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特許6998946正面フライス工具、および正面フライス工具のための接線切削インサート
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-23
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】正面フライス工具、および正面フライス工具のための接線切削インサート
(51)【国際特許分類】
   B23C 5/06 20060101AFI20220111BHJP
   B23C 5/20 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
B23C5/06 A
B23C5/20
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019517914
(86)(22)【出願日】2017-06-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-28
(86)【国際出願番号】 EP2017064753
(87)【国際公開番号】W WO2018065129
(87)【国際公開日】2018-04-12
【審査請求日】2020-04-16
(31)【優先権主張番号】16192461.8
(32)【優先日】2016-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507226695
【氏名又は名称】サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ダミアン, ジョリー
(72)【発明者】
【氏名】マリー, ジル
(72)【発明者】
【氏名】リュー, マルク
(72)【発明者】
【氏名】サートン, ヤニク
(72)【発明者】
【氏名】アンドレ, フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ルモワンヌ, ヴァンサン
【審査官】村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0003922(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0118276(US,A1)
【文献】特表2013-508173(JP,A)
【文献】特表平08-507003(JP,A)
【文献】特表2009-534199(JP,A)
【文献】独国実用新案第202015103583(DE,U1)
【文献】仏国特許出願公開第2918909(FR,A1)
【文献】特開昭59-001111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/06
B23C 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央回転軸の周りで回転方向に回転可能である工具本体を備える、切りくず除去式機械加工のための正面フライス工具であって、
前記工具本体が、前記中央回転軸と同心である包絡面、および、前記中央回転軸を横断して延在する軸方向前端面を備え、
前記軸方向前端面が、複数の接線切削インサートが取り付けられるいくつかの座を備え、
座が、前記座内で前記接線切削インサートを回転的に係止しかつ支持するためのいくつかの支持面を備え、
前記支持面のうちの1つが、前記中央回転軸によって画定された軸方向において前記接線切削インサートを支持するための平坦軸方向支持面である、正面フライス工具において、
前記平坦軸方向支持面が、前記中央回転軸に垂直に延在しており、かつ、前記座において軸方向最前部に位置し、
座が、前記平坦軸方向支持面に対する凹部を備え、
前記凹部が、底面および側壁を備え、
前記側壁が、前記軸方向に垂直な方向において前記接線切削インサートを回転的に係止しかつ支持するための非真円側部支持面を形成し、
各接線切削インサートが、前記平坦軸方向支持面に当接する平坦軸方向接触面と、前記平坦軸方向接触面から軸方向に延在する突出部材とを有している軸方向裏面を備え、
前記突出部材が、前記非真円側部支持面に当接する非真円側部接触面を形成している円周側面を備え、
前記凹部の前記底面と前記接線切削インサートの前記突出部材との間に間隙が設けられ、
前記凹部の前記側壁における前記非真円側部支持面が、2つの側部支持面によって形成され、前記突出部材の前記円周側面が、前記2つの側部支持面に当接する2つの非真円側部接触面を形成していることを特徴とする、正面フライス工具。
【請求項2】
