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特許6999277熱電界エミッタチップ、熱電界エミッタチップを含む電子ビーム装置、および電子ビーム装置を動作させる方法
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  • 特許-熱電界エミッタチップ、熱電界エミッタチップを含む電子ビーム装置、および電子ビーム装置を動作させる方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-24
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】熱電界エミッタチップ、熱電界エミッタチップを含む電子ビーム装置、および電子ビーム装置を動作させる方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/073 20060101AFI20220111BHJP
【FI】
H01J37/073
【請求項の数】 14
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017035711
(22)【出願日】2017-02-28
(65)【公開番号】P2017157558
(43)【公開日】2017-09-07
【審査請求日】2020-02-06
(31)【優先権主張番号】15/056,244
(32)【優先日】2016-02-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501493587
【氏名又は名称】アイシーティー インテグレーテッド サーキット テスティング ゲゼルシャフト フィーア ハルプライタープリーフテヒニック エム ベー ハー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100141553
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 信彦
(72)【発明者】
【氏名】ステファン ラニオ
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンドラ クラメル
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ブロイアー
【審査官】後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-191353(JP,A)
【文献】特開2002-141010(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 27/00-27/26
37/04
37/06-37/08
37/248
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームでサンプルを検査する電子ビーム装置であって、
光軸を含み、
電子ビームを放出する熱電界エミッタを備える電子ビーム源を備え、前記熱電界エミッタが、
エミッタチップを備え、前記エミッタチップが、
電子放出のために構成され、放出ファセット幅を有する放出ファセットと、
第1の側部ファセットおよび第2の側部ファセットとを備え、前記第1の側部ファセットと前記第2の側部ファセットとの間にエッジファセットが形成され、前記エッジファセットが、エッジファセット幅を有し、
前記エッジファセット幅が、前記放出ファセット幅の25%~35%であり、
前記電子ビーム源が、
前記熱電界エミッタと抽出装置との間に抽出電圧を印加する抽出装置と、
前記熱電界エミッタを加熱する加熱装置とをさらに備え、
前記電子ビーム装置が、
前記サンプル上へ前記電子ビームを誘導して集束させる電子ビーム光学系と、
前記電子ビームが前記サンプルに衝突または到達する際に生成される2次荷電粒子を検出する検出装置とをさらに備え
前記放出ファセット幅は、前記放出ファセットの境界まで広がる平面内で前記放出ファセットの最小の寸法であり、
前記エッジファセット幅は、前記エッジファセットに隣接した前記側部ファセットの側部ファセット境界まで広がる平面内で前記エッジファセットの最小の伸長部である、電子ビーム装置。
【請求項2】
前記エミッタチップが、結晶性のエミッタチップであり、前記放出ファセットが、100方位を有し、または前記放出ファセットが、前記電子ビーム装置の前記光軸に直交して配置される、請求項1に記載の電子ビーム装置。
【請求項3】
電子ビーム装置内で電子ビームを放出する熱電界エミッタであって、
エミッタチップを備え、前記エミッタチップが、
電子放出のために構成され、放出ファセット幅を有する放出ファセットと、
第1の側部ファセットおよび第2の側部ファセットとを備え、前記第1の側部ファセットと前記第2の側部ファセットとの間にエッジファセットが形成され、前記エッジファセットが、エッジファセット幅を有し、
前記エッジファセット幅が、前記放出ファセット幅の25%~35%であり、
前記放出ファセット幅は、前記放出ファセットの境界まで広がる平面内で前記放出ファセットの最小の寸法であり、
前記エッジファセット幅は、前記エッジファセットに隣接した前記側部ファセットの側部ファセット境界まで広がる平面内で前記エッジファセットの最小の伸長部である、熱電界エミッタ。
【請求項4】
前記第1の側部ファセットおよび前記第2の側部ファセットが、前記放出ファセットの周りに配置される、請求項1または3に記載の熱電界エミッタ。
【請求項5】
前記側部ファセットが、前記放出ファセットに対して傾斜している、請求項1または3に記載の熱電界エミッタ。
【請求項6】
前記放出ファセットが、100結晶方位又は8角形の形状の少なくとも1つを有する、請求項3に記載の熱電界エミッタ。
【請求項7】
前記放出ファセット幅が、200nm~500nmである、請求項3に記載の熱電界エミッタ。
【請求項8】
前記エミッタチップが、タングステンを含むエミッタチップであり、ZrOで被覆される、請求項3に記載の熱電界エミッタ。
【請求項9】
前記第1の側部ファセットおよび前記第2の側部ファセットが、110結晶方位を有する、請求項3に記載の熱電界エミッタ。
【請求項10】
前記エッジファセットが、211結晶方位を有する、請求項3に記載の熱電界エミッタ。
