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特許6999384塩化ビニリデン系樹脂フィルム、それを用いた充填包装体、及びその製造方法
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  • 特許-塩化ビニリデン系樹脂フィルム、それを用いた充填包装体、及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-24
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】塩化ビニリデン系樹脂フィルム、それを用いた充填包装体、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/08 20060101AFI20220111BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20220111BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20220111BHJP
   B65B 9/20 20120101ALI20220111BHJP
【FI】
C08L27/08
C08J5/18 CEV
C08L23/08
B65B9/20
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017230968
(22)【出願日】2017-11-30
(65)【公開番号】P2019099663
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】増田 健一
(72)【発明者】
【氏名】中島 順司
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第03/006548(WO,A1)
【文献】特開2003-026882(JP,A)
【文献】国際公開第96/034050(WO,A1)
【文献】特開昭55-108442(JP,A)
【文献】特表昭57-501859(JP,A)
【文献】特開平01-131268(JP,A)
【文献】特開昭63-063738(JP,A)
【文献】特開2015-164860(JP,A)
【文献】特開2015-174939(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08J 5/18
B65B 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化ビニリデン系樹脂とエチレン-酢酸ビニル共重合体とを含有する塩化ビニリデン系樹脂フィルムであって、
前記エチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニルに由来する構成単位の濃度は、17質量%以上22質量%以下であり、
前記樹脂フィルムには、α、β不飽和カルボン酸エステルのモノマーから選ばれた2種以上のモノマーからなる共重合体は含まず、
前記樹脂フィルムのDSC曲線において、40℃と110℃との間に現れる融解ピークの温度をA℃としたときに、(A-25)℃における点と(A+15)℃における点とを繋いだ直線をベースラインとして求めた結晶融解熱量は、0.05J/g以上4.62J/g未満である樹脂フィルム。
【請求項2】
前記結晶融解熱量は、0.05J/g以上0.42J/g以下である請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項3】
前記エチレン-酢酸ビニル共重合体の量は、前記ポリ塩化ビニリデン系樹脂100質量部に対して、1質量部以上2.5質量部以下である請求項1又は2に記載の樹脂フィルム。
【請求項4】
前記エチレン-酢酸ビニル共重合体のメルトフローレートは、0.9g/10min以上15g/10min以下である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の樹脂フィルム。
【請求項5】
長手方向に延びる縦シール部を備え、長手方向の両端部が集束された筒状の包装フィルムに、内容物が充填されて封入されてなる充填包装体であって、
前記包装フィルムは、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の樹脂フィルムを含む充填包装体。
【請求項6】
帯状の包装フィルムを、長手方向に延びる両側縁部が重なるように筒状に巻いて筒状フィルムを形成する筒状フィルム形成工程;
前記筒状フィルムの前記両側縁部を縦シールして、長手方向に延びる縦シール部を備える筒状の包装フィルムを形成する縦シール工程;
