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特許6998969(S)-2-((2-((S)-4-(ジフルオロメチル)-2-オキソオキサゾリジン-3-イル)-5,6-ジヒドロベンゾ[F]イミダゾ[1,2-D][1,4]オキサゼピン-9-イル)アミノ)プロパンアミドの多形体及び固体形態と、生産方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-23
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】(S)-2-((2-((S)-4-(ジフルオロメチル)-2-オキソオキサゾリジン-3-イル)-5,6-ジヒドロベンゾ[F]イミダゾ[1,2-D][1,4]オキサゼピン-9-イル)アミノ)プロパンアミドの多形体及び固体形態と、生産方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 498/04 20060101AFI20220203BHJP
   A61K 31/553 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20220203BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
C07D498/04 116
C07D498/04 CSP
A61K31/553
A61P35/00
A61P35/02
A61K9/20
【請求項の数】 29
(21)【出願番号】P 2019558502
(86)(22)【出願日】2018-04-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-06-18
(86)【国際出願番号】 EP2018060820
(87)【国際公開番号】W WO2018197653
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2019-12-24
(31)【優先権主張番号】62/491,812
(32)【優先日】2017-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】306021192
【氏名又は名称】エフ・ホフマン-ラ・ロシュ・アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】チャクラバルティー, パロマ
(72)【発明者】
【氏名】ハン, チョン
(72)【発明者】
【氏名】ケリー, ショーン エム.
(72)【発明者】
【氏名】ナガプディ, カルティク
(72)【発明者】
【氏名】サベージ, スコット
【審査官】安藤 倫世
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/001645(WO,A1)
【文献】平山令明編,有機化合物結晶作製ハンドブック -原理とノウハウ-,丸善株式会社,2008年07月25日,p.57-84
【文献】小嶌隆史,医薬品開発における結晶形選択の効率化を目指して,薬剤学,2008年09月01日,vol.68, no.5,pp.344-349,ISSN 0372-7629
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2シータで表して概ね5.7、11.4、及び19.0度に特徴的ピークを有するX線粉体回折パターンを呈する、(S)-2-((2-((S)-4-(ジフルオロメチル)-2-オキソオキサゾリジン-3-イル)-5,6-ジヒドロベンゾ[f]イミダゾ[1,2-d][1,4]オキサゼピン-9-イル)アミノ)プロパンアミドの結晶質無水物多形体であって、図4
に示されるX線粉体回折パターンを特徴とする、結晶質無水物多形体。
【請求項2】
2シータで表して概ね5.7、11.4、及び19.0度に特徴的ピークを有するX線粉体回折パターンを呈する、(S)-2-((2-((S)-4-(ジフルオロメチル)-2-オキソオキサゾリジン-3-イル)-5,6-ジヒドロベンゾ[f]イミダゾ[1,2-d][1,4]オキサゼピン-9-イル)アミノ)プロパンアミドの結晶質無水物多形体であって、表2
に示されるX線粉体回折ピークを特徴とする、結晶質無水物多形体。
【請求項3】
2シータで表して概ね5.7、11.4、及び19.0度に特徴的ピークを有するX線粉体回折パターンを呈する、(S)-2-((2-((S)-4-(ジフルオロメチル)-2-オキソオキサゾリジン-3-イル)-5,6-ジヒドロベンゾ[f]イミダゾ[1,2-d][1,4]オキサゼピン-9-イル)アミノ)プロパンアミドの結晶質無水物多形体であって、示差走査熱量測定(DSC)が212から215℃に融解吸熱を示す、結晶質無水物多形体。
【請求項4】
示差走査熱量測定(DSC)が概ね214℃に融解吸熱を示す、請求項1からのいずれか一項に記載の結晶質無水物多形体。
【請求項5】
2シータで表して概ね5.7、11.4、及び19.0度に特徴的ピークを有するX線粉体回折パターンを呈する、(S)-2-((2-((S)-4-(ジフルオロメチル)-2-オキソオキサゾリジン-3-イル)-5,6-ジヒドロベンゾ[f]イミダゾ[1,2-d][1,4]オキサゼピン-9-イル)アミノ)プロパンアミドの結晶質無水物多形体であって、図7A
に示される13C SSNMR(固体核磁気共鳴)スペクトルを特徴とする、結晶質無水物多形体。
【請求項6】
2シータで表して概ね5.7、11.4、及び19.0度に特徴的ピークを有するX線粉体回折パターンを呈する、(S)-2-((2-((S)-4-(ジフルオロメチル)-2-オキソオキサゾリジン-3-イル)-5,6-ジヒドロベンゾ[f]イミダゾ[1,2-d][1,4]オキサゼピン-9-イル)アミノ)プロパンアミドの結晶質無水物多形体であって、図7B
に示される19F SSNMR(固体核磁気共鳴)スペクトルを特徴とする、結晶質無水物多形体。
【請求項7】
2シータで表して概ね5.4、10.5、及び25.2度に特徴的ピークを有するX線粉体回折パターンを呈する、(S)-2-((2-((S)-4-(ジフルオロメチル)-2-オキソオキサゾリジン-3-イル)-5,6-ジヒドロベンゾ[f]イミダゾ[1,2-d][1,4]オキサゼピン-9-イル)アミノ)プロパンアミドの結晶質三水和物多形体。
【請求項8】
図12C
に示されるX線粉体回折パターンを特徴とする、請求項に記載の結晶質三水和物多形体。
【請求項9】
表2A
に示されるX線粉体回折ピークを特徴とする、請求項に記載の結晶質三水和物多形体。
【請求項10】
治療的有効量の、請求項1からのいずれか一項に記載の結晶質無水物多形体、及び薬学的に許容される担体、流動促進剤、希釈剤、又は添加剤を含む薬学的組成物。
【請求項11】
治療的有効量の、請求項からのいずれか一項に記載の結晶質三水和物多形体、及び薬学的に許容される担体、流動促進剤、希釈剤、又は添加剤を含む薬学的組成物。
【請求項12】
錠剤の形態の、請求項10又は11に記載の薬学的組成物。
【請求項13】
治療的有効量が1から100mgである、請求項10から12のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項14】
治療的有効量が3mgから15mg又は9mgである、請求項13に記載の薬学的組成物。
【請求項15】
結晶質無水物多形体又は結晶質三水和物多形体が粉砕されている、請求項10から14のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項16】
結晶質多形体を調製するための方法であって、エタノール又はn-プロパノール中、(S)-2-((2-((S)-4-(ジフルオロメチル)-2-オキソオキサゾリジン-3-イル)-5,6-ジヒドロベンゾ[f]イミダゾ[1,2-d][1,4]オキサゼピン-9-イル)アミノ)プロパンアミドのスラリーを加熱することと、次いで混合物を冷却することとを含み、それにより、2シータで表して概ね5.7、11.4、17.2、19.0、19.7、及び24.4度に特徴的ピークを有するX線粉体回折パターンを呈する結晶質無水物多形体が形成される方法。
【請求項17】
エタノール又はn-プロパノールが水と一緒に使用される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
エタノール又はn-プロパノールが水なしで使用される、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
40%未満の水の存在下において、エタノール中、(S)-2-((2-((S)-4-(ジフルオロメチル)-2-オキソオキサゾリジン-3-イル)-5,6-ジヒドロベンゾ[f]イミダゾ[1,2-d][1,4]オキサゼピン-9-イル)アミノ)プロパンアミドのスラリーを加熱することを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
混合物に結晶質(S)-2-((2-((S)-4-(ジフルオロメチル)-2-オキソオキサゾリジン-3-イル)-5,6-ジヒドロベンゾ[f]イミダゾ[1,2-d][1,4]オキサゼピン-9-イル)アミノ)プロパンアミドを蒔く(seed)ことをさらに含む、請求項16から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
混合物に結晶質THF溶媒和物としての結晶質(S)-2-((2-((S)-4-(ジフルオロメチル)-2-オキソオキサゾリジン-3-イル)-5,6-ジヒドロベンゾ[f]イミダゾ[1,2-d][1,4]オキサゼピン-9-イル)アミノ)プロパンアミドを蒔くことをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
2シータで表して概ね5.4、10.5、及び25.2度に特徴的ピークを有するX線粉体回折パターンを呈する、(S)-2-((2-((S)-4-(ジフルオロメチル)-2-オキソオキサゾリジン-3-イル)-5,6-ジヒドロベンゾ[f]イミダゾ[1,2-d][1,4]オキサゼピン-9-イル)アミノ)プロパンアミドの結晶質三水和物多形体を調製するための方法であって、水中で(S)-2-((2-((S)-4-(ジフルオロメチル)-2-オキソオキサゾリジン-3-イル)-5,6-ジヒドロベンゾ[f]イミダゾ[1,2-d][1,4]オキサゼピン-9-イル)アミノ)プロパンアミドをスラリー化することを含む、方法
【請求項23】
DI水中、4日間、室温で、請求項1から6のいずれか一項に記載の結晶質無水物多形体をスラリー化することを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
がんの治療を必要とする対象におけるがんの治療のための医薬であって、有効量の、請求項1からのいずれか一項に記載の結晶質無水物多形体、請求項7から9のいずれか一項に記載の結晶質三水和物多形体、又は請求項10から15のいずれか一項に記載の薬学的組成物を含む医薬。
【請求項25】
がんが、PIK3CA変異を発現する、HR陽性及びHER2陰性乳がんである、請求項24に記載の医薬。
【請求項26】
一又は複数の追加の治療剤をさらに含む、請求項24に記載の医薬。
【請求項27】
がんの治療のための医薬の調製における、請求項1からのいずれか一項に記載の結晶質無水物多形体、請求項7から9のいずれか一項に記載の結晶質三水和物多形体、又は請求項10から15のいずれか一項に記載の薬学的組成物の使用。
【請求項28】
がんが、PIK3CA変異を発現する、HR陽性及びHER2陰性乳がんである、請求項27に記載の使用。
【請求項29】
医薬が、一又は複数の追加の治療剤をさらに含む、請求項27に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年4月28日に出願された米国仮許出願第62/491812号の優先権の利益を主張し、その出願の内容全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本発明は、(S)-2-((2-((S)-4-(ジフルオロメチル)-2-オキソオキサゾリジン-3-イル)-5,6-ジヒドロベンゾ[f]イミダゾ[1,2-d][1,4]オキサゼピン-9-イル)アミノ)プロパンアミドと名付けられるPI3K阻害剤化合物GDC-0077の多形形態に関する。本発明は、GDC-0077の多形形態を得るためのプロセスにも関する。
【背景技術】
【0003】
ホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K)は、イノシトール環の3-ヒドロキシル残基において脂質をリン酸化する脂質キナーゼである(Whitman et al (1988)Nature, 332:664)。PI3-キナーゼによって生成される3-リン酸化リン脂質(PIP3)は、Akt及びホスホイノシチド依存性キナーゼ-1(PDK1)といった、脂質結合ドメイン(プレクストリン相同(PH)ドメインを含む)を有するキナーゼを補充するセカンドメッセンジャーとして機能する。Aktの膜PIP3に対する結合は、Aktの原形質膜への転位置を引き起こし、Aktを、Aktの活性化を担うPDK1に接触させる。腫瘍抑制ホスホターゼ、PTENは、PIP3を脱リン酸化し、したがってAkt活性化の負の制御因子として機能する。PI3-キナーゼであるAkt及びPDK1は、細胞の周期制御、増殖、生存、アポトーシス及び運動性を含む多くの細胞プロセスの制御において重要であり、がん、糖尿病及び免疫性炎症といった疾病の分子機構の重要な成分である(Vivanco et al (2002)Nature Rev.Cancer 2:489; Phillips et al (1998) Cancer 83:41)。
