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  • 特許-クロロプレン系重合体及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-23
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】クロロプレン系重合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 36/18 20060101AFI20220111BHJP
   C08L 11/00 20060101ALI20220111BHJP
   C08L 11/02 20060101ALI20220111BHJP
   C08F 2/24 20060101ALI20220111BHJP
   C08F 2/38 20060101ALI20220111BHJP
   C09J 111/00 20060101ALI20220111BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20220111BHJP
   C09J 111/02 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
C08F36/18
C08L11/00
C08L11/02
C08F2/24 Z
C08F2/38
C09J111/00
C09J201/00
C09J111/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019530612
(86)(22)【出願日】2018-07-20
(86)【国際出願番号】 JP2018027253
(87)【国際公開番号】W WO2019017470
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2021-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2017141801
(32)【優先日】2017-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(74)【代理人】
【識別番号】100160897
【弁理士】
【氏名又は名称】古下 智也
(72)【発明者】
【氏名】石垣 雄平
(72)【発明者】
【氏名】萩原 尚吾
(72)【発明者】
【氏名】山岸 宇一郎
(72)【発明者】
【氏名】大貫 俊
(72)【発明者】
【氏名】藤本 光佑
(72)【発明者】
【氏名】西野 渉
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-143899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 36/16-36/18
C08L 11/00-11/02
C08F 2/24
C08F 2/38
C09J 111/00
C09J 201/00
C09J 111/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均分子量Mnが15~30万であり、下記一般式(1)又は(2)で表される構造の官能基を有するクロロプレン系重合体。
【化1】

【化2】

(一般式(1)中、Rは、水素、塩素、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は置換もしくは無置換のヘテロシクリル基を示す。)
【請求項2】
請求項1に記載のクロロプレン系重合体を得るための製造方法であり、
全単量体100質量部に対し、下記一般式(3)又は(4)で表される連鎖移動剤を添加して、重合開始時における前記全単量体と前記連鎖移動剤との物質量の比[M]/[CTA]を5/1~500/1とした溶液(A)と、乳化剤0.1~10質量%の水溶液(B)500~5000質量部と、を混合し乳化した後、ラジカル重合を行い、重合率20~50%に到達した時に、クロロプレン単量体単独、又はクロロプレン単量体及びクロロプレン単量体と共重合可能な単量体100~5000質量部を追添加する、クロロプレン系重合体の製造方法。
【化3】

【化4】

(一般式(3)中、Rは、水素、塩素、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は置換もしくは無置換のヘテロシクリル基を示す。一般式(3)及び(4)中、R3~5はそれぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換の飽和、不飽和もしくは芳香族の炭素環、置換もしくは無置換の飽和、不飽和もしくは芳香族の複素環、有機金属種、又は任意の重合体鎖を示す。)
【請求項3】
請求項1に記載のクロロプレン系重合体を含む組成物。
【請求項4】
請求項に記載の組成物を含む接着剤組成物。
【請求項5】
請求項に記載の接着剤組成物を含む接着剤。
【請求項6】
請求項に記載の組成物を含む加硫ゴム。
【請求項7】
請求項に記載の加硫ゴムを使用した防振ゴム、ベルト、オーバヘッドビークル向け部品、免震ゴム、ホース、ワイパー、浸漬製品、シール部品、ブーツ、ゴム引布、ゴムロール又はスポンジ製品。
【請求項8】
請求項1に記載のクロロプレン系重合体を含むラテックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、数平均分子量Mnが15~30万であり、特定の構造の官能基を有するクロロプレン系重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
クロロプレンゴムは、耐熱性、耐候性、耐オゾン性、耐薬品性、難燃性等に優れることから様々な用途に用いられている汎用ゴムである。ポリクロロプレンの分子量は、メルカプタン類やキサントゲンジスルフィド類などの連鎖移動剤を変量することで調節されている。しかしながら、クロロプレンゴムはラジカル乳化重合により製造されることから、使用可能な連鎖移動剤が限定され、ゴム物性に大きく影響する末端官能基を容易に変更できなかった。近年、リビングラジカル重合の一つであるRAFT重合による制御が注目されており、クロロプレンゴムの製造においても、適用可能であることが見出されている(例えば、特許文献1~3及び非特許文献1~2参照)。これらの文献には、末端構造についても制御可能であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2002-508409号公報
【文献】特開2007-297502号公報
【文献】特開2004-115517号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】Polymer Chemistry, 2013, 4, 2272.
【文献】RSC Advance, 2014, 4, 55529.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記文献において、分子量分布の狭いポリマーの合成には成功しているものの、得られるポリマーは数平均分子量が小さく、工業的な応用に耐えうる十分な分子量を有しておらず、乳化系や重合条件についても工業的に実現性に乏しいという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、工業的に利用可能な十分な分子量を持ち、かつ耐久疲労性に優れた加硫ゴム及び耐層分離性に優れた接着剤を得ることができるクロロプレン系重合体を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、数平均分子量Mnが15~30万であり、下記一般式(1)又は(2)で表される構造の官能基を有するクロロプレン系重合体を提供する。
【化1】
【化2】
(一般式(1)中、Rは、水素、塩素、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は置換もしくは無置換のヘテロシクリル基を示す。)
前記クロロプレン系重合体は、上記一般式(1)で表される構造の官能基を有してもよい。
前記クロロプレン系重合体は、重量平均分子量Mwと前記数平均分子量Mnとの比である分子量分布Mw/Mnが1.5~5.0であってもよい。
前記クロロプレン系重合体は、クロロプレン単量体の単独重合体であってもよい。
前記クロロプレン系重合体は、クロロプレン単量体及び該クロロプレン単量体と共重合可能な単量体からなる統計的共重合体であってもよい。
前記クロロプレン単量体と共重合可能な単量体が、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン、1-クロロ-1,3-ブタジエン、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリルアミド、不飽和ニトリル及び芳香族ビニル化合物からなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。
【0008】
また、本発明は、前記クロロプレン系重合体を得るための製造方法であり、
