(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-24
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】かつら
(51)【国際特許分類】
A41G 3/00 20060101AFI20220111BHJP
【FI】
A41G3/00 E
A41G3/00 F
(21)【出願番号】P 2017168319
(22)【出願日】2017-09-01
【審査請求日】2020-08-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000126218
【氏名又は名称】株式会社アートネイチャー
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】石木 淳夫
(72)【発明者】
【氏名】田中 一生
【審査官】大内 康裕
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-324317(JP,A)
【文献】特開2002-115115(JP,A)
【文献】特開2008-095249(JP,A)
【文献】特開2001-329420(JP,A)
【文献】特表2016-516141(JP,A)
【文献】特開平11-323646(JP,A)
【文献】特開2010-196182(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0099898(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41G 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄毛用のかつらであって、
前記かつらの外周縁の全部又は一部を構成するアウトラインベルトと、
前記アウトラインベルトの内側から前記アウトラインベルトに向かって放射状に設けられ、前記自毛を引き出すための間隔を形成する複数本のアウトラインフィラメントと、を含み、
前記アウトラインフィラメントは、直径1mm未満の熱可塑性樹脂製の細線からなり、放射状に設けられた状態において、前記頭部の形状に対応する第1湾曲と、前記自毛の毛流に対応する第2湾曲とを呈し、外力を受けたときに変形する柔軟性と、外力を受けていないときに前記第1及び第2湾曲を復元させる形状弾性とを備えるかつら。
【請求項2】
隣り合う前記アウトラインフィラメントの両端部のうち、前記アウトラインベルトに固定される一端部どうしが、これらのアウトラインフィラメントと交差する方向に延びる前記細線の部分によって連続する請求項1に記載のかつら。
【請求項3】
前記アウトラインフィラメントが、エンジニアリングプラスチック製又はスーパーエンジニアリングプラスチック製の前記細線からなる請求項1又は2に記載のかつら。
【請求項4】
前記アウトラインフィラメントが、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド又はポリアミドイミドのいずれかのスーパーエンジニアリングプラスチック製の前記細線からなる請求項3に記載のかつら。
【請求項5】
前記アウトラインフィラメントが、直径0.29mm~0.50mmのポリエーテルエーテルケトン製の前記細線からなる請求項4に記載のかつら。
【請求項6】
前記アウトラインフィラメントが、直径0.3mmのポリエーテルエーテルケトン製の前記細線からなる請求項4に記載のかつら。
【請求項7】
前記アウトラインフィラメントに、増毛用の毛髪が結着される請求項1~6のいずれか1項に記載のかつら。
【請求項8】
前記アウトラインフィラメントの全部又は一部が、これらのアウトラインフィラメントと交差する方向に延びる、直径1mm未満の熱可塑性樹脂製の細線からなる補強フィラメントに結合される請求項1~7のいずれか1項に記載のかつら。
【請求項9】
前記頭部の所定部分を覆う面積を有し、増毛用の毛髪が植設される少なくとも一つのベースを備える請求項1~8のいずれか1項に記載のかつら。
【請求項10】
隣り合う前記アウトラインフィラメントの両端部のうち、前記ベースに固定される他端部どうしが、これらのアウトラインフィラメントと交差する方向に延びる前記細線の部分によって連続する請求項9に記載のかつら。
【請求項11】
