(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-24
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】ゼオライト分離膜およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 71/02 20060101AFI20220203BHJP
C01B 37/02 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
B01D71/02 500
C01B37/02
(21)【出願番号】P 2018500220
(86)(22)【出願日】2017-02-17
(86)【国際出願番号】 JP2017005843
(87)【国際公開番号】W WO2017142056
(87)【国際公開日】2017-08-24
【審査請求日】2020-01-20
(31)【優先権主張番号】P 2016030475
(32)【優先日】2016-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【氏名又は名称】渡邉 彰
(72)【発明者】
【氏名】今坂 怜史
(72)【発明者】
【氏名】板倉 正也
(72)【発明者】
【氏名】矢野 和宏
(72)【発明者】
【氏名】山本 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】荒木 貞夫
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-521744(JP,A)
【文献】特表2009-513475(JP,A)
【文献】特開2004-083375(JP,A)
【文献】特開2015-116532(JP,A)
【文献】特許第5186410(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00-71/82
B01D 53/22
C01B 37/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質支持体上にSTT型またはCHA型のゼオライト結晶構造を有し、分子篩機能を有する
オールシリカゼオライト分離膜の製造方法であって、
オールシリカゼオライトの種結晶を製造するステップと、
上記種結晶を上記多孔質支持体上に塗布するステップと、
膜合成原料組成物を製造するステップと、
上記種結晶が塗布された上記多孔質支持体を上記膜合成原料組成物に浸漬して水熱合成するステップを含み、
上記膜合成原料組成物は、シリカ
源、有機テンプレート
及び水からなり、フッ素化合物を含まず、上記水熱合成の時間が7日以上であることを特徴とする
オールシリカゼオライト分離膜の製造方法。
【請求項2】
請求項
1の
オールシリカゼオライト分離膜の製造方法であって、
上記膜合成原料組成物が、シリカ源:TMAdaOH:H
2O=1:0.1~0.5:30~60であり、
水熱合成の温度および時間が、140℃~180℃で8日~12日であることを特徴とする
オールシリカゼオライト分離膜の製造方法。
【請求項3】
請求項
1の
オールシリカゼオライト分離膜の製造方法であって、
上記膜合成原料組成物が、シリカ源:TMAdaOH:H
2O=1:0.5~1.5:20~50であり、
水熱合成の温度および時間が、140℃~180℃で8日~12日であることを特徴とする
オールシリカゼオライト分離膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オールシリカのゼオライト分離膜および、フッ化水素酸を用いずにオールシリカゼオライト分離膜を製造する方法に関するものである。とりわけ、STT型およびCHA型ゼオライト結晶構造を有するゼオライト分離膜において好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトは、規則的に配列したミクロ孔を有し、一般に耐熱性が高く化学的にも安定なものが数多く得られることから様々な分野で利用されている。一般的にゼオライトは、Siの一部がAlに置換したアルミノシリケート(SiO4及びAlO4が酸素を共有して結合した三次元網状構造を基本的骨格構造)であり、酸素8員環から14員環までの分子オーダー(0.3~1nm程度)の細孔を有し、立体選択的な吸着作用を持つことから例えば、液体分離、蒸気分離、気体分離、メンブレンリアクター、固体酸触媒、分離吸着剤、イオン交換剤等の分野で幅広く用いられている。近年、有機化合物を含む混合物から同化合物を分離回収するのに、多くの熱エネルギーを要する蒸留法に代って、ゼオライト膜を用いた膜分離法が提案され、すでに実用化された例もある。