前記工具本体が、前記座が設けられている交換式輪状部材を備え、前記交換式輪状部材が、前記工具本体に取り付けられて、前記工具本体の前記軸方向前端面上に前記座を含む環状部を形成することを特徴とする、請求項1に記載の正面フライス工具。
【請求項3】
前記工具本体が、一体成形され、前記座の前記平坦軸方向支持面が、前記一体成形された工具本体の前記軸方向前端面上で軸方向最前部に位置することを特徴とする、請求項1に記載の正面フライス工具。
【請求項4】
前記凹部の前記側壁が、少なくとも2つの非真円側部支持面間に遊隙空間を形成していることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の正面フライス工具。
【請求項5】
前記2つの非真円側部支持面が、互いに対向しておりかつ前記工具本体の前記回転方向とは反対の方向において相互に収束し、前記2つの非真円側部接触面が、同様に相互に収束するように延在することを特徴とする、請求項に記載の正面フライス工具。
【請求項6】
前記接線切削インサートが、前記凹部の前記底面にあるねじ付き穴と係合するねじにより前記座内に取り付けられており、前記接線切削インサートが、前記突出部材の内部で軸方向に貫通しているねじ穴を備えることを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載の正面フライス工具。
【請求項7】
前記ねじ穴が、前記突出部材の幾何学的中心からずらされている中心軸を有して、前記非真円側部接触面に対する前記ねじ穴の前記中心軸の位置が前記非真円側部支持面に対する前記ねじ付き穴の中心軸の位置に対応する前記接線切削インサートの唯一の取付け配向を提供することを特徴とする、請求項に記載の正面フライス工具。
【請求項8】
前記正面フライス工具の前記軸方向に一致する軸方向を有する、請求項1からのいずれか一項に記載の正面フライス工具のための接線切削インサートであって、
- 前記軸方向に垂直に延在する平坦軸方向接触面を有する軸方向裏面と
- 前記平坦軸方向接触面の反対側の軸方向逃げ面を形成する軸方向前面と
- 前記平坦軸方向接触面と前記軸方向逃げ面との間に延在する外周側面内に配置されているすくい面と
- 前記すくい面と前記軸方向逃げ面との交差部に形成された切れ刃と
- 前記切れ刃から延在するにつれて前記平坦軸方向接触面に向かって傾斜している前記軸方向逃げ面によって与えられている正の軸方向逃げ角と
を備え、
前記軸方向裏面が、前記平坦軸方向接触面から軸方向に延在する突出部材を備え、前記突出部材が、非真円側部接触面を形成する円周側面を備えて、前記軸方向に垂直な方向において前記接線切削インサートを回転的に係止しかつ支持することを特徴とする、接線切削インサート。
【請求項9】
前記突出部材の前記円周側面が、前記軸方向に垂直な断面において多角形を形成しており、前記非真円側部接触面が、前記多角形の辺に沿って形成されることを特徴とする、請求項に記載の接線切削インサート。
【請求項10】
前記円周側面によって形成されている前記多角形が、四角形または三角形、好ましくはルーローの三角形などの円弧三角形であることを特徴とする、請求項に記載の接線切削インサート。
【請求項11】
ねじ穴が、前記軸方向前面から前記軸方向裏面まで前記接線切削インサートを軸方向に貫通しており、前記ねじ穴が、前記突出部材の内部で延在しており、かつ、前記突出部材の軸方向後端面において開口することを特徴とする、請求項から10のいずれか一項に記載の接線切削インサート。
【請求項12】
ねじ穴が、前記突出部材の幾何学的中心からずらされている中心軸を有して、前記非真円側部接触面に対する前記ねじ穴の前記中心軸の位置によって画定される前記接線切削インサートの唯一の取付け配向を提供することを特徴とする、請求項11に記載の接線切削インサート。
【請求項13】
前記切れ刃が、主切れ刃に接続されたワイパ刃を含み、
前記主切れ刃が、前記ワイパ刃に対して傾けられており、かつ、最大でも10°の切込み角で延在していることを特徴とする、請求項から12のいずれか一項に記載の接線切削インサート。
【請求項14】
前記ワイパ刃および前記主切れ刃が、連続的な弓形の切れ刃を形成していることを特徴とする、請求項13に記載の接線切削インサート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1のプリアンブルに記載の正面フライス工具と、請求項9のプリアンブルに記載のそのような正面フライス工具のための接線切削インサート(tangential cutting insert)とに関する。
【背景技術】
【0002】
