステリシスデータを全体として半分に分割し、第1のスプライン1309(拡張期弛緩)を含み、全体としてより高い圧力に対応する上部と、全体としてより高い圧力に対応する下半分とにする。線1317の下の、楕円1321の下部は、第2のスプライン1311(拡張期充満)および第3スプライン1313(収縮期または心室収縮)を含む。LVEDP 1315点は、線1317の下のデータの楕円当てはめから、データに当てはめられた円または楕円1321からの逸脱が最も大きい点を決定することによって推定することができる。加えて、心位相に従って楕円をセグメント化することによってデータから他の心臓メトリックを抽出することもでき、各セグメントをRiemann和により数値的に積分することができる。あるいは、ヒステリシスループは、他の任意の適切な最良当てはめアルゴリズムを使用して推定することもできる。
【0122】
左室拡張期圧および左室拡張末期圧(LVEDP)を使用して、心機能の全体的な状態を決定することができる。LVEDPは、心室充満の終了時および心室収縮の直前における左心室内の圧力である。LVEDPは、急性心筋梗塞のほとんどすべての症例で、特に心不全の患者で著しく上昇する傾向がある。これは主に、拡張末期圧容積比(EDPVR)の変化による心臓の収縮状態とLVEDPとの間の関係を記述するFrank-Starling関係のシフトに起因するものである。患者が心不全に近づくにつれて、Frank-Starling曲線は下方にシフトし、その結果、所与の圧力はより低い一回拍出量をもたらすことになる。このシフトのために、患者の所与の心拍出量において、他のすべての条件が比較的一定のままである場合、LVEDPは心臓の状態を示すことができる。LVEDPのこれらの変化を測定することは、心不全または回復のどちらかに向かう患者の進行を監視するために有益となり得るものであり、よって臨床医がそれに応じて必要な治療を調整することを可能にする。
【0123】
楕円当てはめに基づいてLVEDP点が決定された後、ルックアップテーブルにアクセスすることによって実際のLVEDPを決定することができる。所定の圧力・電流曲線は、その入力として圧力、モータ電流、および心位相を受け入れるルックアップテーブルにおいて具体化され得る。心位相情報は、二値(例えば、拡張期もしくは収縮期)であってもよく、またはより細分化されてもよい(例えば、収縮期、拡張期弛緩、および拡張期充満)。ルックアップテーブルの出力は、LVEDP以外の他のパラメータ、例えば、収縮性、一回拍出量、駆出率、心腔圧、一回仕事量、心拍出量、心臓パワー出力、左室拡張末期圧(LVEDP)、前負荷状態、後負荷状態、心拍数、心臓の回復、流量負荷状態、変動容積負荷状態、心周期容積負荷状態、および/または心周期流動状態、または他の任意の適切な心臓パラメータとすることができるが、これらのパラメータの算出にはさらに別の入力が必要となる場合もある。
【0124】
図13はデータ点1306および二等分線1317から形成されたヒステリシス曲線を示しているが、これはデータに適用されるアルゴリズムの原理を説明するためのものである。LVEDPデータを抽出するためにヒステリシスループを実際に作成または描画する必要はない。コントローラは、メモリに格納されている格納データの配列にアクセスしそれらを操作することによって、LVEDPデータを抽出することができる。コントローラは、測定データをメモリに格納することができ、楕円当てはめ、オイラー方程式、多項式などの、一方のパラメータを他方のパラメータに関連して記述する方程式を用いてデータを当てはめることによって、測定された大動脈圧とモータパラメータとの間の関係を特徴付けることができる。データ点間の関係を特徴付ける方程式は、次いで、LVEDP点に関する情報を抽出するために使用され、いくつかの実施態様では、心機能に関連する追加の心臓パラメータに関する情報を抽出するためにも使用され得る。
【0125】
さらに、LVEDPデータを抽出するために、心周期全体についてモータパラメータおよび血行動態パラメータを記録または測定する必要はない。心周期の拡張期充満段階から心室収縮位相への移行において、データ点を楕円曲線の一部分に当てはめ、楕円当てはめから外れるLVEDP点を決定することを可能にするのに十分なデータ点が収集されなければならない。あるいは、曲線のこの部分を正確に捕捉するために、1つまたは複数の心周期を記録することもできる。
【0126】
いくつかの実施態様では、測定されたモータパラメータと血行動態パラメータとを互いに関連付けることによって形成されたヒステリシスループを表示することが有益であり得る。ヒステリシスループの形状およびサイズ、または局所勾配もしくは曲率の変化は、患者の心機能に関する重要な詳細を提供し得る。これらを、例えば、医療従事者は、ポンプの速度を変えることによってポンプ支援を増減させるかどうかなどの、患者の治療に関連した判断を下すために使用することができる。
【0127】
