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特許6999187ヘッドホンのためのアクティブノイズ消去システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-24
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】ヘッドホンのためのアクティブノイズ消去システム
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/178 20060101AFI20220111BHJP
   H04R 1/10 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
G10K11/178 100
H04R1/10 101B
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019536656
(86)(22)【出願日】2017-09-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-07
(86)【国際出願番号】 EP2017073212
(87)【国際公開番号】W WO2018050787
(87)【国際公開日】2018-03-22
【審査請求日】2020-08-27
(31)【優先権主張番号】62/395,447
(32)【優先日】2016-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519093322
【氏名又は名称】エイブイエイトロニクス・エスエイ
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】ファラハニサマニ・アミールフーシャン
(72)【発明者】
【氏名】ヘザベ・ジェイラン
(72)【発明者】
【氏名】タレビ・アリ
【審査官】西村 純
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-189530(JP,A)
【文献】特開2007-180922(JP,A)
【文献】特開2011-002481(JP,A)
【文献】米国特許第05627746(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/178
H04R 1/00-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング、アクティブノイズ消去システムと、環境ノイズを感知するように配置されたマイクロホン、前記ケーシング内に搭載された、スピーカーシステム、を含む、ヘッドホンにおいて、前記アクティブノイズ消去システは、前記マイクロホンよび前記スピーカーシステムに接続されたアクティブノイズ消去回路を含み、前記アクティブノイズ消去回路は、
感知された前記環境ノイズをデジタル環境ノイズ信号に変換するように配置されたアナログ-デジタル変換器(ADC)
複数反転デジタル環境ノイズサンプルを予測し、デジタル反転環境ノイズ信号を生成するように構成された予測フィルタ
前記環境ノイズを消去するために、前記デジタル反転環境ノイズ信号をアナログ反転環境ノイズ信号に変換するデジタル-アナログ変換器(DAC)
を含み、
予測された前記複数の反転デジタル環境ノイズサンプルの数Dは、 PD *fsに等しく、T PD は、前記ADCおよび前記DACを含む前記アクティブノイズ消去回路の総レイテンシに対応する、予測深さ時間TPD であり、fsは、前記ADCおよび前記DACのクロック周波数である、ヘッドホン。
【請求項2】
請求項1に記載のヘッドホンにおいて、
前記アクティブノイズ消去回路は、感知された前記環境ノイズに対する前記マイクロホン場所の影響を補償するため、前記予測フィルタの前または後ろでデジタル信号経路に配置されたケーシング周波数応答フィルタ含む、ヘッドホン。
【請求項3】
請求項1または2に記載のヘッドホンにおいて、
前記アクティブノイズ消去回路は、ユーザに対して再生されることが意図された音声信号を、前記デジタル反転環境ノイズ信号または前記アナログ反転環境ノイズ信号に加算するように配置された、加算回路含む、ヘッドホン。
【請求項4】
請求項3に記載のヘッドホンにおいて、
前記アクティブノイズ消去回路は、加算された前記音声信号および前記反転環境ノイズ信号の利得を調節する増幅器含む、ヘッドホン。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のヘッドホンにおいて、