【請求項11】
電子ビーム源のための熱電界エミッタ用のエミッタチップを作製する方法であって、
エミッタチップ表面を備えるエミッタチップを提供するステップと、
前記エミッタチップを加熱することおよび前記エミッタチップに電界を印加することによって前記エミッタチップを処理するステップとを含み、
電子放出のために構成され、放出ファセット幅を有する放出ファセット、第1の側部ファセット、第2の側部ファセット、およびエッジファセット幅を有する前記第1の側部ファセットと前記第2の側部ファセットとの間のエッジファセットが形成され、
前記エッジファセット幅が、前記放出ファセット幅の25%~35%になるように形成され
前記放出ファセット幅は、前記放出ファセットの境界まで広がる平面内で前記放出ファセットの最小の寸法であり、
前記エッジファセット幅は、前記エッジファセットに隣接した前記側部ファセットの側部ファセット境界まで広がる平面内で前記エッジファセットの最小の伸長部である、方法。
【請求項12】
前記第1の側部ファセットおよび前記第2の側部ファセットが、前記放出ファセットの周りに形成される、請求項11に記載のエミッタチップを作製する方法。
【請求項13】
熱電界エミッタおよび抽出装置を備える電子ビーム源を提供するステップであって、前記熱電界エミッタが、エミッタチップを備え、前記エミッタチップが、
電子放出のために構成され、放出ファセット幅を有する放出ファセットと、
第1の側部ファセットおよび第2の側部ファセットとを備え、前記第1の側部ファセットと前記第2の側部ファセットとの間にエッジファセットが形成され、前記エッジファセットが、エッジファセット幅を有し、
前記エッジファセット幅が、前記放出ファセット幅の25%~35%である、提供するステップと、
前記熱電界エミッタを加熱装置で加熱するステップと、
前記電子ビーム源の前記熱電界エミッタと前記抽出装置との間に抽出電圧を印加するステップと、
前記放出ファセットから電子を放出するステップと
を含
前記放出ファセット幅は、前記放出ファセットの境界まで広がる平面内で前記放出ファセットの最小の寸法であり、
前記エッジファセット幅は、前記エッジファセットに隣接した前記側部ファセットの側部ファセット境界まで広がる平面内で前記エッジファセットの最小の伸長部である、電子ビーム装置を動作させる方法。
【請求項14】
前記エミッタチップによって放出された前記電子を電子ビーム光学系によってサンプルへ誘導するステップをさらに含む、請求項13に記載の電子ビーム装置を動作させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の実施形態は、電子ビーム装置用の電子エミッタ源、電子ビーム装置、電子ビーム装置用の電子エミッタを作製する方法、および電子ビーム装置用の電子エミッタを動作させる方法に関する。本開示の実施形態は、具体的には、たとえば検査システムの適用例、試験システムの適用例、リソグラフィシステムの適用例、欠陥レビューまたは限界寸法の適用例などのための熱電界電子エミッタおよび電子ビーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子ビーム装置は、たとえば、電子ビーム検査(EBI)、欠陥レビュー、および限界寸法測定で使用することができる。1次荷電粒子ビームを試験片またはサンプルに照射すると、2次電子(SE)または後方散乱荷電粒子などの信号荷電粒子が生じる。これらの信号荷電粒子は、サンプルのトポグラフィ、サンプルの化学成分、サンプルの静電位に関する情報、およびサンプルに関する他の情報を担持していることがある。信号荷電粒子は、センサ、たとえばシンチレータ、ピンダイオードなどへ収集および案内される。
荷電粒子ビーム装置内で1次荷電粒子ビームを提供する電子エミッタなどの荷電粒子源の性能は、特に重要である。一例として、高い放出安定性を有する高輝度の荷電粒子源および/または高放出の電流源が有益である。荷電粒子源は、真空状態で動作し、荷電粒子源の性能は、真空の品質に関係する可能性がある。
電子顕微鏡のための電子源として、熱電界エミッタ(TFE)が、特に輝度が比較的高く、エネルギー幅が比較的小さく、真空標準が適度であり、短期間の放出安定性が良好であり、ビーム電流ノイズが低いために確立されている。しかし、市販のTFEは、チップの全体的な成長のせいで角度強度が長期間にわたって連続して減少し、それによりチップ先端で電界強度の低減を招き、したがって放出電流の低減および角度強度(輝度)の自然発生的な変化が生じるなど、望ましくない安定性の問題を呈することが多い。チップの全体的な成長、電界強度の低減、および放出電流の低減は、いわゆるリング崩壊として知られており、これは通常、エミッタのチップで原子層内の原子が転移し、電子が解放されるせいで生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記に鑑みて、目的は、当技術分野の問題の少なくともいくつかを克服する荷電粒子ビームに対するエミッタ、荷電粒子ビーム装置、および荷電粒子ビーム装置に対するエミッタを作製して動作させる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記に照らして、独立請求項による電子ビーム装置、熱電界エミッタ、電子ビーム装置を動作させる方法、および熱電界エミッタを作製する方法が提供される。さらなる態様、利点、および特徴は、従属請求項、説明、および添付の図面から明らかになる。
一実施形態によれば、電子ビームでサンプルを検査する電子ビーム装置が提供される。電子ビーム装置は、電子ビームを放出する熱電界エミッタを含む電子ビーム源を含む。熱電界エミッタは、エミッタチップを含み、エミッタチップは、電子放出のために構成され、放出ファセット幅を有する放出ファセットと、第1の側部ファセットおよび第2の側部ファセットとを有し、第1の側部ファセットと第2の側部ファセットとの間にエッジファセットが形成され、エッジファセットは、エッジファセット幅を有する。エッジファセット幅は、放出ファセット幅の20%~40%である。電子ビーム源は、熱電界エミッタと抽出装置との間に抽出電圧を印加する抽出装置と、熱電界エミッタを加熱する加熱装置とをさらに含む。電子ビーム装置は、サンプル上へ電子ビームを誘導して集束させる電子ビーム光学系と、電子ビームがサンプルに衝突または到達する際に生成される2次荷電粒子を検出する検出装置とをさらに含む。