【0004】
がんの主要なPI3-キナーゼアイソフォームはクラスIのPI3-キナーゼであるp110α(アルファ)である(米国特許第5824492号;同第5846824号;同第6274327号)。他のアイソフォームは、心臓血管の疾患及び免疫-炎症性疾患に関与している(Workman P (2004)Biochem Soc Trans 32:393-396; Patel et al (2004)Proceedings of the American Association of Cancer Research (Abstract LB-247)95th Annual Meeting, March 27-31, Orlando, Florida, USA; Ahmadi K and Waterfield MD (2004)Encyclopedia of Biological Chemistry (Lennarz W J, Lane M D eds) Elsevier/Academic Press)。PI3キナーゼ/Akt/PTEN経路は、このような調節剤又は阻害剤が増殖を阻害し、アポトーシスの抑制を無効にし、且つがん細胞における細胞傷害性薬剤に対する抵抗に打ち勝つと考えられることから、がん治療薬の開発の魅力的な標的である(Folkes et al (2008)J. Med. Chem. 51:5522-5532; Yaguchi et al (2006)Jour. of the Nat. Cancer Inst. 98(8): 545 -556)。PI3K-PTEN-AKTシグナル伝達経路は、多岐にわたるがんにおいて調節解除される(Samuels Y, et al. (2004)Science 304 (5670):554; Carpten J, et al (2007)Nature; 448:439-444)。
【0005】
IUPAC名:(S)-2-((2-((S)-4-(ジフルオロメチル)-2-オキソオキサゾリジン-3-イル)-5,6-ジヒドロベンゾ[f]イミダゾ[1,2-d][1,4]オキサゼピン-9-イル)アミノ)プロパンアミドによっても知られるGDC-0077は、強力なPI3K活性を有し(国際公開第2017/001645号、米国特許出願公開第2017/0015678号、Edgar K. et al, #156, “Preclinical characterization of GDC-0077, a specific PI3K alpha inhibitor in early clinical development”、及びStaben. S. #DDT02-0 “Discovery of GDC-0077, a highly isoform selective inhibitor of PI3Kalpha that promotes selective loss of mutant-p110alpha”, American Assoc. for Cancer Res. (AACR)annual meeting, April 2, 2017, Washington DC)、局所進行固形腫瘍又は転移性固形腫瘍を有する患者において研究されている。
【0006】
原体の異なる固体状態特性を有する複数の結晶形態は、バイオアベイラビリティ、貯蔵寿命及び処理中の挙動に相違を呈しうる。粉体X線回折は、それぞれに固有の回折パターンにより異なる結晶相を同定するうえで強力なツールである。
【0007】
製薬産業は、往々にして、同じ結晶化学エンティティの複数多形体の現象に直面する。多型は、多くの場合、原体、即ち医薬品有効成分(API)が、結晶に異なる物理化学特性を与える結晶格子内に分子の異なる構成及び/又はコンホーメーションを有する二つ以上の結晶相として存在できることを特徴とする。選択される多形形態を安定して製造できることは、医療品の奏功を決定づけるうえで重要な因子である。
【0008】
世界中の規制機関が、原体の多形体を同定し、多形体の相互変質をチェックするために、合理的な努力を要している。多形体の時に予測不能な挙動と、それぞれの物理化学特性の相違に起因して、同じ製品のバッチ間に製造の一貫性が実証されなければならない。多形体の概要及び製剤の多形体の性質を適切に理解することが、製造一貫性に寄与するであろう。
【0009】
原子レベルでの結晶構造の決定及び分子間相互作用は、絶対配置(光学異性体)、相の同定、品質管理、及びプロセス開発の制御と最適化を確立するために重要な情報を提供する。X線回折は、固型製剤の結晶構造分析及び結晶形態同定のための信頼できるツールとして広く認識されている。
【0010】
構造決定のスピード及び精度のために、単結晶の原体が入手できることが好ましい。しかしながら、データ収集のために適切な大きさの結晶を得ることは、常に可能とは限らない。そのような場合、結晶構造は、周囲条件及び/又は可変の温度若しくは湿度における測定により得られたX線粉体回折データから解くことができる。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、(S)-2-((2-((S)-4-(ジフルオロメチル)-2-オキソオキサゾリジン-3-イル)-5,6-ジヒドロベンゾ[f]イミダゾ[1,2-d][1,4]オキサゼピン-9-イル)アミノ)プロパンアミドと名付けられたPI3K阻害剤GDC-0077の多形形態(CAS Registry Number 2060571-02-8、Genentech,Inc.)、に関し、この形態は、式I:
の構造、又はその立体異性体、幾何異性体、互変異性体、及び薬学的に許容される塩を含む。
【0012】
本発明の一態様は、GDC-0077の多形形態の薬学的組成物である。
【0013】
本発明の一態様は、GDC-0077の多形形態を用いて哺乳動物の過剰増殖性障害を治療する方法である。
【0014】
本発明の一態様は、GDC-0077の結晶質多形体を調製するプロセスである。
【0015】
本発明の一態様は、形態A多形体と命名される(S)-2-((2-((S)-4-(ジフルオロメチル)-2-オキソオキサゾリジン-3-イル)-5,6-ジヒドロベンゾ[f]イミダゾ[1,2-d][1,4]オキサゼピン-9-イル)アミノ)プロパンアミドの結晶質無水物多形体であり、2シータで表して概ね5.7度に特徴的ピークを有するX線粉体回折パターンを呈する。いくつかの実施態様では、形態A多形体は、2シータで表して概ね5.7、11.4、及び19.0度に特徴的ピークを有するX線粉体回折パターンを呈する。いくつかの実施態様では、形態A多形体は、2シータで表して概ね5.7、11.4、17.2、19.0、19.7、及び24.4度に特徴的ピークを有するX線粉体回折パターンを呈する。
【0016】
本発明の一態様による、形態A多形体と命名される(S)-2-((2-((S)-4-(ジフルオロメチル)-2-オキソオキサゾリジン-3-イル)-5,6-ジヒドロベンゾ[f]イミダゾ[1,2-d][1,4]オキサゼピン-9-イル)アミノ)プロパンアミドの結晶質無水物多形体は、2シータで表して概ね5.7度に特徴的ピークを有するか;又は2シータで表して概ね5.7、11.4、及び19.0度に特徴的ピークを有するか;又は2シータで表して概ね5.7、11.4、17.2、19.0、19.7、及び24.4度に特徴的ピークを有するCu Kα照射の入射ビームを用いて取得されるX線粉体回折パターンを呈する。
【0017】
本発明の一態様による、形態A多形体と命名される(S)-2-((2-((S)-4-(ジフルオロメチル)-2-オキソオキサゾリジン-3-イル)-5,6-ジヒドロベンゾ[f]イミダゾ[1,2-d][1,4]オキサゼピン-9-イル)アミノ)プロパンアミドの結晶質無水物多形体は、2シータで表して概ね5.7度に特徴的ピークを有するか;又は2シータで表して概ね5.7、11.4、及び19.0度に特徴的ピークを有するか;又は2シータで表して概ね5.7、11.4、17.2、19.0、19.7、及び24.4度に特徴的ピークを有する、クロスビームオプティクス(40kV×44mA)を用いて生成されたCu Kα(1.541904Å)照射の入射ビームを用いて取得されるX線粉体回折パターンを呈する。
【0018】
本発明の一態様は、実質的に図4に示されるX線粉体回折パターンを特徴とする、本明細書に記載される形態A多形体である。
【0019】
本発明の一態様は、実質的に表2に示されるX線粉体回折パターンを特徴とする、本明細書に記載される形態A多形体である。
【0020】
本発明の一態様は、示差走査熱量測定(DSC)が概ね212から215℃に融解吸熱を示す、本明細書に記載される形態A多形体である。
【0021】
本発明の一態様は、示差走査熱量測定(DSC)が概ね214℃に融解吸熱を示す、本明細書に記載される形態A多形体である。
【0022】
本発明の一態様は、実質的にa図7Aに示される13C SSNMR(固体核磁気共鳴)スペクトルを特徴とする、本明細書に記載される形態A多形体である。
【0023】
本発明の一態様は、実質的に図7Bに示される19F SSNMR(固体核磁気共鳴)スペクトルを特徴とする、本明細書に記載される形態A多形体である。
【0024】
本発明の一態様は、形態D多形体と命名される(S)-2-((2-((S)-4-(ジフルオロメチル)-2-オキソオキサゾリジン-3-イル)-5,6-ジヒドロベンゾ[f]イミダゾ[1,2-d][1,4]オキサゼピン-9-イル)アミノ)プロパンアミドの結晶質無水物多形体であり、2シータで表して概ね7.5、10.8、16.8、及び20.4度に特徴的ピークを有するX線粉体回折パターンを呈する。いくつかの実施態様では、形態D多形体は、2シータで表して概ね7.5、8.6、10.8、16.8、19.2、及び20.4度に特徴的ピークを有するX線粉体回折パターンを呈する。いくつかの実施態様では、本明細書に記載される形態D多形体は、図15Aに示されるX線粉体回折パターンを特徴とする。いくつかの実施態様では、本明細書に記載される形態D多形体は、表3に示されるX線粉体回折ピークを特徴とする。
【0025】
本発明の一態様による、形態D多形体と命名される(S)-2-((2-((S)-4-(ジフルオロメチル)-2-オキソオキサゾリジン-3-イル)-5,6-ジヒドロベンゾ[f]イミダゾ[1,2-d][1,4]オキサゼピン-9-イル)アミノ)プロパンアミドの結晶質無水物多形体は、2シータで表して概ね7.5、10.8、16.8、及び20.4度に特徴的ピークを有するか;又は2シータで表して概ね7.5、8.6、10.8、16.8、19.2、及び20.4度に特徴的ピークを有するCu Kα照射の入射ビームを用いて取得されるX線粉体回折パターンを呈する。
【0026】
本発明の一態様による、形態D多形体と命名される(S)-2-((2-((S)-4-(ジフルオロメチル)-2-オキソオキサゾリジン-3-イル)-5,6-ジヒドロベンゾ[f]イミダゾ[1,2-d][1,4]オキサゼピン-9-イル)アミノ)プロパンアミドの結晶質無水物多形体は、2シータで表して概ね7.5、10.8、16.8、及び20.4度に特徴的ピークを有するか;又は2シータで表して概ね7.5、8.6、10.8、16.8、19.2、及び20.4度に特徴的ピークを有するクロスビームオプティクス(40kV×44mA)を用いて生成される、Cu Kα(1.541904Å)照射の入射ビームを用いたX線粉体回折パターンを呈する。
【0027】
本発明の一態様は、形態B多形体と命名される(S)-2-((2-((S)-4-(ジフルオロメチル)-2-オキソオキサゾリジン-3-イル)-5,6-ジヒドロベンゾ[f]イミダゾ[1,2-d][1,4]オキサゼピン-9-イル)アミノ)プロパンアミドの結晶質三水和物多形体であり、2シータで表して概ね5.4、10.5、及び25.2度に特徴的ピークを有するX線粉体回折パターンを呈する。いくつかの実施態様では、形態B多形体は、2シータで概ね5.4、10.5、19.5、20.1、21.6、及び25.2度に特徴的ピークを有するX線粉体回折パターンを呈する。いくつかの実施態様では、本明細書に記載される形態B多形体は、図12Cに示されるX線粉体回折パターンを特徴とする。いくつかの実施態様では、本明細書に記載される形態B多形体は、表2Aに示されるX線粉体回折ピークを特徴とする。
【0028】
本発明の一態様による、形態B多形体と命名される(S)-2-((2-((S)-4-(ジフルオロメチル)-2-オキソオキサゾリジン-3-イル)-5,6-ジヒドロベンゾ[f]イミダゾ[1,2-d][1,4]オキサゼピン-9-イル)アミノ)プロパンアミドの結晶質三水和物多形体は、2シータで表して概ね5.4、10.5、及び25.2度に特徴的ピークを有するか;又は2シータで表して概ね5.4、10.5、19.5、20.1、21.6、及び25.2度に特徴的ピークを有するCu Kα照射の入射ビームを用いたX線粉体回折パターンを呈する。
【0029】