正面フライス加工作業では、機械加工表面の表面仕上げを向上させることが求められている。具体的には、そのような要望は、シリンダブロックおよび類似のものをフライス加工するために使用される正面フライス工具に関連して、自動車産業に存在する。正面フライス加工において表面仕上げを向上させることおよび工具寿命を延ばすことに関する1つの重要な必要条件は、工具本体に取り付けられた切削インサートのいわゆる軸振れ(axial run-out)を最小限に抑えることである。そのような軸振れは、切削インサートおよび工具本体の座の両方の製造公差の結果として、切削インサートの切れ刃の軸方向位置間の偏差によって生じる。切削インサートの製造公差は、切削インサートを研削することによって最小限に抑えられ得る。しかし、切削インサートのための座の製造公差によって生じる軸振れは、最小限に抑える/なくすことがより困難である。したがって、研削に起因する切削インサートの非常に良好な公差にもかかわらず、工具本体内の座の不適当な製造公差が原因で、フライス工具を調整することが必要な場合がある。目下、軸振れを最小限に抑えるまたはなくすことを目的とした多くの解決策が存在する。
【0003】
米国特許第5667343号は、工具本体の軸方向に調整可能なカセットを正面フライス工具に提供することにより、この問題を解決する1つの方法を開示している。切削インサートは、カセットの軸方向前端部上の座内に取り付けられ、各カセットは、軸振れを最小限に抑える/なくすために、軸方向に調整される。しかし、カセットを調整する過程は、時間のかかるものであり、また、カセットは、切削力によりまたはカセットの不適当な取付けの結果として、その後でずれる可能性がある。
【0004】
JP61038811は、切削インサートを取り付けるための凹設された案内溝を工具本体の軸方向前端面に設けることによりフライス工具での高精度の切削を達成する、別の方法を開示しており、この場合、凹設された案内溝の底面は、全ての切削インサートのための軸方向支持面を形成している。しかし、底面を有する、凹設された案内溝の製造は、切削インサートの軸振れをもたらし得るような製造公差にやはり関係する。
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、切削インサートのための座によって生じる軸振れに関する上述の問題を解決する、正面フライス工具と正面フライス工具のための接線切削インサートとを提供することである。
【0006】
この目的は、請求項1に記載の特徴を含む正面フライス工具によって達成される。
【0007】
これにより、工具本体の軸方向前端面上の座の軸振れは、平坦でありかつ垂直に延在する軸方向支持面が座において軸方向最前部に位置していることにより、容易に最小限に抑えられる/なくなる。このようにして、平坦軸方向支持面が中央回転軸に垂直に延在する共通平面に位置することになるように軸方向前端面上の座を単一平面研削作業に曝すことにより、平坦軸方向支持面間の軸方向位置のいかなる偏差も最小限に抑える/なくすことができる。これにより、座の平坦軸方向支持面に当接する平坦軸方向接触面を有する接線切削インサートは、平坦軸方向支持面が同一の軸方向位置に配置されるので、より抑えられた軸振れを示す。平坦軸方向支持面は、座の環状トラックの周りに工具本体の軸方向前端面と同一平面に配置されてもよく、または、工具本体の軸方向前端面上の突出した水平域上に配置されてもよい。座はまた、非真円側部支持面を形成する凹部を備え、接線切削インサートの突出部材は、軸方向に垂直な方向において、より正確には正面フライス工具の径方向および接線方向において接線切削インサートを回転的に係止しかつ支持するための、当接する非真円側部接触面を形成している。これにより、「非真円」側部支持/接触面は、円形の設計から逸脱する表面を意味するとして、広い意味で考えられるべきである。したがって、「非真円」側部支持/接触面は、座内で切削インサートを回転的に係止するだけでなくフライス工具の軸方向に垂直な方向(径方向および接線方向)において必要な直線的な支持を提供するように形成された、平面的なまたは曲線状の表面を含む。平坦軸方向接触/支持面のみが互いに当接して、軸振れが最小限に抑えられた/なくなった正確な軸方向支持を提供することを確実にするために、凹部の底面と切削インサートの突出部材との間に間隙が形成される。
【0008】
完成した工具の最終的な軸振れは、基本的に、インサートの切れ刃と平坦軸方向接触面との間の距離に関連する切削インサート公差にのみ依存する。したがって、本発明のフライス工具は、座の軸振れを軽減し/なくし、また、時間のかかる軸方向調整が、正面フライス工具のオペレータに必要とされない。
【0009】
