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▶ アサヒ飲料株式会社の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-24
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】着色飲料
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/58 20060101AFI20220128BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20220128BHJP
   A23L 2/68 20060101ALI20220128BHJP
   A23L 5/43 20160101ALN20220128BHJP
   A23L 5/44 20160101ALN20220128BHJP
【FI】
A23L2/00 M
A23L2/38 P
A23L2/58
A23L2/68
A23L5/43
A23L5/44
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017158610
(22)【出願日】2017-08-21
(65)【公開番号】P2019033722
(43)【公開日】2019-03-07
【審査請求日】2020-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】596126465
【氏名又は名称】アサヒ飲料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100193493
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原 健史
(72)【発明者】
【氏名】初川 淳一
(72)【発明者】
【氏名】高岸 知輝
【審査官】茅根 文子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-000230(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0036930(KR,A)
【文献】特開2010-130992(JP,A)
【文献】特開平02-214780(JP,A)
【文献】特表2009-523407(JP,A)
【文献】特開2003-018979(JP,A)
【文献】特開2005-065525(JP,A)
【文献】特表昭55-500373(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00-2/84
A23L 5/40-5/49
A23L 31/00-33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アントシアニン系色素と、
リン酸と、
マリーゴールド色素と、
を含有し、
pHが3.5以下である、着色飲料。
【請求項2】
前記リン酸が、オルトリン酸である、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
前記マリーゴールド色素の含有量が、0.05~10ppmである、請求項1又は2に記載の飲料。
【請求項4】
前記アントシアニン系色素の含有量が0.0001~0.05質量%である、請求項1乃至3のいずれかに記載の飲料。
【請求項5】
更に、乳成分を含有する、請求項1乃至4のいずれかに記載の飲料。
【請求項6】
前記アントシアニン系色素が、紫イモ色素、赤ダイコン色素、及び赤キャベツ色素からなる群から選ばれる少なくとも一種の色素を含有する、請求項1乃至5のいずれかに記載
の飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
天然色素によって着色された着色飲料が知られている。天然色素の一種として、アントシアニン系色素が知られている。アントシアニン系色素には、光等によって劣化しやすいという問題点がある。
【0003】
上記に関連して、特許文献1には、アントシアニンに、ミリセチンその他のフラボノイド類及び/又は、ケンフェロールその他のフラボノール類とフィチン酸及び/又は、フィチン酸とを添加することを特徴とするアントシアニン色素の退色防止法が開示されている。
また、特許文献2には、赤キャベツ色素の粉末又は酸性溶液にルチン及び/又はケルセチンとフィチン及び/又はフィチン酸とを添加することを特徴とする赤キャベツ色素の退色防止法が開示されている。
また、特許文献3には、加熱殺菌に伴う異風味を緩和するための、果汁飲料の製造におけるリン酸の使用が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭62-19068号公報
【文献】特開昭61-282032号公報
【文献】特開2011-167170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アントシアニン系色素を含有する着色飲料に対しては、光及び熱に対する安定性をより高めることが求められている。
そこで本発明の課題は、光及び熱に対する安定性がより高められたアントシアニン系色素を含有する着色飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の事項を含んでいる。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕アントシアニン系色素と、