全単量体100質量部に対し、下記一般式(3)又は(4)で表される連鎖移動剤を添加して、重合開始時における前記全単量体と前記連鎖移動剤との物質量の比[M]/[CTA]を5/1~500/1とした溶液(A)と、乳化剤0.1~10質量%の水溶液(B)500~5000質量部と、を混合し乳化した後、ラジカル重合を行い、重合率20~50%に到達した時に、クロロプレン単量体単独、又はクロロプレン単量体及びクロロプレン単量体と共重合可能な単量体100~5000質量部を追添加する、クロロプレン系重合体の製造方法を提供する。
【化3】
【化4】
(一般式(3)中、Rは、水素、塩素、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は置換もしくは無置換のヘテロシクリル基を示す。一般式(3)及び(4)中、R3~5はそれぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換の飽和、不飽和もしくは芳香族の炭素環、置換もしくは無置換の飽和、不飽和もしくは芳香族の複素環、有機金属種、又は任意の重合体鎖を示す。)
前記クロロプレン系重合体の製造方法において、前記追添加後の最終重合率は50%以上であってもよい。
前記クロロプレン系重合体の製造方法は、上記一般式(3)で表される連鎖移動剤を添加するものであってもよい。
【0009】
また、本発明は、前記クロロプレン系重合体を含む組成物を提供する。
前記組成物は、更に、天然ゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム及びエチレンプロピレンゴムからなる群より選択される少なくとも1種を含んでもよい。
また、本発明は、前記組成物を含む接着剤組成物を提供する。
また、本発明は、前記接着剤組成物を含む接着剤を提供する。
前記接着剤組成物又は前記接着剤は、耐層分離性が8週間以上であってもよい。
また、本発明は、前記組成物を含む加硫ゴムを提供する。
前記加硫ゴムは、デマッチャ屈曲疲労試験を100万回実施した時点で亀裂がないものであってもよい。
また、本発明は、前記加硫ゴムを使用した防振ゴム、ベルト、オーバヘッドビークル向け部品、免震ゴム、ホース、ワイパー、浸漬製品、シール部品、ブーツ、ゴム引布、ゴムロール又はスポンジ製品を提供する。
また、本発明は、前記クロロプレン系重合体を含むラテックス。
前記ラテックスは、接着剤用又は加硫ゴム用であってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、工業的に利用可能な十分な分子量を持ち、かつ耐久疲労性に優れた加硫ゴム及び耐層分離性に優れた接着剤を得ることができるクロロプレン系重合体が提供されうる。特には、本発明により、耐久疲労性に優れた加硫ゴム及び耐層分離性に優れた接着剤が提供されうる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1で得られたクロロプレン系重合体の1H-NMRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0013】
<1.クロロプレン系重合体>
本実施形態のクロロプレン系重合体は、2-クロロ-1,3-ブタジエン(以下、「クロロプレン」という。)を主成分とするものであり、下記一般式(1)又は(2)で表される構造の官能基を有する。
【化5】
【化6】
【0014】
一般式(1)中、Rは、水素、塩素、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は置換もしくは無置換のヘテロシクリル基を示す。
【0015】
上記一般式(1)で表される構造の官能基は、下記一般式(3)で表される連鎖移動剤[CTA]の存在下、ラジカル重合を行うことでクロロプレン系重合体に導入される。上記一般式(2)で表される構造の官能基は、下記一般式(4)で表される連鎖移動剤[CTA]の存在下、ラジカル重合を行うことでクロロプレン系重合体に導入される。
【0016】
【化7】
【化8】
【0017】
一般式(3)中、Rは、水素、塩素、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は置換もしくは無置換のヘテロシクリル基を示す。一般式(3)及び(4)中、R3~5はそれぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換の飽和、不飽和もしくは芳香族の炭素環、置換もしくは無置換の飽和、不飽和もしくは芳香族の複素環、有機金属種、又は任意の重合体鎖を示す。
【0018】
上記一般式(3)で表される連鎖移動剤[CTA]は、特に限定されるものではなく一般的な化合物を使用することができ、例えばジチオカルバメート類、ジチオエステル類が挙げられる。具体的には、ベンジル1-ピロールカルボジチオエート(慣用名:ベンジル1-ピロールジチオカルバメート)、1-ベンジル-N,N-ジメチル-4-アミノジチオベンゾエート、1-ベンジル-4-メトキシジチオベンゾエート、1-フェニルエチルイミダゾールカルボジチオエート(慣用名:1-フェニルエチルイミダゾールジチオカルバメート)、ベンジル-1-(2-ピロリジノン)カルボジチオエート(慣用名:ベンジル-1-(2-ピロリジノン)ジチオカルバメート)、ベンジルフタルイミジルカルボジチオエート、(慣用名:ベンジルフタルイミジルジチオカルバメート)、2-シアノプロプ-2-イル-1-ピロールカルボジチオエート、(慣用名:2-シアノプロプ-2-イル-1-ピロールジチオカルバメート)、2-シアノブト-2-イル-1-ピロールカルボジチオエート(慣用名:2-シアノブト-2-イル-1-ピロールジチオカルバメート)、ベンジル-1-イミダゾールカルボジチオエート(慣用名:ベンジル-1-イミダゾールジチオカルバメート)、2-シアノプロプ-2-イル-N,N-ジメチルジチオカルバメート、ベンジル-N,N-ジエチルジチオカルバメート、シアノメチル-1-(2-ピロリドン)ジチオカルバメート、2-(エトキシカルボニルベンジル)プロプ-2-イル-N,N-ジエチルジチオカルバメート、ベンジルジチオエート、1-フェニルエチルジチオベンゾエート、2-フェニルプロプ-2-イルジチオベンゾエート、1-酢酸-1-イル-エチルジチオベンゾエート、1-(4-メトキシフェニル)エチルジチオベンゾエート、ベンジルジチオアセテート、エトキシカルボニルメチルジチオアセタート、2-(エトキシカルボニル)プロプ-2-イルジチオベンゾエート、2-シアノプロプ-2-イルジチオベンゾエート、ジチオベンゾエート、tert-ブチルジチオベンゾエート、2,4,4-トリメチルペンタ-2-イルジチオベンゾエート、2-(4-クロロフェニル)-プロプ-2-イルジチオベンゾエート、3-ビニルベンジルジチオベンゾエート、4-ビニルベンジルジチオベンゾエート、ベンジルジエトキシホスフィニルジチオフォルマート、tert-ブチルトリチオペルベンゾエート、2-フェニルプロプ-2-イル-4-クロロジチオベンゾエート、ナフタレン-1-カルボン酸-1-メチル-1-フェニル-エチルエステル、4-シアノ-4-メチル-4-チオベンジルスルファニル酪酸、ジベンジルテトラチオテレフタラート、カルボキシメチルジチオベンゾエート、ジチオベンゾエート末端基を持つポリ(酸化エチレン)、4-シアノ-4-メチル-4-チオベンジルスルファニル酪酸末端基を持つポリ(酸化エチレン)、2-[(2-フェニルエタンチオイル)スルファニル]プロパン酸、2-[(2-フェニルエタンチオイル)スルファニル]コハク酸、3,5-ジメチル-1H-ピラゾール-1-カルボジチオエートカリウム、シアノメチル-3,5-ジメチル-1H-ピラゾール-1-カルボジチオエート、シアノメチルメチル-(フェニル)ジチオカルバメート、ベンジル-4-クロロジチオベンゾエート、フェニルメチル-4-クロロジチオベンゾエート、4-ニトロベンジル-4-クロロジチオベンゾエート、フェニルプロプ-2-イル-4-クロロジチオベンゾエート、1-シアノ-1-メチルエチル-4-クロロジチオベンゾエート、3-クロロ-2-ブテニル-4-クロロジチオベンゾエート、2-クロロ-2-ブテニルジチオベンゾエート、ベンジルジチオアセテート、3-クロロ-2-ブテニル-1H-ピロール-1-ジチオカルボン酸、2-シアノブタン-2-イル4-クロロ-3,5-ジメチル-1H-ピラゾール-1-カルボジチオエート、シアノメチルメチル(フェニル)カルバモジチオエートが挙げられる。これらの中でもより好ましくは、ベンジル1-ピロールカルボジチオエート、1-フェニルエチルイミダゾールカルボジチオエイト、3-クロロ-2-ブテニルピロールジチオカルバメート、1H-ピロール-1-カルボジチオ酸-フェニレンビスメチレンエステル、ベンジルジチオベンゾエートであり、特に好ましくは、ベンジル1-ピロールカルボジチオエートが用いられる。
【0019】
上記一般式(4)で表される連鎖移動剤[CTA]は、特に限定されるものではなく一般的な化合物を使用することができ、例えば、2-シアノ-2-プロピルドデシルトリチオカルボナート、ジベンジルトリチオカルボナート、ブチルベンジルトリチオカルボナート、2-[[(ブチルチオ)チオキソメチル]チオ]プロピオン酸、2-[[(ドデシルチオ)チオキソメチル]チオ]プロピオン酸、2-[[(ブチルチオ)チオキソメチル]チオ]コハク酸、2-[[(ドデシルチオ)チオキソメチル]チオ]コハク酸、2-[[(ドデシルチオ)チオキソメチル]チオ]-2-メチルプロピオン酸、2,2′-[カルボノチオイルビス(チオ)]ビス[2-メチルプロピオン酸]、2-アミノ-1-メチル-2-オキソエチルブチルトリチオカルボナート、ベンジル2-[(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-1-メチル-2-オキソエチルトリチオカルボナート、3-[[[(tert-ブチル)チオ]チオキソメチル]チオ]プロピオン酸、シアノメチルドデシルトリチオカルボナート、ジエチルアミノベンジルトリチオカルボナート、ジブチルアミノベンジルトリチオカルボナートなどのトリチオカルボナート類が挙げられる。これらの中でも特に好ましくは、ジベンジルトリチオカルボネート又はブチルベンジルトリチオカルボネートが用いられる。