前記ベースが、少なくとも旋毛を覆う面積を有する旋毛ベースであり、前記アウトラインフィラメントが、前記旋毛ベースから前記アウトラインベルトに向かって放射状に架設された請求項9又は10に記載のかつら。
【請求項12】
前記旋毛ベースの形状が、後方から前方にかけて面積が狭くなる略滴形である請求項11に記載のかつら。
【請求項13】
前記ベースが、少なくとも分け目を覆う面積を有する分け目ベースであり、前記アウトラインフィラメントが、前記分け目ベースから前記アウトラインベルトに向かって放射状に架設される請求項9又は10に記載のかつら。
【請求項14】
前記ベースが、少なくとも前頭部の生え際を覆う面積を有する生え際ベースであり、放射状に設けられた前記アウトラインフィラメントの一端部が、前記生え際ベースに固定される請求項9に記載のかつら。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄毛用のかつらに関し、特に、繊細で軽く柔軟性に富み、装着感を殆ど感じないかつらに関する。
【背景技術】
【0002】
男女を問わず、薄毛の一般的な対策として増毛とかつらが知られている。増毛は、頭部に生えている自毛に、人工毛や人毛(以下「毛髪」という)を結着する施術である。例えば、特許文献1に開示されているように、一本の自毛の根元に毛髪をV字形に結着して、毛量を三本に増やす。一方、薄毛用のかつらは、かつらの毛髪と頭部の自毛とを混ぜ合せることが可能な構成となっている。例えば、特許文献2に開示されているように、頭部を覆うネット状のベースのうち、薄毛に対応する部分に毛髪を植設し、これ以外の部分をカッターで切除して自毛の引き出しを可能とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-63457号公報
【文献】特開平5-295605号公報
【文献】特開2002-115115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
生え際、分け目、旋毛などの部分的な薄毛には、かつらよりも増毛が好適である。増毛は、薄毛が気になる部分の毛量をピンポイントで増すことができ、外観も自然であり、かつらのような装着感が全くない。しかし、毛髪を結着した自毛が伸びると、毛髪の結び目が上へと移動し、不自然な状態になる。このため、増毛には、専門家による月々のメンテナンスが必要であり、維持費が掛かる。このような経済的な理由から、増毛は、有効な薄毛対策でありながら、積極的に利用されていない。
【0005】
一方、薄毛用のかつらは、頭部を覆って自毛を引き出す構成であるため、頭皮や自毛から伝わる装着感が煩わしい。特に、薄毛の程度が軽い人は、装着感の煩わしさを我慢してまで、かつらを利用しようとは思わない。例えば、特許文献2のかつらは、第1及び第2形態保持体を放射状に設けて、ベースが容易に変形しないようにしている。自毛は、第1及び第2形態保持体の間から引き出される。容易に変形しない第1及び第2形態保持体は、頭皮及び自毛に接触圧を生じさせ、頭部に装着感を与える。
【0006】
ここで、特許文献3には、複数本のリブを、かつらのアウトラインを形成しないように屈曲して骨格様のフレームワークを形成し、この骨格様のフレームワークに多数の擬毛を取り付けて周縁枠を有しない植毛フレームを構成し、この植毛フレームの間から引き出した装着者の自毛と、リブに取り付けた擬毛とを混ぜ合わせて装着するかつらが開示されている。
【0007】
特許文献3のかつらは、複数本のリブのいずれもが、かつらのアウトラインを形成しないので、頭皮への圧迫は軽減されるものと考えられる。しかし、各リブは、弾性を備えた剛性材料から成る芯材と、この芯材を覆う熱収縮性のチューブとで形成されており、その重量、接触面積及び硬さが、かつらの物理的存在を頭部に感じさせる。また、弾性と剛性とを兼ね備えた各リブは、その間から引き出された自毛に接触圧を生じさせる。
【0008】
本発明は、繊細で軽く柔軟性に富み、装着感を殆ど感じさせず、薄毛対策として誰でも手軽に利用することができるかつらを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記目的を達成するために、本発明のかつらは、薄毛用のかつらであって、前記かつらの外周縁の全部又は一部を構成するアウトラインベルトと、前記アウトラインベルトの内側から前記アウトラインベルトに向かって放射状に設けられ、前記自毛を引き出すための間隔を形成する複数本のアウトラインフィラメントと、を含み、前記アウトラインフィラメントは、直径1mm未満の熱可塑性樹脂製の細線からなり、放射状に設けられた状態において、前記頭部の形状に対応する第1湾曲と、前記自毛の毛流に対応する第2湾曲とを呈し、外力を受けたときに変形する柔軟性と、外力を受けていないときに前記第1及び第2湾曲を復元させる形状弾性とを備える。
