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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-24
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】アルミニウム回路基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 24/04 20060101AFI20220111BHJP
   B32B 18/00 20060101ALI20220111BHJP
   B32B 15/04 20060101ALI20220111BHJP
   B32B 15/01 20060101ALI20220111BHJP
   B32B 37/15 20060101ALI20220111BHJP
   H05K 3/14 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
C23C24/04
B32B18/00 B
B32B15/04 B
B32B15/01 G
B32B37/15
H05K3/14 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019501418
(86)(22)【出願日】2018-02-22
(86)【国際出願番号】 JP2018006488
(87)【国際公開番号】W WO2018155564
(87)【国際公開日】2018-08-30
【審査請求日】2020-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2017033784
(32)【優先日】2017-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(74)【代理人】
【識別番号】100140578
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】黒田 聖治
(72)【発明者】
【氏名】荒木 弘
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 明
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 誠
(72)【発明者】
【氏名】酒井 篤士
(72)【発明者】
【氏名】谷口 佳孝
(72)【発明者】
【氏名】山田 鈴弥
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-089883(JP,A)
【文献】特開2009-206443(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/00- 6/00
C23C24/00-30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム粒子及び/又はアルミニウム合金粒子を含む加熱された金属粉体を、セラミックス基材に吹き付けることにより、前記セラミックス基材の表面上に金属層を形成する工程を含み、
前記金属粉体のうち少なくとも一部の温度が、前記セラミックス基材の表面に到達した時点で前記金属粉体の軟化温度以上、前記金属粉体の融点以下であり、前記軟化温度が、絶対温度での融点×0.6の値として定義される温度であり、
前記金属粉体のうち少なくとも一部の速度が、前記セラミックス基材の表面に到達した時点で450m/s以上1000m/s以下である、
アルミニウム回路基板の製造方法。
【請求項2】
前記金属粉体のうち少なくとも一部の速度が、前記セラミックス基材の表面に到達した時点で750m/s以上900m/s以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記金属粉体の粒子径分布において、累積質量百分率10%の粒子径D10が10μm以上で、累積質量百分率90%の粒子径D90が50μm以下である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記金属粉体の粒子径分布において、累積質量百分率10%の粒子径D10が20μm以上で、累積質量百分率90%の粒子径D90が45μm以下である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
アルミニウム粒子及び/又はアルミニウム合金粒子を含む加熱された金属粉体を、セラミックス基材に吹き付けることにより、前記セラミックス基材の表面上に金属層を形成する工程を含み、
前記金属粉体がウォームスプレー法によって加熱及び加速されて前記セラミックス基材に吹き付けられる場合には、前記金属粉体の粒子径分布において、累積質量百分率10%の粒子径D10が10μm以上で、累積質量百分率90%の粒子径D90が50μm以下であり、