【0020】
上記一般式(1)は、下記一般式(5)で表される構造が好ましい。
【化9】
【0021】
上記一般式(5)で表される構造の官能基は、ベンジル1-ピロールカルボジチオエート(慣用名:ベンジルピロールジチオカルバメート)の存在下、ラジカル重合を行うことでクロロプレン系重合体に導入することができる
【0022】
用いた連鎖移動剤の一部構造が官能基として重合体に導入されることは、一般的なRAFT重合に関する文献(Aust.J.Chem.2009,62,1402-1472)により明らかである。また、クロロプレン系重合体中、上記官能基の存在は、任意の方法で確認できるが、一般的には13C-NMR法が用いられる。十分な積算回数で測定を行うことで、官能基由来のピークを確認可能である。さらには炭素13をエンリッチした、一般式(3)又は(4)で表される連鎖移動剤[CTA]を用い、得られた重合体について同様の測定を行うことで当業者らは上記官能基の存在を確認できる。
【0023】
本実施形態のクロロプレン系重合体は、数平均分子量Mnが15~30万である。数平均分子量Mnが15万未満のクロロプレン系重合体は、工業的に実用可能な加硫ゴムとしての力学物性を発現できない可能性がある。また、数平均分子量Mnが30万超のクロロプレン系重合体からは加硫ゴムを合成できない場合がある。また、数平均分子量Mnが15万未満のクロロプレン系重合体は、接着剤としての力学物性、例えば接着剥離強度が低い場合がある。
【0024】
本実施形態のクロロプレン系重合体は、重量平均分子量Mwと上記数平均分子量Mnとの比である分子量分布Mw/Mnが1.5~5.0であることが好ましく、2.0~5.0がより好ましい。分子量分布Mw/Mnが1.5以上であると工業的応用に好適である。一方、分子量分布Mw/Mnを5.0超に調整することは技術的に困難である。
【0025】
重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した値であり、測定条件の詳細は後述する実施例の欄に記載の通りである。
【0026】
本実施形態のクロロプレン系重合体は、クロロプレンの単独重合体、又は、クロロプレン単量体及びクロロプレン単量体と共重合可能な単量体からなる統計的共重合体である。
【0027】
クロロプレン単量体と共重合可能な単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシルなどのアクリル酸エステル類、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシルなどのメタクリル酸エステル類、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシ(メタ)アクリレート類、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン、1-クロロ-1,3-ブタジエン、ブタジエン、イソプレン、エチレン、スチレンなどの芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル、アクリルアミドが挙げられる。これらの中でも、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン、1-クロロ-1,3-ブタジエン、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリルアミド、不飽和ニトリル及び芳香族ビニル化合物からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0028】
本明細書において、共重合とは「統計的な共重合」であり、「統計的共重合体」とは統計的な共重合により得られる統計的な単量体単位の連鎖を有する共重合体を示す。すなわち「統計的共重合体」は、J.C.Randall「POLYMER SEQUENCE DETERMINATION,Carbon-13 NMR Method」Academic Press,New York,1977,71-78ページに記述されているように、ベルヌーイの統計モデルにより、又は一次もしくは二次のマルコフの統計モデルにより、単量体連鎖分布が記述できる共重合体であることを意味する。本実施形態のクロロプレン系重合体における「統計的共重合体」は、2元系の単量体から構成される場合、下記Mayo-Lewis式(I)において、重合開始時のクロロプレン単量体とクロロプレン単量体以外の単量体との比をd[M1]/d[M2]とし、クロロプレン単量体をM1とした時の反応性比r1、r2について、r1は0.3~3000の範囲、r2は10-5~3.0の範囲をとることが、統計的共重合体を得るのに好ましい。さらに別な観点からは、本明細書において「統計的共重合体」とは、複数種の単量体の共存下ラジカル重合により得られる共重合体である。上記「統計的共重合体」は、実質的にランダムな共重合体を包含する概念である。
【0029】
【数1】
【0030】
本実施形態のクロロプレン系重合体は、以下の方法で製造することが出来る。すなわち、全単量体100質量部に対し、上記一般式(3)又は(4)で表される連鎖移動剤[CTA]を添加して、重合開始時における全単量体と連鎖移動剤との物質量の比[M]/[CTA]を5/1~500/1とした溶液(A)と、乳化剤0.1~10質量%の水溶液(B)500~5000質量部と、を混合し乳化した後、ラジカル重合を行い、重合率20~50%に到達した時に、クロロプレン単量体単独、又はクロロプレン単量体及びクロロプレン単量体と共重合可能な単量体100~5000質量部を追添加する。追添加する単量体は、好ましくは250~3000質量部である。
【0031】
重合開始時における全単量体の物質量[M]と連鎖移動剤の物質量[CTA]とが[M]/[CTA]=5/1~500/1の割合となるように調整することで、分子量を大きくした際の重合制御性を高めることができる。モノマー比率が5/1より低いと、乳化液とした際に連鎖移動剤が分離して分子量分布を制御できず、500/1より高いと熱重合によりクロロプレンがフリーラジカル重合してしまい、十分なリビング性が得られない。[M]/[CTA]の値は、好ましくは100/1~300/1である。
【0032】
初期に添加した単量体の重合率が20~50%に到達した時点で、所望の分子量にあわせて単量体を追添加する。20%以下では、重合中に新たにミセルが形成することでフリーラジカル重合が進行する恐れがあり、50%以上ではモノマー油滴が一旦消失することから、継続的なモノマー供給が途絶え、副反応が進行する恐れがある。
【0033】
初期に添加した単量体の重合率については、乳化液の比重から決定できる。即ち、予め同条件で重合し、3点以上のサンプリングを行い、固形分濃度と比重を測定することで、重合率と比重の検量線を作成できる。
【0034】
分子量15~30万とするには、下記式(II)で計算される理論分子量に基づき全単量体と連鎖移動剤の物質量比及び重合率を決定することも可能である。
(理論分子量)=MW(M)×[M]/[CTA]×重合率+MW(CTA)・・・(II)
MW(M):単量体の平均分子量(単量体1の分子量×モル分率+単量体2の分子量×単量体のモル分率)
[M]:全単量体の物質量
[CTA]:連鎖移動剤の物質量
MW(CTA):連鎖移動剤の分子量
【0035】
単量体の追添加方法については、単量体の熱重合を防ぐために単量体を冷却することが好ましい。追添加の手段は特に限定されず、ポンプなどを用いて直接系中へ添加すればよい。
【0036】
上記一般式(1)に示す官能基を分子の中に少なくとも1つ以上導入するためには、連鎖移動剤として、公知のRAFT剤を使用すればよい。RAFT剤は、好ましくは上記一般式(3)に示す化合物であり、より好ましくは、ベンジル1-ピロールカルボジチオエート(慣用名「ベンジルピロールジチオカルバメート」と記載される場合もある)、1-フェニルエチルイミダゾールカルボジチオエイト、3-クロロ-2-ブテニルピロールジチオカルバメート、1H-ピロール-1-カルボジチオ酸-フェニレンビスメチレンエステル、ベンジルジチオベンゾエートである。更に好ましくは、ベンジル1-ピロールカルボジチオエート(慣用名:ベンジルピロールジチオカルバメート)である。これらRAFT剤については、特表2000-515181号公報や特表2002-508409号公報などに記載されている。
【0037】
上記一般式(2)に示す官能基を分子の中に少なくとも1つ以上導入するためには、連鎖移動剤として、上記一般式(4)に示す化合物を使用すればよい。具体的には、ブチルベンジルトリチオカルボネート、ジベンジルトリチオカルボネート、2-シアノ-2-プロピルドデシルトリチオカルボナートなどが挙げられる。これらの中でも、ブチルベンジルトリチオカルボネート又はジベンジルトリチオカルボネートが好ましい。