本発明の一態様による、形態B多形体と命名される(S)-2-((2-((S)-4-(ジフルオロメチル)-2-オキソオキサゾリジン-3-イル)-5,6-ジヒドロベンゾ[f]イミダゾ[1,2-d][1,4]オキサゼピン-9-イル)アミノ)プロパンアミドの結晶質三水和物多形体は、2シータで表して概ね5.4、10.5、及び25.2度に特徴的ピークを有するか;又は2シータで表して概ね5.4、10.5、19.5、20.1、21.6、及び25.2度に特徴的ピークを有する、クロスビームオプティクス(40kV×44mA)を用いて生成されたCu Kα(1.541904Å)照射の入射ビームを用いたX線粉体回折パターンを呈する。
【0030】
本発明の一態様は、治療的有効量の、上述の形態Aの結晶質無水物多形体、及び薬学的に許容される担体、流動促進剤、希釈剤、又は添加剤を含む薬学的組成物である。
【0031】
本発明の一態様は、治療的有効量の、上述の形態Dの結晶質無水物多形体、及び薬学的に許容される担体、流動促進剤、希釈剤、又は添加剤を含む薬学的組成物である。
【0032】
本発明の一態様は、治療的有効量の、上述の形態Bの結晶質三水和物多形体、及び薬学的に許容される担体、流動促進剤、希釈剤、又は添加剤を含む薬学的組成物である。
【0033】
本発明の一態様は、錠剤の形態の、上述の薬学的組成物である。
【0034】
本発明の一態様は、治療的有効量が約1から約100mgの、上述の薬学的組成物である。
【0035】
本発明の一態様は、結晶質、無水物又は三水和物多形体が粉砕される、上述の薬学的組成物である。
【0036】
本発明の一態様は、結晶質多形体を調製するためのプロセスであり、このプロセスは、エタノール(水あり又は水なし)又はn-プロパノール(水あり又は水なし)中、(S)-2-((2-((S)-4-(ジフルオロメチル)-2-オキソオキサゾリジン-3-イル)-5,6-ジヒドロベンゾ[f]イミダゾ[1,2-d][1,4]オキサゼピン-9-イル)アミノ)プロパンアミドのスラリーを加熱し、次いでこの混合物を冷却することによって、2シータで表して概ね5.7度に特徴的ピークを有するか;又は2シータで表して概ね5.7、11.4、及び19.0度に特徴的ピークを有するか;又は2シータで表して概ね5.7、11.4、17.2、19.0、19.7、及び24.4度に特徴的ピークを有するX線粉体回折パターンを呈する形態A結晶質多形体を形成することを含む。いくつかの実施態様では、プロセスは、40%未満(又は20%未満、又は10%未満)の水の存在下で、エタノール中、GDC-0077のスラリーを加熱し、次いでこの混合物を冷却することによって、形態A多形体を形成することを含む。いくつかの実施態様では、プロセスは、混合物に結晶質GDC-0077(例えば、結晶質THF溶媒和物)を蒔くことをさらに含む。
【0037】
本発明の一態様は、(S)-2-((2-((S)-4-(ジフルオロメチル)-2-オキソオキサゾリジン-3-イル)-5,6-ジヒドロベンゾ[f]イミダゾ[1,2-d][1,4]オキサゼピン-9-イル)アミノ)プロパンアミドの結晶質三水和物多形体を調製するためのプロセスであり、このプロセスは、水(例えば、脱イオン水)中において(S)-2-((2-((S)-4-(ジフルオロメチル)-2-オキソオキサゾリジン-3-イル)-5,6-ジヒドロベンゾ[f]イミダゾ[1,2-d][1,4]オキサゼピン-9-イル)アミノ)プロパンアミドをスラリー化することを含む。いくつかの実施態様では、プロセスは、(S)-2-((2-((S)-4-(ジフルオロメチル)-2-オキソオキサゾリジン-3-イル)-5,6-ジヒドロベンゾ[f]イミダゾ[1,2-d][1,4]オキサゼピン-9-イル)アミノ)プロパンアミドの形態A多形体を、脱イオン水中において4日間室温でスラリー化することを含む。
【0038】
本発明の一態様は、がんの治療を必要とする対象においてがんを治療するための方法であり、この方法は、対象に対し、有効量の、本明細書に詳述されるGDC-0077の結晶質多形体(例えば、結晶質無水物形態A、結晶質無水物形態D、又は結晶質三水和物形態B)、又は本明細書に詳述されるGDC-0077の結晶質多形体(例えば、結晶質無水物形態A、結晶質無水物形態D、又は結晶質三水和物形態B)を含む薬学的組成物、及び薬学的に許容される担体、流動促進剤、希釈剤、又は添加剤を投与することを含む。いくつかの実施態様では、がんは、PIK3CA変異を発現するHR陽性及びHER2陰性乳がんである。いくつかの実施態様では、方法は、一又は複数の追加の治療剤(例えば、フルベストラント、パルボシクリブ及び/又はレトロゾール)をさらに含む。
【0039】
本発明の一態様は、がんの治療における使用のための、本明細書に詳述されるGDC-0077の結晶質多形体(例えば、結晶質無水物形態A、結晶質無水物形態D、又は結晶質三水和物形態B)、又は本明細書に詳述されるGDC-0077の結晶質多形体(例えば、結晶質無水物形態A、結晶質無水物形態D、又は結晶質三水和物形態B)を含む薬学的組成物である。いくつかの実施態様では、がんは、PIK3CA変異を発現するHR陽性及びHER2陰性乳がんである。いくつかの実施態様では、使用のための多形体は、一又は複数の追加の治療剤(例えば、フルベストラント、パルボシクリブ及び/又はレトロゾール)をさらに含む。本発明の一態様は、がんの治療における使用のための医薬の製造における、本明細書に詳述されるGDC-0077の結晶質多形体(例えば、結晶質無水物形態A、結晶質無水物形態D、又は結晶質三水和物形態B)、又は本明細書に詳述されるGDC-0077の結晶質多形体(例えば、結晶質無水物形態A、結晶質無水物形態D、又は結晶質三水和物形態B)を含む薬学的組成物の使用である。いくつかの実施態様では、がんは、PIK3CA変異を発現するHR陽性及びHER2陰性乳がんである。いくつかの実施態様では、使用は、一又は複数の追加の治療剤(例えば、フルベストラント、パルボシクリブ及び/又はレトロゾール)をさらに含む。
【0040】
本発明の一態様は、本明細書に記載される発明である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】出発物質GDC-0077のXRPDパターンを示している。
図2】出発物質GDC-0077のDSC及びTGAトレースを示している。脱溶媒和/気化吸熱及び再結晶吸熱が、それぞれ64及び141℃で起こり(開始)、それに続いて融解吸熱が214℃で起こっている。TGAは、融解事象の前に~2.5% w/wの重量減少を示している。
図3】GDC-0077の96ウェルHTS多形体スクリーニングにおいて得られた、異なる固体形態ヒット、形態1-VIのXRPDパターンを重ねて示している。
図4】無水物形態I(形態A)GDC-0077のXRPDを示している。
図5】Aは、無水物形態I(形態A)GDC-0077の倍率1000XでのSEM画像(ベンチトップPhenom SEM(Nanoscience Instruments,Inc.,AZ)を示している。Bは、無水物形態I(形態A)GDC-0077のPLM画像(高解像度CCDカメラ及びモーター駆動ステージを備えたLeica DM 4000B 顕微鏡(Clemex Technologies Inc.,Longueuil,Quebec,Canada)(倍率200X))を示している。
図6A】無水物形態I(形態A)GDC-0077の熱解析を示している。
図6B】形態IV-VIのTGAを示している。
図6C】形態IV-VIのDSCを示している。脱溶媒和、準安定な形態の形成及びその後の形態Aへの変質に起因する多重転移と、その融解を、DSCトレースにおいて観察したものが示されている。
図6D】形態B(三水和物)を195℃に加熱したときに得られた製品フェーズのXRPDを、比較用の形態Aと共に示している。図示のように、三水和物はこの温度において最終的に無水物形態Aへと変質する。
図7】Aは、無水物形態I(形態A)GDC-0077の13C SSNMR(固体核磁気共鳴)スペクトルを示している。Bは、無水物形態I(形態A)GDC-0077の19F SSNMRを示している。
図8】無水物形態I(形態A)GDC-0077の水分吸着挙動を示している。
図9】RTでの平衡化の前及び後の、三水和物形態B GDC-0077の60℃での等温TGAトレースを示している。
図10A】25℃における三水和物形態B GDC-0077の水分吸着挙動を示している。
図10B】形態IIIのDSC及びTGAを示している。
図11】形態Aと形態IIIの固体形態のXRPDパターンを重ねて示している。RTにおける、並びに165及び195℃に加熱されたときの、形態IIIのXRPDパターンが示されている。さらに高温(>165C)では、形態III/Cは形態I/Aに変質する。
図12A】脱イオン水中で4日間スラリー化したときの無水物(形態A)から水和物(形態B)への変質を示している。変質は、無水物XRPDパターンに現れる水和物マーカーのピーク(*)により示されるように、12時間以内に始まる。形態変質は、96時間までに完了する。形態BのXRPDパターンが参照用に示されている。
図12B】エタノール-水混合物中におけるRT(室温)でのGDC-0077水和物-無水物系のスラリーブリッジング実験データを示している。二つの形態の平衡RH(相対湿度)ゾーンは、65-83% w/wの含水量に相当する82-86%と同定された。
図12C】三水和物形態B GDC-0077のXRPDを示す。
図13A】GDC-0077 THF溶媒和物のXRPDを示す。
図13B】GDC-0077 THF溶媒和物の熱解析を示す。
図13C】175及び210℃に加熱されたTHF溶媒和物(RT)と、形態AのXRPDパターンを重ねて示している。溶媒和物は、中間的な無水物形態へと脱溶媒和し、最終的に形態Aに変質する。
図14】THF溶媒和物(形態Aの多形体)を脱溶媒和することにより得られる形態D(第2の無水物形態)の熱解析を示している。それぞれの吸熱に対する相転移がマークされている。
図15A】無水物形態D GDC-0077のXRPDを示している。
図15B】形態AとD(1:1の混合物)をn-プロパノール(RT)中で一晩スラリー化した後に得られたGDC-0077の形態A、D、及び最終的固体形態のXRPDパターンを重ねて示している。形態Dは、スラリー中で形態Aへと変質する。
図16A】粉砕GDC-0077のPLMを示している。形態Aは、粉砕しても安定なままである。
図16B】GDC-0077粉砕ロットのDSC及びMDSCトレースを示している。粉砕は、無秩序相の再結晶と、それに続く形態Aの融解(214℃における吸熱)を示す発熱線の出現(差込図の113℃にマークされている)を証拠とする無秩序を誘導する。MDSCでは、発熱線近傍のTgが明らかになっていない。
図17】GDC-0077の固体形態の概要を示している。
【発明を実施するための形態】
【0042】
別途定義されない限り、本明細書において使用されるすべての技術的及び科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者が一般に理解するものと同じ意味を有し、以下の通りである。
【0043】
定義:
用語「含む(comprise/comprising/include/includinge及びincludes)」は、本明細書及び特許請求の範囲で使用される場合、記載される特徴、整数、成分、又は工程の存在を特定することを意図しているものの、一又は複数の他の特徴、整数、成分、工程若しくはそれらの群の存在又は付加を排除するものではない。
【0044】
本明細書において使用される用語「約」は、X線粉体回折パターンのピーク位置に関して使用されるとき、使用される機器類に応じた、例えば、使用される装備の較正、多形体を生成するために使用されるプロセス、結晶化材料の使用年数などによるピークの固有変動性に言及している。この場合、機器の測定変動性は、2シータ(θ)で約+-.0.2度であった。本開示の恩恵を受ける当業者であれば、この文脈における「約」の使用を理解するであろう。定義される他のパラメーター、例えば、含水量、Cmax、tmax、AUC、固有の溶出速度、温度、及び時間に関する用語「約」は、例えば、パラメーターの測定又はパラメーターの到達における固有変動性を示す。本開示の恩恵を受ける当業者であれば、「約」という用語の使用により暗示されるパラメーターの変動性を理解するであろう。
【0045】
本明細書において使用される「多形体」は、パッキング又はコンホーメーション/構成を異にするが同じ化学組成を有する化合物の異なる結晶質形態の発生に言及している。結晶質形態は、結晶格子中に異なる構成及び/又はコンホーメーションの分子を有する。溶媒和物は、溶媒の化学量論的又は非化学量論的な量を含む結晶形態である。組み込まれる溶媒が水である場合、溶媒和物は一般に水和物として知られる。水和物/溶媒和物は、同じ溶媒含有量を有するが異なる格子パッキング又はコンホーメーションを有する化合物の多形体として存在しうる。したがって、単一の化合物が様々な多形形態を生じ、それらの各形態が異なる別個の物理的特性、例えば溶解度プロファイル、融点、吸湿性、粒子形状、密度、流動性、成形性及び/又はX線回折ピークを有しうる。各多形体の溶解度は変動することがあり、したがって製剤多形体の存在を同定することは、医薬品に予測可能な溶解度プロファイルを提供するために必須である。すべての多形形態を含め、薬物のすべての固体形態を調査し、各多形形態の安定性、溶解及び流動特性を決定することが望ましい。化合物の多形は、X線回折法により、及び赤外又はRaman又は固体NMR分光法といったその他の方法により、実験室で区別することができる。多形体及び多形体の製剤利用については、G. M. Wall, Pharm Manuf. 3:33 (1986); J. K. Haleblian and W. McCrone, J. Pharm. Sci., 58:911 (1969); "Polymorphism in Pharmaceutical Solids, Second Edition (Drugs and the Pharmaceutical Sciences)", Harry G. Brittain, Ed. (2011) CRC Press (2009); 及びJ. K. Haleblian, J. Pharm Sci., 64, 1269 (1975)を参照されたい。これら文献はすべて、参照により本明細書に組み込まれる。
