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特許6999116人状態推定装置及び人状態推定用プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-24
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】人状態推定装置及び人状態推定用プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/10 20120101AFI20220111BHJP
   G06Q 10/10 20120101ALI20220111BHJP
【FI】
G06Q50/10
G06Q10/10 320
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019082679
(22)【出願日】2019-04-24
(65)【公開番号】P2020181293
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2019-09-24
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】391016358
【氏名又は名称】東芝情報システム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100090169
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100074147
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 崇
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】藤原 好将
(72)【発明者】
【氏名】久保田 直行
【審査官】萩島 豪
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-115088(JP,A)
【文献】特開2011-239924(JP,A)
【文献】山本航平,外2名,空気圧センサにおけるスパイキングニューロンを用いた生体情報の取得,電気学会研究会資料,日本,一般社団法人電気学会,2018年09月26日,pp.65-68
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間の人の動きにより検出値が変動する物理量である温度と湿度を検出するセンサから得られる温度データと湿度データをファジィ推論による感度調整によって補正し、補正入力データを得る前処理手段と、
前記補正入力データに基づき興奮性シナプス後電位を求める入力層と、前記入力層の出力に対し、対出力層重み値を用いた積和演算を行って、入浴開始の推定値と入浴終了の推定値との少なくとも一方を出力として得る出力層と、を有するスパイキングニューラルネットワークと、
前記スパイキングニューラルネットワークの出力に基づき入浴中と未入浴を推定する推定手段と、
を具備し、
前記前処理手段は、
前記センサから温度データと湿度データを取り込み所定値範囲に抑制する規格化を行う規格化手段と、
前記規格化した値に基づき、時刻tと時刻(t-1)との正の差分値及び負の差分値を求め、この正の差分値及び負の差分値を用いた初期段入力値を求める初期段入力値算出手段と、
ファジィ推論に基づき前記スパイキングニューラルネットワークの初期段入力値に対する初期段重み値を求める初期段重み値算出手段と、
を具備し、
前記初期段重み値と前記初期段入力値との乗算により前記補正入力データを得ることを特徴とする人状態推定装置。
【請求項2】
前記初期段重み値算出手段は、前記センサが検出する物理量である温度と湿度を複数の段階の大きさに区分したときの当該段階数に対応する数のファジィメンバシップ関数を用いて初期段重み値を求めることを特徴とする請求項1に記載の人状態推定装置。
【請求項3】
前記入力層のニューロンは、
他のニューロンからの入力により発生した電位の総和を求める電位総和算出手段と、
ニューロンの不応期を求める不応期取得手段と、
ニューロンの内部膜電位を求める内部膜電位算出手段と、
ニューロンにおけるパルス出力(発火)値を求めるパルス出力(発火)値算出手段と、
を具備することを特徴とする請求項1または2に記載の人状態推定装置。
【請求項4】
前記推定手段は、前記スパイキングニューラルネットワークの出力が所定の時系列変化をするか否か求め、所定の時系列変化の場合に通常の推定ルールと異なるルールで判定を行う補正手段であって、推定結果が入浴中の範囲において入浴終了の推定値が入浴開始時の入浴終了の推定値より大きくなった最初の時刻を入浴終了時とし、以降、未入浴と補正、また、入浴終了の推定値が現れないか、または0に近い場合には、入浴開始の推定値の値の如何に拘わらず、全て未入浴とする補正手段を内包することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の人状態推定装置。
