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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-24
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】ベアリング洗浄装置
(51)【国際特許分類】
   B08B 7/00 20060101AFI20220111BHJP
   F16N 33/00 20060101ALI20220111BHJP
   F16C 35/077 20060101ALI20220111BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20220111BHJP
   F16C 35/07 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
B08B7/00
F16N33/00
F16C35/077
F16C33/58
F16C35/07
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017042303
(22)【出願日】2017-03-07
(65)【公開番号】P2018143968
(43)【公開日】2018-09-20
【審査請求日】2020-01-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142837
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 則彰
(74)【代理人】
【識別番号】100166305
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 徹
(72)【発明者】
【氏名】小坂 貴之
【審査官】新井 浩士
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-128866(JP,A)
【文献】特開平10-305262(JP,A)
【文献】特開平07-042747(JP,A)
【文献】特開平08-165588(JP,A)
【文献】特開2001-129497(JP,A)
【文献】特開2008-240883(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B08B 7/00
F16N 33/00
F16C 35/077
F16C 33/58
F16C 35/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマを発生するプラズマ発生部と、
ベアリングの内輪の内周面または外輪の外周面に沿って、前記プラズマ発生部から発せられる前記プラズマを流通させるプラズマ流路を形成するとともに、該プラズマ流路に対して前記内輪と前記外輪との間の円環状空間を密封するベアリング支持治具とを備え、
前記ベアリング支持治具が、前記ベアリングの前記外輪を嵌合状態に収容する略筒形状のガイド部と、該ガイド部により収容された前記ベアリングの前記内輪と前記ガイド部との間で前記円環状空間を閉塞するシール部とを備え、
前記プラズマ流路が、前記内輪の前記内周面により形成される軸方向に延びる円柱状空間であり、
前記ガイド部が、複数個の前記ベアリングを前記軸方向に配列させた状態で各前記外輪を嵌合状態に収容し、
前記シール部が、前記ガイド部により複数個の前記ベアリングが前記軸方向に配列されてなるベアリング配列体の前記軸方向の両端の各前記内輪と前記ガイド部の前記軸方向の各端部との間をそれぞれ閉塞し、
前記プラズマ流路が、複数の前記内輪の前記内周面により形成され、
前記内輪が、前記外輪よりも前記軸方向の長さが短く、
前記ベアリング支持治具が、前記軸方向に隣り合う内輪間に配されてこれら内輪の前記内周面とともに前記プラズマ流路を形成するスペーサ部を備えるベアリング洗浄装置。
【請求項2】
プラズマを発生するプラズマ発生部と、
ベアリングの内輪の内周面または外輪の外周面に沿って、前記プラズマ発生部から発せられる前記プラズマを流通させるプラズマ流路を形成するとともに、該プラズマ流路に対して前記内輪と前記外輪との間の円環状空間を密封するベアリング支持治具と、
前記ベアリング支持治具が、前記ベアリングの前記内輪に嵌合状態に挿入される略軸形状のガイド部と、該ガイド部が前記内輪に挿入された前記ベアリングの前記外輪と前記ガイド部との間で前記円環状空間を閉塞するシール部と、前記ベアリングの外周面を覆う略筒形状のカバー部とを備え、
前記プラズマ流路が、前記カバー部の内周面と前記外輪の前記外周面との間に形成される軸方向に延びる筒状空間であり、
前記ガイド部が、複数個の前記ベアリングを前記軸方向に配列させた状態で各前記内輪に嵌合状態に挿入され、
前記シール部が、前記ガイド部により複数個の前記ベアリングが前記軸方向に配列されてなるベアリング配列体の前記軸方向の両端の各前記外輪と前記ガイド部の前記軸方向の各端部との間をそれぞれ閉塞し、
前記カバー部が、前記ベアリング配列体の外周面を覆い、
前記プラズマ流路が、前記カバー部の内周面と複数の前記外輪の前記外周面との間に形成され、
前記外輪が、前記内輪よりも前記軸方向の長さが短く、