【0003】
ところで、ゼオライトは、構成成分となるSiO2とAl2O3の比率(シリカ比:SiO2/Al2O3)によりゼオライト膜の親水性・疎水性やゼオライト膜内の細孔を通過する分子の選択性や透過性能が変化することが知られている。また、SiO2とAl2O3の比率の変化により耐薬品性等が異なってくることも知られている。
【0004】
一般に、シリカ比(Al2O3に対するSiO2の比率)が高くなるほど疎水性(親油性)が高くなり、耐薬品性も高くなり、シリカ比の高いゼオライト膜が望まれる傾向にある。
【0005】
また、天然ガス油田で採掘されるメタンなどの天然ガスには二酸化炭素以外にも二酸化炭素に近い分子径を有する水等も含まれている。従って、天然ガスと二酸化炭素を分離しようとすると、ゼオライト膜細孔内に二酸化炭素以外にも水分子等も細孔内に入る。
【0006】
従来のアルミノケイ酸塩の結晶構造を有するゼオライト膜では、アルミニウム原子が結晶構造内に存在しているため、このアルミニウム原子で水の吸着が発生して二酸化炭素が細孔から出てこられにくくなり、目的とする処理量が得られないという課題があった。
【0007】
この処理量の改善という目的を達成するには、オールシリカのゼオライト膜が望まれている。特に、メタン等や二酸化炭素等を分離するためのSTT型およびCHA型ゼオライト分離膜は、後述する製造方法に関する問題から工業的に実現できていなかった。
【0008】
すなわち、ゼオライト分離膜は原料組成物から熱合成法という方法を用いて合成されるが、この原料組成物には、ケイ酸ナトリウム、コロイダルシリカなどのシリカ源、水酸化アルミニウム、アルミン酸ナトリウムなどのアルミニウム源、水、有機テンプレートなどの構造規定剤およびアルカリ金属の水酸化物などの鉱化剤が含まれている。
【0009】
この鉱化剤は、原料組成物に含まれている金属成分を水の中に溶解させる働きがある。
【0010】
ゼオライトがアルミノケイ酸塩の場合は、鉱化剤として一般的にNaOH(水酸化ナトリウム)が使用される。しかしながら、アルミニウムを含まないオールシリカSTT型やオールシリカCHA型ゼオライト膜を合成するための鉱化剤としてNaOHを用いると、水熱合成を行ってもゼオライトが結晶化(固相化)しないという問題があり、この問題を解決するためにNaOHの代わりにフッ化水素酸を用いる方法がある。
【0011】
例えば、特許文献1~3では、吸着法によって二酸化炭素等を分離する目的のSTT型やCHA型等の粒子(ゼオライト膜ではない)のピュアシリカゼオライト結晶の製造方法が示されているが、鉱化剤としてフッ化水素酸が用いられている。
【0012】
このフッ化水素酸には、原料組成物ゲルの溶解や結晶化を促進する結晶化促進効果、フッ化イオンの共存により、ある決まった構造、組成の化合物が合成される構造決定効果および化合物の骨格中に取り込まれ、有機テンプレートと同様に、構造を安定化させる鋳型効果があるといわれている。
【0013】
しかしながら、このフッ化水素酸は、毒性が非常に高く、ゼオライト膜複合体のような大きな構造体の製造には不向きであり、合成後もゼオライト分離膜表面に付着しているフッ化水素酸を完全に洗い落とすのに大変な手間を要し、製造方法が大変に煩雑となる問題がある。
【0014】
さらに、合成後の洗浄工程においてフッ化水素酸の残留があった場合には、ゼオライト分離膜透過物や非透過物(製品)の純度が悪くなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開2009-114007号公報
【文献】特開2009-214101号公報
【文献】特開2015-116532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上述した先行技術の問題点に鑑み、水分子の吸着によって処理量の低下をきたさない(二酸化炭素等を分離する)オールシリカのゼオライト分離膜を提供することを課題とする。
