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  • 特許-ポリマー被覆強磁性粒子 図1
  • 特許-ポリマー被覆強磁性粒子 図2a
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  • 特許-ポリマー被覆強磁性粒子 図3a
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  • 特許-ポリマー被覆強磁性粒子 図4
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  • 特許-ポリマー被覆強磁性粒子 図5b
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-24
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】ポリマー被覆強磁性粒子
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/00 20060101AFI20220128BHJP
   C01G 49/02 20060101ALI20220128BHJP
   A61K 49/00 20060101ALN20220128BHJP
   G01N 33/543 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
H01F1/00 154
C01G49/02 Z
A61K49/00
G01N33/543 541A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017026568
(22)【出願日】2017-02-16
(65)【公開番号】P2018133467
(43)【公開日】2018-08-23
【審査請求日】2020-01-24
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000203634
【氏名又は名称】多摩川精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100221729
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 圭介
(72)【発明者】
【氏名】畠山 士
(72)【発明者】
【氏名】羽生 尚広
(72)【発明者】
【氏名】半田 宏
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-057230(JP,A)
【文献】特開2009-300239(JP,A)
【文献】特開2006-131771(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104069517(CN,A)
【文献】特開2014-193972(JP,A)
【文献】特開平04-046193(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/00
C01G 49/02
A61K 49/00
G01N 33/543
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強磁性粒子(2)と、
前記強磁性粒子(2)を被覆した状態で設けられたポリマー層(30)と、
前記ポリマー層(30)を被覆した状態で設けられた表面層(31)と
を備えたポリマー被覆強磁性粒子であって、
総重量に対する前記強磁性粒子(2)の重量比が33%を超え88%未満であって、前記強磁性粒子(2)の平均粒径が20nmを超え50nm未満であって、
前記ポリマー層(30)及び前記表面層(31)を含んだ平均水中粒子径が140nmを超え160nm未満であることを特徴とするポリマー被覆強磁性粒子。
【請求項2】
前記強磁性粒子(2)が、強磁性のフェライト粒子であることを特徴とする、請求項1に記載のポリマー被覆強磁性粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリマー被覆強磁性粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
