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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-23
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】異材接合用アーク溶接法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/23 20060101AFI20220111BHJP
   B23K 9/02 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
B23K9/23 H
B23K9/02 M
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020202990
(22)【出願日】2020-12-07
(62)【分割の表示】P 2018035397の分割
【原出願日】2018-02-28
(65)【公開番号】P2021037550
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2020-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 励一
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第3095951(US,A)
【文献】実開昭64-7911(JP,U)
【文献】特開2001-132718(JP,A)
【文献】特開2014-226698(JP,A)
【文献】国際公開第2017/170213(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/23
B23K 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金もしくはマグネシウム合金製の第1の板と、鋼製の第2の板と、を接合する異材接合用アーク溶接法であって、
大径部と、該大径部よりも最大外径が小さい小径部とを持った段付きの外形形状を有し、前記小径部の外周面には少なくとも1つの圧入用突起部が設けられ、且つ、該大径部及び該小径部を貫通する中空部が形成され、該大径部及び該小径部の合計高さが前記第1の板の板厚以上である鋼製の接合補助部材を、前記第1の板に拘束保持する工程と、
前記第1の板と前記第2の板を重ね合わせる工程と、
以下の(a)~(e)のいずれかの手法によって、前記接合補助部材の中空部を溶接金属で充填すると共に、前記溶接金属を前記第2の板に裏波が出る状態まで溶け込ませて、前記第2の板及び前記接合補助部材を溶接する、充填溶接工程と、
を備える異材接合用アーク溶接法。
(a)鉄合金、または、Ni合金の前記溶接金属が得られる溶接ワイヤを溶極として用いるガスシールドアーク溶接法。
(b)前記溶接ワイヤを溶極として用いるノンガスアーク溶接法。
(c)前記溶接ワイヤを非溶極フィラーとして用いるガスタングステンアーク溶接法。
(d)前記溶接ワイヤを非溶極フィラーとして用いるプラズマアーク溶接法。
(e)鉄合金、または、Ni合金の前記溶接金属が得られる被覆アーク溶接棒を溶極として用いる被覆アーク溶接法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの圧入用突起部は、前記小径部の軸方向に平行である、請求項1に記載の異材接合用アーク溶接法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの圧入用突起部は、前記大径部から離れて位置する、請求項1または2に記載の異材接合用アーク溶接法。
【請求項4】
アルミニウム合金もしくはマグネシウム合金製の第1の板と、鋼製の第2の板と、を接合する異材接合用アーク溶接法であって、
大径部と、該大径部よりも最大外径が小さい小径部とを持った段付きの外形形状を有し、前記小径部の外周面には、前記大径部の最大外径よりも小さい中径部が、該大径部と接触することなく、且つ、該外周面に沿って連続的または断続的に設けられ、且つ、該大径部及び該小径部を貫通する中空部が形成され、該大径部及び該小径部の合計高さが前記第1の板の板厚以上である鋼製の接合補助部材を、前記第1の板に拘束保持する工程と、
前記第1の板と前記第2の板を重ね合わせる工程と、
以下の(a)~(e)のいずれかの手法によって、前記接合補助部材の中空部を溶接金属で充填すると共に、前記溶接金属を前記第2の板に裏波が出る状態まで溶け込ませて、前記第2の板及び前記接合補助部材を溶接する、充填溶接工程と、
を備える異材接合用アーク溶接法。
(a)鉄合金、または、Ni合金の前記溶接金属が得られる溶接ワイヤを溶極として用いるガスシールドアーク溶接法。
(b)前記溶接ワイヤを溶極として用いるノンガスアーク溶接法。
(c)前記溶接ワイヤを非溶極フィラーとして用いるガスタングステンアーク溶接法。
(d)前記溶接ワイヤを非溶極フィラーとして用いるプラズマアーク溶接法。
(e)鉄合金、または、Ni合金の前記溶接金属が得られる被覆アーク溶接棒を溶極として用いる被覆アーク溶接法。
【請求項5】
前記接合補助部材の小径部における前記第1の板からの張り出し量が、前記第1の板の板厚に対し25%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の異材接合用アーク溶接法。
【請求項6】
前記充填溶接工程において、前記第1の板及び前記第2の板が互いに密着する方向に押圧可能な加圧機構を有し、
前記加圧機構が前記第1の板及び前記第2の板が互いに密着するように押圧しながら、前記第2の板及び前記接合補助部材を溶接する、請求項1~5のいずれか1項に記載の異材接合用アーク溶接法。
【請求項7】
前記加圧機構は、前記充填溶接工程において使用する溶接トーチに備えられ、前記第1の板及び前記接合補助部材の少なくとも一方と当接する押し付け部を有する、請求項6に記載の異材接合用アーク溶接法。
【請求項8】
前記充填溶接工程において、前記接合補助部材の中空部を溶接金属で充填するに際し、前記接合補助部材の表面上に余盛りを形成する、請求項1~7のいずれか1項に記載の異材接合用アーク溶接法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異材接合用アーク溶接法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車を代表とする輸送機器には、(a)有限資源である石油燃料消費、(b)燃焼に伴って発生する地球温暖化ガスであるCO、(c)走行コストといった各種の抑制を目的として、走行燃費の向上が常に求められている。その手段としては、電気駆動の利用など動力系技術の改善の他に、車体重量の軽量化も改善策の一つである。軽量化には現在の主要材料となっている鋼を、軽量素材であるアルミニウム合金、マグネシウム合金、炭素繊維などに置換する手段がある。しかし、全てをこれら軽量素材に置換するには、高コスト化や強度不足になる、といった課題があり、解決策として鋼と軽量素材を適材適所に組み合わせた、いわゆるマルチマテリアルと呼ばれる設計手法が注目を浴びている。
【0003】
鋼と上記軽量素材を組み合わせるには、必然的にこれらを接合する箇所が出てくる。鋼同士やアルミニウム合金同士、マグネシウム合金同士では容易である溶接が、異材では極めて困難であることが知られている。この理由として、鋼とアルミニウムあるいはマグネシウムの溶融混合部には極めて脆い性質である金属間化合物(IMC)が生成し、引張や衝撃といった外部応力で溶融混合部が容易に破壊してしまうことにある。このため、抵抗スポット溶接法やアーク溶接法といった溶接法が異材接合には採用できず、他の接合法を用いるのが一般的である。鋼と炭素繊維の接合も、後者が金属ではないことから溶接を用いることができない。
【0004】
従来の異材接合技術の例としては、鋼素材と軽量素材の両方に貫通穴を設けてボルトとナットで上下から拘束する手段があげられる。また、他の例としては、かしめ部材を強力な圧力をかけて片側から挿入し、かしめ効果によって拘束する手段が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