前記セラミックス基材に吹き付けられる前記金属粉体のうち、前記セラミックス基材の表面に到達した時点の温度が前記金属粉体の軟化温度未満であるものの割合が10質量%以下で、前記セラミックス基材の表面に到達した時点の温度が前記金属粉体の融点を超えているものの割合が10質量%以下で、残部の前記金属粉体が前記セラミックス基材の表面に到達した時点の温度が前記金属粉体の軟化温度以上、前記金属粉体の融点以下であり、前記軟化温度が、絶対温度での融点×0.6の値として定義される温度であり、
前記金属粉体のうち少なくとも一部の速度が、前記セラミックス基材の表面に到達した時点で450m/s以上1000m/s以下である、
アルミニウム回路基板の製造方法。
【請求項6】
前記アルミニウム合金粒子が、アルミニウムと、前記アルミニウム合金粒子の質量を基準として7.5質量%以下のマグネシウムと、残部の不可避的不純物とからなる粒子である、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記金属粉体がアルミニウム合金粒子を含み、
当該製造方法が、前記セラミックス基材の表面上に形成された前記金属層である第一金属層の表面にアルミニウム粒子を含む加熱された第二金属粉体を吹き付けることにより、前記第一金属層の表面上に第二金属層を形成する工程を更に含む、
請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記第一金属層の厚みが150μm以下である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
記金属層の電気抵抗率が5×10-8Ωm以下である、請求項1~8のいずれか一項の記載の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム回路基板の製造方法に関する。さらに本発明は、このアルミニウム回路基板の製造方法を用いたアルミニウム回路基板および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュール等に利用される半導体装置のために、アルミナ等のセラミックス基材と、その表裏面上に形成された回路層とを有するアルミニウム回路基板が実用化されている。
【0003】
近年、機器類の小型化、高性能化に伴って、半導体装置の発熱量が増加する傾向がある。そのため、セラミック回路基板用のセラミックス基材には、電気絶縁性が高いことに加え、より高い熱伝導性が要求されてきている。
【0004】
そこで、高熱伝導性の窒化アルミニウムなどのセラミックス基材の適用が検討されている。しかし、高熱伝導性のセラミックス基材上に銅回路を設けた場合、半導体素子の動作に伴う繰り返しの熱サイクル、又は動作環境の温度変化の影響により、セラミックス基材と銅回路との接合部付近にクラックが発生し易いという問題点があった。
【0005】
この問題を回避するため、銅よりも降伏耐力の小さいアルミニウムを回路材料として用いることが検討されている。セラミックス基材上にアルミニウム回路を形成する方法として、例えば以下の方法が提案されている。
(1)溶融アルミニウムをセラミックス基材に接触させ、冷却して両者の接合体を形成することと、形成されたアルミニウム層を機械研削してその厚みを整えることと、アルミニウム層をエッチングすることを含む溶湯法(例えば、特許文献1参照)
(2)アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔をセラミックス基材にろう付けしてからエッチングする、ろう付け法(例えば、特許文献2参照)
(3)セラミックス基材上にアルミニウム系ろう材を設け、その上にいわゆるコールドスプレー法によってアルミニウム回路層を形成する方法(例えば、特許文献3参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平7-193358号公報
【文献】特開2001-085808号公報
【文献】国際公開第2013/047330号
【文献】特許第5098109号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Integrated characterization of cold sprayed aluminum coatings, W.B. Choi, L. Li, V. Luzin, R. Neiser, T. Gnaupel-Herold, H.J. Prask, S. Sampath, A. Gouldstone, Acta Materoalia, Volume 55, Issue 3, February 2007, Page 857-866
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、溶湯法は設備費及び設備の維持管理にコストがかかるという課題があった。