図14に、データをセグメント化するためにヒステリシスゲートが適用された後の、ヒステリシスパラメータの関数としての圧力ヘッドの散布図1400を示す。プロット1400は、ヒステリシスパラメータを表すx軸1402、および左心室と大動脈との間の圧力差をmmHg単位で表すy軸1404を有する。プロット14のデータはブタ動物モデルから収集した。ヒステリシスパラメータは、mAで表されるモータ電流などのモータパラメータであり得る。ヒステリシスパラメータは、無次元パラメータまたは正規化パラメータであり得る。プロット1400は、3つのグループ、すなわち収縮期領域1408、拡張期充満領域1410、および拡張期弛緩領域1412へセグメント化されたデータ点1406を含む。領域1408は収縮期に対応しており、収縮期中に生じたデータ点1409を含む。領域1410は、拡張期充満に対応しており、拡張期充満中に生じたデータ点1411を含む。領域1412は拡張期弛緩に対応しており、拡張期弛緩中に生じたデータ点1413を含む。データ点1406は、図3の心位相推定器318などの心位相推定器を使用して、収縮期領域1408、拡張期充満領域1410、および拡張期弛緩領域1412にグループ化され得る。
【0128】
プロット1400はまた、時間を表すx軸1416と大動脈圧を表すy軸1418とを有するサブプロット1414も含む。サブプロット1414は、特定された様々な基準点1422、1424、1426、および1428を有する大動脈圧信号1420を示している。基準点1422、1424、および1426、および1428は、収縮期領域1430、拡張期弛緩領域1432、および拡張期充満領域1434によって示されるように、大動脈圧信号1420を心周期の各位相にセグメント化するために使用することができる。大動脈圧信号の領域1430、1432、および1434へのセグメント化を使用して、データ点1406を対応する収縮期領域1408、拡張期弛緩領域1412、および拡張期充満領域1410にセグメント化することができる。データ1406をこれらの領域にセグメント化することにより、サンプル測定値と基準測定値との間の心位相の不整合が原因で比較が偏ることのないように同様の測定値を比較することが可能になる。これにより、心臓パラメータの推定をシステムヒステリシスに対してロバストにすることができる。
【0129】
図15に、モータ電流の関数としての圧力ヘッドの散布図1500を示す。プロット1500は、モータヒステリシスパラメータを示すx軸1502、および左心室と大動脈との間の圧力ヘッドをmmHg単位で示すy軸1504を有する。プロット1500は、ベースラインヒステリシスを表す第1のヒステリシスループ1507と、第1のヒステリシスループ1507の変形例を表す第2のヒステリシスループ1505とを含む。第2のヒステリシスループ1505は、変動ヒステリシスパラメータ1515、変動圧力ヘッドパラメータ1517、および変動ループ幅パラメータ1519を含む、プロット1500から決定された測定可能なパラメータを含む。第2のヒステリシスループ1505の変動は、医学的事象に応答したまたは外部刺激に応答した、心臓のパフォーマンスの変化によって引き起こされ得る。変動ヒステリシスパラメータ1515、変動圧力ヘッドパラメータ1517、および変動ループ幅パラメータ1519は、第1のヒステリシスループ1507と第2のヒステリシスループ1505との間の変化を記述することができる。変動ヒステリシスパラメータ1515は、x軸1502に沿って測定される。変動圧力ヘッドパラメータ1517は、y軸に沿って測定される。変動ループ幅パラメータ1519は、ヒステリシスループの最も広い部分の尺度である。
【0130】
図16に、ブタ動物モデルにおけるβ遮断薬の投与前および投与後の、モータ電流の関数としての圧力ヘッドの散布図1600を示す。プロット1600は、電流をmA単位で示すx軸1602、および左心室と大動脈との間の圧力ヘッドをmmHg単位で示すy軸1604を有する。プロット1600はまた、電流・圧力対を表す複数のデータ点1606も含む。プロット1600内のデータ点は、モータが30,000rpmで動作している間にブタの心臓において生成された。データ点1606は、第1のヒステリシスループ1607と第2のヒステリシスループ1605をおおまかに形成している。第1のヒステリシスループ1607は3つの領域1612、1610、および1608を有する。第1の領域1612はデータ点1613を含み、拡張期弛緩を示している。第2の領域1610はデータ点1611を含み、拡張期充満を示している。第3の領域1608はデータ点1609を含み、収縮期を示している。第1のヒステリシスループ1607は心臓の正常機能中に生成された。第2のヒステリシスループ1605は、β遮断薬の投与後に生成された。第2のヒステリシスループ1605は、3つの領域1616、1618、および1614を含む。第1の領域1616はデータ点1615を含み、拡張期弛緩を示している。第2の領域1618はデータ点1617を含み、拡張期充満を示している。