さらに、他の例としては、アルミ合金素材に鋼製の接合部材をポンチとして押し込むことで穴あけと接合部材を仮拘束し、次に鋼素材と重ね合わせ、上下両方から銅電極にて挟み込んで、圧力と高電流を瞬間的に与えて鋼素材と接合部材を抵抗溶接する手段が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
また、他の例としては、摩擦攪拌接合ツールを用いてアルミ合金と鋼の素材同士を直接接合する手段も開発されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2002-174219号公報
【文献】特開2009-285678号公報
【文献】特許第5044128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ボルトとナットによる接合法は、鋼素材と軽量素材が閉断面構造を構成するような場合(図39A参照)、ナットを入れることができず適用できない。また、適用可能な開断面構造の継手の場合(図39B図39C参照)でも、ナットを回し入れるのに時間を要し能率が悪いという課題がある。
【0009】
また、特許文献1に記載の接合法は、比較的容易な方法ではあるが、鋼の強度が高い場合には挿入できない問題があり、且つ、接合強度は摩擦力とかしめ部材の剛性に依存するので、高い接合強度が得られないという問題がある。また、挿入に際しては表・裏両側から治具で押さえ込む必要があるため、閉断面構造には適用できないという課題もある。
【0010】
さらに、特許文献2に記載の接合法も、閉断面構造には適用できず、また、抵抗溶接法は設備が非常に高価であるという課題がある。
【0011】
特許文献3に記載の接合法は、アルミ合金素材を低温領域で塑性流動させながら鋼素材面に圧力をかけることで、両素材が溶融し合うことがなく、金属間化合物の生成を防止しながら金属結合力が得られるとされ、鋼と炭素繊維も接合可能という研究成果もある。しかしながら、本接合法も閉断面構造には適用できず、また高い圧力を必要とするので機械的に大型となり、高価であるという問題がある。また、接合力としてもそれほど高くならない。
【0012】
したがって、既存の異材接合技術は、(i)部材や開先形状が開断面構造に限定される、(ii)接合強度が低い、(iii)設備コストが高価であるといった一つ以上の問題を持っている。このため、種々の素材を組み合わせたマルチマテリアル設計を普及させるためには、(i’)開断面構造と閉断面構造の両方に適用できる、(ii’)接合強度が十分に高く、かつ信頼性も高い、(iii’)低コストであるという全ての要素を兼ね備えた、使いやすい新技術が求められている。
【0013】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、アルミニウム合金(以下「Al合金」とも言う)もしくはマグネシウム合金(以下、「Mg合金」とも言う)と鋼の異材を、既に世に普及している安価なアーク溶接設備を用いて、強固かつ信頼性の高い品質で接合でき、かつ開断面構造にも閉断面構造にも制限無く適用できる、異材接合用アーク溶接法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
ここで、Al合金もしくはMg合金と鋼を溶融接合させようとすると、上述したように金属間化合物(IMC)の生成が避けられない。一方、鋼同士の溶接は最も高い接合強度と信頼性を示すことは、科学的にも実績的にも自明である。
そこで、本発明者は、鋼同士の溶接を結合力として用い、さらに拘束力を利用して異材の接合を達成する手段を考案した。
【0015】
従って、本発明の上記目的は、下記(1)の構成により達成される。
(1) アルミニウム合金もしくはマグネシウム合金製の第1の板と、鋼製の第2の板と、を接合する異材接合用アーク溶接法であって、
大径部と、該大径部よりも最大外径が小さい小径部とを持った段付きの外形形状を有し、且つ、該大径部及び該小径部を貫通する中空部が形成され、該大径部及び該小径部の合計高さが前記第1の板の板厚以上である鋼製の接合補助部材を、前記小径部が前記第1の板に面するように配置し、前記接合補助部材に圧力をかけて前記第1の板を打ち抜く工程と、
前記第1の板と前記第2の板を重ね合わせる工程と、
以下の(a)~(e)のいずれかの手法によって、前記接合補助部材の中空部を溶接金属で充填すると共に、前記溶接金属を前記第2の板に裏波が出る状態まで溶け込ませて、前記第2の板及び前記接合補助部材を溶接する工程と、
を備える異材接合用アーク溶接法。
(a)鉄合金、または、Ni合金の前記溶接金属が得られる溶接ワイヤを溶極として用いるガスシールドアーク溶接法。
(b)前記溶接ワイヤを溶極として用いるノンガスアーク溶接法。
(c)前記溶接ワイヤを非溶極フィラーとして用いるガスタングステンアーク溶接法。
(d)前記溶接ワイヤを非溶極フィラーとして用いるプラズマアーク溶接法。
(e)鉄合金、または、Ni合金の前記溶接金属が得られる被覆アーク溶接棒を溶極として用いる被覆アーク溶接法。
【0016】
また、本発明の好ましい実施形態は、以下の(2)~(11)に関するものである。
(2) 前記小径部の外周面には、少なくとも1つの圧入用突起部が設けられる、上記(1)に記載の異材接合用アーク溶接法。
(3) 前記小径部の外周面には、前記大径部の最大外径よりも小さい中径部が、該大径部と接触することなく、且つ、該外周面に沿って連続的または断続的に設けられる、上記(1)に記載の異材接合用アーク溶接法。
(4) 前記重ね合わせ工程の前に、前記第1の板と前記第2の板の少なくとも一方の重ね合わせ面に対し、前記打ち抜き工程により形成された前記第1の板における穴の周囲に、全周に亘って接着剤を塗布する工程を、さらに備える、上記(1)~(3)のいずれか1つに記載の異材接合用アーク溶接法。
(5) 前記打ち抜き工程において、前記接合補助部材と、該接合補助部材と対向する前記第1の板との間の少なくとも一方の対向面に、接着剤を塗布する、上記(1)~(4)のいずれか1つに記載の異材接合用アーク溶接法。
(6) 前記打ち抜き工程の際、または、前記充填溶接工程後に、少なくとも前記接合補助部材と前記第1の板の表面との境界部に接着剤を塗布する、上記(1)~(5)のいずれか1つに記載の異材接合用アーク溶接法。
(7) 前記接合補助部材の小径部における前記第1の板からの張り出し量が、前記第1の板の板厚に対し25%以下である、上記(1)~(6)のいずれか1つに記載の異材接合用アーク溶接法。
(8) 前記充填溶接工程において、前記第1の板及び前記第2の板が互いに密着する方向に押圧可能な加圧機構を有し、
前記加圧機構が前記第1の板及び前記第2の板が互いに密着するように押圧しながら、前記第2の板及び前記接合補助部材を溶接する、上記(1)~(7)のいずれか1つに記載の異材接合用アーク溶接法。
(9) 前記加圧機構は、前記充填溶接工程において使用する溶接トーチに備えられ、前記第1の板及び前記接合補助部材の少なくとも一方と当接する押し付け部を有する、上記(8)に記載の異材接合用アーク溶接法。
(10) 前記接合補助部材の大径部の露出面が、前記第1の板の表面と略同一または外側に位置するようにして前記第1の板を打ち抜く、上記(1)~(9)のいずれか1つに記載の異材接合用アーク溶接法。
(11) 前記充填溶接工程において、前記接合補助部材の中空部を溶接金属で充填するに際し、前記接合補助部材の表面上に余盛りを形成する、上記(1)~(10)のいずれか1つに記載の異材接合用アーク溶接法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、アルミニウム合金もしくはマグネシウム合金と、鋼との異材を、安価なアーク溶接設備を用いて、強固かつ信頼性の高い品質で接合でき、かつ開断面構造にも閉断面構造にも制限無く適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1A図1Aは、本発明の一実施形態に係る異材溶接継手の斜視図である。
図1B図1Bは、図1AのI-I線に沿った異材溶接継手の断面図である。
図2図2は、本実施形態の接合補助部材の斜視図及び断面図である。