前記筒状の包装フィルムに内容物を充填する充填工程;及び
前記筒状の包装フィルムの長手方向の両端部を集束する端部集束工程;を含む、充填包装体の製造方法であって、
前記包装フィルムは、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の樹脂フィルムを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニリデン系樹脂フィルム、それを用いた充填包装体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ソーセージやスティックチーズ等の内容物を筒状フィルムに充填し、両端を結紮して製造される包装体は、帯状のフィルムを筒状に巻き側縁部を重ね縦シールして筒状フィルムを形成する機構と、筒状フィルムに内容物を充填する機構と、内容物が充填された筒状フィルムの両端を結紮する機構とを備える包装体製造装置で製造できることが知られている。このような包装体製造装置では、帯状のフィルムを筒状に巻き側縁部を重ねてシールする際、筒状に巻いたフィルムの一方の側縁部の外面と他方の側縁部の内面とを重ね合わせてシールするいわゆる封筒貼りが行われる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-231639号公報(段落0030、0032等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この封筒貼りの重ね合わせ部を高周波誘電加熱溶着で縦シールする場合の電流値の設定は、包装機械の操作員が任意に調節しているため、操作員によって設定電流値は必ずしも同一にはならない。低い電流値でシールした場合には、シール部の外観は優れるが、充填包装体をレトルト処理すると、シール部の破断や破裂が起こりやすい。逆に、設定電流値が高すぎると、破断や破裂は起こり難いが、シール部の外観不良の原因となりうる。レトルト処理中に充填包装体の破損が生じると、破損品の除去のためにレトルト装置の稼働を停止して当該レトルト装置を洗浄する必要があり、生産効率が低下することになる。したがって、低い電流値でフィルムをシールすることを経て作製した充填包装体であっても、レトルト処理中に破損等が生じにくいこと、及び、外観不良が生じにくいことが望まれている。
【0005】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、低い電流値でシールした場合においてもレトルト処理中に破損等が生じにくく、かつ、外観不良が生じにくい充填包装体を与える塩化ビニリデン系樹脂フィルム、それを用いた充填包装体、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、塩化ビニリデン系樹脂とエチレン-酢酸ビニル共重合体(以下、「EVA」ともいう。)とを含有する塩化ビニリデン系樹脂フィルムにおいて、EVAの結晶融解熱量を0.05J/g以上4.62J/g未満とすることによって、低い電流値でシールした場合でも耐レトルト性に優れ、かつ、外観不良が生じにくい充填包装体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明に係る塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、ポリ塩化ビニリデン系樹脂とエチレン-酢酸ビニル共重合体とを含有し、前記樹脂フィルムのDSC曲線において、40℃と110℃との間に現れる融解ピークの温度をA℃としたときに、(A-25)℃における点と(A+15)℃における点とを繋いだ直線をベースラインとして求めた結晶融解熱量は、0.05J/g以上4.62J/g未満である。
【0008】
上記樹脂フィルムにおいて、前記結晶融解熱量は、0.05J/g以上2.11J/g以下でもよい。
【0009】
上記樹脂フィルムにおいて、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体の量は、前記ポリ塩化ビニリデン系樹脂100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下でもよい。
【0010】
上記樹脂フィルムにおいて、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体のメルトフローレートは、0.9g/10min以上15g/10min以下でもよい。
【0011】
本発明に係る充填包装体は、長手方向に延びる縦シール部を備え、長手方向の両端部が集束された筒状の包装フィルムに、内容物が充填されて封入されてなり、前記包装フィルムは、上記樹脂フィルムを含む。
