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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-24
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】すべり軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/12 20060101AFI20220111BHJP
   F16C 17/02 20060101ALI20220111BHJP
   F16C 17/10 20060101ALI20220111BHJP
   H02K 5/167 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
F16C33/12 B
F16C17/02 A
F16C17/10 A
H02K5/167 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2016173632
(22)【出願日】2016-09-06
(65)【公開番号】P2018040401
(43)【公開日】2018-03-15
【審査請求日】2019-08-26
【審判番号】
【審判請求日】2021-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】新井 隆生
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 冬木
(72)【発明者】
【氏名】栗村 哲弥
【合議体】
【審判長】島田 信一
【審判官】八木 誠
【審判官】藤井 昇
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-63602(JP,A)
【文献】国際公開第2016/084546(WO,A1)
【文献】特開2009-74572(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C33/12, 17/02, 17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉末として鉄粉のみを含み、前記鉄粉の粒子の表面に形成された酸化物被膜により前記粒子同士が結合された圧粉体からなり、支持すべき相手材と潤滑膜を介して摺動する軸受面を有するすべり軸受において、
前記軸受面に成形面からなる動圧溝が設けられ、
前記圧粉体の密度が6.7g/cm 以上であり、
前記軸受面に、前記酸化物被膜により内部気孔との連通が遮断された多数の微小凹部を有し、
含油率が4vol%以下であり、前記軸受面の表面開口率が40%以上であるすべり軸受。
【請求項2】
通油度が0.01g/10min以下である請求項1に記載のすべり軸受。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のすべり軸受と、前記すべり軸受の内周に挿入された前記相手材としての軸部材とを備え、前記すべり軸受の軸受面と前記軸部材の外周面との間のラジアル軸受隙間における潤滑膜の圧力で前記軸部材を相対回転自在に非接触支持する流体動圧軸受装置。
【請求項4】
請求項に記載の流体動圧軸受装置と、前記すべり軸受および前記軸部材のうち、回転側に設けられたロータマグネットと、前記すべり軸受および前記軸部材のうち、固定側に設けられたステータコイルとを備えたモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持すべき相手材と潤滑膜を介して摺動するすべり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
HDD用のスピンドルモータや、レーザビームプリンタ用のポリゴンスキャナモータ、冷却ファン用のファンモータなどの小型モータの回転支持軸受には、すべり軸受の一種である焼結含油軸受が使用されることがある。焼結含油軸受は、内部気孔に油(又はグリース。以下同様。)が含浸されており、この油が軸受面から滲み出すことで、軸受面と軸との摺動部に油を供給して潤滑性を高めることができる。
【0003】
しかし、軸受隙間の油膜の圧力が高まると、油の一部が焼結含油軸受の軸受面の開口部から内部気孔を介して外部へ抜けてしまうため、油膜の圧力が低下して負荷容量が低下してしまう。このような軸受面の開口部からの圧力抜けを抑制するために、例えば下記の特許文献1には、軸受面に金型(例えばマンドレル)を摺動させることで軸受面の開口部を封孔する技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3377681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のように金型を摺動させて軸受面を封孔すると、軸受面に傷がつきやすく、品質が低下するおそれがある。また、軸受面を封孔するための工程および金型が増えるため、コストアップとなる。