第3の領域1614はデータ点1619を含み、収縮期を示している。散布図1600の形状は、左心室と大動脈との間の圧力ヘッドと、電流との間の関係が、心周期全体を通して、および(ヒステリシスループ1607におけるように)正常機能中に、および(ヒステリシスループ1605におけるように)β遮断薬投与後に変動することを示している。第2のヒステリシスループ1605は、第1のヒステリシスループ1607よりも低い最大差圧を有する。加えて、第2のヒステリシスループ1605の形状も第1のヒステリシスループ1607の形状と異なる。特に、第2のヒステリシスループ1605の第1の領域1616は下方にシフトされており、第1のヒステリシスループ1607の対応する第1の領域1612よりも明確ではない曲線を有する。第2のヒステリシスループ1605の第3の領域1614もまた、第1のヒステリシスループ1607の対応する第3の領域1608に対して上方にシフトされている。さらに、第1のヒステリシスループ1607で囲まれた面積は、第2のヒステリシスループ1605で囲まれた面積よりも大きい。β遮断薬の投与は心臓の収縮性の変化をもたらす。訓練を受けた医師であれば、いくつかの心周期の間のデータ点1606の形状と、データ点が形成するヒステリシスループの面積とを使用して、β遮断薬の投与の結果としての心臓における形態的変化を判断する、または心不全の度合いを判断することができる。
【0131】
図17に、図16の散布図から導出された滑らかな曲線を示す。図16の散布図1600と同様に、プロット1701は、電流をmA単位で示すx軸1702、および左心室と大動脈との間の圧力ヘッドをmmHg単位で示すy軸1704を有する。プロット1701は、ベースライン曲線1709、低収縮性を示す曲線1705、および高収縮性を示す曲線1707という3つの曲線を示している。図17の滑らかな曲線は、医療従事者が、例えばβ遮断薬の投与後の、低収縮性状態において見られるような心臓の挙動の変化を視覚化することを可能にし、有意義な心臓パラメータおよび心臓の健康状態の変化を抽出するのに使用することができる。図16および図17は、mA単位のモータ電流のx軸1602および1702上に示されたヒステリシス曲線を含んでいるが、ヒステリシス曲線は、x軸上の時間および脈拍と共に変化する任意のモータパラメータを用いてプロットされてもよい。
【0132】
図18Aに、モータ電流の関数としての圧力ヘッドの散布図1800を示す。プロット1800は、電流をmA単位で示すx軸1802、および左心室と大動脈との間の圧力ヘッドをmmHg単位で示すy軸1804を有する。プロット1800はまた、電流・圧力対を表す複数のデータ点1806も含む。データ点1806は、第1のヒステリシスループ1808および第2のヒステリシスループ1810を形成している。散布図1800の形状は、左心室と大動脈との間の圧力ヘッドと、電流との間の関係が、心周期全体を通して、および(ヒステリシスループ1808におけるように)正常機能中に、および(ヒステリシスループ1810におけるように)心筋梗塞の移行中に変化することを示している。第1のヒステリシスループ1808は、心筋梗塞前の心臓の周期を示している。第2のヒステリシスループ1810は、移行中の心筋梗塞における心臓の周期を示している。心筋梗塞中の第2のヒステリシスループ1810によって囲まれた面積は、第1のヒステリシスループ1808によって囲まれた面積よりも小さい。訓練を受けた医師であれば、いくつかの心臓周期中のデータ点1806の形状を使用して、心筋梗塞中または心筋梗塞後の心臓における形態的変化を判断することができる。
【0133】
図18Bに、ある期間にわたる心臓パワー指数およびモータ電流のプロット1801を示す。プロット1801は、採取されたサンプルの数を示すx軸1803と、心臓のパワー指数を示す第1のy軸1805と、平均モータ電流をmA単位で示す第2のy軸1807とを有する。プロットは、全サンプル数にわたって測定された心臓パワー指数の第1の記録1812と、同じサンプルについてのモータ電流の第2の記録1810とを含む。心臓パワー指数はヒステリシスループから算出される新しい尺度であり、医師に心臓のパフォーマンスに関する情報を提供することを目的としている。プロット1801において、モータ電流1810は、測定されたサンプルにわたっておおむね一定のままである。心臓パワー指数1808が、「MI前」1814とラベル付けされた、心臓の正常な周期中の番号が小さなサンプルにおいて示されている。サンプル番号500では、心臓パワー指数1812は、約3000から(「MI」とラベル付けされた)心筋梗塞中の約2000に減少し、心臓のポンピング性能の低下を示している。心臓パワー指数は、正常な心周期の間ならびに心筋梗塞などの事象の間およびその後の心臓のパフォーマンスを監視するために、訓練された医師が使用することができる指標である。
【0134】