【0046】
頭字語「XRPD」は、固体成分の存在下でX線の回折を測定する分析技術であるX線粉体回折を意味する。規則的に繰り返す原子のアレイを有する結晶質の物質は、特有の粉末パターンを生成する。類似の単位細胞を有する物質は、°2θ(シータ)で測定した位置と類似する粉末パターンを提供するであろう。このような特性を呈する溶媒和物は、同構造又は同形体の溶媒和物と呼ばれる。反射の強度は、回折を生じる電子密度、並びに試料、試料調製物、及び機器パラメーターに応じて変動する。XRPDデータの分析は、データを収集するために使用されるX線回折システムの既知の応答に関する、測定された粉末パターン(複数可)の全体的な外観に基づいている。粉末パターン中に存在しうる回折ピーク、その位置、形状、幅及び相対的強度の分布は、粉末試料中の固体状態のオーダーの種類を特徴づけるために使用することができる。機器の背景の上の広範な散漫拡散(ハロー)の位置、形状及び強度は、固体状態のディスオーダーのレベル及び種類を特徴づけるために使用することができる。粉末試料中に存在する固体状態のオーダー及びディスオーダーを組み合わせて解釈することにより、試料のマクロ構造の質測度が得られる。
【0047】
「添付文書」という用語は、治療製品の商品パッケージに通例含まれる、そのような治療製品の効能、用法、用量、投与、禁忌及び/又は使用上の注意事項についての情報を含む説明書をいうのに使用される。
【0048】
本明細書で使用される用語「薬学的に許容される塩」は、本発明の化合物の薬学的に許容される有機塩又は無機塩を指す。例示的な塩には、限定されないが、硫酸塩、シトレート、酢酸塩、シュウ酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硝酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、酸ホスフェート、イソニコチン酸塩、乳酸塩、サリチル酸塩、クエン酸、酒石酸塩、オレイン酸塩、タンニン酸塩、パントテン酸塩、酸性酒石酸塩、アスコルビン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、ゲンチアニン酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、グルクロン酸塩、サッカラート、ギ酸塩、ベンゾエート、グルタミン酸塩、スルホン酸塩「メシラート」、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホナート、p-トルエンスルホナート、及びパモ酸塩(即ち、1,1’-メチレン-ビス-(2-ヒドロキシ-3-ナフトエ酸))塩が含まれる。薬学的に許容される塩は、酢酸イオン、コハク酸イオン又は他の対イオンといった別の分子の包含を伴ってもよい。対イオンは、親化合物の電荷を安定化する任意の有機又は無機部分でありうる。さらに、薬学的に許容される塩は、その構造内に複数の荷電原子を有することができる。複数の荷電原子が薬学的に許容される塩の一部である場合、複数の対イオンを有することができる。したがって、薬学的に許容される塩は、一又は複数の荷電原子及び/又は一又は複数の対イオンを有することができる。
【0049】
本発明の化合物が塩基である場合、所望の薬学的に許容される塩は、当技術分野で利用可能な任意の適切な方法、例えば、遊離塩基の、無機酸、例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、メタンスルホン酸、リン酸などによる処理、或いは有機酸、例えば酢酸、マレイン酸、コハク酸、マンデル酸、フマル酸、マロン酸、ピルビン酸、シュウ酸、グリコール酸、サリチル酸、ピラノシジル酸(pyranosidyl acid)(例えば、グルクロン酸又はガラクツロン酸)、αヒドロキシ酸(例えばクエン酸又は酒石酸)、アミノ酸(例えば、アスパラギン酸又はグルタミン酸)、芳香族酸(例えば、安息香酸又はケイ皮酸)、スルホン酸(例えば、p-トルエンスルホン酸又はエタンスルホン酸)などによる処理によって調製することができる。
【0050】
本発明の化合物が酸性である場合、所望の薬学的に許容される塩は、任意の適切な方法、例えば、遊離酸の、有機又は無機塩基、例えばアミン(一次、二次又は三次)、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物などによる処理によって調製することができる。適切な塩の実例には、限定されないが、アミノ酸に由来する有機塩、例えばグリシン及びアルギニン、アンモニア、第一級、第二級、第三級アミン、及び環状アミン、例えばピペリジン、モルホリン及びピペラジン、並びにナトリウム、カルシウム、カリウム、マグネシウム、マンガン、鉄、銅、亜鉛、アルミニウム及びリチウムに由来する無機塩が含まれる。
【0051】
所望の薬学的に許容される塩は、当技術分野で利用可能な任意の適切な方法により調製することができる。例えば、遊離塩基の、無機酸、例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、メタンスルホン酸、リン酸などによる処理、或いは有機酸、例えば酢酸、マレイン酸、コハク酸、マンデル酸、フマル酸、マロン酸、ピルビン酸、シュウ酸、グリコール酸、サリチル酸、ピラノシジル酸(pyranosidyl acid)、例えば、グルクロン酸又はガラクツロン酸、アルファヒドロキシ酸、例えばクエン酸又は酒石酸、アミノ酸、例えば、アスパラギン酸又はグルタミン酸、芳香族酸、例えば、安息香酸又はケイ皮酸、スルホン酸、例えば、p-トルエンスルホン酸又はエタンスルホン酸などによる処理。塩基性薬学的化合物からの薬学的に有用な又は許容可能な塩の形成に適性と一般に考慮される酸は、例えば、P. Stahl et al, Camille G. (eds.)Handbook of Pharmaceutical Salts. Properties, Selection and Use. (2002) Zurich: Wiley-VCH; S. Berge et al, Journal of Pharmaceutical Sciences (1977) 66(1) 1 19; P. Gould, International J. of Pharmaceutics (1986)33 201 217; Anderson et al, The Practice of Medicinal Chemistry (1996), Academic Press, New York; Remington’s Pharmaceutical Sciences, 18thed., (1995) Mack Publishing Co., Easton PA; and in The Orange Book (Food & Drug Administration, Washington, D.C. on their website)によって検討されている。これら開示は、それらへの言及により本明細書に包含される。
【0052】
「薬学的に許容される」という表現は、物質又は組成物が、製剤を構成する他の配合成分と、及び/又はそれにより治療される哺乳動物と、化学的に及び/又は毒物学的に適合性でなければならないことを示す。
【0053】
「溶媒和物」は、一又は複数の溶媒分子と本発明の化合物との会合又は複合体を意味する。溶媒和物を形成する溶媒の例には、限定されないが、水、イソプロパノール、エタノール、メタノール、DMSO、酢酸エチル、酢酸、及びエタノールアミンが含まれる。用語「水和物」は、溶媒分子が水である複合体を指す。
【0054】
用語「キラル」は、重ね合わせることができないという鏡像パートナーの性質を有する分子を指し、用語「アキラル」は、その鏡像パートナー上に重ね合わせることができる分子を指す。
【0055】
用語「立体異性体」は、同一の化学構造を有するが、原子又は基の空間配置の点で異なる化合物を指す。
【0056】
「ジアステレオマー」とは、二つ以上のキラル中心を持つ立体異性体であって、それらの分子が互いに鏡像関係にない立体異性体を指す。ジアステレオマーは、異なる物理的性質、例えば融点、沸点、スペクトル的性質及び反応性を有する。ジアステレオマーの混合物は、例えば電気泳動法及びクロマトグラフィーなどの高分解能分析手順の下で分離することができる。
【0057】
「光学異性体」とは、重ね合わせることができない互いの鏡像である、化合物の二つの立体異性体を指す。
【0058】
本明細書で使用する立体化学的な定義及び慣例は一般に、S. P. Parker, Ed., McGraw-Hill Dictionary of Chemical Terms (1984)McGraw-Hill Book Company, New York; 及びEliel, E. and Wilen, S., "Stereochemistry of Organic Compounds", John Wiley & Sons, Inc., New York, 1994に従う。本発明の化合物は、不斉中心又はキラル中心を含むことができ、したがって様々な立体異性体形態で存在しうる。限定されないが、ジアステレオマー、光学異性体及びアトロプ異性体並びにこれらの混合物(例えばラセミ混合物)を含め、本発明の化合物のすべての立体異性体形態が本発明の一部を形成することが意図される。多くの有機化合物は、光学的に活性な形態で存在し、即ち、平面偏光の平面を回転させることができる。光学的に活性な化合物を記載する際に、接頭語D及びL、又はR及びSが使用されて、そのキラル中心の周りでの分子の絶対配置を表す。接頭語d及びl、又は(+)及び(-)は、面偏光された光の、その化合物による回転の符号を表すために使用され、(-)又は1はその化合物が左旋性であることを意味する。接頭語(+)又はdを有する化合物は右旋性である。所与の化学構造に関して、これらの立体異性体は、互いの鏡像であることを除いて同一である。特定の立体異性体は、光学異性体とも称され、このような異性体の混合物は、しばしば光学異性体混合物と呼ばれる。光学異性体の50:50混合物は、ラセミ混合物又はラセミ体と称され、化学反応又はプロセスにおいて立体選択又は立体特異性がなかった場合に生じうる。用語「ラセミ混合物」及び「ラセミ体」は、二つの光学異性体種の等モル混合物を指し、光学活性がないものをいう。
【0059】
用語「互変異性体」又は「互変異性形態」とは、低いエネルギー障壁を介して相互変換可能な、異なるエネルギーの構造異性体を指す。例えば、プロトン互変異性体(プロトン移動互変異性体としても知られる)は、プロトンの移動による相互変換、例えばケト-エノール及びイミン-エナミン異性化を含む。原子価互変異性体は、結合電子のうちのいくつかの再編成による相互変換を含む。
【0060】
GDC-0077の多形体
本発明は、式I(CAS Registry Number 2060571-02-8):
として示され、(S)-2-((2-((S)-4-(ジフルオロメチル)-2-オキソオキサゾリジン-3-イル)-5,6-ジヒドロベンゾ[f]イミダゾ[1,2-d][1,4]オキサゼピン-9-イル)アミノ)プロパンアミドと名付けられたGDC-0077の多形体と、GDC-0077の多形体の生成のためのプロセス、方法、及び試薬とを含む(国際公開第2017/001645号、米国特許出願公開第2017/0015678号、参照により明示的に組み込まれる)。本明細書で使用されるGDC-0077には、すべての立体異性体、幾何異性体、互変異性体、及びその薬学的に許容される塩が含まれる。GDC-0077は、乳がん及びその他障害の臨床治療のために開発されている製剤中のAPI(医薬品有効成分)である。
【0061】
X線粉体回折分析
X線粉体回折(XRPD)パターンの分析が、市販の分析ソフトウェアを用いて実施された。XRPDは、異なる結晶相、多形体、水和物又は溶媒和物の、それらに固有の回折パターンによるフィンガープリンティングのために有用である。横座標(横軸)には、いわゆる2シータ値(入射ビームと回折ビームの間の一連の角度)がとられている。縦座標(縦軸)は、検出器によって記録された拡散X線の強度が記録されている。ピークの組は、結晶質物質内部の結晶学的単位細胞の固有のフィンガープリントとして機能する。結晶学的単位細胞は、結晶全体にわたって三次元で周期的に繰り返される最小原子スケールの3D断片である。すべての結晶質物質は、その結晶学的単位細胞(及びそれゆえそのピーク位置)によって区別される。測定されたピーク位置とデータベースに保持されているものとを比較することにより、結晶質物質を一意に同定することができる。純粋な物質に関して、すべてのピークの位置は、通常、結晶学的単位細胞を構成する基本の平行六面体を画定する三つのパラメーター:a、b、c及び三つの角度:アルファ、ベータ、ガンマ(α、β、γ)の関数である。
