(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-24
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】γ-アミノ酪酸高富化乾燥パパイヤの調製方法、およびγ-アミノ酪酸高富化パパイヤ粉末の調製方法
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20220111BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20220111BHJP
C12P 1/00 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
A23L33/10
A23L19/00 A
C12P1/00 A
(21)【出願番号】P 2017176356
(22)【出願日】2017-09-14
【審査請求日】2020-06-16
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501388261
【氏名又は名称】農業生産法人株式会社 熱帯資源植物研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【氏名又は名称】山中 生太
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 賢洋
(72)【発明者】
【氏名】知念 綾子
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 美奈
(72)【発明者】
【氏名】高良 亮
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104982528(CN,A)
【文献】特開2004-024229(JP,A)
【文献】国際公開第2007/037262(WO,A1)
【文献】特開平03-236763(JP,A)
【文献】松本 恭郎ほか,γ-アミノ酪酸を蓄積させた機能性食品素材の利用研究(第2報) 農産物の生理機能を活用したγ-アミノ酪酸の蓄積技術,愛媛県工業技術センター研究報告,1998年,No. 36,pp. 73-77
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/10
A23L 19/00
C12P 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生パパイヤにグルタミン酸またはグルタミン酸塩を添加し、
減圧乾燥機を使用して980~990hPaの圧
力下で温度
45~
55℃で
24~120時間乾燥し、水分含有量が5%未満かつγ-アミノ酪酸含有量が増加した乾燥パパイヤを製造することを特徴とする、γ-アミノ酪酸高富化乾燥パパイヤの調製方法。
【請求項2】
前記グルタミン酸またはグルタミン酸塩の添加は、これらの溶液を、生パパイヤに噴霧する方法である、請求項1記載のγ-アミノ酪酸高富化乾燥パパイヤの調製方法。
【請求項3】
前記乾燥工程を窒素パージで行うことを特徴とする、請求項1または2記載のγ-アミノ酪酸高富化乾燥パパイヤの調製方法。
【請求項4】
前記生パパイヤが、単為結実した青パパイヤであることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載のγ-アミノ酪酸高富化乾燥パパイヤの調製方法。
【請求項5】
前記生パパイヤが、種を有する青パパイヤであることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載のγ-アミノ酪酸高富化乾燥パパイヤの調製方法。
【請求項6】
前記生パパイヤは、粉砕された生パパイヤであることを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載のγ-アミノ酪酸高富化乾燥パパイヤの調製方法。
【請求項7】
前記生パパイヤに前記グルタミン酸またはグルタミン酸塩を添加した後、温度-30℃~40℃に維持し、ついで前記乾燥することを特徴とする、請求項1~6のいずれかに記載のγ-アミノ酪酸高富化乾燥パパイヤの調製方法。
【請求項8】