前記ベアリング支持治具が、前記軸方向に隣り合う外輪間に配されてこれら外輪の前記外周面とともに前記プラズマ流路を形成するスペーサ部を備えるベアリング洗浄装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベアリング洗浄装置およびベアリング洗浄方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、HDD(Hard Disk Drive)等に用いられ、ベアリングの内輪および外輪がシャフトおよびハウジングとそれぞれ接着剤により接合されて組み立てられたピボットが知られている(例えば、特許文献1参照。)。このようなピボットの組み立ては、ベアリングに予圧をかけた状態で接着固定するのが主流であるが、ベアリングの洗浄が元々不十分であったり、ベアリングが長時間保存されることによりベアリング内に封入されているグリスの油分が流出して内輪および外輪の洗浄度が悪化したりするなど、ベアリングの内輪および外輪に油分が付着していると、正常な接着力を得ることができない。
【0003】
このようなベアリングの接着不良を防ぐため、ピボットを組み立てる前にベアリングの内輪および外輪を洗浄するのが一般的である。ベアリングの洗浄方法としては、例えば、布やブラシに溶剤を付けて行う洗浄がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-220427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、布やブラシに溶剤を付けてベアリングを洗浄する方法では、ベアリングの油分を十分に除去し切れなかったり、布やブラシに付けた溶剤がベアリングの内部に流入してベアリング内部の油分が内輪および外輪に流出してしまったりすることがある。また、布やブラシを用いることで、埃やブラシのカス等のコンタミがベアリングの内部に流入し、トルク不良を引き起こすこともある。
【0006】
また、一般的に、溶剤やブラシなどを使わない、金属部品の油分除去に効果的な方法として、UV(Ultraviolet)洗浄やプラズマ洗浄などの乾式洗浄がある。ベアリングに乾式洗浄を適用した場合、オゾンやプラズマ等の洗浄雰囲気がベアリングの内部にまで流入し、ベアリング内部のグリスを変質させて、トルク不良の原因になることがある。
【0007】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、トルク不良の原因を生じさせることなく内輪および外輪の油分を除去し、ベアリングの接着不良を防ぐことができるベアリングの洗浄装置およびベアリングの洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明の第1態様は、プラズマを発生するプラズマ発生部と、ベアリングの内輪の内周面または外輪の外周面に沿って、前記プラズマ発生部から発せられる前記プラズマを流通させるプラズマ流路を形成するとともに、該プラズマ流路に対して前記内輪と前記外輪との間の円環状空間を密封するベアリング支持治具とを備えるベアリング洗浄装置である。
【0009】
本態様によれば、ベアリング支持治具により、内輪の内周面または外輪の外周面に沿って軸方向に延びるプラズマ流路が形成される。したがって、プラズマ発生部から発せられるプラズマをこのプラズマ流路に沿って流通させることにより、プラズマ流路を形成するベアリングの内輪の内周面または外輪の外周面をプラズマ洗浄することができる。
【0010】
この場合において、ベアリング支持治具により、プラズマ流路に対してベアリングの内外輪間に形成される円環状空間が密封されることで、プラズマがベアリングの内外輪間に流入してベアリング内のグリスが変質するのを防ぐことができる。また、布やブラシを用いないので、埃やブラシのカス等のコンタミがベアリングの内部に入ることがない。また、溶剤を用いないので、ベアリング内部の油分が内輪や外輪に流出することもない。したがって、トルク不良の原因を生じさせることなく内輪および外輪の油分を除去し、ベアリングの接着不良を防ぐことができる。
【0011】
上記態様においては、前記ベアリング支持治具が、前記ベアリングの前記外輪を嵌合状態に収容する略筒形状のガイド部と、該ガイド部により収容された前記ベアリングの前記内輪と前記ガイド部との間で前記円環状空間を閉塞するシール部とを備え、前記プラズマ流路が、前記内輪の前記内周面により形成される軸方向に延びる円柱状空間であってもよい。
【0012】
このように構成することで、ベアリングの内輪の内周面に沿って形成されるプラズマ流路に対して、シール部により、外輪を嵌合状態に収容するガイド部と内輪との間でベアリングの内外輪間の円環状空間が密封される。したがって、ベアリングの内外輪間へのプラズマの流入を防ぎつつ、内輪の内周面をプラズマ洗浄することができる。
【0013】
上記態様においては、前記ガイド部が、複数個の前記ベアリングを前記軸方向に配列させた状態で各前記外輪を嵌合状態に収容し、前記シール部が、前記ガイド部により複数個の前記ベアリングが前記軸方向に配列されてなるベアリング配列体の前記軸方向の両端の各前記内輪と前記ガイド部の前記軸方向の各端部との間をそれぞれ閉塞し、前記プラズマ流路が、複数の前記内輪の前記内周面により形成されることとしてもよい。
【0014】
このように構成することで、ガイド部により、複数の外輪を嵌合状態に収容するだけで、ベアリング配列体を形成することができる。また、シール部により、このベアリング配列体の軸方向の両端の各内輪とガイド部の軸方向の各端部との間をそれぞれ閉塞するだけで、複数個のベアリングの内外輪間に形成される軸方向に連続する円環状空間を密封することができる。したがって、各ベアリングの内外輪間へのプラズマの流入を防ぎつつ、各内輪の内周面を1度に容易にプラズマ洗浄することができる。
【0015】
上記態様においては、前記内輪が、前記外輪よりも前記軸方向の長さが短く、前記ベアリング支持治具が、前記軸方向に隣り合う内輪間に配されてこれら内輪の前記内周面とともに前記プラズマ流路を形成するスペーサ部を備えることとしてもよい。