ろう付け法は、セラミックス基板材料とアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔の積層体に一部始終圧力を加えながら高温で接合することを必要とする。加圧は、黒鉛治具に積層体を収納し、両端面からねじ込むなどの機械的手段によって行われている。このような方法では生産性が十分に高まらないという課題があった。
さらに、溶湯法、ろう付法共に回路形成のためにエッチングの工程が必要とされるため、製造工程が長くなるという課題があった。
【0009】
コールドスプレー法によって、セラミックス基板上にアルミニウム膜を形成することが検討されている。この方法によれば緻密なアルミニウム膜が得られるとされている。コールドスプレー法では、固体状態の金属粉末が同種の基材に衝突する際に、衝突速度がある値を越えると、粉末と基材の界面で生じる高速塑性変形によって発生する熱が熱伝導によって周囲に散逸するよりも速く、変形が進むために、界面付近で温度が急上昇して溶融状態に達する。その結果として界面から薄い液膜が排出されて新生面が露出し、それによって接合が生じると理論的に説明されている。しかし、不活性ガスを電気ヒータで加熱しているため、消費電力が大きい、粉末を高度に加速するにはヘリウムのように高価なガスを必要とする等の課題があった。
【0010】
粉末を溶融させて基材に吹き付ける通常の溶射法でもアルミニウム成膜は可能である。しかし、アルミニウムは融点を超える高温では酸素、窒素との反応性が高いため、通常の溶射装置では大気中で溶射すると酸化物及び窒化物が多く含まれた緻密度の低い膜が形成されるという課題もあった。さらに、金属層の新しい形成方法の一つとしてウォームスプレー法も検討されている。このウォームスプレー法は、金属粉体の軟化温度域に加熱した搬送ガスと共に金属粉体を高速度で基材に吹き付けて成膜する技術である(例えば、特許文献4参照)。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、アルミニウム及び/又はアルミニウム合金を含み、高い密着性でセラミックス基材上に形成された金属層を有するアルミニウム回路基板を、簡易に製造できる方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一側面は、アルミニウム粒子及び/又はアルミニウム合金粒子を含む加熱された金属粉体を、セラミックス基材に吹き付けることにより、セラミックス基材の表面上に金属層を形成する工程を含む、アルミニウム回路基板の製造方法を提供する。金属粉体のうち少なくとも一部の温度が、セラミックス基材の表面に到達した時点で金属粉体の軟化温度以上、金属粉体の融点以下である。軟化温度は、絶対温度での融点×0.6の値として定義される温度である。金属粉体のうち少なくとも一部の速度が、セラミックス基材の表面に到達した時点で450m/s以上1000m/s以下である。
【0013】
この方法によれば、アルミニウム及び/又はアルミニウム合金を含み、密着性の高い金属層を、セラミックス基材の表面上に簡易に形成することができる。金属粉体の速度が450m/s未満では、セラミックス基材の表面に吹き付けられた金属層が剥がれ易かったり、密着性が不足し易い傾向がある。金属粉体の速度が1000m/sを超えると、セラミックス基材の表面に既に付着した金属層がエロージョンによって吹き飛ばされて脱落し易い傾向がある。同様の観点から、セラミックス基材の表面に到達した時点の金属粉体の速度は、750m/s以上900m/s以下であってもよい。金属粉体の温度が軟化温度未満では、金属粉体の変形が抑えられセラミックス基材に対する金属粉体の密着性及び金属層の緻密度が低くなる傾向がある。金属粉体の温度が融点を超えると、金属粉体が酸化し易くなる傾向があると共に、特に金属粉体の速度が高いときにセラミックス基材に衝突した金属粉体が飛散するため、金属層が形成され難い傾向がある。
【0014】
金属粉体の粒子径分布において、累積質量百分率10%の粒子径D10が10μm以上で、累積質量百分率90%の粒子径D90が50μm以下であってもよい。後述するようにウォームスプレー法では粒子径10μm未満の金属粒子は、完全に溶融した状態でセラミックス基材の表面に衝突し易い傾向がある。粒子径50μmを超える金属粒子の温度は、セラミックス基材の表面に到達した時点で軟化温度未満になり易い傾向がある。したがって、金属粉体を構成する金属粒子のうち、10~50μmの範囲内の粒子径を有する部分の割合が多いと、金属粉体の飛散及び酸化が抑制されるとともに、密着性の高い緻密な金属層が特に形成され易い傾向がある。同様の観点から、金属粉体のD10が20μm以上であってもよく、金属粉体のD90が45μm以下であってもよい。
【0015】
