(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-24
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】生体データ測定装置
(51)【国際特許分類】
G01J 5/00 20220101AFI20220111BHJP
G01J 5/06 20220101ALI20220111BHJP
A61B 5/01 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
G01J5/00 101G
G01J5/10 B
A61B5/01 100
(21)【出願番号】P 2017129122
(22)【出願日】2017-06-30
【審査請求日】2020-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】512124452
【氏名又は名称】株式会社テクノ・コモンズ
(74)【代理人】
【識別番号】100083404
【氏名又は名称】大原 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100166752
【氏名又は名称】久保 典子
(72)【発明者】
【氏名】田中 昭生
(72)【発明者】
【氏名】陳 振傑
(72)【発明者】
【氏名】樋口 行平
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特許第4481496(JP,B2)
【文献】特開2006-198321(JP,A)
【文献】特開2011-133300(JP,A)
【文献】特開2012-154859(JP,A)
【文献】国際公開第2016/143528(WO,A1)
【文献】特開昭63-058223(JP,A)
【文献】国際公開第2011/012386(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 5/00-5/62
A61B 5/01
G01K 7/00-7/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定対象である生体の体表面との間に空気層が生ずるように支持部材を介して上記体表面から所定距離隔てた位置に配置される基板を備え、上記基板に、上記体表面の体表面温度を測定する放射温度計および上記基板の基板温度を測定する基板温度計を含む体温計が設けられ
ており、
上記支持部材は断熱材からなり、上記放射温度計と上記体表面との間に上記空気層としてのほぼ密閉された空間が形成されており、
上記基板が上記断熱材により支持された状態で、上板および上記上板の周縁から下方に向けてほぼ直角に折り曲げられた側板を有する上記体表面側の底面が開放された箱体からなり、上記底面の全体がシートにより覆われているとともに、上記シートの上記体表面側には粘着ゲルが塗布されているケース内に収納されており、
上記ケース内には、上記側板側から出入りする熱を上記基板に伝える高熱伝導膜が設けられていることを特徴とする生体データ測定装置。
【請求項2】
被測定対象である生体の体表面との間に空気層が生ずるように支持部材を介して上記体表面から所定距離隔てた位置に配置される基板を備え、上記基板に、上記体表面の体表面温度を測定する放射温度計および上記基板の基板温度を測定する基板温度計を含む体温計が設けられており、
上記支持部材は断熱材からなり、上記放射温度計と上記体表面との間に上記空気層としてのほぼ密閉された空間が形成されており、
上記基板が上記断熱材により支持された状態で、底板および上記底板の周縁から上方に向けてほぼ直角に折り曲げられた側板を含み上面が開放された箱状のケース本体と、上記ケース本体の上面に着脱可能に被せられる蓋とを備えているケース内に収納されており、
上記ケース内には、上記側板側から出入りする熱を上記基板に伝える高熱伝導膜が設けられていることを特徴とする生体データ測定装置。
【請求項3】
上記体表面温度をTsk、上記基板温度をTsub、上記空気層の熱抵抗をRthair、上記体表面にほぼ垂直に流れる熱流をIthとして、(Tsk-Tsub)/Rthairにより上記熱流Ithを求める演算部を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の生体データ測定装置。
【請求項4】
上記生体の深部組織から体表面までの熱抵抗をRthbody、上記生体の深部体温をTcoreとして、上記演算部は、Tsk+Ith×Rthbodyにより上記深部体温Tcoreを求めることを特徴とする請求項