前記ADCおよび前記DACは、1μs未満の総レイテンシを有する前記クロック周波数動作する、ヘッドホン。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のヘッドホンにおいて、
前記マイクロホンおよび前記アクティブノイズ消去回路は、前記ケーシング内に搭載されている、ヘッドホン。
【請求項7】
ヘッドホン音声信号を生成する方法において、
マイクロホンを通じて環境音声ノイズ信号を感知するステップと、
アナログ-デジタル変換器(ADC)を用いて、感知された前記環境音声ノイズ信号をデジタル環境音声ノイズ信号に変換するステップと、
予測フィルタ係数を抽出するために前記デジタル環境音声ノイズ信号に対して予測フィルタ訓練アルゴリズムを実行するステップと、
環境ノイズ信号の複数個将来のサンプルを予測するように構成された、クロック周波数複数のN倍で動作する予測フィルタへと、前記予測フィルタ係数を更新するステップと、
反転予測環境ノイズサンプルを生成するために、前記デジタル環境音声ノイズ信号およびその予測された前記複数個将来のサンプルを処理するステップと、
デジタル-アナログ変換器(DAC)によって前記反転予測環境ノイズサンプルをアナログアクティブノイズ消去信号に変換するステップと、
を含み、
予測された前記複数個将来のサンプルの数Dは、T PD *fsに等しく、T PD は、前記ADCおよび前記DACを含むアクティブノイズ消去回路の総レイテンシに対応する、予測深さ時間TPD であり、fsは、前記ADCおよび前記DACのクロック周波数(fs)である、方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法において、
前記ADCは、1μs未満の総レイテンシを有する前記クロック周波数(fs)で動作する、方法。
【請求項9】
請求項7または8に記載の方法において、
ユーザが意図する音声信号サンプルを前記反転予測環境ノイズサンプルに加算し、前記デジタル-アナログ変換器(DAC)によって、前記サンプルを、前記アナログアクティブノイズ消去信号を含むアナログ音声信号に変換するステップをさらに含む、方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法において、
前記アナログアクティブノイズ消去信号を含む前記アナログ音声信号は、スピーカーシステムに供給されて、前記意図する音声信号サンプルを前記ユーザに対して再生すると同時に、環境ノイズを消去する、方法。
【請求項11】
請求項7~10のいずれか一項に記載の方法において、
前記マイクロホンの場所を調節するために、前記デジタル環境音声ノイズ信号およびその予測された前記複数個将来のサンプルをケーシング周波数応答フィルタおいて処理するステップをさらに含む、方法。
【請求項12】
請求項7~11のいずれか一項に記載の方法において、
前記予測フィルタは、環境ノイズ信号の前記複数個将来のサンプルを予測するように構成される、方法。
【請求項13】
請求項7~12のいずれか一項に記載の方法において、
前記予測フィルタは、前記ADC前記クロック周波数(fs)より複数のN倍高いクロック周波数(Nxfs)で動作し、前記複数のNは、10~1000の範囲である、方法。
【請求項14】
請求項7~13のいずれか一項に記載の方法において、
予期される将来のノイズ信号における前記予測ノイズサンプルの数は、TPD*fsに等しく、TPDは、アクティブノイズ消去システムの総レイテンシであり、fsは、前記ADCのクロック周波数であり、前記アクティブノイズ消去システムの前記総レイテンシTPDは、100μs~200μsの範囲である、方法。
【請求項15】
請求項7~14のいずれか一項に記載の方法において、
前記ADCの前記クロック周波数、200KHzより高い、方法。
【発明の詳細な説明】
【開示の内容】
【0001】
本発明は、特にヘッドホンおよびイヤホンのための、アクティブノイズ消去システムと、アクティブノイズ消去システムを備えたヘッドホンおよびイヤホンと、に関する。
【0002】
アクティブノイズ消去を備えた従来のヘッドホンでは、ヘッドホンの内側のマイクロホンが、外部環境ノイズを検出し、これは、その後、処理されて反転信号(inverted signal)を生成し、これが、ヘッドホン着用者のために生成された音声信号の中の環境ノイズを消去する。測定されたノイズ信号は、フィードバック信号を生成するのに使用され、フィードバック信号は、レベルを調節するために増幅器を通じて処理され、その後、ノイズ信号の消去のために、反転されて、ヘッドホンのスピーカーに適用される。フィルタリングが、意図する音声信号を保護するために適用される。今日利用されている大部分のアクティブノイズ消去技術は、実装方式、フィルタ、ならびにマイクロホンおよびスピーカーの設置の変動を伴うアナログ式のものである。