図3A図3Aは、本実施形態の異材接合用アーク溶接法の打ち抜き作業(ステップS1)を示す図である。
図3B図3Bは、打ち抜き作業の一例の第1工程を示す図である。
図3C図3Cは、打ち抜き作業の一例の第2工程を示す図である。
図3D図3Dは、打ち抜き作業の一例の第3工程を示す図である。
図3E図3Eは、打ち抜き作業の一例の第4工程を示す図である。
図3F図3Fは、本実施形態の異材接合用アーク溶接法の重ね合わせ作業(ステップS2)を示す図である。
図3G図3Gは、本実施形態の異材接合用アーク溶接法の溶接作業(ステップS3)を示す図である。
図4A図4Aは、アルミ製の上板と鋼製の下板を重ねて貫通溶接した比較例としての異材溶接継手の斜視図である。
図4B図4Bは、図4Aの異材溶接継手の断面図である。
図5A図5Aは、図4Aの異材溶接継手にせん断引張が作用した状態を示す断面図である。
図5B図5Bは、図5Aの異材溶接継手を示す斜視図である。
図6A図6Aは、図4Aの異材溶接継手に上下剥離引張が作用した状態を示す断面図である。
図6B図6Bは、図6Aの異材溶接継手を示す斜視図である。
図7A図7Aは、穴を有するアルミ製の上板と鋼製の下板を重ねて貫通溶接した比較例としての異材溶接継手の斜視図である。
図7B図7Bは、図7Aの異材溶接継手の断面図である。
図8A図8Aは、図7Aの異材溶接継手にせん断引張が作用した状態を示す断面図である。
図8B図8Bは、図7Aの異材溶接継手にせん断引張が作用し、接合部が90°近くずれた状態を示す斜視図である。
図9A図9Aは、図7Aの異材溶接継手に上下剥離引張が作用した状態を示す断面図である。
図9B図9Bは、図9Aの異材溶接継手を示す斜視図である。
図10A図10Aは、上台座、下台座及び加圧機構により構成される圧入装置を用いた打ち抜き作業の一例を示す図である。
図10B図10Bは、上台座、下台座及び加圧機構により構成される圧入装置を用いた打ち抜き作業の別例を示す図である。
図10C図10Cは、打ち抜き作業により接合補助部材が圧入された状態のアルミ製の上板を示す図である。
図11図11は、下板に、接合補助部材が圧入された上板を重ね合わせた状態における、ギャップGを説明するための断面図である。
図12A図12Aは、充填溶接工程において、上板及び下板を加圧するための加圧機構の第1例を示す斜視図である。
図12B図12Bは、充填溶接工程において、上板及び下板を加圧するための加圧機構の第2例を示す斜視図である。
図12C図12Cは、充填溶接工程において、上板及び下板を加圧するための加圧機構の第3例を示す斜視図である。
図12D図12Dは、充填溶接工程において、上板及び下板を加圧するための加圧機構の第4例を示す斜視図である。
図13図13は、下板に、接合補助部材が圧入された上板を重ね合わせた状態における張り出し量Pを説明するための断面図である。
図14A図14Aは、本実施形態の異材溶接継手の断面図である。
図14B図14Bは、図14Aの異材溶接継手に上下剥離引張が作用した状態を示す斜視図である。
図15A図15Aは、本実施形態の接合補助部材の正面図である。
図15B図15Bは、接合補助部材の第1変形例を示す正面図である。
図15C図15Cは、接合補助部材の第2変形例を示す正面図である。
図15D図15Dは、接合補助部材の第3変形例を示す正面図である。
図15E図15Eは、接合補助部材の第4変形例を示す正面図である。
図16A図16Aは、接合補助部材の第5変形例を示す側面図である。
図16B図16Bは、接合補助部材の第6変形例を示す側面図である。
図16C図16Cは、接合補助部材の第7変形例を示す側面図である。
図17図17は、接合補助部材の他の役割を説明するための本実施形態の異材溶接継手の断面図である。
図18A図18Aは、接合補助部材の上板への押込み量を説明するための第1例を示す図である。
図18B図18Bは、接合補助部材の上板への押込み量を説明するための第2例を示す図である。
図18C図18Cは、接合補助部材の上板への押込み量を説明するための第3例を示す図である。
図18D図18Dは、接合補助部材の上板への押込み量を説明するための第4例を示す図である。
図19A図19Aは、接合補助部材の第8変形例を示す正面図である。
図19B図19Bは、接合補助部材の第9変形例を示す正面図である。
図19C図19Cは、接合補助部材の第10変形例を示す正面図である。
図19D図19Dは、接合補助部材の第11変形例を示す正面図である。
図19E図19Eは、接合補助部材の第12変形例を示す正面図である。
図19F図19Fは、接合補助部材の第13変形例を示す正面図である。
図19G図19Gは、接合補助部材の第14変形例を示す正面図である。
図20図20は、接合補助部材の第15変形例を示す斜視図である。
図21図21は、接合補助部材の第16変形例を示す側面図である。
図22A図22Aは、余盛りが形成されない異材溶接継手を示す断面図である。
図22B図22Bは、図22Aの異材溶接継手に板厚方向(3次元方向)の外部応力が作用した状態を示す断面図である。
図23図23は、余盛りが形成された異材溶接継手に板厚方向(3次元方向)の外部応力が作用した状態を示す断面図である。
図24A図24Aは、溶接金属の溶込みを説明するための異材溶接継手の断面図(裏波を有する場合)である。
図24B図24Bは、溶接金属の溶込みを説明するための異材溶接継手の断面図(裏波を有さない場合)である。
図25図25は、横向き姿勢でアーク溶接が施されている状態を示す図である。
図26A図26Aは、本実施形態の圧入用突起部を有する接合補助部材を示す斜視図である。
図26B図26Bは、圧入用突起部を有する接合補助部材の側面図、及びII-II線に沿った断面図である。
図27図27は、圧入用突起部を有する接合補助部材が上板に圧入される場合の保持機構を説明するための図である。
図28A図28Aは、圧入用突起部を有する接合補助部材の第1変形例の要部側面図である。
図28B図28Bは、圧入用突起部を有する接合補助部材の第2変形例の要部側面図である。
図28C図28Cは、圧入用突起部を有する接合補助部材の第3変形例の要部側面図である。
図28D図28Dは、圧入用突起部を有する接合補助部材の第4変形例の要部側面図である。
図28E図28Eは、圧入用突起部を有する接合補助部材の第5変形例の要部側面図である。
図28F図28Fは、圧入用突起部を有する接合補助部材の第6変形例の要部側面図である。
図28G図28Gは、圧入用突起部を有する接合補助部材の第7変形例の要部側面図である。
図28H図28Hは、圧入用突起部を有する接合補助部材の第8変形例の要部側面図である。
図28I図28Iは、圧入用突起部を有する接合補助部材の第9変形例の要部側面図である。
図28J図28Jは、圧入用突起部を有する接合補助部材の第10変形例の要部側面図である。
図28K図28Kは、圧入用突起部を有する接合補助部材の第11変形例の要部側面図である。
図29A図29Aは、圧入用突起部を有する接合補助部材の第12変形例の斜視図である。
図29B図29Bは、圧入用突起部を有する接合補助部材の第13変形例の斜視図である。
図29C図29Cは、圧入用突起部を有する接合補助部材の第14変形例の斜視図である。
図30A図30Aは、圧入用突起部を有する接合補助部材の第14変形例の側面図、及びXXXa-XXXa線に沿った断面図である。
図30B図30Bは、圧入用突起部を有する接合補助部材の第15変形例の側面図、及びXXXb-XXXb線に沿った断面図である。
図30C図30Cは、圧入用突起部を有する接合補助部材の第16変形例の側面図、及びXXXc-XXXc線に沿った断面図である。
図30D図30Dは、圧入用突起部を有する接合補助部材の第17変形例の側面図、及びXXXd-XXXd線に沿った断面図である。
図30E図30Eは、圧入用突起部を有する接合補助部材の第18変形例の側面図、及びXXXe-XXXe線に沿った断面図である。
図31A図31Aは、本実施形態の異材溶接継手の断面図である。
図31B図31Bは、図31AのXXXI-XXXI線に沿った断面図である。
図32A図32Aは、圧入用突起部を有する接合補助部材の第19変形例の要部側面図である。
図32B図32Bは、圧入用突起部を有する接合補助部材の第20変形例の要部側面図である。
図32C図32Cは、圧入用突起部を有する接合補助部材の第21変形例の要部側面図である。
