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▶ ランダ ラブズ (2012) リミテッドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-24
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】多層物品を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 5/00 20060101AFI20220111BHJP
   B32B 37/02 20060101ALI20220111BHJP
   B29C 41/28 20060101ALI20220111BHJP
   B29C 41/32 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
B05D5/00 A
B32B37/02
B29C41/28
B29C41/32
【請求項の数】 42
(21)【出願番号】P 2018562245
(86)(22)【出願日】2017-05-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-06-27
(86)【国際出願番号】 IB2017053181
(87)【国際公開番号】W WO2017208155
(87)【国際公開日】2017-12-07
【審査請求日】2020-05-11
(31)【優先権主張番号】62/343,108
(32)【優先日】2016-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】1609463.3
(32)【優先日】2016-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】512048354
【氏名又は名称】ランダ ラブズ (2012) リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100173794
【弁理士】
【氏名又は名称】色部 暁義
(72)【発明者】
【氏名】ベンジオン ランダ
(72)【発明者】
【氏名】サージ アブラモヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】モーシェ レヴァノン
(72)【発明者】
【氏名】ヘレナ チェチク
【審査官】磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-260594(JP,A)
【文献】特表2015-510848(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0143115(US,A1)
【文献】韓国公開特許第2003-0064993(KR,A)
【文献】特開平02-048936(JP,A)
【文献】特開2001-234122(JP,A)
【文献】特表2013-539846(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 5/00
B32B 37/02
B29C 41/28
B29C 41/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも部分的に硬化した表面コーティングを有する、間接印刷システムに使用される中間転写部材(ITM)を製造する方法において、
a. 硬化プロセスによって少なくとも部分的に硬化するよう構成された流体第1硬化性材料を準備するステップと、
b. キャリヤ接触面を有するキャリヤを準備するステップであって、前記キャリヤ接触面は前記流体第1硬化性材料によって濡れることができる、ステップと、
c. 前記流体第1硬化性材料を前記キャリヤ上に塗布することによって、前記流体第1硬化性材料の層を前記キャリヤ接触面上に形成し、前記層の一方の側面が前記キャリヤ接触面に接触し、これにより、前記流体第1硬化性材料が前記キャリヤ接触面を濡らすようにするステップと、
d. 前記流体第1硬化性材料を少なくとも部分的に硬化して、前記ITMの少なくとも部分的に硬化した表面コーティングを形成して前記ITMのインク転写面を構成するステップと、及び
e. 前記キャリヤとは反対側で前記少なくとも部分的に硬化した表面コーティングの表面上に可撓性ベースを固定する又は可撓性ベースを形成するステップと、
を含み、
前記少なくとも部分的に硬化した表面コーティングは、前記ITMを生産するよう、前記可撓性ベースとともに前記キャリヤから剥離可能であり、
前記キャリヤは、硬化工程中に前記キャリヤ接触面が変形することなく第1硬化性材料を支持できる、方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、前記キャリヤ接触面は、最大でも250nm、最大でも150nm、最大でも100nm、最大でも75nm、最大でも50nm、最大でも30nm、最大でも25nm、最大でも20nm、最大でも15nm、最大でも12nm、又は最大でも10nm、かつ随意的に、少なくとも3nm、少なくとも5nm、又は少なくとも7nmの平均粗さ(Ra)を有する、滑らかなものである、方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の方法において、前記キャリヤは可撓性フォイルである、方法。
【請求項4】
請求項1~3のうちいずれか一項記載の方法において、前記キャリヤ接触面は疎水性である、方法。
【請求項5】
請求項1~4のうちいずれか一項記載の方法において、前記自己支持ストリップの前記少なくとも部分的に硬化した表面コーティングは疎水性である、方法。
【請求項6】
請求項1~5のうちいずれか一項記載の方法において、前記流体第1硬化性材料は、前記キャリヤ接触面におけるよりも低い表面エネルギーを有する、方法。
【請求項7】
請求項1~6のうちいずれか一項記載の方法において、前記キャリヤにおける前記流体第1硬化性材料は粘性であり、したがって、前記キャリヤ接触面を濡らすものである、方法。
【請求項8】
請求項1~7のうちいずれか一項記載の方法において、前記自己支持ストリップは、50gr/cm、20gr/cm、10gr/cm、5gr/cm、3gr/cm、又は2gr/cmより大きくない力で、前記キャリヤから剥離可能である、方法。
【請求項9】
請求項1~8のうちいずれか一項記載の方法において、前記キャリヤ接触面は、金属表面、及び金属酸化物表面よりなるグループから選択された表面を有する、方法。
【請求項10】
請求項1~9のうちいずれか一項記載の方法において、前記キャリヤは、金属フォイル、及び金属化ポリマーフォイルよりなるグループから選択された材料を有する、方法。
【請求項11】
請求項10記載の方法において、前記キャリヤは、アルミニウムフォイル、及びアルミめっきポリマーフォイルよりなるグループから選択された材料を有する、方法。
【請求項12】
請求項1~11のうちいずれか一項記載の方法において、前記キャリヤ接触面は、ポリマー表面を有する、方法。
【請求項13】
請求項12記載の方法において、前記キャリヤ接触面は、ポリマー表面は、Si-O-Si及びC-O-Cよりなるグループから随意的に選択される極性基を有する、方法。
【請求項14】
請求項13記載の方法において、少なくとも1つの前記極性基は、カルボニル基、カルボキシル基、アミド基及びこれらの組合せよりなるグループから選択される、方法。
【請求項15】
請求項10~14のうちいずれか一項記載の方法において、ポリマー表面は、少なくとも1個の自由電子対を有する極性基又は官能基を含む、方法。
【請求項16】
請求項10~15のうちいずれか一項記載の方法において、ポリマー表面は、ポリエステル、ポリフルオロカーボン及びポリイミドよりなるグループから選択されるポリマーを含む、又はほぼこのようなポリマーから構成される、方法。
【請求項17】
請求項16記載の方法において、前記ポリマー表面は、ポリエチレン・テレフタレート(PET)を含む、又はほぼそれから構成される、方法。
【請求項18】
請求項16記載の方法において、前記ポリマー表面は、ポリ(4,4’-オキシジフェニレン-ピロメリトイミド)を含む、又はほぼそれから構成される、方法。
【請求項19】
請求項1~18のうちいずれか一項記載の方法において、前記流体第1硬化性材料の初期リリース層を形成するステップは、前記流体第1硬化性材料の層を前記キャリヤ接触面上に堆積し、これにより前記初期リリース層を形成するステップを有する、方法。
【請求項20】
請求項1~19のうちいずれか一項記載の方法において、さらに、前記流体第1硬化性材料の層に熱を加え、これにより前記層の硬化率を上昇させるステップを備える、方法。
【請求項21】
請求項1~19のうちいずれか一項記載の方法において、さらに、前記流体第1硬化性材料の層を照射し、これにより前記層の硬化率を上昇させるステップを備える、方法。
【請求項22】
請求項1~21のうちいずれか一項記載の方法において、前記流体第1硬化性材料はポリウレタンポリマーを有する、方法。
【請求項23】
請求項1~21のうちいずれか一項記載の方法において、前記流体第1硬化性材料はシリコーンポリマーを有する、方法。
【請求項24】
請求項23記載の方法において、前記流体第1硬化性材料はビニル末端シリコーンポリマーを有する、方法。
【請求項25】
請求項23又は24記載の方法において、前記流体第1硬化性材料はビニル-官能基化シリコーンポリマーを有する、方法。
【請求項26】
請求項23~25のうちいずれか一項記載の方法において、前記流体第1硬化性材料は熱硬化性付加硬化シリコーンポリマーを有する、方法。
【請求項27】
請求項1~26のうちいずれか一項記載の方法において、前記キャリヤの反対側における少なくとも部分的に硬化した表面コーティングの表面に可撓性ベースを形成するステップは、前記少なくとも部分的に硬化した表面コーティングの表面に流体第2硬化性材料の層を形成するステップであって、前記流体第2硬化性材料の層は、前記自己支持ストリップの前記ベースの少なくとも一部を形成する初期層を構成するものである、該ステップを有する、方法。
【請求項28】
請求項27記載の方法において、さらに、前記流体第2硬化性材料の層を少なくとも部分的に硬化させて、これにより前記自己支持ストリップの前記ベースの少なくとも一部を形成するステップを備える、方法。
【請求項29】
請求項27又は28記載の方法において、前記流体第2硬化性材料の層は、前記流体第1硬化性材料の層が依然として流体である間に形成される、方法。
【請求項30】
請求項27又は28記載の方法において、前記第2硬化性材料の前記層を形成するステップは、
前記第1硬化性材料の前記層がもはや流体でなくなる程度に硬化した後前記第1硬化性材料の層に下塗剤層を塗布するステップと、及び
前記下塗剤層上に前記流体第2硬化性材料を堆積し、これにより流体第2硬化性材料の層を形成するステップと
を有する、方法。
【請求項31】
請求項1~26のうちいずれか一項記載の方法において、可撓性のベースを前記キャリヤの反対側で少なくとも部分的に硬化した表面コーティングの表面に固定するステップは、
前記自己支持ストリップの前記ベースの少なくとも一部を形成する初期層を構成するシートを準備するステップと、及び
前記少なくとも部分的に硬化した表面コーティングの表面に前記シートを接触させるステップと、
を有し、これにより前記少なくとも部分的に硬化した表面コーティングの表面に前記可撓性のベースを固定する、方法。
【請求項32】
請求項31記載の方法において、前記接触は、前記第1硬化性材料が依然として流体である間に行う、方法。
【請求項33】
請求項32記載の方法において、さらに、
前記第1硬化性材料の層がもはや流体でなくなる程度に硬化した後前記第1硬化性材料の層に接着剤層を塗布するステップと、及び
前記接着剤層に前記シートを接触させ、これにより前記少なくとも部分的に硬化した表面コーティングの表面に前記可撓性のベースを固定するステップと
を備える、方法。
【請求項34】
請求項1~33のうちいずれか一項記載の方法において、さらに、「e」のステップ後に、リリース層を前記キャリヤから分離することなく、前記自己支持ストリップの仕上げ製造をするステップを備える、方法。
【請求項35】
請求項34記載の方法において、仕上げ製造ステップは、前記ベースの一部を構成する少なくとも1つの付加層を形成するステップを含む、方法。
【請求項36】
請求項34又は35記載の方法において、仕上げ製造ステップは、前記自己支持ストリップの側端縁に側方突出部を付加するステップを含む、方法。
【請求項37】
請求項1~36のうちいずれか一項記載の方法において、さらに、「e」のステップ後に、リリース層を前記キャリヤから分離することなく、前記自己支持ストリップをパッケージングするステップを備える、方法。
【請求項38】
請求項1~37のうちいずれか一項記載の方法において、さらに、前記自己支持ストリップの両側2つの端部を接合して連続ループ状ベルトを形成するステップを備える、方法。
【請求項39】
請求項1~38のうちいずれか一項記載の方法において、前記自己支持ストリップは間接印刷システムに使用する中間転写部材(ITM)である、方法。
【請求項40】
請求項39記載の方法において、前記少なくとも部分的に硬化した表面コーティングは、前記ITMの外側インク転写面を画定する少なくとも部分的に硬化したリリース層である、方法。
【請求項41】
中間転写部材(ITM)を間接プリンタに備え付ける方法において、
自己支持ストリップを準備するステップであって、前記自己支持ストリップは、リリース層が前記キャリヤに接触している間に請求項39又は40に従って調製したITMである、ステップと、
前記キャリヤとともに準備した前記自己支持ストリップを間接プリンタに備え付けるステップと、及び
備え付けステップ後に前記キャリヤを前記リリース層から分離するステップと、
を備える、方法
【請求項42】
中間転写部材(ITM)を間接プリンタに備え付ける方法において、
自己支持ストリップを準備するステップであって、前記自己支持ストリップは、リリース層が前記キャリヤに接触している間に請求項39又は40に従って調製したITMである、ステップと、
前記キャリヤを前記リリース層から分離するステップと、及び
準備した前記自己支持ストリップを間接プリンタに備え付けるステップであって、前記備え付けは随意的に分離ステップから1時間以内に実施する、ステップと、
を備える、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、随意的に特別な表面特性を有する仕上げ外表面を含む多層物品を製造する方法を開示する。この方法は、例えば、間接印刷システムのための可撓性の中間転写部材(ITM)を調製するのに適する。
【背景技術】
【0002】
多層物品は多くの用途で使用されている。代表的には、各層は、主に多層製品に特別な機能又は特性を付与する。このようなラミネートは、剛性(例えば、装飾タイル)又は可撓性(例えば、包装用のプラスチックラミネート)のいずれかであり得る。一般的に、製造方法は、所望されるとき、変動又は散発的欠陥が最終製品に与える影響がより少ないと予想される大きな物品よりも小さい物品(例えば、プリント回路)に対してより精密さを実現することができる。
【0003】
