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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-23
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 163/00 20060101AFI20220111BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20220111BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220111BHJP
【FI】
C09D163/00
C09D7/20
C09D7/61
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020129924
(22)【出願日】2020-07-31
(62)【分割の表示】P 2016236381の分割
【原出願日】2016-12-06
(65)【公開番号】P2020172668
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2020-07-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 正夫
(72)【発明者】
【氏名】清水 悠平
(72)【発明者】
【氏名】山内 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】宮下 剛
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-065118(JP,A)
【文献】特開2002-167548(JP,A)
【文献】特開平09-003165(JP,A)
【文献】特表平11-513063(JP,A)
【文献】国際公開第2004/003050(WO,A1)
【文献】特開昭53-123456(JP,A)
【文献】特開平07-126241(JP,A)
【文献】特開2016-044193(JP,A)
【文献】特開2004-231853(JP,A)
【文献】特許第5660741(JP,B2)
【文献】特開2001-064548(JP,A)
【文献】特開平11-148029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主剤と硬化剤とを含む2液硬化型エポキシ樹脂塗料組成物であって、
該主剤が少なくとも、JISK2256に規定される混合アニリン点又はアニリン点が12~70℃の範囲にある溶剤Aと、該溶剤Aに可溶であるエポキシ樹脂成分Bとを含み、該エポキシ樹脂成分Bがエポキシ基を分子内に2個以上有するエポキシ樹脂を含み、
該硬化剤が、該溶剤Aに可溶なウレタン変性アミン系化合物Cを含み、
該ウレタン変性アミン系化合物Cが、下記構造(1)で表される化合物を含むものであり、
【化1】
(式中、R 1 はヒドロキシル基を有するケチミンおよび/またはエナミンの前記ヒドロキシル基とイソシアネート基とを反応させ、ついで加水分解することによって形成される基に含まれる、H 2 N-基と-O-C(=O)-NH基との間に介在する基を表し、R 2 は分子量が500~10000であるポリアルキレンエーテルポリオールが有する2つのヒドロキシル基とイソシアネート基とを反応させて得られる基に含まれる、2つの-O-C(=O)-NH基の間に介在する基を表し、nは0~1を表す。)、
該ウレタン変性アミン系化合物Cの含有量が、塗料組成物の固形分に対して1~18質量%であることを特徴とする塗料組成物。
【請求項2】
前記主剤または前記硬化剤の少なくとも一方には顔料成分Dを含み、該顔料成分Dは防錆顔料を含みかつ該防錆顔料はホウ酸塩及びリン酸塩である、請求項1記載の塗料組成物。
【請求項3】
前記顔料成分Dと樹脂成分(エポキシ樹脂Bとウレタン変性アミン化合物Cの合計)との質量比が80/20~50/50である、請求項2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
主剤と硬化剤とを含む2液硬化型エポキシ樹脂塗料組成物による塗布方法であって、該主剤が少なくとも、JIS K 2256に規定される混合アニリン点又はアニリン点が12~70℃の範囲にある溶剤Aと、該溶剤Aに可溶であるエポキシ樹脂成分Bとを含み、該エポキシ樹脂成分Bがエポキシ基を分子内に2個以上有するエポキシ樹脂を含み、該硬化剤が、該溶剤Aに可溶な下記構造(1)で表される化合物を含むウレタン変性アミン系化合物Cを含む塗料組成物による、塗布方法。