正面フライス工具の一実施形態によれば、工具本体は、座が設けられている交換式輪状部材を備え、この交換式輪状部材は、工具本体に取り付けられて、工具本体の軸方向前端面上に座を含む環状部を形成する。このようにして、輪状部材は、座のいずれかが損傷したまたは使い古された場合に交換される正面フライス工具のための予備部品を形成することができる。さらに、これにより、特定のフライス加工作業が、増大した/減少した数の座/切削インサートを要求する場合、または、フライス加工作業が、例えば座/切削インサート間の不均一な分布(ディファレンシャルピッチ(differential pitch)としても知られる)を要求する場合、輪状部材は、工具本体全体を交換することなしに交換され得る。輪状部材(鋼で作られている)は、フライス工具の中央回転軸と同心であり、かつ、工具本体にねじ取付けされ得る。輪状部材は、その軸方向端面のうちの1つに座の環状トラックを備え、平坦軸方向支持面は、平坦軸方向支持面上の軸振れを最小限に抑える/なくすために平面研削砥石(flat grinding wheel)によって平坦に研削されている。輪状部材は、工具本体の平坦面上に直接取り付けられてもよく、または、輪状部材は、輪状部材を支持するための軸方向および径方向の肩面を有して形成された工具本体上の環状の凹部/肩内に取り付けられてもよい。
【0010】
正面フライス工具の別の実施形態では、工具本体は、一体成形され、座の平坦軸方向支持面は、一体成形された工具本体の軸方向前端面上で軸方向最前部に位置する。言い換えれば、工具本体が一体成形される場合、平坦軸方向支持面は、軸方向前端面全体上で軸方向端面を構成して、平坦でかつ垂直に延在する軸方向支持面上の軸振れを最小限に抑える/なくすための単一平面研削作業を可能にする。
【0011】
正面フライス工具のさらなる実施形態では、凹部の側壁は、少なくとも2つの非真円側部支持面間に遊隙空間(clearance space)を形成している。これにより、遊隙空間は、少なくとも2つの非真円側部支持/接触面間に延在する突出部材の円周側面の部分を収容するために配置される。これにより、突出部材の接触面と凹部の側部支持面とが互いに当接することのみを可能にし、それによって突出部材の円周側面の他の部分が凹部の側壁から離れることにより、切削インサートのための安定した予測可能な側面支持が保証される。凹部内への突出部材の挿入を可能にするために、側壁(および底面)を有する凹部は、突出部材よりもわずかに大きい寸法を示さなければならないことは、明らかである。しかし、この実施形態はまた、少なくとも2つの非真円側部支持面が前述の支持面間に前述の遊隙空間を形成するために側壁から突出していることを必要とする。
【0012】
正面フライス工具の一実施形態によれば、凹部の側壁における非真円側部支持面は、2つの側部支持面によって形成され、この場合、突出部材の円周側面は、2つの側部支持面に当接する2つの非真円側部接触面を形成している。言い換えれば、側部支持/接触面は、全部で3つの表面(すなわち、平坦軸方向支持/接触面および2つの側部支持/接触面)により切削インサートのための安定しかつ確定された支持が得られるように、2つの表面を厳密に構成する。
【0013】
正面フライス工具のさらなる実施形態によれば、2つの非真円側部支持面は、互いに対向しており、かつ、工具本体の回転方向とは反対の方向において相互に収束しており、2つの非真円側部接触面は、同様に相互に収束するように延在する。このようにして、側部支持/接触面は、フライス加工中にくさび効果を提供し、それにより、切削力は、収束方向に作用して、2つの側部支持/接触面をさらに押し合わせる。収束する側部支持/接触面間の角度は、適切には30°~50°の範囲内であり得る。
【0014】
正面フライス工具の別の実施形態によれば、接線切削インサートは、凹部の底面にあるねじ付き穴と係合するねじにより、座内に取り付けられており、この場合、接線切削インサートは、突出部材の内部で接線切削インサートを軸方向に貫通するねじ穴を備える。これにより、ねじ穴は、最も多くの材料を含む切削インサートの部分、すなわち、切削インサートが最も厚く、比較的高い機械的強度を示す部分を、軸方向に貫いて設けられる。ねじ穴を含む突出部材は、切削インサートの裏面上で中央に配置された単一の突出部材を構成し得ることが好ましく、この場合、平坦接触面は、ねじ穴を含む突出部材の後方および前方の両方の領域において切削インサートに安定した軸方向支持を提供するために、中央に配置された突出部材の(フライス工具の回転方向で見たときの)前方および後方の両方に延在する。
【0015】
この正面フライス工具のさらなる実施形態によれば、ねじ穴は、突出部材の幾何学的中心からずらされている中心軸を有して、非真円側部接触面に対するねじ穴の中心軸の位置が非真円側部支持面に対するねじ付き穴の中心軸の位置に対応する接線切削インサートの唯一の取付け配向を提供する。このようにして、切削インサートを1つの特定のまたは意図された配向で座内に取り付けることだけが可能となり、切削インサートを誤った/意図されていない配向で工具本体の座内に取り付けることが不可能となる。