【0016】
このように構成することで、ベアリングの内輪が外輪よりも軸方向の長さが短い場合であっても、軸方向の内輪間に隙間を生じさせることなく、スペーサ部により各内輪の内周面に沿って軸方向に延びるプラズマ流路を形成することができる。したがって、このようなベアリングも、内外輪間にプラズマを流入させることなく、内輪の内周面を効率よくプラズマ洗浄することができる。
【0017】
上記態様においては、前記ベアリング支持治具が、前記ベアリングの前記内輪に嵌合状態に挿入される略軸形状のガイド部と、該ガイド部が前記内輪に挿入された前記ベアリングの前記外輪と前記ガイド部との間で前記円環状空間を閉塞するシール部と、前記ベアリングの外周面を覆う略筒形状のカバー部とを備え、前記プラズマ流路が、前記カバー部の内周面と前記外輪の前記外周面との間に形成される軸方向に延びる筒状空間であってもよい。
【0018】
このように構成することで、略筒形状のカバー部によりベアリングの外周面を覆うだけで、外輪の外周面とカバー部の内周面との間にプラズマ流路が形成される。そして、このプラズマ流路に対して、シール部により、ベアリングの内輪に嵌合状態に挿入される略軸形状のガイド部と外輪との間でベアリングの内外輪間の円環状空間が密封される。したがって、ベアリングの内外輪間へのプラズマの流入を防ぎつつ、外輪の外周面をプラズマ洗浄することができる。
【0019】
上記態様においては、前記ガイド部が、複数個の前記ベアリングを前記軸方向に配列させた状態で各前記内輪に嵌合状態に挿入され、前記シール部が、前記ガイド部により複数個の前記ベアリングが前記軸方向に配列されてなるベアリング配列体の前記軸方向の両端の各前記外輪と前記ガイド部の前記軸方向の各端部との間をそれぞれ閉塞し、前記カバー部が、前記ベアリング配列体の外周面を覆い、前記プラズマ流路が、前記カバー部の内周面と複数の前記外輪の前記外周面との間に形成されることとしてもよい。
【0020】
このように構成することで、ガイド部を複数の内輪に嵌合状態に挿入するだけで、ベアリング配列体を形成することができる。また、シール部により、このベアリング配列体の軸方向の両端の各外輪とガイド部の軸方向の各端部との間をそれぞれ閉塞するとともに、カバー部によりベアリング配列体の外周面を覆うだけで、複数個のベアリングの内外輪間に形成される軸方向に連続する円環状空間を密封することができる。したがって、各ベアリングの内外輪間へのプラズマの流入を防ぎつつ、各外輪の外周面を1度に容易にプラズマ洗浄することができる。
【0021】
上記態様においては、前記外輪が、前記内輪よりも前記軸方向の長さが短く、前記ベアリング支持治具が、前記軸方向に隣り合う外輪間に配されてこれら外輪の前記外周面とともに前記プラズマ流路を形成するスペーサ部を備えることとしてもよい。
【0022】
このように構成することで、ベアリングの外輪が内輪よりも軸方向の長さが短い場合であっても、軸方向の外輪間に隙間を生じさせることなく、スペーサ部により各外輪の外周面に沿って軸方向に延びるプラズマ流路を形成することができる。したがって、このようなベアリングも、内外輪間にプラズマを流入させることなく、外輪の外周面を効率よくプラズマ洗浄することができる。
【0023】
本発明の第2態様は、プラズマを発生するプラズマ発生部と、ベアリングの内輪の内周面に沿って、前記プラズマ発生部から発せられる前記プラズマを流通させる第1プラズマ流路を形成するとともに、該第1プラズマ流路に対して前記内輪と外輪との間の円環状空間を密封する第1ベアリング支持治具と、前記ベアリングの前記外輪の外周面に沿って、前記プラズマ発生部から発せられる前記プラズマを流通させる第2プラズマ流路を形成するとともに、該第2プラズマ流路に対して前記円環状空間を密封する第2ベアリング支持治具とを備えるベアリング洗浄装置である。
【0024】
本態様によれば、第1ベアリング支持治具によって、内輪の内周面に沿って軸方向に延びる第1プラズマ流路が形成され、第2ベアリング支持治具によって、外輪の外周面に沿って軸方向に延びる第2プラズマ流路が形成される。したがって、プラズマ発生部から発せられるプラズマをこれら第1プラズマ流路および第2プラズマ流路に沿って流通させることにより、第1プラズマ流路を形成するベアリングの内輪の内周面および第2プラズマ流路を形成するベアリングの外輪の外周面をプラズマ洗浄することができる。
【0025】
この場合において、各ベアリング支持治具により、プラズマ流路に対してベアリングの内外輪間に形成される円環状空間が密封されることで、プラズマがベアリングの内外輪間に流入するのを防ぐことができる。また、布やブラシ、溶剤を用いないので、埃やブラシのカス等のコンタミがベアリングの内部に入ったり、ベアリング内部の油分が内輪や外輪に流出したりすることもない。したがって、トルク不良の原因を生じさせることなく内輪および外輪の油分を除去し、ベアリングの接着不良を防ぐことができる。
【0026】
上記態様においては、前記第1ベアリング支持治具が、前記ベアリングの前記外輪を嵌合状態に収容する略筒形状の第1ガイド部と、該第1ガイド部により収容された前記ベアリングの前記内輪と前記第1ガイド部との間で前記円環状空間を閉塞する第1シール部とを備え、前記第1プラズマ流路が、前記内輪の前記内周面により形成される軸方向に延びる円柱状空間であり、前記第2ベアリング支持治具が、前記ベアリングの前記内輪に嵌合状態に挿入される略軸形状の第2ガイド部と、該第2ガイド部が前記内輪に挿入された前記ベアリングの前記外輪と前記第2ガイド部との間で前記円環状空間を閉塞する第2シール部と、前記ベアリングの外周面を覆う略筒形状のカバー部とを備え、前記第2プラズマ流路が、前記カバー部の内周面と前記外輪の前記外周面との間に形成される軸方向に延びる筒状空間であってもよい。