【0062】
実施例1で調製される出発物質としてのGDC-0077のXRPDパターンが図1に示されている。増加したベースライン数及び解像度の悪い回折ピークから明らかであるように、出発物質の結晶性は低い。図2は、出発物質GDC-0077のDSC(示差走査熱量測定)及びTGA(熱重量分析)トレースを示している。脱溶媒和/気化吸熱及び再結晶吸熱は、それぞれ64及び141℃で起こり(開始)、それに続いて融解吸熱が214℃で起こる。TGAは、融解事象の前に~2.5% w/wの重量減少を示している。TGAデータ(図2)は、150℃になるまでに~2.5%の重量減少を示している。DSCサーモグラムは、~214℃の外挿開始による急激な融解吸熱と、それに先立つ50-175℃の範囲における顕著な浅い吸熱(恐らくは脱溶媒和/気化)及び発熱(結晶化/再構成/相変態)を示している。脱溶媒和/気化吸熱及び再結晶吸熱は、それぞれ64及び141°Cで起こり(開始)、それに続いて融解吸熱が214℃で起こる。TGAは、融解事象の前に~2.5% w/wの重量減少を示している。
【0063】
実施例2に詳述される、完全プレート(96ウェル)ハイスループットスクリーニングから得られた複数の異なる固体形態ヒットのXRPDパターン。図3は、GDC-0077の96ウェルHTS多形体スクリーニングにおいて得られた異なる固体形態ヒット(形態1-VI)のXRPDパターンを重ねて示している。最も頻繁に得られる二つの形態は、形態I及びIIであり、そのうち形態IIが出発物質と一致した(図3)。他の複数の新規多形体ヒットは、エバポレーション、沈殿及びプレートの冷却から同定され、それらはさらなる特徴づけのために倍率10Xでスケールアップされた(即ちそれぞれ150-200mg)。表1は、六つの異なる形態I-VIのスケールアップ条件をまとめたものである。
【0064】
【0065】
GDC-0077固体形態
図4は、無水物形態I(形態A)GDC-0077のXRPDを示している。表2は、GDC-0077形態I/Aの、XRPDピークのサーチレポートである。図5Aは、無水物形態I(形態A)GDC-0077の、倍率1000Xでの走査電子顕微鏡検査(SEM)を示している。図5Bは、無水物形態I(形態A)GDC-0077の、倍率200Xでの偏光顕微鏡検査(PLM)を示している。形態Iは、長さ 30-40μm(ミクロン)の小さなロッド形状の結晶を有する、実質的に結晶質であることが分かった。無水物形態I(形態A)GDC-0077の熱解析は、TGAによる無視できる重量減少(~0.25% w/w)と、DSCによる214℃での融解吸熱を示し、したがって無水物であるとみなされた(図6A)。質量変化率(dm/dt)の厳格なプロトコールを使用した25℃での水収着は、実験時間スケールにわたり、<0.3% w/wという無視できる程度の吸湿を示した(実施例5)。形態Iは、無水結晶質形態であることがかなりよく特徴づけられたため、形態Aと呼ばれる。
【0066】
【0067】
表2は、GDC-0077のピークサーチレポートを示す。(31のピークを有する実質的な結晶質形態I/Aのマーカーピーク、Max P/N=152.2、図4のXRPDより:GMP Lot @Phi=136.1.ピーク:13(pts)/パラボラフィルター、閾値=2.0、カットオフ=5.0%、BG=3/1.0、ピークトップ=頂上。)
【0068】
形態IV-VIは、XRPD(図3)により類似して現れ、相対的ピーク強度の差は5-20° 2θの範囲であった。これら三つの形態は、TGAにより150℃までに~13% w/wの重量減少を示し(図6B)、DSCにより214℃の融点までに多重転移を示した(図6C)。これら転移は、溶媒減少(最初の吸熱、形態IV及びVの場合88℃)、続いて中間形態の結晶化、及びその後の、214℃において融解するその形態Aへの融解/変換と考えられる。形態VIは、脱溶媒和と、それに続くDSCによる形態Aへの再結晶発熱という類似傾向を示す。脱溶媒和、準安定な形態の形成及びその後の形態Aへの変質に起因する多重転移と、その融解がDSCトレースにおいて観察された。これら転移の概要は図6Cに示される。残りの溶媒のqNMRデータにより、これら形態が、13.4-13.8% w/wの含水量を有する水和物であることが決定された。このことは、TGAにより観察された重量減少と密接な一貫性を有していた。三つすべての形態をTGAで195℃に加熱し、XRPDにより分析した。製品フェーズは、最終的な安定した無水物形態である形態Aであることが確認された(図6D)。三つの形態のすべてが、回折ピークの相対強度のみがわずかに異なる極めて類似したXRPDパターンを持つ、化学量論的に同じものであることが分かったため、同じ形態、即ち三水和物(無水物1モル当たり3モルの水)であると考慮され、したがって以後形態Bと呼ぶ。形態B(三水和物)を195℃に加熱したときに得られたXRPDは、この三水和物が最終的にこの温度で無水物形態Aに変質することを示した。
【0069】
形態Bの脱溶媒和挙動とその再水和能の特徴をさらに明らかにした。つまり、重量減少が一定になったことが観察されるまで、化合物をTGA中で60℃で等温に保持し、続いて脱溶媒和した固体の平衡化をRTで4時間行い、その後実験を繰り返した。図9は、平衡化された固体の等温脱水及び重量減少プロファイルを示している。特に、図9は、RTでの平衡化の前と後での、三水和物形態BのGDC-0077の60℃における等温TGAトレースを示している。データから明らかであるように、水和物は、簡単に脱水し、60℃でほとんどすべてのその格子水(12%)を失い、4時間の平衡化後に再水和する。このことは、格子を通過する水の出入りが容易であることを示している。25℃での三水和物形態B GDC-0077の水収着/脱離挙動が図10Aに示されている。動的蒸気収着実験は、形態Bの脱水挙動に関する情報を提供する。形態Bの脱水は、RHが40%を下回ると急激に開始され(脱離曲線)、試料が0%のRHに曝露される時間までに完了する。平衡の遅れを示す履歴現象はあるものの、無水生成物は40%を上回るRHで、等しく簡単に再水和する。無水物形態が40%を上回るRHで無水-三水和物変質を示す明確な「ジャンプ」を示す再収着曲線とは異なり、脱離は段階的に表れ、中間の脱水形態は20-50%のRHで明らかである。三水和物は2-3段階で脱水するのに対し、無水物からの水和物の形成は大部分が>40%のRHにおいて一回で起こる(25℃)。
【0070】
形態IIIのXRPDは、形態IV-VIとは異なっていた(図3)。図10Bの形態IIIの熱解析DSC及びTGAトレースは、図6Cの形態Bに類似して、複数の転移(脱溶媒和/気化吸熱)と、それに続く、XRPDにより形態Aであることが確認された最終形態の再結晶発熱及び融解を示す(図11)。図11は、形態Aと形態IIIの固体形態のXRPDパターンを重ねて示している。RTにおける、並びに165及び195℃に加熱されたときの、形態IIIのXRPDパターンが示されている。形態IIIは、≧165℃での加熱時に形態Aに変質する(図11)。形態IIIはTGAにより3% w/wの重量減少しか示さなかったが、qNMRによりその含水量は11%であることが分かった。一方、形態IIは、図1及び2で特徴づけされた出発物質と同じものであることが分かった。60℃における形態Bの等温脱水時に得られた形態II、形態III及び製品フェーズのXRPDパターンの比較により実質的同一性が観察され、このことは、形態II及びIIIが単純に部分的に脱溶媒和した形態Bの中間体であり、それらは脱溶媒和の度合いを異にするだけであることを示している。形態は、形態B三水和物の部分的に脱水した中間体である。形態Bの段階的な脱離プロファイルからは、中間水和物形態が存在する可能性も示唆される(図10A)。命名を簡便にするために、形態II/III(部分的に脱水した形態)を形態Cと呼ぶ。より高い温度(>165C)において、形態III/Cは形態I/Aに変質する。
【0071】
三水和物(形態B)の特徴づけから、図9、10A、及び6Dに見られるように、より高い温度及び/又は低い相対湿度(RH)への曝露時にそれが形態Aへと脱溶媒和することが明らかである。無水物形態Aから形態Bへの変質を調査した。動的蒸気収着(DVS)実験は、平衡化が達成できない短時間スケールで実施されるため、熱力学的条件を代表するものではない。水和物の形成をチェックするため、形態Aを脱イオン水中において4日間スラリー化した(RT)。形態の変質(無水物から水和物へ)は、形態Bを参照とするXRPDにより検出したところ、12時間で開始され、4日以内に完了した。脱イオン水中における4日間のスラリー化後、無水物(形態A)から水和物(形態B)への変質が測定された。図12Aは、無水物のXRPDパターンに現れる2シータ(度)で約5.5における水和物マーカーのピークによって示されるように、変質が12時間以内に開始されることを示している。形態の変質は96時間までに完了した。
【0072】
図12Bは、水和物-無水物混合物のスラリー架橋実験の結果をまとめたものであり、この図では、ビヒクルの組成に対して水分活性がグラフ化されている(%水、v/v)。図12Bは、エタノール-水混合物中におけるRT(室温)でのGDC-0077水和物-無水物系のスラリー架橋実験データを示している。二つの形態の平衡RH(相対湿度)ゾーンは、65-83% w/wの含水量に相当する82-86%と同定された。無水物形態(形態A)は、水分活性(a)0.82まで安定であることが分かり、水和物(形態B)はa>0.86において安定な形態であることが分かった。つまり、無水物-水和物の平衡のaは、0.82-0.86の範囲に位置している。
【0073】
三つの異なる水分活性において得られた固体形態のXRPDパターンは、無水物/形態Aが0.82aまで安定なままであり、水和物/形態Bがa≧0.86において安定であることを示した。
【0074】
図12Cは、三水和物形態B GDC-0077のXRPDを示す。表2Aは、GDC-0077形態Bの、XRPDピークのサーチレポートである。
【0075】
【0076】
図13Aは、GDC-0077 THF溶媒和物のXRPDパターンを示す。この溶媒和物は、LC-MSの分析により、10% w/wのTHFを含むことが分かった。TGAにより、14% w/wの重量減少が観察された。DSCは多重転移を示し、これを、吸熱の発生の前に試料を175℃及び201℃に加熱することにより、さらに調査した(図13B)。THF溶媒和物のXRPDパターンと、175及び210℃への加熱時に得られた製品フェーズのXRPDパターンとを重ね合わせることにより、溶媒和物が中間的な無水物形態へ脱溶媒和し、最終的に形態Aに変質することが示されている(図13C)。175℃において、TGAから明らかであるように、THF溶媒和物は完全に脱溶媒和して中間的な無水物形態(形態D)を形成し、これはその後融解して215℃(開始)で融解する形態Aに再結晶する。無水物形態D(THF溶媒和物(形態Aの多形体)を脱溶媒和することにより得られる第2の無水物形態)のDSC及びTGAトレースが図14に示されている。図14は、形態Dの熱解析を示す。対応する吸熱に対して相転移がマークされている。融解前の無視できる程度の重量減少(<1% w/w)は、形態Dが無水であることを確認するものである。DSCによって示されるように、この無水物形態は~188℃で融解し、形態Aに再結晶し、形態Aはその後215℃で融解する。形態Dはまた、n-プロパノール:水(99:1v/v)中において、医薬品有効成分(API)として、GDC-077の出発物質であるクルードをスラリー化することにより得られる。THF溶媒和物は、無水物形態Dへと脱溶媒和することが分かった。形態D及び形態Aはモノトロピー的に関連しており、形態Aは、研究した温度範囲にわたって熱力学的に安定な形態である。図15Aは、無水物形態DGDC-0077のXRPDを示している。表3は、形態Dの代表的なXRPDピークを示す。
【0077】
【0078】
Burger及びRambergerの多形体の「融解熱則(Burger and Ramberger Rule)」に基づき、二つの多形体は、より高い融点を有する一方がより大きな融解熱も有する場合、モノトロピーであると考えられる(Burger and Ramberger, Mikrochimica Acta (1979), 256)。この場合、~213-215℃で融解する形態Aは、~100J/gの融解熱を有し(図6A)、形態Dは、試料履歴及び純度に応じて、GDC-0077 THF溶媒和物の熱解析により、融解熱~82-48J/gでの190℃の融解開始を示す(図14)。形態DのΔH(融解又は融解熱のエンタルピーの変化)は正確に決定できないが、この値は法則の良好な近似値を提供し、二つの形態がモノトロピー的に関連している可能性を示唆している。これをさらに確認するために、以前にクルードなAPIから形態Dを生じさせたスラリー架橋実験を、n-プロパノール中においてRTで実施した。図15Bは、GDC-0077の形態A、DのXRPDパターンと、形態A及びD(1:1の混合物)をn-プロパノール(RT)中で一晩スラリー化した後に得られた最終的固体形態のXRPDパターンとを重ねて示している。形態Dは、スラリーにおいて形態Aへと変質する。図15Bは、撹拌の12時間後にスラリーから単離した固体形態のXRPDパターンを示しており、これは形態Aの同パターンと一致する。このことは、形態Dが形態Aに変質することを確認するものである。換言すれば、形態Aは、RTから214℃の間でより安定する形態である。