【0017】
本発明はまた、上述した先行技術の製造上の問題点に鑑み、フッ化水素酸を用いないオールシリカのゼオライト分離膜の安全な製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、上記課題を解決すべく、下記のゼオライト分離膜、そのゼオライト分離膜製造のための膜合成原料組成物およびそのゼオライト分離膜の製造方法を提供する。
【0019】
(1)多孔質支持体上に形成されたゼオライト結晶構造の骨格がオールシリカのゼオライト分離膜であって、多孔質支持体上に形成されたゼオライト結晶構造がフッ素フリーであることを特徴とするゼオライト分離膜。
【0020】
(2)上記(1)に記載のゼオライト分離膜であって、上記ゼオライト結晶構造はSTT型またはCHA型であることを特徴とするゼオライト分離膜。
【0021】
(3)上記(1)または(2)に記載のゼオライト分離膜を製造するための原料組成物であって、上記原料組成物は、シリカ源および有機テンプレートを含み、フッ素化合物を含まないことを特徴とする原料組成物。
【0022】
(4)多孔質支持体上にゼオライト結晶構造を有するゼオライト分離膜の製造方法であって、種結晶を製造するステップと、上記種結晶を上記多孔質支持体上に塗布するステップと、膜合成原料組成物を製造するステップと、上記種結晶が塗布された上記多孔質支持体を上記膜合成原料組成物に浸漬して水熱合成するステップを含み、上記膜合成原料組成物は、シリカ源および有機テンプレートを含み、フッ素化合物を含まないことを特徴とするゼオライト分離膜の製造方法。
【0023】
(5)上記(4)に記載のゼオライト分離膜の製造方法であって、水熱合成の温度および時間が、140℃~180℃で8日~12日であることを特徴とするゼオライト分離膜の製造方法。
【0024】
本発明において、フッ素フリーであるとは、ゼオライト膜の水熱合成においてフッ化水素酸のようなフッ素含有の鉱化剤を用いずに合成されているので、ゼオライト膜にフッ化水素酸の残留がなく、水熱合成で結晶化したゼオライト膜構造内にフッ素が存在しないことを意味する。なお、種結晶を製造するステップにて使用されるフッ素含有の鉱化剤は、ゼオライト膜に含有されている可能性がある。しかしながら、合成されたゼオライト膜全体に比べて限りなく少量であるため、ゼオライト膜は実質的にフッ素フリーと呼べる。
【発明の効果】
【0025】
本発明のオールシリカのSTT型やCHA型のゼオライト分離膜を用いることによって、天然ガス油田で採掘されるメタンなどの天然ガス等と二酸化炭素等を分離する際に、天然ガス中に含まれる水分子等の吸着によって処理量の低下をきたさずに二酸化炭素等を分離することができる。
【0026】
本発明の製造方法によると、フッ素化合物(フッ化水素酸等)を用いないで、オールシリカのゼオライト分離膜を安全に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】実施例1で得られたオールシリカSTT型ゼオライト膜の電子顕微鏡像である。
【
図2】実施例1で得られたオールシリカSTT型ゼオライト分離膜のX線回折パターンとオールシリカSTT型ゼオライト粒子のX線回折パターンである。
【
図3】水熱合成時間を短くして合成した実施例2のオールシリカゼオライト膜表面の電子顕微鏡像である。
【
図4】実施例1で得られたオールシリカSTT型ゼオライト分離膜と高シリカ(Si/Al比が25)のCHA型ゼオライト分離膜における二酸化炭素透過速度と温度との相関図である。
【
図5】実施例3で得られたオールシリカCHA型ゼオライト分離膜のX線回折パターンとオールシリカCHA型ゼオライト粒子のX線回折パターンである。
【
図6】実施例4で得られたオールシリカSTT型ゼオライト分離膜のX線回折パターンとオールシリカSTT型ゼオライト粒子のX線回折パターンである。
【
図7】実施例1で得られたオールシリカSTT型ゼオライト分離膜断面の顕微鏡写真と元素分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の一実施の形態に係るゼオライト分離膜について詳細を説明する。