3に記載の生体データ測定装置。
【請求項5】
上記生体内の電気抵抗を測定する体内電気抵抗測定手段を備え、上記体内電気抵抗測定手段により測定された体内電気抵抗値より上記熱抵抗Rthbodyを推定することを特徴とする請求項
4に記載の生体データ測定装置。
【請求項6】
被測定対象である生体の体表面との間に空気層が生ずるように支持部材を介して上記体表面から所定距離隔てた位置に配置される基板を備え、上記基板に、上記体表面の体表面温度を測定する放射温度計および上記基板の基板温度を測定する基板温度計を含む体温計が設けられており、
上記体温計として、上記基板に、上記体表面の体表面温度を測定する第1放射温度計および上記基板の基板温度を測定する第1基板温度計を含む第1体温計と、上記体表面の体表面温度を測定する第2放射温度計および上記基板の基板温度を測定する第2基板温度計を含む第2体温計とが並置されているとともに、上記基板のうちの上記第1体温計が配置されている基板上面が断熱材にて覆われていることを特徴とする生体データ測定装置。
【請求項7】
上記生体の深部体温Tcoreを求める演算部を有し、上記第1体温計にて測定される上記体表面温度をTsk1、上記体表面にほぼ垂直に流れる熱流をIth1、上記第2体温計にて測定される上記体表面温度をTsk2、上記体表面にほぼ垂直に流れる熱流をIth2、上記生体の深部組織から体表面までの熱抵抗をRthbodyとして、上記演算部は、(Tsk2-Tsk1)/(Ith1-Ith2)よりRthbodyを算出した後、(Ith1×Rthbody+Tsk1)もしくは(Ith2×Rthbody+Tsk2)より上記生体の深部体温Tcoreを求めることを特徴とする請求項
6に記載の生体データ測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の体表面に取り付けて生体データを測定する生体データ測定装置に関し、さらに詳しく言えば、生体の特に深部体温を測定する生体データ測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在のところ、生体の体表面に取り付けて深部体温を測定する方法としては、例えばSingle Heat Flux(SHF)法と、Dual Heat Flux(DHF)法と、Zero Heat Flux(ZHF)法とが知られている。
【0003】
Single Heat Flux(SHF)法の一例として、
図13に特許文献1に記載されている
図2の構成を示す。同図において、2は第1プローブ、6は第2プローブ、4は断熱材で、3が体表面である。第1プローブ2と2プローブ6により体表面3からほぼ垂直に生ずる熱流(熱流束)を測定する。
【0004】
SHF法によれば、ヒーターが不要であるため低電力で構成が簡素である、という利点があるが、測定時間が10分程度かかる、という問題がある。また、生体内の熱抵抗を別の方法であらかじめ測定する必要がある。
【0005】
次に、Dual Heat Flux(DHF)法の一例として、
図14に特許文献2に記載されている第1図の構成を示す。同図において、11,17が第1温度センサのペア、12,18が第2温度センサのペアで、第1温度センサのペア11,17により測定された熱流と、第1温度センサのペア12,18により測定された熱流とにより、生体の深部体温を測定する。
【0006】
DHF法によれば、ヒーターが不要であるため低電力であり、また、体内の熱抵抗を別の方法で測定することなく深部体温が分かる、という利点がある。しかしながら、測定時間が10分程度かかる。温度センサのペアが2組必要、という問題がある。
【0007】
また、Zero Heat Flux(ZHF)法の一例として、
図15に特許文献3に記載されている
図6を示す。同図において、140が温度センサで、126がヒータである。ZHF法によると、皮膚表面に貼付した温度センサ140がヒータ126により加温され、温度センサ140と深部体温が平衡に達した時点(約3分程度)で、表示部に深部体温が表示される。
【0008】
このように、ZHF法によると、測定時間が約3分程度と比較的早い、という利点があるが、他方において、ヒータの消費電力として1W(ワット)程度必要である、という点で問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開WO2011/012386号公報(特に
図2)
【文献】特開昭63-58223号公報(特に第1図)
【文献】米国特許公開第2016/0238463号(特に第6図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