【請求項5】
前記センサは、連続する2室に設けられ、それぞれ2種の物理量である温度と湿度を検出するものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の人状態推定装置。
【請求項6】
コンピュータを、
空間の人の動きにより検出値が変動する物理量である温度と湿度を検出するセンサから得られる温度データと湿度データをファジィ推論による感度調整によって補正し、補正入力データを得る前処理手段、
前記補正入力データに基づき興奮性シナプス後電位を求める入力層と、前記入力層の出力に対し、対出力層重み値を用いた積和演算を行って、入浴開始の推定値と入浴終了の推定値との少なくとも一方を出力として得る出力層と、を有するスパイキングニューラルネットワーク、
前記スパイキングニューラルネットワークの出力に基づき入浴中と未入浴を推定する推定手段、
として機能させる人状態推定用プログラムであって、
前記コンピュータを前記前処理手段として機能させる場合においては、
前記コンピュータを、
前記センサから温度データと湿度データを取り込み所定値範囲に抑制する規格化を行う規格化手段、
前記規格化した値に基づき、時刻tと時刻(t-1)との正の差分値及び負の差分値を求め、この正の差分値及び負の差分値を用いた初期段入力値を求める初期段入力値算出手段、
ファジィ推論に基づき前記スパイキングニューラルネットワークの初期段入力値に対する初期段重み値を求める初期段重み値算出手段、
として機能させ、
前記初期段重み値と前記初期段入力値との乗算により前記補正入力データを得るように機能させる
ことを特徴とする人状態推定用プログラム。
【請求項7】
前記コンピュータを前記初期段重み値算出手段として、前記センサが検出する物理量である温度と湿度を複数の段階の大きさに区分したときの当該段階数に対応する数のファジィメンバシップ関数を用いて初期段重み値を求めるように機能させることを特徴とする請求項6に記載の人状態推定用プログラム。
【請求項8】
前記コンピュータを前記入力層のニューロンとして機能させる場合において、
前記コンピュータを、
他のニューロンからの入力により発生した電位の総和を求める電位総和算出手段、
ニューロンの不応期を求める不応期取得手段、
ニューロンの内部膜電位を求める内部膜電位算出手段、
ニューロンにおけるパルス出力(発火)値を求めるパルス出力(発火)値算出手段、
として機能させることを特徴とする請求項6または7に記載の人状態推定用プログラム。
【請求項9】
前記コンピュータを前記推定手段として、前記スパイキングニューラルネットワークの出力が所定の時系列変化をするか否か求め、所定の時系列変化の場合に通常の推定ルールと異なるルールで判定を行う補正手段であって、推定結果が入浴中の範囲において入浴終了の推定値が入浴開始時の入浴終了の推定値より大きくなった最初の時刻を入浴終了時とし、以降、未入浴と補正、また、入浴終了の推定値が現れないか、または0に近い場合には、入浴開始の推定値の値の如何に拘わらず、全て未入浴とする補正手段を内包するように機能させることを特徴とする請求項6乃至8のいずれか1項に記載の人状態推定用プログラム。
【請求項10】
前記センサは、連続する2室に設けられ、それぞれ2種の物理量である温度と湿度を検出するものであることを特徴とする請求項6乃至9のいずれか1項に記載の人状態推定用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、人状態推定装置及び人状態推定用プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、浴室と脱衣室を備えた施設においては、カメラによる監視を行うことはプライバシーなどの観点から難しく、カメラを用いないで人が入浴中であるか、入浴終了となったかの推定が必要な場合が多い。プライバシーだけではなく、常時監視員を配置することができないなどの事情からセンサによって監視が必要な場合がある。更に、入浴だけでなく、個室を用いての運動やトレーニングが実行中か終了となったかについても、同様の事情からセンサによって監視することが期待されている場合も生じている。以下では、入浴に特化して議論を進めるが、本発明は上記のような事情から人の動きなどを把握するための人状態推定装置及び人状態推定用プログラムについて適用の可能性を有するものである。
【0003】