【0012】
本発明に係る、充填包装体の製造方法は、帯状の包装フィルムを、長手方向に延びる両側縁部が重なるように筒状に巻いて筒状フィルムを形成する筒状フィルム形成工程;前記筒状フィルムの前記両側縁部を縦シールして、長手方向に延びる縦シール部を備える筒状の包装フィルムを形成する縦シール工程;前記筒状の包装フィルムに内容物を充填する充填工程;及び前記筒状の包装フィルムの長手方向の両端部を集束する端部集束工程;を含み、前記包装フィルムは、上記樹脂フィルムを含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、低い電流値でシールした場合においてもレトルト処理中に破損等が生じにくく、かつ、外観不良が生じにくい充填包装体を与える塩化ビニリデン系樹脂フィルム、それを用いた充填包装体、及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明に係る塩化ビニリデン系樹脂フィルムのDSC曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<塩化ビニリデン系樹脂フィルム>
本発明に係る塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、ポリ塩化ビニリデン系樹脂とエチレン-酢酸ビニル共重合体とを含有し、前記樹脂フィルムのDSC曲線において、40℃と110℃との間に現れる融解ピークの温度をA℃としたときに、(A-25)℃における点と(A+15)℃における点とを繋いだ直線をベースラインとして求めた結晶融解熱量は、0.05J/g以上4.62J/g未満である。上記結晶融解熱量は、0.05J/g以上2.11J/g以下でもよい。上記結晶融解熱量が0.05J/g以上であると、得られる樹脂フィルムが与える充填包装体は、低い電流値でシールした場合においてもレトルト処理中に破損等が生じにくい。上記結晶融解熱量が4.62J/g未満であると、得られる樹脂フィルムが与える充填包装体は、外観不良が生じにくい。上記結晶融解熱量が2.11J/g以下であると、得られる樹脂フィルムが与える充填包装体は、外観不良が更に生じにくい。上記結晶融解熱量の具体的な算出方法は、後述の実施例に示す通りである。なお、本明細書において、樹脂フィルムのDSC曲線は、JIS K 7121に準拠した示差走査熱分析(DSC)により測定するものとする。
【0016】
上記DSC曲線において、40℃と110℃との間に現れる融解ピークは、ポリ塩化ビニリデン系樹脂の融点及びエチレン-酢酸ビニル共重合体の融点を考慮すると、エチレン-酢酸ビニル共重合体の融解ピークに該当する。よって、上述の通りにして上記DSC曲線を用いて求められる結晶融解熱量は、エチレン-酢酸ビニル共重合体の結晶融解熱量を表す。耐レトルト性(レトルトパンク抑制効果)は、レトルト加熱中にかかるフィルムへの力をEVAが吸収することによって発現していると考えられる。よって、EVAの結晶量(結晶融解熱量)が少ないと、フィルムは強度を保持出来ず、レトルトパンクを起こしてしまうと考えられる。反対に、EVAの結晶量が多いと、レトルトパンク抑制効果は発現するが、EVAが光の散乱を起こし、白濁による外観不良を起こしてしまうと考えられる。
【0017】
〔ポリ塩化ビニリデン系樹脂〕
ポリ塩化ビニリデン系樹脂(以下、「PVDC」ということがある。)は、塩化ビニリデンのホモ重合体でもよく、塩化ビニリデン60~98質量%と、塩化ビニリデンと共重合可能な他の単量体2~40質量%との共重合体でもよい。塩化ビニリデンと共重合可能な他の単量体としては、例えば、塩化ビニル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ラウリル等のアクリル酸アルキルエステル(アルキル基の炭素数1~18);メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ラウリル等のメタクリル酸アルキルエステル(アルキル基の炭素数1~18);アクリロニトリル等のシアン化ビニル;スチレン等の芳香族ビニル;酢酸ビニル等の炭素数1~18の脂肪族カルボン酸のビニルエステル;炭素数1~18のアルキルビニルエーテル;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸等のビニル重合性不飽和カルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のビニル重合性不飽和カルボン酸のアルキルエステル(部分エステルを含み、アルキル基の炭素数1~18)等が挙げられる。