【0003】
さらに最近では、デジタルノイズ消去技術が開発されている。従来のデジタルノイズ消去技術は、環境ノイズの大部分を消去するために、サブバンドフィルタリング、ならびに主要周波音(main frequency tones)の生成およびそれらの高調波に主に基づいている。これらの技術は、ユーザが実際に受ける典型的なノイズの大部分について適度に有効なノイズ消去をもたらす。しかしながら、既存のノイズ消去技術は、それらが取り扱い得る音声信号帯域幅、ユーザに対して再生される意図した音声信号の品質、およびノイズの低減レベルに対して大きな制約があり、それによって、最高クラスの製品は、典型的には、10dBを超えるノイズレベルを低減させることができない。
【0004】
ユーザのために生成される意図した音の音声品質に妥協することなくアクティブノイズ消去の性能を改善することが望ましい。
【0005】
前記を鑑みると、本発明の目的は、環境ノイズを消去すると共に高品質の音声信号を保護するのに有効である、アクティブノイズ消去システムを提供することである。
【0006】
本発明の別の目的は、環境ノイズを消去するのに有効であり、着用者を対象とした音声信号の品質に対する影響が最小限もしくは皆無である、アクティブノイズ消去システムを、ヘッドホンに提供することである。
【0007】
実装するのが容易で費用対効果が高いアクティブノイズ消去システムを提供するのが有利である。
【0008】
本発明の目的は、請求項1に記載のアクティブノイズ消去システム、請求項6に記載のヘッドホン、および請求項8に記載のヘッドホン音声信号を生成する方法を提供することによって、達成されている。
【0009】
本明細書および特許請求の範囲で使用されるような用語「ヘッドホン」は、人の片耳もしくは両耳を覆うか、これらに近接するか、またはこれらの中に入れて人が着用する、任意の電動の携帯型再生装置を包含することが意図されている。例えば、1つのイヤホンまたは一対のイヤホンは、本明細書では用語「ヘッドホン」の意味に含まれると理解される。
【0010】
本明細書では、環境ノイズを感知するように配置されたマイクロホンに接続されたアクティブノイズ消去回路を含むアクティブノイズ消去システムが開示され、アクティブノイズ消去回路は、
感知された環境ノイズをデジタル環境ノイズ信号に変換するように配置されたアナログ-デジタル変換器(ADC)と、
複数のD個の反転デジタル環境ノイズサンプルを予測し、デジタル反転環境ノイズ信号を生成するように構成された予測フィルタと、
環境ノイズを消去するために、デジタル反転環境ノイズ信号をアナログ反転環境ノイズ信号に変換するデジタル-アナログ変換器(DAC)と、
を含む。
【0011】
ある実施形態では、アクティブノイズ消去回路は、感知された環境ノイズに対するマイクロホンの場所の影響を補償するため、予測フィルタの前または後ろでデジタル信号経路に配置されたケーシング周波数応答フィルタを含む。
【0012】
ある実施形態では、アクティブノイズ消去回路は、ユーザに対して再生されることが意図された音声信号を、デジタルまたはアナログ反転環境ノイズ信号に加算するように配置された、加算回路を含む。
【0013】
ある実施形態では、アクティブノイズ消去回路は、加算された音声信号および反転環境ノイズ信号の利得を調節する増幅器を含む。
【0014】
ある実施形態では、ADCおよびDACは、1μs未満の総レイテンシを有するクロック周波数fsで動作する。
【0015】
本明細書では、前述した実施形態のいずれかに記載されるようなアクティブノイズ消去システムと、ケーシングと、アクティブノイズ消去回路に接続された、環境ノイズを感知するように配置されたマイクロホンと、アクティブノイズ消去回路に接続され、ケーシング内に搭載された、スピーカーシステムと、を含む、ヘッドホンも開示される。
【0016】
ある実施形態では、マイクロホンおよびアクティブノイズ消去回路は、ケーシング内に搭載されている。
【0017】
本明細書では、ヘッドホン音声信号を生成する方法も開示され、これは、
マイクロホンを通じて環境音声ノイズ信号を感知するステップと、
アナログ-デジタル変換器(ADC)を用いて、感知された環境音声ノイズ信号をデジタル環境音声ノイズ信号に変換するステップと、
予測フィルタ係数を抽出するためにデジタル音声ノイズ信号に対して予測フィルタ訓練アルゴリズムを実行するステップと、