【0027】
上記態様においては、前記第1ガイド部が、複数個の前記ベアリングを前記軸方向に配列させた状態で各前記外輪を嵌合状態に収容し、前記第1シール部が、前記第1ガイド部により複数個の前記ベアリングが前記軸方向に配列されてなる第1ベアリング配列体の前記軸方向の両端の各前記内輪と前記第1ガイド部の前記軸方向の各端部との間をそれぞれ閉塞し、前記第1プラズマ流路が、複数の前記内輪の前記内周面により形成され、前記第2ガイド部が、複数個の前記ベアリングを前記軸方向に配列させた状態で各前記内輪に嵌合状態に挿入され、前記第2シール部が、前記第2ガイド部により複数個の前記ベアリングが前記軸方向に配列されてなる第2ベアリング配列体の前記軸方向の両端の各前記外輪と前記第2ガイド部の前記軸方向の各端部との間をそれぞれ閉塞し、前記カバー部が、前記第2ベアリング配列体の外周面を覆い、前記第2プラズマ流路が、前記カバー部の内周面と複数の前記外輪の前記外周面との間に形成されることとしてもよい。
【発明の効果】
【0044】
本発明によれば、トルク不良の原因を生じさせることなく内輪および外輪の油分を除去し、ベアリングの接着不良を防ぐことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】本発明の一実施形態に係るベアリング洗浄装置が備える内輪洗浄用のベアリング支持治具の縦断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係るベアリング洗浄装置が備える外輪洗浄用のベアリング支持治具の縦断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係るベアリング洗浄装置が備えるプラズマ発生装置の縦断面図である。
図4】本発明の一実施形態に係るベアリング洗浄方法を説明するフローチャートである。
図5】本発明の一実施形態に係る洗浄装置およびベアリング洗浄方法により洗浄したベアリングを用いたピボットの抜け力と、従来の洗浄装置およびベアリング洗浄方法により洗浄したベアリングを用いたピボットの抜け力との比較を説明する図である。
図6】本発明の一実施形態の変形例に係るベアリング洗浄装置が備える内輪洗浄用のベアリング支持治具の縦断面図である。
図7】本発明の一実施形態の変形例に係るベアリング洗浄装置が備える外輪洗浄用のベアリング支持治具の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明の一実施形態に係るベアリング洗浄装置およびベアリング洗浄方法について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係るベアリング洗浄装置1は、図1および図2に示されるように、複数個(図1および図2に示す例では8個。)のベアリング11を支持して、各ベアリング11の内輪13の内周面に沿ってプラズマ流路(第1プラズマ流路)P1を形成する内輪洗浄用のベアリング支持治具(第1ベアリング支持治具)3および各ベアリング11の外輪15の外周面に沿ってプラズマ流路(第2プラズマ流路)P2を形成する外輪洗浄用のベアリング支持治具(第2ベアリング支持治具)5と、プラズマを発生するプラズマ発生装置(プラズマ発生部)7とを備えている。
【0047】
ベアリング11としては、例えば、HDD等に用いられる外径5mmから10mm程度のものが挙げられる。ベアリング11は、半径方向に隣接して同軸に配置された円環状の内輪13および外輪15と、これら内輪13と外輪15との間の円環状空間に周方向に間隔を空けて配置される複数個の転動体17と、円環状空間の軸方向の両端を閉塞する位置に配置された2つのシールド19とを備えている。また、各ベアリング11の円環状空間には、潤滑剤としてグリス(図示略)が封入されている。
【0048】
ここでは、内輪13と外輪15は、軸方向の長さが互いに等しいものとする。
シールド19は、例えば、金属製やプラスチック製の円環形状の板状部材であり、内径が内輪13の外径寸法よりも大きく、外径が外輪15の内径寸法よりも大きい寸法を有している。これらシールド19は、外縁部が外輪15の内壁面に固定されて、内輪13と外輪15との間を塞ぐように配置されている。本実施形態においては、ベアリング11が2つのシールド19を備える構成を例示して説明するが、ベアリング11が、軸方向の一端を閉塞する位置に配置されたシールド19を1つ備え、ベアリング11の軸方向の他端は開放状態にすることとしてもよい。
【0049】
内輪洗浄用のベアリング支持治具3は、図1に示すように、8個のベアリング11を軸方向に配列させた状態で、各外輪15を嵌合状態に収容する略筒形状のガイド(第1ガイド部)21と、ガイド21によりこれらのベアリング11が軸方向に配列されてなるベアリング配列体(第1ベアリング配列体)12の軸方向の両端の各内輪13とガイド21の軸方向の各端部との間をそれぞれ閉塞するシール(第1シール部)23とを備えている。
【0050】
ガイド21は、ステンレス等により形成され、8個のベアリング11の各外輪15を嵌合する嵌合孔21aを有している。また、ガイド21は、8個のベアリング11を軸方向に連続して配列した長さと略等しい長さ寸法を有している。このガイド21には、軸方向の一方の端部の外周面に所定長さにわたって雄ねじ21bが形成されている。
【0051】
