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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-24
(45)【発行日】2022-02-14
(54)【発明の名称】整流素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/06 20060101AFI20220111BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20220111BHJP
   H01L 29/872 20060101ALI20220111BHJP
   H01L 21/329 20060101ALI20220111BHJP
   H01L 29/868 20060101ALI20220111BHJP
   H01L 29/861 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
H01L29/06 601N
B82Y40/00
H01L29/86 301D
H01L29/86 301P
H01L29/91 A
H01L29/91 F
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021046043
(22)【出願日】2021-03-19
【審査請求日】2021-05-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 開催日 令和3年2月9日 集会名、開催場所 令和02年度 電子情報システム工学分野 デバイス・回路・システム系研究室 修士論文発表会(国立大学法人信州大学工学部内、オンライン開催GoogleMeet〔meet.google.com/tig-pefo-uzc〕) [刊行物等] 発行日 令和3年2月9日 刊行物 令和2年度(2020年度)信州大学大学院総合理工学研究科修士学位論文 [刊行物等] ウェブサイトの掲載日 令和3年3月1日 ウェブサイトのアドレス(URL) https://gakkai-web.net/iee/program/2021/data/html/general/general2.html#SWEB12-A3 [刊行物等] 販売日 令和3年3月9日~令和3年3月11日 販売場所 令和3年電気学会全国大会(オンライン開催後にDVD-ROMとして販売) [刊行物等] ウェブサイトの掲載日 令和3年2月1日 ウェブサイトのアドレス(URL) http://www2.iee.or.jp/ver2/honbu/03-data/program2021am.pdf [刊行物等] 開催日 令和3年3月9日 集会名、開催場所 令和3年電気学会全国大会(オンライン開催、WEB12-A32-070)
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】597147980
【氏名又は名称】株式会社寿ホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100153969
【弁理士】
【氏名又は名称】松澤 寿昭
(74)【代理人】
【識別番号】100182914
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 善紀
(72)【発明者】
【氏名】金子 克美
(72)【発明者】
【氏名】ラドバン クコバット
(72)【発明者】
【氏名】西澤 貴史
(72)【発明者】
【氏名】曽根原 誠
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】田村 圭伍
(72)【発明者】
【氏名】浦上 法之
(72)【発明者】
【氏名】高城 壽雄
(72)【発明者】
【氏名】清水 恭
(72)【発明者】
【氏名】村田 克之
【審査官】上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-500933(JP,A)
【文献】特表2011-520249(JP,A)
【文献】特開2017-112319(JP,A)
【文献】再公表特許第2017/130836(JP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/06
H01L 21/329
H01L 29/872
H01L 29/861
B82Y 40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単層カーボンナノチューブと金属塩含有分散剤とを含有するインクをスクリーン印刷することで第一金属層上にインク層を設ける工程と、
酸を用いて前記インク層における前記金属塩含有分散剤の含有量を低減する工程と、
ドナー原子を有するドーパントを含有する溶液を前記インク層に接触させることで、単層カーボンナノチューブを含有するn型半導体層を形成する工程と、を有する、整流素子の製造方法。
【請求項2】