リン酸と、
を含有し、
pH3.5以下である、着色飲料。
〔2〕更に、マリーゴールド色素を含有する、前記〔1〕に記載の飲料。
〔3〕前記マリーゴールド色素の含有量が、0.05~10ppmである、前記〔2〕に記載の飲料。
〔4〕前記アントシアニン系色素の含有量が0.0001~0.05質量%である、前記〔1〕乃至〔3〕のいずれかに記載の飲料。
〔5〕更に、乳成分を含有する、前記〔1〕乃至〔4〕のいずれかに記載の飲料。
〔6〕前記アントシアニン系色素が、紫イモ色素、赤ダイコン色素、及び赤キャベツ色素からなる群から選ばれる少なくとも一種の色素を含有する、前記〔1〕乃至〔5〕のいずれかに記載の飲料。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、光及び熱に対する安定性がより高められたアントシアニン系色素を含有する着色飲料が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施形態に係る飲料は、アントシアニン系色素とリン酸を含有し、pHが3.5以下である着色飲料である。
【0009】
アントシアニン系色素としては、例えば、アカキャベツ色素(主色素はシアニジンアシルグリコシドと言われている)、シソ色素(主色素はシアニジン、マロニルシソニンと言われている)、ブドウ果汁色素(主色素はマルビジン-3-グルコシド等と言われている)およびブドウ果皮色素(主色素はマルビジン-3-グルコシドと言われている)、ムラサキイモ色素(主色素はシアニジンアシルグルコシドおよびペオニジンシルグルコシドと言われている)、アカダイコン色素(主色素はペラルゴニジンアシルグリコシドと言われている)が挙げられる。これらの中でも、アカキャベツ色素、アカダイコン色素、及びムラサキイモ色素が好ましく、ムラサキイモ色素がより好ましい。
【0010】
飲料中におけるアントシアニン系色素の含有量は、例えば0.0001~0.05質量%、好ましくは0.0005~0.03質量%、より好ましくは0.001~0.01質量%である。
【0011】
飲料のpHは、上述のように3.5以下である。より好ましくは、pHは3.4以下である。また、pHの下限は、好ましくは2.8であり、より好ましくは3.0である。本発明者らの知見によれば、アントシアニン系色素の安定性はpHに依存するが、pHが3.5以下であれば良好な安定性を得ることができ、pH3.4以下であればさらに安定性が良好である。
【0012】
飲料は、上述のように、酸味料としてリン酸を含有する。使用するリン酸は、好ましくはオルトリン酸(正リン酸)である。上記の通り、飲料のpHは3.5以下であり、3.4以下であることが好ましい。しかしながら、飲料のpHを3.5以下に設定すると、酸味が強くなる。これに対して、酸味料としてリン酸を用いた場合には、酸味の強さを抑えたまま、まろやかさを保ちつつ、pHを3.5以下に調整することができる。
リン酸の含有量は、例えば0.01~0.2質量%、好ましくは0.05~0.15質量%である。このような範囲内であれば、リン酸特有の収斂味を伴ったシャープな酸味が目立たない。
尚、飲料には、リン酸以外の酸味料が含まれていてもよい。他の酸味料としては特に限定されるものではないが、例えば、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、酢酸、フィチン酸、グルコン酸、コハク酸、フマール酸等が挙げられ、好ましいものとしては乳酸およびクエン酸が挙げられる。
【0013】
飲料は、好ましくは、更にマリーゴールド色素を含有する。マリーゴールド色素を含有することによって、アントシアニン系色素を含有する飲料における安定性を更に高めることができる。マリーゴールド色素とは、キク科マリーゴールドの花から抽出された黄色の色素であり、主成分はカロテノイド系のルテイン、ゼアキサンチンである。
飲料中におけるマリーゴールド色素の含有量は、例えば0.05~10ppm、好ましくは0.1~5ppm、より好ましくは0.2~1ppmである。マリーゴールド色素の含有量が10ppm以下であれば、マリーゴールド色素の黄色味が飲料の色に影響を与えない。
【0014】
本実施形態に係る飲料は、好ましくは、乳成分を含有する乳性飲料である。
乳性飲料においてリン酸を添加した場合には、まろやかさをより維持したまま、pHを下げることができる。また、乳性飲料において、リン酸を添加し、pHを3.5以下とすることにより、アントシアニン系色素をより安定化させることができる。
乳成分は、獣乳及び植物乳の何れを由来とするものであってもよい。獣乳としては、例えば、牛乳、山羊乳、羊乳及び馬乳等が挙げられ、植物乳としては例えば豆乳等が挙げられる。これらの中でも牛乳が好ましい。
乳成分の原料の形態としては、例えば、全脂乳、脱脂乳、乳清、乳蛋白濃縮物、バターミルク粉、無糖練乳、脱脂加糖練乳、全脂加糖練乳、生クリーム、及び発酵乳が挙げられる。また、粉乳や濃縮乳から還元した乳も使用できる。中でも、生乳と脱脂粉乳が好ましく、脱脂粉乳がより好ましい。また、乳原料としては、単一種類の原料を使用しても、複数の種類の原料を使用してもよい。
乳成分は、例えば、無脂乳固形分(SNF)濃度が0.01~3質量%となるような含有量で用いられる。
また、飲料中における乳脂肪分は、0.1質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.05質量%以下であり、さらに好ましくは0.01質量%以下である。
【0015】