また、ZHF法の場合、1W程度の消費電力を必要とするため、体表面に貼り付けて使用する絆創膏型のセンサには適用が難しい。
【0011】
センサ周りの配線について、SHF法の場合でも4本の配線、DHF法の場合には8本の配線があり、これらの配線を信号読み出し回路等に接続する必要があり、その分、手間がかかる。
【0012】
また、配線による水平方向(体表面とほぼ平行な方向)の熱伝導は、感度の低下や誤差の原因となる。さらには、配線を経由してデータ収集側の機器と接続するようにしているため、生体への装着に手間がかかるうえに、装着時の負担となっている。
【0013】
したがって、本発明の課題は、構成が簡単であるとともに、生体の体表面に対する装着性が良好である、特に深部体温を正確に測温し得る生体データ測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明の生体データ測定装置は、被測定対象である生体の体表面との間に空気層が生ずるように支持部材を介して上記体表面から所定距離隔てた位置に配置される基板を備え、上記基板に、上記体表面の体表面温度を測定する放射温度計および上記基板の基板温度を測定する基板温度計を含む体温計が設けられており、上記支持部材は断熱材からなり、上記放射温度計と上記体表面との間に上記空気層としてのほぼ密閉された空間が形成されており、上記基板が上記断熱材により支持された状態で、上板および上記上板の周縁から下方に向けてほぼ直角に折り曲げられた側板を有する上記体表面側の底面が開放された箱体からなり、上記底面の全体がシートにより覆われているとともに、上記シートの上記体表面側には粘着ゲルが塗布されているケース内に収納されており、上記ケース内には、上記側板側から出入りする熱を上記基板に伝える高熱伝導膜が設けられていることを特徴としている。
【0015】
また、本発明の生体データ測定装置は、被測定対象である生体の体表面との間に空気層が生ずるように支持部材を介して上記体表面から所定距離隔てた位置に配置される基板を備え、上記基板に、上記体表面の体表面温度を測定する放射温度計および上記基板の基板温度を測定する基板温度計を含む体温計が設けられており、上記支持部材は断熱材からなり、上記放射温度計と上記体表面との間に上記空気層としてのほぼ密閉された空間が形成されており、上記基板が上記断熱材により支持された状態で、底板および上記底板の周縁から上方に向けてほぼ直角に折り曲げられた側板を含み上面が開放された箱状のケース本体と、上記ケース本体の上面に着脱可能に被せられる蓋とを備えているケース内に収納されており、上記ケース内には、上記側板側から出入りする熱を上記基板に伝える高熱伝導膜が設けられていることを特徴としている。
【0025】
本発明の生体データ測定装置は、上記体表面温度をTsk、上記基板温度をTsub、上記空気層の熱抵抗をRthair、上記体表面にほぼ垂直に流れる熱流をIthとして、(Tsk-Tsub)/Rthairにより上記熱流Ithを求める演算部を備えている。
【0026】
また、上記演算部は、上記生体の深部組織から体表面までの熱抵抗をRthbody、上記生体の深部体温をTcoreとして、Tsk+Ith×Rthbodyにより上記深部体温Tcoreを求める。
【0027】
上記生体内の電気抵抗を測定する体内電気抵抗測定手段を備え、上記体内電気抵抗測定手段により測定された体内電気抵抗値より上記熱抵抗Rthbodyを推定する態様も本発明に含まれる。
【0028】
また、本発明の別の態様に係る生体データ測定装置は、上記体温計として、上記基板に、上記体表面の体表面温度を測定する第1放射温度計および上記基板の基板温度を測定する第1基板温度計を含む第1体温計と、上記体表面の体表面温度を測定する第2放射温度計および上記基板の基板温度を測定する第2基板温度計を含む第2体温計とが並置されているとともに、上記基板のうちの上記第1体温計が配置されている基板上面が断熱材にて覆われていることを特徴としている。
【0029】
上記別の態様に係る生体データ測定装置は、上記生体の深部体温Tcoreを求める演算部を有し、上記第1体温計にて測定される上記体表面温度をTsk1、上記体表面にほぼ垂直に流れる熱流をIth1、上記第2体温計にて測定される上記体表面温度をTsk2、上記体表面にほぼ垂直に流れる熱流をIth2、上記生体の深部組織から体表面までの熱抵抗をRthbodyとして、上記演算部は、(Tsk2-Tsk1)/(Ith1-Ith2)よりRthbodyを算出した後、(Ith1×Rthbody+Tsk1)もしくは(Ith2×Rthbody+Tsk2)より上記生体の深部体温Tcoreを求めることを特徴としている。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、支持部材(断熱材)を介して体表面から所定距離隔てた位置に配置される基板に放射温度計と基板温度計を設けた構成であるため、低コストで簡単に作製することができる。また、基板と体表面との間の断熱層が空気層であるため、基板と体表面との間の熱抵抗を大きな値とすることができる。