【0016】
本発明の目的はまた、請求項9に記載の特徴を備える接線切削インサートによって達成される。
【0017】
接線切削インサートは、座の平坦軸方向支持面が軸方向最前部に位置しかつ垂直な平面に延在して、座の軸振れを最小限に抑える/なくすことができるように、対応する特徴を備える。より正確には、非真円側部接触面を形成する円周側面を有する突出部材は、平坦軸方向支持面に対して凹設されている非真円側部支持面を介して、接線切削インサートを工具本体の径方向および接線方向において回転的に係止しかつ支持することを可能にする。接線切削インサートからの軸振れの寄与はまた、裏面上の平坦軸方向接触面および/または前面上のその軸方向逃げ面を含む切れ刃を研削して接線切削インサート上の切れ刃と平坦軸方向接触面との間の軸方向距離の偏差を最小限に抑える/なくすことにより、容易に対処される。
【0018】
接線切削インサートの一実施形態によれば、突出部材の円周側面は、軸方向に垂直な断面において多角形を形成しており、この場合、非真円側部接触面は、多角形の辺に沿って形成される。さらなる実施形態では、多角形の断面は、直線状のまたは弓形の側面を含み得る正方形または三角形である。円周側面によって形成される断面は、大きい切削力を伝えると同時に接線切削インサートを回転的に係止しかつ支持することが可能である、比較的小さいが強固な断面をもたらす、ルーローの三角形などの円弧三角形であることが好ましい。
【0019】
接線切削インサートのさらなる実施形態では、ねじ穴は、軸方向前面から軸方向裏面まで接線切削インサートを軸方向に貫通しており、ねじ穴は、突出部材の内部で延在しており、かつ、突出部材の軸方向後端面において開口する。これにより、ねじ穴は、上述のように、切削インサートが最も厚く、比較的高い機械的強度を示す、最も多くの材料を含む切削インサートの部分を、軸方向に貫いて設けられる。ねじ穴を含む突出部材は、切削インサートの裏面上で中央に配置された突出部材を構成することが好ましく、この場合、平坦接触面は、ねじ穴を含む突出部材の後方および前方の両方の領域において切削インサートに安定した軸方向支持を提供するために、中央に配置された突出部材の(フライス工具の回転方向で見たときの)前方および後方の両方に延在する。
【0020】
接線切削インサートのさらなる実施形態では、ねじ穴は、突出部材の幾何学的中心からずらされている中心軸を有して、非真円側部接触面に対するねじ穴の中心軸の位置によって確定される接線切削インサートの唯一の取付け配向を提供する。前述のように、このようにして、切削インサートを1つの特定のまたは意図された配向で座内に取り付けることだけが可能となり、切削インサートを誤った/意図されていない配向で工具本体の座内に取り付けることが不可能となる。
【0021】
接線切削インサートの別の実施形態によれば、切れ刃は、ワイパ刃(wiper edge)および主切れ刃を含み、主切れ刃は、ワイパ刃に対して傾けられ、かつ、最大でも10°の切込み角で延在している。切れ刃上のそのような形状は、機械加工表面に高度な表面仕上げをもたらして最小限のバリ、かき傷、およびフリッタ(fritter)を提示するので、エンジンブロックを正面フライス加工する際に、特に適切である。比較的小さい切込み角はまた、より高い生産性をもたらす高送りフライス加工(high feed milling)を可能にするのに有効である。これにより、切れ刃は、(超硬合金の)接線切削インサート上にろう付けされる、PCDまたはCBN材料で作られたチップに形成され得る。そのようなPCDおよびCBN材料は、比較的軽量かつ頑丈なエンジンブロックを製造するのにますます使用されているアルミニウム材料を正面フライス加工する際に、特に適切である。
【0022】
接線切削インサートのさらなる実施形態では、ワイパ刃および主切れ刃は、連続的な弓形の切れ刃を形成している。このようにして、切れ刃は、機械加工表面を破損する/削り取るかまたは引っ掻く可能性のある鋭いコーナーを伴わずに、ワイパ刃と主切れ刃との間に滑らかな移行部を形成している。したがって、このさらなる実施形態は、頑丈な切れ刃、および高度な表面仕上げを提供する。頑丈な切れ刃を提供することは、超硬合金と比較すると硬くて脆い材料であるPCDまたはCBN材料のろう付けチップを使用する場合に、特に重要である。ワイパ刃の曲率半径は、典型的には主切れ刃の曲率半径よりも大きい。さらに、主切れ刃の曲率半径は、その範囲に沿って変化し得る。
【0023】
以下、例として添付の図面を参照しながら、本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1の実施形態による正面フライス工具の斜視図である。
図1a】第1の実施形態による正面フライス工具の正面端面図(front end view)である。