生物化学分野及び医療分野等において、液体中で生物学的分子又は化学的分子と結合するリガンドを有し、磁界に応答して移動することで、特定の生体物質の検出や分離精製に用いられるポリマー被覆強磁性粒子が知られている。従来の前記ポリマー被覆強磁性粒子としては、例えば以下の特許文献1に記載されたポリマー被覆強磁性粒子を挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-88131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来の前記ポリマー被覆強磁性粒子は、磁界に応答して移動する際の移動速度が遅く、生体物質の検出や分離精製に時間を要するという問題点があった。
【0005】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、磁界に対する応答性が高く、磁界中において移動速度に優れるポリマー被覆強磁性粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明のポリマー被覆強磁性粒子は、強磁性粒子と、前記強磁性粒子を被覆した状態で設けられたポリマー層と、前記ポリマー層を被覆した状態で設けられた表面層とを備えたポリマー被覆強磁性粒子であって、総重量に対する前記強磁性粒子の重量比が33%を超え88%未満で構成され、前記強磁性粒子の平均粒径が20nmを超え50nm未満であって、前記ポリマー層及び前記表面層を含んだ平均水中粒子径が140nmを超え160mn未満で構成され、また、前記強磁性粒子が、強磁性のフェライト粒子で構成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るポリマー被覆強磁性粒子によれば、強磁性粒子と、前記強磁性粒子を被覆した状態で設けられたポリマー層と、前記ポリマー層を被覆した状態で設けられた表面層とを備えたポリマー被覆強磁性粒子であって、総重量に対する前記強磁性粒子の重量比が33%を超え88%未満で構成され、磁界に対する応答性が高く、磁界中において移動速度に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施の形態に係るポリマー被覆強磁性粒子の概略図である。
図2a】従来のポリマー被覆強磁性粒子の透過型電子顕微鏡画像である。
図2b】本発明の実施の形態に係るポリマー被覆強磁性粒子の透過型電子顕微鏡画像である。
図3a】従来のポリマー被覆強磁性粒子の総重量に対するポリマー被覆の重量比である。
図3b】本発明の実施の形態に係るポリマー被覆強磁性粒子の総重量に対するポリマー被覆の重量比である。
図4】従来のポリマー被覆強磁性粒子及び本発明の実施の形態に係るポリマー被覆強磁性粒子の質量磁化率測定結果である。
図5a】温度25℃の液体中における従来のポリマー被覆強磁性粒子及び本発明の実施の形態に係る磁気分離実験結果である。
図5b】温度4℃の液体中における従来のポリマー被覆強磁性粒子及び本発明の実施の形態に係る磁気分離実験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を添付図面の図1図5bに基づいて説明する。
本発明に係るポリマー被覆強磁性粒子を、図1に模式的に示す。ポリマー被覆強磁性粒子1は、フェライト粒子2が、ポリマー層30とpGMA(ポリグリシジルメタクリレート)層31とを有するポリマー被覆3に被覆されて形成されている。
【0010】
前記フェライト粒子2は、例えばマグネタイト(Fe)、マグヘマイト(γ-Fe)及びその中間体等からなり、親水性の強磁性粒子を構成している。また、前記フェライト粒子2は、マグネタイトやマグヘマイト及びその中間体等のFeを一部置換して、Li、Mg、Mn、Co、Ni、Cu及びZnなどの各種元素を含有させることで、その特性を目的に応じて適正に制御した強磁性粒子であってもよい。いずれにせよ、前記フェライト粒子2は、前記ポリマー被覆強磁性粒子1が使用される温度で強磁性を有することが好ましい。さらに、前記フェライト粒子2は、平均粒径が20~300nmであることが好ましい。
【0011】
前記フェライト粒子2には、親水基と疎水基とを有する図示しない公知の疎水化物質の親水基が吸着しており、前記フェライト粒子2を疎水化している。前記フェライト粒子2は、前記ポリマー層30に被覆されている。詳細に説明すると、前記ポリマー層30は、前記フェライト粒子2に吸着した疎水化物質を介してモノマーが前記フェライト粒子2を被覆し、そのモノマーが重合することでポリマーとして形成されている。前記モノマーとしては、例えばスチレン、GMA(グリシジルメタクリレート)、ジビニルベンゼン等の公知のモノマーを任意に用いてよい。