例えば、特許文献1には、ユーザの位置を検出する検出部を有する行動推定システムで利用される行動推定装置が開示されている。行動推定装置は、検出部からユーザの位置を示す位置情報を取得し、ユーザの操作を受け付ける電力機器から電力機器の動作状態を示す動作情報を取得する取得部を備える。更に、上記取得部によって取得された位置情報及び動作情報に基づいて、ユーザの行動を推定する推定部を備える。これによって、精度良く行動を推定することができるものである。
【0004】
特許文献2には、推定部と選択部とを備える状態推定システムが開示されている。推定部は、施設に関する人の状態を推定する。選択部は、計測グループから少なくとも1つの計測情報を、推定部が推定に用いる推定用情報として、又は推定部が推定に用いない非推定用情報として選択する。計測グループは、施設における電力計測に関する電力計測情報、及び電力計測情報とは異なる種別の計測に関する他種計測情報を含む。
【0005】
これによって、人の所定状態を推定するために適切な資源に関する情報を利用することができる状態推定システムが実現される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-218801号公報
【文献】特開2019-12482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、状態を推定する施設や場所などの環境に差があっても精度良く人の状態を推定することが可能な人状態推定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態は、空間の人の動きにより検出値が変動する物理量である温度と湿度を検出するセンサから得られる温度データと湿度データをファジィ推論による感度調整によって補正し、補正入力データを得る前処理手段と、前記補正入力データに基づき興奮性シナプス後電位を求める入力層と、前記入力層の出力に対し、対出力層重み値を用いた積和演算を行って、入浴開始の推定値と入浴終了の推定値との少なくとも一方を出力として得る出力層と、を有するスパイキングニューラルネットワークと、前記スパイキングニューラルネットワークの出力に基づき入浴中と未入浴を推定する推定手段と、を具備し、 前記前処理手段は、前記センサから温度データと湿度データを取り込み所定値範囲に抑制する規格化を行う規格化手段と、前記規格化した値に基づき、時刻tと時刻(t-1)との正の差分値及び負の差分値を求め、この正の差分値及び負の差分値を用いた初期段入力値を求める初期段入力値算出手段と、ファジィ推論に基づき前記スパイキングニューラルネットワークの初期段入力値に対する初期段重み値を求める初期段重み値算出手段と、を具備し、前記初期段重み値と前記初期段入力値との乗算により前記補正入力データを得ることを特徴とすることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1の実施形態に係る人状態推定装置を用いた入浴監視システムの構成図。
図2】本発明の第1の実施形態に係る人状態推定装置の要部である主処理部に備えられる手段を示す図。
図3】本発明の第1の実施形態に係る人状態推定装置の要部である前処理手段に備えられる手段を示す図。
図4】本発明の第1の実施形態に係る人状態推定装置において用いられるLowのファジィメンバシップ関数を示す図。
図5】本発明の第1の実施形態に係る人状態推定装置において用いられるMediumのファジィメンバシップ関数を示す図。
図6】本発明の第1の実施形態に係る人状態推定装置において用いられるHighのファジィメンバシップ関数を示す図。
図7】本発明の第1の実施形態に係る人状態推定装置において用いられるスパイキングニューラルネットワークの構成図。
図8】本発明の第1の実施形態に係る人状態推定装置において用いられるスパイキングニューラルネットワークの入力層のニューロンが備える手段を示す図。
図9】本発明の人状態推定装置による推定例を示すための図であり、入浴開始の推定値の変化(図9(A))と、入浴終了の推定値(図9(B))と、第1の実施形態による判定(図9(C))と、補正手段を用いた場合の判定(図9(D))を示す図。
図10】本発明の人状態推定装置による推定例を示すための図であり、入浴開始の推定値の変化(図10(A))と、入浴終了の推定値(図10(B))と、第1の実施形態による判定(図10(C))と、補正手段を用いた場合の判定(図10(D))を示す図。
図11】本発明の第1の実施形態に係る人状態推定装置による概略動作を示すフローチャート。
図12】本発明の第1の実施形態に係る人状態推定装置による図11のフローチャートにおけるステップS11を詳細に示したフローチャート。