環境ノイズ信号の複数のD個の将来のサンプルを予測するように構成された、前記クロック周波数fsの複数のN倍で動作する予測フィルタへと、予測フィルタ係数を更新するステップと、
反転予測環境ノイズサンプルを生成するために、デジタル音声ノイズ信号およびその予測された複数のD個の将来のサンプルを処理するステップと、
デジタル-アナログ変換器(DAC)によって反転予測環境ノイズサンプルをアナログアクティブノイズ消去信号に変換するステップと、
を含む。
【0018】
ある実施形態では、ADCおよびDACは、1μs未満の総レイテンシを有するクロック周波数(fs)で動作する。
【0019】
ある実施形態では、方法は、
ユーザが意図する音声信号サンプルを反転予測環境ノイズサンプルに加算し、デジタル-アナログ変換器(DAC)によって前記サンプルをアクティブノイズ消去信号を含むアナログ音声信号に変換するステップをさらに含む。
【0020】
ある実施形態では、アクティブノイズ消去信号を含むアナログ音声信号は、スピーカーシステムに供給されて、意図する音声信号をユーザに対して再生すると同時に、環境ノイズを消去する。
【0021】
ある実施形態では、方法は、
マイクロホンの場所を調節するために、デジタル音声ノイズ信号およびその予測された複数のD個の将来のサンプルをケーシング周波数応答フィルタにおいて処理することをさらに含む。
【0022】
ある実施形態では、予測された複数のD個の将来のサンプルは、ADCおよびDACを含むアクティブノイズ消去回路の総レイテンシに対応する、予測深さ時間(prediction depth time)TPDを有する。
【0023】
ある実施形態では、予測フィルタは、環境ノイズ信号の前記複数のD個の将来のサンプルを予測するように構成され、前記複数を前記クロック周波数で割ったD/fsは、予測時間深さTPDに実質的に等しい。
【0024】
ある実施形態では、予測フィルタは、ADCのクロック周波数fsより複数のN倍高いクロック周波数Nxfsで動作し、複数のNは、10~1000の範囲である。
【0025】
ある実施形態では、予期される将来のノイズ信号における予測ノイズサンプルの数は、有利には、TPD*fsに等しく、TPDは、アクティブノイズ消去システムの総レイテンシであり、fsは、ADCのクロック周波数である。
【0026】
ある実施形態では、アクティブノイズ消去システムの総レイテンシTPDは、100μs~200μsの範囲である。
【0027】
ある実施形態では、ADCのクロック周波数fは、200KHzより高く、例えば200kHz~1MHzの範囲である。
【0028】
本発明のさらなる目的および有利な特徴は、特許請求の範囲、および付属図面と関連する本発明の実施形態に関する以下の詳細な説明から明らかとなるであろう。
【0029】
図面を参照すると、人の耳に接するか、その中にあるか、またはそれに近接して着用されるように構成された、本発明の実施形態によるヘッドホン2は、ケーシング4と、ケーシング4内に搭載されたアクティブノイズ消去システム6と、ケーシング4内に搭載されたスピーカーシステム8と、を含む。スピーカーシステム8は、それ自体が当技術分野で周知であるようなトランスデューサに供給された音声信号から、音を再生するためにさまざまな音響トランスデューサを含み得る。
【0030】
ケーシング4は、外部環境ノイズ受信側に対応する外側4aと、スピーカーシステム8によって生成される音を人の耳の方に向けるように構成された耳側4cと、スピーカーシステム8の構成要素を収容する内側部分4bと、を含む。アクティブノイズ消去システムの構成要素も、好ましくはケーシング4の内側に搭載されるが、変形体では、アクティブノイズ消去システムの構成要素は、部分的に、または全体が、スピーカーシステムを収容するケーシング4の外側、例えば2つのヘッドホンデバイスを接合するヘッドストラップの中、または、ヘッドホンデバイスに接続された有線の制御装置(cabled control)の中などの別個のハウジング内に搭載されてもよい。
【0031】
アクティブノイズ消去システム6は、マイクロホン10と、アクティブノイズ消去回路12と、を含む。好適な実施形態では、マイクロホンは、消去される外部(環境)ノイズをとらえるように構成されたケーシングの外側4aの近くに位置づけられ得る。しかしながら、変形体では、マイクロホンは、ケーシング内部のさまざまな位置に、またはケーシングの外側で、ヘッドホンのヘッドバンドなど別個の支持体の中に位置づけられることもできる。
【0032】