【化2】
(式中、R 1 はヒドロキシル基を有するケチミンおよび/またはエナミンの前記ヒドロキシル基とイソシアネート基とを反応させ、ついで加水分解することによって形成される基に含まれる、H 2 N-基と-O-C(=O)-NH基との間に介在する基を表し、R 2 は分子量が500~10000であるポリアルキレンエーテルポリオールが有する2つのヒドロキシル基とイソシアネート基とを反応させて得られる基に含まれる、2つの-O-C(=O)-NH基の間に介在する基を表し、nは0~1を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板用塗料に関し、詳しくは亜鉛めっきを施した鋼板等非鉄金属面の塗装に適した塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板表面に亜鉛めっきを施した亜鉛めっき鋼板は耐食性に優れるため、50年の耐久性があるとされているが、実際は20数年で部分的な経時劣化が発生することから、10~15年間隔で塗り替え塗装が行われる。
経時劣化した部分は、表面をケレン処理し、エポキシ樹脂含有の防食塗料により改修することが行われている(特許文献1)。
【0003】
特許文献1では、(a)エポキシ樹脂、(b)ポリアミン化合物、(c)水酸基価が50~100mgKOH/gの高反応性フェノール性水酸基を持つフェノール変性炭化水素樹脂を含有する変性エポキシ樹脂塗料が開示されており、亜鉛めっき鋼板に対して優れた付着性を有する塗膜を形成できることが記載されている。
【0004】
しかし、このような亜鉛めっき鋼板用の防食塗料はキシレンなどの樹脂溶解性の高い溶剤を含むものが多く、弱溶剤系塗料において、亜鉛めっき鋼板に対して優れた付着性を有するものは見出されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-144044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の弱溶剤系防食塗料は、亜鉛めっき鋼板に対する付着性が十分ではなく、特に改修のための防食塗装では、亜鉛めっき鋼板の部分によって劣化度が異なることから表面処理程度も異なり、結果、亜鉛めっき鋼板では部分的に付着性の差が大きく出てくることとなり、亜鉛めっき鋼板自体への付着性が優れた弱溶剤系塗料が求められていた。
【0007】
本発明は、鋼板、特に亜鉛めっき鋼板への付着性に優れ、かつ防食性の良好な塗膜を形成することができる弱溶剤系防食塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、弱溶剤に溶解する特定構造のウレタン変性アミン系化合物に着目し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
(1)主剤と硬化剤とを含む2液硬化型エポキシ樹脂塗料組成物であって、
該主剤が少なくとも、JIS K 2256に規定される混合アニリン点又はアニリン点が12~70℃の範囲にある溶剤Aと、該溶剤Aに可溶であるエポキシ樹脂成分Bとを含み、該エポキシ樹脂成分Bがエポキシ基を分子内に2個以上有するエポキシ樹脂を含み、
該ウレタン変性アミン系化合物Cの含有量が1~18質量%であることを特徴とする塗料組成物。
【0010】
(2)前記ウレタン変性アミン系化合物Cが、下記構造(1)で表される化合物を含むものである前記1記載の塗料組成物。
【化1】
(式中、R1はヒドロキシル基を有するケチミンおよび/またはエナミンの前記ヒドロキシル基とイソシアネート基とを反応させ、ついで加水分解することによって形成される基に含まれる、HN-基と-O-C(=O)-NH基との間に介在する基を表し、R2は分子量が500~10000であるポリアルキレンエーテルポリオールが有する2つのヒドロキシル基とイソシアネート基とを反応させて得られる基に含まれる、2つの-O-C(=O)-NH基の間に介在する基を表し、nは0~1を表す。)
【0011】
(3)前記主剤または前記硬化剤の少なくとも一方には顔料成分Dを含み、該顔料成分Dは防錆顔料を含みかつ該防錆顔料はホウ酸塩及びリン酸塩である、前記1または2記載の塗料組成物。
【0012】