シール23は、ベアリング配列体12およびガイド21の軸方向の一端に配置される第1シール25と、ベアリング配列体12およびガイド21の軸方向の他端に配置される第2シール27とを備えている。第1シール25および第2シール27は、いずれもステンレス等により形成され、それぞれ略円環形状を有している。
【0052】
第1シール25は、内周縁に沿って厚さ方向に立ち上がる内輪シール部25aと、外周縁に沿って内輪シール部25aよりも厚さ方向に高く立ち上がるガイドシール部25bとを有している。内輪シール部25aは、ベアリング11の内輪13と略等しい径寸法を有している。ガイドシール部25bは、ガイド21の外径寸法よりも大きい径寸法を有し、ガイド21の雄ねじ21b側とは軸方向の反対側の他端を嵌合することができるようになっている。
【0053】
この第1シール25は、ガイドシール部25bにガイド21の軸方向の一端を嵌合させて、ベアリング配列体12の軸方向の一端の内輪13の軸方向の端面に内輪シール部25aを突き当てることにより、この内輪13とガイド21の軸方向の一端との間を閉塞するようになっている。
【0054】
第2シール27は、第1シール25と同様に、いずれも厚さ方向に立ち上がり、ベアリング11の内輪13と略等しい径寸法を有する内輪シール部27aと、内輪シール部27aよりも厚さ方向に高く立ち上がり、ガイド21の外径寸法よりも大きい径寸法を有するガイドシール部27bとを有している。ガイドシール部27bは、内周面に雌ネジ28が設けられており、この雌ネジ28がガイド21の雄ねじ21bと締結されるようになっている。
【0055】
この第2シール27は、ガイドシール部27bの雌ネジ28をガイド21の雄ねじ21bに締結させて、ベアリング配列体12の軸方向の他端の内輪13の軸方向の端面に内輪シール部27aを突き当てることにより、この内輪13とガイド21の軸方向の他端との間を閉塞するようになっている。
【0056】
このように構成された内輪洗浄用のベアリング支持治具3は、ガイド21により、8個のベアリング11を軸方向に連続して配列させて各外輪15を嵌合状態に収容した状態で、シール23により、ベアリング配列体12の軸方向の両端の内輪13とガイド21の軸方向の両端部との間をそれぞれ閉塞することで、8個のベアリング11の各内輪13と各外輪15との間に形成される軸方向に連続する円環状空間Lを密封するとともに、軸方向に配列された複数の内輪13の内周面により円柱状空間からなるプラズマ流路P1を形成することができるようになっている。また、第2シール27の内周縁により囲われる貫通孔からプラズマ流路P1にプラズマを流入させて、プラズマ流路P1を流通したプラズマを第1シール25の内周縁により囲われる貫通孔から排出させることができるようになっている。
【0057】
外輪洗浄用のベアリング支持治具5は、図2に示すように、8個のベアリング11を軸方向に配列させた状態で、各内輪13に嵌合状態に挿入される略軸形状のガイド(第2ガイド部)31と、ガイド31によりこれらのベアリング11が軸方向に配列されてなるベアリング配列体(第2ベアリング配列体)12の軸方向の両端の各外輪15とガイド31の軸方向の各端部との間をそれぞれ閉塞するシール(第2シール部)33と、ベアリング配列体12の外周面を覆う略筒形状のカバー(カバー部)39とを備えている。
【0058】
ガイド31は、ステンレス等により形成されている。また、ガイド31は、軸方向に延びて各ベアリング11の内輪13に嵌合される嵌合軸31aと、嵌合軸31aの基端側で径方向外方に広がり、カバー39に嵌合されるフランジ31bとを備えている。
【0059】
嵌合軸31aは、8個のベアリング11を軸方向に連続して配列した長さよりも長い寸法を有している。嵌合軸31aには、8個のベアリング11に嵌合された状態で軸方向に突出する先端部の外周面に所定長さにわたって雄ねじ32が形成されている。
【0060】
シール33は、ベアリング配列体12およびガイド31の軸方向の一端に配置される第1シール35と、ベアリング配列体12およびガイド31の軸方向の他端に配置される第2シール37とを備えている。第1シール35および第2シール37は、いずれもステンレス等により形成され、それぞれ略円環形状を有している。
【0061】
第1シール35は、ガイド31と一体的に形成され、ガイド31の嵌合軸31aとフランジ31bとの間に設けられている。この第1シール35は、ガイド31の嵌合軸31aの基端部を兼ねる内輪シール部35aと、内輪シール部35aから径方向外方に広がり、周方向に沿って厚さ方向に立ち上がる外輪シール部35bとを備えている。内輪シール部35aは、ガイド31の嵌合軸31aと径寸法が等しく、外輪シール部35bは、ベアリング11の外輪15と略等しい径寸法を有している。
【0062】
この第1シール35は、8個のベアリング11の各内輪13にガイド31の嵌合軸31aとともに内輪シール部35aを嵌合させて、ベアリング配列体12の軸方向の一端の外輪15の軸方向の端面に外輪シール部35bを突き当てることにより、この外輪15とガイド31の軸方向の一端との間を閉塞するようになっている。
【0063】
第2シール37は、内周面に厚さ方向に沿って雌ネジ38が形成されたガイドシール部37aと、外周縁に沿って厚さ方向に立ち上がる外輪シール部37bとを有している。ガイドシール部37aは、ベアリング11の内輪13と略等しい径寸法を有し、ガイド31の雄ねじ32に締結されるようになっている。外輪シール部37bは、ベアリング11の外輪15と略等しい径寸法を有している。
【0064】
この第2シール37は、ガイドシール部37aの雌ネジ38をガイド31の雄ねじ32に締結させて、ベアリング配列体12の軸方向の他端の外輪15の軸方向の端面に外輪シール部37bを突き当てることにより、この外輪15とガイド31の軸方向の他端との間を閉塞するようになっている。