【0010】
(2)好ましくは、上記(1)のかつらにおいて、隣り合う前記アウトラインフィラメントの両端部のうち、前記アウトラインベルトに固定される一端部どうしが、これらのアウトラインフィラメントと交差する方向に延びる前記細線の部分によって連続する。
【0011】
(3)好ましくは、上記(1)又は(2)のかつらにおいて、前記アウトラインフィラメントが、エンジニアリングプラスチック製又はスーパーエンジニアリングプラスチック製の前記細線からなる。
【0012】
(4)好ましくは、上記(3)のかつらにおいて、前記アウトラインフィラメントが、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド又はポリアミドイミドのいずれかのスーパーエンジニアリングプラスチック製の前記細線からなる。
【0013】
(5)好ましくは、上記(4)のかつらにおいて、前記アウトラインフィラメントが、直径0.29mm~0.50mmのポリエーテルエーテルケトン製の前記細線からなる。
【0014】
(6)好ましくは、上記(4)のかつらにおいて、前記アウトラインフィラメントが、直径0.3mmのポリエーテルエーテルケトン製の前記細線からなる。
【0015】
(7)好ましくは、上記(1)~(6)のいずれかのかつらにおいて、前記アウトラインフィラメントに、増毛用の毛髪が結着される。
【0016】
(8)好ましくは、上記(1)~(7)のいずれかのかつらにおいて、前記アウトラインフィラメントの全部又は一部が、これらのアウトラインフィラメントと交差する方向に延びる、直径1mm未満の熱可塑性樹脂製の細線からなる補強フィラメントに結合される。
【0017】
(9)好ましくは、上記(1)~(8)のいずれかのかつらにおいて、前記頭部の所定部分を覆う面積を有し、増毛用の毛髪が植設される少なくとも一つのベースを備える。
【0018】
(10)好ましくは、上記(9)のかつらにおいて、隣り合う前記アウトラインフィラメントの両端部のうち、前記ベースに固定される他端部どうしが、これらのアウトラインフィラメントと交差する方向に延びる前記細線の部分によって連続する。
【0019】
(11)好ましくは、上記(9)又は(10)のかつらにおいて、前記ベースが、少なくとも旋毛を覆う面積を有する旋毛ベースであり、前記アウトラインフィラメントが、前記旋毛ベースから前記アウトラインベルトに向かって放射状に架設される。
【0020】
(12)好ましくは、上記(11)のかつらにおいて、前記旋毛ベースの形状が、後方から前方にかけて面積が狭くなる略滴形である。
【0021】
(13)好ましくは、上記(9)又は(10)のかつらにおいて、前記ベースが、少なくとも分け目を覆う面積を有する分け目ベースであり、前記アウトラインフィラメントが、前記分け目ベースから前記アウトラインベルトに向かって放射状に架設される。
【0022】
(14)好ましくは、上記(9)のかつらにおいて、前記ベースが、少なくとも前頭部の生え際を覆う面積を有する生え際ベースであり、放射状に設けられた前記アウトラインフィラメントの一端部が、前記生え際ベースに固定される。
【発明の効果】
【0023】
本発明のかつらによれば、繊細で軽く柔軟性に富み、装着感を殆ど感じさせず、薄毛対策として誰でも手軽に利用することができる。
【0024】
すなわち、本発明のかつらの外郭は、複数のアウトラインフィラメントと、アウトラインベルトとによって構成される。このうち、アウトラインフィラメントは、直径1mm未満の熱可塑性樹脂製の細線であり、繊細で軽く、重量、接触面積及び硬さといった物理的存在を頭部に感じさせない。また、アウトラインフィラメントは、頭部の形状及び自毛の毛流に対応する立体的な湾曲を呈しており、頭部の形状及び自毛の毛流に馴染みやすい。さらに、アウトラインフィラメントは、外力を受けて容易に変形する柔軟性を備え、頭皮や自毛に接触圧を生じさせないだけでなく、自らが頭部の形状や自毛の毛流に沿って変形する。以上のようなアウトラインフィラメントの作用によって、装着感を殆ど感じさせない、施術としての増毛により近いかつらが実現する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】第1実施形態に係るかつらを示す平面図及び背面図である。