【0031】
また、放射温度計と体表面との間に、支持部材としての断熱材により密閉された空間(空気層)が形成されるため、周囲温度に対する誤差を小さくできる。
【0032】
また、放射温度計にて測定された体表面温度と基板温度計にて測定された基板温度を無線で送信する送信部を備えていることにより、有線送信部の配線を伝わっての熱移動がなく、より高精度の深部体温を測定することができる。
【0033】
また、体表面の体表面温度を測定する第1放射温度計および基板の基板温度を測定する第1基板温度計を含む第1体温計と、体表面の体表面温度を測定する第2放射温度計および基板の基板温度を測定する第2基板温度計を含む第2体温計とを基板上に並置するとともに、上記基板のうちの第1体温計が配置されている基板上面を断熱材にて覆う構成によれば、別途の測定手段で体内の熱抵抗を測定することなく、深部体温を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明の基本的な態様(第1実施形態)を示す(a)模式的な平面図、(b)その同じく模式的な断面図。
【
図2】本発明の第2実施形態を示す(a)模式的な平面図、(b)その断面図。
【
図3】本発明の第3実施形態を示す(a)模式的な平面図、(b)その断面図。
【
図4】本発明の第4実施形態を示す(a)模式的な平面図、(b)その断面図。
【
図5】本発明の第5実施形態を示す(a)模式的な平面図、(b)その断面図。
【
図6】本発明の第6実施形態を示す(a)模式的な平面図、(b)その断面図、(c)第5実施形態の変形例に係る断面図。
【
図7】本発明の生体データ測定装置をベルトを介して生体に取り付けた状態を示す(a)模式図、(b)その要部断面図。
【
図8】本発明の第7実施形態を示す(a)模式的な平面図、(b)その断面図。
【
図9】本発明の第8実施形態を示す模式的な断面図。
【
図10】本発明の第1ないし第4実施形態の態様において、(a)冬場における体内深部から環境温度に至る温度勾配を示すグラフ、(b)冬場での各部の熱抵抗率,厚さ,熱抵抗を示す表。
【
図11】上記第1ないし第4実施形態の態様において、(a)夏場における体内深部から環境温度に至る温度勾配を示すグラフ、(b)夏場での各部の熱抵抗率,厚さ,熱抵抗を示す表。
【
図12】上記第5実施形態の態様において、第1温度計と第2温度計で測定された体内深部から環境温度に至る温度勾配を示すグラフ、(b)そのときの各部の熱抵抗率,厚さ,熱抵抗を示す表。
【
図13】第1従来技術としてのSHF法を紹介する模式図。
【
図14】第2従来技術としてのDHF法を紹介する模式図。
【
図15】第3従来技術としてのZHF法を紹介する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0035】
次に、
図1ないし
図11により、本発明によるいくつかの実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0036】
まず、
図1を参照して、本発明の生体データ測定装置1は、基本的な形態(第1実施形態)として、温度計20が設けられた基板10を備える。基板10は、後述する支持部材を介して被測定対象である生体の体表面BSから所定距離隔てた位置(例えば、体表面BSから3mm程度隔てた位置)に配置される。
【0037】
基板10には、例えばポリイミド基板が用いられる。厚さは数百ミクロン程度にして熱容量を減らすことが好ましい。また、基板10は、30mm平方以上の四角形状であることが好ましいが、ほぼ同面積の円形、四角形以外の多角形としてもよい。
【0038】
詳しくは図示しないが、温度計20には、体表面BSの温度Tskを測定する放射温度計21と、基板10の基板温度Tsubを測定する基板温度計22とが含まれる。放射温度計21は、体表面BSと向かい合うように基板10の下面側に配置される。なお、基板10に孔を開け、その孔内に放射温度計21を取り付けてもよい。
【0039】
放射温度計21には、ボロメータ検出器やサーモパイル検出器等が用いられ、体表面BSの放射赤外線量を測る。基板温度計22は、基板10の基板温度Tsubを測る温度計で、放射温度計21とは別に設けられてもよいが、放射温度計21が備えている校正用温度計を用いることができる。