【0005】
別の実施形態によれば、電子ビーム装置内で電子ビームを放出する熱電界エミッタが提供される。熱電界エミッタは、エミッタチップを含み、エミッタチップは、電子放出のために構成され、放出ファセット幅を有する放出ファセットと、第1の側部ファセットおよび第2の側部ファセットとを有し、第1の側部ファセットと第2の側部ファセットとの間にエッジファセットが形成され、エッジファセットは、エッジファセット幅を有する。エッジファセット幅は、放出ファセット幅の20%~40%である。
さらなる実施形態によれば、電子ビーム源のための熱電界エミッタ用のエミッタチップを作製する方法が提供される。この方法は、エミッタチップ表面を有するエミッタチップを提供するステップと、エミッタチップを加熱することおよびエミッタチップに電界を印加することによってエミッタチップを処理するステップとを含み、電子放出のために構成され、放出ファセット幅を有する放出ファセット、第1の側部ファセット、第2の側部ファセット、およびエッジファセット幅を有する第1の側部ファセットと第2の側部ファセットとの間のエッジファセットが、特にこの処理するステップによって形成される。エッジファセット幅は、放出ファセット幅の20%~40%になるように形成される。
【0006】
さらなる実施形態によれば、電子ビーム装置を動作させる方法が提供される。この方法は、熱電界エミッタおよび抽出装置を含む電子ビーム源を提供するステップを含み、熱電界エミッタは、エミッタチップを含む。エミッタチップは、電子放出のために構成され、放出ファセット幅を有する放出ファセットと、第1の側部ファセットおよび第2の側部ファセットとを有し、第1の側部ファセットと第2の側部ファセットとの間にエッジファセットが形成され、エッジファセットは、エッジファセット幅を有する。エッジファセット幅は、放出ファセット幅の20%~40%である。この方法は、熱電界エミッタを加熱装置で加熱するステップと、電子ビーム源の熱電界エミッタと抽出装置との間に抽出電圧を印加するステップと、放出ファセットから電子を放出するステップとをさらに含む。
【0007】
実施形態はまた、開示する方法を実施する装置を対象とし、それぞれの記載する方法特徴を実行する装置部品を含む。方法特徴は、ハードウェア部品、適当なソフトウェアによってプログラムされたコンピュータ、これら2つの任意の組合せ、または任意の他の方法によって実行することができる。さらに、実施形態はまた、記載する装置が動作する方法を対象とする。実施形態は、装置のすべての機能を実施する方法特徴を含む。
上記の特徴を詳細に理解することができるように、実施形態を参照することによって、上記で簡単に要約した説明のより具体的な説明を得ることができる。添付の図面は、実施形態に関し、以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本明細書に記載する実施形態による熱電界エミッタチップの概略斜視図である。
図2】本明細書に記載する実施形態による熱電界エミッタチップの概略底面図である。
図3】本明細書に記載する実施形態による熱電界エミッタチップの概略斜視図である。
図4】本明細書に記載する実施形態による電子ビーム装置の概略図である。
図5】本明細書に記載する実施形態による電子ビーム装置を動作させる方法の流れ図である。
図6】本明細書に記載する実施形態による熱電界エミッタ用のエミッタチップを作製する方法の流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
様々な実施形態を次に詳細に参照する。様々な実施形態の1つまたは複数の例を図に示す。以下の図面の説明では、同じ参照番号は同じ構成要素を指す。個々の実施形態に関する違いを説明する。各例は、説明のために提供するものであり、限定を意味するものではない。さらに、一実施形態の一部として図示または記載する特徴を他の実施形態で使用し、または他の実施形態と組み合わせて使用して、さらなる実施形態を得ることができる。本説明は、そのような修正形態および変形形態を含むことが意図される。
【0010】
図1は、本明細書に記載する実施形態による熱電界エミッタ用のエミッタチップ100を示す。エミッタチップ100は、第1の部分101および第2の部分102を有する。いくつかの実施形態によれば、第1の部分101は、実質上立方体状の形状、実質上6角形の横断面を有する多面体状の形状、実質上8角形の横断面を有する多面体状の形状、角を丸めた立方体の形状、球などの多面体状の形状を有し、放出ファセット110~114などによって遮断されている。第2の部分102は、エミッタ軸とすることができ、かつ/またはたとえば、図1に示す多角形の円筒、角筒、角錐、棒、円筒の形状、もしくは本明細書の実施形態に記載する電子ビーム装置用のエミッタチップの軸を形成する任意の適した形状など、長尺状の形状を提供することができる。
本明細書に記載するいくつかの実施形態によれば、第1の部分101および第2の部分102は、同じ1つまたは複数の材料から形成され、以下で詳細に説明するように、1つの結晶性材料、特にモノクリスタルの材料の部分を含むことができる。
【0011】
図1に示す実施形態に見ることができるように、エミッタチップ100、特にエミッタチップ100の第1の部分101は、1つの放出ファセット110と、第1の側部ファセット111、第2の側部ファセット112、第3の側部ファセット113、および第4の側部ファセット114とを含む。いくつかの実施形態では、エミッタチップ100の側部ファセット111~114は、放出ファセット110に隣接して配置される。いくつかの実施形態によれば、側部ファセットは、放出ファセットの周りに配置され、特に放出ファセット110を取り囲む。
【0012】
本明細書に記載する実施形態によれば、本明細書では、「ファセット」という用語は、エミッタチップ内の凹部として説明することができる。いくつかの実施形態では、ファセットは、エミッタチップ内へ延びる特定の厚さを有することができる。ファセットの厚さは、特にエミッタチップの第1の部分の完全に丸いまたは球状の形状と比較した、凹部の深さとして画定することができる。いくつかの実施形態では、ファセットの厚さは、ファセットの面積またはサイズに対して変動することができる。いくつかの実施形態によれば、本明細書で参照するファセット(放出ファセットまたは側部ファセットなど)は、実質上丸い形状、実質上方形の形状、実質上4角形の形状、実質上8角形の形状、実質上多角形の形状、丸めた角を有する方形または多角形の形状、細長い形状などを有することができる。