ある実施形態では、アクティブノイズ消去回路は、アナログ-デジタル変換器(ADC)14と、予測フィルタ16と、デジタル-アナログ変換器(DAC)24と、クロック28と、スピーカーシステム8に接続された増幅器回路26と、を含む。アクティブノイズ消去システムは、ケーシング周波数応答フィルタ回路22をさらに含み得る。
【0033】
予測フィルタ16は、デジタル予測フィルタ回路20と、予測フィルタ係数訓練アルゴリズム18と、を含む。
【0034】
図2図3を参照すると、本発明によるヘッドホンのアクティブノイズ消去システムの例示的な実施形態が、概略的に例示されている。アクティブノイズ消去システムは、マイクロホン10と、アナログ-デジタル変換器14と、予測フィルタのための最適係数を抽出するための予測フィルタ訓練アルゴリズム18と、予期される環境ノイズE.N.の複数のD個の反転ノイズサンプルを予測するための予測フィルタ20と、デジタル加算回路36と、デジタル-アナログ変換器24と、ノイズレベルを調節する増幅器26と、音声信号および反転ノイズ信号を再生するスピーカーシステム8と、を組み込んでいる。有利な実施形態では、複数の反転ノイズサンプルDは、有利には、サンプリング周波数に応じて10~40個の範囲のサンプルであってよい。このサンプル範囲により、例えば最大で約200μsの予測される将来の環境ノイズサンプルの持続時間にわたる、将来の環境ノイズの予測が容易になる。
【0035】
マイクロホン10が受信した環境ノイズE.N.は、マイクロホンのトランスデューサによって、電気信号に変換され、電気信号は、アナログ-デジタル変換器(ADC)14に供給されて、ADCは、環境ノイズのアナログ信号をデジタル信号に変換する。マイクロホンの場所は、ヘッドホンの中もしくは上のさまざまな位置であるか、または、ヘッドホンから離れていてよく、これにより、マイクロホンにより生成される信号が、ヘッドホンのフィルタシステムにより適用される伝達関数によって、その特定の場所について調節され得ることに注目することができる。言い換えれば、マイクロホントランスデューサ出力信号の位置依存性変動は、マイクロホン出力信号に対して伝達関数として作用するフィルタシステムによって補償され得る。マイクロホンフィルタは、ADC14の前でアナログ信号に、またはADC14の後でデジタル信号に、適用され得る。
【0036】
アナログ-デジタル変換器(ADC)24はそれ自体が既知であるが、好ましくは、総レイテンシの1μs未満の変換周期、および好ましくは14ビット以上の分解能を有するADCの中から設定または選択される。
【0037】
E.N.のデジタル信号は、予測フィルタ16に供給され、予測フィルタ16は、予測フィルタ回路20の係数を抽出するために訓練アルゴリズムを記憶し実行する。再帰最小二乗(RLS)フィルタまたはカルマンフィルタなどのさまざまな一般的な予測フィルタで使用されるさまざまな一般的な訓練アルゴリズムが、この目的で使用され得る。ユーザが位置する大部分の環境における環境ノイズの典型的な自然変化により、予測フィルタの係数は、最大で2秒以下の別個の時間間隔Tで更新されるように構成され得、時間間隔Tは、好ましくは1秒未満である。
【0038】
非限定的な実施例では、予測フィルタ係数訓練プログラムは、マイクロホンのデジタル入力信号および予測フィルタ20の予想される出力信号を受信する一般的なNLMS(規格化最小平均二乗)アルゴリズムを含み得、予想される出力信号は、デジタル信号の予測されるサンプルを含む。予測フィルタは、例えば、有限インパルス応答(FIR)フィルタであってよい。予測に関する有限インパルス応答(FIR)フィルタの係数が次に、係数訓練アルゴリズムによって生成される。典型的には、512の係数が、適切な予測には十分であろう。これらのフィルタ係数は、予測フィルタ回路20で使用される。予測フィルタ回路16および予測フィルタ係数訓練プログラム20は、システムの速度およびレイテンシ要件を満たすために、例えば、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)(例えば、XilinxのArtix 7シリーズ)において実装および実行され得る。
【0039】