前記生パパイヤに前記グルタミン酸またはグルタミン酸塩を添加した後、脱気および/または窒素パージして温度-30℃~40℃に維持し、ついで前記乾燥することを特徴とする、請求項7記載のγ-アミノ酪酸高富化乾燥パパイヤの調製方法。
【請求項9】
請求項1~8記載のいずれかの方法で得たγ-アミノ酪酸高富化乾燥パパイヤを粉砕することを特徴とする、γ-アミノ酪酸高富化パパイヤ粉末の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、γ-アミノ酪酸高富化乾燥パパイヤの調製方法、γ-アミノ酪酸高富化パパイヤ粉末の調製方法、およびγ-アミノ酪酸高富化パパイヤの調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
γ-アミノ酪酸(γ-amino butyric acid:以下、単にGABAと記載する。)は、抑制性の神経伝達物質として機能し、血圧上昇抑制、その他の作用を有することが知られている。GABAの効果に鑑みて、従来の食品にGABAを添加した嗜好品やサプリメントなどが多数市販されている。一方、食品加工に際してGABA含有量を高める取り組みもある。例えば、乳酸菌を利用してGABAを増加させる方法がある(特許文献1)。パパイヤ、ジャボチカバ、シークヮーサーなどの果実搾汁液にグルタミン酸と乳酸とを添加し、乳酸菌発酵によりGABA高含有物を製造する方法である。乳酸発酵を利用するため、果実搾汁液等を予め乳酸発酵に好適なpHに調整する必要があり、果汁搾汁液の中和処理を行っている。乳酸菌を添加するため、原料の風味が変化する場合があり、高度な設備が必要である。
【0003】
一方、乳酸発酵を行うことなくGABA含有量を増加させる方法もある(非特許文献1)。GABAを比較的多く含む野菜としてナスに1%のグルタミン酸を添加し、低温スチーミング電気鍋を用いて60℃の加湿状態で加熱したところ、GABA含有量が約2倍に増加するという。また、GABA含量を増加させたイチジク豆乳の製造方法もある(非特許文献2)。大豆にはGABA生成酵素があることを見出したものであり、グルタミン酸とGABA生成酵素に富むイチジクピューレと豆乳とを混合し、大豆GABA生成酵素の至適温度で酵素反応させると、GABA含量が増加したイチジク豆乳が調製できるという。
【0004】
GABA生成酵素として、グルタミン酸脱炭酸酵素(glutamic acid decarboxylase:以下、単にGADと称する。)がある。GADの作用でグルタミン酸からGABAと二酸化炭素とが生成する。上記非特許文献1および2は、グルタミン酸とGADとを効率的に反応させ、GABA濃度を高めるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】堀江秀樹等、「ナス果実中のγ-アミノ酪酸含量と加熱による増加」、日本食品科学工学会誌、第60巻、第11号、p661-664(2013)
【文献】堤智博等、「酵素反応を利用してγーアミノ酪酸含量を増加させた機能性食品イチジク豆乳の開発」、福岡県農業総合試験場研究報告27、p7-10 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
熱帯原産のパパイヤは、糖度の高い熟した果実の他、糖度の低い未熟な青パパイヤも摂取可能で、食材やサプリメントなどに広く使用されている。パパイヤの風味を損ねることなくGABA量を増加させるには、乳酸菌などの他の微生物を添加しないことが好ましい。GABA量が増加した生パパイヤは、これを粉砕してジュースその他に加工することができ、摂取者のGABA利用率を簡便に向上させることができる。したがって、風味を変化させず、生パパイヤのGABA量を増加させる方法の開発が望まれる。
【0008】
一方、食材を保存する方法として乾物がある。大根、玉ねぎ、にんじんなどの野菜、ブドウ、パパイヤ、イチジク、パインなど多くの野菜や果物の乾物が流通している。通常、天日干しやフリーズドライ製法で調製される。このような乾物は、そのまま可食し、または調理材料として使用されるため、GABA含有量が高い乾物を調製できれば、乾物摂取者のGABA利用率を向上させることができる。しかしながら、GADや乳酸菌によってGABA含有量を増加させる反応は酵素反応である。酵素反応に足る含水量を維持する必要があり、上記特許文献1、非特許文献1、非特許文献2は、いずれも含水食材を対象としGABA含有量を増加するものである。