【0040】
基板10と体表面BSとの間の空気層Aの熱抵抗をRthairとして、体表面BSにほぼ垂直に流れる熱流(熱流束)Ithは、Ith=(Tsk-Tsub)/Rthairより求めることができる。空気層Aを使うことで基板10と体表面BSとの間の熱抵抗Rthを大きな値とすることができる。
【0041】
ここで、生体の深部体温をTcore、生体の深部組織から体表面BSまでの熱抵抗をRthbodyとして、深部体温Tcoreは、Tcore=Tsk+Ith×Rthbodyより求めることができる。
【0042】
なお、この実施形態において、上記体内の熱抵抗Rthbodyは図示しない他の方法で測定される。その方法の一例として、一対の電極より生体に微弱電流(例えば、0.2μA程度)を流して生体内の電気抵抗(GSR:Galvanic Skin Resistance)を測定する体内電気抵抗測定手段により測定される体内電気抵抗値より熱抵抗Rthbodyを推定する方法がある。この体内電気抵抗測定手段を備える態様も本発明に含まれる。
【0043】
次に、
図2を参照して、第2実施形態に係る生体データ測定装置1は、基板10を体表面BS上の所定高さ位置に支持する支持部材30を備える。支持部材30は、できるだけ熱抵抗Rthが大きく、外力に対して変形しにくい断熱材31、例えば発泡プラスチック材等が好ましく採用される。
【0044】
この種の発泡プラスチック材には、ポリウレタンやポリスチレン等がある。ポリウレタンを材料にした硬質ウレタンフォームには、静止大気の熱抵抗率が40m・K/W相当のものがある。圧縮強度として、数百gf/cm2~1kgf/cm2程度のものを作ることができる。
【0045】
この実施形態において、支持部材30(断熱材31)は、体表面BSへの装着時に放射温度計21と体表面BSとの間に空気層Aとしてのほぼ密閉された空間を形成し、それ以外の上面を含む基板面を覆うように形成される。
【0046】
次に、
図3に示す第3実施形態において、生体データ測定装置1は、体表面BSからの熱流Ithの横方向の逃げを減らすためのケース40を備える。ケース40は、上板(天板)401と、上板401の周縁から下方に向けてほぼ直角に折り曲げられた側板402とを有する底面(体表面BS側の面)が開放された箱体で、その内部に基板10が断熱材31に支持された状態で収納される。
【0047】
一方、この第3実施形態では、基板10に送信部24と演算部25とが設けられる。演算部25は、一例として上記したように放射温度計21にて測定された体表面温度Tskと基板温度計22にて測定された基板温度Tsubおよび空気層Aの熱抵抗Rthairにより熱流Ith等を算出する。送信部24は、その算出された演算値等を図示しない親機としてのデータ収集・解析装置に無線で送信する。
【0048】
送信部24には無線モジュール等が用いられ、演算部25にはマイクロコンピュータ等が用いられるが、これらのモジュールやパッケージに発熱部品が含まれ、その発熱(多くの場合、微少な発熱)が深部体温の測定に誤差を与えるような場合には、その対策の一つとして、送信部24および/または演算部25をケース40の外側に配置することができる。
【0049】
別の方法として、送信部24および/または演算部25と体表面BSとの熱伝導をよくする高熱伝導材料を空気層A(例えば基板10の下面)に設けて、送信部24および/または演算部25の発熱を体表面BSに逃すこともできる。
【0050】
さらには、送信部24および/または演算部25を基板10の上面に配置して、その発熱を大気側に逃す方法や、送信部24および/または演算部25と温度計20との間に断熱手段を介在させる方法もある。
【0051】
別の態様として、演算部25を上記親機(データ収集・解析装置)側に設けて、その親機に対して送信部24から体表面温度Tskや基板温度Tsub等を送信し、親機側で熱流Ithや深部体温Tcore等を求めるようにしてもよく、このような態様も本発明に含まれる。
【0052】
ケース40は、水平方向の温度分布を減少させるとともに、送信部24の無線(電磁波)が透過し得る材質であることが好ましく、これに該当する材質としてはアルミナが挙げられる。ちなみに、アルミナの熱抵抗率は0.03m・K/Wである。
【0053】
アルミナに代えて、パターニングされたプリント基板を使用することもできる。この場合には、送信部24の通信アンテナに対応する特定部分40a(
図3(a)では右上の角部分)の導体(銅箔)は削除し、無線が通過し得るようにする。なお、ケース40の側面40bは金属製であってもよい。