図19に、パラメータを視覚化することによって与えられる診断能力を例示する、経時的な様々な心臓パラメータの例を示す。各プロットは、経時的な面積指数、収縮性、流量負荷状態、および平均大動脈圧の変化を示す、動物モデルから生成されたデータを示している。プロットI 1900は、時間を秒単位で表すx軸1903と、正規化された指数をパーセントとして表す第1のy軸1904と、平均圧力をmmHg単位で表す第2のy軸1905とを含む。プロットIは、下大静脈のバルーン閉塞中の面積指数1910(全般的心機能を示す)、収縮性指数1908、流量負荷状態1912、および平均大動脈圧1906の記録を含む。
【0135】
プロットII 1901は、時間を秒単位で表すx軸1913と、正規化された指数をパーセントとして表す第1のy軸1914と、平均圧力をmmHg単位で表す第2のy軸1915とを含む。プロットIIは、β遮断薬の使用後の面積指数1920、収縮性指数1918、流量負荷状態1922、および平均大動脈圧1916の記録を含む。
【0136】
プロットIII 1902は、時間を秒単位で表すx軸1923と、正規化された指数をパーセントとして表す第1のy軸1924と、平均圧力をmmHg単位で表す第2のy軸1925とを含む。プロットIIIは、変力物質の使用後の面積指数1930、収縮性指数1928、流量負荷状態1932、および平均大動脈圧1926の記録を含む。
【0137】
図19のプロットI~IIIは、様々な心臓事象に応答した様々な測定可能な心臓パラメータにおける様々な反応を示している。例えば、プロットIの面積指数1910の減少によって示される心機能の低下に先行して流量負荷状態指数1912が減少し、これは心臓によってポンピングされる血液量に問題があることを示している。プロットIIの面積指数1920の減少は、収縮性指数1918の減少と一致しており、これは動物モデルに投与されたβ遮断薬が心臓の収縮性に影響を及ぼしていることを示している。収縮性状態、流量負荷状態、および心機能全般の変化を示し、そのような変化の原因を判断するために、プロットI~IIIに表示される心臓パラメータをヒステリシスループから算出し、表示することができる。
【0138】
患者の様々な心臓パラメータの傾向を理解することにより、訓練を受けた医療従事者は患者の心臓の必要によりよく対処することができる。様々な算出された心臓パラメータの変化および傾向を通じて医療従事者は患者の心臓の状態を判断することができる。
【0139】
図20Aに、経時的な心機能のメトリックの波形を含む、心臓ポンプコントローラのための例示的なユーザインターフェースを示す。ユーザインターフェース2000は、図1の血管内心臓ポンプシステム100、図2の心臓補助装置201、図3の心臓ポンプシステム300、または他の任意の適切な心臓ポンプを制御するために使用され得る。ユーザインターフェース2000は、圧力信号波形2002、モータ電流波形2004、心臓状態波形2008、および流量2006を含む。圧力信号波形2002は、血液ポンプの圧力センサ(例えば、圧力センサ312)によって測定された圧力を示している。圧力信号波形2002は、心臓内に血管内心臓ポンプ(図1の血管内心臓ポンプ100など)を適切に配置するために医療従事者が使用することができる。圧力信号波形2002は、波形2002が大動脈波形かそれとも心室波形かを評価することによって血管内心臓ポンプの位置を検証するために使用される。大動脈波形は、血管内心臓ポンプモータが大動脈内にあることを示す。心室波形は、血管内心臓ポンプモータが誤った位置である心室に挿入されていることを示す。波形の左側には配置信号波形のスケール2014が表示されている。デフォルトのスケーリングは0~160mmHgである。スケーリングは20mmHg刻みで調整することができる。波形の右側には、波形にラベルを付け、測定単位を提供し、そして受け取ったサンプルからの最大値および最小値ならびに平均値を示す、表示2003がある。
【0140】
モータ電流波形2004は、心臓ポンプのモータのエネルギー取込量の尺度である。エネルギー取込量は、モータ速度、およびカニューレの入口領域と出口領域との間の圧力差と共に変化し、これはロータにかかる変動容積負荷をもたらす。血管内心臓ポンプ(図1の血管内心臓ポンプ100など)と併用されると、モータ電流は大動脈弁に対するカテーテル位置に関する情報を提供する。血管内心臓ポンプが正しく位置決めされ、入口領域が心室内にあり出口領域が大動脈にある場合、心臓ポンプを通る質量流量が心周期と共に変化するので、モータ電流は拍動する。入口領域と出口領域とが大動脈弁の同じ側にある場合、ポンプの入口と出口が同じ心腔内に位置し、差圧の変動が生じない結果として一定の質量流量がもたらされ、その結果一定のモータ電流が生じるので、モータ電流は減衰するかまたは平坦になる。波形の左側にはモータ電流波形のスケール2016が表示されている。デフォルトのスケーリングは0~1000mAである。スケーリングは100mA刻みで調整可能であってよい。波形の右側には、波形にラベルを付け、測定単位を提供し、そして受け取ったサンプルからの最大値および最小値ならびに平均値を示す、表示2005がある。圧力センサおよびモータ電流センサは、図2の心臓補助装置201などの外科的に植え込まれたポンプの位置決めには必要ではないかもしれないが、これらのセンサはそのような装置において、自己心機能のさらに別の特徴を決定して治療を監視するために使用することができる。