アルミニウム粒子及びアルミニウム合金粒子は、それぞれ、アルミニウム及びアルミニウム合金を主成分として含む金属粒子である。本明細書において、主成分とは全体の90質量%以上の割合で含まれる成分を意味する。主成分の割合は95質量%以上であってもよい。アルミニウム合金粒子は、主成分としてのアルミニウムと、マグネシウムと、残部の不可避的不純物とからなる粒子であってもよい。マグネシウムの含有量は、アルミニウム合金粒子の質量を基準として7.5質量%以下であってもよい。
【0016】
セラミックス基材に吹き付けられる金属粉体のうち大部分(例えば、全量のうち80質量%以上)の温度が、セラミックス基材の表面に到達した時点で金属粉体の軟化温度以上、金属粉体の融点以下となるように、金属粉体が加熱されてもよい。例えば、金属粉体のうち、セラミックス基材の表面に到達した時点の温度が金属粉体の軟化温度未満であるものの割合が10質量%以下で、セラミックス基材の表面に到達した時点の温度が金属粉体の融点を超えているものの割合が10質量%以下で、残部の金属粉体がセラミックス基材の表面に到達した時点の温度が金属粉体の軟化温度以上、金属粉体の融点以下であってもよい。
【0017】
金属粉体がアルミニウム合金粒子を含み、当該製造方法が、セラミックス基材の表面上に形成された金属層である第一金属層の表面にアルミニウム粒子を含む加熱された第二金属粉体を吹き付けることにより、第一金属層の表面上に第二金属層を形成する工程を更に含んでいてもよい。第一金属層の厚みは150μm以下であってもよい。アルミニウム合金(特にアルミニウム-マグネシウム合金)は、アルミニウムと比較してセラミックス基材と高い密着性を有するため、セラミックス基材の表面上に直接設けられる第一金属層がアルミニウム合金を主成分として含み、この第一金属層上にアルミニウムを主成分とする第二金属層を形成してもよい。
【0018】
本発明の別の側面は、セラミックス基材と、セラミックス基材の表面上に、アルミニウム粒子及び/又はアルミニウム合金粒子を含む金属粉体をウォームスプレー法によって成膜することで形成された金属層と、を備えるアルミニウム回路基板を提供する。このアルミニウム回路基板において、金属層の電気抵抗率は5×10-8Ωm以下である。金属層の電気抵抗率は4×10-8Ωm以下であってもよい。金属層の電気抵抗率の下限は、特に制限されないが、通常、2.65×10-8Ωm以上である。
【0019】
本発明の更に別の側面は、上記のアルミニウム回路基板を具備する電子機器を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明のアルミニウム回路基板の製造方法は、溶融アルミニウム又はろう材を用いずにアルミニウムとセラミックスを接合し、マスクを使用することでエッチングを行うことなく、アルミニウム回路基板を製造できるという利点を有する。しかも、本発明の製造方法によれば、コールドスプレー法と比較して、より高い密着性、及びより小さい電気抵抗を有する金属層を、優れた量産性で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】アルミニウム回路基板の一実施形態を示す断面図である。
図2】アルミニウム回路基板の一実施形態を示す断面図である。
図3】アルミニウム回路基板を製造する方法の一実施形態を示す模式図である。
図4】窒化アルミニウム基材に吹き付けられ、窒化アルミニウム基材の表面に付着したアルミニウム粒子の顕微鏡写真である。
図5】金属層の脱落率と超音波照射時間との関係を示すグラフである。
図6】ウォームスプレー装置によって成膜されるアルミニウム粒子の速度及び温度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明のいくつかの実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0023】
本明細書で用いる技術用語について、定義する。
本明細書で用いる「粉体」は、粒子径の異なる多数の粒子から構成された、流動性を有する集合体を意味する。「粉体の粒子径分布」の測定には、レーザ回折・散乱法が広く用いられており、測定法やその結果の記述法は、JIS Z 8825「粒子径解析―レーザ回折・散乱法」による。
粉体の粒子径分布において、累積質量百分率10%の粒子径D10は、粉体全量のうち、D10以下の粒子径を有する粒子の割合が10質量%となる粒子径を意味する。同様に、累積質量百分率90%の粒子径D90は、粉体全量のうち、D90以下の粒子径を有する粒子の割合が90質量%となる粒子径を意味する。同様に定義されるD50は特に、中位径(メジアン径)と称されることがある。
【0024】
図1は、アルミニウム回路基板の一実施形態を示す断面図である。図1に示すアルミニウム回路基板50は、セラミックス基材1と、その両面にそれぞれ接しながら設けられた金属層3a,3bとを有する。金属層3a,3bは、加熱された金属粉体を吹き付けることによって形成された層であり、半導体素子と接続される回路パターンを有していることが多い。金属層3a,3bを形成する方法の詳細は後述される。