【0065】
カバー39は、ステンレス等により形成され、ガイド31により支持されたベアリング配列体12を収容する内部空間を備える中空構造を有している。カバー39の内部空間は、ベアリング11の外輪15よりも大きい径寸法を有している。
【0066】
また、カバー39は、内部空間に収容するベアリング配列体12が挿入されてガイド31のフランジ31bを嵌合する挿入口39aを軸方向の一端に有し、プラズマ発生装置7から発せられたプラズマを内部空間に流入させるプラズマ流入口39bを軸方向の他端に有している。また、カバー39は、軸方向の挿入口39a側の端部に周方向に間隔を空けて形成された厚さ方向に貫通する複数の排出孔39cを有している。
【0067】
このように構成された外輪洗浄用のベアリング支持治具5は、8個のベアリング11を軸方向に連続して配列させて各内輪13にガイド31の嵌合軸31aを嵌合状態に挿入した状態で、シール33により、ガイド31の軸方向の両端部とベアリング配列体12の軸方向の両端の外輪15との間をそれぞれ閉塞することで、8個のベアリング11の各内輪13と各外輪15との間に形成される軸方向に連続する円環状空間Lを密封することができるようになっている。
【0068】
また、このベアリング配列体12をカバー39の内部空間に収容して、カバー39の挿入口39aによりガイド31のフランジ31bを嵌合させることで、軸方向に配列された複数の外輪15の外周面とカバー39の内周面とにより軸方向に延びる筒状空間からなるプラズマ流路P2を形成することができるようになっている。また、カバー39のプラズマ流入口39bからプラズマ流路P2にプラズマを流入させて、プラズマ流路P2を流通したプラズマをカバー39の複数の排出孔39cから排出させることができるようになっている。
【0069】
プラズマ発生装置7は、図3に示すように、窒素ガスを通過させるガス通路Nを形成する筐体41と、筐体41内に収容され、ガス通路Nを幅方向に挟んで対向して配置された電極43A,43Bと、電極43A,43Bに電圧を印加する電圧供給部45とを備えている。
【0070】
このプラズマ発生装置7は、電圧供給部45により電極43A,43Bに高周波の高電圧を印加し、ガス通路Nに窒素ガスを流入して、ガス通路Nの電極43A,43B間に形成されるプラズマ放電区域を通過させることにより、窒素ガスを活性化させてプラズマを吐出することができるようになっている。
【0071】
次に、本実施形態に係るベアリング洗浄方法について、図4に示すフローチャートを参照して説明する。
本実施形態に係るベアリング洗浄方法は、8個のベアリング11を軸方向に配列して支持し、各ベアリング11の内輪13の内周面に沿ってプラズマ流路P1を形成する第1ベアリング支持工程S1と、第1ベアリング支持工程S1により形成されたプラズマ流路P1に沿って、プラズマ発生装置7から発せられたプラズマを流す第1プラズマ流通工程S2と、8個のベアリング11を軸方向に配列して支持し、各ベアリング11の外輪15の外周面に沿ってプラズマ流路P2を形成する第2ベアリング支持工程S3と、第2ベアリング支持工程S3により形成されたプラズマ流路P2に沿って、プラズマ発生装置7から発せられたプラズマを流す第2プラズマ流通工程S4とを含んでいる。
【0072】
第1ベアリング支持工程S1は、8個のベアリング11を軸方向に配列させた状態で、各外輪15をガイド21の嵌合孔21aに嵌合状態に収容するようになっている(収容工程)。また、第1ベアリング支持工程S1は、これらのベアリング11が軸方向に配列されてなるベアリング配列体12の軸方向の両端の各内輪13とガイド21の軸方向の各端部との間をシール23によりそれぞれ閉塞するようになっている(第1閉塞工程)。
【0073】
第2ベアリング支持工程S3は、8個のベアリング11を軸方向に配列させた状態で、各内輪13にガイド31の嵌合軸31aを嵌合状態に挿入するようになっている(挿入工程)。また、第2ベアリング支持工程S3は、これらのベアリング11が軸方向に配列されてなるベアリング配列体12の軸方向の両端の各外輪15とガイド31の軸方向の各端部との間をシール33によりそれぞれ閉塞するようになっている(第2閉塞工程)。さらに、第2ベアリング支持工程S3は、カバー39によりベアリング配列体12の外周面を覆うようになっている(カバー工程)。
【0074】
このように構成されたベアリング洗浄装置1およびベアリング洗浄方法の作用について説明する。
本実施形態のベアリング洗浄装置1およびベアリング洗浄方法により、ベアリング11の内輪13を洗浄する場合は、図1および図3に示すように、ベアリング支持治具3を使用し、ガイド21の嵌合孔21aに8個のベアリング11を挿入して軸方向に連続して配列し、各ベアリング11の外輪15を嵌合状態に収容する(第1ベアリング支持工程S1、収容工程)。
【0075】
次いで、ガイド21によりこれらのベアリング11が軸方向に配列されてなるベアリング配列体12の軸方向の一端の内輪13とガイド21の軸方向の一端部との間を第1シール25により閉塞するとともに、ベアリング配列体12の軸方向の他端の内輪13とガイド21の軸方向の他端部との間を第2シール27により閉塞する(第1ベアリング支持工程S1、第1閉塞工程)。
【0076】
このとき、第1シール25のガイドシール部25bにガイド21の軸方向の一端部を嵌合させて、第1シール25の内輪シール部25aにベアリング配列体12の軸方向の一端の内輪13を軸方向に突き当たてた状態で、第2シール27のガイドシール部27bをガイド21の軸方向の他端部に締結させて、第2シール27の内輪シール部27aによりベアリング配列体12の軸方向の他端の内輪13を軸方向に押圧することで、ベアリング配列体12を構成する8個のベアリング11の軸方向に隣接する内輪13どうしをそれぞれ密着させることができる。