【0054】
送信部24には、2.4GHzや13.56MHz(Industry-Science-Medicalバンド)が使える。図示しないが、基板10には送信部24や演算部25に電源を供給する電池(好ましくは二次電池)が搭載されるが、13.56MHzで上記親機側から電力を送るようにしてもよい。
【0055】
図4に示す第4実施形態では、支持部材30として筒状の断熱材311,312を用いている。断熱材311,312は同心状に配置され、断熱材311が内側で、断熱材312が外側である。
【0056】
この第4実施形態において、内側の断熱材311は、体表面BSへの装着時に放射温度計21と体表面BSとの間に密閉された空間(空気層A)を形成するように基板10の下面側に設けられる円筒状の下部断熱材311aと、基板10の上面とケース40の内面との間に配置される上部断熱材311bとを備えている。
【0057】
外側の断熱材312は、基板10の外周側を支持する支持部材で、基板10の下面側に設けられる円筒状の下部断熱材312aと、基板10の上面とケース40の内面との間に配置される上部断熱材312bとを備えている。
【0058】
なお、この第4実施形態において、内側の断熱材311に含まれる上部断熱材311bと下部断熱材311aは同径であるが、異径であってもよい。同じく、外側の断熱材312に含まれる上部断熱材312bと下部断熱材312aも同径であるが、異径としてもよい。
【0059】
この第4実施形態において、断熱材311,312は円筒状であるが、四角筒状であってもよい。一般的に、断熱材は圧縮強度を上げると熱抵抗率が下がるため、上記のように筒状とすることで熱抵抗を上げることができる。例えば、ポリスチロールは熱抵抗率が8m・K/W、強度はあるがやや熱抵抗率が低いため部分的に使用する。
【0060】
次に、
図5を参照して、第5実施形態に係る生体データ測定装置1は、第1および第2の2つの温度計20a,20bを備える。温度計20a,20bには、ともに放射温度計21と基板温度計22とが含まれている。
【0061】
2つの温度計20a,20bを備えるに伴って、その搭載基板10として、2枚の基板10a,10bが用いられる。一方の基板10aに第1温度計20aが設けられ、他方の基板10bには第2温度計20bが設けられる。この実施形態において、送信部24と演算部25はともに一方の基板10a側に配置される。
【0062】
基板10aと基板10bは、フレキシブル基板11にて接続されており、第2温度計20bはフレキシブル基板11内の配線を介して送信部24および/または演算部25に接続される。これとは別の態様として、温度計20a,20bを同一の基板10に並置してもよい。
【0063】
温度計20a,20bの異なる点は、
図5(b)に示すように、一方の温度計、この実施形態では第1温度計20aの上方に断熱材313が配置され、第2温度計20b側の上方は空間となっている点である。
【0064】
演算部25は、温度計20a,20bにて測定された体表面温度Tskと基板温度Tsubに基づき、次のようにして生体の深部体温Tcoreを求める。
【0065】
すなわち、第1体温計20aにて測定される体表面温度をTsk1、体表面BSにほぼ垂直に流れる熱流をIth1、第2体温計20bにて測定される体表面温度をTsk2、体表面BSにほぼ垂直に流れる熱流をIth2、生体の深部組織から体表面BSまでの熱抵抗をRthbodyとして、演算部25は、(Tsk2-Tsk1)/(Ith1-Ith2)よりRthbodyを算出した後、(Ith1×Rthbody+Tsk1)もしくは(Ith2×Rthbody+Tsk2)により生体の深部体温Tcoreを求める。
【0066】
ちなみに、第1体温計20aの基板温度計22で測定された基板温度をTsub1、第2体温計20bの基板温度計22で測定された基板温度をTsub2、空気層Aの熱抵抗をRthairとして、上記したように、熱流Ith1は、Ith1=(Tsk1-Tsub1)/Rthairより求められ、熱流Ith2=(Tsk2-Tsub2)/Rthairにより求められる。
【0067】
このように、この第5実施形態によれば、生体の深部組織から体表面BSまでの熱抵抗Rthbodyが演算により求められるため、別途の測定手段(例えば、上記体内電気抵抗測定手段)により熱抵抗Rthbodyを測定(推定)する必要はない。
【0068】
次に、
図6(a)(b)を参照して、第6実施形態に係る生体データ測定装置1は、例えば先の
図4で説明した第4実施形態をベースとし、生体に対する装着性を高めることを特徴としている。