【0079】
図17は、GDC-0077の固体形態の概要を示し、結晶化の最適化の間にハイスループットスクリーニングを介して同定された様々な固体形態の包括的なスナップショットを提供する。図に示される形態の概要は、異なる形態間の相変態を示し、結晶化及び適切な形態のスケールアップのガイドとしてこのような変態を可能にする実験条件を詳述する。XRPD(図4)及び固体状態NMR(図7A及び7B)は形態Aを確認した。図7Aは無水物形態I(形態A)GDC-0077の13C SSNMR(固体核磁気共鳴)スペクトルを示す。図7Bは、無水物形態I(形態A)GDC-0077の19F SSNMRを示す。熱解析DSC及びTGAトレースは図6に含まれている。重量減少が無視できる程度であること及び212℃での融解に先立ち脱水事象がまったくないことに基づき、形態Aは無水であると確認される。顕微鏡データ(SEM及びPLM)が図5A及び5Bに示されており、図中、GDC-0077形態API粒子は板状であると思われる。表4は、5、15及び30秒の超音波処理に関する粒度分布(PSD)データを示している。無水物形態I(形態A)GDC-0077の水収着データが図8に示されている。化合物は、90%のRHまで、無視できる程度の水分(0.25% w/w)を吸収する(25℃)。
【0080】
【0081】
形態Aに対するサイズ減少の影響
形態Aの粉砕は特定のPK特性を最適化しうる。スケールアップした形態Aロットを粉砕し、さらに安定性試験に供した(40℃/75% RH、25℃/60% RH、開放バイアル)。さらに三つのロットを粉砕した。これらは粉砕時に類似の挙動を示した。代表的な粉砕ロットを特徴づけ、物理的形態を決定した。このロットを100%エタノール中でスラリー化して形態Aを得て、ジェットミルを用いて3.5時間にわたり60 psiの圧力で粉砕した。収率は91%であった。粒度分析(PSD)は、D10=0.7μm、D50=2.7μm、D90=6.7μmであると決定された。粉砕後、API(医薬品有効成分、即ちGDC-0077)バッチの一部分を、開放バイアル中において40℃/75% RH及び25℃/60% RHで安定させた。固体状態データを4及び8週目に収集し、物理形体に対する温度及び湿度の影響を評価した。粉砕した安定性試料を、XRPD、PLM、DSC、TGA、水収着分析及び表面積分析により特徴づけた。DSCの実行は、非ハーメチックにクリンプされたパン、0-175℃にわたり1℃/分の加熱速度、調節振幅±1℃及び60秒の期間を用いて、調節モードで実施された。
【0082】
XRPD、熱解析及び水収着を介した粉砕の影響の特徴づけにより、粉砕後も形態は不変のままであること、しかしベースラインカウントはピーク分解能の低下と共に増加したように思われることが示された。PLM画像(図16A)は、微結晶が均一のサイズ及び約5μmのオーダーであることを示す。これはPSDデータの確証となるもので、粉砕されたGDC-0077形態Aが粉砕後も安定したままであることを実証する。ディスオーダーの生成は、113℃での小さな発熱(図16Bの差し込み図)と、それに続く214℃での形態Aの融解吸熱(図16B)が観察されるDSCトレースにおいてより明らかに示されている。この吸熱は、粉砕材料の場合と同様、ディスオーダー(表面上に生じている可能性が最も高い)に起因している可能性がある。MDSC(変調示差走査熱量測定)ではガラス転移温度(Tg)が明らかにならなかったが、移動性の高いディスオーダー表面はTgでほぼ瞬時に結晶化する傾向があるため、単にTgが存在しないというだけで表面アモルフォス化の可能性が排除されるわけではない。融解前の重量減少は、熱重量分析(TGA)によって測定した場合、ディスオーダーの生成に起因して、非粉砕ロットと比較して粉砕材料の方が大きい。粉砕は、粉砕時に0.78から6.68m2/gへと表面積に顕著な増加(10X)を生じさせる(表5)。BET分析により決定されたこの表面積は、粒子サイズ(3.42m2/gであった)を規定するザウター平均粒径(D3,2)流体力学法を単純に考慮することにより生成されるものの2倍であることが分かった。これにより、表面積の顕著な増加は表面ディスオーダーの生成によるものであることが示された。加えて、非粉砕材料と比較したとき、水分の1% w/wの増加が粉砕ロットの水収着プロファイルに観察され(90%のRHまで0.25%の重量増加、図8)、これによりさらに粉砕時のディスオーダーの存在が確認される。
【0083】
【0084】
T0、4及び8週の時点における粉砕試料のXRPD、DSC及びTGAパターンは、XRPDから明らかであるように、ストレス安定条件下(開放バイアル)でGDC-0077の物理形体が変化せずに保持されることを示している。粉砕によって誘導されたディスオーダーが、水分への曝露時に減少又は消滅することが、DSCにより、安定性試料においてΔH(25℃/60% RH)が減少していること又は再結晶吸熱(40℃/75% RH)がまったく見られないことから明らかである。水分への曝露時に可塑剤として作用する無秩序相のアニーリング又は再結晶化が起こりうるため、これは予想外のことである。したがって、GDC-0077形態Aは粉砕誘導ディスオーダーを示すが、結晶質形態はサイズ減少時にも不変のままである。ディスオーダーは、表面に関連するものと推測され、水分への曝露時に結晶質形態に減少する/アニーリングされる。物理的形態は、8週まで40℃/75%RH及び25℃/60% RHにおいて開放条件下で安定している。
【0085】
治療の方法
本明細書に詳述されるGDC-0077の結晶質形態は、PI3Kに関連する異常な細胞の増殖、機能又は挙動に起因する、がんのような疾患又は障害に罹患しているヒト又は動物の患者を治療するために有用である。つまり、そのような疾患又は障害は、本明細書に詳述されるGDC-0077の結晶質多形体(例えば、結晶質無水物形態A、結晶質無水物形態D、又は結晶質三水和物形態B)の前記患者への投与を含む方法により治療されうる。また、がんに罹患しているヒト又は動物の患者は、本明細書に詳述されるGDC-0077の結晶質多形体の前記患者への投与を含む方法によって治療される。それにより、患者の状態を改善又は回復させることができる。
【0086】
本発明の方法はまた、乳房、卵巣、子宮頸部、前立腺、睾丸、泌尿生殖器、食道、喉頭、膠芽細胞腫、神経芽細胞腫、胃、皮膚、角化棘細胞腫、肺、類表皮癌、大細胞癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、小細胞癌、肺腺癌、骨、結腸、腺腫、膵臓、腺癌、甲状腺、濾胞腺癌、未分化癌、乳頭癌、セミノーマ、黒色腫、肉腫、膀胱癌、肝臓癌及び胆汁通路、腎臓癌、膵臓、骨髄性疾患、リンパ腫、ヘアリー細胞、口腔、鼻咽頭、咽頭、唇、舌、口、小腸、結腸直腸、大腸、直腸、脳及び中枢神経系、ホジキン、白血病、気管支、甲状腺、肝臓及び肝内胆管、肝細胞、胃、神経膠腫/神経膠芽腫、子宮内膜癌、黒色腫、腎臓及び腎盂、膀胱、子宮体、子宮頸部、多発性骨髄腫、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病(CLL)、骨髄性白血病、口腔及び咽頭、非ホジキンリンパ腫、黒色腫及び絨毛結腸腺腫より選択されるがんを治療することを含む。
【0087】
発現分析、免疫組織化学分析及び細胞株プロファイリングに基づけば、PI3Kモジュレーター又は阻害剤に応答する可能性が最も高いのは、結腸、乳房、子宮頸部、胃、肺及び多発性骨髄腫の悪性腫瘍である。
【0088】
併用療法
GDC-0077の多形体は、炎症又は過剰増殖性障害(例えばがん)といった本明細書に記載される疾患又は障害を治療するために、単独で、又は追加の治療剤と組み合わせて使用することができる。特定の実施態様では、本明細書に詳述されるGDC-0077の結晶質多形体(例えば、結晶質無水物形態A、結晶質無水物形態D、又は結晶質三水和物形態B)は、抗炎症性又は抗過剰増殖特性を有するか、又は 炎症、免疫応答障害若しくは過剰増殖性障害(例えばがん)を治療するために有用な、追加の第2の治療化合物と、併用療法としての組み合わせ医薬製剤又は投薬レジメンにおいて組み合わせられる。追加の治療剤は、CDK4/6阻害剤、Bcl-2阻害剤、JAK阻害剤、抗炎症剤、免疫調節剤、化学療法剤、アポトーシス促進剤、神経栄養因子、心血管疾患治療剤、肝疾患治療剤、抗ウイルス剤、血液疾患治療剤、糖尿病治療剤、及び免疫不全障害治療剤でありうる。第2の治療剤は、NSAID抗炎症剤であってもよい。第2の治療剤は、化学療法剤であってもよい。組み合わせ医薬製剤又は投薬レジメンの第2の化合物は、好ましくは、互いに悪影響を与えないように、GDC-0077を補完する活性を有する。このような化合物は、意図した目的に有効な量で組み合わされて、適切に存在する。一実施態様において、本発明の組成物は、CDK4/6阻害剤といった治療剤との組み合わせで、本明細書に詳述されるGDC-0077の結晶質多形体(例えば、結晶質無水物形態A、結晶質無水物形態D、又は結晶質三水和物形態B)を含む。
【0089】
併用療法は、同時又は逐次レジメンとして投与されうる。逐次的に投与される場合、その組み合わせは、二回以上の投与で投与されうる。併用投与には、別個の製剤又は単一の薬学的製剤を使用する同時投与、及び任意の順序での連続投与が含まれ、その際、両方の(又はすべての)活性剤がそれらの生物学的活性を同時に発揮する期間があることが好ましい。
【0090】
上記の同時投与される薬剤のいずれについても、好適な投与量は、現在使用されているものであり、新たに同定される薬剤及び他の治療剤又は治療の複合作用(相乗効果)により減じられる可能性がある。
【0091】
併用療法は、「相乗作用」を提供することができ、「相乗的」である、即ち活性成分を一緒に使用したときに達成される効果は、化合物を別々に使用することにより得られる効果の和を上回る。相乗効果は、活性成分が:(1)共処方されて投与されるか又は組み合せた単位用量製剤において同時に送達されるとき;(2)別個の製剤として交互に又は並行して送達されるとき;又は(3)他の何らかのレジメンによって、達成されうる。交互療法(alternation therapy)で送達される場合、例えば別個の注射器での異なる注射、別個の丸薬若しくはカプセル剤又は別々の注入によって化合物が逐次的に投与又は送達される際に、相乗効果が達成されうる。一般に、交互療法中、各活性成分の有効用量は逐次的に、即ち連続して投与されるが、併用療法では、二つ以上の活性成分の有効用量が一緒に投与される。
【0092】
治療法の特定の実施態様では、本明細書に詳述されるGDC-0077の結晶質多形体(例えば、結晶質無水物形態A、結晶質無水物形態D、又は結晶質三水和物形態B)は、本明細書に記載されるような他の治療剤、ホルモン剤又は抗体剤と組み合わせてもよく、同様に外科療法及び放射線療法と組み合わせてもよい。したがって、本発明による併用療法は、本明細書に詳述されるGDC-0077の結晶質多形体(例えば、結晶質無水物形態A、結晶質無水物形態D、又は結晶質三水和物形態B)の投与と、少なくとも一つの他のがん治療法の使用とを含む。GDC-0077の結晶質多形体及び他の薬学的に有効な治療剤(複数可)の量並びに投与の相対的タイミングは、所望の併用治療効果が得られるように選択されることになる。
【0093】
本明細書に詳述されるGDC-0077の結晶質多形体(例えば、結晶質無水物形態A、結晶質無水物形態D、又は結晶質三水和物形態B)との組み合わせに使用される追加の治療剤には、5-FU、ドセタキセル、エリブリン、ゲムシタビン、コビメチニブ、イパタセルチブ、パクリタキセル、タモキシフェン、フルベストラント、GDC-0810、デキサメタゾン、パルボシクリブ、ベバシズマブ、ペルツズマブ、トラスツズマブエムタンシン、トラスツズマブ及びレトロゾールが含まれる。
【0094】
いくつかの実施態様では、治療を必要とする対象におけるがんを治療するための方法が提供され、この方法は、対象に対し、治療的有効量の、本明細書に詳述されるGDC-0077の結晶質多形体(例えば、結晶質無水物形態A、結晶質無水物形態D、又は結晶質三水和物形態B)を投与することを含む。いくつかの実施態様では、がんは乳がんである。いくつかの実施態様では、がんはホルモン受容体陽性(HR+)乳がんである。いくつかの実施態様では、がんはエストロゲン受容体陽性(ER+)乳がんである。いくつかの実施態様では、がんはHER2陰性乳がんである。いくつかの実施態様では、がんはHR+転移性乳がんである。いくつかの実施態様では、がんは、HR陽性、HER2陰性進行性乳がんである。いくつかの実施態様では、がんは、HER2陰性、ER陰性、及びプロゲステロン受容体(PR)陰性乳がんである。いくつかの実施態様では、対象はヒトである。いくつかの実施態様では、対象は閉経後の女性である。いくつかの実施態様では、乳がんのサブタイプは基底又は管腔である。いくつかの実施態様では、がんはPIK3CA変異を有している。いくつかの実施態様では、がんは、E542K、E545K、Q546R、H1047L及びH1047Rから選択されるPIK3CA変異体を発現する。いくつかの実施態様では、がんはPTEN変異体を発現する。
【0095】
これら実施態様のいくつかでは、がん(例えば乳がん)の治療法は、対象に対し、一又は複数の追加の治療剤を投与することをさらに含む。いくつかの実施態様では、一又は複数の追加の治療剤は、CDK4/6阻害剤(例えば、パルボシクリブ、リボシクリブ及びアベマシクリブ)、選択的エストロゲン受容体ディグレーダー(SERD)(例えばフルベストラント)、及びアロマターゼ阻害剤(例えばレトロゾール)から選択される。いくつかの実施態様では、追加の治療剤パルボシクリブ。いくつかの実施態様では、追加の治療剤はフルベストラントである。いくつかの実施態様では、一又は複数の追加の治療剤は、パルボシクリブ及びレトロゾールである。