(4)前記顔料成分Dと樹脂成分(エポキシ樹脂Bとウレタン変性アミン化合物Cの合計)との質量比が80/20~50/50である、前記1~3いずれかに記載の塗料組成物。
(5)前記塗料組成物が、亜鉛めっき鋼板用途である前記1~4いずれかに記載の塗料組成物。
【0013】
(6)主剤と硬化剤とを含む2液硬化型エポキシ樹脂塗料組成物による塗布方法であって、該主剤が少なくとも、JIS K 2256に規定される混合アニリン点又はアニリン点が12~70℃の範囲にある溶剤Aと、該溶剤Aに可溶であるエポキシ樹脂成分Bとを含み、該エポキシ樹脂成分Bがエポキシ基を分子内に2個以上有するエポキシ樹脂を含み、該硬化剤が、該溶剤Aに可溶なウレタン変性アミン系化合物Cを含む塗料組成物による、塗布方法。
【0014】
(7)主剤と硬化剤とを含む2液硬化型エポキシ樹脂塗料組成物による塗布物であって、該主剤が少なくとも、JIS K 2256に規定される混合アニリン点又はアニリン点が12~70℃の範囲にある溶剤Aと、該溶剤Aに可溶であるエポキシ樹脂成分Bとを含み、該エポキシ樹脂成分Bがエポキシ基を分子内に2個以上有するエポキシ樹脂を含み、該硬化剤が、該溶剤Aに可溶なウレタン変性アミン系化合物Cを含む塗料組成物による、塗布物。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、鋼板、特に亜鉛めっき鋼板への付着性に優れ、かつ防食性の良好な塗膜を形成することができる防食塗料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本実施形態に限定されるものではない。
本発明の塗料組成物は主剤と硬化剤とを含む2液硬化型エポキシ樹脂塗料組成物であって、該主剤が少なくとも、JIS K 2256に規定される混合アニリン点又はアニリン点が12~70℃の範囲にある溶剤Aと、該溶剤Aに可溶であるエポキシ樹脂成分Bとを含み、該エポキシ樹脂成分Bがエポキシ基を分子内に2個以上有するエポキシ樹脂を含み、該硬化剤が、該溶剤Aに可溶なウレタン変性アミン系化合物Cを含むことを特徴とする。
【0017】
<溶剤A>
本発明の溶剤は、JIS K 2256に規定される混合アニリン点又はアニリン点が12~70℃の範囲にあることを特徴とする。この溶剤は、いわゆる弱溶剤と呼ばれる溶剤であり、ノルマルヘキサン(アニリン点59℃)、シクロヘキサン(アニリン点30℃)等の炭化水素系の溶剤である。
【0018】
本発明においてはエポキシ樹脂、ウレタン変性アミン化合物の種類によって適宜溶剤が選択されるためそのアニリン点等も12~70℃の範囲で適宜選択することができる。その他の溶剤を若干含むことは限定されないが、本発明の効果を十分発揮するためには、全溶剤の5質量%以下であることが好ましい。
【0019】
<エポキシ樹脂成分B>
本発明のエポキシ樹脂Bとしては、ビスフェノール型、およびフェノールノボラック型に代表される一般的なエポキシ樹脂を用いることができる。汎用タイプのエポキシ樹脂の市販品としては、商品名「エピコート♯828」(ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂、エポキシ当量184~194、分子量約380、油化シェル化製)、「エピコート♯834-90X」(ビスフェノールA型固形エポキシ樹脂、エポキシ当量230~270、分子量約470、油化シェル社製)、「エピコート♯1001」(ビスフェノールA型固形エポキシ樹脂、エポキシ当量450~500、分子量約900、油化シェル社製)、「エピコート♯1004」(ビスフェノールA型固形エポキシ樹脂、エポキシ当量875~975、分子量約1600、油化シェル社製)、「エピコート♯1007」(ビスフェノールA型固形エポキシ樹脂、エポキシ当量1750~2200、分子量約2900、油化シェル社製)、「エピコート♯807」(ビスフェノールF型液状エポキシ樹脂、エポキシ当量160~175、分子量約330、油化シェル社製)商品名「エピコート♯154」(フェノールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量176~180、分子量約540、油化シェル社製)が挙げられる。
【0020】