前記金属塩含有分散剤がZn-Al分散剤を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ドーパントがビオロゲンの還元体を含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ビオロゲンが、1,1’-ジベンジル-4,4’-ジピリジニウムハライド、及び1,1’-ジエチル-4,4’-ジピリジニウムハライドからなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記インクにおける前記単層カーボンナノチューブの含有量が0.25質量%以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記インクをスクリーン印刷する前に混練する工程を更に有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記酸が希硝酸を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記n型半導体層の厚さが100μm以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記n型半導体層の前記第一金属層側とは反対側に第二金属層を設ける工程を更に有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記n型半導体層の前記第一金属層側とは反対側に、単層カーボンナノチューブを含有するp型半導体層を設ける工程と、
前記p型半導体層の前記n型半導体層側とは反対側に第二金属層を設ける工程と、を更に有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記第二金属層が、4.9eV以上の仕事関数を有する金属で構成される、請求項9又は10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記第一金属層が、4.3eV以下の仕事関数を有する金属で構成される、請求項1~11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記n型半導体の少なくとも一部に接するようにパッシベーション膜を設ける工程を更に有する、請求項1~12のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記整流素子が、ショットキーダイオード、p-n接合ダイオード、又はトランジスタである、請求項1~13のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、整流素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単層カーボンナノチューブ(Single-Walled Carbon Nanotube; SWCNT)は、電気伝導性、熱伝導性、及び機械的特性を有し、高いキャリア移動度を発揮し得る半導体を構成し得ることから、半導体デバイス用の材料としての検討がなされている。
【0003】
特許文献1には、例えば、絶縁性基材と、上記絶縁性基材の第1表面に設けられた、(a)第一の電極と第二の電極からなる一対の電極と、前記(a)一対の電極間に設けられた(b)半導体層とを備える整流素子であって、前記(b)半導体層が、表面の少なくとも一部に、共役系重合体が付着したカーボンナノチューブ複合体を含む整流素子が開示されている。特許文献2には、第一電極金属膜と、前記第一電極金属膜上に形成された有機接合調整膜とを備えた第一電極層と、前記有機接合調整膜上に積層され、非イオン性有機半導体(カーボンナノチューブ)で形成された半導体層と、第二電極金属膜を備え、前記半導体層上に積層された第二電極層とを有するショットキーダイオードが開示されている。非特許文献1は、カーボンナノチューブ薄膜に金属電極を蒸着し、カーボンナノチューブ薄膜の一部にドーパントを添加してn型半導体に変更することによって形成したp-n接合ダイオードが開示されている。非特許文献2は、単層ナノチューブ1本のみを用いて作成したショットキーダイオードが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開2016/158862号
【文献】特開2016-72272号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Chandan Biswas, et al., “Chemically Doped Random Network CarbonNanotube pn Junction Diode for Rectifier,” ACS NANO, 2011, VOL.5, NO.12,p.9817-9823
【文献】Harish M. Manohara,“Carbon Nanotube SchottkyDiodes Using Ti-Schottky and Pt-Ohmic Contacts for High Frequency Applications”,NANO LETTERS ,2005,VOL.5,No.7,p.1469-1474
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、単層カーボンナノチューブ含む半導体層を有する従来の整流素子に比べ、大きな電流密度を発揮し得る整流素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面は、単層カーボンナノチューブと金属塩含有分散剤とを含有するインクをスクリーン印刷することで第一金属層上にインク層を設ける工程と、酸を用いて上記インク層における上記金属塩含有分散剤の含有量を低減する工程と、ドナー原子を有するドーパントを含有する溶液を上記インク層に接触させることで、単層カーボンナノチューブを含有するn型半導体層を形成する工程と、を有する、整流素子の製造方法を提供する。