放出ファセットは、放出ファセット幅を有する。側部ファセットはそれぞれ、側部ファセット幅を有する。
図2に示す実施形態では、放出ファセット幅を放出ファセット幅140として例示的に示す。側部ファセットはそれぞれ、側部ファセット幅115を有する。図2では、概要をより分かりやすくするために、1つの側部ファセットに対する側部ファセット幅を描く。いくつかの実施形態によれば、放出ファセット幅および/または側部ファセット幅は、1つの方向における放出ファセットまたは側部ファセットの1つの寸法(1つの直径など)、特に放出ファセットまたは側部ファセットの最小の寸法(最小の直径など)として理解することができる。いくつかの実施形態によれば、放出ファセット幅または側部ファセット幅は、それぞれのファセットの平面内またはそれぞれのファセットの境界が縛る平面内で測定することができる。
本明細書に記載する実施形態によるファセットはそれぞれ、ファセットサイズを区切るファセット境界を有することができる。ファセット境界は、1つのファセットが終わる線として説明することができる。図1および図2に例示的に見ることができるように、側部ファセットは、エッジファセット120によって互いから分離され、特に側部ファセットは、エッジファセットが始まるところで終わる。
【0013】
図1および図2は、エッジファセット120が、側部ファセット間、特に第1の側部ファセット111と第2の側部ファセット112との間、第2の側部ファセット112と第3の側部ファセット113との間、第3の側部ファセット113と第4の側部ファセット114との間、第4の側部ファセット114と第1の側部ファセット111との間に形成されることを示す。本明細書に記載する実施形態によれば、2つの側部ファセット間のエッジファセットは、図2に例示的に見ることができるように、エッジファセット幅141を有する。
本明細書では、エッジファセットは、側部ファセット間のストリップまたは帯として理解することができる。いくつかの実施形態では、エッジファセットは、2つの側部ファセット間の実質上まっすぐなストリップまたは帯である。特に、2つの側部ファセット間のエッジファセットは、これらの側部ファセットの境界によって制限される。いくつかの実施形態によれば、エッジファセットは、エッジファセットの2つの側部で2つの側部ファセットによって制限され、1つの側部で放出ファセットによって制限される。
【0014】
いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載するエッジファセット幅は、特にエッジファセットに隣接する側部ファセットの側部ファセット境界が縛る平面内で、エッジファセットの最小の長さの方向におけるエッジファセットの長さなど、1つの方向におけるエッジファセットの長さとすることができる。いくつかの実施形態では、エッジファセット幅は、2つの隣接する側部ファセット間の最短距離として測定することができる。たとえば、エッジファセットは、長方形、細長い多面体、細長い丸い形状、楕円形の形状など、実質上細長い形状を提供することができる。細長い形状を有するエッジファセットの場合、エッジファセット幅は、エッジファセットの長手方向に実質上直交するエッジファセットの寸法とすることができる。図1および図2に見ることができるように、エッジファセット120は、エッジファセットがエッジファセットの長手方向に実質上直交する方向で、放出ファセット110に面する。いくつかの実施形態によれば、側部ファセットおよびエッジファセットはともに、放出ファセットを取り囲む。
【0015】
本明細書では、「実質上」という用語は、「実質上」とともに示す特徴から特定のずれが存在してよいことを意味することができる。たとえば、「実質上4角形」という用語は、正確に4角形の形状から、1つの方向における全体的な長さの約1%~10%のずれなど、特定のずれを有してよい形状を指す。一例では、「実質上直交する」という用語は、厳密に「直交する」角度から約1°~約15°ずれてよい配置として理解することができる。
【0016】
いくつかの実施形態では、放出ファセットは、エミッタチップのうち、動作中に電子の最大放出を有するファセットとすることができる。たとえば、放出ファセットは、エミッタチップのファセットの中でも、低い仕事関数、またはさらには最低の仕事関数を有するファセットとすることができる。いくつかの実施形態によれば、放出ファセットは、エミッタチップのうち、動作中に最大の電子放出を有する領域とすることができる。放出ファセットは、エミッタチップのうち、エミッタチップの主電子ビームを提供するファセットおよび領域として説明することができる。いくつかの実施形態によれば、主電子ビームは、エミッタチップが使用される電子ビーム装置の光軸に沿って進むビームとすることができる。
本明細書に記載するいくつかの実施形態では、エッジファセット幅は、放出ファセット幅または側部ファセット幅より小さくすることができる。本明細書に記載する実施形態によれば、エッジファセット幅は、放出ファセット幅の15%~45%、特に20%~40%、さらにより典型的には25%~35%とすることができる。いくつかの実施形態では、エッジファセット幅は、放出ファセット幅の約30%とすることができる。
いくつかの実施形態によれば、放出ファセット幅は、典型的には約100nm~約1000nm、より典型的には約200nm~約500nm、さらにより典型的には約250nm~350nmとすることができる。
【0017】
図3は、本明細書に記載する実施形態による熱電界エミッタ用のエミッタチップ100を示す。図3は、側部ファセット111~114が放出ファセット110に対して傾斜しているエミッタチップ100の一実施形態を示す。たとえば、側部ファセットは、放出ファセットの平面とは異なる平面内に配置される。いくつかの実施形態によれば、ファセットの平面は、それぞれのファセットの境界を含む平面である。いくつかの実施形態では、側部ファセットは、放出ファセットに対して角度をなすことができ、この角度は、典型的には約25°~約50°、より典型的には約30°~約45°、さらにより典型的には約35°~約45°とすることができる。いくつかの実施形態では、エミッタチップは、タングステンを含み、側部ファセットは、特に放出ファセットに対して45°の角度に対応する110結晶面内に延びる。いくつかの実施形態では、エミッタチップは、タングステンを含み、エッジファセットは、特に放出ファセットに対して35°の角度に対応する211結晶面内に延びる。
