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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-23
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】テーパエンドミル
(51)【国際特許分類】
   B23C 5/10 20060101AFI20220111BHJP
【FI】
B23C5/10 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020525217
(86)(22)【出願日】2018-06-22
(86)【国際出願番号】 JP2018023906
(87)【国際公開番号】W WO2019244361
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2020-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000103367
【氏名又は名称】オーエスジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】河合 龍吾
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-226533(JP,A)
【文献】特開平6-47615(JP,A)
【文献】実開昭60-100112(JP,U)
【文献】特開平3-202218(JP,A)
【文献】特開2001-310211(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105642986(CN,A)
【文献】国際公開第2015/197452(WO,A1)
【文献】特開2001-54812(JP,A)
【文献】特開2008-264964(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0120349(US,A1)
【文献】特開2002-233909(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具軸線方向へ延びる溝に沿って外周切れ刃が設けられているとともに、該外周切れ刃の径寸法が工具先端側へ向かうに従って小径とされているテーパエンドミルにおいて、
前記溝は、溝底と前記工具軸線との距離である溝底半径がシャンク側から前記工具先端側へ向かうに従って小さくなるように設けられており、
前記溝底半径は、前記工具軸線方向において所定の勾配角で直線的に変化しているとともに、
前記勾配角は、前記シャンク側に比較して前記工具先端側の方が小さくなるように予め定められた変化点で変化しており、該変化点よりも前記工具先端側の勾配角θ1は0°以上で且つ前記外周切れ刃が設けられた刃部のテーパ半角αよりも小さく、該変化点よりも前記シャンク側の勾配角θ2は前記テーパ半角αよりも大きい
ことを特徴とするテーパエンドミル。
【請求項2】
前記溝は前記工具軸線まわりに等角度間隔で複数設けられているとともに、前記外周切れ刃は該複数の溝に沿って複数設けられている一方、
前記溝は前記工具軸線まわりにねじれたねじれ溝で、該ねじれ溝のねじれ方向は、前記テーパエンドミルが前記工具軸線まわりに回転駆動されることにより前記外周切れ刃によって切り出された切り屑が前記シャンク側へ排出されるように定められている
ことを特徴とする請求項1に記載のテーパエンドミル。
【請求項3】
前記勾配角θ1は0°≦θ1≦30°の範囲内である
ことを特徴とする請求項1または2に記載のテーパエンドミル。
【請求項4】
前記変化点は、先端工具径をDとして、前記工具軸線方向において前記工具先端から1D~10Dの範囲内に定められている
ことを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載のテーパエンドミル。
【請求項5】
前記変化点は、前記テーパエンドミルの刃長をLとして、前記工具軸線方向において前記工具先端から0.2L~0.7Lの範囲内に定められている
ことを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載のテーパエンドミル。