参照によりすべて記述されたとおりに本明細書に組み入れられるものとされる特許文献1(国際公開第2013/132418号パンフレット)において、ランダ社(Landa Corporation)は間接インクジェット印刷システムを開示している。このシステムにおいて、顔料の微粒子及び樹脂が懸濁又は溶解している水性キャリヤを含む水性インクの液滴を、画像付けステーションで中間転写部材(ITM:intermediate transfer member)のリリース層におけるインク転写面上に堆積する。ブランケットとも称されるこのITMは、この例示的印刷システムでは可撓性無端ベルトの形式をとることができ、インク転写面は、好適には疎水性である。ITMはインク液滴からなる画像を画像付けステーションから圧胴ステーションにむけて移送する。移送中インクキャリヤのすべて又はほとんどがインク液滴から蒸発し、画像を構成する樹脂及び顔料の粘着性薄膜が残る。圧胴ステーションにおいて、この粘着性薄膜は印刷基板に押し付けられ、また印刷基板に付着し、インク転写面における疎水性に起因してITMからきれいに分離し、これにより印刷された製品を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2013/132418号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のように、ITMは、複雑な多層構体を有することで達成できる幾つかの特別な物理的特性を持つ必要があり得る。概して、ITMは、一般的に布地を有する支持層を備え、この支持層は極めて限定された弾性を有し、圧胴ステーションへの移送中に画像の変形を回避するものである。さらに、ITMは、リリース層のすぐ下層で順応性が高い薄層を有し、粘着性薄膜が基板の表面輪郭に密に追従できるようにしている。ITMは、ITMの種々の望ましい摩擦的、熱的、及び電気的な特性を達成する他の層を含むことができる。
【0006】
よく画定された構体並びに形状、強靱性及び変形耐性に起因して、支持層は、ITMを形成するとき、開始ポイントとして使用される。とくに、ITMの製造は、支持層を設けることによって行われ、この支持層に追加の望ましい層を付加して望ましい多層構体を構成する。代表的には、ITMの異なる層は、硬化可能な流体として塗布される。
【0007】
このITMのインク転写面を画定するリリース層は、最後に形成される最上層である。インク転写面のトポグラフィ、輪郭及び表面仕上げでさえもが、初期リリース層が塗布される最後から2番目の層における表面の輪郭によって大きく決定されることを本発明者らは見出した。このため、望ましい表面仕上げで欠陥がない(欠陥フリーの)インク転写面を有するITMを製造するのは困難であることが判明している。本発明者らは、このような欠陥が様々な様態でリリース層性能を顕著に損ない得ることを見出しており、大きなITM長さ及び幅が望ましいとき問題が特に深刻化する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、本発明の態様によれば、物品の外表面を画定する第1外側層と、及び支持層を含むベースとを有し、前記ベースは、前記第1外側層の第1側面に接触し、また第2側面に第2外側層を形成する多層自己支持物品を製造する方法を提供し、この方法は、
1. 既定仕上げをしたキャリヤ接触面を有するキャリヤを準備するステップと、
2. 流体第1硬化性材料の初期第1外側層を形成するステップであって、前記第1外側層の一方の側面が前記キャリヤ接触面に接触するよう形成するステップと、及び
3. 前記第1硬化性材料の前記初期外側層を少なくとも部分的に硬化し、これにより少なくとも部分的に硬化した第1外側層を形成するステップであって、前記キャリヤ接触面に接触する前記少なくとも部分的に硬化した前記第1外側層の前記側面が前記物品の第1外側層を構成し、前記自己支持物品を生産するよう、前記第1外側層は前記ベースとともに前記キャリヤから(又はその逆に)剥離可能であるようにする、ステップと
を備える。
【0009】
幾つかの実施形態において、このように調製した多層物品は可撓性多層物品である。このような多層物品を組み込む仕上げ済み物体は、多様な形状を有することができ、物品は、一般的にはシートとして見られることができ、これは幾つかの実施形態においてウェブとして製造され得る場合でも言える。可撓性であってもなくても、任意のこのような物品は、したがって、製造完了時に物品の厚さ分だけ離れる2つの主な平面状外表面によって特徴付けすることができる。第1外表面及び第2外表面は同一である必要はなく、本明細書における用語「第1外表面(first outer surface)」は、画定されるキャリヤ表面に接触する間に所望組成物が硬化することによって調製される物品の側面に言及するものである。
【0010】
キャリヤ接触面仕上げと簡単に称されもするキャリヤ接触面の規定仕上げは、このような表面がとることができる任意な特性とすることができ、このような特性としては、とりわけ粗さ/滑らかさ、疎水性/親水性、表面吸湿性/水飽和、表面エネルギー、表面電荷、表面極性、及び物品表面を特徴付ける際に当てにされる同様の特性がある。キャリヤの幾つかのこのような「仕上げ特性(finish properties)」は、キャリヤに形成されまた少なくとも部分的に硬化した外表面の対応する仕上げ特性にある程度影響することができる。物品仕上げとも称することができる外表面の仕上げは、キャリヤ接触面によって誘発される、又はさもなければキャリヤ接触面の仕上げを少なくとも部分的に模倣又は再現するものであるが、このような用語はそれぞれの仕上がりが同一である又は逆対称であると言っていることを意味するものではない。ある程度は、このような外表面は、完全に硬化した後、他の物質(例えば、外表面がITMのリリース層であるときのインク又はトリートメント溶液)と相互作用し、したがって、製造方法は、製造された物品と、使用されるべき組成物又は構体との間における相互作用/界面に付加的に影響し得る。
【0011】
したがって、本発明の幾つかの実施形態の態様によれば、間接印刷システムに使用するための中間転写部材(ITM)であって、ITMは、ITMの外側インク転写面を画定するリリース層と、支持層を含むベースとを有し、ベースはリリース層と接触するものである、該ITMを製造する方法を提供し、この方法は、
1. キャリヤ接触面を有するキャリヤを準備するステップと、
2. 流体第1硬化性材料の層を形成するステップであって、前記層の一方の側面が前記キャリヤ接触面に接触し、前記層が初期リリース層を構成するよう形成するステップと、及び
3. 前記第1硬化性材料の前記初期リリース層を少なくとも部分的に硬化し、これにより少なくとも部分的に硬化したITMのリリース層を形成するステップであって、前記キャリヤ接触面に接触する前記少なくとも部分的に硬化した前記リリース層の前記側面が前記ITMのインク転写面を構成し、また前記ITMを生産するよう、前記リリース層は前記ベースとともに前記キャリヤから(又はその逆に)剥離可能であるようにする、ステップと
を備える。
【0012】
本明細書記載の方法によって調製された物品が間接印刷システムで例示されるシステムであって、本発明の教示により製造される多層物品が液体インクを堆積することができるITMであるシステムを以下に説明するが、これに限定するものと解すべきではない。例えば、インクは必ずしも液体である必要はなく(例えば、ペースト、固体等でもあり得る)、インクの着色剤は、排他的に顔料又は染料である必要はなく(例えば、代案的に無機物質、例えば、金属、セラミック、マイカ、及び任意な所望の効果を発揮する類似物とすることができる)、またこのような変更例は当業者には容易に分かるであろう。したがって、用語「ITMのインク転写面」及びその変化形は、第2表面に転写される前に物質が堆積される多層物品の最外側表面に関連するものであり、最も広く適用できる意味で理解すべきである。
【0013】
本明細書で使用する用語「ベース」は、第1外側層を除外した多層物品のすべての層に言及し、例えば、リリース層を除外するITMのすべての層を意味する。それ以外の機能として、ベースはITMのリリース層を支持する。幾つかの実施形態において、ベースは、支持層として供する単一層で構成して、随意的に、追加の機能を果たす作用をすることができ、また代表的には布地を含む、又は布地で構成することができる。
【0014】
幾つかの実施形態において、ベースは、少なくとも2つの層を有する。物品がリリース層及びベースを有し、このベースが1つより多い数の層で構成するとき、物品は「多層」又は「多層化」物品であると言える。
【0015】
幾つかの実施形態において、本発明方法は、さらに、「3」のステップ後に、少なくとも部分的に硬化した第1外側層におけるキャリヤ接触面とは遠い方の側面に取り付けるステップを備える。ベースは、予調製又は予組立した構体とすることができ、この場合、一方の側面を、第1外側層の裏面サイド、すなわち上述したように調製した第1外側層とは反対側の第1外側層の側面に取り付けるだけで済む。代表的には、取り付けられないベースの反対側の側面は、最終的に完成した物品の第2外表面を構成する。ベースが予調製又は予組立したものであるとき、完成した物品のこのような第2外表面は本明細書に記載した方法によって調製することができる。代案として、ベースは第1外側層(キャリヤ接触面から遠い方の側面)に、以下に詳細に説明するように形成することができる。
【0016】
キャリヤにおける2層又は多層のストリップ(第1外側層及びベースを有する)は、キャリヤから剥離可能な自己支持ストリップを形成する。換言すれば、キャリヤ及び2層又は多層のストリップは、ストリップの構造的完全性にダメージをあたえることなく、また好適には、キャリヤの構造的完全性に干渉することなく、互いに取り外すことができる。さらに、キャリヤから分離されていても、自己支持多層ストリップは支持剤とは独立して連続的物品としての構造的完全性を維持する。
【0017】
総称的に、第1外表面の裏面サイドにおけるベースの取付け又は形成を「ステップ‘4’」と称するが、副層の数には無関係に、ベースは副層を有することができ、的確なサブステップが関与し、この場合、幾つかの実施形態において、本発明方法は、さらに、「3」及び/又は「4」のステップに続いて、第1外側層又はリリース層をキャリヤから分離することなく物品又はITMの製造を仕上げるステップを備える。
【0018】
幾つかの実施形態において、本発明方法は、さらに、「3」及び/又は「4」のステップに続いて、第1外側層又はリリース層をキャリヤから分離することなく物品又はITMをパッケージングするステップを備え、これにより輸送中における第1外表面又はインク転写面の保護層としてキャリヤを供することができるようにする。
【0019】
幾つかの実施形態において、本発明方法は、さらに、「3」及び/又は「4」のステップに続いて、第1外側層(若しくはリリース層)及び/又は物品(若しくはITM)を完全に硬化するステップを備え、この場合、第1外側層又はリリース層をキャリヤから分離しても、しなくてもよい。
【0020】
幾つかの実施形態において、多層物品は、製造後及び利用可能であるとき保管され、保護層としてのキャリヤとともに輸送されるとともに、自己支持ストリップ及びキャリヤは使用直前に上述したように分離される。幾つかの実施形態において、自己支持多層ストリップ及びキャリヤは、製造に続いて製造場所で分離される。幾つかのこのような実施形態において、そうすることが望ましい場合に、キャリヤに代えて、その後に保護薄膜を自己支持ストリップに塗布することができる。
【0021】
そうでないと明示しない限り、本明細書で記載するいかなる2つのステップも、本発明を実現できる任意な順序で実施することができる。
【0022】
本発明における幾つかの実施形態の態様によれば、間接プリンタに中間転写部材(ITM)を備え付ける方法を提供し、この方法は、
リリース層が依然としてキャリヤと接触したまま、本明細書で記載したように調製したITMを準備するステップと、
準備したITMを間接プリンタに備え付ける備付けステップと、及び
この備付けステップに続き、キャリヤをリリース層から分離するステップと、
を備える。
【0023】
本発明における幾つかの実施形態の態様によれば、間接プリンタに中間転写部材(ITM)を備え付ける方法を提供し、この方法は、
リリース層が依然としてキャリヤと接触したまま、本明細書で記載したように調製したITMを準備するステップと、
キャリヤをリリース層から分離するステップと、及び
分離ステップ後に、準備したITMを間接プリンタ上に又は内部に備え付けるステップと
を備える。
【0024】
幾つかの実施形態において、前記備え付けステップは、随意的に、キャリヤをリリース層から分離してから1時間以内に実施する。付加的又は代案的に、前記分離ステップ後かつ備え付けステップ前にキャリヤに代えて保護薄膜をリリース層に取り付けることができる。このような保護薄膜は、この後、前記備え付けステップの前又は後にリリース層から分離することができる。
【0025】
本発明における幾つかの実施形態の態様によれば、多層物品、とくに、本明細書に記載のように製造したITMを提供する。
【0026】
本明細書及び特許請求の範囲において、動詞「備える(comprise)」、「含む(include)」、及び「有する(have)」、並びにそれらの活用形の使用は、それぞれ、動詞の目的語が必ずしも動詞の主語の部材、コンポーネント、要素、ステップ、部分の完璧な列挙ではないことを示す。
【0027】
本明細書で使用する単数形「a」、「an」及び「the」は複数言及も含み、文脈がそうでないことを明示しない限り「少なくとも1つ(at least one)」又は「1つ又はそれ以上(one or more)」を意味する。
【0028】
本明細書において、そうでないと明示しない限り、本発明技術の実施形態における特徴の条件又は関係性を修飾する「ほぼ(substantially)」及び「約(about)」のような形容詞は、その条件又は関係性が、実施形態が意図された用途における動作に許容可能な公差範囲内、又は実施される測定から及び/若しくは使用される測定機器から予測される変動の範囲内に定義されることを意味すると理解されるものである。用語「約(about)」を数値に前置するとき、±10%、又は±5%、又は±1%のみでさえ示すことを意図し、また場合によっては精密な値を示すことを意図する。
【0029】
本発明の実施形態を以下に例として添付図面につき説明する。本明細書は図面とともに、当業者に対して本発明の何らかの実施形態をどのように実施できるかを明らかにする。図面は説明目的のものであり、実施形態の構造的細部を本発明の基礎的理解に必要以上により詳細に示そうとするものではない。簡明のため、図面に示す幾つかの物体は縮尺どおりではない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1Aは、従来技術によって調製されたリリース層の断面を概略的に示す。図1Bは、従来技術によって調製されたリリース層の断面を概略的に示す。
図2】本発明により調製されたリリース層の断面を概略的に示す。
図3A】キャリヤの断面を概略的に示す。
図3B】本発明方法の一態様による、ITMの製造における異なる段階を提示する。
図3C】本発明方法の一態様による、ITMの製造における異なる段階を提示する。
図3D】本発明方法の一態様による、ITMの製造における異なる段階を提示する。
図3E】本発明方法の一態様による、ITMの製造における異なる段階を提示する。
図3F】本発明方法の一態様による、ITMの製造における異なる段階を提示する。
図3G】印刷システムに設置した後の仕上げ加工済みITMの断面図である。
図4】本発明方法の幾つかの実施形態を実施できる装置を概略的に表示する。
図5A図4の装置を使用する異なる製造段階を概略的に表示する。
図5B図4の装置を使用する異なる製造段階を概略的に表示する。
図5C図4の装置を使用する異なる製造段階を概略的に表示する。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の態様による、可撓性であるときには、間接印刷システムに使用するための中間転写部材(ITM)として適している物品のような、仕上げ加工済み外表面を有する多層物品を製造する方法を提供する。幾つかの実施形態において、仕上げ加工済み外表面は従来技術に対して幾つかの利点をもたらす。
【0032】
以下の記載においてITMをより詳細に説明するが、本明細書に記載の方法は、広範囲にわたる多層物品、とくに、可撓性多層物品の調製に適している。したがって、ITMは非限定的な例として解すべきである。
【0033】