【0008】
上記整流素子の製造方法は、単層カーボンナノチューブを金属塩含有分散剤によって高度に分散させたインクを用い、且つスクリーン印刷を行うことによって、単層カーボンナノチューブの分散状態を維持した状態でインク層を設けることできる。そして、酸によって金属塩含有分散剤の含有量を低減し、ドーパントを添加することで、単層カーボンナノチューブを含有するn型半導体層を形成する。当該n型半導体層を備えることで、製造される整流素子は大きな電流密度を発揮し得る。
【0009】
上記金属塩含有分散剤はZn-Al分散剤を含んでよい。
【0010】
上記ドーパントがビオロゲンの還元体を含んでよい。
【0011】
上記ビオロゲンが、1,1’-ジベンジル-4,4’-ジピリジニウムハライド、及び1,1’-ジエチル-4,4’-ジピリジニウムハライドからなる群より選択される少なくとも一種を含んでよい。
【0012】
上記インクにおける上記単層カーボンナノチューブの含有量が0.25質量%以上であってよい。インクにおける単層カーボンナノチューブの含有量が所定値以上となることによって、得られるn型半導体層における単層カーボンナノチューブの密度を高めることが可能であり、単層カーボンナノチューブ同士の接点を増やすことが可能であることから、より大きな電流密度を発揮し得る。また、インクにおける単層カーボンナノチューブの含有量が上記範囲内である場合、インクの粘度が向上することになるが、本製法ではスクリーン印刷を採用していることから印刷が可能である。
【0013】
上述の製造方法は、上記インクをスクリーン印刷する前に混練する工程を更に有してもよい。印刷前にインクを混練することによって、インク内における単層カーボンナノチューブの分散性を更に向上させることが可能であり、インク層内における単層カーボンナノチューブをより一層均一に広げることが可能であり、緻密なn型半導体層を形成することができる。これによって、得られる整流素子はさらに大きな電流密度を発揮し得る。
【0014】
上記酸が希硝酸を含んでよい。希硝酸を含む酸を用いることによって、インク層中の金属塩含有分散剤(例えば、Zn-Al分散剤)の含有量の低減をより容易に行うことができ、また酸を洗浄によって除去することも容易である。
【0015】
上記n型半導体層の厚さが100μm以下であってよい。
【0016】
上述の製造方法は、上記n型半導体層の上記第一金属層側とは反対側に第二金属層を設ける工程を更に有してよい。第二金属層を設ける工程を有することで、例えば、ショットキーダイオード等を製造することができる。
【0017】
上述の製造方法は、上記n型半導体層の上記第一金属層側とは反対側に、単層カーボンナノチューブを含有するp型半導体層を設ける工程と、上記p型半導体層の上記n型半導体層側とは反対側に第二金属層を設ける工程と、を更に有してもよい。p型半導体層を設ける工程を有することで、例えば、p-n接合ダイオード等を製造することができる。
【0018】
上記第二金属層が、4.9eV以上の仕事関数を有する金属で構成されてよい。第二金属層を構成する金属の仕事関数が上記範囲内であることで、n型半導体層又はp型半導体層と、第二金属層との間にショットキー接合を形成することができる。
【0019】
上記第一金属層が、4.3eV以下の仕事関数を有する金属で構成されてよい。第一金属層を構成する金属の仕事関数が上記範囲内であることで、第一金属層とn型半導体層との間にオーミック接合を形成することができる。
【0020】
上述の製造方法は、上記n型半導体の少なくとも一部に接するようにパッシベーション膜を設ける工程を更に有してもよい。パッシベーション膜を設けることによって、p型半導体層の酸化を抑制し、整流素子の信頼性を向上することができる。
【0021】
上記整流素子が、ショットキーダイオード、p-n接合ダイオード、又はトランジスタであってよい。
【発明の効果】
【0022】
本開示によれば、単層カーボンナノチューブ含む半導体層を有する従来の整流素子に比べ、大きな電流密度を発揮し得る整流素子の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、実施例1で調整したショットキーダイオードのJ-V特性を示すグラフである。
図2図2は、実施例2で調整したp-n接合ダイオードのJ-V特性を示すグラフである。
図3図3は、分散剤の違いによるインク層における単層カーボンナノチューブの分散状態への影響を観察した走査型電子顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、場合によって図面を参照しながら、本開示の実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。各要素の寸法比率は図面に図示された比率に限られるものではない。
【0025】
本明細書において例示する材料は特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中の各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0026】
整流素子の製造方法の一実施形態は、単層カーボンナノチューブと金属塩含有分散剤とを含有するインクを調製する工程(インク調製工程)と、上記インクを混練する工程(混練工程)と、上記インクをスクリーン印刷することで第一金属層上にインク層を設ける工程(印刷工程)と、酸を用いて上記インク層における上記金属塩含有分散剤の含有量を低減する工程(分散剤除去工程)と、ドナー原子を有するドーパントを含有する溶液を上記インク層に接触させることで、単層カーボンナノチューブを含有するn型半導体層を形成する工程(n型半導体層形成工程)と、を有する。