【0018】
本明細書に記載する他の実施形態と組み合わせることができるいくつかの実施形態によれば、エミッタチップは、結晶性の放出チップ、特に単結晶のエミッタチップまたはモノクリスタルのエミッタチップとすることができる。いくつかの実施形態では、放出ファセットは、100結晶方位(ミラー指数によるエミッタチップの結晶面内の放出ファセットの配向に対応する)を有することができる。いくつかの実施形態によれば、放出ファセットは、エミッタチップが使用される電子ビーム装置の光軸に実質上直交して配向されるように形成することができる。いくつかの実施形態によれば、側部ファセットは、放出ファセットの結晶方位とは異なる結晶方位を有し、かつ/またはエッジファセットは、側部ファセットおよび放出ファセットの結晶方位とは異なる結晶方位を有する。本明細書に記載する他の実施形態と組み合わせることができるいくつかの実施形態では、少なくとも第1および第2の側部ファセットは、110結晶方位を有することができる。本明細書に記載する他の実施形態と組み合わせることができるいくつかの実施形態によれば、エッジファセットは、211結晶方位を有することができる。
【0019】
図3は、エミッタチップ100のさらなる側部ファセット130を示し、さらなる側部ファセット130は、たとえばエミッタチップのシャフトまたは第2の部分102の方向において、側部ファセット付近に配置される。さらなる側部ファセット130は、側部ファセットと実質上同じサイズおよび形状を有することができる。いくつかの実施形態では、さらなる側部ファセット130は、側部ファセット111~114より細長い形状を有する。いくつかの実施形態によれば、エミッタチップの側部ファセットは、放出ファセットに隣接して配置される。さらなる側部ファセット130は、側部ファセットに隣接して配置することができる。
【0020】
知られているエミッタシステムは、電子ビーム装置の高分解能の適用例に対して安定性を提供しないことが多い。たとえば、低放出電流でエミッタが動作するとき、リング崩壊が生じる。これは、低エネルギー幅ももたらす動作モードである。しかし、低放出電流は、高分解能の適用例にとって有用である。実験および長期間の経験により、知られているエミッタシステムは、設置後のエミッタチップの性能が不安定になる(安定した性能を得るために安定化期間が使用される)という挙動を示し、次の補正処置を使用し得ることが示されている。安定化期間とは、電子ビーム装置が使用されず、システムがダウンすることを意味し、これはコストを増大させ、顧客には許容されないことが多い。長期的には、知られているエミッタシステムは、放出電流の減少を示す。一定のビーム電流(ウエハのプローブ電流)が電子ビーム装置にとって有益であるため、抽出電圧を増大させることによって補償処置が使用される。抽出電圧の増大は、エミッタチップの総放出電流の増大を伴う(ただし、ビームを形成する実際のプローブの小さい立体角内へ放出される電流は一定に維持される)。抽出電圧の増大は、電子エミッタチャンバ内でアークが発生するリスクを高める。エミッタチップによって放出される電力の増大はまた、エミッタシステムの温度を高めることがあり、これは真空劣化をもたらし、最終的にはエミッタシステムの放出特性に悪影響を与える。放出の低下、抽出電圧の増大、および真空の劣化という周期が始まり、カソードから抜き出すことができるビーム電流を許容できないほど低いレベルに制限し、または電源がそれぞれの電圧もしくは電流を提供することができなくなる状況をもたらす。どちらの場合も、エミッタチップを交換することができるが、この器具は数日間使用できなくなり、それにより(この場合も)所有費が増大する。
【0021】
本明細書に記載する実施形態による熱電界エミッタおよび電子ビーム装置は、前述の問題の少なくともいくつかを解決する。特に、本明細書に記載する実施形態による熱電界エミッタおよび電子ビーム装置は、エミッタチップ(たとえば、結晶性のエミッタチップ)が任意の突起の成長を開始し、放出が不安定および予測不能になる前に、熱電界エミッタチップに印加することができる最大電界強度付近でも、高輝度で安定した動作を提供することを可能にする。本明細書に記載する実施形態による100方位(または電子ビーム装置の光軸に実質上直交する配向)を有する放出ファセットを有するエミッタチップは、高輝度で安定した動作の可能性を実現するのに役立つ。
【0022】
本明細書に記載する実施形態による熱電界エミッタは、ほぼ瞬時に開始および安定することを可能にする(電球と同様)。本明細書に記載する実施形態による熱電界エミッタは、抽出電圧および全体的な抽出電流の顕著な増大なく一定のビーム電流で、はるかに長い時間にわたって動作することができる。
【0023】
本明細書に記載する実施形態によるエミッタチップは、知られているエミッタチップと比較するといくつかの有益な効果を示す。たとえば、完全に丸いエミッタチップは、長期間にわたって安定した放出を提供しない。一方、鋭いエッジを有する多角形のエミッタチップもまた、鋭いエッジ(電界増強のため)が軸上ビーム電流に寄与しないたくさんの電流を放出するため、不安定性をもたらす。過剰な電流は、ガス放出および真空劣化ならびに電源限定という問題を引き起こす。前述の問題は、本明細書に記載する実施形態によるエミッタチップによって克服される。
【0024】
いくつかの実施形態では、エミッタチップは、第1の材料(たとえば、タングステン)を含むことができ、電子を放出するために第2の材料(ZrO、BaO、またはPrOなど)を含む被覆またはリザーバを有することができる。いくつかの実施形態によれば、第1の材料および/または第2の材料は、結晶性材料、特にモノクリスタルまたは単結晶の材料とすることができる。いくつかの実施形態によれば、熱電界エミッタにおいて特定の安定性で動作温度に耐えることが可能な任意の材料を、エミッタチップのための材料として使用することができる。たとえば、高融点金属を使用することができる。いくつかの例では、エミッタチップは、W、Cs/W、Ba/W、BaO/W、Th/W、Ce/W、La/W、Y/W、およびZr/Wからなる群の少なくとも1つの材料を含むことができる。
他の実施形態と組み合わせることができるいくつかの実施形態によれば、熱電界エミッタは、1300Kを超える動作温度範囲など、1000Kを超える動作温度範囲、さらにより典型的には1500Kを超える動作温度範囲を有することができる。いくつかの実施形態では、熱電界エミッタは、約1700K~約2100Kの動作温度を有することができる。
【0025】
図4は、本明細書に記載する実施形態による熱電界エミッタおよびエミッタチップ100を有する電子ビーム源300を有する電子ビーム装置1000の一例の概略図を示す。本明細書に記載する実施形態による電子ビーム装置1000は、たとえば、走査型電子顕微鏡(SEM)または走査型透過電子顕微鏡(STEM)などの電子顕微鏡とすることができる。特に、電子顕微鏡は、たとえば、限界寸法(CD)、欠陥レビュー(DR)、または検査(EBI、すなわち電子ビーム検査)のための電子顕微鏡とすることができる。
電子ビーム装置では、電子ビーム装置の総性能に対する電子ビーム源の性能(たとえば、ガン性能)を考慮することができる。たとえば、電子ビーム源に対して、電子ビーム源の周りで、たとえばハウジング1100内で、たとえば10-7~10-9Paの範囲内、またはさらには10-10Pa未満の高い真空(低圧)を提供することができる。また、電子エミッタにとって有害になり得る少なくともいくつかの残留ガスの分圧を低くすることも有益である。たとえば、酸素は、エミッタ材料の仕事関数および電子放出に対して悪影響を与える可能性がある。適した真空状態を実現するために、真空ポンピング装置を提供することができ、真空ポンピング装置は、ターボ分子ポンプ、非蒸発性ゲッタポンプなどのイオンゲッタポンプ、クライオポンプ、および前述の装置の任意の組合せからなる群から選択することができる。
【0026】
本明細書に記載するいくつかの実施形態によれば、電子ビーム装置1000は、ハウジング1100内に位置する電子ビーム源300と、ハウジング1100に接続されたサンプルチャンバ1110とを含むことができる。いくつかの実装形態では、サンプルチャンバ1110に別個のサンプルチャンバ真空生成装置を接続することができる。代替実施形態では、すべての要素を1つのハウジングまたはチャンバ内に配置することができる。
サンプルチャンバ1110内にサンプル10を提供することができる。サンプル10は、サンプル支持体(図示せず)上に提供することができる。サンプル支持体は、サンプル10を位置決めするための可動の台とすることができる。たとえば、可動の台は、サンプル10を1つの方向(たとえば、X方向)、2つの方向(たとえば、XおよびY方向)、または3つの方向に動かすように構成することができる。
【0027】
本明細書に参照するサンプルは、それだけに限定されるものではないが、半導体ウエハ、半導体加工物、リソグラフィマスクなどのマスク、多層マスク、およびメモリディスクなどの他の加工物などを含む。本開示の実施形態は、材料を堆積させる任意の加工物または構造化される任意の加工物に適用することができる。サンプルは、構造化される表面または層が堆積される表面、たとえばエッジ、斜面などを含むことができる。
【0028】
電子ビーム源300は、1次電子ビームとも呼ばれる電子ビームを生成する。本明細書に記載する他の実施形態と組み合わせることができるいくつかの実施形態によれば、電子ビーム源300は、たとえば図1~3に関して上述した実施形態によるエミッタチップ100を有する熱電界エミッタを含む。特に、電子ビーム源300は、100結晶面内に配置された放出ファセットを有するエミッタチップを有することができる。いくつかの実施形態では、エミッタチップの放出ファセットは、電子ビーム装置の光軸1に実質上直交することができる。本明細書に記載するいくつかの実施形態によれば、電子ビーム源300は、熱電界エミッタを加熱するための加熱装置301を含むことができる。加熱装置は、特に熱電界エミッタのエミッタチップを加熱するように構成することができる。いくつかの実施形態では、加熱装置301は、熱電界エミッタを最高2100Kの温度などの動作温度に加熱するように構成される。いくつかの実施形態では、加熱装置は、電流加熱装置、加熱フィラメントなどによって提供することができる。たとえば、加熱装置は、加熱フィラメントを流れる加熱電流を提供することができる。いくつかの実施形態では、加熱装置は、エミッタチップの温度を調整するように調整可能である。
【0029】
(1次)電子ビームは、電子ビーム装置1000内で光軸1に沿って案内され、対物レンズ1300によってサンプル10上で集束される。対物レンズ1300を、サンプルチャンバ1110内に例示的に示す。いくつかの実施形態によれば、対物レンズ1300は、たとえば、サンプル10上に電子ビーム源のエミッタチップ100の像を作る。いくつかの実装形態では、対物レンズ1300は、磁気レンズ部分および静電レンズ部分によって提供することができる。本明細書に記載する他の実施形態と組み合わせることができるいくつかの実施形態によれば、たとえば、サンプル10の近傍、対物レンズ1300内もしくはその後ろ、またはこれらの組合せで、1次電子ビームの減速を提供することができる。たとえば、いくつかの実施形態によれば、減速バイアス電圧をサンプル10に印加することができる。対物レンズ1300は、たとえば軸方向の間隙もしくは半径方向の間隙を有する静電-磁気複合対物レンズとすることができ、または対物レンズ1300は、静電減速電界型レンズとすることができる。
【0030】
本明細書に記載する実施形態によれば、集光レンズ180を提供することができる。集光レンズ180は、磁気レンズとすることができ、磁極片および1つまたは複数のコイルを有することができる。別法として、集光レンズ180は、静電レンズまたは磁気-静電複合レンズとすることができる。いくつかの実施形態によれば、集光レンズは、液浸集光レンズとすることができる。
【0031】