【0009】
パパイヤの風味を損ねることなく乾燥物を得るために、非特許文献1を参照し、グルタミン酸を添加して温度60℃に加湿してGABA量を増加させ、次いでフリーズドライによって乾燥パパイヤを製造することも理論的には可能である。しかしながら、加湿した後に乾燥するのは不合理であり、乾燥のためのフリーズドライ用の装置が必要となり、製造コストも増加する。したがって、より簡便にGABA含有量が増加した乾燥パパイヤを製造できる方法の開発が望まれる。
【0010】
また、生のパパイヤは、パパイン、キモパパイン、カルパインなど種々の酵素が含まれており、これらの酵素を有効利用できるパパイヤ粉末も存在する。このようなパパイヤ粉末においてもGABA含有量が高ければ、GABAの利用効率を向上させることができる。したがって、GABA含有量の高いパパイヤ粉末の製造方法の開発が望まれる。
【0011】
上記現状に鑑み、本発明はGABA含有量が高い乾燥パパイヤを簡便に調製する方法を提供することを目的とする。
【0012】
また本発明は、GABA高富化乾燥パパイヤ粉末の調製方法を提供することを目的とする。
【0013】
また本発明は、GABA高富化パパイヤの調製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、生のパパイヤにGADが含まれかつGAD活性が高いこと、生パパイヤを室温に静置するとGABA含有量が増加した生パパイヤを製造できること、生のパパイヤにグルタミン酸溶液を添加して温度20~80℃で減圧乾燥したり、前記GABA含有量が増加した生パパイヤを減圧乾燥すると、GABA量が増加した乾燥パパイヤを製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
すなわち本発明は、生パパイヤにグルタミン酸またはグルタミン酸塩(以下、単にグルタミン酸(塩)とも記載する。)を添加し、減圧乾燥機を使用して980~990hPaの圧力下で温度45~55℃で24~120時間乾燥し、水分含有量が5%未満かつγ-アミノ酪酸含有量が増加した乾燥パパイヤを製造することを特徴とする、GABA高富化乾燥パパイヤの調製方法を提供するものである。
【0016】
また、前記グルタミン酸(塩)の添加は、これらの溶液を、生パパイヤに噴霧する方法である、前記GABA高富化乾燥パパイヤの調製方法を提供するものである。
【0017】
また、前記乾燥工程を窒素パージで行うことを特徴とする、前記GABA高富化乾燥パパイヤの調製方法を提供するものである。
【0018】
また、前記生パパイヤが、単為結実した青パパイヤであることを特徴とする、前記GABA高富化乾燥パパイヤの調製方法を提供するものである。
【0019】
また、前記生パパイヤが、種を有する青パパイヤであることを特徴とする、前記GABA高富化乾燥パパイヤの調製方法を提供するものである。
【0020】
また、生パパイヤは、粉砕された生パパイヤであることを特徴とする、前記GABA高富化乾燥パパイヤの調製方法を提供するものである。
【0021】
また、前記生パパイヤに前記グルタミン酸(塩)を添加した後、温度-30℃~40℃に維持し、ついで前記乾燥することを特徴とする、前記GABA高富化乾燥パパイヤの調製方法を提供するものである。
【0022】
また、前記生パパイヤに前記グルタミン酸(塩)を添加した後、脱気および/または窒素パージして前記温度-30℃~40℃に維持し、ついで前記乾燥することを特徴とする、前記GABA高富化乾燥パパイヤの調製方法を提供するものである。
【0023】
また、前記いずれかの方法で得たγ-アミノ酪酸高富化乾燥パパイヤを粉砕することを特徴とする、GABA高富化パパイヤ粉末の調製方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、乳酸菌発酵を行うことなく、GABA含有量の高い生パパイヤや乾燥パパイヤを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、生パパイヤにグルタミン酸(塩)を添加し、温度20~80℃で乾燥し、GABA含有量が増加した乾燥パパイヤを製造することを特徴とする、GABA高富化乾燥パパイヤの調製方法を提供するものである。以下、本発明を詳細に説明する。