【0006】
上記のほかにも、軸受面の開口部からの圧力抜けを抑制する手段として、例えば、圧粉体の成形圧力を高めて密度を上げることにより内部気孔の体積を減らしたり、溶融樹脂や溶融金属を浸み込ませて内部気孔を埋めたりする方法がある。しかし、圧粉体の成形圧力を高めることによる密度向上は、プレス機の能力、金型の強度、生産性などの面で限界がある。また、溶融樹脂や溶融金属による封孔は、軸受面の精度を維持することが困難である上、多大な工数がかかってコストアップを招く。
【0007】
また、軸受面の開口部を完全に封孔したり、溶製鋼などの気孔を有さない材料ですべり軸受を形成したりして軸受面を平滑にすれば、油膜圧力の低下は防止できる。しかし、この場合、内部気孔からの油の供給が無くなるため、軸受面と軸との摺動部の油が枯渇しやすくなり、軸受面と軸との接触による焼き付きが生じるおそれがある。
【0008】
そこで、本発明は、コストアップを招くことなく、軸受面からの圧力抜けを抑制して負荷容量を高めると共に、軸受面と相手材(軸)との摺動部における潤滑膜切れを防止して焼き付きを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明は、金属粉末の粒子の表面に形成された酸化物被膜により前記粒子同士が結合された圧粉体からなり、支持すべき相手材と潤滑膜を介して摺動する軸受面を有するすべり軸受において、前記軸受面に、前記酸化物被膜により内部気孔との連通が遮断された多数の開口部を有することを特徴とする。
【0010】
本発明のすべり軸受は、一般的な焼結軸受のように圧粉体を高温(例えば850℃)で焼結するのではなく、圧粉体に比較的低温(例えば500℃)での加熱処理を施すことにより、圧粉体を構成する金属粉末の粒子の表面に酸化物被膜を生成させ、この酸化物被膜により粒子同士を結合したものである。この場合、酸化物被膜により圧粉体の内部気孔の少なくとも一部が埋められることで、圧粉体の表面から内部に油が抜けにくくなるため、別途の封孔処理を行わなくても、軸受面からの圧力抜けを抑制して負荷容量を高めることができる。
【0011】
また、上記の酸化物被膜により、圧粉体の表面の開口部が完全に封孔されて軸受面が平滑となるわけではなく、圧粉体の表面には、酸化物被膜により内部気孔との連通が遮断された多数の開口部が残っている。この開口部は、油を保持する油溜まりとして機能し、開口部に保持された油が、軸受面と相手材との摺動部に供給されることで、摺動部における油膜切れを防止できる。尚、「内部気孔」とは、圧粉体の表面に露出していない粒子あるいはその表面に形成された酸化物被膜で形成された気孔を意味する。
【0012】
上記のすべり軸受は、含油率を4vol%以下、軸受面の表面開口率を40%以上とすることが好ましい。尚、表面開口率とは、上記のような内部気孔と連通していない開口部だけでなく、内部気孔と連通した開口部を含む、軸受面におけるすべての開口部の面積率である。
【0013】
また、上記のすべり軸受は、通油度が0.01g/10min以下とすることが好ましい。尚、通油度は、すべり軸受の表面(例えば内周面)に油を接触させ、この油に所定圧力(ここでは0.4MPa)を負荷した状態で10分間保持したときに、すべり軸受の反対側の表面(例えば外周面)の開口部から滲み出した油の総重量を測定することにより求められる。
【0014】
前記軸受面は、例えば、動圧溝等を有さない平滑な円筒面とすることができる。このすべり軸受は、動圧溝が形成された軸部材の外周面と対向させて流体動圧軸受を構成したり、軸部材の円筒面状外周面と対向させて真円軸受を構成したりすることができる。
【0015】
また、前記軸受面に、動圧溝を型成形してもよい。このすべり軸受は、例えば、軸部材の平滑な外周面あるいは端面と対向させて流体動圧軸受を構成することができる。
【0016】
上記のすべり軸受は、例えば流体動圧軸受装置に組み込むことができる。具体的には、上記のすべり軸受と、前記すべり軸受の内周に挿入された前記相手材としての軸部材とを備え、前記すべり軸受の軸受面と前記軸部材の外周面との間のラジアル軸受隙間における潤滑膜の圧力で前記軸部材を相対回転自在に非接触支持する流体動圧軸受装置を得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明では、すべり軸受(圧粉体)の内部気孔の少なくとも一部を酸化物被膜で埋めることで、軸受面からの圧力抜けを抑制して負荷容量を高めることができる。また、すべり軸受の軸受面に、油溜まりとなる多数の開口部が設けられることで、相手材との摺動部における油膜切れを防止して焼き付きを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】スピンドルモータの断面図である。
