(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-24
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】褐変が抑制された酸型ソホロリピッド含有組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 23/56 20220101AFI20220111BHJP
A23L 29/00 20160101ALI20220111BHJP
A61K 8/60 20060101ALI20220111BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20220111BHJP
A61Q 19/10 20060101ALI20220111BHJP
C11D 1/04 20060101ALI20220111BHJP
C11D 1/68 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
B01F17/56
A23L29/00
A61K8/60
A61K47/26
A61Q19/10
C11D1/04
C11D1/68
(21)【出願番号】P 2021525903
(86)(22)【出願日】2020-01-15
(86)【国際出願番号】 JP2020001088
(87)【国際公開番号】W WO2020250475
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2021-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2019108707
(32)【優先日】2019-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000106106
【氏名又は名称】サラヤ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒木 道陽
(72)【発明者】
【氏名】平田 善彦
【審査官】山本 悦司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/129667(WO,A1)
【文献】特開2014-117240(JP,A)
【文献】国際公開第2015/020114(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 17/00-17/56
A61K 8/00-8/99、9/00-9/72
A61Q 1/00-90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトン型及び酸型ソホロリピッドの総量100質量%あたり酸型ソホロリピッドの割合が78質量%以上である、ラクトン型及び酸型ソホロリピッド含有組成物の加水分解物であって、
当該加水分解物のろ液が、下記(1)及び(2)の特性を有することを特徴とする、前記加水分解物
(但し、加水分解処理後、カラムクロマトグラフィーによって精製された酸型ソホロリピッド含有組成物を除く):
(1)色相値(Abs.440):5以下、
(2)エタノール不溶分:3質量%未満;
ここで「加水分解物のろ液」は、ラクトン型及び酸型ソホロリピッド含有組成物の加水分解物の室温(25±5℃)調整物を、孔径0.45μmのフィルターを用いてろ過して回収されるろ液であり、
「色相値(Abs.440)」は、前記ろ液を、そのエタノール可溶分が3質量%になるように蒸留水に溶解し、得られた希釈水溶液を孔径0.45μmのフィルターでろ過して回収したろ液の波長440nmにおける吸光度を、赤外・紫外線可視分光光度計を用いて測定し、その吸光度(Abs.440)に10を乗じた値である。
【請求項2】
前記加水分解物のろ液が、さらに下記(3)の特性を有する、請求項1に記載する加水分解物:
(3)50℃暗所下で1ヶ月間静置した後の色相値(Abs.440)が10以下。
【請求項3】
前記加水分解物のろ液が、さらに下記(4)の物性を有する、請求項1または2に記載する加水分解物:
(4)液性(pH):pH6~9。
【請求項4】
前記加水分解物のろ液が、さらに下記(5)及び(6)から選択される少なくとも1つの物性を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載する加水分解物:
(5)けん化価:1~25mgKOH/g、
(6)強熱残分:16質量%以下。
【請求項5】
下記(a)の工程を有する、ラクトン型及び酸型ソホロリピッド含有組成物の加水分解物の製造方法:
(a)ラクトン型および酸型ソホロリピッド含有組成物を、そのけん化価に対して0.8~1.5グラム当量のアルカリ剤を用いて80℃以下の条件で加水分解処理し、加水分解処理後のろ液が下記(1)及び(2)の特性を有する加水分解物を取得する工程:
(1)色相値(Abs.440):5以下、
(2)エタノール不溶分:3質量%未満;
ここで「加水分解処理後のろ液」は、ラクトン型及び酸型ソホロリピッド含有組成物の加水分解物の室温(25±5℃)調整物を、孔径0.45μmのフィルターを用いてろ過して回収されるろ液であり、
「色相値(Abs.440)」は、前記ろ液を、そのエタノール可溶分が3質量%になるように蒸留水に溶解し、得られた希釈水溶液を孔径0.45μmのフィルターでろ過して回収したろ液の波長440nmにおける吸光度を、赤外・紫外線可視分光光度計を用いて測定し、その吸光度(Abs.440)に10を乗じた値である。
【請求項6】
さらに下記(b)の工程を有する、請求項5に記載する製造方法:
(b)(a)工程で得られた加水分解物またはそのろ液を、pH6~9に調整する工程。
【請求項7】
前記加水分解物が、ラクトン型及び酸型ソホロリピッドの総量100質量%あたり酸型ソホロリピッドを78質量%以上の割合で含む酸型ソホロリピッド含有組成物である、請求項5または6に記載する製造方法。
【請求項8】
下記(a)の工程を有する、褐変が抑制された酸型ソホロリピッド含有組成物を製造するための、ラクトン型および酸型ソホロリピッド含有組成物の加水分解処理方法:
(a)ラクトン型および酸型ソホロリピッド含有組成物を、そのけん化価に対して0.8~1.5グラム当量のアルカリ剤を用いて80℃以下の条件で加水分解処理して、加水分解処理後のろ液が下記(1)及び(2)の特性を有する酸型ソホロリピッド含有組成物を取得する工程:
(1)色相値(Abs.440);5以下、
(2)エタノール不溶分:3質量%未満;
ここで「加水分解処理後のろ液」は、ラクトン型及び酸型ソホロリピッド含有組成物の加水分解物の室温(25±5℃)調整物を、孔径0.45μmのフィルターを用いてろ過して回収されるろ液であり、
「色相値(Abs.440)」は、前記ろ液を、そのエタノール可溶分が3質量%になるように蒸留水に溶解し、得られた希釈水溶液を孔径0.45μmのフィルターでろ過して回収したろ液の波長440nmにおける吸光度を、赤外・紫外線可視分光光度計を用いて測定し、その吸光度(Abs.440)に10を乗じた値である。
【請求項9】
さらに下記(b)の工程を有する、請求項8に記載する方法:
(b)(a)工程で得られた加水分解物またはそのろ液を、pH6~9に調整する工程。
【請求項10】
前記褐変が抑制された酸型ソホロリピッド含有組成物が、ラクトン型及び酸型ソホロリピッドの総量100質量%あたり酸型ソホロリピッドを78質量%以上の割合で含むものである、請求項8または9に記載の加水分解処理方法。
【請求項11】
請求項1~4のいずれか1項に記載する加水分解物、またはその処理物を有効成分とするアニオン性界面活性剤。
【請求項12】
請求項1~4のいずれか1項に記載する加水分解物、またはその処理物を含有することを特徴とする香粧品、飲食品、洗浄剤、医薬部外品、医薬品またはこれらの添加物。
【請求項13】
請求項1~4のいずれか1項に記載する加水分解物、またはその処理物に、香粧品、飲食品、洗浄剤、医薬部外品、または医薬品の製造に使用される第三成分を配合する工程、及び製品形状にする工程を有する、香粧品、飲食品、洗浄剤、医薬部外品、または医薬品の製造方法。
【請求項14】
下記(a)の工程を有する、ラクトン型及び酸型ソホロリピッドの総量100質量%あたり酸型ソホロリピッドを78質量%以上の割合で含む酸型ソホロリピッド含有組成物の褐変抑制方法:
(a)ラクトン型および酸型ソホロリピッド含有組成物を、そのけん化価に対して0.8~1.5グラム当量のアルカリ剤を用いて80℃以下の条件で加水分解処理して、加水分解処理後のろ液が下記(1)及び(2)の特性を有する酸型ソホロリピッド含有組成物を取得する工程:
(1)色相値(Abs.440);5以下、
(2)エタノール不溶分:3質量%未満;
ここで「加水分解処理後のろ液」は、ラクトン型及び酸型ソホロリピッド含有組成物の加水分解物の室温(25±5℃)調整物を、孔径0.45μmのフィルターを用いてろ過して回収されるろ液であり、
「色相値(Abs.440)」は、前記ろ液を、そのエタノール可溶分が3質量%になるように蒸留水に溶解し、得られた希釈水溶液を孔径0.45μmのフィルターでろ過して回収したろ液の波長440nmにおける吸光度を、赤外・紫外線可視分光光度計を用いて測定し、その吸光度(Abs.440)に10を乗じた値である。
【請求項15】
さらに下記(b)の工程を有する、請求項14に記載する方法:
(b)(a)工程で得られた加水分解物またはそのろ液を、pH6~9に調整する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、褐変が抑制された酸型ソホロリピッド含有組成物及びその製造方法に関する。また本発明は、酸型ソホロリピッド含有組成物について褐変を抑制する方法に関する。
【0002】
生物由来の界面活性剤であるバイオサーファクタント(以下、BSともいう。)は、生分解性及び安全性が高いことが知られている。糖脂質型BSの一種であるソホロリピッド(以下、SLともいう。)は、酵母の発酵から得られる発酵産物である。当該SLは、例えば、グルコースなどの糖類と植物油脂などの炭素源を含む液体培地に酵母を接種し、穏和な温度、圧力条件下で通気しながら撹拌するだけで容易に生産することができる。また、SLは、他のBSに比べ、生産性が高い(例えば、100 g/L程度)。