【0025】
図2も、アルミニウム回路基板の一実施形態を示す断面図である。図2に示すアルミニウム回路基板100は、アルミニウム回路基板50と同様の構成に加えて、金属層3a,3bを第一金属層として、それぞれのセラミックス基材1とは反対側の表面上に設けられた、第二金属層5a,5bを更に有している。第二金属層5a,5bは回路層を構成することができる。
【0026】
金属層3a,3bの厚みは、特に制限されないが、例えば200~600μmであってもよい。第一金属層としての金属層3a,3b及び第二金属層5a,5bの合計の厚みも同様に、例えば200~600μmであってもよい。第一金属層としての金属層3a,3bの厚みが150μm以下であってもよい。
【0027】
セラミックス基材1は、適切な絶縁性を有するものから選択することができる。セラミックス基材1は、高い熱伝導性を有していてもよく、その例としては、窒化アルミニウム(AlN)基材、窒化ケイ素(Si)基材、酸化アルミニウム(Al)が挙げられる。セラミックス基材1の厚みは、特に制限されないが、例えば0.2~1.0mmであってもよい。
【0028】
図3は、図1又は図2に例示されるアルミニウム回路基板を製造する方法の一実施形態を示す模式図である。図3に示す方法では、ウォームスプレー装置10によって、複数の金属粒子Pから構成される金属粉体が、加熱されるとともに所定の速度まで加速されて、セラミックス基材1の表面に吹き付けられる。金属粒子Pは、アルミニウム粒子、アルミニウム合金粒子、又はこれらの組み合わせであってもよい。アルミニウム合金粒子は、アルミニウムと、アルミニウム合金粒子の質量を基準として7.5質量%以下のマグネシウムと、残部の不可避的不純物とからなる粒子であってもよい。
【0029】
ウォームスプレー装置10は、筒状体20、燃料注入口21、酸素注入口22、着火プラグ23、冷却水入口24、冷却水出口25、不活性ガス注入口26、および粉末供給口27を有する。筒状体20は、燃焼室11、混合室12、出口ノズル13、及びバレル部14を含む。バレル部14の末端に噴射口15が設けられている。燃焼室11では、灯油等の液体燃料がガス化したもの、またはプロパンガス、液化石油ガス等の燃料ガスFGと、酸素ガスOが混合されて、着火プラグ23にて混合ガスが着火され、混合ガスが燃焼して温度と圧力が上昇する。混合室12では、燃焼ガス温度を調節するために、不活性ガスIGが燃焼室11から流出する燃焼ガスに供給・混合される。出口ノズル13では、高温・高圧の混合ガスが末広ノズルを通ることによって膨張し、高速度の噴流ジェットとなってバレル部14に噴出する。バレル部14は、出口ノズル13から連続する形状を有する直円筒形のバレルである。出口ノズル13とバレル部14との間に設けられた粉末供給口27から、バレル部14の入口に複数の金属粒子P(すなわち金属粉体)が供給される。ウォームスプレー装置は、全体として冷却水Wにより冷却されるように構成される。
【0030】
図3のウォームスプレー装置10においては、噴射口15から金属粒子Pが燃焼ガス及び不活性ガスIGの混合ガスと共に高速でセラミックス基材1に向けて吹き付けられることにより、金属粒子Pがセラミックス基材1上に堆積して、金属層3aが形成される。
【0031】
セラミックス基材1に吹き付けられる金属粉体のうち少なくとも一部の温度が、セラミックス基材1の表面に到達した時点で金属粉体の軟化温度以上、金属粉体の融点以下であってもよい。ここで軟化温度は、絶対温度での融点×0.6の値として定義される温度である。セラミックス基材1に吹き付けられる金属粉体のうち少なくとも一部の速度が、セラミックス基材1の表面に到達した時点で450m/s以上1000m/s以下であってもよい。例えば、金属粉体のうち、セラミックス基材1の表面に到達した時点の温度が金属粉体の軟化温度未満であるものの割合が10質量%以下で、セラミックス基材1の表面に到達した時点の温度が金属粉体の融点を超えているものの割合が10質量%以下で、残部の金属粉体がセラミックス基材の表面に到達した時点の温度が金属粉体の軟化温度以上、金属粉体の融点以下であってもよい。
【0032】
金属粒子P(又は金属粉体)がセラミックス基材1の表面に到達した時点の温度及び速度は、金属粉体の粒度分布、不活性ガスの流量、噴射口15とセラミックス基材1の表面との距離等を適宜変更することで、調製が可能である。噴射口15とセラミックス基材1の表面との距離は、通常、100~400mmの範囲で設定される。
【0033】
第一金属層の表面上に第二金属層を形成する場合、第二金属層を形成する方法は、上記の方法に限定されず、第一金属層と同じであっても、異なっていてもよい。例えば、アルミニウム粒子を主成分として含む第二金属粉体を、条件を適切に設定したウォームスプレー法によって成膜することで、第二金属層を形成することができる。