【0028】
本発明で使用するパパイヤは、パパイア科パパイア属の常緑小高木である。熟すると黄色い果実となるが、未熟な青パパイヤも可食することができる。パパイヤは雄雌異株であるが、雌株だけでも単為結実することが多い。単為結実したパパイヤは種がない。青パパイヤは雌株中心に栽培されることが多いため、種のない青パパイヤが多く市販されている。本発明は、GABA含有量の多い乾燥パパイヤを調製する方法であり、使用するパパイヤは、生のパパイヤであれば、青パパイヤでも熟したパパイヤでもよく、青パパイヤは種のあるものであっても種のないものであってもよい。
【0029】
生パパイヤは、洗浄したものをそのまま使用してもよく、皮を除去したものであってもよい。また、丸ごと使用してもよく、2以上にブロック状またはスライス状に分割してもよく、おろし器などで粉砕したものであってもよい。例えば、切り干し大根やかんぴょうと同様に帯状にスライスし、または拍子木状に切断して使用することができる。
【0030】
パパイヤ粉末を製造する場合には、生パパイヤを粉砕し、グルタミン酸(塩)を添加した後に乾燥してもよく、生パパイヤから乾燥パパイヤを製造した後にこれを粉砕してパパイヤ粉末としてもよい。
【0031】
グルタミン酸は、GADによって脱炭酸されGABAに変換される。パパイヤにGADが含まれるとGABAが生成する可能性があるが、パパイヤにおけるGAD活性の有無は不明であった。しかしながら、後記する実施例に示すように、パパイヤには、グルタミン酸と共にGADが存在することが判明した。
【0032】
本発明では、生パパイヤにグルタミン酸(塩)を添加する。グルタミン酸塩としては、例えば、グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸カリウム、グルタミン酸塩酸塩などがある。グルタミン酸(塩)の添加方法に限定はないが、たとえば濃度0.1~50w/v%の溶液を調製し、生パパイヤに添加することができる。例えば生パパイヤにグルタミン酸(塩)溶液を噴霧し、またはグルタミン酸(塩)溶液に生パパイヤを含浸して添加することができる。添加前の生パパイヤの形状にもよるが、スライスした生パパイヤにグルタミン酸(塩)溶液を噴霧すれば、パパイヤに含まれるGAD活性を有効使用して効率的にGABA含有量を増加させることができる。粉砕生パパイヤに添加する場合は、グルタミン酸(塩)溶液を所定量添加すればよい。後記する実施例に示すように、パパイヤに含まれるGADは活性が高くグルタミン酸添加量に応じてGABA量を増加させることができる。添加するグルタミン酸(塩)量は、生パパイヤに対して終濃度0.01~5w/w%、好ましくは0.05~3w/w%、特に好ましくは0.1~2w/w%とする。この範囲であれば得られる乾燥パパイヤの風味を損なうことなくGABA量を増加させることができる。
【0033】
また、生パパイヤを室温に静置するとGABA量が増加することが判明した。特にグルタミン酸(塩)を添加すると、GABA量の増加率が高い。したがって、生パパイヤにグルタミン酸(塩)を添加し、温度-30℃~40℃、より好ましくは0℃~40℃、特に好ましくは20~40℃に温度調整し、10分以上、好ましくは10分~10時間、特に好ましくは10分~60分維持する。これにより、生パパイヤのGABA含有量を増加させることができる。
【0034】
また、グルタミン酸(塩)を添加した後に、脱気し、更に窒素パージし、上記温度-30℃~40℃に温度調整してもよい。
【0035】
本発明では、乾燥パパイヤを製造する際に、上記によって生パパイヤのGABA量を増加させた後に乾燥してもよい。
【0036】
生パパイヤを乾燥する際の温度は、20~80℃が好ましく、より好ましくは30~60℃、特に好ましくは45~55℃である。加熱乾燥の圧力は、800~1000hpaであることが好ましく、より好ましくは900~990hpa、特に好ましくは980hpa~990hpaであり、減圧条件に制御することで低温で効率的に乾燥することができる。乾燥時間に限定はなく、得られる乾燥パパイヤの水分含有量が5%未満となるまで乾燥する。通常、24~120時間、好ましくは48~96時間である。この範囲で、グルタミン酸を脱炭酸してGABAを生成しつつ、パパイヤを乾燥させることができる。このような乾燥処理は、例えば減圧乾燥器を使用して行うことができる。