【0012】
前記ポリマー層30は、前記pGMA層31に被覆されている。前記pGMA層31は、前記ポリマー被覆強磁性粒子1の表面層を構成している。前記pGMA層31がpGMAからなるので、前記ポリマー被覆強磁性粒子1の表面への非特異的なタンパク質の吸着が発生しづらい。また、前記pGMA層31の表面には、pGMA由来の反応性に富むエポキシ基が存在し、特定の生体物質等に選択的に結合される任意の種類の図示しないリガンドを固定化できるアミノ基、水酸基、カルボキシル基等の官能基を導入することができる。またリガンドと特定の生体物質等との選択的結合を促進するリンカーを導入することができる。前記ポリマー被覆強磁性粒子1は、そのリガンドに検出及び分離精製対象の特定の生体物質等が結合された状態で、磁界によって前記フェライト粒子2に吸引力が加わることで液体中を移動し、収集されることで、特定の生体物質等の検出や分離精製を行うことができる。
【0013】
図2aは、従来のポリマー被覆強磁性粒子の透過型電子顕微鏡画像であり、図2bは、本発明の実施の形態のポリマー被覆強磁性粒子の透過型電子顕微鏡画像である。図2aに示す従来のポリマー被覆強磁性粒子に対して、図2bに示す本発明の実施の形態のポリマー被覆強磁性粒子はフェライト粒子が含有されている重量はほぼ変わらないが、ポリマー層が薄く形成されている。そのため、従来のポリマー被覆強磁性粒子の水中粒子径は199.7nmであるのに対し、実施の形態のポリマー被覆強磁性粒子の水中粒子径は147.5nmである。
【0014】
したがって、従来のポリマー被覆強磁性粒子に対して、実施の形態のポリマー被覆強磁性粒子はフェライトの含有率が大きい。具体的には、前記ポリマー被覆強磁性粒子1(図1参照)の総重量に対する前記フェライト粒子2の重量比が33%を超え88%未満であるように、前記ポリマー層30の厚さが調節されることで、前記ポリマー被覆強磁性粒子1が形成されている。
【0015】
ポリマー被覆強磁性粒子の総重量に対するポリマー被覆の重量比は、熱重量分析により分析することができる。すなわち、ポリマー被覆強磁性粒子を高温にすると、フェライト粒子よりも熱に弱いポリマー被覆が失われてフェライト粒子が残る。そのため、ポリマー被覆磁性体粒子の総重量に対し、熱重量分析で失われた重量比がポリマー被覆の重量比であり、ポリマー被覆の重量比から、残ったフェライト粒子の重量比を得ることができる。
【0016】
図3aは、従来のポリマー被覆強磁性粒子の総重量に対するポリマー被覆の重量比を熱重量分析によって分析したグラフである。図3bは本発明の実施の形態に係るポリマー被覆強磁性粒子の総重量に対するポリマー被覆の重量比を熱重量分析によって分析したグラフである。
【0017】
図3a,図3bを参照すると、グラフの横軸は分析開始からの経過時間であり、右側縦軸は分析時の環境の温度であってグラフ中の線「TEMP」で表されており、左側縦軸は分析開始時からのポリマー被覆強磁性粒子の総重量に対する失われたポリマー被覆の重量比であってグラフ中の線「TG」で表されている。
【0018】
図3aに示すように、従来のポリマー被覆強磁性粒子では熱重量分析終了時の失われたポリマー被覆の重量比は約-78%であり、フェライト粒子の重量比は約22%である。一方、図3bに示すように、実施の形態に係るポリマー被覆強磁性粒子では熱重量分析終了時の失われたポリマー被覆の重量比は約-56%であり、フェライト粒子の重量比は約44%である。したがって、実施の形態に係るポリマー被覆強磁性粒子の総重量に対するフェライト粒子の重量比が33%を超え88%未満であり、また、従来のポリマー被覆強磁性粒子のフェライト粒子の含有率に対して、実施の形態に係るポリマー被覆強磁性粒子のフェライト粒子は約2倍の含有率を有する。
【0019】
図4に、従来のポリマー被覆強磁性粒子と本発明の実施の形態に係るポリマー被覆強磁性粒子との質量磁化率測定結果のグラフを示す。グラフの横軸は磁界強度であり、グラフの縦軸は質量磁化率である。磁界強度を正又は負の方向に連続的に強くし、質量磁化率が正又は負の方向に飽和したときの値を飽和磁化量とすると、従来のポリマー被覆強磁性粒子は約15.7emu/g、ポリマー被覆強磁性粒子は約31.5emu/gである。すなわち、従来のポリマー被覆強磁性粒子に対して実施の形態に係るポリマー被覆強磁性粒子は約2倍の飽和磁化量を有している。