【0003】
しかしながら、SLの発酵生成過程で、同時に発酵副産物(各種の有機酸及びその塩、色素など)も生成されるため、発酵終了後に抽出された未精製のSLは、特異的な臭気とともに茶褐色を呈している。また、発酵により得られるSLは、ラクトン型と酸型の混合物であるため、通常、それをさらにアルカリ加水分解処理(けん化処理)して、より安全性の高い酸型SLとして調製される(例えば、特許文献1~3等参照)ものの、従来のけん化処理で得られる酸型SLは、処理前と同様またはそれ以上に濃い茶褐色を呈している。さらにこれを50~100℃の温度条件で放置すると、酸型SLの構造的な変化はないものの、さらに褐変が進行し、増大するという問題もある。そのため、こうした未精製の酸型SLの医薬品、医薬部外品、食品及び化粧品等の製品への配合は、製品の外観や保存安定性に悪影響を及ぼすため、さらなる精製が必要とされる。
【0004】
一般的に、発酵産物の製造で最も困難かつコストがかかるのは精製プロセスである。SLの精製に関して、これまでの報告の多くは、培養液に同量のヘキサン及び酢酸エチルを加えて抽出する方法である(例えば、非特許文献1等)。しかし、この方法で得られるSLは、特有の臭気を含んだままである。また、SLを白色物質として精製する方法も報告されている(非特許文献2)。ここでは、培養液そのものを凍結乾燥し、乾燥物に酢酸エチルを加え30℃で2日間撹拌し、酢酸エチルを留去した後、ヘキサンで結晶させている。しかしながら、この方法は可燃性の有機溶剤を添加後、数日にも亘って放置する必要があるため、実用化することは困難である。さらに、これらの方法では、回収液から有機溶剤を除去または回収する必要がある。このため、有機溶剤を含む廃液処理に、専用の設備やエネルギーが必要となり、コスト上昇につながる。また、このような有機溶剤の使用は、環境負荷や健康面への悪影響の観点から厳重な管理が必要となる。さらに、得られるSLに有機溶剤が残留すると、食品や化粧品に適用することが困難である。一方で、精製方法として逆相クロマトグラフィーを用いる方法も提案されているが(例えば、特許文献2や3等参照)、時間とコストがかかるという問題がある。すなわち、これまでの方法は、基礎研究には利用できるものの、工業的実用化さらには工業的汎用には十分ではなく、更なる検討が必要である。
【0005】
工業的汎用の観点からは、SLの製造及び精製は安価で安全なプロセスである必要がある。汎用化学品の場合は、特にコスト面が重要視される。さらに、現在では、LCA(Life Cycle Assessment)の観点から、使用後の生分解性のみならず原材料も含めたより安全な製造プロセスの確立が重要である。このため、生体に安全な生物体由来のSLに関しても、有害な有機溶剤を使用ないし排出することなく製造する手法の確立が望まれている。
【0006】
従って、酸型SLを、有害な有機溶剤を使用せず、高収率かつ安価に安定的に供給できる製造法を確立すれば、生物体由来の安全かつ生分解性に優れる新素材として、SLの工業的利用が飛躍的に進むと期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-70231号公報
【文献】国際公開パンフレットWO2013/129667
【文献】国際公開パンフレットWO2015/034007
【非特許文献】
【0008】
【文献】D. G. Cooper and D. A. Paddock, Appl. Environ. Microbiol., 47, 173-176, 1984
【文献】R. D. Ashby, D. K. Y. Solaiman and T. A. Foglia, Biotechnol. Lett., 30, 1093-1100, 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、褐変が抑制された酸型SL含有組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。より具体的には、褐変が抑制された酸型SL含有組成物をより簡便に、また安価に調製するための、加水分解処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討の結果、発酵生成過程で得られる未精製酸型SL含有物(ラクトン型及び酸型SL含有組成物)を、そのけん化価に対して0.8~1.5グラム当量のアルカリ剤を用いて、80℃以下の温度条件で加水分解処理することで、得られる加水分解物が、ラクトン型SL及び酸型SLの総量100質量%あたり酸型SLを78質量%以上の割合で含む酸型SL含有組成物でありながら、そのろ液の色相値(Abs.440)が5以下と、褐変が有意に抑制されていること、また当該酸型SL含有組成物は、50℃暗所条件下で1ヶ月間放置しておいてもろ液の色相値(Abs.440)が大きく増大することなく、経時的にも安定して褐変が抑制されていることを見出した。さらに、前記加水分解物(酸型SL含有組成物)のpHを6~9の範囲に調整することで得られる組成物(pH6~9調整物)は、さらに安定的に褐変が抑制されることを確認した。本発明は、これらの知見に基づいて、さらに検討を重ねて完成したものである。
【0011】
すなわち、本発明は、下記に示す、褐変が抑制された酸型SL含有組成物(ラクトン型及び酸型SL含有組成物の加水分解物)、およびその製造方法に関する。また本発明は、褐変が抑制された酸型SL含有組成物を調製するための加水分解処理方法に関する。さらに本発明は酸型SL含有組成物について褐変を抑制する方法に関する。以下、本明細書において、当該本発明の褐変が抑制された酸型SL含有物を、「耐褐変性酸型SL含有組成物」または「耐褐変性加水分解物」とも称する。
【0012】
(I)褐変が抑制された酸型SL含有組成物(ラクトン型及び酸型SL含有組成物の加水分解物)
(I-1)ラクトン型及び酸型SLの総量100質量%あたり酸型SLの割合が78質量%以上である、ラクトン型及び酸型SL含有組成物の加水分解物であって、
当該加水分解物のろ液が、下記(1)及び(2)の特性を有することを特徴とする、前記加水分解物:
(1)色相値(Abs.440):5以下、好ましくは2以下、より好ましくは1.5以下、
(2)エタノール不溶分:3質量%未満、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下。
ここで「加水分解物のろ液」は、ラクトン型及び酸型SL含有組成物の加水分解物の室温(25±5℃)調整物を、孔径0.45μmのフィルターを用いてろ過して回収されるろ液であり、
「色相値(Abs.440)」は、前記ろ液を、そのエタノール可溶分が3質量%になるように蒸留水に溶解し、得られた希釈水溶液を孔径0.45μmのフィルターでろ過して回収したろ液の波長440nmにおける吸光度を、赤外・紫外線可視分光光度計を用いて測定し、その吸光度(Abs.440)に10を乗じた値である。
(I-2)前記加水分解物のろ液が、さらに下記(3)の特性を有する、(I-1)に記載する加水分解物:
(3)50℃暗所下で1ヶ月間静置した後の色相値(Abs.440)が10以下、好ましくは5以下、より好ましくは3以下。
(I-3)前記加水分解物のろ液が、さらに下記(4)の物性を有する、(I-1)または(I-2)に記載する加水分解物:
(4)液性(pH):pH6~9、好ましくはpH7~9、より好ましくは7.5~8.5。
(I-4)前記加水分解物のろ液が、さらに下記(5)及び(6)から選択される少なくとも1つの物性を有する、(I-1)~(I-3)のいずれかに記載する加水分解物:
(5)けん化価:1~25mgKOH/g。
(6)強熱残分:16質量%以下。
【0013】
(II)褐変が抑制された酸型SL含有組成物(ラクトン型及び酸型SL含有組成物の加水分解物)の製造方法
(II-1)下記(a)の工程を有する、ラクトン型及び酸型SL含有組成物の加水分解物の製造方法:
(a)ラクトン型および酸型SL含有組成物を、そのけん化価に対して0.8~1.5グラム当量のアルカリ剤を用いて80℃以下の条件で加水分解処理し、加水分解処理後のろ液が、下記(1)及び(2)の特性を有する加水分解物を取得する工程:
(1)色相値(Abs.440):5以下、好ましくは2以下、より好ましくは1.5以下、
(2)エタノール不溶分:3質量%未満、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下;
ここで「加水分解処理後のろ液」は、ラクトン型及び酸型SL含有組成物の加水分解物の室温(25±5℃)調整物を、孔径0.45μmのフィルターを用いてろ過して回収されるろ液であり、
「色相値(Abs.440)」は、前記ろ液を、そのエタノール可溶分が3質量%になるように蒸留水に溶解し、得られた希釈水溶液を孔径0.45μmのフィルターでろ過して回収したろ液の波長440nmにおける吸光度を、赤外・紫外線可視分光光度計を用いて測定し、その吸光度(Abs.440)に10を乗じた値である。
(II-2)さらに下記(b)の工程を有する、(II-1)に記載する製造方法:
(b)(a)工程で得られた加水分解物またはそのろ液を、pH6~9に調整する工程。
(II-3)前記加水分解物が、ラクトン型SL及び酸型SLの総量100質量%あたり酸型SLを78質量%以上の割合で含む酸型SL含有組成物である、(II-1)または(II-2)に記載する製造方法。
【0014】
(III)褐変が抑制された酸型SL含有組成物を製造するための加水分解処理方法
(III-1)下記(a)の工程を有する、褐変が抑制された酸型SL含有組成物を製造するための、ラクトン型及び酸型SL含有組成物の加水分解処理方法:
(a)ラクトン型および酸型SL含有組成物を、そのけん化価に対して0.8~1.5グラム当量のアルカリ剤を用いて80℃以下の条件で加水分解処理し、加水分解処理後のろ液が、下記(1)及び(2)の特性を有する酸型SL含有組成物を取得する工程:
(1)色相値(Abs.440):5以下、好ましくは2以下、より好ましくは1.5以下、
(2)エタノール不溶分:3質量%未満、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下;
ここで「加水分解処理後のろ液」は、ラクトン型及び酸型SL含有組成物の加水分解物の室温(25±5℃)調整物を、孔径0.45μmのフィルターを用いてろ過して回収されるろ液であり、