【0096】
本発明の一態様は、がんの治療における使用のための、本明細書に詳述されるGDC-0077の結晶質多形体(例えば、結晶質無水物形態A、結晶質無水物形態D、又は結晶質三水和物形態B)、又は本明細書に詳述されるGDC-0077の結晶質多形体(例えば、結晶質無水物形態A、結晶質無水物形態D、又は結晶質三水和物形態B)を含む薬学的組成物である。いくつかの実施態様では、がんは、PIK3CA変異を発現するHR陽性及びHER2陰性乳がんである。いくつかの実施態様では、使用される多形体は、一又は複数の追加の治療剤(例えば、フルベストラント、パルボシクリブ及び/又はレトロゾール)をさらに含む。
【0097】
本発明の一態様は、がんの治療における使用のための医薬の製造における、本明細書に詳述されるGDC-0077の結晶質多形体(例えば、結晶質無水物形態A、結晶質無水物形態D、又は結晶質三水和物形態B)、又は本明細書に詳述されるGDC-0077の結晶質多形体(例えば、結晶質無水物形態A、結晶質無水物形態D、又は結晶質三水和物形態B)を含む薬学的組成物の使用である。いくつかの実施態様では、がんは、PIK3CA変異を発現するHR陽性及びHER2陰性乳がんである。いくつかの実施態様では、使用は、一又は複数の追加の治療剤(例えば、フルベストラント、パルボシクリブ及び/又はレトロゾール)をさらに含む。
【0098】
薬学的組成物及び製剤
GDC-0077(式I)多形形態は、ヒトを含む哺乳動物の過剰増殖性障害の治療的処置(予防処置を含む)のための治療の組合せにおいて使用される、標準の薬務に従って製剤設計される。本発明は、一又は複数の薬学的に許容される担体、流動促進剤、希釈剤、又は添加剤と併せてGDC-0077を含む薬学的組成物を提供する。
【0099】
好適な担体、希釈剤、流動促進剤、及び添加剤は、当業者に周知であり、例えば、炭水化物、ワックス、水溶性及び/又は膨潤性ポリマー、親水性又は疎水性材料、ゼラチン、油、溶媒、水などの材料を含む。
【0100】
これら製剤は、通常の溶解及び混合手法を用いて調製することができる。本発明の化合物は通常、医薬剤形に製剤化されて、容易に制御できる服用量の薬物を提供し、処方されたレジメンでの患者の服薬遵守を可能にする。
【0101】
適用のための薬学的組成物(又は製剤)は、薬物の投与に使用される方法に応じた様々な方法で包装することができる。一般に、流通用の物品は、適切な形態で中に薬学的製剤を有する容器を含む。適切な容器は、当業者には周知であり、瓶(プラスチック及びガラス)、小袋、アンプル、ビニール袋、金属シリンダーなどの材料を含む。容器は、パッケージの内容物への不用意な接触を防ぐために、不正開封防止の構成部品(assemblage)を含んでもよい。加えて、容器には、容器の内容物を記したラベルを配してもよい。ラベルは、適切な注意書きを含むことができる。
【0102】
GDC-0077の多形形態の薬学的製剤は、薬学的に許容される希釈剤、担体、賦形剤、流動促進剤又は安定剤(Remington’s Pharmaceutical Sciences (1995)18th edition, Mack Publ. Co., Easton, PA)を用いて、凍結乾燥製剤、破砕紛体、又は水溶液の形態で、様々な投与経路及び投与種類のために調製することができる。製剤化は、常温で、適切なpHで、及び所望の純度で、生理学的に許容される担体(即ち用いられる投与量及び濃度でレシピエントに対して非毒性の担体)と混合することにより行われる。製剤のpHは、主に化合物の特定の用途及び濃度に左右されるが、約3から約8の範囲でありうる。
【0103】
薬学的製剤は、好ましくは無菌である。特に、in vivoでの投与に使用される製剤は無菌でなければならない。このような無菌化は、滅菌濾過膜を通した濾過により容易に達成される。
【0104】
薬学的製剤は、通常、固体組成物、錠剤、丸剤、カプセル剤、凍結乾燥製剤又は水溶液として貯蔵することができる。
【0105】
本発明の薬学的製剤は、医学行動規範に則った様式、即ち、量、濃度、予定、過程、ビヒクル及び投与経路で投薬及び投与される。この観点において考慮すべき要因には、治療すべき特定の障害、個々の患者の臨床状態、障害の原因、薬剤送達部位、投与方法、投与計画、及び医療従事者に知られる他の要因が含まれる。
【0106】
許容される希釈剤、担体及び安定剤は、使用される投薬量及び濃度でレシピエントに非毒性であり、リン酸塩、クエン酸塩及び他の有機酸のような緩衝液;アスコルビン酸及びメチオニンを含む抗酸化剤;防腐剤(例えば、オクタデシルジメチオルベンジルアンモニウムクロライド;ヘキサメトニウムクロリド;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル、エタノール、又はベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えば、メチル又はプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾール);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;タンパク質、例えば、血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えば、ポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン又はリジン;単糖類、二糖類、及びグルコース、マンノース又はデキストリンを含む他の炭水化物;キレート剤、例えば、EDTA;糖、例えば、ラクトース、スクロース、マンニトール、トレハロース又はソルビトール;塩形成対イオン、例えばナトリウム;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);及び/又はTween 80、PLURONICSTMを含むTWEENTM又はPEG400を含むポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤を含む。また、活性薬剤成分は、例えば、コアセルベーション技術又は界面重合により調製したマイクロカプセル、例えば、それぞれ、コロイド状薬物送達系(例えばリポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル)において又はマクロエマルジョンにおいて、ヒドロキシメチルセルロース又はゼラチンのマイクロカプセル及びポリ-(メチルメタクリラート)マイクロカプセル中に封入されてもよい。このような技術は、Remington’s Pharmaceutical Sciences 18th edition, (1995)Mack Publ. Co., Easton, PAに開示されている。製剤の他の例は、Liberman, H. A. and Lachman, L., Eds., Pharmaceutical Dosage Forms, Marcel Decker, Vol 3, 2nd Ed., New York, NYに見ることができる。
【0107】
錠剤は、微結晶性セルロース、ラクトース、デンプングリコール酸ナトリウム、及びステアリン酸マグネシウムから選択される、一又は複数の薬学的に許容される担体、流動促進剤、希釈剤、又は添加剤を含みうる。
【0108】
薬学的に許容される流動促進剤は、二酸化ケイ素、粉末セルロース、微結晶性セルロース、ステアリン酸金属塩、アルミノケイ酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、コーンスターチ、炭酸マグネシウム、アスベストを使用していないタルク、stearowet C、でんぷん、starch1500、ラウリル硫酸マグネシウム、酸化マグネシウム、及びこれらの組合せから選択される。
【0109】
薬学的製剤は、本明細書に詳述される投与経路に適したものを含む。製剤は、好都合には、単位投与形態で提供され、薬学分野で周知の任意の方法によって調製することができる。技術及び製剤は、一般に、Remington’ Pharmaceutical Sciences 18th Ed. (1995)Mack Publishing Co., Easton, PAに見出される。 このような方法は、活性成分を、一又は複数の副成分を構成する担体と会合させることを含む。 製剤は通常、活性成分を液体担体又は細かく分割された固体担体又はその両方と均一且つ密接に会合させ、その後必要に応じて製品を成形することにより調製される。
【0110】
薬学的組成物は、滅菌注射用水性又は油性懸濁液といった、無菌注射用製剤の形態であってもよい。この懸濁液は、従来技術に従い、上述した好適な分散剤又は湿潤剤及び懸濁化剤を用いて製剤化することができる。無菌注射用製剤は、例えば1,3-ブタンジオール中の溶液など、非経口投与可能な非毒性の希釈剤又は溶媒中の溶液又は懸濁液であるか、又は凍結乾燥粉末から調製されてよい。使用されうる許容可能なビヒクル及び溶媒には、水、リンゲル液及び等張食塩水がある。さらに、滅菌不揮発性油は、溶媒又は懸濁媒として慣習的に用いられうる。この目的のために、合成モノグリセリド又は合成ジグリセリドを含め、任意の無刺激不揮発性油を用いることができる。さらに、オレイン酸などの脂肪酸を、同様に注射物の調製に用いることができる。
【0111】
薬学的組成物の投与
本発明の薬学的組成物は、治療される状態に適切な任意の経路により投与することができる。適切な経路には、経口、非経口(皮下、筋肉内、静脈内、動脈内、吸入、皮内、髄腔内、硬膜外、及び点滴技術を含む)、経皮、直腸内、鼻腔内、局所(頬側及び舌下を含む)、膣内、腹腔内、肺内及び鼻腔内が含まれる。局所投与は、経皮パッチ又はイオントホレシス装置といった経皮投与の使用も含むことができる。薬物の製剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 18th Ed., (1995)Mack Publishing Co., Easton, PAにおいて検討されている。製剤の他の例は、Liberman, H. A. and Lachman, L., Eds., Pharmaceutical Dosage Forms, Marcel Decker, Vol 3, 2nd Ed., New York, NYに見ることができる。局所的な免疫抑制治療のために、化合物は、移植前に移植片を潅流適用するか、又は他の方法で阻害剤と接触させることを含む病巣内投与によって投与されうる。好ましい経路は、例えばレシピエントの状態によって変わりうることが理解されよう。化合物は、経口投与される場合、薬学的に許容される担体、流動促進剤、又は添加剤とピル、カプセル、錠剤などとして製剤化されうる。化合物は、非経口投与される場合、薬学的に許容される非経口ビヒクル又は希釈剤と共に、後述のような注射可能な単位投与形態で製剤化されうる。
【0112】
ヒト患者を治療する用量は、約1mgから約100mgの範囲のGDC-0077の多形形態、例えば約2mgから約50mg、約3mgから約20mg、約3mgから約15mg、約3mgから約20mg、約1mg、約2mg、約3mg、約4mg、約5mg、約6mg、約9mg、約12mg、約15mg、又は約20mgの化合物でありうる。用量は、特定の化合物の吸収、分布、代謝、及び排泄を含む薬物動態学的(PK)及び薬力学的(PD)特性に応じて、一日一回(QD)、一日二回(BID)、又はそれよりも頻繁に投与されうる。加えて、毒性係数が、投薬量及び投与用量投与レジメンに影響を及ぼしうる。経口投与されるとき、ピル、カプセル、又は錠剤は、一日二回、毎日、又はそれよりも少ない頻度で、例えば毎週又は二週若しくは三週毎に、特定の期間にわたって摂取されうる。レジメンは、療法の複数周期にわたって繰り返されてよい。
【実施例
【0113】
実施例1 (S)-2-((2-((S)-4-(ジフルオロメチル)-2-オキソオキサゾリジン-3-イル)-5,6-ジヒドロベンゾ[f]イミダゾ[1,2-d][1,4]オキサゼピン-9-イル)アミノ)プロパンアミド(GDC-0077)の単離及び物理化学特性
GDC-0077は、国際公開第2017/001645号、米国特許出願公開第2017/0015678号(それぞれ参照により取り込まれる)に従って調製された。
【0114】