【0141】
心臓状態波形2008は、ある期間にわたる記録された心臓状態の表示である。心臓状態は、心臓の収縮性をポンピングされた血液の量で割った比として表示され得る。心臓状態は、医師に、患者の治療の他の時点におけるパフォーマンスに対する心臓の現在のパフォーマンスの指標を提供するために、離散的な時点で、または連続して算出され、心臓状態波形2008に傾向として表示され得る。心臓状態傾向線の左側には心臓状態波形2008のスケール2018が表示されている。デフォルトのスケーリングは1~100(単位なし)である。スケーリングは、心臓状態の傾向を最もよく示すように調整され得る。心臓状態波形2008の右側には、傾向線にラベルを付け、現時点での心臓のパフォーマンスに関する追加情報を提供し、ポンプから受け取った収縮性および容積の現在の値を示す、表示2007がある。傾向線としてのこの情報の表示により、医師は患者の過去の心臓状態の履歴を確認し、心臓状態の傾向に基づいて判断を下すことができる。例えば、医師は、心臓状態傾向線から経時的な心臓状態の減少または増加を観察し、この観察に基づいて治療を変更または継続することを決定することができる。
【0142】
流量2006は、ユーザによって設定された目標血流量または推定された実際の流量とすることができる。コントローラのいくつかのモードでは、コントローラは、目標流量を維持するために後負荷の変化に応答してモータ速度を自動的に調整する。いくつかの実施態様では、流量計算が不可能である場合、コントローラは、ユーザが速度指示器2008によって示される固定モータ速度を設定することを可能にする。
【0143】
図20Bに、ある特定の実施態様による、心臓ポンプコントローラのための例示的なユーザインターフェース2001を示す。ユーザインターフェース2001は、図1の血管内心臓ポンプシステム100、図2の心臓補助装置201、図3の心臓ポンプシステム300、または他の適切な心臓ポンプを制御するために使用され得る。ユーザインターフェース2001は、圧力信号波形2022、モータ電流波形2024、流量2026、速度指示器2028、収縮性スコア2030、および状態メトリックスコア2032を含む。圧力信号波形2022は、血液ポンプの圧力センサ(例えば、圧力センサ312)によって測定された圧力を示している。圧力信号波形2022は、心臓内に血管内心臓ポンプ(図1の血管内心臓ポンプ100など)を適切に配置するために医療従事者が使用することができる。圧力信号波形2022は、波形2022が大動脈波形かそれとも心室波形かを評価することによって血管内心臓ポンプの位置を検証するために使用される。大動脈波形は、血管内心臓ポンプモータが大動脈内にあることを示す。心室波形は、血管内心臓ポンプモータが誤った位置である心室に挿入されていることを示す。波形の左側には配置信号波形のスケール2034が表示されている。デフォルトのスケーリングは0~160mmHgである。スケーリングは20mmHg刻みで調整することができる。波形の右側には、波形にラベルを付け、測定単位を提供し、そして受け取ったサンプルからの最大値および最小値ならびに平均値を示す、表示2033がある。
【0144】
モータ電流波形2024は、心臓ポンプのモータのエネルギー取込量の尺度である。エネルギー取込量は、モータ速度、およびカニューレの入口領域と出口領域との間の圧力差と共に変化し、これはロータにかかる変動容積負荷をもたらす。血管内心臓ポンプ(図1の血管内心臓ポンプ100など)と併用されると、モータ電流は大動脈弁に対するカテーテル位置に関する情報を提供する。血管内心臓ポンプが正しく位置決めされ、入口領域が心室内にあり出口領域が大動脈にある場合、心臓ポンプを通る質量流量が心周期と共に変化するので、モータ電流は拍動する。入口領域と出口領域とが大動脈弁の同じ側にある場合、ポンプの入口と出口が同じ心腔内に位置し、差圧の変動が生じない結果として一定の質量流量がもたらされ、その結果一定のモータ電流が生じるので、モータ電流は減衰するかまたは平坦になる。波形の左側にはモータ電流波形のスケール2036が表示されている。デフォルトのスケーリングは0~1000mAである。スケーリングは100mA刻みで調整可能であってよい。波形の右側には、波形にラベルを付け、測定単位を提供し、そして受け取ったサンプルからの最大値および最小値ならびに平均値を示す、表示2025がある。圧力センサおよびモータ電流センサは、図2の心臓補助装置201などの外科的に植え込まれたポンプの位置決めには必要ではないかもしれないが、これらのセンサはそのような装置において、自己心機能のさらに別の特徴を決定して治療を監視するために使用することができる。
【0145】