【請求項6】
前記勾配角は、前記変化点付近で滑らかに変化している
ことを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載のテーパエンドミル。
【請求項7】
前記外周切れ刃のすくい角は該外周切れ刃の全長に亘って一定である
ことを特徴とする請求項1~6の何れか1項に記載のテーパエンドミル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はテーパエンドミルに係り、特に、所定の強度や剛性を確保しつつ切り屑排出性能を向上させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工具軸線方向へ延びる溝に沿って外周切れ刃が設けられているとともに、その外周切れ刃の径寸法が工具先端側へ向かうに従って小径とされているテーパエンドミルが知られている(特許文献1、2参照)。このようなテーパエンドミルは、小径の工具先端側でも所定の切り屑排出性能が得られるように、溝底と工具軸線との距離である溝底半径がシャンク側から工具先端側へ向かうに従って小さくなるように前記溝が設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-233909号公報
【文献】特開2003-334715号公報
【文献】特開平7-171707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、高い切り屑排出性能を確保するためには、芯厚を小さくすることが望ましいが、芯厚を小さくすると強度や剛性が低下するため、高い加工負荷が掛かる加工条件下で工具が折損し易くなる。これに対し、例えば特許文献3に記載のように工具先端側だけ芯厚を小さくするように溝底半径に段差を設け、段差よりもシャンク側部分の芯厚を大きくして強度や剛性を確保することが考えられるが、その段差によって切り屑の排出性能が阻害される可能性がある。
【0005】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、溝底半径がシャンク側から工具先端側へ向かうに従って小さくなるように溝が設けられているテーパエンドミルにおいて、所定の強度や剛性を確保しつつ切り屑排出性能を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、第1発明は、工具軸線方向へ延びる溝に沿って外周切れ刃が設けられているとともに、その外周切れ刃の径寸法が工具先端側へ向かうに従って小径とされているテーパエンドミルにおいて、(a)前記溝は、溝底と前記工具軸線との距離である溝底半径がシャンク側から前記工具先端側へ向かうに従って小さくなるように設けられており、(b)前記溝底半径は、前記工具軸線方向において所定の勾配角で直線的に変化しているとともに、(c)前記勾配角は、前記シャンク側に比較して前記工具先端側の方が小さくなるように予め定められた変化点で変化しており、その変化点よりも前記工具先端側の勾配角θ1は0°以上で且つ前記外周切れ刃が設けられた刃部のテーパ半角αよりも小さく、その変化点よりも前記シャンク側の勾配角θ2は前記テーパ半角αよりも大きいことを特徴とする。
【0007】
第2発明は、第1発明のテーパエンドミルにおいて、(a)前記溝は前記工具軸線まわりに等角度間隔で複数設けられているとともに、前記外周切れ刃はその複数の溝に沿って複数設けられている一方、(b)前記溝は前記工具軸線まわりにねじれたねじれ溝で、そのねじれ溝のねじれ方向は、前記テーパエンドミルが前記工具軸線まわりに回転駆動されることにより前記外周切れ刃によって切り出された切り屑が前記シャンク側へ排出されるように定められていることを特徴とする。
すなわち、上記ねじれ溝のねじれ方向は、シャンク側から見て右まわりに回転駆動されて切削加工が行われる場合は右ねじれとされ、シャンク側から見て左まわりに回転駆動されて切削加工が行われる場合は左ねじれとされる。
【0008】
第3発明は、第1発明または第2発明のテーパエンドミルにおいて、前記勾配角θ1は0°≦θ1≦30°の範囲内であることを特徴とする。
【0010】
第4発明は、第1発明~第3発明の何れかのテーパエンドミルにおいて、前記変化点は、先端工具径をDとして、前記工具軸線方向において前記工具先端から1D~10Dの範囲内に定められていることを特徴とする。