【
図2】上記かつらの各構成要素を示す平面図である。
【
図3】上記かつらを構成するアウトラインフィラメントを示す斜視図である。
【
図4】大、中、小の3種類の上記かつらを示す平面図である。
【
図5】拡張ベースを追加した3種類の上記かつらを示す平面図である。
【
図6】第2実施形態に係る3種類のかつらを示す平面図である。
【
図7】第3実施形態に係るかつらを示す平面図及び背面図である。
【
図8】第4実施形態に係る4種類のかつらを示す平面図である。
【
図9】第5実施形態に係る4種類のかつらを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<第1実施形態>
まず、本発明の第1実施形態に係るかつらについて、
図1~
図5を参照して説明する。
【0027】
<<全体構成>>
図1(a)、(b)及び
図2において、第1実施形態のかつら1は、主として、旋毛ベース10、生え際ベース20、アウトラインベルト40、アウトラインフィラメント50及び補強フィラメント60で構成される。旋毛ベース10は、頭部の旋毛に対応する。生え際ベース20は、頭部の生え際に対応する。
【0028】
旋毛ベース10、生え際ベース20及びアウトラインベルト40は、いずれも薄いネットからなる。ネットの素材としては、成形性及び耐熱性等に優れたナイロン、ポリエステル、アクリルなどの合成樹脂が好ましい。但し、綿、麻、絹等の天然繊維からなるネットを用いてもよい。一方、アウトラインフィラメント50及び補強フィラメント60は、直径1mm未満の熱可塑性樹脂製の細線からなる。細線の詳細は、後述する。
【0029】
旋毛ベース10、生え際ベース20、アウトラインベルト40を構成するネット、及びアウトラインフィラメント50、補強フィラメント60を構成する細線には、いずれも人工毛又は人毛である毛髪が結着されるが、説明の便宜上、毛髪の図示を省略する。これらのネット及び細線の色は、これに植設される毛髪の色と近似した黒色、茶色又は白色などにするとよい。これにより、ネット及び細線に結着された毛髪の結び目が目立たなくなる効果がある。
【0030】
生え際ベース20の後述する折り返し部分21及びアウトラインベルト40は、かつら1の外周縁を構成し、この外周縁よりも内側に、旋毛ベース10、アウトラインフィラメント50及び補強フィラメント60が配置される。旋毛ベース10は、アウトラインフィラメント50によって支持され、頭部の旋毛に対応する位置に配置される。
【0031】
アウトラインフィラメント50は、旋毛ベース10を中心にして、生え際ベース20及びアウトラインベルト40に向かって放射状に設けられる。隣り合う二本のアウトラインフィラメント50は、頭部に生えた自毛を引き出すための間隔を形成する。全てのアウトラインフィラメント50のうち、比較的に全長の長いものどうしは、補強フィラメント60に結合される。補強フィラメント60によって、全長の長いアウトラインフィラメント50が撓みにくくなり、互いの間隔が保持されて、自毛が引き出しやすくなる。
図1(a)、(b)に示す補強フィラメント60の結合部61は、結び目であってもよいし、熱溶着であってもよい。
【0032】
<<旋毛ベース>>
旋毛ベース10は、薄くなった旋毛を覆い隠すものである。本実施形態では、旋毛ベース10の形状が、かつら1の後方から前方にかけて面積が狭くなる略滴形となっている。旋毛ベース10を構成するネットには、旋毛の自毛の毛流を再現するよう、例えば、右巻き、左巻き又は放射状に毛髪が植設される。仮に、旋毛ベースを円形としたならば、これに植設された毛髪は、均等に放射状に広がる。これに対し、本実施形態の旋毛ベース10のように、かつら1の後方から前方にかけて面積が狭くなる略滴形とすることにより、これに植設した毛髪が前方及び左右方向を向きやすくなり、旋毛の自然な毛流を再現することが可能となる。
【0033】
旋毛ベース10を構成するネットの周縁部は、折返し部分11になっている。この折返し部分11には、全てのアウトラインフィラメント50の一端部が固定される。旋毛ベース10に植設された毛髪の毛流は、アウトラインフィラメント50の後述する第2湾曲50b(
図3を参照)に連続し、放射状に広がってかつら1全体に及ぶ。つまり、旋毛ベース10の毛髪の毛流は、かつら1全体の毛流の起点となる。
【0034】
なお、
図1、
図4、