ADCからのデジタルノイズサンプルは、予測フィルタ係数と共に、予測フィルタ回路20に供給される。予測フィルタ回路は、例えば、予測フィルタの有限インパルス応答(FIR)または無限インパルス応答(IIR)の一般的体系に基づき得る。本発明の実施形態では、予測フィルタは、ADC14およびDAC24のクロック周波数(fs)より複数のN倍高いクロック周波数(Nxfs)で動作し、それは、将来は1つのクロックタイム(1/fs)でD個のサンプルを生成することが必要となるためである。複数Nは、好ましくは10より大きく、例えば10~1000の範囲である。予期される将来のノイズ信号における予測ノイズサンプルの数は、有利には、TPD*fsに等しくてよく、TPDは、(図2図3に描くような)アクティブノイズ消去システムの総レイテンシである。デジタル経路におけるすべてのモジュール14、16、22、36、24の総合遅延に応じて、総レイテンシTPDは、好ましくは100μs~200μsの範囲である。高性能のシステムを最適に実装するため、クロック周波数fは、好ましくは200KHzより高く、例えば200kHz~1MHzの範囲の値である。
【0040】
デジタルノイズサンプルおよび予測ノイズサンプルは、さらに、ケーシング周波数応答フィルタ22を通じて処理され得る。ケーシング周波数応答フィルタ22は、マイクロホン10の場所に関連する環境ノイズ信号へのヘッドホンケーシング4の影響を補償する。ケーシング周波数応答フィルタは、マイクロホンを、ヘッドホンのどこでも、またはノイズ環境でさえ、インストールすることを可能にし、このケーシング周波数応答フィルタを用いて、マイクロホンにより受信されるノイズ信号と、聞き手の耳により受信されるノイズ信号との間の差を補償するように較正され得る。マイクロホンが、聞き手の耳のために生成される本質的に同じ音響信号を受信するように、ヘッドホンの内側に設置される実施形態では、ケーシング周波数応答フィルタは、フィルタリング効果なしに対応する1に、またはフィルタ効果なしに対応するが反転信号と一致する、-1に、設定された伝達関数を有し得る。
【0041】
図2の実施形態では、ケーシング周波数応答フィルタは、聞き手の耳に向けられた音から環境ノイズを消去するために、反転ノイズの最終的な予測サンプルを出力する。環境ノイズを消去することを目的としたデジタル信号の反転は、ケーシング周波数応答フィルタによって実行され得る。
【0042】
図3に示すような変形体では、ケーシング周波数応答フィルタ22は、予測フィルタ16の前に位置づけられ得、これによって、予測フィルタ回路20は、聞き手の耳に向けられた音から環境ノイズを消去するために、反転ノイズの最終的な予測サンプルを出力する。
【0043】
ノイズの最終的な予測サンプルは、加算回路36により、音声信号源34から受信されたユーザの音声信号サンプル(例えば、音楽、スピーチ)に加算される。加算回路36の出力は、fsのクロック周波数で動作するデジタル-アナログ変換器(DAC)24によって、アナログ信号へと処理される。DACの出力は、アナログ反転ノイズにユーザ音声信号を加えたものである。それ自体が既知であるDAC24は、好ましくは1μs未満の総変換レイテンシを有するDACの中から設定または選択される。
【0044】
アナログ反転ノイズにユーザ音声信号を加えたものは、スピーカーシステムへのアナログ信号の利得を調節するため、固定利得を有する増幅器に供給され得、増幅された信号は、スピーカーシステム8を通じて再生され得る。音声信号の音量調節は、消去される環境ノイズの増幅が、ユーザに対して再生される音声信号の増幅と無関係であるので、反転環境ノイズ信号に加算される前に音声信号源の音量調節によって制御される。
【0045】
スピーカーシステムの音響音声信号は、瞬間的な環境ノイズを消去し、音声信号源34からのユーザ音声信号のみを、ユーザが聞くことになる。
【0046】
変形体(不図示)では、加算回路は、アナログ音声信号を、DACによって出力されたアナログ反転環境信号に加算するように配置された、DACの後ろに提供される、アナログ加算回路であってよい。
【0047】
本発明の実施形態によるヘッドホン音声信号を生成する方法は、以下の:
マイクロホンを通じて音響環境ノイズ信号を感知するステップと、
1μs未満の総レイテンシを有する、fsのクロック周波数で動作する低レイテンシの高速アナログ-デジタル変換器(ADC)を用いて、感知された環境ノイズ信号をデジタル環境ノイズ信号に変換するステップと、
PT秒の別個の間隔で予測フィルタ係数を抽出するためにデジタル環境ノイズ信号に対して予測フィルタ訓練アルゴリズムを実行するステップであって、例えばTPTは50ms~1sの範囲、例えば約100msである、ステップと、
環境ノイズ信号の複数のD個の将来のサンプルを予測することができる、クロック周波数fの複数のN倍(Nxfs)で動作する予測フィルタへと、予測フィルタ係数を更新するステップと、
反転サイン(inverted sign)でノイズ信号の複数のD個の将来のデジタルサンプルを予測するために予測フィルタにおいてデジタル音声ノイズ信号を処理するステップと、
反転予測環境ノイズサンプルを生成するために、デジタル音声ノイズ信号およびその予測された複数のD個の将来のサンプルを処理するステップと、