「色相値(Abs.440)」は、前記ろ液を、そのエタノール可溶分が3質量%になるように蒸留水に溶解し、得られた希釈水溶液を孔径0.45μmのフィルターでろ過して回収したろ液の波長440nmにおける吸光度を、赤外・紫外線可視分光光度計を用いて測定し、その吸光度(Abs.440)に10を乗じた値である。
(III-2)さらに下記(b)の工程を有する、(III-1)に記載する方法:
(b)(a)工程で得られた加水分解物またはそのろ液を、pH6~9に調整する工程。
【0015】
(IV)褐変が抑制された酸型SL含有組成物(ラクトン型及び酸型SL含有組成物の加水分解物)の用途
(IV-1)(I-1)~(I-4)のいずれかに記載する加水分解物(褐変が抑制された酸型SL含有組成物)、またはその処理物を有効成分とするアニオン性界面活性剤。
(IV-2)(I-1)~(I-4)のいずれかに記載する加水分解物(褐変が抑制された酸型SL含有組成物)、またはその処理物を含有することを特徴とする香粧品、飲食品、洗浄剤、医薬部外品、医薬品またはこれらの添加物。
(IV-3)(I-1)~(I-4)のいずれかに記載する加水分解物(褐変が抑制された酸型SL含有組成物)、またはその処理物に、香粧品、飲食品、洗浄剤、医薬部外品、または医薬品の製造に使用される第三成分を配合する工程、及び製品形状にする工程を有する、香粧品、飲食品、洗浄剤、医薬部外品、または医薬品の製造方法。
(IV-4)前記香粧品、飲食品、洗浄剤、医薬部外品、および医薬品がいずれも人体に適用されるものである、(IV-2)に記載する香粧品、飲食品、洗浄剤、医薬部外品、医薬品またはこれらの添加物。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法及び加水分解処理方法によると、簡便でまた安価に、褐変が抑制された酸型SL含有組成物が、ラクトン型及び酸型SL含有組成物の加水分解物として調製し取得することができる。具体的には、本発明の方法によると、例えば、ラクトン型および酸型SL含有組成物を、そのけん化価に対して2~4グラム当量のアルカリ剤を用いて室温で加水分解処理する等の従来の方法と比べて、褐変化が安定的に抑制された酸型SL含有組成物を調製することができる。本発明によると、有機溶剤やカラムクロマトグラフィーを用いた精製方法によらずとも、褐変化が安定的に抑制された酸型SL含有組成物を得ることができるため、安全性の高い耐褐変性酸型SL含有組成物を簡便でまた安価に提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(I)ソホロリピッド
ソホロリピッド(SL)とは、ソホロース又はヒドロキシ基が一部アセチル化またはエステル化したソホロースと、ヒドロキシ脂肪酸とからなる糖脂質である。なお、ソホロースとは、β1→2結合した2分子のブドウ糖からなる糖である。ヒドロキシ脂肪酸とは、ヒドロキシ基を有する脂肪酸である。また、SLは、ヒドロキシ脂肪酸のカルボキシ基が遊離した酸型と、分子内のソホロースが結合したラクトン型とに大別される。ある種の酵母(SL産生酵母)の発酵によって得られるSLは、通常、下記一般式(1)で示される酸型SLと一般式(2)で示されるラクトン型SLの混合物であり、脂肪酸鎖長(R2)が異なるもの、ソホロースの6’(R3)及び6”位(R4)がアセチル化あるいはプロトン化したものや、ソホロースの3’、 4’、 2”、 3” 及び4”位(R5)の1箇所がエステル化したものなど、30種以上の構造同族体の集合体として得られる。
【0018】
【0019】
〔式(1)中、R1は水素原子またはメチル基を示す;
R3及びR4は、同一または異なって、水素原子またはアセチル基を示す;
R5は、すべてが水素原子であるか、または、5つのR5のうち、1つはヒドロキシ基を有することのある飽和脂肪酸残基またはヒドロキシ基を有することのある不飽和脂肪酸残基であり、残りは水素原子である;
R2は、飽和脂肪族炭化水素鎖、又は二重結合を少なくとも1つ有する不飽和脂肪族炭化水素鎖であり、一以上の置換基を有していてもよい;
R6はヒドロキシ基を示す。〕
【0020】
【0021】
〔式(2)中、R1~R4は、式(1)で規定する定義と同じである。〕
【0022】
またSL産生酵母の発酵によって得られるSLには、前記式(1)で示される酸型SLのうち、1つのR5がヒドロキシ基を有することのある飽和脂肪酸残基またはヒドロキシ基を有することのある不飽和脂肪酸残基である酸型SLのC-1位のR6が、下式(3)で示される酸型SLのR7のいずれか1つと合一して単結合を形成してなる2量体が含まれていてもよい。
【0023】
【0024】
〔式(3)中、R1’は水素原子またはメチル基を示す;
R3’及びR4’は、同一または異なって、水素原子またはアセチル基を示す;
R2’は、飽和脂肪族炭化水素鎖、又は二重結合を少なくとも1つ有する不飽和脂肪族炭化水素鎖であり、一以上の置換基を有していてもよい;
R7のうち一つは、式(1)で示す酸型SLのR6と合一して単結合を形成しており、残りはすべて水素原子である。〕
【0025】
前記一般式(1)~(3)において、R2またはR2’で示す飽和または不飽和脂肪族炭化水素鎖の炭素数は、制限されないが、通常9~20、好ましくは9~18、より好ましくは11~16、特に好ましくは14~16を例示することができる。飽和脂肪族炭化水素鎖としては直鎖または分岐鎖のアルキレン基を挙げることができる。好ましくは直鎖のアルキレン基である。不飽和脂肪族炭化水素鎖としては1~3の二重結合を有するアルケニレン基を挙げることができる。好ましくは1~2の二重結合を有するアルケニレン基であり、より好ましくは1の二重結合を有するアルケニレン基である。R2またはR2’で示す飽和または不飽和脂肪族炭化水素鎖の置換基は、特に限定されないが、例えば、ハロゲン原子、水酸基、低級(C1~6)アルキル基、ハロ低級(C1~6)アルキル基、ヒドロキシ低級(C1~6)アルキル基、ハロ低級(C1~6)アルコキシ基等が挙げられる。ここでハロゲン原子またはアルキル基やアルコキシ基に結合するハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
【0026】
前記一般式(1)において、R5で示す飽和脂肪酸残基としては、炭素数12~20の直鎖脂肪酸残基(ラウリン酸残基、ミリスチン酸残基、ペンタデシル酸残基、パルミチン酸残基、マルガリン酸残基、ステアリン酸残基、アラキジン残基)を挙げることができる。好ましくは炭素数14~20、より好ましくは炭素数16~20、さらに好ましくは炭素数16~18の直鎖脂肪酸残基であり、特に好ましくは炭素数16のパルミチン酸残基及び炭素数18のステアリン酸残基である。また不飽和脂肪酸残基としては、二重結合を1~3つ有する炭素数12~20の直鎖脂肪酸残基を挙げることができる。二重結合の数として、好ましくは1~2であり、より好ましくは1である。また炭素数として好ましくは16~20であり、より好ましくは16~18、特に好ましくは18である。好適な不飽和脂肪酸残基としては、二重結合を1つ有する炭素数16のパルミトレイン酸残基;二重結合を1つ有する炭素数18のオレイン酸残基またはバクセン酸残基(好ましくはオレイン酸残基);二重結合を2つ有する炭素数18のリノール酸残基;二重結合を3つ有する炭素数18の(9,12,15)リノレン酸残基、(6,9,12)リノレン酸残基、及びエレオステアリン酸残基;二重結合を2つ有する炭素数20の(9,12,15)リノレン酸残基、(6,9,12)リノレン酸残基、及びエレオステアリン酸残基を挙げることができる。より好ましくは二重結合を1つ有する炭素数16のパルミトレイン酸残基、及び二重結合を1つ有する炭素数18のオレイン酸残基であり、特に好ましくは二重結合を1つ有する炭素数18のオレイン酸残基である。
【0027】
これらの脂肪酸残基は、ヒドロキシ基を有していてもよいし、有していなくてもよい。ヒドロキシ基を有する場合、ヒドロキシ基の数としては1~2、好ましくは1を挙げることができる。また脂肪酸残基上のヒドロキシ基の位置としては、ω位またはω-1位を挙げることができる。酸型SL(1)において、R5がヒドロキシ基を有することのある飽和脂肪酸残基またはヒドロキシ基を有することのある不飽和脂肪酸残基である場合の-OR5の位置は、ソホロース環の3’位、4’位、2"位、3"位、及び4"位のいずれであってもよい。つまり、酸型SL(1)には、これらのいずれか1つの位置に、上記脂肪酸残基であるR5を有する-OR5基が結合してなるSL化合物が含まれる。より好ましくはソホロース環の4"位に、ヒドロキシ基を有することのある飽和脂肪酸残基またはヒドロキシ基を有することのある不飽和脂肪酸残基をR5とする-OR5が結合してなる化合物(1)である。
【0028】
前述するように、SL産生酵母の発酵により得られる培養液には、SLが、通常、前記酸型SL(一般式(1)で示される単量型SL)及び前記ラクトン型SL(一般式(2)で示される単量型SL)の混合物として存在している。このうちラクトン型SLはそれ自体が非イオン性の油状物質であり水に極めて不溶であるため、ラクトン型SLが多いとソホロリピッド混合物全体が難水溶性になり、好ましくない。一方、酸型SLはラクトン型SLに比べて化学的に安定であるため、その割合が高いほうが好ましい。前述する培養液に含まれる酸型SLとラクトン型SLとの割合は、制限されないものの、培養液に含まれる両者の総量100質量%中、酸型SLは65質量%未満であり、残り35質量%以上がラクトン型SLである(乾燥重量比)。好ましくは酸型SL:ラクトン型SL=40:60~10:90(乾燥重量比)を挙げることができる。
【0029】