図5に示す本実施形態のかつら1は、旋毛ベース10をかつら1の中心からシフトした位置に設けているが、旋毛ベース10は、かつら1の中心に設けてもよい。要するに、旋毛ベース10は、実際の頭部の旋毛に対応する位置に配置される。
【0035】
<<生え際ベース>>
生え際ベース20は、薄くなった生え際を覆い隠すものである。生え際ベース20を構成するネットの周縁部は、折返し部分21になっている。この折返し部分21には、前方に配置されたアウトラインフィラメント50の他端部が固定される。本実施形態では、生え際ベース20の前端縁に沿って、波形ネット22が前方に突出するように設けられている。波形ネット22は、これに植設された毛髪と、生え際の自毛との混ざり合いを良好にし、かつら1と生え際の自毛との境界を目立たなくする。
【0036】
<<アウトラインベルト>>
アウトラインベルト40は、幅の狭い帯状のネットを長手方向に沿って二つ折りにした構成となっている(
図3を参照)。本実施形態では、幅4mmの帯状のネットを二つ折りにして、幅2mmのアウトラインベルト40を構成した。アウトラインベルト40の二つ折りにしたネットの間には、左右及び後方に配置されたアウトラインフィラメント50の他端部が固定される。
【0037】
<<アウトラインフィラメント-素材>>
アウトラインフィラメント50の素材は、引張強度(kgf/cm2)及び曲げ強度(kgf/cm2)に優れ、耐熱温度(℃)が比較的に高いものであれば、特に限定されない。好ましくは、アウトラインフィラメント50を、エンジニアリングプラスチック製又はスーパーエンジニアリングプラスチック製の細線によって構成し、細線の直径を可能な限り細くするとよい。アウトラインフィラメント50は、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、熱可塑性ポリイミド(TPI)又はポリアミドイミド(PAI)のいずれかのスーパーエンジニアリングプラスチック製の細線で構成するとよい。下記の表1に、アウトラインフィラメント50を構成する細線の実施例を示す。
【0038】
【0039】
但し、引張試験をした細線は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)の黒色モノフィラメントであり、標線間距離:20mm、引張速度500mm/分である。アウトラインフィラメント50の素材をポリエーテルエーテルケトン(PEEK)とした場合は、直径0.29mm~0.50mmの範囲とすることができるが、特に、破断しにくい強さと繊細さとを兼ね備えた直径0.30mmが好ましい。なお、補強フィラメント60は、アウトラインフィラメント50と同一仕様の細線で構成してもよいし、異なる仕様の細線で構成してもよい。
【0040】
<<アウトラインフィラメント-形状>>
図2に示すように、本実施形態では、略四角形状に連続する細線によって、所定の間隔をあけたアウトラインフィラメント50のペアを構成している。アウトラインフィラメント50のペアは、その一端部どうし及び他端部どうしが、これらのアウトラインフィラメント50と交差する方向に延びる細線部分51、52によって連続する。
図3に示すように、一端部の細線部分51の幅は5mm~30mm程度であり、他端部の細線部分52の幅は10mm~50mm程度である。
図1(a)及び
図2に示すように、アウトラインフィラメント50の複数のペアは、所定の間隔をあけて放射状に並べられた状態で、旋毛ベース10と、生え際ベース20又はアウトラインベルト40との間に架設される。
【0041】
図1(a)及び
図3に示すように、アウトラインフィラメント50のペアの一端部を繋ぐ細線部分51は、全て旋毛ベース10の折返し部分11の中に包まれた状態で固定される。一方、アウトラインフィラメント50のペアの他端部を繋ぐ細線部分52は、生え際ベース20の折返し部分21、又はアウトラインベルト40の二つ折りにしたネットの中に包まれた状態で固定される。
【0042】
アウトラインフィラメント50のペアを略四角形状に連続させたことにより、旋毛ベース10、生え際ベース20及びアウトラインベルト40への安定的な固定が可能となり、アウトラインフィラメント50によって繊細、軽量かつ丈夫な構造体(かつら1のアウトライン)を構成することができる。
【0043】
<<アウトラインフィラメント-湾曲>>
アウトラインフィラメント50は、旋毛ベース10と、生え際ベース20又はアウトラインベルト40との間に架設された状態において、
図1(a)の水平(前後左右)方向と、