より好ましくは塩化ビニル、アクリル酸メチル、及びアクリル酸ラウリルから選ばれる少なくとも1種である。塩化ビニリデンと共重合可能な他の単量体は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。他の単量体の共重合割合は、より好ましくは3~35質量%、更に好ましくは3~25質量%、特に好ましくは4~22質量%の範囲である。他の単量体の共重合割合が3質量%以上であると溶融加工性が低下しにくく、他方、他の単量体の共重合割合が35質量%以下であるとガスバリア性が低下しにくい。また、溶融加工性を向上させるために2種以上のPVDCを混合してもよい。PVDCは、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法等の任意の重合法により合成することができる。
【0018】
〔エチレン-酢酸ビニル共重合体〕
本発明に係る塩化ビニリデン系樹脂フィルムにおいて、エチレン-酢酸ビニル共重合体の量は、ポリ塩化ビニリデン系樹脂100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下でよく、1質量部以上10質量部以下でもよい。上記量が1質量部以上であると、得られる樹脂フィルムが与える充填包装体は、低い電流値でシールした場合においてもレトルト処理中に破損等が生じにくい。上記量が20質量部以下であると、得られる樹脂フィルムが与える充填包装体は、外観不良が生じにくい。上記量が10質量部以下であると、得られる樹脂フィルムが与える充填包装体は、外観不良が更に生じにくい。
【0019】
本発明に係る塩化ビニリデン系樹脂フィルムにおいて、エチレン-酢酸ビニル共重合体のメルトフローレート(以下、「MFR」ともいう。)は、0.9g/10min以上15g/10min以下でよい。上記MFRがこの範囲内であると、得られる樹脂フィルムが与える充填包装体は、低い電流値でシールした場合においてもレトルト処理中に破損等が生じにくい。なお、本明細書において、メルトフローレート(以下、「MFR」ともいう。)は、JIS K 7210に準拠して測定するものとする。
【0020】
エチレン-酢酸ビニル共重合体において、酢酸ビニルに由来する構成単位の濃度は、10~30質量%でよく、15~25質量%でもよく、17~22質量%でもよい。上記濃度がこれらの範囲内であると、得られる樹脂フィルムが与える充填包装体は、外観不良が生じにくく、かつ、低い電流値でシールした場合においてもレトルト処理中に破損等が生じにくい。
【0021】
〔他の樹脂〕
本発明に係る塩化ビニリデン系樹脂フィルムには、種々の特性及び/又は成形加工性の改良を目的として、必要に応じて、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ポリエチレン(低密度ポリエチレン又は高密度ポリエチレン)、アクリル酸エステルの単独重合体又は共重合体、メタクリル酸エステルの単独重合体又は共重合体、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体等の他の樹脂を含有させることができる。
【0022】
〔添加剤〕
本発明に係る塩化ビニリデン系樹脂フィルムには、必要に応じて、従来、充填包装体に備えられる筒状の包装フィルムに対し、種々の特性や成形加工性の改良を目的として添加される熱安定剤、可塑剤、加工助剤、着色剤、紫外線吸収剤、pH調整剤、分散助剤等の各種添加剤を含有させることができる。例えば、熱安定剤としては、エポキシ化植物油、エポキシ化動物油、エポキシ化脂肪酸エステル、エポキシ樹脂プレポリマー等のエポキシ化合物;エポキシ基含有樹脂等が挙げられ、好ましくはエポキシ化植物油である。添加剤の種類及び添加量は、従来、充填包装体に備えられる筒状の包装フィルムにおいて、使用される各種添加剤におけると同様に選択することができる。添加剤は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、添加剤は、その使用量の一部又は全部をPVDCの重合工程で単量体組成物中に含有させてもよいし、重合後にPVDCにブレンドしてもよい。
【0023】
<充填包装体及びその製造方法>
1.筒状の包装フィルム
本発明の充填包装体は、筒状の包装フィルム及び内容物を備える充填包装体であって、該筒状の包装フィルムは、長手方向に延びる縦シール部を備え、長手方向の両端部が集束されたものである。上記包装フィルムは、本発明に係る樹脂フィルムを含む。上記包装フィルムは、本発明に係る樹脂フィルムからなるものでもよい。
【0024】
〔筒状の包装フィルムの大きさ及び厚み〕