可撓性タイプのエポキシ樹脂の市販品としては、商品名「YR-450」(ゴム変性エポキシ樹脂、エポキシ当量400~500、分子量約800~1000、東都化成社製)、DIC株式会社製EPICLON EXA-835LV」、「EPICLON 850S」、「EPICLON N740」、「EPICLON EXA-830CRP」、「EPICLON EXA-830LVP」、「EPICLON HP-820」、三菱化学株式会社製の「jER 828」、「jER 806」、「jER 1001」、「jER 801N」、「jER 807」、「jER 152」、「jER 604」、「jER 630」、「jER 871」、「jER YX8000」、「jER YX8034」、「jER YX4000」、日本触媒株式会社製の「アクリセット BPA-328」、日産化学株式会社製の「TEPIC SP」、株式会社ADEKA製のEP4100シリーズ、EP4000シリーズ、EPUシリーズ、ダイセル化学工業株式会社製のセロキサイドシリーズ、エポリードシリーズ、EHPEシリーズ、東都化成株式会社製のYDシリーズ、YDFシリーズ、YDCNシリーズ、YDBシリーズ、ナガセケムテックス株式会社製のデナコールシリーズ、共栄社化学株式会社製のエポライトシリーズ等が挙げられる。
【0021】
本発明に用いられるエポキシ樹脂は上記エポキシ樹脂に限定されるものではなく、一般に市販されているその他のエポキシ樹脂等も使用することができる。
本発明のエポキシ樹脂は、硬化性、塗膜の強靭性の点からエポキシ当量が100~3000のものが好ましい。また塗膜の柔軟性の点からより好ましくは、150~1000である。
【0022】
上記エポキシ樹脂は、塗膜物性や塗装作業性の点から数平均分子量(GPCによるポリスチレン換算)が200~5000のものが好ましく、より好ましくは300~2000である。
【0023】
本発明のエポキシ樹脂は、塗膜の防食性、柔軟性、塗り重ねインターバルの点からエポキシ塗料組成物の固形分中に、10~60質量%含むことが好ましく、より好ましくは、15~50質量%である。
本発明のエポキシ樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
<ウレタン変性アミン系化合物C>
本発明のウレタン変性アミン化合物Cは、下記式(1)で表されるものであり、塗料組成物中においては、硬化剤として機能する。そして溶剤Aに可溶である。
ここで溶剤Aに可溶であるとは、ウレタン変性アミン化合物C10gに対して石油系炭化水素溶剤100gを加えた時に、容易に均一な状態となり濁りを生じないことをいう。
【0025】
【化2】
(式中、R1はヒドロキシル基を有するケチミンおよび/またはエナミンの前記ヒドロキシル基とイソシアネート基とを反応させ、ついで加水分解することによって形成される基に含まれる、H2N-基と-O-C(=O)-NH基との間に介在する基を表し、R2は分子量が500~10000であるポリアルキレンエーテルポリオールが有する2つのヒドロキシル基とイソシアネート基とを反応させて得られる基に含まれる、2つの-O-C(=O)-NH基の間に介在する基を表し、nは0~1を表す。)
上記式(1)の化合物は、「ダイトクラールU-5342」(大都産業社製;アミン価110~140)等として入手することができる。
上記ウレタン変性アミン化合物Cは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
本発明において、ウレタン変性アミン化合物Cは、付着性、塗り重ねインターバルの点から塗料組成物の固形分中に1~18質量%含まれるものである。好ましくは、3~15質量%である。
【0027】
<顔料成分D>
顔料成分Dは、着色顔料、体質顔料、防錆顔料の少なくともいずれかを含み、特に防錆顔料を含んでいることが好ましい。
【0028】
着色顔料としては、例えば、酸化チタン、赤色酸化鉄、黄色酸化鉄、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、カーボンブラック、キナクリドンレッド、ナフトールレッド、ベンズイミダゾロンイエロー、ハンザイエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ及びジオキサジンバイオレット等が挙げられる。体質顔料としては、例えば、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、タルク、クレー、マイカ、アルミナ等が挙げられる。
【0029】
本発明の防錆顔料としては、例えば、リン酸系防錆顔料、ホウ酸系防錆顔料、モリブデン酸系防錆顔料、バナジン酸系防錆顔料等を挙げることができ、このうちの1種又は2種以上を組み合わせて使用することができるが、好ましくは、これらのなかから2種を組み合わせて使用するのがよく、より好ましくは、リン酸系防錆顔料及びホウ酸系防錆顔料を使用するのがよい。