【0027】
上記インクは、金属塩含有分散剤を用いて調製された分散液である。上記インク(分散液)の溶媒(分散媒)は、親水性溶媒であってよく、好ましくは水を含む。すなわち、上記インクは、水系の分散液であってよい。金属塩含有分散剤は、第一の金属の酢酸塩と、第二の金属の硝酸塩又は塩化物と、を溶液中で反応させ、溶媒を除去して調製される化合物である。
【0028】
金属塩含有分散剤を調製するための第一の金属の酢酸塩としては、例えば、酢酸亜鉛(例えば、2水和物:Zn(CHCOO)・2HO等)、酢酸ニッケル(例えば、4水和物:Ni(CHCOO)・4HO等)、酢酸銅(例えば、1水和物:Cu(CHCOO)・HO等)、酢酸銀(例えば、無水物:Ag(CHCOO)等)、酢酸マグネシウム(例えば、4水和物:Mg(CHCOO)・4HO等)、及び、酢酸パラジウム(例えば、無水物:Pd(CHCOO)等)などが挙げられる。
【0029】
金属塩含有分散剤を調製するための第二の金属の硝酸塩としては、例えば、硝酸アルミニウム(例えば、9水和物:Al(NO・9HO等)、硝酸鉄(例えば、9水和物:Fe(NO・9HO等)、硝酸コバルト(例えば、6水和物:Co(NO・6HO等)、硝酸銀(例えば、無水物:AgNO等)、硝酸ガドリニウム(例えば、6水和物:Gd(NO・6HO等)、硝酸銅(例えば、3水和物:Cu(NO・3HO等)、硝酸ニッケル(例えば、6水和物:Ni(NO・6HO等)、硝酸マグネシウム(例えば、6水和物:Mg(NO・6HO等)、硝酸リチウム(例えば、無水物:LiNO等)、硝酸カリウム(例えば、無水物:KNO等)、及び硝酸カルシウム(例えば、4水和物:Ca(NO・4HO等)などが挙げられる。
【0030】
金属塩含有分散剤を調製するための第二の金属の塩化物としては、例えば、塩化アルミニウム(例えば、6水和物:AlCl・6HO等)、塩化鉄(例えば、6水和物:FeCl・6HO等)、塩化コバルト(例えば、6水和物:CoCl・6HO等)、塩化銀(例えば、無水物:AgCl)、塩化ガドリニウム(例えば、6水和物:GdCl・6HO等)、塩化銅(例えば、2水和物:CuCl・2HO等)、塩化マグネシウム(例えば、6水和物:MgCl・6HO等)、塩化リチウム(例えば、無水物:LiCl等)、塩化カリウム(例えば、無水物:KCl等)、塩化カルシウム(例えば、2水和物:CaCl・2HO等)、及び塩化ニッケル(例えば、6水和物:NiCl2・6HO等)等が挙げられる。
【0031】
上記溶液としては、例えば、水、及びアルコール等が挙げられる。アルコールとしては、エタノール等を用いることができる。
【0032】
金属塩含有分散剤を構成する第一の金属と第二金属の合計モル数を1とした場合に、第一の金属の割合が0.4~0.9の範囲内であることが好ましい。この場合、単層カーボンナノチューブの分散効果により優れる。
【0033】
金属塩含有分散剤としては、より具体的には、Zn-Al分散剤(酢酸亜鉛・2水和物と、硝酸アルミニウム・9水和物を溶液中で反応させ、溶媒を除去して得られる分散剤)などが挙げられる。Zn-Al分散剤を例として、金属塩含有分散剤が単層カーボンナノチューブを分散できることを説明する。Zn-Al分散剤は水との親和性が高く、Zn-Alゾルゲル分散剤と称される場合もある。Zn-Al分散剤を構成する酢酸アルミニウムがイオンよりも単層カーボンナノチューブの表面に対する高い親和性を有し、酢酸アルミニウムの付着した表面に、Zn-Al分散剤から生じる亜鉛イオン(Zn2+)及び硝酸イオン(NO3-)が付着することによって、個々の単層カーボンナノチューブの親水性を向上させることができる。また金属塩含有分散剤は、酸によって容易に除去することもできる。
【0034】
単層カーボンナノチューブは、市販のものを用いてもよく、別途調製したものを用いてもよい。単層カーボンナノチューブを調製する場合は、例えば、アーク放電法、レーザー蒸着法、及び化学的気相成長法等を用いることができる。
【0035】
単層カーボンナノチューブは、ジグザグ型(zigzag型)単層カーボンナノチューブ、カイラル型(chiral型)単層カーボンナノチューブ、及びアームチェア型(arm-chair型)単層カーボンナノチューブのいずれも用いることができるが、好ましくはジグザグ型(zigzag型)単層カーボンナノチューブ、及びカイラル型(chiral型)単層カーボンナノチューブである。単層カーボンナノチューブとして、カイラル型(chiral型)単層カーボンナノチューブを用いる場合のカイラル角は特に制限されるものではなく、求める電気的特性に応じて適宜調整してよい。
【0036】
単層カーボンナノチューブの直径は、例えば、0.4~5.0nm、0.5~4.0nm、0.5~3.0nm、0.5~2.5nm、又は0.5~2.0nmであってよい。単層カーボンナノチューブの直径が上記範囲内であることによって、単層カーボンナノチューブ自体のバンドギャップエネルギーをより低く調製できる。単層カーボンナノチューブの長さは、例えば、10~5000000nm、20~2000000nm、又は100~1000000nmであってよい。単層カーボンナノチューブの長さが上述の範囲内であることで、得られるn型半導体層、及びp型半導体層における単層カーボンナノチューブ同士の接点を増加させることができ、得られる整流素子はより大きな電流密度を発揮し得る。