流量2026は、ユーザによって設定された目標流量または推定された実際の流量とすることができる。コントローラのいくつかのモードでは、コントローラは、目標流量を維持するために後負荷の変化に応答してモータ速度を自動的に調整する。いくつかの実施態様では、流量計算が不可能である場合、コントローラは、ユーザが速度指示器2028によって示される固定モータ速度を設定することを可能にする。
【0146】
収縮性スコア2030は心機能の指標を提供する。より具体的には、収縮性スコアは、収縮期の間の心臓の収縮の固有の強度および勢いを表す。心臓の収縮性が大きければ、心臓の一回拍出量はより大きくなる。例えば、心臓の一回拍出量が約65mLのときには中程度の収縮性が生じ得る。心臓の一回拍出量が100mLを超えると、高い収縮性が生じ得る。心臓の一回拍出量が30mL未満であるときには低い収縮性が生じ得る。収縮性スコアは、数値で、かつ/または図式的に表現され得る。収縮性スコアは無次元であり得る。収縮性の変化は、心収縮中の圧力勾配の変動(dP/dt)から決定することができる。状態メトリックスコア2032もまた、心機能の指標を提供する。状態メトリックスコアは、容積負荷、心圧の圧力、または心機能の別のメトリックの指標であり得る。
【0147】
図20Aおよび図20Bにおける位置、コントローラ上のメトリックの描写、ならびにメトリックおよび推奨事項の識別および数は、例示を意図されたものである。メトリックおよび指標の数、コンソール上の同じメトリックおよび指標の位置、ならびに表示されるメトリックは、本明細書に示されているものとは異なる場合がある。ユーザに表示されるメトリックは、先の心臓関連パラメータ、経時的な傾向、および特定の閾値のいずれかもしくはすべてによって定義される、収縮性、一回拍出量、駆出率、心腔圧、一回仕事量、心拍出量、心臓パワー出力、LVEDP、前負荷状態、後負荷状態、流量負荷状態、変動容積負荷状態、心周期容積負荷状態、心周期流動状態、心拍数、および/または心臓の回復、または患者の臓器もしくはその一部に配置された心臓補助装置と関連付けられたヒステリシスパラメータから導出される他の任意の適切なメトリックとすることができる。
【0148】
図21に、血管内心臓ポンプ内の吸引を検出し、吸引の原因を判断するためのプロセスを示す。吸引は、心臓補助装置の入口が(例えば、弁尖もしくは他の解剖学的構造体によって)閉塞されているとき、または血液量もしくは心室への前負荷が減少して選択されたポンプ速度の出力よりも小さいときに発生する。吸引を防止することにより、血管内心臓補助装置がより高い流量で安全に動作することが可能になる。従来の吸引検出技術は、わずかな吸引を検出するため、心周期においていつ吸引が発生しているかを検出するため、および吸引事象につながるおそれがある好ましくない心周期流動状態を検出するための感度が不十分である。プロセス2100は、従来の方法よりも早く吸引を検出することができ、ユーザに、吸引の継続または悪化をどのように防止するかに関する情報を提供することができる。
【0149】
工程2102で、心臓補助装置から圧力が検出される。工程2104で、ロータ速度とモータ電流が検出される。工程2106で、心周期位相が決定される。位相推定は、圧力信号および電流信号のフィルタとして機能することができる。というのも、これにより、圧力信号および電流信号を、心周期の対応する段階の間に生じた圧力信号および電流信号と比較することが可能になるからである。位相推定は、工程2102で受け取った圧力情報に基づくものであってよく、心位相を示す圧力情報内の基準点を位置特定することを含み得る。いくつかの実施態様では、拡張期充満の開始を示すために圧力信号内の重拍切痕が検出される。重拍切痕は、半月弁の閉鎖直後の動脈拍動または圧力曲線における小さな下方への振れである。この重拍切痕は、収縮期の終了、したがって拡張期のおおよその開始のマーカとして使用することができる。
【0150】
いくつかの実施態様では、位相推定は、ECGデータに完全にまたは部分的に基づく。そのようなECGデータは圧力記録とタイミングを合わせられ得る。心位相を推定するために使用されるECG内の特徴は、QRS群の開始およびT波の終了であってよい。ECG信号にノイズがある場合は、QRS群(R波など)のピークとT波のピークを検出する方がより信頼性が高くなり得る。圧力信号またはECG信号のどちらかを使用する位相推定方法では、実際の充満がこれらの特定された目印の少し前または後に発生するので、充満位相をより正確に特定するために、検出された特徴からのオフセットが使用され得る。圧力信号に基づく方法とECGに基づく方法の両方を組み合わせることにより、より確実な特定が可能になる。2つの方法の間の重み付けは、公知の充満時間パラメータ、公知の左心室圧、および高い信号対雑音比を有するデータセットを使用して最適化することができる。
【0151】