図1(b)の垂直(上下)方向とに立体的に湾曲している。この立体的な湾曲を
図3に示す。
図3中の一点鎖線で示すように、アウトラインフィラメント50は、頭部の形状に対応する第1湾曲50aを呈する。また、
図3中の二点鎖線で示すように、アウトラインフィラメント50は、自毛の毛流に対応する第2湾曲50bを呈する。
【0044】
上述したように、アウトラインフィラメント50の第2湾曲50bは、旋毛ベース10に植設された毛髪の毛流に連続し、放射状に広がってかつら1全体に及ぶ。したがって、アウトラインフィラメント50に毛髪を植設することにより、旋毛を起点とした自毛の毛流を再現したかつら1が実現する。これにより、本実施形態のかつら1は、旋毛を起点とした自毛の毛流に沿って毛髪を増毛することができ、かつら1を装着したときの外観が、極めて自然に見えるようになる。
【0045】
第1湾曲50aの形成方法として、例えば、頭部形状の型の表面にアウトラインフィラメント50を沿わせて加熱する。これにより、アウトラインフィラメント50に、頭部の形状に対応する湾曲が転写される。
【0046】
一方、第2湾曲50bの形成方法として、例えば、頭部に被せた透明のフィルム又はシートに自毛の毛流の方向を書き写し、書き写した方向に沿うように、アウトラインフィラメント50を湾曲させて、旋毛ベース10と、生え際ベース20又はアウトラインベルト40との間に架設する。このように、第2湾曲50bは、アウトラインフィラメント50の一端部と他端部との取付位置を調整することによって形成することができるが、アウトラインフィラメント50自体を加熱変形させて、第2湾曲50bを形成してもよい。
【0047】
ここで、アウトラインフィラメント50は、外力を受けたときに容易に変形する柔軟性と、外力を受けていないときに第1及び第2湾曲50a、50bを復元させる形状弾性とを備える。アウトラインフィラメント50の形状弾性は、かつら1のアウトライン(外郭)を保持し、頭部の旋毛に対応する位置に旋毛ベース10を正確に配置させる。また、かつら1のアウトラインが保持されることで、アウトラインフィラメント50の間隔から自毛を引き出す作業が容易となり、かつら1の正確な装着が可能となる。一方、アウトラインフィラメント50は、その柔軟性により、自らが頭部の形状や自毛の毛流に沿って変形する。この結果、アウトラインフィラメント50は、何ら接触圧を生じさせることなく、頭部の形状や自毛の毛流に完全にフィットする。
【0048】
<<かつらのサイズ>>
本実施形態のかつら1は、薄毛の範囲に応じたサイズにすることが可能である。
図4(a)、(b)、(c)は大、中、小の3種類のかつら1を示す。かつら1の外周縁の形状は、円形、楕円形、その他の任意形状であってもよい。かつら1の縦×横の幅寸法は、特に限定されるものではないが、男女の一般的な頭部の大きさを考慮すると、例えば、最大で縦20cm×横20cm程度とすることができ、最小で縦10cm×横10cm程度とすることができる。かつら1のサイズは、アウトラインフィラメント50の全長によって調整することができ、サイズが大きくなる程、補強フィラメント60の数を増やすことが好ましい。サイズが小さいかつら1には、補強フィラメント60を設けなくてもよい。
【0049】
一実施例として、
図4(a)に示す構成の大サイズのかつら1を、縦18cm×横16cmの幅寸法で作製した。アウトラインフィラメント50及び補強フィラメント60の素材には、上記の表1中の「No.1」に示す直径0.3mmのポリエーテルエーテルケトン(PEEK)製の黒色モノフィラメントを用いた。その結果、毛髪を植設する前のかつら1(
図4(a)に示す構成)の重量は、僅か2g(1円玉二枚分の重量)であった。
【0050】
図4(a)に示す構成の大サイズ(縦18cm×横16cm)のかつら1であれば、約9000本の毛髪を植設することが可能であった。
図4(b)に示す構成の中サイズ(縦14cm×横12cm)のかつら1であれば、約4500本の毛髪を植設することが可能であった。
図4(c)に示す構成の中サイズ(縦10cm×横8cm)のかつら1であれば、約2300本の毛髪を植設することが可能であった。ここで、アウトラインフィラメント50及び補強フィラメント60には、毛髪を隙間なく植設することが好ましい。植設した毛髪が、アウトラインフィラメント50及び補強フィラメント60に沿って動かなくなり、毛髪の挙動が安定するからである。
【0051】
<<拡張ベース>>
薄毛の程度や範囲に応じて、