〈ゼオライト分離膜〉
本発明のオールシリカのゼオライト分離膜は、多孔質支持体表面にオールシリカゼオライト膜が形成されている。
【0029】
本発明のオールシリカのゼオライト膜の結晶の骨格は、実質的にアルミニウムが含まれず、全てがシリカ(SiO2)で構成されている。一般的なゼオライト膜細孔内のアルミニウムは、吸着作用が強く、多成分の分離を行いたい場合、目的分離物の抵抗となる。また、酸性及び高含水によるゼオライト膜の崩壊は、ゼオライト結晶構造の骨格中のアルミニウムの部分で生じる。そのため、アルミニウムを含まない本発明のオールシリカのゼオライト膜は、耐酸性が非常に高く、水分子等の吸着性能が低くなる。ここで言う、実質的にアルミニウムが含まれないとは、水熱合成時に多孔質支持体に含まれるアルミニウムが、ごく微量に含まれる可能性があるためである。
【0030】
ところで、ゼオライト分離膜による分離方法は、ゼオライト細孔径と分子径の差を利用した分子篩効果による分離と、各種分子のゼオライト膜への吸着性の差を利用した吸着効果による分離の2種類があるといわれている。本発明のオールシリカゼオライト分離膜は、主に分子篩効果により分離する。
【0031】
そして、本発明で好適に用いられる、STT型ゼオライト膜は2種の細孔を有しており各細孔は□5.3×3.7Å、□2.4×3.5Åである。一方、CHA型ゼオライト膜は□3.8×3.8Åの細孔を有する。
【0032】
従って、例えば、メタン(3.8Å)、エタノール(4.3Å)、酢酸(4.3Å)、六フッ化硫黄(5.5Å)、ベンゼン(6.6Å)、P-キシレン(6.6×3.8Å)、O,M-キシレン(7.3×3.9Å)等のゼオライト膜の細孔と等しいか、より大きな分子は細孔内を通過することが出来ず、水素(2.9Å)、水(3.0Å)、アルゴン(3.4Å)、二酸化炭素(3.3Å)、酸素(3.46Å)、窒素(3.64Å)、ヘリウム(2.6Å)等のゼオライト膜の細孔よりも小さな分子はゼオライト膜の細孔内を通過することが出来るので、各分子の分離をすることが出来る。
【0033】
なお、「STT」、「CHA」とは、国際ゼオライト学会(InternationalZeolite Association、IZA)が定めたゼオライトを構造により分類したコードである。
【0034】
ゼオライト膜の厚さは、特に限定されるものではないが、できれば薄く製造できれば良く1.0μm~10.0μm程度であることが好ましい。
【0035】
多孔質支持体は、支持体上にゼオライトを薄膜として結晶化できるものであれば良く、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、ステンレススチールなどの多孔質支持体などがある。もちろん、多孔質支持体は、ゼオライト膜の細孔よりも大きな孔を有しており、ゼオライト膜を通過した分子が多孔質支持体の孔を通過することにより分子篩が行われる。
【0036】
多孔質支持体の形状は特に限定されず、管状、平板状、ハニカム状、中空糸状、ペレット状等、種々の形状のものを使用できる。例えば管状の場合、多孔質支持体の大きさは特に限定されないが、実用的には長さ2~200cm程度、内径0.5~2.0cm、厚さ0.5~4.0mm程度である。
【0037】
〈ゼオライト分離膜の製造方法〉
ゼオライト膜の合成ステップは、多孔質支持体上にオールシリカゼオライトの種結晶を塗布し、この種結晶付き多孔質支持体を膜合成原料組成物(ゲル)内に浸漬させて水熱合成することでオールシリカゼオライト膜を製膜する。
【0038】
(種結晶を製造するステップ)
種結晶の有機テンプレートとシリカ源として好ましくは目的ゼオライト結晶の合成に用いるものと同じものを用いる。ゼオライト種結晶は、フッ化水素酸(以下、「HF」と称することもある。)を用い、多孔質支持体を用いない点を除いて、ゼオライト結晶(分離膜)の水熱合成と基本的に同様の操作で種結晶を製造する。
オールシリカSTT型ゼオライト分離膜の製造のための種結晶は、例えばSiO2: 有機テンプレート:HF:H2O=1:0.2~1.5:0.5~1.5:5.0~15.0の組成で製造することが望ましい。特に、SiO2: 有機テンプレート:HF:H2O=1:0.2~1.0:0.5~1.5:5.0~15.0の組成で製造することが望ましい。
【0039】