従来技術において、ITMの支持層は、ITMが完成するまで他のITM層を追加していく物理的に堅牢な支持構体として使用される。初期リリース層を構成する流体硬化性材料の層を先行層の頂部に最上層として形成し、形成されたリリース層の外表面はインク転写面を有する。この結果、インク転写面の仕上がりは、少なくとも部分的に下側層によって決定され、またひいては様々な障害を被り易い。
【0034】
さらに、リリース層は最上層であるため、インク転写面で又はその近傍で気泡が堆積し、表面欠陥を生ずるおそれがある。硬化中に硬化性材料が依然として流体である間に生ずる振動は、最終的に固まって不均一なインク転写面にする波紋を生ぜしめる。ほこり及び他のデブリは初期インク転写面に沈降かつ付着し、不利にも意図又は設計した表面特性とは異なる制御されない異質な表面特性を生ずることがあり得る。
【0035】
図1A及び1Bは、上述の従来方法により調製した外側層10(例えば、リリース層)区域にこのような欠陥がどのように出現するかを概略的に示す。図1Aは、気泡に関連する異なる現象を示し、このような気泡は、いかなる硬化性組成物内にも捕捉されることがあり得るもので、排除される(例えば、脱気によって)前に硬化を生ずる場合の現象である。本体30上における層10の従来通りの製造中、構体の向きを矢印18によって示し、図面の上側区域は空気界面である。図で分かるように、小さい気泡12aが空気界面に向かって移動するとき、合体してより大きな気泡12bとなる。様々なサイズの気泡12a及び12bが層バルク内又は層表面に捕捉されたままとなり、捕捉された気泡の包絡線上方部分は突起14を形成することがあり得る。層の硬化が進行する間に表面に隣接する気泡が破裂するときにクレーター又はキャビティ16が残り、これは表面から突出する気泡の包絡線セグメントが消失した場合でも生ずる。したがって、これら現象は代表的には気泡分布の「勾配」をもたらし、上側区域は、一般的に下側区域よりも大きな泡が分布する、及び/又は断面積あたり若しくは体積あたりの泡密度が高くなる、のいずれかとなり、密度の低い及び高いは製造中の層の向きに対してである。表面における気泡由来の欠陥自明であり、表面の不均質は、一般的に、その後の例えば、インク画像とのいかなる相互作用にも悪影響を与える。このようなITMは一般的に張力及び/又は圧力の下で動作して時間とともに、クレーターは広がり、またより大きな亀裂になり得る。したがって、このような現象は表面の構造完全性及びこのような完全性がITMに付与されることになるいかなる機械的特性にも影響し得る。
【0036】
図1Bは、ほこりのような固体汚染物に関連する現象を概略的に示す。ほこりは気泡に加えて描写されているが、そのようである必要はなく、このような表面又は層の欠陥それぞれが独立的に形成する場合があり得る。外側層10が硬化した後に汚染物沈降を生ずる場合、このような汚染物22は外表面の適当なクリーニングによって除去することができる。使用前にこのようなITMの付加的な処理を必要とするためやはりこのような現象は望ましくない。さらに、このような汚染が層の未硬化中に生ずる場合、汚染物は、層10の表面に捕捉される(例えば、浮遊しているように見える汚染粒子24)か、又はリリース層内に没しさえもする(例えば、汚染粒子26)か、のいずれかが起こり得る。容易に理解できるように、大きい/重たい汚染物は小さい/軽い汚染物よりも沈み易い。
【0037】
さらに、表面欠陥のこのような問題は、関連する多層供給物の散在する「欠陥フリー(欠陥がない)」領域から最終物品を切り出すことができる場合に回避できることは容易に理解できるが、このようなでき得る選択は、供給物の絶対項又は表面積又はその双方であっても、最終物品のサイズが大きくなればなるほど選択し難くなる。幾つかの実施形態において、本発明による自己支持多層物品の領域内で随意的に選択することができるほぼ欠陥フリーの最終物品は、少なくとも1m、少なくとも2m、少なくとも5m、少なくとも10m、少なくとも15m、又は少なくとも20mの表面積を有する。幾つかの実施形態において、ほぼ欠陥フリーの表面コーティングを有する自己支持多層の表面積は、最大でも150m、最大でも125m、最大でも100m、最大でも75m、又は最大でも50mである。
【0038】
従来既知の方法とは異なり、本明細書記載の方法は、流体第1硬化性材料(fluid first curable material)の層であって、前記層の一方の側面がキャリヤのキャリヤ接触面に接触し、前記層が初期リリース層を構成するものである、該層を形成するステップを有する。前記キャリヤ接触面は、初期リリース層を保護するよう機能し、印刷中にITMの動作において作用するこのリリース層にインク転写層の望ましい特性を付与するとともに、ITMが完成するまではITMを形成するよう他の層を追加することができる物理的に堅牢な支持構体として作用する。この結果、多くの潜在的欠陥源が回避される。さらに、インク転写面の仕上がりは、絶対的ではないが、主にキャリヤ接触面によって決定される。
【0039】
図2は、本発明方法により調製した外側層56(例えば、リリース層)の断面を概略的に示す。上述の図面との比較を容易にするため、キャリヤがなく、図1A及び1Bと同一の向きで断面を示すが、製造は矢印28で示すように逆向きに行う。以下により詳細に説明するベース32は、第1外側層56が少なくとも部分的に硬化した後に第1外側層56に取り付ける。従って、製造プロセス中に支持体として作用する本体30と等価ではない。単に説明目的のため、層56は相当な数の気泡12があるものとして描出しているが、必ずしもそうである必要はない。しかし、認知できる程度に描出するとき、このような気泡は、上述したのとは明確に異なるパターンを表示することができる。先ず、層56のこのときの最上面54(例えば、インク転写面)は、先にはキャリヤと接触するよう形成されたが、何らの突起も観測されず、したがって、リリース層は表面突出気泡14(図1A参照)のような現象が回避されている。同様に、不適合な硬化性層又はキャリヤの使用であり得るクレーター又はキャビティ16として先に示したようなクレーターの存在も、ほとんど起こりそうもない。本発明方法によれば、外側層を形成することになっている硬化性材料は、好適にもキャリヤを濡らし、キャリヤとキャリヤ上に形成される初期層との間にいかなる気泡をも捕捉されることはほぼないと考えられている。したがって、万が一に存在するとしても、気泡は層のバルク内に配置される。しかし、製造が従来方法と比べて逆向きに実施されるので、気泡勾配は同一の理由で反転する。したがって、統計的見地からは(及び図2に示したように)、小さい気泡12aが大きい気泡12bよりも外表面54の近くに配置され、大きい気泡12bはベース32の近くに配置されることになる。
【0040】
<キャリヤ接触面仕上げ>
本発明者らは、インク転写面の表面仕上げが画像付けステーションで塗布されるインク液滴の拡散及び付着の程度を画定するのに役立つため、インク転写面には滑らかでよく画定された表面仕上げをするのが望ましいことを発見した。さらに、このような望ましい滑らかでよく画定された表面仕上げは、圧胴ステーションにおける粘着性薄膜の基板への転写メカニクスを促進することができる。第1硬化性材料は、流体として層を形成し、またキャリヤ接触面に接触して少なくとも部分的に硬化することから、キャリヤ接触面の表面仕上げは、インク転写面の望ましい又は所定の表面仕上げに対して効果をもたらす又は寄与するよう調整することができる。したがって、幾つかの実施形態において、キャリヤ接触面は、インク転写面に望ましい表面仕上げを与えるのに役立つ画定された表面仕上げを有する。代表的なITMに対しては、光学的等級の表面仕上げが一般的に望ましく、これは可視光の約半波長以下の平均粗さを意味する。したがって、幾つかの実施形態において、キャリヤ接触面の表面仕上げは、最大でも250ナノメートル(nm)、最大でも150nm、最大でも100nm、又は最大でも75nmの平均粗さ(Ra)を有する滑らかさである。幾つかの実施形態によれば、幾つかのポリマーフォイル、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フォイルのような積層したポリエステル薄膜、又はE.I.デュポン・ド・ヌムール&カンパニー(登録商標)社によるカプトン(登録商標)のようなポリイミド薄膜が、以下に詳細に説明するようにキャリヤとして使用するのに容易に市場で入手可能であり得る。このような商業的フォイルは、一般的には最大でも50nm若しくは最大でも30nm、又は最大でも25nmの平均粗さを有し、またひいてはこのような平均粗さを有する接触面を持つキャリヤも包含される。幾つかの他の実施形態によれば、キャリヤは、最大でも20nm、最大でも15nm、最大でも12nm、又は最大でも10nmの平均粗さのキャリヤ接触面を有して設けることができる。代表的には、Raは、少なくとも3nm、少なくとも5nm、又は少なくとも7nmである。代替的及び付加的に、キャリヤ接触仕上げは、任意な望ましい表面特性、例えば、キャリヤ接触面の任意な所望疎水性/親水性を有することができる。液体/空気/固体の界面におけるメニスカスによって形成され、濡れ角又は接触角とも称される角度が90゜を超え、基準液体が室温(約23℃)の蒸留水であるとき、表面は疎水性であると言える。通常ゴニオメータ又は液滴形状アナライザで測定され、また任意な所定温度及び圧力で評価できるこのような条件下で(例えば、周囲条件又は製造プロセス若しくは製造した物品の使用に関連する条件において)、水滴はビードを形成する傾向にあり、表面を濡らさない。逆に、接触角が90゜未満であるとき表面は親水性と見なされ、水滴は容易に拡散して表面を濡らす。
【0041】
しかし、幾つかの実施形態の態様によれば、上述の水滴で決定されるキャリヤ接触面の疎水性(親水性)は、水以外の流体によるキャリヤ接触面の濡れ性を予測されず、例えば、このような濡れ性は、一般的にはキャリヤと流体との間における表面エネルギーの差によって決定される。流体の表面エネルギーがキャリヤの表面エネルギーと同等であるとき、高い濡れを得ることができる(さらに、流体の表面エネルギーがキャリヤの表面エネルギーよりも小さい場合、完全な濡れが促進される及び/又は得られる)。しかし、流体の表面エネルギーがキャリヤの表面エネルギーよりも相当大きい場合には、少ない濡れが得られる又は濡れを防止することができる。結論として、流体の表面エネルギーがキャリヤの表面エネルギーと同等又は小さい場合、流体は疎水性キャリヤ(水はビード化を示すことがあり得る)を濡らすことができる。例えば、本発明方法で考慮される多くの(未処理)ポリマーは、水の表面エネルギーよりも相当低い、すなわち約72mJ/m(約72mN/m)よりも小さい表面エネルギーを有し、水によって濡れる傾向がない。幾つかのこのようなポリマーは厳密な疎水性であり得る。しかし、水と異なる流体の液滴は、このような他の流体がポリマー表面の表面エネルギーよりも低い表面エネルギーを有している場合、このようなポリマーをよく濡らすことができる。
【0042】
さらに、幾つかの実施形態において、表面エネルギーのこの差があっても粘性流体によるキャリヤの濡れ性をはっきりと予測されない。幾つかのこのような実施形態において、比較的低い表面エネルギーを有するキャリヤ接触面は、キャリヤ接触面の表面エネルギーよりも相当高い表面エネルギーを有する粘性流体によっては、濡れることがあり得る。このような実施形態において、粘性は流体のビード化を抑制し、またひいては流体とキャリヤ接触面との間における連続した途切れかつ壊れることのない接触の形成を促進する。換言すれば、粘性流体が低表面エネルギー表面に塗布されるとき、実際上表面の濡れが得られ、表面における流体の非平衡状態を示す。したがって、流体が硬化性であり、また定常状態に達するビード化が進行する前に流体が硬化する場合、流体と表面との間における連続した途切れかつ壊れることのない接触が安定化され得る。このようにして、本明細書で使用される用語の疎水性及び親水性は、水滴の存在下での表面(例えば、キャリヤ接触面又はITMのリリース面)を特徴付けるのに使用される。用語濡れ性及びその派生形は、より広い意味で、必ずしも水ではない流体の存在下での表面(例えば、キャリヤ接触面)を特徴付けるのに使用される。
【0043】
本発明者らは、驚くべきことに、本発明によって製造されるITMのリリース層は従来方法によって調製されたリリース層とは異なる極性を有し、外表面がキャリヤ接触面ではなく空気に対面するものであることを見出した。この予期せぬ現象を以下に例示する。
【0044】
<フォイルキャリヤ>
キャリヤは任意の適当なキャリヤとすることができる。以下に詳細に説明に説明するように、幾つかの好適な実施形態において、キャリヤは可撓性フォイル、すなわち、薄い可撓性シートとする。フォイルキャリヤの1つの利点は、適当な表面仕上げ、例えば、十分な滑らかさを有するフォイルを容易に入手可能である点である。同様に、このようなフォイルは、広範囲にわたる疎水性/親水性の表面特性、又は物品の意図した用途に供し得る任意のこのような表面特性をもたらす様々な組成を有することができる。幾つかの実施形態において、可撓性フォイルは、少なくとも10マイクロメートル(μm)、少なくとも50μm、又は少なくとも100μmの厚さを有する。幾つかの実施形態において、可撓性フォイルは、最大でも4000μm、又は2000μmまでの厚さを有する。幾つかの実施形態において、流体第1硬化性材料の初期リリース層の形成中に、キャリヤは、例えばテーブル等の連続平坦支持体上で支持する。以下に詳細に説明する特別な実施形態において、キャリヤは、初期リリース層の形成中及び/又は少なくとも部分的に硬化したリリース層上におけるベースの取付け中又は形成中に運動する。このような場合、キャリヤは、さらに、このような運動に適合する機械的特性を有することが必要となり得る。
【0045】
仕上げ済み物品は、キャリヤと、このキャリヤ上に取り付けられる自己支持ストリップであって、リリース層及びベース層よりなる該自己支持ストリップと、を備える。この自己支持ストリップは、キャリヤから剥離可能であり、すなわち、キャリヤ及び自己支持ストリップは、剥離によって互いに分離することができ、ストリップの構造上の完全性、及び随意で好適には、キャリヤの構造上の完全性を損なうことなく互いに分離することができる。このような剥離は自己支持ストリップのリリース層を露出させ、ストリップを使用準備が整った状態にする。このような剥離は、幾つかの実施形態によれば、ストリップ使用のできるだけ直前に行えることを強調する。換言すれば、以下に説明するように、製造に続いて、ストリップが取り付けられた状態のキャリヤは、保管され、次に使用のために輸送されるとともに、この保管及び輸送の期間中にストリップのリリース層は物理的損傷及びほこりから保護される。しかし、このような分離が行われる時点-製造場所で仕上げ済みストリップの構成直後か又は使用直前か-とは無関係に、キャリヤは、キャリヤを自己支持ストリップから取り外すのに必要なこのような剥離ステップに耐えることができる。換言すれば、キャリヤは、このような取外しを行うに必要な剥離強度よりも大きな引裂強度を有するよう構成する。
【0046】
キャリヤ及びキャリヤ接触面は、材料が製造方法と適合性がある限り、任意の適当な材料、又は材料の組合せとすることができる。場合によって、それらは方法の動作条件に耐える必要があり、例えば、少なくとも硬化要因(例えば、熱硬化に必要な温度、又はUV硬化等に必要な照射)、圧力、張力、又は多層構体の調製中に加わり得る任意な他のパラメータに耐性を示すことが必要である。より具体的には、キャリヤは、硬化プロセス中及び随伴曝露中、例えば、一般的に200℃にもなる硬化温度に対する曝露中(又はUV硬化ステップを有する実施形態においては、UV放射等に対する随伴曝露中)に機械的完全性を維持することができる。キャリヤの機械的完全性は、本明細書で「構造的完全性」と互換的に使用され、また例えば、寸法安定性、すなわち形状歪みがないこと、キャリヤ接触面における仕上げ特性の安定性、すなわち、滑らかさ、しわがないこと等をはっきりと含む。このようなキャリヤの機械的完全性は、少なくとも自己支持ストリップ及びキャリヤが互いに分離するまでは維持される。
【0047】