最終的なデジタル音声サンプルを生成するために、ユーザが意図する音声信号サンプルを反転予測環境ノイズサンプルに加算するステップと、
1μs未満の総レイテンシを有する、fsのクロック周波数で動作するデジタル-アナログ変換器(DAC)によって、最終的なデジタル音声サンプルをアナログ音声信号に変換するステップと、
を含み得る。
【0048】
アナログ音声信号は次に、増幅器によって増幅されて、スピーカーシステムに供給される増幅音声信号を生成し、ユーザに対して意図する音声信号を再生すると同時に、環境ノイズを消去することができる。音声信号の音量調節は、消去される環境ノイズの増幅が、ユーザに対して再生される音声信号の増幅と無関係であるので、反転環境ノイズ信号に加算される前に音声信号源の音量調節によって制御されることに注目する。
【0049】
ADCおよびDACを含むデジタル回路の総レイテンシは、予測深さ時間TPDに対応する。予測フィルタは、将来D個のサンプルを予測するように構成され、D/fsは、TPDに等しくなり、これにより、環境ノイズの実現し得る最良の減少が可能となる。
【0050】
方法は、マイクロホンの場所を調節するために、デジタル環境ノイズ信号を、ケーシング周波数応答フィルタ回路を通じて処理することをさらに含み得る。
【0051】
ヘッドホンは、無線または有線ヘッドホンであってよく、スマートフォン、タブレット、またはコンピュータなどのユーザデバイスにインストールされたアプリケーションと通信するための通信モジュールをさらに含み得る。通信モジュールは、ユーザが、ユーザデバイスのアプリケーションを介してアクティブノイズ消去システムの特定のパラメータを手動で変更しカスタマイズすることを可能にするよう構成され得る。通信は、少なくともいくつかの処理がユーザデバイスの処理能力を使用して行われ得るように、確立され得る。
【0052】
〔参照符号の説明〕
ヘッドホン2
ケーシング4
外側(環境ノイズ受信側)4a
内側部分4b
耳(音生成)側4c
アクティブノイズ消去システム6
マイクロホン10
アクティブノイズ消去回路12
アナログ-デジタル変換器(ADC)14
予測フィルタ16
予測フィルタ係数訓練アルゴリズム18
デジタル予測フィルタ回路20
ケーシング周波数応答フィルタ回路22
デジタル-アナログ変換器(DAC)24
増幅器26
加算回路36
クロック28
クロック30
スピーカーシステム8
音声信号源34
D:環境ノイズ信号の予測された将来のサンプルの数
PD:予測深さ時間
fs:クロック周波数
N:予測フィルタおよびケーシング周波数応答フィルタが動作する複数のクロック周波数fsの倍数
PT:予測フィルタ係数を抽出するためにデジタル環境ノイズ信号に対して予測フィルタ訓練アルゴリズムを実行する時間間隔
:予測フィルタの係数を更新する時間間隔
【0053】
〔実施の態様〕
(1) 環境ノイズを感知するように配置されたマイクロホン(10)に接続されたアクティブノイズ消去回路を含むアクティブノイズ消去システム(2)において、前記アクティブノイズ消去回路は、
感知された前記環境ノイズをデジタル環境ノイズ信号に変換するように配置されたアナログ-デジタル変換器(ADC)(14)と、
複数のD個の反転デジタル環境ノイズサンプルを予測し、デジタル反転環境ノイズ信号を生成するように構成された予測フィルタ(16)と、
前記環境ノイズを消去するために、前記デジタル反転環境ノイズ信号をアナログ反転環境ノイズ信号に変換するデジタル-アナログ変換器(DAC)(24)と、
を含む、アクティブノイズ消去システム。
(2) 実施態様1に記載のアクティブノイズ消去システムにおいて、
前記アクティブノイズ消去回路は、前記感知された環境ノイズに対する前記マイクロホン(10)の場所の影響を補償するため、前記予測フィルタの前または後ろでデジタル信号経路に配置されたケーシング周波数応答フィルタ(22)を含む、アクティブノイズ消去システム。
(3) 実施態様1または2に記載のアクティブノイズ消去システムにおいて、
前記アクティブノイズ消去回路は、ユーザに対して再生されることが意図された音声信号を、前記デジタルまたはアナログ反転環境ノイズ信号に加算するように配置された、加算回路(36)を含む、アクティブノイズ消去システム。
(4) 実施態様1~3のいずれかに記載のアクティブノイズ消去システムにおいて、
前記アクティブノイズ消去回路は、加算された前記音声信号および前記反転環境ノイズ信号の利得を調節する増幅器(26)を含む、アクティブノイズ消去システム。
(5) 実施態様1~4のいずれかに記載のアクティブノイズ消去システムにおいて、