前記SL産生酵母としては、キャンディダ・ボンビコーラ(Candida bombicola)を好適に挙げることができる。なお、キャンディダ属は、現在スタメレラ(Starmerella)属という名称に変更されている。当該酵母は、SL(酸型、ラクトン型)を著量生産することが知られている公知のSL産生酵母である〔Canadian Journal of Chemistry, 39,846(1961)(注:当該文献に記載されているトルロプシス属は、キャンディダ属に該当するが、上記するように、現在スタメレラ(Starmerella)属に分類されている。)、Applied and Environmental Microbiology, 47,173(1984)など]。なお、キャンディダ(スタメレラ)・ボンビコーラは生物資源バンクであるATCC(American Type Culture Collection)に登録されており、そこから入手することができる(Candida bombicola ATCC22214など)。また、SL(酸型、ラクトン型)を産生することが知られているキャンディダ属(スタメレラ属)に属する他のSL産生酵母も使用することができる。かかるSL産生酵母として、例えばキャンディダ・マグノリエ(Candida magnoliae)、キャンディダ・グロペンギッセリ(Candida gropengisseri)、及びキャンディダ・アピコーラ(Candida apicola)、キャンディダ・ペトロフィラム(Candida petrophilum)、キャンディダ・ボゴリエンシス(Candida bogoriensis)、キャンディダ・バチスタエ(Candida batistae)を挙げることができる。
【0030】
これらのSL産生酵母の培養には、炭素源としてグルコース等の糖類(親水性基質)、並びに脂肪酸、脂肪酸トリグリセリド等の脂肪酸エステル類、または脂肪酸を構成成分として含む植物油等の油脂類(疎水性基質)を含有する培地が用いられる。培地のその他の成分は、特に制限はなく、酵母に対して一般に用いられる培地成分から適宜選定することができる。
【0031】
本発明が対象とする酸型SL含有組成物とは、当該組成物中に含まれるラクトン型SL及び酸型SLの総量100質量%のうち、78質量%以上が一般式(1)酸型SLであり、残りの22質量%未満が一般式(2)で示されるラクトン型SLであるものを意味する。好ましくは酸型SLの割合が85質量%以上であり、ラクトン型SLの割合が15質量%未満である組成物であり;より好ましくは酸型SLの割合が90質量%以上であり、ラクトン型SLの割合が10質量%未満である組成物である。
【0032】
なお、SL産生酵母の培養液やその処理物などのSL含有組成物に含まれる酸型SLとラクトン型SLとの割合は、例えば国際公開パンフレットWO2015/020114に記載される測定方法により求めることができる。その内容は本明細書に援用することができる。具体的には、酸型SLとラクトン型SLとの混合物(SL含有組成物)に等量の50容量%エタノール水溶液を混合した溶液を下記の逆相カラムクロマトグラフィーに供し、各溶出画分に含まれるSLの含有量を、さらに下記の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により定量分析する方法を挙げることができる。
【0033】
[逆相カラムクロマトグラフィーによる分画]
(1)SL含有組成物600gに等量の50容量%エタノール水溶液を混合した溶液(試料溶液)を下記の逆相カラムクロマトグラフィーに供する。
固定相:C18カラム(コスモシール[登録商標]40C18-PREP、(株)ナカライテスク製、7.5kg)
充填カラムの大きさ:15cm×90cm
移動相:エタノール濃度50~95容量%のエタノール水溶液
(2)試料溶液を供した上記固定相に、50%エタノール水溶液10L、80%エタノール水溶液10L、90%エタノール水溶液15L、及び95%エタノール水溶液15Lを順次、供し、80%エタノール水溶液溶出画分、90%エタノール水溶液溶出画分、及び95%エタノール水溶液溶出画分を、それぞれ回収する。
(3)それぞれの溶出画分を蒸発乾固した後に、エタノールに溶解し、これらを被験試料としてそれぞれ下記条件のHPLCに供する。
【0034】
[HPLCによる定量分析]
<条件>
装置:島津製作所LC-10AD-VP
カラム:InertsilODS-3(4.6mm×250mm)
カラム温度:40℃
移動相:[A]蒸留水、[B]0.1容量%ギ酸を含むメタノール
グラジェント:0分→60分:[B]70→100容量%
60分→70分:[B]100→70容量%
流速:1.0mL/min
試料注入量:10μL
検出器:蒸発光散乱検出器(ELSD-LTII:島津製作所製)
検出器温度:40℃
ゲイン:5
ガス圧力:350kpa(N2ガス)
【0035】
80%エタノール水溶液溶出画分には、式(1)で示される酸型SLのうち、下式(1a)で示される酸型SLが含まれている。当該酸型SLは、酸型SL(1)のうち、R5のすべてが水素原子である酸型SLである。当該酸型SL(1a)は、上記条件のHPLCにおいて保持時間10~25分の領域に溶出する。
【0036】
【0037】
〔式(1a)中、R1~R4は、式(1)で規定する定義と同じである。〕
【0038】
また80%エタノール水溶液溶出画分には、前記酸型SL(1a)の他、前述する式(2)で示されるラクトン型SLが含まれている。当該ラクトン型SL(2)は、上記条件のHPLCにおいて保持時間25~40分の領域に溶出する。
【0039】
90%エタノール水溶液溶出画分には、式(1)で示される酸型SLのうち、R5の1つがヒドロキシ基を有することのある飽和脂肪酸残基またはヒドロキシ基を有することのある不飽和脂肪酸残基であり、残りが水素原子である酸型SL(1b)が含まれている。当該酸型SL(1b)は、上記条件のHPLCにおいて保持時間45~60分の領域に溶出する。
【0040】
ちなみに、95%エタノール水溶液溶出画分には、式(3)で示される二量体型のSLが含まれている。当該二量体型のSL(3)は、上記条件のHPLCにおいて保持時間60~70分の領域に溶出する。
【0041】
このように、前記条件のHPLCにおいて各保持時間の領域で検出されるピークの面積比から、SL含有組成物に含まれる酸型SLとラクトン型SLとの割合を求めることができる。
【0042】
本明細書では、SL産生酵母の発酵により産生されるSL含有組成物(培養液、及びその処理物を含む)のうち、SL含有組成物に含まれる酸型SLとラクトン型SLとの総量100質量%中の酸型SLの割合が78質量%以上である組成物を「酸型ソホロリピッド含有組成物(酸型SL含有組成物)」と総称する。一方、前記SL含有組成物に含まれる酸型SLとラクトン型SLの総量100質量%中の酸型SLの割合が65質量%未満で、残り35質量%以上がラクトン型SLである組成物を「ラクトン型及び酸型ソホロリピッド含有組成物(ラクトン型及び酸型SL含有組成物)」と称する。前者の酸型SL含有組成物は、後者のラクトン型及び酸型SL含有組成物を加水分解することで製造できることから、当該方法で製造される酸型SL含有組成物を、本発明では「ラクトン型及び酸型SL含有組成物の加水分解物」と称する(単に「本発明加水分解物」または「耐褐変性加水分解物」と称する場合もある。)。拘束されないものの、本発明の酸型SL含有組成物(本発明加水分解物)において、ラクトン型及び酸型SL含有組成物中に含まれる、脂質やポリフェノール、アミノ酸、糖質などが起こす褐変反応が抑制されているものと考えられる。
【0043】
本発明において、上記の酸型SL含有組成物(本発明加水分解物)は、当該酸型SL含有組成物の精製処理の有無;精製の程度(酸型SLの純度);液性;けん化価の程度;または酸型SLの含有割合などに応じて、さらに、粗精製酸型SL含有組成物と精製酸型SL含有組成物とに分類することができる。
【0044】
ここで粗精製酸型SL含有組成物には、SL産生酵母の処理物(その多くは加水分解処理物、特にアルカリ加水分解処理物)のうち、遠心分離やろ過等の固液分離以外の精製処理をしていない酸型SL含有組成物が含まれる。これに対して精製酸型SL含有組成物は、精製の程度に関わらず、例えば有機溶媒等による抽出処理やカラムクロマトグラフィーなどの精製処理を行った酸型SL含有組成物を意味する。
【0045】
(II)酸型SL含有組成物(本発明加水分解物)
本発明の酸型SL含有組成物は、ラクトン型及び酸型SL含有組成物(SL産生酵母の培養液及びその固液分離処理物を含む)を加水分解処理した組成物(加水分解物)である。当該酸型SL含有組成物(本発明加水分解物)は、遠心分離やろ過等の固液分離などの処理以外の高度な精製処理をしていない粗精製酸型SL含有組成物である点で、加水分解処理後に有機溶媒等による抽出処理やカラムクロマトグラフィーなどの処理によって精製された精製酸型SL含有組成物とは区別されるものである。
【0046】
ここで加水分解処理には、一般には、アルカリ加水分解処理(けん化処理)、酸加水分解処理、及び酵素処理が含まれるが、本発明において好ましくはアルカリ加水分解処理(けん化処理)である。
【0047】
また、本発明の酸型SL含有組成物(本発明加水分解物)は、ラクトン型及び酸型SL含有組成物の加水分解物のろ液が、少なくとも下記(1)と(2)の特性を有する点で、従来公知の粗精製酸型SL含有組成物とは相違する:
(1)色相値(Abs.440):5以下
(2)エタノール不溶分:3質量%未満。
【0048】
(1)の色相値(Abs.440)は、ラクトン型及び酸型SL含有組成物を加水分解処理して得られる加水分解物の褐変度(着色度)を反映するものであり、その値が大きいほど褐変度(着色度)が高く、小さいほど褐変度(着色度)が低いことを意味する。ここで「ラクトン型及び酸型SL含有組成物の加水分解物のろ液」は、例えばSL産生酵母の培養液またはその固液分離処理物であるラクトン型及び酸型SL含有組成物を加水分解処理し、得られた加水分解物を室温(25±5℃)に戻し、1週間放置した後、生じた不溶物を孔径0.45μmのフィルターを用いてろ過して回収されるろ液を意味する。なお、当該「ラクトン型及び酸型SL含有組成物の加水分解処理物のろ液」は、本発明の酸型SL含有組成物(本発明加水分解物)を規定するうえで、(1)色相値(Abs.440)だけでなく、後述する(2)~(6)の特性を測定し評価するための基準とする標準試料である。本発明の酸型SL含有組成物(本発明加水分解物)がこの標準試料に限定されることを意味するものではない。
【0049】
(1)の色相値(Abs.440)は、具体的には、ラクトン型及び酸型SL含有組成物の加水分解物のろ液を、そのエタノール可溶分が3質量%になるように蒸留水に溶解し、得られた希釈水溶液を孔径0.45μmのフィルターでろ過して回収したろ液の波長440nmにおける吸光度を、赤外・紫外可視分光光度計を用いて測定し、その吸光度(Abs.440nm)に10を乗じた値として求めることができる。エタノール可溶分は、JIS K 3362-2008の規定に準拠して測定することができる。その詳細は実施例の項にて詳説する。本発明の酸型SL含有組成物(本発明加水分解物)は、ラクトン型及び酸型SL含有組成物の加水分解物のろ液の色相値(Abs.440)が、好ましくは2以下であり、より好ましくは1.5以下、さらに好ましくは1.3以下である。