この文脈で任意の1つの理論に固執することなく、幾つかの実施形態においては、キャリヤ接触面と流体第1硬化性材料の形成された層との間における界面に帯電又は極性相互作用があると目下のところ考えられ、これがインク転写面に対する種々の用途に、例えばITMを使用して印刷するときに有利な特性を与える。おそらくは、このような実施形態において、第1硬化性材料が依然として液体である間にその極性基がキャリヤ接触面における基と相互作用し、硬化性層の表面の方向に極性基が整列する。これに続いて、少なくとも認知できる度合いまでこの整列を維持するに十分な程度に硬化を達成する。幾つかの実施形態において、第1硬化性材料の極性基のこのような整列は、インク転写面の化学的コンディショニング剤、インク及び/又は粘着性層との相互作用に影響し得る界面化学及び表面エネルギーの変化を生ずるに至る。
【0048】
<金属のキャリヤ接触面>
幾つかの実施形態において、キャリヤ接触面は、金属(例えば、クロム、金、ニッケル)表面、及び金属酸化物(例えば、酸化アルミニウム)表面よりなるグループから選択された表面を有する。幾つかの実施形態において、形成された層の流体第1硬化性材料における極性基は、キャリヤ接触面に現れる金属(例えば、アルミニウム)原子と相互作用すると、現在では考えられている。
【0049】
幾つかの実施形態において、キャリヤは、金属フォイル、アルミニウムフォイル、金属化ポリマーフォイル(例えば、金属化PET)及びアルミめっきポリマー(アルミめっきPET)フォイルよりなるグループから選択される材料を含む、また幾つかの実施形態においては、このような材料で構成する。幾つかの実施形態において、ポリマーフォイルは燻蒸アルミニウム金属でコーティングする。
【0050】
<ポリマーのキャリヤ接触面>
幾つかの実施形態において、キャリヤ接触面は、ポリマー表面を含む、また幾つかの実施形態においては、ポリマー表面で構成する。
【0051】
幾つかの実施形態において、キャリヤ接触面は、Si-O-Si又はC-O-Cのような極性基を有するポリマー(高分子)表面を含む。このような極性基は明らかに極性寄与を有するとともに、代表的プロセス条件の下に他の種と化学反応することが予想される。幾つかの実施形態において、ポリマー表面の極性基としては、カルボニル基(RCOR)、カルボキシル基(-COOH、-COO)、アミド基(-CONH)及びこれらの組合せがあり得る。幾つかの実施形態において、形成されるリリース層又は外側層の極性基及び/又は官能基はキャリヤ接触面に現れる極性基及び/又は官能基と相互作用し得ると現在では考えられている。
【0052】
幾つかの実施形態において、キャリヤ接触面は、少なくとも1個の自由電子対を有する極性基及び/又は官能基を含む。幾つかのこのような実施形態において、少なくとも1個のこのような極性基及び/又は官能基は、カルボキシル基、カルボニル基、アミド基、及びこれらの組合せよりなるグループから選択される。幾つかのこのような実施形態において、キャリヤ接触面は、カルボニル基及びアミド基よりなるグループから選択された少なくとも1個の自由電子対がある官能基を有する。幾つかの実施形態において、形成された層の流体第1硬化性材料における官能基はキャリヤ接触面に現れる官能基の自由電子対と相互作用すると、現在では考えられている。
【0053】
幾つかの実施形態において、キャリヤ接触面は、主に、ポリエチレン・テレフタレート(PET)のようなポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標)で例示されるPTFE)のようなポリフルオロカーボン、ポリイミド(例えば、カプトン(登録商標)薄膜としての、ポリ(4,4’-オキシジフェニレン-ピロメリトイミド))よりなるグループから選択されたポリマーを含む、又はこのようなポリマーでほぼ構成する。PET及びカプトン(登録商標)のフォイルは、キャリヤとして使用するのに特に適している。PET及びカプトン(登録商標)の薄膜は強く、比較的高い引裂強度及び引張強度、並びに硬化に必要な温度(例えば、200℃にも達する)での極めて良好な寸法安定性を有する。さらに、PET及びカプトン(登録商標)のキャリヤは、フォイルの大きなシート、例えば、数10メートル(例えば、25m以上、50m以上、75m以上、若しくは100m以上)又は数100メートル(例えば、500mにも達する、1000mにも達する、若しくは2000mにも達する)の長さ、並びに1メートル(m)を超える、また2mを超えることさえある幅のシートとして市場で入手可能であり、大型フォーマット(例えば、約1.5m)印刷機用のITMキャリヤとして好適なフォイルにできる。フォイルは代表的には、100nm未満の平均粗さの滑らかさを有する。フォイルは1ミリメートル(mm)未満~25μm未満にわたる範囲の多様な厚さで入手可能であり、薄膜厚さは、必要な引裂強度を生ずる、すなわち、硬化した流体第1硬化性層を分離するとともに、自己支持ストリップをキャリヤから剥離する(又はその逆で剥離する)際に関与する引裂力に耐えるよう選択することができる。PET及びカプトン(登録商標)のフォイルは、中位の表面エネルギー(代表的には未処理時に約35~45mN/mの範囲における)を有し、したがって疎水性であり、また表面における官能基がほぼなく(その効果に対する処理を施さない限りにおいてであり、この場合、表面エネルギーは約60~70mN/mの範囲内にあり得る)、したがって、表面への付着を阻止するするキャリヤとして好適である。このようなフォイルは、結果として硬化した流体第1硬化性材料の表面からの分離を容易にすることができる。幾つかの実施形態によれば、PETは、相当安価であるためキャリヤとしてカプトン(登録商標)よりも好適である。
【0054】
<キャリヤによる硬化済み材料に対する親水性誘発>
幾つかの実施形態において、キャリヤ50は、有利には、親水性キャリヤ接触面を有するように構成される又は適合させるものとすることができ、このような親水性は、キャリヤと接触する表面コーティング、例えば、リリース層のリリース面に増大した親水性を誘発するのに採用される。本明細書における「親水性」は相対的な意味で使用され、比較的高い表面エネルギーEを有するキャリヤ接触面を採用して、リリース面の表面エネルギーを変更できることを意味する。より具体的には、EがEよりも小さいものとして自然発生的表面エネルギーEを有する硬化性材料を使用して、キャリヤ上にリリース層を形成し、これによりリリース層のリリース面はEよりも大きい表面エネルギーEを有することになる。換言すれば、リリース層の表面エネルギーEは、本発明教示によりリリース層をキャリヤ接触面に形成することによって、改変、決定又は調整する(自然発生的表面エネルギーEに対して)ことができる。幾つかのこのような実施形態によれば、キャリヤは前処理する、又は特定表面エネルギー(特定の親水性/疎水性によって示される)を有するよう構成される若しくは適合させることができ、これによりリリース面の所望表面エネルギー(及びひいては所望親水性)が得られる。さらに、表面の「特定親水性/疎水性」は、従来周知であり、以下に示す実施例で利用するように、表面における水滴の接触角測定によって定量的に評価できることに留意されたい。
【0055】
幾つかの実施形態によれば、以下の詳細な実施例で示すように、キャリヤ50は親水性キャリヤ接触面を有するように構成される又は適合させるものとすることができ、これにより、初期に親水性を示す硬化性材料から形成されるリリース層の親水性を大きく増大することができる。幾つかの実施形態によれば、キャリヤ薄膜は、例えば、幾つか例を挙げると、長鎖脂肪族アミン(随意的に、エトキシ化された)及びアミド、第4級アンモニウム塩(例えば、塩化ベヘントリモニウム又はコカミドプロピルベタイン)、リン酸のエステル、ポリエチレン・グリコール・エステル、又はポリオールに基づいた静電気防止剤の添加によって処理することができる。このような静電気防止剤の分子は、親水性エリア及び疎水性エリアの双方を有すると考えられている。疎水性サイドはキャリヤの表面と相互作用し、また親水性サイドは空気中水分と相互作用し、周囲の水分子と結合して薄膜に静電気防止性をもたらす。想定される静電気防止分子(又は、キャリヤに存在しても他の層若しくは材料に存在しても、疎水性-親水性軸線又は極性軸線に沿って同じように整列できる任意な他の分子若しくはその一部)の配向性は、分極とも称される。材料の分極能力は、上述したように、材料の化学的構造、その材料によって形成される層の架橋密度、及びこのような分子自体をこのような層に整列させる容量に基づくものであり得る。このような整列は一般的に硬化中に生じ、材料は依然として流体のまま、分子はより高い移動度を有する。しかし、このような分極は硬化済み層においても起こり得ることを排除できない。
【0056】
市場で入手可能な静電気防止PET薄膜をキャリヤとして使用するこの実施例において、キャリヤ接触面における幾分の親水性特性をリリース層表面(及びより一般的には本発明方法によって調製された任意な表面コーティング)に誘発する。
【0057】
換言すれば、キャリヤ50は、有利にも、市場で入手可能な静電気防止性ポリマー薄膜、例えば、PETのようなポリエステル薄膜で形成することができる。
【0058】
このような静電気防止性キャリヤの驚くべき利点を、ポリエステル薄膜がPETで形成された以下の実施例で説明する。同一の第1硬化性組成(以下に詳述する硬化性リリース層調合No.1)を、3つの異なるキャリヤ:a)SKC社による市場で入手可能なSkyroll SH 76のような、未処理ポリエステル薄膜(すなわち、静電気防止性でない);b) SKC社による市場で入手可能なSkyroll SH 92のような、静電気防止性ポリエステル薄膜;及びc) Hanita社から入手可能なアルミめっきしたポリエステル薄膜に塗布した。
【0059】
例示的硬化性リリース層調合No.1は、以下の表1に提示した材料を完全に混合することによって調製した。
【0060】
【表1】
【0061】
調合No.2でより詳細に説明するような硬化性流体を、3つの試験キャリヤに塗布し、また同様にして硬化させた。キャリヤは剥離し、予めキャリヤに接触している表面を露出させたが、このような表面は、印刷システムにおけるインク画像受取面として供することを意図するものである。蒸留水の0.5~5マイクロリットル(μl)水滴の進行接触角(ACA)及び/又は後退接触角(RCA)を、異なるキャリヤ及びこれらキャリヤに流延(キャスティング)された硬化済みリリース層のインク受取面で測定した。比較のため、接触角は、流延中及び硬化中に空気に対面するリリース層表面(すなわち、さらにベースにも付着することができる表面コーティングの背面)でも評価した。
【0062】
比較的小さい接触角(親水性がより高い表面である傾向を示す)は、下側層内で分子のより多い割合が疎水性-親水性方向に沿って配向されることに相関すると見なされる。換言すれば、表面における比較的小さい接触角は、比較的大きい接触角(疎水性がより高い表面である傾向を示す)を有する表面と比べると、下側にある分子又はその分子一部がより高い分極性であることを示唆する。
【0063】
すべての接触角測定は、接触角アナライザ:クリュスTM「Easy Drop」FM40Mk2及び/又はデータフィジクスOCA15 Pro(オーストラリア国ニューサウスウェールズ州ゴスフォードのパーティクル・アンド・サーフェス・サイエンシズPty社)で実施した。この結果を表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
驚くべきことに、表面コーティングの背面サイド(通常空気界面で調製される層の疎水性に近似するのに供される)の疎水性が約90゜であったが、ここで試験した本発明により調製されたリリース層のインク転写面は、最大でも約60゜という著しく低い値を示した。未処理及びアルミめっきのPETは比較的類似したまたドラマチックな効果を示したとともに、静電気防止性PETは先のキャリヤの約60゜から約45゜へとさらにRCA値を低下させた。このような結果は、リリース層は(その化学的組成に基づいて)疎水性であることが予想されたため、驚くべきことである。これは層の背面サイドで示されたRCAによって確認された。本発明者らは、しかし、驚くべきことに、本発明方法によって製造されたリリース層の表面は、実際に幾分親水性を示すことができ、また対応するリリース層、すなわち、同一組成を有するもののリリース層が空気に露出する従来硬化技術(「標準空気硬化」)を用いて製造されたリリース層よりも、目立ってより親水性が高いものである。理論に束縛されたくなく、本発明者らは、キャリヤ接触面と初期リリース面との間における緊密接触中にキャリヤ接触面の幾分の親水性特性がリリース層の表面(及びより全般的に本発明方法によって調製された任意な表面コーティング)に誘発されると考える。
【0066】
表2から分かるように、キャリヤに対面しつつ形成された表面のRCAは、それぞれに対応するキャリヤのRCAよりも約20゜大きく、またその組成自体が示すと考えられるRCAよりも約30゜小さい。そのより親水性の高いキャリヤ及びそのより高い疎水性組成と比較して、表面コーティングのRCAを包囲する「マージン(縁)」が変動することは排除できないが、任意な特定の理論に束縛されたくなく、本発明方法により調製された表面コーティングは、親水性/疎水性の特性が同一調合における空気で硬化したものの特性とキャリヤ表面自体の特性との間にある接触面を有する。したがって、既知の疎水性(又はこの実施例で説明した親水性)を有するキャリヤの選択は、少なくとも或る程度、表面上に流延がなされる該表面の疎水性を左右する。ここで使用するキャリヤをさらに物理的又は化学的処理方法で処理することができるため、幾つかのこのような実施形態において、この処理がキャリヤの疎水性/親水性を変更させることができ、またこのことが、例えば、RCA測定によって評価されるように、表面コーティングの疎水性/親水性に影響できるようになる。
【0067】
<流体第1硬化性層表面の形成>
上述したように、流体第1硬化性材料の層は、キャリヤ接触面に接触する該層の一方の側面で形成され、この層はITMの初期リリース層を構成する。
【0068】
キャリヤ接触面と層との間における適正接触を確実にするため、並びに加工を容易にするため、幾つかの実施形態において、キャリヤ接触面は流体第1硬化性材料で濡れることができるものとする。濡れることができるキャリヤ接触面にすることは、有利にもそこに形成すべき層の均一性を向上させる。このような向上した濡れ性は、さらにピンホール、「オレンジピール(オレンジの皮)」等のような表面の欠陥を減らすこともでき、又は欠陥減少に関連することもできる。したがって、幾つかの実施形態において、キャリヤ接触面の表面エネルギーは、20~70mJ/mの間、25~65mJ/mの間、又は30~60mJ/mの間とすることができ、このような値は、周囲温度(およそ23℃)の蒸留水で決定される。
【0069】
流体第1硬化性材料の層形成のプロセスを簡素化するため、幾つかの実施形態において、流体第1硬化性材料は、層形成中に少なくとも10℃ではあるが50℃を超えない温度にする。幾つかの実施形態において、この温度は少なくとも15℃である。幾つかの実施形態において、この温度は、高々40℃まで、また35℃まででさえもある。
【0070】
幾つかの実施形態において、流体第1硬化性材料の初期リリース層形成は、キャリヤ接触面上に流体第1硬化性材料の層を堆積し、これにより初期リリース層を形成するステップを有する。幾つかの実施形態において、キャリヤ接触面上の流体第1硬化性材料の層堆積は、流体第1硬化性材料をキャリヤ接触面上に流し込むステップを有する。
【0071】
層は任意の適当な厚さである。幾つかの実施形態において、初期リリース層の厚さは、ほぼ完全に硬化したとき、結果として生ずるリリース層が2マイクロメートル未満かつ200μmまでの厚さとする。本明細書における語句「ほぼ完全に硬化した(substantially fully cured)」は、硬化がそれ以上大きな寸法変化を受けない段階に達した又はその段階を過ぎたことを意味する。
【0072】