図13】本発明の第1の実施形態に係る人状態推定装置による図11のフローチャートにおけるステップS12を詳細に示したフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下添付図面を参照して、実施形態に係る人状態推定装置及び人状態推定用プログラムを説明する。各図において同一の構成要素には同一の符号を付して重複する説明を省略する。図1には、第1の実施形態に係る人状態推定装置200を用いた入浴監視システムの構成図が示されている。個人住居または施設100には、リビング150があり、脱衣室160があり、浴室170がある。
【0011】
浴室170には、温度センサと湿度センサにより構成される温湿度センサ101が設けられており、脱衣室160には、温度センサと湿度センサにより構成される温湿度センサ102が設けられている。温湿度センサ101と温湿度センサ102が検出した温度と湿度に対応する信号は、送信機器103に送られて送信信号へ変換されて、人状態推定装置200へ送信される。この例では、送信機器103が脱衣室160に配置されているが、一例であり、他の場所に配置されていても良い。上記の温湿度センサ101と温湿度センサ102は、空間の人の動きにより検出値が変動する物理量(ここでは、温度と湿度)を検出するセンサである。リビング150には、推定結果を出力させるための端末104が配置されている。端末104は、通信機能を有するパーソナルコンピュータ、PDA(パーソナルディジタルアシスタント)、スマートフォンなどを採用することができる。
【0012】
人状態推定装置200は、クラウドコンピューティングのサーバコンピュータを主として構成されるものや、スマートフォンが所要のアプリケーションソフトにより構成実現するものであっても良い。また、パーソナルコンピュータがアプリケーションソフトにより構成実現するものであっても良い。
【0013】
人状態推定装置200には、個人住居または施設100の送信機器103から送信された信号を受け取る受信部201と、状態推定装置200において処理し作成した各種の情報などを送信信号として送信する送信部203が設けられている。人状態推定装置200には、主処理部202が設けられている。主処理部202は、CPU、主メモリ、外部記憶装置などから構成されるコンピュータの中心的な構成の部分とすることができる。主処理部202による処理は、バッチ処理またはリアルタイム処理とすることができる。
【0014】
主処理部202は、プログラムにより図2に示されるように、前処理手段10、スパイキングニューラルネットワーク20、推定手段30を備えている。前処理手段10は、空間の人の動きにより検出値が変動する物理量を検出するセンサから得られる物理量データをファジィ推論による感度調整によって補正し、補正入力データを得るものである。
【0015】
前処理手段10は、更に、図3に示されるように、規格化手段11、初期段入力値算出手段12、初期段重み値算出手段13を備えている。規格化手段11は、上記センサ(温湿度センサ101と温湿度センサ102)から物理量データを取り込み所定値範囲に抑制する規格化を行うものである。ここで、時刻tにおいてセンサから取り込んだ入力値をxk(t)とする。
k=1:浴室温度
k=2:浴室湿度
k=3:脱衣室温度
k=4:脱衣室温度
【0016】
上記xk(t)を規格化した値をstand_xk(t)とし、0≦stand_xk(t)≦1の範囲に、次の式(1)により規格化する。
【数1】

上記において、max(xk)は入力値の最大値、min(xk)は入力値の最小値である。また、例えば、バッチ処理では取得期間の最大値、最小値を用い、リアルタイム処理では現在から過去48時間の最大値、最小値を用いることができる。
【0017】
初期段入力値算出手段12は、上記規格化した値に基づき、時刻tと時刻(t-1)との正の差分値及び負の差分値を求め、この正の差分値及び負の差分値を用いた初期段入力値を求めるものである。
【0018】
ここで、時刻tにおける時刻t-1との正の差分positive_xk(t)、負の差分negative_xk(t)を以下の式(2)、(3)によって求める。
【数2】
【0019】
次に、時刻tにおける時刻t-1とのpositive_xk(t)と負の差分negative_xk(t)を合せた初期段入力値fin_xi(t)を以下の式(4)によって作成する。
【数3】

i=1 正の差分浴室温度
i=2 正の差分浴室湿度
i=3 正の差分脱衣室温度
i=4 正の差分脱衣室湿度
i=5 負の差分浴室温度
i=6 負の差分浴室湿度
i=7 負の差分脱衣室温度
i=8 負の差分脱衣室湿度
【0020】
初期段重み値算出手段13は、ファジィ推論に基づき上記初期段入力値fin_xi(t)に対する初期段重み値を求めるものである。本実施形態では、初期段入力値fin_xi(t)に対する重みαi(t)をファジィ推論により求める。ファジィルール集合には、環境条件と入力感度を記述する。本実施形態では、ファジィルール集合を以下の通りとする。