【0038】
ラジカル重合開始剤としては、特に限定するものではなく、過硫酸塩、過硫酸ナトリウム、過酸化水素、t-ブチルハイドロパーオキサイド、アゾ系化合物などを用いることができるが、10時間半減期温度が70℃以下であることが好ましい。開始剤10時間半減期温度が70℃以下であると、重合初期に十分なラジカルを生成して、重合制御性をより向上させることが可能である。
【0039】
乳化重合で使用する乳化剤は、特に限定されるものではないが、乳化安定性の観点からアニオンもしくはノニオン系の乳化剤が好ましい。特に重合終了後の凍結凝固乾燥により得られるフィルム状のクロロプレン系重合体(クロロプレンゴム)に、適当な強度を持たせて過度の収縮および破損を防ぐことができるという理由から、ロジン酸アルカリ金属塩を使用することが好ましい。ロジン酸は、樹脂酸、脂肪酸などの混合物である。樹脂酸としては、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、ピマル酸、イソピマル酸、デヒドロアビエチン酸、ジヒドロピマル酸、ジヒドロイソピマル酸、セコデヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸などが含まれ、脂肪酸としては、オレイン酸、リノール酸などが含まれている。これらの成分組成は、ガムロジン、ウッドロジン、トールロジンに分類されるロジン採取方法の違い、松の産地及び樹種、蒸留精製、不均化(不均斉化)反応によって変化するものであり、本発明では限定されない。乳化安定性や取り扱いやすさを考慮すると、乳化剤はロジン酸ナトリウム塩又はロジン酸カリウム塩が好ましい。
【0040】
乳化剤の濃度は0.1~10質量%であり、より好ましくは1~5質量%である。0.1質量%より濃度が低いと、十分に単量体を乳化することができず、10質量%を超えるとクロロプレン系重合体を固形にする際、うまく析出させることができない恐れがある。
【0041】
乳化剤0.1~10質量%の水溶液(B)の添加量については、重合開始時における全単量体100質量部に対して500~5000質量部であり、より好ましくは600~4000質量部である。水溶液(B)の添加量は、最終的なラテックスの安定性を考慮し、追添加する単量体を含めた全単量体100質量部に対して、100~200質量部とすることが好ましい。
【0042】
重合温度は、10~50℃が好ましい。重合温度を10℃以上とすることで、乳化液の増粘や開始剤の効率をより向上させることができる。また、クロロプレンの沸点が約59℃であることから、重合温度を50℃以下とすることで、異常重合などにより発熱した場合であっても除熱が追いつかずに反応液が突沸する事態を回避することができる。リビング性についても、50℃以下とすることで、連鎖移動剤の加水分解の影響やモノマーの蒸発を考慮する必要がなくなるという利点がある。
【0043】
単量体を追添加した後の全単量体の最終重合率は、副反応を防ぐ観点からは95%以下が好ましく、耐久疲労性をより向上させる観点からは85%以下がより好ましい。単量体を追添加した後の全単量体の最終重合率は、分子量を大きくして加硫ゴムとしての十分な力学物性を得る観点からは、50%以上が好ましい。また、当該最終重合率は、生産性の観点からは50~75%がより更に好ましい。
【0044】
単量体を追添加した後の全単量体の最終重合率を調整するためには、所望する重合率になった時に、重合反応を停止させる重合禁止剤を添加して重合を停止させればよい。
【0045】
重合禁止剤としては、通常用いられる禁止剤を用いることができ、特に限定するものではないが、例えば、油溶性の重合禁止剤であるチオジフェニルアミン、4-ターシャリーブチルカテコール、2,2-メチレンビス-4-メチル-6-ターシャリーブチルフェノールや、水溶性の重合禁止剤であるジエチルヒドロキシルアミンなどがある。
【0046】
未反応の単量体は、例えば、スチームストリッピング法によって除去すればよい。その後、pHを調整し、常法の凍結凝固、水洗、熱風乾燥などの工程を経てクロロプレンゴムが得られる。
【0047】
上記、本実施形態の、ラジカル重合開始剤と特定の連鎖移動剤を用いる乳化重合法により、高分子量であり、かつ優れた加硫ゴム物性及び高い接着剥離強度を示す事が出来るクロロプレン系重合体を、工業的に有利に製造することが出来る。
【0048】
<2.ラテックス>
本実施形態のラテックスは、上記クロロプレン系重合体を含み、好ましくは接着剤用又は加硫ゴム用である。接着剤及び加硫ゴムの詳細については、後述する。
【0049】
<3.組成物>
本実施形態の組成物は、上記クロロプレン系重合体を含み、好ましくは接着剤組成物又はゴム組成物である。
【0050】
本実施形態の接着剤組成物は、溶剤系接着剤組成物であることが好ましい。溶剤系接着剤組成物は、上記クロロプレン系重合体に加え、溶剤を含むことが出来る。溶剤は、シックハウス症候群の原因物質となるトルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族系溶剤ではなく、n-ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの非芳香族系溶剤であって、単独ではクロロプレンゴムの溶解性に乏しい貧溶媒同士の混合体のみにて上記クロロプレン系重合体を溶解することが好ましい。
【0051】
溶剤の使用量は、接着剤の用途や種類によって適宜調整すればよく、特に限定するものではないが、クロロプレンゴムの固形分濃度が10~30質量%となるように調整すると、接着剤としての耐熱接着力及び初期接着力のバランスが良好となるため好ましい。
【0052】
接着剤組成物は、溶剤の他に、金属酸化物、粘着付与樹脂及び老化防止剤を含んでもよい。これらの添加剤を接着剤に添加することにより、得られる接着剤の初期接着強度や常態接着強度、スプレー塗工性などを向上させることができる。
【0053】
金属酸化物としては、例えば、酸化亜鉛(亜鉛華)、酸化アルミニウム、酸化チタンや酸化マグネシウム等を用いることができる。粘着付与樹脂としては、例えば、フェノール系樹脂や、ロジン樹脂や、クマロン樹脂や、石油樹脂等を用いることができる。老化防止剤としては、例えば、2,2´-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2´-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N´-ヘキサン-1,6-ジイルビス-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオナミド)、3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシアルキルエステル、ジエチル[{3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル}メチル]ホスホネート、3,3´,3´´,5,5´,5´´-ヘキサ-t-ブチル-a,a´,a´´-(メシチレン-2,4,6-トリイル)トリ-p-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-t-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)ポロピオネート]、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等を用いることができる。
【0054】
接着剤組成物は、さらに、所望の物性に応じて、ホルムアルデヒドキャッチャー剤や充填剤等を含んでもよい。
【0055】
ホルムアルデヒドキャッチャー剤としては、例えば、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、メラミン、ジシアンジアミド、尿素、エチレン尿素、4,5-ジメトキシエチレン尿素、プロピレン尿素、5-メチルプロピレン尿素、5-ヒドロキシプロピレン尿素、5-メトキシプロピレン尿素、オキサリル尿素(パラバン酸)、ヒドラゾベンゾチアゾール、セミカルバジド、チオセミカルバジドを用いることができる。ホルムアルデヒドキャッチャー剤は、有害な揮発性物質であるホルムアルデヒドを捕捉できる。充填剤としては、タルク、炭酸カルシウム、クレー、スメクタイト、シリカ、ハイドロタルサイトやマイカ等を用いることができる。
【0056】
また、耐光性を向上させる目的で、接着剤組成物に、ベンゾトリアゾール等の紫外線吸収剤や、ヒンダードアミン等の光安定剤を添加してもよい。
【0057】
本実施形態の接着剤組成物は、他に天然ゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム及びエチレンプロピレンゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種の生ゴム(未架橋又は未加硫ゴム)を含んでいてもよい。
【0058】
接着剤組成物の製造方法としては、一般的に、アルキルフェノール樹脂や酸化マグネシウム(MgO)を有機溶剤に溶解させて25℃で20時間静置した後、クロロプレンゴム、金属酸化物、老化防止剤等をロールで混練した混合物を溶解させる方法が知られている。しかしながら、上記クロロプレン系重合体は、金属酸化物や老化防止剤等とともにロールで混練する必要がなく、直接有機溶剤中に溶解、分散させて接着剤組成物とすることもできる。製造手段は特に限定されず、公知の機械や装置を用いればよい。