図2】流体動圧軸受装置の断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係るすべり軸受(軸受スリーブ)の断面図である。
図4】上記すべり軸受の下面図である。
図5】上記すべり軸受の軸受面付近における断面図である。
図6】上記すべり軸受の軸受面の写真である。
図7】圧粉工程を行うフォーミング金型の断面図である(成形前)。
図8】圧粉工程を行うフォーミング金型の断面図である(成形完了時)。
図9】圧粉工程を行うフォーミング金型の断面図である(離型時)。
図10】左図は加熱処理前の圧粉体の断面組織図、中央図は脱脂後の圧粉体の断面組織図、右図は酸化処理後の圧粉体の断面組織図である。
図11】圧粉体の真密度比と含油率との関係を表すグラフである。
図12】実施例に係るすべり軸受を有するモータの回転速度および油膜形成率を表すグラフである。
図13】比較例に係るすべり軸受を有するモータの回転速度および油膜形成率を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1に示すスピンドルモータは、HDD等のディスク駆動装置に用いられるものであり、軸部材2を回転自在に非接触支持する流体動圧軸受装置1と、軸部材2に装着されたディスクハブ3と、例えば半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル4およびロータマグネット5とを備えている。ステータコイル4はケーシング6に取付けられ、ロータマグネット5はディスクハブ3に取付けられる。流体動圧軸受装置1のハウジング7は、ケーシング6の内周に装着される。ディスクハブ3には、磁気ディスク等のディスクDが所定枚数保持される。ステータコイル4に通電すると、ステータコイル4とロータマグネット5との間の電磁力でロータマグネット5が回転し、それによって、ディスクハブ3および軸部材2が一体となって回転する。
【0021】
図2に示すように、流体動圧軸受装置1は、本発明の一実施形態に係るすべり軸受としての軸受スリーブ8と、軸受スリーブ8で支持される相手材としての軸部材2と、軸受スリーブ8を内周に保持するハウジング7と、ハウジング7の軸方向一端の開口部に設けられたシール部9と、ハウジング7の軸方向他端を閉塞するスラストブッシュ10とを有する。図示例では、ハウジング7とシール部9が一部品で構成されている。尚、以下の説明では、便宜上、軸方向でハウジング7の閉塞側を下側、ハウジング7の開口側を上側と言うが、これは流体動圧軸受装置1の使用態様を限定する趣旨ではない。
【0022】
軸部材2は、軸部2aと、軸部2aの下端に設けられたフランジ部2bとを備える。軸部材2は、例えば金属で形成され、本実施形態では、軸部2aおよびフランジ部2bを含む軸部材2全体がステンレス鋼で一体に形成される。
【0023】
ハウジング7は、樹脂あるいは金属で円筒状に形成される。ハウジング7の内周面7aには、軸受スリーブ8の外周面8dが、接着や圧入等の適宜の手段で固定される。
【0024】
軸受スリーブ8は円筒状をなし、内周面8aに、軸部材2の外周面2a1と対向するラジアル軸受面が設けられる。図示例では、軸受スリーブ8の内周面8aの軸方向に離隔した2箇所にラジアル軸受面Aが形成される。各ラジアル軸受面Aには動圧溝が形成され、本実施形態では、図3に示すように、各ラジアル軸受面Aにへリングボーン形状に配列された動圧溝G1,G2が設けられる。図中クロスハッチングで示す領域は、内径側に盛り上がった丘部を示している(図4においても同様)。
【0025】
上側の動圧溝G1は軸方向で非対称な形状を成し、下側の動圧溝G2は軸方向で対称な形状を成している。軸方向非対称形状の上側の動圧溝G1により、ラジアル軸受隙間の油が軸方向に押し込まれ、ハウジング7の内部で油が強制的に循環される。ラジアル軸受面Aの軸方向間領域には、動圧溝G1、G2の溝底面と連続した円筒面が設けられる。尚、上下の動圧溝G1,G2の双方を軸方向対称形状としてもよい。また、上下の動圧溝G1,G2を軸方向で連続させたり、上下の動圧溝G1,G2の一方あるいは双方を省略したりしてもよい。また、ラジアル軸受面に、スパイラル形状の動圧溝や軸方向に延びる動圧溝を形成してもよい。また、軸受スリーブ8の内周面8a(ラジアル軸受面A)を円筒面として、軸部材2の外周面2a1に動圧溝を形成してもよい。