図1b】第1の実施形態による正面フライス工具の側面図である。
図1c】第1の実施形態による正面フライス工具の分解組立図である。
図2】座、および座に取り付けられる接線切削インサートを示す、正面フライス工具の拡大された一部分の図である。
図2a】接線切削インサートを含む座の分解組立図である。
図2b】座に取り付けられた接線切削インサートの2つの断面図A-AおよびB-Bを含む、本発明の第2の実施形態による正面フライス工具の正面図である。
図3】本発明の接線切削インサートの軸方向前面斜視図である。
図3a】接線切削インサートの軸方向裏面斜視図である。
図3b】接線切削インサートの別の軸方向裏面斜視図である。
図3c】接線切削インサートの軸方向裏面図である。
図3d】接線切削インサートのすくい面を向いた前面図である。
図3e】接線切削インサートの軸方向前面図である。
図3f】接線切削インサートの裏面図である。
図3g】接線切削インサートの長手方向側面図である。
図3h】接線切削インサートの長手方向側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1~1cは、本発明による切りくず除去式機械加工のための正面フライス工具1の第1の実施形態を開示する。正面フライス工具は、中央回転軸C1の周りで意図された回転方向Rに回転可能である工具本体2を備える。工具本体2は、中央回転軸C1と同心である包絡面3、および、中央回転軸C1を横断して延在する軸方向前端面4を備える。軸方向前端面4は、複数の接線切削インサート10が取り付けられるいくつかの座5を備える。
【0026】
第1の実施形態では、交換式輪状部材2aが座5を備え、この交換式輪状部材2aは、工具本体2に取り付けられて、工具本体の軸方向前端面4上に座5の環状部/トラックを形成する。輪状部材2aは、フライス工具1の中央回転軸C1と同心であり、かつ、ねじ2bにより工具本体2に取り付けられて、工具本体2の軸方向前端面4上に座5の環状部/トラックを形成する。輪状部材2aは、輪状部材2aを支持するための軸方向および径方向の肩面2c、2dを有して形成されている工具本体の環状肩部内に取り付けられる。
【0027】
図2および2aは、座5、および座5内に取り付けられる接線切削インサートの様々な図を開示する。座は、接線切削インサート10を回転的に係止しかつ支持するためのいくつかの支持面5a、5b、5cを備える。支持面のうちの1つは、工具本体の中央回転軸C1によって画定された軸方向A1において接線切削インサート10を支持するための、平坦軸方向支持面5aである。平坦軸方向支持面5aは、中央回転軸C1に垂直に延在しており、かつ、座5において軸方向最前部に位置している。座の平坦軸方向支持面5aは、軸方向前端面4と同一平面に配置され、この場合、座5は、平坦軸方向支持面5aに対する凹部6を備える。凹部6は、底面6aおよび側壁6bを備える。側壁6bは、接線切削インサート10を回転的に係止しかつ軸方向A1に垂直な方向において(正面フライス工具の径方向および接線方向において)接線切削インサート10を支持するための、非真円側部支持面5b、5cを形成している。より正確には、側壁における非真円側部支持面5b、5cは、互いに対向しかつ工具本体2の回転方向Rとは反対の方向において相互に収束する、2つの(平面的な)側部支持面5b、5cによって形成される。収束する側部支持面間の角度は、この特定の実施形態では、34°である。
【0028】
接線切削インサート10は、座の平坦軸方向支持面5aに当接する平坦軸方向接触面12を有している軸方向裏面11を備える。接線切削インサートの裏面は、平坦軸方向接触面12から軸方向に延在する突出部材13を備える。突出部材13は、非真円側部支持面5b、5cに当接するための非真円側部接触面13b、13cを形成する、円周側面13aを備える。より正確には、非真円側部接触面は、工具本体2の意図された回転方向Rとは反対の方向において相互に収束するように(すなわち、側部支持面5b、5cと同様に)延在する、2つの平面的な側部接触面13b、13cによって形成される。収束する側部接触面間の角度は、この特定の実施形態では、34°である。
【0029】
図2bは、座5内に取り付けられた接線切削インサート10の2つの断面図A-AおよびB-Bを含む、本発明の第2の実施形態による正面フライス工具1の正面図を開示する。正面フライス工具1の第2の実施形態は、工具本体2が一体成形されるという点においてのみ、第1の実施形態とは異なる。したがって、工具本体2は、交換可能な輪状部材2aを有さない。座5の平坦軸方向支持面5aは、一体成形された工具本体2の軸方向前端面4上で軸方向最前部に位置する。
【0030】