【0077】
これにより、8個のベアリング11の各内輪13と各外輪15との間に形成される軸方向に連続する円環状空間Lが密封されるとともに、軸方向に配列された複数の内輪13の内周面により囲われる円柱状のプラズマ流路P1が形成される。
【0078】
次に、プラズマ発生装置7からプラズマを発生させて、第2シール27の内周縁により囲われる貫通孔からプラズマを流入し、ベアリング配列体12のプラズマ流路P1に沿ってプラズマを流して、第1シール25の内周縁により囲われる貫通孔からプラズマを排出させる(第1プラズマ流通工程S2)。これにより、プラズマ流路P1を形成する8個のベアリング11の各内輪13の内周面をプラズマ洗浄することができる。
【0079】
次に、ベアリング11の外輪15を洗浄する場合は、図2および図3に示すように、ベアリング支持治具5を使用し、8個のベアリング11の各内輪13にガイド31の嵌合軸31aを嵌合状態に挿入して、各ベアリング11を軸方向に連続して配列する(第2ベアリング支持工程S3、挿入工程)。
【0080】
次いで、ガイド31によりこれらのベアリング11が軸方向に配列されてなるベアリング配列体12の軸方向の一端の外輪15とガイド31の軸方向の一端部との間を第1シール35により閉塞するとともに、ベアリング配列体12の軸方向の他端の外輪15とガイド31の軸方向の他端部との間を第2シール37により閉塞する(第2ベアリング支持工程S3、第2閉塞工程)。
【0081】
このとき、第1シール35の外輪シール部35bにベアリング配列体12の軸方向の一端の外輪15を軸方向に突き当てた状態で、第2シール37のガイドシール部37aをガイド31の嵌合軸31aの先端部に締結させて、第2シール37の外輪シール部37bによりベアリング配列体12の軸方向の他端の外輪15を軸方向に押圧することで、ベアリング配列体12を構成する8個のベアリング11の軸方向に隣接する外輪15どうしをそれぞれ密着させることができる。これにより、8個のベアリング11の各内輪13と各外輪15との間に形成される軸方向に連続する円環状空間Lが密封される。
【0082】
続いて、ガイド31により支持されたベアリング配列体12をカバー39の挿入口39aから内部空間に挿入し、カバー39の挿入口39aによりガイド31のフランジ31bを嵌合させて、カバー39によりベアリング配列体12の外周面を覆う(第2ベアリング支持工程S3、カバー工程)。これにより、軸方向に配列された複数の外輪15の外周面とカバー39の内周面とにより軸方向に延びる筒状のプラズマ流路P2が形成される。
【0083】
次に、プラズマ発生装置7からプラズマを発生させて、カバー39のプラズマ流入口39bからプラズマを流入し、ベアリング配列体12のプラズマ流路P2に沿ってプラズマを流して、カバー39の排出孔39cからプラズマを排出させる(第2プラズマ流通工程)。これにより、プラズマ流路P2を形成する8個のベアリング11の各外輪15の外周面をプラズマ洗浄することができる。
【0084】
以上説明したように、本実施形態に係るベアリング洗浄装置1およびベアリング洗浄方法によれば、プラズマ流路P1,P2を形成する8個のベアリング11の各内輪13の内周面および各外輪15の外周面をそれぞれ1度にプラズマ洗浄することができる。
【0085】
この場合において、ベアリング支持治具3,5により、これら8個のベアリング11の各内輪13の内周面に沿って形成されるプラズマ流路P1および各外輪15の外周面に沿って形成されるプラズマ流路P2に対して、内輪13と外輪15との間に形成される軸方向に連続する円環状空間Lが密封されることで、プラズマがベアリング11の内輪13と外輪15との間に流入してベアリング11内のグリスが変質するのを防ぐことができる。また、布やブラシを用いないので、埃やブラシのカス等のコンタミがベアリング11の内部に入ることがない。また、溶剤を用いないので、ベアリング11の内部の油分が内輪13や外輪15に流出することもない。したがって、トルク不良の原因を生じさせることなく内輪13および外輪15の油分を除去し、ベアリング11の接着不良を防ぐことができる。
【0086】
例えば、図5に示すように、従来の洗浄方法により洗浄したベアリング11でピボットを組み立てた場合は、ベアリング11の内輪や外輪の洗浄が不十分であるためにピボットごとに抜き力にばらつきが生じるのに対し、本実施形態に係る洗浄装置1およびベアリング洗浄方法により洗浄したベアリング11でピボットを組み立てた場合は、ベアリング11の内輪や外輪が十分に洗浄されることによりピボットごとの抜き力のばらつきを低減するとともに、抜き力の平均値も高めることができる。図5において、縦軸はPOF(Push Out Force、単位はkg。)を示している。
【0087】
ここで、ピボットは、例えば、2つのベアリング11を外輪15間にスペーサを挟んで同軸上に配列し、互いの内輪13どうしが近づく方向に予圧を掛けた状態で、それぞれの内輪13にシャフトを嵌合させて内輪13とシャフトとを接着剤で固定することにより組み立てられる。抜き力とは、ピボットの外輪15を固定した状態でシャフトを軸方向に移動させたときに、内輪13とシャフトとの間の接着剤が剥がれるまでにかかる力をいう。抜き力が低いと、HDDドライブにピボットを組み込む際のベアリング11に軸方向に力を掛ける工程で内輪13とシャフトとの接着部分が破損し、内輪13および外輪15とこれらの間に配置された転動体17との間に働いていた予圧が掛からなくなることがある。本実施形態に係る洗浄装置1およびベアリング洗浄方法によりベアリング11の内輪13および外輪15を洗浄することで、抜き力を向上することができる。