オールシリカCHA型ゼオライト膜の製造の為の種結晶は、例えばSiO2: 有機テンプレート:HF:H2O=1:0.5~2.5:0.5~2.0:2.5~8.0の組成で製造することが望ましい。特に、オールシリカCHA型ゼオライト膜の製造のための種結晶は、SiO2: 有機テンプレート:HF:H2O=1:1.0~2.5:0.5~1.5:2.5~8.0の組成で製造することが望ましい。
【0040】
種合成原料組成物(ゲル)を圧力容器、通常はオートクレープに移し、水熱合成を行う。その後、オートクレーブを冷却し、ゲルをイオン交換水で洗浄・ろ過し、減圧乾燥する。
【0041】
種結晶の大きさは、好ましくは100nm~1μm、より好ましくは100~800nmである。種結晶が1μmより大きい場合、多孔質支持体の細孔径との兼ね合いにより、緻密なゼオライト層を形成できない可能性がある。なお、種結晶の粒子径は大塚電子株式会社製の粒子径測定器(商品名、FPAR-1000)を用いて測定することができる。
【0042】
種結晶の水熱合成に際して、合成液(合成ゲル)に予め調製したおいた種結晶を添加することが好ましい。ゼオライトの結晶化を促進させ、粒子径を制御することが出来る。
【0043】
(種結晶を多孔質支持体に塗布するステップ)
まず、多孔質支持体については、同支持体上にゼオライト膜を形成したものを分子篩等として利用する場合、(a)ゼオライト膜を強固に担持することができ、(b)圧損ができるだけ小さく、かつ(c)多孔質支持体が十分な自己支持性(機械的強度)を有するという条件を満たすように、多孔質支持体の平均細孔径等を設定するのが好ましい。
【0044】
多孔質支持体は、水洗い、超音波洗浄などの方法で表面処理することが好ましい。例えば、水による1~10分の超音波洗浄により、支持体表面の洗浄を行えば良い。表面平滑性を改善するために、紙やすりやグラインダーなどにより、その表面を研磨しても良い。
【0045】
種結晶の粒子径は、小さい方が望ましく、必要に応じて粉砕して用いても良い。支持体の上に種結晶を付着させるには、例えば、種結晶を水などの溶媒に分散させてその分散液に支持体を浸けて種結晶を付着させるディップ法や、種結晶を水などの溶媒と混合してスラリー状にしたものを支持体表面上に塗り込む方法などを用いることができる。種結晶の塗布量は、支持体の重さに対して、例えば1×10-4~1×10-3wt%とすることが好ましい。そして、種結晶を塗布後の支持体は、接着性を高めるために例えば450℃~700℃で焼成を行うことが好ましい。
【0046】
(膜合成原料組成物を製造するステップ)
シリカ源は、特に限定されるものではないが、好ましくは、無定形シリカ、コロイダルシリカ、シリカゲル、ケイ酸ナトリウム、テトラオルトシリケート(TEOS)、トリメチルエトシキシシラン等が挙げられる。
【0047】
有機テンプレートとして、1-アダマンタンアミンから誘導されるN, N, N-トリアルキル-1-アダマンタンアンモニウムカチオンが好ましく、これらの水酸化物を用いることが好ましい。中でも、N, N, N-トリメチル-アダマンタンアンモニウム水酸化物(TMAdaOH)がより好ましい。その他には、N, N, N-トリアルキルベンジルアンモニウム水酸化物が挙げられる。ゲル中にてこれらの有機テンプレートの水酸基が、鉱化剤としての機能を果たしていると考えられる。
【0048】
オールシリカSTT型ゼオライト膜合成原料組成物の組成は、例えば、シリカ源、有機テンプレートおよびH2Oのみから構成され、例えばSiO2: TMAdaOH:H2O=1:0.1~1.0:20~80であることが好ましく、より好ましくは、SiO2: TMAdaOH:H2O=1:0.1~0.5:30~60である。
【0049】
オールシリカCHA型ゼオライト膜合成原料組成物の組成は、例えば、シリカ源、有機テンプレートおよびH2Oのみから構成され、SiO2: TMAdaOH:H2O=1:0.2~1.5:10~60であることが好ましく、より好ましくは、SiO2: TMAdaOH:H2O=1:0.5~1.5:20~50である。
【0050】
(ゼオライト分離膜の水熱合成のステップ)