筒状の包装フィルムの大きさ及び厚みは、特に限定されず、充填される内容物の大きさに応じて定められる。筒状の包装フィルムの周長は、例えば、15~400mm、多くの場合30~300mm、広く採用されるのは40~200mmの範囲であり、筒状の包装フィルムの長手方向の長さは、例えば、50~400mm、多くの場合70~300mm、広く採用されるのは80~250mmの範囲である。また、筒状の包装フィルムの厚みは、充填される内容物に応じたフィルムの強度やバリア性等を勘案して定められるが、例えば、15~300μm、多くの場合18~200μm、広く採用されるのは20~150μmの範囲である。
【0025】
筒状の包装フィルムとしては、熱収縮性フィルム(一軸延伸フィルム又は二軸延伸フィルム)を使用することもできる。更に、筒状の包装フィルムの強度の増大、ガスバリア性の改良、耐熱性の改良、収縮性の調整等のために、積層フィルムを使用することもでき、例えば、本発明に係る塩化ビニリデン系樹脂フィルムと、ポリエチレンテレフタレートフィルム又はポリプロピレンフィルム等の他のフィルムとの積層フィルムを使用することができる。また、筒状の包装フィルムは、印刷が施されたものでもよい。
【0026】
〔筒状の包装フィルムの製造〕
本発明における筒状の包装フィルムは、従来、充填包装体に備えられる筒状の包装フィルムを製造する方法として採用されている方法によって得ることができる。具体的には、帯状の包装フィルムを、長手方向に延びる両側縁部が重なるように筒状に巻いて筒状フィルムを形成し、次いで、筒状フィルムの前記両側縁部を縦シールすることにより、筒状の包装フィルムを形成することができる。
【0027】
〔帯状の包装フィルムの製造〕
筒状の包装フィルムを形成するための帯状の包装フィルムの製造方法は、特に限定されない。例えば、押出成形によって、シート状又は管状の押出フィルムを製造し、必要に応じて延伸処理して熱収縮性を付与した後、管状の押出フィルムの場合は内側同士を重ねて所定の幅を有する2枚重ねの帯状の包装フィルムを得ることができ、更に必要に応じ長手方向に切断することにより、所望の幅を有する帯状の包装フィルムを製造することができる。筒状の包装フィルムが積層フィルムである場合は、共押出成形又は押出ラミネーションにより積層した帯状の包装フィルムを製造してもよいし、複数のフィルムを接着剤、例えばウレタン系接着剤により接着させて積層した帯状の包装フィルムを製造してもよい。筒状の包装フィルムを印刷が施されたものとする場合は、得られた帯状の包装フィルムに印刷を施してもよい。
【0028】
〔長手方向に延びる縦シール部〕
本発明の充填包装体に備えられる筒状の包装フィルムは、長手方向に延びる縦シール部を備えるものである。上記縦シール部は、従来、充填包装体に備えられる筒状の包装フィルムに備えられる長手方向に延びる縦シール部と同様の趣旨で備えられるものである。即ち、帯状の包装フィルムを長手方向に延びる両側縁部が重なるように筒状に巻いて筒状フィルムを形成し、次いで、該筒状フィルムの前記の両側縁部を、高周波誘加熱、超音波加熱、レーザー加熱、抵抗加熱等による溶着、接着剤による接着(ヒートシールを含む。)等の常法に従って、長手方向(縦方向)に連続してシール(接着)することにより、筒状の包装フィルムが形成されるものである。縦シール部は、筒状の包装フィルムの長手方向の全長に亘って備えられ、これにより、筒状の包装フィルムに充填されて封入される内容物を密封状態に保存することができる。筒状の包装フィルムに備えられる長手方向に延びる縦シール部の幅は、適宜定めることができる。
【0029】
〔長手方向の両端部の集束〕
本発明の充填包装体は、長手方向に延びる縦シール部を備え、長手方向の両端部が集束された筒状の包装フィルムを備える。即ち、本発明の充填包装体は、筒状の包装フィルムに加工食品等の内容物を充填した後に、筒状の包装フィルムの長手方向の両端部を集束することによって形成され、内容物を密封状態に保存することができる。筒状の包装フィルムの長手方向の両端部の集束は、従来、充填包装体に備えられる筒状の包装フィルムについてされていた長手方向の両端部の集束方法、例えば、アルミワイヤクリップ等の金属製のワイヤクリップ或いは横シールフィルム又はその他の手段による集束方法を採用することができる。
【0030】
2.筒状の包装フィルムに充填されて封入された内容物
本発明の充填包装体に備えられる、前記の筒状の包装フィルムに充填されて封入された内容物としては、特に限定されず、ソーセージ、チーズ、バター、ハンバーグ、ういろう、羊羹、ゼリー等の固体状又はペースト状の加工食品等、従来、充填包装体に充填される内容物を用いることができ、更に、食品以外の例えばコーキング材等の建築資材や化粧品等を内容物として用いることもできる。内容物の組成や形状は適宜選択することができる。特に好ましい内容物としては、例えば、魚肉のすり身に油、食塩、及びでん粉等の通常の添加剤を配合してなる魚肉ソーセージ等が挙げられる。