【0030】
ここで、リン酸系防錆顔料としては、例えばオルトリン酸亜鉛、オルトリン酸カルシウム、オルトリン酸アルミニウム、オルトリン酸マグネシウムなどのオルトリン酸金属塩、ピロリン酸アルミニウム、ピロリン酸カルシウム、ピロリン酸錫、ピロリン酸鉄、ピロリン酸チタン、ピロリン酸マグネシウム、ピロリン酸マンガンなどのピロリン酸金属塩、トリポリリン酸鉄、トリポリリン酸アルミニウムなどのトリポリリン酸金属塩、メタリン酸アルミニウム、メタリン酸カルシウム、メタリン酸鉄、メタリン酸錫などのメタリン酸金属塩、さらには、層状リン酸チタン、層状リン酸ジルコニウム、層状リン酸錫などのリン酸金属塩系層状化合物等を挙げることができ、ホウ酸系防錆顔料としては、例えばホウ酸バリウム、メタホウ酸バリウム、メタホウ酸カルシウム、メタホウ酸マグネシウム等を挙げることができ、モリブデン酸系防錆顔料としては、例えばモリブデン酸亜鉛、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸亜鉛カルシウム、モリブデン酸マグネシウム、モリブデン酸ニッケル、モリブデン酸コバルト、モリブデン酸ストロンチウム、リンモリブデン酸亜鉛、リンモリブデン酸カルシウム、リンモリブデン酸アルミニウム等を挙げることができ、バナジン酸系防錆顔料としては、例えば五酸化バナジウム、バナジン酸カルシウム、メタバナジン酸カリウム、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0031】
本発明において、防錆顔料の配合割合については、防錆被膜の形成性、耐水性の点から塗料組成物の固形分中1~40質量%であることが好ましく、より好ましくは5~30質量%である。亜鉛めっき鋼板の亜鉛めっきと塗膜との界面に防錆皮膜が形成されるようになり、高度な防錆性と付着性を得ることができる。
【0032】
リン酸系防錆顔料及びホウ酸系防錆顔料の配合質量割合は、10/90~90/10であり、好ましくは30/70~70/30である。特に、ウレタン変性アミン化合物と、リン酸系防錆顔料及びホウ酸系防錆顔料を組み合わせて配合した場合には、塗膜の付着耐久性がより高まる効果を示す。
【0033】
また顔料成分Dと樹脂成分(エポキシ樹脂Bとウレタン変性アミン化合物Cの合計)の質量比は、80/20~50/50であることが防錆被膜の形成性、付着性の点から好ましい。
【0034】
<その他の添加剤>
また、本発明の塗料組成物については、更に必要に応じて、顔料分散剤、消泡剤、表面調整剤、紫外線吸収剤、光安定剤、ドライヤー、皮張り防止剤、レベリング剤等の通常の塗料用添加剤を配合することができる。
【0035】
<用途>
本発明において、塗料組成物を塗装する対象の非鉄金属鋼板は、例えば、亜鉛めっき鋼板については、好適には亜鉛めっき処理された鋼材を用いた構造物を挙げることができ、例えば、送電や通信用の鉄塔、橋梁施設、各種プラント等を例示することができるが、これらに制限されるものではない。
【0036】
また、塗装対象の亜鉛めっき鋼板は、旧塗膜を除去した後に本発明の塗料組成物を塗装するようにしてもよく、旧塗膜を残したまま塗装するようにしてもよい。すなわち、例えば2~4種ケレンに素地調整された亜鉛めっき鋼板に対して塗装しても、付着性に優れた塗膜を得ることができる。
【0037】
<塗布方法>
塗料組成物の塗装方法については特に制限されず、例えば、刷毛塗り、ローラー塗装、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装等の公知の塗装手段を利用することができる。
【実施例
【0038】
以下実施例をもって本発明を具体的に説明する。実施例1~9よび比較例1~4では、表1(質量部)に示すように各素材を混合、練合し、主剤、硬化剤を作製した。エポキシ樹脂、ウレタン変性アミン化合物は、それぞれ主剤、硬化剤に均一に溶解した。硬化剤は、使用する直前に主剤と混合し、各種試験に供した。
【0039】
なお、表1に記載のエポキシ樹脂、リン酸塩系防錆顔料、ホウ酸塩系防錆顔料、タルク、カオリン、酸化チタン、ウレタン変性アミン、ポリアミン、ポリアミドアミンについては、以下のものである。
【0040】
・エポキシ樹脂:「EPICRON 5920―70MS」、アルキルフェノールノボラック型エポキシ変性樹脂のミネラルスピリット溶液(固形分70%)、エポキシ当量890~970、DIC(株)製