ファジィルール集合1(基本)
【数4】
【0021】
ここで、Low、Medium、Highのファジィメンバシップ関数を、μL、μM、μHとすると、ファジィメンバシップ関数μL、μM、μHは、それぞれ図4図5図6のようになる。
【0022】
一般的に、上記初期段重み値算出手段13は、上記センサが検出する物理量を複数の段階の大きさに区分したときの当該段階数に対応する数のファジィメンバシップ関数を用いて初期段重み値を求める。本実施形態では、物理量を3段階の大きさに区分したときの当該段階数3に対応する数である3つのファジィメンバシップ関数を用いて、初期段入力値fin_xi(t)に対する重みαi(t)を次の式(5)により求める。
【数5】
ただし、i≧5のとき、k=i-4
【0023】
よって、初期段入力値fin_xi(t)に対する初期段重み値αi(t)を反映した、補正された補正入力値ext_hi(t)は以下の式(6)に示すようになる。
【数6】
【0024】
図2に示したスパイキングニューラルネットワーク20は、上記補正入力データに基づき興奮性シナプス後電位を求める入力層と、前記入力層の出力に対し、対出力層重み値を用いた積和演算を行って出力を得る出力層と、を有する。本実施形態で用いるスパイキングニューラルネットワーク20は、図7に示すように構成される。ここでは、上記で説明したi=8に対応して入力層のニューロン21-1~21-8と、2つの出力層のニューロン22-1、22-2とを備えている。
【0025】
入力層のニューロン21-1~21-8が求める興奮性シナプス後電位EPSP_hi(t)は、次の式(7)により表すことができる。
【数7】
上記でγEPSPは、減衰率(0<γEPSP<1)であり、例えばγEPSP=0.99とすることができる。
【0026】
上記興奮性シナプス後電位EPSP_hi(t)を求めるために、上記入力層のニューロンは、図8に示すように、他のニューロンからの入力により発生した電位の総和を求める電位総和算出手段23と、ニューロンの不応期を求める不応期取得手段24と、ニューロンの内部膜電位を求める内部膜電位算出手段25と、ニューロンにおけるパルス出力(発火)値を求めるパルス出力(発火)値算出手段26と、を具備する。
【0027】
パルス出力(発火)値算出手段26が求めるニューロンにおけるパルス出力(発火)値については、i番目のニューロンにおけるパルス出力(発火)値をPi(t)とし、次の式(8)により求めることができる。
【数8】
上記式(8)におけるqは、閾値(0<q<1)であり、例えばq=0.5とすることができる。
【0028】
上記式(8)におけるhi(t)は、内部膜電位算出手段25が求めるニューロンの内部膜電位であり、次の式(9)により求めることができる。
【数9】
【0029】
上記式(9)におけるsyn_hi(t)は、電位総和算出手段23が求める他のニューロンからの入力により発生した電位の総和であり、以下の式(10)によって求めることができる。
【数10】

上記のγsynは、減衰率(0<γsyn<1)であり、例えばγsyn=0.9とすることができる。
また、kは1つ前の層のニューロンの番号、Nは1つ前の層のニューロンの総数である。
ただし、入力層の1つ前の層は存在しないため、
【数11】
となる。
式(9)の入力値ext_hi(t)は、前処理手段10が求めた値である。
【0030】
式(9)のref_hi(t)は、不応期取得手段24が求めるニューロンの不応期の値であり、以下の式(12)によって求めることができる。
【数12】

上記のγrefは、減衰率(0<γref<1)であり、例えばγref=0.7とすることができる。また、Rは正の値をとる発火抑制項と呼ばれる乗数であり、例えばR=1とすることができる。ただし、以下のように、hi(t)、Pi(t)、ref_hi(t)、EPSP_hi(t)については、初期値(t=1、t>0)を0とし、とし、t=2から計算するものとする。
【0031】
出力層のニューロン22-1、22-2は前述の通り、対出力層重み値を用いた積和演算を行って出力値を得るものである。本実施形態では、時刻tにおいて、j(j=1,2)番目の出力層のニューロン22-1、22-2から得られるニューロン出力値out_hj(t)は、以下に示す式(13)により求めることができる。
【数13】
上記のEPSP_wi,jは、入力層のニューロンからの出力に対する重み値(対出力層重み値)であり、教師データによる学習などにより決定することができる。例えば、次の表1の値をとることができる。

【表1】

j=1は入浴開始の推定値、j=2は入浴終了の推定値となる。
【0032】