なお、工具先端が半球形状のテーパボールエンドミルの場合、上記先端工具径Dは、テーパ部分の一対の母線を工具先端まで延長して求められる工具径である。
【0011】
第5発明は、第1発明~第3発明の何れかのテーパエンドミルにおいて、前記変化点は、前記テーパエンドミルの刃長をLとして、前記工具軸線方向において前記工具先端から0.2L~0.7Lの範囲内に定められていることを特徴とする。
【0012】
第6発明は、第1発明~第5発明の何れかのテーパエンドミルにおいて、前記勾配角は、前記変化点付近で滑らかに変化していることを特徴とする。
【0013】
第7発明は、第1発明~第6発明の何れかのテーパエンドミルにおいて、前記外周切れ刃のすくい角はその外周切れ刃の全長に亘って一定であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
このようなテーパエンドミルにおいては、溝底半径が工具軸線方向において所定の勾配角で直線的に変化しているとともに、シャンク側に比較して工具先端側の勾配角が小さいため、強度や剛性を確保しつつ外周切れ刃の径寸法が小さくなる工具先端側の芯厚を小さくして切り屑排出性能を向上させることができる。すなわち、変化点よりも工具先端側の勾配角θ1は0°以上で且つ刃部のテーパ半角αよりも小さいため、工具先端側部分の芯厚を小さくして切り屑排出性能を向上させつつ、その工具先端側部分の芯厚が極端に小さくなることを回避して強度や剛性を確保できる。また、変化点よりもシャンク側の勾配角θ2は刃部のテーパ半角αよりも大きいため、シャンク側へ向かうに従って外周切れ刃の径寸法が大きくなる増加率よりも溝底半径の増加率、すなわち芯厚の増加率の方が大きくなり、加工負荷に対する強度や剛性を適切に確保して折損等を抑制することができる。
【0015】
また、溝底半径の勾配角を所定の変化点で変化させるだけであるため、例えば研削砥石等の溝加工工具でテーパエンドミル素材の外周面に溝を加工する際に、その溝加工工具をテーパエンドミル素材に対して接近離間させる移動速度を途中で変化させるだけで良いなど、1回の溝加工で容易に加工できるとともに、段差を設ける場合に比較して溝長手方向の切り屑の流れがスムーズになり、切り屑排出性能が良好に維持される。
【0016】
第2発明では、工具軸線まわりに複数のねじれ溝が設けられ、その複数のねじれ溝に沿って複数の外周切れ刃が設けられているため、工具に掛かる負荷が分散されて折損等が抑制される。また、ねじれ溝に沿って外周切れ刃が設けられており、そのねじれ溝を通って切り屑がシャンク側へ排出されるが、溝底半径の勾配が途中で大きくなるだけであるため、段差を設ける場合に比較してシャンク側への切り屑の流れがスムーズになり、切り屑排出性能が良好に維持される。
【0019】
第4発明では、溝底半径の勾配角の変化点が、先端工具径をDとして工具先端から1D~10Dの範囲内に定められているため、変化点よりも工具先端側の勾配角が小さい領域で芯厚を小さくして切り屑排出性能を良好に向上させることができるとともに、その工具先端側部分の芯厚が極端に小さくなることを回避して強度や剛性を確保できる。
【0020】
第5発明では、溝底半径の勾配角の変化点が、テーパエンドミルの刃長をLとして工具先端から0.2L~0.7Lの範囲内に定められているため、変化点よりも工具先端側の勾配角が小さい領域と、変化点よりもシャンク側の勾配角が大きい領域とをバランス良く確保して、強度や剛性を確保しつつ外周切れ刃の径寸法が小さくなる工具先端側の芯厚を小さくして切り屑排出性能を向上させることができる。
【0021】
第6発明では、溝底半径の勾配角が変化点付近で滑らかに変化しているため、変化点の存在に拘らず切り屑が溝長手方向へ一層スムーズに流れるようになり、切り屑排出性能が向上するとともに、変化点における応力集中が緩和される。
【0022】
第7発明では、外周切れ刃のすくい角が外周切れ刃の全長に亘って一定であるため、外周切れ刃の全長に亘って同等の切削性能が得られ、工具軸線方向の全域に亘って面粗さ等の面品質が略等しい切削面を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施例であるテーパボールエンドミルを工具軸線Oと直角な方向から見た正面図である。