【0037】
なお、減圧乾燥の際に、窒素パージを行ってもよい。窒素パージによりGABA含有量が増加することが判明した。
【0038】
本発明では、グルタミン酸(塩)の添加により、GABA量が増加した乾燥パパイヤを調製することができる。後記する実施例に示すように、生パパイヤにグルタミン酸を1%添加して上記条件で乾燥すると、乾燥パパイヤ100gあたり500mgにGABA量が増加した乾燥パパイヤを調製することができる。グルタミン酸無添加では乾燥パパイヤ100gあたり86mgであるから、GABA増加量は約6倍となる。
【0039】
通常、生パパイヤ100gから通常5~8gの乾燥パパイヤが製造できる。後記する実施例に示すように、予め生パパイヤに終濃度0.2%となるようにグルタミン酸(塩)を添加して室温で30分維持すると生パパイヤ100gあたりのGABA量が約120mgに増加した。これを上記条件で乾燥すると、乾燥パパイヤ100gあたり約500mgのGABA、すなわち0.5w/w%のGABAを含む乾燥パパイヤとなった。本発明によれば、添加するグルタミン酸(塩)濃度に応じて0.07~3w/w%、0.2~2w/w%、または0.2~1w/w%のGABAを含む乾燥パパイヤを製造することができる。
【0040】
本発明のGABA含有量が向上した乾燥パパイヤは、グルタミン酸(塩)の添加および所定温度および所定時間の放置の後、従来の減圧乾燥機を使用して製造することができる。このため、特別の装置を必要としない。得られる乾燥パパイヤを用いて調理すると、GABA含有量の高い食材で料理することができる。
【0041】
本発明では、上記によって製造した乾燥パパイヤを粉砕し、GABA高富化パパイヤ粉末とすることができる。一方、生パパイヤ粉砕物にグルタミン酸(塩)を添加してから乾燥し、GABA高富化パパイヤ粉末を製造してもよい。本発明のパパイヤやパパイヤ粉末は、減圧乾燥で製造されるため含まれる酵素が失活しておらず、これに水を添加すると酵素活性を復活させることができる。このため、健康食品、サプリメント、調味料、飲料その他の食用に使用するほか、洗顔その他の外用に使用することができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
青パパイヤには、種つきの青パパイヤと単為結実による種がない青パパイヤとがある。種なしの青パパイヤを用いて、下記の方法でグルタミン酸添加によるGABA増加を観察した。この青パパイヤのGABA含有量は、4mg/100gであった。
【0044】
95%エタノールを添加し、青パパイヤに含まれる酵素を失活させた酵素失活青パパイヤを得た。
【0045】
生の青パパイヤまたは酵素失活青パパイヤをフードプロセッサーを使用して一片平均約5gに粉砕した。これを蓋付き試験管に収納し、濃度1.0w/v%のグルタミン酸ナトリウム溶液を生パパイヤに対して終濃度0.2%となるように添加し、グルタミン酸ナトリウム添加生パパイヤを得た。また、グルタミン酸ナトリウムを添加せずに同様に操作してグルタミン酸ナトリウム無添加生パパイヤを得た。また、これらの一部を別の蓋付き試験管に収納し、サイズ140mm×240mmの防湿三方袋(福助工業製、バリアOP Yタイプ)に収納した。各試験管を室温(27±5℃)で30分間静置した。次いで、各静置後の青パパイヤおよび酵素失活青パパイヤに含まれるGABAを測定した。条件の概要および結果を表1に示す。なお、表1におけるGABA含有量は、原料である生パパイヤ100g中のGABA含有量(mg)である。また、青パパイヤおよび酵素失活青パパイヤのグルタミン酸含有量を測定したが、検出限界以下であり、表1では0mg/100gと記載した。
【0046】
各試料を表1に示すように番号付けし、番号1~6のパパイヤ試料について、試験管の蓋を開け、減圧乾燥機(八尋産業株式会社製、商品名「減圧平衡発熱乾燥機(BCD-1300U型)」)のエビラに載置し、温度45℃、圧力980hpaで40時間減圧乾燥した。得られた乾燥パパイヤの水分含有量は5%未満であった。得られた乾燥パパイヤに含まれるGABAの含有量を測定した。乾燥前の処理概要とGABA測定量の結果を表2に記載する。なお、表2におけるGABAの含有量は、得られた乾燥パパイヤ100gに含まれるGABAの含有量(mg)である。