【0037】
インク調製工程は、単層カーボンナノチューブ、Zn-Al分散剤、及び水を含む溶媒を混合することによって、単層カーボンナノチューブを溶液中に分散させる工程である。単層カーボンナノチューブを分散させる手段は、例えば、超音波処理等であってよい。超音波処理を行うことで、単層カーボンナノチューブの凝集体(例えば、バンドル(束)等)の残分をさらに低減することができる。
【0038】
混練工程は、インク調製工程によって得られたインクを混練する工程である。当該工程によって、インク中に残る単層カーボンナノチューブの凝集体を更に低減することができる。混練の手段は、例えば、ロールミル等を用いた混練方法などが挙げられる。ロールミルとしては、例えば、AIMEX社製のBR-100V III(製品名)等を使用できる。
【0039】
上述のインクは、上記工程によって調製してもよく、予め調製されたインクを用いてもよい。この場合、インク調製工程は省略することができる。また用いるインクにおける単層カーボンナノチューブの凝集体が観測されない、又は実用上問題ないと判断できる場合には混練工程も省略することができる。
【0040】
印刷工程では、上記インクをスクリーン印刷することで第一金属層上にインク層を設ける。
【0041】
第一金属層は、例えば、基材上に設けられた層であってもよい。基材は、例えば、ガラス基材及び金属基材等の無機基材、並びに、高分子基材等の有機基材であってよい。第一金属層は、例えば、電子線蒸着法、真空蒸着法、スパッタリング法、化学気相成長法等を用いて基材上に直接形成してもよく、又は別途調製された金属層を貼り付け、転写等することによって設けてもよい。第一金属層は、例えば、金属薄膜、及び金属蒸着膜等であってよく、好ましくは電子線蒸着によって形成された膜である。
【0042】
第一金属層の厚さは、例えば、20~500nm、20~400nm、50~300nm、又は70~250nmであってよい。
【0043】
上記第一金属層は、4.3eV以下の仕事関数を有する金属で構成されてよい。仕事関数が4.3eV以下の金属としては、例えば、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)
、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)、及びマグネシウム(Mg)等が挙げられる。
【0044】
スクリーン印刷に使用するインクにおける単層カーボンナノチューブの含有量は比較的大きく設定することができる。上記インクにおける単層カーボンナノチューブの含有量は、例えば、0.25質量%以上、0.27質量%以上、又は0.30質量%以上であってよい。単層カーボンナノチューブの含有量の下限値が上記範囲内であることで、得られるn型半導体層における単層カーボンナノチューブの密度を高め、単層カーボンナノチューブ同士の接点を増やすことが可能であることから、より大きな電流密度を発揮し得る。また、インクにおける単層カーボンナノチューブの含有量が上記範囲内である場合、インクの粘度が向上することになるが、本製法ではスクリーン印刷を採用していることから印刷が可能である。上記インクにおける単層カーボンナノチューブの含有量は、例えば、1.0質量%以下、0.50質量%以下、又は0.40質量%以下であってよい。単層カーボンナノチューブの含有量の上限値が上記範囲内であることで、緻密で均一な膜が印刷でき、より優れた電流密度を発揮し得る。
【0045】
分散剤除去工程では、インク層における金属塩含有分散剤の含有量を低減する。Zn-Al分散剤はインク層から可能な限り除去されることが望ましい。
【0046】
インク層における上記金属塩含有分散剤の含有量は、インク層と酸とを接触させることで容易に低減できる。酸としては、硝酸、希硝酸、塩酸、希塩酸等、希硫酸、メタスルホン酸等が挙げられる。酸種は金属塩含有分散剤に応じて選択して用いることができる。例えば、金属塩含有分散剤としてZn-Al分散剤を用いた場合、Zn-Al分散剤が硝酸イオンを発生し得る化合物であることから、同種の希硝酸を用いることが好ましい。
【0047】
分散剤除去工程では、上述の酸を除去するために水等の溶媒にインク層を接触させ洗浄してもよい。この場合、続くn型半導体層形成工程の前に上記溶媒を低減することが望ましい。溶媒の除去は、加熱乾燥させることによってもよい。
【0048】
n型半導体層形成工程は、単層カーボンナノチューブを含むインク層(一般には、p型半導体層である)に対して、ドナー原子を有するドーパントを含有する溶液を上記インク層に接触させることで、単層カーボンナノチューブをn型半導体に変化させる。
【0049】
上記ドーパントは、例えば、ビオロゲンの還元体を含んでよく、ビオロゲンの還元体であってよい。上記ビオロゲンは、1,1’-ジメチル-4,4’-ジピリジニウムジハライド、1,1’-ジエチル-4,4’-ジピリジニウムジハライド、1,1’-ジヘプチル-4,4’-ジピリジニウムジハライド、1,1’-ジオクチル-4,4’-ジピリジニウムジハライド等の1,1’-ジアルキル-4,4’-ジピリジニウムジハライド、1,1’-ジフェニル-4,4’-ジピリジニウムジハライド、並びに1,1’-ジベンジル-4,4’-ジピリジニウムジハライドからなる群より選択される少なくとも一種を含有してよく、好ましくは、1,1’-ジエチル-4,4’-ジピリジニウムハライド、及び1,1’-ジベンジル-4,4’-ジピリジニウムハライドからなる群より選択される少なくとも一種を含有してよく、より好ましくは1,1’-ジベンジル-4,4’-ジピリジニウムハライドを含有してよく、更に好ましくは1,1’-ジベンジル-4,4’-ジピリジニウムハライドである。上述のハロゲン化物(ハライド)を構成するハロゲンは、例えば、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、及びヨウ素(I)等であってよい。