図2図1におけるII-II矢視部分の断面図である。
図3図1のテーパボールエンドミルを工具先端側から見た底面図である。
図4図1のテーパボールエンドミルの刃部を拡大して示した図で、上半分は1本のねじれ溝を工具軸線Oと平行になるようにねじれを無くして示した断面図である。
図5】ねじれ溝の溝底半径が工具軸線O方向において一定の勾配角で変化している比較品を説明する図で、上半分にねじれ溝の工具軸線O方向の断面形状を示した図4に対応する図である。
図6】本発明品および比較品1、2を用いて、工具の送り速度を変更しつつ溝切削加工を行って切削性能を調べた結果を説明する図である。
図7図6の本発明品および比較品2に関して、1刃当り送り量fzと主軸負荷との関係をグラフで示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のテーパエンドミルは、先端の底刃が工具軸線と直角な平面内に設けられたテーパエンドミルでも、先端の底刃が半球面上に設けられたテーパボールエンドミルでも良い。特に区別する場合を除いて、テーパボールエンドミルを含めてテーパエンドミルという。溝および外周切れ刃が工具軸線まわりに等角度間隔で複数設けられた2枚刃、或いは3枚刃以上の多刃のテーパエンドミルが望ましいが、溝が1本の1枚刃のテーパエンドミルにも適用され得る。また、工具軸線まわりにねじれたねじれ溝が設けられたねじれ刃のテーパエンドミルが望ましいが、工具軸線と平行な直溝が設けられた直刃のテーパエンドミルにも適用され得る。テーパエンドミルの材質としては超硬合金が好適に用いられるが、ハイス等の他の工具材料を採用することもできる。外周切れ刃や底刃が設けられた刃部には、必要に応じてDLC(Diamond Like Carbon;ダイヤモンド状カーボン)等の硬質被膜を設けたり表面硬化処理等を施したりしても良い。テーパエンドミルは、仕上げ加工用でも粗加工用でも良い。
【0026】
勾配角が変化する変化点は、例えばテーパエンドミルの刃長をLとして、工具先端から0.2L~0.7Lの範囲内が適当で、0.3L~0.6Lの範囲内が望ましい。すなわち、工具先端から0.2Lよりも近い位置では、工具先端側の芯厚を小さくして切り屑排出性能を向上させる効果が十分に得られない可能性がある一方、工具先端から0.7Lよりも遠い位置では、シャンク側の勾配角θ2を大きくして強度や剛性を確保する効果が十分に得られない可能性がある。但し、刃長Lの長さやテーパ半角αの大きさ等により、工具先端から0.2Lよりも近い位置や0.7Lよりも遠い位置に変化点を設定することもできる。また、勾配角の変化点は1点だけでも良いが、工具軸線方向において勾配角の変化点を2点以上設け、勾配角を段階的に変化させることも可能である。勾配角の変化点を、先端工具径Dに基づいて定めることも可能で、工具先端から1D~10Dの範囲内が適当で、1D~5Dの範囲内が望ましいが、先端工具径Dが大きい場合など、工具先端から1Dよりも近い位置に変化点を定めることもできる。
【0027】
上記勾配角は、変化点付近で滑らかに変化させることが望ましい。例えば、回転研削砥石の外周面で溝の研削加工を行う場合、勾配角の変化点では、回転研削砥石の外径に対応する丸みが設けられ、勾配角が滑らかに変化させられる。溝の加工方法によっては、変化点の比較的狭い範囲で勾配角を急に変化させることも可能である。また、溝底半径の変化に伴って溝深さが変化すると、その溝に沿って設けられる外周切れ刃のすくい角が変化する可能性があるが、例えば上記回転研削砥石の外周面形状すなわち研削面形状を適当に定めることにより、溝深さの変化に拘らずすくい角を一定に維持することができる。すくい角が変化する場合に、すくい角が一定になるように仕上げ加工を行うことも可能である。なお、すくい角は必ずしも一定である必要はなく、工具軸線方向において変化していても良い。
【実施例
【0028】
以下、本発明の実施例を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において、図は説明のために適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【0029】