【0050】
(2)のエタノール不溶分(質量%)は、ラクトン型及び酸型SL含有組成物の加水分解物のろ液に含まれるエタノール不溶物の量を示すものであり、その値が大きいほど無機塩類成分が多く、小さいほど無機塩類成分が少ないことを意味する。エタノール不溶分は、JIS K 3304:2006「石けん試験方法」で規定されている「エタノール不溶分」の測定方法に準拠して測定することができる。その詳細は実施例の項にて説明する。本発明の酸型SL含有組成物(本発明加水分解物)は、ラクトン型及び酸型SL含有組成物の加水分解物のろ液のエタノール不溶分が、好ましくは2質量%以下であり、より好ましくは1.5質量%以下、さらに好ましくは1.3質量%以下である。
【0051】
本発明の酸型SL含有組成物(本発明加水分解物)は、ラクトン型及び酸型SL含有組成物の加水分解物のろ液が、前述する(1)及び(2)に加えて、さらに下記(3)~(6)の少なくとも1つの特性を有することを特徴とする:
(3)50℃暗所下で1ヶ月間静置した後の色相値(Abs.440)が10以下
(4)液性(pH)がpH6~9
(5)けん化価が1~25mgKOH/g
(6)強熱残分が16質量%以下。
【0052】
本発明の酸型SL含有組成物(本発明加水分解物)は、好ましくは、前記(1)及び(2)の特性に加えて、さらにラクトン型及び酸型SL含有組成物の加水分解物のろ液を50℃暗所下で1ヶ月間(30日間)静置した場合に、(3)の特性を備えているものである。この特性で示されるように、(3)の特性を備えた酸型SL含有組成物は、褐変が長期に亘り抑制されており、その意味で保存安定性(耐褐変性)に優れている点でも、従来公知の粗精製酸型SL含有組成物と区別することができる。当該特性も、前述する色相値(Abs.440)の測定方法に準じて測定することができる。その詳細は実施例の項にて説明する。好適な本発明の酸型SL含有組成物(本発明加水分解物)は、ラクトン型及び酸型SL含有組成物の加水分解物のろ液を上記条件で静置した後の色相値(Abs.440)が、好ましくは9以下、より好ましくは5以下であり、さらに好ましくは3以下、特に好ましくは2以下である。
【0053】
本発明の酸型SL含有組成物(本発明加水分解物)は、より好ましくは、ラクトン型及び酸型SL含有組成物の加水分解物のろ液が、前記(1)及び(2)または(1)~(3)の特性に加えて、さらに(4)の特性を備えている。(4)の特性を備えた酸型SL含有組成物は、経時的にまた加熱しても比較的安定して褐変が抑制された状態を維持することができ、低着色性または耐褐変性の粗精製酸型SL含有組成物として提供することができる。好適な本発明の酸型SL含有組成物(本発明加水分解物)は、ラクトン型及び酸型SL含有組成物の加水分解物のろ液のpHが6~9、好ましくは7~9であり、より好ましくはpH7.5~8.5である(pH調整物)。ラクトン型及び酸型SL含有組成物の加水分解物のろ液が、当初からpH6~9の範囲にある場合は、特に調整する必要はないが、この範囲にない場合や、より好適なpH範囲に設定する場合は、当該ろ液に公知のpH調整剤を添加配合してpH調整すればよく、こうすることで、褐変化(褐変の進行と増大)を安定的に抑制し、低着色性または耐褐変性の粗精製酸型SL含有組成物を調製することができる。制限されないものの、pH調整剤としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、ホウ酸及びフッ化水素酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、グルタミン酸及びアスパラギン酸等の有機酸を例示することができる。好ましくは硫酸等の無機酸である。
【0054】
本発明の酸型SL含有組成物(本発明加水分解物)は、さらに好ましくは、ラクトン型及び酸型SL含有組成物の加水分解物のろ液が、前記(1)及び(2)、(1)~(3)または(1)~(4)の特性に加えて、さらに(5)及び(6)の少なくとも1方の特性を備えている。(5)のけん化価は、ラクトン型及び酸型SL含有組成物の加水分解処理後のろ液に含まれる遊離酸(脂肪酸、ヒドロキシ脂肪酸)及びエステル(SLのアセチル基及びラクトン環のエステル結合)の量を表したものであり、その値が小さいほど、酸型SL含有組成物中に残留する遊離酸、SLのアセチル基及びラクトン型SLの量が少ないことを意味する。つまり、その値が少ないほど、酸型SLの割合が高く、また遊離酸(脂肪酸、ヒドロキシ脂肪酸)やSLのアセチル基に起因する細胞毒性が低いことを意味する。けん化価は、JIS K 0070:1992「化学製品の酸価、けん化価、エステル価、よう素価、水酸基価及び不けん化物の試験方法」で規定されている「けん化価」測定の中和滴定法に準拠して測定することができる。その詳細は実施例の項にて説明する。本発明の酸型SL含有組成物(本発明加水分解物)は、ラクトン型及び酸型SL含有組成物のけん化処理後のろ液のけん化価が、好ましくは25mgKOH/g以下、より好ましくは20mgKOH/g以下、さらに好ましくは15mgKOH/g以下である。その下限値は0を限度として、好ましくは10mgKOH/g、より好ましくは7mgKOH/gを挙げることができる。
【0055】
(6)の強熱残分は、ラクトン型及び酸型SL含有組成物の加水分解物のろ液に含まれる無機化合物の量(硫酸塩相当量)を示すものである。その値が少ないほど、不純物として含まれる無機化合物の量が少ないことを意味する。強熱残分は、JIS K 0067:1992「化学製品の減量及び残分試験方法」で規定されている「強熱残分試験第4法」に準拠して測定することができる。その詳細は実施例の項にて説明する。本発明の酸型SL含有組成物(本発明加水分解物)は、ラクトン型及び酸型SL含有組成物の加水分解物のろ液の強熱残分が、好ましくは16質量%以下、より好ましくは13質量%以下、さらに好ましくは11質量%以下である。強熱残分は、析出の原因になったり、また乳化処方においては乳化を不安定にさせる原因になるので、その量は少ないことが好ましい。その下限値は0を限度として、好ましくは1.5質量%、より好ましくは1.3質量%を挙げることができる。
【0056】
本発明の酸型SL含有組成物(本発明加水分解物)はその形状を特に制限せず、液状であっても、乳液状であっても、また固体形状であってもよい。かかる固体形状には、凍結乾燥物、噴霧乾燥物、及び蒸発乾固物等の乾燥固形物形態;錠剤形態;丸剤形態;粉末形態;顆粒形態;カプセル形態を挙げることができる。
【0057】
(III)酸型SL含有組成物(本発明加水分解物)の用途
以上説明した特性を有する本発明の酸型SL含有組成物(本発明加水分解物)は、そのままの状態で、または後述する任意の処理を施した状態で、低着色性または耐褐変性のアニオン性界面活性剤として使用することができる。また、飲食品、医薬品、医薬部外品、香粧品または洗浄剤の添加剤として使用することもできる。それらの使用に際しては、必要に応じて、さらに精製処理(例えば、ろ過などの固液分離処理、溶剤抽出処理、吸着処理、クロマトグラフィー処理等)を行うことで、不純物を除去し、低着色化及び/又は低毒性化してもよい。また本発明の効果を妨げないことを限度として、pH調整したり、防腐剤、抗酸化剤または保存安定剤などの添加等、任意の処理を施してもよい。
【0058】
ここで飲食品には、一般の食品や飲料のほか、健康補助食品、健康機能食品、特定保健用食品、またはサプリメントなどの、特定の機能を有し、健康維持などを目的として摂取される飲食物が含まれる。またここで香粧品とは、「化粧品」と、香水、オーデコロン、及びパヒューム等の「芳香製品」を包含する概念で用いられる。なお、化粧品とは、人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌を変え、又は皮膚もしくは毛髪を健やかに保つために、身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法(例えば、貼付など)で使用されることが目的とされるものであり、例えばメーキャップ化粧品(ファンデーション、口紅など)、基礎化粧品(化粧水、乳液など)、頭髪用化粧品(ヘアトニック、ヘアリキッド、ヘアクリームなど)、トイレタリー製品(歯磨き、洗口剤、シャンプー、リンス、石けん、洗顔料、入浴剤など)を例示することができる。洗浄剤とは、業務用及び家庭用の別を問わず、日常的に使用される洗浄剤であり、手足身体用(動物及びヒトを含む)、衣類用、食器用、家具用、水回り用(流し用、洗面台用、浴室用、トイレ用等)、レンジ回り用(油汚れ用を含む)の洗浄剤が含まれる。
【0059】
(5)の特性を備えた本発明の酸型SL含有組成物(本発明加水分解物)は、耐褐変性に加えて、細胞毒性が低く、低刺激性であることから、低刺激性(無刺激性)が求められる外用組成物に好適に用いることができる。かかる外用組成物としては、具体的には過敏性肌用の香粧品(化粧品、芳香製品)、創傷や炎症のある皮膚に適用される外用医薬品または医薬部外品、眼、鼻腔または口腔内等の粘膜に適用される医薬品または医薬部外品(例えば、点鼻薬や点眼薬、眼軟膏、洗眼液や洗鼻液、コンタクトレンズ装着液などのアイケア製品)などを例示することができる。
【0060】