(S)-3-(9-ブロモ-5,6-ジヒドロベンゾ[f]イミダゾ[1,2-d][1,4]オキサゼピン-2-イル)-4-(ジフルオロメチル)オキサゾリジン-2-オン(600mg、1.50mmol)、L-アラニン(267mg、3.00mmol)、ヨウ化第1銅(57mg、0.30mmol)及び三塩基性リン酸カリウム(637mg、3.00mmol)をジメチルスルホキシド(6.0mL)に懸濁した。反応混合物を、100℃で2時間加熱した。室温まで冷ました後、ジメチルスルホキシド(4.0mL)、塩化アンモニウム(480mg、9.00mmol)及びトリエチルアミン(3.1mL、22.5mmol)を加えた。その結果得られた撹拌懸濁液に対し、1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-b]ピリジニウム 3-オキシド ヘキサフルオロホスフェート(5.10g、13.5mmol)を5分かけて少量ずつ加えた。反応混合物を室温で1時間撹拌し、次いでセライト(登録商標)を通して濾過し、酢酸エチルで洗浄した。有機抽出物を飽和重炭酸ナトリウム水溶液で洗浄し、水性相を酢酸エチルで抽出した。合わせた有機抽出物をブラインで洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、真空中でエバポレートした。粗残留物を、シリカゲルでのフラッシュクロマトグラフィー(溶媒グラジエント:ジクロロメタン中0-5%のメタノール)を介して、次いでキラル超臨界流体クロマトグラフィーにより精製し、294mg(46%)のGDC-0077をオフホワイトの固体として得た。LCMS(ESI):LCMS(ESI):R(分)=2.89[M+H]=408、方法=A;H NMR(400MHz,DMSO-d)δ 8.00(d,J=8.7Hz,1H)、7.38(br s,1H)、7.18(s,1H)、7.00(br s,1H)、6.71(t,J=55.9Hz,1H)、6.41(dd,J=8.8、2.3Hz,1H)、6.16(d,J=7.2Hz,1H)、6.09(d,J=1.9Hz,1H)、5.02-4.89(m,1H)、4.63-4.52(m,2H)、4.39-4.30(m,4H)、3.76(quintet,J=7.0Hz,1H)、1.30(d,J=7.1Hz,3H)。
【0115】
GDC-0077形態A(無水物)は、GDC-0077を50℃のエタノール中で4時間スラリー化し、次いで窒素パージ下で溶媒をエバポレートすることにより得られ、高度に結晶質の形態Aが得られた。DSCサーモグラムは、~212-214℃で開始されて~107J/gの融解熱を伴う一回の吸熱転移を示した。室温での形態Aの水溶解度は、pH7.06において30.8μg/mLである。三水和物形態は、形態Aを脱イオン水中で4日間(RT)スラリー化し、このスラリーを遠心分離して上清を除去し、次いで固体をRTで数時間乾燥させることにより得られた。
【0116】
乾式圧縮造粒機を用いて形態A GDC-0077を乾式造粒し、続いて打錠を行った。錠剤中の追加成分は、微結晶性セルロース(Avicel(登録商標)PH 102、FMC BioPolymer)、ラクトース(FastFlo(登録商標)316、Foremost Farms USA)、デンプングリコール酸ナトリウム(EXPLOTAB(登録商標)、JRS Pharma)、及びステアリン酸マグネシウム(Hyqual(登録商標)、Macron Fine Chemicals)を含んでいた。
【0117】
実施例2 ハイスループット多形体スクリーニング(HTS)
Symyx CM2システム(Freeslate Inc.,CA)を用いる96ウェルプレート自動化HTSを実施して、GDC-0077の存在しうる多形体を同定した。概ね20mgのAPIを各ウェルに加え、それに800μl(マイクロタイター)の溶媒(ニート又は混合物)を加え、スラリーを50℃で2時間撹拌した。溶媒は、水、1,2-ジクロロエタン、ヘプタン、シクロヘキサン、エタノール、1-プロパノール、アセトニトリル、ブチルアミン、ニトロメタン、1,4-ジオキサン、ベンゼン、ペルフルオロヘプタン、酢酸エチル,(トリフルオロメチル)ベンゼン、ブタン-2-オン(MEK)、1,2-ジメトキシエタン、2-メチルテトラヒドロフラン、四塩化炭素、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン(THF)、アセトン、アニソール、トルエン、及び2-エトキシエタノールを含んでいた。この「マスター」プレートから、上清を濾過し、三つの別々のプレートに分配し、エバポレーション、抗溶媒の付加による沈殿及び8-10時間にわたる50-20℃の制御冷却を行った。溶媒及び抗溶媒の詳細は図2にまとめられている。いずれの場合も、残留溶媒をエバポレートするか又は吸い上げて、偏光顕微鏡及びX線粉末回折測定を用いて固体を調査した。結晶質ヒットのXRPDパターンを比較し、続いて「異なっている」可能性のあるヒットをスケールアップし、それらを特徴づけた。
【0118】
実施例3 スラリーの架橋
水分が0-100%の範囲の異なる組成物の脱イオン(DI)水-エタノール(無水アルコール)混合物を調製し、水分活性メーターを用いてそれらの水分活性を測定した。GDC-0077の三水和物と無水物形態の1:1混合物(合計40mg)をこれら溶媒混合物(液体1.5mL)に加え、RTで4日間撹拌するスラリー実験をRTで設定した。4日後、試料を等分し、遠心分離した。固体をXRPDにより分析し、上清を水分活性について分析した。形態AとDの1:1混合物を、in-プロパノール中において一晩RTで撹拌した。スラリーを遠心分離し、固体形態をXRPDにより分析した。
【0119】
実施例4 周囲X線粉末回折測定(XRPD)
クロスビームオプティクス(40kV×44mA)を用いて生成されるCu Kα(1.541904Å)照射の入射ビームを用いて、Rigaku SmartLab(登録商標)回折計(Rigaku Corp.,Tokyo,Japan)によりXRPDパターンを収集した。GDC-0077の粉末試料を、トップフィル法を用いてゼロバックグラウンドホルダーに詰め、1又は3.0°/分のスキャンスピード及び2-40° 2θ(2シータ)の範囲にわたり0.02又は0.04° 2θのステップサイズで、Bragg-Brentano又は並行ビーム構成(反射配置)においてスキャンを取得した。市販のソフトウェア(JADE(登録商標)、バージョン9、Materials Data Inc.,Livermore,CA)を用いてデータを分析した。
【0120】
実施例5 水収着分析
約5-6mgの粉末試料を、25℃及び200mL/分の窒素流量で、自動化水収着分析器(Q5000SA、TA instruments,New Castle,DE)の試料パンの中に置いた。はじめに試料を0%RHで合計600分間(60℃で、続いて25℃で)「乾燥させ」、続いてRH0-90%にわたり10%刻みで、各RHにつき240分の滞留時間で、0.001%のdm/dtウィンドウで30分間RHを漸進的に上昇させた。これに続いて、同じプロトコールを用いて10%刻みで0%RHへとRHを漸進的に低下させた。水和物試料については、このプロセスを逆転させ、開始時のRHを90%に維持し、続いて漸進的且つ段階的に0%まで低下させ、続いて同様に段階的に上昇させて90%に戻した。これは、水和作用の水を確実に実験開始時に保持するために行われた。
【0121】
実施例6 水分活性
Aqualab 4TEV(Decagon Devices,WA)を静電容量センサーモードで水分活性メーターとして使用し、溶媒混合物及びスラリー上清に関するデータを25±0.2℃で取得した。ベンダーが供給する基準を用いて(飽和食塩水)0.25-1のawレンジにわたり機器を較正した。すべてのaw値は、連続する三つの読み取りの安定化の後で取得されている。
【0122】
実施例7 示差走査熱量測定(DSC)
概ね3-8mgの粉末試料を、冷蔵冷却アクセサリーを備えたDSC Q2000TM(TA Instruments,New Castle,DE)を用いて分析した。試料を、非ハーメチックにパン(TzeroTM、アルミニウム製のパン)に詰め、乾燥窒素パージ下20-250℃で一般的な加熱を行った。サファイア(ベースライン)及びインジウム(温度及びセル定数)を用いて機器を較正した。市販のソフトウェア(Universal Analysis 2000、バージョン4.7A、TA Instruments)を用いてデータを分析した。実験条件及びパンの較正は以下の通りである。
【0123】
実施例8 熱重量分析(TGA)
非等温実験:熱重量分析計(Discovery TGA,TA Instruments)において、3-4mgのGDC-0077試料を、開放アルミニウムパン内でRTから350℃まで10℃/分の加熱速度で、RTから350°まで乾燥窒素パージ下で加熱した。Alumel(登録商標)及びNickelを用いて温度較正を実施した。重量較正には100mg及び1gmの標準重量を使用した。
【0124】
等温実験:熱重量分析計(Q500 TGA,TA Instruments)において、3-4mgのGDC-0077試料を、開放アルミニウムパン内でRTから60℃まで10℃/分の加熱速度で加熱し、一晩60℃で等温に保持した。次いで試料を、XRPDで分析するか又は試料パンの中に放置してRTで4時間平衡化し、次いで上述したように、同じ実験パラメーターを用いて60℃の等温に戻した。
【0125】
実施例9 偏光顕微鏡(PLM)
試料をシリコンオイル中に分散させ、高分解能CCDカメラ及びモーター駆動ステージを備えたビデオ強化Leica DM 4000B顕微鏡のクロスポラライザー(Clemex Technologies Inc.,Longueuil,Quebec,Canada)下において倍率200Xで観察した。Clemex Vision PEソフトウェア(Clemex Technologies Inc.,Longueuil,Quebec,Canada)を用いて顕微鏡写真を取得した。
【0126】
実施例10 走査電子顕微鏡(SEM)
粉末試料をSEMスタブにスパッタコーティングし、次いでベンチトップPhenom SEM(Nanoscience Instruments,Inc.,AZ)を用いて分析した。異なる倍率で顕微鏡写真を取得した。
【0127】
実施例11 粒度分布分析(PSD)
Hydros 2000SM湿式分散アタッチメントを備えたMalvern Mastersizer 2000機器(Malvern Instruments Ltd.,Malvern、UK)を用いて粒子サイズ分析を実施した。~30mgのAPIを計量してバイアル中に入れ、ヘプタン中1mLの0.1% Span 85を加えた。バイアルを5秒間超音波処理し、約0.3mLを1500rpmの撹拌速度でサンプラーに加え、PSDを10-20%のオブスキュレーションで実施した。次いで試料をさらに10秒間(合計15秒)超音波処理し、約0.3mLをサンプラーに加え、PLM画像を取得し、PSDを実施した。次いで同じ試料をさらに15秒間(合計30秒)超音波処理し、約0.3mLを加え、PLM写真を撮り、PSDを実施した。超音波処理試験に基づいて、適切な超音波処理期間が選択された。PLM画像とPSDを用いて、塊を分散させるが結晶の破壊を防止又は最小化するために必要な、試料の超音波処理の量を決定した。~10mgのさらに三つの試料を計量してバイアル中に入れ、ヘプタン中1mLの0.1% Span 85を加えた。試料を、超音波処理試験において決定された超音波処理期間にわたって超音波処理した。所定の超音波処理期間を用いて3重に最終PSD分析を実施した。機器を、イソプロピルアルコール(IPA)で2回及びヘプタンで一回すすいだ後で、各試料についてヘプタン中0.1%のSpan 85を充填した。最後の試料の回の後、機器をIPAで1回すすいだ。
【0128】
実施例12 表面積分析
表面積測定を、Micromeritics Smart VacPrepアタッチメントを備えたMicromeritics ASAP 2460(Micromeritics Instrument Corp.,GA)を用いて実施した。500mg-1gの試料を計量して空のASAP 2460チューブに入れ、Smart VacPrepに配置し、24時間周囲条件下で脱気し、次いで25℃及び100mm Hg保持圧力でクリプトン気体吸着に曝露した。11点での測定を、0.050-0.300の相対圧力範囲で行い、ベンダーによって供給されたMicroActiveソフトウェアを用いてデータを分析した。
【0129】
実施例13 固体核磁気共鳴分光測定(SSNMR)
すべての13C(@8kHzのスピニング速度)SSNMR実験は、500MHzのBruker機器(Bruker BioSpin GmbH、Karlsruhe、Germany)を用いて実施された。13CデータはCP/TOSSシーケンスを用いて取得された。シグナル平均化のために、1-2Kのスキャンを収集した。4ms(ミリ秒)の接触時間及び5秒のリサイクル遅れを用いた。脊髄の64配列を、5.3マイクロ秒のパルス長でのデカップリングに使用した。2.9マイクロ秒のH 90度パルス長を使用した。すべての19F(@14kHzのスピニング速度)SSNMR実験は、500MHzのBruker機器を用いて実施された。19FデータはCPシーケンスを用いて取得された。シグナル平均化のために、64-256Kのスキャンを収集した。750ミリ秒の接触時間及び7秒のリサイクル遅れを用いた。3.54マイクロ秒のH 90度パルス長を使用した。
【0130】
前述の発明は明確な理解のために例示及び実施例によってある程度詳細に説明されているが、説明及び実施例は、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。したがって、すべての適切な修正及び等価物は、特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内にあると考慮される。本明細書に引用されるすべての特許及び科学文献の開示内容は、その全体が参照により組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12A
図12B
図12C
図13A
図13B
図13C
図14
図15A
図15B
図16A
図16B
図17