【0034】
図4は、窒化アルミニウム基材の表面に付着したアルミニウム粒子の顕微鏡写真である。これらの試料は、アルミニウム粒子の供給量を微小にしながら、ウォームスプレー装置を用いて高速度で窒化アルミニウム基材上をスキャンすることで、少量のアルミニウム粒子を窒化アルミニウム基材の表面に吹き付ける方法により、準備された。ウォームスプレー装置の窒素流量を1000SLM、1500SLM、及び2000SLMの三段階で変化させながら、それぞれの窒素流量において、窒化アルミニウム基材の予熱温度を300K(予熱なし,RT)、473K、673Kの三段階に変化させた。図4に示されるように、窒素流量1000SLMでは多くの粒子が飛散して微細粒子化しており、これは基材表面に到達した時点で溶融していたアルミニウム粒子の割合が大きいためと考えられる。窒素流量1500SLMでは、中心が未溶融で周りが溶けていたような半溶融粒子が多くみられる。窒素流量2000SLMでは、溶融割合が減るとともに、大きな粒子が衝突して脱落した痕跡がみられる。ここでSLMは、standard liter/minの略で、1atm、0℃における1分間当たりのガス流量(リットル)を示す単位である。
【0035】
同様の方法で得られた試料を水中に浸漬し、超音波ホーンによってキャビテーションを発生させたときのアルミニウム粒子の脱落量を比較することによって、粒子の密着性を評価した。図5は横軸に超音波照射時間、縦軸に窒化ケイ素基板上の粒子の脱落率をとって三種類の窒素流量、三段階の予熱温度についてプロットしたグラフである。大きな傾向として、窒素流量2000SLMでは粒子が1分間の照射で8割以上脱落した。窒素流量を下げるにしたがって脱落率は小さく、すなわち粒子の密着性は向上することが分かる。基材の予熱の影響はそれほど顕著ではないが、基材の予熱が無い場合は密着性がやや弱い傾向があるため、200℃程度以上の予熱が適切と考えられる。したがって、金属粉体が吹き付けられるセラミックス基材の予熱温度は、例えば200~600℃であってもよい。
【0036】
図6は、ウォームスプレー装置10によって成膜されるアルミニウム粒子の速度及び温度の関係を示すグラフである。図6のグラフは、粒子径10μm、30μm又は50μmのアルミニウム粒子の速度及び温度の対応関係を、三本の線図として示す。図6のグラフでは、ウォームスプレー装置10における不活性ガスIG(窒素ガス)の流量が500SLM、1000SLM、1500SLM又は2000SLMである場合について、セラミックス基材の表面に到達した時点のアルミニウム粒子の速度と温度との対応関係がプロットされている。ここでは、ウォームスプレー装置10の噴射口15と基材表面との間の距離が200mmであるとして、セラミックス基材の表面に到達した時点のアルミニウム粒子の速度及び温度を数値シミュレーションによって算出した。図6には、アルミニウム粒子の融点(660℃、933K)と、軟化温度(287℃、560K)の位置も示されている。
【0037】
図6に示されるように、粒子径10μm以下のアルミニウム粒子は、融点を超える温度となるため、完全に溶融する。したがって、飛散及び酸化抑制等の観点から、粒子径10μm以下の粒子の割合は小さいことが望ましい。また、粒子径50μmの粒子は、上述のように、窒素流量2000SLMのときに密着性が低下する。これらを勘案すると、図6中の領域Xの範囲、すなわち、粒子の温度が450℃(723K)以上、融点(660℃、933K)以下、粒子の速度が750m/s以上900m/s以下の範囲が、特に適切であるといえる。アルミニウム合金粒子の場合も、通常、実質的に同様の範囲の温度及び速度が適切である。
【0038】
図6からはまた、ウォームスプレー装置を用いる場合には、金属粉体の粒子径分布において、D10が10μm以上で、D90が50μm以下であることが好ましいといえる。さらに好ましくは、D10が20μm以上で、D90が45μm以下である。
【0039】
窒素流量1000SLM、又は1500SLMで上述のウォームスプレー法により形成した金属層(アルミニウム膜)の電気抵抗率を測定したところ、3.3~3.7×10-8Ωmの値が得られた。純アルミニウムの緻密な固体の電気抵抗値の報告値として2.65×10-8Ωmが知られている。また、コールドスプレー法で形成されたアルミニウム膜の抵抗率は、10×10-8Ωm以上であるとの報告もある(非特許文献1参照)。コールドスプレー法で形成されたアルミニウム膜と比較して、ウォームスプレー法によって形成されたアルミニウム膜の電気抵抗値は、明らかに低い。電気抵抗値が低いことは、より緻密なアルミニウム膜が形成されたことを示唆する。上述の実施形態に係る方法によって形成される金属層の電気抵抗率は、5×10-8Ωm以下であることができる。
【0040】