図32D図32Dは、圧入用突起部を有する接合補助部材の第22変形例の要部側面図である。
図32E図32Eは、圧入用突起部を有する接合補助部材の第23変形例の要部側面図である。
図33A図33Aは、本実施形態の中径部を有する接合補助部材の斜視図及び側面図である。
図33B図33Bは、中径部を有する接合補助部材の第1変形例の斜視図及び側面図である。
図33C図33Cは、中径部を有する接合補助部材の第2変形例の斜視図及び側面図である。
図33D図33Dは、中径部を有する接合補助部材の第3変形例の斜視図及び側面図である。
図33E図33Eは、中径部を有する接合補助部材の第4変形例の斜視図及び側面図である。
図33F図33Fは、中径部を有する接合補助部材の第5変形例の斜視図及び側面図である。
図33G図33Gは、中径部を有する接合補助部材の第6変形例の斜視図及び側面図である。
図33H図33Hは、中径部を有する接合補助部材の第7変形例の斜視図及び側面図である。
図34A図34Aは、中径部を有する接合補助部材の第8変形例の斜視図及び側面図である。
図34B図34Bは、中径部を有する接合補助部材の第9変形例の斜視図及び側面図である。
図34C図34Cは、中径部を有する接合補助部材の第10変形例の斜視図及び側面図である。
図34D図34Dは、中径部を有する接合補助部材の第11変形例の斜視図及び側面図である。
図35A図35Aは、接合補助部材の第24変形例を示す側面図である。
図35B図35Bは、継手強度に影響を及ぼさない、接合補助部材における突出部を説明するための第1例を示す図である。
図35C図35Cは、継手強度に影響を及ぼさない、接合補助部材における突出部を説明するための第2例を示す図である。
図35D図35Dは、継手強度に影響を及ぼさない、接合補助部材における突出部を説明するための第3例を示す図である。
図35E図35Eは、継手強度に影響を及ぼさない、接合補助部材における突出部を説明するための第4例を示す図である。
図35F図35Fは、継手強度に影響を及ぼさない、接合補助部材における突出部を説明するための第5例を示す図である。
図35G図35Gは、継手強度に影響を及ぼさない、接合補助部材における突出部を説明するための第6例を示す図である。
図36A図36Aは、異材接合用アーク溶接法の第1変形例を説明するための上板と下板の斜視図である。
図36B図36Bは、異材接合用アーク溶接法の第1変形例を説明するための上板と下板の断面図である。
図37A図37Aは、異材接合用アーク溶接法の第2変形例を説明するための上板と下板の斜視図である。
図37B図37Bは、異材接合用アーク溶接法の第2変形例を説明するための上板と下板の断面図である。
図38A図38Aは、異材接合用アーク溶接法の第3変形例を説明するための異材溶接継手の斜視図である。
図38B図38Bは、異材接合用アーク溶接法の第3変形例を説明するための異材溶接継手の断面図である。
図38C図38Cは、異材接合用アーク溶接法の第4変形例を説明するための異材溶接継手の断面図である。
図39A図39Aは、本実施形態の異材溶接継手が適用された閉断面構造を示す斜視図である。
図39B図39Bは、本実施形態の異材溶接継手が適用された、L字板と平板による開断面構造を示す斜視図である。
図39C図39Cは、本実施形態の異材溶接継手が適用された、2枚の平板による開断面構造を示す斜視図である。
図40図40は、異材接合用アーク溶接法の第5変形例(開断面部材の製造方法)を示す図である。
図41図41は、異材接合用アーク溶接法の第6変形例(閉断面部材の製造方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態に係る異材接合用アーク溶接法を図面に基づいて詳細に説明する。
【0020】
本実施形態の異材接合用アーク溶接法は、互いに重ね合わせされる、Al合金もしくはMg合金製の上板10(第1の板)と、鋼製の下板20(第2の板)とを、鋼製の接合補助部材30を介して、後述するアーク溶接法によって接合することで、図1A及び図1Bに示すような異材溶接継手1を得るものである。
【0021】
上板10の板厚以上の高さを有する接合補助部材30を上板10上に配置し、接合補助部材30に圧力をかけて上板10を打ち抜くことにより、上板10に穴11を形成する。打ち抜き加工により圧入された接合補助部材30は、穴11の周囲のAl合金もしくはMg合金材料から圧力を受けて、軽く拘束された状態となって固定される。
【0022】
図2に示すように、接合補助部材30は、大径部32と、大径部32よりも最大外径が小さい小径部31とを持った段付きの外形形状を有する。また、接合補助部材30には、小径部31及び大径部32を貫通する中空部33が形成される。なお、大径部32の外形形状は、図2図15Aに示すような円形に限定されず、接合補助部材30の圧入により形成された貫通部(穴11)をアーク溶接後に塞いでいれば、任意の形状とすることができる。つまり、図15B図15Eに示す四角形以上の多角形でもよい。また、図15Cに示すように、多角形の角部を丸くしてもよい。
【0023】
さらに、接合補助部材30の中空部33には、アーク溶接によってフィラー材(溶接材料)が溶融した、鉄合金、または、Ni合金の溶接金属40が充填されると共に、溶接金属40と、溶融された下板20及び接合補助部材30の一部とによって溶融部Wが形成される。
【0024】
以下、異材溶接継手1を構成する異材接合用アーク溶接法について、図3A図3Gを参照して説明する。
まず、図3Aに示すように、上板(第1の板)10の板厚以上の高さを有する接合補助部材30を上板10上に配置し、接合補助部材30に圧力をかけて上板10を打ち抜くことにより、上板10に穴11を形成しつつ、接合補助部材30を上板10に圧入する(ステップS1)。
次に、図3Fに示すように、接合補助部材30が圧入された上板10と、下板20を重ね合わせる重ね合わせ作業を行う(ステップS2)。そして、図3Gに示すように、以下に詳述する(a)溶極式ガスシールドアーク溶接法、(b)ノンガスアーク溶接法、(c)ガスタングステンアーク溶接法、(d)プラズマアーク溶接法、(e)被覆アーク溶接法のいずれかのアーク溶接作業を行うことで、上板10と下板20とを接合する(ステップS3)。なお、図3Gは、(a)溶極式ガスシールドアーク溶接法を用いてアーク溶接作業が行われた場合を示している。
【0025】
ステップS1の打ち抜き作業を行うにあたり、接合補助部材30は大径部32及び小径部31を有しており、大径部32及び小径部31の合計高さが上板10の板厚以上となっている。また、接合補助部材30における小径部31が上板10に面するように配置される。
ステップS1の打ち抜き作業の具体的な手法としては、図3B図3Eに示すように、接合補助部材30自体をポンチとして、上板10が配置された下台座50に対して、接合補助部材30が固定された上台座51を接近させ、打抜き加工を施すことが挙げられる。この場合、中空部33に母材片Mが入り込んだままとなることが希にあり、アーク溶接時の邪魔になるので、その場合には母材片Mを取り除くことが必要である。
【0026】
また、ステップS3のアーク溶接作業は、上板10の穴11内の溶接金属40を介して接合補助部材30と下板20を接合し、かつ接合補助部材30に設けられた中空部33を充填するために必要とされる。したがって、アーク溶接には充填材となるフィラー材(溶接材料)の挿入が不可欠となる。具体的に、以下の4つのアーク溶接法により、フィラー材が溶融して溶接金属40が形成される。
【0027】
(a) 溶極式ガスシールドアーク溶接法は、一般的にMAG(マグ)やMIG(ミグ)と呼ばれる溶接法であり、ソリッドワイヤもしくはフラックス入りワイヤをフィラー兼アーク発生溶極として用い、CO,Ar,Heといったシールドガスで溶接部を大気から遮断して健全な溶接部を形成する手法である。
【0028】
(b)ノンガスアーク溶接法は、セルフシールドアーク溶接法とも呼ばれ、特殊なフラックス入りワイヤをフィラー兼アーク発生溶極として用い、一方、シールドガスを不要として、健全な溶接部を形成する手段である。
【0029】