工程2108で、吸引を示す心臓パラメータを決定するために所定の圧力曲線が参照される。いくつかの実施態様では、テーブルは所定の圧力・電流曲線に基づくものであり得る。心臓パラメータは、測定された電流および圧力を心臓パラメータにマップすることによって決定することができる。参照テーブルは、その入力として圧力、モータ電流、および心位相を受け入れるルックアップテーブルであってよい。心位相情報は、二値(例えば、拡張期もしくは収縮期)であってもよく、またはより細分化されてもよい(例えば、収縮期、拡張期弛緩、および拡張期充満)。工程2110で、吸引事象が検出される。吸引事象は、正常な所定の圧力・電流曲線からの逸脱を判断することによって検出することができる。逸脱は、対応する大動脈圧および心位相に対して変則的に低い質量流量を示し得る。いくつかの実施態様では、吸引事象は、モータパラメータおよび圧力ヘッドのヒステリシスループの変化によって検出される。吸引現象の早期兆候はヒステリシスループの崩壊である。容積負荷が減少するとループが崩壊し、吸引事象が始まったことを示す。
【0152】
工程2112で、吸引事象が発生する心周期内の時間が決定される。例えば、吸引事象が発生するのが収縮期かそれとも拡張期かが判定され得る。1つまたは複数の吸引事象を停止させるための方法は、吸引事象が発生するのが収縮期かそれとも拡張期かに左右され得る。工程2114で、容積負荷の係数が決定される。容積負荷の係数と、吸引が心周期においていつ発生するかの判定とに基づいて、吸引の根本原因が判断される。例えば、根本原因は弁尖に対する吸引であり得る。工程2118で、ユーザは、吸引事象に対処するための是正措置を提供される。例えば、ユーザは、心臓内で心臓補助装置を再配置するよう促され得る。いくつかの実施態様では、吸引事象の開始が検出されると、起こり得る吸引事象の早期検出警告が起動される。
【0153】
いくつかの実施態様では、吸引事象につながる条件を、例えば、ポンプが被る容積負荷の減少を検出することによって検出することができる。ポンプのチャンバ血液量は、モータパラメータの測定値および圧力センサでの圧力測定値におけるヒステリシスを使用して検出され、チャンバ血液量が著しく減少しているかどうかを判定するためにポンプ支援の設定レベルと比較され得る。吸引事象が発生しているときにはチャンバ血液量の著しい減少が起きている可能性があり、減少が検出されると、早期警告、または吸引事象の継続を防ぐ措置を促すプロンプトを提供することができる。いくつかの実施態様では、措置は自動化される。いくつかの実施態様では、措置は推奨される。いくつかの実施態様では、自動化または推奨される措置は、容積状態と整合するようにポンプによって提供される支援レベルを下げること(例えば、ロータ速度を下げること)である。
【実施例
【0154】
例示的態様1:
IMPELLA(登録商標)経皮心臓ポンプ(Abiomed, Inc., Danvers, Massachusetts)を、心室および大動脈からなる模擬循環ループ(MCL)に植え込み、圧力を全期間にわたって測定した。モータ電流が記録されている間、IMPELLA(登録商標)は様々な性能レベルおよびMCL流体力学的プロファイルで動作した。ポンプの特徴付けを使用してLVP予測アルゴリズムを生成した。植え込まれたIMPELLA(登録商標)を用いて麻酔下のブタにおいてパフォーマンスを検証した。冠動脈左前下行枝または下大静脈をそれぞれバルーン閉塞することによって虚血様事象または出血性ショック様事象を誘発した。肺動脈、左心室および大動脈におけるIMPELLA(登録商標)ポンプのモータ電流および圧力信号を同時に記録した。
【0155】
最小心室支援では、虚血およびショックに続いて4分以内に著しい変化が生じた。不安定性とショックが、モータ電流波形の変化で反映された。MCL(RMS誤差約0.3mmHg)とブタ(RMS誤差約0.9mmHg)の両方からの特徴付けにより、出血性ショックの間に左心室圧(LVP)が予測された。対照的に、最大心室支援では、血行動態の悪化はなく、モータ電流は閉塞の20分後を超えても元のままであった。
【0156】
結果は心臓と装置機能との間の結合を示している。十分な支援がないと、心臓のパフォーマンスが低下し、血行動態の虚脱につながり、これをLVPアルゴリズムによって追跡した。アルゴリズムの成功は、開発中のMCLとブタモデルの使用によるものである。MCLは、ポンプの性能の限界を定義し、動物は生物学的変動性および病理学を示した。この統一された手法、すなわち、特徴付けにMCLを使用し、検証として動物を使用することは、あらゆる装置の性能を定義する有効な手段になり得る。
【0157】
以上は本開示の原理の単なる例示であり、装置は、限定ではなく説明を目的として提示されている記載の態様以外によっても実施することができる。本明細書に開示されている装置は、心臓ポンプの経皮挿入での使用について示されているが、他の用途の装置に適用されてもよいことを理解されたい。
【0158】