幾つかの実施形態において、ITMのリリース層が優れた印刷結果を生ずる比較的均一な厚さとなるのが望ましい。したがって、幾つかの実施形態において、塗布した流体第1硬化性材料の層の厚さ変動は、ほぼ完全に硬化したとき、結果として生ずるリリース層の厚さ変動が所定厚さの5マイクロメートル以内、又は2マイクロメートル以内、又は1μm以内、又は0.5μm以内、又は0.2μm以内であるようにする。幾つかの実施形態において、塗布した流体第1硬化性材料の層の厚さ変動は、ほぼ完全に硬化したとき、結果として生ずるリリース層の厚さ変動が所定厚さの20%以内、又は15%以内、又は10%以内、又は5%以内であるようにする。幾つかの実施形態において、流体第1硬化性材料の層形成中、流体第1硬化性材料の形成される層の厚さを、第1硬化性材料が依然として流体である間に、例えば、ナイフ、バー、又はローラで機械的な調整を受けるようにする。当業者であれば、層の所望厚さ及び/又は必要精度に従うこのような平滑化手段の選択をどのようにするかは知っているであろう。
【0073】
<硬化>
流体第1硬化性材料は、急速硬化及び緩慢硬化の方法を含めて任意の適当なやり方で硬化する。選択される硬化方法は、使用する第1硬化性材料の特別な調合に基づくものであり得る。
【0074】
幾つかの実施形態において、方法は、さらに、流体第1硬化性材料の層に熱を加え、これにより層の硬化率を上げるステップを備える。
【0075】
幾つかの実施形態において、方法は、さらに、流体第1硬化性材料の層に対して放射線照射をし、層の硬化率を上げるステップを備える。この放射線照射は、例えば、UV光及び電子ビームのような任意の適当な放射線で行う。
【0076】
<流体第1硬化性材料>
上述したように、適当な流体第1硬化性材料は、好適には、ほぼ室温で成形するよう構成されるもの、すなわち約10℃~50℃の間における流体、また幾つかの実施形態においては、約15℃から約40℃までの間、又は約35℃まででさえもの間における流体とする。さらに、選択されたキャリヤで使用するとき、適当な流体第1硬化性材料は、好適には、キャリヤ接触面を濡らし、キャリヤ接触面と初期リリース層のリリース面との間に連続した途切れかつ壊れることのない接触が得られるようにする。このような連続した途切れかつ壊れることのない接触は、ほぼ欠陥フリーである、又は--代替的若しくは付加的に--キャリヤ接触面の平滑さより劣ることのない平滑さを有するリリース面を生成することを容易に支援することができる。
【0077】
シロキサン及びポリウレタンのようなシリコーンは、ほぼ室温で流体であり、また本明細書記載の方法に適した温度で熱硬化可能な熱塑性材料の2つの例である。硬化したシロキサン及びポリウレタンは、さらに、作動条件--とくに、印刷機におけるITMの作動条件に特徴的である温度、圧力及び化学物質への曝露に対して比較的弾(力)性を示す。用語「弾(力)性(resilient)」において、このようなリリース層を有するITMは、リリース層にダメージを与えることなく強度及び時間に関する適正作動負荷の下でよく機能することを意味する。
【0078】
様々な(硬化済み)シリコーンエラストマー(シロキサンのような)又はポリウレタンは広範囲にわたる硬度で入手可能であり、約40ショアAより低い、若しくは30ショアA若しくは20ショアAほどさえもの低硬度、又は例えば、約40~60ショアAの間における中硬度、又は例えば、約60~90ショアAの間における高硬度すらもあり得るもので、したがって、このようなシリコーン/シロキサン又はポリウレタンをITMのリリース層に適したものにする。
【0079】
ポリエステルPET又はポリイミドカプトン(登録商標)薄膜のようなポリマー製キャリヤの幾つかのタイプに使用してそのキャリヤ上に層を形成するとき、シロキサン及びポリウレタンのようなシリコーンエラストマーは、一般的にキャリヤ接触面(定常状態にある)を濡らし、20~35mN/mの範囲における、すなわち、このキャリヤの表面エネルギーに匹敵する又は低い表面エネルギーを有するものにする。幾つかの実施形態によれば、概して本明細書記載の方法の範囲内で望ましいこのような濡らしは、キャリヤ接触面に加える既知の表面処理、例えば、プラズマ若しくはUV放射線による、又はコロナ処理、又は化学処理(例えば、例えば、界面活性剤を含む処理流体の塗布)による活性化を用いて高めることができる。しかし、キャリヤ接触面のエネルギーを向上させ得るこのような表面処理は、例えば、その後の剥離を妨げることになる程度に、硬化済み(又は部分的に硬化した)表面コーティング若しくはリリース層のキャリヤに対する付着性を高めるおそれもある。
【0080】
硬化に続いてリリース層がキャリヤ接触面に対する付着は、所望範囲内で好ましい場合があることに留意されたい。付着が不十分(すなわち、弱すぎる)場合、リリース層(印刷中にインク転写面として供されることになる)は、インク転写面の変形を招くことになる硬化中に、又は幾つかの他の望ましくない時点でキャリヤ接触面から分離し得る。付着が強すぎる場合、ITMのキャリヤ接触面からの分離中にキャリヤ接触面は断裂し、残渣がインク転写面に残るか、又は逆にリリース層の一部が引き裂かれて残渣が剥離したキャリヤに残るか、又はインク転写面がその他のダメージを受けることがあり得る。
【0081】
したがって、幾つかの実施形態によれば、非限定的な例としてシロキサン及びポリウレタンを含む若しくはこれらからなるシリコーンエラストマーのような未硬化熱塑性材料は、好適には、キャリヤの事前表面処理することなく、PET又はカプトン(登録商標)で形成したポリマーキャリヤ上に用いることができる。このような実施形態において、キャリヤ及び熱塑性材料双方の不活性の性質--すなわち、それらの界面での強い化学反応がないこと--により、強い付着を防止し、キャリヤに取り付けられた硬化済み又は部分的に硬化した層を維持する残留付着は未硬化材料によるキャリヤの予備濡らしから生ずる。
【0082】
幾つかの実施形態によれば、流体第1硬化性材料(上述した硬化性材料、例えば、シロキサンのような)を、例えば25mN/mより低い、又は約20mN/mですらよりも低い低表面エネルギーを有するキャリヤ(例えば、テフロン(登録商標)製キャリヤ接触面)に塗布することができる。このような場合、液体がキャリヤ接触面よりも高い表面エネルギーを有する場合、流体第1硬化性材料の粘性が定常状態にあると予想される流体のビード化を抑えるに十分高いものであることから濡れは依然として生じ得る。換言すれば、粘性流体第1硬化性材料を低表面エネルギーのキャリヤ接触面に採用することによって、流体のビード化は抑制され、したがって、連続した途切れかつ壊れることのない接触が流体第1硬化性材料とキャリヤとの間に得ることができる。この後、硬化又は少なくとも部分的な硬化が、好適にも、流体第1硬化性材料のキャリヤ上への塗布又は展開後の十分短い時間内に発揮されて、大きなビード化が生起する前にリリース層を硬化することができる。さらに、キャリヤ接触面の低表面エネルギーに起因して、硬化に続く硬化済みリリース層のキャリヤ接触面に対する付着を所望範囲に制限することができ、その後の剥離によるキャリヤからのリリース層の取外しを容易にする。
【0083】
何らかのシロキサンを採用して、上述したような金属化表面上に層を形成することができる。例えば、付加硬化性シロキサンは一般的には金属化表面(例えば、アルミニウム表面)には付着せず、またこのため本明細書に記載のようなキャリヤから剥離可能なリリース層を、アルミニウム板、又はアルミニウムフォイル、アルミニウムめっき薄膜のようなアルミニウム表面上に形成することができる。これとは逆に、縮合硬化性シロキサンは、一般的にはアルミニウム表面のような金属化表面に自然に形成される酸化層に付着することができ、したがって、このような場合好適ではない。しかし、市場で入手可能な幾つかのアルミニウムめっきしたポリマーフォイルにおいて、アルミニウム表面をさらにコーティングし(例えば、ニトロセルロースによって)、これによりアルミニウムめっきフォイルを縮合硬化性シロキサンに対してもキャリヤとして好適なものにする。
【0084】
第1硬化性材料は、硬化したときITMのインク転写面として使用するのに適した特性を有するよう選択することができる。このような特性は、インク調合と化学的適合性を有し、その特性は、画像付けステーションにおインク転写面に塗布されたインク液滴を保持し、かつその粘着性薄膜を一般的には全体的に破断又は変形させることなく基板にリリース(釈放)するものである。
【0085】
幾つかの技術において、間接印刷は予めコーディングしたITM上で行い、このようなインク取付け及びリリースを容易にし、この場合、ITMの外表面は、その代わりにコンディショニング処理と適合性があるものにする必要がある。化学処理の場合、上述の原理は、インク調合物で先に説明したのとほぼ同様にコンディショニング調合物にも適用できる。本明細書では説明を簡潔にするため、ここで考慮される相互作用は、インク転写面とインク調合物との間におけるものであり、このような用語は限定的なものと解すべきではない。
【0086】
幾つかの実施形態において、流体第1硬化性材料は、シリコーンポリマー、例えばポリジメチルシロキサンを備える。
【0087】
幾つかの実施形態において、流体第1硬化性材料は、ビニル末端シリコーンポリマー、例えばビニル末端ポリジメチルシロキサンを備える。
【0088】
幾つかの実施形態において、流体第1硬化性材料は、ビニル-官能基(vinyl-functional)シリコーンポリマー、例えば末端ビニル基の他に少なくとも1つの側鎖ビニル基を含むビニル-シリコーンポリマー、例えばビニル-官能基ポリジメチルシロキサンを有する。
【0089】
幾つかの実施形態において、流体第1硬化性材料は、熱硬化可能な付加硬化性シリコーンポリマーを備える。熱硬化性材料は、リリース層として使用するのに適した材料を含むという利点を有する。
【0090】
幾つかの実施形態において、流体第1硬化性材料は、縮合硬化性シリコーンポリマーを備える。
【0091】
<ITMのベース形成>
上述したように、ITMは、少なくとも2つの、また一般的には2つより多い数の層、例えばITMのインク転写層と、及び支持層を含むITMのベースとを有する。本発明の幾つかの実施形態における特徴は、ITMを裏返しにして(アウトサイド・インで)形成し、先ず上述したように、初期リリース層を調製し、次に先に形成した層の露出側に順次その後の層を形成していく。
【0092】
<流体硬化性材料によるITMベース形成>
幾つかの実施形態において、ベースにおけるリリース層近傍の部分は、第1硬化性材料の他方の側面(他方サイド)に流体第2硬化性材料の層を形成することによって作成する。したがって、幾つかの実施形態において、本発明方法は、さらに、第1硬化性材料の層の他方サイドに流体第2硬化性材料の層を形成するステップを備え、流体第2硬化性材料の層は、ITMのベースにおける初期層を構成するものである。「第1硬化性材料の他方の側面(他方サイド)」という語句は、キャリヤ接触面に接触しない側面(サイド)を意味する。
【0093】
幾つかの実施形態において、本発明方法は、さらに、第2硬化性材料の層を少なくとも部分的に硬化し、これによりITMのベースの少なくとも一部分を形成するステップを備える。
【0094】
流体第2硬化性材料の層の厚さは、代表的には、硬化したとき流体第2硬化性材料の層が構成されるベースの層の必要厚さによって決定される。幾つかの実施形態において、流体第2硬化性材料の層の厚さは、ほぼ完全に硬化したとき、結果として生ずる支持層が100マイクロメートル以上かつ500マイクロメートル以下の厚さであるようする。
【0095】
幾つかの実施形態において、流体第2硬化性材料の層は、第1硬化性材料の層が完全に架橋されていない間に形成される。第1硬化性材料の初期層は、第2硬化性材料の新しい層を裏打ち/支持する(例えば、ドクターブレード当接に耐えるのに十分な機械的完全性を有する)よう十分に架橋したものであり、このような架橋は、ポリマー主鎖における官能基を保持して、第2硬化性材料のポリマーにおける官能基と架橋できるに十分な部分的なものである。異なる層の硬化性材料間におけるこのようなあり得る架橋は、相互付着を向上することが期待される。
【0096】
幾つかの代案的実施形態において、流体第2硬化性材料の層を形成するステップは、
第1硬化性材料の層がもはや流体ではない程度に硬化した後、下塗剤層を第1硬化性材料の層に塗布するステップと、及び
流体第2硬化性材料を下塗剤層に堆積し、これにより流体第2硬化性材料の層を形成するステップと
を有する。
【0097】
下塗剤は、第1硬化性材料及び第2硬化性材料双方を適切に結合させ、このような取付けはそれぞれの層が硬化する間に保持されるような従来既知の材料である。代表的には、下塗剤は、第1硬化性材料に結合する少なくとも幾つかの官能基と、第2硬化性材料に結合する他の異なる官能基とを含む。下塗剤層の厚さは任意の適当な厚さであり、幾つかの実施形態において、0.1~50マイクロメートル、又は100ナノメートル~5マイクロメートルの間である。
【0098】
流体第2硬化性材料の層は任意の適当なやり方で下塗剤層上に堆積する。幾つかの実施形態において、流体第2硬化性材料の堆積は、流体第2硬化性材料を下塗剤層上に注ぎ込むことによって行う。幾つかの実施形態において、第2硬化性材料は、ワイヤロッド又は任意の適切な平滑化デバイス又は類似のアプリケータを用いて下塗剤層上で平滑化する。
【0099】
固体補強材料を流体硬化性材料に付加することは、増大した強靭性及び/若しくは引張強度並びに/又は減少した変形能を含む有利な特性を有する、複合材(例えば、繊維強化プラスチック)の形成に至ることは従来既知である。
【0100】
幾つかの実施形態において、とくに、流体第2硬化性材料がベースの初期支持層を構成する実施形態において、必須ではないが、流体第2硬化性材料は固体補強材料を有することができる。幾つかの実施形態において、流体第2硬化性材料は、流体第2硬化性材料の層を形成する前に固体補強材料を有する。例えば、幾つかの実施形態において、流体第2硬化性材料は、補強材料を懸濁した状態で有する。例えば、幾つかのこのような実施形態において、流体第2硬化性材料は、固体補強材料、例えば布地を含浸させる。
【0101】
幾つかの実施形態において、本発明方法は、流体第2硬化性材料の層形成に引き続き、第2硬化性材料が依然として流体である間に、流体第2硬化性材料の層内に固体補強材料を埋設するステップを備える。例えば、幾つかのこのような実施形態において、固体補強材料、例えば布地を、依然として流体である第2硬化性材料の層内に圧入(及びこれにより埋設)する。
【0102】
幾つかの実施形態において、本発明方法は、流体第2硬化性材料の層形成に引き続き、第2硬化性材料が依然として流体である間に、流体第2硬化性材料の層における露出表面に固体補強材料を配置するステップを備える。例えば、幾つかのこのような実施形態において、固体補強材料、例えば布地を依然として流体である第2硬化性材料の層上に載置する。
【0103】
<予形成シートによるITMベースの形成>
幾つかの実施形態において、ベースのリリース層近傍における部分は、第1硬化性材料の他方サイドに予形成固体層又は固体シートを取り付けることによって作成する。
【0104】
したがって、幾つかの実施形態において、本発明方法は、さらに、
ITMのベースの少なくとも一部をなす初期層を構成するシートを準備するステップと、
第1硬化性材料の層における他方サイドにシートを接触させるステップと、及び
第1硬化性材料の層における他方サイドにシートを固定させるステップと、
を備える。
【0105】
幾つかの実施形態において、シートはポリマー製シートである。幾つかの実施形態において、シートは単に材料の単一層で作成したものである。幾つかの実施形態において、シートは少なくとも2つの異なる層を有する多層シートである。
【0106】
幾つかの実施形態において、シートの接触は、第1硬化性材料の層が依然として流体である間に実施する。第1硬化性材料の硬化中、硬化している第1硬化性材料とシートとの間に結合が形成され、これによってシートを第1硬化性材料に固定する。
【0107】