【0069】
すなわち、この第6実施形態では、
図6(b)に示すように、ケース40の下面(体表面BSと向かい合う面)の全面をシート51で覆い、シート51の下面(体表面BSと向かい合う面)に粘着ゲル52を所定の厚さに塗布している。これによれば、生体データ測定装置1を体表面BSに馴染みよく装着することができる。
【0070】
柔らかい粘着ゲル52が変形して、空気層Aの厚さが変化しないようにするため、シート51には、粘着ゲル52により硬い(高弾性)の素材が用いられる。
【0071】
この場合、放射温度計21は、シート51の温度を測定することになるが、体内の熱抵抗Rthbodyを求めるには、シート51と粘着ゲル52の各熱抵抗Rthを減算すればよい。別の方法として、シート51と粘着ゲル52に赤外線透過材料を用いることにより、体表面温度Tskを測定することができる。
【0072】
また、空気層Aとなる空間内に、キセノン、クリプトン、アルゴン等の希ガスを封入することにより、熱抵抗率を上げることができる。また、例えばシート51にエンボス加工を施して、粘着ゲル52に汗の排出溝を形成することもできる。これによれば、粘着ゲルの粘着性を維持する効果が奏される。
【0073】
なお、この第6実施形態の変形例として、放射温度計21にて体表面温度を直接測温し得るようにするため、
図6(c)に示すように、ケース40の底面中央部からシート51および粘着ゲル52を無くしてもよく、このような態様も本発明に含まれる。この第6実施形態は、先の
図5で説明した第5実施形態にも適用可能である。
【0074】
この生体データ測定装置1は、
図7(a)(b)に示すように、ベルト60を介して生体Hの所定部位(例えば、胸部や腹部等)に装着される。なお、
図7(b)に示されている生体データ測定装置1は、先の
図3で説明した第3実施形態の生体データ測定装置1であるが、他の実施形態の生体データ測定装置1であってもよい。
【0075】
ベルト60は、弾性構造として、伸び率が大きなゴム材(好ましくは、伸び率が数十~数百%のゴム材)製であることが好ましい。また、夏場での熱中症対策として、ベルト60が生体Hに対する通気性の妨げにならないようにするため、ベルト60に例えばメッシュ(網目)よりなる通気性を持たせるとよい。
【0076】
ところで、ケース40は低熱抵抗であることから、生体Hに装着中にケース40に腕等が触れると、急速な温度変化によって体温測定に誤差が生ずる場合がある。そこで、
図8に示す第7実施形態では、ケース40を覆う保護カバー70を備える。
【0077】
保護カバー70は、例えば高発泡度のポリウレタンやポリスチレン等の熱を伝えにくい断熱材料からなる。保護カバー70は、ケース40よりも一回り大きい底面が開放された箱体として形成され、対向する両側面にベルト60を通すためのベルト挿通口71,71を備える。
【0078】
次に、
図9を参照して、第8実施形態について説明する。この実施形態においては、生体データ測定装置1を上記したようにベルト60にて体表面BSに装着する際、ベルト60による締付力によって体表面BSが盛り上がって空気層Aの間隔(基板10と体表面BSとの距離)が変化するのを防ぐためのケースとして、上面が開放されているケース本体41と、ケース本体41の上面に着脱可能に被せられる蓋42とを有するケース40Aが用いられる。
【0079】
ケース本体41は、四角形状の底板411およびその4辺に立設された側板412を有する上面が開放されている箱体で、その内部に、温度計20、送信部24および演算部25等を有する基板10が支持部材30としての断熱材31にて支持された状態で収納される。使用時には、ケース本体41の上面は蓋42によって塞がれる。
【0080】
この実施形態において、ケース本体41と蓋42は、ともにアクリル樹脂製であるが、熱抵抗が低く低熱容量で、赤外線を透過し得る材質であれば、他の合成樹脂材であってもよい。なお、蓋42は、必ずしも赤外線を透過し得る材質でなくてもよいが、送信部24の無線(電磁波)が透過し得る材質を選択する必要がある。
【0081】
このようなケース40Aを用いることにより、生体データ測定装置1をベルト60にて体表面BSに強く締め付けても、基板10と体表面BSとの間に存在する空気層Aの間隔が一定に保たれる。
【0082】
また、この第8実施形態に係る生体データ測定装置1は、ケース40Aの側面(側板412)からの熱の出入りを基板10に伝えるための高熱伝導膜53を備える。ここで、高熱伝導とは熱抵抗率で0.01m・K/W前後(熱伝導率として100W/m/K前後)と規定され、高熱伝導膜53にはアルミニウム箔が好ましく採用される。