【0050】
上述のドーパントの供給方法は、例えば、上記ドーパントを含む溶液を調製し、当該溶液を上記インク層に接触させる方法であってよい。例えば、ドーパントがビオロゲン還元体である場合、ビオロゲンを含む水溶液に、トルエン等の有機溶媒及び還元剤(例えば、水酸化ホウ素ナトリウム等)を加え、ビオロゲンを還元しながら還元体を有機溶媒相に抽出して、得られた有機溶媒相を、上述のドーパントを含む溶液として使用することができる。
【0051】
n型半導体層の厚さは、例えば、50μm以下、30μm以下、15μm以下、12μm以下、又は10μm以下であってよい。n型半導体層の厚さの下限値は、特に限定されるものではないが、例えば、1μm以上、2μm以上、4μm以上、又は5μm以上であってよい。
【0052】
上述の製造方法は、インク調製工程、混練工程、印刷工程、分散剤除去工程、n型半導体層形成工程に加えて、他の工程を有してもよい。例えば、上記n型半導体層の上記第一金属層側とは反対側に第二金属層を設ける工程を更に有してよく、また上記n型半導体層の上記第一金属層側とは反対側に、単層カーボンナノチューブを含有するp型半導体層を設ける工程と、上記p型半導体層の上記n型半導体層側とは反対側に第二金属層を設ける工程と、を更に有してもよい。
【0053】
上述の製造方法が、上記n型半導体層の上記第一金属層側とは反対側に第二金属層を設ける工程を更に有する場合、得られる整流素子は、第一金属層、n型半導体層、及び第二金属層をこの順に備える。このような構成を有する整流素子としては、例えば、ショットキーダイオードが挙げられる。
【0054】
第二金属層を形成する方法は、例えば、真空蒸着法、及びスパッタリング法等であってよく、工程時間短縮の観点から、スパッタリング法が好ましい。
【0055】
第二金属層の厚さは、例えば、10~100nm、15~80nm、20~50nm、又は25~40nmであってよい。
【0056】
上記第二金属層は、4.9eV以上の仕事関数を有する金属で構成されてよい。仕事関数が4.9eV以上の金属としては、例えば、金(Au)、白金(Pt)、及びニッケル(Ni)等が挙げられる。
【0057】
上述の製造方法が、また上記n型半導体層の上記第一金属層側とは反対側に、単層カーボンナノチューブを含有するp型半導体層を設ける工程と、上記p型半導体層の上記n型半導体層側とは反対側に第二金属層を設ける工程と、を更に有する場合、得られる整流素子は、第一金属層、n型半導体層、p型半導体層、及び第二金属層をこの順に備える。このような構成を有する整流素子としては、例えば、p-n接合ダイオードが挙げられる。
【0058】
p型半導体層の形成方法は、上述のインク調製工程、混練工程、印刷工程、及び分散剤除去工程と同様の方法で行うことができる。また第二金属層及びその形成方法も上述の説明を適用できる。
【0059】
p型半導体層の厚さは、例えば、100μm以下、50μm以下、30μm以下、又は15μm以下であってよい。p型半導体層の厚さの下限値は、特に限定されるものではないが、例えば、0.5μm以上、又は1μm以上であってよい。
【0060】
上述の製造方法は、上記n型半導体の少なくとも一部に接するようにパッシベーション膜を設ける工程を更に有してもよい。パッシベーション膜を設けることによって、p型半導体層の酸化を抑制し、整流素子の信頼性を向上することができる。
【0061】
パッシベーション膜は酸素透過度の低い層であってよい。パッシベーション膜は、ガラス、窒化ケイ素等の無機膜、又は熱硬化樹脂等の有機膜であってもよい。熱硬化性樹脂は、例えば、ポリイミド等であってよい。
【0062】
本開示に係る製造方法によって製造される整流素子は、単層カーボンナノチューブを含有するn型半導体層を有し、単層カーボンナノチューブがn型半導体層の厚さに垂直な方向に均一に存在したものとなっている。換言すれば、上記整流素子のn型半導体層は欠陥等が少なく、面内方向の導電パスが均一に形成されている。整流素子は、例えば、ショットキーダイオード、p-n接合ダイオード、及びトランジスタなどであってよい。
【0063】
以上、幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。また、上述した実施形態についての説明内容は、互いに適用することができる。
【実施例
【0064】
以下、実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明する。ただし、本開示は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0065】
[金属塩含有分散剤(Zn-Al分散剤)の調製]
容器に、酢酸亜鉛・2水和物1g、硝酸アルミニウム・9水和物1g、及びエタノール40mLを測り取り、混合溶液を調製した。混合溶液を撹拌しながら、80℃で2時間還流させた。この際、エタノールが系外に除去されないように容器上部に冷却水で冷やしながら混合溶液の撹拌を行った。その後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒であるエタノールを留去し、ゲル状の無色液体を得た。当該無色液体を真空乾燥機内に静置し、90℃、3時間の条件で乾燥することによって、Zn-Al分散剤の粉末を得た。