代案的に、幾つかの実施形態において、本発明方法は、さらに、
第1硬化性材料の層がもはや流体ではない程度に硬化した後、接着剤層を第1硬化性材料の層に塗布するステップと、及び
シートを接着剤層に接触させ、これによりシートを第1硬化性材料の層における他方サイドに固定するステップと
を備える。
【0108】
従来既知のように、接着剤は第1硬化性材料及びシートの双方を適切に結合する材料である。代表的には、接着剤は、第1硬化性材料に結合する少なくとも幾つかの官能基と、シートに結合する他の異なる官能基とを含む。接着剤層の厚さは任意の適当な厚さであり、幾つかの実施形態において、0.1~50マイクロメートル、又は100ナノメートル~5μmの間である。
【0109】
幾つかの実施形態において、シートは埋設した固体補強材料を有する。
【0110】
<固体補強材料>
任意な固体補強材料は、ベースにおけるリリース層に近接する層に見ることができる。
【0111】
固体補強材料の任意の適当な量は、ベースにおけるリリース層に近接する層に見ることができる。幾つかの実施形態において、この量は最大で10重量%までである。
【0112】
幾つかの実施形態において、固体補強材料は粒子を有する、また幾つかの実施形態において、粒子からなる又はほぼ粒子からなるものである。
【0113】
幾つかの実施形態において、固体補強材料は繊維を有する、また幾つかの実施形態において、繊維からなる又はほぼ繊維からなるものである。
【0114】
幾つかの実施形態において、繊維の太さは50マイクロメートル以上かつ200マイクロメートル以下である。
【0115】
幾つかの実施形態において、繊維は、有機繊維、メタアラミド、パラアラミド、ポリアミド、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、高密度ポリエチレン繊維、天然繊維、コットン繊維、無機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維、金属繊維、及びこれらの組合せよりなるグループから選択した材料を含む。
【0116】
幾つかの実施形態において、繊維は表面処理した繊維であり、この表面処理は、幾つかの実施形態において、繊維のビニルシランに対する付着を向上させるものである。
【0117】
幾つかの実施形態において、繊維は布地を構成する。幾つかの実施形態において、繊維は50マイクロメートル以上かつ200マイクロメートル以下の太さを有する。幾つかの実施形態において繊維は1プライ、幾つかの実施形態において繊維は少なくとも2プライ、幾つかの実施形態において繊維は少なくとも3プライ、幾つかの実施形態において繊維は少なくとも4プライである。
【0118】
幾つかの実施形態において、細い繊維(例えば、1mmの太さまで、又は0.8mmの太さまで、又は0.6mmの太さまで、又は0.4mmの太さまで、又は0.2mmの太さまで)で作成し、また比較的高いヤーン密度を有する布地が、特別に平滑仕上げした表面にとって望ましい。ヤーン密度は、長さ単位あたりの布地の縦糸方向及び横糸方向の糸の数で表現することができる。任意な所定方向における糸の数は、1cmあたり約10本程度の少ないもの、及び1cmあたり約20本程度又は更に30本の多いものとすることができる。各方向の糸の数は互いに等しい(例えば、10×10)とするか、又は互いに等しくない(例えば、9×8、12×10、16×15、17×12、19×13、19×12又は19×10)とすることができる。
【0119】
幾つかの実施形態において、布地は不織布である。幾つかの実施形態において、布地は織物生地である。
【0120】
幾つかの実施形態において、繊維は配向性のある繊維である。幾つかの実施形態において、繊維は、代表的には、伸張を減少するようITMの長手方向軸線に平行な方向に配向する1方向配向性のものである。幾つかの実施形態において、繊維は、代表的には、幾分かがITMの長手方向軸線に平行な方向(0゜)に配向する、また幾分かがITMの長手方向軸線に直交する方向(90゜)に配向する、2方向配向性のものである。幾つかの実施形態において、繊維は、代表的には、幾分かがITMの長手方向軸線に平行な方向(0゜)に配向する、幾分かがITMの長手方向軸線に直交する方向(90゜)に配向する、及び幾分かがITMの長手方向軸線に対して45゜又は-45゜のいずれか一方の角度をなす方向に配向する、3方向配向性のものである。幾つかの実施形態において、繊維は、代表的には、幾分かがITMの長手方向軸線に平行な方向(0゜)に配向する、幾分かがITMの長手方向軸線に直交する方向(90゜)に配向する、及び幾分かがITMの長手方向軸線に対して45゜の角度をなす方向に配向する、及び幾分かが-45゜の角度をなす方向に配向する、4方向配向性のものである。
【0121】
幾つかの実施形態において、繊維は互いに付着して不織の又は織成した布地プライを形成することができる。繊維は、経繊維(0゜)及び横繊維(90゜)を織り交ぜる任意の適当な織成方法によって織成したものとすることができる。標準パターンとしては、平織り(各縦繊維が各横繊維の下側及び上側を交互に通過する)、斜子織り(2つ以上の縦繊維が2つ以上の横繊維と交互に織り交わる)、及び下側で交差及び通過する繊維の数は代表的には約4本であるサテン織りを含むあや織り(1つ以上の縦繊維が2つ以上の横繊維の上側及び下側に交互に規則的な反復様態で織成する)があり、平織りは、有利にも高いヤーン密度及び滑らかな仕上げ表面を可能にすることができる。
【0122】
上述したパラメータのうち任意なものに基づいて、繊維は、さらに、代表的には平方メートルあたりのグラムで表現される面積あたりの重量で特徴付けすることができる。約180g/m~1000g/mにおける単位面積あたりの重量を有する繊維が好適であり得る。
【0123】
<ITMの仕上げ>
ITMの仕上げは、上述したステップに追加するステップであり、ITMの使用準備が整うようITMの製造を完了する必要があるステップである。
【0124】
幾つかの実施形態において、製造プロセス全体にわたりリリース層はキャリヤから分離されず、したがって、キャリヤはインク転写面の保護層として供される。幾つかの実施形態において、本発明方法は、さらに、リリース層をキャリヤから分離することなく、ITMの「3」のステップに続いて、仕上げ製造ステップを備える。このような実施形態は、キャリヤが製造プロセスの種々の段階中に初期ITMとともに屈曲できる可撓性フォイルであるとき好適に実施され、製造プロセスの種々の段階にはITMにとって一般的なループ形状の形成ステップがあり、大きなラミネートロール(キャリヤ、初期リリース層、及び随意的に1つ又はそれ以上のベースの層よりなる)が作成され、次に実際の特定ITMを作成するために所望長さにカットする連続生産プロセスとして方法を実施することができる。
【0125】
幾つかの実施形態において、仕上げ製造は、ベースの一部分を構成する少なくとも1つの付加層を形成するステップを有する。上述のプロセスを必要な回数だけ繰り替えして、ITMベースのために必要な数の層を作出し、この作出は、ITMの層を構成する予形成シートを固定する、又は硬化したときITMの層を構成する流体硬化性材料の層を形成することによって行う。任意の適当な層を付加し、また支持層(代表的には伸張抵抗を生ずる繊維を含む)及び柔軟なコンプライアンス層を含む。
【0126】
幾つかの実施形態において、仕上げ製造は、初期ITMの側端縁に側方突出部を付加するステップを含む。幾つかの実施形態において、このような側方突出部は、印刷機が滑りなくITMと正確に係合できるようにする。
【0127】
幾つかの実施形態において、仕上げ製造は、「ポスト硬化」ステップを有し、このステップは、ほとんど完成したITMを上昇した温度で保管し、種々の層が十分硬化し、所望の物理的特性及び/又は十分な層間付着を確実にする。
【0128】
幾つかの実施形態において、本発明方法は、さらに、リリース層をキャリヤから分離することなく、ITMの「3」のステップに続いて、パッケージングステップを備え、これにより、キャリヤ輸送中にインク転写面の保護層として供される。
【0129】
当業者はこのような付加的仕上げステップ、及びこのようなステップ又は同様のステップをどのように実施できるかについて精通しており、したがって、さらに詳細に説明することは不要であろう。
【0130】
<ITMの使用>
幾つかの実施形態において、製造プロセス全体にわたり、またITMを間接プリンタに備え付ける直前又は直後まで、リリース層はキャリヤから分離されず、したがって、例えば、保管、輸送及び設置中に、キャリヤはインク転写面の保護層として供される。
【0131】
このように、本発明における幾つかの実施形態の態様によれば、間接プリンタに中間転写部材(ITM)を備え付ける方法を提供し、この方法は、
リリース層が依然としてキャリヤと接触したまま、本明細書で記載したように調製したITMを準備するステップと、
準備したITMを間接プリンタに備え付ける備付けステップと、及び
この備付けステップに続き、キャリヤをリリース層から分離するステップと、
を備える。
【0132】
このように、本発明における幾つかの実施形態の態様によれば、間接プリンタに中間転写部材(ITM)を備え付ける方法を提供し、この方法は、
リリース層が依然としてキャリヤと接触したまま、本明細書で記載したように調製したITMを準備するステップと、
キャリヤをリリース層から分離するステップと、及び
準備したITMを間接プリンタ上に又は内部に備え付ける備付けステップであって、前記備え付けは、随意的に、キャリヤをリリース層から分離してから1時間以内に実施するものである、該備付けステップと、
を備える。
【0133】
<中間転写部材(ITM)>
本発明における幾つかの実施形態の態様によれば、本明細書で記載したように調製したITMを提供する。
【0134】
本発明による物品の生産は図3Aに参照符号50で示すキャリヤを準備することから開始する。すべての図面において、仕上げ済み物品部分を形成する層と区別するため、キャリヤ50を中塗りの黒ラインとして示す。
【0135】
キャリヤ50は、キャリヤ接触面52を構成する上面を有し、このキャリヤ接触面52の仕上げは仕上げ済み物品の表面コーティングの所望仕上げに合致する。
【0136】
幾つかの実施形態において、ITMのために、キャリヤ接触面52は、滑らかな又はよく磨き上げられた平坦な表面(約125nm未満、例えば50nm~100nmの間における粗さRaを有する)であって、代表的には少なくとも1,000cm、少なくとも5,000cm、又は少なくとも20,000cmの面積内に欠陥がない(欠陥フリーの)平坦表面とすることができる。幾つかの実施形態において、物品にとっては、艶消しの又はパターン(模様)付きの表面を有するのが望ましい場合がある。可撓性フォイルには、一般的にその表面粗さに関連する情報を設けるが、必要な場合には日常の実験によって当業者には既知の標準測定方法を用いてこのようなデータを評価できるようにし、例えば、低エネルギー電子線回折法、走査トンネル顕微鏡法(STM)、及び原子間力顕微鏡法(AFM)を用いて評価できるようにする。
【0137】
幾つかの実施形態において、キャリヤ接触面は、ミクロのスケール、すなわち、本明細書に記載の表面の滑らかさの観点でのみならず、マクロのスケール及びより広い意味でも波形がない平坦なものとすることができる。例えばWa&Wtによる波の高さ、及び波間隔Wsmの観点で表現できる波形は、考慮されているキャリヤ面に適用される任意の適当な波形評価長さに沿って測定できる。波形は、様々な機器を用いる標準的手順に従って測定でき、例えば、触針ベースの接触機器、並びに光学的及びレーザーベースの非接触機器を含む表面仕上げ形状測定装置を用いて測定することができる。幾つかの実施形態において、キャリヤ接触面は、100μm以下、50μm以下、10μm以下、1μm以下、0.8μm以下、又は0.6μm以下、及び随意的に、50nmを超える、100nmを超える、又は200nmを超える波形Waを有する。幾つかのこのような実施形態において、この波形輪郭は約10mm、約50mm又は約100mmの評価若しくはサンプリング長さにわたり決定される。
【0138】
本発明方法は、任意の望ましい表面仕上げを達成することができ、この表面仕上げは、表面コーティングが仕上げ済み物品で支持されるベースの肌理(テクスチャ)に無関係に主にキャリヤ接触面によって決定され、これにより多くの潜在的欠陥源(例えば、気泡、クレーター、亀裂、表面不連続性及び他の不均一性)が最小化又は回避される。
【0139】
本発明方法の極めて優れた利点を説明するために本明細書に挙げた実施例において、硬化済み表面の滑らかさは、キャリヤ接触面の滑らかさと同様に高い(±10%以内)ことが見出された。硬化性材料の例示的な層は、これら層がその上に形成されるキャリヤの表面テクスチャ及び/又はトポグラフィを効果的に再現した。
【0140】
付加的及び代案的に、キャリヤ接触面の仕上げは、親水性又は疎水性とすることができる。代表的には、キャリヤ面は、90゜よりも小さい、80゜よりも小さい、又は70゜よりも小さい、より代表的には60゜よりも小さい、55゜よりも小さい、又は50゜よりも小さい後退接触角を有する親水性である。しかし、キャリヤ接触面が疎水性であり、かつ液体第1硬化性材料がより低い表面エネルギーさえも有している実施形態でさえも、上述したように、濡れが達成される。さらに、粘性流体第1硬化性材料を採用する実施形態において(粘性は、上述したように、キャリヤ接触面における流体第1硬化性材料のビード化を抑制する)、キャリヤ接触面は有利にも低表面エネルギーを有することができ、したがって、キャリヤからのリリース層剥離を促進することができる。
【0141】
幾つかの実施形態において、キャリヤ及び/又はその接触面は、第1硬化性材料組成物を塗布する前に処理することができる。このような処理は、化学的(例えば、化学薬品の塗布)及び/又は物理的(例えば、コロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、等)なものとすることができる。キャリヤ50は非可撓性、例えば、ガラス又は金属で形成されるものとすることができるが、可撓性フォイルで形成するのが好ましい。一実施形態において、フォイルは0.05mm~1.00mmの間における厚さを有するアルミニウム-PET又はPETのシートとし、可撓性を維持するが小さい半径で屈曲し難い、すなわち、しわにならないものとする。
【0142】
以下に説明する残りのステップは、ランダ社のナノグラフィック・プリンティング(商標名)技術に適したITMの製造に適用するが、本発明は、異なる印刷技術に適したITM、及びITM以外の物品であって、適度な疎水性又は適度な親水性であり得る疎水性リリースコーティングを有する物品にも使用できる。
【0143】
結果が図3Bに示されるステップにおいて、流体第1硬化性組成物(図5Aで符号136aとして示す)を準備し、またこれにより層56をキャリヤ接触面52上に形成し、層56は外側インク転写面54を有する初期リリース層を構成する。
【0144】
リリース層56の流体第1硬化性組成物は、エラストマー、代表的にはシリコーンポリマー、例えばビニル末端ポリジメチルシロキサンのようなポリジメチルシロキサンを有することができる。
【0145】
幾つかの実施形態において、流体第1硬化性材料は、ビニル-官能基シリコーンポリマー、例えば、末端ビニル基の他に少なくとも1つの側鎖ビニル基を含むビニル-シリコーンポリマー、例えばビニル-官能基ポリジメチルシロキサンを有する。
【0146】
幾つかの実施形態において、流体第1硬化性材料は、ビニル末端ポリジメチルシロキサン、末端ビニル基の他にポリシロキサン鎖に少なくとも1つの側鎖ビニル基を含むビニル-官能基ポリジメチルシロキサン、架橋剤、及び付加硬化触媒を有し、また随意的に、硬化遅延剤を有する。
【0147】
例示的硬化性リリース層調合No.2は、以下の表3に提示した材料を完全に混合することによって調製した。
【0148】
【表3】
【0149】