【0026】
軸受スリーブ8の下側端面8bには、軸部材2のフランジ部2bの上側端面2b1と対向するスラスト軸受面Bが設けられる。スラスト軸受面Bには、図4に示すようなポンプインタイプのスパイラル形状の動圧溝G3が形成される。尚、動圧溝の形状として、ヘリングボーン形状や放射溝形状等を採用しても良い。また、軸受スリーブ8の下側端面8b(スラスト軸受面B)を平坦面として、軸部材2のフランジ部2bの上側端面2b1に動圧溝を形成してもよい。
【0027】
軸受スリーブ8の上側端面8cには、図3に示すように、環状溝8c1と、環状溝8c1の内径側に設けられた複数の半径方向溝8c2とが形成される。軸受スリーブ8の外周面8dには、複数の軸方向溝8d1が円周方向等間隔に設けられる。これらの軸方向溝8d1、環状溝8c1、及び半径方向溝8c2等を介して、軸部材2のフランジ部2bの外径側の空間がシール空間Sと連通することで、この空間における負圧の発生が防止される。尚、特に必要が無ければ、環状溝8c1および半径方向溝8c2を省略して、軸受スリーブ8の上側端面8cを平坦面としてもよい。
【0028】
軸受スリーブ8は、金属粉末の圧粉体の内部気孔に油を含浸させた多孔質含油軸受である。軸受スリーブ8の表面は、動圧溝G1、G2、G3の溝底面や、丘部の頂面および側面を含め、全域が型成形された面となっている。軸受スリーブ8にはサイジングが施されておらず、軸受スリーブ8の表面に摺動痕は形成されていない。
【0029】
軸受スリーブ8は、例えば単一の金属を95wt%以上含む圧粉体からなる。本実施形態では、軸受スリーブ8が、図5に示すように、鉄粒子11と、鉄粒子11の表面に形成された酸化物被膜12とからなる圧粉体で構成される。鉄粒子11は、酸化物被膜12により互いに結合されている。詳しくは、各鉄粒子11の表面に形成された酸化物被膜12が、鉄粒子11間に行き渡ってネットワークを形成することにより、軸受スリーブ8の強度が確保されている。
【0030】
軸受スリーブ8は、酸化物被膜12により鉄粒子11間の隙間(内部気孔)の少なくとも一部が埋められることで、気孔率、特に、表面に連通する気孔率(開放気孔率)が減じられている。これにより、軸受スリーブ8の含油率が例えば4vol%以下、好ましくは2vol%以下とされる。また、軸受スリーブ8の通油度は、例えば0.01g/10min以下とされる。
【0031】
軸受スリーブ8の表面は、酸化物被膜12により完全に封孔されて平滑になっているわけではなく、軸受スリーブ8の表面、特にラジアル軸受面Aおよびスラスト軸受面Bには、多数の開口部13a(微小凹部)が形成される。この多数の開口部13aは、内部気孔13b(軸受スリーブ8の表面に露出していない鉄粒子11あるいはその表面に形成された酸化物被膜12で形成された気孔13b)との連通が酸化物被膜12により遮断されている。すなわち、酸化物被膜12を形成する前は、内部気孔13bと開口部13aとは連通しているが、酸化物被膜12によりこれらが分断されることで、何れかの表面(例えば内周面8a)のみに開口した開口部13aが形成される。開口部13aの内部側は、酸化物被膜12で閉塞されている。この多数の開口部13aが、油を保持する油溜まりとして機能する。尚、軸受スリーブ8の各軸受面A、Bには、内部気孔13bと連通した開口部13cも設けられる。このような開口部13cの少なくとも一部が、軸受スリーブ8の他の表面(例えば外周面8d)と連通している。
【0032】
軸受スリーブ8のラジアル軸受面Aおよびスラスト軸受面Bにおける表面開口率は、それぞれ40%以上とされる。軸受面A、Bの表面開口率は、軸受面A、Bの撮影画像を解析することで測定される。図6は、軸受スリーブ8の内周面8a(ラジアル軸受面A)の拡大写真であり、黒色で示されている領域が開口部13aあるいは13cである。この画像において黒色領域(開口部13a、13c)の割合を算出することで、表面開口率が求められる。尚、図6に示されている直線は、動圧溝と丘部との境界である。
【0033】
シール部9は、ハウジング7の上端から内径側に突出している。本実施形態では、シール部9がハウジング7と一体に形成される。シール部9の内周面9aは、下方に向けて漸次縮径したテーパ状を成す。シール部9の内周面9aと軸部2aの外周面2a1との間には、下方に向けて半径方向幅を徐々に狭めた楔状のシール空間Sが形成される(図2参照)。この他、シール部9の内周面を円筒面とする一方で、軸部2aの外周面に上方に向けて漸次縮径するテーパ面を設け、これらの間に楔状のシール空間Sを形成してもよい。
【0034】