【0031】
3.充填包装体
本発明の充填包装体は、長手方向に延びる縦シール部を備え、長手方向の両端部が集束された筒状の包装フィルムに、内容物が充填されて封入されてなる充填包装体であって、上記包装フィルムは、本発明に係る樹脂フィルムを含む。上記包装フィルムは、本発明に係る樹脂フィルムからなるものであってもよい。充填包装体の形状及び大きさは、通常、筒状の包装フィルムの形状及び大きさに従って定まる。
【0032】
4.充填包装体の製造方法
本発明に係る、充填包装体の製造方法は、長手方向に延びる縦シール部を備え、長手方向の両端部が集束された筒状の包装フィルムに、内容物が充填されて封入されてなる充填包装体であって、前記包装フィルムは、本発明に係る樹脂フィルムを含む充填包装体を得ることができる限り、特に限定されない。上記製造方法としては、例えば、帯状の包装フィルムを、長手方向に延びる両側縁部が重なるように筒状に巻いて筒状フィルムを形成する筒状フィルム形成工程;前記筒状フィルムの前記両側縁部を縦シールして、長手方向に延びる縦シール部を備える筒状の包装フィルムを形成する縦シール工程;前記筒状の包装フィルムに内容物を充填する充填工程;及び前記筒状の包装フィルムの長手方向の両端部を集束する端部集束工程;を含む、充填包装体の製造方法が挙げられる。
【0033】
〔筒状フィルム形成工程〕
帯状の包装フィルムを、長手方向に延びる両側縁部が重なるように筒状に巻いて筒状フィルムを形成する。帯状の包装フィルムは先に説明した方法に従って製造することができる。例えば、両側縁部が帯状の包装フィルムの長手方向に直交する外周面に沿って重なるようにすればよく、所望によっては、両側縁部が前記の外周面から立ち上がって重なるようにして筒状フィルムを形成してもよい。
【0034】
〔縦シール工程〕
前記筒状フィルムの前記両側縁部を縦シールして、長手方向に延びる縦シール部を備える筒状の包装フィルムを形成する。即ち、帯状の包装フィルムから形成された筒状フィルムの長手方向に重なって延びる両側縁部を、長手方向に延びる所定の幅で連続的に縦シールすることにより長手方向に延びる縦シール部を形成する。
【0035】
縦シールする方法は、高周波誘加熱、超音波加熱、レーザー加熱、抵抗加熱等による溶着、接着剤による接着(ヒートシールを含む。)等の常法を採用することができる。筒状の包装フィルムは、極性を有する樹脂であるポリ塩化ビニリデン系樹脂を含むことから、縦シールの効率性や、シール強度の調整の容易さ等の観点から、高周波誘加熱による縦シールが好ましい。具体的には、筒状フィルムの長手方向に重なって延びる両側縁部を走行させながら、高周波誘加熱装置のシール電極とアース電極との間を通過させる。この両電極の間に高周波電力を供給することにより、筒状フィルムの重なった両側縁部に高周波溶着による連続的な縦シール部が形成される。
【0036】
〔充填工程〕
縦シール工程によって得られた筒状の包装フィルムには、内容物を充填する。即ち、筒状の包装フィルムを、例えば、上方から下方に所定速度で走行させながら、筒状の包装フィルムの開口部に、ポンプとノズルとを備える充填装置のノズルから内容物を連続的に供給して充填を行う。充填装置や、筒状の包装フィルムを走行させ案内する機構等はそれ自体公知のものから適宜選択することができ、筒状の包装フィルムの走行及び内容物の充填速度等は、通常の範囲内において適宜選択することができる。
【0037】
〔端部集束工程〕
内容物が充填された筒状の包装フィルムの長手方向の両端部を集束することにより、筒状の包装フィルムに、内容物が充填されて封入されてなる充填包装体を得ることができる。具体的には、内容物が充填された筒状の包装フィルムを走行させながら、例えば一対のローラからなるしごき装置を使用して、本発明の充填包装体の下端部に相当する箇所の下方及び上端部に相当する箇所の上方の筒状の包装フィルムに内容物の不存在部を形成し、該内容物の不存在部の上端部及び下端部を集束することにより、本発明の充填包装体の下端部及び上端部を形成し、所定の長さに切断して本発明の充填包装体を得る。端部集束工程において、端部を集束する方法としては、従来、充填包装体に備えられる筒状の包装フィルムについてされていた長手方向の両端部の集束方法、例えば、アルミワイヤクリップ等の金属製のワイヤクリップ或いは横シールフィルム又はその他の手段による集束方法を採用することができる。
【実施例
【0038】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。なお、本発明は、実施例に限られるものではない。各種の特性又は物性の測定方法は、以下の通りである。