第1硬化性組成物の層56をキャリヤ接触面52上に塗布し、これに続いて硬化する。層56は、例えば、ドクターブレード(ロール上のナイフ)を用いて、ドクターブレードが最終的にITMのインク転写面54として作用する表面に接触できないよう、またドクターブレードにおける不完全性が仕上げ済み製品の品質に影響しないよう、所望厚さに拡散することができる。概して、層56は、約2マイクロメートル~約200マイクロメートルの間における厚さを有する。このようなステップ及び方法が実装される装置を図4及び5Aに概略的に示す。
【0150】
例えば、詳細に上述したリリース層調合物は、アルミニウム-PET又はPETのキャリヤ上に均一に塗布し、厚さ約50マイクロメートルに平滑化し、また120~130℃でほぼ10分間にわたり硬化させることができる。
【0151】
結果が図3Cに示される他のステップにおいて、コンプライアンス層と称される付加層58を、インク転写面54とは反対側で層56に塗布する。コンプライアンス層58は、層56及び層56の外側表面54がインク画像を押し付ける基板の表面輪郭に密接して追従できるようにするエラストマー層である。インク転写面54とは反対側のサイドに対するコンプライアンス層58の取付けは、コンプライアンス層58の材料に加えて接着性又は結合性組成物塗布を伴うことができる。概して、コンプライアンス層58は、代表的には約100マイクロメートル~300マイクロメートル又はそれ以上の間における厚さを有することができる。接着剤層は、それが存在する場合には、代表的にはたかだか100マイクロメートルの厚さ、より代表的にはたかだか20マイクロメートルの厚さしかないものとする。
【0152】
コンプライアンス層58はリリース層56と同一組成を有することができるが、代表的には、異なる機械的特性(例えば、張力に対するより大きい耐性)を有するものを選択する。このような望ましい特性差は、リリース層56の調合物を調製するのに使用される成分間の割合を変化させる、及び/又はこのような調合物に他の成分を添加する、及び/又は異なる硬化条件及びこのような変更を選択することによって達成することができる。例えば、増量剤(フィラー)粒子の添加は、有利にもリリース層56に対してコンプライアンス層58の機械的強度を向上させることができる。代案的に、コンプライアンス層58はリリース層56とは異なる組成を有することができる。例えば、コンプライアンス層58は、アルキルアクリレート共重合体ゴム(ACM)、メチルビニルシリコーンゴム(VMQ)、エチレンプロピレンジエン単量体ゴム(EPDM)、フルオロエラストマー重合体、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、エチレンアクリルエラストマー(EAM)、及び水素化ニトリルブタジエンゴム(HNBR)で作成することができる。
【0153】
非限定的実施例として、シロプレン(登録商標)LSR 2530(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社(登録商標))、すなわち、2つの成分を1:1の比で混合される2成分液体シリコーンゴムを上述の硬化したリリース層56に塗布する。約250マイクロメートルの厚さを有する初期コンプライアンス層58を得るよう、シリコーンゴム混合物をナイフブレードで調量/平滑化し、次にこれを150~160℃でほぼ5分間にわたり硬化した。
【0154】
結果が図3Dに示される他のステップにおいて、支持層60をコンプライアンス層58上に構成し、この支持層60上には、ウェブ又は布地の形式の繊維補強材を配置して支持層60に十分な構造的完全性を付与し、ITMを印刷システムにおける張力で保持するときの伸張に耐えることができるようにする。支持層60は、後に硬化する樹脂であって、硬化後に可撓性を維持する該樹脂によって繊維補強材をコーティングすることによって形成される。
【0155】
代案的に、支持層60は補強層として別個に形成することができ、この補強層は独立的に硬化した樹脂内に埋設及び/又は含浸させたこのような繊維を含む。このような場合、支持層60は、接着剤層を介してコンプライアンス層58に取り付けることができ、随意的に、支持層60をその場で硬化させる必要性を排除する。概して、支持層60は、コンプライアンス層58上にその場で形成するか、又は別個に形成するかに係わらず、約100マイクロメートル~約500マイクロメートルの間における厚さを有することができ、繊維又は布地の厚さに関与する部分は、概して約50マイクロメートル~200マイクロメートルの間で変化する。しかし、ヘビーデューティ用途又は他タイプの多層物品に関しては、支持層は、200マイクロメートル超、500マイクロメートル超、又は1mm若しくはそれ以上の厚さを有することができる。
【0156】
例えば、ビニル-官能基化したリリース層56及び2成分シリコーンゴムのコンプライアンス層58を備える本明細書記載の多層構体に対して、ガラス繊維で織成した布地を有する支持層60を塗布した。厚さ約100マイクロメートルのガラス繊維布地は、互いに直交する2方向に16ヤーン/cmの平織り布地とした。この平織り布地は、コンプライアンス層に対応する液体シリコーンゴムのシロプレン(登録商標)LSR 2530を有する硬化性流体内に埋設した。全体として、結果として生ずる支持層60は、約200マイクロメートルの厚さを有し、また150℃でほぼ2~5分間にわたり硬化させた。
【0157】
支持層60のその場形成又は取付け後に、付加層を、必要に応じて支持層60の裏面サイドに構築することができる。図3Eにおいて、厚いフェルトブランケット62を硬化した接着剤又は樹脂によって支持層60の裏面サイドに固定し、また図3Fにおいて、高摩擦材料64をフェルトブランケット62の裏面サイドにコーティングする。当業者には理解されるように、比較的柔軟なゴムを高摩擦特性のある層の調製に供することができ、このようなゴムの例にはシリコーンエラストマーがある。
【0158】
上述したように、ITMのリリース層に付加したすべての層(例えば、58,60,62,64又は任意な介在接着剤又は下塗剤層、等)は、図2でベース32によって示したような構体のベースを連帯的に形成すると言える。
【0159】
図面には示さなかったが、支持層60の2つの端縁に沿って2つの布地ストリップを取り付けることができ、この場合、これら2つの布地ストリップは、それぞれジップファスナーの一方の半部によって組み付ける。これらストリップにおける歯又は形成部は、ITMが印刷システムの若干の位置的に厳しい領域を通過するときに側方張力の下にITMを維持するよう、チャンネル内に把持することを意図するものである。同様に、多層ストリップの端部に、これら2つの端部を接合して連続したループ状ベルトを形成するのを可能にする手段を取り付けることができる。
【0160】
ITMを使用する前には、図3Gに示すように、リリース層56のインク転写面54を露出させるため、キャリヤ50(キャリヤ接触面52を含む)を取り外す必要がある。仕上げ済み製品はキャリヤ50から単に剥離することができ、またITMの場合、リリース層56が幾分の疎水性を有し得るという事実が、ITMをインク転写面54へのダメージを与えることなくキャリヤ50から容易に分離することを可能にする。例えば、100μm厚さのシロキサン層は50gr/cmより小さい力を用いて、幾つかの実施形態においては、20gr/cmより小さい、又は10gr/cmより小さい、又は5gr/cmより小さい、又は3gr/cmより小さい、又は2gr/cmより小さいことすらもある力で、PETフォイルから剥離することができる。当業者であれば、このような小さい力は12μmほどの小さい厚さでさえもあるPETフォイルの引裂強度より相当小さいことは理解できるであろう。同様に、このような剥離に必要な小さい力は、100μmほどの小さい厚さのリリース層であっても、またベース層における更なる補強が何らもないものであっても、十分に硬化したシロキサン層の引裂強度よりも相当小さい。したがって、本明細書における教示により、リリース層及びベース層を含むITMが、製造され、PET又はポリイミドフォイルのようなポリマーキャリヤ上に支持さえるとき、ITMのキャリヤから(又はその逆)の剥離は、リリース層にダメージを与えることなく、また好適には、キャリヤにダメージを与えることなく、容易に行うことができる。
【0161】
キャリヤ50が可撓性フォイルである場合、ITMを印刷システムに設置するときまではITM上の所定位置に残しておくことが好ましい。フォイルは、保管中、輸送中及び設置中にITMのインク転写面54を保護するよう作用する。さらに、キャリヤ50は、製造プロセスが完了した後に保護フィルムとして作用できる代替フォイルに置換することができる。
【0162】
さらに、印刷システムにおけるITMの設置にあたり、印刷システムの所望経路を巡るITMの引き回しを支援する取付けポイントをキャリヤに設けることにより、ITMの設置を補助するのにキャリヤ50を使用することができる。
【0163】
図4及び図5A~5Cは、幾つかの実施形態による、自己支持ストリップを製造する本発明方法を実現することができる装置100を概略的に示す。図4は、層流延(キャスティング)ステーション110a、110bのような1つ又はそれ以上の流延ステーション110を有するこのような装置100の概略図を提示する。流延ステーション110は、キャリヤ上に硬化性流体組成物の層を形成し、次にこの層を硬化させるよう構成する。層を形成するのは、例えば、流体組成物をキャリヤ上に分注し、硬化前に層をできるだけ平滑化することによって行うことができる。
【0164】
装置100は、さらに、繰出しローラ112及び巻取りローラ114を備え、可撓性コンベア116を層流延ステーション110a及び110bに通過移動させる。幾つかの実施形態によれば、可撓性コンベア116は、図5A~5Cに概略的に示すように、キャリヤ50を支持しかつ駆動するよう作用し得る。幾つかのこのような用途において、コンベアは巻取りローラ114から繰出しローラ112に向かって復帰する区域(図示せず)を有するループ式コンベアとする。幾つかの実施形態において、キャリヤ50は、図4に概略的に示すように、ローラ112及び114相互間で直接張力付与する。未加工キャリヤ50繰出しローラ112から繰り出され、またステーション110a及び110bを通過した後巻取りローラ114に再度巻き取られる。
【0165】
層流延ステーション110aは、所望多層物品に適した硬化性流体組成物を分注できる分注ステーション122aと、硬化性層がステーションの下流に移動するとき硬化性層の厚さを制御できる平滑化ステーション124aと、及び硬化性層を少なくとも部分的に硬化し、この部分的硬化した硬化性層をもしあるならば後続ステップのための初期層として供することを可能にする硬化ステーション126aとを有する。分注ステーション112a、平滑化ステーション124a及び硬化ステーション126aは、キャリヤ50(又はコンベア116)が追従する経路に沿って適正に位置決めすることができる。同様に、装置100の層流延ステーション110bは、随意的に、分注ステーション112b、平滑化ステーション124b及び硬化ステーション126bを有し得る。さらに、層流延ステーション110は、ステーション110aに分注ローラ128によって示した付加的サブステーションを有することができる。
【0166】
幾つかの実施形態によれば、未加工キャリヤ50が繰出しローラ112から繰り出され、次にこの未加工キャリヤ50が巻取りローラ114に再び巻き取られる図4に示す構成は、潜在的にキャリヤ50にクリーンでほぼ汚染物がないキャリヤ接触面52を付与するのに有利である。例えば、市販のPETシートのような適当なキャリヤは、製造中に繰出しローラ112にロールにされた状態でほぼクリーンな環境に供給され得る。したがって、繰出しローラ112が分注ステーション122aでの硬化性流体組成物分注のほぼ直前に繰り出しを行うとき、キャリヤ接触面52は装置100内の環境に露出され得る。このため、硬化後にキャリヤに対面する硬化性流体組成物の層表面に形成される初期リリース層は、ほぼ欠陥フリー(空気搬送される汚染物で生ずるような欠陥がないもの)にすることができる。
【0167】
付加的又は代案的に、装置100又はこのような心配が存在し得る装置部分はクリーンな環境内で動作させ、キャリヤ接触面の汚染物に対するあり得る曝露及び/又は表面コーティングにおける欠陥の進行をさらに減少できるようにする。付加的又は代案的に、クリーニングステーション(図示せず)を分注ステーションの上流に展開させることもでき、分注直前にキャリヤ接触面52をクリーニングし、汚染物フリーのキャリヤ接触面52及びひいてはほぼ欠陥フリーのリリース層を確実にする又は維持する。
【0168】
図には示さないが、装置は、分注ステーションの上流にその後の硬化性組成物の塗布を容易にする、又は場合によってはキャリヤ接触面若しくは初期層への取付けを容易にする「表面処理」ステーションを備えるものとすることができる。キャリヤにつき説明したように、随意的な表面処理ステーション(図示せず)は、物理的処理(コロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、等)に適したものとすることができる。
【0169】
図5Aは、装置100の流延ステーション110aにおいて、コンベア116上に配置されたキャリヤ50をどのようにコーティングできるかを概略的に示す。分注ステーション122aで、硬化性組成物136aがキャリヤ接触面52に塗布される。キャリヤ50が矢印方向に駆動されるとき、硬化性組成物136aは、平滑化ステーション124aで、例えばドクターブレードを用いて所望厚さに平滑化される。平滑化された層が下流に進むとき、硬化性組成物136aを少なくとも部分的に硬化するよう構成された硬化ステーション126aに進入し、硬化ステーションの出口側で初期層56の形成を可能にする。このような例示的ステップは図3A及び3Bにつき説明した。
【0170】
図5B及び5Cは、付加層(ベースを形成する)をどのように塗布するかを概略的に示す。図5Bにおいて、硬化性組成物136bを分注ステーション122bでリリース層56上に分注する(リリース層56は上述したように少なくとも部分的に硬化している)。硬化性組成物136bは平滑化ステーション124bで所望厚さに平滑化され、次に硬化ステーション126bに進入し、また後続ステップ等々での初期層58として供されるよう十分に硬化した状態で硬化ステーション126bから退出する。このような例示的ステップは図3Cにつき説明した。
【0171】
図5Cは分注ステーション122cで層58に塗布される硬化性組成物136cを概略的に示す。支持層(例えば、布地)の骨格は分注ローラ128によって送給することができる。例示的な布地は、硬化ステーション126cに進入する前にステーション130で硬化性組成物136c内に浸漬させることができる。このようにして、支持層60は、硬化ステーション126cの出口側で形成することができる。
【0172】
幾つかの実施形態によれば、単独の層流延ステーション110を採用し、上述したように、自己支持ストリップの層を順次に形成することができる。例えば、図4の装置を単一層流延ステーション110aに採用し、この場合、加工したストリップを順次繰り返して流延ステーションを通過させ、1度に1層をストリップに積層させる。先ず、未加工キャリヤロールを装置の繰出しローラ112に装填し、繰出しローラ112と巻取りローラ114との間で張力付与することができる。次に、図5Aで説明したように、リリース層をキャリヤ上に形成することができる。この加工をしたキャリヤにリリース層56をキャリヤシートの全長にわたりコーティングし、またこれに応じてこの加工をしたキャリヤを巻取りローラ114に巻き取ったとき、加工済みキャリヤを巻取りローラ114から取り外し、再び繰出しローラ112に装填することができる。この後、加工済みキャリヤは、繰出しローラ112と巻取りローラ114との間で張力付与され、図5Bに示すように、次の層58がこの加工済みキャリヤに塗布される。加工済みキャリヤを繰出しローラ112に装填するステップを順次繰り返し、次いで加工済みキャリヤ上に新たな層を流延することによって、上述したように、リリース層及び任意なベース層及びさらにあり得る付加層を含むストリップが構成され得る。この方法は、周期的ロールツーロール製造方法と見なすことができ、サイクルの数は、自己支持ストリップ用に形成すべき層の数に基づく。