図1は、本発明の一実施例であるテーパボールエンドミル10を説明する図で、工具軸線Oと直角な方向から見た正面図である。図2は、図1におけるII-II矢視部分の断面図で、図3は、図1のテーパボールエンドミル10を工具先端側、すなわち図1における右側から見た底面図である。テーパボールエンドミル10は、シャンク12と刃部14とを工具軸線Oと同心に一体に備えており、シャンク12が把持されて工具軸線Oまわりに回転駆動されつつ被加工物に対して工具軸線Oと直角な方向へ相対移動させられることにより、溝底側程幅寸法が狭くなる緩やかなV字断面のV字状溝を切削加工するものである。すなわち、刃部14は、上記溝幅の変化に対応して径寸法が工具先端側へ向かうに従って徐々に小径となるテーパ形状を成しており、そのテーパ形状の刃部14の外周面には、工具軸線Oまわりに等角度間隔で3本のねじれ溝16が設けられているとともに、その3本のねじれ溝16には、それぞれねじれ溝16の一方の開口端縁に沿って外周切れ刃18が設けられている。刃部14の先端は半球形状を成しており、その半球面上には、外周切れ刃18に滑らかに接続された底刃20が設けられている。このテーパボールエンドミル10の呼びはR1.8×4°で、先端半球形状の半径Rは1.8mm、刃部14のテーパ半角αは4°である。
【0030】
テーパボールエンドミル10は、シャンク12側から見て工具軸線Oの右まわりに回転駆動されることにより切削加工を行うもので、ねじれ溝16は右ねじれであり、外周切れ刃18および底刃20によって切り出された切り屑は、このねじれ溝16によってシャンク12側へ排出される。ねじれ溝16のねじれ角βは約35°であり、外周切れ刃18のすくい角γは、外周切れ刃18の全長に亘って略一定で約10°である。また、このテーパボールエンドミル10の材質は超硬合金で、刃部14の表面には、硬質被膜としてDLC膜がコーティングされている。このようなテーパボールエンドミル10は、例えば1刃当り送り量fzが0.1(mm/t)以上の高速送りでV字状溝を粗加工する場合などに用いられる。テーパボールエンドミル10はテーパエンドミルに相当し、ねじれ溝16は工具軸線O方向へ延びる溝に相当する。
【0031】
図4は、テーパボールエンドミル10の刃部14を拡大して示した図で、上半分は1本のねじれ溝16を工具軸線Oと平行になるようにねじれを無くして示した断面図である。図4から明らかなように、ねじれ溝16は、溝底と工具軸線Oとの距離である溝底半径rがシャンク12側から工具先端側へ向かうに従って小さくなるように設けられている。溝底半径rは、工具軸線O方向すなわち図4における左右方向において、所定の勾配角θ1、θ2で直線的に変化している。すなわち、変化点Sよりも工具先端側では、工具先端から変化点Sへ向かうに従って溝底半径rが勾配角θ1で増加しており、変化点Sよりもシャンク12側では、変化点Sからシャンク12へ向かうに従って溝底半径rが勾配角θ2で増加しているとともに、勾配角θ2は勾配角θ1よりも大きい。この溝底半径rの2倍の寸法2rは芯厚に相当する。
【0032】
変化点Sは、外周切れ刃18および底刃20が設けられたテーパエンドミル10の刃長をLとして、工具軸線O方向において工具先端から0.2L~0.7Lの範囲内に定められている。すなわち、工具先端から変化点Sまでの距離Tは、0.2L~0.7Lの範囲内で、本実施例では約0.5Lである。具体的には、刃長L≒20mmで、距離T=0.5L≒10mmである。また、先端工具径Dを用いて距離Tを表すと、先端工具径D≒3.36mmで、T≒(10/3.36)D≒3Dとなり、1D~10Dの範囲内である。
【0033】
前記勾配角θ1は、外周切れ刃18が設けられた刃部14のテーパ半角αよりも小さく、且つ0°≦θ1≦30°の範囲内で、本実施例ではテーパ半角α=4°であるため、実質的に0°≦θ<4°の範囲内で定められる。本実施例では、勾配角θ1≒3°であり、工具先端における溝底半径re=0.4D/2≒0.67mmである。また、勾配角θ2は、テーパ半角αよりも大きく、本実施例ではθ2≒7°である。これ等の勾配角θ1、θ2は、工具軸線O方向の勾配角であり、工具軸線Oまわりにねじれたねじれ溝16のつる巻線に沿う方向の溝底半径の勾配角は、それ等の勾配角θ1、θ2よりも緩やかな勾配になる。
【0034】