当業者であれば、本開示を検討した後に変形形態および改変形態を思い付くであろう。開示の特徴は、本明細書に記載されている1つまたは複数の他の特徴との、任意の組み合わせおよび部分的組み合わせ(複数の従属的組み合わせおよび部分的組み合わせを含む)として実装され得る。以上で説明または例示した様々な特徴は、それらの任意の組み合わせを含めて、他のシステムにおいて組み合わされ、または統合されてもよい。さらに、ある特定の特徴が省略され、または実装されない場合もある。
【0159】
一般に、本明細書に記載する主題および機能的動作の態様は、デジタル電子回路として、または本明細書で開示した構造およびそれらの構造的均等物を含むコンピュータソフトウェア、ファームウェア、もしくはハードウェアとして、またはそれらのうちの1つもしくは複数の組み合わせとして実装することができる。本明細書に記載する主題の態様は、1つまたは複数のコンピュータプログラム製品、すなわち、データ処理装置が実行するための、またはデータ処理装置の動作を制御するようにコンピュータ可読媒体上で符号化されたコンピュータプログラム命令の1つまたは複数のモジュールとして実装することができる。コンピュータ可読媒体は、機械可読記憶装置、機械可読記憶基板、メモリ装置、機械可読伝搬信号に影響を与える組成物、またはそれらの1つもしくは複数の組み合わせとすることができる。「データ処理装置」という用語は、例として、プログラマブルプロセッサ、コンピュータ、または複数のプロセッサもしくはコンピュータを含む、データを処理するためのすべての装置、デバイス、および機械を包含する。装置は、ハードウェアに加えて、問題のコンピュータプログラムのための実行環境を生成するコード、例えば、プロセッサファームウェアを構成するコード、プロトコルスタック、データベース管理システム、オペレーティングシステム、またはそれらの1つもしくは複数の組み合わせ含むことができる。伝搬信号は人工的に生成された信号、例えば適切な受信側装置への伝送のための情報を符号化するために生成された機械生成による電気的、光学的、または電磁気的信号である。
【0160】
コンピュータプログラムは(プログラム、ソフトウェア、ソフトウェアアプリケーション、スクリプト、またはコードとしても知られる)、コンパイル言語やインタプリタ言語を含む任意の形式のプログラミング言語で書くことができ、スタンドアロンプログラムや、モジュール、コンポーネント、サブルーチン、またはコンピューティング環境で使用するのに適したその他のユニットを含む、任意の形式で配置することができる。コンピュータプログラムは、必ずしもファイルシステム内のファイルに対応するわけではない。プログラムは、他のプログラムもしくはデータ(例えば、マークアップ言語文書に格納された1つもしくは複数のスクリプト)を保持するファイルの一部に、問題のプログラムに専用の単一ファイルに、または複数の連携したファイル(例えば、1つもしくは複数のモジュール、サブプログラム、もしくはコードの一部を格納するファイル)に格納することができる。コンピュータプログラムは、1台のコンピュータ上で、または1箇所に位置し、もしくは複数のサイトに分散され、通信ネットワークによって相互接続された複数のコンピュータ上で実行されるように配置することができる。
【0161】
本明細書に記載するプロセスおよび論理フローは、入力データに作用して出力を生成することによって機能を果たす1つまたは複数のコンピュータプログラムを実行する1つまたは複数のプログラマブルプロセッサによって実行することができる。またプロセスおよび論理フローは、FPGA(フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ)やASIC(特定用途向け集積回路)などの専用論理回路によっても実行することができ、装置を専用論理回路として実装することもできる。
【0162】
コンピュータプログラムの実行に適するプロセッサには、例えば、汎用と専用両方のマイクロプロセッサや、任意の種類のデジタルコンピュータの任意の1つまたは複数のプロセッサが含まれる。一般に、プロセッサは、読取り専用メモリまたはランダム・アクセス・メモリまたはその両方から命令およびデータを受け取る。コンピュータの必須要素は、命令を実行するためのプロセッサと、命令およびデータを格納するための1つまたは複数の記憶装置である。一般に、コンピュータは、データを格納するための1つまたは複数の大容量記憶装置、例えば、磁気、光磁気ディスクや光ディスクを含み、またはそれらからデータを受け取り、またはそれらにデータを転送し、またはその両方を行うように動作可能に結合される。しかし、コンピュータにはそのような装置がなくてもよい。
【0163】
変更、置換、および改変の例は、当業者であれば確かめることができ、本明細書で開示される情報の範囲から逸脱することなくなされ得る。本明細書中に引用されたすべての参考文献は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられ、本出願の一部をなす。
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