【0020】
図5aに、25℃の液体中においてポリマー被覆強磁性粒子を磁気により分離・回収する磁気分離実験を、従来のポリマー被覆強磁性粒子及び本発明の実施の形態に係るポリマー被覆強磁性粒子についてそれぞれ行った結果を示す。また、図5bに、4℃の液体中においてポリマー被覆強磁性粒子を磁気により分離・回収する磁気分離実験を、従来のポリマー被覆強磁性粒子及び本発明の実施の形態に係るポリマー被覆強磁性粒子についてそれぞれ行った結果を示す。
【0021】
なお、図5a,図5bに示す磁気分離実験では、ポリマー被覆強磁性粒子の回収率97.5%以上で磁気分離完了と定義している。また、図5a,図5bでは横軸が実験開始からの経過時間、縦軸がポリマー被覆強磁性粒子の回収率である。
【0022】
図5aを参照すると、25℃の液体中において、従来のポリマー被覆強磁性粒子は3分経過しても磁気分離完了していないのに対して、実施の形態に係るポリマー被覆強磁性粒子は30秒以内に磁気分離完了している。また、図5bを参照すると、4℃の液体中において、従来のポリマー被覆強磁性粒子は3分経過しても磁気分離完了していないのに対して、実施の形態に係るポリマー被覆強磁性粒子は1分以内に磁気分離完了している。したがって、従来のポリマー被覆強磁性粒子に対して、実施の形態に係るポリマー被覆強磁性粒子は、磁界に対する応答性が高く磁界中において移動速度に優れる。
【0023】
なお、ポリマー被覆強磁性粒子の総重量に対するフェライト粒子の重量比が33%以下である場合は、25℃の液体中において30秒以下、4℃の液体中において1分以下という短時間で磁気分離完了する磁気応答性を持つ磁性粒子が得られないため、ポリマー被覆強磁性粒子の総重量に対するフェライト粒子の重量比を33%以下にすることは好ましくない。また、ポリマー被覆強磁性粒子の総重量に対するフェライト粒子の重量比が88%以上である場合は、ポリマー被覆が確認できず粒子の分散性が悪くなるため、ポリマー被覆強磁性粒子の総重量に対するフェライト粒子の重量比を88%以上にすることは好ましくない。
【0024】
このように、前記フェライト粒子2と、前記フェライト粒子2を被覆した状態で設けられた前記ポリマー層30と、前記ポリマー層30を被覆した状態で設けられた前記pGMA層31とを備えたポリマー被覆強磁性粒子であって、総重量に対する前記フェライト粒子2の重量比が33%を超え88%未満であるので、磁界に対する応答性が高く、磁界中において移動速度に優れる。
【0025】
また、強磁性粒子として強磁性の前記フェライト粒子2を利用しているので、磁気応答性が高く、粒子表面の耐食性が確保されているので前記ポリマー被覆強磁性粒子1の品質が向上する。
【0026】
なお、本発明の実施の形態において、強磁性粒子として前記フェライト粒子2を用いていたが、前記フェライト粒子2の代わりに、強磁性を有するFe,Co及びNi等の金属、金属合金又は金属間化合物の微粒子を用いることができる。これにより、体積当たりの飽和磁化量を大きくすることもできる。なお、これらの微粒子を用いる場合には、強磁性粒子の耐食性が確保されていることが好ましい。例えば、Fe金属の微粒子を用いる場合には、表面をマグネタイトのような安定な酸化物で完全に被覆されることが好ましい。
【0027】
なお、本発明によるポリマー被覆強磁性粒子の要旨としては、以下の通りである。すなわち、前記フェライト粒子2と、前記フェライト粒子2を被覆した状態で設けられた前記ポリマー層30と、前記ポリマー層30を被覆した状態で設けられた前記pGMA層とを備えたポリマー被覆強磁性粒子であって、総重量に対する前記フェライト粒子2の重量比が33%を超え88%未満である構成であり、また、強磁性粒子として強磁性の前記フェライト粒子2を利用している構成である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によるポリマー被覆強磁性粒子は、強磁性粒子と、強磁性粒子を被覆した状態で設けられたポリマー層と、ポリマー層を被覆した状態で設けられた表面層とを備えたポリマー被覆強磁性粒子であって、総重量に対する強磁性粒子の重量比が33%を超え88%未満であることを特徴とするので、磁界に対する応答性が高く、磁界中において移動速度に優れる。
【符号の説明】
【0029】
1 ポリマー被覆強磁性粒子
2 フェライト粒子(強磁性粒子)
30 ポリマー層
31 pGMA層(表面層)
図1
図2a
図2b
図3a
図3b
図4
図5a
図5b