スラストブッシュ10は、例えば、金属材料(黄銅等)や樹脂材料で形成され、ハウジング7の内周面7aの下端部に、圧入、接着等の適宜の手段で固定される。スラストブッシュ10の端面10aにはスラスト軸受面Cが形成される。このスラスト軸受面Cには、例えばポンプインタイプのスパイラル形状の動圧溝が形成される(図示省略)。尚、動圧溝の形状として、ヘリングボーン形状や放射溝形状等を採用しても良い。また、スラストブッシュ10の端面10a(スラスト軸受面C)を平坦面として、軸部材2のフランジ部2bの下側端面2b2に動圧溝を形成してもよい。
【0035】
上記の構成の流体動圧軸受装置1の内部に、油(又はグリース)が注入される。本実施形態では、ハウジング7の内周の空間が、軸受スリーブ8の内部気孔を含めて油で満たされ、シール空間S内に油面が形成される。
【0036】
軸部材2が回転すると、軸受スリーブ8およびスラストブッシュ10に設けられた軸受面と軸部材2とが、油膜を介して摺動する。詳しくは、軸受スリーブ8の内周面8aのラジアル軸受面Aと軸部2aの外周面2a1との間にラジアル軸受隙間が形成され、ラジアル軸受面Aに設けられた動圧溝G1,G2によりラジアル軸受隙間の油膜の圧力が高められることで、軸部材2をラジアル方向に非接触支持する第1ラジアル軸受部R1及び第2ラジアル軸受部R2が構成される。これと同時に、軸受スリーブ8の下側端面8b(スラスト軸受面B)とフランジ部2bの上側端面2b1との間、及び、スラストブッシュ10の端面10a(スラスト軸受面C)とフランジ部2bの下側端面2b2との間にそれぞれスラスト軸受隙間が形成され、各スラスト軸受面B、Cに設けられた動圧溝により各スラスト軸受隙間の油膜の圧力が高められることで、軸部材2を両スラスト方向に非接触支持する第1スラスト軸受部T1及び第2スラスト軸受部T2が構成される。
【0037】
このとき、軸受スリーブ8の内部気孔の少なくとも一部が酸化物被膜12で埋められ、軸受スリーブ8の含油率が4vol%以下となっていることにより、軸受隙間の油膜の圧力が高められたときでも、軸受スリーブ8の表面(特にラジアル軸受面Aおよびスラスト軸受面B)から内部への油の浸入が抑えられる。これにより、軸受隙間の油膜の圧力低下が抑えられるため、ラジアル軸受部R1、R2およびスラスト軸受部T1、T2の負荷容量を高めることができる。
【0038】
また、軸受スリーブ8の軸受面A、Bには、多数の開口部13aが設けられている(図5参照)。この開口部13aは、酸化物被膜12により内部気孔13bとの連通が遮断された微小凹部であり、油を保持する油溜まりとなる。軸部材2の回転時には、開口部13aに保持された油が軸受隙間に供給されることで、軸受隙間における油膜切れを防止して、軸受スリーブ8と軸部材2との接触による焼き付きを防止することができる。
【0039】
ここで、上記のすべり軸受(軸受スリーブ8)の製造方法を説明する。軸受スリーブ8は、圧粉工程、脱脂工程、酸化工程、含油工程を経て製造される。以下、各工程を詳しく説明する。
【0040】
(1)圧粉工程
圧粉工程は、原料粉末を金型に供給し、圧縮成形することで、円筒状の圧粉体を得る工程である。圧粉工程の手法は特に問わず、一軸加圧成形の他、多軸CNCプレスによる成形などが適用可能である。
【0041】
原料粉末は、鉄粉や銅粉等の金属粉末を主に含む。鉄粉は、製法を問わず使用可能であり、例えば、アトマイズ粉や還元粉を使用できる。銅粉も、製法を問わず使用可能であり、例えば電解粉、アトマイズ粉、還元粉を使用できる。この他、主成分が鉄または銅である合金粉(例えば、予合金化したプレアロイ粉、部分的に拡散合金化させた部分拡散合金粉)を使用することも可能である。また、高強度化や潤滑性向上などのため、Sn、Znなどの低融点金属粉末、黒鉛やカーボンブラックなどの炭素系粉末を原料粉末に添加してもよい。
【0042】
ただし、原料粉末に含まれる金属粉末は、単一種の金属粉末を95wt%以上含むことが好ましく、単一の金属粉末のみからなることがより好ましい。金属の種類が異なると、粒子の表面に形成される酸化物被膜の厚さや基材との密着性などが異なるため、寸法精度や軸受特性が満足できないおそれがあるからである。尚、寸法精度や軸受特性が満たされるのであれば、複数種の金属粉末を混合してもよい。
【0043】
原料粉末に、後の圧粉工程における原料粉末と金型との潤滑、あるいは原料粉末同士の潤滑を担保するべく、成形用潤滑剤を添加してもよい。成形用潤滑剤としては、金属セッケンやアミドワックスなどが使用できる。成形用潤滑剤は、粉末として原料粉末に混合する他、上記に挙げた成形用潤滑剤を溶剤に分散させた溶液を、金属粉末に噴霧又は浸漬させ、溶剤成分を揮発・除去することで、成形用潤滑剤を金属粉末の表面に被覆させてもよい。
【0044】