【0173】
仕上げ済み物品は、キャリヤと、及びキャリヤ上に配置される自己支持ストリップとを備え、この自己支持ストリップは、概して幾つかの層、第1硬化性材料の少なくとも表面コーティング又はリリース層、及びベース層を有する。幾つかの実施形態によれば、仕上げ済みストリップ(すなわち、キャリヤに取り付けられた自己支持ストリップ)は、上述の層製造に続いてさらに加工することができる。例えば、仕上げ済み物品の細長ストリップは、ストリップの2つの両側端部を互いに連結するようループにし、これによりループ状ベルト(又は印刷機用のループ状ITM)を生産することができる。
【0174】
このように、本発明の態様によれば、少なくとも部分的に硬化した表面コーティングを有する自己支持ストリップを製造する方法を提供する。この方法は、
a. 硬化プロセスによって少なくとも部分的に硬化するよう構成された流体第1硬化性材料を準備するステップと、
b. キャリヤ接触面を有するキャリヤを準備するキャリヤ準備ステップであって、前記キャリヤ接触面は前記流体第1硬化性材料によって濡れることができ、前記キャリヤは前記硬化プロセスを受けるとき構造的完全性を維持されるよう構成されている、該キャリヤ準備ステップと、
c. 前記流体第1硬化性材料を前記キャリヤ上に塗布することによって、前記流体第1硬化性材料の層を前記キャリヤ接触面上に形成し、前記層の一方の側面が前記キャリヤ接触面に接触し、これにより、流体第1硬化性材料が前記キャリヤ接触面を濡らすようにするステップと、
d. 前記流体第1硬化性材料を少なくとも部分的に硬化して、自己支持ストリップの少なくとも部分的に硬化した表面コーティングを形成するステップと、及び
e. 前記キャリヤとは反対側で前記少なくとも部分的に硬化した表面コーティングの表面上に可撓性ベースを固定する又は可撓性ベースを形成するステップと、
を備える。
【0175】
前記少なくとも部分的に硬化した表面コーティングは、前記自己支持ストリップを生産するよう、前記可撓性ベースとともに前記キャリヤから剥離可能である。
【0176】
幾つかの実施形態によれば、前記自己支持ストリップの前記少なくとも部分的に硬化した表面コーティングは、疎水性である。幾つかの実施形態によれば、前記流体第1硬化性材料は前記キャリヤ接触面よりも低い表面エネルギーを有する。幾つかの実施形態によれば、前記キャリヤにおける前記流体第1硬化性材料は粘性であり、したがって、前記キャリヤ接触面を濡らすものである。
【0177】
幾つかの実施形態によれば、ポリマー表面は、少なくとも1つの自由電子対を有する極性基又は官能基を備える。幾つかの実施形態によれば、ポリマー表面は、ポリエステル、ポリフルオロカーボン、及びポリイミドよりなるグループから選択されるポリマーを含む、又はほぼこのようなポリマーからなるものである。幾つかの実施形態によれば、ポリマー表面は、ポリエチレン・テレフタレート(PET)を含む、又はほぼそれから構成されるものである。幾つかの実施形態によれば、ポリマー表面は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含む、又はほぼそれからなるものである。幾つかの実施形態によれば、ポリマー表面は、ポリ(4,4’-オキシジフェニレン-ピロメリトイミド)(カプトン(登録商標))を含む、又はほぼそれからなるものである。
【0178】
幾つかの実施形態によれば、前記流体第1硬化性材料の前記初期リリース層を形成するステップは、前記流体第1硬化性材料の層を前記キャリヤ接触面上に堆積し、これにより前記初期リリース層を形成するステップを有する。幾つかの実施形態によれば、前記流体第1硬化性材料の層を堆積するステップは、前記流体第1硬化性材料を前記キャリヤ接触面上に流し込むステップを有する。
【0179】
幾つかの実施形態によれば、初期リリース層の厚さは、ほぼ完全に硬化したとき結果として生ずる表面コーティング又はリリース層が2μm以上かつ200μmまでの厚さとなるものである。幾つかの実施形態によれば、前記流体第1硬化性材料の厚さ変動は、ほぼ完全に硬化したとき結果として生ずる表面コーティング又はリリース層の厚さ変動が、所定厚さの5μm以内、又は2μm以内、又は1μm以内、又は0.5μm以内、又は0.2μm以内となるものである。幾つかの実施形態によれば、前記流体第1硬化性材料の厚さ変動は、ほぼ完全に硬化したとき結果として生ずる表面コーティング又はリリース層の厚さ変動が、所定厚さの20%以内、又は15%以内、又は10%以内、又は5%以内となるものである。幾つかの実施形態によれば、前記流体第1硬化性材料の形成される層の厚さは、前記流体第1硬化性材料が依然として流体である間に機械的に調整される。
【0180】
幾つかの実施形態によれば、本発明方法は、さらに、前記流体第1硬化性材料の層に熱を加え、これにより前記層の硬化率を上昇させるステップを備える。幾つかの実施形態によれば、本発明方法は、さらに、UV又は電子ビーム照射によって前記流体第1硬化性材料の層を照射し、これにより前記層の硬化率を上昇させるステップを備える。
【0181】
幾つかの実施形態によれば、前記流体第1硬化性材料はポリウレタンポリマーを有する。幾つかの実施形態によれば、流体第1硬化性材料はシリコーンポリマーを有する。幾つかの実施形態によれば、流体第1硬化性材料はビニル末端シリコーンポリマーを有する。幾つかの実施形態によれば、流体第1硬化性材料はビニル-官能基化シリコーンポリマーを有する。幾つかの実施形態によれば、流体第1硬化性材料は熱硬化性付加硬化シリコーンポリマーを有する。
【0182】
幾つかの実施形態によれば、前記キャリヤの反対側における少なくとも部分的に硬化した表面コーティングの表面に可撓性ベースを形成するステップは、前記少なくとも部分的に硬化した表面コーティングの表面に流体第2硬化性材料の層を形成するステップであって、前記流体第2硬化性材料の層は、前記自己支持ストリップの前記ベースの少なくとも一部を形成する初期層を構成するものである、該ステップを有する。幾つかの実施形態によれば、本発明方法は、さらに、前記流体第2硬化性材料の層を少なくとも部分的に硬化させて、これにより前記自己支持ストリップの前記ベースの少なくとも一部を形成するステップを備える。幾つかの実施形態によれば、前記流体第2硬化性材料の層の厚さは、ほぼ完全に硬化したとき、結果として生ずる支持層が100μm以上かつ500μmまでの厚さとなるものである。幾つかの実施形態によれば、前記流体第2硬化性材料の層は、前記流体第1硬化性材料の層が依然として流体である間に形成される。
【0183】
幾つかの実施形態によれば、前記第2硬化性材料の層を形成するステップは、
前記第1硬化性材料の層がもはや流体でなくなる程度に硬化した後前記第1硬化性材料の層に下塗剤層を塗布するステップと、及び
前記下塗剤層上に前記流体第2硬化性材料を堆積し、これにより流体第2硬化性材料の層を形成するステップと
を有する。
【0184】
幾つかの実施形態によれば、下塗剤層は、1μm以上かつ50μmまでの厚さを有する。幾つかの実施形態によれば、前記流体第2硬化性材料を堆積するステップは、前記流体第2硬化性材料を前記下塗剤層上に流し込むステップによって行うものである。幾つかの実施形態によれば、前記流体第2硬化性材料は固体補強材料を有する。幾つかの実施形態によれば、前記流体第2硬化性材料は、前記流体第1硬化性材料の層を形成する前に、前記固体補強材料を有する。幾つかの実施形態によれば、本発明方法は、さらに、前記流体第2硬化性材料の層を形成するステップに続いて、前記流体第2硬化性材料が依然として流体である間に、固体補強材料を前記流体第2硬化性材料の層に埋設するステップを備える。幾つかの実施形態によれば、本発明方法は、さらに、前記流体第2硬化性材料の層を形成するステップに続いて、前記流体第2硬化性材料が依然として流体である間に、固体補強材料を前記流体第2硬化性材料の層の露出面に配置するステップを備える。
【0185】
幾つかの実施形態によれば、可撓性のベースを前記キャリヤの反対側で少なくとも部分的に硬化した表面コーティングの表面に固定するステップは、
前記自己支持ストリップの前記ベースの少なくとも一部を形成する初期層を構成するシートを準備するステップと、及び
前記少なくとも部分的に硬化した表面コーティングの表面に前記シートを接触させるステップと、
を有し、これにより前記少なくとも部分的に硬化した表面コーティングの表面に前記可撓性のベースを固定する。
【0186】
幾つかの実施形態によれば、前記接触は、前記第1硬化性材料が依然として流体である間に行う。
【0187】
幾つかの実施形態によれば、本発明方法は、さらに、
前記第1硬化性材料の層がもはや流体でなくなる程度に硬化した後前記第1硬化性材料の層に接着剤層を塗布するステップと、及び
前記接着剤層に前記シートを接触させ、これにより前記少なくとも部分的に硬化した表面コーティングの表面に前記可撓性のベースを固定するステップと
を備える。
【0188】
幾つかの実施形態によれば、前記接着剤層は、1μm以上かつ50μmまでの厚さを有する。幾つかの実施形態によれば、前記シートは、埋設した固体補強材料を有する。幾つかの実施形態によれば、前記固体補強材料は繊維を含む。幾つかの実施形態によれば、繊維は50μm以上かつ200μmまでの太さを有する。幾つかの実施形態によれば、繊維は布地を構成する。幾つかの実施形態によれば、布地は50μm以上かつ200μmまでの厚さを有する。幾つかの実施形態によれば、繊維は、有機繊維、メタアラミド、パラアラミド、ポリアミド、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、高密度ポリエチレン繊維、天然繊維、コットン繊維、無機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維、金属繊維、及びこれらの組合せよりなるグループから選択した材料である。幾つかの実施形態によれば、繊維は表面処理した繊維であり、この表面処理は、繊維のビニルシランに対する付着を向上させるものである。幾つかの実施形態において、繊維は配向性のある繊維である。
【0189】
幾つかの実施形態によれば、本発明方法は、さらに、「e」のステップ後に、前記リリース層を前記キャリヤから分離することなく、前記自己支持ストリップの仕上げ製造をするステップを備える。
【0190】
幾つかの実施形態によれば、前記仕上げ製造ステップは、前記ベースの一部を構成する少なくとも1つの付加層を形成するステップを含む。幾つかの実施形態によれば、前記仕上げ製造ステップは、前記自己支持ストリップの側端縁に側方突出部を付加するステップを含む。
【0191】
幾つかの実施形態によれば、本発明方法は、さらに、「e」のステップ後に、前記リリース層を前記キャリヤから分離することなく、前記自己支持ストリップをパッケージングするステップを備える。
【0192】
幾つかの実施形態によれば、本発明方法は、さらに、前記自己支持ストリップの両側2つの端部を接合して連続ループ状ベルトを形成するステップを備える。
【0193】
幾つかの実施形態によれば、前記自己支持ストリップは間接印刷システムに使用する中間転写部材(ITM)である。幾つかの実施形態によれば、前記少なくとも部分的に硬化した表面コーティングは、前記ITMの外側インク転写面を画定する少なくとも部分的に硬化したリリース層である。
【0194】
本発明の態様によれば、さらに、中間転写部材(ITM)を間接プリンタに備え付ける方法を提供する。この方法は、
自己支持ストリップを準備するステップであって、前記自己支持ストリップは、上述したように前記リリース層が前記キャリヤに接触している間に調製したITMである、ステップと、
前記キャリヤとともに前記準備した自己支持ストリップを間接プリンタに備え付けるステップと、及び
前記備え付けステップ後に前記キャリヤを前記リリース層から分離するステップと、
を備える。
【0195】
本発明の他の態様によれば、中間転写部材(ITM)を間接プリンタに備え付ける方法を提供し、この方法は、
自己支持ストリップを準備するステップであって、前記自己支持ストリップは、前記リリース層が前記キャリヤに接触している間に上述したように調製したITMである、ステップと、
前記キャリヤを前記リリース層から分離するステップと、及び
前記準備した自己支持ストリップを間接プリンタに備え付けるステップであって、前記備え付けは、随意的に前記分離ステップから1時間以内に実施するステップと、
を備える。
【0196】
本発明のさらにまた別の態様によれば、自己支持ストリップの少なくとも部分的に硬化した表面コーティングの表面エネルギーを決定する方法を提供する。この方法は、
空気と接して硬化したとき表面エネルギーEを有する流体第1硬化性材料を準備するステップと、
キャリヤ接触面を有するキャリヤであって、Eとは異なる表面エネルギーEを有するキャリヤを準備するステップと、
前記流体第1硬化性材料の層を前記キャリヤ接触面上に形成するステップであって、前記層の一方の側面が前記キャリヤ接触面に接触する状態となるよう前記流体第1硬化性材料を前記キャリヤに塗布するステップと、
前記流体第1硬化性材料を少なくとも部分的に硬化して前記自己支持ストリップの前記少なくとも部分的に硬化した表面コーティングを形成するステップであって、前記少なくとも部分的に硬化した表面コーティング及び前記キャリヤが互いに剥離可能であるようにする、ステップと、及び
前記少なくとも部分的に硬化した表面コーティングを前記キャリヤから取り外すステップと、
を備える。
【0197】
したがって、本発明方法は、Eとは異なる所定表面エネルギーEを有する表面コーティングがある自己支持ストリップを生産する。幾つかの実施形態によれば、キャリヤ接触面の表面エネルギーEが、空気で硬化したときの硬化した材料の表面エネルギーEよりも高く、キャリヤ接触面は空気で硬化したときの硬化した材料よりもより高い親水性となる傾向を有する。幾つかのこのような実施形態によれば、表面コーティングの表面エネルギーEは、E<E≦Eである。
【0198】
簡明にするため別個の実施形態の文脈で説明した本発明の若干の特徴は、単独の実施形態内で組み合せて設けることもできると理解されたい。逆に、簡明にするため単独実施形態の文脈で説明した本発明の種々の特徴は、別個に、又は任意の適当なサブコンビネーションにして、又は本明細書に記載した本発明の任意な他の実施形態で好適なものとして設けることができる。種々の実施形態の文脈で説明した若干の特徴は、実施形態がそれらの要素なしには動作不能でない限り、それら実施形態の必須の特徴であるとみなされない。
【0199】
説明目的で提示した種々の特別な実施形態につき本発明を説明してきたが、このような特別に開示した実施形態は限定的なものと見なすべきではない。このような実施形態に対する多くの他の代替、変更及び改変は、当業者であれば、本明細書に基づいて想起するであろう。したがって、すべてのこのような代替、変更及び改変を包含し、特許請求の範囲で定義される本発明の精神及び範囲によってのみ範囲が定まり、またいかなる変化もそれらの意味及び等価な任意な範囲内に納まることを意図する。
【0200】
本発明の開示を理解又は完璧にするのに必要な程度に、本明細書に記載したすべての刊行物、特許、及び特許出願は、参照により全体が表現されたとおりに本明細書に組み入れられるものとする。
【0201】
本件出願におけるいかなる参考文献の引用又は識別は、このような参考文献が本発明の従来技術として利用可能であるとの承認として解すべきではない。
【0202】
本明細書で参照されるマークは第三者による習慣上の又は登録された商標名であり得る。これらマークの使用は例としてのものであり、本発明の範囲をこのようなマークのみに関連した資料について記述又は限定するものと解すべきではない。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図4
図5A
図5B
図5C