【0088】
本実施形態においては、内輪13と外輪15の軸方向の長さが等しいベアリング11に適用する例を説明したが、内輪13と外輪15の軸方向の長さが異なるベアリングに適用することとしてもよい。
【0089】
例えば、図6に示すように、内輪13が外輪15よりも軸方向の長さが短いベアリング51の内輪13を洗浄する場合は、ベアリング支持治具3が、軸方向の内輪13間に配置する内輪洗浄用のスペーサ(スペーサ部)53を備えることとすればよい。この場合、スペーサ53は、プラズマによって変質し難いステンレス等を材料として、内輪13の内径寸法と略等しい内径寸法を有するリング形状に形成されたものであればよい。また、スペーサ53は、各ベアリング51の内輪13と外輪15との軸方向の長さの差に応じた厚さ寸法を有することとすればよい。
【0090】
このようにすることで、複数個のベアリング51を軸方向に配列した場合に、軸方向の内輪13間に隙間を生じさせることなく、スペーサ53により各内輪13の内周面とともに軸方向に延びるプラズマ流路P1を形成することができる。したがって、このようなベアリング51も、内輪13と外輪15との間にプラズマを流入させることなく、内輪13の内周面を効率よくプラズマ洗浄することができる。
【0091】
一方、図7に示すように、外輪15が内輪13よりも軸方向の長さが短いベアリング55の外輪15を洗浄する場合は、ベアリング支持治具5が、軸方向の外輪15間に配置する外輪洗浄用のスペーサ(スペーサ部)57を備えることとすればよい。この場合、スペーサ57は、プラズマによって変質し難いステンレス等を材料として、外輪15の外径寸法と略等しい外径寸法を有するリング形状に形成されたものであればよい。また、スペーサ57は、各ベアリング55の内輪13と外輪15との軸方向の長さの差に応じた厚さ寸法を有することとすればよい。
【0092】
この場合も、複数個のベアリング55を軸方向に配列した場合に、軸方向の外輪15間に隙間を生じさせることなく、スペーサ57により各外輪15の外周面とともに軸方向に延びるプラズマ流路P2を形成することができる。したがって、このようなベアリング55も、内輪13と外輪15との間にプラズマを流入させることなく、外輪15の外周面を効率よくプラズマ洗浄することができる。
【0093】
本実施形態においては、プラズマ発生部として、窒素ガスによりプラズマを発生させるプラズマ発生装置7を例示して説明したが、プラズマ発生部としては、プラズマを発生させてプラズマ流路P1,P2に沿って流通させることができるものであればよく、これに限定されるものではない。
【0094】
また、本実施形態においては、8個のベアリング11,51,55を1度に洗浄する構成を例示して説明したが、ベアリング11,51,55の数およびベアリング支持治具3,5の大きさはこれに限定されるものではない。例えば、ベアリング11,51,55は1つでもよいし複数でもよい。また、ベアリング11,51,55の数に応じてベアリング支持治具3,5の大きさを変更することとしてもよいし、軸方向のベアリング11,51,55間にスペーサを挟んでベアリング11,51,55の数を変更することとしてもよい。
【0095】
また、本実施形態においては、ベアリング11の内輪13の内周面に沿って形成されるプラズマ流路P1に対して、シール23が内輪13と略筒形状のガイド21との間で円環状空間Lを閉塞することとしたが、プラズマが円環状空間Lに流入しないようにプラズマ流路P1に対して円環状空間Lが密封されていればよく、円環状空間Lを閉塞しなくてもよい。例えば、プラズマ発生装置7の吐出口から円環状空間Lを隔離してプラズマ流路P1にプラズマを流入するとともに、プラズマ流路P1を流通したプラズマを円環状空間Lに流入しないように外部に排出させることとすればよい。
【0096】
同様に、本実施形態においては、ベアリング11の外輪15の外周面に沿って形成されるプラズマ流路P2に対して、シール33が外輪15と略軸形状のガイド31との間で円環状空間Lを閉塞することとしたが、プラズマが円環状空間Lに流入しないようにプラズマ流路P2に対しても円環状空間Lが密封されていればよく、円環状空間Lは閉塞しなくてもよい。例えば、プラズマ発生装置7の吐出口から円環状空間Lを隔離してプラズマ流路P2にプラズマを流入するとともに、プラズマ流路P2を流通したプラズマを円環状空間Lに流入しないように外部に排出させることとすればよい。
【符号の説明】
【0097】
1 洗浄装置
3 ベアリング支持治具(第1ベアリング支持治具)
5 ベアリング支持治具(第2ベアリング支持治具)
7 プラズマ発生装置(プラズマ発生部)
11,51,55 ベアリング
12 ベアリング配列体(第1ベアリング配列体、第2ベアリング配列 体)
13 内輪
15 外輪
21 ガイド(第1ガイド部)
31 ガイド(第2ガイド部)
23 シール(第1シール部)
33 シール(第2シール部)
53,57 スペーサ(スペーサ部)
L 円環状空間
P1 プラズマ流路(第1プラズマ流路)
P2 プラズマ流路(第2プラズマ流路)
S1 第1ベアリング支持工程(ベアリング支持工程)
S2 第1プラズマ流通工程(プラズマ流通工程)
S3 第2ベアリング支持工程(ベアリング支持工程)
S4 第2プラズマ流通工程(プラズマ流通工程)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7