オールシリカゼオライト分離膜の水熱合成方法は、シリカ源および有機テンプレートを含み、フッ素化合物を含まない膜合成原料組成物(ゲル)を熟成させた後、オールシリカゼオライト種結晶を塗布した多孔質支持体を膜合成原料組成物に挿入して、密閉容器、通常はオートクレーブを用いて水熱合成を行う。熟成の温度および時間は、室温で10~24時間であることが好ましい。具体的には、有機テンプレートとシリカ源を混合し、攪拌して加熱し、生成した水とエタノールを蒸発除去させた後、残った固体にイオン交換水を加え加熱しながら攪拌する。その後、テフロン(登録商標)内筒に種結晶を塗布した多孔質支持体を設置し、二次成長溶液で満たす。これをオートクレーブに仕込み、水熱合成を行なう。その後、生成したゼオライト分離膜をイオン交換水で煮沸洗浄し、減圧乾燥後に、膜内に残存している有機テンプレートを除去するため、焼成する。焼成温度および時間は、450℃~700℃で8~24時間であることが好ましい。なお、エタノールは、シリカ源にTEOSを用いた場合に、加水分解・縮合により生成する。
【0051】
オールシリカSTT型ゼオライト膜およびオールシリカCHA型ゼオライト膜形成のための水熱合成の温度および時間は、140~180℃で6~12日であることが好ましく、8日~12日であることが特に好ましい。
【0052】
[実施例1:オールシリカSTT型ゼオライト分離膜の製造]
(種結晶の調製)
ビーカーにTMAdaOH(有機テンプレート)とTEOS(シリカ源)水を混合し、12時間攪拌しTEOSを加水分解させた。その後、150℃で熱し、生成した水とエタノールを完全に蒸発させた。ビーカーに残った固体に、フッ化水素酸及びイオン交換水を加え攪拌を行った。各物質のモル組成は、SiO2: TMAdaOH:HF:H2O=1:0.5:0.5:7.5である。攪拌後、ゲルをテフロン製オートクレーブに移し、150℃で3.5日間水熱合成を行った。オートクレーブを冷却し、テフロン内筒内のゲルをイオン交換水で洗浄・ろ過し、減圧乾燥した。
【0053】
調製したオールシリカSTT型ゼオライト種結晶を試験片である多孔質アルミナ支持体(外径3mm、長さ約25mm、細孔径1.5μm)の表面に支持体の重さに対して、3×10-4wt%を擦り込むことで塗布した。その後700℃で12時間焼成した。
【0054】
(ゼオライト膜合成)
次いで、ゼオライト膜を製膜するための膜合成のための膜合成原料組成物を以下の手順で調製した。まず、ビーカーに有機テンプレートであるTMAdaOHとシリカ源であるTEOSを混合し、12時間攪拌を行った。150℃で加熱し、生成した水とエタノールを完全に蒸発させた。ビーカーに残った固体にイオン交換水を加え、150℃で加熱しながら攪拌を行った。各物質のモル組成は、SiO2: TMAdaOH: H2O=1:0.25:44である。その後、テフロン内筒に種結晶を塗布した多孔質支持体を設置し、二次成長溶液で満たした。オートクレーブに仕込み、150℃で8日間水熱合成を行なった。オートクレーブを冷却し、テフロン内筒から出来上がったゼオライト分離膜を取り出し、イオン交換水で煮沸洗浄し、減圧乾燥した。最後に、膜内に残存しているTMAdaOHを除去するため、電気炉にて500℃で10時間焼成を行った。
【0055】
図1に、合成したオールシリカゼオライト分離膜表面のSEM像を示す。
【0056】
図2に、オールシリカSTT型ゼオライト粒子のX線回折パターン(XRD)と上記製造方法で作成されたゼオライト分離膜のX線回折パターンを示す。下側のX線回折パターンはオールシリカSTT型ゼオライト粒子のX線回折パターンである。上側のX線回折パターンは、上記製造方法で作製されたオールシリカゼオライト分離膜のX線回折パターンである。この2つのX線回折パターンにより、製造されたゼオライト分離膜はオールシリカSTT型ゼオライト膜であると同定された。
【0057】
(実施例2:オールシリカSTT型ゼオライト分離膜の製造)
図3に、水熱合成時間を短くして合成した実施例2のオールシリカゼオライト膜表面の電子顕微鏡像を示す。
【0058】
実施例1と同様の膜合成原料組成物(ゲル)を用いて膜を合成した。テフロン内筒に種結晶を塗布した多孔質支持体を設置し、二次成長溶液で満たした。オートクレーブに仕込み、150℃で7日間水熱合成を行なった。オートクレーブを冷却し、テフロン内筒から出来上がったゼオライト分離膜を取り出し、イオン交換水で煮沸洗浄し、減圧乾燥した。最後に、膜内に残存しているTMAdaOHを除去するため、電気炉にて500℃で10時間焼成を行った。