図2に示す推定手段30は、上記スパイキングニューラルネットワーク20の出力に基づき人の状態を推定するものである。具体的には、時刻tにおける、出力層のj番目(j=1,2)のニューロンの出力値out_hjから、入浴中または未入浴の推定値y(t)(0:未入浴,1:入浴中)を以下に示す式(14)によって求めることができる。
【数14】
θは閾値(0<θ<1)であり、例えば、θ=0.5とすることができる。
【0033】
以上のように構成された第1の実施形態に係る人状態推定装置は、図11に示されるフローチャートによって概略の動作が行われる。まず、センサから得られる物理量データを、ファジィ推論による感度調整によって補正済の入力値(入力データ)の作成を行う(S11)。
【0034】
次に、スパイキングニューラルネットワークにより、入浴開始(一般的には、行動の開始または状態の変動開始)の推定値と入浴終了(一般的には、行動の終了または状態の変動終了)の推定値を求める(S12)。そして、上記求められた推定値を用いて人の状態を推定する(S13)。
【0035】
図12には、図11のステップS11の処理動作を詳細に示したフローチャートが示されている。このフローチャートに基づき、動作説明を行う。まず、時刻tにセンサ(温湿度センサ101と温湿度センサ102)から物理量データを取り込み(S21)、規格化を行って規格値を得る(S22)。規格値は、既に式(1)で示した通りである。
【0036】
次に、規格化した値に基づき、時刻tと時刻(t-1)との正の差分値及び負の差分値を求め、この正の差分値及び負の差分値を用いた初期段入力値を求める(S23)。初期段入力値については、式(4)に示した通りである。更に上記初期段入力値に対する初期段重み値をファジィ推論により求める(S24)。本実施形態では、物理量を3段階の大きさに区分したときの当該段階数3に対応する数である3つのファジィメンバシップ関数を用いて、初期段入力値に対する初期段重み値αi(t)を前述の式(5)により求めるものである。
【0037】
更に、初期段入力値に対して初期段重み値を反映させて、補正された補正入力値を求める(S25)。この補正入力値は、ext_hi(t)であり、既述の式(6)に示すようにして求めることができる。
【0038】
図13には、図11のステップS12の処理動作を詳細に示したフローチャートが示されている。即ち、図13に示されるフローチャートはニューラルネットワークによる入浴開始、入浴終了の推定値の計算を詳述したものである。ここでは、まず、他のニューロンからの入力により、発生した電位の総和を求める(S31)。発生した電位の総和は、syn_hi(t)であり、既述の式(10)によって求められるものである。
【0039】
次に、ニューロンの不応期の値が求められる(S32)。ニューロンの不応期の値は、ref_hi(t)であり、既述の式(12)によって求められるものである。次に、ニューロンの内部膜電位が求められる(S33)。ニューロンの内部膜電位は、hi(t)であり、既述の式(9)によって求められるものである。次に、ニューロンにおけるパルス出力(発火)値が求められる(S34)。ニューロンにおけるパルス出力(発火)値は、Pi(t)であり、既述の式(8)によって求められるものである。
【0040】
以上のようにして、発生した電位の総和syn_hi(t)、ニューロンの不応期の値ref_hi(t)、ニューロンの内部膜電位hi(t)、パルス出力(発火)値Pi(t)が求まると、興奮性シナプス後電位EPSP_hi(t)が求められる(S35)。発生した電位の総和syn_hi(t)、ニューロンの不応期の値ref_hi(t)、ニューロンの内部膜電位hi(t)、パルス出力(発火)値Pi(t)は、ステップS35を開始するまでに求まっていれば良く、図に示されたステップS31~S34順に処理が行われなくとも良い。
【0041】
ステップS35の処理により興奮性シナプス後電位EPSP_hi(t)が求められると、出力層のニューロンが、対出力層重み値を用いた積和演算を行って出力値を得る(S36)。この出力値は、ニューロン出力値out_hj(t)であり、既述の式(13)により求めることができる。
【0042】
このステップS36が処理されると、図11のステップS13における人の状態を推定する処理では、既述の式(14)によって推定値y(t)(0:未入浴,1:入浴中)が求められる。
【0043】