(c)ガスタングステンアーク溶接法は、ガスシールドアーク溶接法の一種であるが非溶極式であり、一般的にTIG(ティグ)とも呼ばれる。シールドガスは、ArまたはHeの不活性ガスが用いられる。タングステン電極と母材との間にはアークが発生し、フィラーワイヤはアークに横から送給される。
一般的に、フィラーワイヤは通電されないが、通電させて溶融速度を高めるホットワイヤ方式TIGもある。この場合、フィラーワイヤにはアークは発生しない。
【0030】
(d)プラズマアーク溶接法はTIGと原理は同じであるが、ガスの2重系統化と高速化によってアークを緊縮させ、アーク力を高めた溶接法である。
【0031】
(e)被覆アーク溶接法は、金属の芯線にフラックスを塗布した被覆アーク溶接棒をフィラーとして用いるアーク溶接法であり、シールドガスは不要である。
【0032】
フィラー材(溶接材料)の材質については、溶接金属40がFe合金となるものであれば、一般的に用いられる溶接用ワイヤまたは溶接棒が適用可能である。なお、Ni合金でも鉄との溶接には不具合を生じないので適用可能である。
具体的には、JISとして(a)Z3312,Z3313,Z3317,Z3318,Z3321,Z3323,Z3334、(b)Z3313、(c)Z3316,Z3321,Z3334,(d)Z3211,Z3221,Z3223,Z3224、AWS(American Welding Society)として、(a)A5.9,A5.14,A5.18,A5.20,A5.22,A5.28,A5.29,A5.34、(b)A5.20、(c)A5.9,A5.14,A5.18,A5.28,(d)A5.1,A5.4,A5.5,A5.11といった規格材が流通している。
【0033】
これらのアーク溶接法を用いて接合補助部材30の中空部33をフィラー材で充填するが、一般的にフィラーワイヤもしくは溶接棒の狙い位置は移動させる必要がなく、適切な送給時間を経てアークを切って溶接終了させれば良い。ただし、中空部33の面積が大きい場合は、フィラーワイヤもしくは溶接棒の狙い位置を中空部33内で円を描くように移動させても良い。
【0034】
以上の作業によって、Al合金やMg合金製の上板10と鋼製の下板20は高い強度で接合される。
【0035】
以下、上記アーク溶接法において使用される鋼製の接合補助部材30の役割について説明する。
【0036】
まず、接合補助部材を使用せず、図4A及び図4Bに示すように、単純にアルミ製の上板10と鋼製の下板20とを重ね、上板側から鋼もしくはニッケル合金製溶接ワイヤを用いたアーク溶接を定点で一定時間保持したアークスポット溶接を行った場合、形成される溶接金属40aはアルミと鋼、もしくはアルミと鋼とニッケルの合金となる。この合金は、アルミ含有量が多いので脆性的特性である金属間化合物(IMC)を呈している。
【0037】
このような異材溶接継手100aは、一見接合されている様に見えても、横方向に引張応力がかかる(せん断引張)と、図5A及び図5Bに示すように、溶接金属40aが容易に破壊して、外れてしまう。また、縦方向に引張応力がかかる(剥離引張)場合でも、図6A及び図6Bに示すように、溶接金属40aが破断するか、もしくは溶接金属40aと上板10の境界部あるいは溶接金属40aと下板20の境界部が破断し、上板10が抜けるようにして接合が外れてしまう。
このように単にアルミ製の上板10と鋼製の下板20を重ねて、貫通溶接しようとしても、溶接金属40aは全部分が金属間化合物になってしまうので、せん断引張にも剥離引張にも弱く、溶接継手としては実用にならない。
【0038】
また、図7A及び図7Bに示すように、上板10に適当なサイズの穴11を開けておき、その穴11を埋めるように鋼もしくはニッケル合金の溶接材料を溶かし込む手法が考えられる。
この場合、溶接初期に形成される下板20となっている鋼と溶接材料で形成される溶接金属40bはアルミを溶かしていないので、金属間化合物は生成せず、高い強度と靱性を有しており、下板20と強固に結合されている。また、上板10に開けられた穴11の内部に形成された溶接金属40bは、アルミが溶融する割合が非常に少なく、金属間化合物の生成は大幅に抑制され、特に中心部は健全性を有している。
【0039】
ただし、上板10に設けられた穴11の近傍に限れば、アルミと鋼、あるいはアルミとニッケルの金属化合物層を形成する。このような異材溶接継手100bに対し、図8Aに示すように、せん断引張応力がかかった場合、下板側は強固に金属結合しているため、高い応力に耐える。一方、上板側は金属間化合物が穴周囲に形成されてはいるが、それが剥離して動くことは形状的にできないため、初期には上板10、下板20の母材が変形する。
このため、ほぼ変形せずに脆性破断する図5A及び図5Bの異材溶接継手100aと比較すると、変形能力の向上が見られる。しかし、母材の変形が進み、図8Bに示すように、接合部が90°近く傾斜すると上下剥離引張と同じ状態になる。このようになると穴11の周囲部に形成された金属間化合物が剥離し、上板10が溶接部から容易に抜けてしまう。つまり、改善が不十分である。
この結果は、図9A及び図9Bに示すように、上下引張方向試験でも無論同じである。
【0040】
上記2つの異材溶接継手100a、100bにおける課題から、せん断方向及び上下剥離方向の応力にも耐えるように、さらなる改良を施したのが本実施形態である。
すなわち、図3A図3Dに示すように、上板10となるアルミ板に対して、中心に穴が空いている鋼製の接合補助部材30を圧入する。接合補助部材30は上板10の板厚以上の高さを有するため、接合補助部材30が圧入された個所のその箇所のアルミ板は抜け落ちる(ステップS1:打ち抜き工程)。さらに、接合補助部材30は周囲のアルミ板から圧力を受けて、軽く拘束された状態となって固定される(図10C参照)。
【0041】
接合補助部材30を上板10に圧入するための圧入装置としては、例えば、図10Aまたは図10Bに示すように、接合補助部材30を上板10に押し込むための上台座51と、それを動かすための加圧機構80、及び上板10の裏側を受け止めるための下台座50で構成される。なお、図10Aは接合補助部材30を1個ずつ圧入するための圧入装置を示しており、図10Bは接合補助部材30を複数同時に圧入するための圧入装置を示している。
上台座51と接合補助部材30は、例えば、磁力や機械的機構によって一時的に保持され、圧入完了後は加圧方向(図10Aまたは図10B中の矢印)と逆方向に上台座51を引き上げることで、接合補助部材30を離脱させることができる。ここで、図3B及び図3Cに示すように、下台座50は接合補助部材30の挿入径以上の中空部を有しており、圧入によって抜き打ちされたAl合金もしくはMg合金の不要部を蓄積、あるいは排除することができる。なお、負圧による吸引機構を設けても良い。
また、これら一対の機構(上台座51,下台座50)は単独で装置としても良いし、複数を同時に駆動させる機構を持った装置としても良い。また、これらは定置式としても良いし、産業用多関節ロボットに持たせ、自由に場所を移動出来るようにしても良い。
【0042】
次のステップとして、接合補助部材30が仮固定されたAl合金もしくはMg合金製の上板10と鋼製の下板20を、接合すべき位置に合わせて重ね合わせる(ステップS2:重ね合わせ工程)。このとき、接合補助部材30が仮固定された上板10と下板20とは出来る限り互いに密着している方が好ましい。
図11に示すように、上板10と下板20との間にギャップGが存在している場合、後の工程において上板10と下板20とが溶接されたとしても、上板10は下板20との隙間分だけ自由移動が可能な状態となってしまい、接合精度が悪くなる(がたつきが生じてしまう)からである。
【0043】
加圧せずとも、上板10及び下板20の密着性が確保される場合には必ずしも充填溶接工程時における加圧機構は必要ないが、上板10及び下板20は充填溶接工程時において、互いに密着する方向に加圧されていることが好ましい。
具体的には、加圧機構80であるクランプ機構を使って上下から加圧する場合(図12Aを参照)、あるいは片側から加圧する場合(図12Bを参照)が例として挙げられる。また、溶接トーチ90に加圧用脚92を設けて、ロボットなどの力で加圧する場合(図12Cまたは図12Dを参照)が例として挙げられる。
【0044】