【0059】
〈評価試験1〉
オールシリカSTT型分離膜の緻密性について、IPA(Iso propyl alcohol)水溶液(IPA:90wt%)の浸透気化分離(PV)にて評価実験をした。ゼオライト分離膜を75℃のIPA水溶液に浸漬し、内側を真空ポンプにより減圧した。そして、ゼオライト分離膜により分離された浸透蒸気を液体窒素により捕集し、その重量及び濃度をカールフィッシャ―水分計で測定しゼオライト分離膜の透過流速、分離係数を得た。
【0060】
評価試験において、実施例2は、非常に大きなIPAの透過流速となった。すなわち、STT型ゼオライト膜の細孔径が0.37nmであるのに対して、IPAの分子径は0.47nmであり分子篩効果により理論上膜の細孔内にIPA分子は浸透できない。よって、これは結晶粒界等の欠陥からのIPA分子が透過していると考えられ、合成時間は7日では緻密なSTT型ゼオライト膜が得られなかったという結論に達した。一方で、実施例1は、IPA透過流速が実施例2と比べて劇的に減少し、分離係数が15以下で得られ、ゼオライト膜の緻密化を確認できた。なお、実施例2は、緻密ではなかったが、STT型ゼオライト膜は成膜されている。
【0061】
図1(実施例1)と
図3(実施例2)では、合成時間により結晶型の変化が観察された。実施例2のゼオライト分離膜は、数十μm程度の楕円形の粒子で構成されていた。これに対して、実施例1のゼオライト膜表面は、角張った非常に大きな結晶で覆われており、ピンホールやクラック等の欠陥は観察されず、緻密な結晶層が得られていることを確認した。
【0062】
〈評価試験2〉
図4は、実施例1で得られたオールシリカSTT型ゼオライト分離膜と高シリカ(Si/Al比が25)のCHA型ゼオライト分離膜における二酸化炭素透過速度と温度との相関を示す図である。
【0063】
高シリカ(Si/Al比が25)のCHA型ゼオライト分離膜は、多孔質アルミナ支持体の外表面にCHA型種結晶を担持し、膜合成原料組成物中で水熱処理をすることで合成された。種結晶は、FAU型ゼオライト粉末(東ソー製)、水酸化ナトリウム、有機テンプレート(TMAdaOH)およびイオン交換水を用いてゲルを調製し所定の温度・時間で水熱処理をすることで得た。
【0064】
次にディップまたはラビングにより種結晶を担持した多孔質支持体および膜合成原料組成物をオートクレーブに仕込み、所定の温度・時間で水熱処理をして多結晶層を形成した。洗浄後、焼成によりTMAdaOHを除去し高シリカCHA型ゼオライト分離膜を得た。
【0065】
この高シリカCHA型ゼオライト膜の製造方法は、今坂らが第80回化学工学会で報告した「ゼオライトを出発原料に用いた高シリカCHA膜の合成と分離特性」に記載されている製造方法と同じである。(「化学工学会 第80年会「ゼオライトを原料に用いた高シリカCHA膜の合成とその分離特性」」参照。)また、国際公開公報WO2016/006564にも開示されている。
【0066】
図4で示すところは、上記高シリカCHA型ゼオライト膜および実施例1にて合成したオールシリカSTT型ゼオライト膜の測定温度とCO
2透過速度の変化である。温度40~120℃で測定を行い、ゼオライト膜を透過したCO
2ガスの流量を測定し、透過速度を算出した。
【0067】
測定温度を上げるにつれ、高シリカCHA型ゼオライト分離膜のCO2透過速度の低下が観察された。120℃まで増加することで、約50%まで透過速度が低下した。これに対し、実施例1で合成したオールシリカSTT型ゼオライト分離膜では、測定温度を増加させても、ほとんどCO2透過速度に変化は見られなかった。高シリカCHA型ゼオライト分離膜のAl原子にはNa+等のカチオン種が存在しており、高温度条件になるとそれらの分子運動が活発化するため、CO2の透過が阻害すると推察される。一方で、オールシリカゼオライト分離膜には、Al原子自体存在せず、細孔内にてCO2がスムーズに透過するため、温度による減少は見られなかったと考えられる。
【0068】
[実施例3:オールシリカCHA型ゼオライト分離膜の製造]
(種結晶の調製)