【0066】
[インクの調製]
容器に、単層カーボンナノチューブ(株式会社名城ナノカーボン製、商品名:MEIJO eDIPS、綿状の物)30mg、Zn-Al分散剤300mg、及び蒸留水10mLを測り取り、超音波ホモジナイザー(SONICS社製、製品名:VCX750)を用いて、60分間、超音波処理することによって、単層カーボンナノチューブの分散液を調製した。なお、単層カーボンナノチューブは、分散を容易にする観点から、ハサミで細かく切り刻んでから用いた。超音波ホモジナイザーは、周波数:20kHz、出力:225W、照射間隔:1秒間の条件で用い、超音波照射による発熱を抑えるために、5℃に設定されたビーカー加熱冷却ユニット(アズワン株式会社製、製品名:MC1)を用いて上述の容器を冷却しながら行った。
【0067】
超音波処理を経て得られた分散液(単層カーボンナノチューブの含有量が3質量%)を3本ロールミル(アイメックス株式会社製、製品名:BR-100V III)を用いて混練することによって、上記分散液中に残存した単層カーボンナノチューブの凝集体を解し、除去した。こうして、単層カーボンナノチューブを含むインクを調製した。なお、3本ロールミルは、第1ロールの回転速度を17rpmに設定し、回転速度比を第1ロール:第2ロール:第3ロール=1:2.4:6.0に設定し、ロール間隔は30μmとして用いた。
【0068】
[ドーパントを含有する溶液の調製]
容器に、1,1’-ジベンジル-4,4’-ジピリジニウムジクロライド(Sigma-Aldrich社製)1.7mgと、蒸留水10mLとを測り取り、溶解させた。ここに、トルエン10mLと、還元剤として水酸化ホウ素ナトリウム200mMを加えて24時間静置した。還元されたビオロゲンの還元体(キノノイド)は、トルエン相に抽出される。トルエン分画を、ドーパントを含む溶液とした。
【0069】
(実施例1)
[ショットキーダイオードの調製]
表面にチタンの蒸着膜(厚さ:200nm)を有するガラス基材の、上記蒸着膜上に、上述のインクを用いたスクリーン印刷法によってインク層を設けた。インク層を設けた状態で、室温で1日間静置し、溶媒である水を蒸発させ、乾燥した。乾燥後のインク層の厚さは25μmであった。スクリーン印刷にはシリコーンゴム製のマスク(厚さ:1mm、5mm角の穴を複数設けた)及びシリコーンスキージを用いた。スクリーン印刷機はミタニマイクロニクス株式会社製のMEC-2400Eを用いた。
【0070】
次に、上記インク層の上に1Mの希硝酸を滴下し、15分間静置させることによってZn-Al分散剤を除去した。蒸留水で洗浄した後、インク層(p型半導体層)を乾燥させた。
【0071】
乾燥後のインク層(p型半導体層)に対して、上述のように調製したドーパントを含有する溶液を5μLだけ添加し、単層カーボンナノチューブを含有するn型半導体層を形成した。
【0072】
乾燥後のインク層がp型半導体層であること、及びドーパントの添加によってn型半導体層に変化したことは、ヴァン・デル・パウ法(vander pauw法)に基づくホール効果測定によって行った。結果を表1に示す。単層カーボンナノチューブを含有するインクから作製したインク層はp型半導体層であり、ドーパントによるn型不純物をドーピングすることによって、n型半導体層に変化していることが確認された。また、上述のように調製されたインク層に対するヴァン・デル・パウ法(vander pauw法)に基づくホール効果測定において、抵抗率ρを測定した。結果を表1に示す。ドーピング前のインク層の300K(27℃)における抵抗率ρは2.2×10-4Ω・cmであり、ドーピング後のインク層の27℃における抵抗率ρは5.6×10-4Ω・cmであった。一般に半導体の抵抗率は10-4~10Ω・cmであることからみて、上述のインク層は半導体層といってよいが、金属に近い特性を有しているともいえる。
【0073】
【表1】
【0074】
上述のn型半導体層上に、スパッタ装置(サンユー電子株式会社製、製品名:SC-701C)を用いて、金(Au)をスパッタリングして厚さ:40nmの金層(第二金属層)を形成した。上記金層の形成は、20nmのスパッタリングを2回繰り返すことで行った。金層は直径1mmの円柱状に形成した。このようにして、ガラス基材、第一金属層、n型半導体層、及び第二金属層をこの順に備える、ショットキーダイオードを調製した。
【0075】
<ショットキーダイオードの評価:電流密度の測定>
実施例1で作製したショットキーダイオードの評価のため、I-V特性を測定し、電流値については、第二金属層であるAu電極の面積で割ってJ-V特性で検討した。測定には、ケースレーインスツルメンツ社製のソースメーター(4250型)を用い、-1.5Vから+1.5V間の領域で電流値を測定した。測定は300K(27℃)の環境下で行った。結果を図1に示す。
【0076】
図1の(a)は、ショットキーダイオードのJ-V特性を線形プロットしたグラフであり、図1の(b)は、同結果を片対数プロットしたグラフである。図1の(a)に示される結果から、順方向では電流の立ち上がりが確認され、逆方向には電流が観測されておらず、非線形性のダイオード特性が確認された。同様に図1の(a)から+1.5Vの電圧を印加した際に、0.4A/cmを超える大きな電流密度が得られることが確認できた。さらに図1の(b)に示される結果から、-1.5Vから+1.5V間のオンオフ比が10程度あることが確認された。以上のとおり、実施例1のショットキーダイオードが、単層カーボンナノチューブ含む半導体層を有する従来の整流素子に比べ、大きな電流密度を発揮し得ることが確認された。