上板10と下板20との間にギャップGが存在している場合と同様の観点より、図13に示すように、接合補助部材30で上板10を打ち抜いたときの、接合補助部材30の小径部31における上板10からの張り出し量Pは少ないほど良い。張り出し量Pが多いほど、充填溶接後において、がたつきが生じる原因となり得る。具体的には、張り出し量Pは上板10の板厚Bに対し25%以下とするのが良い(ただし、上板10を確実に打ち抜くために、0%以上とする)。なお、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下である。
【0045】
このように溶接前準備が整ったら、接合補助部材30における中空部33内を充填するようにアーク溶接にて溶接金属40を形成する。なお、アーク溶接用ワイヤや溶接棒先端の狙い位置は接合補助部材30ではなく、上板10の穴11における下面と接する、鋼製の下板20である。言い換えれば、接合補助部材30における中空部33内の壁と、下板20に囲われた”るつぼ”状の空間は、アーク溶接によって鋳造された状態になる。
このようにすると、断面としては接合補助部材30、溶接金属40、下板20が強固な金属結合によって溶接接合されている状態になる。
接合補助部材30における先端部(小径部31)による打ち抜き加工によって形成された穴径よりも幅広である接合補助部材30の大径部32は、上板10表面と面一、もしくは外側に配置される。この大径部32の最大の役割は、上下剥離応力に対する抵抗である。図14Aに示したように、外側に大径部32を有する接合補助部材30を適用することにより、上板10と溶接金属40の界面が剥離して抜けてしまう現象を防止することが可能となる。一般的には、図14Bに示したように、溶接金属40は、十分に塑性変形した後、破断する。なお、接合補助部材30は、せん断方向の引張応力に対しても、初期応力に対して何ら悪影響を及ぼさないことは自明である。
【0046】
接合補助部材30における大径部32の外形形状は、そのメカニズム上、圧入による打ち抜きにより形成された穴11を溶接後に塞いでいれば、任意の形状とすることができる。例えば、最も一般的な形状は図15Aに示すような円形であるが、図15B図15Eに示す四角形以上の多角形でもよい。また、図15Cに示すように、多角形の角部を丸くしてもよい。
【0047】
また、接合補助部材30における大径部32の断面形状は、図16Aに示すような、平たい円柱状だけでなく、図16Bに示すような、上側(小径部31側とは反対側)にテーパーが付いた形状、あるいは図16Cに示すような、上側に丸みを持たせた形状など特に問わない。
【0048】
接合補助部材30は面積が大きく、かつ厚さが大きいほど板厚方向(3次元方向)の外部応力に対して強度を増すため、好ましい。しかし、必要以上に大きいと重量増の要因や、上板10表面からの張り出し量が過剰となることにより、美的外観劣化や近接する他の部材との干渉が生じるため、必要とされる設計に応じてサイズを決めることが好ましい。
【0049】
接合補助部材30には、他にもいくつかの役割がある。その一つが上板10の材料であるAl合金やMg合金の溶融を避けるための防護壁作用である。融点が低いAl合金やMg合金は、アークが当たることにより、その高熱で溶融してしまう。しかし、接合補助部材30を介在させることで、アークがAl合金やMg合金に当たるのを物理的に防ぎ、溶融することを防止することができる。
また、アークにより形成される溶融金属40は高温であり、接触したAl合金やMg合金を侵食する場合があるため、アーク溶接中も接合補助部材30が介在していることが好ましい。すなわち、アーク溶接の終了後に、接合補助部材30の小径部31が溶接金属40と上板10の間に残っていることが好ましい。
アーク溶接の溶込み範囲が接合補助部材30と下板20のみとなれば、AlやMgの溶接金属40への希釈はゼロとなり、IMCは完全に防止される。なお、図17に示すように、接合補助部材30の半径方向における厚みが薄すぎると、アーク溶接時の入熱により、接合補助部材30が融点に達して溶けてしまうおそれがある。この場合、さらにAl合金やMg合金まで溶かす可能性があることから、溶接入熱を鑑みて、適切な厚みの設計とする必要がある。
【0050】
接合補助部材30における、上板10への押込み量は特に制限されない。しかし、図18Aに示すように、接合部が上板10の表面に対して凹んでしまうと、溶接後の継手に応力がかかった際、溶接金属40が応力集中部となって、低強度で破壊するおそれがある。よって、図18Bに示すように、少なくとも上板10の表面と接合補助部材30の表面が面一であるか、図18Cに示すように、接合補助部材30の大径部32が上板10の表面に対し、部分的に飛び出している状態が好ましい。さらには、図18Dに示すように、接合補助部材30の大径部32が上板10の表面に対し、完全に飛び出していることが最も好ましい。
【0051】
接合補助部材30の小径部31の断面形状は、図2に示すように、最も一般的な形状として真円形が使われるが、特に限定されず、任意の形状とすることができる。例えば、図19A図19Fに示す四角形以上の多角形でもよい。また、図19Bに示すように、多角形の角部を丸くしてもよい。さらに、接合補助部材30における中空部33の内面形状についても、上記と同様、真円形である必要はなく、19A~図19Eまたは図19Gに示すように、任意の形状とすることができる。なお、図19A図19Dに示すように、小径部31の断面形状と中空部の内面形状とが同一である必要はなく、図19F図19Gのように、異なっていても良い。
【0052】
また、接合補助部材30を上板10に対して圧入して打ち抜く際には、接合補助部材30を回しながら圧力をかけることも可能である。そのような手段を用いる場合は、図20に示すように、大径部32の上面にネジ回し用ドライバーがフィットするような切り欠き37を設けると、接合補助部材30を上板10に回し入れやすくすることができる。
【0053】
接合補助部材30に空けられる中空部33の面は平坦でかまわないが、図21に示すように、ネジ溝33aを形成していてもかまわない。本工法において雄ネジは用いられないが、ネジ溝33aがあることで、アーク溶接時に溶融池との接触表面積が増え、より強固に溶接金属40と接合補助部材30が結合される。ネジ溝33aなど円筒面でない場合の穴の直径Pは、最も広い対面間距離と定義する。
【0054】
接合補助部材30の材質は、純鉄及び鉄合金であれば制限は無く、詳しくは軟鋼、炭素鋼、ステンレス鋼などがあげられる。
【0055】
溶接金属40は接合補助部材30の中空部33を充填し、さらに接合補助部材30の表面、より具体的には大径部32の表面に余盛りWaを形成するのが望ましい(図1B参照)。余盛りWaを形成しない、すなわち、図22Aに示すように、中空部33が溶接後に外観上残る状態だと、特に、板厚方向(3次元方向)の外部応力に対しては、接合強度が不足となる可能性がある(図22B参照)。このため、余盛りWaを形成することで、図23に示すように、板厚方向(3次元方向)の外部応力に対しては、接合補助部材30の変形が抑えられ、高い接合強度が得られる。なお、板厚方向の引張応力に対して接合補助部材30を上板10に確実に固定するため、余盛りWaを板厚方向上側(上板10側)から見た場合の、余盛りWaの最大外径は、上板10に設けられる穴11の最大外径よりも大きくすることが好ましい。
【0056】
一方、余盛り側と反対側の溶込みについては、図24Aに示すように、下板20の板厚を超えて溶接金属40が形成される、いわゆる裏波が出る状態にする必要がある。その理由は以下のとおりである。
溶接条件の設定不良あるいは溶接機器の動作不良等により溶込みが浅くなり、接合補助部材30に形成される表側の余盛りWaが外観的に正常であるにもかかわらず、下板20が溶けずに、溶接金属40が乗りかかっているだけという状態になることがある。このような場合、接合補助部材30と下板20は接合されていないことになり、つまり下板20と上板10も接合されていないことになる。
一方、下板20に裏波が生じている場合、それは溶接金属40が上板10側から会合面を通過して下板20側まで到達したことを意味しているので、接合補助部材30と下板20が金属結合されていることを保証することになる。さらに、それは間接的に上板10と下板20が接合されていることを保証することになる。すなわち、下板20に裏波が生じていれば、溶接工程直後にそれを目視あるいはセンサー等で容易に確認することが出来、接合不良をそのままにして後工程に進むことを防止することができる。