ビーカーにTMAdaOH(有機テンプレート)とコロイダルシリカ(シリカ源)を混合し、フッ化水素酸を加えた。その後、攪拌を行いながら加熱し、水を完全に除去した。固体をメノウ乳鉢で粉砕し、イオン交換水を加えた。各物質のモル組成は、SiO2: TMAdaOH:HF:H2O=1:1.4:1.4:6.0である。ゲルをテフロン製オートクレーブに移し、150℃で24日間水熱合成を行った。オートクレーブを冷却し、テフロン内筒内のゲルをイオン交換水で洗浄・ろ過し、減圧乾燥した。
【0069】
調製したオールシリカCHA型ゼオライト種結晶を試験片である多孔質アルミナ支持体(外径16mm、長さ約40mm、細孔径1.0μm)の表面に支持体の重さに対して、3×10-4wt%を擦り込むことで塗布した。その後700℃で12時間焼成した。
【0070】
(ゼオライト膜合成)
次いで、ゼオライト膜を製膜するための膜合成のための膜合成原料組成物を以下の手順で調製した。まず、ビーカーに有機テンプレートであるTMAdaOHとシリカ源であるTEOSを混合し、12時間攪拌を行った。150℃で加熱し、生成した水とエタノールを完全に蒸発させた。ビーカーに残った固体にイオン交換水を加え、150℃で加熱しながら攪拌を行った。各物質のモル組成は、SiO2: TMAdaOH: H2O=1:0.5:44である。その後、テフロン内筒に種結晶を塗布した多孔質支持体を設置し、二次成長溶液で満たした。オートクレーブに仕込み、150℃で8日間水熱合成を行なった。オートクレーブを冷却し、テフロン内筒から出来上がったゼオライト分離膜を取り出し、イオン交換水で煮沸洗浄し、減圧乾燥した。最後に、膜内に残存しているTMAdaOHを除去するため、電気炉にて500℃で10時間焼成を行った。
【0071】
図5に、オールシリカCHA型ゼオライト粒子のX線回折パターン(XRD)と上記製造方法で作製されたゼオライト分離膜のX線回折パターンを示す。下側のX線回折パターンはオールシリカCHA型ゼオライト粒子のX線回折パターンである。上側のX線回折パターンは、上記製造方法で作成されたゼオライト分離膜のX線回折パターンである。この2つのX線回折パターンにより、製造されたゼオライト分離膜はオールシリカCHA型ゼオライト膜であると同定された。
【0072】
[実施例4:オールシリカSTT型ゼオライト分離膜の製造]
実施例1にて合成したオールシリカSTT型ゼオライト種結晶を外径16mm、長さ40mm、細孔径1.0μmの多孔質アルミア支持体表面上に、重さに対して、6×10-4wt%を擦り込むことで塗布した。その後700℃で12時間焼成した。
【0073】
次いで、膜合成のための膜合成原料組成物を以下の手順で調製した。まず、ビーカーに有機テンプレートであるTMAdaOHとシリカ源であるTEOSを混合し、12時間攪拌を行った。150℃で加熱し、生成した水とエタノールを完全に蒸発させた。ビーカーに残った固体にイオン交換水を加え、150℃で加熱しながら攪拌を行った。各物質のモル組成は、SiO2: TMAdaOH: H2O=1:0.25:54である。その後、テフロン内筒に種結晶を塗布した多孔質支持体を設置し、二次成長溶液で満たした。オートクレーブに仕込み、150℃で8日間水熱合成を行なった。オートクレーブを冷却し、テフロン内筒から出来上がったゼオライト分離膜を取り出し、イオン交換水で煮沸洗浄し、減圧乾燥した。最後に、膜内に残存しているTMAdaOHを除去するため、電気炉にて500℃で10時間焼成を行った。
【0074】
図6に、オールシリカSTT型ゼオライト粒子のX線回折パターン(XRD)と上記製造方法で作成されたゼオライト分離膜のX線回折パターンを示す。下側のX線回折パターンはオールシリカSTT型ゼオライト粒子のX線回折パターンである。上側のX線回折パターンは、上記製造方法で作成されたゼオライト分離膜のX線回折パターンである。この2つのX線回折パターンにより、製造されたゼオライト分離膜はオールシリカSTT型ゼオライト膜であると同定された。
【0075】
図7に実施例1で得られたオールシリカSTT型ゼオライト膜断面の電子顕微鏡写真を示す。
【0076】
図7の各部位をEDX測定(HORIBA製(商品名):EMAX ENERGY EX―350)により元素分析を行った。その結果、どの部位においてもフッ素原子が検出されず、本発明の方法で合成したゼオライト膜にはフッ素が存在していないことが分かった。なお、このEDX測定の検出限界は、0.00Atom%である。