本発明の酸型SL含有組成物(本発明加水分解物)は、前述の通り、そのままの状態、またはさらに必要に応じて任意の処理をした後に、アニオン性界面活性剤として用いることができるが、界面活性効果を奏し、かつ低着色性、好ましくはさらに耐褐変性という本発明の特徴が損なわれないことを限度として、アニオン性界面活性剤の製剤調製(製剤化)に使用される第三成分を配合してもよい。かかる第三成分としては、溶剤としての蒸留水、イオン交換水、及びエタノール等;添加剤としての塩化ナトリウム、及び塩化カリウム等;可溶化剤としてのグリセリン、プロピレングリコール、及びヘキシレングリコール等;増粘剤としてのキサンタンガム、アルギン酸、及びデキストラン等;pH調整剤としての塩酸、硫酸、ホウ酸、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウム等;キレート剤としてリン酸化合物、ニトリロ三酢酸(NTA)、及びエチレンジアミン四酢酸(EDTA)等;そのほか、色素、防腐剤、保存安定剤、及び酵素などを例示することができるが、これらに制限されるものではない。第三成分を配合する場合、当該アニオン性界面活性剤の製剤に含まれる本発明の酸型SL含有組成物(本発明加水分解物)の量としては、界面活性効果を奏する限り、制限はされないものの、酸型SLの量に換算して0.005~99.9質量%、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは1~50質量%、特に好ましくは5~50質量%を例示することができる。
【0061】
本発明の酸型SL含有組成物(本発明加水分解物)は、前述の通り、そのままの状態、またはさらに必要に応じて任意の処理をした後に、飲食品、医薬品、医薬部外品、洗浄剤若しくは香粧品の添加剤(食品添加剤、医薬品添加剤、医薬部外品添加剤、洗浄剤添加剤、香粧品添加剤)として使用することができる。この場合、所望の界面活性効果を奏し、かつ低着色性、好ましくはさらに耐褐変性という本発明の特徴が損なわれないことを限度として、前記各添加剤の製剤調製(製剤化)に使用される第三成分を配合してもよい。かかる第三成分は、飲食品、医薬品、医薬部外品、洗浄剤または香粧品などの対象製品に応じて慣用に基づいて適宜設定することができる。第三成分を配合する場合、当該添加剤に含まれる本発明の酸型SL含有組成物(本発明加水分解物)の量としては、所望の界面活性効果を奏する限り、制限はされないものの、酸型SLの量に換算して0.005~99.9質量%、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.02~10質量%、特に好ましくは0.1~5質量%を例示することができる。
【0062】
また本発明の酸型SL含有組成物(本発明加水分解物)を、そのまままたは必要に応じて任意の処理をした後に、飲食品、医薬品、医薬部外品、洗浄剤または香粧品の製造に際して添加して用いる場合、つまり本発明の酸型SL含有組成物(本発明加水分解物)を用いて飲食品、医薬品、医薬部外品、洗浄剤または香粧品を調製する場合、これら各種製品に配合する酸型SL含有組成物の量は、各製品の目的や性状に応じて、所望の界面活性効果を発揮する範囲で適宜設定される。なお、その製造に際しては、飲食品、医薬品、医薬部外品、洗浄剤または香粧品の製造に通常使用される第三成分を配合することができる。制限はされないものの、本発明の酸型SL含有組成物(本発明加水分解物)は、飲食品、医薬品、医薬部外品、洗浄剤または香粧品に対して添加することで、これらの製品のCMCが300ppm以上になるような割合を挙げることができる。例えば、これらの製品に配合される酸型SLの量に換算して0.005~99.9質量%、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.02~10質量%、特に好ましくは0.1~5質量%を例示することができる。
【0063】
(IV)酸型SL含有組成物の製造方法
(IV-1)原料(ラクトン型及び酸型SL含有組成物またはその処理物)の調製
本発明の酸型SL含有組成物(本発明加水分解物)の製造原料として用いるラクトン型及び酸型SL含有組成物としては、ラクトン型及び酸型SLを産生する酵母(以下、「SL産生酵母」とも称する)の培養物またはその処理物を挙げることができる。ラクトン型及び酸型SL産生酵母としては公知のものを用いることができ、例えば、前述するキャンディダ(スタメレラ)・ボンビコーラ(Candida bombicola)等を好適に挙げることができる。
【0064】
SL産生酵母の培養方法としては、例えば、高濃度の糖と疎水性の油性基質を同時に与えて培養する方法等が好ましく挙げられる。又は、これに限らず、本発明の効果を妨げない限り広く公知の方法(例えば、特開2002-045195号公報、国際公開パンフレット[WO2013/129667、WO2015/034007、WO2015/020114])を適用することができる。具体的には、糖としてグルコース、疎水性の油性基質として脂肪酸と植物油からなる炭素源を用いて、SL産生酵母を培養する手法を用いることができる。
【0065】
培地組成は、特に限定されないが、SLの脂肪酸部分は、培地成分として添加する疎水性基質の脂肪酸鎖長やその割合に依存することが知られており、ある程度の制御が可能である。たとえば、疎水性基質としては、オレイン酸あるいはオレイン酸を高い割合で含有する脂質が好適である。たとえば、パーム油、米ぬか油、ナタネ油、オリーブ油、サフラワー油などの植物油、及び豚脂や牛脂などの動物油が挙げられる。安定的に高い収量・収率でSLを発酵生産させる場合、炭素源として親水性の糖と疎水性の油脂を混合したものが好ましい。親水性基質としては、グルコースが多用される。
【0066】
得られた培養物から、例えば遠心分離やデカンテーション等の定法の固液分離法で液成分を分離除去した後、固形分を水洗いすることにより、SL含有画分(SL含有培養物)を得ることができる。なお、SL産生酵母の培養によって得られるSL含有画分(SL含有培養物)は、ラクトン型SLと酸型SLを含む混合物(ラクトン型及び酸型SL含有組成物)であり、通常、酸型SLの含有率はラクトン型SLと酸型SLの総量中65質量%未満(固形換算)である。
【0067】
SL産生酵母の培養物から、ラクトン型及び酸型SL含有組成物を回収する方法は、公知の方法であってよく、例えば、特開2003-9896号公報等に記載された方法を挙げることができる。かかる方法は、SL産生酵母の培養物またはそれから調製したSL含有画分のpHを調整することで、水に対するSLの溶解性を制御する方法である。具体的には、例えばSL産生酵母の培養物のpHをNaOH水溶液等で6~7程度に調整してSLを可溶化し、これを遠心分離して回収した上清に、次いで硫酸水溶液等を添加してpH2~3程度に調整することでSLを不溶化する。これを静置後、デカンテーションすることで約50%含水物としてラクトン型及び酸型SL含有組成物を調製することができる。
【0068】
(IV-2)酸型SL含有組成物の調製
一般に酸型SL含有組成物は、前述するラクトン型及び酸型SL含有組成物からラクトン型SLを除去し低減することで調製することができる。なお、原料として用いるラクトン型及び酸型SL含有組成物は、前述する方法で自らまたは第三者を通じて調製したものでもよいし、また市販品を使用してもよい。例えば当該原料は、Evonik Industries AG(ドイツ)やWheatoleo社(フランス)などから商業的に入手することができる。
【0069】
本発明の酸型SL含有組成物(本発明加水分解物)は、前記のラクトン型及び酸型SL含有組成物に対して、後述する加水分解処理をすることで調製することができる。この加水分解処理方法によれば、前述するラクトン型及び酸型SL含有組成物からラクトン型SLを効果的に除去し、ラクトン型及び酸型SLの総量100質量%あたり78質量%以上といった所望の割合で酸型SLを含有するとともに、褐変が抑制された酸型SL含有組成物を得ることができる。この方法によれば、溶媒抽出処理、吸着処理、及びクロマトグラフィーなどの精製処理を組み合わせなくても、そのけん化処理(アルカリ加水分解処理)を行うことで、ラクトン型SLが除去され、且つ褐変が抑制された所望の酸型SL含有組成物を得ることができる。但し、本発明の加水分解処理に加えて、精製処理を含む任意の処理を行うことを制限するものではない。
【0070】
本発明で採用する加水分解処理は、対象とするラクトン型及び酸型SL含有組成物の加水分解を、そのけん化価(mgKOH/g)に対して0.8~1.5グラム当量のアルカリ剤を用いて、80℃以下の温度条件で行うことを特徴とする。
【0071】
ラクトン型及び酸型SL含有組成物のけん化価は、それに含まれる遊離酸(脂肪酸、ヒドロキシ脂肪酸)及びエステル(SLのアセチル基及びラクトン環のエステル結合)の量を表したものである。けん化価は、前述するように、JIS K 0070:1992「化学製品の酸価、けん化価、エステル価、よう素価、水酸基価及び不けん化物の試験方法」で規定されている「けん化価」測定の中和滴定法に準拠して測定することができる。その詳細は実施例の項における説明を参照することができる。
【0072】
得られたけん価(mgKOH/g)から、当該けん価に対して1グラム当量のアルカリ剤の量を算出する。例えば、下式に従って、原料として使用するケトン型及び酸型SL含有組成物のけん価に対して1グラム当量のアルカリ剤の量を算出することができる。
【数1】
【0073】
ラクトン型及び酸型SL含有組成物を加水分解処理して本発明の酸型SL含有組成物(本発明加水分解物)を調製するのに必要なアルカリ剤の割合は、ラクトン型及び酸型SL含有組成物のけん化価に対して0.8~1.5グラム当量に相当する量であり、上記式で得られるアルカリ剤の量(g)に0.8~1.5を乗じることで求めることができる。アルカリ剤の割合として、好ましくは0.8~1.2グラム当量であり、より好ましくは0.8~1.1グラム当量、さらに好ましくは0.9~1.1グラム当量であり、特に好ましくは1グラム当量である。
【0074】
加水分解処理に使用するアルカリ剤としては、制限されないが、水酸化物の金属塩(ナトリウム、カリウム、カルシウム及びマグネシウム等)、炭酸塩、リン酸塩、またはアルカノールアミン等の塩基を例示することができる。好ましくは水酸化物の金属塩であり、より好ましくは水酸化ナトリウムである。
【0075】