飲料には、上記各成分以外に、必要に応じて他の成分が含まれていてもよい。
他の成分としては、例えば、甘味料、安定剤、果汁、及び香料等が挙げられる。
甘味料としては、例えば、糖類、及び高甘味度甘味料などが挙げられる。糖類としては、単糖類、二糖類、オリゴ糖類及び糖アルコール等が挙げられる。そのような糖類としては、例えば、果糖、ぶどう糖、ショ糖、乳糖、麦芽糖、アラビノース、トレハロース、エリスリトール、マルチトール及びキシリトール等が挙げられる。高甘味度甘味料としては、例えば、スクラロース、ステビア、アセスルファムカリウム、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、グリチルリチン、グリチルリチン酸ジカリウム、アドバンテーム、ネオテーム及びソーマチン等が挙げられる。
安定剤としては、例えば、大豆多糖類、ペクチン、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ジェランガム、グアーガム、タラガム、加工デンプン及びキサンタンガムが挙げられる。
果汁としては、例えば、ぶどう果汁、いちご果汁、ラズベリー果汁、ブルーベリー果汁、グァバ果汁、アセロラ果汁、ブラッドオレンジ果汁、ピンクグレープフルーツ果汁等が挙げられる。また、飲料の果汁率は、特に限定されないが、0.1~50%が好ましく、0.1~10%がより好ましい。ここで、果汁率とは、果汁を搾汁して得られるストレート果汁を100%としたときの相対濃度であり、JAS規格(果実飲料の日本農林規格)に示される糖用屈折計示度の基準(°Bx)又は酸度の基準(%)に基づいて換算できる。
【0016】
飲料のクエン酸換算酸度は、0.1~0.4質量%であることが好ましく、より好ましくは0.15~0.35質量%である。クエン酸換算酸度は、例えば、果実飲料の日本農林規格(平成25年12月24日農水告第3118号)で定められた酸度の測定方法に基づいて、算出することができる。
【0017】
飲料の糖度(°Bx)は、特に限定されるものではないが、例えば、0.1~16、好ましくは1~8である。
尚、糖度とは、20℃における糖用屈折計の示度であり、例えばデジタル屈折計Rx-5000(アタゴ社製)を使用して20℃で測定した固形分量とすることができる。
【0018】
飲料が乳性飲料である場合、ストレート飲料(希釈することなくそのまま飲む飲料)であることが好ましい。
飲料は、アルコール飲料であっても非アルコール飲料であってもよいが、非アルコール飲料であることが好ましい。
飲料は、炭酸飲料であっても非炭酸飲料であってもよいが、非炭酸飲料であることが好ましい。
【0019】
[実施例]
以下、本発明者らによって行われた実施例を参照しつつ、本発明に係る飲料をより詳細に説明する。
【0020】
(実験例1)
表1に示す組成で、アントシアニン系色素であるムラサキイモ色素(色価230)、リン酸、マリーゴールド色素(色価2550)、脱脂粉乳、及び安定剤等を、総量で1Lとなるように混合した。尚、クエン酸三ナトリウムの添加量は、飲料のpHが所定の値になるように調整した。また、精製水の添加量は、全量が1Lになるように調整した。得られた混合物200mLを、透明のPET容器にホットパック充填し、比較例1乃至2、実施例1乃至3に係る飲料を得た。
得られた飲料を、50℃、50000Luxで、24時間保存した。
保存前後の飲料の色調変化を調べるために、分光測色計(コニカミノルタ社製CM-5)を用いて、ハンターLab表色系でa及びΔEを測定した。
【0021】
測定条件;
ソフトウェア:SpectraMagic NX
反射測定:SCE(正反射光除去方法)、測定径φ30mm
ターゲットマスク:φ30mm用
付属品のゼロ校正ボックスでゼロ校正を行った後、白色校正を行った。測定する試料は20℃に温調し、容器はφ30mmのガラスシャーレを用いた。尚、色差ΔEの値は小さい方が色の変化量が少なく、アントシアニン系色素の安定性が高いことを意味する。また、aは飲料の赤色の強さを示す値であり、保存後のaの値が大きい程、アントシアニン系色素による赤色が維持されていることを示す。
【0022】
結果を表1に示す。
表1に示されるように、実施例1乃至3に係る飲料は、比較例1及び2に係る飲料よりも、aの値が大きく、ΔEの値が小さかった。すなわち、リン酸やマリーゴールド色素を添加することにより、アントシアニン系色素の安定性が向上することが判った。
【0023】
また、比較例1、実施例1及び2に係る飲料について、評価者10名にて官能評価を実施した。
評価項目は、酸味の強さ、まろやかさ、及びおいしさとした。各評価項目の評価尺度は、以下の通りとした。
[酸味の強さ]
2点:強い
1点:やや強い
0点:どちらともいえない
-1点:やや弱い
-2点:弱い
[まろやかさ]
4点:かなりある
3点:ある
2点:ややある
1点:わずかにある
0点:ない
[おいしさ]
2点:おいしい
1点:ややおいしい
0点:どちらともいえない
-1点:ややまずい
-2点:まずい
【0024】
結果を表1に示す。
表1に示されるように、酸度が同じであり、pHが低いのにもかかわらず、実施例1及び2に係る飲料は、比較例1と同等以上の官能評価結果が得られた。低pH飲料においては、酸味が強くなり過ぎることが懸念されるが、酸味料としてリン酸を使用した場合には、まろやかさを維持したまま、pHを下げることができることが判った。
なお、フィチン酸を0.1質量%添加したところ、乳蛋白質が凝集沈殿したため、乳性飲料としての品質を保つことができないと判断し、色差の測定及び風味評価を断念した。
【0025】
【表1】