いくつかの実施形態では、電子ビーム源300は、抽出装置170およびアノード175の少なくとも1つを含むことができる。抽出装置170は、電子放出を引き起こすためにエミッタチップ100に対する電圧差を提供するように構成することができる。アノード175は、1次電子ビームを加速させるように構成することができる。一例として、アノード175は、1次荷電粒子ビームが電子ビーム装置の光軸1に沿って進むときに1次荷電粒子ビームが所定のエネルギーを有するように1次荷電粒子ビームを加速させるように構成することができる。いくつかの実装形態では、抽出装置170および/またはアノード175を離れる1次電子ビームのエネルギーは、5keVまたはそれ以上の範囲内、具体的には10keV~50keVの範囲内、より具体的には約15または40keVとすることができる。いくつかの実施形態によれば、透過型電子顕微鏡(TEM)および走査型透過顕微鏡(STEM)では、ビームエネルギーは、100keVをさらに超過することができる。
【0032】
いくつかの実施形態では、電子ビームを偏向させて案内するためのビーム偏向装置190が提供される。いくつかの実施形態によれば、1次ビームがサンプル10に到達または衝突するとき、サンプルから信号荷電粒子ビームが解放または後方散乱される。信号(または2次)荷電粒子ビームは、本明細書に記載するいくつかの実施形態によるビーム偏向装置190によって1次荷電粒子ビームから分離することができる。ビーム偏向装置190は、ビームスプリッタおよびビームベンダ、スプレー開孔もしくはナイフエッジ開孔195などの1つもしくは複数の開孔、またはこれらの任意の組合せの少なくとも1つを含むことができる。信号荷電粒子ビームは、シンチレータ、ピンダイオードなどのセンサを含むことができる検出アセンブリまたは検出装置200の方へ案内することができる。
電子ビーム装置の実施形態では、これらの図には図示されていないアライメントシステム、補正システム、さらなる検出システムなどのような1つまたは複数の他の光学部品を提供することもできる。
集光レンズ、開孔、偏向器、および他の光学部品のような電子ビーム装置に関して説明する素子は、電子ビーム装置をサンプルへ誘導して集束させる荷電粒子ビーム光学系または電子ビーム光学系と呼ぶことができる。
【0033】
図5は、本明細書に記載する実施形態による電子ビーム装置を動作させる方法の流れ図700を示す。ブロック710で、この方法は、電子ビーム源および抽出装置を提供するステップを含むことができる。たとえば、抽出装置は、電源に接続された電極とすることができる。いくつかの実施形態によれば、電子ビーム源は、たとえば図4に関して上述した電子ビーム源とすることができ、抽出器、加熱装置、および熱電界エミッタを有する。電子ビーム源は、エミッタチップを有する熱電界エミッタを含む。エミッタチップは、電子放出のために構成された放出ファセットを提供し、放出ファセットは、放出ファセット幅を有する。提供されるエミッタチップは、第1の側部ファセットおよび第2の側部ファセットをさらに含む。第1の側部ファセットと第2の側部ファセットとの間にエッジファセットが形成され、エッジファセットは、エッジファセット幅を有する。本明細書に記載する実施形態によれば、エッジファセット幅は、放出ファセット幅の20%~40%であり、特に放出ファセット幅の25%~35%である。いくつかの実施形態によれば、ブロック710で電子ビーム装置を動作させるために使用されるエミッタチップは、図1~3に図示および記載するエミッタチップとすることができる。
【0034】
電子ビーム装置を動作させる方法は、ブロック720で、熱電界エミッタを加熱装置で加熱するステップをさらに含む。いくつかの実施形態によれば、加熱するステップは、熱電界エミッタの動作温度まで、たとえば1000Kを超える温度まで、典型的には約1500K~2100Kの温度、より典型的には約1600K~約2000K、さらにより典型的には約1700K~約1900K温度まで実行することができる。
いくつかの実施形態によれば、加熱するステップは、電流加熱装置、加熱フィラメントなどの調整可能な加熱装置によって実行することができる。たとえば、エミッタチップの温度は、加熱装置を流れる電流を調整することによって調整することができる。エミッタチップの温度はまた、支持構造に対する熱電界エミッタの熱的結合、供給ケーブル、および周囲との放射熱交換のようなさらなるパラメータの影響を受けることがある。
【0035】
ブロック730で、電子ビーム源の熱電界エミッタと抽出装置との間に抽出電圧が印加される。たとえば、抽出装置の電極(図4に示す抽出装置170の電極など)に、数kVの電圧を印加することができる。たとえば、抽出装置の電極に印加される電圧は、典型的には約2kV~約30kV、より典型的には約5kV~20kV、約10kVなどとすることができる。いくつかの実施形態では、光軸に沿って抽出装置の後に、図4にアノード175によって提供される加速電極などの加速電極を提供することができる。加速電極は、電源に接続することができ、抽出装置に第2の電位へのバイアスをかけるように構成することができる。アノード175によって提供される加速電極と抽出装置170との間の電圧差は、100kVより大きくすることができる。一例として、電圧差は、0~40kVの範囲内、具体的には0~10kVの範囲内、より具体的には5~30kVの範囲内とすることができる。いくつかのSEMの適用例では、電圧差は、5~30kVの範囲内とすることができる。TEMでは、電圧は、100kVより大きくすることができる。
【0036】
いくつかの実施形態によれば、印加された抽出電圧から生じる抽出電界は、チップ形状、特にチップの半径およびファセットの形状、チップ、特に抽出開孔で抽出電界を提供する電極の形状寸法(エミッタチップからの距離、開孔径)、抑制電極、ならびに抽出電極に印加される電圧などのいくつかのパラメータによる影響を受ける。
ブロック740で、エミッタチップの放出ファセットから電子が放出される。いくつかの実施形態によれば、電子は、100結晶方位を有する放出ファセットおよび/またはエミッタチップが使用される電子ビーム装置の光軸に実質上直交して配置された放出ファセットから放出される。いくつかの実施形態では、放出ファセットは、エミッタのうち、エミッタチップの残り部分より多量の電子を放出するファセットおよび領域とすることができる。