上記式(14)において、out_h1(t)を入浴開始(一般的には、行動の開始または状態の変動開始)の推定値と称し、out_h2(t)を入浴終了(一般的には、行動の終了または状態の変動終了)の推定値と称す。例えば、図9(A)に示すように、入浴開始の推定値out_h1(t)が変化し、また、図9(B)に示すように入浴終了の推定値out_h2(t)が変化したとする。このとき、out_h1(t)≧out_h2(t)という第1条件が成り立っているのは、時刻t1から時刻t4迄である。また、out_h1(t)>θという第2条件が成り立っているのは、時刻t2から時刻t4迄である。従って、第1条件と第2条件とが成り立っているのは、図9(C)に示すように、時刻t2から時刻t4迄であり、この時間帯においてy(t)=1が成り立ち、入浴中である、と推定することができる。このように推定手段30は、入浴開始を時刻t2と推定し、入浴終了を時刻t4と推定することができる。このようにして得られた推定結果は、人状態推定装置200の主処理部202から送信部203へ送られ、端末104へ送信される。端末104では、到来した推定結果を所定形式の表示データへ変換してディスプレイに表示し、推定結果を音声化して必要な警告などの出力を行うように構成されていても良い。
【0044】
次に、第2の実施形態に係る人状態推定装置及び人状態推定用プログラムの説明を行う。本実施形態においては、上記推定手段30が、上記スパイキングニューラルネットワーク20の出力が所定の時系列変化をするか否か求め、所定の時系列変化の場合に通常の推定ルールと異なるルールで判定を行う補正手段を内包する。この補正手段を内包する以外の構成は、第1の実施形態と同じ構成を有する。
【0045】
本実施形態の人状態推定装置は、「入浴中」という推定結果について、入浴終了の推定値out_h2(t)に基づき入浴終了タイミングの修正を行う。即ち、推定結果が入浴中の範囲において入浴終了の推定値out_h2(t)が入浴開始時の入浴終了の推定値out_h2(t)より大きくなった最初の時刻を入浴終了時とし、以降、未入浴とする。図9の例では、通常の推定では、時刻t2から時刻t4迄を入浴中である、と推定する(図9(C))。本実施形態における第1の補正手段による補正では、入浴開始時は上記と同じく時刻t2であるが、時刻t3が入浴終了時と推定される(図9(D))。この処理により、実際よりも長く入浴中と推定した結果を、実際の入浴時間に近い値に修正することが可能である。
【0046】
また、本実施形態における第2の補正手段による補正では、推定結果が入浴中の入浴終了の推定値がない場合に、入力開始タイミング及び入浴終了タイミングの修正を行う。この例は、図10(A)のように入浴開始の推定値out_h1(t)が求まるものの、図10(B)のように、入浴終了の推定値out_h2(t)が現れないか、または0に近い場合における補正である。本実施形態における第1の実施形態における推定手段30による処理では、入浴開始時は時刻t2であり、入浴終了時が時刻t3であるから図10(C)に示すようになる。
【0047】
上記の第1の実施形態の処理に対し、本第2の実施形態では、図10(B)のように、入浴終了の推定値out_h2(t)が現れないか、または0に近い場合には、入浴開始の推定値out_h1(t)の値の如何に拘わらず、全て未入浴とする(図10(D))。この処理により、お湯張り、浴室暖房、浴室乾燥などを入浴中とする誤った推定結果を修正することができる。
【0048】
以上説明した第1の実施形態と第2の実施形態によれば、家ごとの環境の差があっても精度の良い推定結果を得ることができる。また、入浴タイミングが分かることから、そのときの浴室の温度、湿度と合わせて監視を実行すること、ヒートショックリスク、熱中症などのリスクを心得た身体管理が可能となり、その予防のための生活行動を実行したり、浴室設備の改善を促したりすることができる。更に、浴室、脱衣所の温湿度センサのみで測定するため、設置・監視に対する抵抗感が低くなることが見込める。
【0049】
なお、本実施形態では、入浴中の推定を行ったが、温度センサや埃センサを用いて人が一定程度の運動状態にあるかなど様々な状態推定に用いる可能性を有している。その場合に、物理量データをファジィ推論による感度調整によって補正して用いることから、場所や環境の相違を適切に吸収して、精度の良い推定が期待できる。
【0050】
上記2つの実施形態において、スパイキングニューラルネットワークにおいて、行動の開始または状態の変動開始の推定値と行動の終了または状態の変動終了の推定値との双方を得るようにしたが、これらの推定値の少なくとも一方を出力として得るようにしても良く。システムの目的によって、適切な推定を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0051】
10 前処理手段
11 規格化手段
12 初期段入力値算出手段
13 初期段重み値算出手段
20 スパイキングニューラルネットワーク
21-1~21-8 入力層のニューロン
22-1、22-2 出力層のニューロン
23 電位総和算出手段
24 不応期取得手段
25 内部膜電位算出手段
26 パルス出力(発火)値算出手段
30 推定手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13