本実施形態では、原料粉末が、純鉄粉(還元鉄粉)および成形用潤滑剤のみからなる。成形用潤滑剤は、純鉄粉に対して0.1~1wt%、好ましくは0.3~0.6wt%含まれる。
【0045】
圧粉工程は、図7に示すフォーミング金型を用いて行われる。フォーミング金型は、ダイ21、コアロッド22、上パンチ23および下パンチ24を備える。コアロッド22の外周面には、動圧溝G1、G2に対応した形状の成形型22a、22bが設けられる。下パンチ24の上面には、動圧溝G3に対応した形状の成形型24aが設けられる。この他、図示は省略するが、ダイ21の内周面には、軸方向溝8d1に対応した形状の成形型が設けられ、上パンチ23の下面には、環状溝8c1および半径方向溝8c2に対応した形状の成形型が設けられる。
【0046】
まず、図7に示すように、ダイ21、コアロッド22、および下パンチ24で区画されたキャビティに、原料粉末Mを充填する。次に、図8に示すように、上パンチ23を降下させて原料粉末Mを圧縮し、圧粉体8’を成形する。これと同時に、コアロッド22の成形型22a、22bにより、圧粉体8’の内周面に動圧溝G1、G2が成形されると共に、下パンチ24の成形型24aにより、圧粉体8’の下側端面に動圧溝G3が成形される。
【0047】
その後、図9に示すように、圧粉体8’をダイ21の内周から排出することにより、圧粉体8’に加わっていた内径向きの力が解放され、圧粉体8’にスプリングバックが生じる。これにより、圧粉体8’の内周面が拡径し、圧粉体8’がコアロッド22の成形型22a、22bから離型される。
【0048】
通常、焼結部品においては密度が高い方が強度は向上する。しかし、本実施形態のように、圧粉体に酸化処理を施すことで高強度化を図る場合は、圧粉密度が高すぎると、圧粉体内部まで空気等の酸化性ガスが侵入できず、酸化物被膜の形成が圧粉体のごく表層に限られるため、強度は向上するものの好ましくない。この点に鑑み、圧粉密度は、7.2g/cm以下(真密度比91%以下)、好ましくは7.0g/cm以下(真密度比89%以下)とするのがよい。
【0049】
一方、圧粉密度が低すぎると、取扱い時に欠けや割れが発生してしまう(ラトラ値が大きい)、粒子間距離が長過ぎて酸化物被膜が粒子間にわたって形成されない、といった懸念がある。この点に鑑み、圧粉密度は、5.8g/cm3以上(真密度比74%以上)、好ましくは6.0g/cm3以上(真密度比76%以上)とするのがよい。特に、酸化物被膜により内部気孔を埋めて圧粉体の含油率を4vol%以下とするためには、圧粉密度を6.3g/cm3以上(真密度比80%以上)、好ましくは6.7g/cm3以上(真密度比85%以上)とするのがよい。尚、圧粉密度の測定は、寸法測定法による。また、圧粉体の密度は、後の脱脂工程および酸化工程を経てもほとんど変わらないため、上記の圧粉密度の好ましい範囲は、軸受スリーブ8の密度の好ましい範囲となる。
【0050】
(2)脱脂工程
脱脂工程は、圧粉体を加熱して、圧粉体に含まれる成形用潤滑剤を除去(脱ろう)する工程である。脱脂工程は、成形用潤滑剤の分解温度より高く、後述の酸化工程よりも低い温度で行われ、例えば300~400℃で60~120分間加熱される。脱脂前の圧粉体8’は、図10の左図に示すように、鉄粒子11の間の隙間に成形用潤滑剤14が配されているが、脱脂工程を施すことにより、図10の中央図に示すように、成形用潤滑剤14が消失し、鉄粒子11のみからなる圧粉体8’が得られる。
【0051】
従来の焼結軸受の製造工程では、焼結工程において圧粉体が高温で保持されるため、圧粉体に含まれる潤滑剤成分は分解し、焼結後の製品中には含まれない。しかし、本発明を適用した場合、圧粉体の密度や酸化処理温度、保持時間によっては潤滑剤成分が残存し得る。そのため、酸化処理に先立ち、あらかじめ潤滑剤成分を分解・除去するための脱脂工程を設け、脱脂工程後に連続して同じ雰囲気で酸化処理をする、といった手法を取ることが望ましい。ただし、脱脂工程を設けずに、成形用潤滑剤を含有したまま酸化処理をしても、高強度化が図れることは確認済みである。また、脱脂工程を、別途の加熱装置を用いて、酸化工程とは異なる雰囲気(例えば、不活性ガスや還元性ガス、真空中など)で実施してもよい。
【0052】
(3)酸化工程
酸化工程では、圧粉体を酸化性雰囲気中で加熱する。これにより、図10の右図に示すように金属粉末(鉄粉)の各粒子11の表面に酸化物被膜12を生成させ、この酸化物被膜12を介して粒子11同士を結合することで、圧粉体8’の強度が高められる。具体的には、酸化工程により、金属粉末の各粒子の表面に生成される酸化物被膜が、鉄粒子11間に行き渡ってネットワークを形成することで、従来のような高温での焼結による結合力を代替し、圧粉体8’が高強度化される。また、本実施形態では、主成分となる鉄粉の全粒子が酸化物被膜を介して接合されているわけではなく、一部の粒子同士が酸化物被膜を介することなく直接接触して融着している。