【0059】
本実施形態の接着剤組成物は接着剤の原料として用いられる。例えば、上記接着剤組成物に更に他の添加剤を添加したり、上記接着剤組成物と他の接着剤組成物とを混合したりすることで、接着剤が得られうる。接着剤は、紙、木材、布、皮革、ジャージ、レザー、ゴム、プラスチック、フォーム、陶器、ガラス、モルタル、セメント系材料、セラミック、金属等の同種、あるいは異種の接合・接着用に好適に用いることができる。
【0060】
本実施形態の接着剤組成物、あるいはそれを用いた接着剤は、安定性が高く、耐層分離性が8週間以上である。
【0061】
上記クロロプレン系重合体を含むゴム組成物は、架橋又は加硫することにより架橋ゴム又は加硫ゴムの製造に用いられる。本実施形態のゴム組成物は、好適には加硫ゴムの製造に用いられる。
【0062】
本実施形態のゴム組成物において、クロロプレン系重合体以外の原料は特に限定されず、目的や用途に応じて適宜選択することができる。ゴム組成物に含有されうる原料としては、例えば、加硫剤、加硫促進剤、充填剤又は補強剤、可塑剤、加工助剤及び滑剤、老化防止剤、並びにシランカップリング剤などが挙げられる。
【0063】
添加可能な加硫剤としては、クロロプレンゴムの加硫に一般に用いられる硫黄、チオウレア系、グアニジン系、チウラム系、チアゾール系の有機加硫剤が使用できるが、チオウレア系のものが好ましい。チオウレア系の加硫剤としては、エチレンチオウレア、ジエチルチオウレア、トリメチルチオウレア、トリエチルチオウレア、N,N’-ジフェニルチオウレア等が挙げられ、特にトリメチルチオウレア、エチレンチオウレアが好ましい。また、3-メチルチアゾリジンチオン-2-チアゾールとフェニレンジマレイミドとの混合物、ジメチルアンモニウムハイドロジエンイソフタレートあるいは1,2-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール誘導体等の加硫剤も使用することができる。これらの加硫剤は、上記に挙げたものを2種以上併用してもよい。また、ベリリウム、マグネシウム、亜鉛、カルシウム、バリウム、ゲルマニウム、チタニウム、錫、ジルコニウム、アンチモン、バナジウム、ビスマス、モリブデン、タングステン、テルル、セレン、鉄、ニッケル、コバルト、オスミウムなどの金属単体、及びこれら金属の酸化物や水酸化物を加硫剤として使用することができる。これら添加可能な加硫剤のなかでも、特に、酸化カルシウムや酸化亜鉛、二酸化アンチモン、三酸化アンチモン、酸化マグネシウムは、加硫効果が高いため好ましい。また、これらの加硫剤は2種以上を併用してもよい。なお、加硫剤は、本実施形態のゴム組成物中のゴム成分100質量部に対して合計で0.1質量部以上10質量部以下の範囲で添加することが好ましい。
【0064】
充填剤又は補強剤は、ゴムの硬さを調整したり機械強度を向上したりするために添加するものであり、特に限定はないが、例えばカーボンブラック、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウムが挙げられる。その他の無機充填剤として特に限定するものではないが、γ-アルミナ及びα-アルミナなどのアルミナ(Al)、ベーマイト及びダイアスポアなどのアルミナ一水和物(Al・HO)、ギブサイト及びバイヤライトなどの水酸化アルミニウム[Al(OH)]、炭酸アルミニウム[Al(CO]、水酸化マグネシウム[Mg(OH)]、炭酸マグネシウム(MgCO)、タルク(3MgO・4SiO・HO)、アタパルジャイト(5MgO・8SiO・9HO)、チタン白(TiO)、チタン黒(TiO2n-1)、酸化カルシウム(CaO)、水酸化カルシウム[Ca(OH)]、酸化アルミニウムマグネシウム(MgO・Al)、クレー(Al・2SiO)、カオリン(Al・2SiO・2HO)、パイロフィライト(Al・4SiO・HO)、ベントナイト(Al・4SiO・2HO)、ケイ酸アルミニウム(AlSiO、Al・3SiO・5HOなど)、ケイ酸マグネシウム(MgSiO、MgSiOなど)、ケイ酸カルシウム(CaSiOなど)、ケイ酸アルミニウムカルシウム(Al・CaO・2SiOなど)、ケイ酸マグネシウムカルシウム(CaMgSiO)、炭酸カルシウム(CaCO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、水酸化ジルコニウム[ZrO(OH)・nHO]、炭酸ジルコニウム[Zr(CO3)]、各種ゼオライトのように電荷を補正する水素、及びアルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む結晶性アルミノケイ酸塩などを使用してもよい。充填剤及び補強剤は1種のみを用いても2種以上を併用してもよい。これら充填剤及び補強剤の配合量は、ゴム組成物や当該ゴム組成物から得られる架橋ゴム又は加硫ゴムに求められる物性に応じて調整すればよく、特に限定するものではないが、本実施形態のゴム組成物中のゴム成分100質量部に対して通常は合計で15質量部以上200質量部以下の範囲で添加することができる。
【0065】
可塑剤は、ゴムと相溶性のある可塑剤であれば特に制限はないが、例えば菜種油、アマニ油、ヒマシ油、ヤシ油などの植物油、フタレート系可塑剤、DUP(フタル酸ジウンデシル)、DOS(セバシン酸ジオクチル)、DOA(アジピン酸ジオクチル)、エステル系可塑剤、エーテルエステル系可塑剤、チオエーテル系可塑剤、アロマ系オイル、ナフテン系オイル、潤滑油、プロセスオイル、パラフィン、流動パラフィン、ワセリン、石油アスファルトなどの石油系可塑剤などがあり、ゴム組成物や当該ゴム組成物から得られる架橋ゴム又は加硫ゴムに要求される特性に合わせて1種又は複数を使用することができる。可塑剤の配合量には特に限定はないが、本実施形態のゴム組成物中のゴム成分100質量部に対して通常は合計で5質量部以上50質量部以下の範囲で配合することができる。
【0066】
ゴム組成物を混練したり加硫成形したりする際に、ロールや成形金型、押出機のスクリューなどから剥離しやすくなるようにするなど、加工特性や表面滑性を向上させるために添加する加工助剤や滑剤としては、ステアリン酸などの脂肪酸あるいはポリエチレンなどのパラフィン系加工助剤、脂肪酸アミドなどを挙げることができる。加工助剤及び滑剤は1種のみを用いても2種以上を併用してもよい。その添加量には特に限定はないが、通常は本実施形態のゴム組成物中のゴム成分100質量部に対して合計で0.5質量部以上5質量部以下である。
【0067】
耐熱性を向上させる老化防止剤として、通常のゴム用途に使用されている、ラジカルを捕捉して自動酸化を防止する一次老化防止剤と、ハイドロパーオキサイドを無害化する二次老化防止剤を添加することができる。それらの老化防止剤はゴム組成物中のゴム成分100質量部に対して、それぞれ0.1質量部以上10質量部以下の割合で添加することが好ましく、より好ましくは2質量部以上5質量部以下の範囲である。これらの老化防止剤は単独使用のみならず2種以上を併用することも可能である。なお、一次老化防止剤の例としては、フェノール系老化防止剤、アミン系老化防止剤、アクリレート系老化防止剤、イミダゾール系老化防止剤、カルバミン酸金属塩、ワックスを挙げることができ、また、二次老化防止剤として、リン系老化防止剤、硫黄系老化防止剤、イミダゾール系老化防止剤などを挙げることができる。老化防止剤の例として特に限定するものではないが、N-フェニル-1-ナフチルアミン、アルキル化ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、4,4´-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、p-(p-トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、N,N´-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N,N´-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N´-イソプロピル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N´-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N´-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピル)-p-フェニレンジアミン、1,1,3-トリス-(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、4,4´-ブチリデンビス-(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2-チオビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、7-オクタデシル-3-(4´-ヒドロキシ-3´,5´-ジ-tert-ブチルフェニル)プロピオネート、テトラキス-[メチレン-3-(3´,5´-ジ-tert-ブチル-4´-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ペンタエリスリトール-テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-tert-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4-ビス(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン、トリス-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-イソシアヌレート、2,2-チオ-ジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N´-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ)-ヒドロシンナアミド、2,4-ビス[(オクチルチオ)メチル]-o-クレゾール、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル-ホスホネート-ジエチルエステル、テトラキス[メチレン(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナメイト)]メタン、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸エステル及び3,9-ビス[2-{3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}-1,1-ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、トリス(ノニル・フェニル)フォスファイト、トリス(混合モノ-及びジ-ノニルフェニル)フォスファイト、ジフェニル・モノ(2-エチルヘキシル)フォスファイト、ジフェニル・モノトリデシル・フォスファイト、ジフェニル・イソデシル・フォスファイト、ジフェニル・イソオクチル・フォスファイト、ジフェニル・ノニルフェニル・フォスファイト、トリフェニルフォスファイト、トリス(トリデシル)フォスファイト、トリイソデシルフォスファイト、トリス(2-エチルヘキシル)フォスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)フォスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコール・ジフォスファイト、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラフォスファイト、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ジ-トリデシルフォスファイト-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、4,4´-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチル-ジ-トリデシルフォスファイト)、2,2´-エチリデンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェノール)フルオロフォスファイト、4,4´-イソプロピリデン-ジフェノールアルキル(C12~C15)フォスファイト、環状ネオペンタンテトライルビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニルフォスファイト)、環状ネオペンタンテトライルビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-フェニルフォスファイト)、環状ネオペンタンテトライルビス(ノニルフェニルフォスファイト)、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、ジブチルハイドロゲンフォスファイト、ジステアリル・ペンタエリスリトール・ジフォスファイト及び水添ビスフェノールA・ペンタエリスリトールフォスファイト・ポリマーなどが挙げられる。
【0068】
上記クロロプレン系重合体等のゴム成分と充填剤や補強剤との接着性を高め、機械的強度を向上させるために、さらにシランカップリング剤を添加することもできる。シランカップリング剤はゴム組成物を混練する際に加えても、充填剤又は補強剤を予め表面処理する形で加えてもどちらでも構わない。シランカップリング剤は1種のみを用いても2種以上を併用してもよい。特に限定するものではないが、シランカップリング剤としては、ビス-(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス-(3-トリメトキシンリルプロピル)テトラスルフィド、ビス-(3-メチルジメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス-(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス-(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス-(3-トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス-(3-トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、3-ヘキサノイルチオプロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン、3-デカノイルチオプロピルトリエトキシシラン、3-ラウロイルチオプロピルトリエトキシシラン、2-ヘキサノイルチオエチルトリエトキシシラン、2-オクタノイルチオエチルトリエトキシシラン、2-デカノイルチオエチルトリエトキシシラン、2-ラウロイルチオエチルトリエトキシシラン、3-ヘキサノイルチオプロピルトリメトキシシラン、3-オクタノイルチオプロピルトリメトキシシラン、3-デカノイルチオプロピルトリメトキシシラン、3-ラウロイルチオプロピルトリメトキシシラン、2-ヘキサノイルチオエチルトリメトキシシラン、2-オクタノイルチオエチルトリメトキシシラン、2-デカノイルチオエチルトリメトキシシラン、2-ラウロイルチオエチルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-グリンドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルメタクリロイルモノスルフィド、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、n-デシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェルジエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクタデシルメチルジメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリフェニルクロロシラン、ヘプタデカフルオロデシルメチルジクロロシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリクロロシラン、トリエチルクロロシランなどが例として挙げられる。
【0069】
本実施形態のゴム組成物は、他に天然ゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム及びエチレンプロピレンゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種の生ゴム(未架橋又は未加硫ゴム)を含んでいてもよい。本実施形態のゴム組成物は、加硫することで加硫ゴムとして実用に供することが好ましい。加硫は、公知の方法が適用できるが、チオウレア系加硫剤を用い、加硫温度は120~230℃で行うことが一般的である。
【0070】
上記組成物を加硫して得られる加硫ゴムは、JIS K6251に基づく引っ張り試験において、引張強度20MPa、破断伸び350%以上の高い力学特性を示すことができる。
【0071】
上記ゴム組成物を加硫して得られる加硫ゴムは、高い耐久疲労性を示す。具体的には、JIS K6260に基づくデマッチャ屈曲疲労試験を100万回繰り返し行っても亀裂がないという屈曲疲労特性を示す。デマッチャ屈曲疲労試験の測定条件の詳細は、後述する実施例の欄に記載の通りである。
【0072】
上記ゴム組成物を加硫して得られる加硫ゴムは、優れた耐久疲労性を有し、飛躍的に製品の寿命を向上することができることから、各種製品に有用である。上記加硫ゴムは、特に、防振ゴム、ベルト、オーバヘッドビークル向け部品、免震ゴム、ホース、ワイパー、浸漬製品、シール部品、ブーツ、ゴム引布、ゴムロール又はスポンジ製品に好適に用いられる。
【0073】
上記ゴム組成物を含む製品の製造方法は、上記ゴム組成物を配合しさえすれば特に限定されない。上記ゴム組成物は、そのまま使用してもよく加硫してから使用してもよい。
【実施例
【0074】
以下に、実施例及び比較例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0075】
[実施例1]