さらには、下板20に形成された裏波のサイズから、接合補助部材30と下板20の接合強度をおおよそ予想することができる。これらの間の接合強度は、用いられる材質を一定とした場合、上板10と下板20の界面に形成される溶接金属40の断面積、いわゆるナゲット径の大きさに比例する。ナゲット径は、接合補助部材30に設けられた中空部33が溶接金属40で満たされているとすると、中空部33の上面側(大径部32側)に形成された溶接金属40の直径(最大外径)を上底、裏波の直径(最大外径)を下底とした左右対称の台形断面として推定することができる。すなわち、ナゲット径は裏波の直径とおおよそ比例する。この関係性を利用して、単に接合されているか否かという2択論ではなく、必要強度を満たして接合されているか否かというレベルの高い品質保証を、下板20の裏波サイズの測定から実施することができる。このような品質保証性の点から、溶接金属40を下板20の外側に裏波が出る状態まで溶け込ませて、下板20と接合補助部材30を溶接することが必須である。
ただし、溶接金属40が深く溶け込みすぎて、溶接金属40と下板20が溶け落ちてしまわないように溶接する必要がある。
なお、図24Bに示すように、溶接金属40が下板20に適度に溶け込んでいるが、下板20に裏波が生じていない場合には、上記した品質保証のための検出を行うことができないため好ましくない。
【0057】
続いて、上記アーク溶接法において使用される接合補助部材30についての好ましい実施形態について説明する。
上述のように、上記打ち抜き工程(ステップS1)において、接合補助部材30を加圧して、上板10を打ち抜くと同時に、接合補助部材30を上板10に一時的に拘束保持することが可能である。しかし、稀に、溶接工程前に振動がかかる、あるいは上向姿勢になった際(図25を参照)に、拘束保持力の弱さが原因で脱落してしまうことがある。
【0058】
この問題を防ぎ、確実にアーク溶接工程(ステップS3)まで接合補助部材30を上板10に保持させるためには、接合補助部材30の保持力を高める手段が有効である。具体的には、接合補助部材30において、圧入後にかしめ機構を発揮させることのできる外観形状とすることで実現される。その手段の一つとして、図26A及び図26Bに示すように、接合補助部材30における小径部31の外周面には、羽根状に形成された、少なくとも1つ(本実施形態では4つ)の圧入用突起部39が設けられている。
【0059】
図27は、圧入用突起部39を有する接合補助部材30が上板10に圧入される場合の保持機構を説明するための図である。図27に示すように、接合補助部材30を上板10へ圧入する際は、接合補助部材30と接する上板10が押し広げられる方向に弾性変形し、さらには塑性変形する。圧入用突起部39の先端部が通過した後は、弾性変形分が元の位置に戻る、すなわち上板10の材料であるAl合金もしくはMg合金の流入が起こり、接合補助部材30が押し戻される力に対して障壁要因となる。したがって、容易に接合補助部材30が外れることはない。
【0060】
圧入用突起部39の形状は、図28Aに示すような2等辺三角形でもよいが、図28B図28Kに示すように、変形三角形、直角三角形、長方形、不定形状、ノコ刃状、半円、1/4円、対称台形、非対称台形、かぎ針状などが典型的で、その形状に制限はない。また、圧入用突起部39は、大径部32の下面とも接続されていることで、圧入用突起部39の強度を向上できる。さらに、圧入用突起部39は、図29Aに示すように、小径部31の軸方向に平行でもよいし、図29Bに示すように軸方向に対して傾きを持たせてもよい。この場合、接合補助部材30を回転させながら圧入するのに好適である。また、図29Cに示すように、圧入用突起部39は、基部から先端部に向けて円周方向幅が狭くなるような山形状であってもよい。さらに、圧入用突起部39の位置は、金属流入させる空間を設けるために大径部32から離れていることが好ましい。
【0061】
圧入用突起部39の数は、図26Bに示すような4枚に限定されず、少なくとも1枚あればよく、上限は特に設ける必要はない。すなわち、図30A図30Eに示すように、1枚、2枚、3枚、6枚、8枚の圧入用突起部39を有するものであってもよい。ただし、圧入用突起部39の枚数が増えると、接合補助部材30を用いて上板10を打ち抜くために必要な圧力が上がるので、圧入用突起部39の数を、必要以上に増やすべきではない。圧入用突起部39の数は、8枚以下とするのが好ましい。
また、図26B図30B図30Eに示すように、少なくとも2つの圧入用突起部39の最大外径部と接する最大円Cの直径、あるいは、図30Aに示すように、1つの圧入用突起部39の最大外径部と小径部31の外周面と接する円Cの直径が大きすぎる場合にも、上板10を打ち抜くために必要な圧力が上がるので、小径部31の外周面からの圧入用突起部39の突出量を、必要以上に増やすべきではない。
【0062】
接合補助部材30の小径部31に圧入用突起部39を設けることには、他にも長所がある。第二の効果は接合対象である上板10と下板20が相互に回転しにくくなることである。接合補助部材30の小径部31の断面形状が真円形では、披接合部材(上板10及び下板20)が本接合法のみで接合される場合、例えば上板10に強い水平方向の回転力Fが加わると、接合補助部材30を中心に回るように上板10が回転してしまう可能性がある。しかしながら、図31A及び図31Bに示すように、接合補助部材30には圧入用突起部39が設けられていて、圧入用突起部39が上板10の穴11の周囲に食い込むことで、容易に回転を防止することができる。
【0063】
なお、図32A図32Eにそれぞれ示される、直角三角形、長方形、1/4円、凹、非対称台形の圧入用突起部39のように、圧入用突起部39が大径部32と連続的となっていて、くびれ箇所を持たないものであっても、適用することは許容される。しかし、上述したような、接合補助部材30を上板10に圧入する際における、金属流入箇所が確保できないため、一時拘束性向上の効果はあまり期待できない。ただし、上記した回転抑制効果は期待できるため、このような形態であっても、小径部31の外周面には圧入用突起部39を有していることが好ましい。
【0064】
さらに、上記アーク溶接法において使用される接合補助部材30についての別の好ましい実施形態について説明する。
上記で説明したのと同様に、確実にアーク溶接工程(ステップS3)まで接合補助部材30を上板10に保持させるための別の手段として、小径部31に圧入用突起部39を設けるのではなく、小径部31の胴径を多段化し、部分的に”くびれ”を設ける策も有効である。
具体的には、図33A図33Hに示すように、接合補助部材30における小径部31の外周面に、大径部32の最大外径よりも小さい中径部34を設ける。なお、中径部34は、大径部32とは接触することなく、かつ、小径部31の外周面に沿って連続的(図33A図33C図33E図33H)または断続的(図33Bまたは図33D)に設けられる。
上記要件を満足する中径部34を小径部31の外周面に設けることにより、上板10に圧入される接合補助部材30の一部にくびれ部38が存在することとなる。
【0065】
これらの例に共通することは、[1]小径部31の先端側に中径部34を有すること、[2]中径部34と大径部32の間に小径部31を有すること、[3]非挿入側に大径部32を有すること、の相対関係が成立していることである。なお、図33Fに示すように、中径部34と小径部31がそれぞれ複数存在する場合も考えられるが、このことは上記各要件から無視して問題はなく、あくまで接合補助部材30の長手方向(挿入方向)に大径-小径-中径の関係が成立している並びが1箇所以上存在していれば、上記要件を満足する。
【0066】
このような状態となれば、接合補助部材30に圧入用突起部39を設ける場合の実施形態で説明したと同じ原理により、容易に接合補助部材30が外れることはない。すなわち、接合補助部材30の圧入時に中径部34が通過する際にAl合金もしくはMg合金が弾性変形、さらには塑性変形し、さらに圧入が進み小径部31になると弾性変形分が戻る。これにより、金属流入が起きて、接合補助部材30が押し戻される力に対して障壁要因となる。