【0077】
(実施例2)
[p-n接合ダイオードの調製]
実施例1と同様にして、チタン蒸着膜を有するガラス基材上にn型半導体層を設けた。次に、n型半導体層上に、実施例1に記載したのと同様の方法で、上述のインクを用いたスクリーン印刷法によってインク層を設け、希硝酸を用いてZn-Al分散剤を除去した後、乾燥することによって、p型半導体層を設けた。p型半導体層の厚さは25μmであった。
【0078】
次に、上述のp型半導体層上に、スパッタ装置(サンユー電子株式会社製、製品名:SC-701C)を用いて、金(Au)をスパッタリングして厚さ:40nmの金層(第二金属層)を形成した。上記金層の形成は、20nmのスパッタリングを2回繰り返すことで行った。金層は直径1mmの円柱状に形成した。このようにして、ガラス基材、第一金属層、n型半導体層、p型半導体層、及び第二金属層をこの順に備える、p-n接合ダイオードを調製した。
【0079】
<p-n接合ダイオードの評価:電流密度の測定>
実施例2で作製したp-n接合ダイオードの評価のため、実施例1と同様にして、J-V特性を評価した。結果を図2に示す。
【0080】
図2の(a)は、p-n接合ダイオードのJ-V特性を線形プロットしたグラフであり、図2の(b)は、同結果を片対数プロットしたグラフである。図2の(a)に示される結果から、順方向では電流の立ち上がりが確認され、逆方向には電流が観測されておらず、非線形性のダイオード特性が確認された。同様に図2の(a)から+1.5Vの電圧を印加した際に、1.0A/cmを超える大きな電流密度が得られることが確認できた。さらに図2の(b)に示される結果から、-1.5Vから+1.5V間のオンオフ比が10程度あることが確認された。以上のとおり、実施例2のp-n接合ダイオードが、単層カーボンナノチューブ含む半導体層を有する従来の整流素子に比べ、大きな電流密度を発揮し得ることが確認された。
【0081】
(参考例1~3)
分散剤としてZn-Al分散剤を用いることによって、単層カーボンナノチューブの分散性が向上し、均一なp型半導体層、及びn型半導体層を形成できることを確認するために、Zn-Al分散剤を用いた上述のインクを用いてスクリーン印刷し分散剤を希硝酸で除去することによって、基材上に形成した膜(参考例1)、分散剤を使用せず、溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を用い超音波印加によって単層カーボンナノチューブを分散させたインクを調製し、これを基材上に滴下乾燥して形成した膜(参考例2)、及び、Zn-Al分散剤に代えて、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を用い超音波印加によって単層カーボンナノチューブを分散させたインクを調製し、これをスクリーン印刷することによって基材上に形成した膜(参考例3)を調製した。調製されたそれぞれの膜について走査型電子顕微鏡画像を取得した。結果を図3に示す。
【0082】
図3は、分散剤の違いによるインク層における単層カーボンナノチューブの分散状態への影響を観察した走査型電子顕微鏡画像である。図3の(a)は参考例1(Zn-Al分散剤を用いた例)の結果を示し、図3の(b)は参考例2(分散剤不使用、NMP溶液、且つ滴下乾燥した例)の結果を示し、図3の(c)は参考例3(SDSを用いた例)の結果を示す。図3の(a)~(c)に示されるとおり、Zn-Al分散剤を用い、スクリーン印刷することで形成した膜では、単層カーボンナノチューブの凝集体が観測されず、均一な膜が形成されることが確認された。一方で、図3の(b)、(c)では、単層カーボンナノチューブの凝集体が形成され、膜としても不均一なものとなっており、大きな電流密度を発揮し得ないと考えられる。
【0083】
参考例1~3の膜に対して、表面導電率を測定した。表面導電率の測定は4端子法によって行った。測定には、株式会社三菱化学アナリテック製のロレスタ-GP<MCP-T610>(製品名)を用いた。結果を表2に示す。表2に示す表面導電率は、各サンプルについて5回の測定を行い、その算術平均値を採用した。
【0084】
【表2】
【0085】
表2に示される結果も図3に示される結果と整合しており、Zn-Al分散剤を用いてスクリーン印刷することによって、電気的にも一層均一な膜を形成できることが核にできた。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本開示によれば、単層カーボンナノチューブ含む半導体層を有する従来の整流素子に比べ、大きな電流密度を発揮し得る整流素子の製造方法を提供できる。
【要約】
【課題】単層カーボンナノチューブ含む半導体層を有する従来の整流素子に比べ、大きな電流密度を発揮し得る整流素子の製造方法を提供すること。
【解決手段】本開示の一側面は、単層カーボンナノチューブと金属塩含有分散剤とを含有するインクをスクリーン印刷することで第一金属層上にインク層を設ける工程と、酸を用いて上記インク層における上記金属塩含有分散剤の含有量を低減する工程と、ドナー原子を有するドーパントを含有する溶液を上記インク層に接触させることで、単層カーボンナノチューブを含有するn型半導体層を形成する工程と、を有する、整流素子の製造方法を提供する。
【選択図】なし

図1
図2
図3