断面図A-AおよびB-Bでは、凹部6の底面6aと突出部材13の軸方向後端面13dとの間に間隙7が設けられることが分かる。言い換えれば、突出部材13の軸方向の範囲は、接線切削インサート10の明確な軸方向支持のために、突出部材13が凹部の底面6aに接触しないこと、および、平坦軸方向支持/接触面5a、12のみが互いに当接することを確実にするように、凹部6の軸方向の範囲(深さ)未満である。
【0031】
凹部6の側壁6bは、2つの側部支持面5b、5c間に遊隙空間8をさらに形成している(図2および2aも参照)。したがって、側部支持面5b、5cは、凹部6の側壁6bから突き出ており、この場合、遊隙空間8は、側部支持/接触面5b、5c、13b、13cのみが互いに当接することを確実にするために、2つの側部接触面13b、13c間に延在する突出部材13の円周側面13aの一部分を収容している。これにより、突出部材13の円周側面13aの他の部分が凹部6の側壁6bの残りの部分に接触しないことを遊隙空間8が確実にするので、切削インサート10のための明確な回転のおよび径方向/接線方向の支持が達成される。
【0032】
接線切削インサート10は、凹部6の底面6aにあるねじ穴9に係合するねじ20により、座5内に取り付けられる。接線切削インサートは、軸方向前面14から軸方向裏面11まで接線切削インサートを軸方向に貫通するねじ穴19を備える。ねじ穴19は、突出部材13の内部で延在しており、かつ、突出部材13の軸方向後端面13dにおいて開口する。接線切削インサート10は、平坦軸方向接触面12および側部接触面13b、13cがそれぞれ平坦軸方向支持面5aおよび側部支持面5b、5cに押し付けられるように、凹部の底面6aにあるねじ付き穴9にねじ20をねじ込むことによって取り付けられる。これにより、ねじ穴19の中心C2と側部接触面13b、13cとの間の距離は、鋼で作られているねじ20がその弾性により側部接触面13b、13cを側部支持面5b、5cに押し付けるばね付勢(spring bias)を提供するように、ねじ付き穴9の中心C3と側部支持面5b、5cとの間の距離よりもわずかに大きくされ得る。言い換えれば、ねじ穴19の中心軸C2およびねじ付き穴の中心軸C3は、取付けねじ20のばね付勢を提供するために、わずかに(典型的には、数分の1ミリメートルだけ)オフセットしている。
【0033】
さらに、ねじ穴19の中心軸C2は、2つの側部接触面13b、13cに対するねじ穴の中心軸C2の位置が2つの側部支持面5b、5cに対するねじ付き穴9の中心軸C3の位置に対応する接線切削インサート10の唯一の取付け配向を提供するために、突出部材13の幾何学的中心Gからずらされる。より正確には、唯一の取付け配向は、接線切削インサート10が切れ刃18を回転方向Rに向けてすくい面16を有するような配向である。言い換えれば、工具本体の誤った/意図されていない回転方向に面するように接線切削インサートを取り付けることはできない。
【0034】
図3から3hは、接線切削インサート10の様々な図を開示する。接線切削インサートは、ねじ穴19の中心軸C2および正面フライス工具1の軸方向A1の両方と一致する軸方向A2を備える。接線切削インサート10は、軸方向A2に垂直に延在する平坦軸方向接触面12を有している軸方向裏面11を備える。軸方向裏面11上の突出部材13は、平坦軸方向接触面12に対して軸方向に延在している。突出部材13は、軸方向A2に垂直な方向において(すなわち、正面フライス工具の径方向および接線方向において)接線切削インサートを回転的に係止しかつ支持するために、非真円(この場合では平面的な)側部接触面13b、13cを形成する円周側面13aを備える。これにより、突出部材13の円周側面13aは、軸方向A2に垂直な断面において多角形を形成している。より正確には、多角形は、凸状三角形の断面の2つの凸状の辺に沿って形成されている2つの平面的な側部接触面13b、13cを含む、凸状の円弧三角形(ルーローの三角形)の形態を有する。これにより、理解され得るように、裏面11は、中央に配置された単一の突出部材13を備え、平坦接触面12は、中央に配置された突出部材13の(フライス工具の回転方向で見たときの)前方および後方の両方において延在する。突出部材13は、突出部材13の平坦軸方向接触面12から離れて軸方向後端面13dへ向かう軸方向範囲において先が細くなった形状を備え、軸方向後端面13dは、平面的な表面である。
【0035】