【0039】
〔耐レトルト性〕
充填包装体の耐レトルト性は、以下の方法に従って実施し、評価した。充填包装体100本を、温度120℃、圧力2.0kg/cm(ゲージ圧)のレトルト釜内に10分間静置してレトルト加熱殺菌を行った後、取り出して、パンクが発生した充填包装体(即ち、縦シール部が剥離している充填包装体又は縦シール部に亀裂がある充填包装体)の本数(以下、「パンク本数」ということがある。)を目視で計数した。下記式で定義されるレトルトパンク率に基づき、下記の基準で耐レトルト性を評価した。結果を表1に示す。
レトルトパンク率(%)=(実施例及び比較例のいずれか1つにおけるパンク本数)/(比較例1におけるパンク本数)×100(但し、小数点以下第1位で四捨五入)
◎:レトルトパンク率が0~30%であり、耐レトルト性は極めて良好であった。
○:レトルトパンク率が31~60%であり、耐レトルト性は良好であった。
△:レトルトパンク率が61~90%であり、耐レトルト性は不良であった。
×:レトルトパンク率が91~100%であり。耐レトルト性は極めて不良であった。
【0040】
〔結晶融解熱量〕
PerkinElmer社製DSC8500を用いて、塩化ビニリデン系樹脂フィルムのDSC曲線を測定し、EVAの結晶融解熱量を算出した。まず、上記樹脂フィルムから約25mgを採取し、測定用サンプルとした。DSCの温度条件は、-20℃で1分静置、-20℃から180℃まで50℃/minで昇温、180℃で1分静置、180℃から-20℃まで50℃/minで降温、-20℃で1分静置、-20℃から180℃まで50℃/minで昇温、であった。2回目の昇温プロファイル(DSC曲線)において、40℃と110℃との間にシグモイド曲線でベースラインを引いて融解ピーク温度を求め、この融解ピーク温度をA℃としたときに、(A-25)℃における点と(A+15)℃における点とを繋いだ直線をベースラインとして求めた結晶融解熱量をEVAの結晶融解熱量(ΔH:J/g)とした。より具体的には、図1に示す通り、DSC曲線と上記ベースラインとで囲まれる面積(単位:J)を算出し、得られた値を上記測定用サンプルの質量で割って、EVAの結晶融解熱量を算出した。結果を表1に示す。
【0041】
〔見栄え〕
レトルト加熱殺菌後の充填包装体の外観を目視し、下記の基準で見栄えを評価した。結果を表1に示す。
○:フィルムは透明であり、見栄えは良好であった。
△:フィルムは相対的に薄く白濁するにとどまり、見栄えはやや良好であった。
×:フィルムは相対的に濃く白濁しており、見栄えは不良であった。
【0042】
〔実施例1〕
(母材フィルムの製造)
塩化ビニリデン(VD)及び塩化ビニル(VC)の重合時におけるモノマー仕込み質量比(VD/VC)を81/19とし、重合温度を34~49℃とし、重合時間を44時間として重合された共重合体(85質量部)とVD/VCを71/29とし、重合温度を43~58℃とし、重合時間を37時間として重合された共重合体(15質量部)との混合物からなるポリ塩化ビニリデン系樹脂に、ジブチルセバケート(DBS)及びエポキシ化植物油を合計5.4質量部配合し、更にエポキシ基含有ポリマー、酸化防止剤、界面活性剤、エルカ酸アミド、炭酸カルシウム、及び色材を合計1.7質量部加え、最後にエチレン-酢酸ビニル共重合体1(酢酸ビニルに由来する構成単位の濃度:19質量%、MFR:2.5g/10min)を1.0質量部加えて、ポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を得た。次に、得られたポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を、直径40mmの押出機スクリューを用いて溶融押出した後、MD2.7倍、TD3.9倍に室温にてインフレーション二軸延伸を行い、得られたフィルムを二枚重ねにして合計の厚さ40μmのダブルフィルムaを得て母材フィルムとした。
【0043】
(筒状の充填包装体の製造)
幅56mmに裁断した母材フィルム(ダブルフィルムa)を自動充填包装機(クレハ社製、商品名:KAP500型自動充填包装機)にセットした。この母材フィルムについて、シールし始める電流値から1mA高く設定した電流値で高周波誘電加熱溶着による縦シールを行って、筒状に成形しながら、内容物(豚肉55質量%、氷水18.5質量%、豚脂肪15質量%、ポテトスターチ8質量%、大豆たんぱく質2質量%、及び食塩1.2質量%を含むペースト)を充填した。その後、フィルムの端部を収束しつつ、アルミワイヤーで密封して筒状の充填包装体を得た。なお、母材フィルムを筒状に成形する際は、折幅(円周の半分の長さ)が22.5mm、カット長(筒状の充填包装体から内容物を抜き取り、筒状の母材フィルムを平らに押し広げて長手方向に測定した際の長さ)が160mm、質量が20gとなるように条件を調整した。