【0053】
酸化物被膜12の生成により、圧粉体8’の内部気孔の少なくとも一部が埋められる。このとき、圧粉体8’の表面の開口部の少なくとも一部が、酸化物被膜12により内部気孔13bとの連通が遮断される。これにより、圧粉体8’の表面に、内部側が酸化物被膜12で閉塞された多数の開口部13aが形成される(図5参照)。
【0054】
上記の酸化処理の処理条件(加熱温度、加熱時間、加熱雰囲気)は、圧粉体8’に、動圧軸受として要求される強度が付与され、且つ、酸化物被膜12により、圧粉体8’の含油率が4vol%以下、表面開口率が40%以上となるように設定される。具体的に、本実施形態の酸化工程における加熱温度は、400℃以上、好ましくは450℃以上に設定される。また、加熱温度が高すぎると、圧粉体の寸法変化が大きくなるため、加熱温度は600℃以下、好ましくは550℃以下に設定される。加熱時間は、5分~2時間の範囲で、適宜設定され、例えば10~20分とされる。酸化工程を経た圧粉体は、すべり軸受に必要とされる強度、具体的には圧環強さ120MPa以上、好ましくは150MPa以上を有する。
【0055】
加熱雰囲気は、積極的な酸化を促すために酸化性雰囲気とされる。ただし、水蒸気雰囲気は、酸化物被膜の生成速度が速すぎるため、水蒸気雰囲気よりも酸化物被膜の生成速度が遅い酸化性雰囲気とすることが好ましい。具体的には、空気又は酸素、あるいはこれらに窒素やアルゴンなどの不活性ガスを混合した酸化性ガスの何れかの雰囲気中で加熱することが好ましい。これらの酸化性ガス、特に空気雰囲気で酸化処理を行うことで、圧粉体の表面に形成される酸化物被膜が抑えられるため、圧粉体の表面粗さの低下を抑えることができる。また、すべり軸受として使用に耐える強度(例えば圧環強さ120MPa以上)を得るためには、加熱雰囲気中の酸素分率を2vol%以上とすることが好ましい。
【0056】
鉄粉の表面に形成される鉄酸化物被膜は、Fe、Fe、FeOのうちの2種類以上の混相である。これらの酸化物被膜の比率は、材料および処理条件によって異なる。
【0057】
上記の酸化工程による高強度化は、従来の一般的な焼結部材で使用される、鉄又は銅あるいはこれらの双方を種々の割合で混合した材質(鉄系、銅系、鉄-銅系、又は銅-鉄系)の圧粉体に適用できる。ただし、金属粉末が単一種類(例えば鉄粉)のみからなる方が、酸化物被膜の厚さや粒子との密着性を均一にすることができるため、好ましい。
【0058】
上記の酸化工程は、従来の高温での焼結工程と比べて処理温度が低いため、処理前後の圧粉体の寸法変化が小さい。このため、圧粉体の寸法精度、特に動圧溝の寸法精度(溝深さ等)の低下が抑えられ、サイジングを施すことなく、要求される精度を満たすことができる。このようにサイジング工程を省略することで、軸受の製造工程が短縮され、コストが低減できると共に、軸受及びフォーミング金型の設計が容易になる。
【0059】
上記の酸化工程は、圧粉体の形状や寸法によらず適用可能である。また、酸化工程を施した圧粉体の表面は酸化物被膜で覆われるため、防錆効果が高く、場合によっては防錆処理が不要となる。また、酸化工程の処理温度が比較的低いため、この処理温度を超える温度で変性、分解するような添加剤(例えば摺動性や潤滑性を有する材料)を添加して、製品の高機能化を図ることも可能である。
【0060】
(4)含油工程
含油工程は、酸化処理を施した圧粉体の内部気孔に潤滑油を含浸させる工程である。具体的には、減圧環境下で圧粉体を油中に浸漬した後、大気圧に戻すことにより、圧粉体の表面の開口部から内部気孔に油が入り込む。以上により、本実施形態に係る軸受スリーブ8が完成する。尚、含油工程を省略し、内部に油が含浸されていない圧粉体を軸受スリーブ8としてもよい。この場合、ドライ状態の軸受スリーブ8を用いて流体動圧軸受装置1を組み立てた後、流体動圧軸受装置1の内部空間に油を真空含浸等により充填する際に、軸受スリーブ8の内部気孔に油が含浸される。
【0061】
本発明の実施形態は上記に限られない。例えば、上記の実施形態では、軸受スリーブ8に、ラジアル軸受面およびスラスト軸受面の双方を設けた場合を示したが、これに限らず、ラジアル軸受面あるいはスラスト軸受面の何れか一方のみを有するすべり軸受に本発明を適用してもよい。例えば、上記のスラストブッシュ10として、本発明に係るすべり軸受を適用してもよい。
【0062】