加水分解処理を行う場合の温度、圧力及び時間は、褐変を抑えた状態で、ラクトン型及び酸型SL含有組成物に含まれるラクトン型SLのラクトン環を開環するという目的及び効果が達成できるものである限り、特に制限されない。好ましくは、目的産物である酸型SLの分解や化学修飾等の副反応(色素成分の生成を含む)を抑制しながら、効率的にラクトン環の開環を進行させることができる温度、圧力及び時間を採用することが好ましい。反応温度は80℃以下、好ましくは20~80℃の範囲において、反応に用いるアルカリ剤の量に応じて適宜調整することができる。例えば、ラクトン型及び酸型SL含有組成物のけん化価に対して0.8~0.9グラム当量のアルカリ剤を用いる場合は80℃以下、好ましくは20~80℃、より好ましくは30~80℃の範囲を挙げることができる。またラクトン型及び酸型SL含有組成物のけん化価に対して0.9~1グラム当量のアルカリ剤を用いる場合は好ましくは20~60℃、より好ましくは25~50℃の範囲を挙げることができる。さらにまたラクトン型及び酸型SL含有組成物のけん化価に対して1~1.2グラム当量のアルカリ剤を用いる場合は好ましくは20~50℃、より好ましくは25~40℃の範囲を挙げることができる。またラクトン型及び酸型SL含有組成物のけん化価に対して1.2~1.5グラム当量のアルカリ剤を用いる場合は好ましくは20~50℃、より好ましくは25~35℃の範囲を挙げることができる。
【0076】
圧力は、制限されないものの、通常1気圧~10気圧の範囲から選択することができる、好ましくは1気圧~2気圧であり、特に好ましくは1気圧(大気圧)である。反応時間は、通常10分~5時間の範囲であり、好ましくは約1時間~約3時間である。
【0077】
かかる加水分解処理により本発明の酸型SL含有組成物(本発明加水分解物)を調製することができる。本発明の酸型SL含有組成物(本発明加水分解物)は、さらに上記処理で得られる加水分解処理物を、室温(25±5℃)に調整し、その際に生じた不溶物をろ過して除去して調製されるものであってもよい。また、本発明の酸型SL含有組成物(本発明加水分解物)は、前記の加水分解処理物を、室温(25±5℃)に調整した後、pHを6~9に調整し、その際に生じた不溶物をろ過して除去して調製されるものであってもよい。なお、室温への調整とpH調整の順番はこれに限らず、pH調整後に室温に調整してもよい。前記の加水分解処理物のpHを6~9の範囲に調整することで、着色の経時的な進行を抑えることができ、保存安定性が良好な耐褐変性の酸型SL含有組成物を調製することができる。好ましいpH条件は、pH7~9であり、より好ましくはpH7.5~8.5の範囲である。
【0078】
斯くして、加水分解処理後のろ液(加水分解物のろ液)が、前述の特性(1)~(2)を有することを特徴とする酸型SL含有組成物を調製することができる。ここで「加水分解処理後のろ液(加水分解物のろ液)」とは、前記室温調整後またはpH調整後に、加水分解処理物について生じた不溶物を、孔径0.45μmのフィルターを用いてろ過して除去して、回収されるろ液を意味する。本発明の酸型SL含有組成物(本発明加水分解物)として好ましくは、(1)~(2)の特性に加えて、前述する特性(3)を有するものであり、より好ましくは、(1)~(2)の特性、または(1)~(3)の特性に加えて、前述する特性(4)を有するものである。また上記製造方法によれば、(1)~(2)、(1)~(3)、(1)~(2)及び(4)、または(1)~(4)の特性に加えて、前述する特性(5)及び/または(6)を有する酸型SL含有組成物を調製することができる。これらの特性(1)~(6)、及びその測定方法は、前述した通りであり、その記載をここに援用することができる。
【0079】
(V)耐褐変性酸型SL含有組成物(耐褐変性加水分解物)を製造するための加水分解処理方法
本発明は、また耐褐変性酸型SL含有組成物(耐褐変性加水分解物)を製造するための加水分解処理方法を提供する。また本発明は、酸型SL含有組成物について褐変を抑制する方法を提供する。当該方法は、ラクトン型および酸型SL含有組成物に対して下記の(a)工程を行うことで実施することができる:
(a)ラクトン型および酸型SL含有組成物のけん化価に対して0.8~1.5グラム当量のアルカリ剤を用いて80℃以下の条件で反応させて加水分解処理する。
この方法によれば、加水分解処理後のろ液が、少なくとも下記(1)及び(2)の特性を有する酸型SL含有組成物を取得することができる:
(1)色相値(Abs.440):5以下、
(2)エタノール不溶分:3質量%未満。
またこの方法によれば、上記(1)及び(2)の特性に加えて、さらに前述する(3)~(6)の特性の少なくとも1つを備えた酸型SL含有組成物を調製することができる。
【0080】
また、本発明の方法は、前記(a)工程後に、さらに下記(b)の工程を有するものであってもよい:
(b)(a)工程で得られた加水分解処理物またはそのろ液を、pH6~9に調整する工程。
斯くして、経時的な着色化が安定して抑制された耐褐変性の酸型SL含有組成物(耐褐変性加水分解物)を調製することができる。
【0081】
本発明の加水分解処理方法における各工程、並びにそれに使用する原料(ラクトン型および酸型SL含有組成物)や得られる耐褐変性酸型SL含有組成物(耐褐変性加水分解物)、それらの特性、及びその評価方法等は、(I)~(IV)で説明した通りであり、それらの記載はここに援用することができる。
【0082】
以上、本明細書において、「含む」及び「含有する」の用語には、「からなる」及び「から実質的になる」という意味が含まれる。
【実施例】
【0083】
以下、本発明の構成及び効果について、その理解を助けるために、実験例を用いて本発明を説明する。但し、本発明はこれらの実験例(実施例、比較例)になんら限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形が可能である。なお、以下の実験は、特に言及しない限り、室温(25±5℃)、及び大気圧条件下で実施した。
【0084】
後述する製造例1及び2で調製した酸型SL含有組成物に関する各種の物性(色相値(Abs.440)、エタノール可溶分、エタノール不溶分、けん化価、及び強熱残分)は、下記の方法に従って求めた。
【0085】
(a)加水分解物のろ液の色相値(Abs.440)
ラクトン型及び酸型SL含有組成物の加水分解処理後のろ液をメスフラスコに取り、そのエタノール可溶分が3質量%になるように、蒸留水を用いてメスアップする。得られた希釈水溶液を速やかに孔径0.45μmのフィルターでろ過してろ液を回収し、ろ液の波長440nmにおける吸光度を、赤外・紫外可視分光光度計を用いて測定する。得られたろ液の吸光度(Abs.440nm)に10を乗じた値を、加水分解処理後のろ液の色相値(Abs.440)とする。なお、ろ液のエタノール可溶分は、下記(c)に記載する方法で求めることができる。
【0086】
(b)加水分解物のろ液を50℃で1ヶ月間静置した後の色相値(Abs.440)
ラクトン型及び酸型SL含有組成物の加水分解処理後のろ液を、遮光された50℃の恒温器にいれて1ヶ月間(30日間)静置した後、メスフラスコに取り、そのエタノール可溶分が10質量%になるように、蒸留水を用いてメスアップする。得られた希釈水溶液を孔径0.45μmのフィルターでろ過してろ液を回収し、ろ液の波長440nmにおける吸光度を、赤外・紫外可視分光光度計を用いて測定する。得られたろ液の吸光度(Abs.440nm)に10を乗じた値を、標記の加水分解物のろ液を50℃で1ヶ月間静置した後の色相値(Abs.440)とする。なお、静置後のろ液のエタノール可溶分は、下記(c)に記載する方法で求めることができる。
【0087】
(c)エタノール可溶分
エタノール可溶分は、被験試料をエタノールで溶解し、エタノールに溶ける物質の量を示したものであり、JIS K3362-2008 の規定に準拠して測定することができる。
【0088】
[測定方法]
三角フラスコ及びガラスろ過器の重量を正確に測定する。これらの重量は105℃で2時間以上乾燥後、デシケーター内で放冷してから測定する。三角フラスコに被験試料(加水分解物のろ液、または50℃で1ヶ月間静置後のろ液)約5gを1mg単位まで正確に量り取り、エタノールを被験試料の100mL添加して、ガラス管を付けて水浴上で30分間加熱し、時々振り混ぜながら溶解する。なお、液状又はペースト状試料には99.5vol%のエタノールを使用する。温溶液のままガラスろ過器を用いてろ過し、三角フラスコの残量に再びエタノール50mLを加えて溶解する。温溶液をガラスろ過器を用いてろ過し、熱エタノールで三角フラスコ及びガラスろ過器をよく洗浄する。室温まで放冷し、全量フラスコ250mLにろ液および洗液を移し、エタノールを標線まで加え、この中から、全量ピペットを用いて、100mLずつ質量既知の2個のビーカー200mLに分取する。そのうちの1個を、水浴上で加熱してエタノールを除いた後、105±2℃に調節した乾燥器で1時間乾燥し、デシケーターで放冷後、乾燥残量(g)を正確に測定する。
【0089】
【0090】
(d)エタノール不溶分(質量%)
エタノール不溶分は、被験試料を99.5vol%のエタノール(99.5)に溶解し、ろ過して得られる不溶物の量を示したものである。JIS K 3304:2006 石けん試験方法で規定されている「エタノール不溶分」に準拠して下記の方法により測定される。
【0091】
[測定方法]
(a)被験試料(加水分解処理後のろ液)約5gを500mL容量の三角フラスコに入れて1mgの桁まではかりとり(S:被験試料の質量)、これにエタノール(95)200mLを加えて、還流冷却器を取り付けて水浴上で加熱し溶解する。
(b)この溶液をろ紙又はガラスろ過器を用いてろ過する。ろ紙又はガラスろ過器は、あらかじめ、105±2℃に調節した乾燥器で乾燥し冷却後、質量をはかったものを用いる。
(c)三角フラスコに残った不溶分は、沸点近くまで加熱した少量のエタノール(95)を用いて2~3回洗浄を繰り返し、完全にろ紙又はガラスろ過器に移す。
(d)さらに、温かいエタノール(95)でよく洗浄しながらろ過する。
(e)エタノール不溶分をろ過したろ紙又はガラスろ過器を105±2℃に調節した乾燥器で1時間加熱し、デシケーター中で放冷し質量をはかる。
(f)連続2回の秤量の差が1mg以下になるまで(e)の操作を繰り返す。
(g)得られた質量から、あらかじめ測定しておいたろ紙又はガラスろ過器の質量を除してエタノール不溶分の質量(A)を求める。
【0092】
【0093】
(e)けん化価(mgKOH/g)
けん化価は、被験試料1g中の遊離酸(脂肪酸、ヒドロキシ脂肪酸)の中和及びエステル(SLのアセチル基、ラクトン型SLのエステル結合)のけん化に要する水酸化カリウムのmg数を示したものである。JIS K 0070:1992「化学製品の酸価、けん化価、エステル価、よう素価、水酸基価及び不けん化物の試験方法」に規定される中和滴定法に準拠して下記の方法により測定される。
【0094】
[測定方法]