【0047】
【0048】
【0049】
(参考例1)
青パパイヤに代えてトマトを使用した以外は実施例1と同様に操作し、酵素失活トマトを調製した。トマトまたは酵素失活トマトをフードプロセッサーを使用して1片平均約5gに粉砕した。これに濃度1.0w/v%のグルタミン酸ナトリウム溶液をトマトに対して0.2%となるように添加し、グルタミン酸ナトリウム添加トマトを得た。また、グルタミン酸ナトリウムを添加せずに同様に操作してグルタミン酸ナトリウム無添加トマトを得た。これらを室温(27±5℃)で30分間静置した。また、表3に示すようにその一部を、窒素パージしながら静置した。次いで、静置後のトマトおよび酵素失活トマトに含まれるGABAを測定した。条件の概要および結果を表3に示す。なお、表3におけるGABA含有量は、原料であるトマト100gに含まれるGABA含有量(mg)である。
【0050】
【0051】
(参考例2)
トマトに代えてホウレンソウを使用した以外は参考例1と同様に操作し、ホウレンソウに含まれるGABAを測定した。結果を表4に示す。
【0052】
【0053】
(実施例2)
種なしの青パパイヤを用いて、下記の方法でグルタミン酸ナトリウム添加、および保存温度の相違によるGABA増加を観察した。この青パパイヤのGABA含有量は、4mg/100gであった。また、グルタミン酸含有量は、検出限界以下であった。
【0054】
実施例1と同様に、生の青パパイヤをフードプロセッサーを使用して平均重量1,000~5,000mgに粉砕した。これを蓋付き試験管に収納し、濃度1.0w/v%のグルタミン酸ナトリウム溶液を生パパイヤに対して0.2%となるように添加し、グルタミン酸ナトリウム添加生パパイヤを得た。また、グルタミン酸ナトリウムを添加せずに同様に操作してグルタミン酸ナトリウム無添加生パパイヤを得た。
【0055】
冷凍保存試料は、容器のふたを開け、サイズ140mm×240mmの防湿三方袋(福助工業製、バリアOP Yタイプ)に収納し、脱気し、温度-17℃に冷凍し5時間保存して調製した。室温保存試料は、容器のふたを開け、サイズ140mm×240mmの防湿三方袋(福助工業製、バリアOP Yタイプ)に収納し、脱気した後に窒素パージし、室温(27±5℃)と5時間静置して調製した。その後、これらの試料に含まれるGABA量を測定した。
【0056】
GABA量を測定した後、各試料を実施例1と同様に、減圧乾燥機(八尋産業株式会社製、商品名「減圧平衡発熱乾燥機(BCD-1300U型)」)のエビラに載置し、温度45℃、圧力980hpaで40時間減圧乾燥した。得られた乾燥パパイヤの水分含有量は5%未満であった。得られた乾燥パパイヤに含まれるGABAの含有量を測定した。操作の概要とGABA測定量の結果を表5に記載する。なお、表5における乾燥前のGABAの含有量は、生パパイヤ100に含まれるGABAの含有量(mg)であり、乾燥後のGABA含有量は、得られた乾燥パパイヤ100gに含まれるGABAの含有量(mg)である。
【0057】
【0058】
(実施例3)
種つきの青パパイヤと、単為結実による種がない青パパイヤとをそれぞれ3mm幅にスライスし、濃度2.5~10.0w/v%のグルタミン酸ナトリウム溶液を噴霧して表6に示す濃度となるようにパパイヤに添加した。これを減圧乾燥機(八尋産業株式会社製、商品名「減圧平衡発熱乾燥機(BCD-1300U型)」)のエビラに載置し、温度45℃、圧力980hpaで40時間減圧乾燥した。得られた乾燥パパイヤの水分含有量は5%未満であった。この乾燥パパイヤを粉砕してパパイヤ粉末を得た。得られた各パパイヤ粉末に含まれるGABA、グルタミン酸、アスパラギン酸及びアラニンの含有量を測定した。結果を表6に併せて記載する。なお、表6におけるGABAおよび各種アミノ酸の含有量は、得られた乾燥パパイヤ100gに含まれるGABAまたは各種アミノ酸の含有量(mg)である。なお、使用した青パパイヤのGABA含有量は、いずれも生パパイヤ100g中4mgであった。
【0059】
【0060】
(結果)