【0067】
なお、小径部31の全周に渡って中径部34を設けるのではなく、図33B図33Dに示すように、部分的にのみ中径部34を設けること、すなわち断続状にしてもよい。断続状にすると、圧入用突起部39を設けた場合と同様、接合補助部材30の挿入部分である小径部31が真円形状の場合に、上板10と下板20が溶接後にも相対的に容易に回転することを防ぐ効果が期待される。
【0068】
なお、図34A図34Dに示すように、大径部32と中径部34が、接合補助部材30の長手方向(挿入方向)から見て連続的となっている接合補助部材30であっても、適用することは許容される。しかし、上述したような、接合補助部材30を上板10に圧入する際における、金属流入箇所が確保できないため、一時拘束性向上の効果や回転抑制効果は期待できない。ただし、中径部34が断続状であれば、回転抑制効果のみ得られる。
【0069】
ところで、本実施形態における接合補助部材30は、図35Aに示すように、大径部32の上側に小径部31を積み重ねた形状とすることもできる。しかし、大径部32から見てAl合金やMg合金に打ち込まれる挿入方向反対側は、それが上板10の表面よりも高い位置にある場合(図35B図35Cにおいて、突出部35と定義する)は、継手強度には影響を及ぼさない。
一方、図35D図35Gに示すように、大径部32の上側に設けられた小径部31または中径部34の少なくとも一部が、上板10の表面よりも低い位置にある場合には、その部位が少なからず継手強度に影響を及ぼす。
【0070】
なお、上板10及び下板20の板厚については、限定される必要は必ずしもないが、施工能率と、重ね溶接としての形状を考慮すると、上板10の板厚は、5.0mm以下であることが望ましい。一方、アーク溶接の入熱を考慮すると、板厚が過度に薄いと溶接時に溶け落ちてしまい、溶接が困難であることから、上板10、下板20共に0.5mm以上とすることが望ましい。
【0071】
以上の構成により、上板10がAl合金もしくはMg合金、下板20が鋼の素材を強固に接合することができる。
【0072】
ここで、異種金属同士を直接接合する場合の課題としては、IMCの形成という課題以外に、もう一つの課題が知られている。それは、異種金属同士が接すると、ガルバニ電池を形成する為に腐食を加速する原因になる。この原因(電池の陽極反応)による腐食は電食と呼ばれている。異種金属同士が接する面に水があると腐食が進むので、接合箇所として水が入りやすい場所に本実施形態が適用される場合は、電食防止を目的として、水の浸入を防ぐためのシーリング処理を施す必要がある。本接合法でもAl合金やMg合金と鋼が接する面は複数形成されるので、樹脂系の接着剤をさらなる継手強度向上の目的のみならず、シーリング材として用いることが好ましい。
【0073】
例えば、図36A及び図36Bに示す変形例のように、上板10と下板20との重ね合わせ工程の前に、上板10及び下板20の接合面で、溶接部周囲に接着剤60を全周に亘って環状に塗布してもよい。なお、接着剤60を上板10及び下板20の接合面で、溶接部周囲に全周に亘って塗布する方法としては、図37A及び図37Bに示す変形例のように、溶接箇所を除いた接合面の全面に塗布する場合も含まれる。これにより、上板10、下板20、及び溶接金属40の電食速度を下げることができる。
【0074】
また、上述の打ち抜き工程において、接合補助部材30と、接合補助部材30と対向する上板10との間の少なくとも一方の対向面に、接着剤60を塗布してもよい。これにより、上板10、接合補助部材30、及び溶接金属40の電食速度を下げることができる。
この場合、副次的効果として、アーク溶接前に接合補助部材30を上板10に仮止めしておく作用がある。特に、図25に示すように、アーク溶接が、横向や上向姿勢になる場合、接着剤60を塗布しておくことで、接合補助部材30が重力によって落下するのを防ぐことができ、溶接を適切に施工することができる。
【0075】
さらに、図38A及び図38Bに示す変形例のように、接合補助部材30の大径部32と上板10の表面との境界部に接着剤60を塗布してもよい。また、図38Cに示すように、大径部32全体を覆い隠してしまうように接着剤60を塗布してもよい。これにより、接合補助部材30と、Al合金もしくはMg合金の接する露出面側の表面、接合補助部材30における大径部32の下になっている隠れ面、さらに接合補助部材30による打ち抜き端面における、電食速度低下の効果が得られる。また、接着剤塗布をアーク溶接前に行えば、接合補助部材30を上板10に仮止めしておく効果も得られる。なお、本変形例では、接着剤の塗布は、溶接工程前(打ち抜き工程の際)でも充填溶接工程後でも可能である。
なお、接合補助部材30には、接着剤やシーリング材による電食抑制手段だけではなく、自身の錆防止や、アルミニウム板との間に生じる電食を防ぐために、電気的卑の元素や加工物、絶縁性物質、不動態といった皮膜を形成する表面処理を施すことが、さらに良い。例えば、亜鉛めっき、クロムめっき、ニッケルめっき、アルミめっき、錫(すず)めっき、樹脂塗装、セラミックコーティングなどがあげられる。
【0076】
以上の構成により、上板10がAl合金もしくはMg合金、下板20が鋼の素材を開断面構造、閉断面構造にかかわらず強固に接合することができる。さらには接着剤を併用することにより、接合強度の向上と共に腐食を防ぐことも出来る。
また、本実施形態の溶接法は、接合面積が小さい点溶接と言えるので、ある程度の接合面積を有する実用部材同士の重ね合わせ部分Jを接合する場合は、本溶接法を図39A図39Cに示すように、複数実施すればよい。これにより、重ね合わせ部分Jにおいて強固な接合が行われる。本実施形態は、図39B及び図39Cに示すような開断面構造にも使用できるが、特に、図39Aに示すような閉断面構造において好適に使用することができる。
【0077】
また、図40に示される開断面部材の製造プロセス及び図41に示される閉断面部材の製造プロセスのように、本接合法では溶接前工程として、接合補助部材30を上板10内に埋め込んでしまうことも可能である。上板10内に埋め込まれた接合補助部材30は、上板10の表面上に突き出ないことから、埋め込み後に金型等を用いてAlやMg母材をプレス成形することが容易であり、その後工程として、下板20と合わせて接合することが可能である。本溶接法は、無論、開断面部材、閉断面部材を分け隔てることなく、いずれも製造可能である。
【0078】
尚、本発明は、前述した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
【符号の説明】
【0079】
1 異材溶接継手
10 上板(第1の板)
11 穴
20 下板(第2の板)
30 接合補助部材
31 小径部
32 大径部
33 中空部
34 中径部
35 突出部
37 切り欠き
38 くびれ部
39 圧入用突起部
40 溶接金属
50 下台座
51 上台座
60 接着剤
80 加圧機構
90 溶接トーチ
92 加圧用脚
W 溶融部
Wa 余盛り
M 母材片
G ギャップ
P 張り出し量
J 重ね合わせ部分
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図10C
図11
図12A
図12B
図12C
図12D
図13
図14A
図14B
図15A
図15B
図15C
図15D
図15E
図16A
図16B
図16C
図17
図18A
図18B
図18C
図18D
図19A
図19B
図19C
図19D
図19E
図19F
図19G
図20
図21
図22A
図22B
図23
図24A
図24B
図25
図26A
図26B
図27
図28A
図28B
図28C
図28D
図28E
図28F
図28G
図28H
図28I
図28J
図28K
図29A
図29B
図29C
図30A
図30B
図30C
図30D
図30E
図31A
図31B
図32A
図32B
図32C
図32D
図32E
図33A
図33B
図33C
図33D
図33E
図33F
図33G
図33H
図34A
図34B
図34C
図34D
図35A
図35B
図35C
図35D
図35E
図35F
図35G
図36A
図36B
図37A
図37B
図38A
図38B
図38C
図39A
図39B
図39C
図40
図41