図5(a)、(b)、(c)に示すような拡張ベース70A、70Bをかつら1の構成に追加してもよい。これらの拡張ベース70A、70Bは、旋毛ベース10、生え際ベース20及びアウトラインベルト40と同様のネットの素材によって構成される。
【0052】
図5(a)に示す拡張ベース70Aは、頭部の分け目に対応する。拡張ベース70Aの外形及び面積は、旋毛ベース10の前方から生え際ベース20に向かって架設された四本のアウトラインフィラメント50の範囲に相当する。このような拡張ベース70Aは、例えば、かつら1の表側に配置され、その外周縁のみが他の構成要素10、20、50に縫着される。なお、拡張ベース70Aは、かつら1の表側に限らず、裏側に配置してもよいし、表裏の両方に二枚重ねにしてもよい。
【0053】
拡張ベース70Aを構成するネットには、図示しない毛髪が植設される。毛髪は、拡張ベース70Aと重複する四本のアウトラインフィラメント50のそれぞれの第2湾曲50b(
図3を参照)の方向に沿うように植設される。旋毛ベース10、拡張ベース70A及び生え際ベース20に植設された毛髪により、旋毛を起点として、分け目から生え際に至る自毛の毛流が再現される。
【0054】
図5(b)に示す拡張ベース70Bは、旋毛ベース10の外周から後頭部に至る範囲に対応する。拡張ベース70Bの外形及び面積は、旋毛ベース10の外周を囲む略円形の補強フィラメント60の範囲と、旋毛ベース10の後方からアウトラインベルト40に向かって架設された四本のアウトラインフィラメント50の範囲とに相当する。このような拡張ベース70Bは、例えば、かつら1の表側に配置され、その外周縁のみが他の構成要素10、40、50、60に縫着される。なお、拡張ベース70Bは、かつら1の表側に限らず、裏側に配置してもよいし、表裏の両方に二枚重ねにしてもよい。
【0055】
拡張ベース70Bを構成するネットには、図示しない毛髪が植設される。毛髪は、拡張ベース70Bと重複する全てのアウトラインフィラメント50のそれぞれの第2湾曲50b(
図3を参照)の方向に沿うように植設される。旋毛ベース10及び拡張ベース70Bに植設された毛髪により、旋毛を起点として、旋毛周りから後頭部に至る自毛の毛流が再現される。
【0056】
図5(c)に示すように、薄毛の範囲が、生え際、分け目、旋毛周りから後頭部に及ぶ場合は、かつら1に拡張ベース70A、70Bの両方を設けてもよい。
【0057】
<第2実施形態>
上述した第1実施形態のかつら1は、略滴形の旋毛ベース10を設けた構成となっていたが、毛髪が植設されるベースは、略滴形の旋毛ベース10に限定されるものではない。本発明の第2実施形態に係る3種類のかつらの構成を、
図6(a)、(b)、(c)に示す。
【0058】
図6(a)に示すかつら2は、かつら2の後頭部に対応する位置に旋毛ベース110を設けた構成となっている。旋毛ベース110の形状は、後方から前方にかけて面積が狭くなる略半楕円形となっている。旋毛ベース110を構成するネットには、旋毛の自毛の毛流を再現するように毛髪が植設される。第1実施形態と同様に、全てのアウトラインフィラメント50は、旋毛ベース110から生え際ベース20又はアウトラインベルト40に向かって架設される。個々のアウトラインフィラメント50の第2湾曲50b(
図3を参照)は、後頭部から前方に向かって左右に分かれる自毛の毛流に対応している。
【0059】
図6(b)、(c)に示すかつら2は、略長円形の分け目ベース30を、かつら2の中心、又は中心からシフトした位置に設けた構成となっている。分け目ベース30は、頭部の分け目に対応する。分け目ベース30を構成するネットには、二方向に分けられた自毛の毛流を再現するように毛髪が植設される。第1実施形態と同様に、全てのアウトラインフィラメント50は、分け目ベース30から生え際ベース20又はアウトラインベルト40に向かって架設される。
図6(b)のアウトラインフィラメント50の第2湾曲50b(
図3を参照)は、頭部の中心から左右に分かれる自毛の毛流に対応している。一方、
図6(c)のアウトラインフィラメント50の第2湾曲50b(
図3を参照)は、頭部の左側から右側に分かれる自毛の毛流に対応している。
【0060】
<第3実施形態>
上述した第1実施形態のかつら1は、生え際ベース20の前端縁に沿って、波形ネット22を設けた構成となっていたが、かつらと生え際の自毛との境界を目立たなくする手段は、波形ネット22に限定されない。本発明の第3実施形態に係るかつらの構成を、