前記ねじれ溝16は、例えば回転研削砥石の外周面によって研削加工される。すなわち、回転研削砥石をテーパボールエンドミル素材に対して前記ねじれ角βで傾斜させた姿勢で配置し、テーパボールエンドミル素材を回転させつつ相対的に工具軸線O方向へリード送りしながら接近或いは離間させることで、溝底半径rに勾配を設けることが可能で、その接近離間速度を変えることで勾配角をθ1、θ2に変化させることができる。その場合、勾配角θ1、θ2の変化点Sでは、回転研削砥石の外径に対応する丸みが設けられ、変化点S付近で勾配角が滑らかに変化させられる。言い換えれば、変化点Sが工具軸線O方向に所定の長さを有し、その領域で勾配角がθ1からθ2へ連続的に変化している。溝底半径rの変化に伴って溝深さが変化すると、ねじれ溝16に沿って設けられる外周切れ刃18のすくい角γが変化する可能性があるが、例えば上記回転研削砥石の外周面形状すなわち研削面形状を適当に定めることにより、溝深さの変化に拘らずすくい角γを一定に維持することができる。すくい角γが変化する場合に、すくい角γが一定になるように仕上げ加工を行うことも可能である。
【0035】
このような本実施例のテーパボールエンドミル10においては、溝底半径rが工具軸線O方向において勾配角θ1、θ2で直線的に変化しているとともに、シャンク12側の勾配角θ2に比較して工具先端側の勾配角θ1が小さいため、強度や剛性を確保しつつ外周切れ刃18の径寸法が小さくなる工具先端側の芯厚を小さくして切り屑排出性能を向上させることができる。すなわち、工具先端側部分の溝底半径rの勾配角θ1は小さいため、芯厚が極端に小さくなって強度や剛性が損なわれることが抑制されるとともに、大きな勾配角θ2のシャンク12側では、シャンク12側へ向かうに従って芯厚が大きな変化率で増加するため、工具全体として強度や剛性を適切に確保して折損等を抑制することができる。
【0036】
また、溝底半径rの勾配角θ1、θ2を予め定められた変化点Sで変化させるだけであるため、例えば研削砥石でテーパボールエンドミル素材の外周面にねじれ溝16を加工する際に、その研削砥石をテーパボールエンドミル素材に対して接近離間させる移動速度を途中で変化させるだけで良いなど、1回の溝研削加工でねじれ溝16を容易に加工できるとともに、段差を設ける場合に比較してねじれ溝16内の切り屑の流れがスムーズになり、切り屑排出性能が良好に維持される。
【0037】
また、工具軸線Oまわりに複数のねじれ溝16が設けられ、その複数のねじれ溝16に沿って複数の外周切れ刃18が設けられているため、テーパボールエンドミル10に掛かる負荷が分散されて折損等が抑制される。また、ねじれ溝16に沿って外周切れ刃18が設けられており、そのねじれ溝18を通って切り屑がシャンク12側へ排出されるが、溝底半径rの勾配が途中で大きくなるだけであるため、段差を設ける場合に比較してシャンク12側への切り屑の流れがスムーズになり、切り屑排出性能が良好に維持される。
【0038】
また、変化点Sよりも工具先端側の勾配角θ1が刃部14のテーパ半角αよりも小さく、且つ0°≦θ1≦30°の範囲内であるため、工具先端側部分の芯厚を小さくして切り屑排出性能を向上させつつ、その工具先端側部分の芯厚が極端に小さくなることを回避して強度や剛性を確保できる。
【0039】
また、変化点Sよりもシャンク12側の勾配角θ2が刃部14のテーパ半角αよりも大きいため、シャンク12側へ向かうに従って外周切れ刃18の径寸法が大きくなる増加率よりも溝底半径rの増加率、すなわち芯厚の増加率の方が大きくなり、加工負荷に対する強度や剛性を適切に確保して折損等を抑制することができる。
【0040】
また、変化点Sが工具先端から1D~10Dの範囲内に定められているため、変化点Sよりも工具先端側の比較的小さな勾配角θ1の領域で芯厚を小さくして切り屑排出性能を良好に向上させることができるとともに、その工具先端側部分の芯厚が極端に小さくなることを回避して強度や剛性を確保できる。
【0041】
また、変化点Sが工具先端から0.2L~0.7Lの範囲内に定められているため、変化点Sよりも工具先端側の比較的小さな勾配角θ1の領域と、変化点Sよりもシャンク12側の比較的大きな勾配角θ2の領域とをバランス良く確保して、強度や剛性を確保しつつ外周切れ刃18の径寸法が小さくなる工具先端側の芯厚を小さくして切り屑排出性能を向上させることができる。
【0042】