接線切削インサート10の軸方向前面14が、平坦軸方向接触面12の反対側の軸方向逃げ面15を形成している。これにより、外周側面17が、平坦軸方向接触面12と軸方向逃げ面15との間に延在しており、すくい面16が、外周側面17内に配置され、単一の切れ刃18が、すくい面16と軸方向逃げ面15との交差部に形成される。正の軸方向逃げ角αが、切れ刃18から延在するにつれて平坦軸方向接触面12に向かって傾斜している軸方向逃げ面15によって与えられる(特に図3gおよび3h参照)。平坦軸方向支持/接触面5a、12が軸方向A1、A2に垂直に延在しているので、傾斜している軸方向逃げ面は、正面フライス加工の際に切れ刃の後方に軸方向遊隙を設けるのに必要である。これにより、軸方向逃げ面15は、接線切削インサートの長手方向側面図に沿って全範囲において傾斜している(図3gおよび3h参照)。しかし、最も重要な逃げ角αは、必要な軸方向遊隙を切れ刃18の後方に設けるために、切れ刃18の直ぐ後ろに与えられる。
【0036】
切れ刃18は、主切れ刃18bに接続されたワイパ刃18aを含む(特に図3dおよび3f参照)。主切れ刃18bは、ワイパ刃18aに対して傾けられており、かつ、最大でも10°の切込み角で延在している。これにより、理解され得るように、ワイパ刃18aおよび主切れ刃18bは、連続的な弓形の切れ刃18を形成しており、ワイパ刃18aの曲率半径は、主切れ刃18bの曲率半径よりも大きい。さらに、本実施形態の接線切削インサートは、超硬合金で作られ、かつ、PCDまたはCBN材料のろう付けチップを備え、このチップは、切れ刃18、ならびにすくい面16および逃げ面15の一部分を形成している。そのようなPCDまたはCBNのチップを組み込むことは、アルミニウムでの正面フライス加工の際に特に有益である。
【0037】
前述のように、本発明は、平坦軸方向支持面5aが中央回転軸C1に垂直に延在する共通平面に位置することになるように軸方向前端面4上の座5を単一平面研削作業に曝すことにより、平坦軸方向支持面間の軸方向位置のいかなるずれにも対処することを可能にする。
【0038】
フライス工具の最終的な軸振れはまた、インサート公差に依存する。やはり前述したように、接線切削インサート10からの軸振れの寄与もまた、裏面11上の平坦軸方向接触面12、および/または前面14上のその軸方向逃げ面15を含む切れ刃18を研削して、接線切削インサート10上の切れ刃18と平坦軸方向接触面12との間の軸方向距離のずれを最小限に抑える/なくすことにより、容易に対処される。これにより、本実施形態のワイパ刃18aは、接線切削インサート10の軸方向前面14で軸方向最前部に(または、平坦軸方向接触面12から最も遠くに)位置する(主切れ刃18bは、ワイパ刃18aに関して取付け角を形成している)。これにより、切削インサートの軸振れは、切削インサート10を研削して、接線切削インサート10の平坦軸方向接触面12とワイパ刃18aとの間の距離の変化を最小限に抑える/なくすことにより、容易に対処される(すなわち、最小限に抑えられる/なくなる)。他のインサート公差は、正面フライス工具の最終的な軸振れに寄与しない。
【0039】
本実施形態は、いわゆるバイメタルエンジンブロック(一部の部品がアルミニウム製であり、他の部品が鋳鉄製である)の正面フライス加工のために特に開発された。これにより、本実施形態は、バイメタルエンジンブロックにおけるかき傷、機械加工されたアルミニウム部品のバリ、および鋳鉄縁部の剥離/フリッタリングに関する問題を軽減する。しかし、本発明は、一般に、フライス工具の軸振れを軽減する/なくすことにより表面仕上げの改善を達成することができる正面フライス加工に適用可能である。
【0040】
本発明は、上記で説明されかつ図面に示された実施形態に限定されるものではない。したがって、軸方向逃げ面15は、切削インサートの長手方向側面図に沿ったその全範囲において傾斜を有する必要はない。その代わりに、軸方向逃げ面15は、切れ刃の後方の一部分でのみ傾斜してもよく、その場合、残りの軸方向逃げ面は、例えば、平坦軸方向接触面に平行して延在する。本実施形態の接線切削インサートは、軸方向前面上に配置された単一の切れ刃を含む片面切削インサートである。しかし、接線切削インサートは、接線切削インサートの裏面上にも単一の切れ刃を含む両面のものであってもよい。この場合、軸方向逃げ面の一部分は、軸方向前面上の切れ刃が使い古されたときに、接線切削インサートがひっくり返されて軸方向前面上の平坦軸方向接触面を座内の平坦軸方向支持面に接触させて取り付けられ得るように、必然的に平坦軸方向接触面として形成される。切れ刃はまた、突出部材上に形成されて、切れ刃/すくい面を持つ一方の側と座の側部支持面に当接するための側部接触面を備える反対側とを有する突出した切削ヘッドを形成してもよい。そのような突出した部材/切削ヘッドは、接線切削インサートの前面上および軸方向裏面上の両方において軸方向に延在してもよく、その場合、軸方向裏面上の突出した部材/切削ヘッドは、取り付けられた状態では、座内に埋め込まれる。
図1
図1a
図1b
図1c
図2
図2a
図2b
図2b.A-A】
図2b.B-B】
図3
図3a
図3b
図3c
図3d
図3e
図3f
図3g
図3h