【0044】
〔実施例2〕
エチレン-酢酸ビニル共重合体1をエチレン-酢酸ビニル共重合体2(酢酸ビニルに由来する構成単位の濃度:20質量%、MFR:0.9g/10min)に変える以外は実施例1と同様に製膜し、ダブルフィルムbを得た。また、ダブルフィルムaの代わりにダブルフィルムbを用いる以外は実施例1と同様に筒状の充填包装体を得た。
【0045】
〔実施例3〕
エチレン-酢酸ビニル共重合体1 1.0質量部をエチレン-酢酸ビニル共重合体3(酢酸ビニルに由来する構成単位の濃度:19質量%、MFR:15g/10min)2.5質量部に変える以外は実施例1と同様に製膜し、ダブルフィルムcを得た。また、ダブルフィルムaの代わりにダブルフィルムcを用いる以外は実施例1と同様に筒状の充填包装体を得た。
【0046】
〔実施例4〕
エチレン-酢酸ビニル共重合体1の量を1.0質量部から2.5質量部に変える以外は実施例1と同様に製膜し、ダブルフィルムdを得た。また、ダブルフィルムaの代わりにダブルフィルムdを用いる以外は実施例1と同様に筒状の充填包装体を得た。
【0047】
〔実施例5〕
エチレン-酢酸ビニル共重合体2の量を1.0質量部から2.5質量部に変える以外は実施例2と同様に製膜し、ダブルフィルムeを得た。また、ダブルフィルムaの代わりにダブルフィルムeを用いる以外は実施例1と同様に筒状の充填包装体を得た。
【0048】
〔実施例6〕
エチレン-酢酸ビニル共重合体2の量を1.0質量部から5.0質量部に変える以外は実施例2と同様に製膜し、ダブルフィルムfを得た。また、ダブルフィルムaの代わりにダブルフィルムfを用いる以外は実施例1と同様に筒状の充填包装体を得た。
【0049】
〔実施例7〕
エチレン-酢酸ビニル共重合体1の量を1.0質量部から7.5質量部に変える以外は実施例1と同様に製膜し、ダブルフィルムgを得た。また、ダブルフィルムaの代わりにダブルフィルムgを用いる以外は実施例1と同様に筒状の充填包装体を得た。
【0050】
〔実施例8〕
エチレン-酢酸ビニル共重合体1の量を1.0質量部から10.0質量部に変える以外は実施例1と同様に製膜し、ダブルフィルムhを得た。また、ダブルフィルムaの代わりにダブルフィルムhを用いる以外は実施例1と同様に筒状の充填包装体を得た。
【0051】
〔実施例9〕
エチレン-酢酸ビニル共重合体1の量を1.0質量部から15.0質量部に変える以外は実施例1と同様に製膜し、ダブルフィルムiを得た。また、ダブルフィルムaの代わりにダブルフィルムiを用いる以外は実施例1と同様に筒状の充填包装体を得た。
【0052】
〔実施例10〕
エチレン-酢酸ビニル共重合体1の量を1.0質量部から20.0質量部に変える以外は実施例1と同様に製膜し、ダブルフィルムjを得た。また、ダブルフィルムaの代わりにダブルフィルムjを用いる以外は実施例1と同様に筒状の充填包装体を得た。
【0053】
〔比較例1〕
エチレン-酢酸ビニル共重合体1 1.0質量部をエチレン-酢酸ビニル共重合体4(酢酸ビニルに由来する構成単位の濃度:33質量%、MFR:30g/10min)2.5質量部に変える以外は実施例1と同様に製膜し、ダブルフィルムkを得た。また、ダブルフィルムaの代わりにダブルフィルムkを用いる以外は実施例1と同様に筒状の充填包装体を得た。
【0054】
〔比較例2〕
エチレン-酢酸ビニル共重合体1の量を1.0質量部から21.0質量部に変える以外は実施例1と同様に製膜し、ダブルフィルムlを得た。また、ダブルフィルムaの代わりにダブルフィルムlを用いる以外は実施例1と同様に筒状の充填包装体を得た。
【0055】
【表1】
【0056】
(注)
Vac:酢酸ビニルに由来する構成単位の濃度。表1中の「%」は質量%を意味する。
phr:EVA添加量の単位(質量部)を表し、ポリ塩化ビニリデン系樹脂100質量部を基準とする。
【0057】
表1から明らかな通り、本発明に係る塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、EVAの結晶融解熱量が0.05J/g以上4.62J/g未満であることから、低い電流値でシールした場合においてもレトルト処理中に破損等が生じにくく、かつ、外観不良が生じにくい充填包装体を与える。特に、上記結晶融解熱量が0.05J/g以上2.11J/g以下である場合、得られる充填包装体は、更に外観不良が生じにくい。
【0058】
これに対し、上記結晶融解熱量が0.05J/g未満である比較例1では、耐レトルト性に劣り、上記結晶融解熱量が4.62J/g以上である比較例2では、見栄えに劣る。
図1