・リン酸塩系防錆顔料:「K-WHITE #82」、縮合リン酸アルミニウム、テイカ(株)製
・ホウ酸塩系防錆顔料:「メタ硼酸バリウムBUSAN 11-M1」、メタホウ酸バリウム、堺化学工業(株)製
・タルク:「タルクPK-50」、含水珪酸マグネシウム、富士タルク工業(株)製
・カオリン:「Neogen2000」、焼成カオリン、Imerys Kaolin Inc.,製
・酸化チタン:「TITONE R-5N」、酸化チタン(IV)、堺化学工業(株)製
・ウレタン変性アミン:「ダイトクラール U-6181」、ウレタン変性脂環式ポリアミン溶液(固形分90%)、アミン価110~130大都産業(株)製
・ポリアミン:「フジキュアー FXP8086」、変性脂肪族ポリアミン、アミン価200~220、(株)T&K TOKA製
・ポリアミドアミン:「トーマイド TXP-696」、ポリアミドアミン、アミン価310~350、(株)T&K TOKA製
・石油系炭化水素溶剤:ソルベッソ100(エクソンモービル社製、混合アニリン点:14℃)
・アルコール系溶剤:イソブチルアルコール
【0041】
JIS K5600-1-4:2004に規定される亜鉛被覆板(亜鉛めっき鋼板、亜鉛被覆量350g/m)を、粒度#220のシリコンカーバイド砂を用いた研磨紙を使って乾式研磨した。研磨後の亜鉛めっき鋼板はキシレンにより表面を洗浄し、清浄な状態に調整したものを試験板とした。
【0042】
調整後の試験板に対して、上記硬化剤を直前に主剤と混合したエポキシ樹脂塗料組成物を刷毛にて乾燥膜厚60μmになるよう塗装し、室温環境下にて24時間乾燥させた。次いで、上塗塗料として弱溶剤形ふっ素樹脂系上塗塗料「Vフロン#100Hスマイル上塗」(大日本塗料(株)製)を刷毛にて乾燥膜厚30μmになるよう塗装した。24時間後、試験片の裏面および周辺に、試験に影響がないように同じ塗料で塗り包み、同環境下にて6日間乾燥させた後、以下に示す各種試験に供した。
【0043】
(1)付着耐久性の評価
上記方法にて作製した試験片を、-30℃定温3時間、昇温3時間、70℃定温3時間、降温3時間の12時間が1サイクルとなる温冷繰返し試験に供し、塗膜の付着耐久性を評価した。尚、環境中相対湿度は常時90%RH以上に保持した。
【0044】
本試験開始から50サイクルおよび100サイクル経過後の塗膜について、塗膜外観の変状程度を評価した。なお、判定基準は以下のように設定した。
<塗膜変状判定基準>
○:試験後の塗膜外観に一切の変状を認めなかった。
×:試験後の塗膜に膨れ、さび、割れ、はがれ等の変状を認めた。
【0045】
また、塗膜の付着力をエルコメーター社製アドヒージョンテスターにより測定した。加えて、JIS-K5600-5-6:1999「付着性(クロスカット法)」に準じて、塗膜に対して2mmの間隔で格子状の切り込みを入れ、テープ剥離試験による付着性評価を行った。それぞれの判定基準は以下のように設定した。
<付着力判定基準>
◎:>7.0MPa
○:2.0~7.0MPa
×:<2.0MPa
<碁盤目付着性(クロスカット法)判定基準>
○:分類0~1(評価後の塗膜の剥離率が5%以下)
×:分類2~5(評価後の塗膜の剥離率が5%超)
【0046】
(2)防食性評価試験
上記方法にて作製した試験片に対して、JIS-5600-7-9:2006の7.5(切り込みきずの付け方)に準じて、素地に達する交差状の切り込みきずを付け、JIS-5600-7-9「サイクル腐食試験方法」に規定されるサイクル腐食性試験(サイクルD)に供した。
【0047】
本試験開始から120サイクルおよび240サイクル、360サイクル経過後の塗膜について、塗膜外観の変状程度を上記塗膜の耐久性と同様の判定基準で評価した。加えて、切り込みきずからの塗膜変状幅を以下の判定基準で評価した。
<きず部変状幅判定基準>
◎:<2.0mm
○:2.0~3.0mm
×:>3.0mm
【0048】
【表1】
【0049】
表1に示した結果から、ウレタン変性アミン化合物を硬化剤中に含み、かつリン酸塩およびホウ酸塩系防錆顔料を有する実施例1~6の塗料組成物は、亜鉛めっき鋼板に対する付着耐久性に優れ、比較例1~4と比較し長期にわたり良好な塗膜付着力を維持していることが判る。
【0050】
また、同塗料組成物は亜鉛めっき鋼板上において高い防食性を示し、きず部変状幅の評価結果から、特に切り込みきずにより露出した亜鉛めっきの劣化を抑制する効果を認めた。