内容積10リットルの重合缶に、クロロプレン単量体480g、ベンジル1-ピロールカルボジチオエート(慣用名:ベンジルピロールジチオカルバメート)5.2g、純水4000g、不均化ロジン酸カリウム(ハリマ化成社製)160g、水酸化ナトリウム9.2g、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(商品名デモールN:花王社製)20gを添加した。重合開始剤として過硫酸カリウム0.60gを添加し、重合温度35℃にて窒素気流下で重合を行った。初期単量体の重合率30%となった時点で、クロロプレン単量体3520gを2時間かけて追添加し、最終重合率が70%となった時点で重合停止剤であるジエチルヒドロキシアミン(使用したクロロプレン単量体100質量部に対し0.02質量部)を加えて重合を停止させた。減圧蒸留して未反応の単量体を除去した後、希酢酸を用いて、クロロプレン系重合体を含むクロロプレンラテックスのpHを7.0に調整した。そして、凍結凝固乾燥法により、固形状のクロロプレン系重合体(クロロプレンゴム)を得た。凍結凝固乾燥法では、具体的には、-20℃に冷やした金属板上にラテックスを注ぎ、凍結凝固させることで乳化破壊し、得られたシートを水洗した後、130℃で15分間乾燥させることにより、固体状のクロロプレン系重合体を得た。
【0076】
[分子量の測定]
得られたクロロプレン系重合体、及び、途中のサンプリングで得られた重合体又は共重合体の数平均分子量Mn、質量平均分子量Mw、及び分子量分布(Mw/Mn)は、THFでサンプル調整濃度0.1質量%とした後、TOSOH HLC-8320GPCにより測定した(標準ポリスチレン換算)。その際、プレカラムとしてTSKガードカラムHHR-H、分析カラムとしてHSKgelGMHHR-H3本を使用し、サンプルポンプ圧8.0~9.5MPa、流量1mL/min、40℃で流出させ、示差屈折計で検出した。流出時間と分子量は、以下にあげる分子量既知の標準ポリスチレンサンプル計9点を測定して作成した校正曲線を用いた。(Mw=8.42×10、1.09×10、7.06×10、4.27×10、1.90×10、9.64×10、3.79×10、1.74×10、2.63×10
【0077】
[1H-NMR測定による、連鎖移動剤[CTA]由来の官能基の分析]
得られたクロロプレン系重合体の連鎖移動剤[CTA]由来の官能基の分析は以下のように行った。得られたクロロプレン系重合体をベンゼンとメタノールで精製し、再度凍結乾燥して測定用試料を得た。クロロプレン系重合体30mgを重クロロホルム1mlに溶解し、JEOL製ECX400(400MHz)を使用し、30℃で1H-NMRを測定した。実施例1で得られたクロロプレン系重合体の1H-NMRスペクトルを図1に示す。用いた連鎖移動剤[CTA](ベンジル1-ピロールカルボジチオエート)由来のピーク(図1中、a及びbで示すピーク)が明瞭に観察された。同定された官能基の構造は、下記表に示した。
【0078】
[実施例2]
実施例1のベンジル1-ピロールカルボジチオエート(慣用名:ベンジルピロールジチオカルバメート)を5.0g、過硫酸カリウムを0.58gに変更した以外は、実施例1と同様の手順により実施例2のクロロプレンゴムを得た。
【0079】
[実施例3]
実施例1のベンジル1-ピロールカルボジチオエート(慣用名:ベンジルピロールジチオカルバメート)を3.2g、過硫酸カリウムを0.37gに変更し、最終重合率を80%とした以外は、実施例1と同様の手順により実施例3のクロロプレンゴムを得た。
【0080】
[実施例4]
実施例1のベンジル1-ピロールカルボジチオエート(慣用名:ベンジルピロールジチオカルバメート)の代わりにブチルベンジルトリチオカルボネートを5.52g添加し、過硫酸カリウムを0.64gに変更した以外は、実施例1と同様の手順により実施例4のクロロプレンゴムを得た。
【0081】
[実施例5]
実施例1のベベンジル1-ピロールカルボジチオエート(慣用名:ベンジルピロールジチオカルバメート)の代わりにジベンジルトリチオカルボネートを6g添加し、過硫酸カリウムを0.69gに変更した以外は、実施例1と同様の手順により実施例5のクロロプレンゴムを得た。
【0082】
[実施例6]
実施例1の初期のクロロプレン単量体を400gに、追添加するクロロプレン単量体を3600gとし、最終重合率を65%に変更した以外は、実施例1と同様の手順により実施例6のクロロプレンゴムを得た。
【0083】
[実施例7]
実施例1の最終重合率を95%に変更した以外は、実施例1と同様の手順により実施例7のクロロプレンゴムを得た。
【0084】
[実施例8]
実施例1の初期に仕込む単量体をクロロプレン単量体380g及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン単量体200gとし、追添加する単量体をクロロプレン単量体3400gとし、ベンジル1-ピロールカルボジチオエート(慣用名:ベンジルピロールジチオカルバメート)を4.8gとし、過硫酸カリウムを0.56gとし、最終重合率を65%に変更した以外は、実施例1と同様の手順により実施例8のクロロプレンゴムを得た。
【0085】
[実施例9]
実施例1の初期に仕込む単量体をクロロプレン単量体320g及びスチレン単量体600gとし、追添加する単量体をクロロプレン単量体3600gとし、最終重合率を85%に変更した以外は、実施例1と同様の手順により実施例9のクロロプレンゴムを得た。
【0086】
[実施例10]
実施例1の初期に仕込む単量体をクロロプレン単量体320g、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン単量体を160g及びスチレン単量体480gとし、追添加する単量体をクロロプレン単量体3040gとし、最終重合率を85%に変更した以外は、実施例1と同様の手順により実施例10のクロロプレンゴムを得た。
【0087】
[実施例11]
実施例1の初期に仕込む単量体をクロロプレン単量体320g及びn-ブチルアクリレート単量体800gとし、追添加する単量体をクロロプレン単量体2980gに変更した以外は、実施例1と同様の手順により実施例11のクロロプレンゴムを得た。
【0088】
[実施例12]
実施例1の初期に仕込む単量体をクロロプレン単量体600g及びアクリロニトリ単量体1200gとし、追添加する単量体をクロロプレン単量体2200gに変更した以外は、実施例1と同様の手順により実施例12のクロロプレンゴムを得た。
【0089】
[比較例1]
内容積10リットルの重合缶に、クロロプレン単量体4000g、ジエチルキサントゲンジスルフィド16g、純水4000g、不均化ロジン酸カリウム(ハリマ化成社製)160g、水酸化ナトリウム9.2g、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(デモールN:花王社製)20gを添加した。重合開始剤として2%過硫酸カリウム水溶液を添加し、重合温度35℃にて窒素気流下で重合を行った。重合率が70%となった時点で重合停止剤であるジエチルヒドロキシアミンを加えて重合を停止させた。減圧蒸留して未反応の単量体を除去した後、希酢酸を用いて、クロロプレン系重合体(クロロプレンラテックス)のpHを7.0に調整した。そして、凍結凝固乾燥法により、クロロプレンゴムを得た。
【0090】
[比較例2]
比較例1のジエチルキサントゲンジスルフィドをドデシルメルカプタン8.8gに変更した以外は、比較例1と同様の手順により比較例2のクロロプレンゴムを得た。
【0091】
[比較例3]
実施例1の最終重合率を47%に変更した以外は、実施例1と同様の手順により比較例3のクロロプレンゴムを得た。
【0092】
[比較例4]
実施例1のベンジル1-ピロールカルボジチオエート(慣用名:ベンジルピロールジチオカルバメート)を3.2g、過硫酸カリウムを0.37gに変更し、初期単量体の重合率が80%となった時点で、クロロプレン単量体を追添加した以外は、実施例1と同様の手順により比較例4のクロロプレンゴムを得た。
【0093】
[重合率の計算]
重合開始からある時刻までの重合率は、クロロプレンゴムラテックスを加熱風乾することで乾燥重量(固形分濃度)から算出した。具体的には、以下の式(III)より計算した。式(III)中、固形分濃度は、サンプリングした乳化重合液2gを130℃中で加熱して溶媒(水)、揮発性薬品、及び原料を除き、加熱前後の重量変化から揮発分を除いた固形分の濃度(質量%)である。総仕込み量及び蒸発残分は重合処方より計算した。総仕込み量とは、重合開始からある時刻までに重合缶に仕込んだ原料、試薬、溶媒(水)の総量である。蒸発残分とは、重合開始からある時刻までに仕込んだ薬品及び原料のうち、130℃の条件下で揮発せずに重合体と共に固形分として残留する薬品の重量を表す。単量体仕込み量は、重合缶に初期に仕込んだ単量体及び重合開始からある時刻までに分添した単量体の量の合計である。なお、クロロプレン単量体と他の単量体との共重合の場合は、単量体仕込み量はこれらの合計量である。
【0094】
重合率[%]={(総仕込み量[g]×固形分濃度[質量%]/100)-(蒸発残分[g])}/単量体仕込み量[g]×100・・・(III)
【0095】
[共重合体の組成の求め方]
2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン、スチレン、及びn-ブチルアクリレートの各ユニットの共重合体中の含量は、1H-NMR測定による公知の方法により求めた。アクリロニトリルユニットの含量は、化学分析により求めた窒素原子の含有量から算出した。
【0096】