図7(a)、(b)に示す。
【0061】
図7(a)、(b)に示すかつら3は、人工又は天然の繊維からなる織布、例えば、ポリエステル製の織布で構成された生え際ベース120を備えている。生え際ベース120の表面には、前端の色の明度が最も高く、前端から後端へ色の明度が低くなるグラデーションプリント23が施してある。グラデーションプリント23は、例えば、白、灰、黒のグラデーションとすることができる。このようなグラデーションプリント23によって、かつらと生え際の自毛との境界を暈すことが可能である。
【0062】
なお、上述した第1実施形態の旋毛ベース10、生え際ベース20及び分け目ベース30の素材は、ネットに限定されるものではない。例えば、本実施形態のかつら3の旋毛ベース210のように、頭皮を模した合成樹脂製の人工皮膚で構成してもよい。人工皮膚として、例えば、ポリウレタンやシリコーン等の合成樹脂からなる肌色のフィルム又はシートを用いることができる。
【0063】
<第4実施形態>
上述した第1実施形態のかつら1は、生え際ベース20を設けた構成となっていたが、生え際ベース20は、本発明のかつらの必須の構成要素ではない。第4実施形態に係る4種類のかつらの構成を、
図8(a)、(b)、(c)、(d)に示す。第4実施形態のかつら4は、いずれも生え際ベース20を設けない構成となっている。
【0064】
図8(a)、(b)に示すかつら4は、旋毛ベース10又は110、アウトラインベルト40及びアウトラインフィラメント50で構成される。一方、
図8(c)、(d)に示すかつら4は、分け目ベース30、アウトラインベルト40及びアウトラインフィラメント50で構成される。アウトラインベルト40は、かつら4の外周縁の全部を構成する。アウトラインフィラメント50の一端部は、旋毛ベース10、110又は分け目ベース30に固定され、全ての他端部がアウトラインベルト40に固定される。
【0065】
<第5実施形態>
さらに、毛髪を植設するためのベースは、本発明のかつらの必須の構成要素ではない。第5実施形態に係る4種類のかつら5の構成を、
図9(a)、(b)、(c)、(d)に示す。第5実施形態のかつら5は、いかなるベースも設けない構成となっている。
【0066】
図9(a)、(b)、(c)、(d)に示すかつら5は、いずれもアウトラインベルト40、アウトラインフィラメント50、補強フィラメント60及び結合フィラメント80で構成される。アウトラインベルト40は、かつら5の外周縁の全部を構成する。アウトラインフィラメント50の全ての一端部は、円形又は半円形の結合フィラメント80に結合される。アウトラインフィラメント50の全ての他端部は、アウトラインベルト40に固定される。アウトラインフィラメント50の第2湾曲50b(
図3を参照)は、結合フィラメント80を起点とした毛髪の毛流を形成する。本実施形態のかつら5によれば、頭部の毛量を全体的に増すことが可能である。
【0067】
<作用効果>
上述した第1~第5実施形態のかつら1~5は、いずれも繊細で軽く柔軟性に富み、装着感を殆ど感じさせず、薄毛対策として誰でも手軽に利用することができる。
【0068】
すなわち、第1~第5実施形態のかつら1~5の外郭は、複数のアウトラインフィラメント50と、アウトラインベルト40とによって構成される。このうち、アウトラインフィラメント50は、直径1mm未満の熱可塑性樹脂製の細線であり、繊細で軽く、重量、接触面積及び硬さといった物理的存在を頭部に感じさせない。また、アウトラインフィラメント50は、頭部の形状及び自毛の毛流に対応する立体的な湾曲50a、50bを呈しており、頭部の形状及び自毛の毛流に馴染みやすい。さらに、アウトラインフィラメント50は、外力を受けて容易に変形する柔軟性を備え、頭皮や自毛に接触圧を生じさせないだけでなく、自らが頭部の形状や自毛の毛流に沿って変形する。以上のようなアウトラインフィラメント50の作用によって、装着感を殆ど感じさせない、施術としての増毛により近いかつらが実現する。
【符号の説明】
【0069】
1、2、3、4、5 かつら
10、110、210 旋毛ベース
11 折返し部分
20、120 生え際ベース
21 折返し部分
22 波形ネット
23 グラデーションプリント
30 分け目ベース
40 アウトラインベルト
50 アウトラインフィラメント
50a 第1湾曲
50b 第2湾曲
51、52 細線部分
60 補強フィラメント
61 結合部
70A、70B 拡張ベース
80 結合フィラメント