【0083】
この実施形態によると、高熱伝導膜(アルミニウム箔)53は、基板10の下面周縁から断熱材31の内面にかけて、それらの各面に密着するように配置される。これによれば、環境温度が変化した場合でも、基板10を経由して体表面温度(皮膚温度)Tskが変化するため、体表面温度Tskだけが単独で変化することによる誤差を排除することができる。
【0084】
高熱伝導膜53は、赤外線放射率がゼロに近い(ほぼ0である)ことが好ましい。その理由は、熱伝導の限界で基板10に十分に熱を伝えられないような場合でも、断熱材31の温度変化が空気層Aに向かって放射されないようにするためである。
【0085】
なお、高熱伝導膜53は、先の
図3ないし
図6で説明した底面が開放されているケース40を備える各実施形態の場合にも適用可能である。この場合には、例えば
図5(b)に示すように、高熱伝導膜53は、ケース40内において側板402から基板10にかけて配設される。
【0086】
次に、先の
図4で説明した第4実施形態に係る生体データ測定装置1を例にして、体温測定時における各部の熱抵抗と温度との関係について説明する。
【0087】
まず、
図10(a)のグラフは、横軸を熱抵抗Rth(単位;K・m
2/W),縦軸を温度(単位;℃)とする冬季での各部における熱流(Heat Flux)の推移を示している。このグラフでは、例えば深部体温36.5℃、環境温度0℃とし、肌着+シャツ+セータを着用している冬季を想定している。
【0088】
体内深部から体表面(25mmの厚さを仮定)、静止大気(基板の上下にそれぞれ3mmの空気層を仮定)、冬季衣服(肌着やシャツやセーターの下にそれぞれ1mmの空気層を仮定)、開放大気(対流あり)の各熱抵抗率と熱抵抗は
図10(b)の表を参照。
【0089】
図10(a)のグラフにおいて、直線の傾き(T/Rth)は熱流(Heat Flux)Ithとなり、この例の場合、Ith=55W/m
2となる。
【0090】
次に、
図11(a)のグラフは、横軸を熱抵抗Rth(単位;K・m
2/W),縦軸を温度(単位;℃)とする夏季での各部における熱流(Heat Flux)の推移を示している。このグラフでは、深部体温36.5℃、環境温度25℃とし、シャツのみを着用している夏季を想定している。
【0091】
体内深部から体表面(25mmの厚さを仮定)、静止大気(基板の上下にそれぞれ3mmの空気層を仮定)、夏季衣服(シャツの下に1mmの空気層を仮定)、開放大気(対流あり)の各熱抵抗率と熱抵抗は
図11(b)の表を参照。
【0092】
図11(a)のグラフにおいて、直線の傾き(T/Rth)は熱流(Heat Flux)Ithとなり、この例の場合、Ith=23W/m
2となる。
【0093】
次に、先の
図5で説明した第5実施形態に係る2つの温度計を有する生体データ測定装置1について、その体温測定時における各部の熱抵抗と温度との関係を
図12により説明する。
【0094】
図12(a)のグラフは、
図11(a)のグラフと同じく、深部体温36.5℃、環境温度25℃とし、シャツのみを着用している夏季を想定している。
【0095】
体内深部から体表面(25mmの厚さを仮定)、静止大気(第2温度計20bの基板の上下にそれぞれ3mmの空気層を仮定)、断熱材(第1温度計20aの基板上面に厚さ3mmのポリスチレンを設定)、夏季衣服(シャツの下に1mmの空気層を仮定)、開放大気(対流あり)の各熱抵抗率と熱抵抗は
図12(b)の表を参照。
【0096】
図12(a)のグラフにおいて、破線が第1温度計20aにて測定される熱流Ith1で、実線が第2温度計20bにて測定される熱流Ith2である。これら熱流Ith1とIth2とが異なることから、体表面温度Tskと熱流Ith1,Ith2とから深部体温Tcoreを計算することができる。
【0097】
以上説明したように、本発明の生体データ測定装置は、基本的な構成として、基板と、基板に搭載される放射温度計および基板温度計と、基板を体表面に対して所定距離離れた位置に支持する支持部材とを備えて構成されることから、構成が簡単で低コストで作成することができる。また、基板と体表面との間の断熱層が空気層であるため、基板と体表面との間の熱抵抗を大きな値とすることができる。
【符号の説明】
【0098】
1 生体データ測定装置
10(10a,10b) 基板
11 フレキシブル基板
20(20a,20b) 温度計
21 放射温度計
22 基板温度計
30 支持部材
31 断熱材
40,40A ケース
41 ケース本体
42 蓋
51 シート
52 粘着ゲル
53 高熱伝導膜
60 ベルト
70 保護カバー