[ムーニー粘度の測定]
クロロプレンゴムについて、JIS K6300に準拠し、100℃におけるムーニー粘度を測定した。
【0097】
[加硫ゴムの作製]
上記クロロプレンゴム100質量部に、ステアリン酸1質量部、オクチル化ジフェニルアミン2質量部、酸化マグネシウム4質量部、カーボンブラック(SRF)40質量部、酸化亜鉛5.0質量部を添加して、8インチロールを用いて混合し、160℃で20分間プレス架橋して加硫ゴムを作製した。
【0098】
[引張強度及び破断伸びの測定]
得られた加硫ゴムから厚さ2mmの加硫シートのテストピースを作製し、JIS K6251に基づいて引張試験を行い、加硫ゴムの引張強度(MPa)及び破断伸び(%)を測定した。
【0099】
[硬度]
得られた加硫ゴムについて、JIS K6253に基づいて試験を行い、硬度を測定した。
【0100】
[デマッチャ屈曲疲労試験]
得られた加硫ゴムについて、JIS K6260のデマッチャ屈曲疲労試験に準拠して、ストローク58mm、速度300±10rpmの条件下で、亀裂が発生した時点における屈曲試験の回数(単位:万回)を確認することにより、耐久疲労性を評価した。測定は200万回まで実施した。100万回超を合格とした。200万回で亀裂が発生しなかったサンプルについては、表中に200万回と記載した。
【0101】
[接着剤の調整]
アルキルフェノール樹脂(タマノル526:荒川化学工業社製)50質量部と酸化マグネシウム(キョウワマグ#150:協和化学工業社製)3質量部をシクロヘキサン100質量部に溶解させて、室温下、16時間キレート化反応させた。次に、そのシクロヘキサン溶液に対して、クロロプレンゴム100質量部、酸化マグネシウム3質量部、酸化亜鉛質量1部、シクロヘキサン90質量部、メチルエチルケトン190質量部を加え、クロロプレンゴムが完全に溶解するまで混合攪拌し、接着剤を得た。
【0102】
[接着剤の粘度測定]
接着剤を作成後、ブルックフィールド型粘度計を用いて25℃における粘度を測定した。
【0103】
[接着剤の耐層分離性試験]
接着剤をガラス製容器に入れ、遮光下、23℃の恒温水槽中に貯蔵した。8週間にわたり接着剤の外観観察を実施し、接着剤成分の分離が見られた週を記録し、6週間以上を合格とした。
【0104】
[常態接着剥離強度]
帆布(25mm×150mm)2枚それぞれに、実施例及び比較例の各接着剤を3000g/m塗布した。その後、オープンタイムを30分として、ハンドローラーで5往復した。そして、セットタイム1日後の初期強度と、10日後の常態強度を50mm/minの引張強度で測定した。
【0105】
[耐熱接着剥離強度]
帆布(25mm×150mm)2枚それぞれに、実施例及び比較例の各接着剤を3000g/m塗布した。その後、オープンタイムを30分として、ハンドローラーで5往復した。そして、セットタイム10日後の被着体を、80℃の恒温槽付きの引張試験機で50mm/minの条件で剥離強度を測定した。
【0106】
[軟化点試験]
帆布(25mm×150mm)2枚それぞれに、実施例及び比較例の各接着剤を3000g/m塗布した。その後、オープンタイムを30分として、ハンドローラーで5往復した。そして、セットタイム10日後の試験体を、500gの重りを吊り下げた状態で試験装置内にセットし、試験装置内を38℃雰囲気下で15分間保持後、5分間に2℃の割合で昇温し、重りが落下する温度を測定した。
【0107】
以上の結果を表1及び2にまとめて示す。表中、「質量部」は全単量体量を100質量部とした場合の割合を示している。
【0108】
【表1】
【0109】
【表2】
【0110】
各実施例及び比較例で得られたクロロプレン系重合体には、1H-NMR測定により、表中に示す連鎖移動剤[CTA]由来の官能基が検出された。
【0111】
実施例のクロロプレンゴムから得られた加硫ゴムは、比較例よりも耐久疲労性に優れていた。また、実施例の加硫ゴムの引張強度及び破断伸びは比較例と比較して同等かやや上回る程度であり、実施例の加硫ゴムの硬度は比較例と同等であった。これらの結果から、本発明のクロロプレンゴムは、ゴム物性に影響を与えることなく加硫ゴムの耐久疲労性を向上可能であることが確認された。
【0112】
実施例のクロロプレンゴムから得られた接着剤は、比較例よりも耐層分離性に優れていた。また、実施例の加硫ゴムの常態接着剥離強度、耐熱接着剥離強度及び軟化点は比較例と同等であった。これらの結果から、本発明のクロロプレンゴムは、接着物性に影響を与えることなく接着剤の耐層分離性を向上可能であることが確認された。
【0113】
比較例1及び2のクロロプレンゴムは、上記一般式(1)又は(2)で表される構造の官能基を有しなかった。比較例3のクロロプレンゴムは数平均分子量が15万未満であった。これらの比較例から得られた加硫ゴムは耐久疲労性に劣り、接着剤は耐層分離性が低かった。数平均分子量が30万超であった比較例4のクロロプレンゴムは、粘度が高いために、配合物が固くなり均一な成形体を成形できず、加硫ゴムに加工することができなかった。また、比較例4の接着剤は耐層分離性が低かった。
【0114】
本発明は、以下のような形態もとることができる。
〔1〕数平均分子量Mnが15~30万であり、下記一般式(1)又は(2)で表される構造の官能基を有するクロロプレン系重合体。
【化10】
【化11】
(一般式(1)中、Rは、水素、塩素、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は置換もしくは無置換のヘテロシクリル基を示す。)
〔2〕上記一般式(1)で表される構造の官能基を有する、〔1〕に記載のクロロプレン系重合体。
〔3〕重量平均分子量Mwと前記数平均分子量Mnとの比である分子量分布Mw/Mnが1.5~5.0である〔1〕又は〔2〕に記載のクロロプレン系重合体。
〔4〕クロロプレン単量体の単独重合体である〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載のクロロプレン系重合体。
〔5〕クロロプレン単量体及び該クロロプレン単量体と共重合可能な単量体からなる統計的共重合体である〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載のクロロプレン系重合体。
〔6〕前記クロロプレン単量体と共重合可能な単量体が、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン、1-クロロ-1,3-ブタジエン、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリルアミド、不飽和ニトリル及び芳香族ビニル化合物からなる群より選択される少なくとも1種である〔5〕に記載のクロロプレン系重合体。
〔7〕前記〔1〕~〔6〕のいずれか1つに記載のクロロプレン系重合体を得るための製造方法であり、
全単量体100質量部に対し、下記一般式(3)又は(4)で表される連鎖移動剤を添加して、重合開始時における前記全単量体と前記連鎖移動剤との物質量の比[M]/[CTA]を5/1~500/1とした溶液(A)と、乳化剤0.1~10質量%の水溶液(B)500~5000質量部と、を混合し乳化した後、ラジカル重合を行い、重合率20~50%に到達した時に、クロロプレン単量体単独、又はクロロプレン単量体及びクロロプレン単量体と共重合可能な単量体100~5000質量部を追添加する、クロロプレン系重合体の製造方法。
【化12】
【化13】
(一般式(3)中、Rは、水素、塩素、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は置換もしくは無置換のヘテロシクリル基を示す。一般式(3)及び(4)中、R3~5はそれぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換の飽和、不飽和もしくは芳香族の炭素環、置換もしくは無置換の飽和、不飽和もしくは芳香族の複素環、有機金属種、又は任意の重合体鎖を示す。)
〔8〕前記追添加後の最終重合率が50%以上である、〔7〕に記載のクロロプレン系重合体の製造方法。
〔9〕上記一般式(3)で表される連鎖移動剤を添加する、〔7〕又は〔8〕に記載のクロロプレン系重合体の製造方法。
〔10〕前記〔1〕~〔6〕のいずれか1つに記載のクロロプレン系重合体を含む組成物。
〔11〕更に、天然ゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム及びエチレンプロピレンゴムからなる群より選択される少なくとも1種を含む〔10〕に記載の組成物。
〔12〕前記〔10〕又は〔11〕に記載の組成物を含む接着剤組成物。
〔13〕前記〔12〕に記載の接着剤組成物を含む接着剤。
〔14〕耐層分離性が8週間以上である〔12〕に記載の接着剤組成物又は〔13〕に記載の接着剤。
〔15〕前記〔10〕又は〔11〕に記載の組成物を含む加硫ゴム。
〔16〕デマッチャ屈曲疲労試験を100万回実施した時点で亀裂がない〔15〕に記載の加硫ゴム。
〔17〕前記〔15〕又は〔16〕に記載の加硫ゴムを使用した防振ゴム、ベルト、オーバヘッドビークル向け部品、免震ゴム、ホース、ワイパー、浸漬製品、シール部品、ブーツ、ゴム引布、ゴムロール又はスポンジ製品。
〔18〕前記〔1〕~〔6〕のいずれか1つに記載のクロロプレン系重合体を含むラテックス。
〔19〕接着剤用又は加硫ゴム用である〔18〕に記載のラテックス。
図1