本明細書に記載する他の実施形態と組み合わせることができるいくつかの実施形態では、電子ビーム装置を動作させる方法は、検査すべきサンプルへ(1次)電子ビームを偏向させ、集束させ、案内するステップをさらに含むことができる。たとえば、図4は、集光レンズ、対物レンズ、偏向装置、開孔など、サンプル位置上に電子ビームを誘導して集束させるために使用することができる素子および装置の一例を示す。また、電子ビーム装置を動作させる方法は、1次電子ビームが衝突する際にサンプルから解放または後方散乱される2次荷電粒子を検出するステップを含むことができる。この方法では、検出の目的で、検出装置を提供することができる。
【0037】
図6は、電子ビーム源のための熱電界エミッタ用のエミッタチップを作製する方法の流れ図800を示す。ブロック810で、この方法は、エミッタチップ表面を有するエミッタチップを提供するステップを含む。特に、エミッタチップは、モノクリスタルの材料を含むことができる。一例では、提供されるエミッタチップは、特に実質上丸い第1の部分(たとえば、実質上球の形状、楕円形の形状、細長い球の形状などを有することによる)と、第2の部分(たとえば、図1に関して説明したように、エミッタチップの軸)とを有することができる。
【0038】
いくつかの実施形態によれば、ブロック820で、エミッタチップは、エミッタチップを加熱することおよびエミッタチップに電界を印加することの少なくとも1つによって処理される。たとえば、エミッタチップは、典型的には約1500K~約2100K、より典型的には約1600K~約2000K、さらにより典型的には約1700K~約1900Kの温度など、約2000Kの範囲内の高い温度まで加熱することができる。いくつかの実施形態では、電界の印加は、数MV/mmの範囲内の電界で実行することができる。たとえば、電界は、典型的には約0.1MV/mm~約3MV/mm、より典型的には約0.5MV/mm~約2MV/mm、さらにより典型的には約1MV/mm~約1.5MV/mmとすることができる。いくつかの実施形態によれば、電界に対して選択される値と温度に対して選択される値との関係を考慮することができる。いくつかの実施形態によれば、典型的には約200V~約500V、より典型的には約250V~約400V、さらにより典型的には250V~約350Vの抑制電圧を印加することができる。一例では、抑制電圧は、約300Vとすることができる。
【0039】
エミッタチップは、本明細書に記載する実施形態によるエミッタチップの特有の形状、特に電子放出のために構成され、放出ファセット幅を有する放出ファセットと、第1の側部ファセットおよび第2の側部ファセットとを含むエミッタチップの形状を与えるように処理され、第1の側部ファセットと第2の側部ファセットとの間にエッジファセットが形成され、エッジファセットは、エッジファセット幅を有する。特に、エッジファセット幅は、放出ファセット幅の20%~40%、特に25%~35%である。特に、本明細書に記載する実施形態による流れ図800の方法によって得られるエミッタチップの形状は、図1~3に関して詳細に説明した形状とすることができる。
【0040】
本明細書に記載する他の実施形態と組み合わせることができるいくつかの実施形態によれば、熱電界エミッタは、エミッタチップに印加される電界とエミッタチップに加えられる温度との間の平衡状態を考慮することによって提供することができる。たとえば、温度が比較的高く、電界が比較的低い場合、エミッタチップは、球面の形状に向かう傾向があり、丸いファセットが小さくなり、またはさらには消滅する。別の例では、温度が比較的低く、電界強度が比較的高い場合、エミッタチップは、大きい正方形のファセットと、結晶面間の鋭いエッジとを有する角錐台に近くなる傾向がある。
いくつかの実施形態によれば、温度と電界の均衡は、結果として得られるエミッタチップの形状が、実質上、上記の実施形態に記載したエミッタチップの形状になり、特に長期間の放出が安定するように選択される。たとえば、本明細書に記載する実施形態によるエミッタチップを形成するために、温度の低下(特に、1850Kから約1750Kなど、約50K~約150Kの温度の低下)またはビーム電流設定の増大(たとえば、1.0~1.5倍などの倍数による抽出電圧の増大)を使用することができる。
【0041】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載する実施形態によるエミッタチップを作製する方法は、エミッタチップをゆっくりと勾配加熱すること、たとえばエミッタチップを約1700K~約2000Kの温度まで3~10分で加熱することを含むことができる。いくつかの実施形態によれば、電界の印加はまた、勾配関数によって、すなわち動作電界強度の80%の電界強度などまで電界をゆっくりと増大させることによって実行することができる。エミッタチップの安定化は、数日間観察することができ、抽出電圧は、閾値ビーム電流を得るように適合することができる(たとえば、毎日)。この方法はまた、観察、エミッタチップ温度の適合、および抽出電圧の適合の何らかの反復を含むことができる。
【0042】
本明細書に記載する実施形態によれば、エミッタチップおよび電子ビーム装置は、高い安定性、たとえば放出電流が典型的には1日当たり0.5μA未満、より典型的には1日当たり0.2μA未満しか変化しない安定性で動作することを可能にする。本明細書に記載する実施形態による熱電界エミッタおよび電子ビーム装置は、知られているシステムより安定した放出特性をもたらし、抽出電圧、抽出電流、およびビーム電流の顕著な変化なく何か月も動作することができる。
【0043】
上記は、いくつかの実施形態を対象とするが、基本的な範囲から逸脱することなく、他のさらなる実施形態を考案することもでき、その範囲は、次の特許請求の範囲によって決定される。
【符号の説明】
【0044】
1 光軸
10 サンプル
100 エミッタチップ
101 第1の部分
102 第2の部分
110 放出ファセット
111 第1の側部ファセット
112 第2の側部ファセット
113 第3の側部ファセット
114 第4の側部ファセット
115 側部ファセット幅
120 エッジファセット
130 さらなる側部ファセット
140 放出ファセット幅
141 エッジファセット幅
170 抽出装置
175 アノード
180 集光レンズ
190 ビーム偏向装置
195 開孔
200 検出装置
300 電子ビーム源
301 加熱装置
1000 電子ビーム装置
1100 ハウジング
1110 サンプルチャンバ
1300 対物レンズ
図1
図2
図3
図4
図5
図6