(a)被験試料(加水分解処理後のろ液)1.5~2.0gを200~300mL容量の三角フラスコに1mgの桁まで量り取る(S:被験試料の質量)。なお、被験試料の採取量は、試料の滴定に必要な0.5mol/L塩酸の容量が空試験に必要な容量の半分に近い量とする。
(b)これに0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液25mLを全量ピペットを用いて加える。なお、0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液は、水酸化カリウム35gを20mLの水に溶かし、エタノール(95)を加えて1Lとし、二酸化炭素を遮って2~3日放置した後、ろ過することで調製することができる。
(c)この三角フラスコに、空気冷却器を取り付け、ときどき内容物を振り混ぜながら30分間水浴、砂浴又は熱板上で穏やかに加熱して反応させる。
(d)反応が終わった後、直ちに冷却し、内容物が寒天状に固まらないうちに空気冷却器の上から少量の水を吹き付けてその内壁を洗浄した後、空気冷却器を外す。
(e)指示薬としてフェノールフタレイン溶液(10g/L)1mLを加えて、0.5mol/L 塩酸で滴定し、指示薬のうすい紅色が約1分間現れなくなったときを終点とする(C:被験試料の滴定量)。
(f)空試験は、被験試料を入れないで(a)~(e)を行い、空試験での滴定量(B)を求める。
【0095】
【0096】
(f)強熱残分(質量%)
強熱残分は、被験試料中に含まれる無機化合物(硫酸塩相当)の割合を示すものである。JIS K 0067:1992「化学製品の減量及び残分試験方法」に規定される強熱残分試験第4法の規定に準拠して下記の方法により測定される。
【0097】
[測定方法]
(a)試料を恒量にしたるつぼ又は蒸発皿に0.1mgのけたまで取る。
(b)試料を入れたるつぼ又は蒸発皿に,硫酸約0.2mlを添加し,沸騰しないように徐々に熱板上で加熱し,試料を蒸発又は炭化させ,白煙が出なくなるまで加熱を続ける。
(c) 次いで、灰化した試料を入れたるつぼを電気炉に入れ、500±50℃で1時間強熱する。及び(e)による。
(d) 電気炉から取り出したるつぼを速やかにデシケーターに移し、放冷後、デシケーターから取り出して、その質量を0.1mgの桁まで量る(測定値(残分))。
(e)恒量になるまで(c)および(d)を繰り返す。
(f)得られた測定値(残分)とあらかじめ測定しておいた採取量から、下式により強熱残分(%)を算出する。
【0098】
【0099】
参考製造例1:ソホロリピッドの抽出(ラクトン型/酸型SL含有組成物の調製)
培養培地として、1L当たり、含水グルコース10g(日本食品化工社製、製品名:日食含水結晶ブドウ糖)、ペプトン10g(オリエンタル酵母社製、製品名:ペプトンCB90M)、酵母エキス5g(アサヒフードアンドヘルスケア社製、製品名:ミーストパウダーN)を含有する液体培地を使用し、30℃で2日間、Candida bombicola ATCC22214を振盪培養し、これを前培養液とした。
【0100】
この前培養液を、5L容量の発酵槽に仕込んだ本培養培地(3L)に、仕込み量の4%の割合で植菌し、30℃で6日間、通気0.6vvmの条件下で培養し発酵させた。なお、本培養培地として、1L当たり、含水グルコース100g、パームオレイン50g(日油製、製品名:パーマリィ2000)、オレイン酸(ACID CHEM製、製品名:パルマック760)50g、塩化ナトリウム1g、リン酸一カリウム10g、硫酸マグネシウム7水和物10g、酵母エキス2.5g(アサヒフードアンドヘルスケア社製、製品名:ミーストパウダーN)、及び尿素1gを含む培地(滅菌前のpH4.5~4.8)を用いた。
【0101】
培養開始から6日目に発酵を停止し、発酵槽から取り出した培養液を加熱してから室温に戻し、2~3日間静置することで、下から順に、液状の褐色沈殿物層、主に菌体と思われる乳白色の固形物層、上澄みの3層に分離した。上澄みを除去した後、工業用水または地下水を、除去した上澄みの量と同量添加した。これを撹拌しながら、48質量%の水酸化ナトリウム溶液を徐々に加えてpH6.5~6.9とし、培養液中に含まれるSLを可溶化した。これを卓上遠心分離機(ウェストファリア:ウェストファリアセパレーターAG製)で遠心処理することにより、乳白色の固形物を沈殿させ、上澄みを回収した。回収した上澄みを撹拌しながら、これに62.5質量%硫酸を徐々に加えてpH2.5~3.0とし、SLを再不溶化した。これを2日間静置後、デカンテーションにより上澄みを可能な限り除去し、残留物を「ラクトン型及び酸型SL含有組成物」(約50%含水物、参考製造例品1)として取得した。なお、当該「ラクトン型及び酸型SL含有組成物」には酸型SLが65質量%未満、ラクトン型SLが35質量%以上含まれている。
【0102】
製造例1:粗精製酸型SL含有組成物の調製(その1)
前記参考製造例1で分取したラクトン型及び酸型SL含有組成物のけん化価を測定し、そのけん化価に対して、表1~3に記載するアルカリ当量になるように、水酸化ナトリウムの48質量%水溶液を加えて、表1~3記載の温度で2時間処理してアルカリ加水分解を行った(けん化処理)。反応処理後、加水分解物を室温(25℃)に戻して、1週間放置した後、発生した不溶物を孔径0.45μmのフィルターを用いてろ過して除去し、回収したろ液(加水分解物のろ液)を「粗精製酸型SL含有組成物」(実施例1~13、比較例1~11)として取得した。なお、当該「粗精製酸型SL含有組成物」には、酸型SLおよびラクトン型SLの合計を100質量%とした場合、酸型SLが78質量%以上、ラクトン型SLが22質量%未満の割合で含まれている。
【0103】
回収した加水分解物のろ液(粗精製酸型SL含有組成物)を被験試料として、前述する方法で、各種の物性〔pH、色相値(Abs.440)、エタノール不溶分(質量%)、けん化価(mg KOH/g)、強熱残分(質量%)〕を測定した。また、加水分解処理後のろ液を、さらに50℃の暗所に1ヶ月間(30日間)静置し、その後に、前述する方法で色相値(Abs.440)を測定した。これらの結果を表1~3に示す。
【0104】
また、下記の基準で評価した結果を合わせて表1~3に示す。
[評価基準]
+++:加水分解物のろ液の色相値(Abs.440)が1.5以下で、且つ50℃1ヶ月後の色相値(Abs.440)が1.7以下である
++:加水分解物のろ液の色相値(Abs.440)が2以下で、且つ50℃1ヶ月後の色相値(Abs.440)が1.7より大きく3以下である
+:加水分解物のろ液の色相値(Abs.440)が5以下で、且つ50℃1ヶ月後の色相値(Abs.440)が3より大きく10以下である
-:加水分解物のろ液の色相値(Abs.440)が5より大きく、または50℃1ヶ月後の色相値(Abs.440)が10より大きい。
【0105】
【0106】
表1~3に記載するように、ラクトン型及び酸型SL含有組成物のけん化価に対して0.8~1.5グラム当量に相当するアルカリ剤を用いて、ラクトン型及び酸型SL含有組成物を所定の温度条件で加水分解することで、加水分解処理後のろ液の色相値が5以下で、また50℃で1ヶ月間放置した後でも色相値が10以下と、褐変が抑制された酸型SL含有組成物(加水分解物)が調製できることが確認された。
【0107】
加水分解に用いる温度条件は、使用するアルカリ剤のグラム当量に応じて設定することができる。具体的には、表1~3に示すように、0.8グラム当量以上1.0グラム当量未満、好ましくは0.8~0.9グラム当量に相当するアルカリ剤を用いる場合は20~80℃の温度条件を用いることが好ましい。また0.9~1.0グラム当量に相当するアルカリ剤を用いる場合は、20~60℃の温度条件を用いることが好ましい。さらに1.0~1.5グラム当量に相当するアルカリ剤を用いる場合は、20~50℃の温度条件を用いることが好ましい。ラクトン型及び酸型SL含有組成物のけん化価に対して1グラム当量以上のアルカリ剤を用いて加水分解する場合、温度は60℃以下、好ましくは50℃以下に設定することが好ましい。
【0108】
ちなみに、特許文献2の参考製造例2に記載の方法で調製される粗精製酸型SL含有物は、前記比較例2に相当する。参考製造例1で分取したラクトン型及び酸型SL含有組成物のpHを12に調整するには1.0グラム当量に相当するアルカリ剤が必要である。当該アルカリ剤の存在下で、80℃で2時間処理して得られる加水分解物のろ液の色相値(Abs.440)は「8.20」と5より大きく、また50℃1ヶ月後の色相値(Abs.440)も「13.01」と10より大きく、このことから耐褐変性を有することを特徴とする本発明の酸型SL含有組成物(本発明加水分解物)に該当しないことが確認された。
【0109】
製造例2:粗精製酸型SL含有物の調製(その2)
前記参考製造例1で分取したラクトン型及び酸型SL含有組成物に、そのけん化価に対して、表4に記載するグラム当量になるように、水酸化ナトリウムの水溶液を加えて、表4に記載する温度で2時間処理してアルカリ加水分解を行った(けん化処理)。反応後、加水分解物を室温(25℃)に戻して、9.8Mの硫酸水溶液を用いて、加水分解処理物のpHを8に調整した。次いで、発生した不溶物を孔径0.45μmのフィルターを用いてろ過して除去し、回収したろ液(加水分解物のろ液)を「粗精製酸型SL含有組成物」(実施例14~17)として得た。なお、当該「粗精製酸型SL含有組成物」には、酸型SLおよびラクトン型SLの合計を100質量%とした場合、酸型SLが78質量%以上、ラクトン型SLが22質量%未満の割合で含まれている。
【0110】
回収した加水分解物のろ液(粗精製酸型SL含有組成物)を被験試料として、前述する方法で、各種の物性〔pH、色相値(Abs.440)、エタノール不溶分(質量%)、けん化価(mg KOH/g)、強熱残分(質量%)〕を測定した。また、加水分解処理後のろ液を、さらに50℃の暗所に1ヶ月間(30日間)静置し、その後に前述する方法で色相値(Abs.440)を測定した。これらの結果を表4に示す。
【0111】
【0112】
表4に示すように、ラクトン型及び酸型SL含有組成物をアルカリ加水分解処理後、pHを6~9の範囲、好ましくは中性pHに調整することで、50℃で1ヶ月間放置した後でも色相値が1.7以下と低く抑えられおり、経時的に進行する褐変現象が有意に抑制できることが確認された。