また、勾配角θ1、θ2が変化点S付近で滑らかに変化しているため、変化点Sの存在に拘らず切り屑がねじれ溝16内を一層スムーズにシャンク12側へ流れるようになり、切り屑排出性能が向上するとともに、変化点Sにおける応力集中が緩和される。
【0043】
また、外周切れ刃18のすくい角γが外周切れ刃18の全長に亘って略一定であるため、外周切れ刃18の全長に亘って同等の切削性能が得られ、工具軸線O方向の全域に亘って面粗さ等の面品質が略等しい切削面を得ることができる。
【0044】
次に、本発明品として上記実施例のテーパボールエンドミル10を用いるとともに、図5に示す刃部32を備えるテーパボールエンドミル30を比較品1、および呼びがR1.8×4°の市販品を比較品2として用意し、工具の送り速度を変更しつつ溝切削加工を行って切削性能を調べた結果を説明する。図5は前記図4に対応する図で、このテーパボールエンドミル30は、ねじれ溝34の溝底半径rの大きさや勾配が異なる以外は前記テーパボールエンドミル10と同じである。すなわち、ねじれ溝34の溝底半径rの工具軸線O方向における勾配角θは、刃長Lの全長に亘って一定であり、その勾配角θは前記勾配角θ1と同じで約3°である。また、工具先端における溝底半径reは、前記テーパボールエンドミル10よりもやや大きく、0.5D/2で約0.84mmである。
【0045】
そして、以下に示す切削試験条件で溝切削加工を行い、切削性能を調べた結果を図6図7に示す。図6図7は、1刃当り送り量fz(工具送り速度Vf)を段階的に変化させて溝切削加工を行い、切削距離等を調べた結果である。図6の「切削距離」の欄は、150mmの溝加工が可能か否かを調べたもので、途中で折損した場合は折損までの切削距離である。「切削可否」の欄の「○」は、150mmの溝加工が可能であったことを意味し、「×」は150mmの溝加工が不可であったことを意味する。150mmの溝加工が不可であった場合は、それ以上の切削性能の判断を行っていない。「主軸負荷」の欄は、溝切削加工時の主軸トルクの最大値を機械の最大トルクと比較した割合(%)である。「切削音」、「振動」、「溶着」の欄の「○」は良、「△」は可(許容範囲内)、「×」は不可(許容範囲外)で、試験者の感覚による評価である。
《切削試験条件》
被削材:A2618(JISの規定によるアルミニウム合金)
回転速度n:24000(min-1
1刃当り送り量fz:0.08~0.125(mm/t)
工具送り速度Vf:5760~9000(mm/min)
軸方向切込みap:7.7(mm)
切削油剤:水溶性切削油
使用機械:立型マシニングセンタ
【0046】
図6の試験結果から明らかなように、比較品1は1刃当り送り量fz=0.10(mm/t)で折損して加工不可になり、比較品2は1刃当り送り量fz=0.11(mm/t)で折損して加工不可になったのに対し、本発明品は1刃当り送り量fz=0.12(mm/t)まで加工可能であった。また、比較品1、比較品2は、主軸負荷が67~68%程度まで加工可能であるのに対し、本発明品は79%程度まで加工可能で、高い折損強度が得られることが分かる。図7は、本発明品および比較品2について、1刃当り送り量fzと主軸負荷との関係をグラフで比較して示したもので、何れの場合も1刃当り送り量fzが大きくなるに従って主軸負荷が高くなるが、本発明品は比較品2よりも主軸負荷が高い領域まで加工可能で、1刃当り送り量fzを大きくして高能率加工を行うことができる。図6に戻って、切削音および振動については、比較品1および比較品2よりも本発明品の方が優れており、1刃当り送り量fz=0.11(mm/t)まで可、すなわち許容範囲内であった。溶着については本発明品よりも比較品2が優れていると思われるが、本発明品の場合、1刃当り送り量fz=0.12(mm/t)まで可、すなわち許容範囲内であった。
【0047】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0048】
10:テーパボールエンドミル(テーパエンドミル) 12:シャンク 14:刃部 16:ねじれ溝(溝) 18:外周切れ刃 O:工具軸線 r:溝底半径 θ1、θ2:勾配角 S:変化点 α:テーパ半角 γ:すくい角 L:刃長 D:先端工具径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7