また、上記の実施形態では、軸受スリーブ8に動圧溝が形成された場合を示したが、これに限られない。例えば、軸受スリーブ8の内周面8aおよび軸部材2の外周面2a1の双方を円筒面として、真円軸受を構成してもよい。この場合、軸部材2の振れ回りにより、軸受スリーブ8と軸部材2との間の軸受隙間の油膜に動圧が生じ、この動圧により軸を浮上支持する流体動圧軸受が構成される。このような流体動圧軸受は、比較的高速で回転する軸を支持する場合に適用されるが、これに限らず、比較的低速で回転する相手材や、揺動あるいは直動する相手材を潤滑膜を介して摺動支持する軸受として、本発明のすべり軸受を適用することもできる。
【0063】
また、上記の実施形態では、ハウジング7およびシール部9を一部品で構成し、スラストブッシュ10を別体に形成しているが、これに限らず、例えば、ハウジング7およびスラストブッシュ10を一部品で構成し、シール部9を別体としてもよい。あるいは、ハウジング7、シール部9、およびスラストブッシュ10を別体としてもよい。
【0064】
また、上記の実施形態では、油面が一箇所のみ(シール空間S内)に形成されるフルフィル構造の流体動圧軸受装置を示したが、油面が複数箇所に形成されるパーシャルフィル構造の流体動圧軸受装置に、本発明に係るすべり軸受を組み込んでもよい。
【0065】
また、上記の実施形態では、すべり軸受(軸受スリーブ8)が固定され、相手材(軸部材2)が回転する場合を示したが、これとは逆に、相手材を固定し、すべり軸受を回転させてもよい。また、本発明に係るすべり軸受は、HDD等のディスク駆動装置用のスピンドルモータのみならず、冷却ファン用のファンモータやレーザビームプリンタ用のポリゴンスキャナモータなどに組み込んで使用することもできる。
【実施例1】
【0066】
本発明の効果を確認するために、以下の試験を行った。
【0067】
(1)含油率と真密度比との関係
密度の異なる複数の圧粉体に脱脂・酸化処理を施して、複数種の円筒状試験片を作成した後、各試験片の含油率を測定した。試験片(酸化処理後の圧粉体)は、上記の実施形態のすべり軸受(軸受スリーブ8)と同様の構成を有し、鉄粒子およびその表面に形成された酸化物被膜からなる。含油率の測定は、JIS Z 2501:2000による。
【0068】
図11に、各試験片の含油率の測定結果を示す。この図によると、真密度比が80%程度でも、含油率は、一般的な焼結含油軸受の含油率の下限値である10vol%に対して半分以下(例えば4vol%以下)である。また、真密度比が85%以上の場合、含油率はほぼ0vol%(2vol%以下)となる。以上より、圧粉体に脱脂・酸化処理を施すことで、含油率が十分に抑えられることが明らかになった。
【0069】
(2)油膜形成率
鉄粉および成形用潤滑剤からなる圧粉体に、脱脂処理および酸化処理を施して、実施例に係るすべり軸受を作製した。実施例のすべり軸受は、上記の実施形態の軸受スリーブ8(図3及び図4参照)と同様の構成を有し、圧環強さが150MPa以上、含油率が4vol%以下、軸受面の表面開口率が40%以上である。一方、従来の銅鉄系の焼結金属からなるすべり軸受を比較例とした。比較例のすべり軸受は、上記の実施形態の軸受スリーブ8と同様の形状であるが、製法が実施例と異なる。具体的には、動圧溝を有さない円筒状の圧粉体を成形した後、これを焼結して焼結体を得、この焼結体にサイジングを施すことで動圧溝を成形し、さらにその後、焼結体の内周面に回転サイジングによる封孔処理を行った。
【0070】
実施例、比較例のすべり軸受をそれぞれモータに組み込み、各モータを回転させながら、軸とすべり軸受との間の通電量を測定することにより、油膜形成率を測定した。具体的には、常温(25℃)環境で、モータを2000r/minで回転させながら、軸を鉛直方向に正立させて保持する状態と、軸を鉛直方向と水平方向との間で揺動させる状態とを、2秒ごとに交互に繰り返し、このときの油膜形成率を測定した。
【0071】
図13に示すように、比較例のすべり軸受を使用したモータでは、揺動時に油膜形成率が低下しており、軸とすべり軸受とが接触していることが分かる。これに対し、図12に示すように、実施例のすべり軸受を使用したモータでは、正立時および揺動時の何れにおいても、油膜形成率が常に100%であった。従って、実施例のすべり軸受を用いることで、負荷容量が向上し、軸とすべり軸受との接触を防止できることが確認された。
【符号の説明】
【0072】
1 流体動圧軸受装置
2 軸部材
8 軸受スリーブ(すべり軸受)
8’ 圧粉体
11 鉄粒子
12 酸化物被膜
13a 開口部
13b 内部気孔
14 成形用潤滑剤
A ラジアル軸受面
B、C スラスト軸受面
G1、G2 (ラジアル)動圧溝
G3 (スラスト)動圧溝
R1、R2 ラジアル軸受部
T1、T2 スラスト軸受部
S シール空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13