上記の実施形態では、金属層(回路層)が設けられる基板がセラミックス単体の場合を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。基板が、セラミックスと、銅、アルミニウム、銀などの金属複合基板、又はエンジニアリングプラスチック樹脂等の樹脂との組み合わせを含む樹脂複合基板であってもよい。この場合、通常、最表層に設けられたセラミックス基材の表面上に金属層が形成される。セラミックス基材と組み合わせられるエンジニアリングプラスチック樹脂は、例えば、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)、又はポリブチレンテレフタレート(PBT)であってもよい。
【0041】
以上説明したアルミニウム回路基板は、各種の電子機器を構成する部材として有用である。
【実施例
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0043】
全実施例及び全比較例において、セラミックス基材として窒化アルミニウム基材(サイズ:60mm×50mm×0.635mmt、三点曲げ強度:500MPa、熱伝導率:150W/mK、純度:95%以上)と窒化ケイ素基材(サイズ:60mm×50mm×0.635mmt、三点曲げ強度:700MPa、熱伝導率:70W/mK、純度:92%以上)を用いた。
【0044】
[成膜試験1]
図3に示すものと同様の構成を有するウォームスプレー装置を用いて、以下の成膜試験を行った。
窒化アルミニウム基材を、開口を有する鉄製のマスク材でマスキングした。開口内の窒化アルミニウム基材の表面上に、アルミニウム粉体(福田金属箔粉工業社製水アトマイズ粉、純度:99.7%、粒径:45μm以下、融点:933K)をウォームスプレー法によって成膜することで、所定のパターンを有する金属層(56mm×46mm×300μmt)を形成することを試みた。ウォームスプレー法のための不活性ガスとして窒素を用いた。同様に窒化アルミニウム基材の反対側の表面上にも金属層の形成を試みた。ウォームスプレーの条件は、表1に示す粒子温度及び粒子速度となるように設定した。ここでの粒子温度及び粒子速度は、アルミニウム粉体の大部分の、基材に到達した時点での温度である(成膜試験2も同様)。
【0045】
さらに、窒化アルミニウム基材に代えて窒化ケイ素基材を用いて、同様に成膜試験を行った。
【0046】
[成膜試験2]
アルミニウム粉体に代えて、アルミニウム-マグネシウム合金粉体(高純度化学研究所社製ガスアトマイズ粉、マグネシウム含有量:3.0質量%、アルミニウム及びマグネシウム以外の不純物量:0.1質量%以下、粒径:45μm以下、融点:913K)を用いたことの他は成膜試験1と同様にして、表1に示す条件のウォームスプレーによる第一金属層の成膜を試みた。
【0047】
表1に成膜試験の結果を示す。表中の成膜可否において、「可」は正常に(第一)金属層が形成されたことを示し、「否」は金属粒子が基材に付着せず、金属層を形成できなかったことを示す。
【0048】
第一金属層が形成できた試験例(15、16、20、23)の第一金属層の表面上に、アルミニウム粉体(福田金属箔粉工業社製水アトマイズ粉、純度:99.7%、粒径:45μm以下)をウォームスプレー法によって成膜することで、第一金属層上に第二金属層(56mm×46mm×200μmt)を更に形成した。ウォームスプレー法による成膜は、不活性ガスとして窒素を用い、粒子温度:500℃、粒子速度:800m/sの条件で行った。
【0049】
【表1】
【0050】
[ヒートサイクル試験]
試験体が得られた試験例(3、4、8、11、15、16、20、23)に関して、試験体をヒートサイクル試験に供した。ヒートサイクル試験では、「180℃で30分と、その後の-45℃で30分」を1サイクルとして、1000サイクルの試験を行った。ヒートサイクル試験後、金属層に剥離等の異常が発生しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明はアルミニウムを含む回路を有するアルミニウム回路基板の製造のために有用である。金属粉体の量、加熱温度等の条件を適切に管理することで、セラミックスとエンジニアリングプラスチック樹脂との樹脂複合基板、セラミックスと金属との金属複合基板を有する回路基板を製造することも可能である。本発明の方法は量産性と汎用性に優れている。
【符号の説明】
【0052】
1…セラミックス基材、3a,3b…(第一)金属層、5a,5b…第二金属層(回路層)、11…燃焼室、12…混合室、13…出口ノズル、14…バレル部、15…噴射口、20…筒状体、21…燃料注入口、22…酸素注入口、23…着火プラグ、24…冷却水入口、25…冷却水出口、26…不活性ガス注入口、27…粉末供給口、50,100…アルミニウム回路基板、FG…燃料ガス、IG…不活性ガス、P…金属粒子、W…冷却水。
図1
図2
図3
図4
図5
図6