前記ADCおよびDACは、1μs未満の総レイテンシを有するクロック周波数(fs)で動作する、アクティブノイズ消去システム。
【0054】
(6) ヘッドホンにおいて、
実施態様1~5のいずれかに記載のアクティブノイズ消去システムと、
ケーシング(4)と、
前記アクティブノイズ消去回路に接続された、環境ノイズを感知するように配置されたマイクロホン(10)と、
前記アクティブノイズ消去回路に接続され、前記ケーシング内に搭載された、スピーカーシステム(8)と、
を含む、ヘッドホン。
(7) 実施態様6に記載のヘッドホンにおいて、
前記マイクロホンおよび前記アクティブノイズ消去回路は、前記ケーシング内に搭載されている、ヘッドホン。
(8) ヘッドホン音声信号を生成する方法において、
マイクロホンを通じて環境音声ノイズ信号を感知するステップと、
アナログ-デジタル変換器(ADC)を用いて、感知された前記環境音声ノイズ信号をデジタル環境音声ノイズ信号に変換するステップと、
予測フィルタ係数を抽出するために前記デジタル音声ノイズ信号に対して予測フィルタ訓練アルゴリズムを実行するステップと、
環境ノイズ信号の複数個(D)の将来のサンプルを予測するように構成された、前記クロック周波数(fs)の複数のN倍で動作する予測フィルタへと、前記予測フィルタ係数を更新するステップと、
反転予測環境ノイズサンプルを生成するために、前記デジタル音声ノイズ信号およびその予測された前記複数個(D)の将来のサンプルを処理するステップと、
デジタル-アナログ変換器(DAC)によって前記反転予測環境ノイズサンプルをアナログアクティブノイズ消去信号に変換するステップと、
を含む、方法。
(9) 実施態様8に記載の方法において、
前記ADCは、1μs未満の総レイテンシを有するクロック周波数(fs)で動作する、方法。
(10) 実施態様8または9に記載の方法において、
ユーザが意図する音声信号サンプルを前記反転予測環境ノイズサンプルに加算し、前記デジタル-アナログ変換器(DAC)によって、前記サンプルを、前記アクティブノイズ消去信号を含むアナログ音声信号に変換するステップをさらに含む、方法。
【0055】
(11) 実施態様10に記載の方法において、
前記アクティブノイズ消去信号を含む前記アナログ音声信号は、スピーカーシステムに供給されて、前記意図する音声信号を前記ユーザに対して再生すると同時に、環境ノイズを消去する、方法。
(12) 実施態様8~11のいずれかに記載の方法において、
マイクロホンの場所を調節するために、前記デジタル音声ノイズ信号およびその予測された複数個(D)の将来のサンプルをケーシング周波数応答フィルタ(22)において処理するステップをさらに含む、方法。
(13) 実施態様8~12のいずれかに記載の方法において、
前記予測された複数個(D)の将来のサンプルは、前記ADCおよび前記DACを含むアクティブノイズ消去回路の総レイテンシに対応する、予測深さ時間TPDを有する、方法。
(14) 実施態様13に記載の方法において、
前記予測フィルタは、環境ノイズ信号の前記複数個(D)の将来のサンプルを予測するように構成され、前記複数個を前記クロック周波数で割ったもの(D/fs)は、予測時間深さ(TPD)に実質的に等しい、方法。
(15) 実施態様8~14のいずれかに記載の方法において、
前記予測フィルタは、前記ADC(14)の前記クロック周波数(fs)より複数のN倍高いクロック周波数(Nxfs)で動作し、前記複数のNは、10~1000の範囲である、方法。
【0056】
(16) 実施態様8~15のいずれかに記載の方法において、
予期される将来のノイズ信号における前記予測ノイズサンプルの数は、TPD*fsに等しく、TPDは、前記アクティブノイズ消去システムの総レイテンシであり、fsは、前記ADCのクロック周波数である、方法。
(17) 実施態様8~16のいずれかに記載の方法において、
前記アクティブノイズ消去システムの前記総レイテンシTPDは、100μs~200μsの範囲である、方法。
(18) 実施態様8~17のいずれかに記載の方法において、
前記ADCの前記クロック周波数(f)は、200KHzより高く、例えば200kHz~1MHzの範囲である、方法。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1】本発明のある実施形態によるヘッドホンの概略的簡易図である。
図2】本発明の第1の実施形態によるアクティブノイズ消去システムの概略ブロック図である。
図3】本発明の第2の実施形態によるアクティブノイズ消去システムの概略ブロック図である。
図1
図2
図3