上記表1の結果に示すように、粉砕した青パパイヤにグルタミン酸ナトリウムを終濃度0.2%になるように添加して室温で放置すると、グルタミン酸ナトリウム無添加では生パパイヤ100gあたりGABA量が25.7mgであるのに対し、118.4mgに増加した。また、酵素失活青パパイヤでは、グルタミン酸ナトリウムの添加の有無にかかわらずGABA量が27.8mg、39.4mgと低値であった。これらから、青パパイヤにはグルタミン酸ナトリウムを基質としてGABAを生成するGADが存在すると推定された。また、窒素パージによりGABA量が増加することが判明した。その理由は明確ではないが、グルタミン酸からGABAへの変換は嫌気条件下で起こるためと推定される。
【0061】
表2の結果に示すように、GADが活性である青パパイヤにグルタミン酸ナトリウムを終濃度0.2%になるように添加した後に減圧乾燥すると、グルタミン酸ナトリウム無添加では乾燥パパイヤ100gあたりGABA量が114.8mgであるのに対し、471.0mgに4倍以上に増加した。
【0062】
表3に示すように、生トマトと酵素失活トマトとの間、およびグルタミン酸ナトリウム添加の有無によってGABA量の増加が観察されないため、グルタミン酸からGABAを生成するGAD活性は低いと推定された。
【0063】
表4に示すように、生ホウレンソウと酵素失活ホウレンソウとの間でGABA量の増加が観察されないため、ホウレンソウに含まれるGAD量は少ないと推定された。一方、生のホウレンソウにグルタミン酸ナトリウムを添加すると、無添加系よりもGABA量が増加する傾向が観察された。したがって、ホウレンソウのGAD含有量は少ないが、GAD活性はトマトより高いと推定された。
【0064】
表5に示すように、粉砕パパイヤは、グルタミン酸ナトリウムを添加して脱気すると、その後に冷凍または室温のいずれで保存しても、生パパイヤに含まれるGABA量が、グルタミン酸ナトリウム無添加系より増加した。パパイヤに含まれるGADは、脱気工程によって、凍結および溶解による酵素活性の低下を抑制できると推定された。更に、表1の結果を参照すると、生パパイヤにグルタミン酸またはグルタミン酸塩を0.1~3w/w%添加した後、温度-30℃~40℃で10分~10時間保存すると、生パパイヤに含まれるGABA量を増加させ得ることが判明した。
【0065】
表5の結果について乾燥前後で比較すると、グルタミン酸ナトリウム無添加の場合、乾燥後のGABA量は114.8mgであり、乾燥前37.4mgの3倍である。一方、終濃度0.2%にグルタミン酸ナトリウムを添加すると、乾燥後513.6mgとなり乾燥前112.6mgの4.6倍も増加した。これにより、グルタミン酸ナトリウムを添加し減圧乾燥すると、乾燥工程においてもGADによってGABAが生成し、GABA生成量が更に増加すると推定された。
【0066】
表6に示すように、青パパイヤにグルタミン酸ナトリウムを添加して減圧乾燥すると、添加量に応じてGABA量が増加した。この傾向は、種を有する青パパイヤでも種を有しない青パパイヤでも同様に観察された。特に、種を有しない青パパイヤでは、グルタミン酸ナトリウムの添加によりGABA量が、85.7mgから501.2mgと約6倍増加した。一方、種を有する青パパイヤは、種なしと比較してアスパラギン酸およびアラニン量の含有量が高いことが判明した。グルタミン酸ナトリウムの添加は、スライスしたパパイヤにグルタミン酸溶液を噴霧する方法である。減圧乾燥前にグルタミン酸ナトリウム溶液を噴霧するだけで、GABA量が増加した乾燥パパイヤを製造できることが判明した。
【0067】
表2と表6とから、種なし青パパイヤ、窒素パージなし、グルタミン酸ナトリウムを添加しない場合で比較すると、青パパイヤを粉砕した場合のGABA含有量は乾燥パパイヤ100gあたり114.8mgであるが、スライスした場合は85.7mgである。また、グルタミン酸ナトリウム添加例で比較すると、青パパイヤを粉砕した場合のGABA含有量は乾燥パパイヤ100gあたり471.0mgであるが、スライスした場合は501.2mgである。粉砕例のグルタミン酸ナトリウムの添加量が終濃度0.2%であるのに対し、スライス例では終濃度1%である。これらから、パパイヤを粉砕するとGADの活性が向上し、得られる乾燥パパイヤ中のGABA含有量が増加すると推定される。